この本は有名ですのでご存知の方も多いと思います。






日本の大手音楽出版社を渡り歩き、ワシントン大学LLMに学びアメリカ著作権法にも詳しい著者が、マンガを交えながら音楽著作権ビジネスの昔と今・理想と現実・オモテとウラをあますところなく取り上げた本。

マンガは、新人のシンガーソングライターである著作ケンゾウを主人公に、音楽業界の作法をプロダクションの社長とマネージャーから学んでいくというストーリー。『基礎編』は音楽出版社やJASRACの役割を知るところからスタートし、

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『実践編』では、主人公がヒット曲を出した後、音楽配信やCMに出演してその権利処理に四苦八苦するといった内容。成長を見守りながら学んでいくことができます。今や音楽ビジネスはiTunesの存在を抜きには語れませんが、その配信契約の内容まで具体的に触れられているのは、この本ぐらいかと思います。

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デジタル音楽ダウンロード販売契約では、ケンゾウ君のプロダクションのように原盤権を持つ会社がライセンサー(使用を許諾する者)となり、iTunes株式会社はライセンシー(使用許諾を受ける者)となる。そして、ライセンサーが保有する原盤を非独占的にiTunes社に使用許諾(ライセンス)することを目的とする。また、iTunes社に提供される原盤は、ライセンサーが特定する。非独占的なライセンスなので、ライセンサーは他の音楽配信事業者にも同一の原盤をライセンスすることができる。
iTunes社は、原盤が複製された音楽データをiTunes Music Storeで販売するためのデジタル形式に変換したうえで、サーバーに複製し、一般ユーザーに対して音楽データのダウンロード販売をすることができる。
次にロイヤリティーについて説明しよう。iTunes社はライセンサーに対して、ダウンロード販売の売上げに応じたロイヤリティーを支払うが、これには原盤にかかるすべての権利者に対する報酬が含まれている。すなわち、ライセンサーにアーティストやプロデューサー等に対する印税の支払義務がある場合、ライセンサーは受領するロイヤリティーから責任をもって彼らに分配しなければならない。これはジャケットにかかるアートワークも含まれる。iTunes社との契約では、ロイヤリティーではなく、卸売価格を支払うという規定になっているが、契約の内容はあくまでも原盤のライセンス契約であるため、対価の性質はロイヤリティーそのものである。
原盤に収録されている音楽著作物の利用にかかる権利処理は、iTunes社がJASRAC、イーライセンス、ジャパン・ライツ・クリアランス等の著作権管理事業者に対して行うことになっている。したがって、ダウンロード販売にかかる著作権使用料は、iTunes社からこれらの著作権管理事業者に支払われることになる。なお、iTunes社は著作権使用料を販売価格の7.7%としてビジネスを組み立てているため、この使用料が変動する場合には原盤使用料のロイヤリティーもそれに合わせて変動することがあるとしている。
原盤に収録されているアーティストの氏名・肖像についても規定がされている。iTunes社は、アーティストの実演が収録された原盤のダウンロード販売や宣伝広告のために、アーティストの氏名や肖像を無償かつ自由に利用できるという内容である。アーティストはその氏名・肖像等についてパブリシティ権を持っているため、iTunes社は事前に利用許諾を受けておく必要がある。
以上がiTunes社のデジタル音楽ダウンロード販売契約の概要であるが、おわかりのとおり、これは原盤ライセンス契約である。したがって、この契約に基づいてiTunes社がダウンロード販売した場合、プロダクションやアーティストから見ると、これは第三者使用となるため、レコード会社はプロダクションやアーティストに対して、原盤契約や専属実演家契約の第三者使用の条項に基づき、印税を支払わなければならない(略)。


『基礎編』と『実践編』を合わせると、79話・800ページ超のボリュームがあるのですが、このマンガの力と取り扱うテーマのフレッシュさとの相乗効果でどんどん読み進めることができ、業界の中で今発生している音楽著作権に関するありとあらゆる問題をあっという間に理解できてしまうのが本書のすごいところ。この本を読むと、音楽ビジネスの世界は利害関係者の多さがそのまま紛争のタネになっており、それだけに音楽著作権実務についての深い理解が重要になってくるということが痛感できます。


一方で、本書内では著作権法自体の厳密な解説はあまりなされていないので、この本だけだと法律的には「わかったつもり」で終わってしまう危険性もあります。先に音楽著作権自体を学べる本を読んだほうが良いでしょう。