企業法務パーソンとしてのキャリアを考える上で、会社に何を求めて就職・転職するのか。幅広く色々な経験が積めそうな会社のほうがよい、という漠然とした答えになりがちです。では、訴訟をたくさん抱えている会社がいいですか?と問われると、それはちょっと会社としてどうなんですかねぇと、とたんに及び腰になったりもします。

以下は、職場の同僚に教えてもらった記事から。あまりに刺激的でびっくりしましたが、私には耳が痛い話であることは否めませんでした。

企業の法務部は「専守防衛」から脱却できるか
これまで日本企業の法務部は知財に関して、守りの姿勢に徹することが多く、米国企業のように手持ちの知財を使って、ライバルを追い詰めたり、競争優位を築こうとしたりする攻めの発想は乏しかった。

そのへんのニュアンスを見事に表現しているコメントがあったので少し長めだが紹介しよう。政府の知的財産戦略本部における川上量生KADOKAWA・DWANGO社長の発言である。

「企業の法務部というのは、大体どの企業でも今日一日が無事に過ぎればいい、できれば一生何ごとも起こらなくてもいいと、そう考える人が大体法務部に入ってくることが多いのですが、要するに戦おうとしない、実戦経験が不足している」
「実は私の会社でも以前から法務部員に年間1件は必ず訴えろと、年間10件は必ず内容証明を出せと、これはノルマだと言っているのですけれども、冗談と思われて、実行してもらえないのです。ですが海外の権利行使に強い企業は実際にそれをやっています。日本は何が問題なのかというと、みんな特許で訴えないのです。訴えないから、戦ったことのない軍隊みたいなもので、弱いのです。戦ってみたら実は特許権が全然意味のない権利の取り方をしていた、ということにようやく気づくのです。数だけ競って、中身は伴っていないことがすごく多い」


在職中に上場した企業、当時非上場の大企業、できたてほやほやに近いベンチャー企業と、そこそこ長い社会人生活の中で様々なフェーズの法務を担当してきて、それぞれ特有のリスクを乗り越える経験をさせていただきました。しかし、法務パーソンとして川上さんのいう「実戦経験」を積めてきたかというと、幸か不幸か、自分はまだまだ足りないなと思います。

La_Liberte_guidant_le_peuple_1830

あえてそういった経験を積極的に得たいのなら、それなりの規模と歴史(膿ともいう)の両方を兼ね備えた大手企業の法務部門に就職する必要があるでしょう。さらに、先輩から案件を引き継ぐのでなく、自分が担当した案件がその後シリアスな紛争に発展するという骨身に染みる真の当事者パターン(苦笑)を経験するとなると、一所に最低5年程度の在籍期間も必要になってくるはず。一般的に一人前の法務パーソンとして認められるために相当の経験年数が必要とされている理由は、こういった実戦経験への遭遇率の低さもあるかと思います。


まっさら無垢でピカピカなベンチャーに入り予防法務に力を入れて「実戦」を発生させないことを目指す法務のキャリアと、伝統ある大手ではあるが長年の膿を抱えた企業に入って「実戦」に日々揉まれながら鍛えられる法務のキャリア。もしどちらも選べる立場だったとして、果たしてどちらがいいのかは難しいところです。ただし、若い方からそういった相談をもちかけられた場合は、後者の経験がいかに得難く貴重なものであるかを伝えるようにしています。