ふだん特許・商標・著作権を実務で扱っている法務パーソンが、ちょっと腰を落ち着けて、知的財産法を体系的に学習しなおすのにぴったりな本が突如現れました。中山先生や田村先生が活躍されるこの分野に若手ダークホースの登場。その著者、森・濱田松本法律事務所の田中浩之先生より、お仕事でのご縁もあって本書をご恵贈いただいた次第です。ありがとうございます。


ビジネス法体系 知的財産法
田中 浩之
レクシスネクシス・ジャパン
2017-04-22



“知的財産法の概説書”を標ぼうする本には、必ずと言っていいほど読後に物足りなさを感じてきました。その物足りなさをパターン別に分類すると、おおよそ以下3つに分かれるというのが私の印象です。

(1)話題が身近な著作権法にばかり偏ってしまい、特許法・意匠法などの産業財産権法分野の解説がおろそかになる
(2)法体系に忠実であろうと、各産業財産権法に多数準用される特許法の条文をベースに解説するものの、中途半端な逐条解説になってしまい、実務との紐づけが薄くなる
(3)不正競争防止法・民法といった、使いようによっては幅広く知的財産をカバーできる法律の活用について、十分な解説がなされない
 
本書は、そのはしがきで、まさにこのような従来の書籍が陥りがちだったダメパターンを克服すべく体系に工夫をこらしたことが述べられています。その表れとして、本書全体の見取り図を兼ねている「第1章 ビジネスと知的財産法総論」において、まず知的財産法を「ブランド保護法」と「創作保護法」の大きく2つに分類し、そのうえでさらに創作保護法をゝ蚕僉Ε離Ε魯Δ諒欷遶▲妊競ぅ鵑諒欷遶I集修諒欷遒烹格類する体系を提案し、以降これに沿って解説がなされます。この全体を概観した表が以下となります(第1章P8-13掲載の図表より一部省略し引用)。

1.ブランド保護法
保護対象権利の名称法律保護期間登録要否本書における解説箇所
商標商標権商標法登録から10年(更新可)第2編第2章
商品等表示不正競争防止法×第2編第3章
商号会社法・商法第2編第4章
地域団体商標商標権商標法登録から10年(更新可)第2編第5章
地理的表示地理的表示法第2編第5章

2.創作保護法 ゝ蚕僉Ε離Ε魯Δ諒欷
保護対象権利の名称法律保護期間登録要否本書における解説箇所
発明特許権特許法出願から20年第3編第2章
考案実用新案権実用新案法出願から10年第3編第3章
植物の品種育成者権種苗法登録から25年または30年第3編第5章
半導体集積回路の回路配置回路配置利用権半導体集積回路配置法登録から10年第3編第6章
営業秘密不正競争防止法/民法(契約上の保護)×第3編第4章

3.創作保護法 ▲妊競ぅ鵑諒欷
保護対象権利の名称法律保護期間登録要否本書における解説箇所
意匠意匠権意匠法登録から20年第4編第1章
商品形態不正競争防止法最初の販売から3年×第4編第2章
商標商標権商標法登録から10年(更新可)第4編第2章
商品等表示不正競争防止法×第4編第2章
著作権(応用美術)著作権著作権法著作者の死後50年(原則)×第4編第2章
デッドコピー民法×第4編第2章

4.創作保護法 I集修諒欷
保護対象権利の名称法律保護期間登録要否本書における解説箇所
著作物著作権著作権法著作者の死後50年(原則)×第5編
デッドコピー民法×第4編第2章

この表をご覧になれば、各法バランスよく実務に紐づけて活用法が解説されている本であることが伝わるのではないでしょうか。

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中でも特許パートは、切り餅事件の特許を教材として、特許要件と記載要件・取得手続・侵害の成否・対応までを、類書にはないオリジナルな語り口で理解させてくれる、本書の中でも特に秀逸な部分です。親切にも、本書がどこを端折っているのかまで説明の中で明示されていて、必要に応じ専門書で詳しく学ぶことも容易になっています。さまざまな特許法の入門書を読んでも、条文や重要判例をどう実務に紐づけるかがよくわからなかったという法務担当者に、一読をお勧めします。

実務を目線に置きながら知的財産法全体を概説する書籍として、初級者向けには宮川ほか『事業をサポートする知的財産実務マニュアル』を、上級者向けには田村『ライブ講義 知的財産法』などを紹介してまいりましたが、本書は、ちょうどその真ん中の空白地帯を埋めてくれる良書だと思います。