日本が誇る対戦型TPSゲームのシリーズ最新作『Splatoon2』が発売され、下馬評どおり売れ行きは好調、Nintendo Switch本体も入手困難と言って過言ではないすさまじいペースで売れているようです。

私も前作のWiiU版『Splatoon』には大いにハマったクチで、2015年秋〜2016年にかけて数百時間をこのゲームに費やしました。Switchももちろん『Splatoon2』のために早速購入。据え置き機のWiiU版と違い、持ち運んでいつでもどこでも手軽に対戦できるSwitchの誘惑と日々戦っています。こんなに時間を食われることになるなら、Splatoonと出会わなかったほうが幸せだったのかも…と思ってしまうぐらいに、何時間でもやり続けてしまう面白さがあります。



さて最近、この『Splatoon2』に限らず、PC・コンシューマーゲーム機・携帯型ゲーム機・スマートフォンでプレイできる上質な対戦型ゲームが次々にリリースされ、さらにその対戦プレイの様子を実況する動画の人気も高まっています。それもあってでしょうか、こういった対戦型ゲームをスポーツ競技のように捉え、プロゲーマーを賞金付きで集めて行う「eスポーツ」大会と、そういった大会に課せられる法規制の解説記事を多く見かけるようになりました。

隆盛「eスポーツ」に法の壁 賞金たった10万円 (日本経済新聞)
「景表法に触れなければ、いくらでも高額賞金大会が開けるのだが……」
カドカワが3日付で設立したゲーム子会社、Gzブレイン(東京・中央)の浜村弘一社長は嘆く。ゲーム情報誌「ファミ通」で長く編集長を務め、複数のeスポーツ関連団体の役員も務める浜村氏は「eスポーツはゲームの面白さそのものが大きく変わり、新たな収益機会を生み出せる」と期待する。一方で、日本市場は諸外国に比べると出遅れているという。理由として「eスポーツの主流であるパソコン上のゲームがそれほどなじみがなかったこともあるが、それ以上に大きかったのが景表法の壁だろう」と話す。

「レインボーシックス シージ」公式世界大会で日本人だけ賞金を受け取れない「おま賞金」発生 その理由とは(ねとらぼ)
フランスのゲームメーカー、ユービーアイソフトが開催する、FPS「レインボーシックス シージ」世界大会で、なぜか日本人が優勝した場合のみ賞金を受け取れないという規定があり、ゲームファンの間で物議をかもしています。
「日本の法律の都合上」という部分について、これが何の法律のことを指しているのか聞いてみたところ、「専門家と相談した結果、今回の世界大会は景品表示法(以下、景表法)に抵触する可能性を否定できないと判断いたしました」と回答。ただ、具体的に景表法のどの部分に抵触するのかについては、「この質問に関しましては、弊社からの回答を控えさせていただければと思います」とのことでした。

これらの記事では、どうしても景表法にばかりスポットライトが当たっていますが、賞金制eスポーツ大会を開催するには、景表法以外にもいくつかの法律が関係し障害となっています。そのすべてを網羅的にまとめた記事があまり見られないので、それぞれの分野に詳しい方が解説してくださっているサイトをリンク集的にピックアップしつつ、足りない部分を私のほうで補足してまとめてみました。


1.刑法


eスポーツ大会の開催にあたって、参加者から参加費を徴収して優勝者の賞金原資とすると、「刑法」第185条から187条に定める賭博罪・賭博開帳図利罪・富くじ罪等の問題となり得ます。
過去、賞金制麻雀大会を開こうとした団体が警察庁から指導を受け、取りやめた事案も実際に存在します。
一方、参加者がお金を払わず、スポンサーだけが賞金を提供する場合は、少なくともこの賭博罪等刑法上の問題は無くなり、過度に萎縮する必要はないと述べる専門家も少なくありません。

▼賞金付ゲーム大会と賭博罪
http://ameblo.jp/gamblelaw/entry-12112183111.html
▼日本で高額賞金のかけられたゲーム大会が開催されないのはどうしてなのか?法的観点から考えてみる
http://www.gamer.ne.jp/news/201512120002/
▼マージャン全国大会「待った」 参加費から賞金は賭博?
http://www.geocities.co.jp/Athlete-Sparta/3989/news/n2004_03_24.htm


2.風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律


ゲームセンターの営業は、風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律第2条1項5号により規制対象とされていることに加え、この5号営業を行う営業者が遊戯の結果で賞金を提供することは、同法23条2項で禁止されています。
eスポーツ大会の開催がこの5号営業に当たるか否かは、風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律施行規則第3条に定める“遊戯設備基準”と、同法第7条に定める“施設の構造及び設備の技術上の基準”に抵触するかかポイントとなりますが、論点になるのは特に後者で、会場を見通しが効く明るい場所とできるかどうかなどが問われることになります。
以下では、改正前の風営法の条文に基づき解説したものを、ご参考までにご紹介します。ここで2条1項8号の営業とある部分が、現行法では5号と整理されています。

▼賞金・賞品付き大会と法律
https://www46.atwiki.jp/xboxcodsearch/pages/35.html
▼日本で高額賞金のかけられたゲーム大会が開催されないのはどうしてなのか?法的観点から考えてみる(再掲)
http://www.gamer.ne.jp/news/201512120002/
▼風営法について考える風営法のひろば
http://cozylaw.com/fu-teki/kihon/005-06.html


3.不当景品類及び不当表示防止法


冒頭述べたとおり、最近のメディアでeスポーツ大会開催の最大の足枷として扱われているのがこの不当景品類及び不当表示防止法、通称景表法です。第4条により、内閣総理大臣が景品類の提供に制限を設けることができるとされ、取引に付随して特定の行為の優劣を争わせて景品を提供することについて、最高額(10万円)と総額(売上予定総額の2%)の金額上限を課しています。
eスポーツとの関係で論点となるのは、eスポーツ大会で勝つ=賞金を得る目的でそのもともとのゲームに関する購買取引が誘引される・取引付随性が発生しているかどうかです。普段そのゲームをお金を払ってプレイしていれば大会に優勝しやすくなるのであれば、<大会の賞金>が普段のゲーム取引の<景品類>とみなされてしまう、というわけです。したがって、ゲームを有料課金でプレイするユーザーが大会で賞金の提供を受けることが容易であれば、当該eスポーツ大会での賞金提供は景表法違反となる可能性が高く、そうでなければ(つまりゲームでの有料課金がeスポーツ大会での勝利を容易にするものでなければ)景表法違反とならない可能性が高いということになります。
この点、カジノビジネスの専門家である木曽崇氏が、ノーアクションレターという形で消費者庁に細かいケース分けをした問い合わせをされその回答をブログにまとめてくださっており、参考になると思います。

▼賞金制大会を巡る法的論争、消費者庁からの公式回答アリ
http://blog.livedoor.jp/takashikiso_casino/archives/9355204.html
▼賞金制大会を巡る法的論争、消費者庁からの公式回答アリ(その2)
http://blog.livedoor.jp/takashikiso_casino/archives/9355119.html
▼総括:賞金制ゲーム大会を巡る法的論争
http://blog.livedoor.jp/takashikiso_casino/archives/9356604.html


4.著作権法


eスポーツに用いられるゲームは当然に著作物となりますので、著作権者の許可なく用いれば著作権法第22条の2の上映権その他の権利を侵害することになります。
過去には、ホテル内でのゲームソフト貸し出しでゲームメーカー側から刑事告訴まで踏み切られた事例もあるようです。
もちろん、著作権者自身がeスポーツ大会を開催したり、著作権者から許諾を得て開催すれば、この問題は生じません。

▼著作権違反:ホテルでゲームソフトを無断貸出、会社役員を逮捕
http://www2.accsjp.or.jp/criminal/2010/1030.php


5.民法


法律上の規制というよりはゲームメーカーとの契約上の制限ではありますが、そのゲームの利用規約において当該ゲームを利用した大会・イベント等の無許諾実施を禁止している場合、民法第415条の債務不履行に基づく損害賠償責任や第703条の不当利得返還義務が発生する可能性があります。
例えば、私が好きなFPSゲームであるBattelefiledシリーズを開発・運営するElectronic Arts社の利用規約には、

6. 行動規範 お客様がEAサービスにアクセスし、またはこれを使用するとき、お客様は以下のいかなる行為も行わないものとします:
(略)
EAが管理および許可していない何らかのサービス上で、または当該サービスを通じてEAサービスを利用しようとする事。

との記述がありました。このような記述は多くのゲームにもみられるものです。
著作権法同様、ゲームメーカー自身がeスポーツ大会を開催したり、許諾を得て開催すれば、この問題は生じません。

▼ELECTRONIC ARTSユーザー契約
http://tos.ea.com/legalapp/WEBTERMS/US/ja/PC/#RulesofConduct


6.出入国管理及び難民認定法


大会にプロゲーマーを職業人として参加してもらうにあたって、出入国管理及び難民認定法および出入国管理及び難民認定法第七条第一項第二号の基準を定める省令により、興行の在留資格(興業ビザ基準省令3号)が必要になりますが、これが発給されない可能性があります。スポーツ競技はトッププレイヤーが集まるからこそ面白いわけで、これは地味に影響のありそうな法律です。
日本でプロゲーマーのビザ発給が問題になった実例はまだ無いようですが、以下リンクでは、外国で実際にあった事例について弁護士がコメントしています。

▼eSportsにおける法律問題
https://www.redbull.com/jp-ja/interview-with-esports-lawyer-jas-purewal-2017-15-04
▼日本初、海外プロゲーマーに“アスリートビザ”発行へ 「プロスポーツ選手と認められた歴史的な出来事」
http://www.itmedia.co.jp/news/articles/1603/30/news137.html


結論:現状は、純粋な賞金制eスポーツ大会の開催はかなり困難


以上をあわせ読むと、賞金制eスポーツ大会を開催するには、
・刑法上問題にならないよう、第三者のスポンサーを集め、
・風営法上問題にならないよう、健全な環境が確保できる場所を用意し、
・景表法上問題にならないよう、ゲームの有償課金要素が勝敗に関係ないようにし、
・著作権法・民法(利用規約)上問題とならないよう、ゲームメーカーの許諾を得て、
・入管法上問題とならないよう、日本人かビザが間違いなく下りる外国人選手だけを集めて
といった何重もの対策を施さなければならず、かなりの困難を伴うことが分かります。そんな中で、優勝賞金3,000万円という大会を開催されているミクシィさんの取り組みなどは大変なチャレンジで、頭が下がります。

景表法は世界主要国の類似法制と比較してもダントツに(必要以上に)制約が強いので、消費者の不利益とならないものについては告示・運用基準の改正を検討するとか、風営法に関しても、事前の警察への届出などの手続きを踏むことで認めてみるとか、この二法の運用を少し見直してみるだけでも、賞金制eスポーツ大会の開催はかなりラクになるはずです。