コンテンツビジネスにかかわる方なら一度ならず意識したことがあるはずの、「制作」と「製作」の使い分け。契約書における頻出用語でもありますね。

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とりあえず、広辞苑を引いてみると、こう書いてあります。

【制作】
…蠅瓩弔ること。かんがえ定めること。美術作品や映画・放送番組・レコードなどをつくること。また、その作品。「―物」
【製作】
ものをつくること。また、つくったもの。「―所」

はっきりとそう書いてあるわけではありませんが、つくってできあがるものが無形か/有形かで使い分けるという考え方のようです。ネット上で検索しても、この広辞苑の定義をコピペしたような解説記事が多数ヒットします。しかしみなさんもお気付きのとおり、コンテンツ関連の契約書で実際に使われている実態を思い浮かべてみると、有形なものに制作を使う/無形なものに製作を使うケースは多々あるわけで、この広辞苑の区分基準はあまり役立ちそうにありません。

そこで蔵書をあさってみたのですが、権利関係が多分に絡むコンテンツを取り扱う仕事をするにあたって、どういう基準でこの「制作」と「製作」を使い分けるべきかについて、法律家・実務家が考え方をはっきりと整理・記述している文献が、意外に多くないことに気付きました。


法律家が書いた文献を探してみた


そこでまず、その数少ない法律家・実務家が「制作」「製作」の使い分けについて述べた文献をピックアップし、列挙してみることにします。


まずは、日本組織内弁護士協会編『契約用語使い分け辞典』より。

契約用語使い分け辞典
新日本法規出版
2011-08-30


「製作」は、道具・機械等の物品を作ること。
「制作」は、放送番組や芸術品を作ること。(P365)

おおっと、広辞苑そのままですね…(汗)。契約用語の使い分けとしてこういう部分で迷うことはないですし、ぼやけた回答のように思われます。


著作権法の基本書中の基本書、中山『著作権法第2版』では、こう。

著作権法 第2版
中山 信弘
有斐閣
2014-10-27


映画には、『製作』という語と『制作』という語が用いられているが、具体的な映画著作物を作ることを「制作」と呼んでおり(16条)、映画という著作物の制作に発意と責任を有する者を映画製作者と呼んでいる(2条1項10号・29条) (P217)

こちらは、映画の著作物に関する著作権法の条文に絞った解説となっています。もう少し、業界慣習のニュアンスも欲しいところ。


コンテンツ業界にお詳しい法律家による、内藤・升本著『映画・ゲームビジネスの著作権第2版』ではどうでしょうか。



映画やテレビ番組の業界ではよく「コロモヘンのついたセイサク」という言葉を使います。つまり、「制作」と「製作」の違いを「衣へん」の有無によって区別した言葉です。つまり、自分たちは「コロモヘンのついたセイサク」をやっているという場合には、それは、「自分たちが現在つくっている映像は、他人からの請負仕事ではなく、自分たちが一部の製作費を出資している、あるいはその他の理由によって、報酬請求権(出資に対するリターンを含む)を得られることになる」という意味です。反対に「コロモヘンのつかないセイサク」とは、他社からの単純な請負制作で、報酬請求権にはかかわらない制作作業、ということで(もっとも、最近は「コロモヘンのつかないセイサク」でも成功報酬という名の報酬請求権を得る事例は散見されます。)。(P162-163)

そうそう、こんな感じの答えを求めてました。ただ、“「制作」は単純請負制作”という部分については、そうでもないケースもあるように思われますね。


少しマニアックな絶版本ですが、『ビジネス著作権法』にこんな記述が。

ビジネス著作権法
荒竹 純一
産経新聞出版
2006-09


著作物を作成する創作活動を「制作」といい、発案、企画、資金調達などをしながら作成を主導する活動(プロデュース業務を担当しながら著作物の完成を主導する活動)を「製作」という。(P174)

おお、これはかなり私の中の感覚にフィットする定義です。


こちらは書籍ではありませんが、経済産業省(TMI総合法律事務所)編「コンテンツ展開の契約に関する報告書」より。

「コンテンツ・プロデュース機能の基盤強化に関する調査研究」(経済産業省編)は、「“製作”とは企画開発の段階から、資金を集めて作品を作り、それを商品に変え、様々なビジネスを通じて利益を上げていく、その全過程を指すもの」であり、「製作費を集めた後にやるのが“制作”のプロセスである」と説明する。要は、コンテンツ展開を含めたプロジェクト全体が「製作」であり、そのプロジェクトにおいて発生する個別のプロセスが「制作」であると理解しておけば足りるであろう。

これも私の認識に近い記述です。ただし、製作費を集めた前に制作をするケースもあるのではないかなと思います。


自分の言葉で整理してみた


以上を踏まえて、業界慣習に含意されるニュアンスと、著作権法上の使い分けの両方を満たすような形で定義できないかと考え、整理してみました。

「制作」
ある特定領域のコンテンツまたはそのパーツを自ら作ること。
制作したコンテンツが著作物に該当することになれば、職務著作などの例外を除き原則として自己(制作者)に著作権が帰属する。
「製作」
多数当事者が制作したコンテンツをさらに統合してコンテンツを作ること。パーツとしてのコンテンツに不足がある場合、その不足部分を自ら制作して補充することを含む。
製作したコンテンツは基本的には著作物に該当し、その著作権は映画の著作物であれば著作権法第29条により映画製作者に帰属、それ以外の著作物についてはケースバイケースで合意して権利帰属を決める。

私自身はこのような整理でこの二つの語を捉えています。ですから、契約書で「制作」を使う文脈では、その条項の主語となっている当事者に制作物の権利が帰属する前提を強く意識しますし、逆に「製作」を使う文脈では、映画の著作物でないものについては契約書の中で多数当事者間での権利処理をしなければならないことを意識する。そんな感じです。


他の文献でこの使い分けについて述べているものが見つかれば、また追記していきたいと思います。なお、このエントリをまとめる途中で、現在駐仏されお仕事と研究にいそしまれている@NakagawaRyutaro先生にこのことについて質問させていただいたところ、遠いパリからものすごい反射速度でいくつかの文献での記載を教えていただき、さすがプロだなと感服(ありがとうございました)。もっとシャープで腹落ちする定義が明文化された信頼できそうな文献をご存知でしたら、みなさまからもコメント欄で教えていただけると助かります。
 

2017.8.10追記

@rsyaoto さんよりtwitterで情報提供をいただき、経済産業省(TMI総合法律事務所)編「コンテンツ展開の契約に関する報告書」を追記しました。