西村あさひ法律事務所の掘越先生・本柳先生よりご恵贈いただきました。ありがとうございます。





14年振りの改訂ということで、金融業界隈の方々はきっと首を長くしてお待ちになっていたのではないでしょうか。金融業界でない新興ベンチャーを転々としている私のような者にとっても、IPOやストックオプションの法務にはじまり近年では投資契約やファンド法などにも関わるようになってきた時代ですので、このあたりの規制を概観できる文献がアップデートされるのは大変ありがたいことです。


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業法の中でも最も法律が複雑に絡み合い、論点も枚挙に暇がないファイナンス分野。しかも本書は、中国・香港・シンガポールといったアジア金融マーケットの法律も出来る限りカバーしようという意気込みと相まって、この上巻だけで1200ページを超えるボリュームとなっています。さすがに各論点の詳細については本書脚注等で引用されるそれぞれの専門書に譲っている部分も少なくありませんが、それがかえって関連規制を概説するための必要最低限の情報量に留める効果をもたらし、その分野の専門書を読んでいても頭に入ってこなかった各法の骨子や規制にいたる背景が、かえって分かりやすく見えてくることと思います。

業法ならではの、明文化されていない監督官庁独自の運用ルールについても、
「筆者らにおいて金融庁に確認したところ、・・・記載が紛らわしかったかもしれないとのことであった」
「・・・を・・・とする方式もいずれも受理されているようである」
といった“実務”に即した言及が随所にあるところなどは、この分野の業法規制とその運用の恣意性に苦しむクライアントに寄り添ってサポートしてきた経験豊富な先生方が書かれていることを感じさせます。


そういった、業法の実務において交わされる当局との対話・対応の積み重ねの重要性について、序章に書かれたこの一節が、私の胸にチクリと刺さりました。

今日金融関連の規制は複雑かつ重層化して金融機関の自由な活動の足かせになっていることは事実であるが、規制そのものを問題視するのではなく、マーケットのニーズを十分に汲み取った予測可能性と実効性を備えた適切な規制であることこそが必要であるとの認識が必要であろう。あるべきファイナンス・ロイヤーの姿勢は、規制と向かい合い、当局との話し合いを積み重ね、あるべき方向と既存の法規制や法理が単純な論理の組立てでは相容れないときに、それを喝破する新たな解釈や論理を構築することであろう。(P14)

私の属する業界内で、とある規制が強化されようという動きが突如発生したときのこと。「自社は巻き込まれたくない」「ここは静かにしていたほうが目をつけられずに済むのでは」という思いから、多くの企業側関係者が当局とは距離を置いた姿勢をとる中で、私の知人が規制当事者の懐に飛び込み、自身が所属する会社のみならず業界団体をも巻き込んで交渉し、時に腹芸も交えながら、業界全体にとってプラスとなる落としどころを引き出していく姿を目の当たりにしました。それはまさに、規制を陰で批難するだけではなく向かい合って喝破していく渉外マンの姿でした。


近年、法務パーソンがそのキャリアを発展的に分岐させる道のひとつとして、ロビイングを含む官公庁や業界団体との渉外業務領域に注目が集まっているように感じています。そういったところに飛び込んで得たい結果を得るためには、情報収集力・人脈力・胆力もさることながら、このような「喝破する新たな解釈や論理を構築」するだけの緻密さを備えなければと、序章の一節に知人の行動を重ねながら考えています。