契約書・レター・申請書など、会社としての意思表示を象徴する大切な印が、代表取締役の印です。

民事訴訟法 第228条第4項
私文書は、本人又はその代理人の署名又は押印があるときは、真正に成立したものと推定する
商法 第32条
この法律の規定により署名すべき場合には、記名押印をもって、署名に代えることができる。

このような法律によっても会社を代表する者としての意思の真正性が強く推定される重要な印なわけで、当然に、代表取締役自身が押してるんでしょ?と思われがちです。

しかし、会社がある一定の規模を超えれば日々発生する文書の量も増え、代表取締役自身の忙しさも加速度的に高まり、「印を押す」というだけの非生産的な単純作業に時間を費やしているわけにもいかなくなります。その結果、管理業務を担当する取締役や従業員が判子を金庫に入れるなどして物理的に管理し、社内の決裁手続きで審査→承認が得られたことを稟議書などで確認の上で、「印を押す」という作業を代行することになります。

これまで私が見聞きしてきた範囲では、従業員が100人を超えるぐらいになってくると、代表取締役自身が押印作業をしているケースのほうがまれなのではないかという感触でした。では果たして、その代行率とは数字にして何%ぐらいなのか?質問の特性上世の中にあまり出てこない数字なので、試しに、そういった社内手続きの実態を知る法務パーソンフォロワーが多いであろう私のTwitterアカウントからアンケートを取ってみました。その結果がこちら。


ずばり87%。9割近くが本人が押していないということだそうで。なかなかショッキングな数字です。

ついでに、前々から疑問に思っていたので、こんな質問もしてみました。


予想通り、いや予想以上に多くの会社が、印鑑登録をしていない印、いわゆる認印を契約書等に押す印として運用していることが伺われます。総務の方がよく使われるような判子屋さんでも、「実印/銀行印/角印/認印」を会社設立4本セットとして販売しているほど。「会社実印の印影の悪用を防ぐためのリスクヘッジとして」がセールストークになっていますが、実務的には、押印する文書量の多さのために摩耗や欠けが生じやすく、そのたびに印鑑登録をし直すわけにはいかないという理由のほうが大きいのではないかと思います。


このように、実印ではないただの認印を、代表取締役でない他の取締役や従業員が代行して押しているという実態。これができるのは、日本の「判子文化」の良いところでもあると思います。つまり、代表取締役がオフィスに不在であってもスムーズに契約書等の文書が作成でき、業務が滞りなく流れるという点です。判子の運用を任せるという形で、事実上、契約締結権限を委任しているというわけです。

しかしその代償として、危険も生まれます。任命者・運用者・判子の管理等の印章管理体制に問題があった場合、悪意ある従業員が会社の意思に反した文書を作成し権限を超えた契約が行われてしまう可能性があるという点です。すべての代表取締役印の真正性を疑えというつもりはありませんが、こういった実態があることを前提に、月並みですが場合によっては実印の押印と印鑑証明を求めるなどの慎重さが必要になるのだと思います。


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長い間、日本の中で文化・慣習として根付いていた判子の文化が、ある日を境にまったくなくなるとは思いません。個人的にも、赤い印影の独特な美しさには魅力を感じもします。しかし、企業においては電子的なデバイス上でほとんどの業務と通信が完結し、紙とペンを手にすることが無くなりつつあるのも事実。そうである以上、日常的に繰り返される意思表示行為が電子的な手段によるものに置き換わっていく流れは、避けられないのだと思います。

そうなったとき、その電子的な承認作業を今度は誰がどうやって代行するのか?いや、そもそも判子の運用を任せていた=契約締結権限を委任していたこと自体が間違いだったのではないか?判子が電子的承認に置き換わる時、はじめてそうした気づきにいたるのかもしれません。