表向きまったく法律実務書の匂いはしないにもかかわらず、開いてみれば、勃興するAIビジネスの事例をたくさん紹介しながら、そこに潜む法律問題とリスク・責任について、現行法上の結論だけでなく分析のフレームワークから手取り足取り教えてくれる本でした。これからAI系新規事業開発をサポートしようとしている法務パーソンにとっては、神様のような“教本”です。

それもそのはず、本書は、私が企業法務パーソンにとっての基本書の1冊として推す『事業担当者のための逆引きビジネス法務ハンドブック』の著者のお一人 経営共創基盤パートナー 塩野誠さんと、同社弁護士 二木康晴先生の御著書なんですね。





人工知能によって権利を得または義務を負うとき、人工知能自身に法人格を認めてそれらを帰属させるべきか、それとも管理利用をしている人に帰属させるべきか?日本においても知的財産戦略本部をはじめすでにいろいろなところで議論がなされているところです。まだそういった基本的な部分さえはっきりとした結論が出ていない中だからこそ、法務パーソンは開発・推進をサポートするために現行法に基づく見解・解釈を出し続けなければならない苦しい立場に置かれます。

苦しいと言いましたが、それは新規事業・ベンチャーをサポートする法務パーソンの醍醐味でもあるでしょう。また、そういった活動を通じて得た経験をもとに、法律はどうあるべきかを意見していく側にまわるチャンスでもあります。

ですが、AIの法務に関しては、本書によってそのおいしいところの種明かしがほとんどされてしまった気がします(苦笑)。しかも、
・AIによる自動描画・作曲
・ディープラーニングを使った顔認証の精度向上
・ビッグデータによるマッチング&レコメンド
といったソフトウェアビジネスのリスクだけでなく、ハードウェアビジネスであるところの
・(車の)自動運転
・ドローン
の法的リスクまでをカバー。いま世の中で話題になっているようなAIビジネスは、ほとんど取り上げられています。AIビジネス先進国の米国でも、このような書籍はそうそう見かけません。このスピードでなんでもノウハウが開陳されてしまう日本の書籍文化恐るべしです。いや、このスピードでまとめあげてくださった著者のお二人に感謝ですね。


著者も本書で繰り返し述べているように、AIの法律論に結論は出ていないといっても、基本的には通常のビジネスと同じようにポイントを押さえて進めていくしかありません。冒頭述べたとおり、本書のすばらしさは、単に事例紹介とその分析だけでなく、法的リスク検討の基本フレームワークについても丁寧に解説されている点にあります。法務部門を持たない企業・経営者にとっても、弁護士等専門家に相談を持ちかける事前整理をするのに、大変に参考になる一節です。

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2000年初頭のインターネットビジネス勃興期がそうであったように、AIビジネスの勃興は、法務の領域が混乱とともに拡大するフェーズになると思われ、そんな時代に法務に携われるのも一つのチャンスです。「AI法務の種明かし」と少しおちゃらけた言い方で本書を評してしまいましたが、基本となるフレームワークを押さえながら未知の事業領域の法務業務に携わることで、日々の経験が確実に糧となり、将来に通用する実力を身につけられるものと思います。