答え:その業界の営業利益率


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まだ若かりし頃に人材ビジネスに関わって、実際の求職者のデータを見て衝撃を受けたことの一つが、学歴・法務経験年数・ポジションが同じような方であっても、就職・転職した会社によって給与水準が圧倒的に異なるという事実でした。たとえば、同じ有名大学出身・同じ経験年数・同じ課長クラスで比較して、給与所得ベースで300-500万円差が出ている事例はざらにあるのです。

さらにしばらくの間データを観察しているうちに、ごくまれに発生する異常値(新進気鋭の外資系企業が高額で法務責任者を他社・法律事務所から引き抜くケースなど)を除いて、そうした給与水準の違いは会社ごとではなく、業界ごとにキレイに固定化しているということも理解しました。これはなぜなのでしょうか。


経済学を持ち出すまでもありませんが、給与は基本的に労働市場の需給で決まります。

法務人材の需給バランスを左右するものの中心は、その企業にとって必要な法的専門性を備えた人材の供給量です。法務に限ったことではありませんが、企業の需要に対し労働者が供給すべき専門性は、その業界でしか通用しないものも多いため、採用・転職の流動性は基本的にはその業界内に限られます。その中でも法務は、業界特有の法的知識や経験が特に求められる傾向にあります。

新しく興った業界には原初は法務担当者がおらず、需要だけがたくさんある一方で、企業が求める専門性(新しいビジネス分野の法的知識・経験)の供給が追い付いていないため、それを持っている人が飛び込めば、当然に給与交渉は容易でしょう。

もう一つは、その会社の、もっといえばその業界の営業利益率です。業界全体で営業利益率が高いということは、競争が発生していない、または発生していても他社・他業界に負けていない、ユニークなビジネスであるはずです。こうしたところに専門性と勇気を持って飛び込めれば、給与に配分するだけの原資が豊富であり、管理部門もその恩恵にあずかることができます。さらにそこが新興業界であれば、前段で述べた業界における労働市場からの強い需要にも支えられ、高い給与が提示されることでしょう。最近でいえば、IT、特に日本市場での異常なほどのユーザー課金に支えられたスマートフォン関連のビジネスが、そうした業界だったと思います。

(なお例外として、新興業界ではあるがまだ赤字、つまり営業利益率ゼロ以下のベンチャーが法務求人に高い給与を提示するケースがあります。これは、それだけの営業利益率を数年後に出せる見込みが事業計画上も高く、早晩上場もするだろうと確信している、インサイダーとしての自信の表れであることが多いと思います。)

歴史を重ねすでに参入者が多く競争が盛んな業界を見ると、企業の絶対数が多いこともあって、見かけ上はたくさんの法務求人が出ていて景気がいいように見えます。ところが、そこで求められる専門性を持った人材も同時に労働市場に多く供給されており、また企業間の競争の結果営業利益率も低くなっているため、転職をしても高い給与を得られる可能性は低いはずです。単に他業界に転身した担当者の穴が埋まらず、ずっと求人が貼り出されたままという可能性すらあります。競争がグローバル化して久しい自動車や電気・機械産業といったところが、こうした業界にあたるかもしれません。


よって、当該企業および当業界全体の営業利益率をチェックし、それができるだけ高いところを狙うのが、給与UPを主目的とした場合の法務の転職のセオリーと言えます。

なお注意すべきは、そうやってうまく目をつけて入社した会社も、成功して数年後には参入企業が増え、その業界の法務人材に求められる法的知識・経験もコモディティ化し、給与がカンタンには上がらなくなるという点です。新興業界にリスクをとって早めに飛び込んだなら、転職時の給与と入社直後数年間の給与交渉はきっちりやっておいたほうがいい、ということでしょう。


「部内の人が減って一人当たりの仕事の量が増えたから」とか、「個人として圧倒的に能力と生産性が高いから」といった、個人業績だけを理由にしては給与が上がりにくいという点は、法務のつらいところでもあります。