パブリックアフェアーズ→ルールメイキングの時代へ


古くはロビイングと呼んだり、2013年ごろには「パブリック・アフェアーズ」と呼ばれたりしてきた、政府、議会や公共の政策形成過程に積極的に関与していく活動。

最近では、経済産業省や水野祐先生が提唱する「ルール形成戦略」「ルールメイキング思考」という言葉が浸透しはじめ、その発想や思考法がさまざまな場面で必要とされ、世の中から求められるようになってきた感があります。

私以外では、柴田堅太郎先生のブログが2013年ごろに弁護士や法務部がこの領域で活躍できるかを論じた投稿をされていましたが、あれからそろそろ5年。行政の担当官が民間に下野するケース、元政治家秘書が転身するケース、戦略コンサルタントがそのままクライアントに移るケースなど、日本でもさまざまな事例がでてきました。

しかし、弁護士や法務出身者がこの分野で存在感を出せているかというと、ヤフーやメルカリなどの一部事例を除き、期待されていた人材供給量には到達していないのでは、という印象があります。

守りを固めるので手一杯?


これはなぜかと考えてみると、大きく2つの理由があるのかなと。

  1. 法務には、攻めに転じる前に、守りでやるべきことがまだまだたくさんある
  2. 法務パーソンは、どうしても石橋を叩いて渡る思考グセから抜け出せない

1についてはおっしゃるとおりで、「攻めの法務」は「守り」を固めたうえでないと、カウンターやオウンゴールで終了するだけ(by @igi3)。そのための仕事もやろうと思えばいくらでもあります。この点、会社が組織として完成してしまう前の早期フェーズから法務部門・法務担当を置き、守りを固めたうえで思いっきり攻められる体制を作ろうというベンチャー企業が増えてきているのは、よい傾向といって良いでしょう。

問題は2です。もともと安全・安心を固める役割を担ってきた法務パーソンが、どうしたら規制に挑戦する思考やマインドを育成できるのか? この点になると、具体的なアドバイスが聴こえてこないという現実があります。

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「先回りしてブログに書く」というトレーニング手法


そこで私が提案したいのが、とくに、ルールメイキングに関わりたい法務パーソン向けの、ブログの新しい使い方です。

ブログというと、その語源である「log=記録」のとおり、過去に起こったことを書き記していくものなのですが、そうではなく、新しいルールメイキングのアイデア発表の場にしてはどうかと。

自分の業界を規制する法令・ルールが古くなっているとき、それを批判するだけでは、ただの日常の仕事の愚痴にしか聞こえません。しかし、
  • 今はこういう法令やルールがある・解釈がされている
  • しかし、現実はこういうことが多く、即していない
  • だから、現実と将来起こり得ることにあわせて、こう変えてみたら・解釈してみたらよくならないか?
というフォーマットで、自分が考えたアイデアをブログの記事という小さな単位で、所属する会社や組織よりも先回りして個人として世の中にぶつけてみる。そんなトレーニングを重ねてみてはどうか、という提案です。

こう考える理由は以下3つあります。

(1)基本的に守秘義務の心配をしなくてよい


法務パーソンがブログを書きにくい理由は、そこそこ危険な事件を処理する担当にもなりがちなだけに、今日起こったことをそのまま書いたら守秘義務に触れてしまいがち、という点があります。

いや、私は工夫次第でブログに書けると思っています(実際、多くの法務ブログはそうした工夫によって書かれていると思います)が、たしかに過去のことを洗いざらい書くのは、いくら関係者の匿名化や事象の抽象化をしたところで、それを読むことになるかもしれない相手方や関係当事者に配慮が必要なのも事実。

これに対し、まだ発生していない未来・会社の誰もまだ考えていない未来のことは、そうしたことを気にせず書けるという点がまず挙げられます。

(2)法務が考えるアイデアは、幸か不幸か職務発明にすらならない


とかくアイデアというと価値があるもので身内以外には秘めておくべしと思ってしまいがちですが、実行するまでは価値はないというのは、よく言われることです。ただし、机上の空論のようなアイデアでも、価値を帯びてしまうものがまれにあります。それが、職務発明となりうるアイデアだった場合です。しかも職務発明を出願前に公開してしまっては、会社が特許を受ける権利を得られなくなる可能性もあり、ペナルティを受けるおそれもあります。

しかし、ここで朗報というか、残念なお知らせがあります。法務が規制を打ち破る新しいアイデアをいくら思いついたとしても、

第二条 この法律で「発明」とは、自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のものをいう。

ルールメイキングのアイデアは、この特許法第2条の条文にある自然法則利用・技術的思想の要件を満たさない、ただの人為的な取り決めを新しくしていくものに過ぎず、法律上職務発明とはなりえないということです。いくら最初に思いついたとしても、ビジネス的には高度な提案だったとしても、発明にはならないとなれば、安心ですね(笑)。

(3)オープンソースカルチャーに馴染みやすい


仕事に関するアイデアを積極的に開示していくという話で似たような話としては、GitHubが育てた技術分野でのオープンソース・カルチャーがあります。

社内にルールメイキングのアイデアを表明したところで、法務を担当していない社員は自分のミッションに忙しい中、なかなかそれに共感し対案をぶつけてくれる人はいないでしょう。反応があったとしても、同じ悩みを抱えるものとして、ただの愚痴になってしまいがちです。外に発信するからこそ、似たような課題を共有する違ったものの見方を得ることができるのではないでしょうか。しかも、(2)にあるとおりそもそも権利が発生しないアイデアという点でも、オープンソースカルチャーに馴染みやすいものです。

GitHubについては、私が運営している別のメディアでも何度かお伝えしていることなので、ここでは詳しく述べませんが、実際そうした効果を期待して、法務からGitHubに実際に実行に移しているフェーズのアイデアを開陳して意見を公募する例も出てきています。

そんなブログを1年でも続けたらきっとスカウトされますよ


以上、法務パーソンがルールメイキング思考を育てるための、ブログとの付き合い方について、私見を述べてみました。

GitHubと言わずとも、ブログに書き、それをベースにSNSで自分の身近な存在に対してオープンに問いかけてみるトレーニングを繰り返すだけでも、ルールメイキング思考は十分に育つと思いますし、そんな発信をしている人がいれば、数多あるパブリックアフェアーズのポジションを求人している企業から、すぐにお声もかかるはずです。

そして何より、私自身が、そんな法務ブログを読んでみたいと思っている者のひとりです。