今年も一年、このブログを通じてご厚誼を賜り、御礼申し上げます。

昨年2017年の夏に、法務・知財畑ほぼ一筋で積み重ねたキャリアをコースアウトするという文字通りの転“職”を決め、昨秋から新天地で活動をスタートして1年ちょっと。職を変えてどうだったのかと今後について、書いてみます。


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リーガルテックが受け入れられはじめた


アドテクやフィンテックなどのメジャーなX-Techとは異なり、リーガルテックについては、テクノロジーとの親和性や業界構造の特殊性などから一過性のブームで終わるのでは。去年の秋頃の法律業界においては、そうした見立ても少なからずあったと思います。

しかしこの2018年、電子契約の普及が進み、一般大手企業の検討俎上にも普通にのるようになりました。時流を掴んだ先進的なリーガルテックスタートアップ複数社が、大型の資金調達を果たしてもいます。また政府与党、行政や弁護士会といったところからも注目され、メディアにも数々取り上げられるようになりました。

もちろんこれは、◯◯テックという言葉が生まれる前からこの分野で尽力されていた先輩方や、働き方改革という追い風のおかげでもありますが、クラウドサインというプロダクトとそのマーケティング活動が2018年のリーガルテック勃興の一翼を担ったとすれば、私自身の小さなチャレンジも少しはお役にたてたのかなと思います。

思った以上に法務じゃなくなった


もう少し、私個人の仕事の話に少しフォーカスしていきます。まず良い意味で予想外だったのが、脱法務があっけないほどにスムーズだったということです。

法務経験者としてベンチャーなチームに飛び込む以上、「相手から来た契約書案、お得意でしょうから直して進めておいてもらえますか」とか、「法律に関する質問が来たので回答案考えてもらえますか」とか、そうした法務仕事もある程度引き受けることになるんだろうな、と覚悟していました。

ところが、いまのチームは各メンバーが自分で法的な課題を抽出し、対応方針を考え、会社の法務担当と直接協議します。よっぽどのことがない限り、元法務マンとしての私や部内にいる法曹有資格者にそうした仕事を振る人はいません。

現職で取り組んでいるサービスがリーガルテックなので、プロダクトに関して元法務マンとしての意見は求められます。しかしそれ以上の特別視はせず、私にとっても法務や知財という「逃げ場」を作らないでもらえたのは、ありがたいことでした。

でも転“職”は甘くない


そうした環境にありながら、本来のマーケティング担当者らしいことは、まだできるようになっていません。

最近読んだある本に、「新しいジャンル・スキルを試し始めた最初の1年はまだまだ模索段階。本だってまだ基本的なものしか読めてないはず。せいぜい浅瀬でチャプチャプやってるようなもんだよ」と書かれていました。そう言われて法務1年目の自分を振り返ると、恥ずかしい間違い・勘違いを犯しまくっていたのを思い出します。

法務として身につけた経験と能力、たとえばビジネス文書作成能力、論理的思考力、リスク抽出力といったようなものは、残念ながら、以下に述べるマーケティングの仕事の本質部分では、まったくといってよいほど役に立たなかったと思います。

マーケティング・リーガルデザインの仕事とは何か


マーケティングの仕事とはなんでしょうか。「宣伝すること」とは違うということぐらいは認識していましたが、1年経ってようやく実感をもってクリアに言語化できました。「売れる仕組みをつくること」です。

法務・知財も、ビジネスの仕組みづくりを手伝うことはあります。それと大きく異なるのは、自分のアウトプットの良し悪しがプロダクトそのものとは独立して評価可能なことと、ダイレクトにフィードバックが得られるという点です。

今月のリード(見込み客)獲得施策が成功すれば、来月は職場が目に見えて忙しくなって活気にあふれますが、もし失敗すれば、営業のアポ先もなくなり目に見えてヒマになってしまいます。毎週の営業担当者の表情の変化が、まるで自分の仕事のバロメーターのように見えてきます。成功と失敗の差分には様々な理由が含まれていますが、職能や知識よりも、アイデアとそれを生むためのプロダクトに対する熱量の差が大きいように思います。

リーガルデザインも、経験に基づいた仮説をロビイングなりの手段を使って力づくで通す、という間違ったアプローチばかりとろうとしていたのが反省点です。ある方と一緒にお仕事をさせていただくなかで、「ユーザーの行動から設計する」ことの大事さと難しさを教えていただき、ようやく理解できました。

どちらが良い悪いは抜きにして、法務とは楽しさややりがいの質・振れ幅がまったく異なる仕事です。

働き方の変化


仕事と家庭の両立は、ある程度の年齢を重ねたみなさんにとっての共通課題だと思います。私にとってもそうです。年齢を重ねるうちに、背負うものも増えてきました。

仕事で責任を果たすのと同じく、家庭の責任もきちんと果たしていきたいと思っています。突発的に発生するトラブルとその解決のための調整にほとんどの時間を費やしていた法務の時よりも、計画的にものごとをすすめられる点、拘束される時間を最小化しやすい点、そしてまわりに迷惑をかけずに朝型勤務に仕事を振り切れる点などは、私と私の家族にとって大きな救いとなりました。

あ、どんなに時間をかけてもアイデアやコンテンツが生み出せないときは、違う苦しみがありますが…(苦笑。

法務が地味に辛いのは、支える対象である他人に、働き方まで合わせざるをえない仕事だという点にもあると思います。Slackなどの汎用的なコミュニケーションツールがそうした悩みの一部を解消しつつもありますが、リーガルテックもその解消に少しでもお役に立てればよいなと思います。

今後について


昔得意だった仕事との重なりの少なさと、最近の法務求人の異常な景気の良さに、ふと戻りたい思いに駆られることもありましたし、「戻るなら傷が浅いうちのほうがいいんじゃない?」ともよく言われます。

これについては、2年、3年とこの仕事を続けているうちに異常な景気も落ち着き、私が法務としてできることも減っていくので、時間が解決してくれることでしょう。

仕事以外のパーソナルなチャレンジとして一つ考えているのは、起業家的な「売る」という当事者の姿勢が欠けているのを矯正するための取り組みです。ガーディアンたる法務マンとして染み付いたクセが抜けないというのは言い訳にすぎず、自らリスクを取りに行く姿勢や、批判の前によりよい対案を出す姿勢、苦しい中でもプロダクトを売るために次々アイデアを世にぶつける姿勢が、私には圧倒的に足りません。

これらは、手帳に戒めを書いて毎日唱和したところでできるようになるものではなさそうで、自ら痛みを伴うビジネスをまわさないと身につかないのでは?と思います。そこで、所属組織に迷惑をかけない非競業かつ自分が好きなもう一つの分野で、起業を計画しているところです。

企業法務マンサバイバルを応援してくださり、ありがとうございました。2019年以降の活動もご支援いただければ幸いです。