Appleが、5月16日付で、「サブスクリプションの通知に関するアップデート」と題するリリースを行いました。



今回のアップデートにより、特定の条件下において事前にユーザーへの通知を行うことで、ユーザーのアクションを必要とすることなく、デベロッパが自動更新サブスクリプションの価格を引き上げることが可能になります。サービスが中断されることもありません。ここでの条件とは、値上げが1年に1回のみであること、値上げ幅が5米ドルおよび50%(年間サブスクリプションの場合は50米ドルおよび50%)を超えないこと、かつ、現地の法律により許容されていることです。Appleは常に価格の引き上げについて事前にEメール、プッシュ通知、またはApp内メッセージで通知します。Appleはさらに、サブスクリプションを確認、管理、解約(希望する場合)する方法についても通知します。

Appleが提供する自動更新サブスクリプションとは、「ユーザーがAppのコンテンツ、サービス、プレミアム機能を継続的に利用できるようにする」機能であり、「各サブスクリプションの期間が終了すると、ユーザーがキャンセルしない限り自動的に更新」される課金システムのことを言います(Apple:「自動更新サブスクリプションを使用する」より)。

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これまでの自動更新サブスクリプションでは、デベロッパーが価格を引き上げる際には、ユーザーから個別に承諾を得る必要がありました。これにより、iOSユーザー(消費者)にとっては、自分が承諾しない限り値上げ後のサブスク料金が請求されないという「安全弁」としての機能が提供されていたといえます。

今回のルール変更により、デベロッパーは、ユーザーからのアクション=承諾を得ずに値上げができることになりますが、一方でAppleがユーザーにとっての「安全弁」を最低限のレベルで維持するために、その値上げ範囲に一定の条件を設定しました。これにより、デベロッパーの不便の解消・プラットフォーマーとしての効率性向上・ユーザー体験の維持それぞれのバランスを図ろうとしたことがわかります。

Appleの狙い


Appleはなぜ今このルール変更・機能追加を行なったのでしょうか?

もちろん、そこにはデベロッパーに対するサービス向上という側面もなきにしもあらずですが、それ以上に、日本を含む各国の独占禁止規制により、Appleに対し、プラットフォーマーとしての決済機能の独占行為に厳しい目線が向けられていることが背景にあります。

2022年3月末、Appleはデベロッパーに対し、リーダーApp(雑誌、新聞、書籍、オーディオ、音楽、ビデオのうち、1つ以上のデジタルコンテンツタイプをAppの主要な機能として提供するApp)に限定して、iOSの決済機能を利用しないアウトリンク方式の外部課金をユーザーに案内することを特別に認めました。



これはスマートフォンアプリ市場における独占状態を問題視する日本をはじめとした各国政府当局からの指導に基づく措置でしたが、今回の「サブスクを簡単に値上げできる」便利なシステムを新たに提案することで、デベロッパーのアウトリンク方式外部課金への流出を引き止めようという狙いがあるものと推測します。

値上げ頻度は年1回・値上げ上限は原則5米ドルおよび50%


それでは、どのようなケースで値上げが自動的に適用されることになるのか、シミュレーションしてみたいと思います。

値上げが1年に1回のみであること、値上げ幅が5米ドルおよび50%(年間サブスクリプションの場合は50米ドルおよび50%)を超えないこと

このルールを、具体的に月額1,000円(税別)課金するサブスクサービスを想定して当てはめると、

5米ドル=650円(1ドル130円として)
50%=500円

これらがand条件でかかってくるため、条件△500円の値上げ幅、すなわち月額1,500円(税別)までの値上げであれば、年1回に限りではありますが、通知のみでサービス継続をし続けられることになります。

なお、リリース文にはありませんが、通知が送信されるタイミングに関しても詳細なルールが設定されており、記載に不明確な点があるものの、月間サブスクリプションの場合、最低限必要な通知期間として27日間、最初のメール通知が更新日の29日前との表記があります。

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サブスクリプション(継続課金)形式のアプリが増える中、エンドユーザー(消費者)に料金改定の承諾を求めれば、多くのユーザーがその時点でサービスを離脱します。そして、そうした悩みを抱えるアプリデベロッパーとしては、「Appleのプラットフォームを利用することで、ユーザーとスムーズにコミュニケーションし、継続課金を維持できる」という期待が持てます。

一方で、通知の内容を確認せず、先月まで1,000円だったサービスが気づけば1.5倍の1,500円に値上がりしていたことに後から気づき、驚くユーザーも一定数発生することは間違いなさそうです。

特定商取引法の規制強化・消費者契約法との衝突


そしてもう1点、気になる条件がこちら。

かつ、現地の法律により許容されていること

この点、デベロッパーにとっては残念ながら、日本においてはリスクがあると言わざるを得ない状況があります。2022年6月に施行予定の特定商取引法において、サブスクリプション課金を悪用する詐欺的な定期購入商法への規制強化が盛り込まれているためです。



この規制強化とあわせ、消費者庁から2022年2月9日付で「通信販売の申込み段階における表示についてのガイドライン」も公開されています。そこには、今回の法改正で新設された「特定申込みを受ける際の表示」の具体例が示されています。こうした表示規制は、表示を確認したユーザー(消費者)の「申し込み意思」を、承諾・同意ボタン等で取得する前提として設けられていると考えるのが自然です。

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ユーザーによる承諾という具体的行為ないまま、デベロッパー(およびApple)からの「通知」だけで契約の核心部分である料金を変更可能とする今回の機能を適法なものとするには、当該「通知」を閲覧したにもかかわらず解約をしないというユーザーの不作為を「値上げに対するみなし承諾」と評価するぐらいしかありませんが、このような整理は、消費者契約法10条にも抵触することとなりそうです。

(消費者の利益を一方的に害する条項の無効)
第十条 消費者の不作為をもって当該消費者が新たな消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示をしたものとみなす条項その他の法令中の公の秩序に関しない規定の適用による場合に比して消費者の権利を制限し又は消費者の義務を加重する消費者契約の条項であって、民法第一条第二項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するものは、無効とする。

以上をまとめると、日本のユーザーに対し「自動更新サブスクリプション」による通知のみで料金を値上げした場合、これが適法と認められない可能性があると考えます。

同機能を利用し、通知のみでサブスク値上げをしたいアプリ提供者は、少なくとも、Appleが定める値上げ頻度と値上げ幅の上限を超えない範囲で価格変更がありうる旨を規約で定めておき、アプリ利用者からあらかじめ同意を得ておくことをお勧めします。