企業法務マンサバイバル

ビジネス法務に関する本・トピックのご紹介を通して、サバイバルな時代を生きる皆様に貢献するブログ。

法務

一般社団法人情報法制研究所による「著作権侵害サイトのブロッキング要請に関する緊急提言の発表」について

 
一般社団法人情報法制研究所(JILIS)研究員として、ほぼ初めての発信になります。

本日、JILISより、「著作権侵害サイトのブロッキング要請に関する緊急提言の発表」を行い、私も末尾の賛同者として名前を出させていただきました。

ぜひご一読をいただき、皆様にもご賛同を賜れれば幸いです。


著作権侵害サイトのブロッキング要請に関する緊急提⾔の発表

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私のキャリアの始まりは、通信事業者でした。そこでは、当たり前かもしれませんが法務だけでなく社員全員が、憲法および電気通信事業法に定める「通信の秘密」の重要性を認識し、日々業務に携わっていました。

「電気通信サービスを提供する当社からの請求書の宛名が郵送時に見えてしまうことは、通信の秘密を侵すことにならないのか?」
「請求書添付の明細に通信相手先会社名、接続開始時間が記載されることについてはどうか?」

法律の専門家ではない一般社員が、このような請求書のディティールまでに気を使い、真剣な顔で法務に持ち込み確認をとってビジネスを進める姿を見て、大学時代に憲法すらろくに学ぼうとしなかった自分を恥じるとともに、自社のビジネスが基本的人権という重要なものに関わっていることを再認識させられました。

その後も、ITに関わるビジネスを転々とする中で、そこで交わされる通信ログに関する捜査機関からの協力要請を受けた際などには、職業人としての本分や立場をわきまえつつも、通信の秘密の重要性を人一倍考え、上席に対応方針を提案してきたつもりです。


様々な手段で防御・回復可能かつ一部の著作権者にとどまる財産的損害およびそのおそれよりも、国民全体の通信の秘密(具体的には、通信が知得・遮断されない自由・通信を通じて情報を摂取する⾃由)が保障されることを重要視すべきだと考えます。


著作権者の財産的損害と通信の秘密とを比較し、それでも前者を優先すべきだと言うならば、納得できるだけの損害発生の事実、そして脅かされる人権を保障するための策を、特定の知識人や弁護士によってではなく、著作権者本人が自分の口で説明いただければと思います。
 

賞金制eスポーツ大会に関する景表法の懸賞景品規制について、法・告示・通達を並べてみた(追記あり)

弊ブログでも話題にしてきた賞金制eスポーツに対する景品表示法の景品規制について、消費者庁のスタンスがだんだんと明らかになってきました。

東洋経済さんが、消費者庁表示対策課の担当者に取材をしたという記事がこちら。

eスポーツの高額賞金、阻んでいるのは誰か(東洋経済ONLINE)

結論から言うと、興行性のあるeスポーツ大会の賞金は「景品類」に該当しないと考えられるとのことでした。前述のようにいくつか質問を用意していたのですが、いきなり1つ目の質問ですべてが解決です。
では、なぜ興行性のあるeスポーツ大会の賞金が「景品類」に当たらないのかというと、大会における上位者のプレーに対する賞金は「仕事の報酬」と見ることができるからです。
「景品類等の指定の告示の運用基準について」には8つの項目があり、5項目の(3)に「取引の相手方に提供する経済上の利益であっても、仕事の報酬等と認められる金品の提供は、景品類の提供に当たらない(例 企業がその商品の購入者の中から応募したモニターに対して支払うその仕事に相応する報酬)」と記載されています。
この5項目(3)により、興行性のあるeスポーツ大会に参加するプレーヤーのパフォーマンスは仕事として認められ、優勝賞金は仕事の報酬とみなされるようになるわけです。

消費者庁としては、むかーし昔に作った通達に「仕事の報酬等」ならOKって書いてあったのを利用して、しかし「興行性のある」というどこにも書いてなかった謎の要件を(そっと)加えて、この範疇に収める解釈を出しておくのが妥当、というご判断のようです。

ゲーム好き一般人として、結論は妥当のように思っていますが、景品規制のあり方としては、法の下の政省府令のさらに下の、「告示」に書かれた言葉の解釈を示した「通達」をさらに消費者庁が解釈したものだけを根拠に違法・適法を論じていることに、少しばかり異常さを感じます。

そんなことを考えながら、懸賞景品規制について法、告示、通達の中から特に関係する文言を並べて眺めてみました。ご入用の方は、こちらからコピペしていってください。

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このまま告示や通達による解釈で乗り切るなら、少なくとも、「仕事の報酬等」「興行性のある」についての要件定義を、告示や通達で出すべきではないでしょうか。それはそれでかなり滑稽な感じがしますが。

なお、告示・通達とは以下のとおりで、法令とは異なるもの。

国家行政組織法(昭和二十三年法律第百二十号)
第十四条 各省大臣、各委員会及び各庁の長官は、その機関の所掌事務について、公示を必要とする場合においては、告示を発することができる。
2 各省大臣、各委員会及び各庁の長官は、その機関の所掌事務について、命令又は示達をするため、所管の諸機関及び職員に対し、訓令又は通達を発することができる。

今後、高額の懸賞金を供する事業者も現れて立派な経済活動となるであろうeスポーツ業界。このような微妙な行政解釈だけを頼りにビジネスを展開することに、事業者として不安を覚えるのも無理もないでしょう。

「景品表示」法とひとくくりにするのでなく(おそらく今後も必要であろう不当表示規制と切り離して)、これほど解釈も微妙な、そのわりに世界の主要国の中でもかなり厳しめの景品規制がそもそも必要なのか、というところからもう一度考え直したほうがいいのではと思います。
 

2018.3.25 追記

コメント欄にて、「興行性については、経産大臣の国会答弁にもあったようです。ジュリストの最新号の論考にも紹介されてました」との情報をいただきました。ありがとうございます。

早速経済産業大臣の答弁を確認してみました。第196回国会 予算委員会 第7号(平成30年2月7日)の議事録から。

○世耕国務大臣 御指摘のeスポーツは、例えばゲームでやるサッカーの対戦模様とか、そういったものを多くの人で見て楽しむというものでありまして、非常に今盛り上がっていまして、今、全世界で十億ドル程度の市場規模があって、これからも年間一三%ぐらいで成長していくだろうというふうに見ています。

 これは、単に興行としてその大会が盛り上がるだけではなくて、その戦っている映像が例えばユーチューブとかで配信をされて、それがまたビジネスになっていくとか、いろいろな広がりもあって、日本のコンテンツ市場全体の拡大に寄与するというふうに考えています。次期アジア大会でも、競技として取り上げられるというような話も出ているようであります。

 ただ、法律的にいろいろひっかかるようなところがあって、例えば賭博に当たるんじゃないかとか、風営法の届け出が必要じゃないか。これはそれぞれの法律で判断していっていただくしかないわけですけれども、特に景表法、景品表示法にひっかかる。

 要するに、高額商品が出る場合は景表法に抵触するのではないかという指摘もあったわけでありますけれども、これは、経産省も間に入りまして、消費者庁と関連団体の間で整理をさせていただきまして、プロのプレーヤーが参加する興行性のあるeスポーツ大会における賞金は、これはあくまでも仕事の報酬ということで、法律上の景品類には当たらないという形で整理が行われたわけであります。

 そして、さらに、先月、一月二十二日に、今まで三団体に分かれていたのが日本eスポーツ連合という形で一本化をされました。こうやって一本化をされて、今後プロスポーツ化に向けた動きが本格化をすれば、高額賞金が出る大会の開催など、eスポーツの活性化の環境が整っていくのではないかというふうに期待をしております。

 経産省としては、この日本eスポーツ連合と連携を図りながら、eスポーツを健全に発展させて、日本のコンテンツ産業の振興に取り組んでいきたいと思います。

ゲーム業界と古くから結びつきの強い経産省だけに、業界団体がすすめるプロスポーツ化を後押ししたいという思いが詰まった答弁になっており、また本件について消費者庁に対してもかなりの圧をかけていることが伝わってきます。

私が疑問に思っている興行性を要件とする点については「経産省も間に入りまして、消費者庁と関連団体の間で整理をさせていただきまして、プロのプレーヤーが参加する興行性のあるeスポーツ大会における賞金は、これはあくまでも仕事の報酬ということで、法律上の景品類には当たらないという形で整理が行われた」と述べています。「プロ参加」という要素が加味されそうな様子がうかがえますが、これを要件にしてしまいますと、Youtube配信などでゲームだけで生計を立てていくことも可能となった今、ゲームのプロとは何かという答えのない議論に陥ってしまいそうです。

そもそも、景表法担当大臣による発言ではないことも含め、これだけでは今後の業界にとってプラスの方向に影響を与えるものとはならないような気がしますので、やはり正式に消費者庁から告示なり通達なりをはっきりと出していただいたほうがよい(というか、繰り返しですが景品規制撤廃の方向で考えたほうがいい)のかなと思います。

なお、ジュリスト2018年4月#1517は、大江橋法律事務所の古川昌平弁護士によるもの。上記経済産業大臣発言については出版タイミングの関係で軽く触れる程度でしたが、すでにインターネットでも公開されている平成28年消費者庁照会と白石忠志教授の論稿「eスポーツと景品表示法」(東京大学法科大学院ローレビュー、Vol.12 2017.11)をベースに、一般ユーザー観戦大会についてオープン懸賞告示に照らして顧客誘引性がなく適法と解釈することの是非について、さらに検討を深めた非常に丁寧な論稿になっていました。

筆者の理解不足の故かもしれないが、前述のとおり、個人的には、商品又は役務を購入することにより、経済上の利益の提供を受けることが可能又は容易になる場合には、当該経済上の利益は、客観的に顧客誘引のための手段となっていると言わざるを得ないのではないかと考えている次第である。

例えば、ゲームメーカーが、参加資格を高度な技術レベルを有する者に限定したeスポーツ大会を主催する場合に、当該メーカーが成績優秀者に対し提供する賞金は、当該大会に出場し得る者による高度な技術を駆使したプレイを見せるための原資としての性格を有するとは言えるだろう。もっとも、当該ゲームソフト購入後の練習によって一定の技術を習得することはあり得るし、大会への参加を1つの目的として当該ゲームソフトを購入しようとする者は相応にいるのではないか。そのため、当該大会について顧客誘引性が「ない」とすることは困難ではないかと思われる。

この古川先生の指摘については、私も同様の懸念を覚えています。
 

【本】『個人情報保護法の解説《第二次改訂版》』― 本家本元「ピンク本」が13年の時を経てついに改訂

法改正による個人情報保護法本の新刊ラッシュがひと段落するの待っていたかのような、王者の風格漂うタイミングでの登場となりました。実務に携わる者にとっては必携の書です。





著者の「個人情報保護法制研究会」とは、まさに平成27年改正法の立案を担当し、そして運用の監督権限を司ることになる、個人情報保護委員会事務局の皆さんのこと。もちろんそれぞれの個人の私的な見解とは言え、主務大臣に代わり委員会が権限を持つことになったこの運用フェーズにおいては、本書に示された解説をベースに検討すべきなのは間違いありません。

ちなみに、前著『個人情報保護法の解説《改訂版》』は、業界人からは「ピンク本」と呼ばれ、宇賀本・岡村本のような自説記載を含んでいない点、業界では信頼のおける文献として重宝されていました。といっても、発刊当時の2005年時点は私はまったく注目していませんで、保護法改正の機運が高まりはじめた2012年ごろにあわてて中古で購入した記憶があります。

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その《改訂版》と比較すると、まず一見してデザインががらっと変わっています。ハードカバーで扱いにくかった表紙もソフトカバーに代わり、ページ数は570ページを超え前著比プラス200ページほど増加しています。書体やレイアウトは少し現代風になり、より読みやすい印象です。

特に、実線で罫囲みされた条文の下に趣旨があり、その条に関係する施行令・施行規則の条文が点線囲みで引用された構成が使いやすく、気に入っています。委員会作成のQ&Aまではリファレンスされていませんが、逐条解説の文章の中で十分にその趣旨が織り込まれているので、コンメンタールとしてはここは割り切って正解だったと思います。また、図表が少し少なめな印象がありますが、前著と比較してみると、あまり図式化する意味のない図、たとえば一方通行なフローチャートなどを積極的に削除したフシがうかがえ、これも良い改訂ポイントだと思います。

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また逐条解説パートにおいては、改正による影響があった部分には必ず書き出しに「平成27年改正により」とあり、改正のなかった部分との区別が明瞭になっています。改正内容をもういちど頭に入れたいという方にとっても、この部分を丹念に追っていけば事足りるはずです。

何より驚いたのは、その改正の影響を受けていない条文についての解説は、時折挙げられている例示も含めて、一言一句《改訂版》から変化なしと言って差支えないほど前著のままとなっている点です。これはつまり、個人情報保護法の本質は何も変わっていないということの証左であり、あわせて、前著《改訂版》がいかに信頼できる完全なものであったかを示してもいます。ピンク本もそれはそれで取っておくつもりだったのですが、ここまで踏襲していると、安心して電子化(自炊)送りにできますね。

(余談ですが、この差分を精査している作業中、28条の保有個人データ開示義務を解説しているP237において、「開示を請求された保有個人データが存在しないという情報も重要な情報であることから(略)存在しない旨を本人に通知しなければならない。」という解説が前著になかったのを見つけ、「お、これは委員会の独自見解か?」と思ったのもつかの間、法28条3項の条文自体に新たに加えられていた当然の義務であることに気づいた次第です。恥ずかしながら・・・。)

第4編として、藤原先生によるGDPRについての解説がありますが、これは本当にさわりの紹介程度です。GDPRについては別途文献を参照して対応を検討されることを推奨します。

なお入手に当たっては、ぎょうせいのtwitterご担当者さまに便宜を図っていただき、発行間も無く入手できました。その節は誠にありがとうございました。

ガチャ確率の開示は法的義務となるか、なった場合ゲームはどうなるのか

 
昨日平成30年1月26日付、消費者庁がガチャ確率表示に関する景品表示法第5条第2号(有利誤認)の措置命令を行いました。以下リリースからの抜粋です。

アワ・パーム・カンパニー・リミテッドに対する景品表示法に基づく措置命令について
イ 実際
  • 本件役務を1回ごとに取引する場合の本件役務の取引1回当たりの「クーラ」と称するキャラクターの出現確率は、0.333パーセントであった。
  • 本件役務を10回分一括して取引する場合の「万能破片」と称するアイテムの出現に割り当てられる1回を除く9回における本件役務の取引1回当たりの「クーラ」と称するキャラクターの出現確率は、9回のうち8回については0.333パーセントであった。

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⑶ 命令の概要
ア 前記⑵アの表示は、前記⑵イのとおりであって、本件役務の取引条件について、実際のものよりも取引の相手方に著しく有利であると一般消費者に誤認される表示であり、景品表示法に違反するものである旨を一般消費者に周知徹底すること。
イ 再発防止策を講じて、これを役員及び従業員に周知徹底すること。
ウ 今後、同様の表示を行わないこと。


オンラインゲームのガチャ(ランダム型アイテム提供方式)の確率表示に言及した措置命令としては初めてのものになります。それもそのはず、各社がガチャの確率を表示するようになったのは2年前、ある事件をきっかけに作られた業界ガイドラインの制定が契機となっているからです。

(フィーチャーフォンの一部ゲームを除き)ほとんどのオンラインゲームがそもそも確率を表示していなかったところ、このような自主規制で表示をせざるを得なくなったことにより、不当表示を発生させる可能性も高まってしまったわけです。上記措置命令の対象会社の行為が故意なのか過失なのかはわかりませんが、だますつもりはなかったようなちょっとした表示ミスでもこのような不当表示として法的責任を問われるというのは、本当に大変だと思います。


さて、ここで確認しておきたいのは、現時点ではガチャの確率表示自体は法的義務ではない、という点です。しかし最近になって、世界の流れがガチャの確率表示をまるで法的義務かのように扱ったり、これから立法していくべきという方向に傾きはじめています。このブログでも昨年11月に取り上げたハワイ州でのルートボックス確率開示立法の動き、そしてアプリ業界のルールメイカーとなってしまっているAppleのプラットフォームルール改正によるルートボックス確率開示強制に加え、ワシントン州でも上院議員が法案を提出したとのニュースが報道されているのは、ご存知の方も多いと思います。

もちろん、ゲームといえども有償で行うものについて、消費者保護、特にお金の取り扱いに関する意思能力が未熟な未成年者を保護すべきというバランスを取るためにある程度の規制は必要でしょう。そのバランスポイントとして、確率を表示して未成年者に現実の厳しさを知らしめるというやり方をとるという手法とせざるを得ないのも、ある意味では妥当に見えます。


しかし、ここで不安が生じます。そこで、単純におカネをバーチャルな「箱」に投入してスイッチを押すと「運」にまかせて何らかのアイテムがいずれか出現する、日本流にいえばガチャ、海外流にいえばルートボックスに限定してそうした法的義務を作るだけであれば話は簡単なのですが、ゲームの世界はそんなに単純ではない、ということです。それは、ゲームと名のつくものに「運」を要素に含まないものは、存在しないからです。


「運」の要素を含まないゲームは存在しない、それは本当か?という方には、たとえば以下の書籍が参考になります。



Cailloisは またゲームを4つの区分,そして2つの尺度により分類し,考察を加えている。 4つの区分とはアゴン〔Agon〕,アレア〔Alea〕, ミミクリ〔Mimicry〕,イリンクス 〔Ilinx〕 である。それぞれは競争のゲーム,偶然のゲーム,模擬のゲーム,眩量のゲームと言い換えることができる (Caillois, 1967(邦訳, 2004))。

(中略)

カジノをはじめとするゲーミングは Roger Cailloisの 分類した4つの区分に重なり合う形で存在するが,すべてのゲーミングには必ず偶然が作用することとなるので,図表3-3に示すようにアレア 〔Alea〕 に内包されると考えることができよう。

3-3

(中略)

すべてのゲーミングはアレア 〔Alea〕 に内包される。そして図表3-4にあるように社会機構の外縁にある文化的形成として成立しているが,イリンクス 〔Ilinx〕 的な要素が強まり堕落すると「中毒」つまり「依存症」となる。

3-4


たとえば、こんなオンラインの対戦サッカーゲームがあったとします。

  • 初期状態では11人の選手の能力は全員一緒
  • 対戦して勝ったプレーヤーは、1人だけ自分のチームにスタープレーヤーがランダムに追加され、次の試合に無料でチャレンジできる
  • 負けたプレーヤーも、お金を支払うことで何度でも再チャレンジでき、次の試合に勝てばスタープレーヤーがランダムに追加される

上記引用文献によれば、選手の獲得の場面だけを見ればアレア(運)のゲームのようでありますが、基底にはサッカーゲームのプレイというかなりアゴン(競争)の要素が強くもありますし、勝ち続けるとオールスターチームが無償でできあがっていく様は、ミミクリ(模擬)的でもあります。

さて、ここで問題です。仮にガチャやルートボックスの確率表示が法的義務となった世界において、この対戦サッカーゲームは、果たしてガチャやルートボックスに該当するものと評価されるのでしょうか?

該当するとした場合、課金行動の前に確率を表示せよとなりそうですが、ある選手を獲得できる確率表示は、どのように表示すべきでしょうか?次の試合をプレイして勝つ確率を含めて、コンピューターがその確率を計算し表示できるのでしょうか?できたとして、その確率表示に意味はあるのでしょうか?

未成年者保護、消費者保護のためにガチャやルートボックスの確率表示を法的義務とすべきという議論は、今後も根強く続くと思います。しかし、そこに踏み込むにあたっては、ガチャとそうでないものの境界線が引けるのか、引けたとして技術的に表示が可能なのか、可能として目的に資するか、確率表示義務に萎縮してゲームがゲームとして成立しなくなる可能性はないか、それらについても考えた上で、ルールメイクしていく必要があります。
 

【本】『知財の正義』― アンチ・レッシグ

 
久しぶりに、アンダーラインを引き引き脳に汗をかきながらじっくりと本を読みました。こんなにもストレートにローレンス・レッシグを批判する人がいるんだなあと驚きながら。


知財の正義
ロバート・P. マージェス
勁草書房
2017-12-15



  • パブリックドメインから取り出した素材に個人が「労働」を付加して生まれたものが創作物である。
  • 創作物によって、フロー型の収入しか得られなかったところ、ストック型の収入を得ることが可能になり、これにより個人が生計を立て自律す(選択と行動の自由を得)ることが容易になる。これを制度化したものが知的財産権である。
  • 一方、知的財産権がパブリックドメインから生まれたものである以上、その知的財産権から得られる果実・収益は、社会が知的財産権に貢献した度合いに応じてパブリックドメインに還元すべきであり、還元されふたたびパブリック・ドメイン化したものから、またよりよい創作物を個人が労働によって生み出すサイクルが生まれる。
  • そのサイクルを生むための原初の「労働」にインセンティブを発生させるために、「労働」によって所有が認められる権利が国家による確かな強制力に裏打ちされる必要があり、だからこそ、現在の知的財産権制度の存在は正当化される。

以上について、ロックの占有理論/カントの個人主義/ロールズの財産の分配効果への関心をベースに、論証を試みた本。

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率直に言って、この論証の方法については、著者が根拠としている偉人達のもともとの著作や言説に明るくない私には、チェリーピッキングに過ぎないのでは?という疑問が拭えず(御高名な方なのでそういったことはないと思いますが)、素直に納得できたかと問われれば、Yesとは言い難いところがあります。

それでも、レッシグ以降のアフターインターネット知財の潮流、すなわち、「デジタル時代においては、制約をできるだけ取り除き、共創を促すべき」といったミニマリスト的政策こそ最良とする考えに対して真っ向から否定を試みる著者の凄みに、読んでいて押し負けそうになる場面が少なくありません。

デジタル時代の学者は「インターネットはすべてを変える」と説いてきた。(略)しかし、新たな配信技術によっても変わることがなかった1つの重要な事実がある。それは、創作物を生み出すには、依然として労力と(多くの場合には)個人の意志ないし人格の投影を必要としているという事実である。労力と個性が知的財産の本質なのであるから、創作物に対して財産権を認めることは、インターネット時代においても、依然として理に適っているのである。
この本質的な継続性に気づかない者は、創作物に関するゆるぎない真実を見落としている。技術至上主義の論調で書かれた書籍や記事を少し読めば、この点は明らかになる。ローレンス・レッシグの『CODE VERSION 2.0』、ジェシカ・リットマンの『デジタル著作権』、そして多くの類似の著作は、創作物を伝達する技術のこととなると、インターネットが存在する以前とそれ以後との間には急激な不連続性があると繰り返し強調する。彼らによれば、こうした変化の原動力は、知的財産分野の存在意義を解釈する際の支柱としても機能するという。その基本的な考えは単純である。創作物を広める技術が劇的に変化したのだから、この分野に関する私たちの考えも劇的に変わらなければならないというのである。これこそが、技術至上主義(technocentrism)という表現で私が言わんとしていることである。(P32)


上記引用部にも表れているように、極めて人間的な「(労力・個性・人格の表れとしての)労働」に強く知的財産権の源泉・根拠を求める著者マージェス。この論に立てば、本書では触れられていませんが、たとえばデータベースの著作物性を争う場合に保護されないとされてきたいわゆる「額に汗」についても、保護の対象とすべきものとなってしまいそうです。そうなのでしょうか。

今後私が知的財産について考えるたびに、脳裏をよぎり立ち返ることになる本になろうかと思います。
 

【雑誌】BUSINESS LAW JOURNAL 2018年 2月号 ― 五賢人に代わる選者はいないのか

 
今年もビジネスロー・ジャーナル「法務のためのブックガイド」の季節がやってまいりました。





いつものとおり、
・匿名法務担当者5人による購入書籍分野別批評会
・各分野の専門家11名によるエッジの利いた選書
・トリを飾るは企業法務系ブロガー ronnor先生(@ahowota)による辛口法律書レビュー
・最後におまけでデータに見るTOP10ランキング
という構成になっています。

匿名批評会は年を重ねるごとに舌鋒鋭くなっている感じがあり、今回も匿名ならではの「ここまで言うか・・・」というキツいコメントが盛りだくさん。私の共著本も過去ここでご批判を浴びた記憶もありますが、著者にとってはヘビーな一言になっているのではと心配になります。

それと、創刊以来ずっとこのブックレビューをウォッチしていて、そろそろレビュアーの固定化が気にもなりだしています。今年ご登場のA〜Eさんが2015・2016版ブックレビューにどのように登場されていたか振り返ってみたのですが、

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このように、ほとんどの方が3年連続出場されている状況(ちなみに2015年は女性一人が加わっての6人でのレビューでした)。そもそもレビューできるだけの読書量を確保している法務パーソンが少ないのか、編集部が開拓をあきらめているのか、定かではありませんが、我こそはという方は手を挙げられてはいかがでしょう。

ちなみに私は毎年のようにここに出ている人と勘違いされて、今年でいうとC(去年のD・一昨年のA)さんと間違われるのですが、違いますからね〜。


さて、私が毎年作成しているブックガイド「法律書マンダラ2018」はすでに先日アップしたとおりなので、特に付け加えるつもりはないですが、「今年買った本」で絞りをかけると、この2冊かなと思っています。

1冊目が、『法のデザイン』。

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上記匿名座談会では「?」と思うぐらいキツい批判の対象になっていたこの本。今の法律を今の考え方で解説するといった、すぐに陳腐化する方法をあえてとらず、それこそ写真のようにこの激動の時代を法的側面から“切り取った”本として読むべき書籍です。一部の法律業界人だけでなく、まさに写真というアートと同様に多くの人に理解され影響を与えてはじめている本でもあり(そして実際、法律書籍の比ではないぐらい売れています)、後世に残す価値を持ったあたらしいスタイルの法律書だと思います。

加えて、「法律家としてどう役立っていきたいか」「法律をどう役立てていきたいか」を著者としてはっきりと主張・宣言しており、著者水野先生はそこに実践と行動が伴っている点、実務家として見習うべき方ではないかと尊敬しています。


2冊目が、古書ですが『アメリカ契約法

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日本の民法学者が書く契約法の基本書のような体系(契約の成立・締結上の過失・変更→履行→違反に対する救済→免責)で、アメリカ契約法の基礎を概説してくれる本書。

日本語で読めるアメリカ契約法と言えば、平野晋『体系アメリカ契約法』が鉄板と言って間違いありません。しかし、日本の民法知識をベースに(想像しながら)一足飛びに平野本を理解しようとするのは、かなりの無理があります。この本にもっと早く出会えていれば平野本ももっと楽に読みこなせたのに、と思わせてくれる本です。中古が存在するうちに買っておいたほうが良いでしょう。


今年も著者のみなさまに感謝。
来年もよい本に出会えることを祈ります。
 

Apple法改正のお知らせ ― ガチャ確率開示が義務化されました(追記あり)

 
Appleが、iOSデベロッパー向け利用規約の一部を構成する「App Store審査ガイドライン(App Store Review Guidelines)」を改訂。

ルートボックス、すなわち有料でランダムに仮想アイテムが出現する仕組みまたはそれに類似するものをアプリで販売するときは、各々の得られるアイテムの種類ごとにそのオッズすなわち確率を開示しなければならない、というルールを、3.1.1の一番最後の箇条書きとして追加しました。ガチャ確率開示の義務化です。またいつものごとく、オフィシャルな予告なしに、突然にです。

App Store Review Guidelines

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ガイドラインの日本語版はまだ本日現在改訂されていない模様。
比較のためこちらも画像をはっておきます。

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“the odds of receiving each type of item”とありますが、このeach typeがどの粒度を指すのか、つまり、個別アイテムの確率開示を義務化しているのか、それともS、A、Bレアといったなんらかのグルーピングをした確率開示で許容されるのか。ここが一番の論点でしょう。


といっても、業界の有識者は、この流れは推測できたことだろうと思います。弊ブログでも11月23日に「STARWARS BATTLEFRONT2がガチャ規制の虎の尾を踏む」と題する記事を書いたとおり、米国ハワイ州議員が、他州の議員を巻き込んでルートボックスへの規制の必要性について言及をしていたからです。

未成年のアプリ内購入があまりにもかんたんにできてしまうことについて、過去FTCからの制裁も受けているApple。以降、この手のリスクはもう負えないと判断していたはずで、11月のこの動きが見えた段階で、プラットフォーマーとしての確率へのなんらかの規制はせざるを得ないと判断したものと思われます。そのころに、Appleから上位デベロッパーに対しては、何らかの打診が事前にあったかもしれません。

業界最大手のアプリでも、確率を開示していないものが存在します。その中でどういう影響がでるのか。そして、そうした大きな影響を与える力をもったプラットフォーマーに、売上にも直接影響を及ぼすような重大な利用規約変更権限を無制限に与えていていいものか、このブログではずっとそのことについて問題提起し、しかるべき方々にもお話をお伝えしてきました。議論すべき時はとっくに過ぎてしまっているようにも思うのですが。


2018.01.19追記

昨日付で日本語訳も改訂され、該当部分が追記されました。


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注目していた“each type”の訳は「各種」と無難なものになっており、個別アイテムごとの確率設定(提供割合)の開示を求めているのか、グループ別での開示も許容されるのかまで踏み込んだ見解は示されていません。

とはいうものの、大手デベロッパーの対応を見ていると、個別アイテムごとの確率開示に踏み切っているところが目につきます。なんらかのグルーピングをしていながら、そのグループ中の一部の特定アイテムのみが著しく低い確率に設定されていたケースなどでは、中途半端にグループ単位での確率設定を開示することで、かえってその特定アイテムの確率を誤認させる結果になりかねない、という判断をされたのかもしれません。

このようなクリティカルな部分について後出しのルール変更を告知した後、それでも確率設定を開示しないデベロッパーに対し、Appleがいつから・どこまで取り締まりをするのか、注目です。

【本】『日米欧 個人情報保護・データプロテクションの国際実務』― 待ってましたの三法一覧

 
企業において、個人情報保護のグローバル対応とは、結局何をどこまで準備すればいいのか?専門家が皆答えに窮し逃げていたこの問いに答えようと、一冊で日米欧のデータ保護規制を俯瞰できるようにした、とても便利な書籍が出ました。

 



日本での個人情報保護法施行のドタバタ劇が一段落したのも束の間、2018年5月25日のEU一般データ保護規則(General Data Protection Regulation:GDPR)適用開始日が近づいてきました。EUから個人データをEU域外に持ち出す場合、個人データ保護のための厳しい義務をEU域外企業が個別に守らなければならない。それを定めているのがGDPRです。ネット上で無料で入手できかつ信頼できる情報源としては、JETRO作成の『実務ハンドブック』がありますので、リンクを張っておきます。

▼「EU一般データ保護規則(GDPR)」に関わる実務ハンドブック(入門編)(2016年11月)
https://www.jetro.go.jp/world/reports/2016/01/dcfcebc8265a8943.html
▼「EU一般データ保護規則(GDPR)」に関わる実務ハンドブック(実践編)(2017年8月)
https://www.jetro.go.jp/world/reports/2017/01/76b450c94650862a.html


このGDPRについては、先行き不透明な話があります。EUが、個人データ保護レベルについての「十分性認定」を日本に対してしてくれるかどうか、という問題です。この「十分性認定」があれば、EU/日本間の個人データの流通が認められ、企業単位の対応は軽減されます。この行く末が気になるわけですが、今年7月に「認定が得られそう」と報じられて以降、音沙汰がありません。

万が一、2018年5月までに十分性認定が得られないとなった場合、企業が自己の責任と負担でGDPRを順守できる状態(具体的には、「標準契約条項(Standard Contractual Clauses:SCC)」、あるいは「拘束的企業準則(Binding Corporate Rules: BCR)」のどちらかに従った状態)にしなければ、当該企業にペナルティが課されるリスクが発生します。

そんなわけで、対策に予算がつく大手企業は別として、多くの企業の法務担当者や情報セキュリティ担当者としては、「企業として、とりあえずGDPR対策に何をどこまで最低限準備しておいたらいいのか」と不安を抱えている状態なのでは。本書は、その不安に応えるべくGDPRを解説するとともに、なんとUSの個人情報保護法制の解説も(州ごとに異なるため可能な範囲でという限定付きではありますが)加え、日本企業が個人データ保護をグローバルレベルの基準で満たすため何が必要か、まとめてくれています。

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本書全体の構成は、
第吃堯‘米欧の法制度
第局堯‘米欧の実務上の留意点
第敬堯.院璽好好織妊
の3部。

特に第3部のケーススタディは、
・クラウドサービスを利用して個人データを保管・管理する場合の規制
・モバイルアプリを通じて個人データを取得する場合の規制
・ウェブサイトで行動ターゲティング広告を行う際の規制
・グローバルなグループ会社の従業員情報を一元的に管理する場合の規制
のように、早速直面するであろうケースではあるがはっきりと答えが用意されていない実務的なポイントについて、日本・EU・米国の規制それぞれを分析・解説しており、大きな見どころかと思います。


なお念のため、米国法については連邦法の概説にとどまり、州法については一部言及があるのみにとどまります。それでも、COPPA、GLBA、FCRA/FACTA、HIPAA/HITECH、GINA、Privacy Act of 1974、VPPA、FERPA、DPPA、FTCAといった連邦法がまとめて日本語で解説されている文献は類を見ず、これだけでも非常に価値の高い文献と言えます。


本書の「はじめに」で、著者代表の長嶋・大野・常松法律事務所 森 大樹弁護士が、

実務家による類書がないことを熟知していたので、その責任の重さに躊躇する気持ちがなかったといえば嘘になるかもしれない。

と素直な心情を吐露されています。誰もが逃げていたその作業を率先してチャレンジしてくださり、このような書籍のかたちにしてくださったことに、深く感謝します。
 

【本】『金融機関営業担当者のための法律・税金・会計ハンドブック〈平成29年度版〉 』― 法務と税務をつないでくれるカンニングペーパー見つけました

 
金融機関の方々って、会計だけじゃなく法務も税務も知っててすごいなあと思ってたら、こんな便利な本を隠し持ってたんですね。





我々法務畑の人間は、とかく及び腰になりがちな税務や会計。勉強する気があっても、法務と税務・会計を具体的につないで解説してくれるような便利な書籍なんて売ってないしなあ。そう思っていたところに、金融系の知人にズバリこの本の存在を教えてもらったわけです。

たとえば、法務面からストックオプションの発行手続きを確認すると、「税務面は18ページ参照」という具合にリファレンスがあって、

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該当ページに飛んでみると、表組、具体例+図入りで分かりやすくストックオプション税制に関する説明がある、といった具合。この税制解説からも「法務面は210ページ参照」の相互参照が入っています。

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みずほ総研相談部とみずほの顧問弁護士・税理士・会計士が、みずほの営業担当者を対象に営業トークのカンニングペーパー(失礼)として作成した本なので、法・税の知識がなくとも読めるレベルにかみ砕かれている上、記載内容の信頼性も高いものになっています。

というか、法人設立や募集株式発行による増資といった会社法まわりの制度図解は、どの法律書よりもわかりやすいまとめ方になっていて、こういう図解・表まとめの方法があったのかと、法務面でも新しい発見がいくつかありました。会社法をビジネスに当てはめて理解する副読本としても使えそうです。

解説されている項目詳細をお知りになりたい方は、目次と紹介パンフレットがあるこちらのリンクからどうぞ。

平成29年も終わりに差し掛かっていますが、本書は毎年7月ごろ刊行されているものだそうなので、あと6カ月は使えます。
 

法務パーソンのためのブックガイド「法律書マンダラ2018」

 
毎年の“マンダラ形式”のブックガイドを更新しましたので、ご入用の方はGoogle Docsでご覧ください。

同一書籍で新版が出たものについて更新し、一部推薦書の入れ替え・追加削除・分類の見直しをしています。『法のデザイン』のL1ランク入りなど、2016→2017に比べていくつか大きな変動がありました。

法律書マンダラ2018

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書名はそれぞれAmazonへのアフィリエイトリンクとなっており、紹介書籍をそのままご購入いただけます。なお、マンダラ内ではスペースの都合で一部書名を略しています。リンク先では正式書名をご確認いただけますのでご了承ください。
※2018年中は、このリンク先ファイルを随時更新させていただこうと思います。


なお、この“マンダラ形式”のブックガイドのアイデアは、山口周著『外資系コンサルが教える 読書を仕事につなげる技術』からお借りしています。重ねて御礼申し上げます。
 

契約法務の学び方 & 必携本8選

契約法務の学び方


契約法務に関する専門性をどう身に付けていけばよいか?端的にまとめると、
  1. 取引を知る
  2. 条文を読める・使えるようになる
  3. 信頼できる専門書を読みこむ
  4. 判例を研究する
の4つを繰り返すことだと思います。

この類のことは、法務にかかわる方ならば、先輩に一度は言われたことはあるでしょうし、3年ぐらい契約法務に携わっていれば、誰かが教えてくれなくてもその必要性はわかってくるはずです。

では、その各プロセスにおける具体的な勉強法とは?このあたりから、言葉にして明示的に教えてくれる人が減ってきます。

1については、業務を遂行する中で自分の会社と業界のビジネスを観察し、質問し、深い理解に努めること、
2については、六法全書をひもとく癖をつけ、条文を折に触れて素読すること、
4については、判例検索の仕方と読み方を教えてくれる本(私のおすすめは各DBの特徴比較も掲載された池田真朗『判例学習のAtoZ』)があるので、それに従って自分の会社のビジネスに関連した判例をDBで検索し、数多く読みこむこと

だと思いますが、ここで問題となるのが3の信頼できる専門書はどれかという問題です。というのも、契約法務の専門書が、世の中にたくさんありすぎるのです。

契約法務の専門書の決定版はどれか?と聞かれても、これ1冊で契約法務マスターになれるという本はないでしょう。出版されては絶版になり、消えていく契約法務本がほとんどなのが、そのことを端的に示しています。

1冊ではだめなら、いったい何冊の本を買い揃え、どういう順番で読めばいいのか?これが、企業法務パーソン皆さんが本当に知りたがっている情報のように思われます。でもなぜか、これまでそのことをズバリ示してくれる書き物がなかったので、今回試しに私が書いてみることにします。

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1.中村直人『訴訟の心得』


訴訟の心得
中村直人
中央経済社
2015-01-28


いきなり訴訟の本?と意外に思われるかもしれませんが、契約法務をどう学ぶか・契約書をどう書くべきかを考える前に、まずこの本を読むことを提案します。なぜでしょうか。

それは、契約法務がつまるところ紛争予防・早期解決をゴールとする仕事であり、そのワーストシナリオである訴訟において何が起こるのかをあらかじめ知っておかなければ、契約書を書く際に何にどう気を付ければよいのかの勘所や緊張感を持ち得ないからです。

しかし、残念なことに(?)、みなさんが就職されているような企業においては、契約に関する訴訟というものは滅多に発生しません。あるとしても債権回収のようなものぐらいでしょう。発生しているなら不謹慎ですがむしろ貴重な経験ですから、すぐに手伝わせてもらうべきです。発生してないなら(それが普通)、本書を読み、疑似体験と想像をするしかありません。

民事訴訟に関する実務書の中で、細かすぎる専門知識は最小限にして、ゴールから逆算して契約書を書くためのイメージをできるだけわかりやすい言葉で想像させてくれる、企業訴訟に特化した本。その意味でベストなのがこの本なのではと思います。


2.我妻栄『民法案内 1 私法の道しるべ』




さて、次に読むのはこの本です。この本は、契約を規律する「私法」の基本原理、法源、解釈、効力を分かりやすく説いてくれる本です。そのエッセンスをむりやり一言でまとめれば、自由と平等を伸長しときに制約するものが私法であり、民法であるということです。

しかし、この本は契約法務や契約書の具体的な書き方を説いてくれるものではありません。それでもなぜこれを2番目に読まなければならないのか?

それは、この次に紹介する書籍を読めるようになるためです。


3.田中豊『法律文書作成の基本』




さあ、3冊目のこれが本丸です。今回ご紹介する8冊の中核・ハブとしての機能を担う本になります。

契約書作成に関する実務書はたくさん刊行されていますが、中堅以上の実務家でこの本を否定する方は見たことがありません。一方、企業法務の若手でこの本を買ってきちんと読んだ、という方はかなり少ないと思います。

それにはおそらく3つの理由があります。
  1. 本書前半〜中盤が(一見すると)訴状の書き方に占められていて、後半の契約書の書き方にまでたどり着かない
  2. 契約書の書き方パートの導入部分が分かりにくい
  3. 契約書のひな形・サンプルが掲載されておらず一見すぐに使える感がない
私がまさにそう思ってしばらく積ん読状態にしていた張本人ですので、よくわかります。

1点目は全体を通読すれば誤解は解けるはずなのですが、2点目の導入部分は以下のような感じで、法律学を大学で多少学んだ人でも面食らう方は多いはずです。

機仝渋紊砲ける契約と契約書

1 身分から契約へ
「身分から契約へ」という言葉は、他人からの身分的支配に従属する者が人間の多くを占めていた時代から、社会を構成するすべての個人を権利能力の主体として認める時代への転換を示すものとして人口に膾炙しています。現在のわが国では、権利能力の主体である個人が自らの生活関係を形成する手段は、私有財産と自由契約ということになります。
契約の当事者となる個人は、自らの望むところに従って契約上の権利義務を自由に定めることができるのが原則です。この原則は、「契約自由の原則」と呼ばれており、(以下略)

契約書の書き方を学ぼうと思ったところ、民法の基本原理とやらを手短に語られ、何のことを言っているかすらわからず、そっと本を閉じる・・・そんな光景が目に浮かびます。もとより、この本は法律学をしっかり学んだ方向けに法律文書の書き方を指南する本であって、「身分から契約へ」という私法の基本原理ぐらい当然把握しているだろうという前提がありますので、著者田中先生が悪いわけではないのですが。

だからこそ、この本を読む前に、先ほど紹介した『民法案内』を先に読んで基本原理を確認しておく必要がある、というわけです。この導入部分さえクリアすれば、あとは契約書を作成するにあたり本当に重要なことだけがコンパクトに書いてある鉄板書なので。

なお、3点目のひな形・サンプルがないという点については、ひな形というものは所詮ひな形でしかなく、取引に応じて作るのが契約書であって、そんなものに頼っているとまさに引用部にある「契約上の権利義務を自由に定める」力は身につかないぞ、というメッセージなのだと思います。


4.我妻栄ほか『我妻・有泉コンメンタール民法 総則・物権・債権』




さて、続いてはこちらです。この本も、企業内法務パーソンで自分で買っている方は少ない書籍だと思います。値段が高く、分厚いからかもしれません。『内田民法』などのいわゆる大学の教科書・基本書でいいのでは、という意見もありそうです。

その点、先ほどご紹介した田中豊『法律文書作成の基本』P26-27を見てみると、こうあります。

(ウ)参考文献(学説)の特定―起点はコンメンタール
法律問題には「成熟度」があります。一つの紛争に複数の法律問題が含まれていることはよくあります。
(中略)
法律問題の成熟度を知るための最もオーソドックスな方法は、その解釈適用が争点となっている制定法のコンメンタール(注釈民法、注釈刑法、注解民事訴訟法等)に当たることです。コンメンタールは、法律実務家のする文献調査の起点であるといってよいでしょう。
筆者も、毎日の実務の中で体系書と呼ばれる教科書を随時ひもとくばかりか、時には準備書面、法律意見書等に引用することすらあります。しかし、紛争において解決を要請される法律問題が先端性、専門性、国際性を帯びれば帯びるほど、法律実務家のする文献調査がこれで終点になることはありません。コンメンタールを文献調査の起点であるとしますと、教科書又は参考書は起点以前というべきであるのかもしれません。

本来は、『注釈民法』を全巻そろえる必要があるということになりますが、民法改正も予定されている今、復刻版等含めすべて揃えて自宅に置くというのは現実的ではありません。であればせめて我妻・有泉は買う。これは避けて通れない道だと思います。


5.潮見佳男『新債権総論機Ν供戞愆靄楾峙塑銚各論機


新債権総論1(法律学の森)
潮見 佳男
信山社
2017-06-17

新債権総論2 (法律学の森)
潮見 佳男
信山社
2017-07-12



ご存知の通り、債権法は大改正されました。債権法は契約実務の中でも大原則を担います。さらに施行日も迫っています。

(新条文の判例がまだないこともあり)しばらく新民法のコンメンタールが出ないのであれば、この本を読み対応するしかないのかなと思います。


6.岡口基一『要件事実入門』


要件事実入門
岡口 基一
創耕舎
2014-08-30


契約を理解し契約書を書くためには、「要件事実論」を知る必要があります。これは一言で言えば裁判官の判断構造のことです。一定の法律効果が発生するために必要な具体的事実、これを要件事実といい、契約書は紛争に備えこれを裏付ける証拠となるようにしなければなりません。

ふたたび、田中豊『法律文書作成の基本』P324-P328より。

1 要件事実論による各条項の分析と位置づけの確認
取引関係に入るための契約を締結するときに契約書を作成する目的は、契約当事者間における行為規範の明確化と紛争発生時における裁判規範の明確化とにあります。
締結する契約が有効に成立することが最低限の要求事項ということですが、契約書を作成する以上、契約締結後、想定した事態が発生した場合に想定した効果の発生を相互に主張することができ、また、紛争が発生した場合に裁判所(仲裁裁判所等のADR機関を含む。)が契約書中の条項に従って判断することができるのでなくてはなりません。
そこで、契約書の作成に関与する法律家としては、当該契約が成立するための要件事実が何かを明確に理解していることが基本中の基本です。例えば、売買契約が成立するためには、〔榲物が確定していること、及び代金額又は代金の決定方法が確定していること、の二つが要件事実ですから、これらの2点が契約書上に明示されていることを確認するのが基本です。
これは当然のことのように思われますが、実際には、契約の成否が争われることも稀ではありません。以下の設例で検討してみましょう。
法律実務家としては、契約書中の各条項につき、紛争発生時に自らの依頼者が主張・立証すべき要件事実が明確であるかどうか、それに対して相手方当事者が抗弁(場合によっては再抗弁)事実として主張・立証すべき要件事実が明確であるかどうかを検討しておく心がけを忘れてはいけません。

ということで、要件事実・抗弁事実とは何かを理解していないと、本当は契約書も書けないということになります。理解や意識をしないで書いている方は多いのではないかと思いますが。

本書は、岡口先生の独自説の記載が多い点を批判する声もあるようです。しかし、要件事実を初学者にも分かりやすく説こうとしてくれる本は、この本を置いて他に見当たらないと思います。


7.吉田利弘『新法令法語の常識』




契約書を日本語で書く以上、言葉には繊細になる必要があります。契約の相手方と裁判官が見て理解できればいいと言っても、その言葉は法令用語にならうのが解釈がぶれるリスクが少なく、損をしない選択となります。

本書は、私の先輩方はみなデスクに常備していた林修三『法令用語の常識 』を底本にしたものです。最低限の法令用語=契約用語をマスターするために、この一冊はそばにおいておく必要があるでしょう。


8.永井徳人ほか『契約書に活かす税務のポイント』




契約書を書くための前提知識として、民法と並んで重要になってきたのが税法です。

三たび、田中豊『法律文書作成の基本』P337-339より引用します。

5 税務の確認
契約の締結は、税務を伴うのが通常です。不動産の売買契約を締結した場合には、売主には譲渡益に対する課税が発生しますし、買主には不動産取得税が発生するといった具合です。
最1小判平成元・9・14判時1336号93頁は、契約を締結する際に税務の確認がいかに重要であるかを教える判例です。
(略)
この事件では、結局、契約当事者双方が税務の確認を怠ったばかりに、当該契約自体の錯誤無効が争われることになりました。契約交渉又は契約書作成の過程において、単なる付随的事項であるとして税務の確認を軽視してはならないことを物語っています。

引用部の見出しに「5」とありますが、田中先生が「契約書作成の基礎的注意事項」として挙げていらっしゃるのが、以下の5つです。

1 要件事実論による各条項の分析と位置づけの確認
2 真意に従った条項であること―錯誤、虚偽表示、詐欺、強迫の排除
3 強行規定と任意規定との識別―違法な条項の排除、特約と交渉力の相違
4 契約の当事者となる者及び締結権限の確認
5 税務の確認

なんと、この厳選された5つしかない基礎的注意事項のうちの1つが、税務なのです。そういう認識を持っている企業法務担当者は、どのくらいいらっしゃるのでしょうか。

企業法務に限らず、一般社会でもビットコインの税務などが話題になっています。国際取引における税務を含めて、今後契約と税務の交差点はますます増えかつ大きく拡大していくことは、容易に予想できます。しかし、税務ばかりは基礎的知識をインプットして意識して経験を積まないと、いつまでも身につかないことを私自身実感しています。

本書は、法務が知っておくべき税務の基礎知識と契約類型別のポイントがまとめられており、契約書作成・チェックの観点からは必要十分な情報が揃っています。

 

まとめ


ということで結論をまとめると、契約法務をマスターしたければ、目の前の業務を遂行しながら取引を知り、条文を引き、上記ご案内の10冊を買って読み、判例に当たりまくれ、ということになります。そして今日、今からすぐにできることは、この合計4万円弱の本をすべて買って手元(できれば自宅とオフィス両方)に置いておくことです。

・・・と、ここまで長文お読みいただいて、実際に買われる方というのはおそらく数%にも満たないと思います。どんな分野でも勉強の基本は書籍・文献を読むこと。やるかやらないか・できるかできないかより、まず買うか買わないかで勝負が決まると思ったほうがよいでしょう。


おまけ1:「法律書マンダラ2018」もアップしました


ついでに、契約法務以外の書籍も含めてご案内する毎年恒例の「法律書マンダラ」も2018年版にアップデートしましたので、そちらもご覧ください。


おまけ2:「契約系リーガルテックベンチャー10選」も書きました


私が編集長を務めるメディア「サインのリ・デザイン」で、「契約系リーガルテックベンチャー10選」を掲載しました。こちらもぜひご覧ください。


ということで、私の法務Advent Calendar企画の記事を終えて、バトンを @kataxのブログ「企業法務について 」に渡します。
 

STARWARS BATTLEFRONT2がガチャ規制の虎の尾を踏む

 
米国ハワイ州の複数の議員が、世界のゲーム課金システムの主流となりつつあるガチャ(randomized loot boxes)課金システムをギャンブルに類似するものとして問題視しはじめ、青少年保護を目的とした規制に向けて動きはじめています。

Lawmakers: Those 'pay-to-play' video games are really just gambling for teens(HAWAII NEWS NOW)

Hawaii News Now - KGMB and KHNL

議論の発端となったのは、世界の最大手Electoronic Arts(EA)社がDisneyから版権を得てリリースした「STARWARS BATTLEFRONT2(SWBF2)」。私もPCゲームは好きなので多少やるのですが、同作は、ルーク・スカイウォーカーやダース・ベイダーなどの人気キャラクターを、最初から使わせない「キャラクターアンロック」システムを採用。苦労してアンロック(解放)したキャラクターを強化するガチャ課金へと強く誘導しているのでは、という批判が高まっています。

私たち日本人になじみが深いこれまでのガチャ課金システムは、“課金をして仮想通貨を購入し、ガチャを回せば強い能力をもったアイテム・キャラクターが数%の可能性で手に入るが、課金をしなければ決して手に入らない(あきらめるか、仮想通貨が無償配布される日を待つか)”、というものです。

他方日本以外の国では、こういったガチャ課金システムはユーザーから受け入れられず、明確な法的規制をしているのは韓国・中国等一部の国だけにもかかわらず、導入されているゲームは多くありませんでした。代わりに主流となっていたのが、ガチャアイテムをスキンと呼ばれる着せ替えコスチュームに限定したタイプの課金システムです。近年人気のOverwatchなどは、このタイプに該当します。

これに対し、最近になってEA社が積極的に取り入れ始めていたのが、“長時間プレイすることでリワードポイントを貯めてアイテム・キャラクターを入手するか、それがいやならガチャ課金で運を天に任せるか”という二択を迫る課金システムです。

中でもSWBF2は、人気キャラクターが使えるようになるまでの時間が1キャラクターあたり約40時間、人気の7キャラクターすべてアンロックして使うためにはおよそ300時間、かつそれらキャラクターをアンロックしても、その能力を強化するアイテムを手に入れるためにガチャ課金をしなければならないという、過酷なゲームバランスを採用。Disney社の人気IPゲームとして注目を浴びただけに、ガチャ課金圧が強すぎ、もはやギャンブルではないかという批判が集まってしまいました。あまりに批判が強かったからか、それとも何らかの圧力が働いたのか、最近になってEA社はユーザーに謝罪し、ガチャ課金を休止してアンロック時間も短縮するという対応を始めています。

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ここ日本では、消費者庁によって(コンプガチャは違法だが)ガチャ課金というアイテム販売方式そのものは景品表示法上違法ではないと判断され、公式な見解もでています(「インターネット上の取引と「カード合わせ」に関するQ&A」Q16など)。その後も、何度か問題となる事案が発生しながらも、業界団体によるガチャの表示に関する自主規制の努力が続いています。この表示さえ適正であれば、警察も賭博規制をしようという動きは今のところありません。

今回問題が勃発している米国でも、これまではガチャ課金を直接法規制しようという動きは見られず、自主規制団体のEntertainment Software Rating Board (ESRB)も、「ガチャ課金はギャンブルとはみなしていない」というコメントを一部メディアに表明していたところでした。

冒頭リンクの現地テレビ局リポーターによれば、ハワイ州の議員らは、カリフォルニア州やミネソタ州等の議員を巻き込んで規制に向けて議論を進めているとのこと。これが全米に広がっていくのか、ハワイ州にとどまった議論となるのか。しばらく注視が必要と思われます。
 

【映画】『女神の見えざる手(Miss Sloane)』― 天才ロビイストは肉を切らせて骨を断つ

 
先日、北周士先生主催のロビイング研究会に参加させていただき、その席で、風営法改正のロビイングをリードされたことで有名な齋藤貴弘先生とご挨拶をすることができました。

その齋藤先生がお勧めされていたこともあって、封切りまもなく見に行った映画がこちら。




建国の経緯を背景として合衆国憲法修正2条が国民に対し保障する、銃を保有し武装する権利。

これを規制しようとする側に立ち、全米ライフル協会をはじめとする強固な規制反対派と戦う女性天才ロビイスト、エリザベス・スローンの活躍を描くサスペンスムービーです。

ロビー活動は予見すること。
敵の動きを予測し、対策を考えること。

主人公スローン自身が映画冒頭から何度となく唱えるのが、このロビイストとしてのセオリー。銃規制キャンペーンの成功というプロジェクト目標に向かって、このセオリーに冷酷なまでに忠実に、プロとして仕事を遂行していく姿は、ビジネスパーソンであればまず間違いなく感化されてしまうはずです。

脚本は元英国弁護士のジョナサン・ペレラ氏、さらにパブリックアフェアーズ企業のグローバルパークグループがアドバイザーとして監修し、ロビイング業界の実態もリアルに描かれています。

主人公の強烈なキャラクター描写と、「シェイクスピア劇のよう」と評されるテンポの良いセリフ回しの連続。敵がTrump Card=切り札を使った後に自分の切り札を出す、「肉を切らせて骨を断つ」ようなスローンの手法はどこまで通用するのか?132分となかなかの長尺にも関わらず、純粋なエンターテインメントとして最後まで飽きずに楽しめる映画だと思います。


ロビイングなんて自分の住む世界からは縁遠くって・・・という方でも、ちょうど選挙が終わり、憲法改正の是非が論点となる時期が近づいた日本国民としては、コナーズ(元同僚ロビイストであり、敵)とスローン(主人公)のテレビ公開討論シーンで交わされるこのやりとりに、他人事ではない緊張を覚えるのではないでしょうか。



コナーズ:合衆国憲法は、時の試練に耐えた。決して揺らがぬ、完全無欠な権利を保証(劇中翻訳ママ)すべく起草されたものだ。あなたのような人々から国を守るためだ。憲法でケツを拭き、勝手な判断で書き換える。建国の父たちをバカにするつもりか。

スローン:完全無欠なものはない。憲法でさえも。
コナーズ:全購入者の身元確認は権利の侵害だ。“権利を侵してはならない”とある。

スローン:それは最も陳腐で貧弱な反論であって、論点なき者の言い分よ。

コナーズ:これは合衆国憲法だ。

スローン:もっと理性的な議論をすべきなのに—これでは不毛。 “憲法にある”では聖書や占いと同じ。知的レベルではまるで母親のスカートに隠れる臆病な子供と同じ。

 

戦略法務とは何か ― とある企業法務の大先輩との打合せと水野先生の対談から

 
先週のこと。とある企業法務の大先輩と、経営者・マネジメント層との関係で期待されている、または当該層に提供したい法務の役割とは何かについて、「戦略法務」をキーワードに書き物にまとめられないものかという打合せをしていました。

そこで大筋で一致した意見というのが、そういった幹部層との関係にフォーカスした場合の法務の役割とは、
(1)ダメなものはダメと言う気概と、それを根拠と理屈をもって理解させ最後の砦を守る役割
(2)もう引き返せない時点ではなく、早くから相談にのって修正案・代替案を提案する役割

この2つに尽きるんじゃないか、というものでした。

一方で、これを「戦略法務」と呼ぶことに果たして読み手側が違和感を感じないか、という点には自信が持てずにいました。そもそも、戦略という言葉自体が抽象的・多義的ですし、法務のあり方というのは企業の規模・業態・ステージによって千差万別で、予防法務・臨床法務・戦略法務といった「◯◯法務」でキレイに分類し切れるものでは必ずしもないからです。実際、この「◯◯法務」でキーワード検索してみると、実にさまざまな解釈が存在するのがおわかりになるかと。


そんな折、シティライツ法律事務所水野祐先生が、“法務の企画術”という一風変わった切り口から、先生が考える戦略法務とは何かについてコピーライター阿部広太郎さんとの対談で語っていらっしゃり、その考えのあまりの一致にびっくり。しかもとっても分かりやすい。少し長くなりますが、業界でも目立った存在なためにアグレッシブなだけの弁護士と誤解されがちな水野先生の本当のお考えがよく伝わる対談になっているので、その点でもぜひ紹介させていただきたいと思います。


「wishのないコンプライアンスこそ、日本の閉塞感の象徴」弁護士・水野祐による法務の企画術(ネタりか)
nowishnocomliance



まず、戦略法務とは、ビジョンを出来る限りそのまま実現する支援をするのに必要なロジックを早期から緻密に積み上げていく仕事である、という点について:

何かこれまでにない、新しい企画を通そうとする時、「その企画がなぜ必要なのか」「社会にどういう価値を提供できるのか」っていうビジョンがまず存在すると思います。

多くの場合、そのビジョンだけでみんな突っ走ろうとするのですが、もう1つすごく重要になるのが、「ロジックを立てられるのか」ということなんです。つまり、法的な適合性を、何らか現行法の解釈の中で立てられるかどうか。

だから企画とは、ビジョンとロジックの両立が必要。両立して初めて上司を説得でき、会社を説得でき、社会を説得できる企画になるっていう話を、最近はよくしていますね。
企画においてビジョンは当然あるべきだけど、そこに至るまでのロジックっていうものも絶対存在しなくちゃいけない。そして、そのロジックの中では、法律的なものの積み重ねが果たす役割がとても大きいんですよ。

だから僕は最近、そういう部分を「戦略法務」と呼ぶようにしています。
これまでの法務の役割って、予防法務か紛争解決、つまり「事前」か「事後」かっていうことにはっきりと分けられていたんですね。でも最近は、この一歩前段階の法務の重要性が高まってるんじゃないかと思うんです。


そして、法務が最後の砦を担うことの重責と、そこで企業活動を止めないための早期相談体制の重要性について:

僕はこういうスタイルなのでよく勘違いされるんですけど、企業で何かをストップさせる法務部門の役割とか、ディフェンシブなことをちゃんと言う弁護士の存在も絶対に必要なんです。僕だってダメなものはダメだって言うし。だから、そういう機能とかそういう役割の人を「保守的」と見下しちゃ絶対ダメというか、それがすごく大事であることも大前提として認識しておかないといけないんです。
攻めすぎたというか、予防法務が機能していなかったから大問題になったという事案は世の中にたくさんあるんです。僕はただ「とはいえ今の時代は保守的なばかりじゃダメだよ、食われちゃうよ」っていうことを言いたいだけなんですよね。

だからこそ、もっと戦略と予防法務の両方、つまり戦略法務を重視しないといけない。企業でも、やっぱり法務機能は今後ある程度二分していく必要があるのでは、と最近よく思います。
重要なのは「法務的な相談は最後に持っていくんじゃなく、最初から相談すること」だと思うんです。やっぱり法務部門って何でも最後に持ってこられるんですね。だから「今の段階で持ってこられても無理!」みたいなのが多くなり、保守的な対応をせざるを得なくなってしまう。

でもその一方で「最初から相談してくれれば、もっと何とかなったのに……」みたいなケースも確実にあるんです。


昨今多数報じられる信じられないような企業不祥事を見るにつけ、この一見当たり前にも見える「マネジメントや現場から早期に相談がもらえる関係づくり」がうまくいってない現状が、かなり多くの会社で存在しているのだろうと感じています。

もちろん、法務部門だけの責任ではないはずですが、この現状を法務パーソン側から少しでも変えていくために具体的にはどうしたらいいのか、もし書き物の企画が通った際にはその中であわせて提案できればなと。
 

法務&知財系ライトニングトーク2017 <リーガルテック祭>を開催しました

 
法務&知財系ライトニングトーク2017 <リーガルテック祭>が無事終了。ご参加者のみなさま、そして@kataxさんはじめクックパッドのみなさま、@shibaken_law先生、お忙しい中お集まり&ご協力をいただいただき、本当にありがとうございました。


LTの企画担当として、今回、いつもの「法務・知財のことならなんでも話したいことどうぞ」をやめて、LTしていただくテーマをある程度絞り込んでみるというTRYをしてみました。その効果として、エンジニア・官公庁勤務・フリーランスの方など、参加者の方の顔ぶれ・ご所属がいつもよりさらにバラエティに富んだものとなりました。

一方で、テーマにエッジを立てた分各LTの内容があまりにも個別性高くマニアックになってしまうおそれもあったことから、網羅性が担保できるよう、基調講演的なLTを設けるというTRYも。こちらは、日本でいち早くリーガルテックを事業として実践されている弁護士ドットコムクラウドサイン事業責任者の橘先生と、弁理士で株式会社Toreru代表の宮崎先生にお願いをしました。

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弁護士ドットコム橘先生

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株式会社Toreru宮崎先生

5分ずつという短い時間ながらきっちりとリーガルテックの全体像・日本の現在地・基本的な効用を実践者としての実感値を交えてお話いただいたことで、イベント全体にいい流れを作っていただけたと思います。本当にありがとうございました。


GitHub/支援型・代替型AI/2of3マルチシグ/とりあえず聞いてみる・やってみる/デザイン思考とカスタマー志向/グラフ構造分析/モジュール化とオープン化によるフェアネス担保/自動化≠利益化/エンジニアが法務を担う/紛争を発生させないことで利益を生み出す法務/すべての課題は国会に通じる/電子化の4つの場面(交付・署名・申請・保存)・・・LTを聞いてないとなんのこっちゃかもしれませんが、私が司会の片手間に刺激を受けてメモしたフレーズ・キーワードだけでもこんなにあり、5分のそれぞれのLTがいつも以上に短く・早く感じました。

リーガルテックが産業としてくるかこないかはさておいても、何より感じたのは、法務パーソンに語学力が求められてきたようにテック力が当たり前に求められるようになるのはまず間違いないな、ということでしょうか。脅威でもあり、楽しみでもあります。
 

当日の様子はtwitterのハッシュタグ #LegalTechLT からご覧いただけます。ご参加者のご感想もお聞きしたいですし、こちらをご覧いただきリーガルテックに興味をもったという方もぜひ私までお声かけください。またこういったイベントも随時開いていきたいと思っていますので、その際はどうぞご参加とご協力をお願いいたします。
 

【本】『種類株式ハンドブック』― 種類株式にウブなぼくらのAtoZ

 
この数年で、法律実務雑誌やウェブ媒体で取り上げられる頻度が高まっている契約類型の一つが、投資契約です。

2015年以降は特に顕著で、「旬刊商事法務」のNo.2087, 2126, 2128、「ビジネスロー・ジャーナル」のNo.103-105で投資契約に特化した記事がそれぞれ掲載され、弊ブログでもいくつか記事をアップするようになりました。

最近では「ビジネス法務」の2017年11月号の特集が、またウェブ記事では「BUSINESS LAWYERS」で柴田堅太郎先生が契約交渉の目線での解説を連載されていました。


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こうして雑誌やウェブ媒体で投資契約が取り上げられ、そのたびに読者に喜ばれているのも、それまで日本では種類株式を使った資金調達があまり使われてこなかったところ、スタートアップ投資ブームが本格化し、実務家のニーズが高まったからなのでしょう。

この急な種類株式ブームの高まりに骨太な法律系出版社からの文献の刊行も追いついていなかったところ、この度、実務書の王様ともいうべき商事法務「ハンドブック」シリーズが照準を合わせてきたというわけです。


種類株式ハンドブック
太田 洋・松尾拓也
商事法務
2017-09-13



ベンチャー企業への投資契約だけでなく、同族オーナー系中小企業の事業承継の場面や、役職員への株式インセンティブ付与、シャープのような不振に陥ってしまった大企業の資金調達など、用途が多岐に渡り法律上の論点も多いのがこの種類株式。これをいかに分かりやすく整理できるかが(ベンチャー起業家だけが読者ではないだけに)法律実務書としての真価が問われるところですが、この目次建てを見た瞬間、ああなるほど!と合点しました。

第喫圈“鷯緇豌饉劼用いる種類株式 
 第1章 概 説
 第2章 事業承継で用いる種類株式
 第3章 合弁会社で用いる種類株式
 第4章 ベンチャー企業(スタートアップ企業)の種類株式

第曲圈‐緇豌饉劼用いる種類株式 
 第1章 概 説
 第2章 IPO時の種類株式
 第3章 上場後の種類株式その1―元本償還権付・譲渡制限議決権株式
 第4章 上場後の種類株式その2―上場無議決権株式
 第5章 上場後の種類株式その3―トラッキング・ストック
 第6章 上場後の種類株式その4―株式報酬型の種類株式
 第7章 上場後の種類株式その5―不振企業の資金調達時の種類株式
 第8章 上場後の種類株式その6―拒否権付種類株式

つまり、ユーザーたる企業のステータスが非上場であるか上場であるかによって、種類株式の使い道や発行規制の内容が自ずと決まるわけで、これに合わせて解説すれば分かりやすくなるに決まってますねと。確かに。


上場前の種類株式に関しては、やはりベンチャー企業向けのものが私にとって身近だっただけに熟読してしまいましたが、株主間の利害調整と適切な投資インセンティブに種類株式がどう貢献するのかといった基本的な意味・意義から解説してくださっていて、投資契約の実務経験がない方にも読みやすい内容になっています。

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また、上場後の種類株式発行については、
・トヨタ AA型種類株式
・伊藤園 第1種優先株式
・ソニー SCNトラッキングストック
・シャープ A種種類株式
といった日本においてまだ少ない実際の定款規定事例を丹念に収集しながら、メリットと問題点を論じています。

このあたり、私は経験もなければ正直に申し上げて興味も薄かったところですが、一昨年からのコーポレートガバナンスコードの文脈から、

我が国上場企業としては、自らの持続的な成長と中長期的な企業価値向上のためにはどのような資本構成ないし株主構成が最適であるかにつき、トヨタのAA型種類株式などのも参考に主体的に検討した上で、元本償還権付・譲渡制限議決権株式を含む各種の種類株式を活用することも検討していくべきであろう。(P268-269)

との著者意見もあり、この観点でも研究していく必要がありそうです。
 

【本】『いちばんやさしい人工知能ビジネスの教本』― AI法務の種明かし


表向きまったく法律実務書の匂いはしないにもかかわらず、開いてみれば、勃興するAIビジネスの事例をたくさん紹介しながら、そこに潜む法律問題とリスク・責任について、現行法上の結論だけでなく分析のフレームワークから手取り足取り教えてくれる本でした。これからAI系新規事業開発をサポートしようとしている法務パーソンにとっては、神様のような“教本”です。

それもそのはず、本書は、私が企業法務パーソンにとっての基本書の1冊として推す『事業担当者のための逆引きビジネス法務ハンドブック』の著者のお一人 経営共創基盤パートナー 塩野誠さんと、同社弁護士 二木康晴先生の御著書なんですね。





人工知能によって権利を得または義務を負うとき、人工知能自身に法人格を認めてそれらを帰属させるべきか、それとも管理利用をしている人に帰属させるべきか?日本においても知的財産戦略本部をはじめすでにいろいろなところで議論がなされているところです。まだそういった基本的な部分さえはっきりとした結論が出ていない中だからこそ、法務パーソンは開発・推進をサポートするために現行法に基づく見解・解釈を出し続けなければならない苦しい立場に置かれます。

苦しいと言いましたが、それは新規事業・ベンチャーをサポートする法務パーソンの醍醐味でもあるでしょう。また、そういった活動を通じて得た経験をもとに、法律はどうあるべきかを意見していく側にまわるチャンスでもあります。

ですが、AIの法務に関しては、本書によってそのおいしいところの種明かしがほとんどされてしまった気がします(苦笑)。しかも、
・AIによる自動描画・作曲
・ディープラーニングを使った顔認証の精度向上
・ビッグデータによるマッチング&レコメンド
といったソフトウェアビジネスのリスクだけでなく、ハードウェアビジネスであるところの
・(車の)自動運転
・ドローン
の法的リスクまでをカバー。いま世の中で話題になっているようなAIビジネスは、ほとんど取り上げられています。AIビジネス先進国の米国でも、このような書籍はそうそう見かけません。このスピードでなんでもノウハウが開陳されてしまう日本の書籍文化恐るべしです。いや、このスピードでまとめあげてくださった著者のお二人に感謝ですね。


著者も本書で繰り返し述べているように、AIの法律論に結論は出ていないといっても、基本的には通常のビジネスと同じようにポイントを押さえて進めていくしかありません。冒頭述べたとおり、本書のすばらしさは、単に事例紹介とその分析だけでなく、法的リスク検討の基本フレームワークについても丁寧に解説されている点にあります。法務部門を持たない企業・経営者にとっても、弁護士等専門家に相談を持ちかける事前整理をするのに、大変に参考になる一節です。

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2000年初頭のインターネットビジネス勃興期がそうであったように、AIビジネスの勃興は、法務の領域が混乱とともに拡大するフェーズになると思われ、そんな時代に法務に携われるのも一つのチャンスです。「AI法務の種明かし」と少しおちゃらけた言い方で本書を評してしまいましたが、基本となるフレームワークを押さえながら未知の事業領域の法務業務に携わることで、日々の経験が確実に糧となり、将来に通用する実力を身につけられるものと思います。
 

リーガルテックと10年後の法務・知財業務

 
このエントリでは、10/5開催予定のリーガルテックLTに向けた準備と論点整理も兼ねて、法務・知財業務の人から機械への業務代替可能性や、企業法務・知財パーソンが今後力を入れていくべき領域について、考えてみたいと思います。

「人ならではの仕事」を特徴付ける3つの要素


リーガルテックの未来に関する論考をいくつか読んでみた中で、人ならではの機械には代替されにくい仕事とは何か、人と機械のすみわけについて、ビジネス法務2017年7月号の特集「リーガルテックの最前線」に掲載された野村総研上田恵陶奈さんの記事(P12-16)が分かりやすく参考になりましたので、一部を紹介させていただきます。

(オックスフォード大と野村総研の)共同研究では、AIは一部の職業を代替できる可能性があるが、代替できない職業もあるという結果になった。では、AIが技術的に自動化しにくい、苦手とする特徴とは何か。要約すると、「創造性」「ソーシャル・インテリジェンス」「非定型」という特徴がある場合である(下記【図表1】)。逆に言えば、「創造性が必要ない」「ソーシャル・インテリジェンスを必要としない」「定型」の特徴を持つ職業は、AIなどで代替できる可能性が高い。

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McKinseyの調査によれば、現時点のテクノロジーを前提とした場合、全職業では約半分の業務が自動化可能であるけれども、弁護士については23%の業務のみが代替可能とされる。Deloiteは、今後20年で弁護士事務所人員の39%が代替可能と予想している。代替できる範囲に違いはあるが、いずれも2つの点で共通している。すなわち、法律事務所の業務はAIによって自動化される可能性があることと、代替できる範囲は半分未満にとどまり人による業務と共存することである。

野村総研の上田さんは、記事全編にわたり、法律業務の多くは(プロフェッショナル集団である法律事務所であっても)テクノロジーによって代替されていくが人に残る領域はあり、機械と仕事を奪い合うのでなくテクノロジーをうまく使いこなす側にまわることで、人ならではの3つの特徴を生かした高付加価値業務にシフトを進めるべきだ、と述べています。

ではその高付加価値業務とは何か、代替されない業務とは何かを具体的に見極めて、将来求められるであろう経験・スキルを今から戦略的に身につけていきたいところです。

法務・知財の業務別代替難易度


そこで私は、法務・知財の求人広告に記載されている業務をリストアップし、それらを先に紹介した「創造性/ソーシャルインテリジェンス/非定型」の3つの切り口で、私の独断によるテクノロジー代替難易度をランク付けしてみました。特に、Aが2つ以上ついたものは代替可能性はかなり低い(できたとしてもシンギュラリティ以降)だろうということで二重丸を、Aが1つついたものも今後10年は代替困難だろうということで一重丸を、それぞれつけています。

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こうやって眺めてみると、現時点で「C」ランクを付けざるを得ない業務は、実はすでになんらかの形(法律特許事務所・サービサー・請負事業者への委託、派遣社員の活用、システム化)で代替・アウトソースがはじまっている領域であることがわかります。これらの業務が人の手から離れ、ますます機械化されていくであろうことについては、それほど異論はなさそうです。

一方、議論が分かれるのは「B」ランクの業務でしょう。特に、現状の法務・知財パーソンのメイン業務である契約書・特許出願書類等の法律文書作成業務は、業務時間に占めているボリュームが多いだけに、本当に代替されてしまうのかは興味深いところです。この点、当然に案件によって創造性がアウトプットの差を生んだり、非定型で複雑な処理が一部混入していることで機械化がかえって非効率になったり、ということはあるでしょう。しかし、そういった特殊なものを取り除いた大部分が機械で自動化可能ならば、これらの業務も早晩テクノロジーに代替されていくのだと思われます。

そうなると、がぜん「A」ランクが付く業務に注目が集まってきます。法的リスクを早期に発見・切り分けしこれを乗り越えていくための法律・知財相談、人間の感情が交わるからこそ機械だけでは手には負えない訴訟・トラブル・危機管理、そして近年法務の領域拡大エリアとして注目を集める法そのものを動かしていく渉外・公共政策・・・、いずれも、法的トレーニングを積んだ基礎があった上での総合芸術的な業務分野です(水野祐先生が提唱される「リーガルデザイン」の目指すところと多くが重なります)が、この辺の業務の経験を今から積極的に取りに行き、自分の血肉としていく行動力が求められます。

テクノロジーで生まれる余力でシフトチェンジ


法曹人口の拡大による契約書業務の低価格化に危機感を感じこのブログを始めた12年前、契約書作成半自動化サービス「契助」がリリースされてアメリカでもLegalZoomやRocketLawyerといったテック系企業が勃興しはじめた4〜5年前、そして日本でもAIを用いたリーガルテックサービスが矢継ぎ早にリリースされはじめた現在。ゆっくりとしかし確実に業務自動化の足音は近づいてきています。

約10年後の2030年、B〜Cランク業務の多くがテクノロジーによって代替される(かもしれない)未来に備え、自分から積極的にテクノロジーを手懐けてCランク業務を省力化し、生まれた余力でクラッチを切っていち早くAランク業務へシフトチェンジしていく。そんな戦略が理想的です。
 

ビジネス法務 2017年 07 月号 [雑誌]
中央経済社グループパブリッシング
2017-05-20


 

法務&知財系ライトニングトーク2017 <リーガルテック祭> へのご応募ありがとうございました


10月5日開催、「法務&知財系ライトニングトーク2017 <リーガルテック祭>」 へのご応募ありがとうございました。受付開始から数日で定員の2倍を超え補欠繰り上がり待ちの方も出るなど、このテーマに対する関心の高まりを改めて感じました。

イベントページにも追記させていただきましたとおり、基調LTには、弁護士ドットコム「クラウドサイン」事業責任者 橘大地先生と、株式会社Toreruの代表取締役 宮崎起史先生をお招きします。橘先生には日本のリーガルテックの全体像について、宮崎先生には人工知能が変える知財の将来について、それぞれお話していただくことになっています。

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※橘先生・宮崎先生のご経歴・ご活躍については、以下記事を参照
▼1年半で6,000社が導入!「PMF」を実現した、新規サービスの開発・拡大プロセスを公開
https://seleck.cc/959
▼書類作成の9割以上自動化、作業量従来比1/10に。商標登録AI「Toreru」
http://startuptimes.jp/2017/08/07/62452/

また、一般応募枠で参加いただける企業や法律事務所の方々にも、(私からは公開を控えますが)リーガルテックを活用される会社様や、この分野で著名な先生がいらっしゃいます。どうぞお楽しみに。LT参加の方でテーマをご提出いただけてない方、イベントページでの表示が「(未定)」になっておりますので、こちらのご提出もお待ちしております!

最後に、残念ながら補欠となってしまったみなさま、法律系イベントのキャンセル率は低めなので、申し訳ないのですが繰り上がりは期待薄でご参加いただけない可能性が高いと思います。。。どの程度お伝えできるかはわかりませんが、可能な限りハッシュタグ #LegalTechLT でtwitter実況を試みたいと思います。

どうぞよろしくお願いいたします。

【本】『特許の取り方・守り方・活かし方』― 会社を技術で強くするためには、どうしても通らなければならない道がある

 
日本能率協会マネジメントセンターの編集担当O様からご恵贈いただきました。『知財実務のセオリー』の著者岩永利彦弁護士・弁理士による、特許実務マニュアルの決定版です。





いままでの特許法分野の実務書は、実務書と言いながら特許「法」の解説に実務のエッセンスを添えた程度の書籍しかなかったと思います。それに対し本書は、<発明の発掘→先行技術調査→クレーム・明細書・図面作成→出願→中間処理→権利行使>の一連の特許業務が(知財担当者でなくとも)一人でできるようになるためのマニュアル本たることを主眼に置いた上で、その業務上どうしても必要となる新規性進歩性・均等論・相当の利益といった用語や法的概念について、必要に応じて噛み砕きながら説明するスタイルをとっています。

このようなスタイルで書ける人材が、元大手企業のエンジニアであり、その後弁理士→弁護士となられた希少なキャリアを持つ岩永先生しかいらっしゃらなかった、ということでしょう。

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本書の中で何度も繰り返し強調されているのが、以下2点です。
.レームチャートを書くこと
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私の知る優秀な知財担当者は、確かに、どんな場面においてもこの2つを愚直にやっていました。私も形だけでも見習うようにしていたのですが、それがどれほど重要なのかを言語化できるまでには至っていませんでした。本書によってあらためて、,砲茲辰独明を客観的に評価できる状態にすることの重要性を、そして△砲茲辰匿卦性進歩性を具体的に認識・主張できる状態にすることの重要性を、それぞれ腹落ちさせることができました。


開発者が、自己の発明を会社の技術的資産となりうるものとして認識し、その発明をきちんと知財部門に情報共有し、特許として権利化されるサイクルを作るには、やはりどうしても開発者自身に特許制度の意義や仕組みを理解してもらう必要があるなあと感じています。そのためには、開発者が新人として配属された直後に、発明を自分で実際に生み出し、自分でクレームチャートを書き、自分で先行技術を調査し、知財担当者のサポートを受けながら出願するところまでを研修プログラムとしてしまうのが、手っ取り早い方法でしょう。

よい技術を生み出し、しかもそれがしっかりと権利化される強い会社づくりのスタートとしては、そうした体験型研修なども含め、どうしても経験ある知財担当者からのレクチャーが必要になってくるわけですが、そうした新人向けレクチャーのためのテキストとしてベストな書籍であると、自信をもっておすすめできます。もちろん、特許がわからない法務担当者にも。
 

信じていいはずの「代表取締役印」の実態

 
契約書・レター・申請書など、会社としての意思表示を象徴する大切な印が、代表取締役の印です。

民事訴訟法 第228条第4項
私文書は、本人又はその代理人の署名又は押印があるときは、真正に成立したものと推定する
商法 第32条
この法律の規定により署名すべき場合には、記名押印をもって、署名に代えることができる。

このような法律によっても会社を代表する者としての意思の真正性が強く推定される重要な印なわけで、当然に、代表取締役自身が押してるんでしょ?と思われがちです。

しかし、会社がある一定の規模を超えれば日々発生する文書の量も増え、代表取締役自身の忙しさも加速度的に高まり、「印を押す」というだけの非生産的な単純作業に時間を費やしているわけにもいかなくなります。その結果、管理業務を担当する取締役や従業員が判子を金庫に入れるなどして物理的に管理し、社内の決裁手続きで審査→承認が得られたことを稟議書などで確認の上で、「印を押す」という作業を代行することになります。

これまで私が見聞きしてきた範囲では、従業員が100人を超えるぐらいになってくると、代表取締役自身が押印作業をしているケースのほうがまれなのではないかという感触でした。では果たして、その代行率とは数字にして何%ぐらいなのか?質問の特性上世の中にあまり出てこない数字なので、試しに、そういった社内手続きの実態を知る法務パーソンフォロワーが多いであろう私のTwitterアカウントからアンケートを取ってみました。その結果がこちら。


ずばり87%。9割近くが本人が押していないということだそうで。なかなかショッキングな数字です。

ついでに、前々から疑問に思っていたので、こんな質問もしてみました。


予想通り、いや予想以上に多くの会社が、印鑑登録をしていない印、いわゆる認印を契約書等に押す印として運用していることが伺われます。総務の方がよく使われるような判子屋さんでも、「実印/銀行印/角印/認印」を会社設立4本セットとして販売しているほど。「会社実印の印影の悪用を防ぐためのリスクヘッジとして」がセールストークになっていますが、実務的には、押印する文書量の多さのために摩耗や欠けが生じやすく、そのたびに印鑑登録をし直すわけにはいかないという理由のほうが大きいのではないかと思います。


このように、実印ではないただの認印を、代表取締役でない他の取締役や従業員が代行して押しているという実態。これができるのは、日本の「判子文化」の良いところでもあると思います。つまり、代表取締役がオフィスに不在であってもスムーズに契約書等の文書が作成でき、業務が滞りなく流れるという点です。判子の運用を任せるという形で、事実上、契約締結権限を委任しているというわけです。

しかしその代償として、危険も生まれます。任命者・運用者・判子の管理等の印章管理体制に問題があった場合、悪意ある従業員が会社の意思に反した文書を作成し権限を超えた契約が行われてしまう可能性があるという点です。すべての代表取締役印の真正性を疑えというつもりはありませんが、こういった実態があることを前提に、月並みですが場合によっては実印の押印と印鑑証明を求めるなどの慎重さが必要になるのだと思います。


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長い間、日本の中で文化・慣習として根付いていた判子の文化が、ある日を境にまったくなくなるとは思いません。個人的にも、赤い印影の独特な美しさには魅力を感じもします。しかし、企業においては電子的なデバイス上でほとんどの業務と通信が完結し、紙とペンを手にすることが無くなりつつあるのも事実。そうである以上、日常的に繰り返される意思表示行為が電子的な手段によるものに置き換わっていく流れは、避けられないのだと思います。

そうなったとき、その電子的な承認作業を今度は誰がどうやって代行するのか?いや、そもそも判子の運用を任せていた=契約締結権限を委任していたこと自体が間違いだったのではないか?判子が電子的承認に置き換わる時、はじめてそうした気づきにいたるのかもしれません。
 

法務&知財系ライトニングトーク2017 <リーガルテック祭>  8/29からLTer受付開始


来たる2017年10月5日(木)、 ブログ「企業法務について」の @katax さんと、法務&知財系ライトニングトーク(LT)イベントの開催を企画しています。

今回は、いつもと違った新しい試みとして、LTのテーマをあらかじめ設定してみたいと考えています。
そのテーマはずばり「リーガルテック」

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クラウド・ビッグデータ・AI・ブロックチェーンといったテクノロジーが次々と法律業務にも応用されつつある現状を踏まえ、
・実務に業務にどう取り入れていくか?(具体的アイデアでも期待・想像でもOK)
・あの会社のリーガルテックサービスを実際に使ったことあります!(感想・レビュー)
・あなたが予想するリーガルテックの落とし穴・リスク
・人間が活躍できる非代替領域はどこになるのか?
・リーガルテック時代の法務・知財パーソンの今後のキャリアは?
・行政サービス・法律はどう変わっていくか?
など、リーガルテックに関連したテーマで5分間のLTをご披露いただければと思います。なお、基調講演(LT)として、実際にリーガルテックを推進されている事業者・専門家の方々にお話をいただくことも検討しています。

リーガルテックに対する「期待」や「不安」はさまざまあると思いますが、企業の中で法務・知財として今も活躍する皆さんがテックを使いこなし、より生産性や付加価値の高い業務に取り組む前向きな未来について、ピザとビールを片手に気軽に意見交換・想像できるような場にできればと考えています。

そこで、現在企業に在籍されている法務・知財パーソンの方々から、LTerを12名程度優先枠として先行受付させていただきたいと思います。応募方法について、あす8月29日(火)7:00ごろから9月3日(日)ごろまでをいったんの優先申込み期間として、本記事内に応募フォームへのリンクを掲載いたします。予定を変更し、8/29から企業在籍LTer枠12/士業その他LTer枠6/聴講枠をそれぞれ先着順で受付を開始しました。

ご興味を持ってくださった方は、お手数ですがご応募いただければ幸いです。


▼法務&知財系ライトニングトーク2017 <リーガルテック祭>(connpass)
https://connpass.com/event/65612/



ビジネス法務 2017年 07 月号 [雑誌]
中央経済社グループパブリッシング
2017-05-20








FinTechの法律 2017-2018 (日経FinTech選書)
森・濱田松本法律事務所 増島雅和
日経BP社
2017-07-21


 

FacebookがOSS規約に設定した「非係争義務」(追記あり)

 
※本記事アップ後、Facebookは「コミュニティの理解を得られなかった」という反省の弁とともに特許非係争義務を撤回しMIT Licenseとして再許諾する旨の声明を2017年9月23日に発表、その3日後のReactのバージョンアップで宣言どおりこれを実施しました。以下記事は経緯記録のため修正せずにそのまま置いておきます(この事情から一部リンク切れも発生していますがご了承ください)。


Facebookが、「私たちが作ったOSS(オープンソースソフトウェア)を使うなら私たちに対して特許訴訟するな。したら使えなくするぞ」という、いわゆる“非係争義務”を利用規約に入れてOSSを提供している問題が、エンジニアのみなさんの中で話題になっているようです。私自身は @katax のつぶやきで知りましたが、私の所属企業のエンジニアの間でも以前から話題になっていたようでした。


背景含めて経緯をわかりやすく解説して下さっているのがこちら。

Facebookの特許条項付きBSDライセンスが炎上している件について
Facebook発のOSSを多用して自社プロダクトを構築し商売している場合、事実上Facebookに特許訴訟をすることは出来なくなる。Facebookの訴訟をした時点で、Facebook発のOSSを使う権利を失ってしまうからだ。実際、Googleを初め、社内でFacebookのOSSを使うことを禁じている会社がいくつもある。

問題の非係争義務を定めている条項がこちら。

react/PATENTS at master - facebook/react - GitHub
Facebook, Inc. ("Facebook") hereby grants to each recipient of the Software ("you") a perpetual, worldwide, royalty-free, non-exclusive, irrevocable (subject to the termination provision below) license under any Necessary Claims, to make, have made, use, sell, offer to sell, import, and otherwise transfer the Software. For avoidance of doubt, no license is granted under Facebook's rights in any patent claims that are infringed by (i) modifications to the Software made by you or any third party or (ii) the Software in combination with any software or other technology.

The license granted hereunder will terminate, automatically and without notice, if you (or any of your subsidiaries, corporate affiliates or agents) initiate directly or indirectly, or take a direct financial interest in, any Patent Assertion: (i) against Facebook or any of its subsidiaries or corporate affiliates, (ii) against any party if such Patent Assertion arises in whole or in part from any software, technology, product or service of Facebook or any of its subsidiaries or corporate affiliates, or (iii) against any party relating to the Software. Notwithstanding the foregoing, if Facebook or any of its subsidiaries or corporate affiliates files a lawsuit alleging patent infringement against you in the first instance, and you respond by filing a patent infringement counterclaim in that lawsuit against that party that is unrelated to the Software, the license granted hereunder will not terminate under section (i) of this paragraph due to such counterclaim.

Facebookのように著名でおカネを持った会社になると、その代償として、特許トロール的なものも含めた知財訴訟対応に日々煩わされることになります。そうした訴訟の手間やコストを削減するための1つのテクニックが、こうしたライセンス契約に非係争義務を設定するという手法です。実際、本件について見解を述べたFacebookの声明でも、“As our business has become successful, we've become a larger target for meritless patent litigation. (中略)We believe that if this license were widely adopted, it could actually reduce meritless litigation for all adopters, and we want to work with others to explore this possibility.”と、有名税として訴訟のターゲットにされることにもう疲れたので…みんなこうやって仲良くしませんか、といった心情が吐露されています。 おそらく、数百人はいるであろう知的財産部門のパワーの半分ぐらいが、こうした訴訟対応に費やされているのではないでしょうか。


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ところが、知的財産権のライセンス契約の中でこうした非係争義務を課すことについては、健全な競争を阻害するものとして、法的に問題となる場合があります。公取の知的財産ガイドラインをみてみましょう。

知的財産の利用に関する独占禁止法上の指針(公正取引委員会)
(6) 非係争義務
ライセンサーがライセンシーに対し,ライセンシーが所有し,又は取得することとなる全部又は一部の権利をライセンサー又はライセンサーの指定する事業者に対して行使しない義務(注17)を課す行為は,ライセンサーの技術市場若しくは製品市場における有力な地位を強化することにつながること,又はライセンシーの権利行使が制限されることによってライセンシーの研究開発意欲を損ない,新たな技術の開発を阻害することにより,公正競争阻害性を有する場合には,不公正な取引方法に該当する(一般指定第12項)。
ただし,実質的にみて,ライセンシーが開発した改良技術についてライセンサーに非独占的にライセンスをする義務が課されているにすぎない場合は,後記 (9)の改良技術の非独占的ライセンス義務と同様,原則として不公正な取引方法に該当しない。
注17 ライセンシーが所有し,又は取得することとなる全部又は一部の特許権等をライセンサー又はライセンサーの指定する事業者に対してライセンスをする義務を含む。(P23)

こうした独占禁止法上の問題とならないよう、通常は、ライセンシー(今回のケースで言えばFacebookのOSSを利用する立場の事業者)が契約締結時点で保有している特定の特許権だけを非係争義務の対象にするとか、ライセンスした技術を改良して発生する将来の特許権に限定するなど、一般的なクロスライセンスの限度に留まるように非係争義務の条項をドラフティングします。

しかし、今回のFacebookの非係争義務の書きぶりはそうした限定がほとんどなく、この範囲を超えているようにも思われます。そしてそれは、Facebookとしても法的リスクは意識した上で、明確な意志をもって踏み込んでそうしているように見えます。多大なコストをかけて開発した技術をオープンソースとして広く提供しているのだから、それ相応の見返りの1つとして、合意の上で訴訟コストを下げさせてもらってもいいじゃないですか、この考えに合意できなければ当社のOSSを使わないでいただければそれで結構、という意志です。


私はエンジニアではないので、現在のOSSコミュニティにおいてFacebookがどの程度影響力を与えているのかは正確には分かりません。しかし、Facebookの声明に滲み出る熟慮の末の対応というニュアンスを見るにつけ、今後のOSSの契約実務、さらにはインターネットサービスの契約実務においても、これに倣うような事業者が出てくるのではないかと感じました。
 

2017.8.24追記

平均的なOSSのライセンス条項と比較しながら、Facebook React.jsの非係争条項について解説した記事。

▼ReactJSのライセンスにおける制限的条項の対象範囲 (特許不係争義務)
http://qiita.com/Cat_sushi/items/923914b4c25e25f2ce38
 

2017.8.25追記

通常のBSDライセンスとの比較からFacebookがReact.jsについての特許権を持っている可能性があること、そしてそもそもFacebookに対して行使できる特許を持っていなければReact.jsの利用を停止する必要もないであろうことを指摘する記事。

▼FacebookのBSD+PATENTSライセンスについて
http://katax.blog.jp/archives/52770400.html

【本】『ファイナンス法大全(上)〔全訂版〕』― 業法による規制に専門家はどう向き合うべきか


西村あさひ法律事務所の掘越先生・本柳先生よりご恵贈いただきました。ありがとうございます。





14年振りの改訂ということで、金融業界隈の方々はきっと首を長くしてお待ちになっていたのではないでしょうか。金融業界でない新興ベンチャーを転々としている私のような者にとっても、IPOやストックオプションの法務にはじまり近年では投資契約やファンド法などにも関わるようになってきた時代ですので、このあたりの規制を概観できる文献がアップデートされるのは大変ありがたいことです。


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業法の中でも最も法律が複雑に絡み合い、論点も枚挙に暇がないファイナンス分野。しかも本書は、中国・香港・シンガポールといったアジア金融マーケットの法律も出来る限りカバーしようという意気込みと相まって、この上巻だけで1200ページを超えるボリュームとなっています。さすがに各論点の詳細については本書脚注等で引用されるそれぞれの専門書に譲っている部分も少なくありませんが、それがかえって関連規制を概説するための必要最低限の情報量に留める効果をもたらし、その分野の専門書を読んでいても頭に入ってこなかった各法の骨子や規制にいたる背景が、かえって分かりやすく見えてくることと思います。

業法ならではの、明文化されていない監督官庁独自の運用ルールについても、
「筆者らにおいて金融庁に確認したところ、・・・記載が紛らわしかったかもしれないとのことであった」
「・・・を・・・とする方式もいずれも受理されているようである」
といった“実務”に即した言及が随所にあるところなどは、この分野の業法規制とその運用の恣意性に苦しむクライアントに寄り添ってサポートしてきた経験豊富な先生方が書かれていることを感じさせます。


そういった、業法の実務において交わされる当局との対話・対応の積み重ねの重要性について、序章に書かれたこの一節が、私の胸にチクリと刺さりました。

今日金融関連の規制は複雑かつ重層化して金融機関の自由な活動の足かせになっていることは事実であるが、規制そのものを問題視するのではなく、マーケットのニーズを十分に汲み取った予測可能性と実効性を備えた適切な規制であることこそが必要であるとの認識が必要であろう。あるべきファイナンス・ロイヤーの姿勢は、規制と向かい合い、当局との話し合いを積み重ね、あるべき方向と既存の法規制や法理が単純な論理の組立てでは相容れないときに、それを喝破する新たな解釈や論理を構築することであろう。(P14)

私の属する業界内で、とある規制が強化されようという動きが突如発生したときのこと。「自社は巻き込まれたくない」「ここは静かにしていたほうが目をつけられずに済むのでは」という思いから、多くの企業側関係者が当局とは距離を置いた姿勢をとる中で、私の知人が規制当事者の懐に飛び込み、自身が所属する会社のみならず業界団体をも巻き込んで交渉し、時に腹芸も交えながら、業界全体にとってプラスとなる落としどころを引き出していく姿を目の当たりにしました。それはまさに、規制を陰で批難するだけではなく向かい合って喝破していく渉外マンの姿でした。


近年、法務パーソンがそのキャリアを発展的に分岐させる道のひとつとして、ロビイングを含む官公庁や業界団体との渉外業務領域に注目が集まっているように感じています。そういったところに飛び込んで得たい結果を得るためには、情報収集力・人脈力・胆力もさることながら、このような「喝破する新たな解釈や論理を構築」するだけの緻密さを備えなければと、序章の一節に知人の行動を重ねながら考えています。
 

【本】『企業訴訟実務問題シリーズ システム開発訴訟』― リサーチするならウエストローは必須かも


著者のお一人、田中浩之先生からご恵贈いただきました。ありがとうございます。


システム開発訴訟 (【企業訴訟実務問題シリーズ】)
飯田耕一郎・田中浩之著
中央経済社
2017-07-01



森・濱田松本法律事務所におけるIT分野のスペシャリストである飯田耕一郎先生と田中浩之先生による、システム開発訴訟の判例まとめ本。この「企業訴訟実務問題シリーズ」、本書を頂くまでこのシリーズの存在自体に気づいていませんでした(汗)。総論/会社法/証券/消費者契約/労働/税務/独禁法/環境/インターネット/システム開発の分野ごとに1冊ずつ計10冊、そのすべてを森濱の先生で分担して書かれているんですね。その最終巻となるのが本書とのことです。

200ページ足らずの少なめボリュームから想像されるとおり、計48の判例を主な紛争発生ポイントごとに分類したうえで、要点をコンパクトにまとめて紹介しながら、そこに共通するリスクポイントを抽出して解説していくオーソドックスなスタイル。システム開発分野の判例を総ざらいしたいというニーズに焦点をあわせて、無駄な情報を一切排除しているのが特徴的です。

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システム開発の法的リスクに関する実務書として著名なものとして、計96の判例を整理した松島・伊藤著『システム開発紛争ハンドブック』があります。あちらで抽出されている判例との被りぐあいを見てみると、
・松島・伊藤本には掲載されているが飯田・田中本に掲載されていない判例 50件
・飯田・田中本には掲載されているが松島・伊藤本に掲載されていない判例 32件
でした。1年弱の後発であることももちろんあるものの、飯田・田中本は、昭和の地裁判決をあえて切り捨て、平成以降の近時判例の傾向を抑えることに割り切ることで、少ない紙幅に情報を詰め込んでいるなという感じです。

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それにしても、こう見ると公刊物未登載・ウエストローでしか見られない裁判例の多さが目につきます。2014年に開催した第3回法務系ライトニングトークで、サイ太先生に登壇していただいた際にも判例DBそれぞれの特徴を解説いただき、ウエストローは登載件数に強みありとお伺いした記憶がありますが、リサーチをきっちりやろうと思うと判例秘書のみでは厳しいんだな、ということを改めて認識させられます。
 

法律のプロ達が語る「制作」と「製作」の使い分け


コンテンツビジネスにかかわる方なら一度ならず意識したことがあるはずの、「制作」と「製作」の使い分け。契約書における頻出用語でもありますね。

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とりあえず、広辞苑を引いてみると、こう書いてあります。

【制作】
…蠅瓩弔ること。かんがえ定めること。美術作品や映画・放送番組・レコードなどをつくること。また、その作品。「―物」
【製作】
ものをつくること。また、つくったもの。「―所」

はっきりとそう書いてあるわけではありませんが、つくってできあがるものが無形か/有形かで使い分けるという考え方のようです。ネット上で検索しても、この広辞苑の定義をコピペしたような解説記事が多数ヒットします。しかしみなさんもお気付きのとおり、コンテンツ関連の契約書で実際に使われている実態を思い浮かべてみると、有形なものに制作を使う/無形なものに製作を使うケースは多々あるわけで、この広辞苑の区分基準はあまり役立ちそうにありません。

そこで蔵書をあさってみたのですが、権利関係が多分に絡むコンテンツを取り扱う仕事をするにあたって、どういう基準でこの「制作」と「製作」を使い分けるべきかについて、法律家・実務家が考え方をはっきりと整理・記述している文献が、意外に多くないことに気付きました。


法律家が書いた文献を探してみた


そこでまず、その数少ない法律家・実務家が「制作」「製作」の使い分けについて述べた文献をピックアップし、列挙してみることにします。


まずは、日本組織内弁護士協会編『契約用語使い分け辞典』より。

契約用語使い分け辞典
新日本法規出版
2011-08-30


「製作」は、道具・機械等の物品を作ること。
「制作」は、放送番組や芸術品を作ること。(P365)

おおっと、広辞苑そのままですね…(汗)。契約用語の使い分けとしてこういう部分で迷うことはないですし、ぼやけた回答のように思われます。


著作権法の基本書中の基本書、中山『著作権法第2版』では、こう。

著作権法 第2版
中山 信弘
有斐閣
2014-10-27


映画には、『製作』という語と『制作』という語が用いられているが、具体的な映画著作物を作ることを「制作」と呼んでおり(16条)、映画という著作物の制作に発意と責任を有する者を映画製作者と呼んでいる(2条1項10号・29条) (P217)

こちらは、映画の著作物に関する著作権法の条文に絞った解説となっています。もう少し、業界慣習のニュアンスも欲しいところ。


コンテンツ業界にお詳しい法律家による、内藤・升本著『映画・ゲームビジネスの著作権第2版』ではどうでしょうか。



映画やテレビ番組の業界ではよく「コロモヘンのついたセイサク」という言葉を使います。つまり、「制作」と「製作」の違いを「衣へん」の有無によって区別した言葉です。つまり、自分たちは「コロモヘンのついたセイサク」をやっているという場合には、それは、「自分たちが現在つくっている映像は、他人からの請負仕事ではなく、自分たちが一部の製作費を出資している、あるいはその他の理由によって、報酬請求権(出資に対するリターンを含む)を得られることになる」という意味です。反対に「コロモヘンのつかないセイサク」とは、他社からの単純な請負制作で、報酬請求権にはかかわらない制作作業、ということで(もっとも、最近は「コロモヘンのつかないセイサク」でも成功報酬という名の報酬請求権を得る事例は散見されます。)。(P162-163)

そうそう、こんな感じの答えを求めてました。ただ、“「制作」は単純請負制作”という部分については、そうでもないケースもあるように思われますね。


少しマニアックな絶版本ですが、『ビジネス著作権法』にこんな記述が。

ビジネス著作権法
荒竹 純一
産経新聞出版
2006-09


著作物を作成する創作活動を「制作」といい、発案、企画、資金調達などをしながら作成を主導する活動(プロデュース業務を担当しながら著作物の完成を主導する活動)を「製作」という。(P174)

おお、これはかなり私の中の感覚にフィットする定義です。


こちらは書籍ではありませんが、経済産業省(TMI総合法律事務所)編「コンテンツ展開の契約に関する報告書」より。

「コンテンツ・プロデュース機能の基盤強化に関する調査研究」(経済産業省編)は、「“製作”とは企画開発の段階から、資金を集めて作品を作り、それを商品に変え、様々なビジネスを通じて利益を上げていく、その全過程を指すもの」であり、「製作費を集めた後にやるのが“制作”のプロセスである」と説明する。要は、コンテンツ展開を含めたプロジェクト全体が「製作」であり、そのプロジェクトにおいて発生する個別のプロセスが「制作」であると理解しておけば足りるであろう。

これも私の認識に近い記述です。ただし、製作費を集めた前に制作をするケースもあるのではないかなと思います。


自分の言葉で整理してみた


以上を踏まえて、業界慣習に含意されるニュアンスと、著作権法上の使い分けの両方を満たすような形で定義できないかと考え、整理してみました。

「制作」
ある特定領域のコンテンツまたはそのパーツを自ら作ること。
制作したコンテンツが著作物に該当することになれば、職務著作などの例外を除き原則として自己(制作者)に著作権が帰属する。
「製作」
多数当事者が制作したコンテンツをさらに統合してコンテンツを作ること。パーツとしてのコンテンツに不足がある場合、その不足部分を自ら制作して補充することを含む。
製作したコンテンツは基本的には著作物に該当し、その著作権は映画の著作物であれば著作権法第29条により映画製作者に帰属、それ以外の著作物についてはケースバイケースで合意して権利帰属を決める。

私自身はこのような整理でこの二つの語を捉えています。ですから、契約書で「制作」を使う文脈では、その条項の主語となっている当事者に制作物の権利が帰属する前提を強く意識しますし、逆に「製作」を使う文脈では、映画の著作物でないものについては契約書の中で多数当事者間での権利処理をしなければならないことを意識する。そんな感じです。


他の文献でこの使い分けについて述べているものが見つかれば、また追記していきたいと思います。なお、このエントリをまとめる途中で、現在駐仏されお仕事と研究にいそしまれている@NakagawaRyutaro先生にこのことについて質問させていただいたところ、遠いパリからものすごい反射速度でいくつかの文献での記載を教えていただき、さすがプロだなと感服(ありがとうございました)。もっとシャープで腹落ちする定義が明文化された信頼できそうな文献をご存知でしたら、みなさまからもコメント欄で教えていただけると助かります。
 

2017.8.10追記

@rsyaoto さんよりtwitterで情報提供をいただき、経済産業省(TMI総合法律事務所)編「コンテンツ展開の契約に関する報告書」を追記しました。
 

日本版PEO(共同雇用)制度と労働者派遣法第35条の5・第40条の9(追記あり)

人材業界の有識者たちが、「これって法的に大丈夫なの?」とざわついているのがこのニュース。

従業員を転籍、元の職場に派遣 リンクトブレイン(日本経済新聞)
人材派遣のリンクトブレイン(東京・千代田)は顧客企業の従業員を部門やプロジェクト単位で転籍させ、派遣社員として元の職場に送り込むサービスを始める。従業員には転籍前と同額の給与を保証する。利用企業は人件費を変動費にできるほか、派遣人材の質に悩まされなくなる。事業再編のペースが速いIT(情報技術)業界やゲーム業界での利用を見込む。
人材会社が人事管理や教育を受託する米国のPEO(共同雇用)制度を参考にした。米国のPEOは日本の職業安定法に抵触する可能性がある。しかし「労働者派遣の仕組みを使えば職業安定法の『労働者供給事業の禁止』を離れて日本でもPEOと似た人材サービスが可能」(アンダーソン・毛利・友常法律事務所の上田潤一弁護士)という。
日本版PEOの導入では、リンクトブレインは顧客企業と最短で12カ月間の契約を結ぶ。契約期間の終了後、顧客が契約更新を断れば、リンクトブレインは派遣社員を別の企業に送り込む。

PEO(Professional Employer Organization 共同雇用)制度を日本にもってくるというアイデアについては、2008年8月に当ブログでもご紹介したことがあります。しかし、実際にそれをサービス化したのは、本邦初なのではないでしょうか(この点について追記)。

共同雇用=元企業・PEO会社双方との二重の雇用関係を維持する米国版PEOをそのまま日本において実施すると、職業安定法第44条で禁止される労働者供給事業に該当し、違法となります。そこで、本人の同意のもとPEOサービス提供企業に転籍をさせ(つまり元企業との雇用関係は切断させ)た上で、特定労働者派遣に切り替えるスキームで元企業に派遣労働者として派遣する手法ならば適法となるのでは、と考えられていました。記事中の「顧客企業と最短で12カ月間の契約」などの記載から、リ社もこのスキームを前提としているように見えます。

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しかし、従来は可能と思われたこの特定労働者派遣切替スキームを使った日本版PEOも、その後、2012年の労働者派遣法改正で導入された第35条の5と第40条の9により、原則禁止されるに至っています。

(離職した労働者についての労働者派遣の禁止)
第三十五条の五  派遣元事業主は、労働者派遣をしようとする場合において、派遣先が当該労働者派遣の役務の提供を受けたならば第四十条の九第一項の規定に抵触することとなるときは、当該労働者派遣を行つてはならない。
(離職した労働者についての労働者派遣の役務の提供の受入れの禁止)
第四十条の九  派遣先は、労働者派遣の役務の提供を受けようとする場合において、当該労働者派遣に係る派遣労働者が当該派遣先を離職した者であるときは、当該離職の日から起算して一年を経過する日までの間は、当該派遣労働者(雇用の機会の確保が特に困難であり、その雇用の継続等を図る必要があると認められる者として厚生労働省令で定める者を除く。)に係る労働者派遣の役務の提供を受けてはならない。

例外としてカッコ書きされる「厚生労働省令で定める者」とは、60歳以上の定年再雇用者が前提のかなり狭い範囲に限られています。この条文の追加により、現状日本でPEOサービスを提供しまたは提供を受けるのは、ほぼ不可能となってしまったように思われます。

個人的には、規制緩和と強化の間をフラフラしながら「働き方改革」なるどっちつかずの標語を掲げて混迷を深めている日本の労働行政にも様々問題はあるように感じているのですが・・・。条文上は何らか抵触してしまいそうなリ社のこのサービスが何か別の解決策を用意しているのか、また行政がどのような反応をするのか、続報を待ちたいところです。
 

2017.8.6 10:00追記

株式会社アウトソーシングとその子会社株式会社PEOでも、日本版PEOをサービスとして提供しているようです。twitterのたにやんさんのつぶやきで知りました。



 
 

賞金制eスポーツ大会の開催を阻む6つの法律


日本が誇る対戦型TPSゲームのシリーズ最新作『Splatoon2』が発売され、下馬評どおり売れ行きは好調、Nintendo Switch本体も入手困難と言って過言ではないすさまじいペースで売れているようです。

私も前作のWiiU版『Splatoon』には大いにハマったクチで、2015年秋〜2016年にかけて数百時間をこのゲームに費やしました。Switchももちろん『Splatoon2』のために早速購入。据え置き機のWiiU版と違い、持ち運んでいつでもどこでも手軽に対戦できるSwitchの誘惑と日々戦っています。こんなに時間を食われることになるなら、Splatoonと出会わなかったほうが幸せだったのかも…と思ってしまうぐらいに、何時間でもやり続けてしまう面白さがあります。



さて最近、この『Splatoon2』に限らず、PC・コンシューマーゲーム機・携帯型ゲーム機・スマートフォンでプレイできる上質な対戦型ゲームが次々にリリースされ、さらにその対戦プレイの様子を実況する動画の人気も高まっています。それもあってでしょうか、こういった対戦型ゲームをスポーツ競技のように捉え、プロゲーマーを賞金付きで集めて行う「eスポーツ」大会と、そういった大会に課せられる法規制の解説記事を多く見かけるようになりました。

隆盛「eスポーツ」に法の壁 賞金たった10万円 (日本経済新聞)
「景表法に触れなければ、いくらでも高額賞金大会が開けるのだが……」
カドカワが3日付で設立したゲーム子会社、Gzブレイン(東京・中央)の浜村弘一社長は嘆く。ゲーム情報誌「ファミ通」で長く編集長を務め、複数のeスポーツ関連団体の役員も務める浜村氏は「eスポーツはゲームの面白さそのものが大きく変わり、新たな収益機会を生み出せる」と期待する。一方で、日本市場は諸外国に比べると出遅れているという。理由として「eスポーツの主流であるパソコン上のゲームがそれほどなじみがなかったこともあるが、それ以上に大きかったのが景表法の壁だろう」と話す。

「レインボーシックス シージ」公式世界大会で日本人だけ賞金を受け取れない「おま賞金」発生 その理由とは(ねとらぼ)
フランスのゲームメーカー、ユービーアイソフトが開催する、FPS「レインボーシックス シージ」世界大会で、なぜか日本人が優勝した場合のみ賞金を受け取れないという規定があり、ゲームファンの間で物議をかもしています。
「日本の法律の都合上」という部分について、これが何の法律のことを指しているのか聞いてみたところ、「専門家と相談した結果、今回の世界大会は景品表示法(以下、景表法)に抵触する可能性を否定できないと判断いたしました」と回答。ただ、具体的に景表法のどの部分に抵触するのかについては、「この質問に関しましては、弊社からの回答を控えさせていただければと思います」とのことでした。

これらの記事では、どうしても景表法にばかりスポットライトが当たっていますが、賞金制eスポーツ大会を開催するには、景表法以外にもいくつかの法律が関係し障害となっています。そのすべてを網羅的にまとめた記事があまり見られないので、それぞれの分野に詳しい方が解説してくださっているサイトをリンク集的にピックアップしつつ、足りない部分を私のほうで補足してまとめてみました。


1.刑法


eスポーツ大会の開催にあたって、参加者から参加費を徴収して優勝者の賞金原資とすると、「刑法」第185条から187条に定める賭博罪・賭博開帳図利罪・富くじ罪等の問題となり得ます。
過去、賞金制麻雀大会を開こうとした団体が警察庁から指導を受け、取りやめた事案も実際に存在します。
一方、参加者がお金を払わず、スポンサーだけが賞金を提供する場合は、少なくともこの賭博罪等刑法上の問題は無くなり、過度に萎縮する必要はないと述べる専門家も少なくありません。

▼賞金付ゲーム大会と賭博罪
http://ameblo.jp/gamblelaw/entry-12112183111.html
▼日本で高額賞金のかけられたゲーム大会が開催されないのはどうしてなのか?法的観点から考えてみる
http://www.gamer.ne.jp/news/201512120002/
▼マージャン全国大会「待った」 参加費から賞金は賭博?
http://www.geocities.co.jp/Athlete-Sparta/3989/news/n2004_03_24.htm


2.風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律


ゲームセンターの営業は、風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律第2条1項5号により規制対象とされていることに加え、この5号営業を行う営業者が遊戯の結果で賞金を提供することは、同法23条2項で禁止されています。
eスポーツ大会の開催がこの5号営業に当たるか否かは、風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律施行規則第3条に定める“遊戯設備基準”と、同法第7条に定める“施設の構造及び設備の技術上の基準”に抵触するかかポイントとなりますが、論点になるのは特に後者で、会場を見通しが効く明るい場所とできるかどうかなどが問われることになります。
以下では、改正前の風営法の条文に基づき解説したものを、ご参考までにご紹介します。ここで2条1項8号の営業とある部分が、現行法では5号と整理されています。

▼賞金・賞品付き大会と法律
https://www46.atwiki.jp/xboxcodsearch/pages/35.html
▼日本で高額賞金のかけられたゲーム大会が開催されないのはどうしてなのか?法的観点から考えてみる(再掲)
http://www.gamer.ne.jp/news/201512120002/
▼風営法について考える風営法のひろば
http://cozylaw.com/fu-teki/kihon/005-06.html


3.不当景品類及び不当表示防止法


冒頭述べたとおり、最近のメディアでeスポーツ大会開催の最大の足枷として扱われているのがこの不当景品類及び不当表示防止法、通称景表法です。第4条により、内閣総理大臣が景品類の提供に制限を設けることができるとされ、取引に付随して特定の行為の優劣を争わせて景品を提供することについて、最高額(10万円)と総額(売上予定総額の2%)の金額上限を課しています。
eスポーツとの関係で論点となるのは、eスポーツ大会で勝つ=賞金を得る目的でそのもともとのゲームに関する購買取引が誘引される・取引付随性が発生しているかどうかです。普段そのゲームをお金を払ってプレイしていれば大会に優勝しやすくなるのであれば、<大会の賞金>が普段のゲーム取引の<景品類>とみなされてしまう、というわけです。したがって、ゲームを有料課金でプレイするユーザーが大会で賞金の提供を受けることが容易であれば、当該eスポーツ大会での賞金提供は景表法違反となる可能性が高く、そうでなければ(つまりゲームでの有料課金がeスポーツ大会での勝利を容易にするものでなければ)景表法違反とならない可能性が高いということになります。
この点、カジノビジネスの専門家である木曽崇氏が、ノーアクションレターという形で消費者庁に細かいケース分けをした問い合わせをされその回答をブログにまとめてくださっており、参考になると思います。

▼賞金制大会を巡る法的論争、消費者庁からの公式回答アリ
http://blog.livedoor.jp/takashikiso_casino/archives/9355204.html
▼賞金制大会を巡る法的論争、消費者庁からの公式回答アリ(その2)
http://blog.livedoor.jp/takashikiso_casino/archives/9355119.html
▼総括:賞金制ゲーム大会を巡る法的論争
http://blog.livedoor.jp/takashikiso_casino/archives/9356604.html


4.著作権法


eスポーツに用いられるゲームは当然に著作物となりますので、著作権者の許可なく用いれば著作権法第22条の2の上映権その他の権利を侵害することになります。
過去には、ホテル内でのゲームソフト貸し出しでゲームメーカー側から刑事告訴まで踏み切られた事例もあるようです。
もちろん、著作権者自身がeスポーツ大会を開催したり、著作権者から許諾を得て開催すれば、この問題は生じません。

▼著作権違反:ホテルでゲームソフトを無断貸出、会社役員を逮捕
http://www2.accsjp.or.jp/criminal/2010/1030.php


5.民法


法律上の規制というよりはゲームメーカーとの契約上の制限ではありますが、そのゲームの利用規約において当該ゲームを利用した大会・イベント等の無許諾実施を禁止している場合、民法第415条の債務不履行に基づく損害賠償責任や第703条の不当利得返還義務が発生する可能性があります。
例えば、私が好きなFPSゲームであるBattelefiledシリーズを開発・運営するElectronic Arts社の利用規約には、

6. 行動規範 お客様がEAサービスにアクセスし、またはこれを使用するとき、お客様は以下のいかなる行為も行わないものとします:
(略)
EAが管理および許可していない何らかのサービス上で、または当該サービスを通じてEAサービスを利用しようとする事。

との記述がありました。このような記述は多くのゲームにもみられるものです。
著作権法同様、ゲームメーカー自身がeスポーツ大会を開催したり、許諾を得て開催すれば、この問題は生じません。

▼ELECTRONIC ARTSユーザー契約
http://tos.ea.com/legalapp/WEBTERMS/US/ja/PC/#RulesofConduct


6.出入国管理及び難民認定法


大会にプロゲーマーを職業人として参加してもらうにあたって、出入国管理及び難民認定法および出入国管理及び難民認定法第七条第一項第二号の基準を定める省令により、興行の在留資格(興業ビザ基準省令3号)が必要になりますが、これが発給されない可能性があります。スポーツ競技はトッププレイヤーが集まるからこそ面白いわけで、これは地味に影響のありそうな法律です。
日本でプロゲーマーのビザ発給が問題になった実例はまだ無いようですが、以下リンクでは、外国で実際にあった事例について弁護士がコメントしています。

▼eSportsにおける法律問題
https://www.redbull.com/jp-ja/interview-with-esports-lawyer-jas-purewal-2017-15-04
▼日本初、海外プロゲーマーに“アスリートビザ”発行へ 「プロスポーツ選手と認められた歴史的な出来事」
http://www.itmedia.co.jp/news/articles/1603/30/news137.html


結論:現状は、純粋な賞金制eスポーツ大会の開催はかなり困難


以上をあわせ読むと、賞金制eスポーツ大会を開催するには、
・刑法上問題にならないよう、第三者のスポンサーを集め、
・風営法上問題にならないよう、健全な環境が確保できる場所を用意し、
・景表法上問題にならないよう、ゲームの有償課金要素が勝敗に関係ないようにし、
・著作権法・民法(利用規約)上問題とならないよう、ゲームメーカーの許諾を得て、
・入管法上問題とならないよう、日本人かビザが間違いなく下りる外国人選手だけを集めて
といった何重もの対策を施さなければならず、かなりの困難を伴うことが分かります。そんな中で、優勝賞金3,000万円という大会を開催されているミクシィさんの取り組みなどは大変なチャレンジで、頭が下がります。

景表法は世界主要国の類似法制と比較してもダントツに(必要以上に)制約が強いので、消費者の不利益とならないものについては告示・運用基準の改正を検討するとか、風営法に関しても、事前の警察への届出などの手続きを踏むことで認めてみるとか、この二法の運用を少し見直してみるだけでも、賞金制eスポーツ大会の開催はかなりラクになるはずです。
 

【本】『民法(全)』ー 新民法への上書き作業をスタートしました


ついに、重い腰を上げて、自分の頭の中の民法(債権法)のアップデートを始めました。





6月2日に公布され、2020年6月2日までに施行されることが決定した改正民法。3年前に『条文から分かる 民法改正の要点と企業法務への影響』を読んで以降は、頭の混乱を避けるために(という言い訳で)あえて新法に関するインプットを避けてきましたが、観念して知識の上書きを開始。最初の土台づくりとしてどの本がいいだろうか?と検討して選んだのが、この潮見先生の本です。


私は、まず本書を各章ごとに通読し、それが終わったら対応する箇所の判例六法プロのiPad版で新設条項を中心に素読みして(判例六法プロの民法改正案織込み条文では、新設条項がわかるよう明示されています)、新法独特のフレーズを条文から抜き出しアプリ上のふせんにメモを作りながら、あらためて関連部分をまた本書で読み直す、というような作業をやってみました。

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改正後の新法前提に書かれたこの本では、改正前の旧法との比較に言及した記述は最小限にとどめられています。それでも、要所要所では以下のような旧法との対比に基づく解説があります。

▶︎旧法 634条1項ただし書きは、「瑕疵」(新法のもとでの品質に関する契約不適合に相当する)が重要でなく、かつ、修補に過分の費用を要する場合には、修補請求をすることができない旨を定めていた。しかし、新法はこの規定を削除している。これは、この場合(〔重要でない瑕疵〕 × 〔過分の費用〕事例)は、 412条の2第1項にいう「不能」にあたると考えられたからである。したがって、新法のもとでは、「契約不適合が重要でなく、かつ、追完に過分の費用を要する場合」には、追完が「不能」であると解すべきである。(P451-452)


民法の概説書としてはもっともコンパクトな部類に入る本であり、各論点に深く突っ込んだものではありませんが、おかげでかえって混乱なくスイスイ読み進めることができ、だいぶ視界が晴れてきた気がします。全体を見渡しての最初の感想としては、やはり約款規制対応は不可避だなということと、そして組合契約において新設条項が思っていたより多くかつ重みのある規律がなされていて、投資組合・JV案件に地味に影響がでそうだなと。

【雑誌】サイゾー 2017年6月号 ― 音楽・映像ビジネスにかかわる著作隣接権を理解するための業界構造基礎知識

 
久しぶりの雑誌紹介。しかも法律雑誌ではなく、まさかの「サイゾー」(笑)。ですが、今号の特集「芸能界の(禁)基礎知識」は、エンタメロー・知的財産を実務で取り扱う方には一読の価値ありな特集になっています。





法務パーソンが著作権法の勉強をしている中で、わかりにくさ・もやもや感を最も感じるのが著作隣接権であることは間違いないでしょう。試しに、著作権法の基本書の中で読者フレンドリー度No.1な中山『著作権法』で著作隣接権の概説をひもといても、

著作物の伝達には物流と異なった特性があり、法で特に保護する必要性が高いものもある。(略)そこで著作権法は、実演家・レコード製作者・放送事業者・有線放送事業者の四者につき、著作隣接権という特殊な権利を与えて保護している。(P537)
1961年にユネスコとベルヌ条約同盟と国際労働機関(ILO)の共同開催による隣接権条約外交会議において「実演家、レコード製作者及び放送機関の保護に関する国際条約(略)が締結され、1964年に発効したが、わが国は1989年(平元)に加入書を寄託し加盟した。わが国がこの条約に加盟した時期はかなり遅いが、条約加盟に先立ち、条約の考え方自体は現行の当初から著作権法に取り込まれており、昭和45年著作権法全面改正で著作隣接権制度が創設された。(P538)
著作隣接権の根拠としては、著作物の伝達行為の準創作性を挙げる者が多い。(P539)
著作隣接権が必要となった必要となった最大の要因は、情報伝達技術の発展である。(略)例えば実演がレコードに複製され、それを放送で利用するという関係において、実演家・レコード製作者・放送事業者等の間での利益をいかに分配するかという問題を巡り、それらの間の権利調整のための複雑な規定が設けられている。(P540)

と、法律書らしからぬふわふわとした解説が延々と続きます。真剣に法律を勉強しようとしているこちらとしては、「必要だから法律になったのだ」と言われても、どの教科書を読んでもどうしてこれが必要になったのかという経緯も詳しく説明されないだけに、本当にこんな複雑な規定を設けてまで権利を認める必要があるのか?という疑問が先立ってしまい、なかなか頭に入ってこないわけです。少なくとも私はそうでした。

ご紹介のサイゾーの特集は、田辺エージェンシーの田邊社長が、GSブームの先駆けとしてスパイダースを結成し、自らバンドプロデュースをしながらトップ芸能プロの社長として名を上げていく過程を中心に描きながら、芸能プロダクション・レコード会社・テレビ局がそれぞれどういう立ち位置でイニシアティブを争ったかという芸能の近代史をおさらいした上で、彼ら著作隣接権者の団体である芸団協や音事協が権利処理団体として運営にかかわるCPRA・aRma・BEAJ・sarahなどとJASRAC・RIAJをはじめとする周辺法人との関係を概説してくれています。

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この手の業界基礎知識を知ったうえで著作隣接権の理解を深めたいと思っても、無味乾燥な当該団体の自己紹介、正確性に欠けるゴシップ誌、ネット記事等の断片的な情報を読みつなぐしかありませんでした。どうしても法律的な背景を正確に理解したい部分があれば、私の場合は『アプリ法務ハンドブック』でもご一緒したエンタメロー分野に特にお詳しい鎌田真理雄先生や東條岳先生をお訪ねし、無理を言って教えていただいたりしていました。いつもはブラックジャーナル臭がかなり強いサイゾーさんですが、今回の特集は比較的冷静に淡々と事実をまとめている印象です。

というわけで、著作隣接権の背景を深く理解したいという方にぜひ。
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