企業法務マンサバイバル

企業法務を中心とした法律に関する本・トピックのご紹介を通して、サバイバルな時代を生きるすべてのビジネスパーソンに貢献するブログ。

法務

SNS・クラウド時代のプライバシーポリシー/利用規約とは ― Googleの規約改訂ポイント解説(その1)

 
Googleが、プライバシーポリシーとサービス利用規約の3/1付け大規模変更をアナウンスしました。

検索サービス、Gmail、Youtubeを含むほぼすべてのサービスに適用される今回の変更。Googleが嫌いでも、インターネットを使っていてGoogleのサービスを全く使っていない人はそうそういないはずで、その意味ではインターネットの法律が変わったようなものとも言えます。そこで速報的にではありますが、ポリシー編と規約編の2回に分けて、ポイントを抑えておきたいと思います。

今日はまず、Googleの個人情報の取扱いについてのお約束文書である「プライバシーポリシー」編です。


「長く」なったのは何のため?


まずは、現行の旧versionと3/1リリースの新versionとの差異が分かりやすくなるよう、新旧対照表を作成してみました。このブログの幅に貼り付けてしまうと見にくくなりますので、Googleドキュメントにアップロードした表をご覧ください(公開設定していますので、ログイン等は不要です)。

Googleプライバシーポリシー新旧対照表
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一見して分かること。それは新Versionのポリシーの方が長くなった、ということでしょう。そう、普通こういった企業のプライバシーポリシーの類に起きがちなのは、企業が訴訟やトラブルを抱える度にその反省から定義が厳密に・細かくなっていき、その分文字量ばかりが増えていくという現象です。

しかし新Versionを読みすすめてみると気づくはずです。長くなったにもかかわらず、圧倒的に読みやすく・理解しやすくなっているということに。そしてこの長さは、下記3点のポイントを実現するのに必要最低限な長さになっているのです。


ポイント1:ポリシーの全サービス共通化による“シェア”への対応


今回のプライバシーポリシー/利用規約の改訂により、60を超えるGoogleのサービスの(ほんの一部の例外を除く)ほぼすべてに、同じプライバシーポリシーが適用されることになりました。

私は最初、これは「いろんなプライバシーポリシーがあると、Googleも管理しきれないだろうし、ユーザーも読む気がしないからなんだろう」ぐらいに思っていたのですが、少し考えてそれだけではないことに気付きました。サービス間をまたいで個人情報が行き来しはじめているという現実に正しく対処するための、あるべきポリシーの姿なのだということに。

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たとえば、Googleが始めたSNSであるGoogle+上で、ユーザーAさんが「●●がほしい」と投稿したり、Bさんの投稿に対して“+1”ボタンを押した商品の情報を、Aさんがその後にGoogle検索したときの検索結果や広告表示の命中率を上げるために用いる。そんな行為も、今まではGoogle+とGoogle検索の2つのサービスのプライバシーポリシーを満たしていないと説明がつかなかったり、整合性がとれなかったわけですが、ポリシー自体が1つに統一・共通化されていれば、堂々とサービス間でユーザーの個人情報の受け渡しができるようになるわけです。

実際、Googleは"Search, plus Your World"というコンセプトを打ち出し、Youtube等ですでにこれを実装しはじめています。また、今回のプライバシーポリシーの中にも、以下のような規定で「サービス間でまたがって使う」ことを宣言しています。

お客様による情報の共有
Google の多くのサービスでは、お客様は他のユーザーと情報を共有できます。お客様が情報を公開されると、Google などの検索エンジンのインデックスの登録対象になることがあります。Google サービスでは、お客様のコンテンツの共有と削除に関して、さまざまなオプションをお客様に提供しています。

書いてしまうとなんだそんなことか、という感じではありますが、SNSとはすなわちシェア文化の加速であるという本質を端的に捉え、プライバシーポリシーを全サービスで統一するという面倒な作業を厭わず整合性を追求しようという姿勢は、(facebookと並んでプライバシーの取扱いに関して何かと叩かれるGoogleですが)評価してよいと思います。


ポイント2:「収集する個人情報と利用目的」のイノベーション


ポリシー作りに一度でも関わったことがある人は分かると思いますが、「収集する個人情報と利用目的」の明確化は、ポリシーを作成する上でもっとも悩ましい問題です。

法律やプライバシーマーク基準そして顧客保護の視点からは、できるだけ具体的に定義をしろという要請があるわけです。その一方で、具体的に定義をしてしまえばしてしまうほど、後々自由に個人情報が収集できなくなり、変化を余儀なくされるサービスの成長に対する足かせ・制約条件になってしまいます。しかも今回、上記ポイント1にあるように、サービスを横断的に情報が行き来できるよう、全サービス共通化したのですから、そのひとつひとつをすべて定義し列挙していたら、いくら情報の種類を羅列してもし切れない気がしてきます。

そこでGoogleが編み出したアイデアが、“収集する情報の種類”や“利用方法のバリエーション”を定義するのをやめて、“収集する方法”によって情報を定義するという手法

Google は、すべてのユーザーによりよいサービスを提供するために情報を収集しています。その内容は、お客様の使用言語などの基本的情報から、お客様にとって最も役に立つ広告やオンラインで最も重要視している人物などの複雑な情報まで、多岐にわたります。
情報の収集は以下の 2 種類の方法で行います:

・お客様からご提供いただく情報
たとえば、多くの Google サービスでは、Google アカウントのご登録が必要です。ご登録に際して、氏名、メール アドレス、電話番号、クレジットカードなどの個人情報の提供をお願いしています。Google が提供する共有機能をすべてご活用いただく場合は、公開される Google プロフィールを作成していただくようお願いすることもあります。これには、名前や写真などを掲載することができます。

・サービスのご利用時に Google が収集する情報
Google は、ご利用のサービスやそのご利用方法に関する情報を収集することがあります。たとえば、Google の広告サービスを使用しているウェブサイトにアクセスされた場合や、Google の広告やコンテンツを表示または操作された場合です。これには以下の情報が含まれます:
  • 端末情報  Google は、端末固有の情報(たとえば、ハードウェア モデル、オペレーティング システムのバージョン、端末固有の ID、電話番号などのモバイル ネットワーク情報)を収集することがあります。Google では、お客様の端末の ID や電話番号をお客様の Google アカウントと関連付けることがあります。
  • ログ情報  お客様が Google サービスをご利用になる際または Google が提供するコンテンツを表示される際に、サーバー ログ内の特定の情報が自動的に収集および保存されます。これには以下の情報が含まれることがあります:
(中略)
Google は、どの Google サービスから収集した情報も、そのサービスの提供、維持、保護および改善、新しいサービスの開発、ならびに、Google とユーザーの保護のために利用します。Google は、お客様に合わせてカスタマイズしたコンテンツを提供するため(関連性がより高い検索結果や広告を提供するなど)にも当該情報を利用します。

まず冒頭で「その内容は、〜多岐にわたります」と、そりゃ情報の種類はいろいろありますがな!とあっさり言い放った上で(笑)、かと言って何も定義しないわけでなく、「情報の収集は、以下の2種類の方法で行います」という収集の方法論に置き代えてできるだけ具体化する努力をしているのです。

これは、読み手であるユーザーにも抵抗がなく、かつ定義はちゃんとしてますよと主張でき、将来の拡張もしやすい、プライバシーポリシーのイノベーションなのではないかと思います。


ポイント3:クラウドが消す“法人と個人の境界”


データの量や重要性という意味で、SNSでの個人情報の取扱いよりももっと悩ましいかもしれないのが、クラウドの問題です。例えば、ユーザーのデータが外国のサーバーに保存されることもあるという越境性の問題についての規定などは、クラウドサービスを実施されている事業者の法務部門の方は、手探りで文言を検討されていたと思います。

もちろん、クラウドが国境を無きものにするという“越境問題”については、Googleともなればさすがにすでに現行ポリシーでも規定対応済み。しかし、それを超えるさすがGoogle!という問題意識の高さが垣間見える規定が、今回のポリシーから新たに挿入されていました。それがこれ。

Google は、以下のいずれかに当てはまる場合を除いて、個人情報を Google 以外の企業、組織、個人と共有することはありません:

・お客様の同意を得た場合
Google は、お客様の同意を得た場合に、個人情報を Google 以外の企業、組織、または個人と共有します。Google は、事前の同意なしに、機密性の高い個人情報を共有することはありません。

・ドメイン管理者の場合
お客様の Google アカウントがドメイン管理者によって管理されている場合(Google Apps ユーザーの場合など)、お客様のドメイン管理者と、お客様の組織にユーザー サポートを提供する販売代理店は、お客様の Google アカウント情報(メールなどのデータも含む)にアクセスすることができます。ドメイン管理者は、以下の事項を行うことができます
  • お客様のアカウントに関する統計情報(お客様がインストールしたアプリケーションに関する統計情報など)を表示すること。
  • お客様のアカウントのパスワードを変更すること。
  • お客様のアカウントのアクセス権を一時停止または停止すること。
  • お客様のアカウントの一部として保存されている情報にアクセスし、またはその情報を保持すること。
  • 該当する法律、規制、法的手続または強制執行可能な行政機関の要請に応じるために、お客様のアカウント情報を受け取ること。
  • 情報またはプライバシー設定の削除や編集を行うお客様の権限を制限すること。
詳細については、お客様のドメイン管理者のプライバシー ポリシーをご覧ください。(以下略)

注目すべきは、ドメイン管理者への個人情報の開示・コントロール権の付与を保護の例外として明示していること。つまり、クラウド時代になると、ビジネスとプライベートの境界がなくなり、Googleの法人向けクラウドサービスを通じて管理者が従業員個人の個人データを収集したり、逆にプライベートで使っていたGoogleアカウントをビジネスでも利用する人が増えて、会社も個人アカウントを管理するようになるよね、ということを規定に表現したわけです。

「本人が会社と合意して業務目的でGoogleのアカウントをビジネスユースしてるんだったら、本人がドメイン管理者に対してコントロール権を渡したとみなしちゃっていいんじゃないの?」などと乱暴に考えたくもなるところですが、そういった解釈論に逃げず、国境はおろか法人と個人の境界すらなくしてしまおうというクラウドコンピューティングのあり方を真正面から捉え、契約的な解決策を提示した好例ではないかと思います。

2012.1.30追記:
twitterで、こんなご指摘をいただきました。
2012/01/27 17:19:05
「Google アカウントがドメイン管理者によって管理されている場合」とちゃんと前提条件書いてあるのに「クラウド時代になると、ビジネスとプライベートの境界がなくなり」って結論づけたいがために無理な読み方してないか。

ご指摘のようにクラウドが境界を無くすという仮説ありきの発想ではありますが、この例外規定の中でわざわざ「お客様の同意を得た場合」という場合分けと並列に「ドメイン管理者によって管理されている場合」が並べられているのを見ると、「同意を得なくてもドメイン管理者の定義を広めに解釈すれば例外適用可能」というような邪悪方向に拡大解釈する意図と可能性を感じました。この部分については、もうちょっと検討してみたいと思います。


(次回「サービス利用規約」編に続きます)
 

【本】その広報に関係する法律はこれです! ― 広報の法違反リスクあるある大辞典

 
ステマ(ステルス・マーケティング)」騒動をきっかけに広報に関する法律を色々眺めていて、改めて広報や広告って契約書並に法律を意識しないと危ないんだなーと感じました。世の中に対して、わざわざ目だつように文書や動画で企業のメッセージを積極的に発信していくわけで、気づかずに違法な表現や手法をとってしまったら、その反動も大きくなるのは必然。

そんなことを考えているうちに、だんだん怖くなって広報の企画が立てられなくなってしまいそうですが、そんな臆病風に吹かれるPRパーソンに効きそうな一冊がこれ。


その広報に関係する法律はこれです!その広報に関係する法律はこれです!
著者:縣 幸雄
販売元:創成社
(2005-10)
販売元:Amazon.co.jp
クチコミを見る


その名の通り、広報活動のあらゆる側面を切り取って、そこでどんな法律が関わってくるのかを紹介する本。ページあたり2問ずつ、合計280問の設問と回答を通して、やってしまいがちな広報活動における法違反リスクに気づかせてくれます。

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広告の法務というと、景表法の解説ばかりになってしまいがちな中、民法・著作権法・憲法(パブリシティ権、プライバシー権等)・刑法・不競法・商標法・児童福祉法(児童モデル)・道交法(街頭キャンペーン)・鉄道営業法(駅構内でのビラ配り)・屋外広告物法・薬事法・食品衛生法・・・と、よくもまあこんなに幅広く横串に刺してくださったなあと感心してしまうほどの網羅性。類書は見当たりません。

注意点としては、著者がコミュニケーション学がご専門の方なので、例えば、「街中で流れている音楽をマイクで拾って録音してしまった場合、そのまま広報に使ったら著作権法違反」など、やや法律解釈が極端だったり怪しげだったりする部分があるところ。でも写真にもあるように、きちんと関係条文も引用されていますので、「こういうことするとこの法律にひっかかかるリスクがあるかも」というアンテナを立てるヒント・訓練の書として割り切って使えば、とても有用な本だと思います。
 

ザッポスは個人情報漏洩という非常事態での顧客対応もイノベーティブだった

 
オンラインでの靴販売、365日返品可、しかもネット企業なのにコールセンターを通じた顧客対応を最重視するという一見常識破りなスタイルで、Amazonに買収されるまでの存在に成長したザッポス。この企業の顧客との向き合い方や法務としてのスタンスのあり方については、このブログでも2回ほど()取り上げさせてもらっています。そのザッポスで、残念なことに顧客データが格納されたサーバーがハッキングされ、個人情報が漏洩するという事件が起きました。




ここでは、「世界一の顧客対応を目指す」と宣言した会社が、この非常事態にどのような対応を行ったかについて、学んでみたいと思います。


1.社長から従業員への対応指示メールをオープンにした


まず、さすがザッポス流のやり方だなあ、と唸らされたのがこれ。社長が記者会見して頭を下げたり、顧客に対してお詫びのプレスリリースを打つのではなく、社長のトニー・シェイ自ら社員に対してこういう指示をして対応させているよという社内向け指示文書を、一言一句漏らさずコーポレートサイトに貼りつけて、社長自身がtwitterでつぶやいて告知するというこの“ワザ”。少し長いですが、引用させていただきます。

SECURITY EMAIL
The following email was sent to our employees today:


Date: Sun, 15 Jan 2012
From: Tony Hsieh (CEO - Zappos.com)
To: Zappos Employees
Subject: Important - Security
Dear Zappos Employees -

Please set aside 20 minutes to carefully read this entire email.

We were recently the victim of a cyber attack by a criminal who gained access to parts of our internal network and systems through one of our servers in Kentucky. We are cooperating with law enforcement to undergo an exhaustive investigation.

Because of the nature of the investigation, the information in this email is being sent a bit more formally, and unfortunately we are not able to provide any more details about specifics of the attack beyond what is in this email and the link at the end of this email, but we can say that THE DATABASE THAT STORES OUR CUSTOMERS' CRITICAL CREDIT CARD AND OTHER PAYMENT DATA WAS NOT AFFECTED OR ACCESSED.

The most important focus for us right now is the safety and security of our customers' information. Within the next hour, we will begin the process of notifying the 24+ million customer accounts in our database about the incident and help step them through the process of choosing a new password for their accounts. (We've already reset and expired their existing passwords.)

Here is the email that our customers will be receiving:

-------------------------------------------------------------------------

Subject: Information on the Zappos.com site - please create a new password

First, the bad news:

We are writing to let you know that there may have been illegal and unauthorized access to some of your customer account information on Zappos.com, including one or more of the following: your name, e-mail address, billing and shipping addresses, phone number, the last four digits of your credit card number (the standard information you find on receipts), and/or your cryptographically scrambled password (but not your actual password).

THE BETTER NEWS:

The database that stores your critical credit card and other payment data was NOT affected or accessed.

SECURITY PRECAUTIONS:

For your protection and to prevent unauthorized access, we have expired and reset your password so you can create a new password. Please follow the instructions below to create a new password. (以下略)

こういう事故が起こったときに、被害者が会社にぶつけてくる様々な質問は、
「どうしてこういう事故が起こったんだ?」
「問題の解決に向けて、責任者と従業員はどう対応しているんだ?」
「責任はどう取るのか?」
という3点にほぼ集約されます。

このうちの前者2つについて極めてクリアに言及しつつ、全力を尽くして対応するように従業員に指示した社長発信のEメールと、全顧客に送信したお詫び&状況説明メール文を社外にもオープンにしてしまうことで、被害者だけでなく世の中が「そうか、従業員にこういう指示をだしたというなら(しかもそれに裏表がなさそうだし)、後は従業員の対応を見守るしかないか」という比較的落ち着いたモードになりやすいものと思います。

2.コールセンターを塞ぎ、Eメール対応一本にした


日本でこういう事故が発生すると、特別フリーダイヤルを設置し、実際の顧客お詫び対応はコールセンター会社に委託(いわゆる丸投げ)するのがお決まりコース。ザッポスは普段の電話対応を重視しているだけにどう増員して対応するのかな・・・と思いきや、なんと、コールセンターの電話受付を停止するという一見暴挙にも見える行動に打ってでます。

上記1のトニー・シェイから社員へのメールで、その事情が説明されています。

In order to service as many customer inquiries as possible, we will be asking all employees at our headquarters, regardless of department, to help with assisting customers. Due to the volume of inquiries we are expecting, we realized that we could serve the most customers by answering their questions by email. We have made the hard decision to temporarily turn off our phones and direct customers to contact us by email because our phone systems simply aren't capable of handling so much volume. (If 5% of our customers call, that would be over 1 million phone calls, most of which would not even make it into our phone system in the first place.)

感情的には顧客が納得しないことは承知の上で、しかし合理的に考えればコールセンターに全員を狩りだすよりも、eメール対応に集中させるのがベスト、という判断をしたわけです。決してコールセンターを塞いだだけではないこともミソ。ヘタに「世界一の“電話”対応」にこだわっていたら、この判断はできなかったと思います。

3.サービスを全て遮断し、全顧客にパスワード変更を求めた


そして最後に、商品を販売するwebサイトを数日間停止し、全顧客のパスワード変更を求める依頼を即日行ないました。

これも簡単にできるようで、なかなか高度な経営判断だったのではと思います。インターネット通販サイトが顧客のパスワードを強制リセットし、webサイトにアクセスさせないというのは、営業を停止して日銭を捨てるという影響だけでなく、パスワードを変更しない顧客がいた場合にはその会員という資産を捨ててしまうことにもつながるからです。実際、同様のハッキング事故が起きたソニーの件では、事故が発覚した翌日にサーバーを止めるという判断をしたものの、パスワード強制リセットの依頼を顧客にするまでには一週間の間がありました。業績を気にしなければならない経営者としては悩ましい判断ではありますが、これを躊躇なくやったあたりはさすが、と評価してもいいのではないでしょうか。



ハッキングというセキュリティインシデントは、どこの会社でも発生しうるリスクです。しかも、どんなにお金を掛けても、インターネットに接続している以上、100%防止することは不可能。しかし実際コトが発生した時に、何万何十万何百万の顧客対応を事後対応を混乱なく収束させることのできる経営者は少ないと思います。

それだけにセキュリティ部門の高度なサポートが求められるわけですが、ザッポスのような状況に応じた臨機応変で常識やしがらみにとらわれない・かつ合理的というイノベーティブな解決策を考えずに、「世の中で取られているセオリーを踏襲するのがセキュリティ部門の仕事」と考えてしまったら、これまで日本で繰り返されてきたダメ会社のダメ対応と同じ評価しか受けられないのでしょうね。
 

【本】ライセンス契約のすべて 基礎編 ― 実務応用編とセットでよろしくお願いします

 
私も共著者として名前を並べていただいている『ライセンス契約のすべて 実務応用編』のデザインにあわせるように、『基礎編』のデザインがリニューアルされ第二版としてリリースされています。


ライセンス契約のすべて 基礎編 第2版ライセンス契約のすべて 基礎編 第2版
著者:吉川 達夫
販売元:レクシスネクシス・ジャパン
(2011-12-02)
販売元:Amazon.co.jp



初版との内容の差異を比較したところ、帯の説明にもあるIncoterms2010規則のアップデートと、ソフトウェアライセンスの項でGNU GPUライセンスについての言及が少し増えていた点などがありましたが、基本的な構成はほとんど変わっていないので、マイナーアップデートといってよいのではないかと思います。

が、せっかくデザインも実務応用編と揃ったので、これを機会に一家に2冊、お買い求めいただければ関係者として幸甚です。

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※本エントリは、1)関係者である私自身が関係者であることを明らかにした上で、2)優良誤認・有利誤認のない表現でアマゾンアフィリエイトプログラムを通じた購入をご案内にしているに過ぎませんので、ステマ=ステルスマーケティングではございません。しかもこの本も自分で買ってますし(笑)。
 

日本におけるステルスマーケティングの法規制まとめ(追記あり)


食べログさんがやらせ口コミ投稿業者によって被害を受けているとの件が話題を呼び、ソーシャル・ネットワークやブログを使ったステルスマーケティング(=やらせ・サクラによる口コミ)の法規制論にまで発展し始めています。

アメリカではFTCがとっくに明文で規制してるのに、という声も聞かれますが、一旦ここでは日本法においてどうなのか?という点に絞って、メモがてら投稿しておこうかと思います。

商品・サービスを提供する事業者がステマを頼むのは違法


下記消費者庁通達にあるように、商品・サービスを提供する事業者自身がステルスマーケティングを依頼したのであれば、景表法に抵触するということになっています。

平成23年10月28日付「インターネット消費者取引に係る広告表示に関する景品表示法上の 問題点及び留意事項」(消費者庁)
口コミサイトに掲載される情報は、一般的には、口コミの対象となる商品・サービスを現に購入したり利用したりしている消費者や、当該商品・サービスの購入・利用を検討している消費者によって書き込まれていると考えられる。これを前提とすれば、消費者は口コミ情報の対象となる商品・サービスを自ら供給する者ではないので、消費者による口コミ情報は景品表示法で定義される「表示」には該当せず、したがって、景品表示法上の問題が生じることはない。
ただし、商品・サービスを提供する事業者が、顧客を誘引する手段として、口コミサイトに口コミ情報を自ら掲載し、又は第三者に依頼して掲載させ、当該「口コミ」情報が、当該事業者の商品・サービスの内容又は取引条件について、実際のもの又は競争事業者に係るものよりも著しく優良又は有利であると一般消費者に誤認されるものである場合には、景品表示法上の不当表示として問題となる。

この理屈で言うと、今回のケースはヤラセ口コミ業者に頼んだ飲食店が規制の対象となる、ということです。(食べログさんがやらせ口コミ投稿業者を追求すればするほど、食べログの顧客であるはずの飲食店さんの景表法違反リスクが高まり、結果食べログさんも首を絞められるのですが、そこはよろしかったんでしょうか・・・。)

※2012.1.13追記
「優良誤認・有利誤認をさせなければステマは合法です」とのコメントを@issy1080さんから頂きました。ステマという語の定義・捉え方の問題かと思いますが、私はステマを「商品・サービスを提供する事業者(または広告代理店等協力者)が、中立な立場を装って消費者を騙し、“本来は得られない高い評価”を広めようとする行為」と捉えています。事業者らが消費者の優良誤認・有利誤認の効果を狙う手段が「ステマ」なのであって、(最終的に優良誤認・有利誤認で景表法違反とされるかは別として)“優良誤認・有利誤認の効果を狙わないステマはそもそもステマではない”という前提で違法と書いています。

※2012.5.9追記
上記でコメントした通りの見解が「留意事項」に追加され、消費者庁の見解がさらに明確化されました。文書に添えられた「具体的な表示が景品表示法に違反するか否かは、個々の事案ごとに判断されますので、ご留意ください。 」という但し書きが、「すべては消費者庁の胸三寸です」と言っているようにも読めます。

平成24年5月9日付「『インターネット消費者取引に係る広告表示に関する景品表示法上の問題点及び留意事項』の一部改定について」(消費者庁)
第2の「2 口コミサイト」のうち「(3)問題となる事例」に、以下の事例を追加しました。
○ 商品・サービスを提供する店舗を経営する事業者が、口コミ投稿の代行を行う事業者に依頼し、自己の供給する商品・サービスに関するサイトの口コミ情報コーナーに口コミを多数書き込ませ、口コミサイト上の評価自体を変動させて、もともと口コミサイト上で当該商品・サービスに対する好意的な評価はさほど多くなかったにもかかわらず、提供する商品・サービスの品質その他の内容について、あたかも一般消費者の多数から好意的評価を受けているかのように表示させること。


広告代理店は、不当表示を助長しなければセーフ


またこの問題は、有名人を自社が運営するSNSやブログサイトに抱き込んで、彼・彼女らに商品やサービスを宣伝させる(それによって自社サイトの売上・広告収入上昇を目論む)という営業手法を採用するネット系広告代理店さん糾弾の動きにも繋がっています。

これに対して、きっと広告代理店は、「景表法の措置命令の対象は、当該商品・役務を供給する事業者自身である。事業者が不当表示をしないようできる限り注意は払うが、広告代理店やメディアは企画はすれども委託に基づいて広告を出しているだけだから責任はない。」という主張を展開されていくことと思います。消費者庁のQ&Aにも、同様の見解が述べられています。

よくある質問コーナー(消費者庁)
Q3 当社は広告代理店です。メーカーとの契約により,当該メーカー商品の広告宣伝を企画立案した結果,当該商品の品質について不当表示を行ってしまいました。この場合,広告代理店である当社も景品表示法違反に問われるのでしょうか。

A. 景品表示法の規制対象である「広告その他の表示」とは,事業者が「自己の」供給する商品・サービスの取引に関する事項について行うものであるとされており,メーカー,卸売業者,小売業者等,当該商品・サービスを供給していると認められる者により行われる場合がこれに該当します。
他方,広告代理店やメディア媒体(新聞社,出版社,放送局等)は,商品・サービスの広告の制作等に関与していても,当該商品・サービスを供給している者でない限り,表示規制の対象とはなりません。しかしながら,広告代理店やメディア媒体は,広告を企画立案したり,当該広告を一般消費者に提示する役割を担うことにかんがみ,当該広告に不当な表示がなされないよう十分な注意を払ってください。

末尾の「十分な注意を払って」は、広告代理店に何かの注意義務があることを示唆しているようで、消費者庁の思惑が感じられ、気味が悪い部分です。

将来的にはステマを助長する広告代理店規制の余地あり


その消費者庁の思惑と連動するかのような話として、下記高裁判決における“不当表示を行った者”についての裁判所判断を読んでいくと、ステルスマーケティングのやり方や営業の方法によってはその方便も通用しない可能性、すなわち広告代理店も「自ら若しくは他の者と共同して積極的に表示の内容を決定した事業者」として“不当表示を行った者“に含まれる余地が残されているように解釈できる部分があります。

平成20・5・23ベイクルーズによる審決取消訴訟判決(公正取引委員会)
同法4条1項3号に該当する不当な表示を行った事業者(不当表示を行った者)の範囲について検討すると,商品を購入しようとする一般消費者にとっては,通常は,商品に付された表示という外形のみを信頼して情報を入手するしか方法はないのであるから,そうとすれば,そのような一般消費者の信頼を保護するためには,「表示内容の決定に関与した事業者」が法4条1項の「事業者」(不当表示を行った者)に当たるものと解すべきであり,そして,「表示内容の決定に関与した事業者」とは,「自ら若しくは他の者と共同して積極的に表示の内容を決定した事業者」のみならず,「他の者の表示内容に関する説明に基づきその内容を定めた事業者」や「他の事業者にその決定を委ねた事業者」も含まれるものと解するのが相当である。

この事例は、八木通商が作った事実と異なる原産地表示のタグを付けたズボンをベイクルーズ(EDIFICE)が販売した責任に関する事例であり、ステルスマーケティングそのものの事例ではないのですが、景表法の規制対象者について正面から争い、裁判所が広めの解釈に言及した事例として注意したい裁判例です。

報道を見ていると、消費者庁が久しぶりに目立てる仕事が出来た!と色めき立っているようにも見受けられますが、あまり拡大解釈が進むと、ソーシャル・ネットワークやブログの言論の自由までもが脅かされることにもなりかねませんので、冷静適切な対応を望みたいと思います。


さて、本件に関して私が持っている広告法務の本や雑誌を漁ったのですが(↓このあたりやBLJ・ビジネス法務)、類似のアフィリエイト・ドロップシッピング等の問題について述べた書籍や、ベイクルーズ審決について述べた本はあれど、はっきりとこのステマの問題を取り上げて言及しているものが見当たりませんでした。もしこんなのあるよ、という方いらっしゃるようであれば、ご教示頂ければ幸いです。 
 
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【本】なんでコンテンツにカネを払うのさ? ― 著作権はデジタルに勝てないという本を出版社が出し、それがヒットするという皮肉

 
デジタルの特性「劣化しない」「すぐに共有できる」を最大に開放し、著作権を気にせずにコンテンツはコピーOKの世の中にしたらどうなるか。果たして、世の中はより良くなるのか?それともクリエイターが死んでしまうだけなのか?

twitterでありがちな素人同士の与太話でなく、プロのクリエイターとプロの弁護士が、真剣にこのテーマについて2日間ディスカッションした対談が本になったものがこちら。


なんでコンテンツにカネを払うのさ? デジタル時代のぼくらの著作権入門なんでコンテンツにカネを払うのさ? デジタル時代のぼくらの著作権入門
著者:岡田 斗司夫
販売元:阪急コミュニケーションズ
(2011-12-01)
販売元:Amazon.co.jp




私自身も、もう著作権制度の維持を前提とするのは無理があると思ってしまっている企業法務の風上にも置けないヤツです。

そう思いはじめたのは、バンドマンとしてオリジナル曲を創る立場だった自分が、DJをやるようになって他人の音楽を“素材”として扱って自分なりのアレンジやマッシュアップをするようになったことがきっかけでした。これにレッシグの『REMIX』を読んだショックが加わって、一気に著作権終焉論者に。

そんな具体的実感がないという方にも、この本の岡田さんの例え話はわかりやすい。「どんどん引用してくれ」と岡田さん自身がこの本の中で仰っているので、遠慮無く引用させていただきましょう。

野球がクラスでいちばんうまいからといって、そいつは野球で食っていくことは出来ませんね。
野球がうまい奴なんてそこら中にいます。河原で草野球をしている人は多いし、社会人野球で働きながら野球を続けている人もいます。野球だけで食えている人なんてほとんどいないんですよ。
じゃあ、コンテンツの創作はどうなのか?マンガを描ける、楽器を演奏できる、小説を書ける、その程度の能力で、飯を食っていこうというのかと。僕たちの社会が持つ余剰は、そういう能力のある人間をどの程度食わせていくことができるのだろうか?うまいだけなら、趣味でやっていけばいいんですよ。コンテンツを作って食っていきたいというやつに会うたび、「草野球が趣味のサラリーマンみたいに、もっと真面目に生きろよ!」と言いたくなっちゃう(笑)。
創作だけで食っていこうという態度が真面目じゃありません。
野球がうまい奴は、いろんな会社から「ウチの会社に入れよ」と誘われます。そいつが、「僕は営業できないですよ」と断っても、「そんなことはいいから、君は野球やっててよ」と言って飯を食わせてくれる。
僕はこれこそ才能のあるべき姿だと思います。直接お金を稼ぐ才能がないとしても、「才能を含む総合的な人格」で評価されればいいんじゃないでしょうか。


この岡田さんの「そんなにクリエイターやりたいなら、草野球で我慢しているサラリーマンを見倣って副業でやれ」という一見身も蓋もない極論(私にとっては至極真っ当な意見)に、良識派として応じるのが福井健策弁護士。

福井先生もただのおカタイ弁護士とは思われたくないという意地があるのか、著作権法のグレーゾーンについてフレキシブルな解釈を紹介されたり、二人の意見の相違点を発展的に解決する思考実験を披露したりと、必死に「応戦」をされています。このあたりは、著作権やフリーカルチャーに興味をお持ちの法務パーソン・ビジネスパーソンにも読み応えがある部分でしょう。

しかし、福井先生には申し訳ないのですが、やはりこの本の帯にあるとおり、デジタルというパンドラの箱を開けてしまった私達は、デジタルで出来てしまうこと・それを使って人間が本能的にやりたくなること=コピー・パロディ・リミックス・マッシュアップetcを権利で縛ることはできないのだと思います。福井先生は、「そうは言ってもいまは著作権があることを前提に世の中が成り立ち、クリエイターが食べている」「言うのは簡単だが、誰も実証できていない」と、良識派として必死に抵抗されていますが、その抵抗があと10年20年と持つとは思えないのです。


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・・・と、ここまで書いて思ったのが、こんなテーマを本にして出版した阪急コミュニケーションズさんこそが、無駄な抵抗がもはや通用しないことを現場で一番感じている張本人であり、その張本人がこの本を出版したということこそ賞賛されるべきだ、ということ。出版社こそが、著作権を有する著者の媒介者として収入を得ている“デジタルの反対側”にいる人と思われている人たちなのに、その彼らがこの本を出し、変化を自ら肯定したというのは、勇気のあることです。

この本自体、まさにネット口コミによって販売部数を伸ばしていると聞きます。そして、こうして売れていく度に、阪急コミュニケーションズさん自身が、いや他の出版社はもっと強く、皮肉を感じることでしょう。「自分たちの武器でありお守りであったはずの著作権を否定するような本を出版したら、それが大ヒットして収入と評判が得られるなんて」。
 
時代の変化に対し、どうやってソフトランディングをはかるかを考えているより、積極的に変える側に立ったほうが圧倒的に楽しいし、先行者利益も得られるはず。この本のテーマであるフリーカルチャーの発想はレッシグが唱えて以降各所で見られており、もはや新しいものではなくなっていますが、それが机上の空論でなく、ついに日常にも浸透してくる。そんな変化の瞬間に今我々は立ち会っているんだというライブ感を味わうことができるでしょう。

味わっているだけでなく、ライブを演奏する側にならなければ、ですね。
 

ソーシャルネットワーク人格に紐づいた人脈と情報は誰のもの? ― その2 (追記あり)

 
去年の11月にこのブログでも取り上げた「SNSアカウントの人格権」問題について。

前回のエントリで私が取り上げたきっかけとなった事件ではblogアカウントとLinkedinアカウントが争いの主な対象となっていましたが、今回、日本のSNSの中でもメジャーな存在であるtwitterアカウントの人格権に関する新たな事件が起き、asahi.comで取り上げられたことで、日本でも話題になりはじめています。


フォロワー連れ退職「会社に損害」 ツイッター巡り提訴
仕事で使っていたツイッターのアカウントを、退職後もフォロワー(読者)ごと使い続けて会社の利益を損なったとして、米国企業が元社員(38)を訴えた。34万ドル(約2600万円)の損害賠償を求めている。ビジネスでも急拡大するツイッターのアカウントが誰のものかを示す判例となる、と米メディアは指摘している。

ソースについて言及がないのもいかがなものかと思いますが、NYTimesのこちらと思われます。


まだ判決はでておらず、事件の帰趨はわかりません。しかし、私の予想・意見はその1と変わらず、会社も従業員の人格を利用してビジネスをしたんだからお互い様であって、SNS人格に紐づいた人脈と情報は原則従業員個人のものであるべきではないかと。

そういう前提に立たないと、会社としては従業員がSNSで会社に不利益を与える発信をすることをその“可能性の段階”で禁止する=SNSの参加自体を禁止する方向に傾かざるを得ませんし(そんなのはそもそも表現の自由にも抵触するでしょうし)、従業員は自分の身の安全のために、前の会社を辞めて新しい会社に入り直すたびにSNSのアカウント取り直す(もしくはデータすべてを消去する)ようなことになってしまいます。そのどちらも考えたくもないというか、現実味を感じません。
 

なお、今回の事件については弁護士の落合洋司先生が解説エントリを書いてくださっています。労働者側が不利だろうというこの事件に対する見立て部分は私のそれとは違いますが、会社も予め従業員に対してはっきりルールを示しておいたほうがいいよね、という会社としての対策部分は一緒かと思います。
 

2012.12.5追記

この件、和解で決着したとのことです。

Employee/Ex-Employer Lawsuit Over Twitter Account Settles – Phonedog v. Kravitz
Terms of the settlement agreement do not appear to be public, but at a minimum it looks like Kravitz will be holding on to the Twitter account.

和解の条件は非公開ですが、従業員がtwitterアカウントを保持し続けることができたようです。私の予想通り、従業員が実質勝ったと言っていいんじゃないでしょうか。
 

【本】ニンテンドー・イン・アメリカ ― 最高に痛快な法務ドラマがこんなところにあった

 
成毛眞さんが「まだ読みかけだけど面白い」と評していたのをきっかけに手に取ったこの本に、こんなに素敵な法務ドラマが詰まっていようとは。


ニンテンドー・イン・アメリカ: 世界を制した驚異の創造力ニンテンドー・イン・アメリカ: 世界を制した驚異の創造力
著者:ジェフ・ライアン
販売元:早川書房
(2011-12-22)
販売元:Amazon.co.jp



その物語は、ニンテンドー・アメリカが米国でアーケード版「ドンキーコング」をヒットさせた後、これを家庭用ゲーム機“コレコビジョン”の同梱ソフトとして展開しようと、ハードウェアメーカーのコレコ社と提携話を進めていたところから始まります。

主力製品のコレコビジョンを準備していた頃のコレコに、MCAユニバーサルから投資したいというオファーが寄せられていた。
両社の社長が部屋に入ると、ユニバーサルの社長はとたんに本性を現した。―「ドンキーコング」を同梱したコレコビジョンを出荷したら、コレコを訴えると脅したのだ。「ドンキーコング」は『キングコング』のキャラクターを不法使用しているとユニバーサルは考えていた。1通のテレックス(当時はまだ電子メールはなかった)がコレコにこう通告した―「ドンキーコング」の全所有権を放棄し、すべての販売を中止して、このゴリラで得た利益は1セント残らず渡せ。ユニバーサルは任天堂にも同じテレックスを送った。
コレコはコレコビジョンを発売できなくなったら一大事とばかりに、ユニバーサルに利益の3パーセントを支払うことにあっさり同意した。
勢いを増したユニバーサルは、任天堂だけでなく、任天堂が「ドンキーコング」をライセンス供与した他の6社も正式に訴えた。ユニバーサルは2社を除いてロイヤルティを取っていた。(中略)ユニバーサルは、まだ訴訟が始まってもいないうちに、かなりの利益を得ていた。弁護士の力はたいしたものだ。小さな企業は早々に降伏した―ほとんど合法的な窃盗だ。
だが、任天堂は屈さず、これを法廷に持ち込んだ。ハワード・リンカーン(引用注:ニンテンドー・アメリカの法務)は、ジョン・カービィという辣腕の法廷弁護士を雇って任天堂の弁護を開始する。
ここでカービィはカードを切る。1957年に、ユニバーサルは『キングコング』の映画を最初に製作(引用注:原文ママ)したRKO社を訴えたことがある。ユニバーサルはこの裁判で、1933年に製作されたこの映画が、著作権による保護期間が切れてパブリックドメインに入っていることを証明し、勝訴した。つまり「キングコング」は誰でも自由に使うことができ、したがってユニバーサルはキングコングの「所有者」に1セントも払う必要がないと保証されていた。すなわちキングコングは誰も「所有」できないのだ。カービィは訴訟の略式却下を求めて、認められた。

この後数年に渡る訴訟合戦の末、ニンテンドーアメリカ法務とカービィ弁護士らの活躍によってユニバーサルは完全敗訴に追い込まれ、それどころか、それまでの中小企業から搾取していたライセンス料の返還までを求められることになります。一方、このコレコ起用をめぐるいざこざでケチがついたこともあり、任天堂は自社で家庭用ゲーム機を開発することを決め、1983年7月に「ファミリーコンピュータ」を発売。成功を決定的なものにしていくわけです。

しかし、もっと痛快なのは、この法務ドラマがこれだけでは終わらなかったところ。

ハワード・リンカーンは、NOA(引用注:ニンテンドーオブアメリカ)の社外弁護士を振り出しに、同社の上級副社長兼相談役へと出世していき、最後は会長にまで上りつめた。
カービィは、セガール氏と同じく、任天堂から最大級に報いられた人物だろう。1992年、任天堂は小さなピンクのフワフワしたボールが活躍する人気ゲームシリーズを発売する。そのボールの名前は―「カービィ」だ。

そう、法務パーソンがかたやその企業のトップになり、かたやあのヒット作『星のカービィ』の主人公になったというわけ。

星のカービィ Wii星のカービィ Wii
販売元:任天堂
(2011-10-27)
販売元:Amazon.co.jp


企業の法務パーソンがここまで報われた話はいまだかつて聞いたことがありませんでした。もちろん、彼らの貢献はこの訴訟だけではないと思いますし、訴訟大国アメリカだからといえばそれまでですが、日本においても、“企業の行く末を左右しかねない法的争いに地道な調査と頭脳戦で勝つことの価値”がもっと認められれば、法務パーソンやその予備軍である法科大学院生のモチベーションも上がるというものです。いや、私はそれが例えなくとも、自分のプライドとプロフェッショナルとしての意地にかけて頑張りはしますけどね(笑)。ただ、この本を呼んでいて、そういった法務ならではの価値が理解されるだけのアピールの旨さも必要だよな、と思ったりしました。

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その他にも、任天堂/ニンテンドーアメリカの隆盛の陰に隠されたこんな法務ネタの数々も散りばめられています。
  • 『ドラクエ』は、その人気のあまり学校を休んで買いに行く少年らが増加したため、日本では平日に販売できないよう法律で規制された(P99,これは当時の「政府要請」の間違いと思われる)
  • 『テトリス』のライセンスは世界中で偽物が横行しており、アメリカのゲームメーカー大手アタリ社も偽物を掴まされていた。そんな中、ニンテンドーアメリカの社長は自らソ連に赴いて交渉し、正式ライセンスを取得。このとき、ニンテンドーアメリカに対してゴルバチョフを使った妨害工作まであった(P128)
  • 任天堂とソニーの提携により「任天堂プレイステーション」が発売されるはずが、任天堂が発表後に反故に。それでもソニーが「プレイステーション」の名称を使って単独開発に乗り出したため、任天堂は訴訟を起こした(P192)
  • 手厳しいことで有名な任天堂の法務が、ネット上に散乱するブラウザ用のマリオゲームを規制していないのはなぜか。岩田社長曰く、「当社への愛情から何かをした人々を、犯罪者扱いするのはいかがなものかと思う」(P322)

この本そのものの主題は、サブタイトル「世界を制した驚異の創造力」にもあるように。任天堂がいかに少ない資源で知恵を使ってアメリカを舞台に成功を収めたかというもの。特にその成功の礎となったアーケード版「ドンキーコング」が、実はアメリカで2,000台も売れ残ったアーケードゲーム「レーダースコープ」の筐体を再利用し、そのROMを入れ替えただけで実現できるゲームが何かできないかと入社間もない宮本茂氏が考えぬいて作り、当時6名程度だったNOAの社員総出でROMをハンダ付けし直して出荷したものだったなんていうあたりは、臨場感たっぷりです。私はてっきり日本のファミコンソフトを世界に輸出したものだと思ってましたよ。

その主題とはだいぶ外れた読み方かもしれませんが、法務パーソンの士気向上にはこの上なく効く一冊だと思います。新春一冊目のお正月ボケ解消にも持って来いですね。
 

【本】クラウド時代の法律実務 ― クラウド採用に否定的な法務に手を焼くIT担当者への“救いの書”

 
西村あさひ法律事務所が事務所を挙げてクラウドの法律論に具体的に切り込んだ良書。2011年1月に刊行されていたようですが、なんでこの本を最近まで見逃していたのかが分かりません。


クラウド時代の法律実務クラウド時代の法律実務
著者:西村あさひ法律事務所
販売元:商事法務
(2011-01)
販売元:Amazon.co.jp



全体の章だては、以前ご紹介した『クラウドと法』にそっくり、でも違いはくっきり。『クラウドと法』がこれでもかと噛み砕いた表現に、かつ細かい論点には踏み込み過ぎないように配慮しているのに対し、こちらの『クラウド時代の法律実務』は、これでもかと細かい論点に突っ込みまくります。そのきめ細かさ・厳密さの片鱗をご覧あれ。

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もはや脚注の量が本文を凌駕しているという(笑)。この写真の部分がたまたまそうだったわけでもなく、結構な量のページがこの状態だったりします。

また(私の知る限り)他のクラウド法律書には言及がなく、この本のみが具体的に言及する論点があるのも、評価の高いポイントです。
1)クラウド事業者のサーバー上で切片化されたデータは、個人情報にあたるか
2)サーバー上のキャッシュデータは「保有個人データ」に該当するか
3)国境を超える個人情報の移転に関する他国の法制度(EU/米/カナダ/オーストラリア/韓国)
4)弁護士・医師などのプロフェッショナルの秘密保持義務とクラウド利用の限界
5)クラウドにおける知的財産権侵害と準拠法の検討方法
6)クラウドと米国ディスカバリ制度との衝突

さらにここが重要なのですが、その多くの論点における結論は、クラウドのリスクを指摘しまくって後ろ向きな見解を書いて終わりではなく、「難しい問題だけれども、まあこう考えれば大丈夫とも解釈できるんじゃないでしょうか」と、つとめて前向きな見解になっていること。例えば先ほど列挙した1)の結論部分はこう。

個人情報保護法の目的である個人の利益の保護の重要性に鑑みれば、もともと個人情報であるデータの管理をおろそかにしてもよいということはない。しかし、クラウド・コンピューティング事業者のサーバー内にある、識別可能性が失われた、切片化されたデータが漏洩したとしても、その漏洩した切片化されたデータに照合容易性もない場合には、そのデータの漏洩によって個人の人格的、財産的な権利利益が侵害されるおそれはほとんどないと考えるべきであるから、それは個人データの漏洩とはいえず、個人情報保護法の適用はないと考えることが妥当ではないか。

弁護士さんがこれだけ前向きな回答を出そうという姿勢を見せてくれると、それだけで有り難いから不思議です。ITご担当者もまさにこういう答えを法務に期待してるんでしょうねえ(私達もわかってますけど、そればっかりでは仕事にならないんで)。

ということで、クラウドを合法的に採用できる裏付け・理由を探しているITご担当者にとって“救いの書”になることは間違いのない文献です。もし自社の法務の方がクラウドサービスの検討をとり合ってくれないようでしたら、そっとこの本をご紹介されると、態度がころっと変わるかもしれませんよ。
 

【本】パブリック ― ソーシャル・ネットワークのプライバシーを「自己責任」で片付けちゃだめだ

 
今、巷にあふれるインターネットとプライバシーに関する論争を友達同士の会話調に翻訳しなおすと、およそこんなパターンになっていると思います。

A:「Facebookとかtwitterって、気を付けないとプライバシーが脅かされる感じがして怖いよね」
B:「ならやめたらいいじゃん、別にやる義務があるわけじゃないんだし」
A:「だって、イマドキ学生やるにも就職するにもソーシャルネットワークぐらいやってないとさ・・・」
B:「なら、サーチされたりバラ撒かれる覚悟で、自己責任でアップするしかないんじゃない?」


ここ日本では、つい最近まで「プライバシー権とは自己情報をどこまでもコントロールできる権利である」「自分が第三者に開示した情報であっても、望まない相手には伝達されない/知られない権利がある」などというトンデモな風潮が(そしてそれを自己情報コントロール権と名付けて大まじめに唱える学説すら)あったわけですが、さすがにこれだけソーシャル・ネットワークが普及するような世の中になって、そういった論調も聞かれなくなりました(正確に言うと、そういう憲法系学者さんの教科書はまだ沢山存在します)。それに代わって急に台頭してきた感があるのが、上の会話のBさんの発言に見られるような「プライバシーはそもそも開示した自分の責任」説です。2009年にまさに同じようなことをエリック・シュミットが言っていたのも、記憶に新しいところです。

今日ご紹介する本書『パブリック』の著者ジェフ・ジャービスは、"情報主体がプライバシーをどこまでもコントロールできる”という考え方が過去の遺物となった一方で、代わりに台頭しつつある“すべては自己責任”的な考え方は、情報をシェアすることの価値を阻害してしまうという危機感を感じ、そこに一石を投じようと筆を取ったことがわかります。


パブリック―開かれたネットの価値を最大化せよパブリック―開かれたネットの価値を最大化せよ
著者:ジェフ・ジャービス
販売元:NHK出版
(2011-11-23)
販売元:Amazon.co.jp



そのことがよく伝わってくる一節が以下。

こうしたプライバシーの問題は、これまでも、そしてこれからも、人々がお互いにどう接するかという所に戻ってくる。僕らはそれを法律やルールやエチケットやテクノロジーに落とし込もうとする。でも、結局「プライバシー」という言葉にひとつの意味をあてはめるのは不可能ではないかと思うのだ。そのかわり僕は、プライバシーは「倫理」だと信じるようになった。僕はそこに僕なりの定義を見出した。
あなたが何かを打ち明けると、その相手がたとえ一人だったとしても、その情報はその範囲でパブリックなものになる。それがもっとパブリックになるかどうかは、あなたが打ち明けた人次第だ。スティーブが友人のボブに離婚することを打ち明ければ、その知識をどう使うか決めなければいけないのはボブになる。ボブがそれを他人に言ってもいいとスティーブが思っているかどうかを、ボブは確かめる必要がある。ボブは、なぜ自分がそれを他人に伝えるのか―うわさ話でスティーブを傷つけるためか、それともスティーブへの支援を集め、彼を助けるためか―と自分自身に問わなければならない。
反対に、パブリックにすることは、自分の情報を管理する倫理だ。もしサリーが乳癌にかかっているとしたら、彼女はその情報をシェアすることがみんなの役に立つかどうかを判断する必要がある。もしそれをシェアすれば、友人のジェーンが検査を受ける気になるだろうか?サリーの職場や地域で乳癌が急増しているようなら、彼女の新しいデータが問題の原因を突き止める助けにならないだろうか?サリーはシェアする必要はない。だがシェアしないことで、他者が影響をうけるかもしれない。その責任は彼女にある。
だから、プライバシーは誰かの情報を受け取る人の選択をつかさどる倫理だ。パブリックは情報を発信する自分自身の選択をつかさどる倫理と言える。もっと単純に言おう。
プライバシーは「知る」倫理だ。パブリックとは「シェアする」倫理だ。

ジェフ・ジャービス自身が、自己の情報を積極的に開示してメリットを受けてきた経験の持ち主であることから、「もっと積極的に、情報を出す側/受け取る側の双方が責任を果たそうという気概をもって、恐れずに情報をシェアしようぜ」と熱っぽく語るこの本。その姿勢に賛同する一方で、“倫理”というありきたりな言葉で片付けるにはいかにも勿体無い気がしてならないのは、私だけでしょうか。

本書の中で度々引用されるいくつかのプライバシーに関する専門書(ヘレン・ニッセンバウムの『PRIVACY IN CONTEXT(本ブログでは未紹介)』やダニエル・J・ソロブの『Understanding Privacy』など)の理解も、同書に影響を受けて止まない私の目には「著者はどこまで読み込んでこれを書いているのだろうか?」と首を傾げざるを得ない記述も多く見受けられましたし、レッシグの『CODE』を読んだことがある人にとっては「どこまでプライバシー侵害の危険に対してお気楽なんだこの著者は・・・」とびっくりされるぐらいの楽天的な論説が展開されています。彼自身はベンチャージャーナリズムが専門で法学が専門ではないということなので無理もありませんが、硬派なプライバシー法学論を期待すると拍子抜けするかも。

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と、生意気にもやや辛口な批評を述べてしまいましたが、ニッセンバウムやソロブといったまだ一冊も邦訳されていないプライバシー研究者の著作を引き合いに出した点は、まだ彼らに馴染みのない日本のプライバシー研究者に少なからず影響を与えるでしょうし、一方通行にプライバシーを脅かすだけの「マス(メディア)」と双方向に意見や異議を述べる機会がある「パブリック」の違いに着目した上で、
僕はプライバシーをパブリックと競わせるつもりはない、なぜなら、何度も言うが、それらは相反するものではないからだ。プライバシーとパブリックは相互に作用するものだ。プライバシーを「パブリックでないこと」とは定義できないのだ
とするアプローチは、私の次なるプライバシー研究の着想としても大変参考になりました。総論で申し上げると、ネット上のプライバシーに興味・関心があるなら読んでおけ、ということになるでしょう(そうじゃなきゃこうしてブログで紹介なんかしませんし笑)。

ソーシャル・ネットワークブームも一段落した感のある今、一度本書を通じてご自分のネット上でのプライバシーのあり方について整理してみてはいかがでしょうか。
 

web上での利用規約の同意の取り方について、経産省が態度をこんなに軟化させてたなんて知らなかったよ

 
@at1117先生のGoogle+での投稿で、経産省の「電子商取引及び情報財取引等に関する準則」が今年の6月末に改訂されていたことを知りました。不覚です。

「電子商取引及び情報財取引等に関する準則」の改訂について(経済産業省)
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改訂されたのは以下。
・項目の並び順(目次)の修正
・ウェブサイトの利用規約の有効性に関する論点の修正
・未成年者による意思表示に関する論点の修正
・CGM サービス提供事業者の責任に関する論点の修正
・電子商取引の返品に関する論点の追加・修正
・インターネット上の著作物の利用、掲示に関する論点の修正
・国境を越えた商標権行使に関する論点の追加・修正
・法改正、新たな裁判例への対応、その他軽微な修正

この中でもっとも注目すべきは、web上での利用規約の同意の取り方について述べた「ウェブサイトの利用規約の有効性に関する論点」が修正されている点でしょう。

平成22年バージョンでは
インターネット取引はまだ新しい取引形態であり、現時点でウェブサイトに掲載されたサイト利用規約に従って取引を行う商慣行が成立しているとは断定できない。(中略)よって、サイト利用規約への同意クリックなど利用者からのサイト利用規約への同意の意思表示が確認されない限り取引が実施されない仕組みが構築されていない場合には、サイト利用規約に法的効力が認められない可能性が残る。特に、単に同意クリックなどの仕組みがないだけでなく、サイト利用規約へのリンクボタンがサイト内の目立たない場所に小さく表示されているに過ぎないなど、利用者がサイト利用規約の存在に気がつかないであろう場合には、原則として法的効力は認められないと考えられる。

とあったのが、平成23年バージョンではなんと
インターネットを利用した電子商取引は今日では広く普及しており、ウェブサイトにサイト利用規約を掲載し、これに基づき取引の申込みを行わせる取引の仕組みは、少なくともインターネット利用者の間では相当程度認識が広まっていると考えられる。従って、取引の申込みにあたりサイト利用規約への同意クリックが要求されている場合は勿論、例えば取引の申込み画面(例えば、購入ボタンが表示される画面)にわかりやすくサイト利用規約へのリンクを設置するなど、当該取引がサイト利用規約に従い行われることを明示し且つサイト利用規約を容易にアクセスできるように開示している場合には、必ずしもサイト利用規約への同意クリックを要求する仕組みまでなくても、購入ボタンのクリック等により取引の申込みが行われることをもって、サイト利用規約の条件に従って取引を行う意思を認めることができる

見事なまでの180度方向転換です。いや、時代の流れを積極的に反映しようという姿勢はすばらしいと思うのですが、さすがに今回ばかりはいさぎよすぎますぜ経産省・・・。私は以前の準則に忠実であろうと頑張ってたクチですので、なんだか裏切られた気すらします。


さて、この準則の改定については、ちょうど今月発売のBusiness Law Journal No.46で、田辺総合法律事務所の橋本裕幸弁護士が解説をされていらっしゃいます。

BUSINESS LAW JOURNAL (ビジネスロー・ジャーナル) 2012年 01月号 [雑誌]BUSINESS LAW JOURNAL (ビジネスロー・ジャーナル) 2012年 01月号 [雑誌]
販売元:レクシスネクシス
(2011-11-21)
販売元:Amazon.co.jp


橋本先生はこの記事中「少なくとも筆者の過去の経験からいって、購入手続きの途中で利用規約の画面が表示されたため、面倒になって購入を断念した、というようなケースは記憶にないし、周囲の人間(法律家以外を含む)からも、そのような話を聞いたためしはない」とおっしゃっていますが、webマーケティングの世界では、「利用規約を確認しました」チェックボックスにチェックを入れさせるというそのアクションだけでサイト離脱率が数%上がってしまうことは実証されてまして、私自身もそういうリアルな数字を見せつけられて反論に苦慮した経験があります。経産省の今回の準則改定は、こういった離脱率と日々戦うwebマーケティング担当者にとっては、朗報といえるでしょう。

一方で、プライバシー保護のためのオプトインの手続きに関する総務省のスタンスはまったく逆の厳しいものだったり(こちらの過去エントリ参照)するというこの省庁間の温度差はどっちの方向で調整されていくのか、気になるところではあります。

【本】ビジネスパーソンのための契約の教科書 ― 契約は交渉してなんぼという姿勢をいかにして育てるか

 
契約書に書かれた内容を理解し、あきらめずに相手と交渉して有利な条件で契約することがいかに大切か。法務について詳しくなくても、1回でも契約で痛い目にあったことがあるビジネスパーソンであれば身にしみて分かるその重要性を、それまで痛い目にあったことがないような“無垢なビジネスパーソン”にどうしたら理解してもらえるのか?

twitterを中心にネットでの露出も多く、その豊富な国際ビジネスの経験と親しみやすい解説ぶりで定評のある福井健策先生のソリューションがこの本です。


ビジネスパーソンのための契約の教科書 (文春新書 834)ビジネスパーソンのための契約の教科書 (文春新書 834)
著者:福井 健策
販売元:文藝春秋
(2011-11-18)
販売元:Amazon.co.jp


前半はコラム風であり、後半は明らかに契約の実務ガイド風。
目指したものは、(毎度身のほど知らずとしか言いようがありませんが)「契約の教科書」でした。教科書には実践的な知識と共に、「何のためにそれを学び」「その知識をどう用いるか」が書かれているべきだからです。

このあとがきにあるとおり、前半の約100ページは
・ウルトラマンの国際ライセンス契約にまつわるにわかには信じがたい失敗事例
・ディズニーやハリウッドのようなメジャーを相手にした国際契約交渉場面での“あるある”ネタ
・あなたも利用しているはずのYouTube・Facebookなどネットサービスの利用規約
の3つを主な題材に、「何のためにそれを学び」を理解させるためのコラムに、

そして後半の約100ページは、この本に関する文藝春秋と福井先生との出版契約書(ただし架空のもの)をサンプル契約書に見立てて、
・「契約書」「覚書」などのタイトルの違いは効力に変化を及ぼすか
・「甲乙丙丁」の略称が使われるワケ
・「責に帰する」「不可抗力」「催告」「解除」などの最低限の契約書用語の知識
・書面と印鑑の知識
といったポイントについて、これ以上そぎ落とすのは無理!と思えるほどコンパクトに「その知識をどう用いるか」を解説する実務ガイドになっています。いずれのパートにおいても、それらの知識を使って(初心者なりにであっても)きちんと内容を理解し、相手方と交渉をすることの重要性が説かれているのが印象的です。

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この本を読みながら自戒したのですが、毎日契約書に触れる法務部員ならいざしらず、(幹部社員でもない限り)ビジネスパーソン一人ひとり当たりで考えれば重要な契約に出くわすシーンというのは1年に2〜3回あるかないかです。そんな頻度しか必要とされない知識を、法務パーソンと同等レベルに叩きこもうと考えること自体間違いなのではないか、この本の後半の実務ガイドレベルがせいぜいなのではないか、と。
だとすれば、重要な契約書に頻度多く遭遇するであろう幹部社員にこそ研修などで条項レベルでの具体的リスクを叩きこむべきで、メンバークラスの従業員に対しては、この前半のコラムが教えてくれる「何のために契約書の知識が必要なのか」を伝え、必要に応じて幹部社員や法務に相談しながら相手方ときちんと相手方と交渉しようという“姿勢”さえ作れば十分ではないかと。

そして、そんなメンバークラスの“姿勢”を引き出す題材として、ウルトラマン・ディズニー・YouTubeといった誰にでも親しみのあるネタを用いることの効果の大きさを、この本で再確認した次第です。なんてったって、この手の「契約はいかに大事か」という本を何十冊も読んでもう飽き飽きしているはずの(笑)私が面白く読めたのですから。難しい話に興味を持ってもらうにはどうしたらいいかの見本を見せて頂いた気がします。


最後に、法務パーソン向けの蛇足を。

このような削ぎ落としに削ぎ落した200ページあまりの初心者向け「契約の教科書」にもかかわらず、うち7ページも割いて福井先生が最も力強く訴えられているのが、準拠法と裁判管轄条項を交渉することの重要性であるという点は、法務パーソンとして強く認識しておく必要があると思います。

私もこのブログでこの2点にはこだわって交渉すべきというエントリをいくつかアップしていますが、日頃現場に偉そうに契約知識をどうこう語っている私たちが、相手方とのネゴを面倒くさがる現場にほだされてこの2つの条項を交渉することを怠っているとしたら、それは会社に対する背信行為と言っても過言ではありません。ピンとこない方は、是非本書P63以降をお読みになることをお薦めします。
 

【本】アジア労働法の実務Q&A ― アジア新興国労働法の比較表がついにできました

 
ここ数年でグローバル展開をはじめた日本企業が、中国以外のアジア主要国にも拠点を出し、現地採用をはじめてしばらくたったぐらいの、ちょうど今をとらえた待望の書。


アジア労働法の実務Q&Aアジア労働法の実務Q&A
著者:安西 明毅
販売元:商事法務
(2011-11)
販売元:Amazon.co.jp



インド・インドネシア・シンガポール・タイ・ベトナム・マレーシア計6カ国について、序章で大まかな比較をしたうえで、1カ国あたり70-80ページずつ使って、各国の法体系・労働関連諸法の概説・Q&Aという構成でまとまめられています
はしがきにこの本のウリが凝縮されていますのでご紹介。

中国に関しては、多くの日系企業が既に進出していることもあり、中国の労働法を日本語で解説した文献も多く見られるものの、その他のアジア諸国の労働法については日本語による解説書は極めて少ない。さらに、各国の労働法について一覧性がある文献はほとんど見当たらない。
このような点を踏まえ、本書において工夫した点は、まず一覧性である。日系企業がアジアの一国だけに進出していることはあまりないため、各国の包括的、比較的な視点が必要である。この点を考慮して、できるだけ質問の項目を揃え、また最初に比較表を作成し、各国ごとの特徴が明確になるよう工夫した。

私も仕事がらアジア各国の労働法は進んで調査し学ぶようにしていますが、いざ専門家が書いた信頼のおけるアジア労働法の解説書を探してみると、これがほとんど見当たらなかったりします。たとえば今大人気の国シンガポールをとってみても、解雇に正当事由が不要など法律が会社側に有利にできており、そもそもビジネス上問題となる法的論点が少ないことから、それを解説する法律書もほとんど存在しないのです。それ以外の国についても、日本のように書籍文化が発達しているわけもなく・・・。欧米労働法の比較ならいざしらず、アジア新興国労働法を比較した信頼できる文献は、私が知る限り、“GETTING THE DEAL THROUGH”シリーズぐらいじゃないでしょうか。
そんな状況下、これだけ綺麗に情報が整理された本が日本にいながらにして入手でき、しかもそれが私たちの母国語で読めるということに、大袈裟かもしれませんがありがたみすら感じます。巻末付録になっているこの各国労働法制比較表を手に入れるだけでも、¥5,600(税別)払う価値があるというものです。

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もう1点、著者の顔ぶれがおもしろい。森濱田松本の小山洋平先生・塙晋先生、三宅山崎法律事務所の中山達樹先生、アンダーソン毛利友常の安西明毅先生、Rajah&Tann法律事務所在シンガポールの栗田哲郎先生という、アジアに留学・駐在経験をお持ちの5人が、事務所の垣根を超えて持てるノウハウを注ぎ込んでくださっています。ふたたびはしがきより。

執筆者らが、出向、勤務している(していた)現地法律事務所で実際に受けた労務相談の内容、現地法律事務所の労働法の専門家の意見を踏まえることで、法文上の議論だけではなく、実務の観点からの解決策を提示できるよう心掛けた。
本書の執筆者は、それぞれアメリカ・アジアのロースクールで学び、そして、アジアで出会って集った日本法の弁護士である。日本法の弁護士として、これから日系企業におけるアジア進出を支援していきたいという志のもと、意気投合した仲間である。

数か月後には、同じようなコンセプトの本が雨後の筍のように出版されることでしょうが、そのいずれもがこの本のパクリに見えてしまうであろうほどの完成度。著者の一人中山先生のブログによれば1年がかりだったそうですが、このような難しいプロジェクトを、他に先駆けていち早くまとめ上げて世に出してくださった5人の先生方に感謝して、大切に使わせていただきます。
 

ソーシャルネットワーク人格に紐づいた人脈と情報は誰のもの?

 
週末に個人的なプロジェクトに関するリサーチをしていたところ、退職した従業員と企業との間のソーシャルメディア上の紛争事例として興味深いものを2つ見つけました。

1)SNSのアカウント情報を会社に返還させられた事例

Court requires fired social media employee to return usernames and passwords(Internet Cases)

在職中“ソーシャルメディアプロデューサー”を担っていた従業員が運営していたblog・Facebookページ・Twitterカウントについて、企業から管理者としてのアカウントログイン情報の提出を求める仮処分が求められ、認められた話。
2)LinkedIn上の人脈情報・メールデータを会社に返還させられた事例

Court orders ex-employee to hand over LinkedIn contacts(The Telegraph)

退職した会社から、在職中にLinkedIn上で構築した人脈・メールデータ等を引き渡せと訴えられ、労働者が敗訴した話。


ご存知の通り、FacebookやLinkedInは、他のSNSに比べて厳格な実名主義を採用しています。実名を明かした責任の所在の明確な形で担当者が企業の顔としてネット上で顧客と直接つながることにより、ユーザーはこれまでのネット上のやりとりにおける不安感・不信感が払拭されることから、企業のマーケティングツールとして好意的に受け入れられるようになってきました。

従業員の立場から見た場合、冒頭の例のように企業のFacebookページの管理人を務めたり、LinkedInを会社業務で利用する際には、自分自身のソーシャルネットワーク上の人格を所属企業に“レンタル”している感覚があると思います。それによって、望むか望まないかにかかわらず、自分のネットワークにビジネス由来の人脈が混ざってくるでしょうし、メールボックスにはプロジェクトの交渉経緯や請求のエビデンスとなる“価値ある情報”が自然と紐づけられていくことになります。

さて、ここで問題発生です。このように個人の人格・信用をベースとしたソーシャルネットワーク上の企業活動の結果・成果として、その従業員個人のソーシャルネットワーク人格に紐づいて蓄積されていくこれらの“価値ある人脈と情報”の持ち主は、一体誰になるのでしょうか?

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そのものズバリを規定する法律はもちろんありませんが、関係がありそうなものとしてすぐ思い浮かぶのは、著作権法と不正競争防止法です。
メールデータなどは、会社が会社の命令として指示し作成させた文書なのであれば、職務著作として会社に所属する著作権をもとに従業員に返還(現実には複写して提出・使用の差し止め・削除)するよう要求することが理論上可能です。しかし、実際にどれが職務著作なのかを特定するのは難しいと思います。これがさらに人脈情報となると、誰かと誰かがくっついているというステータス情報に「著作物性」があるとは思えませんので、著作権法を根拠とした請求は難しそうな気がします。
では、不正競争防止法の営業秘密という構成で、人脈情報の利用差し止め等を求めることはできるでしょうか?これもよくよく考えれば、そもそも公開が前提のソーシャルネットワーク上の情報では、営業秘密の要件としての「非公知性」がありませんので、適用は無理でしょう。

この二法が適用できないとして残る手段は、一般法としての民法上の不法行為に基づく損害賠償請求等ですが、会社として従業員のweb人格を利用しておきながら、「不法行為性」を主張するのは無理筋かと思います。フツーの裁判官からみれば、お互い様でしょ?という判断になるんじゃないかというのが私見です(その他アプローチによっては商標法も論点がありそうですが、ここでは割愛)。


以上を踏まえると、企業の立場からは法律を振りかざした防御策をとるのは難しそうです。企業が従業員個人の人格・信用を利用して営業活動をする以上、ある程度の“価値ある情報”が個人の人格に紐づくのもいたしかたなしと、覚悟をしたうえでやらせるべきと私は思います。

その上で、冒頭ご紹介した外国紛争事例を反面教師とすれば、退職時にあわてて情報を取り上げようとするのではなく、予め従業員と特約を結び、ソーシャルネットワーク人格で実施した業務により従業員が得た成果を定期的に報告させて、さらに本人とは別に会社としても情報をバックアップしておくべきなのでしょう。

いや、そもそも論として、企業として持っていかれたら困るような“価値ある情報”であるというのなら、FacebookやLinkedInの従業員個人アカウントで取り扱わせること自体を再考する方が、現実的かもしれません。

「自炊代行利用禁止」の奥付表記を集めてみた

 
最近刊行された本の奥付を見ると、一般的な著作権(出版権)侵害行為に対する警告だけでなく、具体的に自炊代行業者を利用したスキャン・デジタル化の制限に言及しているものが増えています。

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出版社ごとの定型文言になっているところを見ると、著者の意向ではなく、日本書籍出版協会の呼びかけに応じた出版社の一方的な意向で入れられている文言なのでしょう。しかし、著作権法上認められた私的使用のための複製を出版社に禁止されるいわれなどありませんし、ご案内の通り、代行業者を利用すると私的使用のための複製に当たらなくなるという判例も、いまだ存在していません。にもかかわらず、「禁じられています」「認められておりません」「著作権法違反です」と断言される出版社の多いこと多いこと・・・。いろいろな意味で面白いので、せっかくの“企業努力”の姿、私が最近購入した本の奥付から引用してここにご披露させていただこうと思います。

他にも、こんな出版社がこんな面白いの入れてるよーというのがありましたら追加していきますので、どしどしコメント欄にお寄せください。


■講談社
本書のコピー、スキャン、デジタル化等の無断複製は著作権法上での例外を除き禁じられています。本書を代行業者等の第三者に依頼してスキャンやデジタル化することは、たとえ個人や家庭内の利用でも著作権法違反です。

■東洋経済新報社
本書のコピー、スキャン、デジタル化等の無断複製は、著作権法上での例外である私的利用を除き禁じられています。本書を代行業者等の第三者に依頼してコピー、スキャンやデジタル化することは、たとえ個人や家庭内での利用であっても一切認められておりません。

■中央公論新社
本書の無断複製(コピー)は著作権法上での例外を除き禁じられています。また、代行業者等に依頼してスキャンやデジタル化することは、たとえ個人や家庭内の利用を目的とする場合でも著作権法違反です。

■星海社
●本書のコピー、スキャン、デジタル化等の無断複製は著作権法上での例外を除き禁じられています。●本書を代行業者等の第三者に依頼していスキャンやデジタル化することはたとえ個人や家庭内の利用でも著作権法違反です。


【本】AUDITING CLOUD COMPUTING ― クラウド導入と取締役の経営責任

 
「うちの業務システムにもクラウドを導入して、ITでイノベーションを加速するのだ!」こんな経営者のカタカナキーワード経営方針に、多くのシステムセキュリティ担当者と法務担当者が悩まされていることと思います。

クラウドサービスを使ってセキュアなシステムを構築するのはシステム部門の仕事ですし、その法的リスクへの対策を検討するのは法務部門の仕事です。しかしながら、経営者の皆さん自身は、クラウドを導入することが自分たちにどのような経営責任を生じさせるのかを吟味した上で、彼らに導入の指示を出しているのでしょうか?おそらく、多くの経営者が「セキュリティリスクができるだけ低いクラウドサービスをシステム部門に選ばせればいいだろう」「それでも低減・回避できないリスクは契約で移転させる、それは法務部がちゃんとチェックしている」ぐらいに思っているのでは。

そんな“おまかせモード”な経営者のみなさんは、試しにこんな質問を投げかけたら、答えられるでしょうか。
「監査役や外部監査人から、クラウド周りの監査において損失の危険の管理に関する体制をどのように構築しているか質問されても、答えられる自信がありますか?」
「株主に対し、内部統制に関する責任を負う者として、リスクを犯してでもクラウドを導入する合理性を自分の言葉で語れますか?」

答えられなさそうな方に、この本をご紹介します。

Auditing Cloud Computing: A Security and Privacy Guide (Wiley Corporate F&A)Auditing Cloud Computing: A Security and Privacy Guide
著者:Ben Halpert
販売元:Wiley
(2011-08-09)
販売元:Amazon.co.jp



以下裏表紙にあるsynopsesより。
Designed to help you audit the security and privacy of your hosted services, Auditing Cloud Computing answers your Cloud-related questions, including:
  • Is the Cloud secure enough to house my data?
  • What kind of data shouldn't be stored in the Cloud?
  • What are the key regulatory issues?
  • Why do I need to establish a governance model before using the Cloud?
  • What steps do I need to take to remain in compliance?
  • What are the causes and effects of regulation?
  • What are the real and perceived risks and benefits?
  • How do I balance business risk and business opportunity with the appropriate internal audit?
  • What are the traditional lifecycle management techniques?
  • What are the Cloud's benefits over traditional IT outsourcing?
  • How do I manage my company's service agreements?
  • What is the future of regulation?
  • What's holding Cloud Computing back?

これまでのオンプレミスな業務システムの監査では、あくまで主は社内にあり、従者としての業務委託先の選定基準・支払い・個人情報の取扱いの適法性程度の監査項目しかなかったものと思いますし、その程度であれば部門監査レベルで済み、取締役の経営責任・内部統制システム構築義務と直接紐付けて問われるものではなかったと思います。しかし、クラウドの全社導入ともなれば、業務システムと情報資産の大部分を他者に預けることとなるわけで、取締役会としての「重要な業務執行の決定」が必要と言わざるを得ないでしょう。
この点、先日ご紹介した『クラウドと法』にも、
クラウドの導入については、法律実務家レベルでは、内部統制体制の整備に関する事項として(会社法362条4項6号・5項、会社法施行規則100条1項)、取締役会決議が必要と考える方が多いようです。(P96)
と言及されています。
多額の固定資産・ソフトウェアを購入してシステム構築していた時代は、その金額インパクトである程度意識できていたことが、クラウドがすべてをランニングコスト化してしまうことで、見えなくさせてしまっている気がするのですが…。


日本語で読める文献ではまだクラウド導入に対する監査の目線を詳しく述べた本が見当たらず、血眼になって探してようやく見つけたのがこの本。おそらく、日本語でこの手の本が出版されるのはもうちょっと先でしょうから、今からこの本で予習しておかれるのが吉かと。

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社内にシステムを抱えるより初期費用・人件費が安く済む、スケーラビリティが確保できる、社外からのシステムへのアクセスが容易になる・・・クラウドがもたらすメリットの大きさにすぐに飛びつきたくなる気持ちは分かりますが、その代償として自らの経営責任が重く問われるということを自覚し、冷静に検討する時間をお持ちになってもよろしいのではないかと存じます。
 

【本】クラウドと法 ― 敢えて端折る技術

 
これは文句なしの名著。


クラウドと法 (KINZAIバリュー叢書)クラウドと法 (KINZAIバリュー叢書)
著者:近藤 浩
販売元:金融財政事情研究会
(2011-10)
販売元:Amazon.co.jp



書店で活字の大きさと広めの行間を見、やわらかい筆致の第1章をさらっと読んだ限りで、「ライトな感じでクラウドまわりの法律知識を概観できる本かな〜、まあなんか1つや2つは得ることもあるだろう。」ぐらいの期待で購入したのは、失礼極まりない態度でありました。

クラウドを導入・利用することの取締役としての内部統制上の責任論に始まり、セキュリティ・個人情報保護法、米国愛国者法などの外国法、裁判管轄と準拠法(eディスカバリ含む)、著作権など幅広い法的リスクをかつやさしい言葉で解説した上で、

最終章では、反対にクラウドを提供する事業者の立場から守るべき法としての電気通信事業法、プライバシー権、プロバイダー責任、警察機関や弁護士紹介等情報開示依頼への協力義務・・・と、要所要所で代表判例にも触れたりしながら、細かい所には突っ込み過ぎない程度にまんべんなくクラウドにまつわる法的課題を紹介しています。

これまで出版されてきたクラウド法の本は、そのほとんどが情報セキュリティリスクをどう捉えて処理するかという話題に終始しており、その他の知財リスク・国際法リスク・業法リスク等はオマケ程度の解説にとどまっていました。しかし、いまやクラウドに関しては法務パーソンのみなさんが「セキュリティリスクはもう分かった。むしろそれ以外で、法務パーソンが気付きにくい・忘れがちなリスクがもっとあるんじゃないの?」という不安を抱えている状態だと思います。この本は、その「セキュリティ以外のクラウドリスクいろいろ」に対する不安をもきれいに解消してくれる本なのです。

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特に圧巻だったのは、国境をまたいだサービスの法的ややこしさと恐ろしさについて、丁寧に噛み砕いて説明してくださっているP117-153の第6章。東京青山・青木・狛法律事務所でクロスボーダー案件のトップを担うパートナー弁護士の近藤先生が著者だからこその、この本の一番の読みどころです。私がクラウドリスクの中で一番回避しようがない重たいリスクと思っているのがこれなのですが、国際私法の基礎から説明していたら1日かけても理解してもらえないであろうこのテーマを、法務の心得があまりない経営者(笑)の方でも一読して十分に理解できる内容にまとめています。特にIT系の経営者の方にはぜひお読みいただいて、まずご自身がコトの重大性を理解頂いた上で、クラウド商売を展開していただきたいなあと。

それにしても、“本当に分かっている人”が、敢えて重要でないところを端折って書いてくださると、あれだけ複雑で捉えどころの難しいクラウドリスクもこんなにすっきりと、文字数少なく整理できるんですね!感動しました。

これで1,800円、安いなあ。
 

日経新聞に取材記事掲載

 
昨日2011年10月17日(月)付け日経新聞19面、三宅伸吾記者によるコラム「法務インサイド 書籍の電子化『自炊代行』相次ぐ」に、ちょろっと私の名前がでています。普段は日経新聞を読まない私ですが、さすがに駅売りで購入しました (笑)。

法務インサイド 書籍の電子化『自炊代行』相次ぐ(日経新聞)
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三宅さんにはこのブログを御覧頂いて接触を頂きました。今回、自炊代行という法的には決着のついていないグレーゾーンに触れる話題のため、仮名の使用もご提案いただきましたが、私としては自炊代行をやましいことと考えていないので、合法派としてあえて実名で登場。さすが全国紙だけあって、いろんな方から「名前出ててビビった」とのお声をいただきました。それにしても皆さん隅々までよく読んでいらっしゃいますね!

取材でお話したことのほとんどはカットされてしまい、単なる「東京駅近くに勤める本好きのサラリーマン」になってしまいましたが(苦笑)、カタめの著作権法学者のみなさんが違法見解を連発される中、日本的な「空気読め」感だけで自炊代行が潰されるのは私も困るので、今後も三宅さんの力をお借りして微力ながら“世論の正常化”に寄与できればと思います。
 

【本】就職、絶望期 ― 法務のキャリアパスは八方塞がり

 
雇用の常識「本当に見えるウソ」』以降、様々な出版社からリリースが続いた海老原さんの「就職・転職論」ここに極まれり、といった感じ。


就職、絶望期―「若者はかわいそう」論の失敗 (扶桑社新書 99)就職、絶望期―「若者はかわいそう」論の失敗 (扶桑社新書 99)
著者:海老原 嗣生
販売元:扶桑社
(2011-09-01)
販売元:Amazon.co.jp



新聞・旧メディアが騒ぎたて、行政(というか民主党)が乱発する“就職弱者救済のためのつぎはぎの施策”や、それに対してエリートホワイトカラー層が信奉する「解雇規制の緩和」「欧米型職務給への移行」のどちらもが、いかにピントがずれた解決策であるか、さらに「年寄りは全部ダメ、若者は全部かわいそう」という世代間論争がいかに失当であるかを、データやグラフを次々繰り出し解き明かす快心作。

  1. 高年齢になるにつれて平均勤続年数が長く、転職率が低くなるという構造は、流動性が高いと思われている欧米においても実は同じであり、45歳以上での転職率は日本同様10%を切っている。

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  3. 失業率も、欧米・日本ともに高年齢になるにつれて低くなり、しわ寄せが若年者に寄せられる構造も同じ。日本の若年者の失業率はまだマシで、大卒者が就職先を選り好みしている点を見なおせば改善の余地もある。解雇規制の厳しい日本より、むしろ欧米の方が若年者の失業率は高い。

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  5. ホワイトカラーのような職務難易度の高い職務であればあるほど“経験年数”がものをいうので、職務給にしたところで、採用しやすくなることもなければ熟年と若年の給与格差も狭まらない。日本でまだ今は高止まりしているエントリーレベルの職務にある熟年者の給与をさらに下げる方向に働くだけ。

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  7. 欧米では、慣行としての「セニョーリティ(勤続年数が長い人ほど解雇対象とならない)」と法律としての「年齢差別禁止法」の両面で、実は日本よりも熟年者が保護されている。


1〜3は雇用慣行が違えども結果は同じになることを示しており、4についても09年の雇用対策法改正(改悪)に見られるように、日本も流れとしては同じ方向に傾いています。日本型の<終身雇用+メンバーシップ型雇用>を捨てて<解雇規制緩和+ジョブ型雇用>を採用したところで、労働市場において熟年者が優遇されやすい構造は変わらないし、問題の本質はそこにはない、ということを述べています。


では日本は、企業は、そして労働者はそれぞれどうすればいいのか?前二者についてはこの本をお読み頂くとして、労働者の立場について考えさせられた一節を引用して紹介させていただこうと思います。

ビジネスマンとは、各業界に細分化された「職人」でしかないということなのだ。これを「ビジネスマン」と一言で括るから汎用性が広く思えて、勘違いをしてしまう。
銀行も商社もメーカーも高度な職人であり、熟練に15年はかかる。それを40歳近くになって宗旨替えすることなど難しい。つまりスペシャリティを磨いたからといって、自由に次から次へと会社を選べるなどということは(40歳近くにもなれば)ほどんどあり得ないことなのだ。
では、同業内であれば、一社に縛られず、自由に生きられるか?これも実はけっこう難しいといえる。まず、ホワイトカラーの仕事は単独ワークではなく、たいていの場合、集団での業務となる。下っ端の時は、他者からの転職も構わないが、集団の上に立って人を指導するとき、「下にいる部下の素性がわからない」「横で連携すべき多部署の人とコネがない」ということがけっこう致命的となる。そして、その会社特有の意思決定メカニズムに慣れていないこともマイナスに働く。
結局、ハイパーを目指す人たちは、(突き抜けて経営幹部クラスにならない限り)、その多くが会社に従属して生きていくしかなくなる、それは、世界中の熟年層の転職率の低さからも窺えるだろう。

法務パーソンにとっては、純粋に法的な専門性よりも結局業界経験が一番重要なのであり、キャリア形成においてはどこの業界を選ぶかがポイントであるということは、私も最近ブログに書いていたところです。が、海老原さんはビジネスパーソンはすべからく熟年になればなるほど(業界どころか)企業に縛られるのが宿命であると仰っているわけです。

では、企業とも業界とも心中したくないビジネスパーソンはどうすればいいか?海老原さんは、中途半端にスペシャリストを目指してつぶしがきかなくなるよりも、エントリーレベル人材にあえてとどまることで「そこそこの自由」=流動性を確保した方がいいのでは、と説きます。どこかで似たような話を読んだなあと自分のブログを辿ったら、この本にも書いてありました。やはり真理なのでしょうか?

一方で、仮にエントリーレベル人材に甘んじることを受け入れようにも、業界特有性のない法律知識だけで解決できるような法務業務であれば、大増員した弁護士がリーズナブルに担ってくれる時代に突入しつつあったり・・・。いつの間にか、法務のキャリアパスは八方塞がりになってしまったようです。
 

【本】暴力団排除と企業対応の実務 ― 暴排対策の赤盤/青盤、あなたはどっち?

 
さて、東京都暴力団排除条例が施行されて初の営業日。みなさん如何お過ごしでしょうか。

先週末、某リアル書店でこの青い表紙を見て、先月買ったばかりの赤い表紙が脳裏をよぎり「あ、もう第二版出てる、やられた!そっかー10/1から暴排条例施行だもんなーアップデートするわなー」と悔しさに唇を噛みながら中身もロクに見ずにレジに持って行き、購入したのですが、

s-4-7857-1914-2暴力団排除と企業対応の実務
販売元:商事法務
(2011-10)
販売元:Amazon.co.jp





家に帰ってみると・・・あれ?似てるけど違ったんですね!

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「政府指針」を具体的な実務に落としこむとどうなるかを、734個のQ&Aで徹底的に語りつくした“”に対し、今回の“”は、「東京都暴排条例」に適う体制をどう構築するかを順を追ってマニュアル化してくれた感じの本になっているのです。

BLJ2011年9月号の暴排特集で“”がオススメされていて買ってはいたものの、正直、Q&A形式の法律書はQAからこぼれた穴を他で埋めなければならず体系的な理解ができないところがあまり好きじゃないもので、このブログでは紹介してなかったんです(いや、中身の濃いしっかりとした本だとは思います)が、こっちの“”はまさに体系的に企業が何をどう実務対応すべきかを説いてくれているので読みやすく、頭にすっと入ってくる感じでした。

しかも中盤以降には
・金融 (銀行/証券/生命保険/損害保険)
・製造販売(自動車/OA機器)
・施設利用
・不動産
・建設・土木
に分けて、業界ごとにどんな対応をとっているかを紹介してくれています。同業界に所属される方には垂涎モノではないでしょうか。

この業界ごとの具体的対応が盛り込まれている点に加え、東京都内において経済活動を行う企業であれば(行わないと言い切れる事業者は少ないと思いますが)つまるところ暴排条例を守れる体制ができていればOKのはずなので、“”か“”かどっちか一冊しか買わないとしたら、私は“”をお薦めしますね。


そうそう、赤盤と青盤と言えば・・・

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私、何を隠そう大学時代は「ビートルズ研究会」的なコピーバンドサークルに入ってたりしました。ビートルズマニア同士の酒の席では、周期的に赤盤と青盤のどっちが好きかについて論争になるんですが、その時も青盤を推してたなあ。

違うか(笑)。

 

【本】契約用語使い分け辞典 ― 「速やかに」VS「遅滞なく」論争勃発?(追記あり)


昨日までAmazonで「お取り扱いできません」になってたので紹介を控えてましたが、昨日ようやく再入荷したようです。書店にはあまり置いていないので、Amazonでの再売り切れは必至でしょう。


契約用語使い分け辞典契約用語使い分け辞典
販売元:新日本法規出版
(2011-08-30)
販売元:Amazon.co.jp



日本組織内弁護士協会に所属し、インハウスローヤーとして生の企業法務実務に携わった経験を持つ35人の皆さんが共同執筆されているというのが、よくある契約用語辞典にはない強み。巻頭にあるプロフィールで顔ぶれ・所属組織名を拝見すると、面識のある方、業界内で評判を聞く方、Twitterでよくお見かけしたことのあるお名前もちらほら。

これだけの顔ぶれによる契約用語辞典が出版された意義として、大きく分けて2つあると思います。
1)企業法務の現場で頻出する「知ってるつもり」の契約用語をしらみ潰しに確認できる
2)「法的に定義が明確でないが契約で頻出する用語」について、企業法務界の通説・有力説を確認できる

1)の点については大体想像がつくことと思います。ここでは解説は避けますが、「とき・時・場合」の使い分けなど、法務パーソンとして知らないとお話にならないレベルの語句の違いは当然、何気なく使っているであろう「係る・関する」「使用・利用」「印鑑・印章」「原本・抄本・正本・謄本・副本・複本」といった語句の定義の違いや使うべきシーン・マナーといったところを、この本を通読することで正確に学び直すことができます。

一方、2)の点は、具体的にはどういうことか。たとえばこんな例。以下の“義務を履行すべきスピード感を表す頻出3語”を早く処理しなきゃいけない順でならべた場合、みなさんはどちらが正だと認識されていますか?

 A説)直ちに→速やかに→遅滞なく
 B説)直ちに→遅滞なく→速やかに

「直ちに」がもっとも時間的即時性を求められる点は議論がないとして、「速やかに」と「遅滞なく」のどちらがより即時性を求める語かという点が論点です。この点私は、多くの先輩からの教え・契約書関連の研修・勉強会において、長らくA説が正しいとして指導を受けてきました。以前このブログでご紹介したことのある『法令読解の基礎知識』P52にも、
「速やかに」は、「直ちに」と「遅滞なく」の中間的な意味で使われます。
と明記されA説が採用されていますし、きっと同様に認識されている方は結構多いのではないかと思います。ところがこの本では、B説が正、すなわち「速やかに」よりも「遅滞なく」の方が即時性が高いとされているのです(P30-32)。

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これだけ長い間脳に刷り込まれてきただけに、えーウソでしょ??と思いたいのは山々で、個人的には天動説と地動説ぐらいのインパクトがありました。しかし、もともと法律上明確な定義がない(なのに契約書では多用される)中で、35人もの弁護士資格と実務経験を有する方が執筆・監修されたこの本でB説が採用されたということの意味は、実務界にも相当に大きい影響を与えるであろうことと思います。うーん、とはいえ実はまだ素直に受け入れられない自分がいるのですが、少なくともこの「速やかに」「遅滞なく」に言及する時には、「これまでA説が有力とされてきたが、近時B説が通説となりつつある」と語らざるを得なくなりそうです。

この本が改訂を重ね拡充されていくごとに、実務にもじわじわと影響を及ぼしていくことになるのでしょう。
(※“追記その2”のとおり、当該箇所について出版社より訂正が入ったため削除)
 

追記 2011.10.1 1:00

Twitterで@tnihei先生がご教示下さった大阪高判昭和37年12月10日によればA説だそうです。

「すみやかに」という文言は本法第十七条第一項においてのみ用いられているものではなく、広く各法令において慣用されている法令用語であつて、そこには立法上の技術に基く定着した一定の約束と慣例が認められるのである。即ち「すみやかに」は、「直ちに」「遅滞なく」という用語とともに時間的即時性を表わすものとして用いられるが、これらは区別して用いられており、その即時性は、最も強いものが「直ちに」であり、ついで「すみやかに」、さらに「遅滞なく」の順に弱まつており、「遅滞なく」は正当な又は合理的な理由による遅滞は許容されるものと解されている。

さて、著者の皆さんいかがでしょうか?
 

追記その2 2011.10.19 6:30

新日本法規出版のwebサイトにて、上記部分について下記の訂正・補筆が掲示されています。色々ご事情もあろうかと思いますが、素直に「B説撤回、A説です。」と書いていただいた方が良かったような気がします。

契約用語 使い分け辞典 訂正のお願い
使い分けを検討する際の考え方ですが、どれだけ早く行うべきかという即時性(急迫性)と、行われなかったときの義務違反という拘束性の2つの観点で考えることができます。
まず、「直ちに」が一番即時性及び拘束性が強いと言えるでしょう。
では、「遅滞なく」と「速やかに」の使い分けはどのように考えるべきでしょうか。この2つを比較した場合、一般には「速やかに」の方が即時性が強いとされているようです。また、「速やかに」に法的拘束力(罰則)を認める法令(昭和 40 年改正前の銃砲刀剣類所持等取締法 17 砲發△蝓関連する裁判例(大阪高判昭 37・12・10 判時 327・46)では即時性についても「すみやかに」の方が「遅滞なく」より強いものと示しています(このほか、法令上、「速やかに」と「遅滞なく」の使い分けがされている例として、行政手続法7条があります。)。
しかし、契約用語の使い分けという観点からは、即時性の強弱の程度よりも、むしろ「速やかに」は訓示的な意味合いが強いという点の方が重要と考えられます。
以上から、時間についての拘束性を重視したい場合には「直ちに」又は「遅滞なく」を、訓示的表現で足りる場合には「速やかに」を用いるのがよいと思われます。

 

自炊代行はやっぱり違法だと思いますか?

 
私は合法っていうことでいいと思います。前にも書いたようにグレーなところはありますけれど。

ユーザーとして使ってみると、
  • 置き場に困っていた蔵書を引き取って、
  • きれいに裁断し、
  • 忙しい日常の合間に自分でスキャンニング&OCR(光学文字認識)作業をしてたらなんだかんだで半年ぐらいはかかったであろう膨大な量を5日程度で完了してくれた上に、
  • iPhoneでも読みやすいようにpdfデータを調整するという自分では技術的にできない加工まで施す
ところまでを、適正と思える価格でやってくれるサービスには、感動すら覚えると思います。

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実際のところ、今回自炊代行業者に質問状を送った著作者のみなさんや出版社さんが不安を感じているのは、この代行作業そのものに対してではなく、代行作業の結果生まれる電子ファイルや、ある種の“再利用”の価値が生まれた裁断済みの本を不適切に取り扱う輩に対してですよね?その不安は、電子ファイルや裁断済みの本を所持している人に対してぶつけていただくのが筋じゃないかなあと。

望まない結果(違法コピーファイルの流通)を産まないために原因(電子ファイル等を作成する人)を潰そうというのは一見正しいようですが、すでに各所で言われているように、この問題の原因は情報を電子的にハンドリングすることを望んでいるユーザーに対してそれを提供してくれていない著作者や出版社にもあるわけで。法律上、対価を支払って入手した著作物を自分が使うという目的で電子化する自由がユーザーにある以上、その作業を誰に頼もうが自由、ということでお願いしたいです。

さらに付け加えて言えば、自ら対価を支払って本を買い、さらに自炊代行にまでお金をかけて電子化してそこに書かれている情報を使い倒そうとするユーザーって、どっちかというとその情報の真価を理解している彼らにとっての「本当のお客さん」なのではないでしょうか。著作者や出版社さんも、自分の利益を守りたいのであれば、その利益を生んでいる「本当のお客さん」が自炊代行に委託して電子化するのを邪魔することにエネルギーを注ぐのではなくて、自ら質問状にも
差出人作家は、自身の作品につき、貴社の事業及びその利用をいずれも許諾しておらず、権利者への正しい還元の仕組みができるまでは許諾を検討する予定もないことを、本書で通知します。
と書いているとおり、さっさとその「権利者への正しい還元の仕組み」を作る努力をしていただくようお願いします。

お金は払いますんで。
 

学会投稿論文「インターネット上に存在する応募者のプライバシー情報を企業の採用選考において取得・利用することについての法的検討」出ました

 
ようやく、陽の目を浴びる日が来ました。

今から1年前に情報ネットワーク法学会に入会させていただき、BLJ2009年7月号の道垣内先生による「社会人も論文を書いてみてはどうか」という記事にも影響されていっちょやってみようかとリサーチを始めて、正月休みと1月の土日をフルに使って書いた投稿論文が、先生方の査読を経て学会誌『情報ネットワーク・ローレビュー 第10巻』に掲載していただくこととなり、商事法務さんから発刊されました。

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タイトルは、「インターネット上に存在する応募者のプライバシー情報を企業の採用選考において取得・利用することについての法的検討」です。企業が採用選考にあたり当然に提出させる履歴書や職務経歴書とは別に、ネット上で検索できる情報や本人が書きこむブログやFacebookの記事などをチェックする行為について、プライバシー上・法律上問題ないのか?あるとすればどのような点をクリアすれば合法的に取得・利用できるのか?という疑問について、検討をしてみたものです。

1月の執筆当時のエントリにも書いていますが、投稿論文どころかまとまった論文を書くことに慣れない中手探りで書いた手作りの素人論文ですので、クオリティは推して知るべしで(笑)、掲載されている他の偉い先生方には申し訳ないなあと恐縮するとともに、査読頂いた先生方をはじめ学会の関係者各位には深く御礼申し上げたいと存じます。一方で、企業の永遠のテーマである採用選考とプライバシーの議論に、SNSを中心としたインターネット上での個人情報オープン化の波が実務にどう影響を与えているのかという旬でリアルなネタを持ち込み一定の見解を出せた点は、実務サイドの人間ならではの付加価値を少しは出せたのかなと、自負しております。

個人的には、ネット上のプライバシーの問題は、著作権と同様もしくはそれ以上に混沌とし、企業経営にも大きな影響を及ぼしていくものと予測しています。そんな中で、これを足がかりにこの分野で研究を深めてプレゼンスを発揮していけたらなと思います。

ご興味お持ちいただけましたら、書店にご注文いただくか、商事法務さんのwebサイトからご購入いただければ幸いです。
 

【本】情報セキュリティ白書2011 ― まずは脅威を正確に知ることからはじめましょうか

 
クラウド、スマートフォン、ソーシャルネットワーク・・・と企業が利用する情報システム・ツールが増えるに連れ、情報セキュリティリスクも拡大する今日。今どこで、何が、どの位の頻度で、どの程度のリスク・被害を発生させているのかを、できるだけ正確に整理した形で知りたいという方にお薦めな一冊がこちら。


情報セキュリティ白書2011情報セキュリティ白書2011
著者:独立行政法人 情報処理推進機構
販売元:独立行政法人 情報処理推進機構
(2011-06-06)
販売元:Amazon.co.jp



・2010 年度の情報セキュリティのトピックス
・セキュリティインシデントや技術の動向
・情報セキュリティ政策、標準化の動向
・セキュリティ産業の動向
・情報家電、スマートグリッド、スマートフォン、クラウド、プライバシーなどの個別テーマ
について、国内だけでなく国外の事例も豊富に取り上げ、図表たっぷり、しかも大判フルカラー200ページ超という贅沢な作り。雑誌を読むような読みやすさと十分な情報量で、情報セキュリティの今を概観できます。これで1,500円は安い。

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概観だけにとどまらず、どこに行けばより細かく詳細な情報が得られるかといったリファレンス・参考文献の紹介も充実しているところにも、編者のみなさんの配慮が感じられます。例えばクラウドであれば、NIST、ENISA、CSA、UCBerkley、Gartnerがそれぞれ“◯◯◯◯◯”というレポートを出してますよ、みたいな。


普段、SNSにおけるライフログやプライバシーの保護といった情報セキュリティの問題を専らリーガルな切り口から考えている私も、何が「原因」でそれらをどう守るかという「手段」「解決策」は?という話になると、システムセキュリティの知識が少なからず必要になるという壁に、最近ぶち当たっています。

多くの企業が、情報セキュリティリスクの分析や対策については、ちょっと前までは社内のシステム管理者に一任していたのが実態でしょう。しかし、これだけ情報システムが事業運営の生命線となっている今、一体何が“脅威”なのかを正確に理解・把握したいとお思いの経営者・管理部門の方は、私だけでなく結構増えてきたようにお見受けしますし、実際それは重要なことだと思います。

システムセキュリティの専門書やwebサイトで得られる情報では、各論過ぎて網羅性が低すぎたり、技術用語が多すぎて読む気にならなかったり、(自社のセキュリティ商品を売りたいがために)妙に煽り過ぎだったりと、丁度良い“まとめ"が見当たらなくて困っているという方に、オススメな一冊です。


NHKさんが「地デジ難民は1年以内に受信契約終了の手続きをしないと、過払い受信料は返さないよ」って言ってますよ

 
さて、昨日でアナログ放送が終了しましたね。地デジ対応テレビも買わずじまいの私ですので、晴れて総務省発表29万世帯/放送業界推定10万世帯いるという地デジ難民の一人です(本当はそれどころの件数じゃないと思いますが)。



で、反射的に思ったのが、29万世帯の地デジ難民のNHK受信契約ってちゃんと解約されるんだろうか?ということ。もはや法務の職業病の域に達してますが、興味本位で調べてみました。

「地デジ対応テレビありません」と自己申告しないと契約終了にならない


すると、NHKの受信料の窓口ページのトップ左上リンクから飛んだところに、こんな表記が。

アナログ放送の終了によりNHKの放送を受信できなくなった場合の受信契約の手続き(NHK受信料の窓口)
  • アナログ放送の終了に伴い、NHKの放送を受信できなくなった場合、受信契約の対象外となるため、受信契約を終了させていただきます。
  • 受信契約の終了にあたっては、受信機の設置状況を確認させていただいたうえで、必要事項(お名前・ご住所・NHKの放送が受信できなくなった事情等)のお届けが必要となりますので、「NHKふれあいセンター」までご連絡ください。

すごいさらっと書いてありますが、要は自分から理由を添えてNHKさんに申告しないと契約終了扱いにできないわけですね。

全国の地デジ対応テレビを買わない・買いたくても買えないおじいちゃんおばあちゃんが、ちゃんとその旨を申告して大切な年金から口座引落しされないよう手続きできるのかどうか、とっても心配になります。

1年内に申告しないと、過払い受信料を返してくれない


こうなると、NHKさんがいつまで気づかずに払い過ぎた受信料を返金する用意をしてくれているのかも疑問になります。

NHKとしても、決算書上「受信料返還未払金」を計上しなければならないでしょうし、仮に10年後にこの29万件の契約者から「受信料10年分返せ」と言われたら、29万件×年間14,190円×10年分=411億円もの大金をキャッシュで用意しなければならないわけですし。どうするんだろ?と思って放送契約約款を確認してみたら、一番最後の付則のところにこんな規定が。

日本放送協会放送受信規約
(アナログ放送の終了に関する措置)
10 第9条の規定にかかわらず、放送受信契約者がNHKのテレビジョン放送のうちアナログ方式の放送(以下「アナログ放送」という。)の終了に伴い、NHKのテレビジョン放送を受信することができなくなり、第1条第2項に定める受信機の設置がないこととなったときは、アナログ放送の終了日(以下「アナログ放送終了日」という。)から1年以内に、次の事項を放送局に届け出なければならない
(1)放送受信契約者の氏名および住所
(2)設置がないこととなった受信機の数
(3)受信機を住所以外の場所に設置していた場合はその場所
(4)NHKのテレビジョン放送のうちデジタル方式の放送を受信することができない事情

11 NHKにおいて前項各号に掲げる事項に該当する事実を確認できたときは、放送受信契約は、アナログ放送終了日に終了したものとする

12 (略)

13 付則第11項の規定により放送受信契約が終了した放送受信契約者における第5条第1項の適用については、同項中「第9条第2項の規定により解約となった月」とあるのは「アナログ放送終了日の属する月」と、「受信機を設置した月に解約となった」とあるのは「受信機を設置した月にアナログ放送終了により放送受信契約が終了した」とし、付則第11項の規定により放送受信契約が終了した場合における放送受信料の精算については、第11条第1項を準用する。この場合において、「解約」とあるのは「終了」と読み替えるものとする。
(放送受信料の精算)
第11条 放送受信契約が解約となり、または放送受信料が免除された場合において、すでに支払われた放送受信料に過払額があるときは、これを返れいする。この場合、第5条第1項または第2項に定める前払額による支払者に対し返れいする過払額は、次のとおりとする。
(1)経過期間が6か月に満たない場合には、支払額から経過期間に対する放送受信料額を差し引いた残額
(2)経過期間が6か月以上である場合には、支払額から経過期間に対し支払うべき額につき、第5条第1項または第2項に定める前払額により支払ったものとみなして算出した額を差し引いた残額

さすが天下のNHKさんというべきか、知らない間に「地デジ難民になったのが解約の理由なら、アナログ放送終了日から1年以内に届け出ないと遡っては返金しないよ」という契約にしてたんですね。契約者数が多いから、そして虚偽申告が多くなりそうだからとはいえ、これはなかなか大胆な規定です。万が一、契約者が1年後以降に気付いて過払い受信料の返還を請求した場合は、この付則を根拠に普通の解約者と同様第9条2項に従ってその届出日まで契約があったと主張するつもりなのでしょう。


地デジコールセンターへの問合せで質問すれば回答をもらえたり、NHKの請求書等には記載されているのかもしれませんが、周知徹底が十分とは思えないこの1年内申告義務。余計なお世話かもしれませんが、付則に目立たないように書くだけじゃなくて、せっかくテレビ放送という強力な告知媒体をお持ちなのですから、アナログ放送が見えていた時にアナログ契約者に対して画面を通じてもっと積極的に告知すべきだったのではないでしょうか?時すでに遅しですが・・・。
 

【雑誌】BUSINESS LAW JOURNAL No.42 9月号 ― 退職者の守秘義務と競業避止義務遵守徹底のお作法

 
会社側にとっても従業員側にとっても、「定めるは易し、守るは難し」な規程の代表格である守秘義務と競業避止義務。私も何回かこのブログでネタにさせていただいています。

【本】営業秘密と競業避止義務の法務―転職を制限したいなら、代償措置を明示せよ
【本】競業避止義務・秘密保持義務―労働者には職業選択の自由が保障されると言っても、実際のところ裁判での勝率は52.7%程度に過ぎない件

しかし、やはり中国への技術流出が具体的かつ顕著なリスクとして発覚していることもあってか、メーカーを中心に会社側が敏感になりはじめていて、そろそろ日本でも「建前」では済まされ無くなりそうな雰囲気を私は感じています。その空気を感じ取ってくださったのか、今月のBLJはかなり濃い守秘・競業避止義務の特集を組んでいて、このクオリティがまたすばらしい。


BUSINESS LAW JOURNAL (ビジネスロー・ジャーナル) 2011年 09月号 [雑誌]BUSINESS LAW JOURNAL (ビジネスロー・ジャーナル) 2011年 09月号 [雑誌]
販売元:レクシスネクシス
(2011-07-21)
販売元:Amazon.co.jp



不正競争防止法を始めとする法的な側面からの整理、裁判例に見る競業避止義務のタイプごとの有効性判断の解説を専門の先生方が解説するだけで終わらないのが、BLJの良い所。人材業に携わる私から見ても日本でも有数の採用・人事実務のプロ集団と思われる日本GE社の雇用労働法務担当(しかも日本法/NY州法弁護士!)のコメントを取って下さっていて、この「お作法」のリアリティは本当に参考になりました。ざっくりと要約してご紹介させていただくとこんな感じ。

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  • 退職時面談は、法務かコンプライアンス部が担当
  • 守秘義務について、転職先の会社名を教えてくれた社員に対しては、事前にその会社のウェブサイトなどをチェックし、当社の秘密情報が使われるおそれがある部分をお互いに確認し、秘密情報の範囲を具体的に説明し、社員からも質問してもらい、正しく理解してもらう
  • 競業避止義務に関しては、法的効果より、社員に精神的プレッシャーを与える効果に注目
  • 周囲から「競合に転職する懸念がある」という連絡が法務に入る場合、事実関係が確認できるまで自宅待機を命じてメールや会社のデータベースへのアクセス制限を行い、懲戒解雇を含め厳正に対処
  • 警告書として、本人や場合により転職した先の会社に内容証明で警告書を送付することも

ヘタに法務パーソンが法的な有効性だけを追求するとこうはならず、「競業避止義務は具体的に禁止業界や禁止分野を特定した上で、期間を2年内にとどめ、かつ給与の内の◯%を秘密保持義務手当として支払い・・・」などと、頭でっかちな絵空事を述べがちだったりしますが、本当に実務で考えぬくと結局こういうところに落ち着くんだなあということがよく分かりました。特に、退職時面談を法務かコンプライアンス部が担当しているという時点で、上っ面だけでこれらの規程の運用をしている他社とは圧倒的な迫力の差を感じます。

そして、送り出しだけでなく、お迎えの「お作法」も抜かりない。
他社から当社へ転職してくる人にも注意が必要です。当社が訴えられるリスクがあるからです。したがって、候補者に対しては、面接担当者が「我々はあなたの現雇用主に関する情報には関心がないので、絶対話さないでください」とはっきり伝えます。明らかに競合から来ていることが分かっていれば、面談を控えることもありますし、候補者の競業避止義務や守秘義務について質問・説明を受けたこと、このような義務がないことを確認する趣旨の書面を一筆残してもらい、入社時にも同様の書面にサインしてもらいます。

他社から人を引っこ抜いてお客様や技術情報を横取りしようなんていう会社が、永続的に発展するわけもないですし、転職者だってその会社で長持ちするわけないですよね。
 

【本】会社法施行5年 理論と実務の現状と課題 ― 時事ネタのまとめで学ぶ会社法は面白い

 
現職についてから疎かになりがちな会社法の勉強をしようと思いたち、リアル書店に本を漁りに。


会社法施行5年 理論と実務の現状と課題 (ジュリスト増刊)会社法施行5年 理論と実務の現状と課題 (ジュリスト増刊)
販売元:有斐閣
(2011-05-26)
販売元:Amazon.co.jp



Jurist増刊にしてはかなりビビッドな表紙。いつもならJuristってだけでスルーなのですが(笑)、思わずこの派手さに惹かれて手にとって数ページめくって「これは当たりだ」とすぐに購入。

要は、この5年間で発生した会社法の時事ネタのうち、特に重要なものが論点ごとにまとめられている本なわけです。教科書を最初から最後まで通読する学習では絶対挫折する会社法も、このアプローチだとリアリティがぐっと増すからでしょうか、途端に面白い法律に見えるから不思議です。

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取り上げられている事件・論点は例えばこんな感じ。
  • 「委任状勧誘」において、株主提案に賛成する委任状を会社提案にかかる議案の出席議決権数に含めるか否かが争われたモリテックス事件
  • 子会社の株式買い取り価格が高すぎたとして、経営判断の原則に基づく「取締役の経営責任」が問われたアパマンショップ事件
  • 「監査役の監査権限行使」がどこまで及ぶかが話題となった春日電機事件・トライアイズ事件・荏原製作所事件
  • 会社法の社外取締役・社外監査役には求められていなかった独立性を証券取引所の上場規則によって義務付けた「独立役員制度」の導入
  • 株式併合および特に有利な条件による新株予約権第三者割当てによって、発行済み株式数を30倍に希釈化する決議をし、その強引とも見える資金調達法が耳目を集めたモック社の事案(ちなみにモック社はその2年後破産)
  • 株主の株式買取請求における「公正な価格」の妥当性について争われた協和発酵キリン事件・テクモ事件・インテリジェンス事件
  • 「敵対的買収防衛策」としてのポイズン・ピルの合法性が争われたブルドックソース事件

それぞれの事件については、私も山口先生のブログ『ビジネス法務の部屋』などを頼りに発生の都度押さえてはいるつもりですが、事件から会社法への当てはめを部分部分でやられても、普段から会社法とニラメッこしている商事法務担当や株式担当の方でもないと頭がついていかないと思います。そういう方にこそ、会社法の大きなテーマ毎に法と事件をヒモ付け解説してくれているこの本はピッタリ。しかもよく考えると、世の中を騒がせた会社法関連事件を後からまとめて俯瞰できる文献というのもそうそうなく、そういう意味でも価値ある本ではないかと。

重要かつ争いのある論点をこの本で抑えつつ、周辺の基礎知識を私がイチオシの長島大野常松『アドバンス 新会社法』でおさえるのがベストな“法務パーソン向け会社法学習セット”だと、この週末で確信しました。この組み合わせ、ズバリお勧めです。


アドバンス 新会社法アドバンス 新会社法
販売元:商事法務
(2010-09)
販売元:Amazon.co.jp


 

更新料の特約は有効 ― 慣習に従って判決文を書くだけの簡単なお仕事です

 
ついに、最高裁で更新料の特約が有効と判示されてしまいましたね。
(速報ベースの詳しい解説は町村先生のブログがお薦めです。)



そんなことになるだろうという予感はあり、約1年前にこんな記事を書いていました。たまには見立てが当たることもある、ということで。

更新料0円交渉成立 ― 改めてそのポイントまとめ(企業法務マンサバイバル)
さて、あくまで個人的な予想ですが、私は最高裁判決で更新料の“慣習”が全面的に否定される可能性は低いと考えています。そう仮定すると、せめて「自分の不動産賃貸借契約においては、更新料を支払うという“慣習”が無い状態」にしておくことが、次回以降の契約更新において非常に重要となるわけです。これから年末までに更新を迎える方は、多少月額賃料を上げてでも、更新料0円にすべく交渉を検討されてはと思います。

最高裁は、更新料は払うのが当たり前という“慣習”に従順すぎるほど従順でした。日本の不動産賃貸借契約の不明瞭さをすっきりさせる何十年に一度のチャンスも、これでしばらくは巡ってこなくなったわけです。当然の帰結として、不動産市場に増えはじめていた「更新料無物件」もめったにお目にかかれなくなるのでしょう。私個人としては、あの時大家と交渉して良かったという一言に尽きますが、借り手側の一人としては長期的に見ればやはり不幸な判決です。こうなったら、自分が貸し手側に回るしかないですか(笑)。

慣習をなぞってそれらしい文章を書いていれば給料を頂けるお仕事って、ラクでいいですね。
 

競合会社様の社内報に載せていただきました

 
競合会社様の管理部門の社員さんが作成されている社内報に、写真付で登場(笑)。ご丁寧に弊ブログの宣伝までしていただいたので、もしかしたらこの社内報をみてこのブログにたどり着かれた方もいらっしゃるかもしれません。

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管理部門の仕事の仕方を客観的に見直すために社外のプロに日頃の仕事ぶりを聞こう、という企画でご依頼いただき、1時間ちょっとのインタビューを先方の広報の方にコンパクトにまとめていただいたもの。どんなきっかけで法務・コンプライアンスの仕事を極めていこうと思ったのか、日頃の勉強法、仕事をする上で大切にしていること、などなどをお話させていただきました。なんだかすごい偉そうな人になっちゃってて恐縮です・・・。それにしても、競合会社の社員を捕まえて自分のところの社内報でしゃべらせちゃう某社様の懐の深さと行動力は、さすがだなと思いました。


対談の最後の話題は、アウトソース化が進んでいくであろう管理部門の「中の人」として何ができるか・すべきかというものでした。ここでは、自社の事業を相当好きでないと、事業にコミットしている経営者と同じ目線で真にものを考えることはできないんじゃないか、逆に言うとそこが「外の人」と唯一差別化できるところではないか、というお話をさせていただきました。

そう答えておきながら、実際の私は、相変わらず経営者に“雇われ”る立場で事業にコミットするということの難しさ・矛盾に悩んでいたり。そろそろこの女々しい自問自答にも終止符を打ちたいところです。
 

株主総会事務局の仕事とは何か

 
私の法務経験の中で、会社という存在についての価値観を大きく変えたのが、株主総会の事務局業務です。

取締役会の意向を調整しながら議案をまとめ、参考書類等を間違いのないように作成し、総会の会場を手配するばかりでなく、数百問に渡る想定問答を用意し、当日は議場で議長の真後ろに座り、インカムマイクを使って会場の係員や裏方と連絡を取りながらリアルタイムに集めた情報を議長にインプットしたり、株主からの質問に対して法的なポイントをその場で整理し助けるために、株主席からは見えないような死角に設置した書画カメラを使い、議長席に置かれたテレビモニタ上に“カンニングペーパー”を瞬時に映し出しながら、議長の総会議事進行を補助します。正確な会社法知識はもちろんのこと、スピーディにミスなく書類を仕上げる事務処理能力、総会で繰り出される株主のあらゆる質問に対し回答を作るだけの事業全体の知識、そして臨機応変・当意即妙な対応能力が問われる仕事です。

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会社からミッションとして与えられる事務局としてのゴールは一つ。
大株主・個人株主のみなさんに貴重な時間を頂いてお集まり頂く以上、効率的に、かつ法的要件を満足するように遺漏のない会議を運営し、予め提出された議案について結論を出すこと。

議決については、実際のところ大株主との調整も済んでいて、議案が会社提案どおり可決されるかどうかが当日まで心配される総会というのはほとんどなく、いわば出来レースです。そのような状態での「会議」の効率性を考えると、会議の目的である議案の決議に関係の無い質問・発言は、株主総会においてはすべて不規則発言=時間の浪費と位置付けることになります。もちろん、大株主の議決に影響を与えるような新事実が当日の議場から出てくるという展開も完全には否定できませんが、事前質問として提出されていなければ実際にはその可能性はありません。ですから、事務局としては総会当日の議場における株主の発言については、それが総会の目的である議案の決議に関係がないことが会社法314条に照らして法的に判断できれば、無視はしないまでも、時間を浪費しないために質問を“捌く”対応をとったりもします。

総会事務局の経験が浅いうちは、こんな出来レースの一翼を担うという仕事、それにかかるパワーと金、それでも物見遊山に参加する個人株主の不規則発言に、バカバカしさを禁じ得ない自分がいました。でも、その業務を何年か続けて私がたどり着いた答えがあります。

株主総会とは、
1)決算
2)監査
3)議案に関する取締役会決議(特に取締役・監査役候補者の人選)
4)事業報告・監査報告・参考書類等の作成
5)招集通知と参考書類等の送付
6)委任状勧誘・議決権行使書類の回収
7)当日の議事・決議
8)決議の報告
以上のような法に定める手続きに従い、株主一人ひとりが、1年に1回定期的かつ強制的に、自らが所有する会社のあり方を振り返るというプロセス全体に価値があるのであって、総会当日の議事はあくまでその一部に過ぎないということ。そして、当日の議事はもちろん大切な一部ではあるけれど、ほとんどは総会の議案と取締役・監査役候補人事案が決定する3)が完了した時点で株主の多数派の委任を受けた取締役が取締役会で議論を尽くして決定したものなのであって、株主の多数派が総会当日になって反対するはずもなく、すでに「勝負あった」なんだなあと。株主の多数派が会社のあり方を振り返った結果「変えなきゃ」と考えるとすれば、それは総会当日ではなく、3)が決まる時点こそがポイントなのだと。

それでもなお会社法が少数派にも株主総会に参加する権利を与えた意味はなんなのか。私は、株主の多数派の代理者たる取締役が1年を振り返るプロセスに透明性を担保することで、そのプロセスを見た少数派が株を買い増して多数派を目指すか否かの判断材料を提供することにあるのではないか、と思います。

東京電力の株主総会 原発撤退提案の株主VSあっさり「反対」経営陣(毎日jp)
大企業が株式を互いに持ち合う日本で、株主総会は会社提案を追認するだけのセレモニーになりがちだ。東京電力の大株主には東京都のほか、銀行、生命保険会社など大企業がずらり。議長は会社側が、大株主から過半数の委任状をもらっていることを明かした。要するに、採決は“茶番”なのだ。

だが、事故を受けて個人株主たちは肉声を会社にぶつけた。「津波対策を無視した人災だ。現役員と元役員は私財で償ってほしい」という質問に、武藤栄副社長(61)は「法令基準に従ってきた」と法律を盾にした。「事故直後にデータを隠したために放射能汚染が広がってしまった。あなた方は責任を取っているのか」との質問に、小森明生常務(58)は「情報については当社ホームページなどで発信に努めていきたい」とにべもない。企業対個人。この日の対立軸が鮮明になってきた。

東京電力の株主総会が少数派にとって理想的でなかったとすれば、それは会社を批判するというよりも、その1年の振り返りを通じた取締役の発言・態度に滲み出る多数派大株主の「現状・現体制追認」の姿勢に対する不満なのだと認識し、怒りや批判の矛先を正しい方向に向けるべきだと思います。そして残念ながらその不満の解消策は、株主総会で取締役を批判するという手段ではなく、ほんとうの勝負の場である取締役会に代理人たる取締役を送り出せるくらいに多数派から株を買い増し、来年の定時または臨時株主総会で現状・現体制追認の姿勢を株主として改める議案を提出させることしかないのかもしれません。

一方で多数派も、変化を認めない硬直的なコミュニケーション・態度を必要以上に見せることで、現実的には会社のファンであるはずの少数派株主さえもだんだんと会社から離れていくリスク(株価の更なる下落)を真剣に考えておく必要はあるでしょう。私が事務局業務をやっていたときは、作成する参考書類の言葉遣いに気を使ったり、当日の進行シナリオに議長が議場全体に視線を配るような指示を必要以上に入れたり、想定問答にあえて取締役=大株主にとって耳の痛いQAを入れたりという小さな抵抗で、少数派というファンに微かでも希望を感じ取ってもらえるような工夫はできないかと考えていました。

株主総会の事務局とは、現実的には大株主と取締役の意向に忠実に、当日の出来レースをつつがなく終わらせることを使命として帯びながらも、その裏では、利害が対立する多数派株主と少数派株主の情報共有や意思疎通が出来る限り円滑になるように、そしてその結果会社のファンたる株主が一人でも多く生まれるようできることを考える仕事なのではないかなと、私は思います。
 
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