企業法務マンサバイバル

企業法務を中心とした法律に関する本・トピックのご紹介を通して、サバイバルな時代を生きるすべてのビジネスパーソンに貢献するブログ。

法務

【雑誌】『現代消費者法 No.25』― アプリビジネスにおけるプラットフォーマーの優越的地位濫用

 
民事法研究会から刊行されている専門誌『現代消費者法 NO.25』で、スマートフォンをめぐる諸問題が特集されていました。





2年縛り契約、SIMロック、広告における不当表示、未成年による決済問題と、既に他所でも語り尽くされた論点が並ぶ中で、森亮二先生が、アプリビジネスに携わる事業者なら誰もが知っているが甘受している「あの問題」について、新しい法的論点として触れていらっしゃいます。

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優越的地位の濫用の問題は、アプリマーケットプレイスにおいてより顕著である。
実のところ、アプリマーケットプレイスの中には、ユーザーから返金要求があると、店舗であるアプリ提供者に通知することなく、簡単に返金に応じるところがある。しかもその際にアプリマーケットプレイスとしての取り分(以下、「コミッション」という)をアプリ提供者に返金することはしない。たとえば、あるユーザーが100円のアプリを買ったとして、アプリマーケットプレイスのコミッションは30円、アプリ提供者の収益は差し引き70円である場合、このユーザーから返金請求を受けるとアプリマーケットプレイスは100円全額をユーザーに返金する。しかし自分のコミッションの30円をアプリ提供者に返すことはしない。
アプリマーケットプレイスはモールよりもなお、アプリの流通経路として独占的な地位を占めている場合があり、優越的地位濫用の問題は、モールよりもはるかに深刻なものであると考えられる。

おそらく、この問題について法律家が真正面から論稿として取り上げたのは、これが初めてなのではないでしょうか。


アプリビジネスは、スマートフォン端末とそれを支えるOS、マーケットプレイス、決済システムによって成り立っています。それらを構築するプラットフォーマー(Apple、Google、Amazon)は、エンドユーザー(消費者)との接点に関し、端末・ソフトウェア・決済手段のすべての面から完全に支配しており、もう一方の取引参加者であるアプリ提供者は、そういったプラットフォーマーの支配に服しながら取引に参加するという、弱い立場にならざるを得ない構造となっています。このような中で、アプリサービスにおける消費者問題は、
1)広告等表示の責任(景品表示法・特定商取引法・消費者契約法)
2)前払式支払手段の販売・管理責任(資金決済法)
3)個人情報の取扱い責任(個人情報保護法)
といった部分にも、だんだんと広がりをみせています。

これまでの考え方によれば、単純に「インターネットモールとテナントの関係に準じるもの」として、消費者問題への対応責任はアプリ提供者がすべて負うのである、という風に片付けられてきたように思いますが、森先生の指摘にもあるとおり、プラットフォームの態様によっては、このような考え方が見直されるべき点も出てくるのではないかと考えます。
 

個人情報の定義の明確化はどのように行うべきか

 
2014年末に出された骨子(案)をベースに、各消費者団体・業界団体・行政間での水面下の調整が行われていた個人情報・パーソナルデータ論議の嵐も、政府与党から「個人情報保護法改正に関する提言」が出されたこともあって、この2月半ばになってようやくおさまってきた感じがします。


個人情報保護法とマイナンバー法改正案の概要を公表、マイナンバー等分科会(ITpro)
IT総合戦略本部のマイナンバー等分科会は2015年2月16日、開会中の通常国会に提出する個人情報保護法と行政手続き番号法(マイナンバー制度)の改正案の概要を公表した。個人情報保護法改正では「個人情報の定義の拡充」や「利用目的の制限の緩和」という文言が消え、マイナンバー制度では預貯金口座への付番や医療分野での利用範囲の拡大などを盛り込む。

個人情報保護法改正案の概要では、2014年12月のパーソナルデータ検討会で示された骨子案の「個人情報の定義の拡充」が、「個人情報の定義の明確化(身体的特徴や個人に発行される符号などが該当)」となった。

ソースはこちらですね。

個⼈情報の保護に関する法律 及び ⾏政⼿続における特定の個⼈を識別するための番号の利⽤等に関する法律の⼀部を改正する法律案(概要)

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数年後にEUの十分性認定を取ろうとするには、4の個人情報保護委員会の権限が弱すぎるのでは・・・という将来への懸念もありますが、目先の立法論として残る大きな論点としては1の「個人情報の定義の明確化」がどのようになされるのか、という点に絞られてきたように思います。

この点につき、個人情報の定義は広げないとする報道が散見されるものの、報道後とあるご高名な先生を囲んだ勉強会で伺ったところでは、
  • 具体的な定義は保護法本体に書かれるのではなく、政令に委任される
  • その政令の定義の粒度としては、身体的特徴=「指紋データ」や個人に発行される符号=「パスポート番号」のほか、「携帯電話番号」が列挙される程度には具体的なものになる
というのが事務局サイドの風向きらしいとのこと。ところがこの点、冒頭でもご紹介した政府与党「個人情報保護法改正に関する提言」では、

4. 個人情報の定義(範囲)の拡大は行わないこと。現状においては、個人情報か否かを明確に線引きすることが困難であり、新たなグレーゾーンと萎縮効果を拡大しかねないものである。他方、個人情報とは言えないものの、メールアドレスや携帯電話番号のように、それ単体が本人の意思に反して提供・流通することにより、個人のプライバシーへの影響が小さくないものがあることから、委員会が規定するこのような情報の第三者提供ついては、取扱事業者が自主ルールを定めるなどの対応とすること。

と、メールアドレスや携帯電話番号は「(それ単体では)個人情報とは言えない」「自主ルールで対応」とする立場ですから、まだまだ見解の相違と調整の必要がありそう。


このような中で、改正保護法+政令で個人情報として列挙するもの/しないもののボーダーラインをどういう基準で仕切るべきか?内閣府の方もいまごろ頭を悩ませている部分だと思います。たとえば、事務局案と政府与党提言とで取り扱いが食い違う「携帯電話番号」ひとつにしても、これを個人情報として政令に明記することは、市民感情としては理解できなくもありませんが、一抹の不安と違和感を感じています。この違和感はどこからきているのかを探るべく、今の私の頭の中の基準を表してみたものが、以下のマトリックスです。

変更困難性 × 容易照合性マトリックス

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以前「識別・特定 × 容易照合性マトリックス」というのを書いてツッコミを多数頂いたにもかかわらず、また懲りずに同じようなものを作ってしまいました。容易照合性のヨコ軸はそのままに、当該情報と特定個人との紐付きの強さ/切り離しやすさをボーダーラインの一つの基準にしてみてはどうかというアイデアです。列挙している情報項目は、骨子(案)等で例示されていたものから拾ってみました。

生体情報は逆立ちしても変更しようがないので、トッププライオリティになるのは異論がないところでしょう。これに対して、行政から付与される番号なんかは、手続きとコストさえ踏めば変更できるようにすればいいのにという気がします。また、争点の携帯電話番号などは、2年に一度の機種変更のタイミングを少し前倒してついでにMNPもお断りすれば変更できる情報、という見方もできるかもしれません。このように、特定個人との紐付きが解除可能なものについて、どこまで個人情報として法で保護すべきか、という問いになります。
 

そういえば勉強会では、「いちばん大事な部分を法律に定めずに政令に委任してしまうのは、憲法上問題ないのか?」という議論もありました。私は、ある程度のフレキシビリティを法令に持たせるためにその一部を政令に委任するのはしょうがないにしても、保護法の条文上に、政令委任にあたっての考え方・趣旨・委任の範囲を限定する文言は入れていただく必要はあるんじゃないかな、と思います。
 

著作権法における「利用」と「使用」の使い分け

 
著作物に関する文書やライセンス契約書をドラフティングする際に気を使う「利用」と「使用」の語の違いと使い分け方について、メンバーにレクチャーしようと思い、教科書に指定している中山『著作権法 第2版』にその説明を探し求めたところ、はっきりと説明しているページがなく、はてと困ってしまいました。

さらに、有斐閣『法律用語辞典 第4版』にもなし。新日本法規出版『契約用語使い分け辞典』にはあったものの、その説明には少々怪しげな雰囲気が・・・。

そこで、蔵書する先生方の基本書に加え、この際持っていなかった基本書も買い漁り総当りでチェックしてみた結果、岡村久道『著作権法 第3版』P154ー155のこの解説がベストでした。


著作権法
岡村 久道
民事法研究会
2014-08-01



4.1.2.5 支分権の対象となる法定利用行為の総称―利用
 各支分権の対象となる法定利用行為(主として対象著作物の種類と対象利用態様の組み合わせ)を、本法は全体として「利用」(例:32条)という言葉で総称していると解されている。
これに対し、いずれの支分権にも該当しない行為は、原則として自由に行うことができる。これを本法は「使用」という言葉で総称して(例:113条2項)、前記「利用」と区別している。
 その例外として、支分権に該当しない一定の行為を侵害とみなす規定(みなし侵害規定)が置かれている(113条)。その結果、支分権よりも、さらに著作権が及ぶ範囲が実質的に拡張されている。他方では、制限規定・みなし侵害規定によって、支分権が及ぶ範囲が縮減されている。したがって、より正確には、各支分権(制限規定・みなし非侵害規定に該当する場合を除く)と、みなし侵害規定の、どちらにも該当しない行為が、著作権に抵触することなく自由に行うことが可能な行為の範囲となる。
ただし、本法は20条2項3号・4号、47条の3第1項、113条6項のように「使用」の前記意味で「利用」と呼ぶ場合もあるので、この区別は厳密とはいえず、一応の概念整理にとどまる。


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岡村先生のこちらの本、大変失礼ながら今日まで購入に至っていなかったのですが(恥)、この件に限らず非常に有益な記述・図表が多いことを知りました。弊ブログでまた機会を改めてご紹介させていただきたいと思います。


さて、今回いろいろな書籍をひっくり返してみて、「利用」と「使用」の使い分けは著作権法学において自明なことなのかと思っていたところ、中山先生や加戸先生の本をはじめとしてそもそもこの区別について言及していない書籍が多く、また言及されているものの中でもかなり温度差があるということもあらためて知りました。読んだ限りでは、上記岡村説が中立的な立場、一方で最も使い分けに積極的なのが斉藤先生で、最も消極派だったのは作花先生であるようにお見受けしました。これらを含め、具体的に「利用」と「使用」の違いについて言及があった基本書を、以下タイプ的に分けてみます。


■岡村説以上に厳密な使い分けを推奨する立場

著作権法 第3版
斉藤 博
有斐閣
2007-05-01



著作権法詳説【第9版】-判例で読む15章-
三山 裕三
レクシスネクシス・ジャパン
2013-01-29



■区別は流動的・政治的なものであるとする立場

ビジネス著作権法
荒竹 純一
産経新聞出版
2006-09



■法的な差異はあまりないとしつつ、著作権を無体的に用いると「利用」・有体的に用いると「使用」であるとする立場

詳解著作権法
作花 文雄
ぎょうせい
2010-04-23




また、岡村先生の本でも紹介されている下記文献は、ネットでも確認できます。

著作権審議会 マルチメディア小委員会ワーキング・グループ(技術的保護・管理関係)中間まとめ(コピープロテクション等技術的保護手段の回避について)(平成10年2月20日 文化庁)
「利用」とは、複製や公衆送信等著作権等の支分権に基づく行為を指す。
「使用」とは、著作物を見る,聞く等のような単なる著作物等の享受を指す。


その他、信頼のおける実務家の記事としては、@redipsjp先生のこちらの記事があります。

著作権がないと困るのか(Footprints)
著作権法では,著作物の「利用」と「使用」は区別されている。「利用」とは,上述のとおり,著作権者の許諾なくして行えない行為であり,著作権法21条から28条に列挙された行為をいう。具体的には,システムに関するところでは,複製(21条),公衆送信(ネットを通じた配信,23条1項),翻案(改良・修正等,27条)などである。他方,「使用」とは,著作物の効果を享受する行為で,プログラムであれば,コンピュータ上で実行させる行為であるし,本であれば読む,音楽であれば聴く行為を指す。

 

【本】『新 法令用語の常識』 ― 誰もが知ってるあの緑色の名著がパワーアップしてました

 
法務パーソンなら誰でも知っているはずの、あの緑色の名著。新入法務パーソンのためのブックガイドでも推薦の1冊に挙げた、マストバイの本です。
これが昨年末、装いも著者も新たに改版されたのをご存知でしたでしょうか?


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最初見かけたときは類似品か何かと目を疑いましたが、はしがきを読んでひと安心。故 林修三氏に代わり、元法制局キャリアの吉田利宏氏が引き継ぐかたちでこの新版を担当されたとのこと。





法務担当者でなくても、法令や契約書を読んだ際には誰もが面食らう「又は・若しくは」の使いわけにはじまり、過去このブログでも取り上げた法務鉄板ネタ「直ちに/遅滞なく/速やかに」や「するものとする/しなければならない」といった頻出用語も旧版を踏襲して収録。加えて、「係る/関する」「故なく/みだりに」「抄本/謄本/正本」といった、微妙な違いをもつ語句の解説が、今回新たに追加されています。

それだけにとどまらず、1章 基本的な用語 → 2章 区別が難しい用語 → 3章 エキスパート分野(行政官向け)の用語と、掲載用語をジャンルごとに3つの章に分け、読みやすさと学びやすさを追求。最新の法改正にあわせて引用されている法令・条文も見直し、さらに、以下写真にあるような、旧版には無かったちょっとした「図解」も加わって、名著がさらに使いやすく生まれ変わりました。

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ただし左頁の図中「応答日」は「応当日」かも


バージョンアップを超えたパワーアップ。考える必要まったくなし、即買いの一冊です。
 

【本】『インターネットの憲法学 新版』― インターネットを殺すのは、安易なグローバル・スタンダード迎合主義


ネットビジネス・情報ビジネスに携わる法務パーソン必読の書。自分の携わるビジネスが、ここまで幅広く憲法に関わっているのだということを、改めて認識し総点検するために。


インターネットの憲法学 新版
松井 茂記
岩波書店
2014-12-18



松井茂記先生といえば、いわゆる実務書でありながらも当時から先進的な論稿を多く含んでいた共著書『インターネットと法』があります。私も同書には第4版の刊行から5年経った今もお世話になっているのですが、本書はそういった実務書とは趣の異なる学術書の体裁をとります。短期的な解決策やノウハウを求めている方の期待に応えるものではありません。

では、格式張った憲法学の教科書のような内容かというと、そうでもない。プロバイダー責任、フィルタリング、ドメインネーム、ブラウザと市場独占、ポルノやプライバシーと表現の自由といったインターネット創世記から問題となった基本論点を抑えた後は、
・児童ポルノ
・ヘイトスピーチ
・公平な利用(フェアユース)
・政府によるインターネット監視
・国境を超えるインターネット
・ネット選挙
といった、今まさに問題になっているキーワードを次々に取り上げ、良い意味で学問としての憲法学の体系にとらわれずに論じていきます。しかも、その言説はかなり大胆。先生がご専門とするアメリカ・カナダでの議論を踏まえて、両論併記というよりは松井説のみをはっきりと叙述するスタイル。読者としては、首肯しがたい結論もかなり多いでしょう(P365の「何がプライバシーで何が個人情報か」の一節などは、日本の読者も気になる論点であるはずですが、あまりに一刀両断過ぎてドキドキすること間違いなしです)。

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こういったスタイルを敢えて採用した理由は、数々の論点が憲法学上の論争にすらなっていない日本憲法学への憂いなのか?議論をしていては間に合わないという焦りなのか?その切迫感は、本書のクライマックスに近づくほど高まり、安易な「グローバル・スタンダード」迎合に対する警鐘へとつながっていきます。P438より。

国際社会でインターネット上の表現の自由やプロバイダーの法的責任について合意が形成されるとは考え難い。また、もし合意が形成されたとしても、それは日本国憲法のもとで表現の自由に対して与えられる憲法上の保護を下回るような基準で合意がなされる可能性が高い。最も自由の保護の低い国の基準がグローバル・スタンダードとなり、インターネット上の表現の自由が著しく萎縮する危険性が高いといえよう。
そうだとすれば、表現の自由の観点からは、各国がそれぞれ自主規制を重視し、域外におけるインターネット上の表現行為に自国の法律を適用することを控えることこそが、インターネット上の表現の自由を確保する上で最も適切な方向性を示すものだということになろう。
たしかに、インターネットが提起する諸問題を解決するには、それぞれの国がかってにその国の法律を適用していたのでは、決して満足のゆく解決は得られないであろう。しかし、表現の自由に対して与えられる憲法上の保護は、国によって大きく異なる。プロバイダーの法的責任についても、国によって考え方に大きな違いがある。このことは、国境を超えたアプローチには、重大な危険が伴うことをも示唆する。国家の揺らぎを理由に、国際的協調を安易に主張することにはもう少し慎重であるべきだろう。

確かに、日本では今、民法(債権法)、著作権法、プライバシー法制、労働法制といった分野でことさらに特定の外国法制を紹介し、「日本だけが世界から遅れている」といった外圧アプローチで法改正の必要性を声高に叫ぶ向きが多いように思います。かくいう私も、「長いもの=世界の潮流にはいったん巻かれておいて、その上でいち早くビジネスで現実対応するのが得策」と考えがちなタイプであることは、否定できません。

遠いブリティッシュ・コロンビア大学から、日本を憂いてらっしゃるのであろう松井教授のこの警告に、自分の頭で考えることを放棄しているのを見透かされたような、恥ずかしい思いがしました。
 

【本】『企業法務のための金融商品取引法』 ― 引き継がれる良書のバトン

 
金融商品取引業や取引所に対する規制と一般事業会社向けの規制とがごちゃまぜになっている大部な金融商品取引法。そのうち、一般事業会社の法務に必要な部分だけに絞って解説した、まさに企業法務パーソンのための本。こういう実務書をずっと待っていたのですが、ついに、TMI総合法律事務所の宮下央先生が救いの手を差し伸べてくれました。





「一般事業会社の法務に必要な部分」とは、この5つ。
  1. 発行開示規制
  2. 継続開示規制
  3. 公開買付規制
  4. 大量保有報告規制
  5. インサイダー取引規制

インサイダー取引規制に限って言えば、それだけをまとめた書籍はたくさん出ています。しかし、それ以外の部分については、分厚い金商法の本の中から必要な情報を読み取らなければなりませんでした。しかも、金商法関連書籍は、弁護士や金融機関の専門家向けに書かれていることがほとんど。それらを読むのは、私のような者には苦行以外の何ものでもありません。

一方(その良し悪しは置いておいて)株式の上場もカンタンな時代となり、企業法務パーソンにとってはますます金商法は知らないでは済まされない法律となっています。売出・新株予約権の発行・自己株買付・TOB・大株主の異動…といったイベントにまみれ、とまどっている新興企業の法務担当者も少なくないのではないでしょうか。かつてのライブドア事件のような、法律の解釈がもろに問題になる場面は少ないとは言っても、上記のようなイベントが発生した場面で、財務担当者や証券会社等との会話が成立しないようでは問題。用語を抑えておくことはもちろん、規制の概要や構造はしっかりと理解しておきたいところです。

そんなニーズに対して、本書は、解説する分野を絞り込んでボリュームを単に減らすのではなく、豊富な図表に「用語解説」欄も設け、金融実務になじみのない読者にストレスを与えないような配慮が追求されています。特に複雑(で私も苦手)な開示規制のパートは、複雑な条文を丁寧で精緻なフローチャートに整理してくださっていたり、

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「募集」「勧誘」といった語句の定義の曖昧さに悩む法務担当者に、コラムで共感を示しながら最新の情報をアップデートしてくださったり、

有価証券届出書を提出しなければ勧誘をしてはならないことになっているにもかかわらず、法令上「勧誘」の定義はなく、一般的にも「有価証券の取得を促進する行為」などとかなり幅広い説明しかなされていないため、会社が増資を検討している場合などにおいては、増資とは無関係に自社についてPRする行為も「勧誘」に該当するのではないかという悩みが生じます。
しかし、投資家に対する情報開示は本来好ましいものであるはずのところ、法令の規制により萎縮し、本来投資家に開示されることが有益な情報まで開示されなくなってしまうのであれば本末転倒です。そこで、近時は、投資家にとって有益な情報開示と「勧誘」を画する基準を明確化することが試みられており、平成26年の開示ガイドラインの改正により、以下のような行為について「勧誘」規制の対象外とすることが示されました。(後略)

「第三者割当に対する勧誘規制」「特定投資家間の上場株式の譲渡」のように実務と金融庁の思惑がすれ違う部分について、時に行政に批判的な立場から実務の展望を語ってくださったりと、まるで、法務パーソンを励ましてくれているかのよう。

そうしたこの本のルーツを伺わせる記述が、はしがきにありました。

タイトルをご覧になって気づかれた方もいるかもしれませんが、この本は、私が新人弁護士時代に本当に良く使わせていただいた一冊の本から着想を得ています。新人弁護士時代、私は、証券取引法(今の金融商品取引法)が本当に苦手でしたが、その本に出会って、証券取引法のエッセンスを学ぶことができ、それがきっかけとなって、その後、金融商品取引法を専門分野とするまでに至りました。今の時代に金融商品取引法を新たに学ぼうという方のために、その本と同じように、勉強を進めていくための手がかりとなるような本が書けないだろうかと(大胆にも)思ったことが執筆の発端となりました。

出版社の関係からか、宮下先生は書名を出すのは控えていらっしゃいますが、きっと松井秀樹先生の『法務担当者のための証券取引法』のことですよね。私も10年前に同じく大変お世話になりました。この本は、まさにあの良書の後継者たりうるものだと思います。
 

秘密保持契約と「残存情報」条項

 
そのほとんどが、現場担当者に「とりあえず挨拶代わりに結んでおけばいい」とすら思われ単なるペーパーワークになりがちな契約書である一方で、それをレビューをする法務が手を抜くと怖いことになることもある秘密保持契約について考える不定期シリーズ。

本日は、外資系企業を中心に契約書に規定されるケースが増えてきた「残存情報」条項について。


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残存情報(残留情報と表現される場合も多い)条項とは、以下のようなもの。

1 本契約の各当事者は、秘密情報にアクセスしたもしくは秘密情報を取り扱った受領者の従業員等(以下、「取扱従業員等」という。)に、当該取扱従業員等の意志にかかわらず記憶として残存する情報(秘密情報に含まれるアイデア、コンセプト、ノウハウ等を含む。以下、「残存情報」という。)が生じうることを確認する。
2 本契約の各当事者は、残存情報についてはいかなる目的のためにも自由に使用することができ、取扱従業員等の職務を制限もしくは限定する義務、または残存情報を使用した成果について開示者に対価を支払う義務を一切負わない。

初めてこれを見たときは、「そんなのOK出すわけないでしょw」と二つ返事で削除の回答をしたものですが、特に米国企業は、この条項を入れるのに必死になってきます。そしてそれは米国でビジネスをするのが当たり前になっている日本企業も例外ではなく、元キヤノンの伝説の弁理士丸島儀一さんも、その著書『知的財産戦略』でこう述べていらっしゃいます。

知的財産戦略
丸島 儀一
ダイヤモンド社
2011-10-07


(前段でクリーンルーム管理ポリシーでの契約交渉について述べた上で)しかし、ここまでしても完璧に秘密を守れるわけではない。情報を知った人が部屋から出てくるときには頭の中に情報が入っているはずであり、だれにもコントロールできない。そして、頭に入った情報は「目的以外の使用の禁止」にも関係してくる。
秘密情報が自分の知識となった技術者が他の仕事をする際に、この知識を使わないということはありえない。(中略)そこで、頭の中に入ってしまった情報については秘密情報と見なさないという例外条項を設けるように交渉しておくべきなのである。この例外条項が認められなければ、「きちんと管理したにもかかわらず、そこから情報が出てしまうことに関しては免責である」という方向に持っていく。とりわけアメリカなど外国の企業と秘密保持契約を結ぶ場合には、これは欠かせない。

ということで、削除交渉をするにもこちらから入れる交渉をするにも、平行線を辿ることが多い本条項。
実務の落としどころとしては、

ただし、残存情報はメモや音声等記録に残しもしくは再製してはならず、受領者は本契約により認められた場合を除き残存情報に含まれる秘密情報を第三者に漏えいもしくは開示せず、また本条によっても開示者の特許権、著作権およびノウハウを含む知的財産権について受領者にライセンスを付与するものとみなされない。

を追記してお互い矛を収める、といったところでしょうか。


細かいことをいえば、もう二つほどやっておくべきことがあるのですが、それはまたどこかで。
 

【本】『プライバシー大論争 あなたのデータ、「お金」に換えてもいいですか?』 ― プライバシー大論争年表を作ってみました


日経BPの浅川さまよりご恵贈いただきました。 ありがとうございます。


プライバシー大論争 あなたのデータ、「お金」に換えてもいいですか?
大豆生田 崇志 (著), 浅川 直輝 (著), 日経コンピュータ (編集)
日経BP社
2015-01-24



煽り系のタイトルに嫌悪感を持たれる方もいらっしゃるかもしれませんが、本文はこの分野を追いかけ続けている浅川記者と大豆生田記者の手によるものだけあって、内容はいたって冷静な本。

筆者がこの本を企画した動機は、こうしたデータプライバシーの議論について、日本固有の歴史や事例を発掘し、議論の土台として紹介したかったことである。
本書の執筆に当たっては、プライバシーの専門家に加え、100人を超える企業関係者に取材した。「今は消費者がプライバシーに敏感なので、このテーマでは語りたくない」と取材を断る企業が多かった中、取材を引き受け、率直に語っていただいた企業および担当者の方々に、厚く御礼を申し上げる。今後、日本の企業、政府、消費者がデータプライバシーについて議論する際、本書が互いの共通認識を形作る一助になれば幸いだ。

このような趣旨のもと、ベネッセ名簿漏洩/Suica騒動/CCC(Tカード)&ヤフージャパンによるデータビジネスの3つを中心に、プライバシーが取り沙汰された事件、法改正、活用事例等を丹念に振り返り、世界と日本のプライバシー観の変化を追い、また特に昨年からのパーソナルデータ検討会の議論の過程については細かく描写し、来たる個人情報保護法の大改正を展望しています。プライバシー関連のニュースは意識的に追いかけている私でも、本書で紹介されているもののうち忘れかけていた事件・出来事がいくつかあり、記憶の整理に大変役立ちました。1点、「(現行)個人情報保護法が自己情報コントロール権の考え方を部分的に取り入れたもの」という記述がいくつか見られた(P35など)のは、現行法の法解釈としてはミスリーディングなように思われましたが。

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もう1点、出来事が年月を追って順に紹介されているわけではないのが、資料という意味では惜しいなあ…と。

なので、余計なお世話ついでに、本書で紹介されている全事件・法改正のメモを取り、年表形式に編集してみました。こうしてみてあらためて、本書執筆者の取材の丹念さに感服する次第です。

『プライバシー大論争』年表
内容 本書ページ
17世紀 イギリスで住居が部屋で分かれるようになる P27
18世紀 産業革命により職場が家庭から工場・事務所へ P27
1890 アメリカで「放っておいてもらう権利(right to be let alone)」が認められるようになる P28
1961 「宴のあと」事件、プライバシーという言葉が巨人、大鵬、卵焼きとならぶ流行語となる P29
1963 核家族が流行語となる P29
1963 ダイヤル式黒電話「600形電話機」登場 P31
1964 東京地裁がプライバシー権を正面から認める P29
1967 住民基本台帳法施行 P31
1970 政府自治体による統一個人コード導入議論により、自己情報コントロール権の概念が加わる P30
1970 名簿業者が電話帳をコンピュータ入力しはじめる P32
1980 ダイレクトマーケティング理論の本格導入 P32
1980 OECD「プライバシー保護と個人データの国際流通についてガイドライン」採択 P35
1981 警察庁「Nシステム」導入開始 P94
1987 日経社説「情報を伝えるDMが多くて何が悪い」 P33
1989 世論調査「現住所・電話番号は他人に知られたくない」10.9% P34
1990 クーリングオフ制度の強化 P33
1995 EUデータ保護指令採択 P104
1996 民間信用情報機関の個人情報が社員によって引き出され債権回収業者へ P33
1998 早稲田大学江沢民講演会出席者名簿事件 P60
1999 京都宇治市住民票データ流出事件 P34、P60
2000 5 EUと米国によるセーフハーバー合意 P108
2002 5 TBC無料体験応募者名簿流出事件 P61
2003 5 個人情報保護法成立 P10
2003 世論調査「現住所・電話番号は他人に知られたくない」42.9% P34
2004 2 Yahoo!BB加入者記録流出事件 P59
2004 10 APECプライバシーフレームワークに基づく越境執行協力 P143
2005 3 住民基本台帳閲覧による名古屋市強制わいせつ事件 P36
2005 4 個人情報保護法全面施行 P10
2006 11 住民基本台帳法改正法施行 P35
2007 4 経産省「情報大航海プロジェクト」開始 P42
2007 4 ホンダによるGPS情報提供開始 P75
2009 12 警視庁「テロ対策に向けた民間カメラの活用に関する調査研究報告書」公開 P95
2010 2 アン・カブキアンの「プライバシー・バイ・デザイン」がFTCプライバシーレポートに採用 P159
2010 3 経産省「情報大航海プロジェクト」終了 P43
2010 5 総務省「配慮原則」公開 P44
2011 1 世界経済フォーラム報告書「パーソナルデータは新しい原油」 P105
2011 9 カレログ騒動 P69
2011 10 ミログ事件 P41
2012 1 EUデータ保護規則改正案提案 P108
2012 2 アメリカ消費者プライバシー権利章典発表 P108
2012 2 カリフォルニア州司法長官がグーグル・アップル等主要6社とプライバシーポリシー表示について合意 P174
2012 3 アメリカFTC「急変する時代の消費者プライバシー保護」でFTC3条件を提示 P130
2012 7 総務省「スマートフォンプライバシーイニシアティブ」公開 P47
2012 10 アメリカFTC顔認証データのビジネスの応用について勧告 P91
2013 3 NHK「震災ビッグデータ」放映 P71
2013 5 トヨタ自動車「ビッグデータ交通情報サービス」開始 P76
2013 6 アメリカNSAによる職員による私的通信傍受が暴露 P96
2013 7 OECDガイドライン改訂 P109
2013 7 Suica乗降履歴販売騒動 P13、P64、P121
2013 9 政府IT戦略本部(内閣官房)「パーソナルデータに関する検討会」開催 P48、P111
2013 10 NTTドコモ「モバイル空間統計」サービス開始 P74
2013 12 パーソナルデータ検討会の下部組織技術検討WGによる「技術検討WG報告書」が公表される P125
2014 1 行政手続番号法(マイナンバー制度)での「特定個人情報保護委員会」発足 P113
2014 3 EUデータ保護規則が欧州議会で可決 P108
2014 4 IT総合戦略本部事務局がパーソナルデータ検討会において準個人情報の類型を提案 P138
2014 5 経産省がパーソナルデータ検討会において利用目的規制の緩和を要求 P134
2014 5 総務省「位置情報プライバシーレポート」 P72
2014 6 CCCとヤフーが購買履歴・閲覧履歴を共有する提携 P82
2014 6 内閣官房「パーソナルデータの利活用に関する制度改正大綱」公表 P111
2014 6 購買履歴や健康情報から児童で医薬品をレコメンドする行為が改正薬事法で禁止される P100
2014 6 ヤフーやDeNAによる遺伝子検査サービス参入 P97
2014 6 ソニー電子お薬手帳サービス開始 P101
2014 7 ベネッセ個人情報漏洩事件 P10、P54
2014 10 東京地裁がグーグルに検索結果の一部を削除するよう命じる仮処分 P183
2014 11 CCCがT会員規約を変更 P78、P148
2014 11 情報通信研究機構大阪駅ビル実証実験騒動 P86
2014 11 欧州議会が米グーグルに対して検索事業の分社化を求める決議案を承認 P173
2014 11 欧州委員会作業部会「忘れられる権利」ガイドライン公表 P182
2014 12 CCCとマイクロアドが属性情報突合で提携 P83
2014 12 全国万引犯罪防止機構「防犯画像の取り扱いに関する見解及び提言」公表 P93
2014 12 内閣官房「パーソナルデータの利活用に関する制度改正大綱骨子案」公表 P111
2015 個人情報保護法改正(予定) P10ほか多数


保護法の改正については、昨年12月に出された骨子案によって、おぼろげではありますが改正後の姿が見えてきています。一方で、その骨子案に対して、複数の委員からEUの十分性認定やOECDガイドラインへの抵触に懸念が呈されている現状があります。特に、新保先生ら学者筋の方々から批判が集中しているのが、「利用目的変更に関する規制緩和」、いわゆるオプトアウトによる取得後の利用目的の変更を認めることとする規制緩和案です。

パーソナルデータ検討会後半では匿名化のあり方に議論が集中していた中、青天の霹靂のように出てきたこの論点、いつ上がっていたのだろうと改めて振り返ってみると、決して土壇場で突然ねじ込まれたわけではなく、2014年5月時点で経産省がこれを提案していたことが分かります。検討会のメンバーにはあれだけの論客が揃っていたにもかかわらず、経産省の意見がこうして事務局案にスッと入ってしまうあたりに、コンプガチャ騒動後に消費者庁が動いた際にも感じた日本の「行政立法の闇」が垣間見えるような気もします。実際に、この5月のタイミングで経産省に働きかけた事業者が具体的に存在したのかどうかは不明ですが、こういった役人へのロビイング活動が与える影響はやはり大きいのだろうなと感じざるをえません。

本書では、検討会以外に個人情報保護法制の今後に影響を与えるであろう存在として、OpenIDファウンデーション、モバイル・コンテンツ・フォーラム(MCF)、インターネット広告推進協議会(JIAA)といった業界団体とその活動も紹介されています。この辺りキーパーソンを掴まえてきっちりと取材されている点も、本書の素晴らしいところです。我々ビジネスサイドが事実上の立法権を握る行政に影響力を有していくためには、検討会に参加されているような一部の有識者任せではなく、こういった業界団体を巻き込んでの議論をしていくことがますます大切になってくると、私も強く感じています。


法改正までの残り時間も少なくなってきました。事業者としては、骨子案の線で改正・施行されてもビジネスが停滞しないよう、法改正が見込まれるポイントについては先取りで自主規制の強化やビジネスの変更を進めるなど、やれることを粛々とやっていくのみです。
 

【雑誌】BUSINESS LAW JOURNAL 2015年 3月号 ― 水野祐先生による連載「法のデザイン」に注目

 
数ある法律雑誌の最近の連載記事の中で、最も新味が感じられ楽しみにしているのが、シティライツ法律事務所の水野祐先生による「法のデザイン ― インターネット社会における契約、アーキテクチャの設計と協働」(@ビジネスロー・ジャーナル)です。





しかも、今回は「ゲームのリーガルデザイン(1)」ということで、現在エンタメ業に従事する私としては見逃せない記事。

本連載における「アーキテクチャ」とは、法律や規範(慣習)とは異なり、人間の行為そのものを技術的、物理的にコントロールする仕組みのことをいう。
インターネットだけでなく、ゲーム内の仮想空間もまたアーキテクチャの設計が妥当する。いや、むしろアーキテクチャの設計という観点からは、ゲームはインターネットに先行している分野といえる。ゲームには、現実世界におけるゲームを取り巻く情報環境というアーキテクチャと、ゲーム内で設計された仮想空間としてのアーキテクチャという二つのアーキテクチャが存在することになる。これが他のコンテンツと比較した、ゲームの特徴であるということも可能であろう。

この一節に、なるほどなー、まさにアーキテクチャと法律・契約が交錯するところだから、自分はオンラインゲームの法的問題を考えるのが好きなんだなー、などと独りごちお茶を飲みながらリラックスモードで読んでいたところで、脚注でそのお茶を吹きました。

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水野先生と先日SNSか何かでおしゃべりした際に、「はっしーさんのアレ参考にさせてもらいましたよ」的なことを言われた記憶はあったのですが、よりによってあの(幼稚な)自説がここで晒されたか・・・と。あとでしらっと修正しようかと思ってたのに、もう直せない(笑)。

さておき、先生がこの連載でも述べられているように、エンタメ業にいるものとしては、法律・契約だけでは解消できないことがらがたくさんある中でも、この二次創作との「戦いと共存」状態はさらに混沌としてきている実感があります。個人的には、エンタメコンテンツについては、(従来の権利者が事後の権利処理の容易さ・有利さから意図的にそうしてきたような)「映画の著作物」として束にして考えるのをあえてやめ、映像(影像)の著作物、BGMの著作物、音声の著作物、文字の著作物、プログラムの著作物、プログラムの特許、パブリシティ権、キャラクター権…といった一つ一つの細かい権利に解体して捉えていくことで、こういった問題とも対峙しやすくなるのかな、といったアイデアを温めているのですが。


次号も、位置情報やVRを活用したゲームの法とデザインについて語っていただけるとのこと。本連載が息の長いものになって、日頃ミステリアスな雰囲気漂う水野先生の頭の中・考えていることが一つでも多くご披露いただけることを楽しみにしてます。
 

【本】著作権法 第2版 ― 差分取り&マーキング読み込み


ついに、重い腰を上げて読了しました・・・。


著作権法 第2版
中山 信弘
有斐閣
2014-10-27



中山先生とその教え子の皆様を除けば、その次ぐらいに読み込んだ人間かもしれません(自分調べ)。なぜそんなに読み込むことになったかと言いますと、



という輪読会企画の存在に加え、所属組織のメンバーにも本書を基本書として、ライセンス契約とその前提となる著作権法をレクチャーすることになったため。


まず、輪読会のお題が「一版と二版の記述差異を指摘した上で」ということで、どうやったら差異を漏れ無く効率的に見つけられるだろうか考え、まずはオーソドックスに目次を比較。してみて、ほとんどその体系・構成に変更がないことに驚かされました。本文を最初に読んでいる時は、フェアユースフェアユース連呼をしているような印象があり、第一版から大幅に書き換わったような印象だったのですが、それはパッと見の印象だけだったよう。もちろん、30条の2の付随対象著作物や、42条の3の公文書管理法等による保存等、第一版が出た後に大々的な法改正が施された権利制限規定は大幅に記述が追加されていますが、第一版時点での本書の完成度がいかに高かったかがわかります。

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目次で差異が掴みにくいとなると・・・索引か?ということで、索引も第一版と比較してみると、キーワードレベルだけでみてもかなり増量(83件増)していることがわかります。あわせて、判例索引も比較してみたところ、平成18年以降の判例が新たに追加されている(73件増)のは当然として、平成17年以前も14件の判例が追加(4件削除)されていました。

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こうやって差分を追いかけて行くだけでも、私のような浅学な者でも著作権法学の変遷が垣間見えてきます。たとえば、頒布権と消尽の論点について、

しかしながら、この問題は立法時には想定すらできなかった事態を扱っており、<<実質的には>>法が欠缺している分野と見ることもでき、その意味で判決の理論構成が区々に分かれているのはやむを得ぬことである。究極的には立法的解決によるべきかもしれないが、それまでの間は、最高裁判決のような立法的論的解釈論にならざるを得ず、最高裁の結論は、著作権が経済財的要素を強めている現在では妥当なものといえよう。

このような(大変失礼ながら)立法論への逃げとも見える記述が、

しかしながら、映画の頒布権は劇場用映画の特殊性から例外的に認められたものであり、劇場用映画とは全く異なった流通形態をもつゲームソフトのような通常の流通形態の商品にまで同じ論理で規整することには問題がある。この問題は立法時には想定すらできなかった事態を扱っており、<<実質的には>>法が欠缺している分野と見ることもでき、その意味で判決の理論構成が区々に分かれているのはやむを得ぬことである。敢えて言えば、知的財産法における消尽は必ずしも条文に書かれているとは限らず、一部を除いて解釈で認められていることからして、26条では消尽についてなんら規定されておらず、解釈に委ねられていると考えることも可能である。それまでの間は、最高裁判決のような立法的論的解釈論にならざるを得ず、最高裁の結論は、著作権が経済財的要素を強めている現在では妥当なものといえよう。
ただ近年は映画のデジタル化が進み、映画のマスターフィルムからプリントフィルム(複製物)を作成し、それを各映画館に配るというビジネス・モデルは少なくなり、デジタル方式で各映画館に電子配信されることが増えた。そうなると技術的手段の発展により、映画館に映画の複製物の譲渡や貸与(頒布)をするという行為自体がなくなり、映画館としても物理的に映画の複製物を他に譲渡や貸与ができず、26条で規定されている頒布権の出番がなくなる。劇場用映画以外の映画に26条の適用が判例上否定された現在、26条の意義はなくなると言えよう。ただ現在でも旧来の方式であるフィルムの配給も皆無ではなく、その限りでは頒布権の意味が残存している。

と踏み込んでいたり。


さらに、3周目からはメンバー向けレクチャーのために、これまでの私なら絶対にしなかった「マーキング」をしながらの読み込み。覚えるべき定義や判例通説は赤、論点となっているところは紫と塗り分けているのは、某予備校H講師の授業の影響であります。こうやって作業してみると、本書が予備校のテキストなみに論点・通説・自説がくっきりと丁寧に書き分けられていて、初学者の学習用としてもすばらしい本だということをしみじみ感じました。

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一人で著作権法の基本書を読みこむことほどヤル気が起きないことはありませんが、このタイミングでこういうきっかけを頂いてやり終えて、自分のためにも良かったと思っています。
 

【本】はじめの1冊! ロックで学ぶリーガルマインド ― ロック・パンクミュージックは法務パーソンにとっての精神安定剤

 
TMI総合法律事務所から独立し、北海道でアンビシャス総合法律事務所を開業されご活躍中の奥山倫行先生が、「ロックが好きな一般の方」に、リーガルマインドを広めようという思惑で書かれた本書。

ですが、「リーガルな仕事に就いているロック好きな方」が読んでも楽しめるのではないかと思ったので、弊ブログを御覧の法務パーソンのみなさまにも、年末年始用のエンタメ本としてご紹介させていただきたいと思います。





実際にロックミュージシャンが遭遇したトラブル、例えば
Guns N' Roses 対 Dr Pepperの「アルバムが予定通り出たら全米国民に1本ずつプレゼント」事件
Johnny Rotten(Sex Pistols) のTV番組 “Bodog Battle Of The Bands” 暴行・セクハラ事件
Jim Morrison(The Doors)のコンサート公然わいせつ事件
COLDPLAY 対Joe Satriani の“Viva La Vida"パクリ疑惑
などをもとに、憲法・民法・刑法・著作権法の入り口部分を紹介します。私もバンドマンでしたのでバンドの歴史系の話は知ってるほうなんですが、よくぞここまで初学者向けの法律論に絡めたなあと感心させられました。それでいて、全17章中わざわざ債務不履行に3章も割いて説明をしているあたりなどは、本当に一般の方にこの本で法律を理解させてあげたい、という情熱をもって書いていらっしゃるんだなぁということも伝わってきます。

しかしよく考えてみると、外タレが外国で遭遇した事件(3章のマイケル・シェンカーを除く)を、日本法で解説・当てはめしているという時点で、だいぶおかしいことに気付きます(笑)。本文中はその点には一切触れられず、淡々と・軽妙に進んでいきます。もちろん、この本に書かれた法律論が実務で役立つといった類の本ではありませんから、そういうところをあげつらってdisるのはお門違い。ここは笑うところ、エンターテインメントです。

挿絵の方もこの本全体に漂う軽妙さ・シュールさと相俟って、いい味がでてます。たとえばこれとか。

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えーと、私ツェッペリンは好きなのでロバート・プラントだって分かりましたけど、なんか違う(笑)。

そしてこれ・・・

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これ、レッチリの章の挿絵なんですけども。
レ、レッチリのはずなんですけど?
こういうのも含めてすごく面白い。好きですね〜。

どうも茶化してばかりいるように聞こえてしまうかもしれないのでちゃんとフォローしておきますと、法律のことを知らない人向けの本といいつつ、締めるところは締めています。一例を挙げますと、本書冒頭に出てくるこの見開き2ページのまとめ「法律が身につく7つの手さばき」には、実務家の心得として大切なことが漏れ無く書かれています。


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特に、「7 ケースにあった解決策を考える」に書かれた解決策の判断基準3つ

)‥観点:法的に見て責任があるか否か
道義的観点:法的に責任はないが、人として対応した方が良いか否か
戦略的観点:法的にには責任が無いし、人としても対応する必要は無いが、それでも評判や名声や今後の関係性を考えると対応をした方が良いか否か

は、企業コンプライアンスを語る際に「レピュテーションリスク」という曖昧な一言で片付けられがちなところ、「道義」と「戦略」に細分化している点キャッチーなフレームワークと思います。早速いただきます。
 

ところで、法律実務家に限って、ロック・パンクミュージック好きな人本当に多いですよね。カタくて小難しい仕事を選んでいる人に限って、ロックやパンクで破壊衝動を発散させながら心のバランスを取ろうとするものなのでしょうか。少なくとも私に関しては、そういった精神安定剤としての機能はあるように思います。バンドでロック・パンクを思い切りやってきた経験のおかげで、多少ストレスのある仕事が降ってきても心の平静がコントロールできるようになったのかもしれません。
 

広告・キャンペーン規制の学び方 ― 景品表示法の規制強化に備えて

 

商品・サービス販売促進のための広告やキャンペーンを実施しない企業は、ほとんど存在しません。そのわりには、景表法を始めとする法令・規制の理解に自信がないという方、法務パーソンを含め結構多くないでしょうか?

公正競争規約があるような業界ですと、決まった型みたいなものができているのかもしれませんが、比較的新しいIT系やウェブサービス業界に身を置いていますと、苦手、もしくはほとんど意識や対策をしてない方も少なからずお見受けします。

そんな中、ご存知の通り景表法改正により規制・取り締まりが強化されようとしています。しょうがない、じゃあ勉強しようかと重い腰を上げようにも、なかなか良い書籍・テキストが見当たりませんし、定評あるセミナーにもお目にかかったことがありません。そこで今回は、こういう順番・フレームワークで捉えると理解しやすいんじゃないかな?と私が考える学び方と、それをサポートしてくれる情報源をメモしたいと思います。


1 商売の流れを意識して当てはめを考える


広告・キャンペーン規制を学ぶ際の入り口のコツとして、商売の流れを意識して適用される規制を検討するとよいと思います。

たとえば、景品表示法を例に上げると、同法は3条で過大な景品類を提供することを、そして4条で不当な表示をすることを規制する法律となっています。一方で、実際の商売の流れは法律の建て付けとは順序が逆で、商売の前半フェーズでは言葉巧みに新規顧客を誘引しようとする点、不当表示規制を検討するウェイトが高く、後半フェーズでは商品・サービスまで辿り着いてはいるものの購入を迷う人の背中を+αでもうひと押しようとする点、景品規制や値引きの妥当性を検討するウェイトが高くなります。真ん中のフェーズでは、その両方を意識する必要があり、その分危ない場面や規制の見落としの可能性も増えがちになる、というわけです。

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このように、商売の流れの中での現在地を意識して法令・規制の当てはめを考えると、必要な情報の検索もしやすくなります。

2 体系を捉えてから各論を深堀りする


さて上記1のように大きな枠で規制の焦点を合わせた上で、具体的な中身を学習していきます。ここで、景表法の書籍を1冊でも読んだことのある方は、次々に飛びだす景表法用語とその複雑な構造に面食らった覚えがあるはずです。面食らったまま終わらないために重要なのは、各規制の体系を把握した上で、それぞれの各論を深堀りすること。あらゆる勉強法の鉄則ですね。

そして体系を理解するには、本当は自分で手を動かして図を書くと良いのですが、今回は参考に、私が作ったものを貼っておきます(まとめ方はこれに限らずいろいろあると思います)。

(1)広告(表示)規制の体系

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体系図で見ると分かる通り、広告(表示)規制の奥深さは、景表法だけでなく他の法律にもまたがっているところにあります。景表法は禁止義務のみを規定しますが、特商法や資金決済法には逆に表示を義務付ける規定もあります。さらに、商品・サービスによっては、食品表示法や薬事法や宅建業法などの業法に定められた規制・義務もチェックしなければなりません。

この広範さが、広告(表示)規制の面倒なところなわけですが、体系を抑えておくことでリスクのアンテナは立つようになるはずです。

(2)キャンペーン規制の体系

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景品・値引き・アフターサービス・付属品といった、+αのメリットを訴える販促手法は、意識しないと表示規制に気を取られて見落としてしまいがちなところ。冒頭タテ1で述べたように、広告(表示)規制とキャンペーン規制を二分する意識をもちながら、重なりがあるところでは見落としがないようにするのも大事です。

その上で、景品キャンペーン規制を深掘っていきます。図をみてわかるとおり、景品キャンペーンにはかなり細かな規制の枝分かれがあるのが特徴。ですが体系を先に把握すると、細かな規制を記憶するスピードもアップするはず。具体的には、景品類の提供には「懸賞による提供」/「懸賞によらない提供」の大きく2つの方法しかないことを知っていると、その下にそれぞれぶら下がっているいくつかの例外(カード合わせ、オープン懸賞、試供品等の総付適用除外)も、理解と記憶がラクになります。

3 苦手意識を抱きやすい3つのポイントをあらかじめ知っておく


本稿はあくまで「学び方」を解説するものですので、あまり各論について解説するつもりはなかったのですが、景表法で初学者がよくつまずくポイントに3点だけふれておきます。すでに苦手意識を感じてしまった方は、この3点をクリアするだけでも、視界がかなり変わるんじゃないでしょうか。

(1)混同しがちな「優良誤認」と「有利誤認」を区別するコツ

優良誤認:商品・サービスの内容を実際よりも著しく優良であると示す表示
有利誤認:商品・サービスの取引条件(価格等)を実際よりも著しく有利であると示す表示

「優良」と「有利」という言葉が似ているため、慣れないとどっちがどっちかわからなくなります。ここでは下線部の「内容」「取引条件」をセットで覚えるのがコツ。そこを意識すると、たとえば不実証広告規制ってどっちに及ぶんだっけ?と考える際にも、「商品の内容に関してウソをついてないか」が試されるから優良誤認に及ぶ、というように有機的に覚えられます。

(2)「懸賞」と「総付」、それぞれに定められた限度額はとにかく記憶

商品・サービスの購入者の一部に抽選や競争の結果で景品を与えるのが懸賞。
商品・サービスの購入者全員に漏れ無く景品を与えるのが総付。

そこまでは誰もがカンタンに覚えられるのですが、景品提供方法それぞれの景品最高額・限度額が頭に入らない人がいます。これに関しては覚えるか覚えないかの問題で、この2つの表を頭にいれるしかありません(消費者庁ウェブサイトより)。いつかは覚えなきゃいけないので、観念して早めに覚えてしまいましょう。

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(3)「値引き」は原則自由だが、「二重価格規制」の落とし穴に注意

有効な販促手法の一つである「値引き」は、みなさんの身近にあるスーパーマーケットなどでも行われているとおり、正常な商慣習に照らして認められるレベルであれば、規制はかかりません(割引券としての配布方法によっては景品規制に抵触したり、独禁法上不当廉売にあたる場合あり)。

しかし、過去の販売価格や虚偽の定価等と比較した値引き額を表示して販売すると、今度は表示規制である「二重価格規制」に抵触するケースがでてきます。値引きすること自体は悪いことではないが、比較対照している価格が適切でないと不当表示として問題となる、というわけです。ここで、景品規制→値引き→表示規制と、体系のスキマをまたいで規制を考えなければならないところが、思考回路ができるまではちょっと混乱するかもしれないところです。

さらに、過去の販売価格と比較する場合、その比較対象となる値引き前の表示金額は「最近相当期間にわたって販売されていた価格」でなければなりません。この「最近相当期間」と認められるための条件が難しい。ガイドラインに文字で書いてあるものの、読んでいても普通の人はわからないはず。そんなときはこのフローチャートが頼りになります(後掲『景品表示法〔第3版〕』P92より)。

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補:新しいマーケティング手法に対する規制


広告・キャンペーン規制の奥深さは、新しい手法がどんどん開発されるのに対し、法律がそれに追い付ききれてないところにもあります。本稿では触れませんでしたが、
・検索連動広告
・アフィリエイト広告
・リワード広告
・フリーライドマーケティング
・ステルスマーケティング
と、次々生まれるマーケティング手法に、法務としてどう対応していくかも重要なテーマとなっていくでしょう。この話は、またどこかでご披露できればと思います。

情報源


最後に、情報源として、参考文献、ウェブサイト、告示・ガイドラインのリンク集を置いておきます。

◯参考文献
冒頭述べたように、広告・キャンペーン規制はこれ一冊でわかる!という文献がないのですが、私が読み漁った本の中からいくつかピックアップしてみました。

▼『景品表示法〔第3版〕』


これは持ってないとお話にならないです。消費者庁編著で、一見告示やガイドラインを踏襲しているだけのように見えるのですが、ところどころ二版→三版で書き加えられたところや、消費者庁見解より踏み込んだ記述があります。その記述の存在が見抜けるようになれば、中級レベルは卒業と言えるでしょう。

▼『広告表示規制法』


この本はご存知ない方も多いかもしれません。750ページを越える厚みをもち、不当表示規制の分野についての網羅性はピカイチです。業法における広告表示規制の一覧が掲載されているのが貴重。さらに外国の表示規制までも紹介されています。

▼『その表示・キャンペーンは違反です』


特に景品規制について、規制の背景や趣旨、そして実務での景品のバリエーションに深い理解のある実務家が平易な言葉で解説。ポイント制・値引きとのすみわけもよくわかります。ただし出版後かなりの時間が経過しているため、改正部分は自分で補完しながら読む必要があります。

▼『広告法務Q&A』
広告法務Q&A
公益社団法人 日本広告審査機構(JARO)
宣伝会議
2014-09-29


先月弊ブログでも紹介しました。最新の景品および広告表示の両面のネタが取り上げられています。

◯ウェブサイト
上記の本が改訂されるまでは、以下で最新の情報をアップデートしましょう。

消費者庁ウェブサイト 景品表示法
弁護士植村幸也公式ブログ: みんなの独禁法。

◯告示・ガイドライン
景品表示法は、告示・ガイドラインが複数存在しており、どれがどの規制のガイドラインか覚えるまで大変ですが、条文にないルールがすべてこちらに書かれていますので、面倒でも都度これらに当たって確認する必要があります。

不当景品類及び不当表示防止法第2条の規定により景品類及び表示を指定する件
景品類等の指定の告示の運用基準について
景品類の価額の算定基準について
懸賞による景品類の提供に関する事項の制限
「懸賞による景品類の提供に関する事項の制限」の運用基準
一般消費者に対する景品類の提供に関する事項の制限
「一般消費者に対する景品類の提供に関する事項の制限」の運用基準について
インターネット上で行われる懸賞企画の取扱いについて
不当景品類及び不当表示防止法第4条第2項の運用指針 ―不実証広告規制に関する指針
不当な価格表示についての景品表示法上の考え方
比較広告に関する景品表示法上の考え方
見にくい表示に関する実態調査報告書(打ち消し表示の在り方を中心に)
No.1表示に関する実態調査報告書
インターネット消費者取引に係る広告表示に関する景品表示法上の問題点及び留意事項
オンラインゲームの「コンプガチャ」と景品表示法の景品規制について
インターネット上の取引と「カード合わせ」に関する Q&A


以上、私自身手探りで学んできたところをつらつらと書いてみましたが、同じような境遇でお悩みやお困りを抱えた方に、ちょっとだけでもお役に立てれば幸いです。
 

ここまでやるか、な表明保証の骨抜き文言

 
ライセンス契約や投資契約等にはつきものの「表明保証」条項ですが、ここまでやるか、と呆れるような骨抜き文言を見かけたのでメモ。

甲は、本契約締結日において、甲が知り得る限り(認識可能であった場合を含むが、軽過失により認識できなかった場合を除く。)において、乙に対し以下の各号を表明及び保証する。ただし、乙による本契約締結の可否判断に影響を与えないものと合理的に判断される軽微な事由については、この限りではない。

ここまで骨抜きに一生懸命になっている姿を見ると、よーやるわ、を通り越して、いっそのこと

以下の事項については、申し訳ないんですが表明保証できません。

って書いてくれた方が男気を感じますね・・・。
 

グローバル企業の利用規約が、一切の妥協を許さない水準を目指しはじめた

 
グローバル企業の利用規約をウォッチしていると、最近になって各社次のステージにレベルUPしてきたな、と感じます。


ひとつは、Appleのデベロッパー(アプリ開発者)向け規約の変化です。これまで、英語版一本槍で貫いてきたこの規約が、9月のiOS8リリースとともに改定されたバージョンから、ついに多言語対応となったのです。翻訳の品質はやや疑問符が残るところはありますが、お殿様のようなあのAppleが、消費者向けではないBtoBサービスに対してまで多言語対応のリーガルコストをかける覚悟を決めたことに、大きな時代の変化を感じます。

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そしてもう一つが、ハイヤー配車サービスのUberのユーザー向け利用規約。米国の弁護士も「非常に堅固」と唸ったという仲裁条項の分厚さを誇るUSAバージョンも見逃せないのですが、

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プルダウンメニューから「日本」バージョンを選択すると、なんと、英語版を日本語に訳した利用規約ではなく、法的にも完全に日本向け仕様にアレンジした利用規約が現れるのです。もちろん準拠法も潔く日本法となっていますし、仲裁法により消費者契約の仲裁合意は消費者から解除可能であることにも配慮して、東京地裁管轄の訴訟による解決と書き換えられているのには、本当に恐れ入ります。

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サービスは単一でも、利用規約は国ごとにオーダーメイドで作りなおす時代へ。日本の企業がやってしまいがちな、日本語の利用規約を英語に訳し、「ただし、正文は日本語とします」と注意書きしたものをグローバル版利用規約とするなんちゃってグローバル対応に甘んじていると、数年後には通用しなくなっている予感、というか悪寒がします。みなさん妥協という言葉を知らないというか、いやこれこそがあるべきリーガルサービスの水準というべきか。

これは大変な時代になってきました。
 

【本】企業法務のFirst Aid Kit 問題発生時の初動対応 ― 法務パーソンとしてのトラブル・事件対応経験値をチェックする

 
田辺総合法律事務所のY先生、そしてレクシスネクシスのO様より1冊ずつご恵贈頂きました。自宅用と会社用それぞれ大切に使わせていただこうと思います。





First Aid Kitとは「救急箱」のこと。トラブル・事件が発生してから(お医者様にあたる)弁護士に相談に行くまでの間に、企業法務パーソンがなすべきファーストアクションの部分“だけ”を、計81のCASEをもとに解説するという、非常にチャレンジングなコンセプトで作られた本。

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失礼ながら、コンセプト倒れになってるんじゃないかという懸念を抱きながら読み始めたのですが、その予想は良い意味でハズれました。この本で想定されているCASEが、自分自身が法務として実際に初動対応にあたった経験があるものだったり、知人の所属企業がそれに遭遇して「人ごととは思えない」「自分が彼・彼女の会社の法務だったらどう対応しただろうか」と考えたことがあった、現実味のあるCASEにきっちりフォーカスしているからでしょう。

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一貫して「生兵法は怪我の元。できるだけ早く専門の弁護士に相談すべきである」という結論をぶらしていないのもすごい。こうまで徹底的に書かれると、なんだか「企業内の法務部門なんて初動対応するのがせいぜい」と言われてしまっているような気もしないでもないのですが(苦笑)、自分のここ数年の考えとしても、やはり大きな案件では躊躇せずにその道の一線級のプロに最初から相談するのが正解と思うことが多いので、特に異論を申し上げることもございません。


法務部門が設置されているような規模の企業であれば、買って本棚においておけば、ボヤも含めて1年に1〜2回ぐらいはこれを紐解いて初動対応を確認する機会に遭遇する、つまりこの本が役立つことはあると思いますが、それだけでなく、法務パーソンが法律分野ごとの自分の「法務経験値」を測ったり振り返ったりするのにも使えるんじゃないかと思いました。この本の目次でCASEを読みながら、実際に自分が法務として対応を経験したことのあるトラブル・事件が何%あるかをチェックしてみるのです。恥ずかしながら、私の経験値も【 】で書き出してみると・・・、

 第1章 企業不祥事・刑事事件対応【2/7】
 第2章 M&A、株主対応、コーポレートガバナンス【7/17】
 第3章 知的財産権【7/11】
 第4章 労働法【10/17】
 第5章 独禁法【2/5】
 第6章 債権管理・債務整理【7/8】
 第7〜12章 IT法、不動産、環境法、渉外案件、反社会的勢力、その他【6/16】
 
私でもざっくり半分ぐらいは遭遇してきたということなので、おそらく、上場企業で企業法務を20年ぐらい務められていれば、80%近くは経験されているんじゃないでしょうか。企業不祥事・刑事事件の実対応経験が少ないのは、ハッピーなことではある一方で、自分でも意外だったのが、2章の会社法分野のトラブル・事件の実対応経験が自己認識ほど高くなかったこと。座学は積んでいても、実際の異常事態には遭遇してこなかったんだなー、と。なお、上記で7〜12章をまるっとまとめてカウントしているのは各論だからということもあるのですが、ある章で満点を取ってしまってまして、それをここに書くのが憚られたからです(笑)。
 

さらに応用的な使い方として、法務パーソンの採用面接で口頭試問の問題として使うのもありかもしれませんね。
 

【本】知的財産契約実務ガイドブック 改訂版 ― 先輩のライセンス契約虎の巻を覗き見る

 
昨日に続きライセンス契約ブートキャンプ。

私の記憶が確かならば、約1年前ぐらいに @setagayan さんがtweetされていてその存在を知った一冊。ということで新刊ではないものの、改訂版は2012年に出版されたもので、ライセンス契約の実務書の中では比較的フレッシュな方です。





著者の石田正泰さんは、凸版印刷の法務部門トップとして取締役も務められた方。今も、知財系のセミナーで講師等を務められているようです。

ライセンス契約の実務書によく見られる、さまざまなパターンのひな形を披露してその逐条解説に終始するものとは違い、特許/商標・意匠/著作物/キャラクター/共同研究開発といった類型ごとに、その目的・戦略に沿って地道に積み上げて契約書を作ろうという丁寧な姿勢が特徴。昨日の記事で言及した、ライセンスの対象を権利としてきちんと分解し捉えていく態度についても、この本から学ぶべきことがたくさんあります。そういった体系的思考がバックボーンに感じられる一方で、著者の頭の中の課題意識が殴り書きされた箇条書きノートがそのまま印刷されたような記述もそこかしこに見られ、その凸凹感がこの本の味にもなっています。やや冗長な記述が多い点は、お口に合わない読者もいらっしゃるかもしれません。

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巻末のほうに収録されている「知的財産契約ケーススタディー」×21講は、法令と実務の狭間で問題となりがちな論点を体系にこだわらずにストレートに汲み上げたもの。「昔、こんな案件があってさぁ。あのときは大変だったよ・・・」なんて、先輩がOJTの合間に聞かせてくれる経験談(武勇伝ともいう)に耳を傾けているような、そんな風情が漂います。ライセンス契約における特許保証問題や、改良した発明のグラントバックの様々なパターンと独禁法上の視点がケーススタディー形式で取り上げられ整理されているところなどは、似たような問題に初めて出くわして面食らうばかりだったあの頃の自分に見せてあげたい感じ。

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もっとも、ふつうの実務書らしい一面もあります。たとえばライセンス契約条項のチェックリスト的なものは、使い方には注意しなければ危険とは言っても、やはりあるとありがたいものです。

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こうして改めて全体を通して読みなおしてみると、ライセンス契約をウン十年やってきた先輩が隠しもっていた虎の巻を覗かせていただいているような、そんな本ですね。
 

ライセンス契約再考

 
自分が保有する知的財産の利用を第三者に許諾することを、ライセンスと言い、そのために結ぶ契約が、ライセンス契約です。

ライセンス契約に関するひな形は、既に相当な数が世の中に出回っていて、それを流用すれば、だれでも“それらしい”契約書が作れてしまいます。しかし、これまでにない新しいタイプのプロパティをライセンスしたり受けたりしようとする際に、そういったひな形を大きくアレンジした契約書を作らなければならなくなると、改めて、

 1)ライセンス契約とは、そもそも何を許諾するものなのか?
 2)ライセンスの対象としているものは、法的に知的財産と言えるのか?
 3)ライセンスによって、どこまで・誰までを制約しようとしているのか?


について考えさせられ、深い沼に足を取られそうになります。特に、プロパティが多様化し続けている最近では、その頻度は高まるばかりです。

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先週もまさにそんな状態に陥ったため、この週末は基本に立ち返ろうと、ブートキャンプとばかりに以前読んだ(はずなのに内容を忘れている)書籍たちと格闘しながら、ライセンス契約について再考していました。中でも、以前もご紹介したこの1冊は、混乱してしまった私の頭をすっきりと整理してくれるものでした。





以下、基本的なことではありますが、改めて自分の胸に刻むための写経としてのメモを。


1)ライセンス契約とは、そもそも何を許諾するものなのか?


他人が保有している知的財産権を利用するためには二つの手段があり得る。一つはそのものから当該知的財産権を譲り受けて自らが当該知的財産を保有することであり、もう一つの手段は、当該知的財産権を第三者に保有させたままで、当該権利の利用権を取得する方法である。後者の手段がライセンスである。
ライセンスとは、知的財産権者以外の第三者が当該権利にかかる財産的利益を利用しようとする場合(特許権であれば特許発明を実施しようとする場合)に、当該利用行為が権利侵害を構成しないように、権利者から取得する当該利用行為についての許諾のことであり、端的には、権利者が財産的利益を得ようとする者に対し、当該利用行為を禁止しないという消極的な受忍義務を負担する契約であると説明される。

この点は、多くのライセンス契約の実務書では端折られている点だったりします。例えば、今ちょうど手元にあるそれなりに定評ある某書でも、

“ライセンス契約とは、知的財産・知的財産権の実施・使用・利用に関する契約で、民法上に規定されている13種類の有名契約ではなく、無名契約である”

と説明しているのみです。

「禁止権を行使しないことの約束である」という本書指摘のポイントを理解し意識できているのとしていないのとでは、契約書の作り方にもかなりの差が生まれるように思います。

2)ライセンスの対象としているものは、法的に知的財産と言えるのか?


著作権には、特許権や商標権に関する専用実施権(専用使用権)に相当する権利は存在せず、著作権法が定める利用許諾は、特許権に関する通常実施権と同様の権利である。すなわち、著作権の利用許諾の内容は、当事者間の合意により、どのようにも定めることができ、かかる合意内容を定めるのが著作権の利用許諾契約(ライセンス契約)ということになる。
なお、財産権としての著作権の具体的内容は、著作権法21条以下に定める、複製権等のいわゆる支分権であるから、著作権の利用許諾契約とは、第三者がこれら支分権を行使することを許諾し、著作者としての権利を行使しないことを約する契約にほかならない。

非製造業では特許よりも圧倒的に著作権のライセンスが多いと思われます。そして著作権の場合、上記引用部にあるとおり法令でかっちりと決まった型がないため、自己流のライセンス契約がまかりとおることになります。とはいっても後段引用部にあるとおり、著作権には細かい支分権が法定されているわけで、その支分権を意識した許諾内容を規定することは可能なはず。しかしながら、そのようなライセンス契約にお目にかかったことがほとんどありません。

昔から議論は尽きないモノのパブリシティ、アニメやマンガのキャラクター、有名人の氏名、工業製品のデザインの二次利用、俳優による声の演技、効果音、フォント、データ(データベース)の利用許諾なんかも、権利の狭間もしくは股がりの中で、この辺の整理が曖昧になりがちな分野かと思います。

3)ライセンスによって、どこまで・誰までを制約しようとしているのか?


この点で留意すべきは著作物の使用行為である。すなわち、特許権等とは異なり、第三者が著作物を使用すること(たとえば小説を読んだり、絵画を鑑賞したりする行為がこれに該当する)自体は、著作権法上、何ら禁じられてはいないから、これらの行為を許諾することは無意味である。しかしながら実際の契約実務においては、使用許諾契約というタイトルのライセンス契約が締結され、その中で著作物の使用そのものを許諾の内容とするライセンス契約が多いのも事実である。

これは耳が痛い…。著作権法上禁止し得ないことを禁止したり、著作権がまるでアクセス権であるかのように条件を付けて使用を制約したりする契約のなんと多いことか。頭ではわかっているつもりでも、そういった契約を今まで書いたことがないとは申し上げられません。

ライセンスを受けた者がいわゆる下請業者に対して特許製品の製造を行わせる場合、当該下請業者は特許製品の製造を行うについて特許発明を実施しているか否かという問題がある。仮に下請業者が特許発明の実施行為を行っているのであれば、当該下請業者は、自身の実施行為につき、自ら特許権者から別途ライセンスを受けるか、特許権者からライセンスを受けたものからサブライセンスを受ける必要がある。
この点について最高裁は、通常実施権者との契約に基づき、貸与を受けた金型を使用して製品を鋳造し、その全部を通常実施権者に納入した事例において、当該製造は通常実施権者の補助者として、その事業のためになされたものであるから、かかる下請業者の行為は通常実施権者の実施権の行使としてなされたものであって、下請業者の特許権侵害行為は存在しないと判断している(最判平成9年10月28日判例工業所有権法第2期第13巻2269の26頁【ナット鋳造金型事件】)。

前述の利用権と使用権(アクセス権)との取り違えとも似た事例として、ライセンシーが下請業者を使う際に、「ライセンサーがライセンシーに対し下請業者へのサブライセンスを認める」という構成を採用しているライセンス契約書を見ることがあります。状況によってはこれが必ずしも間違いとは言い切れないにせよ、ライセンスとは何かを深く考えずにそうした契約書を作ってはいけないぞと、肝に命じておきたいところです。
 

Facebookのデータポリシー改定案に見るプライバシーポリシーの新潮流


サービスの注目度の高さゆえに、利用規約やプライバシーポリシーを変更するたびに世の中から怒られてしまうFacebook。それでもめげずに、またこれらを改定することになったようです。


Facebook、利用規約とポリシーを短くインタラクティブに改定へ
 米Facebookは11月13日(現地時間)、利用規約、データポリシー、Cookieポリシーの改定を発表した。現在改定案を提示しており、ユーザーからのフィードバックを受けた後、改定する計画。フィードバックは20日まで送信フォームで受け付ける。
 利用規約は従来より短くなるが、基本的な内容は変わらず、例えば広告主や開発者向けの項目がデータポリシーやプラットフォームポリシーなどに移行された。データポリシーはインタラクティブになり、Facebookがどのような個人情報を収集し、それをどう使っているかが分かりやすくなった。
 Facebookは2012年の米連邦取引委員会(FTC)との和解の条件の1つとして、プライバシー関連の設定を変更する場合は消費者にはっきりと通知して承諾を得ることを義務付けられている。今回の改定は、これまでに導入した新機能に対応した内容への改定となっている。


特に、新しいデータポリシー改定案は見た目も大きく変わっています。どんな感じにインタラクティブなのか、百聞は一見にしかずということで、動きをキャプチャしてYoutubeにアップしてみました。



ご覧のように、左側のメニューをクリックすると、プルダウンメニューのようなかたちで小項目が展開され、その小項目をクリックすると、右側のカラムの詳細な説明に飛んで行く、という作り。二世代前の改定から進めていたインタラクティブな作りを更に推し進めている感があります。

利用規約の改定案の方は依然として一般的な文書のカタチですが、この(一般企業におけるプライバシーポリシーにあたる)データポリシーについては、慣れないと逆に見にくく感じる人もいるかもしれません。また、このようなインタラクティブな作りこみは作成やメンテナンスの負荷もあり、そこそこの企業規模が必要となってくるので、必ずしもこれがスタンダードとはならないでしょう。しかしながら、ブレイクダウンされた項目見出しで一覧性を担保 → リンク先でその詳細について個別説明 というスタイルは、日本の総務省が推奨しているスマートフォンプライバシーイニシアティブのアプリプラポリや、米国商務省電気通信情報局(NTIA)が推奨するショートフォームも採用している構造であり、一覧性と透明性を同居させるための工夫としては、このスタイルがベストプラクティスとして定着したと私は考えます。プライバシーポリシーに関して今このスタイルを取っていない事業者も、今後こういう方向に変更せざるを得ない流れになるんじゃないでしょうか。


ちなみに、上記キャプチャ動画で見に行っている「デバイス情報」の項目は、スマホ時代におけるプラポリの書き方の中でも、どこまで詳細に書くべきか実務家が頭を悩ます一大論点です。この点、Facebookの今回の改定案のまとめ方は、なかなか興味深いものとなっています。

デバイス情報。
Facebookサービスをインストールしてあるコンピュータ、サービスへのアクセスに使用するコンピュータ、携帯電話、その他のデバイスからの情報や、それらについての情報を、利用者が許可した内容に応じて収集します。複数のデバイスを使用している場合には、収集した情報を関連付ける場合もあります。デバイスが異なっても一貫したサービスを提供するためです。収集するデバイスの情報を以下に例示します。

OS、ハードウェアのバージョン、デバイスの設定、ファイルやソフトウェアの名称と種類、バッテリーや信号の強度、デバイス識別子などの属性。
GPS、Bluetooth、Wi-Fiなどの信号から特定できる地理的位置を含む、デバイスの位置情報。
携帯電話会社やインターネットサービスプロバイダの名前、ブラウザの種類、言語とタイムゾーン、携帯電話番号、IPアドレスなどの接続情報。

現行データポリシーではやや曖昧な書き方にされていたところですが、今回の改定案から、電話番号やIPアドレスなどの接続情報とGPS等の位置情報を「デバイス情報」の下位概念に置いているんですね。これは新しいんじゃないかと。そして、アプリという語句を敢えて使わず、「サービスをインストールしてあるデバイス」という表現ぶりを編み出しているあたりも、参考になります。
 

コントロール権の狭間にて ― 著作権、プライバシー権、そしてプラットフォーマーの流通権


ここ数年、法務として現場から相談を受けていて回答に悩むポイントに、ひとつの共通点があるように思っています。

 コントロール権を肯定・保護し、創造者への利益還元を追求させるべきか?(方向性1)
 コントロール権を否定・放棄し、利用者への拡散と自由利用をドライブさせるべきか?(方向性2)


このバランスの取り方・見極めが、非常に難しい時代になってきているということです。
古くは、エンタメコンテンツと著作権の問題然り。
最近では、パーソナルデータとプライバシー権の問題然り。


前者の著作権の問題については、音楽や映像やゲームといったコンテンツを創る側のビジネスに携わっている方は、もう数年前から身に沁みて理解されていることでしょう。企業法務の立場からは当たり前だった方向性1を一辺倒に主張する時代はダサいものとされ、クリエイティブ・コモンズに代表される、シェアされて・知られて・使われてナンボの、方向性2を追求する時代へと一気に変化しました。まず先に拡散と自由利用がなければ自己への利益還元もないだろう、というわけです。一方で、iTunesミュージックの売上が失速するのと同時に、Taylor SwiftがSpotifyでの音楽配信を拒絶し方向性1を主張しだしたことにも象徴されるとおり、方向性2に突き進むことが必ずしも正解ではなさそうだ、ということもあらわになっています。

テイラー・スウィフト、Spotifyから全アルバムを削除「音楽は無料であるべきではない」
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10月27日にリリースされたテイラー・スウィフトの最新アルバム「1989」は、TargetとiTunesのみ入手可能で、音楽ストリーミング配信サービスのSpotify では配信されなかった。これは、レコードレーベルがアルバムセールスを伸ばすためによく行う販売戦略の一環であり、「Windowing」と呼ばれている。さらに、彼女と彼女のレコードレーベルは、「1989」だけでなく、過去の全アルバムをこのSpotifyから削除することを決めた。

後者のプライバシー権の問題については、いままさに、パーソナルデータというコンテンツを創る側の人の利益と、その解放を望む人との間で、せめぎ合いが起こっているところです。日本においては政府が国策として方向性2の追求を表明し、企業がそれを歓迎し、方向性1が当たり前だった個人がそれに戸惑いをみせている、というフェーズに見えます。

匿名化条件、本人同意なしで利用可 ビッグデータ活用へ政府検討会
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 政府のIT総合戦略本部の検討会は19日、インターネット上などに蓄積されている個人関連データの取り扱いルールをまとめた大綱案を示した。商品の購買履歴など一部のデータは本人の同意がなくても匿名化を条件に企業の利用を認めることを明記した。個人情報を保護する観点から、不正利用を監視する第三者機関の設置も盛り込んだ。
 政府は月内にも大綱を正式に決め、個人情報保護法の改正案を来年の通常国会に提出する予定。「ビッグデータ」と呼ばれる膨大なデータを有効活用することで、ビジネスチャンスを広げる狙いがある。ただ、プライバシーをきちんと保護できるかどうかなど、慎重な対応を求める声も上がりそうだ。


さて、そんなせめぎ合いの中で、気付けばいつの間にか、創る側の自己の利益の追求と拡散・自由利用を望むとの間で発生する「コントロール権の融通(流通)」を取り仕切るプラットフォーマーと呼ばれるプレーヤー達が、強者へと成長しています。この存在の大きさは、“流通権”の保有者と呼んでも差し支えないほど。この点、先日出版された中山『著作権法 第2版』P38にも以下のような言及がありました。


著作権法 第2版
中山 信弘
有斐閣
2014-10-27


今後の著作権制度の将来を占うにあたり、巨大なプラットフォーマの存在を抜きにしては語ることができない。現にGoogle、Apple、Amazon、Facebookといった巨大プラットフォーマの寡占が進みつつあり、個々の著作権者にいかに強い権利を与えたとしても、その作品を公表するにあたっては、プラットフォーマが定めた条件に従わざるを得ず、例えば音楽は1曲99セントで売らざるを得なくなるおそれがある。そうなると著作物はコモディティ化し、個性を失い、あたかも100円ショップで売られている商品のようなものとなるおそれもある。それがどのような結果をもたらすのかは歴史の判断を待たなければならないが、現在はそのような過渡的な状態にあるという認識は必要であろう。


私自身、スマホエンタメコンテンツを創る企業に所属している企業法務パーソンであると同時に、SNS等を通じてパーソナルデータというコンテンツを創りまた他人のそれを利用している一個人でもあり、その二つの流通過程でプラットフォーマーとお付き合いをしています。そんな中で、冒頭述べた「コントロール権」について考えるに、正しいバランスがどこにあるかの読みづらさを生んでいるのは、コントロールの主導権争いが、創造者と利用者の二者だけでなく、それを流通させる人も含めた、三つ巴状態で発生しているからなのだと。

人と企業の活動がネットワーク技術に依存する社会になればなるほど、プラットフォーマー=流通権者たらんとする企業との法的な関係は、企業法務においての大きな論点になっていくものと、改めて強く感じています。
 

【本】法務部員のための契約実務共有化マニュアル ― 法務部員向けではなく、営業担当者向けユーザーズガイドだった件

 
昨日のTwitterのTLの一部でちょっと盛り上がってたネタの一つが、自社の契約ひな形について、現場向けのユーザーズマニュアル(解説書)を作るのはどうか?というもの。ネタ振りは@overbody_bizlaw先生。




実は、そんな奥様にぴったりな、まさに現場向けのユーザーズガイド(解説書)のような本が出版されてるんですよー。





契約実務と法』の河村寛治先生を筆頭とする元伊藤忠法務部のお三方が著者、そしてこのタイトルということで、てっきり法務部員向けのマニュアルかと思って購入したところ、そうではなく、なんと現場営業担当者向けのユーザーズガイドでした。はしがきより。

 本書では、あらためて、契約書はなぜ必要なのか、契約書は何の役に立つのかなどを含め、契約書が作成されるまでの流れに沿って、どうしたら契約から発生するリスクを回避できるかなどについて、企業の営業の現場で活躍する方々に対して、すこしでも参考にしていただくために、かつて同じ企業の法務部で契約実務を経験した同僚三名が、その際の経験を踏まえてまとめたものです。
 したがって、本書は、企業法務の担当者が最初に読みつつ、企業内の各部署での研修用教材として利用していただくことも意識したものとなっています。

たしかに帯にもそのような宣伝文句が。法務部員が契約実務を現場に共有(してラクを)するためのマニュアル、という趣旨のタイトルのつもりのようです。しかし、タイトル冒頭に「法務部員のための」とつけてしまったことで、ベクトルが現場に向いた本だということが伝わらないんじゃないかなあ、とは思いました。

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中身はどんな塩梅かといえば、河村先生の『契約実務と法』の内容を、法務1〜2年目の若手でも十分理解し使えるような言葉にかみ砕いた上で、法的論点やビジネス常識として抑えておきたいリーガルタームも妥協すること無くきっちりとした解説・条文つきで教えてくれる、欲張りな本となっています。

この感じ、このレベル感、何かに似てるなあ、見たことあるなあと記憶を辿って思い出したのは、むかし◯友商事から出向でいらっしゃって仕事を色々教えていただいた先輩社員(営業の方)に見せてもらった、社内法務研修のテキストでした。商社って、大体入社して2年目ぐらいまでに、営業担当者自身が契約書をチェックでき会社を回すのに必要なひと通りの法務知識をきっちり叩き込まれるんですよね。著者ご出身の伊藤忠さんでも、そういう研修資料が存在しているものと推察します。


冒頭ご紹介した柴田先生コメントの「ユーザーズガイド」ちっくなところをかいつまんでご紹介すると、たとえば売買契約の各条項の意味を条文併記で解説しているこのあたりとか、

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営業担当者向けに瑕疵担保責任・危険負担・損害賠償・期限の利益喪失・特定物・代理店(Agent)・著作権の譲渡・不可抗力等のリーガルタームを説明しているこのあたりなどを見ていただくと、実際のレベル感を掴んでいただけるのではないでしょうか。(ただし、民法改正の動向までコラムで触れているのは、おそらく出版後の本書の寿命延命を考えてのことかと推察しましたが、ちょっと欲張り過ぎな気もしました。)

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もちろん、法務の方が自社のひな形をベースに社内向けユーザーズガイドを作るのが一番親切だとは思うのですが、それにかける費用対効果や、情報管理(心ない現場担当者が、趣旨や重要性を理解せずに、自社内限りのユーザーズガイドの解説をコピペして契約交渉相手に送りつけてしまうことがある)を考えると、この本を人数分購入して配ったほうがいいかもしれません。


契約書の読み方だけにとどまらず、
・契約書はなぜ必要か、なんの役に立つのか
・契約が結ばれるまでの流れ
・調印後の管理
・契約が成立してからのトラブル
・トラブル対応と解決方法
・与信管理と債権保全
・契約解除・終了
といった事前/事後のハウツーや対応についても漏れ無くひと通り記載されているので、これを1冊ずつ現場担当者に配っておけば、3〜5つぐらいは研修コンテンツが企画・実施できそうな感じしますね。
 

【本】広告法務Q&A ― ここに広告があるじゃろ?

 
JAROってなんじゃろ〜 ← 年がバレる

JARO(ジャロ)こと日本広告審査機構×宣伝会議から出版された、由緒ただしき広告法務のQ&A集です。
9月末発売の新刊になります。


広告法務Q&A
公益社団法人 日本広告審査機構(JARO)
宣伝会議
2014-09-29



特徴1:デカい。


大判です。
Amazonの写真だと大きさがわからないので、広告法務分野の必携書『景品表示法』と並べてみました。

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しかし、このデカさのお陰で、Q&A1問=1テーマあたり4段×見開き1〜2頁にまとまっており、読みやすくかつ情報量も確保できています。図表はそれほど多くはないですが、要所要所は抑えてられている感じ。最近のマイブームである(仕事とは関係ない)医療法の広告規制なんかは、いつぞやのBLJでTMIの先生方が文章で一生懸命説明していた内容が、シンプルな表1枚にまとまってました。

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特徴2:ネタが新鮮で絶妙


さすが、広告に関する相談を日本で一番受けているのであろうJAROさんだけに、取り上げられているネタが新鮮。しかも、法令では必ずしもシロクロはっきりしない微妙なスキマ論点を数多く拾ってくれています。私のお気に入りQのいくつかをピックアップしてみました。

  • タレントに自分のブログで商品を推奨する記事を書いてもらう場合には
  • 使用前と使用後の体験者が別人ではないか
  • 医療機関のウェブサイトの内容には規制があるのか
  • 「No.1表示」の根拠が4年前の調査データだが問題ないか
  • 「0円」「無料」等を強調していながら、実際には条件があるという広告は、法的に問題はないのか
  • 買い取りの広告で最大級表現をうたうことができるか
  • 人気タレントのCDを購入すると付いてくる握手券は景品となるのか
  • 著名な建築物が写っている写真を広告に使用する場合は
  • 宅配弁当で「高血圧食」のような特定疾病名を商品の名称に使用できるか
  • つながりやすさをうたったスマートフォンの広告・表示のルールは
  • 高校野球の優勝セールやプロ野球日本シリーズ優勝セールなどを表示する場合
  • 子供向けの広告における配慮のポイント
  • 売上の一部を義援金として寄付する場合、広告表示における留意点は
  • 広告の制作において、意図しない苦情を避けるために注意する点を教えて欲しい
  • ツアーのパンフレットの写真に「写真はイメージです」と表示すれば誤認はないのか

法令から答えがクリアに導ける・書籍として書きやすいQだけを取り上げたような「ヤラセQ&A本」とは一味違いますね。


特徴3:法令資料が(意外に)便利


背表紙側から法令資料が引けるようになっています。

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私、法律書籍でこういう風に巻末に法令載せてるのって、基本的に好きではありません。ページ数稼ごうとしてるのが見え見えですし、そんなの自分で六法引きますから、と思ってしまうタイプです。

でも広告法務の分野に限っては、これは便利だなと今回思いました。この分野って、法令以外の告示・ガイドラインが特に多いから。消費者庁等のウェブサイトにまとまっているとはいえ、PDFでしかもそれぞれのフォントや体裁がバラバラで読み難いんですよね。特に景表法はいくつかの告示をまたがって原文にあたる事が多いので、これ1冊手元にあると一覧性が高くて便利だと思います。
 

3つの専門性 ― ろじゃあ先生へ 御礼に代えて

 
第3回法務系LTのトリを務めていただいたろじゃあ先生のメッセージに、心を動かされた参加者は多かったように思います。

なのに私は、あの熱気あふれる現場にいながら、なぜか努めて冷静に、もっと言えば批判的に受け止めようしていました。その昔(popoluと名乗っていたのも7年以上も前になりますか…)ろじゃあ先生に叱咤激励をいただいた私としては、「自分なりに考えてやってきて、もうあの頃の自分ではないですよ」と言いたい意地や反発もあったと思います。

しかし、「専門分野3つ。趣味でもいいです。それを持ちなさい。」とおっしゃっていた部分については、「自分なりに考えてやってきた」と言い切れるかどうかは自信がないことを認めざるを得ませんでした。通信放送→人材→ベンチャー→ITエンタメと企業法務を渡り歩いた中で、契約法務、商事法務、情報法、労働法、知財法、消費者法とそれぞれまんべんなくやってきたという自負はありますが、まんべんないだけで尖ってないし、それを専門と言えるまで尖らせようという意識を最近持っていなかった、それどころか、経験の長さだけで裏付けもないのに「オールラウンダー」を標榜してごまかそうとしていた自分を、見透かされた気がしました。


さて、どの分野の何を尖らせるか?

ろじゃあ先生もLTでこれから重要だとおっしゃっていた消費者法は、景表法を中心として今まさに日々の業務の最上位テーマですから、これは最優先できっちりやっていきたい。
2番め。これが一番迷ったのですが、パーソナルデータ立法という格好のテーマとパブコメを出す機会が目の前にある以上、そして情報ネットワーク法学会の会員を続けている以上、やはり情報法の分野は突き詰めていきたい。
最後、地味な分野ではあるのですが昨年末もブログに書きましたとおり、契約法務、特に英文契約については多少テクニカルな方向に走っても地道に能力を向上させていきたい。ちなみに、これが自分にとって一番好きなことかもしれないです。


ろじゃあ先生には、遠いところからわざわざお越しいただいた上に、心の隙にムチを打っていただきまして、本当にありがとうございます。実は、この7年余りで考えていたことや、ろじゃあ先生の最近のY氏との活動について、いろいろお尋ねしたいこともあったのですが、また場所を改めた方がいいと思い、ぐっとこらえて遠慮しました。こんどは私のほうがお伺いする機会を作りたいと思います。
 

第3回法務系LTでお話した「スマホ&ネットサービスの利用規約における準拠法/裁判管轄条項の限界」

第3回法務系LT無事終了。

まずは、今回ご参加くださったみなさんにお礼申し上げます。ネット上の法務クラスタ有名人が一同に会したオールスター感謝祭みたいな感じで、こちらが恐縮してしまいました。

今回はなんといっても場所が良かったです。快く場所をお貸しくださったクックパッドさんには改めてお礼を申し上げます。クックパッドさんのキッチンは、オフィスの一部とは到底思えないほどのとても快適な場所。フードやドリンクの協賛もいただいて、さらに法務チーム総出でお手製のお菓子とお料理までご準備いただけて、本当にありがとうございました。

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s-cooked by cookpad
Photography by Kazuya Wada


私のお話したスライドをアップしておきます。5分で何かを伝えなきゃいけないわりに選んだテーマが重すぎ、しかも端折る過程も雑すぎて、LTの途中でツッコミをいただいてしまうレベルの仕上がりで、言い訳のしようもないのですが。私自身は、ここに書いていないことを含めて調べている過程でいろいろな発見があって、本当に忙しい中ではありましたがやっぱりLTやってよかったなと思いました。ご覧頂いてもし間違いやみなさまがご存知の+αの知見ありましたら、影でdisるのではなく(笑)ぜひぜひこちらにコメントをいただけないでしょうか。勉強させていただきます。なお、最後の謝辞にも書かせていただきましたが、判例情報をご提供くださった ronnor先生、LexisNexisさまには大変感謝しております。



当日のLTの様子は、#LegalLT から辿っていただけます。雰囲気はそこそこ伝わるんじゃないでしょうか。twitterってやっぱり素晴らしいシステム…。

最後にお礼を言いたいのは、やっぱLTという文化を法務畑に広めた伝道師であり幹事を務めてくださった @katax さんかな。法務パーソン仲間として、今後もいろいろやっていきましょう。法務系LTはもう別の方に運営していただくとして、会員制サロンみたいな(もちろん会費は取りませんが)クローズド勉強会をやりたいなって話をしています。

【本】取引スキーム別 契約書作成に役立つ税務知識Q&A ― 検討すべき税目の漏れをまずなくそう


タイトルがすべてを言い表していて、説明が必要なさそうな本ではあるのですが。





よくあるタックスコンサルが書くM&Aの会計・税務に法務目線を絡めた本とも、官公庁OBの方が書く印紙税だけを取り扱ったような本とも違い、
・株式譲渡
・株式引受
・事業譲渡
・組織再編
・ローン
・組合
・匿名組合
・信託
・ライセンス
・サービス提供
・販売代理
・不動産
・雇用・出向・SO
・和解
の取引スキームと契約ごとに、契約書作成に当たって必要な税務知識を横断的にまとめた大変便利な実務書。しかも森・濱田松本法律事務所の大石篤史先生らが執筆されたと聞けば、それだけで買いでしょう。

帯の宣伝文句には「法務部員が“税”を知ると強くなる!」とありますが、すでに必須と言われるようになってきている気もします。とはいえ、契約書起案・レビューに必要な税務知識とは何か?と聞かれて、自信をもって即答できる人はまだまだ少ないんじゃないでしょうか。この本のQ1−1は、その問いにあっさりと回答をくれます。

Q1−1 法人間の取引に関する契約書を作成するにあたり、検討すべき主な税目について教えてください。

A1−1 法人税、源泉所得税、復興特別所得税、消費税、登録免許税、印紙税、不動産取得税、固定資産税などについて検討することが必要です。

クロスボーダーライセンス契約の消費税一つとっても自信がいまいち持てていないレベルの私には、国内/国外取引両方の目線で、かつこれだけの税目をカバーしてもらえるのは、検討すべきことの漏れを無くすという意味で大変ありがたいものです。

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Q&A形式の書籍の限界として、総論と各論の間でどうしてもこぼれてしまう部分が出たり、深堀りが足りないところは出てしまうものの、それでも、この本に掲載された多数の類型と具体的設例を読み通すことで、不課税と非課税、源泉徴収、租税条約、PEの評価ポイントといった税務のキーワードとカンドコロが理解できれば、実務での吸収スピードは格段に早くなると思います。
 

【本】新・シネマで法学 ― 映画の焦点・法の焦点

 
法曹の活躍や訴訟をテーマにした映画を次々に紹介しながら法律の面白さを説く本・・・なのかと思いきや、趣はそんな予想とは全く異なるアカデミックなもの。

映画が描写する主人公および彼・彼女を取り囲む社会をかいつまんで紹介し、そこから連想される日本の課題を取り上げて、法が現代の日本人の生活・行き方にどのように影響しまたは無力であるのかを語り・問いかける本でした。





憲法の松井茂記先生・刑法の井田良先生・労働法の野田進先生らがこの本でメインの題材として取り上げられてい映画は以下17本。そのテーマとともに転記させていただきます。

 FILM1 『イル・ポスティーノ』
      法,すなわち力を備えた言語の世界
 FILM2 『依頼人』
      法の世界の登場人物
 FILM3 『エリン・ブロコビッチ』
      決着は法廷で?
 FILM4 『リンカーン』
      民主主義は幻想か?
 FILM5 『戦場のメリークリスマス』
      国家による殺人─戦争と平和
 FILM6 『E.T.』
      心のうちにひそむ差別
 FILM7 『アメイジング・グレイス』
      所有するということ
 FILM8 『レオン』
      約束は守るもの?
 FILM9 『ハゲタカ』
      お金に翻弄される人々
 FILM10 『愛,アムール』
      愛する人との約束
 FILM11 『この自由な世界で』
      労働者派遣の法的規制
 FILM12 『最強のふたり』
      社会的排除とのたたかい
 FILM13 『それでもボクはやってない』
      刑事裁判における真実
 FILM14 『デッドマン・ウォーキング』
      刑罰という名の殺人
 FILM15 『ソーシャル・ネットワーク』
      サイバースペースに法はあるか
 FILM16 『チャイナ・シンドローム』
      人は科学技術をコントロールできるか
 FILM17 『パイレーツ・オブ・カリビアン ワールド・エンド』
      生と死

これ以外にも、それぞれのテーマに関連したサブシネマとして、70超もの映画がちょっとした囲み記事で紹介されています。


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紹介されている映画の多くは私も見たことがあるはずなのに、読めば読むほど悲しいかな「え、そんな映画だったっけ?」と思わされることがしばしば。著者の先生方はしっかりと「人」に焦点を合わせて映画を咀嚼されていらっしゃるのに対し、私はまったくそれができていなかったからだ、ということに読んでいて気付かされます。自分の映画鑑賞力の低さに恥じ入るばかり。

そしてそのことは、自分がビジネスにおいて法律の当てはめをしている中でも「物」「カネ」「情報」に焦点を合わせてばかりで、「人」に焦点をおくのを忘れがちになっていることを示しているんじゃないかという気もしてきました。そう考えると、色々と思い当たるフシがあります。
 

Google法務の“カウボーイ・ルール”

Google会長を務めるエリック・シュミットが共著者として自ら筆を取ったこの本に、Google法務の仕事に対するアプローチが披露されていました。




これはジョナサンが完成したばかりのグーグルの運動場を見に行ったときに撮影したものだ。標識には運動場の地図が示されているが、スペースの四分の一は免責条項に充てられている。(略)

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弁護士のなかにはスマート・クリエイティブもたくさんいるので、こんな標識を社内で見たときには本当に驚いた。アメリカ産業界ではおなじみの、法律問題に対して過去を振り返りながらリスク回避を再優先に取り組むという姿勢は、インターネットの世紀には通用しない。企業の進化が法律の変化をはるかに上回るスピードで進むからだ。
西部劇には必ずカウボーイが馬を止め、周囲の状況を確かめ、次にどうするか決める場面がある。ケント(注:Google法務責任者のケント・ウォーカー)は部下の弁護士に、カウボーイと同じようにすればいい、とアドバイスする。ときには馬に乗り(もちろん比喩的に)、周囲の様子を素早く確かめたらさっさと先に進んでいいこともある、と。じっくり分析しなければならない決定(大型買収、法令順守の問題など)も多いが、常に馬を降り、起こり得る失敗とその結末を列挙した50ページものブリーフィング(どこがブリーフだ!)を作成する必要はないのだと頭に入れておこう。新しいプロジェクトの初期段階では、いずれにせよ分析が100%正しいことはあり得ない。そういう状況で弁護士に求められるのは、すべての可能性を詳細に分析することではない。不確かな未来を探り、意思決定をする経営者に賢明かつ簡潔なアドバイスを提供することだ。そしてまた馬にまたがればいいんだ、相棒。
法務に関して“カウボーイ・ルール”がうまくいくのは、弁護士が必要に応じて呼ばれるのではなく、初めから経営チーム、プロダクトチームにメンバーとして参加しているときだ。しかも弁護士も適切な顔ぶれを選ぶ必要がある。だからグーグルの創業初期にはなるべくスペシャリストではなくゼネラリストを採用し、また法律事務所や企業、場合によっては非営利団体など幅広く人材を求めた(とはいえ新卒の弁護士はめったに採らなかった)。

商品を仕様書どおりに作り続ければ売上がコンスタントに上がっていた高度経済成長期の企業法務ならいざしらず、消費者から当たり前のように変化と進化を求め続けられる今の時代には、職務分掌規程に法務の仕事の範囲を定義すること自体が難しくなっていて当然だと思います。

こういう時代に求められる企業法務パーソン=“カウボーイ”たりえる人は、引用部の最後にも述べられているように、
・最初からメンバーの一人として呼ばれるだけの信頼と、
・法律の仕事という枠にとらわれずにバックアップする姿勢、さらに
・実際にそれが遂行できるゼネラリストとしての能力
を兼ね備えた人。経営から「彼・彼女なら法律の勘所を抑えた上で、他のメンバーに足りない部分の穴埋めも含め、うまく立ち回ってくれるはず」という期待が寄せられる人には、自ずと情報が集まり、その情報をもとに正しいアドバイス=法務としての価値の高いアウトプットが提供できるという好循環が生まれ、次のプロジェクトにも欠かせない法務パーソンに自然となっていきます。

「そろそろ最終稟議のフェーズなので、法務部門からも毎週月曜やっている定例会議にどなたか一人顔を出していただけますか。どなたでもいいんで。」と、最後のほうでようやく声を掛けられるような“お供え物”法務になってしまっては、気は楽かもしれませんが、仕事は楽しくはなさそうです。
 

【雑誌】IPマネジメントレビュー Vol.14 ― UGCと「暗黙の領域」問題


IPマネジメントレビュー Vol.14 に掲載されている、骨董通り法律事務所 For the Artsの福井健策先生と中川隆太郎先生による、「UGCと著作権 ― 進化するコンテンツの生態系」を拝読。


IPマネジメントレビュー14号
知的財産教育協会
 
2014-09-15



インターネットを介した口コミの力が、企業のマーケティング施策上も無視できなくなっている中で、UGC(User-Generated Contents)に法的にどう対処すべきかという問題は、私が携わる実務の中でも日に日に大きくなっているところです。そんな現状を、『アナ雪』や『Perfume Global Site Project』といった最近の事例も交えながら概観できる良記事です。


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中でも、さすが福井・中川両先生は今の“雰囲気”を正確に切り取っていらっしゃると思ったのが、P06ー07の以下の一節。

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とはいえ、これらの工夫により著作権処理が上手く行えない場合ももちろんあります。そうした場合を含めて、実は多くのケースでは、いわゆる「グレーゾーン」、「暗黙の領域」の中でUGCが制作・共有されています。つまり、(i)規模や態様(販売場所や期間を含みます)、(ii)表現内容などの点で、「権利者にあまり迷惑をかけない」「目立ちすぎて怒られない」よう配慮をした上で、個別の許諾を得ずに利用されています。これらの利用は、形式的には違法である可能性が高いものも多いですが、基本的にはファン活動です。そのため、権利者による黙認(黙示のライセンス)にまでは至らなくとも、権利者への経済的影響も大きくない場合などには、あえて放置していると思われるケースも少なくありません。


クリエイティブ・コモンズ・ライセンスや初音ミクが採用するピアプロ・キャラクター・ライセンスのように、パブリックライセンスとして積極的に開放を打ち出していくという方向性もあるにはあります。しかし、企業としてそういったスタンスを取りたくても、コンテンツ上の性格により取れないものがあります。中でも、Youtubeやニコ動におけるUGC動画の問題は、古いようでいてこれからますますホットになっていくところではないかと思っています。

具体的事例としては、本記事でも紹介されているゲーム実況動画の事例が特にわかりやすいかもしれません。動画は映像(影像)と音声の大きく二つの要素からなるわけですが、ユーザーにYoutubeやニコ動で動画を拡散して欲しくても、BGMにまつわる音楽著作権や、中で演じて下さっている有名声優さんの声や歌に関する実演家権の処理上、おいそれとパブリックライセンスに踏み切れない場合は少なくありません。その割に、ゲーム実況動画の類はかなりの量アップロードされ特に削除もされていないわけですが、これは先生方も記事で触れられているように、あくまで「暗黙の領域」であって、「黙示のライセンス」ではないのです。従って、真面目なファンやユーザーさんから利用許諾を求められてしまうと、企業としては「許諾はしていませんので・・・」と回答せざるを得ず、まさに正直者がバカを見る、といった状態になっています。
 
個人的には、このような実況動画モノに関する「暗黙の領域」問題については、映像部分については、画面面積シェアの3分の1程度を上回らないようにして著作権法32条の引用要件を充足していただきつつ、BGM等音声部分については、新設された著作権法第30条の2の付随対象著作物の範囲で処理していることにできないものか、と思っていますが、どんなもんでしょうか。このあたり、先生方ともお会いできる機会を見つけて、ぜひ意見交換させていただきたいところです。
 

Google Playデベロッパー規約の改定 ― Googleさんのスタンスの変化

 
Google Playのデベロッパー向け規約が改定されました。「カスタマー サポートの問い合わせには 3 営業日以内、ならびに Google によって緊急とされたサポートや対象製品の問題には 24 時間以内に対応」といった、ユーザー数を多く抱えるデベロッパーにはなかなかシビアな文言が入ったということで、アプリデベロッパーのみなさんも少々慌てていらっしゃるようです。


変更点はそれだけではありません。Googleさんによる「変更の概要」によりますと・・・。

  • 最小限のサービス水準の規定や正確な連絡先の要件など、デベロッパーがユーザーに提供すべきサポートレベルに関する要件を更新しました(第 3 条 6 項)。
  • ユーザーの居住地に最も適した Google 事業体によるアプリとゲームの販売および配布、および国際的な税制への変更に準拠するための新しい文言を追加しました(第 3 条)。詳しくは、こちらのページをご覧ください
  • Google Play でのサードパーティ アプリの販売および配布に関する規定をさらに明確にし、安全なエコシステムを維持するために第 4 条 5 項を更新しました。
  • Google でアプリをプロモーションする際に、デベロッパーが利用できるマーケティング機会を拡大しました(デベロッパーはデベロッパー コンソールの操作で、この設定を管理できます)。第 5 条 1 項および第 6 条 2 項をご覧ください。
  • アプリが端末やデータに深刻な損害や特定のセキュリティ リスクをもたらす可能性がある場合の、端末からのインストール済みアプリの削除に関する文言を追加しました(第 7 条 2 項)。
  • Google がより迅速にユーザーやデベロッパーに新しいサービス機能を提供できるように、デベロッパーの混乱を減らし、業界標準に適合するように契約の変更手続きを更新しました(第 14 条)。

さらに、こちらの記事にも掲載されていますが、デベロッパーのアカウント管理者向けに、以下のような案内メールも配信されています。

  • デベロッパーに求められるユーザーへのサポート水準に関する要件を更新しました。最低限のサービス水準に関する定義、正確な連絡先情報に関する要件などを追加しています(第 3.6 条)。
  • Google でアプリを公開するときにデベロッパーが利用できるマーケティングの機会を拡大しました(この設定はデベロッパー コンソールで管理できます)。第 5.1 条と第 6.2 条をご覧ください。
  • ユーザーの居住地に最も適した Google 事業体からのアプリとゲームの販売および配布をサポートし、国際課税に関する制度改正に準拠するという旨の文言を追加しました(第 3 条)。この更新に関して早急な対応は必要ありません。対応が必要になったときに改めてお知らせいたします。詳しくは、ヘルプセンターのこちらの記事をご覧ください。
  • 第 4.5 条を更新し、安全なエコシステムを維持できるよう Google Play でのサードパーティ アプリの販売と配布に関する規定をさらに明確にしました。
  • インストールしたアプリによって端末やデータに深刻な損害や確認済みのセキュリティ リスクがもたらされる可能性がある場合に、そのアプリを端末から削除することに関する文言を追加しました(第 7.2 条)。
  • 契約書の変更手続きを、デベロッパーにわかりやすく業界標準に適合したものとなるように更新しました。これにより、Google はユーザーやデベロッパーに新しいサービス機能をより迅速に提供できるようになります(第 14 条)。


と言っても、法務パーソンとしては、これらの当事者からの説明だけを鵜呑みにするわけにはいきません。どこがどのくらい変わったのか、実際に規約の文言をこの目で確かめてみよう!ということで、比較表を作成してみました。ウェブ公開にしてありますので、ご入用の方はご参考になさってください。ただし、右カラムの新規約には、旧規約からの変更履歴も残したため、開く際ちょっとファイルが重たく、ご利用の環境によってはフリーズする方もいらっしゃるかもしれませんので、ご注意ください。


Google Play デベロッパー規約 新旧対照表(変更履歴付き)

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一番目を引くのは、エンドユーザーに対してデベロッパーが負うべき販売責任をこれまでよりもかなり強調した、3〜4条の変更です。Googleさんの説明では「国際的な税制への変更に準拠するための」とあります。Google Playでの販売に対する国際課税ルールの適用が日本でも問題となっていることについては、当ブログの記事「国際課税ルールの大転換とデジタルコンテンツ取引への影響」でもご紹介したとおりですが、今回、「対象製品はデベロッパーのために、デベロッパーが独自の判断で設定した価格でユーザーに対して表示されます。」「デベロッパーは、ストアを通じて販売する対象製品に対して最終販売責任を負う商業者(Merchant of Record)です。」といった文言が加わり、税制対応に乗じたカタチで、「あくまでデベロッパーが販売者であって、Googleは代理販売者でもコミッショネア(問屋)でもないのだ」という、プラットフォーマーとしてのAppleとのスタンスの違いがクリアになってきました。


玄人向けの細かいところでは、この業界のこの手のトピックに精通されている@yrikさんもtwitterで指摘されていらっしゃったのですが、4.5でGoogle Play以外の 野良ストアにエンドユーザーを流すための宣伝用アプリを明確に禁じてきた点も注目です。というか、そもそも今ままでこの規約上「Androidマーケット」と呼んでいたものを、今回の変更で「ストア」と名称変更し、さらに定義条項でそれはイコールGoogle Playのことを言うのであるとしているあたりに、もしかすると、これまで他の野良マーケットのやんちゃをある程度容認してきたGoogleさんが、そろそろスタンスを変えようとしているのではないだろうか?と感じたのは、私だけの穿った見方でしょうか。


純粋な法務目線で見た際に興味深いのは、14条の規約変更権に関する記述の修正です。以前のバージョンでは、Googleがデベロッパーアカウント管理者へのメール通知を行うことを最終通知手段としていたのが、今回の変更でそれを削除し、デベロッパーコンソール上での表示が最終通知とし、安全弁として継続利用をもってみなし同意とする文言を加えています。確かに、今の時代となってはメールはすでに連絡手段として重視されなくなっているとはいえ、Googleからは(プッシュ型通知という意味で)能動的な法的通知を行わないことに変更するのは、なかなかの勇気が必要だったのではないでしょうか。利用規約を一方的変更権が果たして法的にどこまで有効たりうるのかという議論もある中、さらに一歩踏み込んだこの規定がスタンダードになっていくのか、参考にさせていただきたいと思います。
 

また何か気づいたことがあれば、こちらに追記いたします。
 

アドテクとパーソナルデータとプロファイリングと

 
アドテクとパーソナルデータについての勉強会に出席。

いわゆる“クッキー(cookie)”が、ネット広告エコシステムの中で広告主/広告メディア/エンドユーザーの間をどのように流通し取り扱われているかについて、過去アドテク企業で働いたご経験をお持ちの法務パーソンから、お話を伺いました。その勉強会のお話の中で、特に私が興味を抱いたのがこの図(発表者の方に掲載許可を頂きました。ありがとうございます)。

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ネット広告エコシステムの中には、ネット上の様々なサーバーに蓄積されたビッグデータやサイトのログデータなどを一元管理・分析し広告配信の最適化を実現するDMP(Data Management Platform)という存在がいます。そして、このDMPに対し、表示する広告の最適化を目的に、エンドユーザーが使うブラウザのクッキーをKeyにして属性情報に関する問い合わせを行うのが、DSP(Demand-Side Platform)とSSP(Supply-Side Platform)です。そしてそのDSP/SSPは、DMPからの属性情報照会結果(DMPデータ)を使って、RTB(Real Time Bidding)=広告枠の入札/応札を行います。さて、ここで問題となりそうなのが、DSP/SSPがこのDMPデータを意志を持って溜め込んだ場合、個人情報保護法違反またはプライバシー権侵害とならないと考えてよいか?という論点です。

勉強会出席者(主にアドテクではない法務な方々)からは、

・DMPが提供している個々のDMPデータ自体は個人データではないから、第三者提供にもならない
・それをDSPやSSPが溜め込んでも、容易照合性はないだろう
・仮にDMPデータの集積から特定識別できたとしても、個人側に具体的な損害がないのでは
・そもそも、広告事業者側にDMPデータを溜め込むインセンティブはあるのか
・結局は、自己情報コントロール権みたいな話でしょう

と、総じて「それほど問題はないのでは」という反応でした。アドテクに使われているパーソナルデータが内包しうるプライバシー性は理解しつつも、保護法で定義される個人データとは一致しないというところに、これを保護・規制しようとする流れには直ちには首肯できない、といった様子(出席者全員がそうだったわけではありません)。

その一方で、少なくともEUの一般データ保護規則提案では、このような論点が「プロファイリング」問題として取り上げられ、すでに規制される流れになっていると私は認識しています。以下、石井夏生利先生の『個人情報保護法の現在と未来』より引用。

 第20条「プロファイリングに基づく措置」は、現在のネットワーク社会におけるプライバシー・個人情報保護の問題を捉える上で重要性を増している。この権利に違反した場合も、異議申立権違反と同様、最も思い行政的制裁が課せられる(第79条6項(d)号)
 第20条は、次のように定めている。

「1 すべての自然人は、当該自然人との関連で法的効果を生じさせ、又は当該自然人に重大な影響を与える措置であって、当該自然人に関連する一定の個人的側面を評価し、又は、とりわけその自然人の業績、経済状況、位置、健康、個人的嗜好、信頼性若しくは行動を分析又は予測することを意図した自動処理のみに基づく措置に服さない権利を有するものとする。」

 第20条は、自然人に対し、コンピュータ処理を手段としたプロファイリングに基づく措置に服さない権利を有する旨を定めている(1項)。ただし、(a)契約の締結又は履行の過程において実施される場合であって、それがデータ主体の求めによるか、適切な安全保護措置が提示されたものである場合、(b)EU法又は加盟国の法が明示的に権限を付与し、データ主体の適法な利益を保護するための適切な措置を定める場合、(c)データ主体が同意した場合であって、同意の条件を満たし、かつ適切な安全保護措置を講じた場合は適用除外される(2項)。しかし、その場合でも、管理者は、特別な種類の個人データのみに基づく評価を行ってはならない。また、2項の場合にデータ主体へ提供すべき情報には、プロファイリングに関する措置を講じるための取扱いの存在や、当該取扱いがデータ主体に与え得る影響等が含まれる(4項)

また、米国でも、雇用や信用情報をプロファイリングし販売していたSpokeoに対してFCRA(公正信用報告法)違反で罰金を課した実例があります。


発表者の方曰く、

「DMPデータは鮮度も重要なので相当な頻度で更新されているので溜めたところで使えないだろうし、DSP/SSPも、法律に触れないにしてもDMPデータは蓄積すべきではないという考えはもっていて、ほとんどの事業者がプロファイリングを目的としたデータ蓄積はしていないはず。」

とのこと。そうだろうなと思いつつも、例えばヤフージャパンさんのような、大きな集客メディアと人気ある広告枠を持っている企業が、尖った属性情報を持つデータアグリゲーターと提携し、容易照合性が疑われるようなことがあると、日本でもこの論点がもう少し注目を集めることになるのかも。と、ここまで書いて、ヤフージャパンさんが最近データアグリゲーター大手と提携されていたことを思い出したり・・・。


このプロファイリングというキーワード、日本のパーソナルデータ検討会では継続検討課題として大綱にはかろうじて入っているものの、議事次第を追跡すると、鈴木委員以外の委員からは規制をかけることにネガティブな意見が相次いでいた部分でもあり、優先度が低いテーマになっているように見受けられます。が、名簿屋規制というパンドラの箱まで開かれた今、バズワードに育つのも時間の問題のように思われます。

広告という商業活動に無縁な事業者など皆無なだけに、なかなかにヘヴィーなテーマです。
 

【学会誌】法とコンピュータ No.32 ― 提供元基準 vs 提供先基準論争は続くよどこまでも

 
法とコンピュータ学会の2014年7月版学会誌を入手。当然ながらパーソナルデータネタ盛りだくさんとなっていて、関心のある方も多いのではと思います。しかし、学会ウェブサイトは更新・運営の手が止まっている様子で、弁護士会館ブックセンターさんあたりに行かないと入手困難かもしれません。


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中でも、岡村久道先生の基調講演録(論稿+スライド)がアツかったです。個人情報保護法における容易照合性の判断基準について、提供元基準か提供先基準かという論争について、「政府解釈は提供元基準」ということですでに終止符が打たれたかのように早とちりしていた私でしたが、この講演では岡村先生が
・『石に泳ぐ魚』事件(最判ではなく東京高判平成13年2月15日のほう)
・長良川少年報道事件(最判平成15年3月14日)
・東京地判平成24年8月6日事件
・さいたま地判平成23年1月25日事件
等、プライバシー情報の公表や提供に関するいくつかの判例理論を分析した上で、やはり提供先基準と考えるのが適切であると力説されています。また、マサチューセッツ州知事の医療データが識別された事件に代表されるような、ネットやSNS上から入手しうる情報を用いて照合(link attacks)し再識別化されるケースにおける保護法の適用についても言及。


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法務パーソンとしてどちらに与するかは別として、日ごろは安全サイドに立って提供先での特定可能性も検討するのですが、考えてみれば「政府解釈は提供元基準」だからといって、司法においてもそれが踏襲されるという保証は無いわけです。個人情報保護法の容易照合性の判断基準について明言する最高裁判例が無い中では、岡村先生がここで取られているような裁判例を紐解くアプローチの方が正攻法では、という気もしました。


そしてもう一つ、「ビッグデータビジネスと程よいWebプライバシー」という、なんとも興味を引くタイトルの論稿が。こちらは通信事業者にお勤めの実務者の方による研究報告で、ネット広告エコシステムを転々流通する情報に、電気通信事業法(通信の秘密)と個人情報保護法を重畳して適用する必要があるのか?という論点。


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このアドテク×プライバシーという論点については、写真中の図にも表されているように登場人物(関係する事業者)が多く、理解するのをなかば放棄していた分野なのですが、遅まきながらきちんと勉強しておこうと、先日勉強会にも参加した次第。次回はその模様について書きたいと思います。
 
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