企業法務マンサバイバル

ビジネス法務に関する本・トピックのご紹介を通して、サバイバルな時代を生きる皆様に貢献するブログ。

法務

パブリック・アフェアーズ人材を目指す前に


まだ年内2週間あるのでフライング気味ですが、今年一年の仕事を振り返ると、今までとはひと味違う「渉外」業務に携わったことが特に印象に残っています。

前職の放送通信/人材サービスは、業法に基づく認可・届出や法的規制が明確化された業界でしたので、省庁対応も業界団体の中でのふるまい方もあまり戸惑うことはなく、「渉外」と呼べるほどの業務ではありませんでした。対して今いるエンタメ業界は、明確な業法規制がなく自由でありながら、“おイタ”をすると厳しいご注意をいただくという、難しい間合いの中での事業運営。業界団体の先輩方にトーン&マナーを伺いながら、某公聴会にお呼ばれして出席したり、自社で発生した問題について省庁に報告・相談に伺ったりと、まさに手探りの日々でした。

そんな中で、来年に向けてこの分野で何ができるか・何をすればいいのかについて、各企業で「渉外」「公共政策」を担当している方にお話を伺って勉強していたところに、@overbody_bizlaw 先生が「法律家によるルールメイキング関与の可能性はあるか??」を投稿してくださいました。ロビイングともPRとも違う、「公正・透明な方法で交渉し、合意を形成する」業務としてのパブリック・アフェアーズ。overbody先生とは、ブログの感想をお伝えしがてらお話しもしたのですが、

当該事業が法令上問題がないことを示すために、既存の法解釈を変えていく、またはこれまで議論のなかった曖昧な点を解釈で明らかにしていくことも当然含まれてくる。具体的なアクションとしては、まずは関係する行政当局にかかる立場の理解を求めていくのだろうし、最後のステップとしては裁判だろう。

この能力が求められる限り、法務パーソンがこの役割を担う必然性はあるだろうと、私も思っています。


一方で、先生もブログで紹介されている書籍『パブリック・アフェアーズ戦略』は、私がその役割を担わんとするにはまだまだ足りない要素を指摘してくれます。

パブリック・アフェアーズ戦略
西谷武夫
東洋経済新報社
2011-11-25


PA

役割として●がついているところを見ると、私は講演を求められることもなければ、書籍や論文の発表も(自分なりにはチャレンジしてきましたが)社会から専門性を評価されるレベルにはいたっていません。そして、やはり最も重要だなと思うのが、特定マスメディア・一般メディアを利用できるほどのメディアパワーを持っているかという点。こればかりは、自分の能力や経験だけでなく、自分が携わる事業に社会的意義が認められなければ持ち得ないのです。最近、同業他社最大手の渉外担当の方がマスメディアからたくさんの取材を受けていて、すごいなあと指をくわえて見ているのですが、それはやはり同社の事業が当業界において影響力を持っているからこそ。自分一人だけが専門性を高めてその道の有名人になって公共政策を唱えたところで、「馬耳東風」にスルーされるか、場合によっては「物言えば唇寒し秋の風」となることもあるかも。私の今の状況を鑑みるに、パブリック・アフェアーズを云々するより前に、自分が携わる事業がメディアパワーを持つぐらいの社会的意義を認めていただけるよう、目の前の事業サポートに集中するのが先と考え直した次第です。


法務パーソン×メディアパワーを持つ企業=パブリック・アフェアーズで思い出した話を最後に一つ。森・濱田松本法律事務所にいらした野口祐子先生が、なんとGoogle日本の法務に移籍されたそうです。弁護士会の登録も、すでにそのように変更されていました。ローレンス・レッシグに師事し、『デジタル時代の著作権』で未来の日本の著作権のあり方を具体的に提言され、日本におけるクリエイティブ・コモンズの普及活動を通じ若き知財関係者に多大な影響力を持つ野口先生。ご自身の思いを具体化するべく、今メディアパワーにおいて右に出るものはいない組織であるGoogleと「組んだ」ようにも見えます。Googleの法務としてだけでなく、IT業界知財パーソンの先駆者としての先生のますますのご活躍に、期待したいと思います。




 

【本】ビジネス法務基本用語和英辞典〔第2版〕/ビジネス法務英文用語集 ― 結局2冊買うことになる

 
ビジネス契約書の起案・検討のしかた』の原秋彦先生が、和文から翻訳して英文契約書・ビジネス文書を作るための「和英辞典」と「用語集」をセットでリリースされました。







まずは青の「和英辞典」。こちらはタイトルにあるとおり同名の書籍の〔第2版〕という位置づけ。率直にいってかなり見にくかった・使いにくかった初版のレイアウトを一新し、二段組みとしたことで、使い勝手がだいぶ良くなりましたね。

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内容は、あいうえお順に並んだ日本語の法律用語に英訳がついた素直な和英辞典です。クセもなく、使いやすいと思います。装丁もソフトビニールで耐久性と開きやすさが両立しています。

法務では、普通の英語学習用の和英辞典だけでは困る場合があります。例えば、同じ「強制する」という単語一つを英訳するにしても、compel,force,urge/coerce/enforceによって法的なニュアンスが異なるということを理解した上で使いわけなければなりません。また、「委託」「瑕疵担保」「専用実施権」のように、必ずしも英米法にズバリ対応する概念・訳語がない場合にどのように訳すべきかを知る必要があります。そのためには、専用の和英辞典が必要。訳語の選択にビジネス経験の豊富な渉外弁護士のノウハウも入っているとなれば、信頼感も違います。


一方、緑の「用語集」。こちらは特にタイトルでは明らかにされていませんが、ふたを開けてみると絶版となった『ビジネス法務英文グロッサリー』の再編集版でした。BLJの2013法務ブックガイドでもとある先生がおススメしていた本で、中古でも品薄だったので、待ち望んでいた方は少なくないのではないでしょうか?

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ただ、こちらはちょっとクセがあるのでご注意を。まず、同時に出された青の和英辞典とは違い、あいうえお順には並んでいません。では何順にならんでいるのかというと、
  • 論理構成のための用語…仮定条件/理由付け/接続詞/結論/比較/例示等
  • 権利関係に関する用語…遵守・違反・不当利得・故意過失・瑕疵/損害賠償/時効/取消・解除等
  • 契約書等起案用語…要件・条件/除外/使役/〜に従って・〜にかかわらず/以上・以下等
といった、語句の“役割”“機能”ごとに、用語・連語(グロッサリー)が分類されているのです。ですから、日本語で先に「こういう英文契約の条項が作りたい」という構造を具体的に描いた上で調べる必要があり、和英辞典と比べて、直感的ではないところがあります。

その代わり、派生語をまとめて眺められるよさもあります。実務でよく使われる語がゴシック太字になっているのも、うれしい配慮です。学習辞典と考えるとgoodではないでしょうか。こちらの本は装丁がソフトビニール製じゃないことからも、繰り返し引く辞典的な使い方ではなく、「学習のための通読」を前提としている様子がうかがえます。


あえてこの2冊について欠点を挙げさせてもらうならば、例文がほとんど載ってない、というところでしょう。原先生曰く、「コンパクトにまとめるためにあえてそうした」とのことなのですが。語句やコロケーションだけでなく例文がいくつも掲載されている野副靖人著『英文契約書のための和英用語辞典』の充実感と比較すると見劣りしますので、ここは人によっては残念という方もいらっしゃるかもしれません。

とはいえ、原先生というこの分野の大家を担ぎ、同じ著者が2つの切り口から書くことでバリエーションの広がりを作りつつ、取り上げる語句・表現は一貫させ、しかもまとめて出版してきたところを見ると、この2冊セットを和英契約用語辞典の決定版として普及させようという商事法務のなみなみならぬ意志が伝わってきます。実際、例文がない点以外は、完成度の高い仕上がりで、結果的にそうなる予感もします。

2冊買うと9,000円近く。予算の都合でまずどちらかを買って相性を見てみようという方には、私は緑の「用語集」から買われることをお勧めします。
 

自炊すべき本とすべきでない本のボーダーライン

弊ブログの昨日の記事で、i文庫HDに法務関連書籍を自炊→OCRにかけてiPadに入れていると便利、と書いたところ、


とのコメントをいただきましたのでちょっと補足。


まったく先生のおっしゃるとおりで、2011年から自炊をはじめて2年超の経験でも、実用書、それもリファレンス本のみにとどめたほうが良く、複数冊広げて並べて検討したり、パラパラと前後にめくりながら概念を理解するための基本書・概説書は紙の書籍の状態のままの方がいいかもと感じています。

具体例を上げてみましょう。たとえば、英文契約に関する本について、私のiPadには今22冊の自炊本が入っています。

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このうち、右下にある中村秀雄著『英文契約書作成のキーポイント』は、法務パーソンにとってのバイブルとして有名な書籍ですが、これは自炊にかけて後悔した失敗例のひとつ。この本は、何通もの英文契約書に触れて実戦をこなしながら、悩みを抱えた状態でじっくり腰を落ち着けて読むと、その解決の糸口が見つかるといった類の本だからです。ドラフティングに役立つテクニック・ノウハウもそこかしこに埋め込まれており、全文検索してそういった情報が見つかって助かることもなきにしもあらずなのですが、その頻度はそれほど高くありません。この失敗から、以降類書である平野晋『国際契約の<起案学>』やチャールズ・M・フォックス『英文契約書作成の技法』は自炊を控えました。

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英文契約関連でもあえて自炊を避けた本たち

もう一つ、個人情報・プライバシー系の論文や寄稿をいくつかしていたころに、別の観点から自炊の欠点に気付かされたことがあります。当初は引用判例などがPDFで全文検索できれば超ベンリじゃん!とガンガン自炊しかけていました。しかしいざ論文を書こうとしてみると、同じテーマをそれぞれの先生が違う角度でどう捉えているのかを比較して理解を深めていくシチュエーションが多く、A先生とB先生の基本書・概説書を机に広げならべて検討をしたいものの、いったん自炊をしてしまうとそれができない・しにくいのです。これは、書籍をそういう使い方をする立場になって初めて感じた不便さでした。あ、もちろんiPadを2台用意するという手はありますが・・・(笑)。

これらの失敗で得た教訓から、以降法務関連の本はリファレンス系の本、具体的には、契約書の例文・用語集のたぐいや、書式等がたくさん紹介されているような実用書を中心に自炊するようになりました。こういったものについては自炊すればするほど検索性の高さと相まって、データベースとしてのiPadの威力を強化できます。法務系以外だと、英文メールの例文集なんかも自炊向きでしょう。

もちろん、すべての本について自炊用と紙の書籍のまま保存用の2冊買うお金を惜しまなければ、いつでもどこでもiPadの中に自炊ファイルを持ち歩きつつ、必要なときに家で書籍の形でパラパラ参照できて最強なんですけど、それは現実的に無理。解決策として、今の所属組織は幸いにして業務利用で会社設置の書籍購入は自由なので、基本的に自費で購入して自宅に置くことを基本としつつ、必要な書籍は社費でも購入させてもらって家/会社の2箇所に置くことで、「どこでも」と「パラパラ」のニーズを最低限カバーしている状況。その上で、「パラパラ」の利便性よりも「全文文字検索」の必要性が高い本のみを自炊、という結論にいたったわけです。

私のiPadの法務スクリーン


私のiPad歴も丸2年、ハードウェアで数えるとiPad2→iPad3→iPad airと3代目となり、仕事のツールとして馴染むレベルを超えて、iPad無しでは仕事ができない身体になってきました。

先日、同じグループのメンバーの方もiPad airを購入され、「おすすめアプリ教えてくださいよ」とのリクエストもありましたので、法務系Tips Advent Calendar 2013企画にあわせ、私がどんな感じでiPadを仕事に使っているかをご紹介したいと思います。


私のホームスクリーン


こちらが私のiPadのホームスクリーンになります。

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全体を概観すると、スクリーン上半分が情報の「収集」「記録」のためのアプリ群、下半分が「調査」「リファレンス」のためのアプリ群、そしてDockにあるのが「手帳の代替」のためのアプリとなっています。では、以下個別アプリの短いご紹介です。


一行目


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ChatWork
所属組織で導入しているクラウド型チャットアプリ。
今のオフィスには各人の机に電話がありません。そして、法務相談も込み入ったものでなければチャットでやってきます。いかにもITベンチャー。最初はまじかよ!と思ったものの、質問と回答のログがはっきり残るので言った言わない問題がなく、この方がベターと私も思うようになりました。ただし、チャットだけにものすんごい即時性が求められます。ログが残るだけに間違えれば責任があからさまとなる緊張感の中、私も負けじと3分以内には返答するようにしてますが、ラッシュ時はそれはそれはテニスのラリーかお手玉のようで楽しいです(笑)。ただ、これのおかげで思考スピードが鍛えられた自信はあります。

Gmail
メーラーアプリ。
所属組織がGoogle Appsを導入していることもあり、会社用アカウントと個人用Googleアカウントを切り替えて使ってます。ちなみ個人用アカウントには自分が持つすべてのメールアカウントを統合しています。

Googleドライブ
クラウド上の文書作成アプリ+共有ファイルスペース。
所属組織がGoogleAppsを導入している関係もありファイル共有機能が非常に便利なので、文書/表計算ファイルはよほどのものでなければGoogleドライブ上で作成します。もはやMSのwordは他社との契約書だけ、excelもよっぽ見た目を美しくしたいときでもないと使わないですね。Drive上で作っておけば、ファイルが途中で落ちても消えることもないですし、仕事が中断してもどこからでも必要なファイルにアクセスできて便利です。

Evernote
クラウドメモ&webクリッパー。
どちらかというと、これでメモを取るというよりは、PC上のEvernoteでクリップしたウェブページやPDFを閲覧・検索する用途の方が多いです。自分で入力するメモは、後述するPenultimateという手書きメモアプリがEvernoteと連動していて自動的にEvernoteにも取り込まれるようにしていますので、そちらで用が足ります。あと変わった使い方としては、セミナーや会議等でボイスメモアプリとして使うことがしばしば。iPadには、なぜかApple標準のボイスメモが入れられないんですよ。

二行目


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・Safari
標準ブラウザ。
iPadに最初っから入っているので特に解説することはありませんが、法務的な観点ではひとつ、セキュリティ度高めなネット接続や検索は、このSafariのプライベート(シークレット)モードであえて行います。GoogleChromeにもシークレットモードはありますが、油断した隙にGoogleアカウントと紐付けて検索履歴を収集されてしまうのがコワイので。

Chrome
Google製のブラウザ。
使用頻度は低いですが、2ndブラウザとして。

・Y!リアルタイム検索
これはアプリではなく、「Yahoo!リアルタイム検索」のウェブページを「ホーム画面に追加」操作をしてアイコン化したもの。キーワードを入れると、twitterとfacebookの公開投稿を全文テキスト検索してくれます。情報収集ツールとして、最近Google検索と同様欠かせなくなっています。

twitter
説明するまでもないテキストベースのSNS。
最近は、TLを一生懸命追うのではなく、上記リアルタイム検索と組み合わせて、リーガルリスクの“センサー”として活用しています。自社名や自社サービス名で検索すれば、今発生している「まずいこと」「顧客クレーム」現場が気付くよりも早く察知することができます。なお後述しますが、twitter以外のSNSは(キーパーソンとの通信を除き)仕事上の情報収集には使えないので抜いています。ちなみに、アカウントは企業法務マンサバイバル管理人用(法務情報収集用)とプライベート用2つ持ってますが、標準アプリはアカウントの切り替えもスムーズで便利です。

三行目


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Gunosy
ニュースキュレーションアプリ。
twitterアカウントやこのアプリ内での記事閲覧履歴から嗜好を分析して、朝刊/夕刊それぞれ10から20記事程度に絞っておすすめしてくれます。日本の主なニュースはこちらで抑えます。smartnewsを入れていた時期もありましたが、キュレーション量が多すぎて時間を喰うので削除しました。

Zite
ニュースキュレーションアプリ。
機能的にはGunosyの英語版といったところですが、自分で設定したキーワードから世界のニュースを拾ってきてくれるのがさらに便利。海外の法務ニュースは量も多く、ブログをまじめに巡回していると時間がいくらあってもたりないので、基本的にはこのアプリから拾い読みします。

Feedly
RSSアプリ。
GoogleReader亡き後のRSSリーダーはこちら。100を超える日本の法務ブログ、200を超える海外法務ブログをこちらに登録してあり、時間あるときにまとめて閲覧したり、ブックマークしたり、検索して使っています。私のRSSリーダーの使い方については、以前コチラの記事でもふれましたのでご参考まで。

NIKKEI
日経新聞を紙面のイメージ通り読めるアプリ。
月4,000円の購読料がかかるのが難点で、毎月末を迎えるたびに辞めたくなります(笑)。日経さん、月2,000円ぐらいにしましょうよ。でも新聞記事を検索できるのは便利。

四行目


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CaluculatorX for iPad
計算機アプリ。iPadには標準の電卓アプリがなぜか無く、iPad向けに対応している無料のこれを。最近のバージョンアップで通貨や度量衡の換算ツールがついて便利になりました。

ウィズダム
英和・和英辞書。
語彙数が豊富です。よっぽどのリーガルジャーゴンでない限り英和・和英とも検索してでてこない語句はほとんどないと思われ、これ一冊でいいんじゃないかと。ちなみに今年第二版が別アプリとして出ましたね。高いんで買い替えてません(笑)。

コウビルド
英英辞典。
英語学習用として定評のある辞典です。

パーフェクト六法HD
@kataxさんが作成された六法アプリ。法令だけであればこちらで必要十分です。ただ、当たり前ですが、判例が検索できないのは残念。判例六法Professionalのアプリ版が出れば速攻買うのにー。お願いします有斐閣さん。

五行目


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i文庫HD
書籍・PDFファイル閲覧アプリ
これは私の強力な武器の一つです。法務関連の実用書を自炊して、全部このアプリに入れています。この自炊ファイルはすべてOCRをかかけており、全文検索ができますので、契約書のサンプル例文を探すときなど便利で心強い。さらに、経産省準則やスマートフォンプライバシーイニシアティブなどの重要なガイドライン、参考になる法律論文、著名な先生方の論稿・法律事務所のニュースレターなどもPDFでこちらに放り込んでます。『英文ビジネス契約書大辞典』のような大部の書籍や、300ページ超の経産省準則もこれで持ち歩け、さらに全文検索できるのは、かなり便利です。標準のiBooksもいいところはあるのですが、あちらは見開き2ページ表示ができない=情報一覧性が低いので、これを使っています。

・設定
iPadの設定を変更するアプリ。なんだかんだいって使うのでホーム画面においてます。

Dock


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・カレンダー
標準のスケジューラアプリ。
所属組織のGoogleカレンダーと同期させています。打ち合わせ10分前にはリマインダーがポップアップで出てくれます。知らないうちに他の人からカレンダーに入れられていた打ち合わせも、すっぽかさずにすみます。

・リマインダー
標準のタスク管理アプリ。
iOS5のころのリマインダーは使いものにならなかったのですが、iOS7になってだいぶ使いやすくなりました。日/週/月/年/3年ごとのタスク管理と、あとはアイデアメモリスト・ほしい物リスト・行きたい場所リスト・しないことリストとしても使っています。

Google検索
いわずとしれた検索アプリ。
基本的には探しものはこちらからします。セキュリティ的に気になる場合はSafariで。

Penultimate
手書きメモアプリ。
詳しくは以前取り上げた記事を御覧ください。iPad airにしてからはCPU性能が上がったので本当に手書き感覚と遜色なくなりました。さらに、Evernoteとの連携により手書き文字もEvernote内で全文検索の対象となりました。このDockに入ったカレンダー、リマインダー、Penultimateの3つがあれば、手書き手帳派のあなたも卒業できると思います。

ホームスクリーン以外


ちなみに、ホームスクリーン以外には、仕事外の家で楽しむための
・Kindle、honto、ビューン等の電子書籍リーダーアプリ
・Youtube、Huluやネットラジオ等のストリーミングアプリ
・音楽制作・DJアプリ
・ゲームアプリ
などが入っています。

あえて(twitter以外の)SNSアプリは入れない


twitter以外のSNS(Facebook、Google+、Path等)アプリは、あると仕事中にもつい開いてしまうので抜きました。抜いてから、明らかにiPadのダラ見時間がグッと減り、目的をもって開くようになりました。SNSは、よっぽど誰かキーパーソンと連絡取りたいときにだけPCもしくはスマホから開く、というように限定した方がいいと思います。

iPadはビジネスパーソンの手帳とカバンを代替していく


iPad mini、そしてiPad Airと新機種が増えるにつれ、まわりにもユーザーがどんどん増えてきたiPad。エンターテインメント・おもちゃとしては十分に普及したとはいえ、現段階で仕事のツールとして役立てている人がどのくらいいるかというと、まだ少ないのかな、という気がします。

そういう私自身、実はこれまでiPadを使いながらもまだまだ紙の手帳やPCの代替は厳しいなとあきらめかけていた者の一人。しかし、今年中盤あたりからスケジューラ・リマインダー・Google系アプリ・Penultimateの使い勝手が著しく向上し、追い打ちを掛けるように高性能で薄型のiPad airが発売され、「これなら手帳はもういらないな」と思えたほどの大きな変化を感じました。従前から便利に使っていた自炊本データベースを軸とした大量の資料保管&リファレンス機能も、仕事の生産性向上に寄与してくれています。実際、米国でも同様の理由から弁護士のiPad普及・利用率はかなり高いと耳にします。PCを代替するというよりも、ビジネスパーソンなら誰もが持っている手帳と資料が詰まったカバンを代替する形で、普及が加速していくフェーズに入ったのではないでしょうか。

情報の収集・記録・調査が勝負の法務パーソンにはなおさら、iPadはオススメできるツールです。
 

というわけで、@caracalooさんから引き継いだ法務系Tips Advent Calendarバトンを、伝説の法務系ダブルボケ漫才コンビ「カタアンドヒロ」のヒロこと @hiro_oceanにお渡しします。
 

新卒入社試験の受験料制度を合法とするための条件(厚生労働省による行政指導を受けての追記あり)

本日12月1日から就職活動解禁だそうで、早速街にはリクルートスーツ姿の就活生があふれていました。そんな中、ドワンゴさんが新卒入社試験に受験料を徴収する件が話題になっています。ドワンゴさんぐらいの人気企業だと、こういうことやってもきっと応募がガンガンくるわけで、うらやましい限り。

新卒入社試験の受験料制度導入について(ドワンゴグループ 新卒採用ページ)

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ドワンゴさんらしいインパクト勝負のこの制度に、早速ネットでは「こんなの法律的にOKなの?」と賛否両論あるようです。

私見ではありますが、今回のような応募者の本気度を測るためにお金を払わせるというやり方は、違法とならないように行う道はあるものの、その趣旨説明と受験料の取扱いには相当な配慮が必要ではと考えます。

採用試験の“手数料”を取ることは合法


そもそも、企業が採用選考で学生からお金を取っていいのかという点については、すでに話題になっているとおり、職業安定法第39条にこんな条文があります。

職業安定法
(報酬受領の禁止)
第三十九条  労働者の募集を行う者及び第三十六条第一項又は第三項の規定により労働者の募集に従事する者(以下「募集受託者」という。)は、募集に応じた労働者から、その募集に関し、いかなる名義でも、報酬を受けてはならない。

「いかなる名義でも」と文言にはっきり書いてあるので、今回の件もダメそうに見えます。ところが、厚生労働省の「労働者募集業務取扱要領」には、この条文の行政解釈がこんなかたちで披露され、必ずしもダメではないことが解説されています。

労働者募集業務取扱要領 労働者募集の原則(厚生労働省ウェブサイト)
(5)報酬の受領及び供与の禁止(法第39条、第40条)
募集主又は募集受託者は、募集に応じた労働者からその募集に関していかなる名義でも報酬を受けてはならない。また募集主は募集従事者に対して、賃金、給料その他これに準ずるもの又は厚生労働大臣の認可に係る報酬を与える場合を除き、報酬を与えてはならない。
なお、募集とは、労働者を雇用しようとする者が、自ら又は他人をして労働者となろうとする者に対し、その被用者となることを勧誘することであり、採用試験は募集に応じた者から雇用することとなる者を選考するために行うものであるため、募集とは別の行為である。このため、採用試験の手数料を徴収することは法第39条の報酬受領の禁止には該当しない。

職業安定法をここだけ読むと、一体この法律は何をしたいのかわからないかもしれませんが、全体を読めば、就職の機会均等の確保に加えて、その就職機会の提供にかこつけて本来労働者が受け取るべき給与等から不当に中間搾取をしようとする輩の排除を目指す法律であることがわかります。つまり「お礼にカネ(条文にいう「報酬」)をくれるんだったら、被用者にしてやってもいいけど?」という行為を禁じているというのが、第39条の主旨であると。したがってそういった意図、つまり報酬としてでなく、純粋に選考プロセスで発生する“手数料”を応募の意思に基づいて負担させる限りにおいては、合法であるとされているわけです。

この点、今回のドワンゴさんのQ&Aにも、

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とあります。あくまで自分の意思でプレエントリーし説明会に参加した学生の中で、ドワンゴに入ってみたいという意思を持った人=エントリーする人から受験料を徴収するという建て付けになっており、この点法律上問題とならないように慎重に配慮した形跡が見られます。

本気度を測るためのお金=“手数料”?


ただ、私が自分の所属組織で人事から本件の相談を受けていたら、

新卒のかたの入社試験に受験料をいただくことにしました。金額は2525円。目的は、本気で当社で働きたいと思っているかたに受験していただきたいからです。
集めた受験料は奨学制度の基金かなにかに全額寄付をする予定です。

この2点の記述・取扱いは、再検討をさせたかなと思います。

「2525円」というのはシャレをきかせた数字として面白いです。しかし、法律が徴収を認めているのがあくまで“手数料”である以上、実際に採用試験に掛かる実費を算定してそれを請求すべきではないかと。また、徴収したお金を「寄付」するというのも、儲けを目的としていないことの表明としてはわかりやすいとは思うものの、会社として応募者に“手数料”を請求しているということにならないのではと。そしてなにより、目的をここまで露骨に書く必要はなかったんじゃないかなと。実費としての受験料を負担させることだけでも、実質的には記念受験の就活生の多くは排除でき、目的は達成されるはずですしね。


同社にはインハウスの方も複数いらっしゃいますし、このあたりの法律は抜かりなく検証されたものと推測します。しかし、職業安定法の主旨にも現れているとおり、労働問題の中でも採用選考場面はとかくセンシティブな部分です。言葉じりを捉えられて世間の批判が高まれば、厚労省から指導が入る可能性も否定できません。昨年、「縁故採用宣言」をした岩波書店を機会均等の観点から調査した事例もありましたし。

就活シーズンに突入した今、私もひとごとではなく、こういった表現に関するアドバイス・判断には一層気を遣わなければと思いました。
 

2014.3.2追記:やはり実費としての根拠は必要だった


厚生労働省から指導が入ったとのことです。

ドワンゴ就職受験料、厚労省が中止求め行政指導
来春卒業予定の大学生らの採用を巡り、大手IT企業「ドワンゴ」(東京)が入社希望者から受験料を徴収する制度を導入した問題で、厚生労働省東京労働局が「新卒者の就職活動が制約される恐れがある」として、職業安定法に基づき、次の2016年春卒の採用から自主的に徴収をやめるよう行政指導をしていたことがわかった。
同社などによると、行政指導があったのは2月中旬。厚労省は「受験料制度が他社にも広がれば、お金がない学生の就職活動が制約される恐れがある」として問題視。来春卒業予定者の採用では、既に手続きのピークを過ぎているとして事実上、不問にしたが、16年春卒の採用からは徴収しないよう求めたという。

労働者の募集に関し、職安法は「いかなる名義でも報酬を受けてはならない」と規定。厚労省は指導の中で、ドワンゴの受験料が「報酬」にあたるかどうかは明確に判断しなかったといい、同社の担当者は「受験料は報酬にはあたらない」との認識を示している。

職安法(を解釈する行政庁としての厚生労働省)が徴収を認めているのはあくまで手数料実費にすぎないのであって、少なくとも「本気かどうかを確かめるための受験料」は認められない、という見解が示されることとなりました。「寄付」を表明して報酬ではないことを主張したとしても、やはり、実費なら実費としての根拠を示せる状態にしておくべきだった、ということでしょう。

ただし、12月にあれだけ話題になったにもかかわらず、わざわざ就活がピークアウトした2月に行政指導を入れ、しかも「来年度からは“自主的に”やめなさいね」とした点には、法解釈上も微妙なボーダーラインだったことを踏まえた、厚労省なりの落とし所の作り方であることが伺えます。
 

2014.3.3追記:ドワンゴの反論


ドワンゴさんが読売報道に対する釈明、というか反論の声明を出しました。ハードコア路線です。

「受験料制度に対する、厚労省から中止を求める行政指導」報道について
「職業安定法 第48条の2」に基づき、厚生労働省より来年以降の受験料徴収の自主的な中止を求める旨の「助言」を受けました。今回は「助言」として口頭のみで行われ、書面等の受領はありません。
弊社からは、来年度以降の実施については、今年度の結果をみて判断したいと回答しています。
お金を払える人だけが採用試験を受けられることで、収入格差によって就職の機会が奪われる可能性があるという指摘については否定しませんが、現在の弊社の受験料2,525円が収入格差により就職の機会を奪うほどの高額であるとは認識していません。
昨年以前と比較して、応募者の評価にじっくりと時間をかけられるようになり、また、昨年よりも応募者の質が向上していると感じています。こうした状況からも施策は成功しており、現段階では来年度も受験料制度を継続したいと考えています。
今後は内定者の承諾率などもあわせて施策評価を行い、来年度の実施について最終判断する予定です。

ドワンゴがこの声明でおっしゃりたかったのは、職業安定法第48条の2の「指導及び助言」のうち、今回は「助言」を受けただけであり、読売報道にあった「行政指導」のレベルには達していませんよ、ということでしょう。

ただ、「現在の弊社の受験料2,525円が収入格差により就職の機会を奪うほどの高額であるとは認識していません。」の一言は、かえって厚労省の癇に障ってしまうんじゃないかと心配になります。今年はドワンゴ1社だけでも、「カネをとっても合法らしいぞ」と来年ドワンゴに追随する会社が複数社になれば、すぐに数万円/人単位の負担になってしまうわけで、さらに大企業だけでなく中小企業にも広がっていくとなるとこれは前提が変わってきます。彼らはそれを止めたいわけですからね。

「大学受験だって一学部あたり数万円の受験料をとる時代、民間企業の就職試験で数千円徴収して何が悪いのか。そんなことまで行政が口をだすのか」という批判を多く目にします。しかし、大学教育は義務ではなく、他方で就職=勤労は憲法27条に定められた義務であり権利でもあるからこその機微を、もう少し汲んでもいいのかなと私は思います。繰り返すようですがここは一つ、「採用試験に係る(本当の)実費」の徴収にとどめることを、両者の落とし所にしてはいかがかと思います。
 

オンラインアプリサービスでのユーザーデータ譲渡・引継ぎの現場(追記あり)

 
スマートフォンアプリの姿をしたオンラインサービスが花盛りです。

すべてのサービスが順調に売上を上げ、終わることなく提供されるのであれば問題ありません。しかし、色々な事情でサービスを継続できなくなるアプリも、今後大量に発生することでしょう。そのとき、ユーザーがたくさんいる状況だったりすると、おいそれとはやめられないのが、オンラインサービスのつらいところです。ベンチャーから大手まで、今いろいろな会社がオンラインアプリサービスに乗り出していますが、この後々の責任をよく考えないで手をだすと、結構大変だと思います。

利用規約に基づき、ユーザーに告知してサービスを終了する。これが一番シンプルな方法です。しかし、何万人もユーザーがいるサービスだと、終了に納得できないユーザーも一定数いるかもしれないし、せっかくのユーザーデータ資産ももったいない。じゃあどうしよう?ということで、二番目の選択肢として考えられるのは、サービスをまるごと他人に売却して、他人にユーザーデータを引き継ぐという方法です。これは法律的にいえば「事業譲渡」となります。

そんなことは昔からウェブのオンラインサービスでは少なからず行われてきたことですし、会社法や個人情報保護法上の手続きさえきちんと踏めばできるはずなのですが、スマートフォンアプリの場合、実務上悩ましい問題が一つあります。それは、アプリマーケットにおいてアプリはデベロッパー(企業)アカウントごとにGoogle/Apple等プラットフォーマーに管理されており、そのアプリの持ち主をデベロッパー自身が勝手に変更することはできない、という問題です。

現在進行形でサービス譲渡(引継ぎ)をしているアプリに遭遇


当然ながら自社のデベロッパーアカウントをまるごと譲渡するわけにはいきませんし、アプリ単位でデベロッパーアカウントを変更するということもプラットフォーマーは実務上認めていないと聞きます(※追記参照)。じゃあどうすればいいんだろうと思っていたら、実際に大手デベロッパーがオンラインアプリサービスを譲渡(引継ぎ)している現場に運良くでくわしました!

実際私もちょくちょくプレイしていた、EA社の"World Series of Porker(WSOP)”というオンラインポーカーアプリ。これが、新興デベロッパーPlaytika社に譲渡されることになったようです。昨日たまたまEA社のアプリをたちあげたら、タイトル画面に続き、こんな同意画面が。

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なるほど、ゲーム内の仮想通貨ボーナス付与を移行インセンティブにしていますね。ちなみに、画面の一番下にあるほそ〜い字のサービス規約・プライバシーポリシーのリンクは、新アプリのデベロッパーであるPlaytika社のものとなっており、この画面で規約等の同意を取ったことにするつもりのようです。

同意ボタンでアプリ間の移行がされるわけではない


さて、先の同意画面の真ん中の「インストール」を押すと、自動的に新アプリがインストールされてユーザーデータが移行されるのかな?と思いきや、そうではありませんでした。ここでは単に、Playtika社アカウントのWSOPアプリがダウンロードできるマーケットページに飛ばされます。通常通りAppleID・パスワードを入力してダウンロードすると、旧アプリと似たようなアイコンの新アプリがダウンロードされました。

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新アプリを立ち上げてFacebook連携をつかったログインをしてみますが、この時点ではまだ旧アプリのユーザーデータは引き継がれておらず、まったく新規ユーザー扱いでした。一方、旧アプリは現時点でもまだプレイでき、ユーザーデータもそのまま残っています。どうやら、先ほどの同意画面に表示されていた12/20までは旧アプリ上でプレイをさせ、12/20になると旧アプリから新アプリにプレイヤーデータを反映させるつもりのようです。

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オンラインサービスですから、1つのユーザーアカウント(サーバー内のユーザーデータ)に対し2つのアプリからアクセス可能にするのは(不可能ではないものの)危険を伴います。結果、旧アプリを告知期間終了ギリギリまで生かしつつ、新アプリではその日まで(新規ユーザープレイはできるが)移行対応は何もしない、こういう方法をとるしかなくなるということなのでしょう。

引き継がれるのが嫌だったら、期限までにオプトアウト


なお、先ほどの旧アプリの移行同意画面には、「データの移行をしたくない場合は、2013年12月20日までに設定からデータの移行を無効にしてください」との記載があります。つまり、移行がいやだったら拒絶の意思表示をするオプトアウト方式ということですね。実際、旧アプリ内の設定画面を見てみると、こんな風にオプトアウトボタンがありました。

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本アプリの個別具体的手続きは、12/20になってみないと確かなことはわかりませんが、結局、一般論としてオンラインアプリサービスでユーザーデータを譲渡するには、
1.旧アプリとは別に、ユーザーを迎える新アプリを譲受デベロッパーが用意する
2.移行を望まないユーザーはオプトアウトをするよう、一定期間告知する
3.オプトアウトしなかったユーザーデータを、ある期日をもって新アプリへ反映する

という方法となる模様。

この方法で問題になるユーザーがいるとすれば、移行期間中一度も旧アプリを立ち上げず、2のオプトアウトの機会に気付かなかった人でしょうか。アプリって、しばらくやらないと平気で1ヶ月とか放置しますから、気づかないユーザーさんもいるかもしれません。


自分が実際に検討する際の貴重な資料になりそうなので保存。


2013.12.1追記

※に関して、そういえばAppleがアカウント間のアプリ譲渡を認める変更をしたという話を@kataxさんがしていたのを思い出しました。
今年6月ごろに、デベロッパー向けのiTunes Connectのメニューに、“Transfer App”というメニューが足されて、アプリの譲渡はできるようになっているようです。アプリ譲渡マーケットも立ち上がっているみたいですね。

iPhoneアプリを譲渡できる Transfer App をやってみた。
アプリの売買・譲渡は盛り上がってくるか?

とはいえ、オンラインサービスのユーザーアカウント移行までが自動化できるものではなく、法律上当然に求められるユーザーの同意を取ってきちんと移行するには、実務的には上記EA社/Playtika社のようにアプリを2つ併行させる方法しかないんじゃないかと思います。
 

【本】トンデモ“IT契約”に騙されるな ― たかが瑕疵担保責任、されど瑕疵担保責任

 
IT・ソフトウェア・システム開発契約における「瑕疵担保責任」を、最も詳しく・やさしく・噛み砕いて説明してくれる本としてオススメ。





法律をしっかり勉強した人が法務をやっているなら、
・瑕疵担保責任が無過失責任であることの意味
・法定の瑕疵担保期間の考え方
・準委任契約における善管注意義務との違い
などは当然に理解した上でIT・ソフトウェア・システム開発の契約をレビューしているはず。なのですが、私の実戦感覚では、この辺の法律をベースにした会話が通じない法務担当者がまだ30〜40%ぐらいはいらっしゃるんじゃないか、と感じます。

先日も、“瑕疵担保責任”との見出しが付いた条項の中に「仕様書との不一致について納入時の検査で発注者から指摘がなかった場合については、受注者は責任を負わない」という主旨の規定があり、「つまりこれは御社として瑕疵担保(無過失)責任を負うつもりがないという主旨ですか?」という質問と修正案を返したところ、「瑕疵担保責任とは、“隠れたる瑕疵”が生じた場合を想定した規定であって、あくまでも仕様書との不一致は貴社が検査時に見極めるべきものであり・・・」云々という謎の解説が帰ってきて途方に暮れました。この法務担当者のせいで、その会社さんとは契約を締結しないことになりそうな気がします。

ソフトウェア・システムの開発委託契約における瑕疵担保期間の基準は6ヶ月?』と題した本ブログ記事の反応にも、その一つの現われが。この記事では、なぜ請負契約の瑕疵担保期間(1年間)に商法の特則(6ヶ月)が適用されないのかをかなり丁寧に書いたつもりなのですが、それでも「民法637条より商法526条が優先するはずだ」「6ヶ月が正しい」というご主張がコメント欄に複数ついているのが、ご確認いただけます。

私がこの分野の座右の書としている『ソフトウェア取引の法律相談』でも上記2点についてフォローはされているものの、法律家向けの書籍ということもあって、この辺は常識として1〜2ページ程度のサラッとした解説にとどまっています。一方、本書では、冒頭70ページあまりをこれら瑕疵担保責任まわりの解説に費やしているので、読んで分からないという人はいないんじゃないかなと。先の例のような方と会話を成立させる意味でも、これでもか!と文字で噛み砕いてくれいている書籍が欲しかったところですので、今度そういう相手方に遭遇した際には「『トンデモ“IT契約“に騙されるな』のP◯◯を、騙されたと思って読んでいただけませんか?」と返答させていただくことにします。


また、伊藤雅浩先生のブログhitorihoumuさんのブログも触れていらっしゃるとおり、この本の中で紹介されている発展的議論としては、IT契約においては、瑕疵修補に代わる損害賠償請求権とは別に瑕疵修補とともにする損害賠償請求権が請求でき、後者は債務不履行責任に基づく損害賠償請求権であるため、民商法の原則どおり5年間請求できるのだという説が述べられている点でしょう。

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実際にこれを武器に戦った経験はないのですが、スルガ銀行vsIBM訴訟を戦い抜いている上山先生がおっしゃるのですから、訴訟上も主張しうるのでしょう。ちょっと判例を研究してみたいと思います。
 

「契助 -KEISUKE-」が問う法務の市場価値

 
東京近郊のベンチャーさんはみんなお世話になってるんじゃないかぐらいの勢力を持つAZX総合法律事務所さんが、ついにみんなが求めていたサービスをリリースしてくださいました。

契助 -KEISUKE- AZX総合法律事務所が運営する契約書作成サイト

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内容はみなさんご想像のとおり。ウェブ上で質問に答えていくと、後は押印するだけ状態の契約書がWORDファイルでダウンロードできるという代物です。私も早速秘密保持契約書の作成をしてみましたが、まったくストレスフリーに見た目もしっかりとした契約書ができあがりました(規約上、公開が禁止されているので、ご興味あればご自身でお試しください)。

これまで、個人の弁護士さんや怪しげな士業の方が似たようなサイトを作られている例はあったものの、こちらは事務所としての信頼度、契約書のバリエーションの豊富さが違います。ちまたに溢れる雛形集とも違って、最新の法令にも随時対応してバージョンアップしていく旨がちゃんと表明されていて(利用規約上免責はありますが)、安心して使える品質のサービスがようやくできたな〜という気がします。

そしてそれ以上に、私のような法務パーソンにとって、便利さ以上のインパクトを感じざるを得ないのが、この料金表の存在です。

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秘密保持契約書0円、業務委託契約書10,000円、ライセンス契約書20,000円…そして、これらの契約書を個別案件向けにアレンジする相談料が30分3,500円。これが企業法務における契約書業務の市場価格として提示されたということ。このブログを始めたときからそういう日も近く来るのだろうとは思ってはいましたが、まさにそうなったなと。

標準的な法務担当者の年収を仮に500万円とすると、会社負担保険料等込で時間あたりコストは4,000円前後。業務委託契約書の作成であれば、案件ヒアリング含めて13,500円 (AZX価格)÷ 4,000円 ≒ 3時間待っても返事がないなら、「何やってんの?」「AZXさんに頼めば、フォームに入力してダウンロードして電話で相談しながら30分ちょっとでできるんだけど?」「弁護士さん以上のクオリティで仕事してるの?」というツッコミがくるわけです。もっといえば、その企業の法務をやってるなら社内事情や業界慣習も十分にわかっているはずで、実質1時間程度で片付けてくれなきゃ付加価値なしということであり、一般の需要者が期待する契約書業務のスピードが定義されたという見方もできるでしょう。

法務の仕事は契約書作成・レビューばかりではありません。しかし、一般の需要者にとってはブラックボックスだった契約書業務の市場価格・スピード感がこうして公に定義されたのは、大きなインパクトがあるのではないでしょうか。類似サービスが次々現れることは間違いなく、契約書業務以外の分野で法務の仕事の価値が問われる時が、いよいよ本格的にやってくるのだと思います。
 

【本】インターネットにおける誹謗中傷法的対策マニュアル ― ネットでの企業いじめに泣き寝入りしないために

 
企業の立場から、自社に対する営業妨害や嫌がらせを目的としたインターネット上での誹謗中傷にどう対処するかのノウハウを、あますところなく伝えてくれる実用書。





ネット上の書き込みに対して企業がどのような法理論で対抗しうるかという本はあっても、では具体的にどのように手続きをすればよいかは言及がなかったり、反対に、プロバイダ責任法等を活用した削除請求等の具体的対処法がまとめられていても、視点があくまで個人の名誉・プライバシーを回復することに特化したものだったりと、その法理論と具体的対処の両方を企業目線だけに立って一気通貫で一冊にまとめてくれている本は無かったと思います。いや私が知らないだけで有るのかもしれませんが、この本まで具体的には書かれていないでしょう。

フローが整理され、

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各種申立て書式の記載例・訴状サンプル等が掲載されているのはもちろんのこと、

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・2ちゃんねるを相手に削除請求する際のシンガポールでの登記簿の取得方法
・削除請求前の証拠保全の方法(印刷/スクリーンショットにはURLがすべて入ってないと無意味)
・仮処分手続き当日の裁判所での持ち物リスト
・裁判所と発生するやりとり
・所要時間(午前11時までに書類提出・供託が完了すれば、当日午後4時に仮処分発令)
といった細かいところまで、弁護士である筆者の実務経験を披露するかたちでレポートされています。順序や理論はわかっていてもやってみなければ知りえない、まさしくノウハウがこの本にはすべて公開されています。


本書冒頭でもネットデマや誹謗中傷に苦しめられた有名文具会社や不動産会社の事件が紹介されていますが、これは他人ごとではありません。実際、私の所属組織も、インターネットメディア上に掲載されていた記事を読んだある識者および複数の自称識者が「これは◯◯社(私の所属組織)のことだろう」とSNSに一方的に推測に基づく批判を書き込まれ、その結果
「あの会社がそんなことをしているとは思わなかった」
「他のユーザーは知っているのだろうか?拡散キボンヌ」
「もうあの会社のサービスを使うのをやめよう」
と、ユーザーや一般消費者にネガティブな印象と拒絶感情を広められるなど、現実の被害を被った経験があります。

私も私なりに、ネット上で所属組織に関するネガティブな投稿がなされた際にアラートが立つような仕組みは構築してますので、すぐに当該書き込みに気付き、とあるルートを通じ情報の出元にアクセスし、初期段階で拡散をくい止めることができたものの(とはいえ拡散分含め書き込みは現存しており、被害はあると認識)、日本人的な「強きをくじき弱きを助ける」気質も手伝って、事実確認もなしににそういったデマ・噂・誹謗中傷が簡単に拡散していくさまを目の当たりにしました。

本当に事実無根のデマ・噂・誹謗中傷であれば、企業だからと泣き寝入りせず法的に厳しく対処することも検討しなければと、対抗手段について調査し情報を集めていたところに、この本が丁度よく発売されて助かったという次第です。
 

【本】第2版 インターネット新時代の法律実務Q&A ― タイムリーなアップデートがありがたい

以前ご紹介した『インターネット新時代の法律実務Q&A』の第2版が出ていました。時事ネタ中心の本だけに、1年でちゃんとアップデートされるのはうれしいですね。





初版とページ数はほとんど変わらず、構成上の変更も、第3章としてビッグデータ・ライフログ・マイナンバーの話題を独立させ、もともと独立していたドメインネームの章を9章に統合した点のみのようですが、スマホ・電子書籍・オンラインゲーム・ドメインネーム・ネット選挙・子どもとネット・・・といった時事の一つ一つについて、途中挟まれたコラムを含め最新の情報に更新されています。

この本の初版に対しては、値段の割に情報量が少ない・法律的な掘り下げが足りないのではという批評も多かったように記憶しています。確かに、Q&A形式という本の構成の限界もあり、そういった深みを求める方には向いていないかもしれません。しかし、法律論として興味深いか否かの前に、実務上よく相談されるがはっきりとした答えがなく現場にどう回答すべきか悩んでしまうエアポケット的な話題が網羅されているのは、やはりIT企業のインハウスローヤーが集まって書かれただけのことはある、と私は思います。

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年明けに出された消費者庁1/9コンプガチャQ&Aの“謎”も指摘。
これは業界通の仕事ですね。


この機会に改めて全ページ読みなおしてみると、初版と出会った1年前には咀嚼しきれていなかった実務的なポイントへの言及のありがたみが、この1年の経験を踏まえて身に沁みて理解できます。特にIT×エンタメ領域に居る私としては、オンラインゲームや子どもとネットの問題などは、これだけ具体的かつ的確に言及されている書籍が少ないだけに貴重な情報源。特に、未成年者が親のカードを使って決済した際の責任論など、実際にユーザーと紛争になっているウェブサービス事業者さんも多いと思われますが、企業側の法的理論武装の参考書としては、数あるIT法務本の中でこの本が一番なんじゃないかと思います。
 

匿名性の確保だけじゃない ― パーソナルデータ事業に取り組む企業が配慮すべき6つの視点

 
伊藤雅浩(@redipsjp)先生のtweetがきっかけで、日経コンピュータ2013年10月17日号の特集 “「Suica履歴販売」は何を誤ったのか” を読みました。このテーマを継続して追いかけている浅川直輝記者の手によるものだけあって、同種の雑誌記事やネット記事と比較しても大変示唆に富む記事でした。PDF版が定価900円で販売されていますが、日経BP STOREに登録すれば当該特集を含む特別編集版を無料でダウンロードして読むことができます(2013年11月10日現在)。

特集では、JR東日本・トヨタ自動車・NTTドコモ・ソニー・カルチュアコンビニエンスクラブがそれぞれ取り組むビッグデータビジネスについて、利活用のスキームと情報の流れを図で分かりやすく整理してくれています。以下はそのうちJRとCCCのスキーム図。どの個人識別情報・パーソナルデータが、どの時点で、どこまで渡されているのかがパッと見て分かるようになってますね。

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これらの各スキームを、以下6つの視点からレーダーチャートで評価。ここで採用している視点と評価軸は、これからパーソナルデータ事業に取り組もうという企業にとって、大変有用な整理かと思います。

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1 データ提供先の統制
  →グループ会社のみ等提供先を限定しているか/提供先企業を契約で統制しているか
2 提供データの匿名性
  →統計情報のように加工しているか/仮名ID+生データのような状態か
3 利用者への還元
  →ポイントなど直接的な還元をしているか/広告のマッチングなどにとどまるか
4 利用目的の公共性
  →医療など人命・公共に関わる用途か/民間のマーケティング用途か
5 選択肢の有無
  →オプトアウト・サービスを使わない選択肢はあるか/選択の余地の無い公共サービスか
6 顧客への説明や情報公開
  →利用者に明示的に説明しているか/リリースのみにとどまるか

Suica事件に対する社会の拒絶反応に強く影響されてか、最近のパーソナルデータの議論は、どうも上記2の匿名性の確保という視点ばかりに議論が集中しているようです。先日、情報セキュリティ界隈の方々から失笑を買っていた日経ビジネスによる野原佐和子氏インタビュー記事の内容などはその最たる例でしょう。その記事に関連して、@kataxさんのブログでも取り上げられているように、法務パーソンの間でも匿名化・非識別化・連結不能化といったキーワードが飛び交うようになっています(このテーマに関しては崎村夏彦(@_nat)先生のブログが詳しいのでオススメ)。実際、内閣官房の「パーソナルデータに関する検討会」でも、1の情報管理責任を誰が負うのかという点と絡めたかたちで、匿名化のあり方が議論の中心になっている模様です。

しかし、上記3のように、そもそもパーソナルデータの提供と引き換えにどの程度具体的なメリットを与えられているのか?というのは、企業視点では意外と軽視されている要素ではないでしょうか。さらに、5の選択肢の有無も、合法性評価を左右する大きな要素だと考えます。公共インフラや医療機関のように、そもそも「使わない」という選択肢がない独占的サービスの中でパーソナルデータを収集・利用するのは、例え事後的に利用停止を申し出るオプトアウトの仕組みが用意されたとしても、承服できないユーザーは一定数存在するでしょう。匿名化という小手先の手段だけでなく、こういった視点をもってバランス良く検討・対処していないと、また不幸な炎上案件が生まれることになります。

なお個人的には、内閣官房の議論において、(上記1の視点に関連して)個人情報保護法ではまがりなりにも認められてきた「共同利用」スキームにメスが入り禁止されるのか、それとも一定の制約のもと残されるのかという点にも、大いに注目しています。
 

2013.11.11追記

twitterで高木先生からコメントをいただきました。

“ポイント”と例示してしまったことも手伝って、プライバシー侵害を金銭的に相殺してバランスを取ろうとする企業都合の物言いに映ってしまったかもしれません。ここで述べたかったのは、プライバシー権を純粋な人格権ではなく財産権的に捉えるユーザーも一定数存在すると認識しており、(そのような考え方が是か非かは別として)全てのユーザーから納得ずくの同意を取ろうとするならば、そういった「パーソナルデータ提供の同意と引き換えに何か見返りが欲しい」というユーザーに対する配慮の視点も必要なのではないか、ということです。
※上記はあくまで小生意見であり、本記事を執筆された浅川記者の意図とは異なる可能性がありますので、その点ご留意頂ければと思います。
 

アジア新興国法制ガイドブックブーム

 
一昨年ぐらい前から、日本企業によるアジア新興国への投資・現地法人設立が盛んとなり、それにともなって大手渉外法律事務所が主要都市に支所を設けたり、そこで蓄積されたノウハウが書籍化されるようになりました。

私が今年買ったものだけでも以下3冊。










加えて直近では、曽我法律事務所からも「◯◯国法務ハンドブック」がシリーズとして刊行されたところ。

ベトナム法務ハンドブック
粟津卓郎
中央経済社
2013-09-19



これだけアジア新興国法制本がブームになってくると、どれを買っていいのか迷うところ。私もいったいどれをお勧めするべきか、一長一短ある各書籍のプロコン比較表を作成しかけていたのですが・・・昨日経営法友会からこんな冊子が届きまして、早速目を通してみたところ、「なんだ経営法友会入ってればこれだけでいいじゃん」という結論になりました。

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弁護士が組織する日本IPBAの会と企業法務パーソンによる経営法友会が共同で「新興国法制研究会」を立ち上げ、国別に10人前後のワーキンググループを作り、並行して経営法友会の会員向けウェブサイトで寄せられた質問を集めながら研究成果をまとめたのがこの冊子『新興国法制ガイドブック』。

第1部 外資規制を中心とした法制度の概要
第2部 事例(架空のものを含む)をベースにしたポイント解説
第3部 現地駐在員による苦労話アンケート
すべての国について、この3部構成でまとめられています。特にコンテンツの中心を占める第2部については、
1 進出(外資規制/設立/会社運営/株式/撤退)
2 人事労務(労使協議/スト権/賃金カット/解雇)
3 事業(資金調達/取引・契約/債権保全・回収/コンプライアンス)
4 個別法(知財/競争法/PL/税務)
5 司法制度(紛争解決/仲裁)
と、多少の異同はあるものの、ほぼこの切り口で各国統一的に整理されています。国と国を横串にさして比較して読むときなどに便利です。

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何より、「法務パーソンが読むことを前提に法務パーソンが書いた調査報告書」スタイルなので、文字量・情報量・レベルがいずれも丁度よいわけです。市販の本となると、経営者など必ずしも法務ではない人も想定読者に入ってくるために、書き方が冗長になって読みづらかったりしますしね。

今後もこの新興国法制研究会は活動を続け、本ガイドブックの追補版も出していくとのこと。法務パーソンのギルドたる経営法友会として、貴重なノウハウを共有いただけることを引き続き期待しています。
 

「国際契約力」という謎の力

 
日経の一面に「企業とルール 国際契約の落とし穴」という特集が上/下2回にわたって組まれていました。

国際契約の落とし穴(上) 映画・アニメ、交渉力 悩み(有料会員限定)
国際契約の落とし穴(下) 裁判・仲裁 救済に限界(有料会員限定)
  • 東宝東和が、映画の興行収入予算割れを補填する契約をタテに米国映画制作会社相手に訴訟をするも、資産のないダミー会社で回収できなかった話
  • コーエーテクモが、支払いを求めて中国の運営委託先に乗り込むと、会社ごと消えていた話
  • コンテンツ分野で海外勢から不利な条件を出されても精査せずにのんでしまい、苦労している事例いくつか
  • 丸紅が、融資返済請求事案についてインドネシア最高裁で勝訴したにもかかわらず、同じ内容で別の同国内裁判所に訴えられて負けた話
  • ゴルフ場開発会社投資家らが、合弁会社株をベトナム側に渡したが、代金が支払われず仲裁を申立て認められた後、現地裁判所で「仲裁手続違反」を理由に取り消し判決が出た話
  • 信越化学工業が、中国企業2社に光ファイバー素材の代金支払いを求め、日本仲裁で支払い命令を得たものの、中国の裁判所で拒絶された話

を紹介しながら、国際契約においては、相手を見極める営業センスだけでなく、紛争解決条項を含めた契約条件を慎重に詰める法務センスも磨かなければならないとの論調。上編の最後には、

経済産業省によると、映画やアニメなどコンテンツの国内市場規模は約12兆円だが、輸出比率は5%程度にすぎない。もうかる仕組みを契約にどのように盛り込むのか。契約力向上という課題を抱えるエンタメ産業は、日本企業全体の縮図にもみえる。

と、所属するエンタメ・コンテンツ業界が名指しされ「お前の“契約力”をどうにかしろ!」と、自分が怒られているような気分になりながら、国際契約力ってなんだろう?と沈思黙考。

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するとシンクロするように、今朝ほどネットで見つけたのがこちらの記事。

The High Court confirms that a contract can be made in two different jurisdictions
  • 2005年に、CIT(英)とUPD(米)の二つの企業が、NDA交渉で準拠法・紛争解決条項について交渉。
  • UPDはファイナルバージョンをCITにメールで送信した際に、「CITの要求を飲めない」として準拠法・紛争解決条項を削除して送付。CITはこれをプリントアウトしサインして返信し契約締結。
  • その後も取引は関連会社を交えて継続していたが、2010年にあらためてNDAを締結。この契約の準拠法・紛争解決条項は、テキサス州と定められた。
  • 二者間で知財紛争が発生し、2件の訴訟のうち1件についてCITが2005年のNDA違反を主張。
  • 英国裁判所が、2005年のNDAが成立したのは、CITがサインした英国であることを理由に、英国・テキサス両地を準拠法・紛争解決地とすることを認めた。

うーん、この2005年のやりとりは、どこかで見たことのあるような風景(苦笑)。日本から見れば「国際契約の玄人」であるはずの日・英企業も、契約の現場で発生している現実はさほど変わらないのかもしれないなあと思いました。


などと安心している場合ではなく、人のふり見て我がふり直せで考えますと、国際契約において私たち法務パーソンがお手伝いできることは、紛争が起きた時にどう頑張るか、ではなく
  1. 契約交渉の場面で多少面倒でも条件を曖昧にして終わらせないこと
  2. そもそも紛争が起きにくい契約書をつくること
  3. 紛争が起きても解決に向けた手続きがしっかりと規定された契約書としておくこと
なのでしょう。特に、3については、たまにひな形集で見かけては半分馬鹿にしていた「訴訟・仲裁申立の前に代表者同士がface to faceで協議する義務」なども入れるようにしたほうがいいのかな、などと思い始めております。
 

【本】著作権法逐条講義 六訂新版 ― 同じ逐条解説ならあえて公式見解を選ぶ



7年ぶりに加戸守行著『著作権法逐条講義』が帰ってきました。9月には発売されていたようです。なんで誰も教えてくれないんだろうと文句を口にしたら,「それがあなたのブログの仕事でしょ」って言われました…。

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私が法務部門に配属されて初めてこの書の四訂版に出会ったときはえんじ色の装丁,06年の青色五訂版は恥ずかしながら買うタイミングを逸して買わずじまいにおりまして,今回久しぶりに購入した緑色六訂新版は厚さ約23cm,頁数にして1070ページにもなっています。

まねきTV&ロクラク2の二転三転,フェアユース規定導入議論におけるゴタゴタ,そして直近では必殺のマジックワード「枢要な行為」が多様された自炊代行違法判決と,著作権法の硬直的な条文適用ぶりをみるにつけどんどんこの分野の興味が薄れて白けモードになっている私。しかし法治国家に居てそこでゴハンを食べさせて貰っている以上は,仕事上その条文解釈とお付き合いせねばなりません。そういった硬直的な適用と割り切ったお付き合いをするという視点で選ぶなら,いくつか存在する同じコンメンタール形式の本でも,加戸先生の後輩にあたる歴代の文科省著作権法担当者が改訂作業を重ね事実上の公式見解書となっているこの本とあえてお付き合いするのが一番なのではないか,と思います。

そんな加戸先生も3年前に公職を離れられたということで,色々といいたいことを言える立場になられたとのこと。あとがきにもありますが,シェーン事件最高裁判決に対する反論を数頁にわたり堂々展開されているのは,ひとつの見所と言えましょう。

著作権法逐条講義 〈六訂新版〉
加戸 守行
著作権情報センター
2013-08-28


 

【雑誌】NBL No.1011 ― ビッグデータ・パーソナルデータの法的論点中間まとめの決定版

 
昨日配刊のNBL No.1011は、ビッグデータ・パーソナルデータの法的論点に興味はあるけど正直情報量が多すぎて何を読んだらいいかわかんないです〜という方にはうってつけの特集となっています。


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・個人情報保護法違反とプライバシー権侵害の違い
・個人情報保護法における第三者提供と(潜脱的)共同利用の峻別
・「匿名化」に求められる要件
・「再識別可能性」リスクに対する対策としての米国FTCルールの準用

といったキーワードと法的論点について、これまで出た書籍・雑誌・ネットでのまとめ記事的なものの中で一番簡潔に・わかりやすく説明された記事だと思います。役員から説明を求められたときなどにすらすら説明する自信がないということであれば、ぜひこれをカンペに。

玄人筋からすると、匿名化要件については技術的な考察が足りないのでは?とか、今後の展望が結局
‘震床十萢の方法および匿名化を維持する態勢の内容について、あらかじめ、本人が容易に知り得る状態に置くこと
当該匿名化データを第三者に提供する旨および包括的な提供目的を、あらかじめ、本人が容易に知り得る状態に置くこと
D鷆,魑容できない本人のためにオプトアウトの手続を用意すること
と、少し無難な線に落ち着きすぎでは?というツッコミもありそう。特にビッグデータのオプトアウトって、言うは易し行うは難しですしね。

このあたりの方向性は、昨日公開されているパーソナルデータに関する検討会 第2回技術検討ワーキンググループ議事次第なんかをつぶさに読んでいくと、Suicaデータの第三者提供を事例にとっても興味深い考察がなされていて、風向きがすでに読めてしまったりするのですが・・・。こちらは機会をあらためて取り上げることとしましょう。
 

法務という仕事の楽しみ方 契約書編

 
いろんな会社のいろんな法務の人を見ていると、法務の仕事って他の事務職よりも向き不向きがはっきりと出やすいように思っているのですが、それはなぜなのか・どこに違いがあるのかを考えてみました。

法務の仕事をやると、1年も経たないうちに、楽しめる人と苦しさしか感じられず楽しめない人がくっきりと二分されます。リスクの発見・分析と、それを背負うべきか否かの判断を毎日迫られる仕事ということもあり、苦しさしか感じない人にとっては毎日が地獄のように感じられ、逃げるような態度と行動が目立つようになります。そういった態度・行動はアウトプットとしての成果物の品質にも現れて評価も必然的に低くなり、本人もそれを自覚せざるをえない状態となって、自然とリタイア(社内異動・キャリアチェンジ・転職)に追い込まれていきます。

一方で楽しめる人にとっては、その苦しさは「修行」であり、修行によって自分の能力が研ぎ澄まされていくことが喜びとなります。一見困難で面倒そうな案件が降ってきても逃げないどころか、むしろこの修行を乗り越えれば違う次元に立てるはずとチャレンジを厭わないので、楽しめない人=チャレンジしない人との経験量の差はどんどん開き、その差とともに能力の差も広がっていくという好/悪循環が生まれます。・・・好き好んでイバラの道を歩むのは、ただのM気質なのではないか、という説もありますが(笑)。


そして、特にその差がくっきりと現れるのが、契約書の仕事だと思います。
契約書の作成・レビュー依頼が現場から来た時に、契約書の文言の巧拙をいきなり吟味するのではなく、
1)その案件=ビジネス自体に興味を持てるか
2)現場が目指すビジネス上のゴール・目的をしっかりとヒアリングし、シンプルに言語化できるか
3)ゴールを目指す上での障害を漏れ無くピックアップできるか
4)障害を処理する方法・アイデアを現場(と契約の相手方)に提案できるか
が勝負です。楽しめない人は、3にばかり終始し、1と2の重要性にいつまでも気付かず(もしくは気付いてもそれができず)、結果として成果物である4についても、ショボい提案しか出せないのです。


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シティライツ法律事務所の水野祐先生が、この1と2の重要性について、「契約書は相手方との共同編集物だ」という斬新な視点で述べていらっしゃいました。

水野祐+平林健吾 Edit × LAW:第1回「契約書」(DotPlace)
契約書は契約当事者の合意内容を実現するためのコミュニケーション・ツールと捉えるのが正しい。契約当事者双方で修正を繰り返すと、Wordのコメント機能や削除履歴上で、契約当事者間の利害対立がアツいバトルとなって表れることも少なくない。だが、そのようなやり取りも、契約当事者双方が契約の目的にしたがって「あるべき形」に向かって編集を重ねていく共同作業と考えたほうがポジティブであるし、はるかに生産的であろう。
人は、いざ契約書が自分の目の前に差し出されると、契約書の各条項の文言に飛びついてしまい、「文言の海」に溺れてしまいがちである。しかし、実は、契約書の具体的な文言を読む前に、「この契約書が、どのような視点から編集されているのか/されるべきなのか」と考えることは大切なことだ。
すでに述べたとおり、契約書には、当事者がその契約によって実現したい目的やテーマがあり、契約書はその観点から編集されている。契約書には必ず「編集者」がいるのだ。その「編集者」の視点に気づけば、契約書を迅速に、要領よくチェックすることもできる。
また、このような編集的視点で契約書を読み解く場合、昨今の議論では軽視されがちな前文や第1条に配置された目的規定といった条項(英文契約書であれば、「WHEREAS」で始まる冒頭部分)も、ぼくは大事なものだと捉えている。なぜなら、ここには契約書の「編集者」の視点が凝縮されているからである。
契約書をそのような編集的な視点で見つめてみると、ほとんどの契約書は「◯◯を●●円で購入したり、貸したりする契約」だったり、「◯◯という業務を●●円で依頼する契約」だったりという、シンプルな構造を持っている。もちろん、複雑な契約書になると、テーマが複数あったり、条項ごとにテーマがあったりするということもあるのだが、ほとんどの契約書は想像以上に単純な構造をしているものである。

最近も、wordファイル上に「民法上、瑕疵担保責任とは、・・・です。従ってこの規定は・・・と修正すべきです。」という教科書を読みかじったようなコメントをして仕事をしたつもりになっている人を見ました。おそらくあの調子だと、瑕疵担保責任の条項がおかれたすべての契約書に、そういったコメントをつけて返しているのでしょう(ガクブル)。そうだとすると、彼/彼女にとって契約書の仕事は相当楽しくない「作業」になっていると思われ、余計なお世話ですが先は長くないんじゃないかと懸念します。
 
「この契約書で取引する商品・役務はどんなものなのか?」
「その商品・役務の持つリスクに対してわざわざこの瑕疵担保条項をおいた(民法上の任意規定を変更した)のはなぜか?」
「その商品・役務を受けた後、当社or相手方はどんな取引につなげていくつもりなのか?」
といった点に疑問をもち、それを解き明かしながら相手方との合意点を見つけていくことの楽しさに気づくと、契約書の仕事ほど楽しくて腕が鳴る仕事はないはずなのですが。

もし、それが楽しめないんだとすると、企業法務どころか会社員であることそのものが楽しくない人かもしれませんね。
 

「eコマース革命」がネットビジネスに与える影響を法務の視点で考えてみた

 
FacebookというSNSができたときも、これはネットビジネスが変わるし法務にも影響があるなあと、しばらくFacebook関連の記事を投稿し続けた記憶がありますが、今回のヤフー/ソフトバンクの「eコマース革命」にも、同じぐらいのインパクトを感じています。

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「C to C」ブームに感じていた違和感


孫正義氏「これまでのヤフーは間違っていた」、EC手数料「無料化」の意図説明(INTERNET WATCH)
孫氏は、「古来より、場を提供する者が利益を得てきた」として、現在でも商業施設に出店するには出店費用が必要であり、eコマースにも出店料や売上ロイヤルティといった場代が存在すると説明。

一方で、ヤフーやソフトバンクグループはインターネットの揺籃期から日本のインターネットがどうあるべきかということを考えてきたが、自由であることが期待されているインターネットにあって、eコマースの分野だけは不自由なままだったと説明。こうした点をヤフーの経営陣と議論していく中で、「ヤフージャパンはこれまで間違っていたということを認めようじゃないか」という結論に至ったとして、「我々はeコマース革命を提案したい。摩擦係数ゼロの世界に発想を切り替えた」と新戦略の意図を語った。

1番目の施策としては「無料」を挙げ、Yahoo!ショッピングではこれまで有料だった出店料(初期費用2万1000円、月額費用2万5000円)と、売上ロイヤルティ(売上の1.7〜6.0%)を無料化すると説明。ヤフオク!についても、ストア出店料(月額1万8900円)や個人の出品時の手数料(10.5円)を無料化する。

昨年のフリーランス時代、テンポラリーなお仕事を含めてITベンチャーをいくつかお手伝いしてきましたが、そのビジネスモデルのほとんどが、「ネットを使って個人に新しい“場”をフリーミアムに提供するビジネス」でした。C to Cというと聞こえは良いですが、要はショバ代ビジネスですね。

そういう案件をお手伝いするたびに、
「これからはC to Cビジネスって言われてますけど、ほんとなんですかね」
「法的には手間がかかってリスクばかり背負ってるわりに儲かる気がしないんですけど、どうやって儲けるつもりですか」
「誰から、いつ、どこで金取るんですか」
「このスキームだと利用規約が免責文言ばかりになってしまうんですが、ユーザーに何の価値を提供しているのか、書けませんか」
「ユーザーはどこがうれしいんですか」
そんな質問ばかりを繰り返していたことを思い出します。

今回のヤフーの発表は、ショバ代ビジネスはインターネットじゃない・そんなものに未来はないと、一刀両断に否定するもの。この一言で、ネットベンチャーの多くが死んだ気がします。


ネットビジネスの生き残る道


ではどこでカネを取るのか。会見では以下のように答えています。

無料化により、ショッピングやオークションではどこで儲けを得るのかという質問には、「広告を中心にしていこうと考えている」として、現在でもショッピングやオークションで出品商品を目立たせるための広告商品を展開しているが、無料化により出品者数が増えることで、こうした広告商品へのニーズが高まることに期待したいとした。

これを読んで、なんだ結局広告なのか・・・昔のインターネットに逆戻りですね、と一瞬がっかりしたのですが、なにかウラがあるのでは?と思い、サービス条件を詳しく読んでみました。すると案の定、こんな条件になってるんですね。

Yahoo!ショッピング eコマース革命、始動!>サービス詳細>料金・費用について>契約プラン

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やっぱり全部が無料じゃないじゃないですか(笑)というのは、孫さんがADSLモデムを配りまくっていた時代から変わらぬ商売をなので特に驚くべきところではないのですが、注目すべきはこの2つ。

・Tポイントの原資負担
・決済サービスの手数料は別途


つまり、「場の提供費用」の代わりに、「パーソナルデータを流通させる費用」と「決済(信用)情報を流通させる費用」へと、課金のスタイルが変わったのだと捉えるべきなのでしょう。情報流通経路の太い幹を抑えているものだけが勝てるビジネスモデルであり、Vodafoneという情報通信インフラ、SBIやクレカ事業等の金融情報インフラを備えた上で、Tポイント(パーソナルデータの流通ルート)やPaypal(決済情報の流通)との提携と布石を打ってきたのは、こういうイメージがあってのことだったのかと、驚かされます。「広告を中心に」と説明したのは、無料イメージを先行させるという意図に加えて、まだ手の内・真意ははっきりと見せたくないということなのかもしれませんね。


ビジネスにおいてカネの取り方が変われば、新しい契約スキームや法的課題も生まれてくるのは間違いなく、法務という立場からみてもこの動きは注目すべき変化だと思っていいます。決済ビジネスがそろそろ来るんじゃないか?となんとなく予感はしていたものの、特にネット界隈の法務で食っている私としては、このビジネスの大変化に取り残されないようにしなければと、一段と気が引締まった2013年10月7日でした。
 

【本】CODE VERSION 2.0 ― リーガル・テクノロジスト

 
会社の表彰イベントがあり、そこでテクノロジストMVPという賞をいただきました。

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本来は法務部門が評価をいただくような賞ではなく、現場でモノを作り出す技術者の方々にこそ与えられるべき賞だと思うのですが、「法律を使って仕事をするのもテクノロジーの一つ」というのがその選評。


まさに、私が会社の中で施策を考える中でその拠り所としているのが、ローレンス・レッシグの『CODE』にあるこの考え方でした。問題提起のきっかけは「法律」だとしても、決して法律だけで会社の内外の事象をとらえたり制約を加えたりするのではなく、多面的にバランスをとりながら、いろいろな解決手段を用いて、目指すゴールに導くという考え方です。


CODE VERSION 2.0
ローレンス・レッシグ
翔泳社
2007-12-20



法、社会、市場、アーキテクチャ。そしてこの点の「規制」はこの四つの制約条件の合計になる。どれか一つでも変えたら、全体の規制が変わる。ある制約条件はほかのものを強化する。あるいはそれが対立することもある。だから「技術変化は(中略)規範の変化をもたらす(かもしれない)」し、その逆もある。でも完全な見方は、これらをまとめて考えるものだ。

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テクノロジーは規範や法律を無意味にしてしまえるし、それを支援することもできる。ある制約条件は、ほかの制約を可能にする。あるいは不可能にしてしまうかもしれない。制約は、機能はちがうけれど、一緒になって機能する。規範はコミュニティが課すレッテル貼りによって制約する。市場はそれが課す値段を通じて制約する。アーキテクチャは物理的な負担によって制約する。そして法律は、それが脅しに使う処罰を通じて制約する。
法、規範、市場、アーキテクチャは相互に働きあって、「ネティズン」が知る環境を作る。コード作者は、イーサン・カッチュが言うように、「建築家・アーキテクト」だ。
でも、こうした様式の間のバランスを「作って維持する」にはどうすればいいだろうか。組み立てを変えるツールとしてはどんなものがあるだろうか。実空間の価値観のブレンドを、どうすればサイバー空間に持ってこられるだろう。そしてそのブレンドを変えたいと思ったらどう変えればいいだろうか。


社内でレッシグ論を語ることなどもちろんないのですが、はからずもその思いを汲んでくださり、ズバリそれを評価していただいたことがとてもうれしいです。

そして、いつもそれに理解を示し協力してくださっている皆様に感謝しています。
 

【本】インターネットの法律問題 理論と実務 ― うつろいやすいネット法務の世界に“昔話”が杭を打つ

 
奥付によれば9/13発行,しかし本日現在Amazonでは品切れが続き,大型書店への入荷も少なく,入手困難となっているらしい『インターネットの法律問題』を運良くゲット。





労働法でいえば濱口桂一郎先生の本がそうですが,広大かつ法改正の頻度が激しい法律分野を深く有機的に理解するには,「なぜそれらの法が必要とされ、成立したのか」という背景・ストーリーとしての“昔話”を知ることが,その手助けとなると思います。この本はおそらく全著者がそれを意識しており,法案成立→改正の歴史をたどるところから解説がなされています。これは裏を返せば,「新しい法分野」であったネット関連法も,ようやく振り返り語れるだけの歴史が積み重ねられてきたということでもあるでしょう。そういった歴史をストーリーで辿る部分が多いせいもあってか,各章の執筆者が各論について自説を展開する要素はかなり少なめに抑えられています。

(関啓一郎先生担当の2〜3章を除き)本文中図表は少なく,紙面いっぱいに文字が詰まっている印象を受けるかもしれません。かといってその分野の論点を理解するのに最低限必要なキーワード,参考文献,行政ガイドライン等は丁寧に紹介されているので,消化不良感はありません。

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そんな概説書といった趣の強い本書の中でも私が強い個性を感じたのが,第7章の産業財産権の章です。インターネットビジネスにおける産業財産権の分野では,よく紛争となる商標・ドメインネームの問題については多くが語られてきた一方で,特許権の話になると企業間の紛争事例が日本では少ないこともあってか,結局「ソフトウェア特許」の話に終始して尻すぼみに終わる本ばかり。そんな中でこの本は,ネットビジネス関連特許出願時の請求項の立て方が実施においてどう影響するかや,域外実施への対抗の難しさといった特許の現実問題について言及されており,隠れた見どころになっているかと思います。自分が今ネットビジネスの特許を集中的に勉強しているということもあってアンテナが立ってしまったところもありますが。

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ソーシャルメディア時代の個人情報保護Q&A』『良いウェブサービスを支える「利用規約」の作り方』など,どちらかというと今話題・注目の論点にフォーカスして論じる書が続々刊行されてきたネット法務本の世界にあって,揺るぎない基礎を作るために深く杭を打ってくれる本が出た,といった感じがします。
 

2014.10.25 
推薦本のリンクを一部削除しました。
 

【DVD】ラリー・フリント ― 真実か否かを峻別する責任

 
PLAYBOY誌を超えるエロ・グロ・ナンセンスを旨とする雑誌『HUSTLER』を創刊し、財を築き上げたラリー・フリントの生涯を描く映画。


ラリー・フリント コレクターズ・エディション [DVD]
ウディ・ハレルソン
ソニー・ピクチャーズエンタテインメント
2009-12-02



表現の自由を世に問う訴訟を繰り返した挙句、高名な宗教家フォルウェル導師が母と近親相姦したことを告白する(当時有名だったカンパリの広告をモジった)パロディ記事が紛争となり、ついには最高裁にまでエスカレートします。

代理人:「この国が何よりも大切にしているものに、自由な論争そして言論の自由があります。本日ここで問われるのは、公共の人物の精神的苦痛を訴える権利と、人々の表現の自由という公共の利益とどちらがより重要かです。」

最高裁:「証拠Aは何を表現しているのです?」

代理人:「ご存じ、カンパリの広告のパロディです。大事なのは、これはフォルウェル師の風刺なのです。師はまさに格好の標的でした。酒の広告に出るわけがない人だからです。いつも説教壇に立ち、聖書を手に至福に満ちた笑顔で説教をしている。」

最高裁:「何が公共の利益なのです?師を笑うのが何かの利益だと?」

代理人:「師を笑うのも公共の利益です。少なくともハスラー誌がフォルウェル師を笑い者にするのはその意味がある。ハスラー誌にはその権利がある。標的の相手は我々の雑誌を敵視した宣伝をしてる。不買運動を展開し、公共の場で我々をアメリカの毒だと言い、さらに公共の場で婚外セックスは不道徳であり、酒は飲むなと言う。ハスラー誌には師を笑うことで、これらの意見に反論する自由はあるのです。尊大不遜な人間を我々のレベルに引き降ろす。確かに我々のレベルは一般より低いですが。でもこれが争点なのです。」

最高裁:「表現の自由ですが、それはとても大切だがすべてではない。立派な人物が公共の任務に就くのも大切だ。あなたの理論では、公共の立場にある者は、自分も母親も近親相関の風刺をされても仕方ないと?だとしたらワシントンは大統領になっただろうか?」

代理人:「ワシントン大統領と言えば、最近200年前の政治風刺漫画を見ました。馬子が大統領の乗ったロバを引いている。その表題が”大統領の尻はロバの尻”です。」

最高裁:「それなら平気だ、ワシントンだって。トイレで母さんと姦通するのとはまるで違う。その間に違いはないと?」

代理人:「ええ、違いません。それは趣味の問題で、法じゃない。あなたもイリノイの裁判で言われている。趣味を法廷で争うのは意味がないと。今回の事件でも、前の陪審員はこれを法の問題ではないとして誹謗の罪は退けた。誰も師の姦通を本気で信じないのですから。」

最高裁:「なぜハスラー誌は母親をダシに?」

代理人:「母親を登場させたのは、はっきり言って茶化しです。」

最高裁:「その公共の意図は?」

代理人:「“レーガンはアホや”という風刺漫画と同じです。違う目で公人を見られる。皮肉はこの国の伝統です。師が精神的損害だけで訴えを起こせるなら、公共の人物はみな起訴を起こせる。相手は風刺漫画でも、トゥナイト・ショーのジョニー・カーソンでもいい。いくら公共の立場でも批判されれば、皆不愉快だ。それを訴えられたら反駁(はんばく)できない。不愉快に基準はない。全ての不愉快な言論を罰することになる。これは我が国の信念です。たとえ不愉快な言論でも、全ての言論は健全な国家の活力です。」

そして、ラリー・フリントは勝訴判決を得ます。

(合衆国憲法)修正第一条は自由な発想を保障するものである。
自由な発言は個人の自由だけでなく真実の追求と社会の活力として重要である。
公共への論争は動機のいかんにかかわらず、修正第一条によって守られる。

一見すると、お決まりの勧善懲悪ハリウッドムービーです。ウディ・ハレルソン&コートニー・ラブという俳優を起用し反対制的・ロックな人生万歳的な印象をことさら強調している点も商業的ですし、もっと穿った見方をすれば、映画界が映画の自由を守るために作った宣伝映画であるかのようにも見えます。

しかしこの映画は、決してラリー・フリントのことを「言論の自由のヒーロー」としては描いていません。裁判所の命令を無視し、弁護士のアドバイスにも従わない、むしろかなりムカつく奴として描かれています。結果だけを見ると、彼がアメリカ国民を代表して言論の自由を勝ち取ったかのようですが、その彼自身の言動には、高邁な思想や強きをくじき弱きを助けるといった正義は微塵もありません。

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そうした冷めた目で彼が勝ち得た判決をもう一度読むと、報道や批評“風”でありさえすれば、事実無根の言論を行っても罪に問われることはないという、恐ろしい判決にも見えてきます。アメリカの司法は、その危険をわかった上で広く言論の自由を認めた、ということなのでしょう。「悪いのはいつも真実をねじ曲げて金儲けに走るメディア」ではない。真実か否かを峻別する責任は、市民ひとりひとりにこそある、と。
 

GoogleやFacebookが採用する節税スキーム “Double Irish with a Dutch Sandwitch” の絵を見ていたら、納税地=裁判管轄地になる未来が見えてきた


Googleの有償サービスの規約Facebookの利用規約を見ると,契約当事者がなぜかアイルランド法人になっています。

これはどうやら節税のためらしいという話は耳にしていたのですが,西村高等法務研究所『アジア進出企業の法務』の中で,その種明かしを図解とともにしてくれていましたので,勉強がてらそのポイントをメモ。

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  • Double Irish with a Dutch Sandwitchと呼ばれる手法。アイルランドに二つ会社を設立し(図中IrXとIrY),その間にオランダ法人を挟み込むスキーム
  • まず,アメリカ本社からIrXに対し,IPなどの無形資産を“実質的”譲渡(アメリカ国外のグローバル市場における使用権のみをIrXに譲渡するコストシェアリング契約を締結)することにより,海外事業に関するIPを無形資産としてIrXに切り出す
  • グローバル市場からの収入は,海外事業の拠点として設置されたIrYが事業所得として得,その大部分をライセンス料という形でIrXに移転させるが,IrYからIrXのライセンス料にアイルランドの源泉税がかからないよう,アイルランドとの租税条約によって使用料などに係る源泉税が免除されているオランダ法人を経由して支払う
  • さらに,IrXの事業の本拠は英領バミューダ(またはケイマン)に設置する→アイルランドの租税法上は管理支配地主義のため,IrXに集まる利益に対して課税されないこととなる

これにより,グローバル市場の収益に係る実効税率は2.4%まで圧縮されていると言われています。さらにアイルランド現行税制では,一定の条件を満たせば外国親会社への特許使用料支払いに源泉税が課税されなくなっているそうなので、IrY to ダイレクトにアメリカ本社への支払いも可能になりはじめているとのこと。

このようなことができる税制をなぜアイルランドが設けているのかといえば,ある種の企業誘致策であり少額でいいから税金を稼ぎたいという思惑があるから。その一方で「脱税」されるアメリカとしても黙っているわけにもいかず,同様のスキームを採用しているアップルに対し,10兆を超える利益の課税逃れを行っているとして,今年の5月に入ってから議会上院が追求をはじめています

日本の税法では,英領バミューダに実質的に利益を集積させているとしてタックスヘイブン対策課税を適用することが可能であり,この節税スキームは通用しないようです。とはいえ,契約のグローバル化が進み海外での売上シェアが高まっている企業,かつ“事業の本拠地”“恒久的施設(PE)”が捉えにくいIPやクラウドを用いたビジネスに関わる法務の方は,このあたり研究されると面白いんじゃないでしょうか。

ちなみに個人的なアイデアですが,企業単位ごとに税金を納めるのではなく,プロジェクトや契約ごとに税金を収めるようにしてはどうかと。そうなると,契約書上の裁判管轄地がその案件の納税地ということになるのでしょう。案件で紛争がおきなければ税収が入り,揉めたら裁判所がその紛争解決の面倒をみてやらなければならないという徴税国目線でみたリスク・リターンの関係で考えると,とっても合理的なような気がして悪くないアイデアだと思うのですが,いかがなものでしょうか?本当にそうなったら,裁判管轄条項の契約交渉が国の利益を代表した戦いにもなるわけで,法務担当者としては新しいやりがいもでてくるというものです(笑)。
 



 

【本】英文ライセンス契約実務マニュアル〔第2版〕 ― 35年の重み

 
グローバル化で英文契約業務が増えているといっても,IT業界で取り扱われる契約を見渡してみると,実はバリエーションはそれほど多くありません。基本的には秘密保持契約・業務委託契約がメインで,あとはto C向けの利用規約あたりをたまに整備するぐらいだったりします。このあたりの契約はだいたい定型パターンが決まっているので対応もそれほど難しくなかったりする一方で,私の所属するIT×エンタメな業界では,そこそこ重ためのライセンス契約案件がそれなりの頻度で発生するため,苦労は絶えません。

そんな仕事上の都合に加え,以前『ライセンス契約のすべて 実務応用編』共著の際に資料として買い集めていた経緯もあって,書店にあるライセンス契約本はほぼすべて購入しているのですが,比較的最近入手して(ただし刊行は6年前)ほほーと唸ったのがこちらの本です。書店でも見かけないですし,ブログ等でも紹介されていないのは,流通量が少なかったのでしょうか。





本書は,頭書〜WHEREAS Clause〜本文〜そして末尾文言の各条項ごとに,サンプル英文条文→サンプル条文の日本語訳→その解説・位置付け・ポイントをまとめるというオーソドックスな構成ではありますが,中身には以下のような特徴があります。

1.例文がリアル&長め

これまで拝読してきた英文契約ひな形集やライセンス契約本に収められた例文は,紙面の幅,全体を通しての読みやすさ,使いまわしのよさ等を意識してシンプル・短い例文の紹介にとどまるものがほとんどで,その例文から深い洞察を得られるほどのものは見当たりませんでした。それに対してこの本では,「複数の契約事例から主要なライセンス契約条項を著者の独自の判断でピックアップ(「はじめに」より)」つまり実際の取引で用いられた具体性のある条文が紹介されており,読んでいるこちらがシチュエーションを想像しながら「この長さの中に当社に不利なトリックが仕掛けられていないか?」と,契約交渉の矢面に立っているような錯覚に陥るほど。

また,海外の事業者との契約は,地理的に離れた者同士だからこそ事前に細部まで文章化し条件を確認する必要性もあってどうしても長くなるわけですが,他の例文集より条文が長めなところも,そのリアリティを支えています。たとえば,「支払条項」一つとっても,4.1〜4.9まで9つの項番に分けられ,サンプル英文とその日本語訳のみで(解説を含まずに)以下写真にあるとおり7ページ強にも渡る長さ。続くこの条項の解説部分で50ページにも渡るのですから,圧巻です。

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2.公取ガイドラインを強く意識

どういった条件を設定すると独禁法違反となるおそれがあるかが,条文ごとに個別具体的に言及されています。

英文契約=海外事業者との取引であっても,日本企業が自社の産業財産権をベースに技術供与をするのであれば,契約の準拠法は日本法とすべきでしょうし,そうなれば日本の独占禁止法も意識しなければならないはずなのですが,他の英文ライセンス契約の本ではこの辺の説明を端折っているものも少なくありません。例えば,私がよく参考にしている山本孝夫著『知的財産・著作権のライセンス契約入門(第2版)』では,この点には触れられていません。最も大部な『英文契約書ビジネス大辞典』でも,注意喚起的に数か所記述があるのみ。

ただし,この本が刊行された後に公取ガイドラインが改定されていますので,その点はご注意ください。

3.UCCや米国特許法,さらには米国破産法もカバー

UCCや米国特許法のどんな点がライセンス契約にかかわってくるのかを,それらの条文を訳した上で,日本法と比較対照しながら解説してくれます。さらに,ライセンス契約にとってもっとも恐れるべき事態とも言える,相手方が破産した場合の米国破産法の影響までも場合分けしてまとめています。


著者の小高壽一先生は,1962年にIHIに入社された後営業→海外駐在→業務部→法務と,現場から法務へというキャリアを歩まれ,1997年に定年退職された大ベテラン。600ページを超えるこの本を手に取ると,35年に渡る会社生活でのご苦労や法務パーソンとしてのご経験の蓄積があるからこそ醸しだされる「重み」が,ずっしりと伝わってきます。
 

考えを伝えただけじゃダメだから会社の中に法務が要る

 
会社にとって、法務部門が必要か?外部弁護士にアウトソーシングでも済むのではないか?花びらの数を数えるように考え続ける日々を送っていますが、18年前のスティーブ・ジョブズが、秘蔵インタビューの中でこんなことを言っていました。開始2:57ぐらいから。

ギズ独占! 映画『スティーブ・ジョブズ 1995 〜失われたインタビュー〜』の特別映像が名言たっぷりで興奮しっぱなしだよ!(GIZMODE)より


私がアップル社を去った後、スカリーは深刻な病に侵された。
同じ病気にかかった人を見てきたが
彼らは、アイデアを出せば作業の9割は完成だと考える
そして考えを伝えさえすれば
社員が具体化してくれると思い込むんだ
しかし、スゴいアイデアから優れた製品を生み出すには
大変な職人技の積み重ねが必要だ
それに製品に発展させる中でアイデアは変容し、成長する
細部を詰める過程で多くを学ぶし
妥協(注:スティーブは“trade-offs”と言っている)も必要になってくるからね
電子、プラスチック、ガラス、それぞれ不可能なことがある
工場やロボットだってそうだ
だから製品をデザインする時には
5000のことを一度に考えることになる
大量のコンセプトを試行錯誤しながら組み換え
新たな方法で繋ぎ、望みのものを生み出すんだ
そして未知の発見や問題が現れるたびに、全体を組み直す
そういったプロセスがマジックを生み出すのさ

経営者が「コンプライアンスが最優先だ」と伝え、ルールを規程化したり法律知識を研修で教えこんだりすれば、あとは現場がやってくれる。それが理想ではあるものの、そうコトは簡単ではありません。

この案件を期限に収めるために障害となる法律はあるのか?具体的にルールをどう当てはめれば?ダメだと分かったらどう対処すれば?細部を詰める過程で多くを学び、よりよい解決策が生まれたり、トレードオフも必要になってくる。あちらを立てればこちらが立たずの中で、5000とまでは言わなくても大量の法律・規則・社内ルール、それだけではなく、以前の類似案件・今後の事業展開・会社の歴史・担当者それぞれの立場や思いを把握し、過去と未来の決定にできるだけ矛盾のないよう、普遍性・応用可能性を踏まえたベストな解決策を膝を突き合わせて考えなければならない。それは中の人だけがなせる大変な職人技の積み重ねであると。

業界や事業が成長し、あるサイズを超えてくると、解決すべき法的課題は十→百→千の単位となり、その問題を解く鍵として考慮すべき前提情報とコミュニケーションの量も、百→千→万という単位で増えていきます。法務部門を会社の“中”に置かなければならなくなる理由は、そこにあるのでしょう。一方で、イノベーションが落ち着いた安定的な事業において、法的課題が少なくなるフェーズを迎えれば、その事業部分は切り離して現場に任せるという考え方もあるかもしれません。
 
このあとに続く「道端の石と、モーターとコーヒー缶をバンドでつなげた古い研磨機」の話も含め、法務な方、会社員な方はご覧になるといろいろ思うことがあるビデオかと思います。
 

パーソナルデータ検討会発足 ― 「個人情報保護法は悪法か?」にいよいよ決着をつける時が来た

 
総務省と経産省が「パーソナルデータ」の主導権をどちらが握るかでつばぜり合いをしているうちに、Suica事件が発生してしまい、お尻に火がついて内閣官房として巻き取るという展開となりました。

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「あらゆる法律を改正する意気込み」、IT総合戦略本部がパーソナルデータに関する検討会(ITpro)
検討会の開催で挨拶に立った山本大臣は「プライバシーの取り扱い、パーソナルデータの利活用ルールの順守を監視・監督するような第三者機関の設置など、法的な措置が必要になる項目も出ると考えている。これらについては論点を頂いて、年内に制度を見直しする方針という形でとりまとめて頂きたい」と語った。

ここには書いてありませんが、政府インターネットテレビの山本大臣挨拶を聞くと、「個人情報の本人同意取得手続き標準化」「合理的な匿名化措置のガイドラインの策定」までも検討すると明言しています。

しかし、「年内期限」...あと4ヶ月。これは事実上「結論ありきの検討会」だなということがわかります。

大きな論点は2つ。1つめの論点は第三者機関の設置(プライバシーコミッショナー制度含む)ですが、これはほぼ決定という結論でしょう。実務には影響必至です。
もう1つの論点は、これだけ悪法と言われ続けた個人情報保護法が改正されるのか、それともプライバシー保護を明文化する新法ができるのかという点。ここは微妙ですが、堀部・鈴木・新保・森先生ら情報ネットワーク法学会にもいらっしゃる皆さんがこの議論をリードしていくとすれば、方向性としては保護法の改正で進むのではないでしょうか。

その一つの証左がこの記事。まるでこのパソ検のキックオフにあわせたかのように(おそらく鈴木先生が仕掛けられたのではないかと思われますが)、日経大豆生田記者による鈴木正朝先生の大長編インタビューがITproに掲載されています。その端々に、先生の目指す結論が示されているかのようです。

個人情報の保護レベルを世界水準に合わせよう (ITpro)
日本の国内法は明治の頃に欧州大陸から継受した民法の中ですでに人格権を持っていましたから、精神的領域は人格権で保護できていた。ところが米国法にはその大陸法的人格権がなかったため、プライバシー権という考え方を育てていかなければならない必然性があったわけです。こうした米国固有の状況で生まれたプライバシー権という概念をやや無自覚的に日本に持って来たために、米国でプライバシー侵害訴訟が増加した1960年代から50年以上経っても、日本ではプライバシー権を不自然な形で取り入れているところが残っているかもしれません。そろそろ立法的に決着をつけるべき時期に来ているのではないかと思います。


このブログでも何回か言及もしてきたところですが(たとえばここここ)、日本のみならず、世界の個人データ・プライバシー保護法制は今後EU型に傾くと読んでいます。グローバル企業のCPO/CIO職の多くも、そのような立場で経営計画を立てていると耳にしています。最近それが表にあらわれたのが、先週発表されたFacebookの利用規約改定案です。フォトタギング(写真顔認証)の範囲を広げプライバシー保護の方向とは真逆に進む彼らも、EUでは当該機能を殺すこととしEU法制には白旗を上げています。

日本の個人情報・プライバシー保護法制がドラスティックに変わることは間違いないでしょう。どこまで変わるかは、この検討会が設定する〆切次第といったところではないでしょうか。
 

【本】金融から学ぶ民事法入門 ― 教授の異常な愛情 または元銀行員は如何にして心配するのを止めて教科書を書くようになったか

 
法律をその法体系(パンデクテン)にこだわらずに取引事例・ストーリーに沿って説く試みは、内田民法を代表に様々な書籍で試みられていますが、この本ほどコンパクトかつイキイキとまとめた本はないのではないか、と思える一冊。


金融から学ぶ民事法入門
大垣尚司
勁草書房
2012-03-27



会社に就職したり、銀行やサラ金から金を借りたり、車(中古・新車)を買ったり、家を借りたり、建売を買ったり注文住宅を建てたり、住宅ローンを借りたり、死んで相続したり・・・といった、一般人のライフサイクルに沿って、関連民事法を総ざらいします。「金融から学ぶ」のタイトルから期待できるように、契約・お金・資産の動きに関わる幅広い周辺法(電子契約法、消費者契約法、割賦販売法、利息制限法、手形・小切手法、電子記録債権法、借地借家法、不動産登記法etc)までもカバーしており、痒いところにも手が行き届いています。350ページとそこそこのボリュームがある本なのに、楽しく読んでいるうちに1日が経ってしまいました。法律の本を読んで楽しめたのは久しぶりな気がします。

著者は金融マンの間では有名なベストセラー『金融と法 -- 企業ファイナンス入門』の著者で、東大法&米コロンビア大法科大学院を修了され、興銀マンとして永らくお勤めの後、現在は立命館大学法科大学院で教鞭を執られている大垣尚司先生。ビジネスにおける法実務とその面白さを学生や入社1〜2年目の金融パーソンに理解してもらうために、いかにやさしく伝えるかという愛情のようなものを感じました。その一端が、ところどころに入る著者オリジナルの図解。民法上つまづきやすい法概念や、ビジネスパーソンでも分かりにくい金融ビジネスのスキームを、いちいち図や表に整理してくださっています。

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さらには、出版社が勁草書房ということも手伝って、すべての記述に参照条文のみならずいちいち我妻ダットサンの章・節番号へのリンクが貼られているのが地味にすごい。無味乾燥に見えるダットサンに、この本の実務面からの解説によって潤いが与えられる感じです。今の学生がダットサンを基本書としているかどうかは知りませんが笑、私もダットサンを久しぶりに取り出し、あらためてその味わい深さを再認識しました。
 
奥付を見るとまだ1刷。タイトルと表紙のカタさが災いして、書店で見かけても手に取られることは少ないだろうなと思うと、非常に残念というかもったいない気がするので紹介させていただきました。学生にも、若手法務パーソンにも、さらには一般のビジネスパーソンにもおすすめできる、きわめてわかりやすい法律書だと思います。
 

英文で読める法律ブログのサーチ/ディレクトリサービス

 
海外の法律系ニュースをサーチする方法として、私は、有名なLawブログやziteなどのキュレーションサービスから記事ごとに飛んでは、良さげなブログがあればRSSに登録してしばらく様子を見ながら取捨選択していく、というやり方をとっています。結構同じようなことをやってる人はいらっしゃるようです。

そんな矢先、たまたま無料で使える法律ブログのサーチ/ディレクトリサービスを発見しました。


Justia Blawg Search(Justia.com)

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このスクリーンショットのように、人気の法律ブログを日/週/月/All Timesといった軸でランク付けしていたり、Blawg Directlyのページでは専門法律分野/アメリカの州ごと/国ごと/ロースクールごと(?)に整理してくれていたり。もちろん検索窓からtermで検索もできます。

さらには、おまけ的にLegal Birds=twittererのまとめページもあったりします。

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似たようなサービスは色々見てきましたが、こちらが一番軽くて一覧性もあって使い勝手が良いように思います。

日本も人口の割に法曹関係者のブログ・twittererが増えてきたように思うこのごろ。しかしこの圧倒的な量を見るにつけ、特にアメリカの法曹関係者の裾野の広さを感じますね。
 

【本】プライバシーの新理論 ― 数年遅れの“新”理論の紹介が、日本の自己情報コントロール権説の復権に待ったをかけた

 
3年遅れ。原書の発刊から数えると実に5年遅れ。

2010年。日本でもfacebookブームが本格化し、クラウドの企業導入も当たり前になりはじめ、ネットのプライバシーの議論が盛り上がりはじめた年。そのころにはすでにアメリカのプライバシー論をリードしていたのがダニエル・ソロブです。しかし、なぜか日本においてはこの2013年においてもほぼ無名と言って等しい存在。その理由が「書籍が邦訳されていなかったから」だけだとしたら大変残念ですが、そのソロブの著作が、ついに、ようやく、初めて邦訳されました。


プライバシーの新理論―― 概念と法の再考
ダニエル・J・ソローヴ
みすず書房
2013-06-26



弊ブログでも2010年10月に原著“Understanding Privacy"を紹介している記事が残っています。当時の私はこのソロブ論に大いに触発され、この本を引用しながら論文を書き、翌年情報ネットワーク法学会の学会誌に掲載していただくにいたります。それだけのインパクトを受けた本でした。同じ書評の繰り返しは控えたいと思いますが、

ソロブは、プライバシー権そのものを言葉で定義するのではなく、「プライバシーを脅かす行動には何があるか」を分類して捉えることで、時代によって変化するプライバシー観を捉えていくことを提唱しています。詳しくは本書にて。

あの時の書評ではこのようにもったいぶって(笑)あえて紹介しなかった、この本の一番「おいしい」部分を表現した図がこれ。

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  • ウォーレン・ブランダイスが最初に提唱したあの有名な「放っておいてもらう権利」も
  • その後特に日本で(佐藤幸治教授により)間違った形で広まった「自己情報コントロール権」も
  • 米国憲法修正4条と判例により定着しているようにみえる“reasonable expectations of privacy doctorinedoctrine(合理的な期待権論)"も
それらのいずれもがプライバシーを法的に説明するには不十分であるとし、この図の4つの大項目その下にぶら下がる14の小項目によってその前提から丁寧な再整理を試みるソロブ。

何が不十分なのか。たとえば、今日本を騒がしているビッグデータの議論を例に挙げてみましょう。自己情報コントロール権をベースに法的な整理を試みる日本では、ビッグデータの活用において、情報収集時に取得する同意の透明性と、収集後の情報訂正・オプトアウトの権利の確保が大切だと言われています。では本当にその2つがあれば、ビッグデータ利活用はなんでもOKになるのでしょうか?必要十分な透明性をもった同意取得とは具体的にはどんなもの?情報収集時には同意をしていたユーザーが理由なく気が変わってオプトアウトを要求するという事態をどう捉える?・・・まじめに考えるほどに、きっと自己情報コントロール権では説明ができない部分が噴出するであろうと思われてなりません。2008年に刊行されたこの本にはビッグデータのキーワードこそありませんが、ソロブは、ビッグデータ的な脅威もきちんと想定した上で、それによって脅かされるプライバシーの問題を「集約」「同定」「二次利用」の問題に分類して捉え、これらについて争われた米国判例をもとに、これまでのプライバシーの捉え方がいかに視野の狭いものであるかについて、細かく分析を試みます。このような点を見ても、論点がすれ違って空中戦になりがちなこれからのプライバシー議論の土俵を合わせる基軸として、ソロブが打ち立てたこの分類は時代がかわっても色褪せない、普遍的なものであることが分かります。

@ikegai先生がtwitterで教えてくださった最新論文においても、ソロブは同意取得偏重に過ぎる自己情報コントロール権を礼賛する傾向に疑問を投げかけています。こちらも必読でしょう。

Privacy Self-Management and the Consent Dilemma(Daniel J. Solove)
In order to advance, privacy law and policy must confront a complex and confounding dilemma with consent. Consent to collection, use, and disclosure of personal data is often not meaningful, and the most apparent solution — paternalistic measures — even more directly denies people the freedom to make consensual choices about their data. In this Article, I propose several ways privacy law can grapple with the consent dilemma and move beyond relying too heavily on privacy self-management.


本書の訳者大谷卓史氏も、この本が日本のプライバシー論に与える影響を十分に承知し、なみなみならぬ情熱と使命感をもって訳されていることが、訳者あとがきのこんな一節から伝わってきます。

適切な訳語・訳文の選択がむずかしい場合や疑問点があった場合には、電子メールで著者に問い合わせを行った。(略)ところで、“right to be let alone"の訳語は、法学分野では「一人にしておいてもらう権利」などの訳が現在でも散見されるものの、本来の意味を考えれば、本書で訳したように「放っておいてもらう権利」となる。著者に訳語の選択について相談したところ、この概念は必ずしも"solitude"の意味は含まないとの説明をいただき、あえて後者の訳を採用した。


最近の日本における個人情報コントロール権説復権の大波に飲まれかかっていた私の心に、まだこんな安易な学説に負けちゃいけないと、火を灯してくれた一冊です。
 

2013.8.21 22:00追記
誤字を指摘いただきましたので訂正。ありがとうございました。 
 

『インハウスローヤーへの道』で紹介されている米国最高裁傍聴アプリ“PocketJustice”がすごい(動画紹介付き)

 
Lexis Nexis書籍編集部のY様より、『インハウスローヤーへの道』をご恵贈いただきました。ありがとうございます。


インハウスローヤーへの道
梅田 康宏
レクシスネクシス・ジャパン
2013-07-29



ローヤーではない私はこの本の「お役立ち度」については評する立場にはありませんが、採用する側の企業法務部の立場で読んでいても、まったく違和感はなかったので、インハウスローヤーを目指されるみなさんがお読みになっても、企業法務部の実情がしっかりと伝わる本になっているかと思います。

また、企業の選び方として“「業界」軸で選ぶべし”と論じられている部分に共感します。法律職の場合は、所属する業界で磨ける専門性→将来の選択肢が絞られもしますし、なおさら業界にはこだわるべきでしょう。私から付け加えることがあるとすれば、BtoBビジネスよりもBtoCビジネスを選んだほうが、取り扱う法律分野の幅・有資格者としての活躍の場(訴訟、行政との折衝、内容証明等の数)・クレーム対応等を通しての現場との一体感は得やすいと思います。

そのように業界軸に重きをおいていることもあって、大手企業の所属弁護士数データも業界ごとに表でまとめられています。ふつうは在籍弁護士数が多い上位企業だけが紹介されるところ、あえて在籍0人の企業も載せているところが素敵です。弁護士会の検索システムで社名を入れて検索して0人と出ても、本当にこの会社が?と疑ってしまうのですが(事実、インハウスでありながら特殊な登録の仕方をされている方もいると聞きます)、組織内弁護士協会調べで0人ならば、たぶん間違いないのでしょう。

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さて、前置きが少し長くなりましたがタイトルの件。

この本の第4章「インハウスローヤーに求められる能力」の「英語力」に関する項で、こんなアプリが紹介されていまして、これに本当にびっくりしてしまいました。

私が法科大学院生や司法修習生にお奨めしたいのが「PocketJustice」というアプリです。これは、英会話用のアプリではなく、米国連邦最高裁の過去の著名事件の口頭弁論(Oral Argument)を自由自在に聞けるという米国製のアプリです。
このアプリで口頭弁論(Oral Argument)を繰り返し聞いたり、シャドウイングをしたりすることで、リスニング能力が上達すると同時に、法律用語も分かるようになります。各種解説や関連情報も充実していてたった1ドルのアプリですので是非試してみてください

650を超える著名事件の最高裁判例サマリーが検索できる・・・だけでなく、なんと口頭弁論の丁々発止がストリームで読み聞きできるというこのPocketJustice。質問する判事、応答する検察官・弁護士の顔写真とスクリプト付きでスクロールしていくので、現在地点を見失うこともありません。録音状態もクリアで臨場感もばっちり。ネット上でこのアプリの紹介動画がないか探したのですが、どうやらないようです。そこで、ネット関連の判例からReno v. ACLUを選んで、自分でストリームを動画にとってみました。百聞は一見にしかずです。


法律的に必ずしも正確な描写ではないことの多い法廷ドラマを見て英語漬けになろうとするぐらいだったら、こちらのほうが本物だけあってスリリングですし、情報(単語)の密度も高いです。自分の興味分野の判例を選んで、現場の生の英語を見聞きしながら法律と英語の両方を学べるなんてすごい!

いいものを紹介していただきました。
 

錚々たる面々が赤裸々に自社のビッグデータ戦略を語る「宣伝会議」に背筋がゾクゾク

 
ビッグデータ特集と聞いてこんな雑誌を買ってみました。普段読まない雑誌を読むのも面白いものです。


宣伝会議 2013年 09月号 [雑誌]宣伝会議 2013年 09月号 [雑誌] [雑誌]
出版:宣伝会議
(2013-08-01)


電通、博報堂×日立、Tポイントジャパン、オプト、楽天の各社ご担当が考えるビッグデータ戦略がまとめて読める貴重な特集。「プライバシーをどう守るか」という視点ではなく、純粋に「マーケティングにどう役立てようとしているか」という視点からの取材記事なので、企業のホンネ度・赤裸々度が高めです。

5社の取材記事をざっとまとめると、こんなことを仰ってます。

電通:統合的なビジネス・インテリジェンスサービスが提供できるよ、小会社にITベンダもあるし
博日:匿名化で不安は和らぐし、日立がプライバシー影響評価(PIA)をやってるから大丈夫
Tポ:コンビニPOSが持つ属性データにTポが持つ属性データを掛け合わせると、販促効率2倍に
オプ:枠売りから、ユーザーIDへのアプローチに変え、一生の顧客を育てよ
楽天:個人を特定する情報はビッグデータ部門内では扱わないし、使わなくてもサービス向上可能

電通、博報堂×日立の記事はちょっと抽象度が高すぎて、何が言いたいか分からなかったというのが正直なところ。そして意外だったのが楽天の堅実さ。それとは対照的に、Tポイントやオプトは楽観的で攻め攻めな感じ。「他社が持つ属性データと掛け合わせ」「ユーザID」・・・同二社の記事にはセキュリティクラスタが興奮しそうな図・資料も載っていて、背筋がゾクゾクしました。

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そんな中で、特集の真ん中に鎮座するクロサカタツヤさんの寄稿「日米のデータ活用徹底比較」が、この特集に冷たいそよ風を吹かせていて、シビレます(笑)。

・日本に比べ米国はプライバシーに肝要寛容というのは誤解で、デジタル領域はむしろ厳しい
・米国はクレジット(信用)を自分で作らなければいけないという、日本にはない特性がある
・日本は米国と違ってPOSデータ活用等が洗練されているのに、「ビッグデータ」が本当に必要か?

クロサカさんも懸念されるように、ビッグデータがただのバズワードで終わったり、プライバシー侵害の口実に使われたりするのでなく、データの価値を改めて見直すという本来の目的に忠実にならないといけないなと、改めて思いました。

また、各社各人のスタンスの違いがくっきりしながらも、多くのみなさんが
・説明の透明性
・消費者による一定の拒否権行使のシステム作り
の2点が重要というところで一致していたのは、肝に銘じておきたいと思います。
 
なお、今週配刊のNBL1006号にも、パーソナルデータ系の記事が二本(総務省藤波企画官、日立)掲載されています。こちらは宣伝会議とくらべるとさらに抽象度が高くて、このテーマをプライバシーという面から追いかけている方には物足りないかな?とも思いましたが、こちらも参考までに。
 

2013.8.7
ご指摘受けまして、誤字訂正させていただきました。ありがとうございます。
 

【本】新訂版 個人情報保護法 ― 「匿名化」時代の保護法再考

 
日本の個人情報保護法の基本書・概説書として最高峰にあるこの本。この数年手に入らない状態が続いていましたが、ようやく2刷となり、手に入るようになりました(Amazonにはまだ反映されてないようですが)。


個人情報保護法個人情報保護法 [単行本]
著者:岡村 久道
出版:商事法務
(2009-03)


恥ずかしながら、自分用には黄色い表紙の旧版しか持っておらず、出版社在庫もなかったため、数年前から古本が出ていないか毎週のようにブックタウンじんぼうなどで定期的に探していたところでした。

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概説書は辞書的に使うものであり会社にあればいいという考え方もありますが、今回この2刷となった新訂版をもう一度最初から読んで、この本はやはり自分で買って読み込むべき本だと思いました。旧版から100ページほど増量し、記載にも厚みが生まれているのはもちろんのことですが、今回手に入ってじっくり読んでみると、新しい発見がいくつか有ります。たとえば、旧版では自己情報コントロール権を正面から認めるかについて躊躇がみられた記述が、新訂版では

学説上では、佐藤幸治教授をはじめ、情報プライバシー権説を採用する者が出現して多数説となった。(P17)
本人関与に関する規定は、個人情報取扱事業者に義務を課すだけではなく、本人に個人情報取扱事業者に対する具体的な権利を付与するものか否か争いがある。
立法者意思に照らして、具体的権利性を肯定すべきである。(P269-270)

と、わりとはっきりと認めていらっしゃったり。この新訂版を最初に読んだ2009年当時のころの私は、勉強不足もあり、そういう機微に気づけなかったんですね。このブログの2010〜11年前後のエントリで、一生懸命自己情報コントロール権説に対する反対意見(ポジショントーク)を書き連ねていたのは、今となっては懐かしい思い出です(笑)。

しかし、そんなすばらしいこの本も、2009年刊行ということもあり、最近のプライバシー議論、ビッグデータとプライバシーの問題についていけてないのでは?という疑問の声もあります。先日、高木先生が公開されていた講演資料にも、このような指摘がありました。

産業技術総合研究所 高木 浩光「パーソナルデータ保護法制に向けた最近の動向」P11

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同法の大家である岡村先生の説が、プライバシーを軽視する企業によって拡大解釈・悪用されてしまうことを恐れてのご発言のようです。しかし、2009年ごろは保護法によるビジネスサイドの過度な萎縮が問題視されていたのも事実。

ビッグデータの解析技術が現実かつ身近な脅威ともなってきた今、匿名化と個人情報保護の厳密な議論の必要性が加速度的に高まることは確実でしょう。しかし一方で、あれだけ喧々諤々な議論で成立した個人情報保護法がすぐに変わることもないだろうことを考えると、いまだからこそもう一度しっかりと保護法と向き合う必要があるのではと思います。

読めば読むほど自分自身の勉強不足を感じさせてくれる一冊です。
 
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