企業法務マンサバイバル

ビジネス法務に関する本・トピックのご紹介を通して、サバイバルな時代を生きる皆様に貢献するブログ。

法務

パーソナルデータ検討会発足 ― 「個人情報保護法は悪法か?」にいよいよ決着をつける時が来た

 
総務省と経産省が「パーソナルデータ」の主導権をどちらが握るかでつばぜり合いをしているうちに、Suica事件が発生してしまい、お尻に火がついて内閣官房として巻き取るという展開となりました。

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「あらゆる法律を改正する意気込み」、IT総合戦略本部がパーソナルデータに関する検討会(ITpro)
検討会の開催で挨拶に立った山本大臣は「プライバシーの取り扱い、パーソナルデータの利活用ルールの順守を監視・監督するような第三者機関の設置など、法的な措置が必要になる項目も出ると考えている。これらについては論点を頂いて、年内に制度を見直しする方針という形でとりまとめて頂きたい」と語った。

ここには書いてありませんが、政府インターネットテレビの山本大臣挨拶を聞くと、「個人情報の本人同意取得手続き標準化」「合理的な匿名化措置のガイドラインの策定」までも検討すると明言しています。

しかし、「年内期限」...あと4ヶ月。これは事実上「結論ありきの検討会」だなということがわかります。

大きな論点は2つ。1つめの論点は第三者機関の設置(プライバシーコミッショナー制度含む)ですが、これはほぼ決定という結論でしょう。実務には影響必至です。
もう1つの論点は、これだけ悪法と言われ続けた個人情報保護法が改正されるのか、それともプライバシー保護を明文化する新法ができるのかという点。ここは微妙ですが、堀部・鈴木・新保・森先生ら情報ネットワーク法学会にもいらっしゃる皆さんがこの議論をリードしていくとすれば、方向性としては保護法の改正で進むのではないでしょうか。

その一つの証左がこの記事。まるでこのパソ検のキックオフにあわせたかのように(おそらく鈴木先生が仕掛けられたのではないかと思われますが)、日経大豆生田記者による鈴木正朝先生の大長編インタビューがITproに掲載されています。その端々に、先生の目指す結論が示されているかのようです。

個人情報の保護レベルを世界水準に合わせよう (ITpro)
日本の国内法は明治の頃に欧州大陸から継受した民法の中ですでに人格権を持っていましたから、精神的領域は人格権で保護できていた。ところが米国法にはその大陸法的人格権がなかったため、プライバシー権という考え方を育てていかなければならない必然性があったわけです。こうした米国固有の状況で生まれたプライバシー権という概念をやや無自覚的に日本に持って来たために、米国でプライバシー侵害訴訟が増加した1960年代から50年以上経っても、日本ではプライバシー権を不自然な形で取り入れているところが残っているかもしれません。そろそろ立法的に決着をつけるべき時期に来ているのではないかと思います。


このブログでも何回か言及もしてきたところですが(たとえばここここ)、日本のみならず、世界の個人データ・プライバシー保護法制は今後EU型に傾くと読んでいます。グローバル企業のCPO/CIO職の多くも、そのような立場で経営計画を立てていると耳にしています。最近それが表にあらわれたのが、先週発表されたFacebookの利用規約改定案です。フォトタギング(写真顔認証)の範囲を広げプライバシー保護の方向とは真逆に進む彼らも、EUでは当該機能を殺すこととしEU法制には白旗を上げています。

日本の個人情報・プライバシー保護法制がドラスティックに変わることは間違いないでしょう。どこまで変わるかは、この検討会が設定する〆切次第といったところではないでしょうか。
 

【本】金融から学ぶ民事法入門 ― 教授の異常な愛情 または元銀行員は如何にして心配するのを止めて教科書を書くようになったか

 
法律をその法体系(パンデクテン)にこだわらずに取引事例・ストーリーに沿って説く試みは、内田民法を代表に様々な書籍で試みられていますが、この本ほどコンパクトかつイキイキとまとめた本はないのではないか、と思える一冊。


金融から学ぶ民事法入門
大垣尚司
勁草書房
2012-03-27



会社に就職したり、銀行やサラ金から金を借りたり、車(中古・新車)を買ったり、家を借りたり、建売を買ったり注文住宅を建てたり、住宅ローンを借りたり、死んで相続したり・・・といった、一般人のライフサイクルに沿って、関連民事法を総ざらいします。「金融から学ぶ」のタイトルから期待できるように、契約・お金・資産の動きに関わる幅広い周辺法(電子契約法、消費者契約法、割賦販売法、利息制限法、手形・小切手法、電子記録債権法、借地借家法、不動産登記法etc)までもカバーしており、痒いところにも手が行き届いています。350ページとそこそこのボリュームがある本なのに、楽しく読んでいるうちに1日が経ってしまいました。法律の本を読んで楽しめたのは久しぶりな気がします。

著者は金融マンの間では有名なベストセラー『金融と法 -- 企業ファイナンス入門』の著者で、東大法&米コロンビア大法科大学院を修了され、興銀マンとして永らくお勤めの後、現在は立命館大学法科大学院で教鞭を執られている大垣尚司先生。ビジネスにおける法実務とその面白さを学生や入社1〜2年目の金融パーソンに理解してもらうために、いかにやさしく伝えるかという愛情のようなものを感じました。その一端が、ところどころに入る著者オリジナルの図解。民法上つまづきやすい法概念や、ビジネスパーソンでも分かりにくい金融ビジネスのスキームを、いちいち図や表に整理してくださっています。

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さらには、出版社が勁草書房ということも手伝って、すべての記述に参照条文のみならずいちいち我妻ダットサンの章・節番号へのリンクが貼られているのが地味にすごい。無味乾燥に見えるダットサンに、この本の実務面からの解説によって潤いが与えられる感じです。今の学生がダットサンを基本書としているかどうかは知りませんが笑、私もダットサンを久しぶりに取り出し、あらためてその味わい深さを再認識しました。
 
奥付を見るとまだ1刷。タイトルと表紙のカタさが災いして、書店で見かけても手に取られることは少ないだろうなと思うと、非常に残念というかもったいない気がするので紹介させていただきました。学生にも、若手法務パーソンにも、さらには一般のビジネスパーソンにもおすすめできる、きわめてわかりやすい法律書だと思います。
 

英文で読める法律ブログのサーチ/ディレクトリサービス

 
海外の法律系ニュースをサーチする方法として、私は、有名なLawブログやziteなどのキュレーションサービスから記事ごとに飛んでは、良さげなブログがあればRSSに登録してしばらく様子を見ながら取捨選択していく、というやり方をとっています。結構同じようなことをやってる人はいらっしゃるようです。

そんな矢先、たまたま無料で使える法律ブログのサーチ/ディレクトリサービスを発見しました。


Justia Blawg Search(Justia.com)

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このスクリーンショットのように、人気の法律ブログを日/週/月/All Timesといった軸でランク付けしていたり、Blawg Directlyのページでは専門法律分野/アメリカの州ごと/国ごと/ロースクールごと(?)に整理してくれていたり。もちろん検索窓からtermで検索もできます。

さらには、おまけ的にLegal Birds=twittererのまとめページもあったりします。

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似たようなサービスは色々見てきましたが、こちらが一番軽くて一覧性もあって使い勝手が良いように思います。

日本も人口の割に法曹関係者のブログ・twittererが増えてきたように思うこのごろ。しかしこの圧倒的な量を見るにつけ、特にアメリカの法曹関係者の裾野の広さを感じますね。
 

【本】プライバシーの新理論 ― 数年遅れの“新”理論の紹介が、日本の自己情報コントロール権説の復権に待ったをかけた

 
3年遅れ。原書の発刊から数えると実に5年遅れ。

2010年。日本でもfacebookブームが本格化し、クラウドの企業導入も当たり前になりはじめ、ネットのプライバシーの議論が盛り上がりはじめた年。そのころにはすでにアメリカのプライバシー論をリードしていたのがダニエル・ソロブです。しかし、なぜか日本においてはこの2013年においてもほぼ無名と言って等しい存在。その理由が「書籍が邦訳されていなかったから」だけだとしたら大変残念ですが、そのソロブの著作が、ついに、ようやく、初めて邦訳されました。


プライバシーの新理論―― 概念と法の再考
ダニエル・J・ソローヴ
みすず書房
2013-06-26



弊ブログでも2010年10月に原著“Understanding Privacy"を紹介している記事が残っています。当時の私はこのソロブ論に大いに触発され、この本を引用しながら論文を書き、翌年情報ネットワーク法学会の学会誌に掲載していただくにいたります。それだけのインパクトを受けた本でした。同じ書評の繰り返しは控えたいと思いますが、

ソロブは、プライバシー権そのものを言葉で定義するのではなく、「プライバシーを脅かす行動には何があるか」を分類して捉えることで、時代によって変化するプライバシー観を捉えていくことを提唱しています。詳しくは本書にて。

あの時の書評ではこのようにもったいぶって(笑)あえて紹介しなかった、この本の一番「おいしい」部分を表現した図がこれ。

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  • ウォーレン・ブランダイスが最初に提唱したあの有名な「放っておいてもらう権利」も
  • その後特に日本で(佐藤幸治教授により)間違った形で広まった「自己情報コントロール権」も
  • 米国憲法修正4条と判例により定着しているようにみえる“reasonable expectations of privacy doctorinedoctrine(合理的な期待権論)"も
それらのいずれもがプライバシーを法的に説明するには不十分であるとし、この図の4つの大項目その下にぶら下がる14の小項目によってその前提から丁寧な再整理を試みるソロブ。

何が不十分なのか。たとえば、今日本を騒がしているビッグデータの議論を例に挙げてみましょう。自己情報コントロール権をベースに法的な整理を試みる日本では、ビッグデータの活用において、情報収集時に取得する同意の透明性と、収集後の情報訂正・オプトアウトの権利の確保が大切だと言われています。では本当にその2つがあれば、ビッグデータ利活用はなんでもOKになるのでしょうか?必要十分な透明性をもった同意取得とは具体的にはどんなもの?情報収集時には同意をしていたユーザーが理由なく気が変わってオプトアウトを要求するという事態をどう捉える?・・・まじめに考えるほどに、きっと自己情報コントロール権では説明ができない部分が噴出するであろうと思われてなりません。2008年に刊行されたこの本にはビッグデータのキーワードこそありませんが、ソロブは、ビッグデータ的な脅威もきちんと想定した上で、それによって脅かされるプライバシーの問題を「集約」「同定」「二次利用」の問題に分類して捉え、これらについて争われた米国判例をもとに、これまでのプライバシーの捉え方がいかに視野の狭いものであるかについて、細かく分析を試みます。このような点を見ても、論点がすれ違って空中戦になりがちなこれからのプライバシー議論の土俵を合わせる基軸として、ソロブが打ち立てたこの分類は時代がかわっても色褪せない、普遍的なものであることが分かります。

@ikegai先生がtwitterで教えてくださった最新論文においても、ソロブは同意取得偏重に過ぎる自己情報コントロール権を礼賛する傾向に疑問を投げかけています。こちらも必読でしょう。

Privacy Self-Management and the Consent Dilemma(Daniel J. Solove)
In order to advance, privacy law and policy must confront a complex and confounding dilemma with consent. Consent to collection, use, and disclosure of personal data is often not meaningful, and the most apparent solution — paternalistic measures — even more directly denies people the freedom to make consensual choices about their data. In this Article, I propose several ways privacy law can grapple with the consent dilemma and move beyond relying too heavily on privacy self-management.


本書の訳者大谷卓史氏も、この本が日本のプライバシー論に与える影響を十分に承知し、なみなみならぬ情熱と使命感をもって訳されていることが、訳者あとがきのこんな一節から伝わってきます。

適切な訳語・訳文の選択がむずかしい場合や疑問点があった場合には、電子メールで著者に問い合わせを行った。(略)ところで、“right to be let alone"の訳語は、法学分野では「一人にしておいてもらう権利」などの訳が現在でも散見されるものの、本来の意味を考えれば、本書で訳したように「放っておいてもらう権利」となる。著者に訳語の選択について相談したところ、この概念は必ずしも"solitude"の意味は含まないとの説明をいただき、あえて後者の訳を採用した。


最近の日本における個人情報コントロール権説復権の大波に飲まれかかっていた私の心に、まだこんな安易な学説に負けちゃいけないと、火を灯してくれた一冊です。
 

2013.8.21 22:00追記
誤字を指摘いただきましたので訂正。ありがとうございました。 
 

『インハウスローヤーへの道』で紹介されている米国最高裁傍聴アプリ“PocketJustice”がすごい(動画紹介付き)

 
Lexis Nexis書籍編集部のY様より、『インハウスローヤーへの道』をご恵贈いただきました。ありがとうございます。


インハウスローヤーへの道
梅田 康宏
レクシスネクシス・ジャパン
2013-07-29



ローヤーではない私はこの本の「お役立ち度」については評する立場にはありませんが、採用する側の企業法務部の立場で読んでいても、まったく違和感はなかったので、インハウスローヤーを目指されるみなさんがお読みになっても、企業法務部の実情がしっかりと伝わる本になっているかと思います。

また、企業の選び方として“「業界」軸で選ぶべし”と論じられている部分に共感します。法律職の場合は、所属する業界で磨ける専門性→将来の選択肢が絞られもしますし、なおさら業界にはこだわるべきでしょう。私から付け加えることがあるとすれば、BtoBビジネスよりもBtoCビジネスを選んだほうが、取り扱う法律分野の幅・有資格者としての活躍の場(訴訟、行政との折衝、内容証明等の数)・クレーム対応等を通しての現場との一体感は得やすいと思います。

そのように業界軸に重きをおいていることもあって、大手企業の所属弁護士数データも業界ごとに表でまとめられています。ふつうは在籍弁護士数が多い上位企業だけが紹介されるところ、あえて在籍0人の企業も載せているところが素敵です。弁護士会の検索システムで社名を入れて検索して0人と出ても、本当にこの会社が?と疑ってしまうのですが(事実、インハウスでありながら特殊な登録の仕方をされている方もいると聞きます)、組織内弁護士協会調べで0人ならば、たぶん間違いないのでしょう。

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さて、前置きが少し長くなりましたがタイトルの件。

この本の第4章「インハウスローヤーに求められる能力」の「英語力」に関する項で、こんなアプリが紹介されていまして、これに本当にびっくりしてしまいました。

私が法科大学院生や司法修習生にお奨めしたいのが「PocketJustice」というアプリです。これは、英会話用のアプリではなく、米国連邦最高裁の過去の著名事件の口頭弁論(Oral Argument)を自由自在に聞けるという米国製のアプリです。
このアプリで口頭弁論(Oral Argument)を繰り返し聞いたり、シャドウイングをしたりすることで、リスニング能力が上達すると同時に、法律用語も分かるようになります。各種解説や関連情報も充実していてたった1ドルのアプリですので是非試してみてください

650を超える著名事件の最高裁判例サマリーが検索できる・・・だけでなく、なんと口頭弁論の丁々発止がストリームで読み聞きできるというこのPocketJustice。質問する判事、応答する検察官・弁護士の顔写真とスクリプト付きでスクロールしていくので、現在地点を見失うこともありません。録音状態もクリアで臨場感もばっちり。ネット上でこのアプリの紹介動画がないか探したのですが、どうやらないようです。そこで、ネット関連の判例からReno v. ACLUを選んで、自分でストリームを動画にとってみました。百聞は一見にしかずです。


法律的に必ずしも正確な描写ではないことの多い法廷ドラマを見て英語漬けになろうとするぐらいだったら、こちらのほうが本物だけあってスリリングですし、情報(単語)の密度も高いです。自分の興味分野の判例を選んで、現場の生の英語を見聞きしながら法律と英語の両方を学べるなんてすごい!

いいものを紹介していただきました。
 

錚々たる面々が赤裸々に自社のビッグデータ戦略を語る「宣伝会議」に背筋がゾクゾク

 
ビッグデータ特集と聞いてこんな雑誌を買ってみました。普段読まない雑誌を読むのも面白いものです。


宣伝会議 2013年 09月号 [雑誌]宣伝会議 2013年 09月号 [雑誌] [雑誌]
出版:宣伝会議
(2013-08-01)


電通、博報堂×日立、Tポイントジャパン、オプト、楽天の各社ご担当が考えるビッグデータ戦略がまとめて読める貴重な特集。「プライバシーをどう守るか」という視点ではなく、純粋に「マーケティングにどう役立てようとしているか」という視点からの取材記事なので、企業のホンネ度・赤裸々度が高めです。

5社の取材記事をざっとまとめると、こんなことを仰ってます。

電通:統合的なビジネス・インテリジェンスサービスが提供できるよ、小会社にITベンダもあるし
博日:匿名化で不安は和らぐし、日立がプライバシー影響評価(PIA)をやってるから大丈夫
Tポ:コンビニPOSが持つ属性データにTポが持つ属性データを掛け合わせると、販促効率2倍に
オプ:枠売りから、ユーザーIDへのアプローチに変え、一生の顧客を育てよ
楽天:個人を特定する情報はビッグデータ部門内では扱わないし、使わなくてもサービス向上可能

電通、博報堂×日立の記事はちょっと抽象度が高すぎて、何が言いたいか分からなかったというのが正直なところ。そして意外だったのが楽天の堅実さ。それとは対照的に、Tポイントやオプトは楽観的で攻め攻めな感じ。「他社が持つ属性データと掛け合わせ」「ユーザID」・・・同二社の記事にはセキュリティクラスタが興奮しそうな図・資料も載っていて、背筋がゾクゾクしました。

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そんな中で、特集の真ん中に鎮座するクロサカタツヤさんの寄稿「日米のデータ活用徹底比較」が、この特集に冷たいそよ風を吹かせていて、シビレます(笑)。

・日本に比べ米国はプライバシーに肝要寛容というのは誤解で、デジタル領域はむしろ厳しい
・米国はクレジット(信用)を自分で作らなければいけないという、日本にはない特性がある
・日本は米国と違ってPOSデータ活用等が洗練されているのに、「ビッグデータ」が本当に必要か?

クロサカさんも懸念されるように、ビッグデータがただのバズワードで終わったり、プライバシー侵害の口実に使われたりするのでなく、データの価値を改めて見直すという本来の目的に忠実にならないといけないなと、改めて思いました。

また、各社各人のスタンスの違いがくっきりしながらも、多くのみなさんが
・説明の透明性
・消費者による一定の拒否権行使のシステム作り
の2点が重要というところで一致していたのは、肝に銘じておきたいと思います。
 
なお、今週配刊のNBL1006号にも、パーソナルデータ系の記事が二本(総務省藤波企画官、日立)掲載されています。こちらは宣伝会議とくらべるとさらに抽象度が高くて、このテーマをプライバシーという面から追いかけている方には物足りないかな?とも思いましたが、こちらも参考までに。
 

2013.8.7
ご指摘受けまして、誤字訂正させていただきました。ありがとうございます。
 

【本】新訂版 個人情報保護法 ― 「匿名化」時代の保護法再考

 
日本の個人情報保護法の基本書・概説書として最高峰にあるこの本。この数年手に入らない状態が続いていましたが、ようやく2刷となり、手に入るようになりました(Amazonにはまだ反映されてないようですが)。


個人情報保護法個人情報保護法 [単行本]
著者:岡村 久道
出版:商事法務
(2009-03)


恥ずかしながら、自分用には黄色い表紙の旧版しか持っておらず、出版社在庫もなかったため、数年前から古本が出ていないか毎週のようにブックタウンじんぼうなどで定期的に探していたところでした。

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概説書は辞書的に使うものであり会社にあればいいという考え方もありますが、今回この2刷となった新訂版をもう一度最初から読んで、この本はやはり自分で買って読み込むべき本だと思いました。旧版から100ページほど増量し、記載にも厚みが生まれているのはもちろんのことですが、今回手に入ってじっくり読んでみると、新しい発見がいくつか有ります。たとえば、旧版では自己情報コントロール権を正面から認めるかについて躊躇がみられた記述が、新訂版では

学説上では、佐藤幸治教授をはじめ、情報プライバシー権説を採用する者が出現して多数説となった。(P17)
本人関与に関する規定は、個人情報取扱事業者に義務を課すだけではなく、本人に個人情報取扱事業者に対する具体的な権利を付与するものか否か争いがある。
立法者意思に照らして、具体的権利性を肯定すべきである。(P269-270)

と、わりとはっきりと認めていらっしゃったり。この新訂版を最初に読んだ2009年当時のころの私は、勉強不足もあり、そういう機微に気づけなかったんですね。このブログの2010〜11年前後のエントリで、一生懸命自己情報コントロール権説に対する反対意見(ポジショントーク)を書き連ねていたのは、今となっては懐かしい思い出です(笑)。

しかし、そんなすばらしいこの本も、2009年刊行ということもあり、最近のプライバシー議論、ビッグデータとプライバシーの問題についていけてないのでは?という疑問の声もあります。先日、高木先生が公開されていた講演資料にも、このような指摘がありました。

産業技術総合研究所 高木 浩光「パーソナルデータ保護法制に向けた最近の動向」P11

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同法の大家である岡村先生の説が、プライバシーを軽視する企業によって拡大解釈・悪用されてしまうことを恐れてのご発言のようです。しかし、2009年ごろは保護法によるビジネスサイドの過度な萎縮が問題視されていたのも事実。

ビッグデータの解析技術が現実かつ身近な脅威ともなってきた今、匿名化と個人情報保護の厳密な議論の必要性が加速度的に高まることは確実でしょう。しかし一方で、あれだけ喧々諤々な議論で成立した個人情報保護法がすぐに変わることもないだろうことを考えると、いまだからこそもう一度しっかりと保護法と向き合う必要があるのではと思います。

読めば読むほど自分自身の勉強不足を感じさせてくれる一冊です。
 

プライバシーポリシーの“ショートフォーム”を作らなきゃ

 
米国商務省電気通信情報局(NTIA)が、スマホアプリ事業者向けのガイドラインとなる"SHORT FORM NOTICE CODE OF CONDUCT TO PROMOTE TRANSPARENCY IN MOBILE APP PRACTICES"のドラフトを出した件が、アメリカのいくつかのメディアで取り上げられています。

US telecom agency issues draft mobile app code of conduct with guidelines for user data collection (The Next Web)
The US government’s National Telecommunications and Information Administration today issued its first draft of what will be a mobile apps code of conduct intended to better protect consumers and their privacy. If made final, policy states that publishers must provide consumers with “short-form” notices in multiple languages informing them of how their data is being used.

アプリビジネスにおいてプライバシー情報の不正な取り扱いが行われないよう、プライバシー保護の透明性をこの“ショートフォーム“を作らせて事業者に表明させようとするこのアメリカの動き。アプリマーケットは結局グローバルにつながっているわけですから、いずれ日本のアプリ事業者にも影響を及ぼすことになるのではと思います。英語は読みやすく一読すればわかる文章になっていますので、特に解説の必要もないかもしれませんが、自分自身の理解と整理がてらメモを作ってみました。

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何を収集し、誰に個人特定情報をシェアするのかを具体的に


I. Preamble: Principles Underlying the Code of Conductに、ジャブ気味に、

When appropriate, some app developers may elect to offer short form notice in multiple languages.

と多言語対応の必要性にふれられているのを横目にスルーしつつ(苦笑)、NTIAが設置を推奨する“ショートフォーム”には何を入れればいよいのかを見てみると、以下の4つであるとII. Short Form Noticesの項で規定されています。

(a) the collection of types of data listed in Section II.A whether or not consumers know that it is being collected;
(b) a means of accessing a long form privacy policy, if any exists;
(c) the sharing of user-specific data, if any, with thirdparties listed in Section II.B as defined below; and
(d) the identity of the entity providing the app.

(b)はロングフォーム、すなわちプライバシーポリシー本文へのリンクがあればそれを明示しろというだけですし、(d)はアプリを提供している責任主体(法人なら社名と住所ってあたりでしょう)を特定せよというだけのこと。問題は、(a)どんな情報を収集し、(c)集めた情報の中の個人特定情報(user-specific data)を誰に提供するのかを書け、という2点。しかしこの2点については、ちゃんと明示すべき事項がリストとしてはっきり書いてあるのがわかりやすい!この辺が、断定的にものを言わない日本の総務省・経産省との違いかもしれません。

まず(a)どんな情報を収集しているかについて、Section II.Aには、以下の情報を収集している場合には、それをショートフォームに書きましょう、と規定されています。

  • Biometrics (information about your body,including fingerprints,facial recognition, signatures and/or voiceprint.)
  • Browser History(a list of websites visited)
  • Phone or Text Log (a list of the calls or texts made or received.)
  • Contacts (including list of contacts, socialnetworking connections or their phonenumbers, postal, email and text addresses)
  • Financial Info (includes credit, bank and consumer-specific financial information such as transaction data.)
  • Health, Medical or TherapyInfo(including healthclaims and other information used to measure health or wellness.)
  • Location(precise past or current location of where a user has gone.)
  • User Files (files stored on the device that contain your content, such as calendar, photos, text, or video.)

なお、上記のリストに該当するデータであっても、ユーザーがオープンフィールドに自分で能動的に書き込んだような場合や、in-app purchaseである意味受動的に課金情報が収集される場合については、いちいちショートフォームを見せる必要はない、という補足説明がついています。

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そうして集めた情報の中に、(C)の個人を特定する情報(user-specific data)があった場合で、かつ以下のような第三者に渡すのであれば、そのことをショートフォームに明示しましょうと、Section II.Bに規定されています。

  • Ad Networks (Companies that display ads to you through apps.)
  • Carriers (Companies that provide mobile connections.)
  • Consumer Data Resellers (Companies that sell consumer information to other companies for multiple purposes including offering products and services that may interest you.)
  • Data Analytics Providers (Companies that collect and analyze your data.)
  • Government Entities (Any sharing with the government except where required by law or expressly permitted in an emergency.)
  • Operating Systems and Platforms (Software companies that power your device, app stores, and companies that provide common tools and information for apps about app consumers.)
  • Other Apps (Other apps of companies that the consumer may not have a relationship with.)
  • Social Networks (Companies that connect individuals around common interests and facilitate sharing.)

この中で注意したいのは、下から3つ目のOS・プラットフォーム事業者でしょうか。日本でも、アドネットワークやSNSへのシェアについて言及するプライバシーポリシーも出て来ましたが、これはちょっと盲点だったかもしれませんね。

つづくSection II.Cには、例外規定として、ほとんどのアプリで必要不可欠な情報や法律上の要請に基づく情報については上記A/Bに該当しても対象外である旨が規定されています。

その他、III. Short Form Design Elementsでは、ショートフォームの表示上の留意点がいくつか列挙されています。デバイスの特性に応じた表示を認めながらも、フォントサイズを小さくしたり、上記.A/Bを一覧表示しなかったり、アクセスがしにくい場所に置いたりすることのないようにという、常識的ではあるけれども結構細かな注意があります。

予想はハズれましたが…


日本でも今年の5月、経産省のパーソナルデータWGで、崎村先生がこのショートフォームにかなり近いアイデアである「情報共有ラベル」の導入を提唱されていました。さらに最近では、スマートフォンプライバシーイニシアティブにおいて、「(アプリプライバシーポリシーの)概要版を作成・公表していること」が推奨事項として定められていたのは、記憶に新しいところです。私の中では、そういったものはアイデアとしてはいいが、しかし実際に作るとなると、省略した表現とプライバシーポリシー本体との齟齬が生じないかという不安が先立ち、そういう流れにはならないんじゃないかと予想していましたが(そしてブログにもそんなことを書いていましたが)、この予想が全くハズれた形となりました(恥)。

一方で、この文書が、まさに私が不安を感じていた「ショートフォームには書くべきことは何か、逆に書かなくてよいことは何か」を明らかにしてくれましたので、ここは心機一転前向きにそのショートフォームとやらを作ってやろう、という気になっております。事業者を動かすには、事業者がどうしたらいいかわからなくて困っていることを、現実的なラインでさっさと文字にしてくれるのが一番助かりますね。現時点ではまだドラフトではあるものの、これが揉まれて確定版になるころには、私もショートフォームの具体案を完成させたいと思っています。

今まさに国内でも、パーソナルデータ論やSPI 兇じわじわと浸透しつつあるところ。もしかするとその浸透を待たずに、こういった外国のガイドラインがアプリ競争のグローバル化にさらされることによって、日本のアプリ事業者のプライバシーの透明度が否が応にも高まっていく、という展開もありそうです。
 

【本】ブランド管理の法実務 ― 論も実務も


これまたすごい良書。

意匠法・著作権法・不正競争防止法・商法由来の商号権を含めた「ブランド」に関する権利をどう保護するかという広い視野に立ちながら、あくまでもそのブランド保護の中心的役割を担う商標の実務を解説するところにフォーカス。理論は最小限に、一方で調査登録→権利行使→侵害対応までの実務をはあますところなくマニュアルレベルで記述している本。


ブランド管理の法実務ブランド管理の法実務 [単行本]
著者:明石 一秀
出版:三協法規出版
(2013-07-15)



図形商標調査の方法までも解説


「実務」を語るんだったら、IPDLを使った文字・称呼調査の方法について書いてあるのは当たり前。そのレベルであれば、ブログにまとめていらっしゃる方もいますし、ビジネスロー・ジャーナルさんあたりも得意とするところですが、この本はそれにとどまりません。これまで誰も解説してくれなかった・したがらなかった(できなかった?)図形商標調査の方法について、具体的に記述されているのです。

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現実にはIPDLで図形商標調査をするのは限界がある(有料データベースがどうしても必要)とも言われますが、この領域のノウハウを文字にしたものが極めて限られていたただけに、ついにここまできたかと驚いてしまいました。

侵害通知書・和解書のサンプルもある


ブランド侵害が発生すると、商標の調査・登録は弁理士にお願いするにもかかわらず、紛争となると弁護士の領域になるということもあって、このあたりを両睨みしながら侵害対応実務について解説してくれる人があまりいないのですが、それもやってくれています。

一番わかり易いサンプルがこの通知書の例。さらには和解契約書のサンプルもありますし、それで済まずにに紛争がエスカレートした際の仮処分命令申立、訴訟、ドメイン名紛争処理手続までをも一気通貫にカバー。

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・商品・サービスからブランドを産み育てる企業法務
・調査登録実務を担う弁理士
・侵害に対応する弁護士
この3者の狭間にあったエアポケットが、この本によってかなり埋められた感じがします。

なおこのご紹介の冒頭で「理論は最小限」と書きましたが、決して端折っている感はありません。むしろ、幅広い商標理論も突き詰めればこんなにコンパクトに記述できるのかと驚かされるほどで、理論の正確さを大事にしたい読者層も十分満足できる筆致となっています。動き/ホログラム/色彩/位置/トレードドレス/音/香り匂い/触覚/味といった最新の商標の方向性についても触れられています。この分野で現実に審査基準や法令の改正が行われた際には、本書も改訂されることを期待しています

実務家必携の一冊と言えるでしょう。
 

【本】移動者マーケティング ― ビッグデータ・パーソナルデータとSuica乗降履歴販売問題を考えるこの夏の副読本

 
だいぶ前に、スマホ×ITビジネスという業界に入るにあたって、移動者を顧客とした企画が何かできないものかと、タイトル買いして読んでいた本。


移動者マーケティング移動者マーケティング [単行本]
著者:加藤 肇
出版:日経BPコンサルティング
(2012-09-06)


ちょうど今話題のSuica乗降履歴の話題と重なったこともありますので、ご紹介をさせていただきます。


ビッグデータは「個性の深堀り」ではなく「インサイトの輪切り」に使うもの


この本のキモはズバリここ。

ターゲットを絞り込む上で、最も一般的な方法に、年齢、性別、居住地といったデモグラフィックによる分割がある。しかし近年、そのような属性と実際の消費行動との乖離が大きく、手法としての限界が指摘されている。(略)これらのターゲットセグメンテーションに共通するのは、人をどのような視点で区分けするか、という「縦切り」の発想に基づいている点である。一方、移動者マーケティングは、移動のTPOによるセグメンテーション、つまり場面(シーン)で横切りすることに比重が置かれる。


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生活者の価値観が多様化し、各人がそれぞれバラバラなことを考えていても、特定の移動シーンにおけるニーズやインサイトは比較的共通していることが多い。若者も大人も、男性も女性も、その多くは朝の通勤・通学という移動シーンは「だるいなぁ」と思っており、帰宅時は多くが解放感に浸ってくつろぎたいと思っている。そこに取り立てて大きな違いはない。ちなみに、夕方の駅では炭酸飲料と缶ビールがよく売れる。未成年者は炭酸飲料、成人はビールの弾ける泡を楽しみながら「ぷは〜」とひと息ついているのだ。その根柢にあるインサイトには、属性を超えて相通じるものがあるのだろう。

ビッグデータで個人の個性がより精度高くわかり、その個性に応じた広告をピンポイントで出せるようになると喜んでいても、肝心の広告のクリエイティブが最大公約数的な作りになっていたりしないでしょうか?ビッグデータというと、保護法上の個人情報を取得せずとも個人の趣味嗜好がわかるという方向での発想にすぐになってしまいますが、セグメンテーションを細分化したマーケティングには自ずと限界があります。むしろ、効果的・効率的なマーケティングという視点では、人の個性をピンポイントに狙う縦切り=深堀りよりも、似たような境遇に居る人を場所によるインサイトで横切り=輪切りするほうが有効だろうなあと、読んでいて納得させられました。同時に、そのような個人性を追求しないビッグデータ活用であれば、プライバシーの問題もそうそう発生しないだろうとも思いますし。

そうなると、あらゆるユーザーの通勤・通学シーンのユーザー動向を一手に抑えている交通機関が最強ということになります。この本の内容もだんだんその方向に話がフォーカスして、あれなんか色がついているなこの本??と、よく見ると著者のお三方はJR東日本の広告小会社であるジェイアール東日本企画さん所属というオチでした(苦笑)。「移動者マーケティング」という言葉も同社が商標登録しているそうで・・・。

日本の大企業タッグがビッグデータビジネスに乗り出した


そんな中、そのJR東日本が日立と組んでSuica乗降履歴を販売し始めた、という話題が。

Suica利用履歴販売、JR東は「個人情報に当たらない」との見解(ビジネスメディア誠)
今回販売したのは、私鉄を含む首都圏約1800駅で、Suicaを利用して鉄道を乗り降りした履歴データ。JR東日本は、累積で約4300万件のSuicaを発行しているが、Suica定期券、My Suica(記名式)、Suicaカード(無記名)、モバイルSuicaすべての乗降履歴が対象だという。
「SuicaのIDにはひも付いていないから、個人が特定できるようにはなっていない。つまり、個人を特定できないので、(販売しているデータは)個人情報に当たらない」(広報部)
JR東日本では個人情報の取扱いに関する基本方針を定めており(参照リンク)、そこには下記のように記されている(略)。JR東日本としては、個人情報を第三者に販売する場合は事前に利用者や株主に許可を取らなくてはならないが、今回販売したデータは個人情報ではないので、あらかじめ許可を取る必要はなかった、という見解のようだ。

『利用規約の作り方』にも書いたとおり、プライバシーポリシーを作る上での考え方には
  1. "個人情報保護法上の個人情報(個人データ)”のみを対象とするもの
  2. 1のみならず、その外延にある"パーソナルデータ”も対象とするもの
と、大きく2つの流派にわかれているのが日本の現状です。では、JR東日本のプライバシーポリシー(個人情報の取扱いに関する基本方針/個人情報の取扱いの具体的な事項)の文言はどうなっているかというと、

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上記2のスタンスを取っている企業のプライバシーポリシーの多くは、保護法の定義とは違う「利用者情報」を保護する旨を述べたり、第三者提供の同意取得文言において「分析結果や統計的情報などを第三者に提供する可能性」について言及しています。しかし、同社のプライバシーポリシーには、そのような文言は見当たりません。同社広報部の回答主旨に加えてこの点からも、JR東日本および日立は上記1のスタンス、すなわち保護法上の"個人情報”以外はそもそもプライバシーポリシーの対象にしない、だからSuica利用者からの情報取得にあたっても日立への提供にあたっても、同意は必要ないという理屈に立っているようだ、というのがビジネスメディア誠の分析になっています。

Suica乗降履歴は“パーソナルデータ”か否か


このようなJR東日本と日立のスタンスの是非を考えるにあたっての論点は、総務省が「パーソナルデータ研究会報告書」で示していた論点とも重なります。この「報告書」で示されている方向性を踏まえて有識者やネット上の感度の高い方々の間から発信されている意見は、おおよそ以下4つの論点にまとめられるようです。

  1. 保護法にいう“個人情報”ではないとしても、継続的に収集した乗降履歴(≒購買履歴)は、「パーソナルデータ研究会報告書」における“パーソナルデータ”に該当するのではないか?
  2. “慎重な取り扱いを必要とするパーソナルデータ”に該当しないか?該当する場合は、情報のプライバシー度に応じ、明示的な個別同意またはプライバシーポリシーによる包括同意を取る必要があるとされているが、いずれかを取得していたか?
  3. 形式的にはいずれかの同意を取得していたとしても、そもそも公共交通機関で利用がほぼ必須となっているカードにおいて「同意しない」という選択の自由は事実上ないのでは?
  4. 第三者(日立)にどのような形式でデータを渡すのか?データを提供した後、第三者の情報処理の過程で特定される可能性はゼロとは言えないのではないか?

実際、twitterなどでの一般ユーザーの反応を見ていると、「Suica乗降履歴が他社に販売されることについて同意した覚えはない」「利用場面で個人を特定されてしまう/しようとしているのでは」といった不安の声は少なくないようです。

この点、同意取得のJR東日本の見解については上述したとおりですが、利用の態様については、まさに冒頭でご紹介した本で披露されている“横切り=輪切り”のマーケティング目的でこのデータを活用することが謳われており(下記日立のプレスリリース参照)、必ずしも個人を特定する方向でのマーケティングには用いないことが表明されています。

交通系ICカードのビッグデータ利活用による駅エリアマーケティング情報提供サービスを開始(日立製作所)
本サービスでは、主に駅エリアを中心にビジネスを展開する企業に向け、毎月定期的に、駅の利用状況の分析データをさまざまな分類でまとめた「駅利用状況分析リポート」を提供します。本レポートは、駅の利用者の性年代構成をはじめ、利用目的(訪問者/居住者など)や滞在時間、乗降時間帯などを、平日・休日別に見える化するほか、これらの情報と独自の評価指標を用いて特徴を抽出することにより、駅のタイプ(住居/商業/オフィスなど)を割り出すなど、多岐にわたるマーケティング情報を網羅します。
これらの情報により、本サービスを利用する企業は、駅エリアの集客力や集客層、潜在商圏の広さ、通勤圏、駅エリアを最寄り駅とする居住者の規模や構成などを把握し、出店計画や立地評価、広告・宣伝計画などへ活用していくことが想定されます。

個人的には、このような利活用であれば、なぜその分野を研究していたJR東日本企画に子会社での共同利用という構成でこの分析を担当させる(またはそこから業務委託先への個人情報提供という構成で日立に分析を委託する)というソフトな活用の仕方にしなかったのか、なぜあえて第三者提供的に日立に情報を販売するというハードな道を選ばなければならなかったのか、不思議ではあるのですが。


いずれにせよ、この夏の日本の2大企業による“ビッグ(データ)なチャレンジ”の過程で、パーソナルデータの取り扱いにおける論点は、急速に整理されていくことでしょう。CCCのTポイントカード問題に負けず劣らず、情報産業に関わる方であればフォロー必須の話題となりそうです。
 

『スマートフォン プライバシー イニシアティブ 供SPI 供法戮瞭匹澆匹海蹐鬚んたんにまとめてみた

 
ようやく『スマートフォン プライバシー イニシアティブ 供SPI 供』に目を通しました。

総務省がこのたびまとめた「スマートフォン安心安全強化戦略」の中で、スマートフォンにおける利用者情報に関する課題への対応にフォーカスし、昨年8月の『スマートフォン プライバシー イニシアティブ(SPI 機』を踏襲して作成された文書がこの『SPI 供戞0娶公募締切が8/2締め切りで、今は案段階ですが、『SPI 機戮料偉磴鮓ると、ほぼこのまま採用されるかと思います。私と同様、なかなか読む気がしない方も多いかと思いますが、『SPI 機戮及ぼした影響に鑑みると、兇眩瓩瓩貌匹鵑蚤从を検討した方がよいかと。

それでも読むのが面倒だというみなさんのために、以下ポイントをまとめてみます。


改訂版ではなく発展・応用編


『SPI 機戮魏訂したものかと勝手に想像していたんですが、全然そうじゃなかったことに唖然。というか、だからVersion2と言わずに兇世辰燭里と合点。

全体の構成は
  • 1章・2章で、昨年11月の『SPI 機戰螢蝓璽晃紊寮い涼罎糧娠・流れをまとめ、
  • 3章で、新たな発展的提案として、プライバシーポリシーの記載と技術的なアプリ挙動との整合性を第三者によって検証する必要性について述べ、
  • 4章では事業者だけでなく、利用者側のリテラシー向上の必要性についても課題として取り上げ、
  • 5章で諸外国プライバシー制度との比較を行う
ものとなっています。

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1章・2章は参考までに


1章は、『SPI 機戮覗輒馨覆提唱した内容やモデル案が各業界でも踏襲されスタンダードとなりつつあることを、総務省が自画自賛気味に(笑)まとめた章。その後に悪質なスマホアプリの情報収集の実態が例を挙げて説明されています。このあたりはご存知の方も多いと思いますので、軽く読み流していただいてよろしいのではと。

ただし、1点見逃せないのは、『利用規約の作り方』を共著していただいた我らが雨宮先生属するAZX法律事務所が、このSPI基準のプライバシーポリシー普及の立役者としてP10の脚注に取り上げられている点。これは大拍手ものですね!

2章では、プライバシーポリシーの掲示の方法について、事業者ごとに統一感がまだ無いことについて課題視する記述が印象的。日米の実情を比較し、GooglePlayやAppStore等アプリをダウンロードするサイト(『SPI 供戮任蓮屮▲廛螢院璽轡腑鹹鷆.汽ぅ函廚筺GooglePlay紹介ページ」などと表現されている)にプライバシーポリシーを貼っていないことを問題視している点は、ちょっとケアをしておきたいところです。

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実際、あそこにプライバシーポリシーを置いても見る人は少ないので、アプリ立ち上げ時に利用規約とともに確認するようなフローがあればアプリ内だけでもいいのではと思ったりもしますが、ダウンロード前にプライバシーポリシーを確認できた方がいいと言われればまあそうかな、とも思います。

一番の読みどころは3章


肝心なのは3章です。

解決すべき課題として、SPI基準のプライバシーポリシーを制定している企業が少ないことに加え、ユーザーがわかり得ない方法でスマホ内にあるパーソナルデータをかすめとるアプリが存在することを指摘しています。そして、これを無くしていくために、技術的な側面からも検証力をもった第三者機関によって、プライバシーポリシーの記載と技術的なアプリ挙動との整合性をチェックする必要性があると述べます。

さらに注目は、P47にまとめられた「検証の基準」でしょう。

以下△慮‐擇隆霆爐砲いて、「●」の事項はいわば必須項目であり、これらの項目が満たされている場合には、一定の信頼性あるアプリケーションということができる。一方、「・」の事項については推奨項目であり、これらが併せて満たされている場合は更に透明性や信頼性の高いアプリケーションであると考えられる。


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最低ラインは大きな黒丸●、透明性を追求するなら小さな黒丸・の基準をめざせと、2つの基準が提示されたわけです。その上で
  • 取得される利用者情報とサービス内容、目的の関係が示している(←「示されている」の誤字ですね)こと
  • プライバシー性の高い情報(参考)を取得するアプリケーションの場合、個別に同意を取得していること
が最低ラインと明確に位置づけられた
のは、実際まだまだ日本の実情はそうはなっていないだけに、影響が大きい点かと思います。また後者は、個別同意の「個別」とはどのレベルか、常に個別同意がユーザービリティの観点からも本当に現実的なのかといったところが、事業者からもっとも意見が寄せられそうな箇所ですね。

5章は外国法制度の調査の端緒として役立ちます


諸外国のプライバシー保護規制を整理・比較する5章も貴重な存在。1章につづき自画自賛気味なのはさておいて、米国・韓国等のスマホ先進国の取り組みを日本語でまとめてくれているのは、大変ありがたいです。こういう簡単なまとめで概略がつかめさえすれば、詳細はこちらで原典を探して調査できますんで。

たとえば、米国COPPAが今年の7月1日に改定されていて、写真や位置情報(以前から対象とされていた住所ではなく)の収集については保護者への通知・同意が要件として追加されている、というあたりの細かい情報は、お恥ずかしい話英語文献だけではフォローできていませんでした。これ、自分のまわりでもあまり話題になってないんですが、みなさん対応済みなんでしょうか?また、同ページにまとめられたEU個人データ保護指令→規則の流れなんかも、up to dateで助かります。

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以上、ご紹介を省略した4章でも、事業者ばかりでなく利用者のリテラシーのなさにも課題ありという目線もあったりと、よく読むとSPI気茲蠅盪訶世梁人佑機疹霾鵑領漫震度の濃さいずれも盛り沢山な文書となっているSPI 供ここで私が紹介しきれていない要素もあろうかと思いますので、ご自身のビジネスに関係ある人は早めにご一読の上、正式版がリリースされた暁にはフォローアップされることをおすすめします。
 

本当はコモン・ローな国ニッポンの企業法務に求められる“感性”

 
某国SUPREME COURTの正面玄関にて撮影。

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コモン・ローベースの外国法に触れる機会があるたびに思うのは、学者や実務家が法律を解説してくれる書籍が全く無く、あるのは判例の研究書ばかりだということ。条文の解釈ではなく、積み上げられて作られていく慣習によって裁くのがコモン・ローなのですからそれも当然。困ったときには本を探せば大抵条文解釈が文字になっていて、すぐに答えが分かった気になれてしまう日本とは大違いです。

そうしてコモン・ローとはなんぞや(私にはそれを語る資格も学もありませんが)みたいなことをきっかけに最近思ったのは、ここ成文法の国ニッポンの企業法務もコモン・ロー的感覚をもっと意識したほうがいいのではということ。すなわち、法律の条文や解釈だけでなく、人間社会やビジネスの世界で起きている現実や色々な人の物の見方を多く知った上で、自社がやろうとしている行動・事業が世の中に出たときにどのように捉えられるのか・裁かれるのかを正確に掴む“感性”がこれまで以上に求められていくんだろうなあ、ということです。

「個人情報保護法がザルな条文だから、“パーソナルデータ”は自由に使っていいという事業者がでてくるんだ。是非を判断するプライバシーコミッショナーを置け!」
「著作権法が硬直的な法律だから、イノベーションが生まれないんだ。フェアユースを認めろ!」

法律に書いてないのが悪いだの法律に書いてあるから息苦しいだのと、こういう議論を見かけるたびに、日本法も成文法主義を辞めちゃったほうがいいよねと半分本気で思うのですが(笑)、しかし、

企業行動が「世の中にとって悪いこと」と捉えられる

まずネットで炎上する

数ヶ月してマスメディアが取り上げる

1年後ぐらいに行政が指導・規制に乗り出す

(事案によっては)数年後法律・条例が制定・改正される

というパターンが繰り返されているここ最近の状況は、今ある法律の条文にそれが書いてあるかとは関係なく、ある意味社会システム全体が判例法主義の国の裁判所のように条文にないことすらも裁いていくという意味で、結果としてはコモン・ローを採用しているようなものかもしれません。そういえば2009年から開始(復活)した陪審員制度だって、コモン・ロー由来のものですしね。

とすると、企業法務が磨くべき"感性”は、具体的に言えば、まずは上記フローのスタートに位置するネットでの炎上可能性を冷静に見極められる目とほぼイコールといっても過言ではないのではと。ネットで炎上したからってなんぼのもん、そんなのにビビってどうする、ほうっておけという考え方もあるとは思いますが、その後に控えるマスメディア・行政・法改正というアンコントローラブルなものを相手にする大変さと比較すれば、タバコの火の不始末の防止・それが発生してしまったときの初期消火にあたるここにフォーカスするのが、現実的かつ重要なのではないかと考える次第です。
 

株主総会のトレンド

 
企業法務パーソンが多忙を極める株主総会ハイシーズンが、今年も終わりを告げようとしています。

株主総会ピーク、1100社 ANA・大王製紙など開催 (日本経済新聞)
3月期決算企業の株主総会が27日ピークを迎えた。日本経済新聞社の集計では上場企業全体の43%にあたる約1100社が開催。株高局面で増えた個人株主らは企業の成長戦略やコーポレートガバナンス(企業統治)への関心を強めており、今年は出席者が最多となる総会も目立つ。

総会シーズンってだけでそわそわして仕事に集中しにくいのに、4月の組織変更後の新組織が安定稼動し始めて案件が動き出す時期でもあって、通常の案件も増えたりするんですよね。心なしか、各法務ブログやSNSのほうでも企業法務系の方の投稿が減っていたかなと感じましたが、きっと気のせいではないでしょう。

私も、最近のトレンドの勉強のために、久しぶりにいくつかの会社さんの総会をウォッチさせていただきましたが、そこで共通して感じたことを3つほど。

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1 社長の喋る量は増える一方


2000年以降「開かれた総会」が合言葉のように唱えられましたが、実際はあえて社長があえて質疑応答の場面で回答せずに、議長として司会進行に徹する昔ながらの会社さんもまだまだ多かったと思います。しかし最近は、若く頭のやわらかい方が社長を務める新興企業が増えたこともあってか、社長が積極的に発言をするのが本格的トレンドになっているよう。他の取締役が管掌する事業であっても、その取締役の回答の後に社長としての意見を添えるスタイルが目につきました。
プレゼンの上手さ、誠実なキャラクター、頭のキレ・・・ウリにする部分は社長それぞれなれど、社長が積極的に喋る総会ほど、株主にとって満足度の高い総会となることはどうやら間違いがなさそう。株主は社長の器に投資しているところもあるわけで、直接社長と対話できる1年に1回の場なんだから社長の頭のなかを少しでも多く覗きたい、ということなのでしょう。

2 個人株主の質問レベルが上がっている


冒頭の日経記事にあるように総会に参加する個人株主が増えているだけでなく、その質疑応答のレベルも数年前とは比べ物にならないほど上がってますね。自分が想定問答集を作成しひな壇事務局を担当していた頃とは、隔世の感がありました。「事業報告書◯◯ページのこの数字ですが・・・」など、具体的な記載の確からしさについて質問される株主が増えてますし、配当性向などについても「17%だったのが15%程度にこの2年下がっている」「◯◯社や××社は20%であり、比較しても低い」など、具体的な数値を示しながら質問する方も。いや本来総会とはそうあるべきなのですが、ぶっちゃけ事業報告書や参考書類の作成担当者しか把握してない細かいデータもあるわけで、時間を置いて事務局に調べさせて回答をしている場面もちらほら見かけました。ネット証券によって個人株主が一気に増えてから数年経って、個人の方も勉強されかつ経験を積まれてるんだなと。
上場会社においては四半期決算プレゼンとの整合性も当たり前のように見られて突っ込まれます。「本日の報告事項・決議事項とは関係がない」と言いたいところですが、内容的にはそう一刀両断しにくく、対処に苦難されている場面もありました。
あと余談ですが、かならずいらっしゃるただただ株価に不満を唱える個人株主に対し、経営陣が「今の当社の株価水準は大変不満である」「正しい評価がされていない」とはっきり回答する場面に何回か出くわしてびっくりしました。「株価は市場の需給によって形成されるものであり、弊社が論評すべきものでは云々かんぬん・・・」が常套句だと思っていた私が古い人間のようで、時代は変わるものです。

3 お土産渡すのっていつの間にか当たり前になってるの?


個人的には総会にはお土産なんていらない派なんですが、頼んでもないのに(しかも事業とは直接関係のないお菓子などを)配る総会が急に増えた気がします。あれって、一度配り出すとやめにくいですし、なんで会議にお土産が必要なのか本当に意味がわからないのですけれど。これがトレンドになると、運営する側としてはいやだなーと思います。毎年違うものを選ぶの大変ですし、準備項目も増えますしね。


ということで、総会を担当された法務のみなさま、お疲れ様でした。
 

【本】企業買収の実務プロセス ― M&Aの司会進行役は誰だ

 
一昨日、デューデリジェンスに関する本を紹介したところ、思いのほかリアクションがあり、「DDだけじゃなく、M&A全体を見渡せるいい本はどれ?」という質問をいただきました。

私からはこの本がおすすめ。

企業買収の実務プロセス企業買収の実務プロセス [単行本]
著者:木俣 貴光
出版:中央経済社
(2010-01)


M&Aの流れを時系列でまとめている概説書が何冊かある中でも、戦略・財務・法務・現場の目線がもっともバランスよく配分されているのが特徴。その特徴が顕著に現れているのが以下写真2ページ。誰が何をどこまで担当するか(すべきか)という役割分担を、社内部門/社外専門家にページを分けて分り易く表形式で整理してくれています。関わった経験が少ない人だと、はじめからおわりまで全部外部弁護士がリードしてくれるんでしょ?と勘違いしちゃったりしがちなところなので、これはわきまえておきたいところです。といいながらも現実は、この写真1枚目の社内の役割分担表にある「M&A担当部門」の役割=司会進行役は、そんな部門がある会社自体がかなり限られているという現実において、法務担当者が期待されたり背負わされたりするのが常。全部を一人で担う能力・経験がなくとも、社内の各部門や社外専門家に協力を仰いで案件をリードしていくために必要な常識・最低限の知識は抑えられていて、こういう本があると助けられます。

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ちなみに、この表の見出し(網掛け)部分が、そのままこの本の章立てに対応しています。網羅性の高さもおわかりいただけるかと。


概説書らしく、「フローチャート」「DDチェックリスト」の類も充実しています。それだけにとどまらず、法務面では、プレM&AフェーズにおけるNDAサンプル/実行フェーズにおける基本合意書・株式譲渡契約書サンプルもついています。著者は純粋法務ではなくFAサイドの方ということもあり、この辺りは期待できないものと思いきや、契約書サンプル中の5ページに渡る表明・保証条項などは、ヘタな法務パーソン向けのMA概説書についているものよりも緻密だったり。シンプルな株式譲渡案件であれば、このサンプルを参考にするだけでも十分かもしれません。

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強いてこの本の弱点を挙げるとすれば、買収スキームの選択について、スキームごとの法的なメリデメ整理・分析が足りないところでしょうか。その辺りに強い本は、また機会を改めて紹介させていただこうと思います。
 

【本】M&Aを成功に導く法務デューデリジェンスの実務 ― DDの基本と応用

 
デューデリがあまり問題とならないグループ会社の再編案件を除くと、一企業に所属する法務パーソンがピュアなM&A案件に携われる機会はそうそう多くないでしょう。しかも、億単位のお金が動くことにより自動的に取締役会案件になり、となるとデュープロセス的には経験豊富なきちんとした法律事務所を選び、高いフィーを払ってお任せてしまう・・・ということになりがち。結果、様々な企業の案件が4大と呼ばれるような大手事務所やM&Aを専門に手がける中堅事務所にのみ集中し、ノウハウも彼らだけに溜まるという循環ができるわけです。いつ案件が立ち上がるかわからないだけに、法務部員が気づいたら蚊帳の外ということにならないよう、こういうおいしい前向き案件でどんな貢献ができるか、日頃から考えて備えておきたいところです。

そんな中、法務パーソンにとって貴重な情報源となっているのが、4大の一つである長島・大野・常松法律事務所の持つDD(デューデリジェンス)の体系とノウハウを1冊にまとめて公開してくれているこちらの本。


M&Aを成功に導く法務デューデリジェンスの実務M&Aを成功に導く法務デューデリジェンスの実務 [単行本]
出版:中央経済社
(2009-01)


前半1/3でDDの目的・概要・流れを抑えた上で、後半の2/3で株式・知財・契約・訴訟・許認可といった個別の切り口ごとにDDにおけるポイントをまとめるという構成。中央経済社さんのこのシリーズに共通することですが、構成が体系的であるという点はこの手の専門書には重要なことだと思います。M&Aアドバイザーがその経験をもとにDDについて語る本は沢山あっても、「よく問題になるポイント」だけが取り上げられているケースが多いのが難点。それはそれでためになりますが、法務のように小さな見落とし・隠れた瑕疵が後に大きなリスクをはらむ可能性がある分野については、本書のようにまずは「取りこぼしが無い」という安心感のほうが重要です。

かと言って網羅性だけでなく、NOTの専門性の高さも十分に織り込まれています。個別の切り口ごとにDDの視点をレクチャーする後半において、検討すべきポイントを「基本」パートと「応用」パートに節を分けて書いている点は、
・「基本」パートだけをまず通読して概要を理解したいというニーズ
・分野によっては「応用」パートでさらに専門的な示唆を得たいというニーズ
の両方を満たすソリューションとなっており、見事の一言。契約DDの章を例を挙げれば、「基本」パートには各契約類型に共通する一般的なチェックリストとChange of Control条項への対処について、「応用」パートには代理店契約・請負契約・コンサルティング契約の3つを例に個別の契約類型ごとのチェックリストが掲載されている、といった具合。

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ところどころに挿入されるコラムも実戦的です。DDにおける情報開示においては個人情報保護法をまじめに解釈するとどうにも無理が生じる(プライバシーポリシーにおいてM&AのDDにおける個人情報開示可能性を明示→オプトアウトをしている事例はほとんどない)といったお話、知財についてそもそも特許権や商標権をチェックしたところで、無効審判請求件数の半数近くにおいて無効が成立している(特許で142/284、商標で83/193)以上、知財DDって限界があるよね、などといった赤裸々なつぶやきもあります。

使用頻度の低さに対する値段の高さと分厚さのせいで、「会社で買ってもらう本」にされがちな本書ですが、M&A案件に触れる機会が1年に1回あるかないかな人でも、バイヤーの目線を知ることで日頃の自社の法務リスクマネジメントのあり方を客観視することもできますし、自分で買って通読する価値が十分にある本だと思います。出版社でも品切れのようなので、そろそろ重刷、もしかしたら第三版がでるのでしょうか?
 

「パーソナルデータ研究会報告書」に出てくるパーソナルデータの区分と取り扱いルールを表に整理してみた

 
5月下旬にもちょっとだけ紹介した総務省のパーソナルデータ研究会の報告書が、パブコメを経て確定版として昨日リリースされました。



一言で言えば、語られている内容には目新しさはあまりないながらも、これまでの国内でのパーソナルデータに関する議論が過不足なくまとめ上げられた上で総務省のお墨付きがついた形となり、(国際的な目線に耐えうるのかはやや懸念を抱くものの、)昨年リリースされたスマートフォンプライバシーイニシアティブとあわせて、この文書が日本のネットビジネスにおける個人情報・パーソナルデータの考え方のスタンダードとなるだろうと思います。

その一番の見どころである3章の3に示された「パーソナルデータの利活用のルールの内容の在り方」が、文書が長くて読みにくかったのと後で参照するのに一覧性がないのがイマイチだったので、一枚の表にまとめてみました。本来は、この文書で示されている「実質的個人識別性」という考え方を理解した上で、あくまでその例示として見て頂く必要があるのですが、厳密さは文書で確認していただくとして、こちらのブログでは分かりやすさ優先で整理させていただきます。

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.

類型具体例取り扱い
レベル
取得経緯
OK
取得経緯
NG

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一般
パーソナルデータ
・氏名
・本人が明確な意図で一般公開した情報
・名刺記載情報
黙示同意で可明示個別同意が必要

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慎重
パーソナルデータ
・移動体端末に蓄積される以下のようなパーソナルデータ
-電話帳情報
-位置情報
-通信履歴
-アプリ利用履歴、写真、動画
-契約者・端末固有ID
・継続収集した購買・貸出履歴、視聴履歴、位置情報等
プライバシー低明示包括同意で可

.

プライバシー高明示個別同意が必要

.

センシティブデータ・思想、信条、宗教
・人種、民族、門地、身体・精神障害、犯罪歴、病歴、その他社会的差別の原因となる恐れのある情報
・勤労者団体行動情報
・政治的権利行使情報
・健康性生活情報


この整理でまず総務省の思い切りが感じられるのは、事業者が比較的自由に取得できる「一般パーソナルデータ」の範囲を、かなり広めに捉えようとしているところですね。氏名は当然としても、ブログやtwitterなどに本人が公開した情報や名刺から手に入る情報などは、取得の経緯(コンテキスト)が認めれれば明示的個別同意なくとも収集できる情報として整理されました。個人情報保護法の生んだ弊害を、このような解釈で解消しようとしていることがわかります。この解釈ですと、Linkedinに掲載された情報を人材紹介会社が収集して転職支援サービスに用いるのは、何ら問題ないということになりますね。もちろん、嫌がられたら停止=オプトアウトは必要だとも言及してありますが。

一方で「慎重な取扱いが求められるパーソナルデータ」の区分は、未だ玉虫色です。情報の中身によってプライバシー性を帯びたり帯びなかったりすることから、包括同意でいいのか個別同意をとらなければならないのかの取り扱いルールが変わる点は、明言を避けています。また、この表にでてこないビジネス上重要な情報として“金融・財産情報“があるのですが、こちらにいたっては「慎重な取扱いが求められるパーソナルデータ」なのか「センシティブデータ」のどちらに区分されるのかすらも明言を避けています。個人的には「慎重なー」の方に分類してよかったんじゃないかな、と思いますけれども。


日本の総務省として、アメリカ型の採用、すなわち、ビジネスのイノベーションをなるべく阻害しない方向でパーソナルデータの利活用を進めていく決意が示された文書となっており、経済界の賛同は得られるものだと思います。しかし、私個人的には、これはあくまでも日本の今に照らした考え方であって、それがそのまま国際的に通じるものかどうかは懐疑的です。今後プライバシーの風向きは急速にEU型に傾いていくのでは、と思うところが実はあり、まだまだ余談は許さないものと思っています。この辺はまた研究が進んだら書いてみたいと思います。


余談:

5月下旬に募集されたパブリックコメントの内容もあわせてリリースされているのですが、どう考えても高木浩光先生らしき方(笑)が、本文書中のクッキー情報の表現についてのツッコミを入れられていて面白かったです。しかし実際、私が長年抱いていた「クッキーの正しい説明の仕方」についての疑問が解消するものでもあったので、こちらに転載させていただきます。

「クッキー」(cookie)説明が、「ウェブサイトの提供者が、ウェブブラウザを通じて訪問者の PC 等に一時的にデータを書き込んで保存させる仕組みで、利用者に関する情報や最後にサイトを訪れた日時、そのサイトの訪問回数などを記録しておくことができることから、認証など利用者の識別に使われる。」(p.44)と書かれているが、このうち、「保存させる仕組みで、」までの文は正しいが、それ以降の文は不適切である。
確かに、cookie に「訪問回数など」を書き込んで保存させることは可能ではあるが、現実の使われ方はそれとは異なる。現実の使われ方は、ウェブサイトの提供者が乱数を用いて識別番号(番号以外の文字列を含む)を生成し、この番号を訪問者の PC 等に cookie として書き込んで保存させることによって、利用者や端末の識別を行うというのが典型である。利用者や端末の識別が行われる結果として、ウェブサイト側で「訪問回数」を数えることが可能となるのであり、同様に、「利用者に関する情報」を把握することがウェブサイト側で可能になるのである。cookie に「訪問回数」や「利用者に関する情報」を書き込んで保存させることが通常行われているわけではない。
このような誤った cookie の用語説明は、本件報告書案のみならず、今日の日本において広く出回っており、事業者等のプライバシーポリシーの中にも散見される典型的なフレーズとなっている。この誤った説明が、プライバシーポリシーの不適切な書き方を助長していると考えられるため、この誤りは看過できないものである。
具体的には、事業者等のプライバシーポリシーにおいて、cookie の扱いについて記述されることが多いが、その中で、「cookie にお客様の個人情報を記録することはありません」といった類いの記述が散見される。そういった事業者が、実際には、cookie に識別番号を書き込んで利用者や端末を識別することによって、「お客様」のパーソナルデータをサーバ側で記録し把握していることが多い。
そもそも、プライバシーポリシーにおいて cookie に関する説明が求められるのは、cookieを用いてウェブサイト訪問者の識別をどのように行っているか(又は行っていないか)を表明する必要があるからであり、そのような場面において「cookie に個人情報を記録することはありません」と説明するのは、cookie の仕組みを誤解しているのが原因とはいえ、欺瞞的な行為である。
本件報告書案は、まさに、cookie による利用者や端末の識別を介して蓄積されるパーソナルデータの取扱いを話題の一つとしているのであるから、むしろこのような誤解を解消すべく、適切な用語解説が求められるところである。
また、解説文に「認証など利用者の識別に使われる」との記述があるが、「認証など」との説明は不適切である。「認証」は「識別」の例示には当たらない。利用者の「認証」(パスワードを用いた利用者認証等の)の結果を「利用者の識別」に継続させて利用することはあるが、利用者認証を経ないで、初めから乱数による識別番号を与えて利用者や端末を識別する使い方も一般的である。すなわち、「認証」は「識別」と共に用いられることはあるものの、「識別」において「認証」を必ずしも必要としないのであり、両者は独立したものである。そして、cookie は「識別」に用いられるものであるが、「認証」のために用いられるわけではない。
したがって、「認証など利用者の識別に使われる」という説明文は不適切である。
以上の理由から、以下の改善案を提案する。
「ウェブサイトの提供者が、ウェブブラウザを通じて訪問者の PC 等に一時的にデータを書き込んで保存させる仕組みで、典型的には、識別番号を書き込むことで利用者や端末を識別するのに用いられることが多い。クッキーで利用者や端末を識別することによって、ウェブサイトの提供者は、利用者に関する情報をサーバ側で記録して把握できるようになる。」
【独立行政法人産業総合技術研究所セキュアシステム研究部門セキュアサービス研究グループ】

 
2013.9.12 追記
表中、慎重パーソナルデータの具体例に「移動体端末に蓄積される以下のようなパーソナルデータ」を追記しました。
 

『利用規約の作り方』ご購入者向けひな形DLページを開設

 
発売からはや2ヶ月経ちました拙共著『良いウェブサービスを支える「利用規約」の作り方』、専門書にもかかわらずおかげさまでみなさまにご購入・ご好評をいただいており、版元在庫も切れ、もう少しで重版か?というところまできております。ありがとうございます。


良いウェブサービスを支える「利用規約」の作り方良いウェブサービスを支える「利用規約」の作り方 [単行本(ソフトカバー)]
著者:雨宮 美季, 片岡 玄一, 橋詰 卓司
出版:技術評論社
(2013-03-19)


発売からしばらくヒヤヒヤしていたのですが、Amazonの好意的な書評だけでなく、ご購入いただいたみなさまからブログ等で、

インターネットサービスを始めようとする人は必ず読むべきな本
ありそうでなかった「利用規約の教科書」。文章が平易で,気を付けるべき論点が幅広く示されている。
図表やコラムは、実用性が高いオリジナル資料が数多く用いられており、説明も平易です。事例は、単にこれまでネットを賑わせたからというだけでなく、今後も引き続きトラブルになりそうなものが選ばれています。そんなふうに、細部にわたって丁寧に作られているので、利用規約を作る過程で、現在のサービスが抱える問題が何であるかがすっと頭に入ってくるのです。
「何故」利用規約ないしプライバシーポリシーが必要なのかという部分から説明があるので、納得した上で、先に進むことができた
もっと早く読んどけばよかった

と言っていただけており、とてもうれしく思います。

一方で、本書に対して唯一といっていいくらいにいただいている不満、それが

惜しむべきは…利用規約、プライバシーポリシー、特定商取引法に基づく表示のひな形をデータとしてダウンロードできない

という点でした。まあ、利用規約はコピペして出来た気になってると危ないよ!と語る本書ですから、コンセプトどおりといえばそうなのですが、とはいえ、忙しいみなさんが本書を参考に利用規約を本気で作ろうという時に、ゼロから一文字一文字打って頂くのは確かに非効率です。そこで、今ごろかよ?と怒られるかもしれませんが、本書のメインコンテンツの一つである「利用規約3点セットのひな形」を、ワード形式(.doc)でダウンロードできるよう、出版社の技術評論社さまに専用ページを開設していただきました!



書籍版・PDF版、どちらのご購入者さまにもご利用いただけるよう、最新のダウンロード管理セキュリティシステム(!)を備えておりますので(冗談ですが笑、一応仕掛けがございます)、どうぞダウンロードしていただき、ご活用いただければと思います。よろしくお願いいたします。


2013.6.7追記
おかげさまで、増刷が決定しましたー!
お買い上げくださったみなさまに、重ねて御礼申し上げます。
 
 

【本】新 商標教室 ― あの名著の「基礎編」が「上級編」にレベルアップしました

 
弁護士会館ブックセンター出版部 LABOの渡邊さまより、以前このブログでもご紹介した商標実務の名著『商標教室』が出版社もあらたに新版となってリリースされるとのご連絡を頂戴し、ご好意によりご恵贈いただきました。ありがとうございます。

 
新 商標教室新 商標教室 [単行本]
著者:小谷 武
出版:LABO
(2013-05)


頂いて、読んでみてびっくり。事前のご連絡では『商標教室 基礎編』のアップデートと聞いていたのに、別モノの本になってました。そのわかりやすい証拠がこのページ数の圧倒的な差。旧版が(商標法の条文抜粋部を除き実質)150ページなのに対して、新版は450ページと3倍になっています。

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では旧版と新版では何が変わり、その増えた300ページに何が書かれているのでしょうか?この点、旧版のよいところである、法律の建て付けに左右されない章立てと、セミナー講義を聞いているかのような読みやすい筆致はそのまま残っています。しかし、あきらかに変わったのは“レベル”です。説明をあえて基礎レベルにとどめていた前作とはうってかわって、著者小谷先生の頭の中の“ノウハウ”が遠慮無くつめこまれただけでなく、先生が長年の商標実務の中で鬱積させてきた特許庁の「机上の審査」のクセに対する“ツッコミ“がすべてぶちまけられているかのような本になっているのです。


“ノウハウ”とは例えばどんなものか。たくさんありすぎてどこをご紹介すべきか迷いますが、旧版に無かった中で「おおー」と唸ったのがこれ。

筆者は30年以上にわたって特許庁の審決例を集めてきました。その結果、商標の類否が問題になるケースに、以下のようなパターンがあることに気がつきました。
これらの大半は、商標中の核となる語に、形容詞的に他の語が結合していて、その後が商品や役務の内容を記述しているような場合ということができます。
(中略)
【類似のパターン】
(1)愛称
(2)1音有無の相違
(3)IT用語
(4)大きさ
(5)外国語
(6)普通名称を含む商標の称呼
(7)語順の相違
(8)色彩
(9)商号的商標
(10)称呼同一で非類似の商標
(11)書体の相違・二段書きの商標
(12)数字
(13)人名や性別・子供を表す商標
(14)地名を含む商標
(15)定冠詞
(16)長い称呼
(17)2音相違
(18)派生語
(19)連音
(20)ローマ字1文字・2文字・3文字
(21)ハイフン・スラッシュ・中黒・コロン記号
(22)その他のキーワード
(23)図形商標

日頃商標の類似判断に悩まれている方であれば、このパターンリストを見ただけでうんうんそうそういつもこの辺りで迷うんですよね〜と共感されるんじゃないでしょうか。この後これら一つ一つの項目について40ページに渡って、以下のように表形式で実際の審判事例(これは「(6)普通名称を含む商標の称呼」の審判事例ですね)をリストアップしながら、類否の見極め方の解説が加えられています。この部分だけでも、3万円のセミナーを受講するぐらいの価値はあるでしょう。ちなみに、このあたりの参考データは、先生が所属されている不二マークス・ジャパンのウェブサイト 審決データファイル のコーナーにもまとめられていて便利です。


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“ノウハウ”の公開はこれにとどまりません。審査基準の理解に必要となる、しかしながら普通の商標法本ではほとんど正面から解説されることのない「類似群コード」「他類間類似」「備考類似」についても、旧版にはなかった説明が加えられています。例えば、スマートフォンという商品の商標審査基準上のクラスは「第9類 電気通信機械器具」になるところまではわかると思いますが、類似商品コードとして「11B01」も割り当てられています。この番号は何か・なぜクラスと違う数字になるのか・どのように審査に使われるのか、という話です。

現在付けられている類似群コードの基礎は、1992年(平成4年)3月31日まで使用されていた旧日本商品分類にあります。
類似群コードの基礎となる旧日本分類の中心は用途販売店主義、つまり商品の用途や販売店が共通するものが類似商品として判断されています。これに対して1992年(平成4年)4月からの国際分類は、主に原材料主義や機能又は用途主義、つまり商品の原材料が皮革製品か、金属製品か、布製品かのような基準や、商品の機能や用途の共通性で分類されているため、旧分類では同じ商品であっても、国際分類に置き換えた場合、異なるクラスに分類される商品がたくさん出ることになりました。ただし、クラスは違っていても類似群コードは現在も変わりませんので、いずれも類似商品と扱われることになります。このように、異なるクラスの商品が類似商品と判断されることを「他類間類似」といいます。


・・・と、この辺でストップがかかっていれば中級編へのパワーアップで良かったね!で済んだのですが、この本を上級編にまでレベルアップ「させてしまった」のは、先生のあまりの経験の豊富さによって、特許庁の審査基準の揺れや甘さが暴かれてしまっている点にあります。それが増ページ要素のもう1つである“ツッコミ”のパートです。たとえば、識別性の論点について、コンデナスト社の雑誌『GQ』とソウル・ミュージックを聴かせる飲食店「CAFE GQ GINZA」の裁判を取り上げて、こう述べます。

商標審査基準ではローマ字2文字は識別性がなく登録できないので、識別性を欠く商標を使用することは問題ないように説明してきましたが、そうも言ってられない判決が出ています。GQ事件(東京高裁平14.4.24、平13(ラ)1814、判例時報1807号137頁)です。
東京高裁は、<<GQ」の文字に書体上の特徴は認められるが、需要者がみた場合、基本的に「G」と「Q」を表すと理解するにとどまり、このような認識を上回るほどの外観上の特徴を見出すことはできない。そこで、両商標を比較すると、両者は「ジーキュー」の称呼が同一で、観念、外観において、両社の類似性を否定する要素も見出だせないので、両商標は全体として類似する。>>と判断しました。
東京高裁の決定理由を正確に理解することは困難ですが、やはり「GQ」の文字自体に権利があるといっているように理解する以外にありません。特許庁のプラクティスでは、共通するローマ字2文字の商標で、外観デザインの異なる商標が多数並存登録されていますので、銀座GQ店商標を出願した場合、C社商標と並存登録される可能性が十分にあることになります。

新版ではこのように、特許庁の審査基準では説明し得ない審決例・裁判例を紹介しながら、現実の商標審査の通過可能性を読む難しさや問題点を語るパートが、旧版に比べて圧倒的に増えているのです。


以上の結果、「基礎編」だった旧版の中身もすべて入っているにもかかわらず、「上級編」にまで一気にパワーアップしてしまった感のあるこの『新商標教室』。旧版を読んだ方にとっては、この新版で知識を深められるのは朗報であり知的好奇心をくすぐられるものに違いありません。その一方で、読んでないand/or初級者の方は、いきなりこの本を読むと基礎部分と上級部分が切り分けられず混乱する可能性もあります(かくいう私も、実は混乱してますのでまだまだ初級者なのかもしれません…)。用法・用量に気をつけて、読んでみてください。
 

おすすめ企業法務系ブログ15+α選

 
海外の法務ニュースサイトにて、ブログランキング記事を立て続けに目にしました。なぜ今なのかは全くわかりません。

Top 10 in Law Blogs: Elizabeth Warren, UK Social Media Law, Alternative Workweeks
Top 30 Law Blogs of 2013

ということで、私も久しぶりにブログのご紹介をしてみようかと思います。法務系の国内ブログは、私が捕捉している範囲で120程度ありますが、今日現在も着実に更新され私が楽しみに拝読している企業法務系ブログをコメントを添えてご案内してみました。あの有名ブログが抜けてるよ?と思われる方もいらっしゃると思いますが、私の趣味であえて紹介しないブログもありますから、その辺はご容赦くださいませ。
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本格派の企業法務系ブログ15選


1.Footprints
http://d.hatena.ne.jp/redips/
今企業法務ブログ界でNo.1ブロガーの称号は伊藤先生にこそ与えられるべきでしょう。8年という長さもそうですが、例えば去年のファーストサーバ社事件など、断定的なコメントをするのが難しい話題も取り上げて正面から意見を述べていただけるのは、本当にありがたいです。

2.IT判例メモ
http://d.hatena.ne.jp/redips+law/
伊藤先生ブログの別館。IT系の判例を、実務家ならではの端的な短評を加えて紹介してくださるブログ。しかもカテゴリごとのソーティングもあり探しやすくて助かります。ところで心配なのはこれだけの貴重な資料がはてなダイアリーだってところですかね。はてなが傾く前に(ry

3.弁護士植村幸也公式ブログ: みんなの独禁法。
http://kyu-go-go.cocolog-nifty.com/blog/
その名のとおり独禁法領域専門ブログ。更新頻度こそ高くありませんが、アップされるひとつひとつのエントリが「そこいままさに悩んでるんだけど、どの本も触れてくれてなかったです・・・」なポイントをついて解説してくださいます。特に昨年からの景表法まわりの解説は、実務でも大変助けられています。

4.企業法務戦士の雑感
http://d.hatena.ne.jp/FJneo1994/
法律論を起点としながら世の中を舌鋒鋭く斬るジャーナリズムを備えているブログ。私の拙いブログ記事にも何度かツッコミが(汗)。著作権を中心に知財ネタを主に取り上げていらっしゃいます。

5.司法書士内藤卓のLEAGALBLOG
http://blog.goo.ne.jp/tks-naito
すばらしい感度と速度で実務に影響を与える会社法関連ニュースをピックアップし一言解説を加えてくださるブログ。ニュースソースがtwitterやネットだけじゃない感があり、どのように法律情報を集めていらっしゃるのか、とても興味があります。

6.弁護士川井信之のビジネス・ロー・ノート
http://blog.livedoor.jp/kawailawjapan/
機関法務と民法改正の話題が中心。言葉を選んでいらっしゃるようで批判的精神も垣間見えるそのブラックな面影が好きです。

7.栗ブログ
http://www.techvisor.jp/blog/
Appleのパテント紛争などの海外ニュースを中心に、特にtwitterで話題になっているテック系ニュースをいち早く取り上げて分析してくださいます。

8.アニメキャラが行列を作る法律相談所withアホヲタ元法学部生の日常
http://d.hatena.ne.jp/ronnor/
法律書評系ブログ、でありながら単なる紹介にとどまらず、関連する実務上のポイントを具体例を示しながら詳しく解説してくださるのが特徴です。

9.知財渉外にて
http://ipg4000.blog45.fc2.com/
特許法を中心とした知財ブログ。私が著作権・ライセンス以外の知財実務に疎いこともあって、ご紹介頂くネタ・本すべてが新鮮に映ります。

10.名古屋の商標亭
http://blog.goo.ne.jp/aigipattm
上の知財渉外にてさんでご紹介されていて知ったその名の通りの商標特化型ブログ。超実務的で、一つ一つのエントリがオリジナリティにあふれ読み応えがあります。

11.matimulog
http://matimura.cocolog-nifty.com/
情報ネットワーク法学会を中心にご活躍される町村先生のブログ。ネットワーク法はもちろんのこと、憲法・刑法系の時事ネタにも反応されるので、更新頻度が高いです。

12.::::弁護士 川村哲二::::〈覚え書き〉::::
http://stuvwxyz.cocolog-nifty.com/blog/
消費者法関連のニュースを中心にすばやく解説、紹介してくださるブログ。最近はFacebookページの方を中心に更新されているご様子。

13.日々、リーガルプラクティス
http://ameblo.jp/legal-practice-in-house/
BAR合格を目指す日本企業の法務パーソンから見た英文契約実務に関する疑問の目線とその分析が、とても参考になります。

14.企業法務について
http://blog.livedoor.jp/kigyouhoumu/
去年は毎月一本、死にそうになりながらプレゼンをアップしてました。今年前半は『利用規約の作り方』の発売にあわせて利用規約ネタを頑張って投下していましたが、最近はあまり頑張ってないみたいです(笑)。

15.dtk's blog (ver.3)
http://dtk.doorblog.jp/
外資系企業での法務の日常をメモされているブログ。毎日更新されているのは、読んでいる側として驚くばかり。


・・・紹介しているとだんだんきりがなくなってきたのでこのへんで打ち止めにしようと思いますが、共通しているのは、みなさん(途中でブログサービスを乗り換えられたりしているものの)長いこと続けていらっしゃるって点ですね。すごい。
と、ベテランぞろいになってしまうのもなんだか面白みがないよ、とおっしゃる方もいらっしゃるかと存じますので、今年に入ってブログを開始してくださった方々の中で、私が注目しているみなさまも、応援方々ご紹介させてください。

付録 期待の新興ブログ


・AZX Super Highway(AZXブログ)
http://www.azx.co.jp/blog/
契約書ひな形をウェブサイト上で全公開するなど、日頃からサービス精神旺盛なAZXさんのブログ。きっと宣伝色の透けて見えるよくあるダサい法律事務所ブログとは違うユニークなブログに育ってくれるはずです。

・kengolaw
http://kengolaw.tumblr.com/
IT法領域からArtの領域にフォーカスしていると思われるブログ、独特な視点と語り口。よろしくお願いします( ´ ▽`)ノ

・lawyerfuru's blog
http://lawyerfuru.hatenablog.com/
lawyerfuru弁護士のブログ。ご本人からは「あくまで自分の備忘録ですから」とのコメントをいただきましたが、渉外のプロがどのような目線で業務に取り組んでいらっしゃるのかは滲み出てくるはずで、貴重なブログになるはずと期待しています。

・生貝直人の情報政策論
http://bylines.news.yahoo.co.jp/ikegai/
今週はじまったばかりでまだどんなブログになるかまったく不明ですが、情報法、とくに政策論で若手研究者No.1の呼び声が高い生貝先生のブログ。これは注目せざるを得ないでしょう。


以上のブログを抑えていれば、ビジネスと法律のかかわり、企業法務界隈での話題・目線はだいたい掴めるのではないかと思います。私のブログも、品質では上の方々には歯がたちませんが、少しでも法務に興味を持って下さるビジネスパーソンのお役に立ったり新しい目線を提示できるべく、日々之精進する所存です。消尽しないようにマイペースで・・・。
 

2013.6.1追記
一部ご紹介文について修正のご依頼を受けましたので、これにあわせて全体を修正させていただきました。
 
2014.11.9追記
一部URLが変更になっていたブログがあったため、修正しました。
 

【本】標準 民事手続法 ― 知的財産権に携わる人だけに読ませておくのはもったいない

 
ブログ『知財渉外にて』の@senri4000さんからGoogle+で教えていただいたこの本を読んでみたところ、素晴らしい本だったので、私からもご紹介させていただきます。

実は、この本のタイトルには「知的財産に携わる人のための〜」という枕詞がついているのですが、ブログでのご紹介にあたり著者・編集者に失礼を承知で、あえてその枕詞を外させていただきました。「知財担当者向け」という先入観なしで、ふつうの法務担当者のみなさまにもこの本を知って頂いたほうがいいのではないかと思ったからです。


知的財産に携わる人のための 標準民事手続法知的財産に携わる人のための 標準民事手続法 [単行本]
著者:高林龍
出版:発明推進協会
(2012-12-18)


法務パーソン向けの民事訴訟法の超入門書としては『小説で読む民事訴訟法』を、書式を含む手続実務寄りの概説書としては『法務担当者のための民事訴訟対応マニュアル』をお薦めしてまいりましたが、執行法・保全法までを含めた訴訟実務と法理論を体系的・網羅的につないでくれるちょうどよい基本書って、よく考えたらなかったんですよね。どうやら著者の高林先生自身もそこに問題意識を感じていらっしゃったようで、

知的財産訴訟の特殊性を理解する前に、日本の裁判制度や民事訴訟法、民事執行法、民事保全法といった民事手続法の全体の基本を理解しておく必要があるが、これらの全体像を分かり易く簡潔に教示している本はほとんどないというのが現状である。本書はその間隙を埋めるべく企図したものである。

と、「はじめに」で述べられています。

  • 訴訟物とは
  • 訴訟の3類型…給付の訴え/確認の訴え/形成の訴え
  • 民事訴訟の諸原則…公開審理主義/口頭審理主義/直接主義/処分権主義/弁論主義/自由心証主義
といった民訴の基礎用語・概念からきちんと説明してくださっているのに、伊藤眞先生の分厚い教科書を読んでいる時のような眠さや苦しさ(笑)を読者に全く感じさせず、しかも訴訟実務の流れまで十分イメージできる心地よい筆致。民事訴訟法だけでなく手続・保全法までカバーしつつ、それでいて200頁足らずのコンパクトな本にまとまっているところがすごいです。とはいえところどころに入る小さな文字で書かれた補足説明まで丹念に読んでいくと思いのほか文字数が多く、読破するのは見かけ以上にホネだったりしますが(こういう本に飛びつくのは私のような落伍者が多いからでしょうか、「はじめに」に「小さい文字だからといって注ではないので、読み飛ばさずに順番どおり読め」と見透かされたようなご注意書きがしっかり書いてあります…)。

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幅広い法分野がこのボリュームに収められているのは、訴訟実務ではあまり問題とならない学術的な部分をバッサリと端折っているからこそ。そして、著者としてはこの切り捨て加減が難しいのだと思いますが、そこは20年近く裁判所で判事・調査官を務められていた経験を持つ高林先生だからこそ成せる業なのでしょう。
 

【本】デジタルコンテンツ法制 ― 企業法務マンは宝の地図を手に入れた!

 
家の積読の山の中に1年近く紛れてしまっていたのがこの本。なぜ今、その積読の山からこれを取り出したかといえば、著者のお一人である増田雅史先生ご本人にお会いする機会に恵まれたからなんですね。


デジタルコンテンツ法制デジタルコンテンツ法制 [単行本]
著者:増田雅史・生貝直人
出版:朝日新聞出版
(2012-03-07)


初めてお目にかかった席で先生自ら私にこの本をご恵贈くださろうと差し出され、瞬間黙って受け取ってお茶を濁そうかとも思ったのですが、根が正直な私は「実はすでに購入済みなのですが、まだ読めていないんです・・・。」とご本人を前に告白(恥)。その節は大変失礼しました。

さっそく拝読させていただいて、もったいない1年間だったと反省しきり。タイトルからは、イマドキのデジタルコンテンツネタをのべつ幕無しに並べておいしいところだけを法的に論評する時事ネタ本なのかと予想していたのですが、そのまったく逆で、俯瞰の“高度”はあくまで一定に保ちながら、デジタルコンテンツに関わる国内外の法律をすべて見渡して整理してしまおうという野心的な「鳥瞰図」作成へのチャレンジを、見事にやり遂げられている本でした。余白のゆったり感やすっきりとした図表から一見情報量が少ないように見えるのですが、読み進めていくと、どうしてこんなに少ない文字数で網羅的な概説書が書けるのかと不思議な気持ちになります。


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しかも、著作権の基礎→プロバイダ責任法→コンテンツ振興法→知財信託解禁→個人情報保護法→日本版フェアユースの流れ→通信と放送の融合→青少年保護→“場”の提供者の責任とカラオケ法理→NTD・ブロッキング・フィルタリング→ライフログとプライバシー・・・と時系列に沿って、さらにはWIPO新条約/米国DMCA/EU電子商取引指令/3ストライクルール/ACTA/TPP/SOPAといった国際的動向との関係性も解き明かしながら、澱みない物語のようにすらすらと読ませる筆致は見事の一言。

その鳥瞰ぶり・語り口の澱みなさがどのくらい完成度の高いものかは、目次の前に収録されているこの見開き4頁にわたる“デジタルコンテンツ法制年表”をご覧いただければ伝わるんじゃないでしょうか。これはデジタルコンテンツを業として扱う者にとっては宝の地図にも値する貴重な資料だと思います。


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ここ数年、blogやtwitterをはじめとする情報ツールが発展して、法律の時事ネタやキーワードがタイムリーに耳に飛び込んでくるようになりました。しかし、そうした断片的な情報のままでは何の役にも立たないなあという課題感ばかりを感じる今日このごろ。そんな中でこの本を読むと、情報収集の後の一番面倒な整理・意味付けの作業を超頭の良い方々に代わりにやってもらってしまったような、なんだか申し訳ない気持ちになります。学生時代、学期末試験前にあわてて友達から借りたノートを開いたら、仮に自分がその授業にすべて出席していたとしても到達しえなかったであろうわかりやすさでまとめられていて、思わず友達を神と崇めたくなった、そんな気分でしょうか。
 

民法改正に備えて、「契約の趣旨」を契約書に書く練習をしてみた

 
民法改正の「その後」の実務の世界を想像するにつけ、企業法務パーソンとして一番気になるのは、裁判実務よりも、とりあえず契約(書)実務で何か影響ってあるの?という点ではないでしょうか。


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この点に関して、弁護士の川井信之先生が、改正後の条文に規定される見込みの「契約の趣旨に照らして」という文言についての懸念を『ビジネス法務』やブログなどで呈されており、興味深く拝見しました。以下は先生のブログからの引用です。

債権法改正中間試案の問題点〜「当該契約の趣旨に照らして」という文言の危険性(前編)
中間試案の多くの、かつ重要な規定で使用されている「当該契約の趣旨に照らして」の語なのですが、「当該契約の趣旨に照らして」とは、具体的にどのような考慮要素に基づくものなのかについては、中間試案の「第8 債権の目的」の中で、定義が示されています。

「第8 債権の目的
 1 特定物の引渡しの場合の注意義務(民法第400条関係)
   民法第400条の規律を次のように改めるものとする。
 (1) 契約によって生じた債権につき、その内容が目的物の引渡しであるときは、債務者は、引渡しまで、[契約の性質、契約をした目的、契約締結に至る経緯その他の事情に基づき、取引通念を考慮して定まる]当該契約の趣旨に適合する方法により、その物を保存しなければならないものとする。
 (2) (略)」

 以上のように、「当該契約の趣旨に照らして」とは、上記の太字のブラケット部分にありますとおり、「契約の性質、契約をした目的、契約締結に至る経緯その他の事情に基づき、取引通念を考慮して定まる」ものとされています。

 これはすなわち、当該契約の契約書の文言だけで決定される訳ではない(文言以外の諸要素に基づいて判断されることもある)、ということを意味する訳です(この事は、3月に開催された商事法務さん主催の債権法改正中間試案の解説会で、内田貴先生が強調しておられました)。

債権法改正中間試案の問題点〜「当該契約の趣旨に照らして」という文言の危険性(後編(上))
 また、この「当該契約の趣旨に照らして」の文言は、現在の企業間の契約実務の一部で広がりつつある「完全合意条項」というものも、その効力を大きく減殺または無意義化させかねないものだと考えております。

 すなわち、当該契約書の文言だけで決しようとする完全合意条項と、契約書の文言以外のものも考慮要素とする「当該契約の趣旨に照らして」の文言は、明らかに矛盾する概念ですので、「当該契約の趣旨に照らして」の文言を含む規定が強行規定として扱われることになると、契約書に完全合意条項が含まれていても、その条項の効力が減殺・無意義化されかねないことになるからです。


私も内田貴氏のご講演や雑誌記事を拝聴している限り、この契約書の文言だけではなく「当該契約の趣旨に照らして」判断できるようにすることで今より何がどう良くなるのかについては、さっぱり納得感がありません。消費者契約法程度でも混乱が生まれているというのに、民法の大原則であったはずの当事者自治・契約自由の原則までもが、この「当該契約の趣旨」という言葉で不安定な状態にされ予測可能性が低くなるとすると、企業は困るだけなんじゃないでしょうか。被害者サイドとして、「契約書にはAと書いたが、契約の趣旨に照らしてよく考えてみるとBだった!」とか主張して助けてもらうシーンがあるのかもしれませんけど、それもなんだか間抜けな気がしますし。

こうなると企業法務パーソンみなさんが考えそうなのが、個々の契約条件とは別に、あえてはっきりと「取引通念がどうかに関係なく、本契約の趣旨はこれこれこうこうであるということで合意しました」と、契約の趣旨を構成する諸要素を契約書に明記してしまうという作戦。たとえ完全合意条項が無効化されても、契約の趣旨そのものがその言葉を使って契約書にストレートに書いてあったら、裁判所もそこに書いていないことを持ちだして「本契約の趣旨は本来こうこうこれこれである」とは言いにくくなるんじゃないかと。いやー自分だったら絶対やりますね。

なので、早速練習してみました(笑)。

第1条(本契約の趣旨)
発注者甲および受注者乙は、双方が属する業界における取引通念の如何によらず、受注者乙が発注者甲の発意と依頼に基づき生産性のみならず機密性・完全性・可用性の高いITシステムを構築することにより、発注者甲をして競合他社に比して経営効率が高い状態に到達させ、これに対し受注者乙が相当の対価を得んとすることが本契約の目的であること、本契約第**条に定めるITシステムの構築を発注することを欲し、受注者乙を含む3社による競争入札の結果受注者乙がこれを請負うこととなった経緯であること、ならびに、本契約の性質が請負契約であること、すなわち、ITシステムが第**条に定める仕様書のとおり何らの欠点または欠陥もない状態で本契約第**条に定める期日までに発注者甲に納入され検査に合格し、検査合格をもって発注者甲が第**条第1項に定める対価を同条第2項に定める期日までに支払い、その後本契約第**条第1項に定める保証期間の間に何らかの隠れた欠点または欠陥が発見された場合には同条第2項条に定める修補もしくは保証を提供し、または本契約の不履行によって発注者甲に迷惑・損害が発生した場合には受注者乙の責任においてまたは第**条に定める賠償または補償を提供すること、以上が本契約における民法第***条にいう契約の趣旨のすべてであることを確認し、第2条以下に定める委細条件に合意の上、本契約を締結する。


なんかあれですね。英文契約書の最初に置かれるWhearas Clauseが置かれるようになるってことなんでしょうかね。最近の英文契約実務ではWheras Clauseも流行らなくなってきているのに・・・。

債権法改正のせいで、契約書作りが面倒なことになりそうな気がしているのは、私だけでしょうか。
 

「パーソナルデータ」を公式用語にしたのは誰か

 
最近、ウェブサービスにおける個人情報の取り扱いが論じられる際に、「個人情報」ではなく「パーソナルデータ」という語が使われるようになっています。

これは、世界経済フォーラムが2011年1月に公表した報告書“Personal Data: The Emergence of a New Asset Class(PDF)”において、“Personal data is the new oil of the Internet and the new currency of the digital world.(パーソナルデータは、インターネットにおける新しい石油であり、デジタル世界における新しい通貨である)”と謳われたことがきっかけで日本の有識者に広まり、好まれて使われるようになった語です。そこから発展して、法的な文脈において日本語で単に「個人情報」と表現してしまうと悪法と名高き個人情報保護法第2条において定義された「個人情報」の定義と同一視されてしまって不都合が生じる場面が多いことから、保護法でいう「個人情報」よりも広い意味での、「個人に関する情報」を意味する語として、加速度的に使われる頻度が高まってきました。

説明において「個人情報」では不都合が生じる場面とはどんな場面か?その実例が、『良いウェブサービスを支える「利用規約」の作り方 』で私が書いたP29ー30の一節にもあります。ここでは、「広義の個人情報」と「狭義の個人情報」という語を使いわけ、個人情報保護法で保護される情報と保護法では保護されない情報の違いについて図まで使って長々と一生懸命説明しているのですが(苦笑)、ここでいう「広義の個人情報=パーソナルデータ」という一言で表すことができると、とても便利なわけです。

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さて、この「パーソナルデータ」、現在ウェブサービスと個人情報の取扱いにおける実務上の公式ガイドラインとなっている『第二次提言』や『スマートフォンプライバシーイニシアティブ』においては全く使われていなかった語です。では日本において、公式にはいつ頃から何をきっかけに使われはじめ、一般に広まったのか?出自が気になったので、Googleとtwitterの期間指定検索で時期を区切りながら調査してみました。すると、2012年10月30日の総務省による「パーソナルデータの利用・流通に関する研究会」の発足が契機となって、ネット上でこの語が使われ始めたことが見てとれました。先日、この報告書のパブコメ募集が話題にもなっていたので、聞き覚えがある方も多いかと思います。

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一方、こちらも先日報告書が提出されましたが、経産省もIT融合フォーラムパーソナルデータWGというものを立ち上げて以降、この言葉を公式に用いるようになっています。念のためこのWG発足日を確認してみると、2012年11月28日。ほほう、つまり総務省が10月にオフィシャルに使い出して、経産省が11月に遅れてこれをフォローしたと。そうなのかぁ・・・と思って調査終了しようかと思ったところ、そのWG報告書(PDF)P1の脚注にこんな「主張」が・・・。

パーソナルデータとは、2005 年(平成 17 年)より経済産業省において推進した「情報大航海プロジェクト」で用いられた「パーソナル情報」の概念を引用しており、個人情報保護法に規定する「個人情報」に限らず、位置情報や購買履歴など広く個人に関する個人識別性のない情報を含む。なお、2012 年(平成 24 年)より総務省で開催されている「パーソナルデータの利用・流通に関する研究会」においても上記の概念と同様に個人識別性を問わない「個人に関する情報」を「パーソナルデータ」と定義している。

“概念を引用”というのがもはや何を言っているのかよくわからない言い回しですが、とにかく、経産省としては「パーソナルデータも、もともと俺達が先に考えた概念のようなもんです。総務省が後から真似しましたけどね(キリッ」というわけです。ちなみに、その情報大航海プロジェクトにおける「パーソナル情報」の定義がこちら。

通常、生存者に関する情報であって、特定の個人を識別することができるものを個人情報といいますが、それだけではなく、行動や視聴など個人と連結可能な情報を総称してパーソナル情報といいます。これは情報大航海プロジェクトで定義した考え方です。
そして、関連制度で明確な定義のされていない情報についても、情報大航海プロジェクトでは定義を行っています。大きく「識別情報」と「非識別情報」に分けて定義をしています。
「識別情報」は、「個人を識別する目的で使用される情報」を指します。例えば、名前、住所などが該当し、情報大航海プロジェクトでは、識別情報とそれ以外の境界線を調査しています。
この境界線を明確にすることで、「個人情報ではない状態」を定義しようとしているのです。
「非識別情報」は、「それだけで個人を識別することはできない情報」を指します。例えば、生年月日、家族人数、年収などがそうです。
これに加え、情報大航海プロジェクトでは、現状の関連制度において何も定義などされていない行動や購買、視聴などに関する情報も「その他情報」と定義しています。


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まるで発明者であるかのような言いっぷりですが(苦笑)、とにかく、2011年に世界経済フォーラムが流行らせるだいぶ前から考えてたんだぜーということらしいです。

こういうところからも、個人情報・プライバシー保護行政についての総務省と経産省の骨肉のイニシアティブ争いが見て取れますが、いろいろなWGがそれぞれの省庁で乱立し、報告書ができ、パブコメで意見を求められ、さらにその文書の中で微妙に違う定義で言葉を使われたりすると、混乱するのは国民であり企業ですので、そろそろどちらが大将なのかを決定していただくべき時が来たのかな、と思っております。
 

【本】ロースクール実務家教授による英文国際取引契約書の書き方 ― 外国判例の補足と第2巻の発売をお待ちしてます

 
予備試験制度を批判する浜辺陽一郎先生のFacebookでのご発言が法務クラスタで話題になっていたので、ふとこの本を思い出しました。


ロースクール実務家教授による英文国際取引契約書の書き方―世界に通用する契約書の分析と検討〈第1巻〉ロースクール実務家教授による英文国際取引契約書の書き方―世界に通用する契約書の分析と検討〈第1巻〉 [単行本]
著者:浜辺 陽一郎
出版:アイエルエス出版
(2012-07)


契約の世界で「ボイラープレート」と呼ばれるどんな英文契約にもでてくるお決まりの、しかし非常な重要な一般条項を中心に、各ページ上から5〜10行ほどを契約例文と対訳の例示に割き、その例文の解説を下に書くというレイアウトになっており、読みやすさに大変配慮されている本です。集められている条文のバリエーションが多いのが特徴で、私も重宝させていただいていました。

が、実はよく読むとこの本には難点があります。英文契約の実務を解説するはずの本なのにもかかわらず、そして「世界に通用する〜」とのサブタイトルが冠されているにもかかわらず、本文や脚注で紹介・引用されている判例のほとんどが、なぜか日本の判例の紹介になってしまっているのです。

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私もしばらく日本企業で働かせてもらってひしひしと感じていますが、アジアを中心に、言語やその国の制度の問題等もあって法制度について調べることすら難しい国々との取引の機会はどんどん広がっています。契約において準拠法を日本法にできるケースも多くありません。そうなると、この本が奇しくもそうなってしまっているように、そこでは日本法の知識そのものは役に立たなくなります。日本法以外が交渉や係争の土俵になったときには結局現地弁護士を起用する必要があり、ビジネスで鍛えられたリスク感知能力・論理的思考力・経験等によってサポートできる部分はあっても、“日本の法科大学院で日本法をよく学んだ日本製法務パーソン”が役に立てる部分はどうしても限られます。ビジネスの中でこうして日本法や日本の慣習が共通言語として通用しない領域が増えていくにつれ、純日本製法務パーソンの生きる道は、弁護士の方々以上に狭まっていることをひしひしと感じます(こういった環境の中で法務部門・法務パーソンはどうあるべきと考えているかについては以前述べたとおりですので、ここでは控えたいと思います)。

冒頭の浜辺先生のご発言は、法科大学院という「正規ルート」をショートカットする予備試験制度だけでなく、その合格者を重用する傾向にある企業(法務)への批判ともお見受けしました。もちろん、採用する企業側としては、司法制度改革の影響で法務パーソンの母集団の質が変わってきたことは十分感じておりありがたみすら感じていますし、この母集団の厚みによって先生が問題視されているいま企業法務を支える「法律のほとんど素人」が淘汰されるのも時間の問題でしょう。しかし企業というのは現金なもので、母集団のレベルがあがったからといって、法務の採用枠自体を広げるかというとそうはならず、優秀な母集団の中でさらに比較し一番優秀かつその企業にあった人を法務採用枠に当て込むだけなのです。ビジネスがグローバルにシフトし、かつ数少ない枠を争って優秀な母集団の中で比較をすることになると、どうしても1年でも早く弁護士になって企業法務実務の経験を持ち、あわよくば海外ロースクールへの留学の機会を与えたくなるような若手人材のほうが重用されることは、いたしかたのないことなのかなと思いますし、それを肌で感じている学生さんが「早道」を選ぼうとするのも、無理はないのかなと思いました。


本の紹介から話がそれましたが、先生におかれましては、ぜひこの本に英文契約にまつわる外国判例情報についても補足していただき、あわせて〈第1巻〉と題されたこの本の続編となるはずの〈第2巻〉も早く出版していただいて、私のような法科大学院を修了していない者も少しは賢くなれるよう、広く教育の機会を与えていただければと!
 

Amazonアフィリエイト紹介料率変更の有効性

 
Amazonがアフィリエイトプログラムの紹介料率を変更するとの連絡が本日メールで到着。しかも今回は昨年変更されたCD/TVゲーム/服といったジャンルではなく、本がその対象となっています。適用は6月1日から。2週間前通知ってことなんでしょうね。私もチリも積もればで結構な額をAmazonさんから頂いてきましたので、影響が無いといえばウソになります。


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たしかに、条件変更の可能性については、紹介料率の変更含め、かなり具体的に規約に明示されています(太字は原文ママ)。

Amazonアソシエイト・プログラム運営規約
15. 修正
甲は、本規約(および運営文書)に含まれる条件を、amazon.co.jpのサイトに変更のお知らせ、修正済み規約、または修正済み運営文書を掲載することにより、いつでも、甲の独自裁量にて修正する場合があります。修正には、例えば、アソシエイト・プログラム紹介料率表、アソシエイト・プログラム参加要件、支払手続、およびその他のプログラム要件の変更が含まれる場合があります。甲の修正に乙が同意できない場合は、乙の唯一の対応方法は本規約を解除することだけです。アマゾン・サイト上に変更のお知らせ、修正済み規約または修正済み運営文書が掲載された後も引き続きプログラムに加入していただいている場合は、乙がその修正を拘束力のあるものとして承諾したものとみなします。

契約論的には、利用規約・約款を用いた契約において、このような一方的な契約内容変更権条項・価格変更件条項が有効なのか?という論点はあります。この点、消費者契約法の以下の条文の適用の余地を検討する必要があります。

(消費者の利益を一方的に害する条項の無効)
第十条  民法 、商法 (明治三十二年法律第四十八号)その他の法律の公の秩序に関しない規定の適用による場合に比し、消費者の権利を制限し、又は消費者の義務を加重する消費者契約の条項であって、民法第一条第二項 に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するものは、無効とする。

ほらみろAmazon乙!と快哉を上げたくなる方もいらっしゃるかもしれませんが、今回の件については、特に影響があるであろうアフィリエイトを食い扶持にしているようなプロブロガーさんについては、残念ながらこれは適用されません。なぜなら、消費者契約法第2条において、

第二条  この法律において「消費者」とは、個人(事業として又は事業のために契約の当事者となる場合におけるものを除く。)をいう。

となっているから。特にアフィリエイト報酬で生計が立っちゃうようなプロブロガーさんであればなおさら「事業のために契約の当事者となる場合」にあたると考えられ、消費者ではないとされてこの法律では守られないでしょうね。


なお、実際にそうなるかどうかは微妙な情勢なので参考までに、ということでご紹介しますが、約款の変更についてはいま法務省が進めている民法(債権法)改正議論でも論点となっており、中間試案においてこのように触れられています。変更の法的有効性を検討する観点としては、参考になるかもしれません。

「民法(債権関係)の改正に関する中間試案」(平成25年2月26日決定)
4 約款の変更
約款の変更に関して次のような規律を設けるかどうかについて,引き続き検討する。
(1) 約款が前記2によって契約内容となっている場合において,次のいずれにも該当するときは,約款使用者は,当該約款を変更することにより,相手方の同意を得ることなく契約内容の変更をすることができるものとする。
ア 当該約款の内容を画一的に変更すべき合理的な必要性があること。
イ 当該約款を使用した契約が現に多数あり,その全ての相手方から契約内容の変更についての同意を得ることが著しく困難であること。
ウ 上記アの必要性に照らして,当該約款の変更の内容が合理的であり,かつ,変更の範囲及び程度が相当なものであること。
エ 当該約款の変更の内容が相手方に不利益なものである場合にあっては,その不利益の程度に応じて適切な措置が講じられていること。
(2) 上記(1)の約款の変更は,約款使用者が,当該約款を使用した契約の相手方に,約款を変更する旨及び変更後の約款の内容を合理的な方法により周知することにより,効力を生ずるものとする。

ただし、これは事業者による約款変更を認めない方向にもっていくための改正ではなく、利用規約・約款の変更は多数当事者に対して継続的に役務を提供する取引においては不可避であるため、ア〜エのような「変更が正当と認められるための4つの要件」を明らかにすることで、その法的安定性を明確にすることが目的と言われています。


さて少し脱線してしまいましたが、Amazonさんちょっと冷たいですね(泣)という感情論はあっても、現行法に則って評価すると、上述したとおりアフィリエイトというサービスの性質上消費者契約法の世界とも関係なく、対等な二者間の契約論という前提でアフィリエイト開始時に利用規約に同意し、そして2週間前というある程度の期間を置いてメールによる能動的通知がなされている以上、いやだったら契約解除して使うの辞めれば?というAmazonの言い分に反論する武器が見当たりません。もし、Amazonのアフィリエイト規約がユーザー側からの解除権を認めていなかったら(つまり一定期間アフィリエイトを続けなければいけない義務をユーザーに課していたら)、それは事業者間といえども公平に欠けるという評価もあり得ますが、ユーザーの解除権を正面から認めている点からも、この変更は有効ということになると考えます
 
きっと今回の件を受けて、「やっぱり利用規約とか約款で一方的な条件を押し付けるのはけしからん!厳しく約款を規制しろ!」と盛り上がる方がいるんだと思いますが、ユーザー側にも「利用規約を良く読んでリスクを分析・把握してからサービスを使う義務」というのもあってしかるべき、と思います。

 
良いウェブサービスを支える「利用規約」の作り方良いウェブサービスを支える「利用規約」の作り方 [単行本(ソフトカバー)]
著者:雨宮 美季・片岡玄一・橋詰卓司
出版: 技術評論社
(2013-03-19)
販売元:Amazon.co.jp

 

経産省の「パーソナルデータワーキンググループ報告書」を読んでの懸念

 
経済産業省が「IT融合フォーラムパーソナルデータワーキンググループ報告書」をリリースし、これを受けて日経が下記のように報じていました。

個人情報、企業の利用に指針 消費者が開示選択 経産省、ビッグデータ活用を後押し(日本経済新聞)
経済産業省は企業が顧客の個人情報を二次利用するための指針をまとめた。物品の購入履歴や性別など消費者が同意した情報に限り、他の企業への販売などを認める。欧米では膨大な個人情報「ビッグデータ」を活用する動きが加速している。日本でもプライバシーに配慮した指針策定で企業の個人情報利用を促し、顧客データの分析を通じた市場開拓を後押しする。経産省は10日に公表する指針に基づき、年内にも個人情報を二次利用する企業向けの具体的なガイドラインを作成する。

この記事中の「個人情報を二次利用するための指針」という表現は、法的な厳密さを欠いた表現なので、正確なところは、経産省のサイトにアップされている資料をご確認いただいた方がいいと思います。

無理やり短くまとめると、これまで企業が長々とした利用規約(プライバシーポリシー含む)により“形式上の同意”をとってサービスの利用者からパーソナルデータを収集し“ユーザーに意識されないように”利用・第三者提供していたのを、確かな同意を取る方法を決めたり、審査・認証機関の設置をしたりするなどにより、企業が堂々と個人情報の利活用ができる道を作るべく経産省がリードしていこう、という指針。その具体的方法論の代表的なもの・目玉として、OpenID Foundation 理事長の崎村先生が以前から自身のブログ等で提唱されていた「情報共有標準ラベル」のアイデアがフィーチャーされています。これは利用規約とは別に、企業ごとに異なっている利用規約の中の重要な項目を定型化し、ユーザーにとって見やすいものにするというアイデアです。

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実はこの「情報共有標準ラベル」のアイデア、私も以前から気になっていて、こっそり自分の勤め先の利用規約をこの形式で試しに作ってみたこともあります。しかしながら、これを運用するのは、メリットよりもデメリットの方が高い、と感じました。

利用規約の中でも、ここで議論の対象となっているプライバシーポリシーに求められる機能は2つです。

1)主に石橋を叩いて渡るユーザー向けに、個人情報の利用について事前のリスク開示を行う
2)リスクが現実のものとなった時のために、企業・ユーザー間の責任の所在を文言で残す


企業にとって困ったことなのかはたまた都合のいいことなのか、ほとんどのユーザーは、その商品・サービスの利便性とそこから生まれる企業ブランドを信頼し、利用規約を読まずに同意ボタンを押してしまいます。『利用規約の作り方』本にも引用させて頂いた株式会社ネットマイルの2012年調査によれば、利用規約を事前にちゃんと読む=石橋を叩いて渡るユーザーはわずか15%。今回の経産省指針もまさにここを課題視しているからわけですが、情報共有標準ラベル化によって1)を簡便にする努力をしても、このタイプのユーザーが読んで理解してくれる気がしなかったのです。ラベル化すれば視認率が上がりそう、と言われればそんな気もするのですが、では実際のところ、スーパーで食品を買うときに食品ラベルを読んで買う人って、何%いらっしゃるのでしょうか?ラベル化等の工夫による契約内容の視認率・理解度向上の度合いについて、少しでも実証実験などが行われたのなら参考になったのですが、それがなかったのが1つめの懸念点です。

そして、一度でもシリアスに利用規約を作りそして運用までしたことがある方ならピンとくると思いますが、2)の責任の所在を法的な文言の解釈で争う際には、利用規約上の厳密な表記とそれを簡略化したラベル上の表記との齟齬が、これまでに無かった新たな紛争の種にさえなりかねないという点が2つめの懸念点です。食品においては食品ラベル以上の説明は必要ないのかもしれませんが、ウェブサービス等においては、民法の任意規定を契約内容に沿って書き改めるという契約法的機能の観点から、ラベルとは別の利用規約本文自体が無くなることはないでしょう。すると、上図表にもあるとおり、利用規約本文についてはリンクによってそれを示し読んでいただかざるを得ません。よかれと思って作ったラベルが厳密さを欠いたせいでユーザーを混乱・誤解させ、企業としての法的責任が重くなっては本末転倒です。今回のワーキンググループに参加されていた法律に詳しい他の委員の方から、この「表現の齟齬による法的責任の所在」について問うたり議論がなされた形跡が(少なくとも報告書上は)なかった点は残念でした。ちなみにこの経産省の動きと法律論の整理に関して、twitterで岡村先生もこのようにコメントされていました。


私も同感でして、いったん年内に経産省が出すというガイドラインをまずは待ちたいと思うものの、法的に厳密な検討が進まないうちは、私自身は、利用規約そのものの文章・構成・表現を分かりやすくする工夫を追求する道を追求したいなと考えているところです。


さらに蛇足ながら、日経の同記事によれば、
ビッグデータの活用と個人のプライバシー保護の線引きは、欧米で議論が先行している。米国が商業利用の後押しに軸足を置く一方、欧州連合(EU)はプライバシー保護を重視している。日本は企業の利用促進に重きを置いて制度設計を進める。
とのことですが、この点についても懸念があります。私自身、世界の個人情報・プライバシー絡みのニュースを追いかけつつ、仕事絡みで欧米グローバル企業のプライバシー政策を耳にする限り、世界の趨勢は、経産省が目指す方向性とは逆の、EU型の流れが優勢になるのではという観測をもっているからです(それを望んでいるわけではないのですが)。

個人情報・プライバシーの問題は、日本国内だけが基準がはっきりしたところで、結局世界が求める基準に沿っていなければデータを合法的に越境させることができず、意味がないどころか逆に混乱をきたしかねません。日本政府としてそのあたりの「世界の風向きの見誤り」もないようにしていただきたいと願います。
 

形を持たないオンラインゲームビジネスと、私の知的財産観

 
スマホ・ウェブを舞台にしたエンターテインメントビジネスの世界に移って8ヶ月が経ちました。今は主にオンラインゲームビジネスに携わりながら、コンテンツビジネスと知的財産についてのこれまでの考えを改めざるを得ない体験・経験をさせてもらっています。この連休も、これまでの仕事を振り返ったり最近の経験を踏まえた新しい本の執筆をしたりしながら、それについて断続的に考えていました。業界の先輩方からすれば何を今さらということかと思いますが、現段階で思っていることを書いてみます。

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オンラインゲームは現実世界と切り離された価値に課金するビジネス


これまでのウェブビジネスの発展と浸透の歴史を課金モデルの観点から分解すると、以下の3段階にわけられるのではと私は考えています。

  1. 現実世界で必要な物の受発注・配送手続をウェブ上で効率的に提供し、物の価値に手数料をのせて課金する(EC、音楽・映像ファイルDL、オンライン証券)
  2. 現実世界を生きるのに役立つ情報をパッケージ化してウェブ上で提供し、情報パッケージの価値交換に手数料をのせて課金する(オークション、メルマガ、SNS)
  3. ウェブ上でのみ存在する世界を運営し、その世界への参加料を課金する(オンラインゲーム)

まだネットでお金を払うことが当たり前ではなかった時代、そこでビジネスを成立させようと思うと、物の価値にサービスの価値を化体させて(物の値段にその手数料を紛れ込ませて)課金するしかありませんでした。しかしそれはまだウェブに親しみのない一般人にも受け入れやすく、Amazonを中心にあっという間になくてはならない存在に成長し、ウェブサービスは便利なもの・お金を払ってもいい対象となりました。

次に、物の流通ではなく情報の流通・交換に対して課金するウェブサービスが台頭してきます。とはいえ情報一つ一つには値段がつけにくいことから、何らかのパッケージに包んで「仮想的な物」として受け渡しされるケースがほとんどであり、そのパッケージに知的財産権という権利をちらつかせつつサービスの価値を化体させて(パッケージの権利の値段にその手数料を紛れ込ませて)、課金しているというのが正確なところ。パッケージのあり方として一番わかりやすいのがまぐまぐのような有料メルマガメディアですが、ヤフオクなども「◯◯という製品を中古で売りたい・買いたい人がどこにいるか」ということを検索できかつ取引を成立させるところまでをパッケージとして情報提供していると考えれば、この分類に入れてよいと思います。SNSも、いまはFacebookをはじめ広告モデルのビジネスにとどまっていますが、いずれ中に居る人をパッケージして情報商材化していくサービスが増えてくるでしょう。昔ながらの人材紹介・結婚紹介・デーティングサービスがまさにそうであるように。

これらと大きく質を異にするのが、3のオンラインゲームです。特に、1・2との決定的な違いとして、現実世界で役立つ「物」や「情報」とは切り離され、完全にウェブ上でしか価値のないアイテムやその世界を味わうプレイ時間に対してお金が支払われているという点です。そこでしか会わない人たちとの間で、手に入れた仮想アイテムの希少さや仮想モンスターとの戦いという経験を純粋に分かち合って楽しんでいます(もちろん、オンラインゲームの中にはカードのビジュアルの美しさを商材にしているものも少なくなく、そのようなゲームは2の情報流通手数料ビジネスと大差がありませんが)。手数料ビジネスではないので、利益率が比較的高いのも特徴と言えます。なお、誤解のないように付言すれば、オンラインゲームは今あたらしく始まったビジネスではありません。私自身が1997年当時にウルティマオンラインにハマっていたように、昔から存在していたビジネスです。1・2の普及があったからこそ(有償のウェブサービスに慣れたからこそ)、3にお金を支払うという行為が一般ユーザーに認知され抵抗なく浸透しはじめた、ということのなのでしょう。

ゲームが提供する価値は「居場所」


さて、今オンラインゲームが普及しマネタイズに成功しつつあるのは、単にウェブサービスにお金を払うということに抵抗がなくなったから、という理由だけなのでしょうか?

昨年から、この疑問に答えようとする「ソシャゲービジネス本」が何冊も出版されていますが、ゲーム業界の先輩であり高校の先輩でもあるしおにく(@sionic4029)さんから教えて頂いたこの本は、「居場所の提供とそれによる心理的価値」という側面からそれを説く、骨太な経済学の学術書です。


人はなぜ形のないものを買うのか人はなぜ形のないものを買うのか [単行本]
著者:野島 美保
出版:エヌティティ出版
(2008-09-29)

インターネット上でも、人々は居場所を求めている。毎日アクセスしてほっとできる場所、様々な人との交流、わくわくする高揚感、現実とは違う人格を作り上げる楽しさ。居場所とは人と人とが集まるコミュニティに、ユーザーの心理的価値がプラスされた状況を指す。「ここに属している」という帰属意識が満足や癒しにつながっている状況である。
このような心理的価値がビジネスの対象として重要になりつつあることを、Pine&Gilmore(1999)は次のように説明している。
「大半の親にとって、子どもをディズニーワールドに連れて行くのは、そこでのイベントそのもののためではなく、そこで共有する経験をその後何ヶ月後、あるいは何年も家族の会話として残したいためである(Pine&Gilmore 1999. 邦訳P43)」
ディズニーワールドの強さは、思い出という心理的価値の演出にあるのである。

この本を読む気がおきなくても、この本の内容を著者野島先生自身が噛み砕いて説明してくださっている以下の記事は、ウェブサービスに携わる方なら一読の価値があるのではないかと思います。しかも2008年時点でこれを見通されていたのですから、本当に恐れ入ります。

「人はなぜゲーム内アイテムにお金を払うのか」 デジタルジェネレーションが生んだ新しい経済価値について,成蹊大学の野島美保氏にあれこれ聞いてみた(4Gamer.net)

野島氏:
 そうですね。これは大枠の話からになってしまうのですが,私としては,今後のコミュニティについては,「情報」から「活動」にポイントがシフトしていくのではないかと考えているんです。

4Gamer:
 と言いますと?

野島氏:
 これまでのコミュニティ論というと,どちらかといえば,コミュニケーションの対象となる「情報」が注目されていましたよね。Amazonの書評,アットコスメのクチコミ,オークションサイトの網羅性など,コミュニケーションするからには,何かしら有益な情報があり,有益な情報があるからこそ人が集まるのだという理屈です。

4Gamer:
 そうですね。

野島氏:
 しかし,ここ最近出てきたネットワークサービス,例えば,mixiだとかニコニコ動画,Twitterなどを見ていると,決して有益な情報ばかりではないと思うんですよね。むしろ,他愛のないおしゃべり,どうでも良いような情報が,ネット上には溢れている。

4Gamer:
 以前より言われていますし,確かに感じますね。

野島氏:
 ええ。つまり,話の内容(情報)自体に価値があるのではなく,会話という行為,コミュニティでの活動自体に価値があるのではないかと思うんですよね。私の言う「居場所」というのは,そうした問題意識から生まれたキーワードなのです。

4Gamer:
 なるほど。

野島氏:
 そういう視点でオンラインゲームというものを捉えてみると,オンラインゲームにおけるゲームプレイというのは,先ほども話したような「情報」ではなく,「一緒に冒険をした」「一緒に戦った」という,“体験”であり“活動”ですよね。単なる情報交換から,体験や行動を伴ったより奥深い,リアリティのあるものになっている。
 オンラインゲームは,ネットビジネスでは数少ない有料化が成功している例だと思いますが,なぜ有料でも人が遊び続けるのかといえば,そうした経験価値を提供できているためではないでしょうか。’

つまり、ウェブにお金を払うことに慣れたという点以上に、私たちは現実世界と切り離されたウェブという仮想空間での経験や滞在に大きな価値を感じられるようになってきた、ということだと思います。

ゲームとメディアの共通点と違い


「価値ある居場所がコミュニケーションによって作られるのであれば、情報パッケージを交換するブログメディアやSNSとさしたる違いはないではないか」というご意見もあろうかと思います。ごもっともですが、やはり違いはあるのではないかと思います。たとえば、メディア論の古典ともいうべきこの本では、メディアとゲームの共通点と違いがこのように述べられています。


メディア論―人間の拡張の諸相メディア論―人間の拡張の諸相 [単行本]
著者:マーシャル マクルーハン
出版:みすず書房
(1987-07)

ゲームは大衆芸術であり、文化の主だった動きあるいは行為(アクション)にたいする集団的ないし社会的反応(リアクション)である。ゲームは組織と同じく、社会的人間および国家の拡張であって、その点、技術が動物組織の拡張であるのと軌を一にする。ゲームもテクノロジーも、ともに、すべての社会集団につきまとう専門分化的活動から生じるストレスのための「反対刺激剤」ないしは調整法なのである。
ゲームは、それをおこなう人間が一時的に操り人形となることに同意してはじめて作動する機械である。個人主義的な西洋人にとって社会への「適応」は、多分に集合的要請に個人が屈服するという性格を帯びている。われわれのゲームは、この種の適応をわれわれに教えると同時に、それからの解放を与える糸口として役立つ。競技の結果が不確かなことは、ゲームの規則と手続きが機械のように厳しいことへの合理的な言い訳となる。
ゲームは情報メディアと同じように、個人または集団の拡張である。それが集団または個人に及ぼす効果は、それほど拡張されていない集団または個人のその部分の構成をし直すことにある。芸術作品は、受容者に与える効果を離れては、存在も機能もしない。そして芸術は、ゲームとか大衆芸術、さらには伝達の各種メディアと同じように、みずからが前提としている事柄を共同社会に押しつけて、それが新しい関係と姿勢をそなえるように変容させる力をもっている。
芸術はゲームと同様に、いわば経験の翻訳者である。ある状況ですでに感じたり見たりしたものが、思いがけなく新しい素材を介して与えられる。同様に、ゲームは身近な経験を新しい形態に移しかえて、事物の色あせくすんだ側面に思いがけない光沢をよみがえらせる。
ゲームは、われわれ個人ではなく社会の拡張であること、またゲームはコミュニケーションのメディアであること、この二点はいまや明らかになったはずだ。もし最後に「ゲームはマス・メディアか」と問われれば、答えは「イエス」でなければならない。ゲームとは、共同社会生活の何らかの重要なパターンに多くの人びとが同時に参加できるように、いろんな状況を工夫してつくり出したものである。

現代において、特にマスメディアと言われるものの多くは、現実世界の権威や発言力のある人が幅を利かせ、自分の解釈を押し付けるところになってしまっています。SNSによってそれは変わったかといえば、結局のところ有名人アカウントの影響力は大きく、さして変わらないように見える現状があります。

これに対しゲームは、現実世界の権威や発言力に影響されない世界の中で、努力・テクニックに加えて運によってもその世界で幸せになれるチャンスがあるというある種の“公平性”のもとで、幸せや満足を経験できるところに特徴があります。オンラインゲームに対しては、「ガチャで射幸心をあおっている」「形のないものに金をつぎ込ませて儲けている」との批判がいまだにありますが、ユーザーに現実世界では味わえない幸せを“実感”してもらい満足を与える世界を運営する商売と、ギャンブルのように現実世界で役立つお金をちらつかせて射幸心をあおり胴元だけが損をしない商売とは、ちょっと違う気がします。それが理解できない人は、ウェブサービスへの期待や価値観が1や2にとどまっている人なのかもしれません。

「情報経済」から「経験経済」への進化


話がそれました。主題に戻りますと、私はこの業界に入るまで、オンラインゲームビジネスとは、ゲームコンテンツという情報材を著作権を中心とした知的財産権の力を借りてパッケージ化し、ウェブを通じて流通・販売するビジネスであると捉えていました。しかしそれは大きな間違いで、現実とは切り離された別の経験ができるもう一つの世界を運営し、そこに参加する楽しみをユーザーに提供するディズニーワールド型サービスビジネスなのだと、この8ヶ月あまりの経験を経てようやく整理が出来た次第です。

物をウェブを利用して流通させ課金するサービス=物交換経済から、情報材をパッケージして交換することに課金するサービス=情報経済へというウェブサービスの普及と浸透の段階を経て、上記に引用したインタビュー記事で野島先生がまさに語られている「情報経済」から「経験経済」へと進化しようとしている瞬間なのだろうと、仕事を通じて感じているところであり、情報材の交換にとどまらない「デジタルな居場所の経験経済」を実現するビジネスを、どんな法律を使って守り育てていくかという考え方にシフトしています。
 

契約書の管理は誰が何をどこまでやるべきか

 
ビジネスロージャーナルの今月号の特集を読んで「みんなこんなにきちんと契約書管理しているのか!」と愕然とした法務パーソンも少なくないんじゃないでしょうか。私もその一人です。


BUSINESS LAW JOURNAL (ビジネスロー・ジャーナル) 2013年 06月号 [雑誌]BUSINESS LAW JOURNAL (ビジネスロー・ジャーナル) 2013年 06月号 [雑誌] [雑誌]
出版:レクシスネクシス
(2013-04-20)


企業名こそ匿名の企業が多いとはいえ、各社の契約管理システムについて、気前よくスクリーンショットまで公開されている本特集。なかなか知ることのできない貴重な資料ですので詳しくはそちらをご購読いただくとして、登場されている各社の取組みについて、文章だけ読んでいたら頭がこんがらがってきたので表にしてみました。ただし、この◯×△は記事に登場したご回答者が明確にそのようにお答えになっているわけではなく、また各社のシステムが同じ基準で比較されているわけでもなく、私が記事に出てくるコメントを読んだ印象でつけてますので、ご参考までということで。

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会社規模の大小はありますが、登場した9社のうち過半数の企業で実現している(◯が5社以上ついている)のが、
・依頼受付・進捗の管理
・締結済文書の電子保存
・契約概要の登録
の3つの機能。自分の会社はやれているという自負があるから登場されているとはいえ、私は「ここまでやってるのか…」とビビリました。私がこれまで見てきた企業では、この3つでさえ、すべてやれていた会社はなかったと思います。

契約内容までの一括管理は必要か?

しかし、本当にこういったきっちりとした“契約(書)一括管理システム”が必要なのかという点については、私自身はかなり懐疑的です。揚げ足を取るような言い方になりますが、現場で日々発生する「契約書」にならないレターアグリーメント的なメール・議事録・SLA・あげくの果てには口頭での合意などは管理しきれないですし、システム化後のOS・コンピューティング技術の変更によるコスト、組織変更の度に発生するメンテナンスコスト、入力人件費コスト等と現実的に発生するリスクを考えると、割に合わないと思うからです。特に、契約内容(契約種別や満了期日)の一括・一覧管理までをやろうと欲張ると、法務のような専門部署が内容の確認と入力作業を一手に担わなければならなくなる点、費用対効果は著しく落ちると思います。

さらにいえば、「法務が一括で管理する」という発想は、法務部門がいつまでも同じように存在するという前提があるからこそ成立するわけですが、法務部門やその機能のあり方もいつまでも一定とは限りません。他部門と合体したり、現場寄りに分散したり、究極的にはすべて現場に委譲されたり、ということも前提とすべきではと。

その点私は、記事P46−47に登場されている外資系メーカーの方の意見、
法務担当者の人数に対して企業規模が大きくなればなるほど、契約書管理は法務部門から手放し、管理の仕組みだけ作って全社に浸透させ、あとは部門ごとにやってもらうという割り切りが必要になってくるのだと思います。
に近い立場といえます。

契約書管理の最低ラインは「PDFと原本の企業名別保存」

では、企業の契約書の管理について、最低限のラインとして誰が何をどこまでやるべきでしょうか?

私見ではありますが、紛争の発生防止ないし訴訟前解決(予防&臨床法務)という契約書作成の目的に忠実に考えると、原本管理はもちろんのこと、取引がいざトラブルに発展しそうになったときに締結済契約書を素早く取り出して参照するための、署名・押印済み契約書をスキャン→PDF化して企業名別に取り出せるようにするところの仕組み化ができているかどうかがポイントと考えます。

作業としてここまで単純なものに絞ると、“誰が”実行すべきかという点については、必ずしも法務である必要はなくなります。押印・署名手続きを所管する部門を明確にし(社内規程等で明確にしているのであれば現場でもOK)、押印・署名したらすぐにそのままPDF化して企業名別に保存、原本は訴訟時に取り出せるよう倉庫等で保管を徹底することが、リスクマネジメント上重要になると思います。ところで、多くの企業では、総務や法務部門に押印・署名手続を寄せている例を多く見かけますが、本来押印・署名はその契約締結意思と権限がある人が行う、というのが法律上の原則にもかかわらず、特に押印作業は本人でなくても行えてしまうこともあって、末端の平社員にまかせてしまっている企業も少なくありません。ここに、決して小さな問題とはいえない、リスクマネジメントのポイントと実務的な悩みどころが集約されているように思われます。

それで思い出したのですが、ある外国企業との契約で、契約書の相手方サイン欄のちょっと下に、サインとは別にLegal Departmentの黒い確認ゴム印(縦2×横3センチぐらいの、入国管理局がパスポートに押すスタンプのようなもの)が押してあるのを見かけたことがあります。どうやら、このゴム印を押したものが法務確認済みのファイナル版で、それをみて最終サイナーがサインをし、そのサイン済み文書を法務部門が回収して電子化しているようでした。この例のように、必ずしも大掛かりなシステムを組んだりしなくても、契約手続きのクリティカルなポイントを捉えてちょっとした工夫を施すことで、法的リスクの低減が図れるんじゃなかなと思います。
 

日経BP ITProに利用規約イベント関連の取材記事掲載

 
1月に開催した利用規約ナイトVol.2と、2週間前に開催したシード・アーリースタートアップ向けセミナーの2つのイベントを取材してくださった日経BP大豆生田(おおまみゅうだ)記者が、力のこもった取材記事を今週のITProの“週末スペシャル”として掲載してくださいました。ありがとうございます!

スタートアップ向け『利用規約セミナー』に集まる大手企業法務担当者(日経BP ITPro)
nikkeiitpro
 ITを使ったサービスは、社会に認められて初めて市場を開拓できる。企業法務は、ITを社会に適合させてビジネスを展開させていくのが役割だ。そこには、ITと企業法務の双方の知恵が欠かせない。とはいえ実際には両方に詳しい人材は少ない。2つのセミナーは、双方の融合を図るための、長い道のりへの一里塚のように思えた。(中略)

 1月と4月に開かれたセミナーの主催者はそれぞれ異なるものの、利用規約を「サービスの一部」として活用しようという趣向は同じだった。
 両セミナーの登壇者の中心となったのは、「良いウェブサービスを支える『利用規約』の作り方」(技術評論社刊)の共著者で、ベンチャーでの法務経験をもとにした企業法務のブログで知られる橋詰卓司氏や片岡玄一氏のほか、ベンチャーの法務を手掛ける弁護士らだ。
 法制度や規則をテーマにした企業向けセミナーといえば堅苦しい雰囲気になりがちだが、両セミナーとも利用規約をめぐってどんなやりとりを経験したか、軽妙な語りで披露。真剣にメモを取る参加者も目立った。

こういった活動を通じ、ビジネスを推進する立場の方と法務パーソン双方の具体的な経験から抽出された知識・ノウハウの交換が進んだり、標準化出来る部分が標準化されることによって、ビジネスの生産性向上に貢献できればいいなと思ってやってきましたが、本を出版したことで自分が喋って伝える必要もなくなりましたし、いったんの区切りがついたかなというところです。なので、今後はあまりこういう機会には顔を出さなくなると思います。

そろそろチャンネルを切り替えて、今年の残り期間〜来年いっぱいぐらいにかけては、自分の業務にもっとダイレクトに関わる法律分野の研究やツールの開発といったところにシフトし、その成果物をもって自分の所属組織や業界の発展のお役に立てるよう取り組んでいきたいと思っています。 
 

「約款が法律で規制されるらしいよ」と聞いて民法改正をはじめて知る人は少なくない、という事実が物語るもの

 
このへんの記事をきっかけに、法務パーソンではない友人・知人数人から民法改正について尋ねられるという経験をしました。

時代遅れの約款に法務省がテコ入れ?(スラッシュドット・ジャパン)
アプリケーションなどの利用など、必ず読まされることの多い「約款」。記載されている内容は重要だが、ほとんどの人は読み飛ばして Yes を選択していることが多い。この約款をめぐるトラブルが頻繁に発生していることから、法務省は関連する民法を見直す動きを見せているらしい (MONEYzine の記事より) 。

法務パーソンからすれば、「何をいまさらそんな話をしているの?」「べつに約款をめぐるトラブルが頻繁に発生しているから民法改正するわけじゃないよね・・・」と苦笑されるかもしれません。しかし、実際はそういった民法改正を知ってる人のほうが少ないのであって、日常生活の中で“契約”を意識するのはウェブで「利用規約に同意」ボタンを押すときぐらいの一般市民感覚からすれば、そういった日常生活にも影響や変化を及ぼす法改正があるんだよって言われてはじめて、「あ、なんか自分たちにも関係ある話なんだ!」と思えるということなんですよね。関係者のみなさんは「3年前からきっちり議論してました」とおっしゃいますが、普段法律を意識せずに生活できる一般人には、その改正の方向性や内容はおろか、民法が改正されようとしているということすらまだぜーんぜん広まっていないんだということは、特に法改正を強力に推進されようとしている内田貴氏やその他関係者のみなさまにはぜひご理解いただきたいところです。

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「国民が民法を読んで分かるようになるのは無理」というびっくり発言by内田貴氏もあったよみうりホール3/16講演会にて撮影


ちなみに、その約款に関して、民法改正で何がどう変わろうとしているのかを正確にお知りになりたい方は、今まさに法務省が国民に広く意見を求めるためのパブリックコメントの手続中で、そこに資料としてアップロードされている「民法(債権関係)の改正に関する中間試案の補足説明(PDF)」のP377ー390に記載されています。簡単にまとめると、
1 規制対象となる「約款」とは何かがはじめて定義される
2 約款が利用者との契約条件として有効に組み入れられるための要件が明確化される
3 約款の中で利用者が予想もしないような条項(不意打ち条項)は無効とされる
4 合理的な周知・通知がなされれれば、事業者が途中で約款を変更しても有効とされる
5 約款の中に不当な条項があった場合は無効とされる
の5点。1と2はこれまで不明確だった点の明文化、3と5は利用者保護のための、4については事業者にとっての約款の法的安定性を担保するための改正、といったところ。


冒頭紹介の記事にあるように「約款をめぐるトラブルが頻繁に発生している」のは事実だと思います。でもそれは、法律が約款について規律していないことが原因なのではなくて、たんに約款が必要になるような一対多サービスを利用する人の絶対数が多いから、ということなのではと。そもそも、「約款とは何か」「有効な約款・無効な約款とは」を一生懸命法律に書き込んだところで、(契約時に目の前に掲示される約款・利用規約すら読まない)一般の方が果たしてその法律を読むのでしょうか?法律で規律されるとトラブルが減るんでしょうか?結局のところ、約款・利用規約を事業者が読みやすくわかりやすくする工夫をしたり、契約行為に対するリスク認識を利用者の努力で向上させるなどして、お互いが真の合意形成をする習慣を身につけなければ、何の解決にもならないのではないのではないかと、私は考えます。
 
ということで、こちらをもって私からのパブリックコメントに代えさせていただきたいと思います。
 
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