企業法務マンサバイバル

ビジネス法務に関する本・トピックのご紹介を通して、サバイバルな時代を生きる皆様に貢献するブログ。

法務

パーソナルデータ・プライバシー保護法制の動向を理解するための必読リンク集 2014


昨年9月に発足し、パーソナルデータ・プライバシー保護法制の今後を占う組織として注目を浴びた「パーソナルデータに関する検討会」は、12月にその役割をいったん終え、これを踏まえて政府の制度見直し方針が発表されました。2015年の法改正に向けての動向は、企業法務に携わる方はもちろんのこと、ITビジネスを企画・運営する一般のビジネスパーソンにとっても、重要なテーマとなっています。


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nettv.gov-online.go.jp - 山本大臣閣議後記者会見(平成25年12月24日)より


毎日のように新聞・雑誌等でも取り上げられ、論文や専門書も多数刊行されているところですが、今回は、インターネット上で読むことができる文書・資料・記事の中で、抑えておきたい必読リンク集を作ってみました。

なお、タイトルの冒頭についているカッコ書きのナンバーはご紹介の便宜上振っているもので、それ以上の意味はありません。


(1) パーソナルデータの利活用に関する制度見直し方針

http://www.kantei.go.jp/jp/singi/it2/kettei/pdf/dec131220-1.pdf

高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部長である安倍晋三総理により決議された、日本の国家としての公式な方針がこれです。間違いなく、現時点での最重要文書。まずはこれを抑えましょう。

(2) 第5回パーソナルデータに関する検討会 議事要旨

http://www.kantei.go.jp/jp/singi/it2/pd/dai5/gijiyousi.pdf

上記(1)の制度見直し方針がどのような議論のもとで作られたのか、その過程やニュアンスを掴むには、戦略本部の下部組織である検討会の議事を読み込むのがおすすめです。プライバシー法にあまり詳しくない方にとっては専門的な単語も飛び交っていてとっつきにくいかもしれませんが、逆に現時点でここで語られている内容・論点・キーワードについてキャッチアップしておかないと、今後の議論にもついていけないでしょう。これまでこのテーマをフォローしていなかった方は、この議論を読みこなし理解できるようになることを一つの目標・メルクマールとするとよいかと思います。

(3) 技術検討ワーキンググループ 報告書

http://www.kantei.go.jp/jp/singi/it2/pd/dai5/siryou2-1.pdf

パーソナルデータに関する検討会の下部組織WGがまとめた成果物。(2)でもそのエッセンスが説明されていますが、非常に充実した価値あるレポートですので、一読をお勧めします。
・「万能な“匿名化”手法は存在しない」ことを証明したこと
・「特定」と「識別」の概念を分かりやすく整理したこと
この2つは、同検討会の最大の成果であると同時に、2013年の日本のプライバシー法制議論の最大のトピックと言っても過言ではないと私は思います。

(4) 合理的な匿名化措置は可能なのか 「パーソナルデータに関する検討会」で議論されたこと

http://itpro.nikkeibp.co.jp/article/Watcher/20131213/524722/

パーソナルデータに関する検討会および技術検討WGの報告書のポイントを、日経の大豆生田記者が簡潔にまとめてくださっている良記事です。まだこの議論についていけない・・・という初心者の方にもわかりやすい記事です。

(5) 個人識別性の再考と法改正に向けた提案

http://www.horibemasao.org/horibe9_Takagi.pdf

(2)のパーソナルデータに関する検討会による検討結果を受けての、産業技術総合研究所主席研究員 高木浩光氏による提言。「特定」と「識別」の定義分けにもとづいて、実際、それをどう条文に反映すべきかを、主に「個人識別性」と「容易照合性」の観点から提言しています。この2つは、2014〜2015年にかけてパーソナルデータ・プライバシー保護法制を具体化していく上での重要なキーワードになるはずです。

(6) 国際的な変革期にあるプライバシー・個人情報保護法制の現況

http://www.horibemasao.org/horibe9_Sinpo.pdf

世界の中という視点で日本が抱えているプライバシー保護法制の課題を、新保先生が整理してくださっている資料。よく話題に挙げられるEU・米国との比較だけでなく、APEC プライバシーフレームワークやプライバシーコミッショナー会議における視点も含め、国外移転に関する問題点の整理をしてくださっているところが大変参考になります。

(7) 個人情報の保護レベルを世界水準に合わせよう

http://itpro.nikkeibp.co.jp/article/COLUMN/20130827/500450/?ST=security&P=1

2013年夏に起きたJR東日本のSuica事件を振り返りながら、米国から無理矢理輸入したいびつなプライバシー権概念に立法的に決着をつけ、医療などの産業に遅れを生じさせないようにしなければならない、と熱く語る鈴木正朝先生。(6)の新保先生の資料とあわせてよめば、越境問題をクリアにするということの重要性が理解できると思います。

(8) 平成25年版情報通信白書 ビッグデータ活用とパーソナルデータ

http://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/h25/pdf/n3100000.pdf

総務省が、(6)(7)のような視点も含めて豊富な図表で現況を整理したもの。特に資料P272以降の日本・米国・英国・フランス・韓国及びシンガポールの利用者を対象としたアンケート調査データは、一般ユーザーがどのような不安と期待を抱えているかを読み取る資料として、参考になります。



※取りこぼしなどがあれば、2014年中は適宜こちらのエントリに追加していきたいと思います。皆様からもコメント欄等でご指摘・おすすめをいただけますと助かります。
※なお、スマートフォンプライバシーの問題については、こちらとは分けて後日別途リンク集をアップする予定です。
 

【本】若手弁護士のための民事裁判実務の留意点 ― 話し相手は裁判官

 
「若手弁護士向け」というタイトルで私には敷居が高いかな?と思いきや、流暢な講義を聞いているような筆致でとても読みやすい本でした。企業法務に携わる人が、裁判とはどういう手続きで、どのように進んでいくのかをすみずみまで理解したいのであれば、この本が一番ではないでしょうか。





2月1日現在、Amazonだと品切れ表示になっていますが、私が入手した平成26年1月6日付第二版がちょうど発行されたところのようですので、そろそろ市場には出回っているものと思います。

2014.2.9追記:
圓道先生より、Amazonでは販売停止となっているとのことで、以下のようにご案内いただきました。ご教示ありがとうございます。



 
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依頼者(潜在的原告)が弁護士に相談に行くところから、訴え提起→裁判所の受付→送達→第1回口頭弁論期日→続行期日→証拠調べ期日→最終口頭弁論期日→判決言渡し期日、そして控訴審へと時系列に徹底的に忠実に書かれているのが読みやすさのポイントですね。書式サンプルも、委任状から内容証明、口頭弁論再開の上申書といった訴訟実務に使われるものまで50種以上をカバー。その端々に、細かいノウハウが披露されています。こんな細かいところまでカバーしてるんですよというご紹介方々、以下、私が「へーそうなんだ」と思った点をいくつか。

  • 証拠収集のための弁護士紹介費用は、東京弁護士会の場合1件1箇所で7,000円
  • 被告会社の代表者として、監査役とすべき場合と代表取締役とすべき場合がある点注意
  • 口頭弁論期日に先立って訴状に誤りがあれば、職印訂正ではなく訴状訂正申立書を出すのが望ましい
  • 裁判所の開廷日は、裁判体ごとに曜日が決まっている(ウェブサイトの担当裁判官一覧で確認可能)
  • 書証のうち、証拠として重要な部分が一部分であれば(コピーで写らない)黄色でマーキングするなどの配慮もよい
  • 自己に有利な記載と不利な記載のある社内文書について準備書面中に不用意に言及すると、法220条1号の引用文書にあたる旨を相手方に主張され提出義務が認められるケースも
  • 裁判所が筆跡の同一性を検討する際の方法にはいくつかあり、筆跡鑑定の証拠としての価値は実は大きくない
  • 裁判所が弁論を終結しようとすることに対する引き伸ばしの忌避の濫用に注意
  • 反対尋問においては、ウソをついていたと認めさせるまで深追いすると、相手方の当事者本人・証人が意図に気づいて供述を修正してしまうので、裁判官にその意図を理解させれば十分
  • 判決言い渡し期日に出頭しても、判決書の送達を受けなければ、2週間の控訴期間はスタートしない

先日、この本の著者、圓道至剛先生のお話を伺う機会に恵まれました。ご存知の方も多いと思いますが、先生は元裁判官というキャリアをお持ちの弁護士でいらっしゃいます。短い時間ながらも、企業の訴訟担当者が外部弁護士とどう協働すれば裁判に勝てるのかを、裁判所トリビアを交えて楽しくお話くださいました。当日頂いたレジュメも情報量が多く大変参考になるもので、この本と一緒にして何度も見返しています。内容はオフレコもあり詳細控えますが、一つ、企業の訴訟担当者や若手弁護士が抱きがちな勘違いとして教えていただいたのが、裁判とは、相手方当事者・弁護士を説得する場ではなく、あくまで裁判所(官)に当方主張の優位性を理解してもらう場である、つまり、話し相手は裁判官だということ。

ドラマでは弁護士同士が丁々発止で主張し合い、裁判官は置いてけぼりで話についていけずに蚊帳の外・・・といったシーンがよく見られます。しかしあれを本当に裁判所でやってしまったなら、本来の“主役”であり、事案を隅々まで理解して判断すべき裁判官からすれば、「じゃあ私抜きで、当事者同士よく話し合って和解したらどうですか」という気持ちなるのも当然なのかもしれません。いや、ベテラン弁護士の方からすれば当たり前のマナーなのでしょうが、いままで訴訟の進行を傍聴席から見て違和感を感じていた私としては、まさに目からウロコのお話でした。

そういった圓道先生ならではの“裁判官視点”はこの本にも存分に発揮されており、弁護士からの視点に加えて、裁判所が裏でどう訴訟を進行しているか、裁判官がどう当事者・弁護士のアクションを評価しているかという視点からの描写も多く、この点、他の民事訴訟の実務解説本とは一線を画していると言えます。
 

秘密保持契約書は秘密を守ってくれない


「NDAを締結しても、NDAが秘密情報を守ってくれるわけじゃない。」
「本当に守りたい秘密情報を守る最善の方法は、あなたが他社に伝えないことだ。」

ということを現場にスッキリと腹落ちするまで理解してもらえる効果的な方法はないものだろうか、と日頃思っています。

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統計はありませんが、秘密保持契約書(以下NDA)は、あらゆる契約類型の中でもっとも流通数量が多い契約書と推察されます。秘密を開示するか否かにかかわらず、商談に入る際には、まずはNDAを結ぶということを習慣付けている会社もあると聞きますし、どの業界でも、駆け出し法務パーソンが契約書のドラフティングスキルを身につけようという時、まずはNDAから入るのがセオリーともなっているのも、その一つの裏付けと言えるでしょう。

しかし、多少なりとも実務経験のある法務パーソンなら、以下の事実に気付いていらっしゃるはず。

  1. ほとんどのNDAにおいて、「秘密」「CONFIDENTIAL」などの表示を付すいわゆる“マーキング”をした上で情報を相手方に渡さない限り、NDAの守秘義務の対象となる秘密情報として取り扱われない契約条件となっている。
    →しかし世の中では、マーキングをしないまま秘密のやりとりをしてしまっているケースが多いのが実態

  2. NDAは、渡した秘密情報を漏らさないという義務に加え、NDAに記載された“目的”の範囲内でのみ秘密情報を用いてよい(“目的”が終了すれば秘密情報は破棄・返却)という、“目的外利用の禁止”を義務としているところに意義がある。
    →しかし世の中では、目的外利用の禁止義務が意識されておらず、それどころか、「将来の取引にも汎用的に使えた方がお互い便利」という安易な考えから、契約締結時に“目的”をあえて絞りこまずにブロードに書いて結んでしまう“とりあえずNDA”が横行しているのが実態

  3. NDAの相手方に秘密情報を漏らされたり目的外利用をされたところで、それを立証できなければ損害賠償等を請求できないが、それを証明するのは、知っているはずの人間が特定少数でない限り、現実的には困難。
    →しかし世の中では、秘密が広まってしまっても、NDAを結んでいれば相手に賠償してもらえたり漏れた秘密がそれ以上拡散しないようにしてもらえる、と勘違いされているのが実態

こういう実態にみられるような名ばかりNDA文化が蔓延すると、「ひとたび商談先とNDAを結んだ後は、秘密情報は社内にいるのと同様になんでも喋ってよい」という勘違い担当者も蔓延してしまいます。そうなると、形式的にはNDAがあったとしても、実態的には営業秘密の3要件のうちの秘密管理性が認められなくなり、不正競争防止法的にも営業秘密が守れなくなるおそれすらあるでしょう。

このNDAに対する誤解を解くため手段としては、研修ぐらいしか思いつかず、実際そういった研修を入社時等に徹底している会社もあると聞きます。しかし、そんな研修は現場にとってはつまらないこと請け合い。なので、私は心ある現場の方からNDAについての相談をいただくたびに、「NDAを結ぶと、誤った安心感から秘密情報を安易に伝えてしまうだけ。NDAは結ばずに、そして秘密情報は渡さずに商談をする、というのが一番です。」という主旨のことをひたすら説明(というかほぼ説教)し、布教に努めるぐらいしかできていません。いっそのこと、どこかの企業が「マーキングしてないまま渡した秘密を目的外利用されて、数億円規模の訴訟を起こしたが、立証できずに結局負けた」という事例でも作ってくれないかと祈るばかりです。

この問題意識を現場に理解してもらうために効果的な方法があれば、是非ご教示いただきたいところです。


ご参考:

現場の方にも比較的わかり易い言葉で、NDAの重要なポイントを網羅しているネット上の記事として、猪木俊宏先生の下記の記事をご紹介しておきます。

秘密保持契約の実務上の留意点(IGI LAW OFFICE)
 

REGISTERED APPLE DEVELOPER AGREEMENT ― 10. Term and Termination. (契約期間と契約終了)

 
10. Term and Termination. は、見出しの上では契約期間と契約終了について定められている条項、のはずなのですが、実際は期間は明確に定められておらず(つまり、終了するまでが契約期間)、契約を終了するための条件が書かれています。


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Apple may terminate or suspend you as a Registered Apple Developer at any time in Apple’s sole discretion. If Apple terminates you as a Registered Apple Developer, Apple reserves the right to deny your reapplication at any time in Apple’s sole discretion.

Apple社はいつでも任意にこのデベロッパー契約を終了もしくは停止し、さらにデベロッパーによる再登録を拒絶できることになっています。

You may terminate your participation as a Registered Apple Developer at any time, for any reason, by notifying Apple in writing of your intent to do so.

デベロッパーからも、デベロッパー契約を解除できます。しかし、その旨をAppleに書面で通知することが必要とされています。

Upon any termination or, at Apple’s discretion, suspension, all rights and licenses granted to you by Apple will cease, including your right to access the Site, and you agree to destroy any and all Apple Confidential Information that is in your possession or control. At Apple’s request, you agree to provide certification of such destruction to Apple. No refund or partial refund of any fees paid hereunder or any other fees will be made for any reason.

契約終了後の措置として、デベロッパーに対し、サービスの利用の停止と秘密情報の破棄を求めています。Apple社の求めに応じ破棄証明を出す義務もあります。一方、Apple社側に特にデベロッパー情報を処分する義務は規定されていませんので、義務はないことになります。なお、それまでに支払ったフィーは一切返金されません。

Following termination of this Agreement, Sections 1, 3-5, 7 (but only for so long as the duration specified by Apple for such usage), 10-19 shall continue to bind the parties.

契約が終了しても、1, 3-5, 7 、10-19 条は存続し、両当事者を拘束するとあります。では効力が消滅する2,6,8条は何だったかというと、これらはすべてデベロッパーのサービス利用権を定めた条項となっています。つまり、契約終了によってデベロッパーとしての権利はなくなるけれども、義務は全て残るというわけです。ここは気をつけたいところです。
 

REGISTERED APPLE DEVELOPER AGREEMENT ― 9. Amendment; Communication. (契約変更と連絡方法)

 
9. Amendment; Communication. は、契約変更の条件と連絡方法についての規定になります。


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Apple reserves the right, at its discretion, to modify this Agreement, including any rules and policies at any time. You will be responsible for reviewing and becoming familiar with any such modifications (including new terms, updates, revisions, supplements, modifications, and additional rules, policies, terms and conditions)(“Additional Terms ”) communicated to you by Apple. All Additional Terms are hereby incorporated into this Agreement by this reference and your continued use of the Site will indicate your acceptance of any Additional Terms.

この手の利用規約では致し方のないことですが、いつでも一方的に条件を変更できるとあります。さらに、そのお知らせはApple社から能動的にされるとは限らず、デベロッパーが能動的にチェックしなければなりません。デベロッパーは、デベロッパーサイトを継続利用することで、変更に同意したものとみなされます。


In addition, Apple may be sending communications to you from time to time. Such communications may be in the form of phone calls and/or emails and may include, but not be limited to, marketing materials, technical information, and updates and/or changes regarding your participation as a Registered Apple Developer. By agreeing to this Agreement, you consent that Apple may provide you with such communications.

ただし、Apple社から随時電話やメールなどで技術情報やアップデートの連絡をする場合もあり、そういう連絡方法になるけど了解してくださいね、と。


利用規約の変更がある場合でも、あくまで、Appleが情報を発信する義務を負わないようになっているのがポイントです。デベロッパーサイトにログインした際には、利用規約の更新がないかチェックするようにしたほうがよさそうです。
 

契約交渉で準拠法が合意できない→しょうがないから譲る…に対する違和感の原因を分析し、その対処策を考えてみた

 
BUSINESS LAW JOURNAL 03月号の「実務において一般条項はどのように役立っているか[前編] 〜不可抗力/準拠法/仲裁 ほか〜」と、ビジネス法務 03月号の「海外案件のスピード&効率アップ術」のそれぞれ興味深く拝読し、準拠法条項の合意について日頃思っていることを書いてみます。
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結局のところ「粘られたら譲る」が結論、でいいのか?


BLJではファシリテーター役の外資系メーカー法務の方を中心に国際契約の経験豊富な方々が、そしてビジネス法務ではオリック東京法律事務所の高取芳宏先生が、
  • 準拠法の合意は、本来は紛争解決手段の合意とセットで考えなければ有効性・適法性は担保できない
  • しかし実務上は、有効性・適法性を精緻に考えて交渉していないケースが多い
  • 紛争解決条項とバーターというケースも少なくない
という主旨のことを共通して述べておられました。

確かに、準拠法の合意でひとたび揉め出すと大変です。かと言って、法的にパーフェクトな落とし所があるわけでもなく(この法的な落とし所の無さについては同二記事でも軽く触れられていますが、準拠法合意についての国際私法上の有効性・適法性について詳しくお知りになりたい方は、道垣内正人著『国際契約実務のための予防法学』をお勧めします)、第三国法を大して調べもせずに安易に選んで妥協しているケースが多いのではないでしょうか。その裏付けとまで言うには乱暴かもしれないものの、同じビジネス法務3月号掲載の後ろの方に掲載されている連載「やっと分かった!英文契約書」で、アンダーソン毛利の仲谷栄一郎先生も、こんなことを書いていらっしゃいました。

(vii)要するに準拠法の条文をめぐりどのように交渉するのがよいか
こう言っては元も子もないが、いくら理論的に詰めて理想的な条文を目指しても、交渉の常として相手が合意してくれなければ実現できず、相手との力関係によって結果が決まる。
そこで、次のように考えるくらいでよいと思われる。すなわち、まずは日本法を主張し、相手が譲らない場合は、「第三国法」や(ぎりぎりの提案として)「相互に相手国法」などを提案する。それでもまとまらない場合は、準拠法を定めないという選択肢を検討する。それでも相手国が「自国法」を固辞する場合は、腹をくくって受け入れる。というのが、おそらく実務的な筋書きであろう。

この“仲谷理論”はつまるところ、「相手が自国法にどうしてもこだわるんだったら、そしてそれでも取引したい相手なんだったら、粘られたら譲らざるを得ないよねぇ」というもの。みなさんも、これを読んで「そうだよなあ、しょうがないけどその通りだよな」と共感を覚えるところがあるのではないでしょうか。

相手も同じ思いなら、譲り損しているだけかも


しかし、この“仲谷理論”を逆手に取れば、以下のような結論を導くことも可能なのではないかと私は思っています。
  • 相手方法務も、私達と同様、“仲谷理論”に立っているはず
  • 日本語や日本法がマイナーなのは事実としても、マイナーだから準拠法として採用できないという理屈は、少なくとも法的にはない(日本法にも運用や判例の積み重ねはそれなりにある・その法廷地・執行地の絶対的強行法規に逆らえないのはメジャーな法律でも同じ)
  • 従って、相手(の現場担当)にとって当社が本当に取引したい相手なのであれば、準拠法についても譲歩を引き出せる余地はある
つまり、準拠法で譲るか譲らないかの交渉結果は、その取引自体どちらが優位に立っているかの現れであり、法務の問題のような顔をしているがもはや法務の問題ではないのかもしれない、と。そして、もし準拠法条項において、自国法(日本法)の主張で粘ったがためにディールブレイクするような取引なら、契約の核心部分である経済条件その他の条件交渉も、勝ち目がないであろうと思うのです。

現場から「相手の法務が準拠法を変えてくれって言ってるんですけど、飲んでいいですか?」と相談されて、「まあ譲っていいですよ(日本法で通る事例も少ないし)」と安易に返答していたとすれば、法的な有効性の検証を精緻にしないという罪以上に、その取引全体における自社交渉力を法務もグルになって自ら否定してしまっていたのかもしれません。

ということで、今後ますます、準拠法ではカンタンに譲らない覚悟を決めましたので、よろしくお願い致します(キリッ。 
 

経済条件へ転嫁するという大人の対処策


そうは言っても、「準拠法は絶対譲らない」の一本槍だと、ただの大人げないワガママな会社になってしまいますよね(笑)。そこで、現実的な対処策について考えてみます。

―犁鯔,鯆蠅瓩覆


まず、“仲谷理論”でも選択肢の一つに挙げられている、「合意に至らない場合には準拠法を定めない」という解決策はどうでしょうか。これについては、以下ご紹介するように多くの実務家が不適切であると指摘しており、どうやら採用すべきではなさそうです。

準拠法条項の規定は、「州籍相違」(diversity)当事者間の取引や国際取引の場合は必須である。しかし、特にアジアの大国である某国との交渉に於いては余りにも妥協を全く知らない程の抵抗に遭う為に、準拠法を定めない慣行が散見されるけれども、法的安定性を欠くので私見では奨められない。寧ろ第三国の準拠法、特に世界の取引・法律の中心であるニューヨーク州の準拠法採用を推進すべきであろう。
(平野晋著『国際契約の“起案学”』P105)
当事者はお互いに自国法を主張して譲らないため合意できず、妥協として第三国法を準拠法としたり、何も規定しない場合がある。
準拠法の合意がない場合、裁判所は法廷地の抵触法規定に従って契約に適用される準拠法を決定することができる(たとえば通則法8条)。それでは、わざわざ契約の中で準拠法を指定する必要はないのだろうか。通常抵触法規定においては、特定の連結点から準拠法を決定する方法によっている。これらを決める各国の抵触規定は様々であり、どのような連結点を基準としてどう準拠法が決定されるか当事者からみると必ずしも予測は容易ではない。仮に調査が可能としても時間とコストに見合わない。したがって、契約の中であらかじめ準拠法を合意することは当事者の予測可能性を確保するためにも重要である。
(杉浦保友・菅原貴与志・松嶋隆弘編著『英文契約書の法実務』P71ー72)

交差型準拠法条項を置く


次に、裁判管轄における被告地主義のように、交差型準拠法条項を置くというアイデアはどうでしょうか。つまり、当社が相手方に訴える場合は相手方の国の法を、相手方が当社に訴える場合は日本国法を、と定めるというやり方です。これについても、国際私法の専門家から強く避けるべきであるという指摘があります。

提訴や仲裁申立てがあるまでは準拠法が定まらず、成立・効力などを判断することができなくなってしまい、また、訴訟や仲裁が競合して複数進められる場合には、それぞれが別の準拠法により判断されるという事態になってしまう。いずれにしても、このような条項のもとでは、紛争が生ずる前の段階での契約の解釈に支障が生じ、また、紛争の和解による解決も期待できなくなってしまう。
(道垣内正人著『国際契約実務のための予防法学』P103)

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それならば、「準拠法は譲る代わりに、紛争解決条項はこちらの都合のいい方法・場所に」というバーターでの交渉、これはどうでしょう。実務的にはよく行われているように思われますが、しかし、私は交渉のスタンスとしてあまり合理的とは思えません。準拠法か紛争解決のどっちかを譲れ、というスタンスを法務から表明することは、その2つとも当社として場合により変更が可能で譲る余地があるということの表明にもなってしまいます。そのすると、相手方から「こちらとしては、準拠法も紛争解決手段もどちらも譲れない」と主張された場合の反論が、法務的には「どっちもなんて、そんなのズルい!」しかなく(笑)、結局取引をさっさと始めたい営業的意向も重なってどちらも譲るという、負け犬コースへの道を助長しかねないからです。

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この点、BLJ・ビジネス法務どちらの記事にも指摘がなかったのですが、もっと建設的・合理的なアイデアとして、準拠法を第三国や相手国法に譲る分、その適法性調査や外国弁護士起用についてアドオンでかかる費用とリスクを、営業的な経済条件に転嫁する、という交渉をすべきではないかと私は考えています。単発の売買契約だったら弁護士費用相当額をあらかじめ見積もって売買代金に乗せるとか、ライセンス契約のように販売量によってリスクのボリュームが変動する継続的取引だったらそのリスク分について料率をアップするということです。経済条件にそのコストを上乗せしたがために相手が取引を拒絶したなら、営業的にもその程度のバーゲニングパワーだったということの証左でもあります。なおこの考えによれば、で指摘した紛争解決条項とのバーターを相手方から持ちだされた場合についても同様に、望ましくない方法・場所を受け入れる代わりに経済条件にそれを転嫁する(e.g. 準拠法受け入れ分で+1%、仲裁地受け入れ分で+1%で合計2%ライセンス料率をアップする)考え方を取ってもよいでしょう。


以上、契約は部分ではなく全体をみて考え交渉せよという、至極当たり前のことを長々と書いたに過ぎないのですが、私自身はこれまで相手方からはい里茲Δ淵ファーを受けたことがあまりなく、意外と効果的なソリューションなのでは、と個人的に思っているところです。


関連記事:

紛争解決条項の落とし所 ― 「裁判か仲裁か」「管轄地は自国か相手国か第三地主義か被告地主義か」の議論に終止符を打つ(企業法務マンサバイバル)
【本】国際契約実務のための予防法学 ― 「準拠法は日本法・紛争解決は仲裁で」の一本槍から脱皮する(企業法務マンサバイバル)





【本】国際契約の<起案学> ― 契約英文法のフレームワーク集


前回投稿でご紹介した『体系アメリカ契約法』とセットでどうぞ。





アメリカでは、より良い法律英語の<指導書>が近年多く刊行されるように成って来た。そのような<指導書>の紹介する英文契約こそが、日本人も学ぶべき「正統」な法律英語であるはずである。ところが近年日本で出版されている日本語の本が、果たしてそうのような正統的・レジティメイトな<指導書>を出典表示して来たのかと問えば、残念ながら答えは「否」である。

というわけで、平野先生が自ら<指導書>のエッセンスを日本人向けに和訳しながら整理・体系化してくださったというのがこの本。単なる英文契約のサンプル条項集とは一線を画した、確かな英文契約書を自分で書くための英文法の体系書といったところ。

たとえば、英文契約書起案のスタートラインとして誰もが必ず学ぶことになる、shallやmayの使い方について。日本で刊行されている多くの英文契約書の読み方・書き方本には、
・shallは義務を課す際に、mayは権利を示す際に用いる助動詞
・willはshallとほぼ同義だが、義務の程度はshallより弱い
・mustはほとんど使われない
といった感覚的な解説がなされ、だから義務を表す時はshallを使いましょう、で済まされていたと思います。そしてその根拠は?と言えば、「ネイティブの英米人が起案する契約書の多くでそうであるから」と、その著者の視界だけをもとに書かれているのが実態です。この本ではそこを踏み込んで、作為義務/不作為・禁止義務/債務不存在/無生物主語の義務/効力発生の条件/方針・宣言・・・と、起案のシチュエーションを整理しながら、<指導書>がどのような考え方でshallとmayおよびその他類義語の使い分けをしているのかを、必要以上とも思えるほど丁寧な出典表示を根拠にして解説します。頭の中でごちゃごちゃになった契約英文法のルールを綺麗に整理してくれる、フレームワーク集のような趣すらあります。

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ただし、言葉は生き物でもあります。この本に書いてあることのみが正しい、ほかはすべて間違いだとがんじがらめになる必要はありません。例えば、shallの用法について、この本にはこんな記述があります。

「定義条項」は単に契約書内で用いられる文言の意味を定義しているだけであるし、「準拠法条項」も当事者の債務を規定している訳ではないので、当事者による義務「違反」もあり得ない内容だから、債務にのみ用いるべき「shall」は不適切とされる。(P170)

これを読んで、多くの法務パーソンは違和感を感じるのではないでしょうか。実際、私が知る限り、外国法事務弁護士のネイティブな先生方も、“Shares shall mean all of the issued and outstanding shares of Seller's common stock"のように定義条項でshallを普通に使っていらっしゃいますし、JCAAやICC等仲裁機関が推奨する仲裁条項のひな形には、shallが使われています(例:JCAA「当協会の推薦仲裁条項」)。ネイティブの先生方や機関に「本当はそれ間違いですよ」と否定するためにこの本があるとまで考えてしまうと、かえって混乱します。

そうではなくて、「本来は理論上shallは使わないはずなのだけれども、先例を重視するネイティブの弁護士による契約実務においては、shallが使われることもままある」というふうに受け止めるぐらいで丁度いいのではないでしょうか。フレームワークには例外はつきものだからです。問題は、今までこのような、議論の拠り所となる契約語法について整理してくれた体系書がなかったという点にこそあるのであって、日本で初めて、それをここまでまとめて下さった功績は非常に大きいと思います。

実務で英文契約書をドラフティング・レビューする際にこの本を繰り返し紐解くことで、その経験を血肉に変える効果は2倍にも3倍にもなることでしょう。
 

【本】体系アメリカ契約法 ― 語学力だけでは契約書は作れない


これを読み終わって、英文契約をきちんと読み書き交渉できるようになるには、語学として英語を懸命に勉強しているだけでは進歩はなくて、アメリカ契約法を勉強すべきであったなあという当たり前を痛感しました。考えてみれば、日本語を国語学者のように研究したところで、和文契約を作れるようにはならないですもんね。


体系アメリカ契約法
平野 晋
中央大学出版部
2009-04



古くは早川武夫先生、中村秀雄先生、長谷川俊明先生が書かれている本など、英文契約独特の語法や条文の持つ意味について詳しく解説してくださる本には、沢山の良書があります。そして最近では、“Working with Contracts”の和訳本まで出版されています。しかし、その語法や言い回しの前提となる契約法そのものから体系的に解説してくれる本はと言えば、樋口範雄先生の『アメリカ契約法』ぐらいしかなく、あとは英語の原書でロースクールの教科書を読むしかないのか、と思っていたら、この本があったのですね。

本書は、「アメリカ契約法」の「概説書」である。学術と実務の融合を目指した「実学」の書でもある。本書が実学を強調する理由は、アメリカ契約法がそれを重視しているからである。
勉強熱心な社会人の受講生達からは、巷に数多く出回っている書籍の物足り無さに就いての苦情を多く耳にする。曰く、謂わゆる英文契約の「実務書」では学術面が不足しがちである。更に曰く、アメリカ契約法に関する邦語の体系書が無く、手に入る「翻訳本」は読み難い、と言うのである。それならば、これらの欠缺を「穴埋め」しようと思ったのが、本書執筆の動機である。

この「はじめに」が決して言葉だけのものではないというところは、契約違反に対する救済についてのコモン・ローと衡平法(エクイティ)の違いを解説するこの部分を読んでいただければ、伝わるのではないかと。

コモン・ロー上の救済原則である「損害賠償」(damages)とは、即ち「金銭賠償」(judgement for monetary damages)を意味する。救済の原則は、契約上の「約束に代替する」(substitutional)金銭賠償(pecuniary)であり、「約束それ自体を特定的」(specific)に履行するように命じる「特定履行」(specific perfomance)等は例外的にしか認容されない。
(中略)
金銭賠償が原則で特定履行が補助的というアメリカ契約法上の救済は、大陸法に比べた場合の英米法の大きな特徴の一つでもある。

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以上のような英米法の特異性が生じた理由は、そもそも英国からアメリカにも引き継がれた二つの裁判制度に由来する。即ち嘗ては「コモン・ロー裁判所」と「衡平法裁判所」という二つの裁判制度が並立していて、裁判所の下す判決の呼び方から裁判官の名称までも以下(図表#5.3)のように異なっていた。

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コモン・ロー裁判所と衡平法裁判所は後に統合されるけれども、それ以前には、後者による前者の侵食が嫌われて、衡平法上の救済はあくまでも「extraordinary」(非常)であって、コモン・ロー上の救済が「適切」(adequate)である限りは認められない原則が確立したのである。

日本法でいう民法634条みたいな発想が当たり前と思ってドラフティングしてると大間違いってことなんでしょうね。

600ページを超える大部となる本書は、ケース(判例)を紹介しながら、法源であるRESTATEMENT・UCCに加え、国際取引法のスタンダードとしてのCISG,UNIDROIT Principlesなどを関連付けながら紐解き、かつそれを具体的な条文にどう反映させるべきかまで解説。雰囲気としては、内田『民法供丙銚各論)』に河村『契約実務と法』の要素を加えたような感じで、アメリカ契約法を読み解いていきます。『契約実務と法』(2月に改訂版がでるようです)は私が和文契約の教科書として指定しているものですが、英文契約の教科書としてはこの本を推します。

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著者平野晋先生は、より具体的な語法・ドラフティングの技術についても、別の本に分けて刊行されています。その本については、次回あらためてご紹介させて頂きます。
 

REGISTERED APPLE DEVELOPER AGREEMENT ― 8. Compatibility Labs; Developer Technical Support (DTS).(互換性ラボおよび技術支援の利用)

 
8. Compatibility Labs; Developer Technical Support (DTS). では、Apple社が提供する互換性ラボと技術支援の利用条件について規定されています。


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As a Registered Apple Developer, You may have access to Apple’s software and hardware compatibility testing labs (“Compatibility Labs ”) and/or developer technical support incidents (“DTS Services ”) that Apple may make available to you from time to time as an Apple developer benefit or for a separate fee. You agree that all use of such Compatibility Labs and DTS Services will be in accordance with Apple’s usage policies for such services, which are subject to change from time to time, with or without prior notice to you. Without limiting the foregoing, Apple may post on the Site and/or send an email to you with notices of such changes. It is your responsibility to review the Site and/or check your email address registered with Apple for any such notices. You agree that Apple shall not be liable to you or any third party for any modification or cessation of such services.

別料金ではありますが、Apple社が提供する互換性テストラボと技術支援サービスを利用できることが書かれています。ハードウェア含めた互換性を確認できるラボは、日本でも初台のAppleジャパン本社で提供されているそうです。注意したいのは後段で、Appleがデベロッパー向けのサービスサイトで提供するものは、予告なく変更や停止ができると定められている点。

As part of the DTS Services, Apple may supply you with certain code snippets, sample code, software, and other materials (“Materials ”). You agree that any Materials that Apple provides as part of the DTS Services are licensed to you and shall be used by you only in accordance with the terms and conditions accompanying the Materials. Apple retains ownership of all of its right, title and interest in such Materials and no other rights or licenses are granted or to be implied under any Apple intellectual property. You have no right to copy, decompile, reverse engineer, sublicense or otherwise distribute such Materials, except as may be expressly provided in the terms and conditions accompanying the Materials.

DTSサービスの過程でApple社が提供するソフトウェア類については、権利がApple社に留保され、複製やデコンパイルサブライセンスその他を原則認めないとあります。この文言、何度目でしょうか(笑)。

You agree that when requesting and receiving TECHNICAL SUPPORT FROM DTS SeRVICES, you will not provide Apple with any INFORMATION, including that incorporated in your software, that is confidential to you or any third party. YOU AGREE THAT Any notice, legend, or label to the contrary contained in any SUCH materials provided by you to Apple shall be without effect. Apple shall be free to use all information it receives from you in any manner it deems appropriate, subject to any applicable patents or copyrights.

この条項はちょっと変わってます。DTSサービスの技術支援を受ける際に、自社および他社の秘密情報をApple社に提供してくれるな、したとしてもApple社は何の負担もなく自由に使いますよ、と。

Apple reserves the right to reject a request for DTS Services at any time and for any reason, in which event Apple may credit you for the rejected support request. You shall be solely responsible for any restoration of lost or altered files, data, programs or other materials provided.

なお、Apple社はDTSサービスの申込みをリジェクトする権利があり、その場合修復や変更はデベロッパー責任で行うべきこととされています。
 

REGISTERED APPLE DEVELOPER AGREEMENT ― 7. Paid Content License and Restrictions. (有料コンテンツの利用許諾と制限)

 
7. Paid Content License and Restrictions. は有料コンテンツの利用許諾と制限についてです。一年単位で支払う登録料以外は基本的に無料であるデベロッパーアカウントですが、有料コンテンツも存在しており、そのコンテンツにのみ適用される条項になります。


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As a Registered Apple Developer, you may have access to certain proprietary content (including, without limitation, video presentations and audio recordings) that Apple may make available to you from time to time for a separate fee (“Paid Content ”). Paid Content shall be considered Apple Confidential Information, unless otherwise agreed or permitted in writing by Apple.

Apple社が提供するコンテンツのうち、個別に課金するPaid Contentがあること、そのPaid Contentは原則として秘密情報とみなされる、とあります。

You may not share the Paid Content with anyone, including, without limitation, employees and contractors working for the same entity as you, regardless of whether they are Registered Apple Developers. Subject to these terms and conditions, Apple grants you a personal and nontransferable license to access and use the Paid Content for authorized purposes as a Registered Apple Developer; provided that you may only download one (1) copy of the Paid Content and such download must be completed within the time period specified by Apple for such download.

Paid Contentはデベロッパー間でもシェア不可であること、利用にあたってはApple社の許諾条件に従うこと、複製物は1つに限りDL可能であって定められた期間内にDLを完了する必要がある、とあります。

Except as expressly permitted by Apple, you shall not modify, translate, reproduce, distribute, or create derivative works of the Paid Content or any part thereof. You shall not rent, lease, loan, sell, sublicense, assign or otherwise transfer any rights in the Paid Content. Apple and/or Apple’s licensor(s) retain ownership of the Paid Content itself and any copies or portions thereof. The Paid Content is licensed, not sold, to you by Apple for use only under this Agreement, and Apple reserves all rights not expressly granted to you. Your rights under this license to use and access the Paid Content will terminate automatically without notice from Apple if you fail to comply with any of these provisions.

Paid Contentといえども、権利を売却するものではなく、全ての権利はApple社に留保され、修正、翻訳、再製、貸与、譲渡等は禁止されています。契約違反の場合はPaid Contentのライセンスを予告なく終了するともあります。


相変わらず、知的財産の不正利用に対しては神経を尖らせていることがわかります。
 

REGISTERED APPLE DEVELOPER AGREEMENT ― 6. Confidential Pre-Release Materials License and Restrictions.(プレリリース製品の利用許諾と制限)

 
6. Confidential Pre-Release Materials License and Restrictions.は、第4条で定義されていた発表前のプレリリース製品の利用許諾の範囲と利用にあたっての制限事項について述べている条文となります。


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If Apple provides you with Pre-Release Materials, then subject to your compliance with the terms and conditions of this Agreement, Apple hereby grants you a nonexclusive, nontransferable, right and license to use the Pre-Release Materials only for the limited purposes set forth in this Section 6; provided however that if such Pre-Release Materials are accompanied by a separate license agreement, you agree that the license agreement accompanying such materials in addition to Sections 4 and 5 of this Agreement shall govern your use of the Pre-Release Materials. You further agree that in the event of any inconsistency between Section 4 and 5 of this Agreement and the confidentiality restrictions in the license agreement, the license agreement shall govern.

プレリリース製品の提供は、非独占的、譲渡不能な利用制限付ライセンスの許諾というかたちで行われます。なお、そのプレリリース製品に特別なライセンス条件が定められているときは、この契約の秘密保持義務に加えてその条件が適用され、さらに、その特別な契約のライセンス条件と矛盾する場合は、そちらが優先されるとも書かれています。

You agree not to use the Pre- Release Materials for any purpose other than testing and/or development by you of a product designed to operate in combination with the same operating system for which the Pre-Release Materials are designed.

プレリリース製品の利用は、デベロッパーのアプリの動作確認および開発用途に限定されています。この利用目的の制限からも、リリース前のiOSなどのレビュー記事をブログに上げるのはNGということになりますね。

This Agreement does not grant you any right or license to incorporate or make use of any Apple intellectual property (including for example and without limitation, trade secrets, patents, copyrights, trademarks and industrial designs) in any product. Except as expressly set forth herein, no other rights or licenses are granted or to be implied under any Apple intellectual property.

この契約が、アップルの知的財産権の許諾を黙示的にも意味するものではないことを確認しています。タダなんだから当たり前だよね、とも思いますが、アメリカ契約法では特に「契約書に書いていないことは、契約書を作成した事業者に不利に解釈される」という考え方もあるので、分かりきったことでもあえてこのように誤解のないように明記されます。

You agree not to decompile, reverse engineer, disassemble, or otherwise reduce the Pre-Release Materials to a human-perceivable form, and you will not modify, network, rent, lease, transmit, sell, or loan the Pre-Release Materials in whole or in part.

プレリリース製品をデコンパイルするなど、人間が知覚可能な形式にしたり、変更したり譲渡したりすることを禁じています。第3条でもすでに同じような言い回しがでていましたので、合わせて確認しておきましょう。
 

Apple社に対するFTC命令が意味するものとその影響

 
年始のIT系法務キーワード・テーマ大予測企画で「プラットフォーマーに対する規制が強化されるんじゃないか」と書いたら、早速それが現実のものとなり始めているようです。


米アップル、ゲーム課金で34億円返還 利用者に (日経新聞)

携帯端末ゲームで親の許可なく子どもに無制限に課金していたとして、米連邦取引委員会(FTC)は15日、米IT(情報技術)大手アップルが、少なくとも3250万ドル(約34億円)を利用者に返還することで合意したと発表した。

問題になったのは、ゲームの追加アイテムを購入する仕組み。FTCは、親が一度パスワードを入力すると、15分間は無制限に購入が可能な点を重視。ペットを育てるゲームで2600ドルを浪費した子の例を挙げた。

FTCとの和解条項では、アップルは親の許可なくアイテムを購入した対象者に、支払額を全額返還。FTCは親の明示的な同意がなければ追加購入ができないよう課金方法を変えることをアップルに求めた。

FTCが示す「プラットフォーマーの責任」


報道にあった「少なくとも3250万ドル(約34億円)」の意味がよく分からなかったこともあり、FTC命令(ORDER)原文を読んでみました。

AGREEMENT CONTAINING CONSENT ORDER

FTCORDER


これによると、
・Appleは、FTCが定めた返金方法に従って対象者から申請された全額を返金する
・返金総額が3250万ドルを下回ったら、その下回った分をFTCに対し(罰金として)支払う
とあります。どこまでさかのぼって返金するかの期限も定められておらず、3250万ドルを上回る可能性もあると。Appleは、返金手続きにおいて、申請時にユーザーから子どもが同意なく利用したという証拠を提出させて、詐欺的な申請については支払いを拒絶できると定められているのですが、現実問題としては、返金額の多さよりも、この確認手続きに相当の負荷がかかるであろうことが予想されます。

また、日経の記事では、ゲーム課金のみが返金の対象のように記載されていますが、FTC ORDERにはそのような限定はありません。さらに、報道では触れられていませんが、強制される返金の対象者は米国居住者に限定されることが明記されています。

あわせて私が注目したのが、FTCのプレスリリースにあったこのFTCチェアウーマンによる“勝利宣言”です。

Apple Inc. Will Provide Full Consumer Refunds of At Least $32.5 Million to Settle FTC Complaint It Charged for Kids’ In-App Purchases Without Parental Consent

FTCPRESS


“This settlement is a victory for consumers harmed by Apple’s unfair billing, and a signal to the business community: whether you’re doing business in the mobile arena or the mall down the street, fundamental consumer protections apply,” said FTC Chairwoman Edith Ramirez. “You cannot charge consumers for purchases they did not authorize.”

ORDERの内容とこの“勝利宣言”をあわせ読むと、FTCは、スマートフォン×ストアをコアとしたプラットフォームサービスにおける課金については、コンテンツを作ってプラットフォームに乗せているデベロッパー(アプリ開発者)ではなく、その販売・決済を牛耳っているプラットフォーマーがユーザーに対し責任を負うべきである、という姿勢を明確にしてきたことが伺えます。

これに対しては、子ども自身やその親の責任も問われて然るべきである、という声もあろうかと思いますし、その点については私も同感ですが、やはり年始の予測どおり、プラットフォーマーに対する規制強化の機運が高まって行くことは避けられないようです。

デベロッパーへの影響


さて、当局としてのプラットフォーマーとデベロッパーの責任分担に対する認識はこれで明らかになったとはいえ、デベロッパーへの影響がまったくないのかは気になるところです。

デベロッパーとして真っ先に気になるのは、プラットフォーマーが対象者に返金した売上は、デベロッパーはきちんと回収できるのか?それとも売上自体が亡きものとされてしまうのか?という点でしょう。今回のApple社の件について言えば、iOSデベロッパー規約の別紙としてin-App Purchase(アプリ内課金)の条件を定めているSchedule2 に、返金に関する下記条項があります。この規定を最大限活用する立場からは、消費者からの申立に基づいて返金する金額のうち90日以内の売上については、キャンセルしてくることが予想されます。

6.3 In the event that Apple receives any notice or claim from any end - user that: (i) the end - user wishes to cancel its license to any of the Licensed Applications within ninety (90) days of the date of download of that Licensed Application by that end - user or the end of the auto - renewing subscription period offered pursuant to section 3.8, if such period is less than ninety (90) days; or (ii) a Licensed Application fails to conform to Your specifications or Your product warranty or the requirements of any applicable law, Apple may refund to the end - user the full amount of the price paid by the end - user for that Licensed Application. In the event that Apple refunds any such price to an end - user, You shall reimburse, or grant Apple a credit for, an amount equal to the price for that Licensed Application. Apple will have the right to retain its commission on the sale of that Licensed Application, notwithstanding the refund of the price to the end - user.


ニュースを受けて、業界では、「Appleのみならず各プラットフォーマーが、今回のような公権力による命令に基づく返金分も無限定にデベロッパーに求償できるように、デベロッパー規約の返金規定を変更してくるんじゃないか?」と話題になっています。しかし、それをやってしまうとさすがにFTCにも角が立つことになるでしょう。私はそうではなく、ユーザーに対するアプリ内課金プロセスの安全性強化策の導入を、デベロッパーに対して強いてくる可能性が高いと予想します。

さてそうなったときに、デベロッパーとしてアプリ側で何ができるか/すべきかを、今から考えておく必要がありそうです。
 

【本】キャラクター戦略と商品化権 ― 商品化権はコンテンツ知的財産権の総合芸術

 
TBSが1963年に放送した「エイトマン」がアメリカのテレビ局に買われることになった際、その契約書の原案にMerchandising Rightsという言葉があり、この経験をもとに「スーパージェッター」のキャラクターをTBSが国内玩具メーカーに対してライセンスする際にはじめて使われたのが、日本における「商品化権」のはじまりである。

と、そんなエピソードの紹介から始まる、とても興味深い本をご紹介します。





電気通信、放送、広告、そしてウェブサービスに携わる中で、ある程度はコンテンツの知的財産権というものについて理解も実践もしてきたつもりが、今の業界で著作権や商標権の本当の奥深さを知り、最近ではこれまでほぼ未体験ゾーンだった意匠権との関わりまで考えなくてはならなくなって、己の勉強不足を痛感しております。そのコンテンツの知的財産権の中でも、総合芸術とも言うべきものが、キャラクターの商品化権だと思います。

商品化権とは、基本的に契約により権利者に設定される権利であって、法定されているものではありません。そして本書の著者は、その権利の曖昧さから生まれている紛争の多さに鑑みて、商品化権を法令で定めるべきと主張しています。一方で、現時点でも実定法や判例で認められた権利が何もないわけではありません。この本で観点として取り上げているものだけでも
・著作権
・商標権
・意匠権
・不正競争防止法
・パブリシティ権
そして、これらを束ねる一般法としての民法(不法行為法・契約法)の存在を挙げることができます。

「キャラクターの商品化だったら、著作権の許諾だけで十分なんじゃないの?」という声もあるでしょう。しかし、たとえば
  • キャラクターの絵(平面)からぬいぐるみ(立体)を作ったときに、著作権法第27条の規定する「変形」がこれをカバーしうるのか、それは意匠法のみがカバーしうるのでは、という論点(P121ー128)
  • あるキャラクターを想起させる文字列や図柄を商標として登録した権利者に対して、そのキャラクターの著作権者が対抗しうるのか、という論点(P270ー277)
などの例を見てもわかるように、著作権の処理だけでは、キャラクターの商品化を安心して行えるとは必ずしも言えなさそうだ、ということが分かるのではないでしょうか。

様々な法令の使える部分を武器にしつつも、その法令と法令の間に存在するスキマを契約で埋めて“編んで紡いで”いく。法務パーソンとして商品化権を扱うとき、そんな作業が楽しくもあり、実に難しくもあるわけです。本書は、このようなスキマに生じた紛争判例を数多く取り上げながら、どのような視点で商品化権を契約によって構成すべきかを教えてくれる、他に類を見ない本となっています。


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ご紹介の最後に、法令のスキマの埋め方、契約の編み方・紡ぎ方についての貴重な示唆がなされている部分をご紹介させていただきたいと思います。これは、私自身Evernoteに入れて「家訓」にしているものです。

漫画キャラクターの商品化のための使用許諾をするに際して必要な基本的条件について、ウォルト・ディズニー・プロダクションではどのように考えているかについて、同社のフランクリン・ワルドハイム氏の論文から紹介しよう。これは1964年の論文であるから、今日では多少事情が変わっているかも知れないが、基本的条件は現在でも十分通用するものである。
  1. 使用されるキャラクターと使用される物品とを具体的に特定すること。
  2. 場合によっては、異なる製造者が同じ物品を異なった価格で製造することを認めること。けだし、価格の異なる物品が同一市場で、競って売られることはないからである。ただし、その物品が、ある一定の価格で売られなければならないという取り決めを契約でしてはならない。けだし、このような価格の固定は独占禁止法に違反するからである。
  3. 物品が製造され販売される地域を特定すること。――使用権者の中には、生産コストの安い国で製造させ用途する者がいるが、これはその外国の製造者がその注文主である使用権者だけに売ることを誓約させる条件のあるときに限って認められる。したがって、使用権者の仕様権が契約期間の満了などで消滅した時は、そのキャラクターの商品化に使われた金型や仕掛品をすべて破棄させなければならない。
  4. 使用の有効期間および更新するための期限について定めること。
  5. 使用料について定めること。――この使用料は前払い制であること。
  6. キャラクター使用権とは、そのキャラクターを、被許諾者に与えられたままのデザインを、外観を変更せずに複製(reproduce)する権利をいう。
  7. そのキャラクターに関するすべてのもの(物品・包装紙・容器・広告など)の製造は、許諾者による承諾が必要であること。――これは、キャラクターの完全性を保つために必要である。
  8. 使用権者が製造するキャラクター入りの物品デザインは、できれば許諾者にまかされ、許諾者が創作したデザインに要した費用は、使用権者によって支払われること。
  9. キャラクターが使用される物品の種類・品質・価格などの必要事項を、許諾者に定期的に報告させること。
  10. キャラクターについての著作権・商標権などのいかなる権利も、使用権者に譲渡されるものではないこと。
  11. キャラクターに関する全商品には、正当な著作権表示を付すること。
  12. 使用権者は、許諾者の承諾があるならば、商品が販売される地域内で、キャラクターを使用した商品を陳列、宣伝することができる。――この場合、許諾者にとって注意しなければならないのは、キャラクターとその制作者がつくり出した公のイメージを傷つけるような広告が使われないようにすることである。
  13. 使用権者は、許諾者の承諾がない限り、キャラクターを使用した商品をラジオ・テレビ・広告掲示板などで宣伝してはならない。使用権者が無制限に宣伝するときは、ラジオ・テレビ番組の評価に悪影響を及ぼすことにもなる。
  14. 使用権者は、製造販売した物品が他人の特許権等を侵害した場合に、許諾者に全く迷惑を与えないようにしなければならない。
  15. 使用権者が、その物品の製造販売ができなくなり、契約が有効に履行されないときは、許諾者はその契約を解除することができる。
  16. 契約の有効期間満了後もなお使用権者の工場や倉庫に物品が残存しているときは、すべて許諾者において処分する権限をもつことがよい。――これは、使用権者が期間満了後に投げ売りすることを防止することになる。
  17. 使用許諾権は、譲渡されてはならないようにすべきである。
  18. 契約上の一つの重要な問題は、使用権者は通常、一つの物品についてはそのキャラクターの使用の独占権を欲する。したがって、許諾者としては、同一の物品に同一のキャラクターを複数の者に許諾して競争させることは望まない。――しかし、契約上は、独占的な許諾の条件は与えない。その理由の一つは、物品の領域を正確に決定することは難しいからである。一つの物品が、別の物品の機能を備えた新しい物品(例、鉛筆に対し電灯付鉛筆)の例はいつもある。しかし、このような物品の重要性はどちらの許諾者にとっても重要な問題にはならないだろう。理由の他の一つは、使用権者が、一般大衆がそのキャラクターを使用した物品を強く要求しているのに、その要求を満たすことの出来ない場合に対処しなければならないことがあるからである。

REGISTERED APPLE DEVELOPER AGREEMENT ― 5. Nondisclosure and Nonuse of Apple Confidential Information.(秘密情報の不開示と利用制限)

 
5. Nondisclosure and Nonuse of Apple Confidential Information.は、前条(第4条)で定義された秘密情報の取扱いに関する具体的な義務を定めた規定になります。


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Unless otherwise expressly agreed or permitted in writing by Apple, you agree not to disclose, publish, or disseminate any Apple Confidential Information to anyone other than to other Registered Apple Developers who are employees and contractors working for the same entity as you and then only to the extent that Apple does not otherwise prohibit such disclosure.

Appleが書面で認めない限り、秘密情報を開示・公開してはならない旨規定しています。disseminate(=ばら撒く)は契約書ではあまり見かけない単語です。なお、デベロッパーと同一の組織内で働く従業員やコントラクターに対しては、Apple社が(他の契約で)開示を禁止していない限りにおいて開示が認められています。


Except for your authorized purposes as a Registered Apple Developer or as otherwise expressly agreed or permitted by Apple in writing, you agree not to use Apple Confidential Information in any way, including, without limitation, for your own or any third party’s benefit without the prior written approval of an authorized representative of Apple in each instance.

この2文目では、秘密情報を自己や第三者の利益になるような使い方をするなど、Apple社の権限ある者の事前書面承諾がない限り、目的外に使用してはならないと規定しています。


You further agree to take reasonable precautions to prevent any unauthorized use, disclosure, publication, or dissemination of Apple Confidential Information. You acknowledge that unauthorized disclosure or use of Apple Confidential Information could cause irreparable harm and significant injury to Apple that may be difficult to ascertain. Accordingly, you agree that Apple will have the right to seek immediate injunctive relief to enforce your obligations under this Agreement in addition to any other rights and remedies it may have.

デベロッパーはこれらの秘密保持・管理義務を守るために必要な注意を払うべきこと、そしてそれが守られなかった時にはApple社に多大な損害が発生することを認識し、それが故に、Apple社が差止め請求権を含むあらゆる強制措置をとる権利を持つことを確認しています。


If you are required by law, regulation or pursuant to the valid binding order of a court of competent jurisdiction to disclose Apple Confidential Information, you may make such disclosure, but only if you have notified Apple before making such disclosure and have used commercially reasonable efforts to limit the disclosure and to seek confidential, protective treatment of such information. A disclosure pursuant to the previous sentence will not relieve you of your obligations to hold such information as Apple Confidential Information.

デベロッパーは、法令や裁判所命令等から秘密情報の開示を要求された場合であっても、Apple社にそれを知らせるとともに、開示が最小限の範囲にとどまるよう合理的な配慮を尽くすべき義務があるとされています。また、この法令や命令に基づく開示の対象となった情報であっても、この契約で保護すべき秘密情報から除外されない(第4条に定められている秘密情報の適用除外には当たらない)ことを確認しています。


英文の秘密保持契約書を見慣れている方にとっては、外国企業からしばしば提示されるテンプレート的な条文ではありますが、個人のデベロッパーの方ですと、何の意味があるのかも分からないかもしれませんね。
 

REGISTERED APPLE DEVELOPER AGREEMENT ― 4. Confidentiality.(秘密情報の定義)


4. Confidentiality. では、秘密情報の定義がされています。ここで秘密情報に該当する情報は、次条の5. Nondisclosure and Nonuse of Apple Confidential Information. で開示・利用が制限されていますので、この定義に当てはまる情報はなにかをしっかりと理解しておくことが重要です。


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You agree that any Apple pre-release software and/or hardware (including related documentation and materials) provided to you as a Registered Apple Developer (“Pre-Release Materials ”) and any information disclosed by Apple to you in connection with Apple Events or Paid Content (defined below) will be considered and referred to as “Apple Confidential Information ”.

デベロッパー向けに提供したあらゆるリリース前の製品、情報、Paid Content(これらを総称して“Pre-Release Materials”と呼んでいます)については、秘密情報として取り扱え、と書かれています。これだけですと、Apple社から受け取った情報はなんでもかんでも秘密として管理しなければならなくなってしまうわけですが・・・

Notwithstanding the foregoing, Apple Confidential Information will not include:
(i) information that is generally and legitimately available to the public through no fault or breach of yours,
(ii) information that is generally made available to the public by Apple,
(iii) information that is independently developed by you without the use of any Apple Confidential Information,
(iv) information that was rightfully obtained from a third party who had the right to transfer or disclose it to you without limitation, or
(v) any third party software and/or documentation provided to you by Apple and accompanied by licensing terms that do not impose confidentiality obligations on the use or disclosure of such software and/or documentation.

下記の5種類の情報については、秘密情報に含まないものとして除外しています。法務目線では、(5)号の規定は丁寧に作文してあるなぁと唸らされる文言です。
(1)デベロッパーの契約違反ではない理由で公になった情報
(2)Apple社が公にした情報
(3)秘密情報に依拠せずに独自にデベロッパーが開発した情報
(4)正当な開示権限を持つ第三者から制約を負うことなく適法に入手した情報
(5)Apple社から提供されたものであるが、そのライセンス契約の条項において秘密保持義務が課されていないサードパーティ製品・文書


さて、この条項に関してよく話題に上がるのが、デベロッパー向けに先行して開示された新しいOSのbetaバージョンのスクリーンショットやその機能に関する情報が、本規定における“Apple Confidential Information ”に当たるかどうかです。もし、これが秘密情報にあたるとなると、個人ブロガー等がデベロッパーアカウントでDLし入手した情報で解説記事を書くことも、次条の5. Nondisclosure and Nonuse of Apple Confidential Informationで規定される開示・利用制限に違反することになります。つい最近も、iOS7のbeta版がリリースされた際、こんな論争になってました。この論争の顛末にもあるとおり、結論としては、デベロッパーアカウントから入手した情報で解説記事を書く行為はRADA違反となりますので注意しましょう。

iOS 7についてのエントリーがNDA違反ではないかというお話。

なお、Apple社の許諾のもとで大手メディアが先行公開した情報は、上記「(2)Apple社が公にした情報」に該当するはずなので、その情報に依拠して論評を加えている限りにおいては、違反とはならない余地があります。
 

コモン・ロー型法務への転換(追記あり)

 
私がブログにとりあげる(法律書評以外の)ネタは、「法律の条文や法律実務書に答えが書かれていない、世の中に起こりはじめている新たな法的問題を、どう分解して考えるべきか」という視点で取り上げるようにしています。たとえば、ちょっと前のネタではUstreamの音楽配信自炊代行などの著作権周辺問題、最近のネタではパーソナルデータなどのプライバシー関連問題などがそう。なぜって、瑕疵担保責任とはなにかとか、典型契約の条文の知識とかを私が解説したところで、偉い先生方がすでに書いたものを写したような内容がせいぜいになりますし、その深みと比較されたら、太刀打ちできませんしね・・・。

しかし、これはブログだけでなく仕事上もそうで、数年前と比較しても、条文や実務書を見たら答えが書いてあった、なんていうことは少なくなって来ていますし、どこを調べても書いてないからわかりません、では仕事にならなくなっています。今いるのがエンタメという少し特殊な業界だから変化が激しいのかなあなどと漠然と思っていたものの、そういった著作権やITといった法分野に限らず、最近では、仕事で携わる会社法や税法などの分野でも、条文や実務書等には答えのない法的論点との出会いが増えています。


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その度に、本当にこれは新しいことなのか?実は先例がどこかにあるのではないか?そこから疑ってかかるわけですが、この「条文ではなく先例から探る」仕事の仕方ってどうもコモン・ロー的すぎるし、曲がりなりにもシビル・ローの国の法務パーソンとしてそれで本当にいいのだろうか、と思っていたところに、こんな沁みるコラムを見つけました。


海の向こうのコモン・ロー:「法律」がない国々(アンダーソン・毛利・友常法律事務所 企業法務の窓辺)
「コモン・ロー」や「シビル・ロー」といった言葉自体多義的なため、本来はきちんとした定義をする必要がある。しかしながら、厳密さには目を瞑り、非常に大雑把に言うと、コモン・ローとは先例主義であって、制定法ではなく判例を中心とする法体系であり、他方でシビル・ローとは制定法(法典)を中心とする法体系である。
アメリカにおいても、会社法、証券法、倒産法など法律(条文)がある分野も存在する。こうした分野では、一見、コモン・ローとシビル・ローとではそれほど変わらないようにも思える。しかし、そうした分野でも条文の意味、位置づけは日本とは相当に異なる。
アメリカでは、日本の弁護士が行うようなコンメンタールや立法担当者の解説の参照という作業はあまり見たことがない。そもそもコンメンタールといった類の体系的な書籍や、立法担当者の解説といった類の文献自体があまり存在しない。余談だが、アメリカの法律事務所の弁護士の部屋を見てまず驚いたのは、その本棚に置かれた本の少なさである。無論、書籍のオンライン化が進んでいるという事情もあろうが、オンラインで検索できる判例がより重要ということもできるのだろう。そうした作業の結果としての法律的な分析は、どことなく「ファジー」であるという印象が否めない。確立したルールを前提にそのルールの適用を考えるのではなく、ルール自体が特定の事実を前提にしたものであり、事実が変われば適用されるルールが変わり得るからである。さらには、裁判所の判決によりルールが変わったり、新しいルールが確立したりするため、制定法と比べるとルール自体が「ファジー」ともいえる。
経験に裏打ちされた「勘所」がなければ、判例の射程距離の分析どころか、適切な判例・ルールを探すことさえ覚束無い。そして、常に新しい判例に気を配らなければならない。こうして、アメリカン・ロイヤーは日々勉強し、凌ぎを削っている。しかし、その姿勢は、私の知るジャパニーズ・ロイヤーと同じだった。つまるところ、「弁護士の姿勢はコモン・ローであろうとシビル・ローであろうと変わりはない」というのが回答なのかもしれない。


経験に裏打ちされた勘所が共通して重要、法体系とは関係ないとのメッセージに安堵しつつ、しかし、私に不足しているのは、先例に当たる量とその最新の先例を調査する手段の少なさだなと再認識。

判例百選などで最高裁判例だけを聞きかじって終わりではなく、判例データベースを個人のツールとして備え持ち、それを武器として使いこなせる能力が当然に必要になってくるでしょう。さらには、コモン・ローの国での商売も増える一方であり、当該国の先例・判例が調べられるデータベースと、勘所を働かせるための前提知識としての学問としてのコモン・ロー知識の必要性は、(それこそ先例主義の国で先例を調べないのは本末転倒なわけで)ひしひしと実感しています。

後者については、いまさらながら自分自身がキャッチアップに努力しつつも、やはり組織としてはコモン・ローの国でLLM、あわよくばJDとしてしっかり学んだ方であることを求人要件とした採用も、積極的に考えなければならなくなるでしょう。誰かいい方がいらっしゃれば是非ご紹介くださいませ。
 

2014.1.11 追記:

『日々、リーガルプラクティス』のCeongsuさんが、応答エントリ(などというのは大変おこがましいのですが)を書いて下さっています。きちんと勉強されている方の深みのあるコメントに、自分の浅学非才を恥じるばかりです。

証拠法と民事訴訟法の勉強にこだわる理由〜日米間の法制度の最大の違い
米国の弁護士・企業内のインハウスロイヤー(米国では各州の弁護士倫理規定上、企業内であろうと、法律業務は有資格者しかしてはいけないことになっています。例として、Model Rules of Professional Conduct §5.3参照。)が常に気を向けているのは、やはりこの陪審員制度及び陪審員による心証形成に関してであるかと思います。当然、日本でも裁判官の心証形成を考えて弁護士の方は日々対応されているかと思いますが、成文法の国で、かつ裁判所の統一性のレベルが高い日本では、その心証による結果の相違の振れ幅は、米国の陪審員のそれと比べると、やはりだいぶ狭いと考えています。

そのため、米国のLitigation Lawyerたちは、適用されるCase Lawの調査は同じチームの弁護士やアソシエイト又はパラリーガルに任せ、日々黙々と陪審員の心証形成をいかによくして、またいかに相手方にとって自社がその観点から有利な立場にいるように見えるか、ということを意識しながら、どう好ましい和解案を獲得するかなどを考えている方が少なくないと思います。逆に陪審員が絡まない事例(独禁法関連等)となる場合には、過去の行政の判断過程や裁判所等の判断内容及びその理由の分析・検証などがより深くなされると思いますので、「何を深く分析・検証・検討する必要があるか」という判断をする場面でも、陪審員裁判制度が実務に大きな影響を与えているはずだと考えています。
そういった観点からすると、弁護士や企業法務が行う努力の大枠は日米間で変わらないとしても、米国法に関連して本当に微妙な事案で物事を判断するには、陪審員裁判に特有な証拠法とか訴訟手続法を理解していないと、先行的な対応はできないのではないか、という気がしております(だからデポジションの話題も過去に取り上げてみたのですが。。。あ、そういえば、当該シリーズの最後の投稿を忘れていました。。。近日投稿します。)。

補足:証拠法と民事訴訟法の勉強にこだわる理由〜日米間の法制度の最大の違い
判例を学ぶというのは、成文法の国である日本では法律の条文がどう適用されるか、つまりRule以上にApplication(Ruleがどう適用されるか)を学ぶ、ということだと思いますが、コモンローの国でも、Ruleが判例で形成されることが多いとは言え、やはり判例を読む上で重要なのはApplicationを学ぶことだと思います。

そういった意味で、判例の重要性は日米間に大枠の違いはないものの、そのApplicationが陪審員によって行われているのが米国である、そこに大きな違いがある、と言えば、先ほどの投稿はもっと分かりやすかったかもしれない

日本でインハウスローヤーとして働く弁護士のみなさんも、やはり訴訟手続法部分の実務経験が強みであり、それがあるからこそ目には見えにくいところで無資格者の仕事とはアウトプットに差が出ると感じていらっしゃる(ただし日本の企業法務においては訴訟が少ないので実際に活用できる機会が極端に少ないという悩みも聞きますが)のと、Ceongsuさんが仰っていることは重なりますね。

※なお、1点だけ私のエントリの主旨を補足させていただきますと、「日本の企業法務も、米国のように判例をもっと重視して、条文の適用など無視して良い」とまで言いたいわけではありません。仕事の仕方として、何か問題が発生した時にその手がかりを条文やその解釈を書籍で探すのではなく、世の中で実際に発生した先例を探すアプローチをとるということは、適用できる条文がほとんどない新問題・新分野においては、必ずしも悪ではないのではないか、という主旨でした。まあ、いずれにせよ浅いエントリです。
 
ありがとうございました。
 

REGISTERED APPLE DEVELOPER AGREEMENT ― 3. Restrictions. (制限事項)

 
3. Restrictions. は、デベロッパーサイトおよびサービスを使う上での制限事項を定めています。


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You agree not to exploit the Site, or any Services, Apple Events or Content provided to you as a Registered Apple Developer, in any unauthorized way, including but not limited to, by trespass, burdening network capacity or using the Services, Site or Content other than for authorized purposes.

不正利用の禁止をうたっています。不正利用の例として、不正アクセス、ネットワークへの負荷を与える行為、許可範囲外利用等が示されています。


Copyright and other intellectual property laws protect the Site and Content provided to you, and you agree to abide by and maintain all notices, license information, and restrictions contained therein.

デベロッパーサイトおよびコンテンツについては、著作権法等の知的財産権法によって保護対象となっていること、デベロッパーはその権利を侵害せず保護することをデベロッパーに求めています。


Unless expressly permitted herein or otherwise permitted in a separate agreement with Apple, you may not modify, publish, network, rent, lease, loan, transmit, sell, participate in the transfer or sale of, reproduce, create derivative works based on, redistribute, perform, display, or in any way exploit any of the Site, Content or Services in whole or in part. You may not decompile, reverse engineer, disassemble, attempt to derive the source code of any software or security components of the Services, Site, or of the Content (except as and only to the extent any foregoing restriction is prohibited by applicable law or to the extent as may be permitted by any licensing terms accompanying the foregoing). Use of the Site, Content or Services to violate, tamper with, or circumvent the security of any computer network, software, passwords, encryption codes, technological protection measures, or to otherwise engage in any kind of illegal activity, or to enable others to do so, is expressly prohibited.

Apple社が別途契約で認めない限り、デベロッパーサイトおよびコンテンツを改変したり、二次的著作物を制作したり、デコンパイルすること等を禁止しています。上ではグレーでマーキングしてみましたが、you may not(may not は英文契約の語法で「禁止」を意味します)に続く“やっちゃいけない行為”の例示が長いので、文章が長く見えます。なお、2つめのmay not文の最後に、括弧書きで「((except as and only to the extent any foregoing restriction is prohibited by applicable law or to the extent as may be permitted by any licensing terms accompanying the foregoing)」とありますが、これは、独占禁止法等の観点からデコンパイルやリバースエンジニアリングの禁止をすること自体が違法となる可能性のある国も少なくないため(参考:一般社団法人知的財産研究所 知財研紀要収録『コンピュータ・プログラムの保護に関する 米・EU・日・韓の比較法的研究 −プログラム リバース・エンジニアリングを中心に−』) 、その場合にこの条文が無効とならないよう、その限りにおいて通常のライセンス条件を適用する旨が書かれているものです。
併せて、あらゆる違法行為を行うことや、他人による違法行為を幇助することを禁止しています。


Apple retains ownership of all its rights in the Site, Content, Apple Events and Services, and except as expressly set forth herein, no other rights or licenses are granted or to be implied under any Apple intellectual property.

最後に、確認的規定として、デベロッパーサイト、コンテンツ、イベントに関する権利は、そこに特に断り書きのない限り、Appleがそのすべての権利を保持しているとしています。


一般的に、BtoCのウェブサービスでの利用規約ですと、制限・禁止事項をとにかくたくさん列挙して具体的に理解をさせ、かつ威圧する手法が取られます。これに対し、PFサービスの規約では、BtoBということもあってか、上記Apple社の例のように規約上は包括的な記載にとどめ、細かいルールはガイドラインレベルで規制する手法が多く取られています。しかしその中でも、知的財産権の侵害だけは徹底して許さないという姿勢が垣間見えます。

REGISTERED APPLE DEVELOPER AGREEMENT ― 2. Developer Benefits. (デベロッパーに対するサービス)

 
2. Developer Benefits. は、Apple社がデベロッパーに提供するサービスの内容が書かれているパートです。


RADA2


As a Registered Apple Developer, you may have the opportunity to attend certain Apple developer conferences, technical talks, and other events (including online or electronic broadcasts of such events) (“Apple Events”). In addition, Apple may offer to provide you with certain services (“Services”), as described more fully herein and on the Registered Apple Developer web pages (“Site”), solely for your own use (except as otherwise permitted in the last two sentences of Section 1) in connection with your participation as a Registered Apple Developer.

Registered Apple Developerとなることにより、Appleが主催するカンファレンス等に参加する機会を提供する、とあります。あくまで機会なので、必ず参加できるという書き方になってはいないのがミソです。これに加えて、デベロッパーウェブページに記載されたサービスを(デベロッパー自身が利用するという制限付で)提供すると書いています。Apple社が提供する開発環境をはじめ、アプリをマーケットに公開して販売・課金する部分も、これに該当することになります。


Services may include, but not be limited to, any services Apple offers at Apple Events or on the Site as well as the offering of any content or materials displayed on the Site (“Content”). Apple may change, suspend or discontinue providing the Services, Site and Content to you at any time, and may impose limits on certain features and materials offered or restrict your access to parts or all of materials without notice or liability.

デベロッパーに対するサービスとは何かという最も重要な部分は、“displayed on the Site”つまりデベロッパーウェブサイトに記載されたもの含みますがこれらに限りませんよ、というあいまいな定義になっており、この契約の中では具体的なサービス内容は明記されないかたちになっています。さらに本条の後半では、ウェブサイトの記載の変更のみをもって(Apple社の一存で)、いつでもサービス内容を変更できると念を押しています。


第2条は、この契約で唯一、デベロッパーに対して権利っぽいものを認めてくれているパートです。しかし上記のように、よくよく読んで見ると、何かを必ず提供すると約束してくれているものではありません。さらに、Apple社が負担を負わない/任意に変更できるようになっていて、今日まで提供されていたサービスが明日から提供されなくなる可能性もゼロではない、というところが留意点と言えます。

一般論として、PFサービスを運営する立場としては、デベロッパーに対し未来永劫何かを約束するということはできないことからこのように規定せざるを得ない、というところは理解しつつも、文言上は一方的な契約の不利益変更もできるようにも読めてしまうという問題があります。消費者契約ではないとはいえ、今後、法的にはその有効性が問われていくものと思います。
 

連続的に変化していくオンラインコンテンツのマルシーマーク表示における発行年はどう表記すればいいか


万国著作権条約により、無方式主義を採用している国の著作物であっても、©(マルシーマーク、英語ではthe letter C enclosed within a circle)表示をすることで、方式主義の国においても自動的に保護が受けられるようになっているのは、多くの方がご存知かと思います。


120px-Copyright


過去、アメリカ等いくつかの国が方式主義にこだわり、無方式主義を原則とするベルヌ条約に加盟をしなかったため、それらの方式主義国において万国著作権条約に基づく保護を受けるためにも©表記は必須とされていました。ところが、そのアメリカが1989年にベルヌ条約に加盟したたため、©表示がない日本の著作物も同条約によりアメリカで保護されることになりました。こうなると、いまや方式主義を採用する国はラオスぐらいしかないこともあって、もはや©表示に法的には意味がないとも言われています(この点については後述)。・・・とは言いながら、実際は©表示をしているコンテンツがほとんどではないでしょうか?

そこで今日取り上げたいのが、オンラインコンテンツにおけるマルシーマークの表記方法についてです。

万国著作権条約に定められた©表示の要件とその問題点


万国著作権条約第3条によれば、©表示の要件として、
・著作権者の名
・最初の発行の年
とともに「©」の記号を表示することが必要とされています。そして、「©」の記号、著作権者の名及び最初の発行の年は、著作権の保護が要求されていることが明らかになるような適当な方法でかつ適当な場所に掲げる必要がある、とあります。

ここで問題になるのが、連続的に変化する著作物の©表示の発行年の書き方です。なぜなら、書籍・CD(レコード)など、著作物を物に固定することが前提であった時代は終わり、いまどきのウェブサービスやスマホアプリは、オンラインでコンテンツの追加・更新・バージョンアップを繰り返し、継続的に運営していくコンテンツに変化してきているからです。もちろん、文章の著作物や音楽著作物であっても改版やリミックス版といったコンテンツのバージョンアップはあるわけですが、オンラインコンテンツにおける頻度・量・差分の大きさは、その比ではありません。

そういう連続的に変化していくことが前提となるオンラインコンテンツの©表記において、最初の発行の年“だけ”を表記するのもどうなのだろう?と思ったわけです。

発行年を幅表記する


いっそ、年表示は抜いてしまうのがいいのではないか、とも考えました。事実、オンラインコンテンツを見ていると、年表示をしない©表示を多数見かけます。しかしながら、前述のとおり条約の条文にははっきりと「最初の発行の年」が表示要件として書かれているわけです。これを無視するわけにもいかず、はて、どうしたものか・・・と悩んだ私の結論はこれ。

© 2005-2014 ABC, Inc.
Copyright © 2005-2014 ABC, Inc. All rights reserved.

条約上は上の記載例のみでOKなのですが、一般的には下の表記が多用されているので一応。

幅表記は不適切という意見への反論


ネット上の記事では、“2005-2014”のような発行年表記は間違いとか、年表記は無くてもよいのであるとしているものも多くあります。しかし、条約には「最初の発行年」が書いてあることが要件とされている以上、むしろ発行年を何も書かないことの方が問題であるし、一方で“-2014”のように最新の発行年(更新年)を付記したからといって無効となるわけではない(-2014を表示してはならないわけではない)、と私は考えています。

もちろん、実際に発行年が問題となるような紛争になれば、©表記された発行年如何にかかわらず、その連続的に変化した過程のコンテンツ1つ1つごとに正確な発行年を立証しながら争うことになるのでしょう。しかし、「-2014」を付記したからといって無効となるわけではないというこの考えが正しいと仮定すれば、連続的に変化する著作物においては、©表記の発行年は幅表記をし、その最古年だけではなく最新年もあわせて発行年として「主張」しやすくなる余地を残しておくべきではないかと思います。最古年表記がないと、「ウチの方が先に著作してたぜ、パクったのはそっちだろこの野郎」と言い難くなりますし、一方で最新年表記がないと、死後または公表から50年という著作権の保護期間をフルにenjoyしようというシチュエーションで不利になりかねません。少なくとも、このような発行年の幅表記をもって「主張」することについて、利はあっても害はないものと考えます。

なお、世の中の事例を見てみますとみなさん迷っていらっしゃるご様子。大手ネットサービス企業は最新年・現在年である2014年表示が多いものの、年表示せずに©と権利者名だけ書いている例もかなりあります(ちなみに裁判所サイトは最初の発行年である2005年を表示していました)。一方、私が携わっているエンタテインメントよりのオンラインサービスのご同業で、知的財産権に強いと定評のある企業さまは、軒並み発行年の幅表記を採用していました。連続的に変化していくコンテンツの著作権を、スナップショット的に捉えるか、ストック的に捉えるかという考え方の違いも反映されているのかもしれません。

©表示にこだわる価値・意味自体がもはや無い、という言説について


上述のとおり、「©表示をしなくてもほとんどの国で保護されるのだから、©表示自体にもはや意味が無い」という言説もよく目にするわけですが、本ブログでも近々ご紹介しようと思っている『よくわかる音楽著作権ビジネス 基礎編』P167に、こんな記載がありましたので、ご紹介まで。




1989年にアメリカがベルヌ条約に加盟したことによって、©表示がアメリカで保護されることについてまったく意味を持たなくなったと考えるのは早計である。アメリカ著作権法には、「善意の侵害者(innocent infringers)」という言葉が出てくる。これは著作権表示に関する条文に登場するのだが、か簡単にいえば、著作権に著作権表示がなされていないことから、その著作物がパブリックドメインだと信じ、善意でその著作権を侵害した者をいう。方式主義国のアメリカならではの規定である。
この善意の侵害をした場合、もしも著作物に©表示がなければ、侵害者が善意でやったことであり、無過失であることを立証できれば善意の著作権侵害ということになる。(略)
では、著作物に©表示があった場合どうなるのか。この場合、侵害者は「パブリックドメインであると思った」「権利が生きているとは知らなかった」などと言い逃れはできない。なにしろ、はっきり第一発行年と著作権者名が表示されているのだから。したがって、アメリカ著作権法は原則として侵害者に善意の侵害を認めないこととしている。
以上のことから、アメリカがベルヌ条約に加盟した後でも©表示は必要であることは、一目瞭然だろう。

 

REGISTERED APPLE DEVELOPER AGREEMENT ― 1. Relationship With Apple; Apple ID and Password. (Appleとの関係およびAppleID・パスワードの管理責任)

 
それでは、1. Relationship With Apple; Apple ID and Password. から。


RADA1


この第1条には、Apple社とデベロッパーとの関係について、大きく二つの要素に分解して規定されています。一つは法的な契約履行能力の側面、もう一つがIDの管理責任の側面です。以下、条文を分解しながら見ていきます。


You understand and agree that by becoming a Registered Apple Developer, no legal partnership or agency relationship is created between you and Apple. Neither you nor Apple is a partner, an agent or has any authority to bind the other. You agree not to represent otherwise.

まず冒頭で強調されているのが、「デベロッパーはApple社となんのpartnership関係もなければagencyでもない」という点です。世界には、弱者となりがちな代理店を強制的に保護する代理店保護法を定める国が少なくありません(参考:JETRO 代理店契約で自国企業(代理店)を保護している地域とその概略)。このような国の法律上、partnershipやagencyのような親密な契約関係とみなされてしまうと、例えばデベロッパーが販売機会をロスするような事態となった場合にその補償をしなければならないとか、Appleから契約を任意に解除できないといった責任がApple社側に発生してしまう可能性があり、これを明示的に、はっきりと排除するために、このような前置きが冒頭に置かれています。こういった契約文化は日本にはあまりないものですので、初めてこの手の規約を読んだ方には何の事かまったくわからない規定だと思いますが、そういうものなんだ、と思っておいていただければ十分かと思います。


You also certify that you are of the legal age of majority in the jurisdiction in which you reside (at least 18 years of age in many countries) and you represent that you are legally permitted to become a Registered Apple Developer. This Agreement is void where prohibited by law and the right to become a Registered Apple Developer is not granted in such jurisdictions.

そして次に、デベロッパーに契約の履行能力が法的にあること、具体的にはその国・地域における未成年者・制限能力者でないことの確認と、そうであった場合には契約そのものが無効となる旨が書かれています。国によって成人年齢が異なるため(アメリカでは州によっても異なります)、「20歳以上」などと書いてしまうと国によっては通用しない規定になってしまう点、グローバル企業ならではの工夫された規定のされ方をしていますね。


Unless otherwise agreed or permitted by Apple in writing, you cannot share or transfer any benefits you receive from Apple in connection with being a Registered Apple Developer. The Apple ID and password you use to login as a Registered Apple Developer cannot be shared in any way or with any one. You are responsible for maintaining the confidentiality of your Apple ID and password and for any activity in connection with your account.

次に、デベロッパーは、この契約でApple社から与えられる利益を、第三者に譲ってはならないことが規定されています。そしてその義務を補強するために、IDとPasswordはシェアしてはならず、その管理責任がデベロッパー本人にあることを明記しています。なお、このパートの文頭において、Appleが書面によって許諾する場合が例外とされているのは、アカウントの譲渡をオフィシャルに認めることがあることを示唆しているようです。


Notwithstanding the foregoing restrictions in this Section 1, if you are the parent or legal guardian of individuals between the ages of 13 and the legal age of majority in the jurisdiction in which you reside, you may allow such individuals to share your Apple ID and password for their use solely under your supervision and only in accordance with this Agreement. You are responsible for such individuals’ compliance with and violations of this Agreement and any other Apple agreements.

なお、13歳以上の未成年者のデベロッパーの保護者については、その監督を目的としてIDとPasswordをシェアしてもよいとされています。「Notwithstanding the foregoing...」という普通の英文では見慣れない言い回しがありますが、「前記にもかかわらず」という英文契約上の但し書きの決まり文句です・・・っていう英文契約の解説はどうでもいいですかね。ところで、13歳未満の未成年者は保護者が監督しても利用できないの?という疑問が湧くところですが、Appleに限らず、各社プラットフォーム規約では13歳未満の児童の利用を禁じているところがほとんどです。この理由については、別途他のところで触れることになると思います。
 

REGISTERED APPLE DEVELOPER AGREEMENT ― 全体像の俯瞰&規約への同意


Apple、Google、Amazonら各社のプラットフォーム規約を見ると、最初にこのビジネスモデルを確立したAppleの規約の要素を真似ている様子が垣間見えます。そこで、まずAppleのプラットフォーム規約を抑えた上で、その他同業他社の規約を見ていくことにしましょう。


Appleのプラットフォーム上でiOSアプリを開発し、AppStoreで販売しようと場合、まずデベロッパーアカウントを開設する必要があります。そこで最初に同意を要求されることになる規約が、“Registered Apple Developer Agreement”です。なお、Appleのプラットフォーム規約は、他社(Google,Amazon)と異なり、すべて英文のみでの提供となっています。


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まず全体像を俯瞰してみます。以下は、各条項の見出しのみを列挙してみたものです。

Registered Apple Developer Agreement
1. Relationship With Apple; Apple ID and Password.
2. Developer Benefits.
3. Restrictions.
4. Confidentiality.
5. Nondisclosure and Nonuse of Apple Confidential Information.
6. Confidential Pre-Release Materials License and Restrictions.
7. Paid Content License and Restrictions.
8. Compatibility Labs; Developer Technical Support (DTS).
9. Amendment; Communication.
10. Term and Termination.
11. Apple Independent Development.
12. Use Of Apple Trademarks, Logos, etc.
13. No Warranty.
14. Disclaimer of Liability.
15. Third-Party Notices.
16. Export Control.
17. Governing Law.
18. Government End Users.
19. Miscellaneous.

経験ある法務担当者であれば、この見出しを見ただけで大体何が書かれているか予想がつくことと思います。まず1で契約関係の明確化およびアカウントのID・PASSの管理責任が定められ、2〜3にデベロッパーの特典および守らなければいけない義務、そして4〜6に秘密保持に関する義務、9.規約の修正ルール、10.契約期間、11がApple商標使用のルール、13.非保証、14.免責、15.通知、16.輸出管理、17.準拠法と続き、19その他一般条項という流れ。見出しだけでは予想がつかない条項としては、7・8・11・18あたりでしょうか。


ところで、この“Registered Apple Developer Agreement”の冒頭には、以下のような文言が大文字(CAPITAL)で記してあります。

THIS IS A LEGAL AGREEMENT BETWEEN YOU AND APPLE INC. ("APPLE") STATING THE TERMS THAT GOVERN YOUR PARTICIPATION AS A REGISTERED APPLE DEVELOPER. PLEASE READ THIS REGISTERED APPLE DEVELOPER AGREEMENT (“AGREEMENT”) BEFORE PRESSING THE "AGREE" BUTTON AND CHECKING THE BOX AT THE BOTTOM OF THIS PAGE. BY PRESSING "AGREE," YOU ARE AGREEING TO BE BOUND BY THE TERMS OF THIS AGREEMENT. IF YOU DO NOT AGREE TO THE TERMS OF THIS AGREEMENT, PRESS "CANCEL" AND YOU WILL BE UNABLE TO BECOME A REGISTERED APPLE DEVELOPER.

「画面下の“AGREE”(同意する)ボタンを押すと、デベロッパーは法的にこの規約の各条項に拘束されることになる」旨書かれています。すべて大文字になっているのは、米国の判例法上、重要な条項はこのように注意を引く形式で表記しなければ対抗できないとされているためなのですが、実際、ここに書かれている点は、デベロッパー企業の契約管理上、留意が必要です。

日本の契約慣行では、特に事業者間の契約においては通常書面に代表者等の押印が求められるので、担当者が勝手に契約してしまうということは(よっぽどの悪意が無い限り)ほとんどないでしょう。しかし、このようなプラットフォーム事業者とのデベロッパー契約は、ウェブ上のクリック操作でかんたんに契約できてしまいます。これはAppleに限ったことではなく、GoogleやAmazon等も同様の形式になっています。この記載は、そういった(安易な)クリックであっても有効に契約が成立したことになる、という注意喚起をしている表記です。本来は、法務や関係部門に稟議等必要な承認を得た上でクリックしなければならないはずでも、こういったデベロッパーアカウントの開設作業を行うのは現場のエンジニアだったりするわけで、このクリックがどのような意味を持つのかを考えずに、アカウント開設=プラットフォーマーとの契約締結を行っているのが実態でしょう。

※ちなみに、Appleの場合はサポートセンターのQ&Aにこのような記載がありました。ただ、実際のところ誰がクリックしたかまでは分からないですよね。

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消費者との契約においては、こういった「クリックラップ」契約(FDやCD-ROM時代のソフトウェアライセンスが、パッケージを破ったらライセンス契約に同意したこととみなす「シュリンクラップ」契約だったことになぞらえて、読んだかどうかにかかわらずクリックしたら同意したとみなす契約の意)が有効な契約となるのか?という論点がありますが、プラットフォーマーとそこに参加する事業者との契約においても、同じような論点が取り沙汰されてくるかもしれません。
 
全体像を抑えたところで、次回より、規約各条文の詳細について、逐条で確認していきます。
 

PFルールという名の新たな法律

 
ブログカテゴリに、「PF(プラットフォーム)ルール」というカテゴリを新たに追加しました。

インターネットビジネスの中でも、iPhone、Nexus、KindleなどのスマートデバイスおよびそのOSを自ら開発・提供し、あわせてそのアプリ販売網としてのアプリマーケット(ストア)を展開することで、アプリ開発者(デベロッパー)とアプリ利用者(ユーザー)をともに囲い込むプラットフォームビジネスが、隆盛を極めています。

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注目したいのは、アプリマーケットの市場規模の拡大とともに、そこでの販売ルールを定めたプラットフォーム規約が、企業法務の視点から大変重要な契約になっているという点です。規約に違反したデベロッパーは、アプリマーケットから排除されて販売活動ができなくなる、それはデベロッパーにとって「死」を意味します。このことによって、プラットフォーム規約は法律と同等レベルの強制力・拘束力・影響力を持っているといっても過言ではありません。にもかかわらず、デベロッパーがその内容・リスクをしっかりと認識した上でアプリを開発しサービスを運営しているかと言えば、そうとは思えない事例も見聞きします。

この「PFルール」カテゴリにおいては、企業法務の視点から、デベロッパー向けプラットフォーム規約の内容を検討し、アプリの販売活動に携わる事業者としてどのような点に留意すべきかを洗い出し、必要に応じ問題提起をしてみたいと考えています。
 

2014年のIT系法務キーワード・テーマ大予測

 
NBL No.1016の特集「2014年ビジネスローの展望」は、展望というよりも2013年の法改正動向の振り返りとまとめと言う趣が強かったのと、そもそも取り上げられている分野がシブすぎて、自分的にはあまりピンと来ませんでした・・・。

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なので、自分のいる領域であるIT系法務におけるキーワード・テーマをあげながら、自分なりに2014年を予測してみることにします。こういう予測記事はハズれるのが当たり前ということで、業界関係者の方は話半分に聞いていただければと思います!

1.「パーソナルデータ」


これは予測ではなくて確実なイシューですね(笑)。憲法13条と判例に基づくあいまいなプライバシー権と、悪法と言われ続けた個人情報保護法の間をどう埋めるか、興味深いところです。12月10日に内閣府のパーソナルデータに関する検討会で議事に付された「パーソナルデータの利活用に関する制度見直し方針(案)」でも

平成26 年(2014 年)年6月までに、法改正の内容を大綱として取りまとめ、平成 27 年(2015年)通常国会への法案提出を目指すこととする。

とあり、事実上4月までに勝負がつくところでしょう。関係者から伝え聞くウワサ話によれば、
  1. 個人情報保護法は大きく変えず、ガイドラインレベルでの統制をベースとしつつ、第三者機関の権限明確化により実行力を与える方向性
  2. 機微情報(センシティブ情報)の定義を条文で明確化する等により、個人情報保護法をプライバシー保護法化してしまう方向性
この2つがあるとか。後者は2010年に米国がチャレンジして挫折していますが、どうなっていくか動向を興味深く見守りつつ、必要に応じて議論に参加してみたいとも思います。

2.「CtoC」


ヤフオク!、gumroad、Stores.jp、メルカリ、ランサーズ、coconala、そしてLINE MALL...と、CtoCプラットフォームは乱立状態になってきました。それぞれ住み分けがあるという主張もあるかと思いますが、以前ブログに書いたように、機能と価格の争いが終わった後は情報と決済機能を握る少数のプラットフォーマーの戦いに収斂していくと予測します。今後は生き残りをかけて合従連衡を繰り返すことになるでしょう。同時に懸念しているのが、「個人」と「商店(個人事業主)」と「企業」のボーダーラインがこれまで以上に無くなっていくことで、様々な法の適用に混乱が生まれてくるであろう点です。紛争解決のベースは民法なのか商法なのか?特商法等の消費者保護法制の適用は?このあたりの法律も早速改正が検討されるかもしれません。

3.「プラットフォーマー規制」


Google・Apple・Amazonと、インターネットサービスのプラットフォーマーとして確固たる地位を築いた3社ですが、その力があまりに強大になりすぎると、独禁法や中小企業・消費者保護政策の観点からは問題視されるようなことが出てきそうな気がします。しかし、彼らの商売が全世界規模であるがゆえに、一国の規制当局の立場からは手が出しにくく、このままみんなが指をくわえてみているだけ…となる可能性もあるのかも。少なくとも、日本の規制当局の姿勢はそのように見えてなりません。

4.「キャラクター(の商品化)権」


私がエンタメ寄りの場所にいるから、ということもありますが、本当に一億総クリエイター時代になってきたなあと実感することが増えました。そして、ゆるキャラブームでも実証されているとおり、企業が自社商品やサービスのマーケティングに(芸能人でなく)キャラクターを活用する動きは間違いなく広がっています。レッシグ以来著作権とはなんであるかが問われて久しいですが、キャラクターとなると、著作権だけではなく、
・商標権
・意匠権
・不正競争防止法
・パブリシティ権
を含めた総合的な保護を考えなければなりません。著作権は「権利の束」と言われますが、キャラクター(の商品化)権は「権利の束の束」ともいえるほど、法的課題は複雑で多岐に渡ります。

5.「音楽著作権」


iTunesによってアルバム単位のまとめ売り商売が成り立たなくなったという変化にとどまらず、PandoraやSpotifyなどのウェブやアプリ上での無料(広告型)配信で十分というライトなリスナーが増え、音楽の楽しみ方に変化が現れてきました。さらにクリエイター側も、DeskTopMusic技術の革新により、楽器やスタジオにお金をかけずとも音楽制作がカンタンにできるようになったことで、音楽そのもののさらなるコモディティ化は加速しています。これに呼応するように、日本国内でもJASRAC独占状態にほころびが見えはじめています。一方で、企業がビジネスで音楽著作物を扱うとなると、権利処理的には高度で伝統的に手間も多く大変です。また、曲が誘引力をもたなくなると、実演家であるアーティストの実演権や氏名権が重要になってくるというストーリーもありえます。生活に身近な音楽のあり方が変わりはじめ、ここにきて一挙にカオスになってくる予感がします。

6.「仮想通貨規制」


スマートフォンにおけるアプリビジネスにたずさわっていると、仮想通貨を発行してこれを販促・マーケティング・決済に用いる手法がよく使われていることに気付きます。しかし、これを届け出もせずに発行している違法状態のアプリ事業者が多すぎるような…。そろそろ、資金決済法や外為法の観点から取り締まりがあるかもと。また、個人的にはビットコインには前から注目しているところです。

電子マネーの一種と紹介されることもあるビットコインだが、日銀金融研究所によると(1)発行体がない(2)発行時の払い込みがない(3)特定の資産による裏付けがない――の3点で従来の電子マネーとは大きく違う。このため、前払い式の電子マネーやプリペイドカードを取り扱う資金決済法の対象にならない。
取引所での両替は2次売買にあたるが、実体を持たないビットコインは金券ショップなどを取り締まる古物営業法の対象からも漏れる。マネーロンダリング(資金洗浄)との関わりでも、疑わしい取引が行われないよう事業者に届け出を求める犯罪収益移転防止法は、取引に使われる通貨を取り締まるものではないため、ビットコイン自体を規制することはできない。ハッキングによる盗難時の取り扱いを含め、既存の通貨の概念に収まらないビットコインに対してどんな法整備が必要なのかは、何か大きな問題が起きて初めて見えてくるというのが現状だ。
(日経新聞「ビットコイン、ギークが育てた無国籍通貨」より)

このようなネット通貨がどう規制されるのか(そもそも規制しうるのか)?私はインターネットそのものをこれまで規制できなかったのと同様、ビットコインの規制も難しいんじゃないかと思っています。


以上に共通しているのは、もはや一つの法律で解決する問題などはなく、様々な法律をまたがる問題ばかり、ということですね。知識は情報検索すれば見つかる(ただし自分なりの日頃からの整理は必要ですが)時代だけに、法務パーソンは、問題の答えを知ってるかよりも、ビジネスを正確に把握してそれをひとつひとつ丁寧に解きほぐし、法や規範に当てはめて妥当な解を導く能力があるかないかが問われることでしょう。

法務はもともとロジックで戦う仕事ですが、この2014年以降は、
・ビジネスの本質とリスクを把握するセンス
・それを適切に要素分解する頭の回転の速さ
これらがあることを前提とした上での、緻密で根気強いロジカルシンキングが、これまで以上に求められる仕事になりそうです。
 

【本】企業法務判例クイックサーチ300 ― 判例から民法改正をオーバービュー


レクシスネクシス・ジャパンのO様よりご恵贈頂きました。ありがとうございます。





見開き2ページ、左側に論点/結論/事実関係/判旨を、右側に事実関係図/意義・射程/レファレンス(参考判例/関連法令の改正動向)をコンパクトにまとめた本。

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類書に『企業法務判例ケーススタディ300』があり、300という件数のみならずコンセプトは非常に似ていて、かなり対抗意識をもって編集されたであろうことが伺えます。かの本が一件あたり6〜8ページ前後を割いて解説しているところを、こちらは「クイックサーチ」の名のもとに、コンパクトさ・読みやすさを優先して全て2ページに割り切ったまとめ方をしているのが一番大きな違いでしょう。そういう意味で、まずは「企業活動において知っておくべきこういう判例があるんだ」というのを認識する初学者向けの本、と言って良さそうです。サーチというよりは「クイックオーバービュー」って感じでしょうか。

しかし、特徴がそれだけだったらちょっとこのブログでは紹介しなかったかも。私が地味にこれはありがたいなと思ったのは、右ページ下のレファレンス欄に、紹介判例と民法改正中間試案とのヒモ付をコメントしてくださっている点です。いや、ほんと1〜2行だけなんですが、時間を掛けて民法改正をフォローすることまでできていない不勉強な私にとっては、こういう整理は大変ありがたいです。

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基本的には民法改正に否定的な私にも、こういった判例の流れを受けて議論がなされていると聞けば、血が通ったもののように見えてくるから不思議です。
 

【本】クレーム対応の「超」基本エッセンス ― 「誠意を見せろ!」は“要求”ではなく“意見”です


レクシスネクシスのI様よりご恵贈いただきました。ありがとうございます。お手紙には「はっしーさんのお仕事にはあまり関係ないかもしれませんが」と添えられていましたが、そんなことないです!BtoCビジネスですので、日々クレーム対応の仕事もやっております・・・。





この本を一言で評すれば、数あるクレーム対応本の中でも、最も「丁寧に」「根気強く」書かれた本だと思います。

クレーム対応において大切にしなければならないこと・守らなければならない原則は、ほんとうはそれほど多くありません。ではなぜ難しい仕事のように感じるのか?なぜ面倒な仕事と捉えられているのか?それは、クレームの切り口・内容・表現方法・要求が、お客様によってあまりに千差万別なために、対応のたびに臨機応変さや応用力が求められるからだと思います。この本の特徴は、その大切にしなければならないこと・守らなければならない原則を見開き2枚でシンプルな「鉄壁の5ケ条」にまとめたうえで、

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この鉄壁の5ケ条の具体的運用方法について、具体的なシチュエーションに対する対応の要諦を圧倒的文字量で紹介し、図表にすっきりとまとめて丁寧に解説する本文の厚みとの、コンビネーションにあります。

特に第4条のお客様の「話」を
1.事実
2.不満
3.意見
4.要求
上記4つの要素に分解し、その要素ごとに対処を考える、というところは、混乱しがちなクレーム対応をスッキリと整理してくれるフレームワークだと思います。

たとえば、クレーマーの常套句に、「誠意を見せろ!」というものがあります。著者エス・ピー・ネットワークさんのセミナーでクレーム担当者にアンケートをとると、これを「4.要求」と捉えてしまいがちなのだそうです。しかし、これを要求と捉えてしまうと、(相手が要求の内容を明示していない謎かけ問答になっているだけに)余計対応が混乱すると。そうではなく、当社としての意思・姿勢を表明する場面であると解説します。とてもスッキリしますね。

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話は逸れますが、クレーム対応で「誠意を見せろ!」が出てくるたびに、北の国からのこのシーン、「誠意って、何かね?」を思い出すのは、私だけではないはずです。

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また、その長さゆえブログでは魅力を伝えきれないのが残念ですが、第1部第2章の「代表的な不当要求への対応例」や、第2部事例編の「クレーム対応・実践ケーススタディ」などは、クレームがヘビークレームに発展していく様子が本当にリアルに描写されていて、ここは読んでいてゾクゾクしました。

鉄壁の5ケ条を起点にして、文字による丁寧な解説→図表によるまとめ→事例を通した運用実例で具体的運用イメージを植え付け、そしてまた鉄壁の5ケ条に立ち戻って整理するという解説サイクルが、一つの本の中で何度も徹底的に繰り返されていて、読み通すことによっていやがおうにも鉄壁の5ケ条が身体に染み付くように編集されようとした意図を感じました。ともすればベテラン弁護士が、「法的にはこれはだめ」というNG例のみをことさら強調した後、結局「俺に任せておけば大丈夫」的なノリだけで書いている鼻持ちならない本ばかりが多数出版されている中で、クレーム対応チームにシンプルで揺るぎない対応理論を打ち立ててくれる、良い教育書だと思います。
 

法務パーソンのための基本書ブックガイド2014 第三版

 
年末の風物詩、ビジネスロー・ジャーナルのブックガイドの季節です。





「この覆面座談会企画に毎年登場してる法務担当者って、管理人のはっしーさんも入ってるんですよね?」と聞かれることがありますが、私がでるなら顕名ででますし、これまで入ったこともなければ、お誘いをいただいたことすら一度もないんですよ。誘われない理由が何かあるんでしょうね・・・。

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今年については、寄稿されている法務パーソンの方々もあまりマニアックな本を紹介されておらず、9割がた購入済みの本だったのですが、P38の匿名の電機メーカー法務担当者の方(多分私が知ってる人)が推されていた『英文契約書の法実務-ドラフティング技法と解説-』は、早速購入させていただきました。副題に「ドラフティング技法」とあったので当時スルーした記憶がありますが、この方の書評のとおり、書式集として普通に使える本ですね。

さてこちらも毎年恒例の便乗企画、企業法務マンサバイバルの基本書ブックガイドを以下ご案内します。ここでいう基本書とは、「これ一冊ですべてを賄う」という意味ではもちろんなく、「各法分野の定番本をまず一冊ずつこれから揃えるとしたら外したくない一冊」といったニュアンスで選んでいます。ご自身の所属業界や専門に応じて、適宜追加してください。


1.憲法

憲法 第五版憲法 第五版
著者:芦部 信喜
販売元:岩波書店
(2011-03-11)
販売元:Amazon.co.jp

企業法務で憲法ですか〜?という方には、bizlaw_styleの記事「法律家によるルールメイキング関与の可能性はあるか??」からの引用をご紹介。

そして、憲法感覚・人権感覚:規制の合理性を分析するために、上記の活動全てに共通して必要な感覚ではないだろうか?。(なお、私は昔、ある大物法務担当者に「センセーさあ〜、憲法論を語れない企業法務の弁護士なんてダメだよ!」と言われたことがありますが、今にして思えば深いですね。)

今日にいたるまで、プライバシーが憲法13条だけを頼りにしてきたのも、そういうことですよね。来年、個人情報保護法改正議論が大詰めを迎えるにあたり、上記は改めて刻んでおきたい言葉です。


2.民法



昨年のブックガイドで一度内田民法を選書していらぬ物議を醸してしまい(笑)、川井民法をご案内するという経緯がありましたが、残念なことに、その著者川井先生が今年お亡くなりになりました。民法改正が確実な中、川井先生の本をどなたかが補訂される可能性は低いと思われ、今年第三版が発刊されたばかりの我妻コンメンタールを推薦させていただきます。


3.商法



特に大きな動きがなかったはずの商法ですが、この本には今年も改版が入り第7版に。その必要があったのかは少し疑問。江頭先生って思っていたより商魂たくましい方なのかも…。


4.会社法

株式会社法 第4版株式会社法 第4版
著者:江頭 憲治郎
販売元:有斐閣
(2011-12-19)
販売元:Amazon.co.jp

去年も同じこと言いましたけれども、私は自分使いには『アドバンス 新会社法』推しです。が、定番として最初に1冊選ぶなら、やはりこちらなのでしょう。


5.金商法



BLJのブックガイドでは『ゼミナール 金融商品取引法』がおすすめされてました。たしかにそういう読みやすさも欲しいところですが、1冊となると情報量でこちらを。


6.特許法

標準特許法 第4版標準特許法 第4版
著者:高林 龍
販売元:有斐閣
(2011-12-15)
販売元:Amazon.co.jp

今年は私も特許法を多少学びながら、弁理士の先生方にどの本がいいのか聞きまくったのですが、結果わかったのは、これ!という本はない、ということ。ということで、昨年推薦のこちらをstayしました。個人的には、竹田『特許の知識 [第8版] 』をよく参照しますが、これももう再刷がないようで幻の書となってしまいました。なお、去年twitterで高橋雄一郎先生から、出願は特許庁のウェブサイト、係争向けは高部『実務詳説 特許関係訴訟』というアドバイスもいただいています。


7.意匠法

意匠法意匠法
著者:茶園 成樹
販売元:有斐閣
(2012-04-05)
販売元:Amazon.co.jp

意匠法の基本書自体が少ない中での新し目の書籍として。3Dプリンタも普及しだしたり、ソフトウェアのUIに意匠権が認められる方向性にあったりで、意外にこれから注目の法律になりそうな気がしています。


8.商標法

新商標教室
小谷 武
LABO
2013-06


硬派な方には、小野『新・商標法概説 』なのでしょうけれども、今年はやはりこちら。これまでの商標法の本に無かった、法と実務のスキマをきれいに埋めてくれる良書です。実用書のノリに近いものはありますが、今回はこれを。


9.著作権法

著作権法逐条講義 〈六訂新版〉
加戸 守行
著作権情報センター
2013-08-28


待ちに待った加戸先生の逐条講義の改訂版が今年でましたので、中山先生の『著作権法』と入れ替えました。中山先生の本は2007年刊で、改正に追い付けていないというのもその理由の一つです。


10.不正競争防止法



うーん、相変わらずの不作状態が続く不正競争防止法。昨年推薦した青山先生の本も、在庫が薄いようですのでこちらを。田村先生の『不正競争防止法概説』の改版が待たれます。


11.独占禁止法

独占禁止法
品川 武
商事法務
2013-02-07


今年の新刊本。いつも本棚の中でオレンジの表紙の輝きがひときわ眩しい。規制側の方々が書いた本ということで、どれか一冊となるとやはりこちらかなと。


12.下請法

優越的地位濫用規制と下請法の解説と分析優越的地位濫用規制と下請法の解説と分析
著者:長澤 哲也
販売元:商事法務
(2011-08)
販売元:Amazon.co.jp

こちらも去年からstayです。長澤先生は日経の弁護士ランキング8位にランキングされていました。


(文字数が多くなってきましたが続きます)続きを読む

自炊代行と複製主体性(または代行者性)


NBL1015は取り上げるべき話題が盛りだくさんではあるのですが、「自炊代行事件(東京地判平成25・9・30、同平成25・10・30)における複製主体の判断について」と題する池村聡先生の判例評釈については、ぜひ個人的にも支援したく、一部紹介とコメントをさせていただきたいと思います。

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本件判決は、利用者の複製主体性を明確に否定している。しかしながら、利用者の複製主体性を判断するに際しては、利用者が複製の対象となる著作物を購入・指示していることや、裁断やOCR処理の有無、複製物の納品方法を支持していること等をどう評価するか(略)という視点からの検討も必要であると思われるところ、本件判決においては、かかる視点が欠けているように思われる。
さらに本件判決は、書籍の裁断やスキャン、スキャン後の点検等の作業を利用者自身が行うことは、設備の費用負担や労力・技術の面で困難を伴うことを自炊代行業者の主体性を肯定する事情として考慮しているが、自炊は裁断機やスキャナー、パソコンという誰でも入手が容易な機器で実現することが可能な行為であることに鑑みると、たとえば同様の考慮をしたMYUTA事件(東京地判平成19・5・25判時1979号100頁)と比しても困難さの程度には大きな差があり、この点においても説得力に乏しいように思われる。
行為主体性が争点となる事案において、「枢要な行為か否か」というきわめて抽象的な基準(?)が活用されることは、予測可能性の点からも望ましいものではなく、(略)控訴審では、社会的、経済的側面を含めた総合的な観察の下で、より丁寧な検討が行われるとともに、同種事案において参考となる基準や考慮要素等が明らかにされることが強く望まれる。

裁判所が今回使った「枢要な行為」なるマジックワードに対する批判だけで終わらせず、複製主体の評価という観点について深堀りされているところは、是非控訴審の裁判官のみなさまも熟読していただければと。

池村先生による指摘の無かった点で、「利用者の複製主体性」(=「自炊代行業者の代行者性」)を強化するポイントがあるとすれば、合法な自炊代行業者は、利用者が自ら書籍に書き込んだ書き込みを含めて、利用者が引き渡した書籍を1冊1冊スキャンして利用者にファイルとして納品し返しているという点でしょう。書籍にもともと印刷されている文章や図は、もちろん著者の著作物です。しかし、それは紙に固定されて書籍となって利用者に引き渡され、利用者の所有物となります。利用者は、著者の文章や図を読みながら、その書籍の所有者として堂々と、共感とともに何度も線を引いたり、気になる頁をドッグイヤーしたり、疑問に思う箇所に印をつけたり、本人にしか価値を持たない(一方で本人にとっては大きな意味のある)コメントを余白に加えていきます。こうしてできあがった利用者の所有物としての加工入り書籍は、レッシグ的な意味で“REMIX”されたプロパティとも言えるでしょう。そして、その「REMIXが施された利用者だけの書籍」を1冊1冊スキャンしているのが、自炊“代行”者なのです。

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さて、控訴審に向けて私が不安に思うのは、自炊の作業を自分でやったこともなく、自炊した書籍をタブレットで使ったこともない(もしかするとタブレットというものに触ったことすらない)裁判官がいるとすれば、こういった議論にリテラシーレベルのレイヤーでついていけず、その結果、そもそもなぜ代行が社会的に必要とされているのか、原告がいうようなリスクが果たして本当に脅威と言えるほどのものなのかについても、正しい評価が下せないのではないか、という点ですね。

裁判官のみなさまには、是非、タブレットと自炊を体験していただきたいものです。なんだったら、裁判の途中で自炊(代行)の実演とか、裁判官に体験してもらったりできないものでしょうか?
 

パブリック・アフェアーズ人材を目指す前に


まだ年内2週間あるのでフライング気味ですが、今年一年の仕事を振り返ると、今までとはひと味違う「渉外」業務に携わったことが特に印象に残っています。

前職の放送通信/人材サービスは、業法に基づく認可・届出や法的規制が明確化された業界でしたので、省庁対応も業界団体の中でのふるまい方もあまり戸惑うことはなく、「渉外」と呼べるほどの業務ではありませんでした。対して今いるエンタメ業界は、明確な業法規制がなく自由でありながら、“おイタ”をすると厳しいご注意をいただくという、難しい間合いの中での事業運営。業界団体の先輩方にトーン&マナーを伺いながら、某公聴会にお呼ばれして出席したり、自社で発生した問題について省庁に報告・相談に伺ったりと、まさに手探りの日々でした。

そんな中で、来年に向けてこの分野で何ができるか・何をすればいいのかについて、各企業で「渉外」「公共政策」を担当している方にお話を伺って勉強していたところに、@overbody_bizlaw 先生が「法律家によるルールメイキング関与の可能性はあるか??」を投稿してくださいました。ロビイングともPRとも違う、「公正・透明な方法で交渉し、合意を形成する」業務としてのパブリック・アフェアーズ。overbody先生とは、ブログの感想をお伝えしがてらお話しもしたのですが、

当該事業が法令上問題がないことを示すために、既存の法解釈を変えていく、またはこれまで議論のなかった曖昧な点を解釈で明らかにしていくことも当然含まれてくる。具体的なアクションとしては、まずは関係する行政当局にかかる立場の理解を求めていくのだろうし、最後のステップとしては裁判だろう。

この能力が求められる限り、法務パーソンがこの役割を担う必然性はあるだろうと、私も思っています。


一方で、先生もブログで紹介されている書籍『パブリック・アフェアーズ戦略』は、私がその役割を担わんとするにはまだまだ足りない要素を指摘してくれます。

パブリック・アフェアーズ戦略
西谷武夫
東洋経済新報社
2011-11-25


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役割として●がついているところを見ると、私は講演を求められることもなければ、書籍や論文の発表も(自分なりにはチャレンジしてきましたが)社会から専門性を評価されるレベルにはいたっていません。そして、やはり最も重要だなと思うのが、特定マスメディア・一般メディアを利用できるほどのメディアパワーを持っているかという点。こればかりは、自分の能力や経験だけでなく、自分が携わる事業に社会的意義が認められなければ持ち得ないのです。最近、同業他社最大手の渉外担当の方がマスメディアからたくさんの取材を受けていて、すごいなあと指をくわえて見ているのですが、それはやはり同社の事業が当業界において影響力を持っているからこそ。自分一人だけが専門性を高めてその道の有名人になって公共政策を唱えたところで、「馬耳東風」にスルーされるか、場合によっては「物言えば唇寒し秋の風」となることもあるかも。私の今の状況を鑑みるに、パブリック・アフェアーズを云々するより前に、自分が携わる事業がメディアパワーを持つぐらいの社会的意義を認めていただけるよう、目の前の事業サポートに集中するのが先と考え直した次第です。


法務パーソン×メディアパワーを持つ企業=パブリック・アフェアーズで思い出した話を最後に一つ。森・濱田松本法律事務所にいらした野口祐子先生が、なんとGoogle日本の法務に移籍されたそうです。弁護士会の登録も、すでにそのように変更されていました。ローレンス・レッシグに師事し、『デジタル時代の著作権』で未来の日本の著作権のあり方を具体的に提言され、日本におけるクリエイティブ・コモンズの普及活動を通じ若き知財関係者に多大な影響力を持つ野口先生。ご自身の思いを具体化するべく、今メディアパワーにおいて右に出るものはいない組織であるGoogleと「組んだ」ようにも見えます。Googleの法務としてだけでなく、IT業界知財パーソンの先駆者としての先生のますますのご活躍に、期待したいと思います。




 

【本】ビジネス法務基本用語和英辞典〔第2版〕/ビジネス法務英文用語集 ― 結局2冊買うことになる

 
ビジネス契約書の起案・検討のしかた』の原秋彦先生が、和文から翻訳して英文契約書・ビジネス文書を作るための「和英辞典」と「用語集」をセットでリリースされました。







まずは青の「和英辞典」。こちらはタイトルにあるとおり同名の書籍の〔第2版〕という位置づけ。率直にいってかなり見にくかった・使いにくかった初版のレイアウトを一新し、二段組みとしたことで、使い勝手がだいぶ良くなりましたね。

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内容は、あいうえお順に並んだ日本語の法律用語に英訳がついた素直な和英辞典です。クセもなく、使いやすいと思います。装丁もソフトビニールで耐久性と開きやすさが両立しています。

法務では、普通の英語学習用の和英辞典だけでは困る場合があります。例えば、同じ「強制する」という単語一つを英訳するにしても、compel,force,urge/coerce/enforceによって法的なニュアンスが異なるということを理解した上で使いわけなければなりません。また、「委託」「瑕疵担保」「専用実施権」のように、必ずしも英米法にズバリ対応する概念・訳語がない場合にどのように訳すべきかを知る必要があります。そのためには、専用の和英辞典が必要。訳語の選択にビジネス経験の豊富な渉外弁護士のノウハウも入っているとなれば、信頼感も違います。


一方、緑の「用語集」。こちらは特にタイトルでは明らかにされていませんが、ふたを開けてみると絶版となった『ビジネス法務英文グロッサリー』の再編集版でした。BLJの2013法務ブックガイドでもとある先生がおススメしていた本で、中古でも品薄だったので、待ち望んでいた方は少なくないのではないでしょうか?

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ただ、こちらはちょっとクセがあるのでご注意を。まず、同時に出された青の和英辞典とは違い、あいうえお順には並んでいません。では何順にならんでいるのかというと、
  • 論理構成のための用語…仮定条件/理由付け/接続詞/結論/比較/例示等
  • 権利関係に関する用語…遵守・違反・不当利得・故意過失・瑕疵/損害賠償/時効/取消・解除等
  • 契約書等起案用語…要件・条件/除外/使役/〜に従って・〜にかかわらず/以上・以下等
といった、語句の“役割”“機能”ごとに、用語・連語(グロッサリー)が分類されているのです。ですから、日本語で先に「こういう英文契約の条項が作りたい」という構造を具体的に描いた上で調べる必要があり、和英辞典と比べて、直感的ではないところがあります。

その代わり、派生語をまとめて眺められるよさもあります。実務でよく使われる語がゴシック太字になっているのも、うれしい配慮です。学習辞典と考えるとgoodではないでしょうか。こちらの本は装丁がソフトビニール製じゃないことからも、繰り返し引く辞典的な使い方ではなく、「学習のための通読」を前提としている様子がうかがえます。


あえてこの2冊について欠点を挙げさせてもらうならば、例文がほとんど載ってない、というところでしょう。原先生曰く、「コンパクトにまとめるためにあえてそうした」とのことなのですが。語句やコロケーションだけでなく例文がいくつも掲載されている野副靖人著『英文契約書のための和英用語辞典』の充実感と比較すると見劣りしますので、ここは人によっては残念という方もいらっしゃるかもしれません。

とはいえ、原先生というこの分野の大家を担ぎ、同じ著者が2つの切り口から書くことでバリエーションの広がりを作りつつ、取り上げる語句・表現は一貫させ、しかもまとめて出版してきたところを見ると、この2冊セットを和英契約用語辞典の決定版として普及させようという商事法務のなみなみならぬ意志が伝わってきます。実際、例文がない点以外は、完成度の高い仕上がりで、結果的にそうなる予感もします。

2冊買うと9,000円近く。予算の都合でまずどちらかを買って相性を見てみようという方には、私は緑の「用語集」から買われることをお勧めします。
 

自炊すべき本とすべきでない本のボーダーライン

弊ブログの昨日の記事で、i文庫HDに法務関連書籍を自炊→OCRにかけてiPadに入れていると便利、と書いたところ、


とのコメントをいただきましたのでちょっと補足。


まったく先生のおっしゃるとおりで、2011年から自炊をはじめて2年超の経験でも、実用書、それもリファレンス本のみにとどめたほうが良く、複数冊広げて並べて検討したり、パラパラと前後にめくりながら概念を理解するための基本書・概説書は紙の書籍の状態のままの方がいいかもと感じています。

具体例を上げてみましょう。たとえば、英文契約に関する本について、私のiPadには今22冊の自炊本が入っています。

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このうち、右下にある中村秀雄著『英文契約書作成のキーポイント』は、法務パーソンにとってのバイブルとして有名な書籍ですが、これは自炊にかけて後悔した失敗例のひとつ。この本は、何通もの英文契約書に触れて実戦をこなしながら、悩みを抱えた状態でじっくり腰を落ち着けて読むと、その解決の糸口が見つかるといった類の本だからです。ドラフティングに役立つテクニック・ノウハウもそこかしこに埋め込まれており、全文検索してそういった情報が見つかって助かることもなきにしもあらずなのですが、その頻度はそれほど高くありません。この失敗から、以降類書である平野晋『国際契約の<起案学>』やチャールズ・M・フォックス『英文契約書作成の技法』は自炊を控えました。

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英文契約関連でもあえて自炊を避けた本たち

もう一つ、個人情報・プライバシー系の論文や寄稿をいくつかしていたころに、別の観点から自炊の欠点に気付かされたことがあります。当初は引用判例などがPDFで全文検索できれば超ベンリじゃん!とガンガン自炊しかけていました。しかしいざ論文を書こうとしてみると、同じテーマをそれぞれの先生が違う角度でどう捉えているのかを比較して理解を深めていくシチュエーションが多く、A先生とB先生の基本書・概説書を机に広げならべて検討をしたいものの、いったん自炊をしてしまうとそれができない・しにくいのです。これは、書籍をそういう使い方をする立場になって初めて感じた不便さでした。あ、もちろんiPadを2台用意するという手はありますが・・・(笑)。

これらの失敗で得た教訓から、以降法務関連の本はリファレンス系の本、具体的には、契約書の例文・用語集のたぐいや、書式等がたくさん紹介されているような実用書を中心に自炊するようになりました。こういったものについては自炊すればするほど検索性の高さと相まって、データベースとしてのiPadの威力を強化できます。法務系以外だと、英文メールの例文集なんかも自炊向きでしょう。

もちろん、すべての本について自炊用と紙の書籍のまま保存用の2冊買うお金を惜しまなければ、いつでもどこでもiPadの中に自炊ファイルを持ち歩きつつ、必要なときに家で書籍の形でパラパラ参照できて最強なんですけど、それは現実的に無理。解決策として、今の所属組織は幸いにして業務利用で会社設置の書籍購入は自由なので、基本的に自費で購入して自宅に置くことを基本としつつ、必要な書籍は社費でも購入させてもらって家/会社の2箇所に置くことで、「どこでも」と「パラパラ」のニーズを最低限カバーしている状況。その上で、「パラパラ」の利便性よりも「全文文字検索」の必要性が高い本のみを自炊、という結論にいたったわけです。
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