企業法務マンサバイバル

ビジネス法務に関する本・トピックのご紹介を通して、サバイバルな時代を生きる皆様に貢献するブログ。

_契約法務

信じていいはずの「代表取締役印」の実態

 
契約書・レター・申請書など、会社としての意思表示を象徴する大切な印が、代表取締役の印です。

民事訴訟法 第228条第4項
私文書は、本人又はその代理人の署名又は押印があるときは、真正に成立したものと推定する
商法 第32条
この法律の規定により署名すべき場合には、記名押印をもって、署名に代えることができる。

このような法律によっても会社を代表する者としての意思の真正性が強く推定される重要な印なわけで、当然に、代表取締役自身が押してるんでしょ?と思われがちです。

しかし、会社がある一定の規模を超えれば日々発生する文書の量も増え、代表取締役自身の忙しさも加速度的に高まり、「印を押す」というだけの非生産的な単純作業に時間を費やしているわけにもいかなくなります。その結果、管理業務を担当する取締役や従業員が判子を金庫に入れるなどして物理的に管理し、社内の決裁手続きで審査→承認が得られたことを稟議書などで確認の上で、「印を押す」という作業を代行することになります。

これまで私が見聞きしてきた範囲では、従業員が100人を超えるぐらいになってくると、代表取締役自身が押印作業をしているケースのほうがまれなのではないかという感触でした。では果たして、その代行率とは数字にして何%ぐらいなのか?質問の特性上世の中にあまり出てこない数字なので、試しに、そういった社内手続きの実態を知る法務パーソンフォロワーが多いであろう私のTwitterアカウントからアンケートを取ってみました。その結果がこちら。


ずばり87%。9割近くが本人が押していないということだそうで。なかなかショッキングな数字です。

ついでに、前々から疑問に思っていたので、こんな質問もしてみました。


予想通り、いや予想以上に多くの会社が、印鑑登録をしていない印、いわゆる認印を契約書等に押す印として運用していることが伺われます。総務の方がよく使われるような判子屋さんでも、「実印/銀行印/角印/認印」を会社設立4本セットとして販売しているほど。「会社実印の印影の悪用を防ぐためのリスクヘッジとして」がセールストークになっていますが、実務的には、押印する文書量の多さのために摩耗や欠けが生じやすく、そのたびに印鑑登録をし直すわけにはいかないという理由のほうが大きいのではないかと思います。


このように、実印ではないただの認印を、代表取締役でない他の取締役や従業員が代行して押しているという実態。これができるのは、日本の「判子文化」の良いところでもあると思います。つまり、代表取締役がオフィスに不在であってもスムーズに契約書等の文書が作成でき、業務が滞りなく流れるという点です。判子の運用を任せるという形で、事実上、契約締結権限を委任しているというわけです。

しかしその代償として、危険も生まれます。任命者・運用者・判子の管理等の印章管理体制に問題があった場合、悪意ある従業員が会社の意思に反した文書を作成し権限を超えた契約が行われてしまう可能性があるという点です。すべての代表取締役印の真正性を疑えというつもりはありませんが、こういった実態があることを前提に、月並みですが場合によっては実印の押印と印鑑証明を求めるなどの慎重さが必要になるのだと思います。


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長い間、日本の中で文化・慣習として根付いていた判子の文化が、ある日を境にまったくなくなるとは思いません。個人的にも、赤い印影の独特な美しさには魅力を感じもします。しかし、企業においては電子的なデバイス上でほとんどの業務と通信が完結し、紙とペンを手にすることが無くなりつつあるのも事実。そうである以上、日常的に繰り返される意思表示行為が電子的な手段によるものに置き換わっていく流れは、避けられないのだと思います。

そうなったとき、その電子的な承認作業を今度は誰がどうやって代行するのか?いや、そもそも判子の運用を任せていた=契約締結権限を委任していたこと自体が間違いだったのではないか?判子が電子的承認に置き換わる時、はじめてそうした気づきにいたるのかもしれません。
 

法律のプロ達が語る「制作」と「製作」の使い分け


コンテンツビジネスにかかわる方なら一度ならず意識したことがあるはずの、「制作」と「製作」の使い分け。契約書における頻出用語でもありますね。

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とりあえず、広辞苑を引いてみると、こう書いてあります。

【制作】
…蠅瓩弔ること。かんがえ定めること。美術作品や映画・放送番組・レコードなどをつくること。また、その作品。「―物」
【製作】
ものをつくること。また、つくったもの。「―所」

はっきりとそう書いてあるわけではありませんが、つくってできあがるものが無形か/有形かで使い分けるという考え方のようです。ネット上で検索しても、この広辞苑の定義をコピペしたような解説記事が多数ヒットします。しかしみなさんもお気付きのとおり、コンテンツ関連の契約書で実際に使われている実態を思い浮かべてみると、有形なものに制作を使う/無形なものに製作を使うケースは多々あるわけで、この広辞苑の区分基準はあまり役立ちそうにありません。

そこで蔵書をあさってみたのですが、権利関係が多分に絡むコンテンツを取り扱う仕事をするにあたって、どういう基準でこの「制作」と「製作」を使い分けるべきかについて、法律家・実務家が考え方をはっきりと整理・記述している文献が、意外に多くないことに気付きました。


法律家が書いた文献を探してみた


そこでまず、その数少ない法律家・実務家が「制作」「製作」の使い分けについて述べた文献をピックアップし、列挙してみることにします。


まずは、日本組織内弁護士協会編『契約用語使い分け辞典』より。

契約用語使い分け辞典
新日本法規出版
2011-08-30


「製作」は、道具・機械等の物品を作ること。
「制作」は、放送番組や芸術品を作ること。(P365)

おおっと、広辞苑そのままですね…(汗)。契約用語の使い分けとしてこういう部分で迷うことはないですし、ぼやけた回答のように思われます。


著作権法の基本書中の基本書、中山『著作権法第2版』では、こう。

著作権法 第2版
中山 信弘
有斐閣
2014-10-27


映画には、『製作』という語と『制作』という語が用いられているが、具体的な映画著作物を作ることを「制作」と呼んでおり(16条)、映画という著作物の制作に発意と責任を有する者を映画製作者と呼んでいる(2条1項10号・29条) (P217)

こちらは、映画の著作物に関する著作権法の条文に絞った解説となっています。もう少し、業界慣習のニュアンスも欲しいところ。


コンテンツ業界にお詳しい法律家による、内藤・升本著『映画・ゲームビジネスの著作権第2版』ではどうでしょうか。



映画やテレビ番組の業界ではよく「コロモヘンのついたセイサク」という言葉を使います。つまり、「制作」と「製作」の違いを「衣へん」の有無によって区別した言葉です。つまり、自分たちは「コロモヘンのついたセイサク」をやっているという場合には、それは、「自分たちが現在つくっている映像は、他人からの請負仕事ではなく、自分たちが一部の製作費を出資している、あるいはその他の理由によって、報酬請求権(出資に対するリターンを含む)を得られることになる」という意味です。反対に「コロモヘンのつかないセイサク」とは、他社からの単純な請負制作で、報酬請求権にはかかわらない制作作業、ということで(もっとも、最近は「コロモヘンのつかないセイサク」でも成功報酬という名の報酬請求権を得る事例は散見されます。)。(P162-163)

そうそう、こんな感じの答えを求めてました。ただ、“「制作」は単純請負制作”という部分については、そうでもないケースもあるように思われますね。


少しマニアックな絶版本ですが、『ビジネス著作権法』にこんな記述が。

ビジネス著作権法
荒竹 純一
産経新聞出版
2006-09


著作物を作成する創作活動を「制作」といい、発案、企画、資金調達などをしながら作成を主導する活動(プロデュース業務を担当しながら著作物の完成を主導する活動)を「製作」という。(P174)

おお、これはかなり私の中の感覚にフィットする定義です。


こちらは書籍ではありませんが、経済産業省(TMI総合法律事務所)編「コンテンツ展開の契約に関する報告書」より。

「コンテンツ・プロデュース機能の基盤強化に関する調査研究」(経済産業省編)は、「“製作”とは企画開発の段階から、資金を集めて作品を作り、それを商品に変え、様々なビジネスを通じて利益を上げていく、その全過程を指すもの」であり、「製作費を集めた後にやるのが“制作”のプロセスである」と説明する。要は、コンテンツ展開を含めたプロジェクト全体が「製作」であり、そのプロジェクトにおいて発生する個別のプロセスが「制作」であると理解しておけば足りるであろう。

これも私の認識に近い記述です。ただし、製作費を集めた前に制作をするケースもあるのではないかなと思います。


自分の言葉で整理してみた


以上を踏まえて、業界慣習に含意されるニュアンスと、著作権法上の使い分けの両方を満たすような形で定義できないかと考え、整理してみました。

「制作」
ある特定領域のコンテンツまたはそのパーツを自ら作ること。
制作したコンテンツが著作物に該当することになれば、職務著作などの例外を除き原則として自己(制作者)に著作権が帰属する。
「製作」
多数当事者が制作したコンテンツをさらに統合してコンテンツを作ること。パーツとしてのコンテンツに不足がある場合、その不足部分を自ら制作して補充することを含む。
製作したコンテンツは基本的には著作物に該当し、その著作権は映画の著作物であれば著作権法第29条により映画製作者に帰属、それ以外の著作物についてはケースバイケースで合意して権利帰属を決める。

私自身はこのような整理でこの二つの語を捉えています。ですから、契約書で「制作」を使う文脈では、その条項の主語となっている当事者に制作物の権利が帰属する前提を強く意識しますし、逆に「製作」を使う文脈では、映画の著作物でないものについては契約書の中で多数当事者間での権利処理をしなければならないことを意識する。そんな感じです。


他の文献でこの使い分けについて述べているものが見つかれば、また追記していきたいと思います。なお、このエントリをまとめる途中で、現在駐仏されお仕事と研究にいそしまれている@NakagawaRyutaro先生にこのことについて質問させていただいたところ、遠いパリからものすごい反射速度でいくつかの文献での記載を教えていただき、さすがプロだなと感服(ありがとうございました)。もっとシャープで腹落ちする定義が明文化された信頼できそうな文献をご存知でしたら、みなさまからもコメント欄で教えていただけると助かります。
 

2017.8.10追記

@rsyaoto さんよりtwitterで情報提供をいただき、経済産業省(TMI総合法律事務所)編「コンテンツ展開の契約に関する報告書」を追記しました。
 

【本】『民法(全)』ー 新民法への上書き作業をスタートしました


ついに、重い腰を上げて、自分の頭の中の民法(債権法)のアップデートを始めました。





6月2日に公布され、2020年6月2日までに施行されることが決定した改正民法。3年前に『条文から分かる 民法改正の要点と企業法務への影響』を読んで以降は、頭の混乱を避けるために(という言い訳で)あえて新法に関するインプットを避けてきましたが、観念して知識の上書きを開始。最初の土台づくりとしてどの本がいいだろうか?と検討して選んだのが、この潮見先生の本です。


私は、まず本書を各章ごとに通読し、それが終わったら対応する箇所の判例六法プロのiPad版で新設条項を中心に素読みして(判例六法プロの民法改正案織込み条文では、新設条項がわかるよう明示されています)、新法独特のフレーズを条文から抜き出しアプリ上のふせんにメモを作りながら、あらためて関連部分をまた本書で読み直す、というような作業をやってみました。

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改正後の新法前提に書かれたこの本では、改正前の旧法との比較に言及した記述は最小限にとどめられています。それでも、要所要所では以下のような旧法との対比に基づく解説があります。

▶︎旧法 634条1項ただし書きは、「瑕疵」(新法のもとでの品質に関する契約不適合に相当する)が重要でなく、かつ、修補に過分の費用を要する場合には、修補請求をすることができない旨を定めていた。しかし、新法はこの規定を削除している。これは、この場合(〔重要でない瑕疵〕 × 〔過分の費用〕事例)は、 412条の2第1項にいう「不能」にあたると考えられたからである。したがって、新法のもとでは、「契約不適合が重要でなく、かつ、追完に過分の費用を要する場合」には、追完が「不能」であると解すべきである。(P451-452)


民法の概説書としてはもっともコンパクトな部類に入る本であり、各論点に深く突っ込んだものではありませんが、おかげでかえって混乱なくスイスイ読み進めることができ、だいぶ視界が晴れてきた気がします。全体を見渡しての最初の感想としては、やはり約款規制対応は不可避だなということと、そして組合契約において新設条項が思っていたより多くかつ重みのある規律がなされていて、投資組合・JV案件に地味に影響がでそうだなと。

【本】『選択しないという選択』― Amazonダッシュボタンに利用規約の未来が見える

 
全体を通じて翻訳が硬めなところが気になるものの、法や契約・利用規約によってルールを作る法務パーソンであれば、レッシグの『CODE VERSION 2.0』とあわせて読んでおくべき一冊。





利用規約・約款は、たくさんの利用者を取引相手とする消費者取引には欠かせない契約文書です。ほとんどの利用者は、冒頭をちら見する程度で同意ボタンを押しますが、一部の人は、激しい嫌悪の対象としてこれを捉えます。利用規約の多くが企業に一方的に有利に見え、たとえ内容に納得できなくてもそのサービスを利用する以上同意するしかない、という点にあるのでしょう。

その嫌悪レベルが許容ラインを越えると、こんな事件に発展することもあります。

消費者団体、ドコモを提訴 同意なく約款変更「不当」 (日本経済新聞)
利用者の同意なく携帯電話サービスの約款を変更できるのは不当だとして、さいたま市の消費者団体が25日、NTTドコモに約款を変更できる条項の使用差し止めを求める訴訟を東京地裁に起こした。
原告のNPO法人「埼玉消費者被害をなくす会」によると、2015年にそれまで無料だった請求書の発行手数料が原則1通100円となったことをきっかけに提訴した。

約款を変更した目的は何だったのか?NTTドコモの2014年7月14日付報道発表資料を読んでみました。口座振替、クレジットカード、請求書の3つの支払い方法のうち、口座振替またはクレジットカード払いを選択していた利用者に対しては、ドコモに対し書面送付を積極的に要求した場合には50円の追加費用を請求(電子交付なら無料化)し、請求書払いを選択していた利用者については、支払い方法自体を(口座振替またはクレジットカード払いに)変更しない限り、自動的に毎月100円を請求するという方法に変えたようです。これによって、利用者が請求書払いを選択する以上は、サービス料とは別に100円を支払うしか選択の余地がないことなりました。

それまで3つの支払い方法を認めてきたドコモとしては、口座振替またはクレジットカード払いをデフォルト・ルールとし、過去請求書払いを選択してきた利用者をそちらに誘導したかったのかもしれません。有償サービスでありしかも生活インフラである携帯電話の料金請求において、そのような不利益変更が許されるのか?この点が論点となりそうです。


さて、少し話は逸れましたが、このように世の中から嫌悪の対象とされがちなデフォルト・ルールも、一定の範囲で許容する実益があるのではないか。著者サンスティーンは、本書全編を通じてきわめて楽観的に、力強く擁護します。

個別化したデフォルト・ルールは多くの領域で今後の流れとなっていく。多様な人々が情報にもとづいて判断した選択についての大量の情報が利用できるようになるに伴い、個別化が大幅に進むのは避けられないだろう。来たるべき波はすでに動き出している。それが重大なリスクを生むであろうことを誰も疑うべきではない。プライバシー、学習、自己の能力開発の重要性――そして多くの状況で能動的選択を要求することの必要性を私は力説してきた。しかしおおいに楽観視する理由がある。時間は貴重である。おそらくほかの何よりも貴重であり、もっと時間があればもっと自由になり、より多くの能動的選択ができるようになる。場合によっては、選ばないことが最善の選択である。個別化したデフォルト・ルールは、われわれがよりシンプルに、より健康的に、そしてより長く生きられるようにしてくれるだけでなく、もっと自由になれると約束してくれる。(P221)

ビッグデータの力を借りて、デフォルト・ルールを適切に個別化することができる時代になれば、人間はさらなる時間と自由を手に入れることができる。もしそのデフォルトルールが受け入れられないなら、利用者は「選択しないという選択」をすればいい。不適切なサービス・企業は自然淘汰され、適切なデフォルト・ルールだけが残っていくのだ。そうサンスティーンは述べます。


デフォルト・ルールを適切に個別化するための手法として、サンスティーンは、ビッグデータの活用を前提としています。データのプライバシー性もさることながら、その提供するモノやサービスを選択の性質に配慮して、何をどの程度個別化していくのかが重要なポイントです。AmazonやWalmartが取り組む「予測ショッピング」システムを題材にこの考え方を整理した第7章は、利用規約・約款を取り扱う企業法務パーソンにとって参考になることでしょう。

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左上の欄の項目は、選択にかかる判断のコストが小さく、関連する選択はコストではなく利益となる。このような場合、予測ショッピングを選ぶ理由はほとんどない。能動的選択が重要となる。一方、右上の欄は難しい選択がかかわる――しかし多くの人にとって、こうした判断を下すことは利益となる。この場合、予測ショッピングは楽しみを奪うので望まない人が多い。
左下の欄は予測ショッピングに最適である。このような買い物は楽しくないからだ。しかし選択のコストは小さいので、急いで自動化する必要性はない。自動化する価値があるかどうかは、関連する時間を節約することで大きな利益があるかどうかによる(略)。予測ショッピングにとっては右下の欄が最も重要である。この場合、選択することは面白くも楽しくもなく、また選択が難しいので、自動化することに実質的な価値がある。予測ショッピングが正確で簡単になれば、自動購入を支持する有力な論拠となるだろう。予測ショッピングが本当の利益をもたらせるのはこの状況である。(P197-198)

さて、この表の左下の欄をもう一度ご覧ください。選択することが面白くも楽しくもない × 簡単もしくは自動的な“予測ショッピングに最適”なものの例として、歯磨きなどの家庭用品が挙げられています。これを見て、Amazonが最近始めた「Amazonダッシュボタン」のことを思い浮かべた方もいらっしゃるのではないでしょうか?

Amazon Dash Button
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完全自動化とはせずにシンプルなボタンを押させる形を採用してはいますが、これぞまさに、顧客と商品の特性に合わせたかたちでデフォルト・ルールを個別化し、利用者がほぼ無意識に同意して(させられて)いるボタンそのものと言えるでしょう。「個別化したデフォルト・ルール」なる利用規約・約款の未来は、こんなかたちですでに実現されているのです。

【本】『ITビジネスの契約実務』― 吉田赤本を超えるIT契約基本書の誕生


著者の伊藤雅浩先生、久礼美紀子先生、高瀬亜富先生からご恵贈いただきました。ありがとうございます。

ITビジネスの契約書作成について、長きにわたり法務業界の基本書とされてきたのが、“吉田赤本”こと吉田正夫著『ソフトウェア取引の契約ハンドブック』です。その吉田赤本の優れた点を踏襲したうえで、取り上げる契約類型を増やし、最新の法令・判例動向を反映し、さらに赤本でも論じられていなかった重要な法的論点についても分析を加えた、IT契約の基本書が新たに誕生しました。Amazonの初回入荷分は品切れになる予感がします。予約推奨です。


ITビジネスの契約実務
伊藤 雅浩 (著), 久礼 美紀子 (著), 高瀬 亜富 (著)
商事法務
2017-02-15



吉田赤本の優れた点は、IT契約を典型的4パターンに分類してサンプル契約を全文掲載し、パターンごとに理解のベースとなる法的論点を解説したうえで、具体的なサンプル条項を逐条でみながら注意点や交渉上のポイント解説するという、その構成にあります。本書は、その構成のよさを忠実に踏襲しています。踏襲しつつも、本書全体の骨組みとなるIT契約類型の分類方法について、契約の目的を切り口に7つの類型に分ける新たな分類方法を提案。そのうち、ハードウェア資産提供型を除く6類型が、本書の解説対象として取り上げられています。特に、クラウドサービス契約をサービス提供型の中の「機械資源を提供するもの」と捉える考え方や、データ提供契約を役務でなく「データ資産を提供するもの」と捉える考え方は、腹落ち感があります。

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IT契約実務で抑えておくべき重要・頻出論点、そして最新の法令や判例で対応が必要となってきている論点は、私の把握する限りもれなく網羅・言及してあります。以下私のメモも兼ねてリストアップしてみます。

・請負と準委任のいずれを選択するべきか(P31)
・SES契約やラボ契約(エンジニアの人手提供型契約)の偽装請負リスク(P37)
・ベンダのプロジェクトマネジメント義務(P49)
・レベニューシェア式委託報酬と下請法(P51)
・賠償すべき損害の種類の制限(P59)
・賠償金額の上限設定(P60)
・著作権を共有とすることのリスク(P66)
・検収と仕事の完成(P70)
・瑕疵の意義(P74)
・クリックオン契約の成立(P84)
・ソフトウェアライセンスと著作権法の「使用」「利用」(P93)
・知的財産権侵害の責任(P111)
・契約終了時の担保措置と自力救済(P117)
・開発契約の瑕疵担保責任と保守契約との重なり(P126)
・クラウドサービスと善管注意義務・SLAの意義(P140)
・クラウドサービスとユーザーのバックアップ責任(P151)
・クラウドサービスと個人情報の第三者提供/委託(P153)
・クラウドサービスの免責条項の有効性(P156)
・クラウドサービスの廃止は自由か(P160)
・データの法的保護 所有権・著作権・営業秘密・不法行為(P192)
・データ提供と改正個人情報保護法(P195)

250ページ弱の紙幅ですので、それぞれの論点の言及の深さに限度があることは否めません。特にレベニューシェア式委託報酬に関しては、日ごろ悩んでいるところなだけに、もう少し詳細に論じていただけるとありがたかったかも。実務での使いやすさに配慮して(法律書としては)薄めの本に仕上げることを優先された結果だと思いますので、不満というほどのものではありません。

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そんな有限の紙幅の中にあって、特別にページ数が割かれまた脚注引用文献量の多さなどから並々ならぬ著者の力の入れようを感じたのが、「ソフトウェアライセンス契約のデフォルトルール」という一節でした。P88−100にわたり、非典型契約とされるソフトウェアのライセンス契約に対し、各法令の任意規定・強行規定がどう関わり・重なりあっているのかという、基本的なはずなのにみんながスルーしている論点を取り上げて具体的な条文を列挙し丁寧に分析されています。以下、P99の「小括」よりそのエッセンスを引用。

ソフトウェアライセンス契約は私法上の契約である以上、民法の規定が適用される。ソフトウェアライセンス契約は非典型契約であるため契約各論に関する規定の直接適用はないが、対価の支払いを伴うライセンス契約は有償契約なので、第3編「債権」、第2章「契約」、第3節「売買」の規定(民法555条ないし585条)が準用される(民法559条)。同第7節「賃貸借」の規定(民法601条ないし622条)が類推適用されるかについては議論があるが、一般論としては類推適用されないと考えるべきである。
また、ソフトウェアライセンス契約は、著作物(著作権法2条1項1号)であるプログラム等を目的物とするため、著作権法の規定が適用される。ソフトウェアライセンス契約で許諾されていない限り、原則としてユーザは著作権法21条ないし28条所定の「利用」を行うことはできない。もっとも、同法30条ないし50条所定の権利制限規定に該当する行為は、ソフトウェアライセンス契約で禁止されていない限り、ユーザーは自由になし得る。同法21条ないし28条に規定されていない著作物の「使用」も、ソフトウェアライセンス契約で禁止されていない限り、ユーザーの自由である(ただし、同法113条2項の「使用」を除く)。

ライセンス契約については私も様々な文献を見てきたつもりですが、この基本的論点については、学術論文や法律雑誌の記事(たとえば、ビジネスロー・ジャーナル連載の松田俊治「ライセンス契約法―取引実務と法的理論の橋渡し」など)で断片的・抽象的に論じられることはあっても、条文と照らし合わせながら体系的・具体的に、そして簡潔に論じたものはなかったと思います。なお、「賃貸借の規定は類推適用されない」という著者の結論とその理由が妥当かどうかは、様々ご意見あるかもしれません。


IT契約に関する良書は吉田赤本以降もたくさん出版されてきました。しかし、法務に携わる方なら誰もが「やっぱり吉田赤本が一番読みやすいし信頼できる」「けどさすがに1989年刊行だし」「あのスタイルで内容がアップデートされた本がほしい」「誰かが書いてくれないかな」と思っていたはずです。そうは言っても、いざ書こうと思うと難しいからこそ、これだけの長い間吉田赤本を超える基本書を誰も出版できなかった。この壁を乗り越えてくださった著者お三方のこのお仕事は、業界全体に貢献する偉業というべきでしょう。
 
私のおすすめ法務関連書籍をまとめた「法律書マンダラ2017」も、早速本書を入れて更新させていただきました。
 

『ライセンス契約のすべて 実務応用編』第2版がでました

 
共著者として参加させていただいた『ライセンス契約のすべて 実務応用編』が、初版から7年経ち、ついに改版となりました。




改版を機にあらたな共著者の方・記事が参加された関係で、従来の記事は全体的にスリム化しており、本書の中での私の貢献度も(もとからほとんどありませんでしたが)ますます薄いものとなっております。それでも、末席に名前を並べていただけたことは光栄です。

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このライセンス契約分野の実務書として定評のある姉妹書『ライセンス契約のすべて 基礎編』の第3版も同時発売となっています。あわせてご支援いただければ幸甚です。

秘密保持契約と「利用目的」条項

 
そのほとんどが、現場担当者に「とりあえず挨拶代わりに結んでおけばいい」とすら思われ単なるペーパーワークになりがちな契約書である一方で、それをレビューをする法務が手を抜くと怖いことになることもある秘密保持契約について考える不定期シリーズの2回目。

今回は、「利用目的」条項について。
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秘密保持契約では、開示した秘密情報を目的外に利用することを禁止する規定が必ずあります(たまにそれを忘れている契約書を目にすることもあります汗)。そして目的外の利用を禁止する前提として、あらかじめ開示の目的を明確にしておく必要があります。多くの秘密保持契約書のひな形において、その目的がなんであるのかを記載する部分は、頭書とよばれる契約書の冒頭に置かれています。たいていの場合、1行分ぐらいの自由記入欄が用意されていて、そこに現場担当者が適当に契約の目的を書き加え、契約の相手方と調整し、法務がその言い回しを適当にチェックするという流れになります。以下がその記載例で、これは少しふわっとしたあまりよくない書き方の例ですが、実際こういう文言で締結してしまっているケースは少なくありません。

株式会社A(以下「A」という)および株式会社B(以下「B」という)は、X分野における協業の可能性を検討することを目的(以下「本目的」という)として、互いに開示する情報の秘密保持に関し、以下のとおり秘密保持契約(以下「本契約」という)を締結する。
This confidentiality agreement(this "Agreement") is entered into between A, Inc ("A") and B ("B") regarding the confidentiality of the information disclosed to each other for the purpose of considering the possibility of an alliance in the area of X (the "Purpose")


さきほど「現場担当者が適当に書いた」利用目的を「法務が適当にチェックする」と言いました。心ある法務パーソンであれば、適宜ヒアリングを行いながら「利用目的を限定的に書いておかないと、相手方にその情報を本件と全然関係のない目的外の利用をされても、相手に文句言えなくなってしまいますよ」というアドバイスを添えていることでしょう。一方で、現場担当者には多くの場合、将来その取引がどこまで広がるかを想定できない、限定的にせずむしろ広がりを持たせておきたい、といった心理が働きます。その衝突の結果、上記例のようなふわっとした書き方になるケースが散見されるというわけです。

この書き方に関する現場と法務の立場の衝突に関しては、西村あさひ法律事務所森本大介ほか著『秘密保持契約の実務』P21にも、

あまりに広く目的を定めると、受領当事者が当初の想定を超えて自由に受領した情報を使えるようになってしまうし、他方で、あまりに狭く目的を定めると、受領当事者が当初の想定の範囲内で使用したにもかかわらず、意図せず契約違反を犯してしまうことにもなりかねない
秘密保持契約を締結することになった主な取引以外に関連する取引がある場合には、その関連取引についても契約の目的とするか否かを検討する必要がある。たとえば、ある会社の株式を譲り受けるにあたって、株式を譲り受ける前にその会社の資産の一部を第三者に切り出したりすることを株主と一緒に検討するには、(略)「AによるBからのX会社株式の譲受けおよびそのために必要な取引の可能性を検討する目的」と記載するほうが正確
取引スキームが決まっていない場合には、想定される取引スキームが網羅されるような目的を設定する必要がないか検討する必要がある。たとえば、基本的には合併による企業の統合が予定されている場合であっても、デュー・デリジェンスの結果によってはその他のスキームがあり得る場合には、「合併その他の両者の(全部または一部の)統合の可能性を検討する目的」といった目的を定めるほうが正確

といった具合に、悩ましいものの十分な検討が必要なところとして取り上げられています。法務パーソンとしては利用目的はより限定的に記述すべきだとわかっていても、実際に利用目的の書き方が仇となって揉めたリアルな事例がないと、現場担当者を納得させられず、広めの規定ぶりで妥協してしまいがちです。


このような、現場担当者の納得を得たい場面での紹介に適した、利用目的条項の定め方の曖昧さによって生まれるリスクが現実のものとなった事例がないものかと探していたところ、アンダーソン・毛利・友常法律事務所石原坦ほか著『英文契約書レビューに役立つ アメリカ契約実務の基礎』P140‐141に、Martin Marietta Materials, Inc. v. Vulcan Materials Co., No. 254, 2012 (Del. Jul. 12, 2012) が紹介されていました。

この利用目的の解釈がいかに重要であるかを示す例として、M&Aの「Transaction」を目的とした秘密保持契約の条項の解釈をめぐって争いとなった米国デラウェア州最高裁判所の裁判例がある。
過去にMartinとVulcanは、友好的な合併を目指して協議を行っており、その過程において両社は秘密保持契約を締結して情報を開示していた。しかしながら、当該交渉が決裂したため、Martinは、Vulcanに対して、交渉の過程で取得した情報を利用して、敵対的買収を仕掛けたのであった。本件秘密保持契約上は、利用目的として、「solely for the purpose of pursuing and competing the Transaction」と規定されており、この「Transaction」の定義が、「a potential transaction being discussed by Vulcan and Martin」とされていたことから、本件訴訟においては、論点の一つとして、友好的合併のみならず敵対的買収もこの「Transaction」に含まれるか否かが争いとなったのである。

争いとはなったものの、このケースでは最高裁判所が「契約書上は明確ではないが利用目的は友好的な取引のみが含まれる」という原告に寄り添った解釈をし、秘密保持契約違反を理由に敵対的買収を差し止めることができました。結果オーライとはいえ原告法務担当者は冷や汗をかいたんじゃないでしょうか。なおこの事例については、ちょうど2016年末に発行されたばかりの旬刊商事法務No.2121 P70で、龍谷大学今川嘉文教授による判例解説が掲載されていましたので、ご興味あればぜひお読みになることをお勧めします(なお、本稿には本件対策としてのスタンドスティル契約の必要性についても述べられています)。


さて、目的外流用リスクが現実のものとなることがあるのは分かったとして、じゃあ、秘密保持契約書において、具体的に利用目的はどのように規定しておけばいいのか?についてです。

たとえば、先ほど紹介した『秘密保持契約の実務』では、上記Martin v. Vulcan裁判例への具体的な言及はないものの、おそらくこれを意識したであろう記載がありました。

「合併その他の両者の統合の可能性を検討する目的」と定めるのではなく、「合併その他の両者の友好的な統合の可能性を検討する目的」と定めることによって、友好的な統合・買収の検討・交渉の過程で開示を受けた情報を敵対的買収に転用すること(典型的には、買収価格の算定に利用すること)を目的外使用と位置付けることができる。

続く解説に、この文言によっても裁判での差止等の実効性には懸念あり、とノリツッコミのような注意が書かれていましたが、実際、話しているうちにこの相手とは組めないなとなることはあるので、「友好的な検討・交渉・協議のため」と秘密情報の利用目的を限っておくのは、M&Aに限らず多少の意味はあるかもしれません。もちろん、友好or敵対という状態が主観的なものに過ぎず、その立証も難しそうではありますが。

友好的/敵対的M&Aといった特殊な取引でない一般的なケースでの文例としては、宮田正樹著『英文契約書ハンドブック』P64の文例などがちょうどよいかと思いますので、こちらもご紹介しておきます。せめてこの程度の特定・限定が必要になるのではないかと考えます。

This Agreement made for the purpose of setting forth basic matters regarding the maintenance of the confidentiality of Confidential Information (as defined in Article 2) disclosed by either Party to the other Party in connection with to integrate energy saving function into the boiler developed and sold by either Party hereto ("Purpose").

[訳文]
この契約は、いずれかの当事者が開発し販売するボイラーに省エネ機能を組み込むこと(以下「本目的」という)に関して、いずれかの当事者が相手方当事者に対し開示する秘密情報(第2条に定義する)の秘密保持に関する基本的な事項を定めることを目的とする。

そのほか、規定の厳密さと運用のフレキシビリティを両立させるアイデアとして、秘密情報を開示するたびに、開示側当事者が当該個別秘密情報ごとの個別の利用目的を特定・限定して開示するスタイルをとってもいいのでは、と提案したことがあります。しかし、事務的な負担が増加することに対する懸念や、過去にそういったスタイルをとる事例がみられないからか、理解を示してくれたことがほとんどありません。

そういうフィードバックをもらうたびに、そもそも契約書を交わしてまで守らせたい秘密だったのでは?面倒はいやだけど守りたいと言っているその情報って大した秘密じゃないんじゃないか?と思ってしまいますが・・・。
 



英文契約書レビューに役立つ アメリカ契約実務の基礎
石原 坦
レクシスネクシス・ジャパン
2016-10-17


元商社ベテラン法務マンが書いた 英文契約書ハンドブック
宮田 正樹
日本能率協会マネジメントセンター
2016-09-25

【本】『英文契約書作成のための和英頻出用例辞典』― 分冊化でさらに捗る英借文

 
2012年刊『英文契約書作成のための和英用語用例辞典』が、パワーアップして帰ってきました。

 



旧版では1冊350ページだった『用語用例辞典』が、新版ではそれぞれ400ページ超の『用語辞典』と『用例辞典』の2分冊となりました。単純計算で旧版から2倍超の情報量となります。本日オススメするのはそのうちの後者。


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旧版を利用しはじめたころは、用語・熟語・連語もあわせて和英から引けるということにありがたみを感じていたのですが、そのうち、その単語が使われる英文契約書上の用例を調べて「英借文」するという利用方法だけに特化されていったので、今回の分冊化で“用語”部分が分かれたおかげで私にとっては余計だった情報が減り、使いやすくなりました。

中上級者にとっては、和→英から探すというワンクッションが入ってしまう(旧版に引き続き英語の逆引きインデックスもない)点がまどろっこしいかもしれません。そういう意味では、『新編 英和活用大辞典』の英文契約書版をどなたかが書いてくださるとありがたいのですが。
 

Appleも利用規約を簡素化しはじめた

 
iPhone7が発売開始となり、iOSもついにニケタ番台の10へアップグレードになりました。

これにあわせるように、App StoreやiTunes Storeでコンテンツをダウンロードする際に必ずみなさんが同意させられていた「iTunes Store サービス規約」が大きく改訂されています。タイトルも一新し、「Appleメディアサービス利用規約」に。その目指すところは、Apple自身の説明によれば、

短縮、および条件への明瞭度を向上させます。

というもの。

とはいえ、毎度毎度の「踏み絵」作業で、みなさん読まずに同意ボタンを2回押されたことと思いますので、Google Docsに転記して、読みやすくなるよう見出しレベルを整理してみました。


Appleメディアサービス利用規約

AMST&C


見出し4階層のみ、抜き出してみます。

A.サービスの概要

B.本サービスを利用する
 支払い、税金、返金
 Apple ID
 プライバシー
 本サービスとコンテンツの利用ルール
  すべてのサービス
  iTunes Store コンテンツ
  App Store コンテンツ
  iBooks Store コンテンツ
  Apple Music
 再ダウンロード
 購読
 コンテンツとサービスの提供可能性
 非APPLEデバイス

C.本サービスへの送信
 送信ガイドライン

D.ファミリー共有
 承認と購入のリクエスト
 ファミリーメンバーの変更
 ファミリー共有のルール

E.お勧め情報の機能

F.追加のiTunes Store に関する規約
 シーズンパスとマルチパス

G.追加のApp Store に関する規約
 App Store コンテンツのライセンス
 App内での購入
 Appのメンテナンスおよびサポート
 ライセンスアプリケーションエンドユーザ使用許諾契約
  a.ライセンスの範囲
  b.データの利用に同意する
  c.解除
  d.外部サービス
  e.保証なし
  f.限定責任
  g.(米国外への輸出)
  h.(米国連邦調達規則)
  i.(準拠法および裁判管轄)

H.iBooks Store に関するその他の条件

i.Apple Musicに関するその他の条件
 Apple Music メンバーシップ
 iCloud Music ライブラリ

J.全サービスに適用される諸条件
 Apple の定義
 契約変更
 サードパーティーのマテリアル
 知的財産権
 コピーライト通知
 サービスの終了と一時停止
 保証の否認、限定責任
 免責条項
 公的機関の制定法上の例外
 準拠法
 その他の条項

※( )はAppleの利用規約に見出しがなく私が適当に付けたものです


はい、たしかに、iTunes Store/App Store/iBooks Store/Apple Musicの4つのコンテンツ種別ごとに共通するもの・しないものを整理していて構造的に分かりやすいですし、以前のバージョンに見られた同じ注意文言や義務規定が規約内で言い方を変えて何度も繰り返されるようなことがなくなり、かつ、(日本語訳に硬さは残るものの)平易な言葉遣いとなっていて、結果、文書量も短くなっています。


利用規約を簡素化する動きについては、GoogleFacebookあたりが先んじていましたが、ついにAppleがこの動きに追随することをはっきりと表明したことで、この傾向が加速することは決定的になったといってよいでしょう。法務パーソンとしては、文書を短く読みやすくしながらも、いかに手短にかつ法的に抜け漏れや隙が生まれないように利用規約を作っていくかというドラフティングテクニックが一層問われることになります。
 

【本】『ユーザを成功に導くシステム開発契約〔第2版〕』― スルガ銀行事件やファーストサーバ事件を受けてもビクともしないモデル契約に改めて学ぶ


日比谷パーク法律事務所 西本強先生の御著書の第2版が出版されました。ユーザの立場からベンダと契約交渉する法務パーソンにとって本書は定番書であり、2011年の初版を蔵書している方も多いはず。要更新です。





全体のボリュームは初版から約50ページ増えて380ページに。表紙の色の変化とあいまって、手に取ると初版とは別の本のようです。ページ数を増やした主な要因は、民法改正法案(2016年3月時点)がシステム開発契約に与える影響についての解説が加えられたことによるもの。章を分けて総括的に注意点を述べることはせず、モデル契約書の逐条解説パートで個別具体的に当てはめて影響を解説してくださっています。これにより、法改正となった場合の影響を一般論として語られても実感が湧かないという方に応えるものとなっています。例えば、瑕疵担保責任の条項に加えられた改正の影響解説は、こんな感じ。

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初版が発売された当時、本書のモデル契約に倣って自社のシステム開発契約ひな形を整備された方も少なくないのではと思いますが、モデル契約自体の修正は最小限に留められていましたので、ご安心ください。参考までに、私がチェックして発見した限りでの初版のモデル契約との差異を以下にリストアップしておきます。
  • 第2条(定義)
    IPA共通フレーム2013の更新に伴う改訂
  • 第5条(委託料及びその支払方法)
    個別契約の総額に上限を付し、上限を越えた場合には「合理的な根拠」を示すこととしているが、その合理的な根拠の説明として「(増加した委託料によりシステムが完成できることを示す根拠を含むが、これに限らない。)」を追加
  • 第9条(乙のプロジェクトマネジメント義務)
    ベンダの義務として「各工程において得られた情報を集約及び分析して、ベンダとして通常求められる専門的知見を用いてシステム構築をすすめ」を明記
  • 第37条(変更の協議不調に伴う契約終了)
    契約上の手続きに沿ってシステム仕様変更等の協議を行ったが、これが整わずにユーザが個別契約の続行を中止する場合には、「個別業務の未了部分について個別契約を解約することができるものとする。」を明記
  • 後文
    初版では甲乙“署名”押印の上とあったのを“記名”押印に修正
※第47条(FOSSの利用)で、「当該FOSS利用のメリット及びデメリット(第三者ソフトウェア利用のリスクを含む。)」と改訂が加えられていたのですが、おそらくこれは初版の「(FOSS利用のリスクを含む)」のままで問題なかったのではと思われます。


あわせて、索引の差分も確認してみました。新たに追加されたキーワードは以下のとおりです。
  • アドオン
  • 委託代金の支払時期
  • 瑕疵修補責任
  • カスタマイズ
  • 議事録
  • 共通フレーム2013
  • サービスの一時的中断事由
  • 支払日
  • 重過失
  • スルガ銀行対日本IBM事件
  • 請求権競合
  • 中間資料
  • バックアップ取得
  • パッケージ型システム開発
  • プロジェクトマネジメント義務違反に基づく解除
  • 法条競合
  • 有効期間

この手のシステム開発契約に詳しい方がモデル契約や索引のアップデート部分を眺めれば、スルガ銀行事件やファーストサーバ事件が近年のシステム開発契約の実務に大きなインパクトを与えたことが、改めて認識できると思います。それでいて、初版から意味的な修正がほとんど入っていないのは、それだけもともとの解説内容やモデル契約書の完成度が高かったからに他なりません。
 

Pokémon Goの利用規約を分析してみた

Pokémon Goが日本でもサービス開始となりました。リリース1日目の都内の私の活動域では、スマホを片手に歩いている人の控えめに言っても1/2がPokémon Goしながら歩いていて、早速トラブルも発生し始めているようです。

前回のエントリでは、米国ですでに発生しているトラブルを参考に、<位置情報×AR>サービスを提供する事業者として検討しておくべき法的リスクについてまとめました。今回はそれに続けて、Pokémon Goのサービス利用規約プライバシーポリシーの中から特徴的な条文を取り上げ、事業者として利用規約という「盾」を使ってどのようにリスクに対処しようとしているのかを学んでみたいと思います。

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利用規約の全体構造


まずは、本利用規約の全体構造を見てみましょう。原文には条文番号がつけられていませんが、大見出し・小見出しの階層が分かりやすいように、また説明の便宜のためにも私の方でナンバリングしてみました。

1.本規約への同意
2.本規約又はサービスの変更
3.仲裁に関する注記
4.プライバシー
5.参加資格及びアカウント登録
 5.1お子様による登録
6.安全なプレイ
7.本アプリにおける権利
 7.1アプリストアのアプリに関する追加規約
8.コンテンツ及びコンテンツに関する権利
 8.1 コンテンツの所有権
 8.2 お客様から付与される権利
9.交換
10.バーチャルマネー及びバーチャルグッズ
 10.1 バーチャルマネー及びバーチャルグッズの購入
 10.2 米国外のエンドユーザーによる購入
11.終了時の交換アイテム、バーチャルマネー及びバーチャルグッズの取扱い
12.行動規範、一般禁止事項、及び当社の執行権
13.フィードバック
14.デジタルミレニアム著作権法(DMCA)と著作権に関するポリシー
15.第三者のサイト又はリソースへのリンク
16.終了
17.保証に関する免責事項
18.補償
19.責任の限定
20.紛争解決
 20.1 準拠法
 20.2 仲裁合意
 20.3 仲裁規則
 20.4 仲裁の手続
 20.5 仲裁場所及び手続き
 20.6 仲裁人の決定
 20.7 費用
 20.8 変更
21.一般条項
22.連絡先

項目立てを見るとIngressの利用規約(英語版のみ)と似ており、これをベースに作成されたことが伺えますが、詳細に見ていくと要所要所が進化しています(→Ingress利用規約とPokemon Go利用規約の差分を取ったファイルがこちら)。

中でも一見して違いが際立つのが、紛争解決条項(3条および20条)の分厚さです。全体で約16,000文字の本利用規約において、その約1/5の約3,300文字がここだけに割かれています。ついで、プライバシー(4条)・子どもによる利用(5.1条)・安全性に関する配慮(6条)などが先頭に並べられているのは、このサービスの特徴である<位置情報×AR>の要素によって発生するリスクに優先度を合わせた配列になっていることを伺わせます。

それでは、全体像を掴んだところで、
(1)プライバシー対策
(2)子ども対策
(3)安全対策
(4)紛争対策
(5)免責および責任限定
の順に、特徴的な条項を取り上げてみたいと思います。

(1)プライバシー対策


プライバシーについては、利用規約とは別にプライバシーポリシーが存在します。日本で取り入れられはじめた2階建て構造のアプリプラポリとはなっていませんが、位置情報等取得する情報が限定的に列挙され、第三者提供に関する説明も比較的透明度高くなされており、丁寧なプラポリだと思います。

本アプリは、位置情報を基にしたゲームです。当社は、お客様(又はそのお子様)が本アプリを利用して、お客様(又はそのお子様)の機器のモバイルオペレーティングシステムを通じて利用できる位置情報サービス(携帯電話基地局による三角測量、Wi-Fiによる三角測量又はGPSを利用するもの)を使用するゲーム上のアクションを行った際に、お客様(又はそのお子様)の位置情報を収集及び保存します。お客様(又はそのお子様)が本アプリを利用した場合にお客様(又はそのお子様)の機器の位置情報が当社に送信されること、また、かかる位置情報の一部及びお客様(又はそのお子様)のユーザー名が本アプリを通じて共有される可能性があることをご理解のうえご了承ください。例えば、ゲームプレイ中に一定のアクションを行った場合、本アプリを通じて、お客様(又はそのお子様)のユーザー名及び位置情報がゲームプレイ中の他のユーザーと共有されることがあります。また、当社は、お客様(又はそのお子様)のために本サービスの改善及びカスタマイズを行うことを目的として、位置情報を使用できるものとします。
― プライバシーポリシー 2. 情報の収集及び使用 e.位置情報
当社は、調査及び分析、人口動態(デモグラフィック)のプロファイリング、並びにその他の類似の目的のために、集約された情報及び個人を特定できない形式の情報を第三者と共有できるものとします。かかる情報にはお客様(又はそのお子様)の個人情報は含まれません。
― プライバシーポリシー 3. 当社が第三者と共有する情報 c.第三者と共有する情報

同プラポリは、グローバル(特にEU)対応も徹底されています。このあたりは日本の事業者はまだ追いつけていないところです。

欧州連合(EU)の加盟国の居住者及びお子様の親権者等については、お客様が当社のメーリングリストに登録すること(又は当社のメーリングリストにお客様のお子様を登録すること)を選択した場合、当社は、本サービスを直接宣伝する無料のニュースレター及び電子メールを定期的にお客様(又はそのお子様)に送信します。その他のユーザーについては、お客様が本アカウントの登録中に当社のメーリングリストに登録すること(又は当社のメーリングリストにお客様のお子様を登録すること)を拒否(オプト・アウト)しなかった場合、当社は、本サービスを直接宣伝する無料のニュースレター及び電子メールを定期的にお客様(又はそのお子様)に送信します。お客様(又はそのお子様)が当社からかかる宣伝メッセージを受領した場合、お客様(又はそのお子様)は、(お客様(若しくはそのお子様)の本アカウントを通じて、又はお客様(若しくはそのお子様)が受領した電子メールに記載される配信停止の操作を行うことにより)かかるメッセージの配信を拒否(オプト・アウト)することができます。本サービスに関する一定のメッセージ(本プライバシーポリシーの更新に関するメッセージ等)はお客様(又はそのお子様)に送信する必要があるため、かかるメッセージについては、配信を拒否(オプト・アウト)することができません。
― プライバシーポリシー 4.お客様の選択 b.オプト・アウト
お客様(又はそのお子様)の個人情報は、お客様の居住する州、省、国又はその他の管轄の外に所在するコンピューターに送信及び保存されることがあります。その場合、当該地域のプライバシーに関する法律は、お客様の居住国のものと同等の保護を与えるものであるとは限りません。米国外に居住するお客様が当社にお客様(又はそのお子様)の個人情報を提供することを選択した場合、当社は、お客様(又はそのお子様)の個人情報を米国へ転送し、米国において処理することがあります。当社がお客様(又はそのお子様)の個人情報をお客様(又はそのお子様)の居住国以外の管轄へ転送する場合は、その安全性に関して適切な保護措置を講じることを保証します。お客様は、お客様(又はそのお子様)の個人情報を米国に転送しないよう請求することができます。ただし、その場合、当社がお客様(又はそのお子様)に対して本サービスの一部又は全部を提供できないことがあります。
― プライバシーポリシー 9.国外への送信


(2)子ども対策


ポケモンというIPを使っているだけに、事業者としては子どもによる利用への対処が不可欠です。その点で特徴的な条文をいくつか見つけることができます。

日本の一般的な利用規約では、「未成年者の場合は親権者の同意が必要」→「同意したものとみなす」といった建付けになっているものがほとんどですが、本利用規約では、米国の児童オンラインプライバシー保護法(COPPA)対策とあわせて、ポケモントレーナークラブアカウント作成手続きを通しかなり厳密に「親権者が代理して契約」をするという建付けになっています。

お客様が13歳未満のお子様の親権者又は法的な保護者(以下「親権者等」といいます。)である場合、お客様自身のために、かつ、本規約及び当社のプライバシーポリシーにおいて本サービスの利用を認められているお客様のお子様を代理して、本規約に同意することになります。
― 利用規約 1.本規約への同意
当社は、PTCが管理する検証及び同意取得プロセスを通じて、児童オンラインプライバシー保護法(Children’s Online Privacy Protection Act(COPPA))を遵守します。13歳以上のお客様がPTCを通じて本アカウントを作成登録する場合、PTCは、お客様が本サービスにアクセスして本サービスを利用できるようにします。13歳未満のお子様の親権者等は、お子様による本サービスの利用の前に、PTCを通じてThe Pokemon Company International, Inc.(以下「TPCI」といいます。)に登録する必要があります。TPCIは、親権者等が当該お子様の親権者等であることを確認し、当該お子様について当社での本アカウントの作成を承諾することを求めます。TPCIは、親権者等の確認及び同意の両方が得られ次第、当該親権者等がお子様のために当社での本アカウントを作成することができるようにします。
― 利用規約 5.1 お子様による登録

しかし、日本ではしばしば社会問題として取り上げられ各事業者が対応を進めてきた未成年者による高額課金については、利用規約上は「18際未満は親権者の同意が必要」と述べるにとどまり、課金上限などの対策が想定されている様子がありません。加えて、日本のアプリ事業者が頭を痛めている資金決済法対応についても、アプリ内含めそれに対応した表示は確認できませんでした。バーチャルマネーとして販売されているポケコイン等を、資金決済法に基づく前払式支払手段として届出をするつもりがあるかどうかも不明です。この課金まわりの部分は、本利用規約の中で唯一不安を感じさせるポイントになっています。

バーチャルマネー及びバーチャルグッズの購入は、本アカウントの保有者が(a)18歳以上である場合、又は(b)18歳未満である場合は、購入にあたって親権者等の同意が得られている場合に限られます。18歳未満のお子様の親権者等は、iOSやGoogle Playの設定によってアプリ内での購入を制限することができますが、同時にお子様が保有する本アカウントにおいて予期せぬ行動(バーチャルマネー又はバーチャルグッズの購入等)がないかどうかを監視しておく必要があります。
― 利用規約 10.1 バーチャルマネー及びバーチャルグッズの購入
お客様のバーチャルマネーのライセンス期間中、お客様は自身のバーチャルマネーを指定されたバーチャルグッズと引き換える権利を有します。親権者等は、本規約を自身のお子様を代理して承諾し、お子様が単独でこの権利を行使することについて自身の同意を得ていることに同意し、確認するものとします。
― 利用規約 10.1 バーチャルマネー及びバーチャルグッズの購入

他方で、(子ども対策ではありませんが)オンライン購入の撤回権について、プラポリ同様グローバル(EU)対応が施されているのは、さすがといったところ。

バーチャルマネー及びバーチャルグッズは、本サービスへのアクセス及び使用が許可された国の合法的居住者のみが購入し、保有することができます。お客様が欧州連合(EU)の加盟国に居住する場合は、オンラインによる購入を撤回する一定の権利を有します。しかしながら、お客様が当社からバーチャルマネーをダウンロードした時点で、お客様の撤回の権利は失われます。お客様は、(a)バーチャルマネーの購入には、かかるコンテンツの即時のダウンロードが伴うこと、及び(b)一度購入が完了したものについては撤回の権利を失うことについて同意するものとします。お客様が欧州連合(EU)の加盟国に居住する場合、当社は、法律で義務付けられる場合には、お客様に付加価値税(VAT)の請求書を発行します。お客様は、かかる請求書が電子形式で発行されることについて同意するものとします。当社は、お客様に対して何ら責任を負うことなく、バーチャルマネー又はバーチャルグッズを管理、規制、変更又は削除する権利を留保します。
― 利用規約 10.2 米国外のエンドユーザーによる購入


(3)安全対策


Pokémon Goが社会から特に不安視されているのは、ユーザーの安全に対する事業者としての配慮・対策の部分です。この点、本利用規約では、あくまで自己責任であることがかなりのボリュームで語られています。Pokemon GOトレーナーガイドラインと合わせて読むと、特に法的なところでは、他ユーザーへの危害と不法侵入に対し強く警告しようとしている意図が汲み取れます。

ユーザー目線ではやや冷たく感じられる文面ですが、ここは致し方無いところでしょう。「自分で保険に入っとけ」とまで書いてあるのは、さすが米国企業らしいなあと思いました(笑)。

ゲームプレイ中は、お客様の周囲の状況に注意し、安全にプレイしてください。お客様は、お客様による本アプリの利用及びゲームプレイはお客様自身の責任で行うこと、並びに、本サービスの利用中にお客様が被る可能性のある損害に関してお客様が合理的に必要であると考える健康保険、損害賠償保険、災害保険、人身傷害保険、医療保険、生命保険及びその他の保険契約をお客様の責任において維持することに同意するものとします。また、お客様は、本アプリを利用することでいかなる適用法令若しくは規則(不法侵入に関する法律を含みますが、これに限りません。)又はトレイナーガイドラインにも違反しないこと、及び、他者がいずれかの適用法令若しくは規則又はトレイナーガイドラインに違反することを助長しない又は可能にしないことに同意するものとします。上記を制限することなく、お客様は、お客様による本アプリの利用に関連して、他者に精神的苦痛を与えないこと、他者に屈辱を与えないこと(人前であるか否かを問いません。)、他者を攻撃又は脅迫しないこと、許可なく私有地に侵入しないこと、他者になりすますか、又は、お客様の所属、肩書若しくは権限を偽らないこと、並びに、傷害、死亡、物的損害又はあらゆる種類の責任を引き起こす可能性のあるその他の活動に関与しないことに同意するものとします。
― 利用規約 6.安全なプレイ
お客様は、本サービス利用中のお客様自身の行為及びユーザーコンテンツ並びにこれらにより引き起こされるあらゆる結果について責任を負うことに同意します。本サービスの利用に際して禁止される行為及びユーザーコンテンツの内容については、トレイナーガイドラインをご参照ください。お客様は、本サービス及びコンテンツの利用にあたって、以下の行為(一例であり、これらに限定されません。)を行わないことに同意します。
  • 名誉毀損、権利濫用、嫌がらせ、誹謗中傷、ストーカー行為、脅迫又はその他の方法により他人の法的権利(プライバシー権及び肖像権を含みます。)を侵害すること。
  • 違法、不適切、中傷的、わいせつ、性的、低俗、攻撃的、詐欺的、虚偽的、誤解を招くような又は欺瞞的なコンテンツ又はメッセージをアップロード、投稿、メール、通信又はその他の方法で利用可能にすること。
  • 個人又は団体に対する差別、偏見、人種差別、憎悪又は嫌がらせを助長し、又はこれに加担すること。
  • 不法侵入又はその他の方法で、権利又は許可のない土地又は場所への侵入を企図し、又は実際に侵入すること。
  • 適用法令に違反し若しくは適用法令に違反しうる行為、又は民事責任を生じさせうる行為を助長すること。(以下略)
― 利用規約 12.行動規範、一般禁止事項、及び当社の執行権
お客様は、本サービスの他のユーザー及びお客様が本サービスの利用に伴いコミュニケーション又は交流するその他の者とのすべてのコミュニケーション及び交流には、(特に、お客様がオフラインで又は直接会うことを選択した場合には)合理的な注意を払うことに同意するものとします。
― 利用規約 17.保証に関する免責事項


(4)紛争対策


現実問題として、これだけグローバルにヒットしたアプリとなると、紛争の発生は避けられません。一般的な利用規約では、法的に有効かはさておき、「事業者(の本社)が所在する国・地域の裁判所を専属的管轄裁判所として合意する」旨の条項を入れておき、あとは紛争が起きないようにお祈りする…というものがほとんどでした。

これに対し本利用規約では、集団訴訟を制限し個別仲裁手続きにのみによること(ただし仲裁地は各国に対応)としています。集団訴訟への参加を放棄させる仲裁条項の有効性についてはUberなどが現在も法廷で争っており、論点かとは思いますが、少なくとも、一般的な利用規約の紛争解決条項よりは考え抜かれた合理的なものになっていると評価してよいのではないでしょうか。

仲裁に関する注記:お客様が拒否(オプト・アウト)した場合、及び下記「仲裁合意」のセクションに記載される特定の種類の紛争である場合を除いて、お客様は、お客様と当社の間の紛争が拘束力のある個別仲裁により解決されること、及びお客様が陪審裁判を受ける権利又は原告若しくは集団訴訟の原告として集団訴訟若しくは代表訴訟と称されるものに参加する権利を放棄することに同意するものとします。
― 利用規約 3.仲裁に関する注記
お客様と当社との間で別段の合意がなされない限り、仲裁は、お客様の居住する国において行われます。お客様による請求額が10,000ドルを超えない場合、お客様が聴聞を請求しない限り又は仲裁人が聴聞が必要であると判断しない限り、仲裁は、お客様及び当社が仲裁人に提出する書類のみに基づいて行われます。お客様による請求額が10,000ドルを超える場合、お客様の聴聞に対する権利はAAA規則に従って判断されます。AAA規則に従うことを条件として、仲裁人は、仲裁の迅速性に沿うように、当事者による合理的な情報交換を指示する権限を有するものとします。
― 利用規約 20.5 仲裁場所及び手続き

なお、この仲裁合意は、最初に利用規約に同意した日から30日以内に限り、オプトアウトの手続きにより適用されないようにすることもできます。米国では早速オプトアウトを推奨する記事もでていました。

お客様がその他の紛争について訴訟を起こすことを望む場合、お客様が本規約を最初に承諾した日から30日以内に、その旨を当社に対して書面にて通知した場合(電子メールの場合は termsofservice@nianticlabs.com 宛に、又は通常の郵便の場合は2 Bryant St., Ste. 220, San Francisco, CA 94105宛に)(かかる通知を、以下「仲裁オプトアウト通知」といいます。)、お客様はかかる紛争を提訴する権利を有することとなります。お客様がかかる30日の期間中に当社に対して仲裁オプトアウト通知を行わない場合、上記(a)及び(b)に明示的に規定されたものを除き、お客様は、お客様による紛争提訴の権利を、故意にかつ意図的に放棄したものとみなされます。知的財産保護措置、又はお客様が期限までに当社に仲裁オプトアウト通知を行った場合の専属裁判管轄権及び裁判場所は、カリフォルニア州北区に所在する州及び連邦裁判所とし、本規約の当事者はそれぞれ、かかる裁判所の裁判管轄権及び裁判場所についての異議申立てを放棄します。
― 利用規約 20.2 仲裁合意


(5)免責および責任限定


利用規約においてもっとも重要な免責・責任限定条項です。こちらは日本の消費者契約法にも対応した、隙のないものになっています。責任の上限額として1,000ドルと天井を付けているのも、常識的なところかなと思います。グローバルな規約という意味で細かいことを言えば、「1,000"US"ドル」にしておいたほうがより安心ですね。

適用法令により許容される限度において、当社、TPC若しくはTPCI又は本サービス若しくはコンテンツの作成、製作若しくは提供に関与したその他の当事者のいずれも、(a)本規約に起因若しくは関連して、又は(b)本サービスの利用(若しくは利用できないこと)により、又は(c)本サービスの他のユーザー若しくはお客様が本サービスの利用に伴いコミュニケーション若しくは交流するその他の者とのコミュニケーション、交流若しくは会合により生じた、いかなる間接的損害、偶発的損害、特別損害、懲罰的損害賠償又は派生的損害(利益損失、データ若しくは業務上の信頼の喪失、サービスの中断、コンピューターへのダメージ若しくはシステム障害又は代替サービスのための費用を含みます。)についても、当該責任が保証、契約、不法行為(過失を含みます。)、製造物責任又はその他の法的根拠に基づくものであるかを問わず、また、当社、TPC若しくはTPCIが当該損害の可能性を知っていたか否かを問わず、たとえ本規約に定められた限定的な救済が、その本質的な目的を達成できなかったと判明したとしても、お客様に対して責任を負いません。一部の法域では、派生的損害又は偶発的損害に対する責任の除外及び制限を認めていないため、上記の責任の制限が適用されるのは、該当する法域の法令によって許容される最大限までとします。

本規約に起因若しくは関連して、又は本サービス若しくはコンテンツの利用若しくは利用できないことにより生じる当社、TPC又はTPCIの責任の合計額は、いかなる場合においても1,000ドルを超えないものとします。上記の損害の除外及び限定は、お客様と当社の間の取引の基礎となる不可欠の要素です。
― 利用規約 19.責任の限定


おまけ


現在は実装されていませんが、利用規約をみていると、Facebookアカウントとの連携や、

お客様は、(a)既存のグーグルアカウント、(b)既存のPokemonトレーナークラブ(以下「PTC」といいます。)アカウント、(c)既存のフェイスブックアカウント又は(d)将来において当社がサポートすることを決定するその他の既存の第三者のアカウント(アカウント作成画面において当該既存アカウントの選択を可能にすることによって通知されます。)をお持ちであれば、本アカウントを作成することができます。
― 利用規約 5.参加資格及びアカウント登録

ポケモンの交換機能も予定されていることが伺えて、興味深いです。

本アプリでは、本アカウントの保有者が、ゲームプレイ中に仮想上のアイテム(ポケモンのキャラクターや生物を含みますがこれらに限りません。)(以下「交換アイテム」といいます。)を捕まえたり交換したりできます。バーチャルマネーやバーチャルグッズ(下記参照)と異なり、交換アイテムの取得にあたっては、ゲームプレイ中の追加の課金は必要ありません。交換アイテムは、コンテンツの一つであり、当社は、お客様の個人的かつ非営利目的の本サービスの利用に関して、かかる交換アイテムの使用のための限定的、譲渡不可能、サブライセンス不可能かつ取消可能なライセンスをお客様に付与します。
― 利用規約 9.交換

最後にマニアックな所で、Appleとのデベロッパー規約においてアプリ提供者がアプリの利用規約に設置するよう義務付けられている条項群がある(しかし、ほとんどのアプリ提供者が無視している)のですが、これに対応しているのは大変すばらしいものの、“App Store”とすべきところが“Apple Store”になってしまっているところがあって、ちょっと微笑ましかったです。

お客様は、Apple Store から本アプリにアクセスし、これをダウンロードする場合、(a)Appleブランドの製品又はiOS(Appleの独自オペレーティングシステムソフトウェア)が動作する機器においてのみ、かつ(b)Apple Storeのサービス利用規約に規定される「利用規則」により許容された範囲でのみ、本アプリを利用することに同意するものとします。 お客様は、アプリストア又は配信プラットフォーム(例えば、Apple Store、Google Play又はAmazonアプリストア)(以下それぞれを「アプリプロバイダー」といいます。)から本アプリにアクセスし、これをダウンロードする場合、以下の事項を確認し、これに同意するものとします。(以下略)
― 利用規約 7.1アプリストアのアプリに関する追加規約


以上、分析してみて、さすがIngressで実績を積みGoogleからスピンオフしてできた会社のサービスだけあって、全体としてはしっかり考えて作りこまれた利用規約だな、という評価と感想です。

【本】『秘密保持契約の実務』― みんなにとってのルーチンワークも書籍化すれば価値がつく


秘密保持契約だけに絞った実務書が、新刊として出版されました。





秘密保持契約ぐらいの締結頻度の高い契約類型となると、多くの会社でなんらかひな形が整備されているでしょうし、交渉が必要となるポイントがかなり限定されていることもあって、契約書起案・検討業務の中でも若手部員向けルーチンワークの代表選手となっているのではないでしょうか。

しかし、いざ他人にこれを教えようとなると、毎日のように見ていたはずの秘密保持契約書の文言に込められた意図を立板に水のようには説明できないこと、そして意外にもそれらのポイントを体系的にまとめて解説してくれている文献が少ないことに気付かされます。求められるたびに、あわてて猪木先生のブログ記事を紹介したり、Business Law Journal等の法律系雑誌のバックナンバー記事にバラバラに掲載されているノウハウを整理した解説用のテキストを作成したり…。「ニーズはあるんだから誰かちゃんとした先生が本として出してくれれば売れるのに」「なんなら自分で出版社に企画を持ち込んじゃおうかな」と思っていましたが、ようやく、西村あさひ法律事務所の先生方が重い腰を上げてくださったというわけです。

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内容については、日本国内企業同士の契約でよく見られる水準の秘密保持契約をベースとして、和英対訳となったサンプル条項を逐条で解説する、奇をてらわないスタンダードな作り。
・秘密情報の例外(受領当事者の独自開発情報、従業員の記憶に無形的に残留した情報など)
・秘密保持義務の例外(役職員やグループ会社への開示、法令等や取引所の処分など)
・秘密情報の複製
・有効期間
・秘密情報の破棄または返還
のような、相手方とバトルになる頻度の高い論点も明示的に取り上げられており、通常業務に困らないだけの網羅性はほぼ担保されていると思います。実際に交渉することは少ないが検討俎上にはあがる契約違反時の違約金・損害賠償額の予定の是非などについても、言及があります。また、秘密保持契約書作成・検討の前提知識であるもののきちんと抑えているかと言われると不安になってしまう平成27年改正不正競争防止法のポイントも、章を独立させて解説してくださっています。

反面、英文の秘密保持契約書に見られるような、マニアック・トリッキーなドラフティング事例がたくさん紹介されているような類の本ではありません。サンプル条項は和英対訳とはなっていますが、あくまで日本語の標準的な条文をそのまま英語訳したものであり、英米法をベースとして活動する企業には受け入れられない可能性が高いと思います。ここは、敢えての割り切りということでしょう。


ともあれ、契約書ひな形集の一部に数ページだけ掲載されているような頼りない秘密保持契約書のサンプルを参考に、不安を覚えながら見よう見まねで修正起案を重ねている人も少なくなかったはずで、本書が売れることは間違いなさそうです。
 

【本】『ニューヨーク州弁護士が教える 英文契約書の基礎』― 中村緑本に代わる“新・基本書”現る

 
発行元のレクシスネクシス社より著者の松崎謙先生より、明日発売の著書を先行してご恵贈いただきました。ありがとうございます。
※著者献本を頂いたものと勘違いをしておりましたので訂正します。





法務に配属された新しいメンバーが和文契約書を一通りこなせるようになって、じゃあ次は英文契約書もドラフティングできるようになってもらおうかという時に、お勧めすべき1冊目の本はどれか?これ、実は結構難しい選択ではないでしょうか。

私がこれまでそういったシチュエーションで勧めてきたのは、英文契約書の緑本こと中村『英文契約書作成のキーポイント』です。同書は数年前に新訂版もでましたが、私の先輩の世代からの定番であり、BLJのブックガイド等でも根強い支持があります。しかし、独特の古めかしさ(そこが同書のトラディショナルな雰囲気を醸し出すいいところでもありますが)があってお世辞にも読み易いとは言いがたく、また必要な知識が満載とはいってもそれらがぶつ切りにつめ込まれているために、1冊めの本として通読し消化するには少々骨が折れる本であったとも思います。そんな欠点を解消し、すらすら読み進めながら英文契約書を読み書きするのに不可欠な知識を一通り学習できる“新・基本書(同書帯の宣伝文句より)”として、彗星のごとく現れたのが本書になります。


メインとなるのは、第2章。レクシスネクシス・ジャパンのオンラインデータベースに掲載されているモデル国際売買契約書全26条項およびその対訳の逐条解説を展開しながら、逐条のワクにとらわれずに各条項を理解するために知っておくべき横断的な英米法知識とボキャブラリーを紹介していく独特の構成となっています。売買契約のポイントをレクチャーするためというよりも、あくまで英文契約書とはどういうものかを説明するための教材として、売買契約書のモデル書式を用いているという感じです。読み始めた際は、著者の松崎先生がサービス業の蠹田未砲棺蠡阿覆里法△覆偲田未任肋ないであろう売買契約書を対象として取り上げたのか?と疑問だったのですが、なるほど読み通してみると、英米法ベースで法律の論点をひととおり解説するためにはサービス契約のモデル書式は向いていない(たとえば引渡し・危険負担・検査といった部分が取り上げられなくなる)からなんだ、と合点しました。英文契約書の説明のために日本人が勝手に作ったようなものではないnativeな条文という点も、学習者のためには安心です。

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このような凝った構成でいて、読者を混乱させずにすっと読ませる・理解できる筆致となっているのは、著者の豊かな実務経験と高い指導能力のなせる業なのだと思います。実務で必要な知識と初学者がつまづくポイントはどこかをそれぞれ知り尽くしたうえで、それでも覚えなければならないポイントは繰り返しをいとわず、そうかと思えば論点ではあるが初心者は割り切って表面的理解で済ませるべきところは割り切って説明を端折る、といった緩球のつけ方が絶妙です。そうでなければ、英文契約書のひととおりの基礎をたった250ページあまりの本書に収めることはできないでしょう。


本書まえがきにもあるとおり、今後も英文契約書のドラフティングのニーズは高まる一方です。それに伴って、そのノウハウをまとめた書籍も出版され続けると思われます。そんな中、1冊めの本書、具体的なドラフティングバリエーションを学ぶための山本『英文ビジネス契約書大辞典 増補改訂版』、そしてそれらに肉付けをしていくための平野『体系アメリカ契約法』&『国際契約の<起案学>』という英文契約4点セットは、しばらくの間鉄板として君臨し続けるのではないでしょうか。
 
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【本】『契約審査のベストプラクティス』― ひな形集ではなくリスク抽出と手当の定石を学ぶ本


みらい総合法律事務所さまよりご恵贈いただきました。発売されたらいずれ購入するだろうとは思っていたのですが、やや高価な本だけに予約は迷っていたところでした。ありがとうございます。





この本を契約書の「条項集」「ひな形集」と捉えてしまうと、その評価を誤ってしまうと思います。その理由が分かる部分を、以下まえがきから引用してご紹介。

契約書作成に当たり、想定されるリスクはすべて検討することが必要です。もちろん、想定外のことが起きるのが世の常ですから、リスクのすべてを想定し、それらを網羅して対策を盛り込むことには限界があります。外国の定型契約書は、紛争をめぐる長い歴史的経験を背景に、想定されるあらゆるリスクを詰め込もうとするため、膨大な条項数となることがあります。しかし、日本でこのような契約書を用いることはあまり多くありません。(略)必要なのは「その企業とその取引にとって」のリスク抽出の作業です。そして、想定外の事態が発生しても対応できるような柔軟な条項も効果的です。
契約書を作成する場合「定型書式」に準拠することは極めて重要です。定型書式はいわば囲碁の「定石」のように多くの人の手を経てたどり着いた成果ですので、一応の論点についての手当がなされ、その文章表現も練られており、趣旨が明確です。また「定型書式」の条項は、その解釈をめぐる紛争も前例が多く蓄積され、条項の解釈をめぐる紛争が起きにくくなっています。往々にして、担当者が思い付きで追加条項を設けたり、代表者の意向をそのまま反映するつもりで付加した条項は、趣旨が不明確であったりして、新たな紛争の種となることがしばしばあります。
本書は、法務部門である程度の経験を積んだ担当者を対象としているので、初歩的な解説は省いています。また、契約書文例を数多く集めて延々と並べる手法も採用していません。膨大な契約書文例を掲載しても、企業の担当者が本書を読み込んで目的に合致する契約書を探しだすことは手間がかかりますし、そもそも実務で用いられるすべての契約類型を網羅することは不可能だからです。

たしかにこのまえがきにあるとおり、本書に掲載された“定石”たる「定型書式」の条項の粒度を見てみると、以下のとおり若干粗めとなっています。
・秘密保持契約書の定型書式 全11条
・動産売買取引基本契約書の定型書式 全25条
・業務委託契約書の定型書式 全15条
以前ご紹介した阿部井窪片山ひな形本をすでにお使いの方は、実際の条項の規定ぶりを見比べても、あちらのほうが詳細だなという印象をお持ちになると想います。

ではなんなのかと言えば、本書はタイトルにもあるとおり『契約審査のベストプラクティス』、つまり契約におけるリスク抽出と手当の定石を学習する本なのだと考えます。そのことを裏付けまたこの本を特徴付けるものとして、各契約類型ごとのかなり細かめなチェックリストが用意されています。類型別のチェックリストとは別に、一般条項だけのチェックリストもあります。

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たまに実務系法律雑誌の特集企画で見かけることはあっても、これだけの契約類型のチェックリストを一冊に整理した市販の書籍というのは、ありそうなものでいてなかなかお目にかかりません。特に、一人法務でダブルチェックをしたい案件でもできない環境などでは心強いでしょうし、これを現場に展開して審査依頼を受ける前にセルフチェックさせるのなんていうのもいいかもしれません。


索引がない、業務委託契約の項が準委任契約ベースのみで請負契約ベースの解説が端折られている、第4章の賃貸借契約の解説のクオリティだけがやけに高い(この章の解説だけが徹底して条文の引用・判例による裏付けがなされている)など、気になる点はあったりもしますので、2年目以降5年目未満ぐらいの法務パーソンが読み込んでさまざまな契約類型を自学自習する本として、ぜひ今後も改訂とパワーアップを図っていただきたい本です。
 

【本】“MORGAN & BURDEN ON IT CONTRACTS”― 貴重な英国法準拠の英文IT契約ひな形集を発見

 
英文IT契約に特化した条項解説&ひな形集を発見しました。すでに第9版とかなり実績はあるはずなのに、評判を聞いたことがなかった洋書。見つけたときは思わず小躍りしてしまいました。


Morgan and Burden on it Contracts
Richard Morgan
Sweet & Maxwell
2013-12-13



前半約360ページが17の契約類型ごとのポイント&実務解説で、

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後半約480ページがその17類型をさらに全38種に分解した契約ひな形集となっています。

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通読して契約書の作成方法を勉強するための本というよりは、契約書作成の実務経験のある方が必要な箇所を参照して活用する、辞書的な本です。


「日本語の契約ひな形集だって山ほど出ているんだから、英文契約書のひな形集なんて、世界中の書店を探せばたくさんあるんでしょ?」と思いきや、探してみるとこれが使い勝手のいいものがありません。あまりにざっくりと汎用的過ぎるために時間をかけてアレンジをする必要があったり、内容的にイマドキじゃない古めかしさが漂っていたり・・・。みなさんどうしてるんですか?と、海外法務を担当されている方にヒアリングしてみると、ほとんどの方が社内(所内)の過去のレビュー実績を参照したり、EDGARにファイリングされている契約書をonecle等の無料サイトで検索して参考にしているとのこと。そのときの事案の背景やリスク等を正しく推測してアレンジするだけの英文契約の経験値やドラフティング能力がある方には、これで事足りるのかもしれませんが、英米法の教育を受けたことがない私のような者には、ちょっと危険すぎる気がして、いつも躊躇がありました。

その点、この本はアレンジすべきポイントが明示されたひな形に条項解説も付いていますので、アレンジをするにも安心感があります。しかも、ITコンサルタントのRichard Morgan氏とDLA PiperでIT分野を専門とするパートナー弁護士Kit Burden氏による共著ということもあって、ウェブ/アジャイル/クラウド/オープンソースソフトウェアといったITのトレンドがしっかり踏まえられています。参考までに、収録されているひな形全38種を(ちょっと長いですが出版社サイトにも掲載されていなかったので)以下リストしておきます。これらのひな形は本書に付属するCD-ROMで.docファイルが提供されます。
※WINDOWS対応の自己解凍型ファイルとなっていて、OS X上では解凍できませんでした。

A. HARDWARE SALE AND INSTALLATION AGREEMENT
B. RENTAL AGREEMENT WITH MAINTENANCE
C. HARDWARE MAINTENANCE AGREEMENT
D. COMMISSIONED SOFTWARE AGREEMENT
E. FRAMEWORK AGREEMENT FOR PROGRAMMING SERVICES
F. AGILE SOFTWARE DEVELOPMENT AGREEMENT
G. BETA TEST AGREEMENT
H. NON-DISCLOSURE AGREEMENT
I. UNSOLICITED DISCLOSURE AGREEMENT
J. CONTRACT OF EMPLOYMENT - GENERAL CLAUSES
K. CONTRACT OF EMPLOYMENT - HOME DEVICE FOR STAFF (BYOD)
L. SOURCE CODE DEPOSIT AGREEMENT
M. SOFTWARE LICENCE AGREEMENT
N. GNU GENERAL PUBLIC LICENSE
O. SHRINK-WRAP_CLICK-WRAP LICENCE
P. SOFTWARE MAINTENANCE AGREEMENT - COMMISSIONED
Q. SOFTWARE MAINTENANCE AGREEMENT - LICENSED
R. TURNKEY SYSTEMS INTEGRATION AGREEMENT
S. MULTIPLE COPY SOFTWARE LICENCE AGREEMENT
T. SOFTWARE MARKETING AGREEMENT
U. EXCLUSIVE DISTRIBUTORSHIP AGREEMENT
V. SOFTWARE DISTRIBUTION AGREEMENT
W. CONSULTANCY AGREEMENT
X. OUTSOURCE AGREEMENT
Y. CLOUD COMPUTING OR OTHER ONLINE SERVICE AGREEMENT
Z. GENERAL OFFLINE PROCESSING SERVICE
AA. NETWORK SERVICE LEVEL AGREEMENT
AB. WEBSITE HOSTING COMMERCIAL ISP AGREEMENT
AC. INTERNET SERVICE PROVIDER AGREEMENT (CONSUMER) LICENCE AGREEMENT
AD. AGREEMENT FOR ACCESSING A SPECIFIC WEBSITE (BUSINESS)
AE. AGREEMENT FOR ACCESSING A SPECIFIC WEBSITE (CONSUMER) TERMS AND CONDITIONS
AF. WEB DESIGN AGREEMENT
AG. DATA SHARING AGREEMENT
AH. SOCIAL NETWORKING WEBSITE CONDITIONS
AI. SOCIAL NETWORKING WEBSITE CONDITIONS (IN A BUSINESS CONTEXT)
AJ. INTERNET WIKI CONTRIBUTOR CONDITIONS
AK. TECHNOLOGY TRANSFER_ASSIGNMENT AGREEMENT
AL. REQUEST FOR PROPOSAL


さらに、もう一つの特色が、本書ひな形および解説が英国法を準拠法としている点。例えば、12.3.2 Personal dataの項で、Data Protection ActやInformation Commissionerによる規制と契約上行うべき手当について述べられている点などは、EU圏で締結するIT業務委託契約書において規定すべき水準をうかがい知ることができ、貴重と思います。


ところで、この本を見つけたのはどこかというと、丸善丸の内本店の4F 洋書コーナー。

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開店してしばらくの間法律書はほとんど置いて無かったのですが、気づかないうちに充実させてくれてたんですね。私の知る限り、海外の大型書店でもここまで法律書の実物を並べてくれているところはそうそう無いと思います。

【本】『契約の法務』― 契約書審査担当者のための契約法&判例まとめノート

 
無垢でストレートなタイトル、そして300ページ弱の薄さからは想像できない、とても野心的な書籍。




 
契約書審査担当者向けの、契約実務の指南書になります。このジャンルは、河村先生の本原先生の本をはじめとして数多く出版されていますが、本書の特色は、実務書でありながらそのベースとなる基礎的な法令、判例および法学とのひも付けを徹底し、法務パーソンの経験則で片付けてしまいがちな部分を限りなく排除している点です。

特に、「契約の理論」と題する第一章は、さしずめクラスのとびきり頭のいい優等生が作ってくれた“まとめノート”を覗き見ているかのよう。
  • まず、考え方の根拠となる条文(民・商・消費者契約法等)が丁寧に参照され、
  • 次に、判例およびその調査官解説が紹介され、
  • 補強の必要があれば、定評ある基本書(我妻『民法講義』/平井『債権各論』/内田『民法』/司法研修所『民事訴訟における要件事実』etc)を引用し、
  • さらに、(ここが驚きでしたが)世界各国の法令・判例から契約法の一般原則を抽出して作られた「ユニドロワ原則」の条項とも対比し、
  • 民法改正中間試案や要綱案の議論の過程も交えて、
契約実務のセオリーを立体的に学ぶことができます。条文は引いても判例を見るクセが徹底できていなかったり、中間試案の議論の過程をあえてスルーしてしまう私のような不届き者のためにあるような本です。

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先輩のみようみまねで契約書審査のセオリー「らしきもの」を学び、そのベースとなるべき基礎的な法学の勉強が足りないことは自覚しているが、その勉強の仕方がわからずやみくもに基本書や概説書を読み漁って混乱している、という若手契約書審査担当者にとってのよきガイドとなってくれるでしょう。

特に、著者が判例を重要視されていることは、読んですぐに伝わってきます。網掛けテキストボックスで見やすくされたスペースの許す範囲で、なるべく判例の原文を忠実に引用してくださっています。引かれている判例はほぼ例外なく企業法務(ビジネス)事案というところが、企業法務パーソンとしてはうれしいところです。

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このこだわりはどこから生まれているのかといえば、著者の喜多村勝先生が元裁判官の企業法務弁護士でいらっしゃるというところにありそうです。喜多村先生は、弊ブログでも過去におすすめしている『企業法務判例クイックサーチ300』を書かれた方。判例を読もうとしない企業法務担当者を見かねて、「もっとちゃんと勉強しなさい!」とおっしゃりたいんでしょうね。
 

【本】『システム開発紛争ハンドブック』― 本物のIT弁護士だからこそ書けるユーザー/ベンダー両面から見た法律実務

 
著者のお一人である弁護士法人内田・鮫島法律事務所パートナー 伊藤雅浩先生からご恵贈賜りました。ありがとうございます。





世の中に「IT弁護士」を標榜する方は多くいらっしゃいます。しかし中には「学生時代にウェブサイト制作・プログラミング経験あり」「複数社でウェブサービス立ち上げの法務を支援」という程度の経験・能力だったりする方も少なくありません。本書の著者お二人のように、情報技術に関する学術的バックグラウンドを持ち、かつ法人顧客を相手に大規模情報システム開発にたずさわった経験をお持ちの弁護士は、限られるでしょう。本物のIT弁護士の手による確かな書である、という点がまず第一の特徴として挙げられます。

第二の特徴は、【 契約交渉・締結 → プロジェクト進行中 → システム運用中 → 訴訟提起 】と、システム開発プロジェクトの進行フェーズに沿って章を分け、さらにそのフェーズごとに起きがちな紛争類型ごとに節・項を細分化し、各紛争類型における現場の実務と法律上の紛争発生ポイントを全96件の裁判例を適宜引用しながら解説するという、その構成の妙です。索引を探さなくとも、「こういうトラブルが起きたら/起きないようにどうすれば」という疑問を起点に、目次と見出しを辿るだけで知りたい情報が探し当てられる、MECE度の高い構成となっています。IT裁判例ブロガーでもある伊藤先生IT裁判例に関する論稿を多数寄稿されている松島先生の知見が、BLJ編集部の腕によって十二分に引き出されていますね。

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また、そういった全体構成の美しさを崩すことなく、現場でしばしば問題となる以下の様な各論について、これまでの類書に見られない深さと具体性をもって論じている点にも驚かされます。
  • 契約締結を拒絶したことによるユーザーの「契約締結上の過失」責任(それを回避するための精算金条項付き内示書のアイデア)
  • 請負契約における瑕疵担保責任、特にプログラムの瑕疵
  • 議事録・変更管理書の具体的な作り方と残し方
  • 損害賠償請求に対抗するための過失相殺の主張とその順序
  • 責任制限条項の適用と重過失免責の有効性
  • データ消失事故に対してベンダーが負うべき責任
  • データ漏えい事故と個人情報保護法における安全管理措置義務の程度
  • 委託先の情報管理責任
  • システム開発で生まれる著作物の著作権帰属と複製・翻案の限界
  • プログラムの類似性判断とソースコード対照表の例
  • 瑕疵担保責任に基づく損害賠償請求権の行使期限
  • ユーザーがベンダーに対して請求可能な損害賠償項目(社内人件費は請求できるか)
  • ユーザーの指示等の帰責事由によって生まれた瑕疵に対する民法636条を根拠とするベンダーの主張は認められるか
  • 訴訟における専門委員と鑑定人の違い
  • 裁判所での技術説明会と実機検証

途中まで読みながら、民法(債権法)改正による影響については言及しないのか?と不安を覚えましたが、そこはぬかりなく、最終章にまとめられていました。改正法が可決されても、現行法の適用期間があと2年はあるわけですし、こうきっぱり分けた方が本文がごちゃごちゃしなくてたしかにいいかもしれません。そしてきっと改正法が施行されるころには本書も改訂され、本文に取り込まれるのでしょう。

最後にダメ押しのもう1点。これだけの具体性を追求しながら、ユーザー/ベンダーのどちらの立場にも偏らない筆致を徹頭徹尾貫いている本書は本当にすごいなと思いました。類書はたいていユーザー側・ベンダー側どちらかの立場に寄せて書かれていて(たとえば『ユーザを成功に導くシステム開発契約』『トンデモ“IT契約"に騙されるな』はユーザー寄り、『ソフトウェア取引の契約ハンドブック』『ソフトウェア取引の法律相談』はベンダー寄り)、それはそれで読み手としてチャンネルを合わせやすいという利点もありながら、システム開発契約上の紛争場面で冷静かつ客観的に法律問題の所在をリサーチする用途としては使いにくいという欠点がありました。書き手として、ここは相当苦労されたのではないかと推察します。
 
システム開発に関する法律書籍で、この本を超えるものは、今後5年は出てこないかと思います。
 

【本】『条文から分かる 民法改正の要点と企業法務への影響』― 中間試案・要綱案をいずれもスルーしてきた方もこれで安心


森・濱田松本法律事務所の先生方による、企業法務パーソンに対象を絞った民法改正ポイント集が登場。


条文から分かる 民法改正の要点と企業法務への影響
末廣裕亮 (著), 篠原孝典 (著), 河上佳世子 (著), 畑江 智 (著), 青山大樹 (編集)
中央経済社
2015-05-28


民法改正への実務対応の第一歩は、個々の改正項目が、従来のルールを変更して新たなルールを導入する改正であるのか、従来の判例や一般的学説を明文化する改正に過ぎないのかを見分けることであると思う。
そこで、本書では、まず現行法・判例学説の状況を努めて客観的にまとめ、それとの対比で改正内容が上記のいずれかの種類に属するかを正確に位置づけ、その上で法改正が企業法務に及ぼす影響を分析するように試みた。

というコンセプトのもと、39の項目ごとに【 改正ポイント・短評 → 現行法の内容/改正法案の内容(条文新旧対照表付き) → 企業法務への影響 】という流れで、つとめて簡潔・平易にまとめられています。

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2006年に一部民法学者らによって私設の「民法(債権法)改正検討委員会」が設立され2009年に法務省として公式に検討を開始し2011年頃には改正されることがほぼ既定路線になって以降、実務家サイドからの反発もあってこの数年若干足踏みしていた民法(債権法)改正でしたが、今国会の決議をもっていよいよ終止符が打たれようとしています。改正にかかわった関係者みなさんはいろいろな思いを抱えながらも、とりあえずはほっと一息というところかと思いますが、私たちの仕事はこれから。曲りなりにも実務を通して学んできた民法の、最も企業法務で使われてきた条文たちが変えられてしまうのですから、メモリーを間違いのないように“上書き”していく必要があります。

各法律専門誌等でも改正法案のポイントや注意点をまとめたものが出回っていますが、それらと比較した本書の良い所は、個別解説において「中間試案」や「要綱案」での議論をほぼ無視してくれている点にあります。この数年、民法改正の動向を逐一フォローしていた方にとっては、改正検討の経緯やそれらの中間案と最終法案との違いについて言及されているほうがありがたいのでしょう。しかし、私のように日頃不勉強な者にとっては、そういった情報は“上書き”作業には不要というかむしろ邪魔だったりするわけでして。

インターネット業界にいると、どうしても定型約款に関する規定の新設ばかりに目を奪われてしまいがちでした。こうやって一冊の本で具体的な条文とともに変更点を一覧できるようになって、日々の契約にかかわる総則や典型契約に関する規定変更の方が、よっぽど実務影響が大きいんだよなと実感します。その改正項目のうち半分以上が従来の判例理論の明文化(本書P3)に過ぎないとはいえ、ちょっと気が重くなってきました。
 

【本】『契約書作成の実務と書式』― 食わず嫌いは損をする

 
現時点での和文契約書式(ひな形)本の決定版。ご紹介が遅くなったのは、私のミスでした。





昨年発売された当初パラパラっと読んで「特に見るべきところはないなあ」とすぐにPDF化してしまったため、ほとんど読まずにいたのですが、BLJブックガイドでの有名企業法務系ブロガーronnor先生の評や、さらに最近一緒にお仕事をはじめた先生から「いろいろあるけどこれがやっぱりベスト」との評を聞き、読み直したら確かにその通りだったので、また紙の本を買い直してしまいました。


類書との明確な違いを感じるポイントが、条文と判例が丁寧に参照されているところ。本書のような書式・ひな形集では、通常、「法律の原則は概略Aであるが、実務ではそれはさておきBという考え方がよく取られ、結果このような条項となることが多い」と、後段の実務的な解説が喜ばれることもあって、前段の法律上の原則に関する厳密な解説が端折られる傾向があります。本書はそこを一歩踏み込んで、基礎となる条文、そして判例に垣間みえる契約実務(よくある条項例)の限界も紙幅の許す限り解説し、それを踏まえた上でひな形の条項解説をするというスタイルが徹底されています。そのおかげで、ひな形を加工しようとする際に応用が利くのです。また、新入法務パーソンの方であれば、先輩社員からOJTで教わる契約実務を裏付ける法的根拠を学ぶのに、参照されている条文・判例を引きながら通読するなんて使い方もよさそう。


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すでに類書を数冊持ってるからもう要らないよ、とお考えのベテランの方にとっても、そろそろアップデートは必要な時期かもしれません。特に賃貸借契約やソフトウェア開発契約の分野では、平成20年以降も裁判例が多数出ています。経産省・JEITAモデル契約書にIBM対スルガ判決等の動向を踏まえて改良を加えた本書のひな形とその解説をチェックするだけでも、価値があると思います。
 
秘密保持義務の例外に上場企業にとって必須のはずの証券取引所からの開示要求対応が含まれてない(ronnor先生が突っ込まれてました)といったモレもありますが、法務パーソンの間でひな形書式本として昔から「定番」と言われている本(弊ブログでは紹介していない某書)には、それ以上に不正確な記述があったりします。対して、こちらは有斐閣 × 阿部井窪片山印の「お墨付き」。おそらく、債権法の改正が成るまでは、この本が最良の定番ひな形本とされることでしょう。

食わず嫌いは損をすると思います。
 

【本】『新 法令用語の常識』 ― 誰もが知ってるあの緑色の名著がパワーアップしてました

 
法務パーソンなら誰でも知っているはずの、あの緑色の名著。新入法務パーソンのためのブックガイドでも推薦の1冊に挙げた、マストバイの本です。
これが昨年末、装いも著者も新たに改版されたのをご存知でしたでしょうか?


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最初見かけたときは類似品か何かと目を疑いましたが、はしがきを読んでひと安心。故 林修三氏に代わり、元法制局キャリアの吉田利宏氏が引き継ぐかたちでこの新版を担当されたとのこと。





法務担当者でなくても、法令や契約書を読んだ際には誰もが面食らう「又は・若しくは」の使いわけにはじまり、過去このブログでも取り上げた法務鉄板ネタ「直ちに/遅滞なく/速やかに」や「するものとする/しなければならない」といった頻出用語も旧版を踏襲して収録。加えて、「係る/関する」「故なく/みだりに」「抄本/謄本/正本」といった、微妙な違いをもつ語句の解説が、今回新たに追加されています。

それだけにとどまらず、1章 基本的な用語 → 2章 区別が難しい用語 → 3章 エキスパート分野(行政官向け)の用語と、掲載用語をジャンルごとに3つの章に分け、読みやすさと学びやすさを追求。最新の法改正にあわせて引用されている法令・条文も見直し、さらに、以下写真にあるような、旧版には無かったちょっとした「図解」も加わって、名著がさらに使いやすく生まれ変わりました。

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ただし左頁の図中「応答日」は「応当日」かも


バージョンアップを超えたパワーアップ。考える必要まったくなし、即買いの一冊です。
 

秘密保持契約と「残存情報」条項

 
そのほとんどが、現場担当者に「とりあえず挨拶代わりに結んでおけばいい」とすら思われ単なるペーパーワークになりがちな契約書である一方で、それをレビューをする法務が手を抜くと怖いことになることもある秘密保持契約について考える不定期シリーズ。

本日は、外資系企業を中心に契約書に規定されるケースが増えてきた「残存情報」条項について。


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残存情報(残留情報と表現される場合も多い)条項とは、以下のようなもの。

1 本契約の各当事者は、秘密情報にアクセスしたもしくは秘密情報を取り扱った受領者の従業員等(以下、「取扱従業員等」という。)に、当該取扱従業員等の意志にかかわらず記憶として残存する情報(秘密情報に含まれるアイデア、コンセプト、ノウハウ等を含む。以下、「残存情報」という。)が生じうることを確認する。
2 本契約の各当事者は、残存情報についてはいかなる目的のためにも自由に使用することができ、取扱従業員等の職務を制限もしくは限定する義務、または残存情報を使用した成果について開示者に対価を支払う義務を一切負わない。

初めてこれを見たときは、「そんなのOK出すわけないでしょw」と二つ返事で削除の回答をしたものですが、特に米国企業は、この条項を入れるのに必死になってきます。そしてそれは米国でビジネスをするのが当たり前になっている日本企業も例外ではなく、元キヤノンの伝説の弁理士丸島儀一さんも、その著書『知的財産戦略』でこう述べていらっしゃいます。

知的財産戦略
丸島 儀一
ダイヤモンド社
2011-10-07


(前段でクリーンルーム管理ポリシーでの契約交渉について述べた上で)しかし、ここまでしても完璧に秘密を守れるわけではない。情報を知った人が部屋から出てくるときには頭の中に情報が入っているはずであり、だれにもコントロールできない。そして、頭に入った情報は「目的以外の使用の禁止」にも関係してくる。
秘密情報が自分の知識となった技術者が他の仕事をする際に、この知識を使わないということはありえない。(中略)そこで、頭の中に入ってしまった情報については秘密情報と見なさないという例外条項を設けるように交渉しておくべきなのである。この例外条項が認められなければ、「きちんと管理したにもかかわらず、そこから情報が出てしまうことに関しては免責である」という方向に持っていく。とりわけアメリカなど外国の企業と秘密保持契約を結ぶ場合には、これは欠かせない。

ということで、削除交渉をするにもこちらから入れる交渉をするにも、平行線を辿ることが多い本条項。
実務の落としどころとしては、

ただし、残存情報はメモや音声等記録に残しもしくは再製してはならず、受領者は本契約により認められた場合を除き残存情報に含まれる秘密情報を第三者に漏えいもしくは開示せず、また本条によっても開示者の特許権、著作権およびノウハウを含む知的財産権について受領者にライセンスを付与するものとみなされない。

を追記してお互い矛を収める、といったところでしょうか。


細かいことをいえば、もう二つほどやっておくべきことがあるのですが、それはまたどこかで。
 

【雑誌】BUSINESS LAW JOURNAL 2015年 3月号 ― 水野祐先生による連載「法のデザイン」に注目

 
数ある法律雑誌の最近の連載記事の中で、最も新味が感じられ楽しみにしているのが、シティライツ法律事務所の水野祐先生による「法のデザイン ― インターネット社会における契約、アーキテクチャの設計と協働」(@ビジネスロー・ジャーナル)です。





しかも、今回は「ゲームのリーガルデザイン(1)」ということで、現在エンタメ業に従事する私としては見逃せない記事。

本連載における「アーキテクチャ」とは、法律や規範(慣習)とは異なり、人間の行為そのものを技術的、物理的にコントロールする仕組みのことをいう。
インターネットだけでなく、ゲーム内の仮想空間もまたアーキテクチャの設計が妥当する。いや、むしろアーキテクチャの設計という観点からは、ゲームはインターネットに先行している分野といえる。ゲームには、現実世界におけるゲームを取り巻く情報環境というアーキテクチャと、ゲーム内で設計された仮想空間としてのアーキテクチャという二つのアーキテクチャが存在することになる。これが他のコンテンツと比較した、ゲームの特徴であるということも可能であろう。

この一節に、なるほどなー、まさにアーキテクチャと法律・契約が交錯するところだから、自分はオンラインゲームの法的問題を考えるのが好きなんだなー、などと独りごちお茶を飲みながらリラックスモードで読んでいたところで、脚注でそのお茶を吹きました。

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水野先生と先日SNSか何かでおしゃべりした際に、「はっしーさんのアレ参考にさせてもらいましたよ」的なことを言われた記憶はあったのですが、よりによってあの(幼稚な)自説がここで晒されたか・・・と。あとでしらっと修正しようかと思ってたのに、もう直せない(笑)。

さておき、先生がこの連載でも述べられているように、エンタメ業にいるものとしては、法律・契約だけでは解消できないことがらがたくさんある中でも、この二次創作との「戦いと共存」状態はさらに混沌としてきている実感があります。個人的には、エンタメコンテンツについては、(従来の権利者が事後の権利処理の容易さ・有利さから意図的にそうしてきたような)「映画の著作物」として束にして考えるのをあえてやめ、映像(影像)の著作物、BGMの著作物、音声の著作物、文字の著作物、プログラムの著作物、プログラムの特許、パブリシティ権、キャラクター権…といった一つ一つの細かい権利に解体して捉えていくことで、こういった問題とも対峙しやすくなるのかな、といったアイデアを温めているのですが。


次号も、位置情報やVRを活用したゲームの法とデザインについて語っていただけるとのこと。本連載が息の長いものになって、日頃ミステリアスな雰囲気漂う水野先生の頭の中・考えていることが一つでも多くご披露いただけることを楽しみにしてます。
 

ここまでやるか、な表明保証の骨抜き文言

 
ライセンス契約や投資契約等にはつきものの「表明保証」条項ですが、ここまでやるか、と呆れるような骨抜き文言を見かけたのでメモ。

甲は、本契約締結日において、甲が知り得る限り(認識可能であった場合を含むが、軽過失により認識できなかった場合を除く。)において、乙に対し以下の各号を表明及び保証する。ただし、乙による本契約締結の可否判断に影響を与えないものと合理的に判断される軽微な事由については、この限りではない。

ここまで骨抜きに一生懸命になっている姿を見ると、よーやるわ、を通り越して、いっそのこと

以下の事項については、申し訳ないんですが表明保証できません。

って書いてくれた方が男気を感じますね・・・。
 

グローバル企業の利用規約が、一切の妥協を許さない水準を目指しはじめた

 
グローバル企業の利用規約をウォッチしていると、最近になって各社次のステージにレベルUPしてきたな、と感じます。


ひとつは、Appleのデベロッパー(アプリ開発者)向け規約の変化です。これまで、英語版一本槍で貫いてきたこの規約が、9月のiOS8リリースとともに改定されたバージョンから、ついに多言語対応となったのです。翻訳の品質はやや疑問符が残るところはありますが、お殿様のようなあのAppleが、消費者向けではないBtoBサービスに対してまで多言語対応のリーガルコストをかける覚悟を決めたことに、大きな時代の変化を感じます。

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そしてもう一つが、ハイヤー配車サービスのUberのユーザー向け利用規約。米国の弁護士も「非常に堅固」と唸ったという仲裁条項の分厚さを誇るUSAバージョンも見逃せないのですが、

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プルダウンメニューから「日本」バージョンを選択すると、なんと、英語版を日本語に訳した利用規約ではなく、法的にも完全に日本向け仕様にアレンジした利用規約が現れるのです。もちろん準拠法も潔く日本法となっていますし、仲裁法により消費者契約の仲裁合意は消費者から解除可能であることにも配慮して、東京地裁管轄の訴訟による解決と書き換えられているのには、本当に恐れ入ります。

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サービスは単一でも、利用規約は国ごとにオーダーメイドで作りなおす時代へ。日本の企業がやってしまいがちな、日本語の利用規約を英語に訳し、「ただし、正文は日本語とします」と注意書きしたものをグローバル版利用規約とするなんちゃってグローバル対応に甘んじていると、数年後には通用しなくなっている予感、というか悪寒がします。みなさん妥協という言葉を知らないというか、いやこれこそがあるべきリーガルサービスの水準というべきか。

これは大変な時代になってきました。
 

【本】知的財産契約実務ガイドブック 改訂版 ― 先輩のライセンス契約虎の巻を覗き見る

 
昨日に続きライセンス契約ブートキャンプ。

私の記憶が確かならば、約1年前ぐらいに @setagayan さんがtweetされていてその存在を知った一冊。ということで新刊ではないものの、改訂版は2012年に出版されたもので、ライセンス契約の実務書の中では比較的フレッシュな方です。





著者の石田正泰さんは、凸版印刷の法務部門トップとして取締役も務められた方。今も、知財系のセミナーで講師等を務められているようです。

ライセンス契約の実務書によく見られる、さまざまなパターンのひな形を披露してその逐条解説に終始するものとは違い、特許/商標・意匠/著作物/キャラクター/共同研究開発といった類型ごとに、その目的・戦略に沿って地道に積み上げて契約書を作ろうという丁寧な姿勢が特徴。昨日の記事で言及した、ライセンスの対象を権利としてきちんと分解し捉えていく態度についても、この本から学ぶべきことがたくさんあります。そういった体系的思考がバックボーンに感じられる一方で、著者の頭の中の課題意識が殴り書きされた箇条書きノートがそのまま印刷されたような記述もそこかしこに見られ、その凸凹感がこの本の味にもなっています。やや冗長な記述が多い点は、お口に合わない読者もいらっしゃるかもしれません。

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巻末のほうに収録されている「知的財産契約ケーススタディー」×21講は、法令と実務の狭間で問題となりがちな論点を体系にこだわらずにストレートに汲み上げたもの。「昔、こんな案件があってさぁ。あのときは大変だったよ・・・」なんて、先輩がOJTの合間に聞かせてくれる経験談(武勇伝ともいう)に耳を傾けているような、そんな風情が漂います。ライセンス契約における特許保証問題や、改良した発明のグラントバックの様々なパターンと独禁法上の視点がケーススタディー形式で取り上げられ整理されているところなどは、似たような問題に初めて出くわして面食らうばかりだったあの頃の自分に見せてあげたい感じ。

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もっとも、ふつうの実務書らしい一面もあります。たとえばライセンス契約条項のチェックリスト的なものは、使い方には注意しなければ危険とは言っても、やはりあるとありがたいものです。

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こうして改めて全体を通して読みなおしてみると、ライセンス契約をウン十年やってきた先輩が隠しもっていた虎の巻を覗かせていただいているような、そんな本ですね。
 

ライセンス契約再考

 
自分が保有する知的財産の利用を第三者に許諾することを、ライセンスと言い、そのために結ぶ契約が、ライセンス契約です。

ライセンス契約に関するひな形は、既に相当な数が世の中に出回っていて、それを流用すれば、だれでも“それらしい”契約書が作れてしまいます。しかし、これまでにない新しいタイプのプロパティをライセンスしたり受けたりしようとする際に、そういったひな形を大きくアレンジした契約書を作らなければならなくなると、改めて、

 1)ライセンス契約とは、そもそも何を許諾するものなのか?
 2)ライセンスの対象としているものは、法的に知的財産と言えるのか?
 3)ライセンスによって、どこまで・誰までを制約しようとしているのか?


について考えさせられ、深い沼に足を取られそうになります。特に、プロパティが多様化し続けている最近では、その頻度は高まるばかりです。

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先週もまさにそんな状態に陥ったため、この週末は基本に立ち返ろうと、ブートキャンプとばかりに以前読んだ(はずなのに内容を忘れている)書籍たちと格闘しながら、ライセンス契約について再考していました。中でも、以前もご紹介したこの1冊は、混乱してしまった私の頭をすっきりと整理してくれるものでした。





以下、基本的なことではありますが、改めて自分の胸に刻むための写経としてのメモを。


1)ライセンス契約とは、そもそも何を許諾するものなのか?


他人が保有している知的財産権を利用するためには二つの手段があり得る。一つはそのものから当該知的財産権を譲り受けて自らが当該知的財産を保有することであり、もう一つの手段は、当該知的財産権を第三者に保有させたままで、当該権利の利用権を取得する方法である。後者の手段がライセンスである。
ライセンスとは、知的財産権者以外の第三者が当該権利にかかる財産的利益を利用しようとする場合(特許権であれば特許発明を実施しようとする場合)に、当該利用行為が権利侵害を構成しないように、権利者から取得する当該利用行為についての許諾のことであり、端的には、権利者が財産的利益を得ようとする者に対し、当該利用行為を禁止しないという消極的な受忍義務を負担する契約であると説明される。

この点は、多くのライセンス契約の実務書では端折られている点だったりします。例えば、今ちょうど手元にあるそれなりに定評ある某書でも、

“ライセンス契約とは、知的財産・知的財産権の実施・使用・利用に関する契約で、民法上に規定されている13種類の有名契約ではなく、無名契約である”

と説明しているのみです。

「禁止権を行使しないことの約束である」という本書指摘のポイントを理解し意識できているのとしていないのとでは、契約書の作り方にもかなりの差が生まれるように思います。

2)ライセンスの対象としているものは、法的に知的財産と言えるのか?


著作権には、特許権や商標権に関する専用実施権(専用使用権)に相当する権利は存在せず、著作権法が定める利用許諾は、特許権に関する通常実施権と同様の権利である。すなわち、著作権の利用許諾の内容は、当事者間の合意により、どのようにも定めることができ、かかる合意内容を定めるのが著作権の利用許諾契約(ライセンス契約)ということになる。
なお、財産権としての著作権の具体的内容は、著作権法21条以下に定める、複製権等のいわゆる支分権であるから、著作権の利用許諾契約とは、第三者がこれら支分権を行使することを許諾し、著作者としての権利を行使しないことを約する契約にほかならない。

非製造業では特許よりも圧倒的に著作権のライセンスが多いと思われます。そして著作権の場合、上記引用部にあるとおり法令でかっちりと決まった型がないため、自己流のライセンス契約がまかりとおることになります。とはいっても後段引用部にあるとおり、著作権には細かい支分権が法定されているわけで、その支分権を意識した許諾内容を規定することは可能なはず。しかしながら、そのようなライセンス契約にお目にかかったことがほとんどありません。

昔から議論は尽きないモノのパブリシティ、アニメやマンガのキャラクター、有名人の氏名、工業製品のデザインの二次利用、俳優による声の演技、効果音、フォント、データ(データベース)の利用許諾なんかも、権利の狭間もしくは股がりの中で、この辺の整理が曖昧になりがちな分野かと思います。

3)ライセンスによって、どこまで・誰までを制約しようとしているのか?


この点で留意すべきは著作物の使用行為である。すなわち、特許権等とは異なり、第三者が著作物を使用すること(たとえば小説を読んだり、絵画を鑑賞したりする行為がこれに該当する)自体は、著作権法上、何ら禁じられてはいないから、これらの行為を許諾することは無意味である。しかしながら実際の契約実務においては、使用許諾契約というタイトルのライセンス契約が締結され、その中で著作物の使用そのものを許諾の内容とするライセンス契約が多いのも事実である。

これは耳が痛い…。著作権法上禁止し得ないことを禁止したり、著作権がまるでアクセス権であるかのように条件を付けて使用を制約したりする契約のなんと多いことか。頭ではわかっているつもりでも、そういった契約を今まで書いたことがないとは申し上げられません。

ライセンスを受けた者がいわゆる下請業者に対して特許製品の製造を行わせる場合、当該下請業者は特許製品の製造を行うについて特許発明を実施しているか否かという問題がある。仮に下請業者が特許発明の実施行為を行っているのであれば、当該下請業者は、自身の実施行為につき、自ら特許権者から別途ライセンスを受けるか、特許権者からライセンスを受けたものからサブライセンスを受ける必要がある。
この点について最高裁は、通常実施権者との契約に基づき、貸与を受けた金型を使用して製品を鋳造し、その全部を通常実施権者に納入した事例において、当該製造は通常実施権者の補助者として、その事業のためになされたものであるから、かかる下請業者の行為は通常実施権者の実施権の行使としてなされたものであって、下請業者の特許権侵害行為は存在しないと判断している(最判平成9年10月28日判例工業所有権法第2期第13巻2269の26頁【ナット鋳造金型事件】)。

前述の利用権と使用権(アクセス権)との取り違えとも似た事例として、ライセンシーが下請業者を使う際に、「ライセンサーがライセンシーに対し下請業者へのサブライセンスを認める」という構成を採用しているライセンス契約書を見ることがあります。状況によってはこれが必ずしも間違いとは言い切れないにせよ、ライセンスとは何かを深く考えずにそうした契約書を作ってはいけないぞと、肝に命じておきたいところです。
 

【本】法務部員のための契約実務共有化マニュアル ― 法務部員向けではなく、営業担当者向けユーザーズガイドだった件

 
昨日のTwitterのTLの一部でちょっと盛り上がってたネタの一つが、自社の契約ひな形について、現場向けのユーザーズマニュアル(解説書)を作るのはどうか?というもの。ネタ振りは@overbody_bizlaw先生。




実は、そんな奥様にぴったりな、まさに現場向けのユーザーズガイド(解説書)のような本が出版されてるんですよー。





契約実務と法』の河村寛治先生を筆頭とする元伊藤忠法務部のお三方が著者、そしてこのタイトルということで、てっきり法務部員向けのマニュアルかと思って購入したところ、そうではなく、なんと現場営業担当者向けのユーザーズガイドでした。はしがきより。

 本書では、あらためて、契約書はなぜ必要なのか、契約書は何の役に立つのかなどを含め、契約書が作成されるまでの流れに沿って、どうしたら契約から発生するリスクを回避できるかなどについて、企業の営業の現場で活躍する方々に対して、すこしでも参考にしていただくために、かつて同じ企業の法務部で契約実務を経験した同僚三名が、その際の経験を踏まえてまとめたものです。
 したがって、本書は、企業法務の担当者が最初に読みつつ、企業内の各部署での研修用教材として利用していただくことも意識したものとなっています。

たしかに帯にもそのような宣伝文句が。法務部員が契約実務を現場に共有(してラクを)するためのマニュアル、という趣旨のタイトルのつもりのようです。しかし、タイトル冒頭に「法務部員のための」とつけてしまったことで、ベクトルが現場に向いた本だということが伝わらないんじゃないかなあ、とは思いました。

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中身はどんな塩梅かといえば、河村先生の『契約実務と法』の内容を、法務1〜2年目の若手でも十分理解し使えるような言葉にかみ砕いた上で、法的論点やビジネス常識として抑えておきたいリーガルタームも妥協すること無くきっちりとした解説・条文つきで教えてくれる、欲張りな本となっています。

この感じ、このレベル感、何かに似てるなあ、見たことあるなあと記憶を辿って思い出したのは、むかし◯友商事から出向でいらっしゃって仕事を色々教えていただいた先輩社員(営業の方)に見せてもらった、社内法務研修のテキストでした。商社って、大体入社して2年目ぐらいまでに、営業担当者自身が契約書をチェックでき会社を回すのに必要なひと通りの法務知識をきっちり叩き込まれるんですよね。著者ご出身の伊藤忠さんでも、そういう研修資料が存在しているものと推察します。


冒頭ご紹介した柴田先生コメントの「ユーザーズガイド」ちっくなところをかいつまんでご紹介すると、たとえば売買契約の各条項の意味を条文併記で解説しているこのあたりとか、

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営業担当者向けに瑕疵担保責任・危険負担・損害賠償・期限の利益喪失・特定物・代理店(Agent)・著作権の譲渡・不可抗力等のリーガルタームを説明しているこのあたりなどを見ていただくと、実際のレベル感を掴んでいただけるのではないでしょうか。(ただし、民法改正の動向までコラムで触れているのは、おそらく出版後の本書の寿命延命を考えてのことかと推察しましたが、ちょっと欲張り過ぎな気もしました。)

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もちろん、法務の方が自社のひな形をベースに社内向けユーザーズガイドを作るのが一番親切だとは思うのですが、それにかける費用対効果や、情報管理(心ない現場担当者が、趣旨や重要性を理解せずに、自社内限りのユーザーズガイドの解説をコピペして契約交渉相手に送りつけてしまうことがある)を考えると、この本を人数分購入して配ったほうがいいかもしれません。


契約書の読み方だけにとどまらず、
・契約書はなぜ必要か、なんの役に立つのか
・契約が結ばれるまでの流れ
・調印後の管理
・契約が成立してからのトラブル
・トラブル対応と解決方法
・与信管理と債権保全
・契約解除・終了
といった事前/事後のハウツーや対応についても漏れ無くひと通り記載されているので、これを1冊ずつ現場担当者に配っておけば、3〜5つぐらいは研修コンテンツが企画・実施できそうな感じしますね。
 

第3回法務系LTでお話した「スマホ&ネットサービスの利用規約における準拠法/裁判管轄条項の限界」

第3回法務系LT無事終了。

まずは、今回ご参加くださったみなさんにお礼申し上げます。ネット上の法務クラスタ有名人が一同に会したオールスター感謝祭みたいな感じで、こちらが恐縮してしまいました。

今回はなんといっても場所が良かったです。快く場所をお貸しくださったクックパッドさんには改めてお礼を申し上げます。クックパッドさんのキッチンは、オフィスの一部とは到底思えないほどのとても快適な場所。フードやドリンクの協賛もいただいて、さらに法務チーム総出でお手製のお菓子とお料理までご準備いただけて、本当にありがとうございました。

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Photography by Kazuya Wada


私のお話したスライドをアップしておきます。5分で何かを伝えなきゃいけないわりに選んだテーマが重すぎ、しかも端折る過程も雑すぎて、LTの途中でツッコミをいただいてしまうレベルの仕上がりで、言い訳のしようもないのですが。私自身は、ここに書いていないことを含めて調べている過程でいろいろな発見があって、本当に忙しい中ではありましたがやっぱりLTやってよかったなと思いました。ご覧頂いてもし間違いやみなさまがご存知の+αの知見ありましたら、影でdisるのではなく(笑)ぜひぜひこちらにコメントをいただけないでしょうか。勉強させていただきます。なお、最後の謝辞にも書かせていただきましたが、判例情報をご提供くださった ronnor先生、LexisNexisさまには大変感謝しております。



当日のLTの様子は、#LegalLT から辿っていただけます。雰囲気はそこそこ伝わるんじゃないでしょうか。twitterってやっぱり素晴らしいシステム…。

最後にお礼を言いたいのは、やっぱLTという文化を法務畑に広めた伝道師であり幹事を務めてくださった @katax さんかな。法務パーソン仲間として、今後もいろいろやっていきましょう。法務系LTはもう別の方に運営していただくとして、会員制サロンみたいな(もちろん会費は取りませんが)クローズド勉強会をやりたいなって話をしています。

香港で伝統的なsealed contractを見てきた

 
先日、香港に行った際に、封蟻を使った捺印証書(deed, sealed contract)を見る機会があったので写真にとらせていただきました。紙による簡易なシールを見たことはあったのですが、封蟻によるものは実のところ初めてかもしれません。

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ページをまたいでリボンを封蟻で固めているのをみて、へぇそういうふうにするの?とはじめて知った次第。


以下、中村先生の『英文契約書作成のキーポイント』より。

往々,契約のむすびの部分や署名欄周辺にシールに言及したものがある。
少なくとも英法圏では昔ある一定の法律行為を書面にする場合には,deed(捺印証書)の形とし,本物の封蟻(Sealing waxを使ったもの)を施すことを要求した時代が長くあった。シールをする行為は,その書面に拘束されることを意味し、現代でもその書面に厳粛に服する意図を表わす。

シールをした書面はdeedとなり,considerationがなくても拘束力をもつ効果がある。また今でもdeedであるかどうかによって時効や,法律効果が異なる場合がある。
封蟷を使う習慣が次第になくなるにつれ,封蟻が赤い紙にかわってきた。
英国では現在は,これもなくてもよいことになり,署名欄に「捺印証書として作成された」(executed as a deed)と書けばよいことになっている。さらにその後,deedの形で締結するべき契約書自体の数が減り,多くの契約書がシールなどなくても,署名で十分効力をもつとされるようになってきたが,それでも本来必要な場合以外にも音の習慣の名残りで,封蟻によるものかどうかを問わず,シールに言及する場合があるようである。契約の準拠法上の要請にせよ形式的な体裁にせよ, このような文言を含む契約書があった場合にどう対処すればよいだろうか。日本の会社でも封印と封蟻をもっているところがなくもないようであるが,多くの会社ではもう封印する型押し機などないであろう。
方法としては,上述した赤い紙,つまり単に直径2cmくらいの円形の,または長径3cm,短径cmくらいの惰円形の赤(ないしはえび茶)の紙のシール(ちょうどなければ色紙を切りぬけばよい)を署名欄の付近に貝占っておけばよい。また,そのようなものがなければないで,社判を押しておけば大抵通用しているようである。


ところでこの文書はなにかというと、香港歴史博物館に展示してあった清とイギリスとの南京条約。他方、ポツダム宣言受諾後に日本がイギリスに香港の主権を委譲した降伏文書INSTRUMENT OF SURRENDERも展示されていまして、こちらにはシールがありませんでした。1945年ごろにはすでにシールの慣習が廃れていたということなんでしょうか。

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外国では時間があればこういった歴史博物館に行くようにしているのですが、香港に限らず様々な国によって占領された経験を持つ国で、日本占領期を「暗黒の時代」として描いている国はいくつかあります。日本で今行われている議論も含めていろいろ考えさせられます。
 

外国企業との秘密保持契約における注意義務の水準について、みんな言ってることが違っててワロタ

 
前回の記事を書いた後も、外国企業との秘密保持契約における注意義務の水準についていろいろ調べてるんですが、おなじBLJの過去記事だけみても面白い結果が。


まずはこちら。2013年1月特集「クロスボーダー契約のリスク NDA」の西村あさひ菅尋史先生の記事。

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自己情報と同一の注意義務が規定されている場合、自分のものと同様に大切に扱うという意味に誤解しがちである。しかし、無償寄託の規定(注:民法659条)からも分かるとおり、善管注意義務(with the care of good manager)よりも軽減された義務であるので、開示した秘密情報が受領者にぞんざいに扱われ、漏洩してしまう可能性が大きくなる。なお、英文契約ではreasonable care(合理的な注意義務)がよく用いられるが、善管注意義務に非常に近い意味(ほぼ同義)と考えられる。開示側からすれば、少なくとも、合理的な注意義務または善管注意義務を負わせておくべきである。

英文契約の解説でなぜ日本法の無償寄託の規定を引き合いに出すのかがちょっと解せないですが、いずれにせよ自己情報管理水準ではNGで、reasonable careあたりが落としどころとの解説。


一方で、2011年3月特集「英文秘密保持契約の起案・検討のしかた」の日比谷パーク原秋彦先生の記事がこちら。

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文例1では秘密情報の内容として、

use its commercially reasonable best efforts to cause its directors, officers, employees agents and other representatives to keep confidential

というような一般的な内容を記載するにとどまっているが、社内的にアクセスを許容されるものを限定するというように、努力義務の内容をダメ押し的に記載する例も見受けられる(文例2参照)。

文例2では、

with the same degree of care as it will use with regard to its own confidential information

としていることに違和感を覚える読者もおられるかもしれない。日本の民法上は自己自身のためにする注意義務は「善良な管理者の注意義務」よりも程度の軽いものと一般に理解されているからである。しかし、後者を「the duty of care of a good manger」と直訳したのでは、かえって外国人には意味が通りにくい。英語あるいは英米法での類似の概念「fiduciary duty」(信任関係上の義務)であり、より具体的に表現するとなると上述のように表現することが通例である。

英米法上は自己情報水準がむしろ正しい、との原先生解説。菅先生とまったく逆のことをおっしゃってます。これは・・・。


引き続き、他誌からも探してみたいと思います。みなさまからも情報いただけますと助かります。
 
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