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【本】英文ビジネス契約書大辞典 増補改訂版 ― 自炊すべきか否か、それが問題だ

 
Amazonで予約していたこの本が届きました。金額が高いのが玉に瑕とはいえ、英文契約に携わる法務パーソンはなんだかんだ言って結局購入しお世話になっているという、「大辞典」の増補改訂版です。


英文ビジネス契約書大辞典<増補改訂版>
山本 孝夫
日本経済新聞出版社
2014-02-06



高かったお値段は増補改訂版になってさらに値上げ(つらし…)。その代わり、値段上昇分相応のボリュームUPとなっています。総ページ数1,300超。出版社によれば、コンテンツとしては「秘密保持契約(40例文)とエンターテインメント契約(59例文)の章を新設したほか、新しい契約条項を取り入れて、ライセンス契約(162例文)、合弁事業契約(62例文)、事業譲渡契約(66例文)を大幅に拡充」とのこと。エンターテインメント分野の条文の追加については、映画のライセンス契約がメインでして、期待したIT寄りとは違う方向。それでも、私の中の今年のキーワードとなっているキャラクター商品化についてはしっかりカバーされていて(しかもこの分野の英文契約参考書も少ないので)助かります。


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さらにうれしいのが、今回から「条項索引」が追加された点です。条項索引とは何か?これをご覧頂ければ、その破壊力と価値の高さが伝わるのではないでしょうか。私の使い方ですと、ドラフティングの際はこの索引から探して見つけるパターンが多そうです。もちろん例文目次・英語/日本語索引もついています。


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さて、このクラスになってしまうと持ち運びはもう不可能。届いたらすぐに自炊かな・・・と思っていたのですが、ひと通り目を通した結果、これはしばらく自炊しないほうがいいかもしれない、という結論に達しました。その理由は、旧版よりも条項集・レファレンス本要素が薄まり、逆に教科書的記述が増えているという点にあります。いや正確に言えば、旧版から教科書的記述はあったものの、今回の新版でそれがより強く・明確に打ち出されていたからです。

本書は実用書の衣装をまとっているが、同時に著者にとっては大学を卒業したばかりの法務部門新人の夏(1966年7月)に思い立ち、探求してきた国際取引・国際契約の研究書であり、国際契約・知財法務に携わる新人育成の教育論の書でもある。(はじめにより)

そして巻末を見ると、編集協力・翻訳者として山本先生のご息女様のお名前も。
教育者としての愛+親娘の愛。大著の第二版はそんな本になりました。
 

秘密保持契約書は秘密を守ってくれない


「NDAを締結しても、NDAが秘密情報を守ってくれるわけじゃない。」
「本当に守りたい秘密情報を守る最善の方法は、あなたが他社に伝えないことだ。」

ということを現場にスッキリと腹落ちするまで理解してもらえる効果的な方法はないものだろうか、と日頃思っています。

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統計はありませんが、秘密保持契約書(以下NDA)は、あらゆる契約類型の中でもっとも流通数量が多い契約書と推察されます。秘密を開示するか否かにかかわらず、商談に入る際には、まずはNDAを結ぶということを習慣付けている会社もあると聞きますし、どの業界でも、駆け出し法務パーソンが契約書のドラフティングスキルを身につけようという時、まずはNDAから入るのがセオリーともなっているのも、その一つの裏付けと言えるでしょう。

しかし、多少なりとも実務経験のある法務パーソンなら、以下の事実に気付いていらっしゃるはず。

  1. ほとんどのNDAにおいて、「秘密」「CONFIDENTIAL」などの表示を付すいわゆる“マーキング”をした上で情報を相手方に渡さない限り、NDAの守秘義務の対象となる秘密情報として取り扱われない契約条件となっている。
    →しかし世の中では、マーキングをしないまま秘密のやりとりをしてしまっているケースが多いのが実態

  2. NDAは、渡した秘密情報を漏らさないという義務に加え、NDAに記載された“目的”の範囲内でのみ秘密情報を用いてよい(“目的”が終了すれば秘密情報は破棄・返却)という、“目的外利用の禁止”を義務としているところに意義がある。
    →しかし世の中では、目的外利用の禁止義務が意識されておらず、それどころか、「将来の取引にも汎用的に使えた方がお互い便利」という安易な考えから、契約締結時に“目的”をあえて絞りこまずにブロードに書いて結んでしまう“とりあえずNDA”が横行しているのが実態

  3. NDAの相手方に秘密情報を漏らされたり目的外利用をされたところで、それを立証できなければ損害賠償等を請求できないが、それを証明するのは、知っているはずの人間が特定少数でない限り、現実的には困難。
    →しかし世の中では、秘密が広まってしまっても、NDAを結んでいれば相手に賠償してもらえたり漏れた秘密がそれ以上拡散しないようにしてもらえる、と勘違いされているのが実態

こういう実態にみられるような名ばかりNDA文化が蔓延すると、「ひとたび商談先とNDAを結んだ後は、秘密情報は社内にいるのと同様になんでも喋ってよい」という勘違い担当者も蔓延してしまいます。そうなると、形式的にはNDAがあったとしても、実態的には営業秘密の3要件のうちの秘密管理性が認められなくなり、不正競争防止法的にも営業秘密が守れなくなるおそれすらあるでしょう。

このNDAに対する誤解を解くため手段としては、研修ぐらいしか思いつかず、実際そういった研修を入社時等に徹底している会社もあると聞きます。しかし、そんな研修は現場にとってはつまらないこと請け合い。なので、私は心ある現場の方からNDAについての相談をいただくたびに、「NDAを結ぶと、誤った安心感から秘密情報を安易に伝えてしまうだけ。NDAは結ばずに、そして秘密情報は渡さずに商談をする、というのが一番です。」という主旨のことをひたすら説明(というかほぼ説教)し、布教に努めるぐらいしかできていません。いっそのこと、どこかの企業が「マーキングしてないまま渡した秘密を目的外利用されて、数億円規模の訴訟を起こしたが、立証できずに結局負けた」という事例でも作ってくれないかと祈るばかりです。

この問題意識を現場に理解してもらうために効果的な方法があれば、是非ご教示いただきたいところです。


ご参考:

現場の方にも比較的わかり易い言葉で、NDAの重要なポイントを網羅しているネット上の記事として、猪木俊宏先生の下記の記事をご紹介しておきます。

秘密保持契約の実務上の留意点(IGI LAW OFFICE)
 

契約交渉で準拠法が合意できない→しょうがないから譲る…に対する違和感の原因を分析し、その対処策を考えてみた

 
BUSINESS LAW JOURNAL 03月号の「実務において一般条項はどのように役立っているか[前編] 〜不可抗力/準拠法/仲裁 ほか〜」と、ビジネス法務 03月号の「海外案件のスピード&効率アップ術」のそれぞれ興味深く拝読し、準拠法条項の合意について日頃思っていることを書いてみます。
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結局のところ「粘られたら譲る」が結論、でいいのか?


BLJではファシリテーター役の外資系メーカー法務の方を中心に国際契約の経験豊富な方々が、そしてビジネス法務ではオリック東京法律事務所の高取芳宏先生が、
  • 準拠法の合意は、本来は紛争解決手段の合意とセットで考えなければ有効性・適法性は担保できない
  • しかし実務上は、有効性・適法性を精緻に考えて交渉していないケースが多い
  • 紛争解決条項とバーターというケースも少なくない
という主旨のことを共通して述べておられました。

確かに、準拠法の合意でひとたび揉め出すと大変です。かと言って、法的にパーフェクトな落とし所があるわけでもなく(この法的な落とし所の無さについては同二記事でも軽く触れられていますが、準拠法合意についての国際私法上の有効性・適法性について詳しくお知りになりたい方は、道垣内正人著『国際契約実務のための予防法学』をお勧めします)、第三国法を大して調べもせずに安易に選んで妥協しているケースが多いのではないでしょうか。その裏付けとまで言うには乱暴かもしれないものの、同じビジネス法務3月号掲載の後ろの方に掲載されている連載「やっと分かった!英文契約書」で、アンダーソン毛利の仲谷栄一郎先生も、こんなことを書いていらっしゃいました。

(vii)要するに準拠法の条文をめぐりどのように交渉するのがよいか
こう言っては元も子もないが、いくら理論的に詰めて理想的な条文を目指しても、交渉の常として相手が合意してくれなければ実現できず、相手との力関係によって結果が決まる。
そこで、次のように考えるくらいでよいと思われる。すなわち、まずは日本法を主張し、相手が譲らない場合は、「第三国法」や(ぎりぎりの提案として)「相互に相手国法」などを提案する。それでもまとまらない場合は、準拠法を定めないという選択肢を検討する。それでも相手国が「自国法」を固辞する場合は、腹をくくって受け入れる。というのが、おそらく実務的な筋書きであろう。

この“仲谷理論”はつまるところ、「相手が自国法にどうしてもこだわるんだったら、そしてそれでも取引したい相手なんだったら、粘られたら譲らざるを得ないよねぇ」というもの。みなさんも、これを読んで「そうだよなあ、しょうがないけどその通りだよな」と共感を覚えるところがあるのではないでしょうか。

相手も同じ思いなら、譲り損しているだけかも


しかし、この“仲谷理論”を逆手に取れば、以下のような結論を導くことも可能なのではないかと私は思っています。
  • 相手方法務も、私達と同様、“仲谷理論”に立っているはず
  • 日本語や日本法がマイナーなのは事実としても、マイナーだから準拠法として採用できないという理屈は、少なくとも法的にはない(日本法にも運用や判例の積み重ねはそれなりにある・その法廷地・執行地の絶対的強行法規に逆らえないのはメジャーな法律でも同じ)
  • 従って、相手(の現場担当)にとって当社が本当に取引したい相手なのであれば、準拠法についても譲歩を引き出せる余地はある
つまり、準拠法で譲るか譲らないかの交渉結果は、その取引自体どちらが優位に立っているかの現れであり、法務の問題のような顔をしているがもはや法務の問題ではないのかもしれない、と。そして、もし準拠法条項において、自国法(日本法)の主張で粘ったがためにディールブレイクするような取引なら、契約の核心部分である経済条件その他の条件交渉も、勝ち目がないであろうと思うのです。

現場から「相手の法務が準拠法を変えてくれって言ってるんですけど、飲んでいいですか?」と相談されて、「まあ譲っていいですよ(日本法で通る事例も少ないし)」と安易に返答していたとすれば、法的な有効性の検証を精緻にしないという罪以上に、その取引全体における自社交渉力を法務もグルになって自ら否定してしまっていたのかもしれません。

ということで、今後ますます、準拠法ではカンタンに譲らない覚悟を決めましたので、よろしくお願い致します(キリッ。 
 

経済条件へ転嫁するという大人の対処策


そうは言っても、「準拠法は絶対譲らない」の一本槍だと、ただの大人げないワガママな会社になってしまいますよね(笑)。そこで、現実的な対処策について考えてみます。

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まず、“仲谷理論”でも選択肢の一つに挙げられている、「合意に至らない場合には準拠法を定めない」という解決策はどうでしょうか。これについては、以下ご紹介するように多くの実務家が不適切であると指摘しており、どうやら採用すべきではなさそうです。

準拠法条項の規定は、「州籍相違」(diversity)当事者間の取引や国際取引の場合は必須である。しかし、特にアジアの大国である某国との交渉に於いては余りにも妥協を全く知らない程の抵抗に遭う為に、準拠法を定めない慣行が散見されるけれども、法的安定性を欠くので私見では奨められない。寧ろ第三国の準拠法、特に世界の取引・法律の中心であるニューヨーク州の準拠法採用を推進すべきであろう。
(平野晋著『国際契約の“起案学”』P105)
当事者はお互いに自国法を主張して譲らないため合意できず、妥協として第三国法を準拠法としたり、何も規定しない場合がある。
準拠法の合意がない場合、裁判所は法廷地の抵触法規定に従って契約に適用される準拠法を決定することができる(たとえば通則法8条)。それでは、わざわざ契約の中で準拠法を指定する必要はないのだろうか。通常抵触法規定においては、特定の連結点から準拠法を決定する方法によっている。これらを決める各国の抵触規定は様々であり、どのような連結点を基準としてどう準拠法が決定されるか当事者からみると必ずしも予測は容易ではない。仮に調査が可能としても時間とコストに見合わない。したがって、契約の中であらかじめ準拠法を合意することは当事者の予測可能性を確保するためにも重要である。
(杉浦保友・菅原貴与志・松嶋隆弘編著『英文契約書の法実務』P71ー72)

交差型準拠法条項を置く


次に、裁判管轄における被告地主義のように、交差型準拠法条項を置くというアイデアはどうでしょうか。つまり、当社が相手方に訴える場合は相手方の国の法を、相手方が当社に訴える場合は日本国法を、と定めるというやり方です。これについても、国際私法の専門家から強く避けるべきであるという指摘があります。

提訴や仲裁申立てがあるまでは準拠法が定まらず、成立・効力などを判断することができなくなってしまい、また、訴訟や仲裁が競合して複数進められる場合には、それぞれが別の準拠法により判断されるという事態になってしまう。いずれにしても、このような条項のもとでは、紛争が生ずる前の段階での契約の解釈に支障が生じ、また、紛争の和解による解決も期待できなくなってしまう。
(道垣内正人著『国際契約実務のための予防法学』P103)

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それならば、「準拠法は譲る代わりに、紛争解決条項はこちらの都合のいい方法・場所に」というバーターでの交渉、これはどうでしょう。実務的にはよく行われているように思われますが、しかし、私は交渉のスタンスとしてあまり合理的とは思えません。準拠法か紛争解決のどっちかを譲れ、というスタンスを法務から表明することは、その2つとも当社として場合により変更が可能で譲る余地があるということの表明にもなってしまいます。そのすると、相手方から「こちらとしては、準拠法も紛争解決手段もどちらも譲れない」と主張された場合の反論が、法務的には「どっちもなんて、そんなのズルい!」しかなく(笑)、結局取引をさっさと始めたい営業的意向も重なってどちらも譲るという、負け犬コースへの道を助長しかねないからです。

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この点、BLJ・ビジネス法務どちらの記事にも指摘がなかったのですが、もっと建設的・合理的なアイデアとして、準拠法を第三国や相手国法に譲る分、その適法性調査や外国弁護士起用についてアドオンでかかる費用とリスクを、営業的な経済条件に転嫁する、という交渉をすべきではないかと私は考えています。単発の売買契約だったら弁護士費用相当額をあらかじめ見積もって売買代金に乗せるとか、ライセンス契約のように販売量によってリスクのボリュームが変動する継続的取引だったらそのリスク分について料率をアップするということです。経済条件にそのコストを上乗せしたがために相手が取引を拒絶したなら、営業的にもその程度のバーゲニングパワーだったということの証左でもあります。なおこの考えによれば、で指摘した紛争解決条項とのバーターを相手方から持ちだされた場合についても同様に、望ましくない方法・場所を受け入れる代わりに経済条件にそれを転嫁する(e.g. 準拠法受け入れ分で+1%、仲裁地受け入れ分で+1%で合計2%ライセンス料率をアップする)考え方を取ってもよいでしょう。


以上、契約は部分ではなく全体をみて考え交渉せよという、至極当たり前のことを長々と書いたに過ぎないのですが、私自身はこれまで相手方からはい里茲Δ淵ファーを受けたことがあまりなく、意外と効果的なソリューションなのでは、と個人的に思っているところです。


関連記事:

紛争解決条項の落とし所 ― 「裁判か仲裁か」「管轄地は自国か相手国か第三地主義か被告地主義か」の議論に終止符を打つ(企業法務マンサバイバル)
【本】国際契約実務のための予防法学 ― 「準拠法は日本法・紛争解決は仲裁で」の一本槍から脱皮する(企業法務マンサバイバル)





【本】国際契約の<起案学> ― 契約英文法のフレームワーク集


前回投稿でご紹介した『体系アメリカ契約法』とセットでどうぞ。





アメリカでは、より良い法律英語の<指導書>が近年多く刊行されるように成って来た。そのような<指導書>の紹介する英文契約こそが、日本人も学ぶべき「正統」な法律英語であるはずである。ところが近年日本で出版されている日本語の本が、果たしてそうのような正統的・レジティメイトな<指導書>を出典表示して来たのかと問えば、残念ながら答えは「否」である。

というわけで、平野先生が自ら<指導書>のエッセンスを日本人向けに和訳しながら整理・体系化してくださったというのがこの本。単なる英文契約のサンプル条項集とは一線を画した、確かな英文契約書を自分で書くための英文法の体系書といったところ。

たとえば、英文契約書起案のスタートラインとして誰もが必ず学ぶことになる、shallやmayの使い方について。日本で刊行されている多くの英文契約書の読み方・書き方本には、
・shallは義務を課す際に、mayは権利を示す際に用いる助動詞
・willはshallとほぼ同義だが、義務の程度はshallより弱い
・mustはほとんど使われない
といった感覚的な解説がなされ、だから義務を表す時はshallを使いましょう、で済まされていたと思います。そしてその根拠は?と言えば、「ネイティブの英米人が起案する契約書の多くでそうであるから」と、その著者の視界だけをもとに書かれているのが実態です。この本ではそこを踏み込んで、作為義務/不作為・禁止義務/債務不存在/無生物主語の義務/効力発生の条件/方針・宣言・・・と、起案のシチュエーションを整理しながら、<指導書>がどのような考え方でshallとmayおよびその他類義語の使い分けをしているのかを、必要以上とも思えるほど丁寧な出典表示を根拠にして解説します。頭の中でごちゃごちゃになった契約英文法のルールを綺麗に整理してくれる、フレームワーク集のような趣すらあります。

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ただし、言葉は生き物でもあります。この本に書いてあることのみが正しい、ほかはすべて間違いだとがんじがらめになる必要はありません。例えば、shallの用法について、この本にはこんな記述があります。

「定義条項」は単に契約書内で用いられる文言の意味を定義しているだけであるし、「準拠法条項」も当事者の債務を規定している訳ではないので、当事者による義務「違反」もあり得ない内容だから、債務にのみ用いるべき「shall」は不適切とされる。(P170)

これを読んで、多くの法務パーソンは違和感を感じるのではないでしょうか。実際、私が知る限り、外国法事務弁護士のネイティブな先生方も、“Shares shall mean all of the issued and outstanding shares of Seller's common stock"のように定義条項でshallを普通に使っていらっしゃいますし、JCAAやICC等仲裁機関が推奨する仲裁条項のひな形には、shallが使われています(例:JCAA「当協会の推薦仲裁条項」)。ネイティブの先生方や機関に「本当はそれ間違いですよ」と否定するためにこの本があるとまで考えてしまうと、かえって混乱します。

そうではなくて、「本来は理論上shallは使わないはずなのだけれども、先例を重視するネイティブの弁護士による契約実務においては、shallが使われることもままある」というふうに受け止めるぐらいで丁度いいのではないでしょうか。フレームワークには例外はつきものだからです。問題は、今までこのような、議論の拠り所となる契約語法について整理してくれた体系書がなかったという点にこそあるのであって、日本で初めて、それをここまでまとめて下さった功績は非常に大きいと思います。

実務で英文契約書をドラフティング・レビューする際にこの本を繰り返し紐解くことで、その経験を血肉に変える効果は2倍にも3倍にもなることでしょう。
 

【本】体系アメリカ契約法 ― 語学力だけでは契約書は作れない


これを読み終わって、英文契約をきちんと読み書き交渉できるようになるには、語学として英語を懸命に勉強しているだけでは進歩はなくて、アメリカ契約法を勉強すべきであったなあという当たり前を痛感しました。考えてみれば、日本語を国語学者のように研究したところで、和文契約を作れるようにはならないですもんね。


体系アメリカ契約法
平野 晋
中央大学出版部
2009-04



古くは早川武夫先生、中村秀雄先生、長谷川俊明先生が書かれている本など、英文契約独特の語法や条文の持つ意味について詳しく解説してくださる本には、沢山の良書があります。そして最近では、“Working with Contracts”の和訳本まで出版されています。しかし、その語法や言い回しの前提となる契約法そのものから体系的に解説してくれる本はと言えば、樋口範雄先生の『アメリカ契約法』ぐらいしかなく、あとは英語の原書でロースクールの教科書を読むしかないのか、と思っていたら、この本があったのですね。

本書は、「アメリカ契約法」の「概説書」である。学術と実務の融合を目指した「実学」の書でもある。本書が実学を強調する理由は、アメリカ契約法がそれを重視しているからである。
勉強熱心な社会人の受講生達からは、巷に数多く出回っている書籍の物足り無さに就いての苦情を多く耳にする。曰く、謂わゆる英文契約の「実務書」では学術面が不足しがちである。更に曰く、アメリカ契約法に関する邦語の体系書が無く、手に入る「翻訳本」は読み難い、と言うのである。それならば、これらの欠缺を「穴埋め」しようと思ったのが、本書執筆の動機である。

この「はじめに」が決して言葉だけのものではないというところは、契約違反に対する救済についてのコモン・ローと衡平法(エクイティ)の違いを解説するこの部分を読んでいただければ、伝わるのではないかと。

コモン・ロー上の救済原則である「損害賠償」(damages)とは、即ち「金銭賠償」(judgement for monetary damages)を意味する。救済の原則は、契約上の「約束に代替する」(substitutional)金銭賠償(pecuniary)であり、「約束それ自体を特定的」(specific)に履行するように命じる「特定履行」(specific perfomance)等は例外的にしか認容されない。
(中略)
金銭賠償が原則で特定履行が補助的というアメリカ契約法上の救済は、大陸法に比べた場合の英米法の大きな特徴の一つでもある。

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以上のような英米法の特異性が生じた理由は、そもそも英国からアメリカにも引き継がれた二つの裁判制度に由来する。即ち嘗ては「コモン・ロー裁判所」と「衡平法裁判所」という二つの裁判制度が並立していて、裁判所の下す判決の呼び方から裁判官の名称までも以下(図表#5.3)のように異なっていた。

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コモン・ロー裁判所と衡平法裁判所は後に統合されるけれども、それ以前には、後者による前者の侵食が嫌われて、衡平法上の救済はあくまでも「extraordinary」(非常)であって、コモン・ロー上の救済が「適切」(adequate)である限りは認められない原則が確立したのである。

日本法でいう民法634条みたいな発想が当たり前と思ってドラフティングしてると大間違いってことなんでしょうね。

600ページを超える大部となる本書は、ケース(判例)を紹介しながら、法源であるRESTATEMENT・UCCに加え、国際取引法のスタンダードとしてのCISG,UNIDROIT Principlesなどを関連付けながら紐解き、かつそれを具体的な条文にどう反映させるべきかまで解説。雰囲気としては、内田『民法供丙銚各論)』に河村『契約実務と法』の要素を加えたような感じで、アメリカ契約法を読み解いていきます。『契約実務と法』(2月に改訂版がでるようです)は私が和文契約の教科書として指定しているものですが、英文契約の教科書としてはこの本を推します。

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著者平野晋先生は、より具体的な語法・ドラフティングの技術についても、別の本に分けて刊行されています。その本については、次回あらためてご紹介させて頂きます。
 

【本】ビジネス法務基本用語和英辞典〔第2版〕/ビジネス法務英文用語集 ― 結局2冊買うことになる

 
ビジネス契約書の起案・検討のしかた』の原秋彦先生が、和文から翻訳して英文契約書・ビジネス文書を作るための「和英辞典」と「用語集」をセットでリリースされました。







まずは青の「和英辞典」。こちらはタイトルにあるとおり同名の書籍の〔第2版〕という位置づけ。率直にいってかなり見にくかった・使いにくかった初版のレイアウトを一新し、二段組みとしたことで、使い勝手がだいぶ良くなりましたね。

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内容は、あいうえお順に並んだ日本語の法律用語に英訳がついた素直な和英辞典です。クセもなく、使いやすいと思います。装丁もソフトビニールで耐久性と開きやすさが両立しています。

法務では、普通の英語学習用の和英辞典だけでは困る場合があります。例えば、同じ「強制する」という単語一つを英訳するにしても、compel,force,urge/coerce/enforceによって法的なニュアンスが異なるということを理解した上で使いわけなければなりません。また、「委託」「瑕疵担保」「専用実施権」のように、必ずしも英米法にズバリ対応する概念・訳語がない場合にどのように訳すべきかを知る必要があります。そのためには、専用の和英辞典が必要。訳語の選択にビジネス経験の豊富な渉外弁護士のノウハウも入っているとなれば、信頼感も違います。


一方、緑の「用語集」。こちらは特にタイトルでは明らかにされていませんが、ふたを開けてみると絶版となった『ビジネス法務英文グロッサリー』の再編集版でした。BLJの2013法務ブックガイドでもとある先生がおススメしていた本で、中古でも品薄だったので、待ち望んでいた方は少なくないのではないでしょうか?

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ただ、こちらはちょっとクセがあるのでご注意を。まず、同時に出された青の和英辞典とは違い、あいうえお順には並んでいません。では何順にならんでいるのかというと、
  • 論理構成のための用語…仮定条件/理由付け/接続詞/結論/比較/例示等
  • 権利関係に関する用語…遵守・違反・不当利得・故意過失・瑕疵/損害賠償/時効/取消・解除等
  • 契約書等起案用語…要件・条件/除外/使役/〜に従って・〜にかかわらず/以上・以下等
といった、語句の“役割”“機能”ごとに、用語・連語(グロッサリー)が分類されているのです。ですから、日本語で先に「こういう英文契約の条項が作りたい」という構造を具体的に描いた上で調べる必要があり、和英辞典と比べて、直感的ではないところがあります。

その代わり、派生語をまとめて眺められるよさもあります。実務でよく使われる語がゴシック太字になっているのも、うれしい配慮です。学習辞典と考えるとgoodではないでしょうか。こちらの本は装丁がソフトビニール製じゃないことからも、繰り返し引く辞典的な使い方ではなく、「学習のための通読」を前提としている様子がうかがえます。


あえてこの2冊について欠点を挙げさせてもらうならば、例文がほとんど載ってない、というところでしょう。原先生曰く、「コンパクトにまとめるためにあえてそうした」とのことなのですが。語句やコロケーションだけでなく例文がいくつも掲載されている野副靖人著『英文契約書のための和英用語辞典』の充実感と比較すると見劣りしますので、ここは人によっては残念という方もいらっしゃるかもしれません。

とはいえ、原先生というこの分野の大家を担ぎ、同じ著者が2つの切り口から書くことでバリエーションの広がりを作りつつ、取り上げる語句・表現は一貫させ、しかもまとめて出版してきたところを見ると、この2冊セットを和英契約用語辞典の決定版として普及させようという商事法務のなみなみならぬ意志が伝わってきます。実際、例文がない点以外は、完成度の高い仕上がりで、結果的にそうなる予感もします。

2冊買うと9,000円近く。予算の都合でまずどちらかを買って相性を見てみようという方には、私は緑の「用語集」から買われることをお勧めします。
 

【本】トンデモ“IT契約”に騙されるな ― たかが瑕疵担保責任、されど瑕疵担保責任

 
IT・ソフトウェア・システム開発契約における「瑕疵担保責任」を、最も詳しく・やさしく・噛み砕いて説明してくれる本としてオススメ。





法律をしっかり勉強した人が法務をやっているなら、
・瑕疵担保責任が無過失責任であることの意味
・法定の瑕疵担保期間の考え方
・準委任契約における善管注意義務との違い
などは当然に理解した上でIT・ソフトウェア・システム開発の契約をレビューしているはず。なのですが、私の実戦感覚では、この辺の法律をベースにした会話が通じない法務担当者がまだ30〜40%ぐらいはいらっしゃるんじゃないか、と感じます。

先日も、“瑕疵担保責任”との見出しが付いた条項の中に「仕様書との不一致について納入時の検査で発注者から指摘がなかった場合については、受注者は責任を負わない」という主旨の規定があり、「つまりこれは御社として瑕疵担保(無過失)責任を負うつもりがないという主旨ですか?」という質問と修正案を返したところ、「瑕疵担保責任とは、“隠れたる瑕疵”が生じた場合を想定した規定であって、あくまでも仕様書との不一致は貴社が検査時に見極めるべきものであり・・・」云々という謎の解説が帰ってきて途方に暮れました。この法務担当者のせいで、その会社さんとは契約を締結しないことになりそうな気がします。

ソフトウェア・システムの開発委託契約における瑕疵担保期間の基準は6ヶ月?』と題した本ブログ記事の反応にも、その一つの現われが。この記事では、なぜ請負契約の瑕疵担保期間(1年間)に商法の特則(6ヶ月)が適用されないのかをかなり丁寧に書いたつもりなのですが、それでも「民法637条より商法526条が優先するはずだ」「6ヶ月が正しい」というご主張がコメント欄に複数ついているのが、ご確認いただけます。

私がこの分野の座右の書としている『ソフトウェア取引の法律相談』でも上記2点についてフォローはされているものの、法律家向けの書籍ということもあって、この辺は常識として1〜2ページ程度のサラッとした解説にとどまっています。一方、本書では、冒頭70ページあまりをこれら瑕疵担保責任まわりの解説に費やしているので、読んで分からないという人はいないんじゃないかなと。先の例のような方と会話を成立させる意味でも、これでもか!と文字で噛み砕いてくれいている書籍が欲しかったところですので、今度そういう相手方に遭遇した際には「『トンデモ“IT契約“に騙されるな』のP◯◯を、騙されたと思って読んでいただけませんか?」と返答させていただくことにします。


また、伊藤雅浩先生のブログhitorihoumuさんのブログも触れていらっしゃるとおり、この本の中で紹介されている発展的議論としては、IT契約においては、瑕疵修補に代わる損害賠償請求権とは別に瑕疵修補とともにする損害賠償請求権が請求でき、後者は債務不履行責任に基づく損害賠償請求権であるため、民商法の原則どおり5年間請求できるのだという説が述べられている点でしょう。

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実際にこれを武器に戦った経験はないのですが、スルガ銀行vsIBM訴訟を戦い抜いている上山先生がおっしゃるのですから、訴訟上も主張しうるのでしょう。ちょっと判例を研究してみたいと思います。
 

「契助 -KEISUKE-」が問う法務の市場価値

 
東京近郊のベンチャーさんはみんなお世話になってるんじゃないかぐらいの勢力を持つAZX総合法律事務所さんが、ついにみんなが求めていたサービスをリリースしてくださいました。

契助 -KEISUKE- AZX総合法律事務所が運営する契約書作成サイト

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内容はみなさんご想像のとおり。ウェブ上で質問に答えていくと、後は押印するだけ状態の契約書がWORDファイルでダウンロードできるという代物です。私も早速秘密保持契約書の作成をしてみましたが、まったくストレスフリーに見た目もしっかりとした契約書ができあがりました(規約上、公開が禁止されているので、ご興味あればご自身でお試しください)。

これまで、個人の弁護士さんや怪しげな士業の方が似たようなサイトを作られている例はあったものの、こちらは事務所としての信頼度、契約書のバリエーションの豊富さが違います。ちまたに溢れる雛形集とも違って、最新の法令にも随時対応してバージョンアップしていく旨がちゃんと表明されていて(利用規約上免責はありますが)、安心して使える品質のサービスがようやくできたな〜という気がします。

そしてそれ以上に、私のような法務パーソンにとって、便利さ以上のインパクトを感じざるを得ないのが、この料金表の存在です。

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秘密保持契約書0円、業務委託契約書10,000円、ライセンス契約書20,000円…そして、これらの契約書を個別案件向けにアレンジする相談料が30分3,500円。これが企業法務における契約書業務の市場価格として提示されたということ。このブログを始めたときからそういう日も近く来るのだろうとは思ってはいましたが、まさにそうなったなと。

標準的な法務担当者の年収を仮に500万円とすると、会社負担保険料等込で時間あたりコストは4,000円前後。業務委託契約書の作成であれば、案件ヒアリング含めて13,500円 (AZX価格)÷ 4,000円 ≒ 3時間待っても返事がないなら、「何やってんの?」「AZXさんに頼めば、フォームに入力してダウンロードして電話で相談しながら30分ちょっとでできるんだけど?」「弁護士さん以上のクオリティで仕事してるの?」というツッコミがくるわけです。もっといえば、その企業の法務をやってるなら社内事情や業界慣習も十分にわかっているはずで、実質1時間程度で片付けてくれなきゃ付加価値なしということであり、一般の需要者が期待する契約書業務のスピードが定義されたという見方もできるでしょう。

法務の仕事は契約書作成・レビューばかりではありません。しかし、一般の需要者にとってはブラックボックスだった契約書業務の市場価格・スピード感がこうして公に定義されたのは、大きなインパクトがあるのではないでしょうか。類似サービスが次々現れることは間違いなく、契約書業務以外の分野で法務の仕事の価値が問われる時が、いよいよ本格的にやってくるのだと思います。
 

「国際契約力」という謎の力

 
日経の一面に「企業とルール 国際契約の落とし穴」という特集が上/下2回にわたって組まれていました。

国際契約の落とし穴(上) 映画・アニメ、交渉力 悩み(有料会員限定)
国際契約の落とし穴(下) 裁判・仲裁 救済に限界(有料会員限定)
  • 東宝東和が、映画の興行収入予算割れを補填する契約をタテに米国映画制作会社相手に訴訟をするも、資産のないダミー会社で回収できなかった話
  • コーエーテクモが、支払いを求めて中国の運営委託先に乗り込むと、会社ごと消えていた話
  • コンテンツ分野で海外勢から不利な条件を出されても精査せずにのんでしまい、苦労している事例いくつか
  • 丸紅が、融資返済請求事案についてインドネシア最高裁で勝訴したにもかかわらず、同じ内容で別の同国内裁判所に訴えられて負けた話
  • ゴルフ場開発会社投資家らが、合弁会社株をベトナム側に渡したが、代金が支払われず仲裁を申立て認められた後、現地裁判所で「仲裁手続違反」を理由に取り消し判決が出た話
  • 信越化学工業が、中国企業2社に光ファイバー素材の代金支払いを求め、日本仲裁で支払い命令を得たものの、中国の裁判所で拒絶された話

を紹介しながら、国際契約においては、相手を見極める営業センスだけでなく、紛争解決条項を含めた契約条件を慎重に詰める法務センスも磨かなければならないとの論調。上編の最後には、

経済産業省によると、映画やアニメなどコンテンツの国内市場規模は約12兆円だが、輸出比率は5%程度にすぎない。もうかる仕組みを契約にどのように盛り込むのか。契約力向上という課題を抱えるエンタメ産業は、日本企業全体の縮図にもみえる。

と、所属するエンタメ・コンテンツ業界が名指しされ「お前の“契約力”をどうにかしろ!」と、自分が怒られているような気分になりながら、国際契約力ってなんだろう?と沈思黙考。

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するとシンクロするように、今朝ほどネットで見つけたのがこちらの記事。

The High Court confirms that a contract can be made in two different jurisdictions
  • 2005年に、CIT(英)とUPD(米)の二つの企業が、NDA交渉で準拠法・紛争解決条項について交渉。
  • UPDはファイナルバージョンをCITにメールで送信した際に、「CITの要求を飲めない」として準拠法・紛争解決条項を削除して送付。CITはこれをプリントアウトしサインして返信し契約締結。
  • その後も取引は関連会社を交えて継続していたが、2010年にあらためてNDAを締結。この契約の準拠法・紛争解決条項は、テキサス州と定められた。
  • 二者間で知財紛争が発生し、2件の訴訟のうち1件についてCITが2005年のNDA違反を主張。
  • 英国裁判所が、2005年のNDAが成立したのは、CITがサインした英国であることを理由に、英国・テキサス両地を準拠法・紛争解決地とすることを認めた。

うーん、この2005年のやりとりは、どこかで見たことのあるような風景(苦笑)。日本から見れば「国際契約の玄人」であるはずの日・英企業も、契約の現場で発生している現実はさほど変わらないのかもしれないなあと思いました。


などと安心している場合ではなく、人のふり見て我がふり直せで考えますと、国際契約において私たち法務パーソンがお手伝いできることは、紛争が起きた時にどう頑張るか、ではなく
  1. 契約交渉の場面で多少面倒でも条件を曖昧にして終わらせないこと
  2. そもそも紛争が起きにくい契約書をつくること
  3. 紛争が起きても解決に向けた手続きがしっかりと規定された契約書としておくこと
なのでしょう。特に、3については、たまにひな形集で見かけては半分馬鹿にしていた「訴訟・仲裁申立の前に代表者同士がface to faceで協議する義務」なども入れるようにしたほうがいいのかな、などと思い始めております。
 

【本】CODE VERSION 2.0 ― リーガル・テクノロジスト

 
会社の表彰イベントがあり、そこでテクノロジストMVPという賞をいただきました。

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本来は法務部門が評価をいただくような賞ではなく、現場でモノを作り出す技術者の方々にこそ与えられるべき賞だと思うのですが、「法律を使って仕事をするのもテクノロジーの一つ」というのがその選評。


まさに、私が会社の中で施策を考える中でその拠り所としているのが、ローレンス・レッシグの『CODE』にあるこの考え方でした。問題提起のきっかけは「法律」だとしても、決して法律だけで会社の内外の事象をとらえたり制約を加えたりするのではなく、多面的にバランスをとりながら、いろいろな解決手段を用いて、目指すゴールに導くという考え方です。


CODE VERSION 2.0
ローレンス・レッシグ
翔泳社
2007-12-20



法、社会、市場、アーキテクチャ。そしてこの点の「規制」はこの四つの制約条件の合計になる。どれか一つでも変えたら、全体の規制が変わる。ある制約条件はほかのものを強化する。あるいはそれが対立することもある。だから「技術変化は(中略)規範の変化をもたらす(かもしれない)」し、その逆もある。でも完全な見方は、これらをまとめて考えるものだ。

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テクノロジーは規範や法律を無意味にしてしまえるし、それを支援することもできる。ある制約条件は、ほかの制約を可能にする。あるいは不可能にしてしまうかもしれない。制約は、機能はちがうけれど、一緒になって機能する。規範はコミュニティが課すレッテル貼りによって制約する。市場はそれが課す値段を通じて制約する。アーキテクチャは物理的な負担によって制約する。そして法律は、それが脅しに使う処罰を通じて制約する。
法、規範、市場、アーキテクチャは相互に働きあって、「ネティズン」が知る環境を作る。コード作者は、イーサン・カッチュが言うように、「建築家・アーキテクト」だ。
でも、こうした様式の間のバランスを「作って維持する」にはどうすればいいだろうか。組み立てを変えるツールとしてはどんなものがあるだろうか。実空間の価値観のブレンドを、どうすればサイバー空間に持ってこられるだろう。そしてそのブレンドを変えたいと思ったらどう変えればいいだろうか。


社内でレッシグ論を語ることなどもちろんないのですが、はからずもその思いを汲んでくださり、ズバリそれを評価していただいたことがとてもうれしいです。

そして、いつもそれに理解を示し協力してくださっている皆様に感謝しています。
 

【本】英文ライセンス契約実務マニュアル〔第2版〕 ― 35年の重み

 
グローバル化で英文契約業務が増えているといっても,IT業界で取り扱われる契約を見渡してみると,実はバリエーションはそれほど多くありません。基本的には秘密保持契約・業務委託契約がメインで,あとはto C向けの利用規約あたりをたまに整備するぐらいだったりします。このあたりの契約はだいたい定型パターンが決まっているので対応もそれほど難しくなかったりする一方で,私の所属するIT×エンタメな業界では,そこそこ重ためのライセンス契約案件がそれなりの頻度で発生するため,苦労は絶えません。

そんな仕事上の都合に加え,以前『ライセンス契約のすべて 実務応用編』共著の際に資料として買い集めていた経緯もあって,書店にあるライセンス契約本はほぼすべて購入しているのですが,比較的最近入手して(ただし刊行は6年前)ほほーと唸ったのがこちらの本です。書店でも見かけないですし,ブログ等でも紹介されていないのは,流通量が少なかったのでしょうか。





本書は,頭書〜WHEREAS Clause〜本文〜そして末尾文言の各条項ごとに,サンプル英文条文→サンプル条文の日本語訳→その解説・位置付け・ポイントをまとめるというオーソドックスな構成ではありますが,中身には以下のような特徴があります。

1.例文がリアル&長め

これまで拝読してきた英文契約ひな形集やライセンス契約本に収められた例文は,紙面の幅,全体を通しての読みやすさ,使いまわしのよさ等を意識してシンプル・短い例文の紹介にとどまるものがほとんどで,その例文から深い洞察を得られるほどのものは見当たりませんでした。それに対してこの本では,「複数の契約事例から主要なライセンス契約条項を著者の独自の判断でピックアップ(「はじめに」より)」つまり実際の取引で用いられた具体性のある条文が紹介されており,読んでいるこちらがシチュエーションを想像しながら「この長さの中に当社に不利なトリックが仕掛けられていないか?」と,契約交渉の矢面に立っているような錯覚に陥るほど。

また,海外の事業者との契約は,地理的に離れた者同士だからこそ事前に細部まで文章化し条件を確認する必要性もあってどうしても長くなるわけですが,他の例文集より条文が長めなところも,そのリアリティを支えています。たとえば,「支払条項」一つとっても,4.1〜4.9まで9つの項番に分けられ,サンプル英文とその日本語訳のみで(解説を含まずに)以下写真にあるとおり7ページ強にも渡る長さ。続くこの条項の解説部分で50ページにも渡るのですから,圧巻です。

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2.公取ガイドラインを強く意識

どういった条件を設定すると独禁法違反となるおそれがあるかが,条文ごとに個別具体的に言及されています。

英文契約=海外事業者との取引であっても,日本企業が自社の産業財産権をベースに技術供与をするのであれば,契約の準拠法は日本法とすべきでしょうし,そうなれば日本の独占禁止法も意識しなければならないはずなのですが,他の英文ライセンス契約の本ではこの辺の説明を端折っているものも少なくありません。例えば,私がよく参考にしている山本孝夫著『知的財産・著作権のライセンス契約入門(第2版)』では,この点には触れられていません。最も大部な『英文契約書ビジネス大辞典』でも,注意喚起的に数か所記述があるのみ。

ただし,この本が刊行された後に公取ガイドラインが改定されていますので,その点はご注意ください。

3.UCCや米国特許法,さらには米国破産法もカバー

UCCや米国特許法のどんな点がライセンス契約にかかわってくるのかを,それらの条文を訳した上で,日本法と比較対照しながら解説してくれます。さらに,ライセンス契約にとってもっとも恐れるべき事態とも言える,相手方が破産した場合の米国破産法の影響までも場合分けしてまとめています。


著者の小高壽一先生は,1962年にIHIに入社された後営業→海外駐在→業務部→法務と,現場から法務へというキャリアを歩まれ,1997年に定年退職された大ベテラン。600ページを超えるこの本を手に取ると,35年に渡る会社生活でのご苦労や法務パーソンとしてのご経験の蓄積があるからこそ醸しだされる「重み」が,ずっしりと伝わってきます。
 

【本】金融から学ぶ民事法入門 ― 教授の異常な愛情 または元銀行員は如何にして心配するのを止めて教科書を書くようになったか

 
法律をその法体系(パンデクテン)にこだわらずに取引事例・ストーリーに沿って説く試みは、内田民法を代表に様々な書籍で試みられていますが、この本ほどコンパクトかつイキイキとまとめた本はないのではないか、と思える一冊。


金融から学ぶ民事法入門
大垣尚司
勁草書房
2012-03-27



会社に就職したり、銀行やサラ金から金を借りたり、車(中古・新車)を買ったり、家を借りたり、建売を買ったり注文住宅を建てたり、住宅ローンを借りたり、死んで相続したり・・・といった、一般人のライフサイクルに沿って、関連民事法を総ざらいします。「金融から学ぶ」のタイトルから期待できるように、契約・お金・資産の動きに関わる幅広い周辺法(電子契約法、消費者契約法、割賦販売法、利息制限法、手形・小切手法、電子記録債権法、借地借家法、不動産登記法etc)までもカバーしており、痒いところにも手が行き届いています。350ページとそこそこのボリュームがある本なのに、楽しく読んでいるうちに1日が経ってしまいました。法律の本を読んで楽しめたのは久しぶりな気がします。

著者は金融マンの間では有名なベストセラー『金融と法 -- 企業ファイナンス入門』の著者で、東大法&米コロンビア大法科大学院を修了され、興銀マンとして永らくお勤めの後、現在は立命館大学法科大学院で教鞭を執られている大垣尚司先生。ビジネスにおける法実務とその面白さを学生や入社1〜2年目の金融パーソンに理解してもらうために、いかにやさしく伝えるかという愛情のようなものを感じました。その一端が、ところどころに入る著者オリジナルの図解。民法上つまづきやすい法概念や、ビジネスパーソンでも分かりにくい金融ビジネスのスキームを、いちいち図や表に整理してくださっています。

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さらには、出版社が勁草書房ということも手伝って、すべての記述に参照条文のみならずいちいち我妻ダットサンの章・節番号へのリンクが貼られているのが地味にすごい。無味乾燥に見えるダットサンに、この本の実務面からの解説によって潤いが与えられる感じです。今の学生がダットサンを基本書としているかどうかは知りませんが笑、私もダットサンを久しぶりに取り出し、あらためてその味わい深さを再認識しました。
 
奥付を見るとまだ1刷。タイトルと表紙のカタさが災いして、書店で見かけても手に取られることは少ないだろうなと思うと、非常に残念というかもったいない気がするので紹介させていただきました。学生にも、若手法務パーソンにも、さらには一般のビジネスパーソンにもおすすめできる、きわめてわかりやすい法律書だと思います。
 

『利用規約の作り方』ご購入者向けひな形DLページを開設

 
発売からはや2ヶ月経ちました拙共著『良いウェブサービスを支える「利用規約」の作り方』、専門書にもかかわらずおかげさまでみなさまにご購入・ご好評をいただいており、版元在庫も切れ、もう少しで重版か?というところまできております。ありがとうございます。


良いウェブサービスを支える「利用規約」の作り方良いウェブサービスを支える「利用規約」の作り方 [単行本(ソフトカバー)]
著者:雨宮 美季, 片岡 玄一, 橋詰 卓司
出版:技術評論社
(2013-03-19)


発売からしばらくヒヤヒヤしていたのですが、Amazonの好意的な書評だけでなく、ご購入いただいたみなさまからブログ等で、

インターネットサービスを始めようとする人は必ず読むべきな本
ありそうでなかった「利用規約の教科書」。文章が平易で,気を付けるべき論点が幅広く示されている。
図表やコラムは、実用性が高いオリジナル資料が数多く用いられており、説明も平易です。事例は、単にこれまでネットを賑わせたからというだけでなく、今後も引き続きトラブルになりそうなものが選ばれています。そんなふうに、細部にわたって丁寧に作られているので、利用規約を作る過程で、現在のサービスが抱える問題が何であるかがすっと頭に入ってくるのです。
「何故」利用規約ないしプライバシーポリシーが必要なのかという部分から説明があるので、納得した上で、先に進むことができた
もっと早く読んどけばよかった

と言っていただけており、とてもうれしく思います。

一方で、本書に対して唯一といっていいくらいにいただいている不満、それが

惜しむべきは…利用規約、プライバシーポリシー、特定商取引法に基づく表示のひな形をデータとしてダウンロードできない

という点でした。まあ、利用規約はコピペして出来た気になってると危ないよ!と語る本書ですから、コンセプトどおりといえばそうなのですが、とはいえ、忙しいみなさんが本書を参考に利用規約を本気で作ろうという時に、ゼロから一文字一文字打って頂くのは確かに非効率です。そこで、今ごろかよ?と怒られるかもしれませんが、本書のメインコンテンツの一つである「利用規約3点セットのひな形」を、ワード形式(.doc)でダウンロードできるよう、出版社の技術評論社さまに専用ページを開設していただきました!



書籍版・PDF版、どちらのご購入者さまにもご利用いただけるよう、最新のダウンロード管理セキュリティシステム(!)を備えておりますので(冗談ですが笑、一応仕掛けがございます)、どうぞダウンロードしていただき、ご活用いただければと思います。よろしくお願いいたします。


2013.6.7追記
おかげさまで、増刷が決定しましたー!
お買い上げくださったみなさまに、重ねて御礼申し上げます。
 
 

民法改正に備えて、「契約の趣旨」を契約書に書く練習をしてみた

 
民法改正の「その後」の実務の世界を想像するにつけ、企業法務パーソンとして一番気になるのは、裁判実務よりも、とりあえず契約(書)実務で何か影響ってあるの?という点ではないでしょうか。


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この点に関して、弁護士の川井信之先生が、改正後の条文に規定される見込みの「契約の趣旨に照らして」という文言についての懸念を『ビジネス法務』やブログなどで呈されており、興味深く拝見しました。以下は先生のブログからの引用です。

債権法改正中間試案の問題点〜「当該契約の趣旨に照らして」という文言の危険性(前編)
中間試案の多くの、かつ重要な規定で使用されている「当該契約の趣旨に照らして」の語なのですが、「当該契約の趣旨に照らして」とは、具体的にどのような考慮要素に基づくものなのかについては、中間試案の「第8 債権の目的」の中で、定義が示されています。

「第8 債権の目的
 1 特定物の引渡しの場合の注意義務(民法第400条関係)
   民法第400条の規律を次のように改めるものとする。
 (1) 契約によって生じた債権につき、その内容が目的物の引渡しであるときは、債務者は、引渡しまで、[契約の性質、契約をした目的、契約締結に至る経緯その他の事情に基づき、取引通念を考慮して定まる]当該契約の趣旨に適合する方法により、その物を保存しなければならないものとする。
 (2) (略)」

 以上のように、「当該契約の趣旨に照らして」とは、上記の太字のブラケット部分にありますとおり、「契約の性質、契約をした目的、契約締結に至る経緯その他の事情に基づき、取引通念を考慮して定まる」ものとされています。

 これはすなわち、当該契約の契約書の文言だけで決定される訳ではない(文言以外の諸要素に基づいて判断されることもある)、ということを意味する訳です(この事は、3月に開催された商事法務さん主催の債権法改正中間試案の解説会で、内田貴先生が強調しておられました)。

債権法改正中間試案の問題点〜「当該契約の趣旨に照らして」という文言の危険性(後編(上))
 また、この「当該契約の趣旨に照らして」の文言は、現在の企業間の契約実務の一部で広がりつつある「完全合意条項」というものも、その効力を大きく減殺または無意義化させかねないものだと考えております。

 すなわち、当該契約書の文言だけで決しようとする完全合意条項と、契約書の文言以外のものも考慮要素とする「当該契約の趣旨に照らして」の文言は、明らかに矛盾する概念ですので、「当該契約の趣旨に照らして」の文言を含む規定が強行規定として扱われることになると、契約書に完全合意条項が含まれていても、その条項の効力が減殺・無意義化されかねないことになるからです。


私も内田貴氏のご講演や雑誌記事を拝聴している限り、この契約書の文言だけではなく「当該契約の趣旨に照らして」判断できるようにすることで今より何がどう良くなるのかについては、さっぱり納得感がありません。消費者契約法程度でも混乱が生まれているというのに、民法の大原則であったはずの当事者自治・契約自由の原則までもが、この「当該契約の趣旨」という言葉で不安定な状態にされ予測可能性が低くなるとすると、企業は困るだけなんじゃないでしょうか。被害者サイドとして、「契約書にはAと書いたが、契約の趣旨に照らしてよく考えてみるとBだった!」とか主張して助けてもらうシーンがあるのかもしれませんけど、それもなんだか間抜けな気がしますし。

こうなると企業法務パーソンみなさんが考えそうなのが、個々の契約条件とは別に、あえてはっきりと「取引通念がどうかに関係なく、本契約の趣旨はこれこれこうこうであるということで合意しました」と、契約の趣旨を構成する諸要素を契約書に明記してしまうという作戦。たとえ完全合意条項が無効化されても、契約の趣旨そのものがその言葉を使って契約書にストレートに書いてあったら、裁判所もそこに書いていないことを持ちだして「本契約の趣旨は本来こうこうこれこれである」とは言いにくくなるんじゃないかと。いやー自分だったら絶対やりますね。

なので、早速練習してみました(笑)。

第1条(本契約の趣旨)
発注者甲および受注者乙は、双方が属する業界における取引通念の如何によらず、受注者乙が発注者甲の発意と依頼に基づき生産性のみならず機密性・完全性・可用性の高いITシステムを構築することにより、発注者甲をして競合他社に比して経営効率が高い状態に到達させ、これに対し受注者乙が相当の対価を得んとすることが本契約の目的であること、本契約第**条に定めるITシステムの構築を発注することを欲し、受注者乙を含む3社による競争入札の結果受注者乙がこれを請負うこととなった経緯であること、ならびに、本契約の性質が請負契約であること、すなわち、ITシステムが第**条に定める仕様書のとおり何らの欠点または欠陥もない状態で本契約第**条に定める期日までに発注者甲に納入され検査に合格し、検査合格をもって発注者甲が第**条第1項に定める対価を同条第2項に定める期日までに支払い、その後本契約第**条第1項に定める保証期間の間に何らかの隠れた欠点または欠陥が発見された場合には同条第2項条に定める修補もしくは保証を提供し、または本契約の不履行によって発注者甲に迷惑・損害が発生した場合には受注者乙の責任においてまたは第**条に定める賠償または補償を提供すること、以上が本契約における民法第***条にいう契約の趣旨のすべてであることを確認し、第2条以下に定める委細条件に合意の上、本契約を締結する。


なんかあれですね。英文契約書の最初に置かれるWhearas Clauseが置かれるようになるってことなんでしょうかね。最近の英文契約実務ではWheras Clauseも流行らなくなってきているのに・・・。

債権法改正のせいで、契約書作りが面倒なことになりそうな気がしているのは、私だけでしょうか。
 

【本】ロースクール実務家教授による英文国際取引契約書の書き方 ― 外国判例の補足と第2巻の発売をお待ちしてます

 
予備試験制度を批判する浜辺陽一郎先生のFacebookでのご発言が法務クラスタで話題になっていたので、ふとこの本を思い出しました。


ロースクール実務家教授による英文国際取引契約書の書き方―世界に通用する契約書の分析と検討〈第1巻〉ロースクール実務家教授による英文国際取引契約書の書き方―世界に通用する契約書の分析と検討〈第1巻〉 [単行本]
著者:浜辺 陽一郎
出版:アイエルエス出版
(2012-07)


契約の世界で「ボイラープレート」と呼ばれるどんな英文契約にもでてくるお決まりの、しかし非常な重要な一般条項を中心に、各ページ上から5〜10行ほどを契約例文と対訳の例示に割き、その例文の解説を下に書くというレイアウトになっており、読みやすさに大変配慮されている本です。集められている条文のバリエーションが多いのが特徴で、私も重宝させていただいていました。

が、実はよく読むとこの本には難点があります。英文契約の実務を解説するはずの本なのにもかかわらず、そして「世界に通用する〜」とのサブタイトルが冠されているにもかかわらず、本文や脚注で紹介・引用されている判例のほとんどが、なぜか日本の判例の紹介になってしまっているのです。

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私もしばらく日本企業で働かせてもらってひしひしと感じていますが、アジアを中心に、言語やその国の制度の問題等もあって法制度について調べることすら難しい国々との取引の機会はどんどん広がっています。契約において準拠法を日本法にできるケースも多くありません。そうなると、この本が奇しくもそうなってしまっているように、そこでは日本法の知識そのものは役に立たなくなります。日本法以外が交渉や係争の土俵になったときには結局現地弁護士を起用する必要があり、ビジネスで鍛えられたリスク感知能力・論理的思考力・経験等によってサポートできる部分はあっても、“日本の法科大学院で日本法をよく学んだ日本製法務パーソン”が役に立てる部分はどうしても限られます。ビジネスの中でこうして日本法や日本の慣習が共通言語として通用しない領域が増えていくにつれ、純日本製法務パーソンの生きる道は、弁護士の方々以上に狭まっていることをひしひしと感じます(こういった環境の中で法務部門・法務パーソンはどうあるべきと考えているかについては以前述べたとおりですので、ここでは控えたいと思います)。

冒頭の浜辺先生のご発言は、法科大学院という「正規ルート」をショートカットする予備試験制度だけでなく、その合格者を重用する傾向にある企業(法務)への批判ともお見受けしました。もちろん、採用する企業側としては、司法制度改革の影響で法務パーソンの母集団の質が変わってきたことは十分感じておりありがたみすら感じていますし、この母集団の厚みによって先生が問題視されているいま企業法務を支える「法律のほとんど素人」が淘汰されるのも時間の問題でしょう。しかし企業というのは現金なもので、母集団のレベルがあがったからといって、法務の採用枠自体を広げるかというとそうはならず、優秀な母集団の中でさらに比較し一番優秀かつその企業にあった人を法務採用枠に当て込むだけなのです。ビジネスがグローバルにシフトし、かつ数少ない枠を争って優秀な母集団の中で比較をすることになると、どうしても1年でも早く弁護士になって企業法務実務の経験を持ち、あわよくば海外ロースクールへの留学の機会を与えたくなるような若手人材のほうが重用されることは、いたしかたのないことなのかなと思いますし、それを肌で感じている学生さんが「早道」を選ぼうとするのも、無理はないのかなと思いました。


本の紹介から話がそれましたが、先生におかれましては、ぜひこの本に英文契約にまつわる外国判例情報についても補足していただき、あわせて〈第1巻〉と題されたこの本の続編となるはずの〈第2巻〉も早く出版していただいて、私のような法科大学院を修了していない者も少しは賢くなれるよう、広く教育の機会を与えていただければと!
 

Amazonアフィリエイト紹介料率変更の有効性

 
Amazonがアフィリエイトプログラムの紹介料率を変更するとの連絡が本日メールで到着。しかも今回は昨年変更されたCD/TVゲーム/服といったジャンルではなく、本がその対象となっています。適用は6月1日から。2週間前通知ってことなんでしょうね。私もチリも積もればで結構な額をAmazonさんから頂いてきましたので、影響が無いといえばウソになります。


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たしかに、条件変更の可能性については、紹介料率の変更含め、かなり具体的に規約に明示されています(太字は原文ママ)。

Amazonアソシエイト・プログラム運営規約
15. 修正
甲は、本規約(および運営文書)に含まれる条件を、amazon.co.jpのサイトに変更のお知らせ、修正済み規約、または修正済み運営文書を掲載することにより、いつでも、甲の独自裁量にて修正する場合があります。修正には、例えば、アソシエイト・プログラム紹介料率表、アソシエイト・プログラム参加要件、支払手続、およびその他のプログラム要件の変更が含まれる場合があります。甲の修正に乙が同意できない場合は、乙の唯一の対応方法は本規約を解除することだけです。アマゾン・サイト上に変更のお知らせ、修正済み規約または修正済み運営文書が掲載された後も引き続きプログラムに加入していただいている場合は、乙がその修正を拘束力のあるものとして承諾したものとみなします。

契約論的には、利用規約・約款を用いた契約において、このような一方的な契約内容変更権条項・価格変更件条項が有効なのか?という論点はあります。この点、消費者契約法の以下の条文の適用の余地を検討する必要があります。

(消費者の利益を一方的に害する条項の無効)
第十条  民法 、商法 (明治三十二年法律第四十八号)その他の法律の公の秩序に関しない規定の適用による場合に比し、消費者の権利を制限し、又は消費者の義務を加重する消費者契約の条項であって、民法第一条第二項 に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するものは、無効とする。

ほらみろAmazon乙!と快哉を上げたくなる方もいらっしゃるかもしれませんが、今回の件については、特に影響があるであろうアフィリエイトを食い扶持にしているようなプロブロガーさんについては、残念ながらこれは適用されません。なぜなら、消費者契約法第2条において、

第二条  この法律において「消費者」とは、個人(事業として又は事業のために契約の当事者となる場合におけるものを除く。)をいう。

となっているから。特にアフィリエイト報酬で生計が立っちゃうようなプロブロガーさんであればなおさら「事業のために契約の当事者となる場合」にあたると考えられ、消費者ではないとされてこの法律では守られないでしょうね。


なお、実際にそうなるかどうかは微妙な情勢なので参考までに、ということでご紹介しますが、約款の変更についてはいま法務省が進めている民法(債権法)改正議論でも論点となっており、中間試案においてこのように触れられています。変更の法的有効性を検討する観点としては、参考になるかもしれません。

「民法(債権関係)の改正に関する中間試案」(平成25年2月26日決定)
4 約款の変更
約款の変更に関して次のような規律を設けるかどうかについて,引き続き検討する。
(1) 約款が前記2によって契約内容となっている場合において,次のいずれにも該当するときは,約款使用者は,当該約款を変更することにより,相手方の同意を得ることなく契約内容の変更をすることができるものとする。
ア 当該約款の内容を画一的に変更すべき合理的な必要性があること。
イ 当該約款を使用した契約が現に多数あり,その全ての相手方から契約内容の変更についての同意を得ることが著しく困難であること。
ウ 上記アの必要性に照らして,当該約款の変更の内容が合理的であり,かつ,変更の範囲及び程度が相当なものであること。
エ 当該約款の変更の内容が相手方に不利益なものである場合にあっては,その不利益の程度に応じて適切な措置が講じられていること。
(2) 上記(1)の約款の変更は,約款使用者が,当該約款を使用した契約の相手方に,約款を変更する旨及び変更後の約款の内容を合理的な方法により周知することにより,効力を生ずるものとする。

ただし、これは事業者による約款変更を認めない方向にもっていくための改正ではなく、利用規約・約款の変更は多数当事者に対して継続的に役務を提供する取引においては不可避であるため、ア〜エのような「変更が正当と認められるための4つの要件」を明らかにすることで、その法的安定性を明確にすることが目的と言われています。


さて少し脱線してしまいましたが、Amazonさんちょっと冷たいですね(泣)という感情論はあっても、現行法に則って評価すると、上述したとおりアフィリエイトというサービスの性質上消費者契約法の世界とも関係なく、対等な二者間の契約論という前提でアフィリエイト開始時に利用規約に同意し、そして2週間前というある程度の期間を置いてメールによる能動的通知がなされている以上、いやだったら契約解除して使うの辞めれば?というAmazonの言い分に反論する武器が見当たりません。もし、Amazonのアフィリエイト規約がユーザー側からの解除権を認めていなかったら(つまり一定期間アフィリエイトを続けなければいけない義務をユーザーに課していたら)、それは事業者間といえども公平に欠けるという評価もあり得ますが、ユーザーの解除権を正面から認めている点からも、この変更は有効ということになると考えます
 
きっと今回の件を受けて、「やっぱり利用規約とか約款で一方的な条件を押し付けるのはけしからん!厳しく約款を規制しろ!」と盛り上がる方がいるんだと思いますが、ユーザー側にも「利用規約を良く読んでリスクを分析・把握してからサービスを使う義務」というのもあってしかるべき、と思います。

 
良いウェブサービスを支える「利用規約」の作り方良いウェブサービスを支える「利用規約」の作り方 [単行本(ソフトカバー)]
著者:雨宮 美季・片岡玄一・橋詰卓司
出版: 技術評論社
(2013-03-19)
販売元:Amazon.co.jp

 

契約書の管理は誰が何をどこまでやるべきか

 
ビジネスロージャーナルの今月号の特集を読んで「みんなこんなにきちんと契約書管理しているのか!」と愕然とした法務パーソンも少なくないんじゃないでしょうか。私もその一人です。


BUSINESS LAW JOURNAL (ビジネスロー・ジャーナル) 2013年 06月号 [雑誌]BUSINESS LAW JOURNAL (ビジネスロー・ジャーナル) 2013年 06月号 [雑誌] [雑誌]
出版:レクシスネクシス
(2013-04-20)


企業名こそ匿名の企業が多いとはいえ、各社の契約管理システムについて、気前よくスクリーンショットまで公開されている本特集。なかなか知ることのできない貴重な資料ですので詳しくはそちらをご購読いただくとして、登場されている各社の取組みについて、文章だけ読んでいたら頭がこんがらがってきたので表にしてみました。ただし、この◯×△は記事に登場したご回答者が明確にそのようにお答えになっているわけではなく、また各社のシステムが同じ基準で比較されているわけでもなく、私が記事に出てくるコメントを読んだ印象でつけてますので、ご参考までということで。

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会社規模の大小はありますが、登場した9社のうち過半数の企業で実現している(◯が5社以上ついている)のが、
・依頼受付・進捗の管理
・締結済文書の電子保存
・契約概要の登録
の3つの機能。自分の会社はやれているという自負があるから登場されているとはいえ、私は「ここまでやってるのか…」とビビリました。私がこれまで見てきた企業では、この3つでさえ、すべてやれていた会社はなかったと思います。

契約内容までの一括管理は必要か?

しかし、本当にこういったきっちりとした“契約(書)一括管理システム”が必要なのかという点については、私自身はかなり懐疑的です。揚げ足を取るような言い方になりますが、現場で日々発生する「契約書」にならないレターアグリーメント的なメール・議事録・SLA・あげくの果てには口頭での合意などは管理しきれないですし、システム化後のOS・コンピューティング技術の変更によるコスト、組織変更の度に発生するメンテナンスコスト、入力人件費コスト等と現実的に発生するリスクを考えると、割に合わないと思うからです。特に、契約内容(契約種別や満了期日)の一括・一覧管理までをやろうと欲張ると、法務のような専門部署が内容の確認と入力作業を一手に担わなければならなくなる点、費用対効果は著しく落ちると思います。

さらにいえば、「法務が一括で管理する」という発想は、法務部門がいつまでも同じように存在するという前提があるからこそ成立するわけですが、法務部門やその機能のあり方もいつまでも一定とは限りません。他部門と合体したり、現場寄りに分散したり、究極的にはすべて現場に委譲されたり、ということも前提とすべきではと。

その点私は、記事P46−47に登場されている外資系メーカーの方の意見、
法務担当者の人数に対して企業規模が大きくなればなるほど、契約書管理は法務部門から手放し、管理の仕組みだけ作って全社に浸透させ、あとは部門ごとにやってもらうという割り切りが必要になってくるのだと思います。
に近い立場といえます。

契約書管理の最低ラインは「PDFと原本の企業名別保存」

では、企業の契約書の管理について、最低限のラインとして誰が何をどこまでやるべきでしょうか?

私見ではありますが、紛争の発生防止ないし訴訟前解決(予防&臨床法務)という契約書作成の目的に忠実に考えると、原本管理はもちろんのこと、取引がいざトラブルに発展しそうになったときに締結済契約書を素早く取り出して参照するための、署名・押印済み契約書をスキャン→PDF化して企業名別に取り出せるようにするところの仕組み化ができているかどうかがポイントと考えます。

作業としてここまで単純なものに絞ると、“誰が”実行すべきかという点については、必ずしも法務である必要はなくなります。押印・署名手続きを所管する部門を明確にし(社内規程等で明確にしているのであれば現場でもOK)、押印・署名したらすぐにそのままPDF化して企業名別に保存、原本は訴訟時に取り出せるよう倉庫等で保管を徹底することが、リスクマネジメント上重要になると思います。ところで、多くの企業では、総務や法務部門に押印・署名手続を寄せている例を多く見かけますが、本来押印・署名はその契約締結意思と権限がある人が行う、というのが法律上の原則にもかかわらず、特に押印作業は本人でなくても行えてしまうこともあって、末端の平社員にまかせてしまっている企業も少なくありません。ここに、決して小さな問題とはいえない、リスクマネジメントのポイントと実務的な悩みどころが集約されているように思われます。

それで思い出したのですが、ある外国企業との契約で、契約書の相手方サイン欄のちょっと下に、サインとは別にLegal Departmentの黒い確認ゴム印(縦2×横3センチぐらいの、入国管理局がパスポートに押すスタンプのようなもの)が押してあるのを見かけたことがあります。どうやら、このゴム印を押したものが法務確認済みのファイナル版で、それをみて最終サイナーがサインをし、そのサイン済み文書を法務部門が回収して電子化しているようでした。この例のように、必ずしも大掛かりなシステムを組んだりしなくても、契約手続きのクリティカルなポイントを捉えてちょっとした工夫を施すことで、法的リスクの低減が図れるんじゃなかなと思います。
 

日経BP ITProに利用規約イベント関連の取材記事掲載

 
1月に開催した利用規約ナイトVol.2と、2週間前に開催したシード・アーリースタートアップ向けセミナーの2つのイベントを取材してくださった日経BP大豆生田(おおまみゅうだ)記者が、力のこもった取材記事を今週のITProの“週末スペシャル”として掲載してくださいました。ありがとうございます!

スタートアップ向け『利用規約セミナー』に集まる大手企業法務担当者(日経BP ITPro)
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 ITを使ったサービスは、社会に認められて初めて市場を開拓できる。企業法務は、ITを社会に適合させてビジネスを展開させていくのが役割だ。そこには、ITと企業法務の双方の知恵が欠かせない。とはいえ実際には両方に詳しい人材は少ない。2つのセミナーは、双方の融合を図るための、長い道のりへの一里塚のように思えた。(中略)

 1月と4月に開かれたセミナーの主催者はそれぞれ異なるものの、利用規約を「サービスの一部」として活用しようという趣向は同じだった。
 両セミナーの登壇者の中心となったのは、「良いウェブサービスを支える『利用規約』の作り方」(技術評論社刊)の共著者で、ベンチャーでの法務経験をもとにした企業法務のブログで知られる橋詰卓司氏や片岡玄一氏のほか、ベンチャーの法務を手掛ける弁護士らだ。
 法制度や規則をテーマにした企業向けセミナーといえば堅苦しい雰囲気になりがちだが、両セミナーとも利用規約をめぐってどんなやりとりを経験したか、軽妙な語りで披露。真剣にメモを取る参加者も目立った。

こういった活動を通じ、ビジネスを推進する立場の方と法務パーソン双方の具体的な経験から抽出された知識・ノウハウの交換が進んだり、標準化出来る部分が標準化されることによって、ビジネスの生産性向上に貢献できればいいなと思ってやってきましたが、本を出版したことで自分が喋って伝える必要もなくなりましたし、いったんの区切りがついたかなというところです。なので、今後はあまりこういう機会には顔を出さなくなると思います。

そろそろチャンネルを切り替えて、今年の残り期間〜来年いっぱいぐらいにかけては、自分の業務にもっとダイレクトに関わる法律分野の研究やツールの開発といったところにシフトし、その成果物をもって自分の所属組織や業界の発展のお役に立てるよう取り組んでいきたいと思っています。 
 

「約款が法律で規制されるらしいよ」と聞いて民法改正をはじめて知る人は少なくない、という事実が物語るもの

 
このへんの記事をきっかけに、法務パーソンではない友人・知人数人から民法改正について尋ねられるという経験をしました。

時代遅れの約款に法務省がテコ入れ?(スラッシュドット・ジャパン)
アプリケーションなどの利用など、必ず読まされることの多い「約款」。記載されている内容は重要だが、ほとんどの人は読み飛ばして Yes を選択していることが多い。この約款をめぐるトラブルが頻繁に発生していることから、法務省は関連する民法を見直す動きを見せているらしい (MONEYzine の記事より) 。

法務パーソンからすれば、「何をいまさらそんな話をしているの?」「べつに約款をめぐるトラブルが頻繁に発生しているから民法改正するわけじゃないよね・・・」と苦笑されるかもしれません。しかし、実際はそういった民法改正を知ってる人のほうが少ないのであって、日常生活の中で“契約”を意識するのはウェブで「利用規約に同意」ボタンを押すときぐらいの一般市民感覚からすれば、そういった日常生活にも影響や変化を及ぼす法改正があるんだよって言われてはじめて、「あ、なんか自分たちにも関係ある話なんだ!」と思えるということなんですよね。関係者のみなさんは「3年前からきっちり議論してました」とおっしゃいますが、普段法律を意識せずに生活できる一般人には、その改正の方向性や内容はおろか、民法が改正されようとしているということすらまだぜーんぜん広まっていないんだということは、特に法改正を強力に推進されようとしている内田貴氏やその他関係者のみなさまにはぜひご理解いただきたいところです。

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「国民が民法を読んで分かるようになるのは無理」というびっくり発言by内田貴氏もあったよみうりホール3/16講演会にて撮影


ちなみに、その約款に関して、民法改正で何がどう変わろうとしているのかを正確にお知りになりたい方は、今まさに法務省が国民に広く意見を求めるためのパブリックコメントの手続中で、そこに資料としてアップロードされている「民法(債権関係)の改正に関する中間試案の補足説明(PDF)」のP377ー390に記載されています。簡単にまとめると、
1 規制対象となる「約款」とは何かがはじめて定義される
2 約款が利用者との契約条件として有効に組み入れられるための要件が明確化される
3 約款の中で利用者が予想もしないような条項(不意打ち条項)は無効とされる
4 合理的な周知・通知がなされれれば、事業者が途中で約款を変更しても有効とされる
5 約款の中に不当な条項があった場合は無効とされる
の5点。1と2はこれまで不明確だった点の明文化、3と5は利用者保護のための、4については事業者にとっての約款の法的安定性を担保するための改正、といったところ。


冒頭紹介の記事にあるように「約款をめぐるトラブルが頻繁に発生している」のは事実だと思います。でもそれは、法律が約款について規律していないことが原因なのではなくて、たんに約款が必要になるような一対多サービスを利用する人の絶対数が多いから、ということなのではと。そもそも、「約款とは何か」「有効な約款・無効な約款とは」を一生懸命法律に書き込んだところで、(契約時に目の前に掲示される約款・利用規約すら読まない)一般の方が果たしてその法律を読むのでしょうか?法律で規律されるとトラブルが減るんでしょうか?結局のところ、約款・利用規約を事業者が読みやすくわかりやすくする工夫をしたり、契約行為に対するリスク認識を利用者の努力で向上させるなどして、お互いが真の合意形成をする習慣を身につけなければ、何の解決にもならないのではないのではないかと、私は考えます。
 
ということで、こちらをもって私からのパブリックコメントに代えさせていただきたいと思います。
 

「シード・アーリースタートアップのためのウェブサービスを支える『利用規約』の基本」に登壇して来ました

 
昨日の予告どおり、標記イベントに登壇して参りました。イベント名とは関係のない法務関係者がたくさん集まったということもあり、かなり実務の人向けの、濃いイベントになったと思います。

雨宮美季先生による、とっても整理された「利用規約」+ウェブサービスの法規制あれこれの講演に、
技術評論社の傳さんをモデレータ、ベンチャーキャピタリストの伊藤健吾さん・「企業法務について」の片岡さん・私の3人がパネルに加わっての、パネルディスカッション的コーナー
を足しての合計2時間半。

雨宮先生のお話はいつも圧倒的な網羅性があり、聞いた後に安心感が得られるのが特徴だと思っているのですが、今回はそれに加えて今法務の人が気になっているテーマ、たとえばCtoC型ウェブサービスの課題や免責条項の限界の具体例などについてくわしめの言及があり、それでいてコンパクトに整理されていていつもに増して洗練された感じがしました。もしかしたら「利用規約の作り方」本よりも分かりやすいのでは?と思うほどの内容。ここだけで10,000円分ぐらいの価値があったと思います。

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パネルは、事前質問と会場との質疑応答をベースに、参加者の半分を占めていたであろう法務担当者からの具体的なご質問や実務上のお悩みポイント、たとえば、
「入れておくべきおすすめの禁止事項の項目は?」
「メッセージ送信機能をつけた場合、監視は義務なのか?ベンチャーでもやらなければならないのか?」
「利用規約・プライバシーポリシーはサービス毎に分けるべきか、一本化するべきか?」
「写真は個人情報としてプライバシーポリシーに列挙すべきか?」
「良く出来ている参考にすべき利用規約のトップ3はどこの会社の利用規約か?」
などなどに対し、日本で一二を争う(笑)利用規約ウォッチャーの片岡さんと私とが、世の中の事例を紹介していくということで、自分たちで言うのもなんですがかなり参考にしていただける部分もあったのでは、と思います。

dtkさんはややさんも早速ブログに書いてくださっているようです(謝)。
ご参加の皆様、夜遅くまでお付き合いいただきまして、ありがとうございました!
 

「利用規約の作り方」勉強会 4/10(水)19:30ー 開催します

 
良いウェブサービスを支える「利用規約」の作り方 』ご好評につき、こんなイベントの開催が決定しました!


シード・アーリースタートアップのためのウェブサービスを支える「利用規約」の基本

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もともと雨宮先生をはじめ Skyland Ventures関係者のみなさんがスタートアップの経営者向けに開催していたセミナーシリーズの枠をお借りして、共著者3名揃い踏みでのお届け。

内容としては、
前半:雨宮先生による、スタートアップがツマヅキがちな法規制と利用規約のポイント解説
後半:MOVIDA JAPANの伊藤健吾さん+共著者3名による、参加者からの事前質問をベースにしたパネルディスカッション

の二部構成。

私達共著者3名が持っていて、スタートアップ期の経営者・技術者のみなさんが持っていないものがあるとするならば、それは「法的なトラブルによるツマヅキの経験量」だと思います。
もっとも、そんなものの経験量を積んだからといって、スタートアップの成功確率が高まるわけではありません。しかし、そのツマヅキの経験が事前に共有されることによって、構え・受け身がとれるようになり、それによって不安が解消され、安心して本業に集中できるという効果はあるはず。柔道・剣道をはじめとする武道の稽古において、初心者にはまず受け身や構えの練習をひたすら行わせ、怪我や痛みの不安から解放するところからはじめるのにも似ています。


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『利用規約の作り方』も、まさにそんなコンセプトで書いた本ですが、その本のポイントをさらにコンパクトに2時間弱で学べると考えると、投資時間対効果はかなりいいのではないかと思います。

事前質問も受け付ける予定です。私自身も、最新のウェブサービスを立ち上げている(ようとしている)みなさんからのご質問・意見交換を通して、私もまだ気づけていないような利用規約に関するあらたな課題・テーマに出会えるのではないかと、楽しみにしています。

ご参加、お待ちしております。
 

サイン(署名)のデザイン

 
所属会社の偉い方が『利用規約の作り方』を何冊も自腹で購入してくださって、ついでに冗談半分で「サインください」とご依頼いただいた(笑)という経緯もありまして、これを機に自分のサイン(署名)をきちんと作ってみようと、署名ドットコムさんにデザインをお願いしてみました。

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読みやすさ優先/デザイン優先/書きやすさ優先といろんなパターンからタイプを選択できるのですが、今回は読みやすさ優先タイプで発注。私の名前は画数が多いのでどうなることやら…と心配していたものの、7筆でかけ、しかもちゃんと読めるものとして仕上がってきました。ヨコに一本ビッと入ったアーチ上の線が、橋(bridge)をイメージさせてくれるようです。いくつかの業者さんを比較検討してみましたが、書き方の指導書・練習用資料もついて1デザイン当たり5,000円というのは、お値打ち感あるサービスだなと思いました。

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法務として相談を受けていると、たまに「へーそうなんですか!」と驚かれる方がいらっしゃるのですが、欧米ではもちろんのこと、記名押印が主流のここ日本においても、サイン(署名)にはきちんと法律上・契約上の効力が認められています。いや、むしろ条文上は
商法 第32条
この法律の規定により署名すべき場合には、記名押印をもって、署名に代えることができる。
と、署名の代わりとして印鑑を押すのでもいいよと、つまり署名のほうがむしろ真正なものという扱いになっています。

銀行相手の取引などでは、契約締結権限の真正性の確認や裁判上の証明の容易さ等を理由に、印鑑登録を受けた実印を押さないと契約をしてくれないという事務慣行もあり、国内ではまだまだ印章文化はなくなりそうもありません。しかし、海外の事業者・パートナーとの契約書を締結する機会が今後増えてくると、むしろ格好良いサインがサラサラと書けるかということがビジネスパーソンとしての経験値のバロメータとしても見られるでしょうから、そろそろ自分のサインの一つぐらいはもっていてもいいかもしれませんね。
 

「利用規約の作り方」の本を出版します

 
校了したばかりの原稿の束を前に、放心状態のはっしーです。


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自分自身がずっと欲しかった「利用規約の作り方」をまとめてくれる本。なぜだかいつまで経っても出ないので、著者の一人として、技術評論社さんから出版させていただくことになりました。
本の制作にご助力いただいた関係者はもちろん、出版に理解をくださった会社の上司・同僚、必要な知恵を惜しみなく授けてくれる友人、そばで支えてくれている妻、みなさんに感謝です。



良いウェブサービスを支える「利用規約」の作り方良いウェブサービスを支える「利用規約」の作り方 [単行本(ソフトカバー)]
著者:雨宮 美季・片岡玄一・橋詰卓司
出版: 技術評論社
(2013-03-19)
販売元:Amazon.co.jp


書いてみて、やはりというべきでしょうか、思っていたほど簡単ではなかったです。そりゃ誰も出さないわけだと思いました(笑)。

ユーザー投稿の著作権処理、免責文言の注意点、プライバシー情報の取り扱い・・・「法務パーソンとして書きたいネタ・興味深いネタ」はたくさんあっても、そんな法務マニアなネタだけでは誰の役にもたたない自己満足な本になってしまいます。「ウェブサービスを作って今まさに世に出そうとしているエンジニアやベンチャー経営者の目線で、本当に必要かつ役に立つ情報」だけに削ぎ落とし、法務と現場実務の間をうまく言葉に紡いで、一冊の本として読みやすくわかりやすくまとめるための我慢と根気の作業。昨年の初夏にお話を頂いてから半年超、編集を務めて下さった技術評論社の傳智之さんを中心に何度となく議論を重ね、本全体の構成を変えるという禁断のちゃぶ台返しをしては全員で書き直すという工程を3回ほど繰り返し、これなら本当にウェブサービスの作り手のみなさんのお役に立てる本だと思えるレベルに、やっとなりました。

技術評論社さんの本書紹介サイトにも掲載されている「はじめに」より。

良いウェブサービスを支える「利用規約」の作り方(技術評論社)
弁護士に依頼したり法務担当者を採用することにあまり積極的でないベンチャー・中小企業などでは,しばしば,先行する類似ウェブサービスの利用規約を,その意味も理解しようとせずに,そのまま文言だけパクってリリースしてしまうという光景をよく目にします。
その結果,せっかくリリースしたサービスが,利用規約の内容が不適切であったり,トラブルをスムーズに解決できなかったために,継続できなくなってしまうことも実際に少なからず起こってしまっています。そのような悲劇は,きっとこれからも繰り返されてしまうことでしょう。これはあまりにもったいないことです。

私たちは,このような状況を打破する第一歩として「この1冊を読めば,利用規約について検討すべきことがひと通りわかる」,そんなエンジニアや経営者のためのガイドブックを作りたいと考え,本書を書きました。
本書を手に取った方が作り上げたウェブサービスやアプリが無事リリースされ,成長し,そして多くの人に愛される。
そんなストーリーを,本書を通じて少しでもお手伝いすることができたとしたら,私たちにとってこれ以上の喜びはありません。

著者3人の思いはこれに尽きます。これから日本発の“良いウェブサービス”を作ろうというエンジニアやベンチャー・中小企業経営者のお役に立ちたい。だからこそ、経産省の「準則」をベースにウェブ上での契約の考え方を法律語をなるべく使わずわかりやすく説明することを追求しながらも、スマートフォンプライバシーイニシアティブも踏まえたちょっと先の課題も(先取りし過ぎない程度に)盛り込み、加えて、日本の利用規約・プライバシーポリシーの“標準化”を目指したひな形を全文公開し逐条解説するという野心的な試みにもチャレンジし、さらには、出版社さんにスケジュール・予算の無理をお願いして急遽その英訳版(日英ネイティブの弁護士が監訳!)までを付録として付けてしまうという企画も実現しました。

弁護士として名だたるITベンチャーの利用規約作りをリアルにサポートし続けている雨宮美季さんと、
IT企業の法務ひとすじで「中の人」としての苦労を重ねてきた片岡玄一さんと、
ウェブサービスと利用規約が大好きで、今日現在もそれにまみれている私。
藤川真一さん猪木俊宏先生主催の利用規約ナイトVol.1&Vol.2をきっかけに融合したこの3人が、現時点でもてるベストを尽くしたこの本。

身近にウェブサービスを立ち上げようとしている、立ち上げたが利用規約を中心とした法務的な面がよくわからなくて不安を感じているご友人・知人がいらっしゃれば、是非この本をご紹介いただければ幸いです。
 
3月19日発売、現在Amazonにて予約受付中です。
 

【本】ソフトウェア取引の法律相談 ― しばらくはこれを座右の書にします

 
本書は、ソフトウェアを題材としつつも、あらゆるビジネスにおいて必要な「契約」一般についての解説本になることも意識して執筆した。従って、ソフトウェアに限らず、有形・無形のあらゆる「財」の開発・取引に関する契約に応用可能な本を目指した。

正直、はしがきにあるこの水戸先生のご挨拶を見て、「青林書院の『法律相談』シリーズってQ&A形式で各論を学ぶ本ですし、この体裁でそんな本を目指すのまちがってますしwww」とツッコミを入れながら軽い気持ちで読み始めたんですが、読み終わった後にTMI総合法律事務所にお詫びに伺おうかと思うほど品質の高い本でした。その宣言どおり、ソフトウェア開発に限らず契約分野においてこのIT時代に必要とされる民・商・知財法の基礎を美しく整理したうえで、アジャイル・クラウド・OSS等といった要素を含む現代的ソフトウェア開発契約を締結するための応用までを丁寧に&完璧に整理しまとめています。今後数年は私の座右の書となること間違いなしの本です。


ソフトウェア取引の法律相談 (新・青林法律相談)ソフトウェア取引の法律相談 (新・青林法律相談)
販売元:青林書院
(2013-01)
販売元:Amazon.co.jp

 
たとえば、ソフトウェア開発契約における瑕疵担保責任・契約不履行・損害賠償責任といった民法の教科書的な基礎部分について、実務書を標榜する本に限って「まあこのへんはみなさんご存知だと思いますし、厳密な法律論は必要に応じて概説書とか注釈民法読んでもらえればいいと思いますけど」でごまかされたり済まされてしまうものがよくありますが、この本では、
  • ソフトウェアの瑕疵とはそもそもどのように定義されるものなのか
  • バグ・システムエラー・セキュリティホール・ウイルス等は瑕疵にあたるのか
  • 履行遅滞/不完全履行/履行不能に分けて、具体的には何がどこまで相手方に請求できるのか
  • 損害賠償の額の算定、そしてその立証において何が求められるのか
  • 損害賠償の上限設定や違約金(損害賠償の予定)の規定には法的な限界はないのか
といった、法務パーソンであれば何らか検討したり疑問に感じたことがあるはずのテーマについて、それぞれ5〜10ページを費やし、条文や裁判例もしっかり引きながら、話がぶつ切りになりがちなQ&A形式の欠点を補うべく前後の流れ・つながりにも相当配慮して、検討をしてくれています。

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さらに、応用部分として、
  • アジャイル開発契約を個別の準委任契約に分解された契約の総体と捉えて契約する場合、具体的にはどのような基準・部分で契約を分割し結合すべきか
  • モジュール/ルーチンの権利留保条項を設けるのはいいとして、実際のところ留保の主張・防御に無理・限界はないのか
  • OSS(オープンソースソフトウェア)を取り込んで新しいソフトウェアを開発する際に、どのような点に注意して権利処理すべきか
あたりの、突き詰めて考えたくても自分一人では確信を持てる答えに到達できる気がしないために、あまり深く考えすぎないようにしていた(笑)テーマについても、相当のページ数を割いて論点整理を加えてくれているところには、ちょっとした感動を覚えました。特にOSSについて日本語でまとまったかたちで読める書籍としては『ソフトウェアライセンスの基礎知識』ぐらいしかなかったので、とても有り難いです。


なお、当ブログで過去ご紹介したソフトウェア契約関連の書籍の中での想定読者レベル感としては、
 入門 『ITエンジニアのための契約入門
 初級 『ソフトウェア取引の契約ハンドブック
 中級 『ユーザを成功に導くシステム開発契約
よりもちょっと上の、ある程度の法律知識とこの分野の経験・問題意識を持っていることを前提とした中〜上級者向けの本になっている点は、ご購入の際にご留意頂いたほうがいいかもしれません。

青林書院のこのシリーズはいくつか購入しているものの、値段が高いわりにハズレも少なくなく、ぶっちゃけあまりいい印象を持っていませんでした(本ブログでおすすめしたことがあるのは『知財ライセンス契約の法律相談』ぐらい)。Google+で私が運営しているコミュニティで伊藤雅浩先生からこの本の存在をご紹介いただかなければ、ほぼ間違いなく購入しなかったと思います。どうもありがとうございました。
 

【本】英文契約書の書き方/読み方 ― あの『大辞典』のベストセレクションがお求めやすく

 
元三井物産法務部の山本孝夫先生が書かれた『英文ビジネス契約書大辞典』は、日本で市販されている英文契約例文集としてはボリューム・バリエーションが最も豊富な一冊として愛用されている方もきっと多いことと思います。しかし、2万円弱のお値段、デカすぎ&分厚すぎる装丁(箱入り大型本P768)、そうこうしているうちにすでにAmazon等でも入手困難となった(日経出版の直販サイトでは入手可能?謎)こともあり、手が出ずじまいの方も多かったのではないかと。

そんな方におすすめなのが、本日ご紹介する2冊です。

英文契約書の書き方 (日経文庫)英文契約書の書き方 (日経文庫)
著者:山本 孝夫
販売元:日本経済新聞社
(2006-05)
販売元:Amazon.co.jp

英文契約書の読み方 (日経文庫)英文契約書の読み方 (日経文庫)
著者:山本 孝夫
販売元:日本経済新聞社
(2006-06)
販売元:Amazon.co.jp


この2冊、私も今回買ってみて分かったのですが、あの『英文ビジネス契約書大辞典』の中からおいしいところ・よく使われる表現だけを収録した“山本孝夫例文集ベストセレクション”なんですね。
  • 1993年『書き方』初版発売
  • 2000年『大辞典』発売
  • 2006年『書き方』(第2版)と『読み方』の2冊が同時発売
という経緯を辿っていることからもそんな予感はなんとなくしていたんですが、この本の中にも日経出版のサイトにもそうとは書いていませんでした。念のため、収録されている例文と解説を比較してみたところ、「だ・である」調が「です・ます」調に変更となったり、例文中にでてくる企業名が変更になっていたり、大辞典の誤植がさり気なく訂正されていたり(『大辞典』例文234にでてくるnon-exclusive, transferable rightという理論上ありえるものの実務ではそうそうお目にかからないライセンスが、そのコピーである『読み方』例文97ではnon-exclusive, non-transferable rightにちゃんと直されている等)する以外は、ほぼ内容は変わらず。冒頭述べたように、『大辞典』の購入に踏み切れずに二の足を踏んでいる方って結構いらっしゃるので、そうならそうとはっきり案内をしたほうが、売れるのではないでしょうかねー。

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『書き方』『読み方』というタイトルも、おそらく出版社が便宜上つけただけのもので、2冊そろえることに意味がある構成になっており、これらはセットで買うのが正解です。元が一冊の本から生まれているわけなので当たり前ですよね。百歩譲ってどちらか一冊だけ試しに購入するとしたら、『書き方』の方でしょうか。『読み方』の方は、『書き方』に収められなかったリーガルジャーゴン(法律専門用語)の解説にライセンス契約の例文ばかりが収録されているという特殊な編成になっているためです。

以上、なんだか先に『大辞典』を買ってしまった人の愚痴のように聞こえるかもしれませんが、実際あの本を持ち歩くのは困難で、私も仕方なく『大辞典』は自炊代行でPDFファイルにした上でiPadに入れて持ち歩いているものの、定番の例文を見るだけならあの例文量の中から探すよりこっちの方が早いですし、軽いですし、最近はこれを手元に置いて便利に使わせていただいてます。そして何よりコストパフォーマンスの良さ。547例文が詰まって18,900円(税別)の『大辞典』と全く同じクオリティの例文が『書き方』101/『読み方』158のあわせて259例文で1,720円(税別)。一例文あたりの単価比較で1/5以下なわけですから、どう考えてもこっちの方がお得ですね。
 

利用規約ナイトVol.2にモデレータとして登壇してきました

 
昨晩19:30より、日本の利用規約の総本山mixiさまセミナールームにて、えふしんさん主催の利用規約ナイトVol.2が開催されました。2012年3月のVol.1でパネリストを務めさせていただいたご縁もあり、Vol.2ではモデレータとして登壇。あれ、モデレータって登壇っていうのかな?ちょっと違うかもしれませんが、とにかく、運営側のひとりとして参加させていただきました。

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前半は、弁護士の水野佑先生が利用規約全般の法務イシュー、そして企業法務代表としてブログ「企業法務について」の片岡玄一さんがふんだんな実例を紹介しながらサービス運営者(企業)目線で大切にすべき利用規約の作り方、最後にEvernote日本代表の井上健さんがベンチャー経営者&投資家&米国の目線から捉えた利用規約のあるべき姿を語っていただきました。別にもともとそういうコンセプトがあったわけではないのですが、
  • 弁護士が、利用規約の「セオリー」を、
  • 企業法務担当者が、利用規約の「現実」を、
  • 投資家&経営者が、より高みから利用規約の「目指すべきレベル」を
お話いただくという絶妙なバランスになっていて、特に片岡さんと井上さんには私のほうからこのイベントにお誘いした経緯もあり、このお三方が登壇してくださったのは本当に良かったなーと。そして法務パーソンの目線では、やはり片岡さんのプレゼンが一番響いたんじゃないでしょうか。どうしてもユーザー目線で理想論を語る人は多いが実践は伴わない利用規約作りの悩み・現実について、あえて事業者目線に振って、こんなイベントだからこそ伝えられる事業者のホンネとテクニックの一番のキモを整理してくださったと思います。私自身もウンウン激しくうなづくとともに、普段うっすら思ってはいたけれどはっきりとは自覚(言語化)できていないノウハウをあらためて会得できたような、そんな素晴らしい内容でした。


後半は私の仕切りのパート。私の役割は、パネリストとして富士山マガジンサービスCTOのアントニオ神谷さん、弁護士の猪木先生も加わった錚々たるパネリストと、会場に集まったプロなみなさま(エンジニア半分、企業法務&弁護士半分の総勢70余名)が持っている“利用規約ネタの引き出し“をいかにオープンに・ガンガン開けていくかというところでした。質問タイムに入って会場が少し温まりだしたかな?というあたりで懇親会の時間を迎えてしまった感はありましたが、ウェブサービスの国際化と準拠法の定め方の話、EUクッキー法に見られる同意取得の厳格化など、今のトレンドを踏まえた意見交換が少しはできたのかなと思います。


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21:30過ぎから始まった懇親会では、このブログをいつもご覧頂いているという法務関係者の方だけで20名(!)ぐらいの皆様とご挨拶することができました。「はっしーさんのブログは困ったときにはいつもカテゴリから検索して参考にしています」「やはり普通では見つからない本の紹介がありがたい」「債権法改正についてご意見を・・・(←私に聞いてもしょうがないようなw)」などお声かけをいただき、「間違ってても責任取れないんで話半分でお願いしますm(_ _)m」などとお詫びしながら、たまにこういうリアルイベントに出て読者の方と直接お話しができるとやはりブログをやっているものとして大変励みになるなあと。ご参加だけでなくそんなお声がけまでいただいて、昨日お会いできた読者の皆様に改めて御礼申し上げます。


その後の事務局打ち上げでは、私が一昨日に書いたエントリがやり玉にあげられつつ(苦笑)、そんな著作権がどうのこうのなどというけちくさいことを主張するのではなくて、アメリカでも見られているようにウェブサービス事業者同士で利用規約条項の標準化を堂々と目指していくべきではという話も出ていて、そんな方向でこのイベントがさらに成長していくのかな?なんていう気配も感じました。加えて私個人の話で言えば、この利用規約ナイトのVol.1でジョイントした雨宮先生とのご縁があたたまり、利用規約マニアブロガー(笑)ということで先生と出版社の方からお誘いをいただいて、昨日も登壇された片岡さんと3人で利用規約に関する書籍を共著で出版するご縁にも恵まれつつあったりします(今春発売に向けて現在鋭意執筆中)。

ビジネス上はもちろんのこと、このブログ含めたプライベートでも利用規約まみれになってきましたが、望むところですのでやれるところまでやって、これからもどこかで見て下さるどなたかのために貢献できればと思っています。
 

やっぱりウェブサービスの利用規約を安易にパクるのはまずいと思います

 
利用規約ナイトVol.2を明日に控えて、利用規約に関するあるあるネタを1つ。

ウェブサービスの利用規約を作るときって、類似のサービスの利用規約を参考にするか、インスパイヤ(のまネコ懐)されるか、おもいっきりパクるかしてますよね?ね?

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もし契約書や利用規約のような法律文書に著作権がみとめられるとすると、パクったら著作権侵害になるわけですが、この契約書・利用規約のパクリは許されるのか?という議論については、地裁判決にもかかわらず有名な土地売買契約書事件(東京地裁昭和62年5月14日判決)の以下判決文がよく引き合いにだされて、「パクったって大丈夫だよ!」と一般的に説明されていたりします。

著作権の対象となる著作物は思想又は感情を表現したものでなければならないが、本件文書は原告らの希望する契約条件ないし意思を被告会社に伝達するための文書にすぎないから、著作物には該当しない。
本件文書の記載内容は、「思想又は感情を創作的に表現したもの」であるとはいえないから、著作物ということはできない。


しかし、昨今流行りつつある、サービスの特徴をスクリーンショット等も用いながら豊かな表現で書いているような手の込んだ利用規約を安易にパクるとちょっと危ないかも、と思わせる裁判例もあるのです。それが駒沢公園行政書士事務所日記さんで昨年ご紹介されていた、火災保険改定説明書面事件(東京地裁平成23年12月22日判決)

以上で述べたような本件説明書面の構成やデザインは,本件改定の内容を説明するための表現方法として様々な可能性があり得る中で(甲3ないし5,弁論の全趣旨),本件説明書面の作成者が,本件改定の内容を分かりやすく説明するという観点から特定の選択を行い,その選択に従った表現を行ったものといえるのであり,これらを総合した成果物である本件説明書面の中に作成者の個性が表現されているものと認めることができる。
以上によれば,本件説明書面は,作成者の思想又は感情を創作的に表現したものであって,著作権法2条1項1号の著作物に当たるものといえる。
 本件説明書面の著作権の使用料相当額について検討するに,本件説明書面は,原告の第一営業部長の地位にあったY1が,相応の労力と時間をかけて作成したものであり,その内容には,本件改定を分かりやすく説明するための工夫が見られること,また,被告による複製行為は,本件説明書面をほぼそのまま複写するというものであり,その複製及び頒布の部数も345件の多数にのぼっていること,被告は,本件説明書面の複製物を,自己の営業目的に利用しており,これによって,説明書面作成の手間を省くなど,相応の営業上の利益を得ているものといえることなど,本件に現れた諸般の事情を総合考慮すると,上記使用料相当額は,15万円と認めるのが相当である。

かいつまんで状況を説明すると、原告である損保代理店が作ったお客さま向け保険契約説明書面を、代理店契約が解除となった後にAIU保険がコピーし、しかもその原告の代理店の元お客さまを含む300件超もの保険勧誘に使ったというもの。代理店が顧客開拓のために苦労して作ったものなのだから、それをパクって利益を得たなら15万円の使用料を払え、という判決が下されたというわけです。説明書面の実物が見てみたい方は、裁判所サイト上のPDFでご覧いただけます。

契約書や利用規約そのものの著作物性について争ったわけではないですが、この判決文の理屈でいうと、GoogleやFacebookが率先してすすめているような、手の込んだデザイン・レイアウト・分かりやすさを追求した表現を備えた利用規約の中には、著作物性が認められるものもでてくるでしょう。ウェブサービスは似たものも多い中、利用規約をゼロから作るとなると弁護士に相談したりと時間もコストがかかるからと、その似ているサービスの利用規約をパクってすませているケースも結構ありそうです(というか、よく見かけます…)。しかもウェブサービスの場合、300件などという数ではすまないでしょうから、そこそこの使用料を払わされることになるかもしれません。


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著作権に関する文献の中にも、まさにこのような契約書の著作物性について丁寧に言及している本があります。以前もご紹介したのですが、北村行夫・雪丸真吾編『Q&A引用・転載の実務と著作権法』26-27頁(中央経済社,2005)がそれ。


Q&A 引用・転載の実務と著作権法Q&A 引用・転載の実務と著作権法
販売元:中央経済社
(2010-11)
販売元:Amazon.co.jp

Q 契約書は、著作物ですか?
A 契約書によります。
 契約書は、合致した両当事者の意思表示を表現したものですから、「思想の表現」です。ただ、その表現が創作的かどうかという点は、契約書によりけりと言うほかありません。
 もし契約書が、民法に定める典型契約で、しかも当該契約の要件部分や債務不履行に関する民法の規定を反映したものに過ぎないものであれば、その表現には創作性はないので著作物とは言えません。
しかし、特殊な法律関係を形成する条項で、そのことを明確にするために表現上工夫を要した場合には創作性ある著作物となる余地があります

そういえば最近、「自社サービスに対する不満を流布する行為」を禁止行為の一つとして列挙した利用規約が話題になっていますが、これなんかは、他社の利用規約には見られない斬新さをもった特殊な法律関係を形成する利用規約として、著作物性を備えていると言えるかもしれませんね(棒読み)。
 

【本】英文契約書のための和英用語用例辞典 ― 英文契約書作成は日本の法務パーソンの永遠の課題(その2)

 
さて、先日のエントリの続き。

日本語の契約を英文契約に翻訳する際など、オリジナルな英作文をする際にはなくてはならない“用語集(glossaries)”。この分野では、先日のBLJのブックガイド2013で紹介されていた原秋彦先生の『使いこなしたいビジネス法務英文グロッサリー』や、弊ブログはじめ数々の法務ブログで推薦されている『英文契約書ドラフティングハンドブック』などがあります。これらの本はきっとこれからも定番であり続けると思いますしコンパクト・シンプルで使いやすい本なのですが、反面バリエーションがないという欠点がありました。また辞典としては定番な『ローダス21 最新法律英語辞典』も、英和がメイン。日本語から検索した際に、対応する単語・熟語・連語が一覧できる辞典があったら…、そんなニーズに答えてくれる用語集がこれ。
 

英文契約書のための和英用語用例辞典英文契約書のための和英用語用例辞典
著者:野副靖人
販売元:中央経済社
(2012-06-07)
販売元:Amazon.co.jp


私自身、企業の中で英文契約書を訳したり作成したりしてきましたが、その際に苦労したのは日本語の契約条文を英文に翻訳する際に使いやすい適切な参考書や辞書が乏しく、日本語の契約条文をどのように英語で表現するかに関して大変苦労しました。
本書は、日本語の契約条文を英文に翻訳する際に役に立つようにと考えて作成したものです。

このコメント通り、東京銀行(現三菱東京UFJ)の法務担当者であった著者自身が冒頭に書いたような苦労を解決するツールとして書きためていた虎の巻をそのまま出版しちゃいました、という感じの本。しかも、単なる「用語集」ではなく「用語用例辞典」とあるように、一つの日本語見出しに対して、
・用語=単語・熟語・連語
・用例=契約文例
がセットになっているのが特徴。実際に業務で使ってみると、用語からたどっているにもかかわらず、自分が作ろうとしていた言い回しがまさに用例として載っていて、そのフィット率の高さに驚かされます。少し英語の言い回しが固いなという印象もあるのですが、それでも、何もないところから自分で作文するよりは圧倒的に早くなって助かります。

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しかし、そもそも論として、日本語の契約書をこういった用語集で無理やり翻訳するという態度が適切なのか?という指摘もあるでしょう。『ビジネス法務 2013年 01月号』P45では、佐藤孝幸弁護士がこんなことを仰っていました。

いみじくも「英作文は『英借文』」といった英語の大家がいたそうであるが、私は英語を母国語としない日本人が英文を作ることはほとんど不可能と考えている。まして、解釈の相違を生むような文章は許されない契約書のような法律文書であればなおさらである。
繰り返すが、ごく単純な事務連絡のための電子メールといった場合を除いて、自分の頭だけで英作文をしようとしてはいけない。そのようなことをすれば、いずれ大きな事故を引き起こすであろう。母国語を英語とするプロの書いた文章を借用させて頂くことが肝要である。

たしかに佐藤先生がおっしゃるように、英文契約には英文契約流の、コモンローを踏まえた重厚な言い回しがあって、それをおさえずに見よう見まねで英作文するのは事故を招きかねないのも事実です。しかし、一方で英語がネイティブではない我々が日々世界を相手に商売をしなければならなくなっているというのも事実で、危険だからといってすべての契約書のネイティブチェックを受ける時間や金が常にあるわけではありません。原則としては英借文をこころがけ、プロによるチェックを前提としつつも、このような本を“脇差”としていざとなれば刺し違えリスク覚悟で立ち向かい、傷つきながら実践力を磨くことも必要となってきているように思います。
 

【本】条項対訳 英文契約リーディング ― 英文契約書作成は日本の法務パーソンの永遠の課題(その1)

 
ブログの管理人のならではの特権であり面白みでもありますが、ご訪問者のみなさんのアクセスデータやサイト内行動履歴を眺めていたところ、昨年のデータにある特徴が見えてきました。それは、英文契約に関する本をご紹介したときのアフィリエイトリンクや関連エントリへのサイト内リンククリック数が(訪問者の絶対数に有意な差は無いにもかかわらず)、他の本を紹介したときと比べて常に一桁(10倍)以上多く、それ以前の年のデータと比較しても反応率が20〜30%超高まっているということです。英文契約書作成に対して法務パーソンのみなさんが抱える課題意識は今に始まった話ではなく、永遠の課題とも言えますが、その大きさが日に日に高まっていることがデータからも伝わってきます。

もちろん私も同じ課題意識を抱えている一人で、英語トレーニングに励みつつ、今年は具体的に英文契約書作成にかかる時間や手間を効率化・削減するツールを作れないかと、参考になりそうな英文契約に関する本を片っ端から買い集めているところ。そこで出会ったのがこの本。半年前にdtk’s blogで紹介されていたのですが、過去何冊か買った長谷川俊明先生の本がすべて自分には相性が悪かったのを理由に、その時はスルーしていてもったいないことをしました。新しい本に飛びついてばかりも問題ですが、食わず嫌いもやはりよくありません。



条項対訳 英文契約リーディング条項対訳 英文契約リーディング
著者:長谷川俊明
販売元:レクシスネクシス・ジャパン
(2012-02-01)
販売元:Amazon.co.jp



30項目の典型的な一般条項サンプル条文に、取引類型ごとの特徴的なサンプル条文、さらに巻末には用語集と日/英双方の索引もついていて、探しやすさ・使いやすさにこだわったことがよく分かる本。レイアウトも、ありがちな見開き英日対訳形式でありながら、どうしても生まれてしまう余白をデッドスペースのままとせず、そこにコラムを挟むことで紙面の有効活用が徹底されていて、隅々まで工夫にあふれています。編集力半端ない!と思ったら、それもそのはず、ビジネスロー・ジャーナルのLexis Nexisさんでした。

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同じコンセプトの本は今までもたくさんあったはずなのに、それらと比べたときのこの圧倒的な安心感・充実感はどこにあるんだろうと何度か読み返したんですが、秘密保持・合弁・売買・ライセンス…といったような契約類型ごとに完成した契約サンプルを見せることを捨て、ひたすらに一般条項についてのサンプル条文の提示・バリエーションの収録に絞ったところに勝因がありそうです。30項目という数だけでは伝わらないと思いますので、実際にその項目リストをご覧いただきましょう。

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この本があれば、よほどのイレギュラーな英文契約でもない限り読んで意味がわからない条項はまずないはずですし、2〜3年ぐらいの実務経験がある法務パーソンであれば、この本から必要な条項の適当な条件のものをピックアップし少しアレンジしながら英文契約を効率的に作ることができるでしょう。


しかし、一方でこの本ではできないことがあるということも、述べておかなければなりません。それは典型的な条文例をコピーするネタ本にはなっても、日本語の契約書やタームシートからオリジナルな要素の濃い英文契約を起こす場合にはあまり役に立たないということ。そんなシチュエーションで活躍してくれるのは、この本のような“典型条項サンプル条文集”ではなく、“用語集(glossaries)”となりますが、そのご紹介についてはまた次回に。
 

Instagramの集団訴訟は対岸の火事ではない ― 「日本版クラスアクション」導入がウェブサービスの利用規約運用に与える影響

 
先日このブログでも「うっすらとした悪意を感じる」という評釈で取り上げたInstagram利用規約改定の件ですが、この悪意を許容しない米国ユーザーとその米国特有の訴訟制度によって、たんなる「炎上」では済まない方向へとさらに発展しはじめています。

そしてこのことは、日本におけるウェブサービスの利用規約のあり方においても決して無関係ではなく、将来の課題を暗示しているものであるということについて、新しく導入が予定される日本版クラスアクション制度のご紹介とともに、以下述べてみたいと思います。

米国ユーザーが集団訴訟(クラスアクション)を提起


07年のFacebookビーコン騒動での痛い経験もなんのその、ハードコア路線でInstagram規約の改定遂行に突き進むFacebook法務に対し、堪忍袋の緒が切れてしまったユーザーが反旗を翻しました。

Instagramの利用規約改訂問題、集団訴訟に発展(CNET Japan)
 利用規約を改訂しようとしたInstagramは、ユーザーからの反発を招いただけではなく、今度は集団訴訟を提起された。
訴状によると、Instagramは「顧客の財産権を奪おう」としているだけではない。法による差止命令の請求ばかりか、集団訴訟による紛争の解決を禁止する条項を盛り込むことで、ユーザーがInstagramに対して少額訴訟による救済を除くあらゆる法的手段を取ることを禁じており、それによって身を守ろうとしているという。また、新しい利用規約では「Instagramに対するすべての訴えの出訴期限が、意図的に1年に制限される」という。
Instagramは当初、新しい利用規約は2013年1月16日に発効し、利用者にそれを拒否する権利はないが、この期日までにアカウントを削除することはできると説明していた。今回の訴訟はこの最後の点を問題とし、顧客は解約できるが、それは自らの写真に対する権利を放棄することになると主張している。「要するに、Instagramは『実際に占有しているほうが9分の勝ち目だから、新しい利用規約が気に入らなくてもわれわれを止めることはできない』と宣言しているのだ」と、訴状には書かれている。

訴訟社会化が進んだアメリカの消費者保護制度の切り札とも言うべき集団訴訟制度(クラスアクション)を使って、利用規約の一方的不利益変更をユーザーが止めに入るという、もはや炎上というレベルを超えた立派な紛争状態に突入しました。

実は「日本版クラスアクション」法案も成立間近です


さて、クラスアクションという言葉を聞いたことがある方は少なくないかもしれません。ある行為や事件から同じような被害を受けた者が多数いるとき、一部の被害者が全体を代表して訴訟を提起することを認める制度(有斐閣『法律用語辞典 第4版』より)をこう呼びます。

このお話、「対岸の火事」とか「訴訟社会アメリカならでは」と思わないほうが良さそう。というのも、年明けの通常国会に、日本版クラスアクションともいうべき「集団的消費者被害回復に係る訴訟制度」の法案が提出され、可決→導入される見込みだからです。先日、私の勤務先が所属する業界団体が開催した消費者庁の同制度立法ご担当による説明会を聞いてきたのですが、概要は以下の図にあるとおり。


集団的消費者被害回復に係る訴訟制度案の概要(PDF)

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日本においても、2007年から消費者団体訴訟制度は導入されていましたが、これは契約や勧誘の差し止めを請求するにとどまる(損害賠償請求はできない)ものでした。今回導入が見込まれている制度は米国版クラスアクションにかなり近いものとなります。それでも異なる米国版と日本版の制度の特徴・違いをかいつまんで整理すれば、以下4点でしょうか。

米国版日本版
1)訴えの提起個人でも提起可「特定適格消費者団体」のみ提起可
2)対象事案原則制限なし事業者が消費者に対して負う金銭支払義務
3)賠償の範囲拡大損害含む、懲罰的賠償もあり拡大損害・懲罰的賠償は含まない
4)訴訟参加除外型(オプトアウト)届出型(オプトイン)

など、日本版ならではのマイルドな味付けこそあれど、「一人の被害は少額でも消費者が集まれば訴訟を起こすメリットが発生する」という、事業者にとって厄介な制度が新たに生まれることには変わりありません。

クラスアクションの恐怖により利用規約の変更・改定が困難に


言うまでもなく、ウェブサービスの利用規約というものは、一人あたりの契約金額・売上は少額(場合によっては無料)でも、サービスがひとたび普及してくると、一声一万人単位のユーザーの利益を左右するも重要な契約ともなりうるものです。

ところで、日本版クラスアクション法案が可決されたと仮定して、今回のInstagramのような利用規約の一方的改定劇が日本で発生した場合に、果たして上記2)の対象事案として訴訟を起こすことは認められるのでしょうか?一見、これは微妙に見えます。無料の広告モデルで運営されるInstagramのサービスをいままでどおり利用できなくなることそれ自体は、「事業者が消費者に対して負う金銭支払義務」とは関係ないともとれるからです。しかし、今回の利用規約改定を「それまでユーザーが持っていた写真の商用利用権を事業者側が一方的に取得する契約条件への変更」と評価したとすると、Instagram/Facebookによる不当利得が発生したということになります。ここで消費者庁の資料を今一度よく読むと、左下表中△法嵒堙利得に係る請求」も集団訴訟の対象事案として認められることになっており、ユーザーはこのような事例でも集団訴訟を起こせるようになると解釈することができます。つまり、日本版クラスアクション法案成立後は、事業者がそれまで明確に設定していなかった利用権を追加的に設定するような利用規約の変更・改定を行うと、(単なる炎上→レピュテーションダウンや、消費者契約法に基づく個別ユーザーとの契約無効訴訟に留まらず)法的に差し止めを受ける可能性だけでなく、利益を得ていればその返還を命ぜられるリスクが発生することになります。

こうなってくると、これまで法的には微妙だなとなかば気づきながら、とはいえ実際にはユーザーから訴えられることがほぼないのをいいことに、ユーザーの同意なく一方的に変更・改定するのが普通だったウェブサービスの利用規約の運用ポリシーを、大きく変えざるを得なくなるでしょう。

特定適格消費者団体というところが、どの程度積極的に利用規約の変更をウォッチし問題として取り上げるようになるかは不明です。しかし、「いやだったらサービス使うの辞めれば?」「そんなに文句があるなら訴えれば?」という態度で一方的に利用規約を改定することが今までよりも危険になるのは、どうやら間違いなさそうです。
 
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