企業法務マンサバイバル

ビジネス法務に関する本・トピックのご紹介を通して、サバイバルな時代を生きる皆様に貢献するブログ。

_労働法務

日本版PEO(共同雇用)制度と労働者派遣法第35条の5・第40条の9(追記あり)

人材業界の有識者たちが、「これって法的に大丈夫なの?」とざわついているのがこのニュース。

従業員を転籍、元の職場に派遣 リンクトブレイン(日本経済新聞)
人材派遣のリンクトブレイン(東京・千代田)は顧客企業の従業員を部門やプロジェクト単位で転籍させ、派遣社員として元の職場に送り込むサービスを始める。従業員には転籍前と同額の給与を保証する。利用企業は人件費を変動費にできるほか、派遣人材の質に悩まされなくなる。事業再編のペースが速いIT(情報技術)業界やゲーム業界での利用を見込む。
人材会社が人事管理や教育を受託する米国のPEO(共同雇用)制度を参考にした。米国のPEOは日本の職業安定法に抵触する可能性がある。しかし「労働者派遣の仕組みを使えば職業安定法の『労働者供給事業の禁止』を離れて日本でもPEOと似た人材サービスが可能」(アンダーソン・毛利・友常法律事務所の上田潤一弁護士)という。
日本版PEOの導入では、リンクトブレインは顧客企業と最短で12カ月間の契約を結ぶ。契約期間の終了後、顧客が契約更新を断れば、リンクトブレインは派遣社員を別の企業に送り込む。

PEO(Professional Employer Organization 共同雇用)制度を日本にもってくるというアイデアについては、2008年8月に当ブログでもご紹介したことがあります。しかし、実際にそれをサービス化したのは、本邦初なのではないでしょうか(この点について追記)。

共同雇用=元企業・PEO会社双方との二重の雇用関係を維持する米国版PEOをそのまま日本において実施すると、職業安定法第44条で禁止される労働者供給事業に該当し、違法となります。そこで、本人の同意のもとPEOサービス提供企業に転籍をさせ(つまり元企業との雇用関係は切断させ)た上で、特定労働者派遣に切り替えるスキームで元企業に派遣労働者として派遣する手法ならば適法となるのでは、と考えられていました。記事中の「顧客企業と最短で12カ月間の契約」などの記載から、リ社もこのスキームを前提としているように見えます。

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しかし、従来は可能と思われたこの特定労働者派遣切替スキームを使った日本版PEOも、その後、2012年の労働者派遣法改正で導入された第35条の5と第40条の9により、原則禁止されるに至っています。

(離職した労働者についての労働者派遣の禁止)
第三十五条の五  派遣元事業主は、労働者派遣をしようとする場合において、派遣先が当該労働者派遣の役務の提供を受けたならば第四十条の九第一項の規定に抵触することとなるときは、当該労働者派遣を行つてはならない。
(離職した労働者についての労働者派遣の役務の提供の受入れの禁止)
第四十条の九  派遣先は、労働者派遣の役務の提供を受けようとする場合において、当該労働者派遣に係る派遣労働者が当該派遣先を離職した者であるときは、当該離職の日から起算して一年を経過する日までの間は、当該派遣労働者(雇用の機会の確保が特に困難であり、その雇用の継続等を図る必要があると認められる者として厚生労働省令で定める者を除く。)に係る労働者派遣の役務の提供を受けてはならない。

例外としてカッコ書きされる「厚生労働省令で定める者」とは、60歳以上の定年再雇用者が前提のかなり狭い範囲に限られています。この条文の追加により、現状日本でPEOサービスを提供しまたは提供を受けるのは、ほぼ不可能となってしまったように思われます。

個人的には、規制緩和と強化の間をフラフラしながら「働き方改革」なるどっちつかずの標語を掲げて混迷を深めている日本の労働行政にも様々問題はあるように感じているのですが・・・。条文上は何らか抵触してしまいそうなリ社のこのサービスが何か別の解決策を用意しているのか、また行政がどのような反応をするのか、続報を待ちたいところです。
 

2017.8.6 10:00追記

株式会社アウトソーシングとその子会社株式会社PEOでも、日本版PEOをサービスとして提供しているようです。twitterのたにやんさんのつぶやきで知りました。



 
 

最低賃金を引き上げるより契約更新時の昇給を義務化するほうがいいのでは

最低賃金引上げ論と、それに対する異論反論を見ていての思いつき。


「最低賃金、時給1500円なら夢ある」若者らデモ(朝日新聞デジタル)
都道府県ごとに定められている最低賃金は現在、最も高い東京都でも時給932円で、最低の宮崎、沖縄両県は714円と目標の1500円の半額以下。仮に時給1500円で週40時間働くと、4週間で24万円になる計算だ。

 若者たちは「1500円は『健康で文化的な最低限度の生活』に必要な最低限の金額です」「1000円じゃなくて1500円と言うのは、ちょっと夢があるから。夢があるというのは(生活の)リアリティーがあるということ」と訴えた。

マクドナルドの「時給1500円」で日本は滅ぶ。(BLOGOS)
企業に過剰な責任を求めることは雇用の縮小につながる。結果的に皆が貧困に陥る危険性があり、すでにそのような状況になりつつある。もう雇用をセーフティネットかのように考えるのは辞めるべきだ。それによって、失業保険や生活保護など本来のセーフティネットが脆弱なまま放置され、解雇されたとたん貧困に陥る状況になっている。


ちなみに上記朝日新聞記事のデモ、主催者発表では1,500人が参加したそうなんですが、ジョークですかね…。


さて、単に最低賃金を引き上げることの影響は様々ありそうですが、容易に解雇できない(とされている)日本の労働法制の影響もあって、企業の採用選考のハードルは高くなってしまい、労働者自身の首を絞めることにもなりかねないのは、火を見るよりも明らかです。

低賃金かつ短い契約期間で更新を繰り返した挙句、安易に「雇止め」をするような、労働者の足元をみるような経営を問題視しているのであれば、最低賃金というスタートラインのハードルを上げるよりも、企業に対し有期労働契約の更新にあたって一定の昇給率による昇給を義務化するほうが、お互いにとってメリットと納得感があるのではないかと考えた次第。

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  • 使用者としては、継続雇用する=これまでの業務はこなせていて今後も経験を積んでさらに活躍してほしいと判断して契約更新を望んでいるのだから、昇給させることに合理性が感じられる(義務化された昇給率と見合わないと判断すれば、雇止めとなる3回の契約更新までに、有期労働契約を期間満了とするかいわゆる正社員として無期労働契約に転換すればよい)
  • 労働者としては、継続雇用されれば昇給が得られるという安心感を持て、かつそれまでに身に着けたスキルを梃子にしてさらに条件のよい就職先が見つかれば、労働契約更新のタイミングでそちらに転職するという選択肢も留保できる
のではと思われますが、いかがでしょうか。


もしこれを日本の労働法制に取り入れることになった際の課題としては、平成18年改正高年齢者雇用安定法(平成27年再改正)以降義務付けられた、65歳までの雇用確保措置としての継続雇用制度との峻別でしょうか。一般には60歳定年で再雇用の手続きがとられる際に労働条件をダウンさせられている実態がありますので、社会としてこれを許容していることとの矛盾が起きそうです。

ポケモンGOを就業規則で禁止することは合法か

 
労働法的な視点で、とても気になるニュース。

「ポケモンGO」禁止−住友理工が全世界の拠点で、休憩中や出退勤時間も該当(日刊工業新聞)
住友理工はスマートフォン向けゲーム「ポケモンGO」が世界各地で社会現象となる中、スマホゲーム全般を就業中のほか、休憩中や出退勤時間も含めて全世界の拠点で禁止することを決めた。歩きながらスマホを使う「歩きスマホ」による事故防止が狙い。

厳しい人格教育を売りにしたような私立高校の校則に書くならいざしらず、厳しい選考を経て十分な判断能力の備わった大人が集まっているはずの組織において、「歩きスマホの危険性」という理由だけをもって「休憩中や出退勤時間も含めて」スマホ"ゲーム”を排除しようというのは、いかがなものかと思います。そもそも、アプリにおいてどこまでがゲームなのかという定義も境界があいまいです。たとえば、ゲーミフィケーションな英単語アプリで勉強しながら通勤されている方を見かけることはしばしばあります。また、チャット・メール・電子書籍・動画閲覧はOKという解釈なのだとしたら、企業として目指している目的も達成できない無意味な規則なのでは?と疑問です。


似たような、就業時間外の趣味嗜好を制約する就業規則の不当性が問題となるケースとして、たばこを吸う従業員の生産性の低さや不衛生さを問題視した企業が喫煙者を採用選考時から排除するというものがあります。弊ブログでも、喫煙権に対する不当な制約・嫌煙権の過剰保護であり違法であるという立場から記事にしたことがありました。今でも問題なのではないかと思っていますが、日本ではかなり有名なホテル経営者がこれを推し進めていることについて、法律的な争いになっている様子はありませんし、喫煙者自体が19.3%とかなり少数派となっている背景もあってか、反対意見もあまり聞かれません。しかし、ホテルにおける従業員の衛生維持に対する懸念といった具体的な悪影響が検討できない本件のようなケースについては、端的に言って就業規則としては不当と考えます。
 
きっと近いうちに違反者が現れることになると思いますが、その時企業として従業員にどこまでの制裁を加えるのか、興味津々です。
 

解雇規制再考 ― 企業と労働者双方によるミスマッチ責任分担論

 
2011年以降あまり話題にならなくなった(弊ブログで最後にとりあげたのも2010年夏ごろ)解雇規制が、現政権になってからにわかに騒がしくなってきました。そんな時宜を捉えたジュリスト4月号特集「厳しい?厳しくない?解雇規制」は、非常に良い特集となっています。

感想とあわせ、私もこのテーマについて、企業の視点から少しだけ意見を述べてみたいと思います。





「いつもの方々」じゃないのがイイ


岩村正彦先生の監修のもと、本特集に論稿を寄せてらっしゃるのは以下5氏。まず良かったのが、水町雄一郎先生、濱口桂一郎先生、大内伸哉先生、森戸英幸先生といったこの分野の「いつもの方々」を、あえて人選していない点です。労働法分野に興味がある方は、もうこれらの方々のお話は聞き尽くしている感もあり、そろそろこれまでとは異なる視点・切り口が欲しかったという面もあったんじゃないでしょうか。

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以下その5氏のご紹介と、それぞれの論稿から印象に残った記述をメモ的に抜粋させていただきます。

■ 緒方桂子 広島大学教授 法学者
  • 解雇法制を法的に正当化する議論としては、憲法27条1項を根拠とする社会権説/憲法13条を根拠とする人格的利益保護説/関係的契約理論を取り入れた継続性原理説/労働者と使用者との間の適切な権利・義務関係が確保されるための前提条件であるとする権利保障基盤説の4つがある
  • 解雇規制へのこだわりは、観念的なものではなく、労働者の生活を壊し、職場を荒廃させ、社会を不穏にしないための実践的・防衛的手段でもある

■ 小嶌典明 大阪大学教授 法学者
  • 働かないのは、雇用契約上の債務である、労働義務の不履行に当たる。雇用契約は他の契約と違うといっても、それは程度問題にすぎない。指導票を書き、警告書を渡す。一定期間を間にはさんで、それを何度か繰り返しても、状況になお改善がみられなければ、雇用契約を解除する。民法541条の趣旨に照らしても、こうした契約解除=解雇を否定すべき理由はない
  • 試用期間が有名無実化し、降格・降級規定があっても、それが死文化しているようでは解雇など到底認められない。本採用と昇給は能力のあることの証。そう裁判官が考えたとしても、当然である。ならば、その逆を行けばよい

■ 川口大司 一橋大学教授 経済学者
  • 多くの国際比較に関する実証研究をレビューしたSkedinger(2010)、Boeri and Van Ours(2013)、OECD(2013)によると、厳しい解雇規制と失業率の関係は明確ではない。しかしながら、厳しい解雇規制は解雇と採用を減らし、雇われている状態と失業状態の行き来を減少させることが実証されている
  • イタリアのある銀行の勤怠データを分析した結果によると、12週間の試用期間が過ぎて雇用保障が適用されたあと、欠勤が倍増することが示されている(Ichino and Riphan 2001)

■ 峰 隆之 弁護士(使用者側)
  • 平成24年の労働関係訴訟は3358件、そのうち1026件が解雇等に関する訴えで、判決が言い渡された343件のうち、解雇無効は166件、請求棄却あるいは却下する判決が177件。使用者側が善戦しているように見えるが、482件で和解が成立しており、使用者側が勝ち切ったケースは4分の1未満
  • セガ・エンタープライゼス事件判示が象徴するように、能力不足、適性の欠如を示す不祥事、不始末、仕事の失敗といった具体的エピソードが豊富にあれば比較的楽に戦えるが、クオリティの低い仕事が行われても、それらの成果物は、上司等がチェックする過程で修正されていき、また顧客や他部門と接しない自己完結的な仕事への配置換えが行われるため、具体的な立証が難しくなる
  • 解雇に対する規制と採用プロセスにおける使用者の情報収集は裏腹の関係にあることが理解されるべき。解雇を厳しく制限するのであれば、使用者に採用段階における相応の情報収集権(プライバシーや病歴等に関する情報収集)が認められるべきである
  • 精神疾患を訴える労働者との間で解雇の効力を争う訴訟において、裁判所が独自に業務上外の認定を行い、業務による疾病と認められた場合、労基法19条に抵触するとして、解雇を無効とする裁判例が出てきている

■ 水口洋介 弁護士(労働者側)
  • 整理解雇事件の中には、必ずしも客観的な経営危機がないにもかかわらず、使用者側が「整理解雇」を主張する場合が多くあり、客観的な経営危機を使用者側が立証する場合には、労働者側の敗訴の可能性は高くなる
  • 裁判所に提訴される事件は、個別労働分そののごく一部に過ぎず、労働局の民事上の個別労働紛争相談における解雇事件5万件のわずか0.7%程度。解雇権濫用法理という「法の支配」社会に浸透・確立していないのが実態

見ていただいたとおり、中立な立場の川口先生をのぞいて、学者・実務家がキレイに使用者側と労働者側の立場に分かれて意見を述べており、厳しい/厳しくない甲乙付けがたい絶妙なバランスになっているわけです。といっても、メモの多さからわかるように、企業法務の立場からはやはり峰弁護士の視点に鋭さと共感を感じました。

企業の採用の自由 vs 労働者の職業選択の自由


憲法上保障された人権を根拠に労働者の保護を主張されると、企業としては何を言っても分が悪くなるなあ、というのが特集を読んでの率直な感想です。しかし、当該企業において能力不足・勤務不良と判断された労働者の雇用を継続する義務を一方的に企業に負わせるような解雇規制とするのは、やはり行き過ぎではないかと、私は思っています。

峰弁護士も問題視されているように、一般に社会や裁判所は、採用企業に対し、雇用の継続と教育/指導や配転(いわゆる「解雇回避努力」)による労働者の活用・再生を求めます。企業人事も苦労して採用しているわけですから、適性や可能性があり本当にたまたまその一部門で能力が発揮できなかっただけの労働者であれば、公権力によって強制されるまでもなく、人員が不足する他部門での活用・再生を試みるはずです。しかし、現実にそうして活用・再生に至るハッピーな事例をほとんど聞かないのは、現場からみても人事部門からみても、当該企業では活用・再生が著しく困難と判断せざるを得ない人材も現に存在するからです。無理をして雇用を継続しその部門全体をみすみす「荒廃」させたり、他部門に異動させて他の職場まで“荒廃”させるわけにはいかない。そういった判断から、(しかるべきプロセスを経て)やむなく解雇に踏み切っている事例も多いかと思います。

企業が社会の中で負うべき一定の責任はあります。そして、企業そのものが一つの社会でもあるのですが、その企業には、刑務所のように身体を拘束し生活習慣を強制できる執行力もなければ、また義務教育課程の公立校のような公益性を求めるべくもありません。解雇規制を一律に強化し、一人の権利を守ろうとし過ぎると、職場を構成する他の労働者の平穏・円滑・効率的な労働を阻害し、企業という社会をかえって“荒廃”させる新たなリスクも生みかねないという視点も、必要なのではないでしょうか。

このような話をすると、「企業には採用の自由があるのだから、採用した以上は責任をまっとうすべきだ」という声も聞かれます。これに対しては、「労働者にも職業選択の自由がある(退職の自由のみならず、採用決定当時に入社せずに別の企業・職業を選択する自由もあった)」ということも、忘れてはならないと思います。採用側と応募側、お互いに情報格差がある採用・就職活動において、ミスマッチは完全には排除できない、そして、そのミスマッチを発生させている原因と責任は、企業だけでなく労働者にもあるという前提に立ち、その相互責任をどうやってフェアに二者で分担すべきか、という視点をもう少し持ってもいいのではと考えます。
 

新卒入社試験の受験料制度を合法とするための条件(厚生労働省による行政指導を受けての追記あり)

本日12月1日から就職活動解禁だそうで、早速街にはリクルートスーツ姿の就活生があふれていました。そんな中、ドワンゴさんが新卒入社試験に受験料を徴収する件が話題になっています。ドワンゴさんぐらいの人気企業だと、こういうことやってもきっと応募がガンガンくるわけで、うらやましい限り。

新卒入社試験の受験料制度導入について(ドワンゴグループ 新卒採用ページ)

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ドワンゴさんらしいインパクト勝負のこの制度に、早速ネットでは「こんなの法律的にOKなの?」と賛否両論あるようです。

私見ではありますが、今回のような応募者の本気度を測るためにお金を払わせるというやり方は、違法とならないように行う道はあるものの、その趣旨説明と受験料の取扱いには相当な配慮が必要ではと考えます。

採用試験の“手数料”を取ることは合法


そもそも、企業が採用選考で学生からお金を取っていいのかという点については、すでに話題になっているとおり、職業安定法第39条にこんな条文があります。

職業安定法
(報酬受領の禁止)
第三十九条  労働者の募集を行う者及び第三十六条第一項又は第三項の規定により労働者の募集に従事する者(以下「募集受託者」という。)は、募集に応じた労働者から、その募集に関し、いかなる名義でも、報酬を受けてはならない。

「いかなる名義でも」と文言にはっきり書いてあるので、今回の件もダメそうに見えます。ところが、厚生労働省の「労働者募集業務取扱要領」には、この条文の行政解釈がこんなかたちで披露され、必ずしもダメではないことが解説されています。

労働者募集業務取扱要領 労働者募集の原則(厚生労働省ウェブサイト)
(5)報酬の受領及び供与の禁止(法第39条、第40条)
募集主又は募集受託者は、募集に応じた労働者からその募集に関していかなる名義でも報酬を受けてはならない。また募集主は募集従事者に対して、賃金、給料その他これに準ずるもの又は厚生労働大臣の認可に係る報酬を与える場合を除き、報酬を与えてはならない。
なお、募集とは、労働者を雇用しようとする者が、自ら又は他人をして労働者となろうとする者に対し、その被用者となることを勧誘することであり、採用試験は募集に応じた者から雇用することとなる者を選考するために行うものであるため、募集とは別の行為である。このため、採用試験の手数料を徴収することは法第39条の報酬受領の禁止には該当しない。

職業安定法をここだけ読むと、一体この法律は何をしたいのかわからないかもしれませんが、全体を読めば、就職の機会均等の確保に加えて、その就職機会の提供にかこつけて本来労働者が受け取るべき給与等から不当に中間搾取をしようとする輩の排除を目指す法律であることがわかります。つまり「お礼にカネ(条文にいう「報酬」)をくれるんだったら、被用者にしてやってもいいけど?」という行為を禁じているというのが、第39条の主旨であると。したがってそういった意図、つまり報酬としてでなく、純粋に選考プロセスで発生する“手数料”を応募の意思に基づいて負担させる限りにおいては、合法であるとされているわけです。

この点、今回のドワンゴさんのQ&Aにも、

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とあります。あくまで自分の意思でプレエントリーし説明会に参加した学生の中で、ドワンゴに入ってみたいという意思を持った人=エントリーする人から受験料を徴収するという建て付けになっており、この点法律上問題とならないように慎重に配慮した形跡が見られます。

本気度を測るためのお金=“手数料”?


ただ、私が自分の所属組織で人事から本件の相談を受けていたら、

新卒のかたの入社試験に受験料をいただくことにしました。金額は2525円。目的は、本気で当社で働きたいと思っているかたに受験していただきたいからです。
集めた受験料は奨学制度の基金かなにかに全額寄付をする予定です。

この2点の記述・取扱いは、再検討をさせたかなと思います。

「2525円」というのはシャレをきかせた数字として面白いです。しかし、法律が徴収を認めているのがあくまで“手数料”である以上、実際に採用試験に掛かる実費を算定してそれを請求すべきではないかと。また、徴収したお金を「寄付」するというのも、儲けを目的としていないことの表明としてはわかりやすいとは思うものの、会社として応募者に“手数料”を請求しているということにならないのではと。そしてなにより、目的をここまで露骨に書く必要はなかったんじゃないかなと。実費としての受験料を負担させることだけでも、実質的には記念受験の就活生の多くは排除でき、目的は達成されるはずですしね。


同社にはインハウスの方も複数いらっしゃいますし、このあたりの法律は抜かりなく検証されたものと推測します。しかし、職業安定法の主旨にも現れているとおり、労働問題の中でも採用選考場面はとかくセンシティブな部分です。言葉じりを捉えられて世間の批判が高まれば、厚労省から指導が入る可能性も否定できません。昨年、「縁故採用宣言」をした岩波書店を機会均等の観点から調査した事例もありましたし。

就活シーズンに突入した今、私もひとごとではなく、こういった表現に関するアドバイス・判断には一層気を遣わなければと思いました。
 

2014.3.2追記:やはり実費としての根拠は必要だった


厚生労働省から指導が入ったとのことです。

ドワンゴ就職受験料、厚労省が中止求め行政指導
来春卒業予定の大学生らの採用を巡り、大手IT企業「ドワンゴ」(東京)が入社希望者から受験料を徴収する制度を導入した問題で、厚生労働省東京労働局が「新卒者の就職活動が制約される恐れがある」として、職業安定法に基づき、次の2016年春卒の採用から自主的に徴収をやめるよう行政指導をしていたことがわかった。
同社などによると、行政指導があったのは2月中旬。厚労省は「受験料制度が他社にも広がれば、お金がない学生の就職活動が制約される恐れがある」として問題視。来春卒業予定者の採用では、既に手続きのピークを過ぎているとして事実上、不問にしたが、16年春卒の採用からは徴収しないよう求めたという。

労働者の募集に関し、職安法は「いかなる名義でも報酬を受けてはならない」と規定。厚労省は指導の中で、ドワンゴの受験料が「報酬」にあたるかどうかは明確に判断しなかったといい、同社の担当者は「受験料は報酬にはあたらない」との認識を示している。

職安法(を解釈する行政庁としての厚生労働省)が徴収を認めているのはあくまで手数料実費にすぎないのであって、少なくとも「本気かどうかを確かめるための受験料」は認められない、という見解が示されることとなりました。「寄付」を表明して報酬ではないことを主張したとしても、やはり、実費なら実費としての根拠を示せる状態にしておくべきだった、ということでしょう。

ただし、12月にあれだけ話題になったにもかかわらず、わざわざ就活がピークアウトした2月に行政指導を入れ、しかも「来年度からは“自主的に”やめなさいね」とした点には、法解釈上も微妙なボーダーラインだったことを踏まえた、厚労省なりの落とし所の作り方であることが伺えます。
 

2014.3.3追記:ドワンゴの反論


ドワンゴさんが読売報道に対する釈明、というか反論の声明を出しました。ハードコア路線です。

「受験料制度に対する、厚労省から中止を求める行政指導」報道について
「職業安定法 第48条の2」に基づき、厚生労働省より来年以降の受験料徴収の自主的な中止を求める旨の「助言」を受けました。今回は「助言」として口頭のみで行われ、書面等の受領はありません。
弊社からは、来年度以降の実施については、今年度の結果をみて判断したいと回答しています。
お金を払える人だけが採用試験を受けられることで、収入格差によって就職の機会が奪われる可能性があるという指摘については否定しませんが、現在の弊社の受験料2,525円が収入格差により就職の機会を奪うほどの高額であるとは認識していません。
昨年以前と比較して、応募者の評価にじっくりと時間をかけられるようになり、また、昨年よりも応募者の質が向上していると感じています。こうした状況からも施策は成功しており、現段階では来年度も受験料制度を継続したいと考えています。
今後は内定者の承諾率などもあわせて施策評価を行い、来年度の実施について最終判断する予定です。

ドワンゴがこの声明でおっしゃりたかったのは、職業安定法第48条の2の「指導及び助言」のうち、今回は「助言」を受けただけであり、読売報道にあった「行政指導」のレベルには達していませんよ、ということでしょう。

ただ、「現在の弊社の受験料2,525円が収入格差により就職の機会を奪うほどの高額であるとは認識していません。」の一言は、かえって厚労省の癇に障ってしまうんじゃないかと心配になります。今年はドワンゴ1社だけでも、「カネをとっても合法らしいぞ」と来年ドワンゴに追随する会社が複数社になれば、すぐに数万円/人単位の負担になってしまうわけで、さらに大企業だけでなく中小企業にも広がっていくとなるとこれは前提が変わってきます。彼らはそれを止めたいわけですからね。

「大学受験だって一学部あたり数万円の受験料をとる時代、民間企業の就職試験で数千円徴収して何が悪いのか。そんなことまで行政が口をだすのか」という批判を多く目にします。しかし、大学教育は義務ではなく、他方で就職=勤労は憲法27条に定められた義務であり権利でもあるからこその機微を、もう少し汲んでもいいのかなと私は思います。繰り返すようですがここは一つ、「採用試験に係る(本当の)実費」の徴収にとどめることを、両者の落とし所にしてはいかがかと思います。
 

「追い出し部屋」は日本企業の“甘やかし”の成れの果て ― 『HRmics』寄稿記事のご紹介

 
ほそぼそと続けている人事労務パーソン向け専門誌『HRmics』への連載。有期雇用法制の大特集の影で私は別の時事ネタをということで、「追い出し部屋」報道をきっかけとした、日本企業の解雇に関する一考察を書かせていただきました。

(原稿を上げたのは2月頭で、その時はまだ旬だったんですけど、皆さんもうお忘れですかね・・・)

HRmics vol.15 特集 非正規雇用の決着点
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労働法のことばかり考える仕事をしていたころの私の疑問の一つに、なぜ日本企業の人事は解雇リスクときちんと向き合った上で、適切なプロセスを経て正々堂々と従業員を解雇をする勇気をもたないのか?というものがありました。外資企業が、同じ労働法の保護の下にありながらバンバン解雇しているのにもかかわらず、です。解雇法制を語るときに、労働法学者も外資と内資の差異について触れている方は少ないようにお見受けしますし、私の知る限り、「外資は厳しいからしょうがない」「そういうリスク含みで入社してるわけだしね」と、企業と争うおうという労働者もいまだ少数派に見えます。

その疑問に対する私なりの答えは、「日本企業が解雇の法的リスクから逃げ続けるハメに陥っているのは、普段のマネジメントにおいて従業員を甘やかすだけ甘やかしているからだ」というものなのですが、こんな考え方にご興味がおありの方は、上記リンクP29ー30をご一読いただければ幸いです。
 

会社が従業員のSNS人格にフリーライドするのはありやなしや? ― 『HRmics』寄稿記事のご紹介

 
人事労務系専門誌『HRmics』の連載 “上から目線のコンプライアンス” の第二回寄稿記事として、「会社が従業員のSNS人格にフリーライドするのはありやなしや?」というテーマについて書かせていただきました。


HRmics vol.14 特集 アメリカを知らずして、アメリカを語るな〜あの国の雇用を徹底解明〜

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弁護士の先生方が講演する企業法務向けセミナーにおいて、会社と従業員のSNS利用に関して真っ先に話題に上げられるテーマが、SNSでの炎上事件や情報漏えい事件です。しかし「人の口に戸は立てられない」以上、バカな社員を雇って与えてはいけない情報を与えたらそうなるのは目に見えているわけで、それ以上でもそれ以下でもなく、法律的な対処には限界のある問題だと思っています。そんなテーマよりも、今後深刻になっていくだろうこととして、
  • 会社の指示でSNSを使った自社製品・サービスのステマを従業員にさせる
  • 人気広報担当のSNSアカウントを退職時に取り上げる
といった、「会社が従業員のSNS上の人格(アカウント)を会社都合でコントロールすることの是非」をもっと突き詰めて考えていくべきだと思っています。私の考えについては、上記リンク先のP24ー25で全文読めますので、詳細はご笑覧ください(あ、そうそう、コworksことコハラアキコさんによる私の似顔絵のバリエーションも、さりげなく3パターンに増えてます♬)。


原稿掲載のタイミングとあわせて、図ったように、この連載記事でも事例として取り上げたTwitterアカウントのフォロワー所有権裁判(PhoneDog v. Kravitz)の結果も出たようです。

Former PhoneDog employee off the hook in closely watched trade secrets spat
The terms of the settlement are confidential, yet the parties have confirmed Kravitz will maintain sole custody of the Twitter account at issue.

結果和解での解決となり、条件も非公開ですが、従業員であったKravitz氏が今後もtwitterアカウントを独占して利用し続けることは確認されたということで、この記事の主張を撤回することにならなくてよかったです。


同誌のその他の記事、特にアメリカ雇用・外資労働の真実を丹念に追った特集も読み応えと新たな発見があります。1月にはセミナーも開催されるようですので、人事労務系の方でご購読・セミナー参加にご興味ある方はぜひニッチモさんまで。
 

フレックスタイム制という“綺麗事”

 
伊藤忠商事が、フレックスタイム制を廃止したという記事を読んで。

伊藤忠がフレックスタイム制を原則廃止にした理由(週刊ダイヤモンド)
これまで伊藤忠は、コアタイムの午前10時から午後3時までの間に就業していれば、始業や就業の時間は自身や組織ごとに決定できていた。それをこの10月からは、一部を除き始業は午前9時に、終業は午後17時15分に変更した。
玄関で入館証をかざし、入退社の時刻を記録することで、勤務状態を管理。退社時間が予定より15分以上遅れた場合には、理由の申請を義務づけるという徹底ぶりだ。
さらに、子どもの学校行事などで休みが取得できるファミリーサポート休暇なども廃止。こうした労働条件の変更に対し、一部の社員からは、不満の声が上がっている。
こうした変更の理由について、伊藤忠の岡藤正広社長は、「史上最高益を達成した今こそ、浮かれることなく気持ちを引き締める必要がある」からだと、説明している。

日本においてフレックスタイム制は、「従業員にとって優しい、メリットのある制度」という受け止められ方をしている方がほとんどでしょう。それだけに、伊藤忠さんの「一部の社員」だけでなく、なんという就業規則の改悪に応じてるんだ?という疑問を感じる方も多いのかもしれません。しかし、冷静になって考えてみると、フレックスタイム制というものは一見自由な制度に見えるだけの"綺麗事”の塊みたいな制度であり、伊藤忠さんのこの判断はあるべき姿なのかもしれません。

所定総労働時間による拘束からは逃げられない


フレックスタイム制は採用している企業も多く、法律的な建付けについてはご存知の方も多いと思います。1日の労働時間帯を、必ず勤務すべき時間帯(コアタイム)と、その時間帯の中であればいつ出社または退社してもよい時間帯(フレキシブルタイム)とに分け、出社、退社の時刻を労働者の決定に委ねる、というものです。

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長野労働局ウェブサイトより


たしかに見た目上は、いかにも労働者が自由に働ける制度のようです。でも、実際採用している会社での運用実態はどうでしょうか。本当に上司へのお伺いも同僚への遠慮もなく、出退勤時間を労働者が勝手に決められるオフィスライフが実現できるのでしょうか?否、そんな会社はほとんどないように思います。実態は、有給を使うほどでもない個人的理由にもとづく遅刻や早退を、他の日の早出や残業をもって“埋め合わせ”をしているだけの、しかもそれは、「いない間の顧客対応で周りの社員が犠牲になる」だけでなく「“埋め合わせ”のための標準労働時間帯外の労働が必ず存在する」ことが前提になっているという、よく考えればきわめて日本的でブラックな労働契約です。

最近の諸外国との法制度比較においても、まさに、このことがズバリ指摘されています。

ワーク・ライフ・バランス比較法研究<最終報告書>(労働政策研究・研修機構)
一方、日本の労基法に定められた弾力的労働時間制度の場合、(略)フレックスタイム制については、始業終業時刻の自由があるというだけで、清算期間における所定総労働時間は働かねばならないため、必ずしも WLB に資するとはいえない面もあろう。(P522)


誠実勤務・職務専念義務というマジックワードには勝てない


厚生労働省の通達(昭和63年1月1日基発第1号)によれば、フレックスタイム制を採用した以上、会社は出勤/退勤の時刻を指定することはできないことになっています。しかし、会社から指揮命令を受ける労働者である以上、その出退勤の自由も権利とよべるほどのものではなく、非常にもろいものだという学説もあります。以下安西愈先生の『トップ・ミドルのための採用から退職までの法律知識』からの引用です。

会議や打合せといった業務内容自体から時刻が当然定まる日の勤務については、フレックスタイム制の労働者であっても誠実勤務義務や職務専念義務があるので、自己の生活を規律して右時刻に業務ができるように自主的に勤務する義務があり、フレックスタイム制のゆえに、このような会議時刻に遅れたり、官庁の調査への応対業務を拒否してもよいということにはならない。
フレックスタイム制の適用者であっても、業務上の緊要な必要がある場合には、予め通知して特定の日についてフレックスタイム制の適用を解除して通常の勤務を命ずる権限が使用者に留保されているものと解される。

実際、全社員出席必須の朝礼やグループ単位での朝会・夕会が毎日設定されたり、営業時間中の電話番の都合で出退勤が束縛されたり、顧客訪問◯件のノルマ等から、フレックスタイムなど有名無実なものになっている会社も少なくないでしょう。

反面、平成24年就労条件総合調査を見ても、採用する企業は従業員数300〜999人で15.8%・1,000人超で25.9%と、年々採用率が増えている“人気の制度”でもあります。ホワイトカラーエグゼンプションが導入されそうになったとき、欺瞞的制度であるという批判が労働者サイドから数多く上がりましたが、運用の伴わないフレックスタイム制を採用していかにも従業員の自由を認めているかのように標榜する企業も、かなり欺瞞的ですね。

顧客・上司・オフィスが存在する以上、出勤退勤時刻の自由はない


本当に従業員のためを思うなら、所定労働時間をきっちりと決めて、その時間は最大限効率的に働いてもらい、時間外労働はさせないことをまず目指すべき。冒頭の伊藤忠さんの記事をよく読むと「退社時間が予定より15分以上遅れた場合には、理由の申請を義務づけるという徹底ぶり」とあるように、岡藤社長もまさにこれを意識しているものと思われます。

それでも従業員に出勤退勤時刻選択の自由を与えたいなら、
  • 裁量労働制を適用できる職種には、裁量労働制を素直に適用する
  • それができない職種には通常の定型労働時間制のまま、遅刻して定時に退社しようが定時に出社して早退しようが任せ、賃金もカットしない
そういう運用にすれば済む話。労働基準法も労働基準監督署も、所定労働時間を下回ってしまった人に所定労働時間分の賃金を支払うことを違法とはいいません。フレックスタイム制のような「精算期間における総労働時間」「(建前だけの)出退勤時刻選択の自由」で労働者を拘束・束縛するより、むしろそのほうが健全な労働契約でしょう。

しかしこれまで述べてきたように、企業には顧客からの連絡を受け付け商品・サービスを提供する営業時間という概念があり、上司には部下に対する指揮命令権があり、社員が一同に会して一緒に問題解決を行うためのオフィスがある以上、「労働者に自由に出勤退勤時刻を選ばせる」という制度の思想自体が幻想なのかもしれません。記事にあるように、伊藤忠商事は好業績と特別ボーナスのどさくさに紛れて労働者から自由を奪った、という見方もあるのでしょうが、むしろ企業の営業時間に就業時間をフォーカスし、全員がその時間は集中して働く、残業は前提にしないという、本来あるべき姿に戻っただけのように私には思えてきました。
 

【本】懲戒権行使の法律実務 ― 懲戒インフレを起こさないための処方箋

 
1年ちょっと前に、懲戒検討が続いて少し悩んでいたときに参考にした本。


懲戒権行使の法律実務懲戒権行使の法律実務
著者:石嵜 信憲
販売元:中央経済社
(2010-12)
販売元:Amazon.co.jp



整理解雇を含む解雇論全般の中で懲戒解雇に触れている本は数多ありますが、この本のように、従業員の解雇に至らない譴責・減給等の処分を含む懲戒処分全般に絞って取り上げている本は珍しいです。

この本が強調するポイントは、従業員の懲戒レベルを検討するときの戒めとしてとても重要だと思うので、ちょっと紹介したいと思います。

1.私的領域における過ちを安易に罰するな


これは基本ではあるものの、コトが起こるとついつい感情的になって忘れてしまうポイント。
・「企業内における行為」
・「企業外(私的領域)における行為」
と、行為が発生した領域を大きく2つに分けて、懲戒権の限界を考えよ、という原則。

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上記表は目次を整理してみたものですが、たとえば飲酒運転によるひき逃げ事故一つとってみても、それが私生活の中で起こした事故なのであれば、理論的には懲戒処分は難しく、できたとしても、職場に戻るけじめとしての、労働契約の継続を前提とした軽い懲戒処分にとどめるべきと、この本ではアドバイスしています。日本企業は、私的領域であろうが警察沙汰になった瞬間に重い処分を下してしまう傾向が見受けられますので、注意が必要です。

2.労働契約の継続を前提とするかどうかが懲戒レベルの大きな分かれ目


ここは初めて読んだ時には頭がすっきりして助けられたポイント。
・労働契約継続を前提とする処分
・労働契約解消を前提とする処分
の2つのうち、どちらに該当するのかを検討してから、対象従業員に与える具体的な罰の重さを考えよ、というもの。

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特に、出勤停止、減給、降格などの厳しい処分を下すときに、「あと一歩でクビだったところを、おまけでとどめてあげる処分」のように勘違いしてしまいがちです。これらが、「解雇ではないという前提で下す最高の罰」という風に考えないと、与える罰が高ぶれしてしまうように思います。

3.公務員の懲戒処分を参考にするな


この本の冒頭でかなり声高に強調されているのがこれ。公務員と民間企業従業員の処分を同一レベルで考えるな、というポイントです。

公務員には国家公務員法が適用され、懲戒処分についても同法82条で、「職員が、次の各号のいずれかに該当する場合に置いては、これに対し懲戒処分として、免職、抵触、減給又は戒告の処分をすることができる」とされています。
(略)
また人事院規則12ー0でも職員の懲戒が定められていますし、人事院から「懲戒処分の指針について(通知)」という指針も出されています。これらの公務員の懲戒は、官職の職務と責任の特殊性に基いて定められたものであるため、民間企業において同様の取扱いとすることはできません。
使用者と労働者との間では雇用契約(労働契約)が交わされています。労働契約は、対等な立場にある使用者と労働者の間の労務提供に関する取引契約です。したがって、労働者が労働契約内容に反して労務提供を怠った場合には、使用者は労働者の債務不履行という契約上の責任を問うことができます。しかし、罰を与えることができるかどうかは、非常に難しい問題です。

公務員の不祥事というのは、ニュースとして耳目を集めがちですが、ここで見聞きする懲戒処分の水準を民間企業において適用するのは間違いという指摘には、はっと目の覚める思いがします。
従業員と企業の関係は、あくまで労務提供の契約なのであって、その債務不履行とはいえない行為(例えば痴漢行為など)をもとに「罰」としての懲戒処分を下せるかについて今一度慎重になるべき、という指摘は、「人間同士の信頼」という得体のしれないものに依拠しがちな日本の雇用契約慣行において、重要な指摘です。


懲戒処分を、人事マターとして法務を巻き込まずに(むしろアンタッチャブルなものとして)感覚的に判断を下している企業は少なくありません。しかし、2008年に施行された労働契約法第15条に、わざわざ企業の懲戒権の濫用法理が明文化されたことからも、極めて法律的な論点を多く含む話題だということは明らかです。

終身雇用の前提が崩れ日本の雇用慣行が少しずつ変わり始めた今だからこそ、安易な懲戒インフレを起こさないよう、考え方を見なおしておくべき分野かと思います。
 

上から目線のコンプライアンス ― 人事労務系専門誌『HRmics』で連載を開始しました

 
週刊モーニング連載『エンゼルバンク―ドラゴン桜外伝』の主人公海老沢のモデルとして、そして人事の世界から世相を切るコメンテーターとして有名な海老原嗣生さんが編集長を務める人事労務系専門誌『HRmics』で、連載を持たせていただくことになりました。

連載コーナー名は、「上から目線のコンプライアンス」。

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何に対して「上から目線」かというと、対象読者である人事部長、経営者の皆様に対してになります。みなさまはその道ウン十年のプロも多いわけで、私のような若輩者が何を言うかと怒られそうですが、まだ人事のプロも意識してないような比較的あたらしい世の中の動きについて、人事労務の課題と絡めて問題提起しようという企画になっています。まず第一回目は、昨今流行りの「ノマドワーカー」の増殖が企業に何を問いかけるのかがテーマ。専門誌なので書店売りはしていませんが、とりあえず私の記事だけ読みたいという方は、下記URLより御覧いただける(p35-36)ようになっていますので、覗いてみてください。もし面白いようでしたら、人事部門の方にご紹介いただけると、編集長の海老原さんも喜びます。

HRmicsvol13HRmics Vol.13 特集 本当のグローバル戦略、グローバル採用



海老原さんは前職の大先輩にあたりますが、在職時より「なんか面白いやつがいる」と可愛がっていただいており、3月の退職を期にこのようなチャンスをいただきました。『新しい労働社会』他著作多数の濱口桂一郎先生や、『プレップ労働法』『いつでもクビ切り社会』の軽妙な語り口が衝撃的な森戸英幸先生他、私が尊敬する超一流の先生方の中に混ぜて起用いただき、身に余る光栄です。


余談ですが、この雑誌にこういった形で起用して頂くのをきっかけに、私の似顔絵を知り合いのプロのマンガ家さんに書いていただきまして、twitterやGoogle+でもアイコンとして使いはじめてみたり、ペンネームを「はっしー」に統一したりしました。法務系ブログだからでしょうか、「企業法務マンサバイバルの人はすっごく頭の固いマッチョで怖い人」と思われることも多いようなのですが(リアルでお会いするとギャップに驚かれることもしばしば)、ちょっとは親しみやすさを感じてもらえるといいのですが。
 

【本】ダブルキャリア ― 実際に“兼業サラリーマン”を始めてみての所感

 
先日、この本の著者である荻野さんにとある席でご一緒する機会に恵まれた際に、“兼業サラリーマン”にチャレンジしている旨をお話したところ、「まさに社会実験ですね。応援しております。」とご丁寧にお手紙を添えてわざわざこの本を献本いただきました。ありがとうございます。


ダブルキャリア―新しい生き方の提案 (生活人新書)ダブルキャリア―新しい生き方の提案 (生活人新書)
著者:荻野 進介
販売元:日本放送出版協会
(2007-07)
販売元:Amazon.co.jp



この本にいう“ダブルキャリア”とは、あくまでサラリーマンとしての本業を大切にしながら、キャリアを緩やかに広げていくために副業というかたちでステップを刻んでいく、という働き方の提案。実際にダブルキャリアを実践している方々のインタビューを足がかりに、法律的な問題点と解決策、経営者・人事目線を踏まえた将来展望までを描き、かつそのメリットの方に光を当てた筆致になっているところが特徴。

ずいぶん前にこのブログで紹介させていただいた本『ハイブリッドワーカー』も、本業を持ちながらクリエイティブな副業を持っている方々を数多く取材する本でしたが、あちらがその両立の難しさ・厳しさ・デメリットを生々しく描いていたのとは対象的な感じがします。

その『ハイブリッドワーカー』をとりあげ、(今は塀の中にいらっしゃる)堀江貴文さんのコメントとあわせてこんなポストを書いていたのが、丁度今から2年前。

兼業成功者のインタビューに見た兼業の現実
今いる会社(人材サービス業)に入ってこの数年間、長期雇用という安定と引き換えに1つの会社に束縛される「サラリーマン」という働き方をなんとか変えられないかと考えてきた私。

その一つの選択肢として結構最近まで有力候補にしていたのが、「兼業雇用をもっとメジャーにして、1つの会社に依存しないスキルと収入源を得られるようにし、ゆるやかに雇用の流動化を図っていく」というシナリオでした。

当時人材サービス業の中の人として、この“兼業”コンセプトを事業化して世の中のサラリーマンの働き方が変えられないかと企画書をいろんな角度から出して役員との面接に望んでみたものの、「時代の流れは捉えているように思うが、そこに市場が存在することを証明してくれないと、採用はできない」とボツり続けていたのがこの2010年頃。

そして「市場がないというならば、せめて自分自身だけでもやってみよう」と思い立って4月からチャレンジを始めているわけですが、1ヶ月やってみて今痛感しているのが、市場がないというのはやっぱり事実だなということ。そしてその市場拡大を妨げるボトルネックとして立ちはだかっているのが、就業規則における兼業・副業禁止規定の存在です。この本のP152以降にも、その実態が企業人事責任者へのインタビューとともに描かれているとおり、少し古いデータですが「雇用者の副業に関する調査研究」(独立行政法人労働政策研究・研修機構)の調査においては、全面禁止と何らかの条件付きの企業をあわせ80%を超える企業が副業を制限しており、しかも、近年になって制限をする企業はむしろ増える傾向にあります。

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しばらくその企業の中にいて信頼関係ができている従業員がなし崩し的に副業を認めてもらうことはありえても、入社前から兼業を公言する候補者を受け入れるとなると話は別。一人の候補者の”実験的採用”のために、現在進行形で全社員に適用している就業規則をおいそれと変えるわけにはいかず、人事はそんな手間やリスクを乗り越えてまで採用しようと行動はしてくれません。私自身、知人経由で私の採用を前向きに検討いただいても、人事のところでお話にならなくなるケースがほとんどでした。そんな中で私は運良く理解を示してくださる数少ない企業と出会い、ダブルキャリアをスタートすることができ、トリプル・クアドラプルキャリアを目指すべく目下営業活動中ですが、この風向きが変わるのには少なくともあと5年は掛かるのではと予想します。兼業サラリーマン市場は、飛び込むにはまだまだリスクばかりが大きいというのが、現時点での偽らざる所感です。

もし私のような兼業志向をお持ちの方は、まさにこの本で提唱されている、あくまで本業を大切にした「ダブルキャリア」に今は留めておくことをお勧めします。そして、そういった方が一人でも多く生まれ業績的にも成果を出されることが、企業の猜疑心を解き、副業そして兼業が広く認められていくきっかけになるのではと期待しています。
 

【本】アジア労働法の実務Q&A ― アジア新興国労働法の比較表がついにできました

 
ここ数年でグローバル展開をはじめた日本企業が、中国以外のアジア主要国にも拠点を出し、現地採用をはじめてしばらくたったぐらいの、ちょうど今をとらえた待望の書。


アジア労働法の実務Q&Aアジア労働法の実務Q&A
著者:安西 明毅
販売元:商事法務
(2011-11)
販売元:Amazon.co.jp



インド・インドネシア・シンガポール・タイ・ベトナム・マレーシア計6カ国について、序章で大まかな比較をしたうえで、1カ国あたり70-80ページずつ使って、各国の法体系・労働関連諸法の概説・Q&Aという構成でまとまめられています
はしがきにこの本のウリが凝縮されていますのでご紹介。

中国に関しては、多くの日系企業が既に進出していることもあり、中国の労働法を日本語で解説した文献も多く見られるものの、その他のアジア諸国の労働法については日本語による解説書は極めて少ない。さらに、各国の労働法について一覧性がある文献はほとんど見当たらない。
このような点を踏まえ、本書において工夫した点は、まず一覧性である。日系企業がアジアの一国だけに進出していることはあまりないため、各国の包括的、比較的な視点が必要である。この点を考慮して、できるだけ質問の項目を揃え、また最初に比較表を作成し、各国ごとの特徴が明確になるよう工夫した。

私も仕事がらアジア各国の労働法は進んで調査し学ぶようにしていますが、いざ専門家が書いた信頼のおけるアジア労働法の解説書を探してみると、これがほとんど見当たらなかったりします。たとえば今大人気の国シンガポールをとってみても、解雇に正当事由が不要など法律が会社側に有利にできており、そもそもビジネス上問題となる法的論点が少ないことから、それを解説する法律書もほとんど存在しないのです。それ以外の国についても、日本のように書籍文化が発達しているわけもなく・・・。欧米労働法の比較ならいざしらず、アジア新興国労働法を比較した信頼できる文献は、私が知る限り、“GETTING THE DEAL THROUGH”シリーズぐらいじゃないでしょうか。
そんな状況下、これだけ綺麗に情報が整理された本が日本にいながらにして入手でき、しかもそれが私たちの母国語で読めるということに、大袈裟かもしれませんがありがたみすら感じます。巻末付録になっているこの各国労働法制比較表を手に入れるだけでも、¥5,600(税別)払う価値があるというものです。

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もう1点、著者の顔ぶれがおもしろい。森濱田松本の小山洋平先生・塙晋先生、三宅山崎法律事務所の中山達樹先生、アンダーソン毛利友常の安西明毅先生、Rajah&Tann法律事務所在シンガポールの栗田哲郎先生という、アジアに留学・駐在経験をお持ちの5人が、事務所の垣根を超えて持てるノウハウを注ぎ込んでくださっています。ふたたびはしがきより。

執筆者らが、出向、勤務している(していた)現地法律事務所で実際に受けた労務相談の内容、現地法律事務所の労働法の専門家の意見を踏まえることで、法文上の議論だけではなく、実務の観点からの解決策を提示できるよう心掛けた。
本書の執筆者は、それぞれアメリカ・アジアのロースクールで学び、そして、アジアで出会って集った日本法の弁護士である。日本法の弁護士として、これから日系企業におけるアジア進出を支援していきたいという志のもと、意気投合した仲間である。

数か月後には、同じようなコンセプトの本が雨後の筍のように出版されることでしょうが、そのいずれもがこの本のパクリに見えてしまうであろうほどの完成度。著者の一人中山先生のブログによれば1年がかりだったそうですが、このような難しいプロジェクトを、他に先駆けていち早くまとめ上げて世に出してくださった5人の先生方に感謝して、大切に使わせていただきます。
 

【雑誌】BUSINESS LAW JOURNAL No.42 9月号 ― 退職者の守秘義務と競業避止義務遵守徹底のお作法

 
会社側にとっても従業員側にとっても、「定めるは易し、守るは難し」な規程の代表格である守秘義務と競業避止義務。私も何回かこのブログでネタにさせていただいています。

【本】営業秘密と競業避止義務の法務―転職を制限したいなら、代償措置を明示せよ
【本】競業避止義務・秘密保持義務―労働者には職業選択の自由が保障されると言っても、実際のところ裁判での勝率は52.7%程度に過ぎない件

しかし、やはり中国への技術流出が具体的かつ顕著なリスクとして発覚していることもあってか、メーカーを中心に会社側が敏感になりはじめていて、そろそろ日本でも「建前」では済まされ無くなりそうな雰囲気を私は感じています。その空気を感じ取ってくださったのか、今月のBLJはかなり濃い守秘・競業避止義務の特集を組んでいて、このクオリティがまたすばらしい。


BUSINESS LAW JOURNAL (ビジネスロー・ジャーナル) 2011年 09月号 [雑誌]BUSINESS LAW JOURNAL (ビジネスロー・ジャーナル) 2011年 09月号 [雑誌]
販売元:レクシスネクシス
(2011-07-21)
販売元:Amazon.co.jp



不正競争防止法を始めとする法的な側面からの整理、裁判例に見る競業避止義務のタイプごとの有効性判断の解説を専門の先生方が解説するだけで終わらないのが、BLJの良い所。人材業に携わる私から見ても日本でも有数の採用・人事実務のプロ集団と思われる日本GE社の雇用労働法務担当(しかも日本法/NY州法弁護士!)のコメントを取って下さっていて、この「お作法」のリアリティは本当に参考になりました。ざっくりと要約してご紹介させていただくとこんな感じ。

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  • 退職時面談は、法務かコンプライアンス部が担当
  • 守秘義務について、転職先の会社名を教えてくれた社員に対しては、事前にその会社のウェブサイトなどをチェックし、当社の秘密情報が使われるおそれがある部分をお互いに確認し、秘密情報の範囲を具体的に説明し、社員からも質問してもらい、正しく理解してもらう
  • 競業避止義務に関しては、法的効果より、社員に精神的プレッシャーを与える効果に注目
  • 周囲から「競合に転職する懸念がある」という連絡が法務に入る場合、事実関係が確認できるまで自宅待機を命じてメールや会社のデータベースへのアクセス制限を行い、懲戒解雇を含め厳正に対処
  • 警告書として、本人や場合により転職した先の会社に内容証明で警告書を送付することも

ヘタに法務パーソンが法的な有効性だけを追求するとこうはならず、「競業避止義務は具体的に禁止業界や禁止分野を特定した上で、期間を2年内にとどめ、かつ給与の内の◯%を秘密保持義務手当として支払い・・・」などと、頭でっかちな絵空事を述べがちだったりしますが、本当に実務で考えぬくと結局こういうところに落ち着くんだなあということがよく分かりました。特に、退職時面談を法務かコンプライアンス部が担当しているという時点で、上っ面だけでこれらの規程の運用をしている他社とは圧倒的な迫力の差を感じます。

そして、送り出しだけでなく、お迎えの「お作法」も抜かりない。
他社から当社へ転職してくる人にも注意が必要です。当社が訴えられるリスクがあるからです。したがって、候補者に対しては、面接担当者が「我々はあなたの現雇用主に関する情報には関心がないので、絶対話さないでください」とはっきり伝えます。明らかに競合から来ていることが分かっていれば、面談を控えることもありますし、候補者の競業避止義務や守秘義務について質問・説明を受けたこと、このような義務がないことを確認する趣旨の書面を一筆残してもらい、入社時にも同様の書面にサインしてもらいます。

他社から人を引っこ抜いてお客様や技術情報を横取りしようなんていう会社が、永続的に発展するわけもないですし、転職者だってその会社で長持ちするわけないですよね。
 

企業の採用面接試験の内容を受験者が公開することに違法性はあるか

 
企業法務について」の@kataxさんから頂いたこの問いについて。

2011/06/22 23:45:32
企業法務について : これから「転職」の話をしよう(その2) http://blog.livedoor.jp/kigyouhoumu/archives/52469566.html

2011/06/22 23:54:20
@dtk1970 秘密情報を漏らしてるわけでもないし、迷惑被る人もいないだろうし問題ないだろうと思いつつ、似たようなことを書いている人を見たことがないので内心ビクビクしています(笑)

2011/06/23 06:15:37
@katax @dtk1970 全然問題ないし私も含めみんなの参考になる良記事だと思います。企業法務マンサバイバルの最初も転職活動日記でした。落ちた企業名まで書く度量はなかったけどw。 http://t.co/39bqvKX

2011/06/23 07:17:44
@takujihashizume @dtk1970 今回の肝は、企業名を書くというところにありました。中傷や秘密情報の漏洩をしなければ問題ないだろうとは思いつつ、前例があまりないのでビクビクです。面接は求職者が企業を見極める場でもあるということの顕れになればいいなと思ってます。

企業の採用面接試験の内容を、その社名とともに受験者が公開することに違法性はあるのでしょうか?
結論としては、特約がなければ違法性はないと思っています。

論点としては以下3つと整理しました。
1)面接の内容にプライバシーが認められ得るか
2)面接の内容に著作物性が認められ得るか
3)面接の内容を公開することで公正な選考が困難になるという点で不法行為性が認められ得るか
いずれも、相当特殊な事例でない限り認められない、と考えます。

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1)面接の内容にプライバシーが認められ得るか


憲法第13条の幸福追求権から判例上確立されたプライバシー権は、「他人に知られたくない個人情報をみだりに他人に公開されない権利」と定義してよいと思います。確かに、採用面接試験を密室で少人数で行われる会話ととらえれば、このプライバシーの無断公開と捉えたくもなります。

しかし、根本的な問題として、ここ日本において法人としての行為にプライバシーが認められた判例は公刊物では確認できません。またアメリカの連邦最高裁では、法人を主体とするプライバシー権は認められないとする判決も出されているところです。

面接官が、個人的なプライバシーに触れる話題を持ち出すケースも無きにしも非ずかもしれません。
今日のABC社の面接官として出てきたのは50歳ぐらいの法務部長。『実は俺も今この会社で立場が危うくてさあ』なんて愚痴ってました。
なんてtwitterに書き込んでみたり。しかし、仮にこういうコメントを応募者が公開したとしても、面接という公式な場であえて本人が応募者に愚痴ったことについて、後から「プライバシー侵害だ」と主張するのは相当無理筋でしょうね。公開されたくなかったら自分から言うなよと。

2)面接の内容に著作物性が認められ得るか


私信としての電子メールの無断公開に対し、最も取りやすい有効な法的対抗措置として、メールが著作物であることに着眼した著作者人格権(著作権法第18条の公表権)を根拠とする損害賠償や差止めがあります。

面接の内容も、著作権法に定める著作物としての要件、すなわち「思想又は感情の創作的な表現であり、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」であれば「口述の著作物」となりえそうです。しかし、人の能力・経験の有無や確からしさ、当意即妙性を確かめるための質問が、この著作物の要件を満たすのは難しいでしょう。

例外はないわけではなく、マイクロソフトやグーグルの面接で繰り出されるハイクオリティでオリジナリティのある質問は、本にもなっちゃうぐらいなわけなので、一言一句忠実にその表現を公開すれば、口述の著作物の無断公開行為ととらえることも不可能ではないかもしれませんが。

ビル・ゲイツの面接試験―富士山をどう動かしますか?ビル・ゲイツの面接試験―富士山をどう動かしますか?
著者:ウィリアム パウンドストーン
販売元:青土社
(2003-06-15)
販売元:Amazon.co.jp
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[非公認] Googleの入社試験[非公認] Googleの入社試験
販売元:徳間書店
(2008-07-31)
販売元:Amazon.co.jp


なお例外として、言語能力や計数能力を測る筆記試験の問題を超人的な記憶力で覚え、ほぼそのまま公開するのは、表現物としての筆記試験の著作物性を侵害しているとされる可能性は高くなる他、後述する3の観点からも違法性は否定できなくなると考えます。

3)面接の内容を公開することで企業の意図する公正な選考が困難になるという点での不法行為性が認められ得るか


今回論点として取り上げた3つの中で、最も企業がその法的根拠とできる可能性が高いのが、この不法行為のアプローチでしょうか。

「面接官にこんなことを聞かれた」「この企業では必ずこんな質問が出る」という評判が出回ることは少なくありません。とくに、新卒学生の面接なんかでは、聞けることも限られているのでだいたい同じ質問になってしまいがちですし、応募者の学生側も情報に飢えているので、ネットで一気に広まっている実態はあると思います。
このような行為は、コストを掛けて面接官をトレーニングしたり、どのような面接をしたら応募者の本音が聞き出せるかに四苦八苦している企業としては、快くは思わないでしょう。

とはいえ、不法行為成立の要件である損害の発生、そして行為と損害との間の因果関係の存在の立証は、困難を極めると思います。なぜなら、採用面接というものは学力テストとは違い、必ずしも出される質問を知っているから満点回答ができる=採用されるというものではないからです。せいぜい、ネタバレしたから別の質問を考えなくてはいけなくなった、という程度のもので、それが損害として認定されるとはちょっと思えません。


以上により、採用面接でなされた質問を応募者が公開する行為については特約がない限り違法性はないものと考えます。
企業側の立場として、どうしても公開されたくなかったら、面接する前に守秘義務契約を結ぶしかないですかね・・・。まあそんな企業は入りたくなくなっちゃうでしょうけど。
 

【本】社外勤務管理ハンドブック ― 「テレワーク」「在宅勤務」も社外勤務のひとつです

 
とある理由から、2月頃より「テレワーク」「在宅勤務」の研究・リサーチを個人的にはじめていたのですが、3.11の追い風も手伝ってこのテーマの本が飛ぶように売れているようで、書店でも平積みされている姿を良く見かけます。

しかし、このテーマの本で法律面・実務面の両方をちゃんとカバーしているいい本というものは、なかなか見当たりません。「ICTを活用したテレワーク・在宅勤務でワーク・ライフ・バランスを改善!」みたいな、申し訳ないんですがスローガンを連呼しているだけの胡散臭い本であふれている分野なんだということに気付かされます。

で、本日現在、法務・人事クラスタの皆様に本当に役立ちそうな本は、こちらぐらいかなと思っています。


社外勤務管理ハンドブック―会社外での勤務を管理し、柔軟な働き方を円滑に進めるために社外勤務管理ハンドブック―会社外での勤務を管理し、柔軟な働き方を円滑に進めるために
販売元:経営書院
(2009-05)
販売元:Amazon.co.jp



この本の一番の特徴は、少し逆説的な物言いですが、「テレワーク」や「在宅勤務」だけを特集した本とは一線を画し、「社外勤務」をどう管理するかというより大きな視点でまとめられている点にあります。
つたない図で恐縮ですが、つまるところこの図の赤破線内の“狭義のテレワーク”にあえて限定せず、既にこれまでの人事実務で様々なノウハウが蓄積されている「出張」「出向」「海外勤務」などの実務を踏まえて、“広義のテレワーク”の実務を解説しているということ。
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特にその特徴がにじみ出ているのが、この本のメインコンテンツである見開き2ページでまとめられたQ&A。テレワーク・在宅勤務に特有のQ&Aももちろん記載されているのですが、むしろそれ以外の社外勤務に関するこんな「古めかしい」Q&Aが沢山列挙されています。

・社外の勤務場所への移動時間を、休憩時間にできるか?
・外勤者の営業手当を、時間外労働手当込みに変更できるか?
・出張費のうち、移動費用はどこまでを会社持ちとすべきか?
・出張中の過労による死亡は、労務災害か?

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お気づきでしょうか?テレワークや在宅勤務で発生する問題とは、何も今に始まった話ではなく、これまでも人事が四苦八苦しながら“例外的に”個別対処してきた「新しいけど古めかしい」問題と同じなのであって、この様な例外対応が発生する頻度が高まるだけだということに。言われてみれば当たり前なのですが、「社外勤務」という大きな括り方をして体系的に説明されることで、その当たり前に気づかせてくれます。

テレワーク・在宅勤務導入の成否は、法務部門がそれにあわせて就業規則をレビューすることや情報システム部門がセキュリティ対策を強化することよりも、これまでの“人事的例外判断”のノウハウを体系化し適切に適用・運用できるようにすることのほうがよっぽど重要。この本を読めば、そのことが骨身に沁みてわかると思います。
 

【本】テレワーク 「未来型労働」の現実 ― 3.11以降もテレワークが広まらないその理由


なぜテレワークは広まらないのか?その理由を豊富な取材に基づく正確で端的な筆致で直視させてくれる良本。


テレワーク―「未来型労働」の現実 (岩波新書)テレワーク―「未来型労働」の現実 (岩波新書)
著者:佐藤 彰男
販売元:岩波書店
(2008-05-20)
販売元:Amazon.co.jp


これまでテレワークと言えば、労働者サイドからのワーク・ライフ・バランス的要請の色合いが強かったわけですが、2011.3.11の震災、そして今も引き続く計画停電・原子力発電所の危機を契機として、企業サイドのBCP的要請からもテレワークが広まるのではないか、という言説が多く見られるようになりました。企業の生産性維持・事業継続のためのテレワークという文脈が現実味を帯びてきたのでは?と。私もその言説に加担した一人です。そして、この本の著者佐藤彰男氏も、そういった意味でのテレワークのメリットは否定していません。

否定はしないものの、メリット以上に過酷な労働を生むデメリットが大きく、導入は慎重に考えたほうがよい、というのがこの本を通じての著者の主張となっています。

どこでも働ける/働かされることのメリットとは何だろう。結局のところ、その理由は労働の効率化につきる。情報化の進展によって、決まったオフィスだけではなく、いたるところで働ける/働かされるようになったので、全体としてみれば仕事の能率は向上する。労働の効率化こそが、テレワークが持つ実質的な価値なのである。
この場合の効率化とは、売り上げの上昇や単位時間内の書類処理量の増加といった、狭い意味での労働生産性の向上だけを指すのではない。たとえば「通勤時間の無駄をはぶく」「営業所を廃止する」といったことも、この意味での効率化に含まれる。
そしてこの効率化の方向性が、テレワークの実態を決定していく。通勤をなくして浮いた時間を私生活に充当するなら、テレワーカーの生活にも一定のゆとりが生まれるが、営業所を廃して生産性の向上だけをめざせば、職場でも自宅でも一日中働く過酷な労働が出現するだろう。

「過酷な労働」の現実とは、一つが長時間過重労働の温床となるという現実、そしてもう一つが低賃金労働の口実となるという現実です。著者は、実在する8人のモバイルワーカー/在宅ワーカーへの取材を通し、この現実を淡々と描写します。

前者の代表例として取材されているのが正社員MR(Medical Representative/医薬情報担当者)です。高収入と引き換えに、いつでもどこでも仕事ができるモバイルツールを持たされ、暗黙のうちに深夜・休日を問わず労働することを強いられる、いわば“モバイル過重労働者”。
もう一方の後者の代表例が、いわゆるママさん請負在宅ワーカー。入力業務や情報処理業務を、子育てや家事の合間に低賃金で行う家計補助的な労働。いわば“低賃金電脳内職者”です。

良かれと思って導入するテレワークが、結果的に“モバイル過重労働者”や“低賃金電脳内職者”を産まないためにはどうすればいいのか。著者は、著者は、その設計と運用が困難であることは承知の上で、最低工賃制の導入が必要だと主張します。

つきつめていえば、「適正な報酬」も「適正な労働時間」と表裏の関係にある。そして在宅ワーカーたちの働きぶりが、発注元からもエージェントからも、不可視化されていること、また時給がどれだけ安かろうが、それを受注するかどうかは、ワーカーの自己裁量にまかされていることが惨状を隠蔽する。
それでは、在宅ワークの低報酬問題について、有効な対策はあり得るだろうか。私見ではあるが、「時給100円でも引き受けるのは本人の自由」というように極端な自己裁量の幅を、ある程度制限すべきだろう。
そのような観点からみれば、在宅ワークにも最低工賃制を適用することが有効と考えられる。
最低工賃制が有効であるためには、常にその時点で一般的な在宅ワークの内容を把握し、最低工賃の対象として迅速に指定し、適正な報酬額を決定するという作業を継続的に繰り返さなければならない。その作業を担当する部局は相当な人材や予算を要するだろうし、さらに制度が実効性をもつよう監視し、指導することも重要になる。

まさに、仕事という単位で人の“成果”を表現すること・測ることから逃げ、時間という単位でそれを代用し続けてきたツケを、どこでどうやって精算するかの問題といえます。

メンバーシップ型雇用に甘えてきた雇用慣行をジョブ型に切り替えるところからはじめなければならないとすれば、日本におけるテレワークの導入と浸透は、果てしなく遠く長い道のりなのかもしれません。
 

「自宅待機」と賃金カットのジレンマ

 
大地震、大津波、原発事故そして計画停電が重なって、「自宅待機」を発令する会社が増えています。

ソニーや富士フイルム、社員を自宅待機 停電などに対応(asahi.com)
ソニーは15日、東京の本社勤務者を対象に、16日は自宅待機とすることを決めた。業務に必要な社員のみが出社する。東京電力の計画停電の影響で通勤が難しい社員がいることや、節電に協力するため。本社には約6千人が勤務している。

 富士フイルムホールディングスも、都内の本社を含む関東地方の事業拠点の多くで、社員を16日まで自宅待機させる。15日は通常勤務だったが、昼ごろから社員の多くを退社させた。電力不足への対応が主な理由だが、福島第一原発の事故が深刻化し、「社員の安全に配慮して推移を見守る必要がある」(広報)ことも理由の一つという。

 また、ミクシィは15日、都内の本社勤務者の多くを自宅待機させた。できる範囲でパソコンを使って在宅勤務するよう呼びかけたという。

従業員にとっては、災害への不安を抱えて通勤・勤務するよりかは、自宅待機にしてもらった方が気が休まるというものです。しかしその一方で、実は違う不安を生むというジレンマを抱えています。「ノーワーク・ノーペイ」の原則にもとづく賃金のカットが可能となるかもしれない、という点です。

以下、労働基準法第26条より。
(休業手当)
第二十六条 使用者の責に帰すべき事由による休業の場合においては、使用者は、休業期間中当該労働者に、その平均賃金の百分の六十以上の手当を支払わなければならない。

この条文は、裏をかえせば「使用者の責に帰すべき事由」によらない休業であれば休業手当を支払う必要はなし、ということを述べています。つまり、天災地変による自宅待機と考えるならば、会社はその期間休業手当を支払わない=その期間分の賃金をカットをすることも可能、ということ。

さすがに、今回の震災の直接の被災地である東北や関東北部については、どこの裁判所に行っても天災地変による休業はやむなしとして、賃金カットは合法となるでしょう。問題は、東京における自宅待機命令についてです。東京の今は、冷静に考えれば地震の被害も限定的で、津波の被害はもちろんなく、原発による避難・屋内待機勧告地域でもありません。間引き運転や一部運休時間はあるものの、3/15からは私鉄もJRもほとんど動き出してます。果たして、この現在の東京の状態が賃金カットを合法にできるほどの天災地変状態かと言うと、かなり微妙のような気がします。自宅待機で喜んだのも束の間、ノーワーク・ノーペイが原則なんだから給与は支払わないよなんていうシビアな経営者と、休業手当は支払えと主張する従業員との関係がこじれる会社も、早晩現れるかもしれません。


それでは、そうならないような健全な「自宅待機」を実現するには、どう対応すべきでしょうか?

短期的な落とし所として考えられるのは、会社側と組合(組合がない場合は従業員の代表者)とで労使協定を結び、臨時の「計画年休」を設定することによって、これからの数日間を有給休暇として堂々と休ませるという手法です。震災に加えて弱り目に祟り目な結果につながりかねない賃金カットを行って従業員とギスギス感を生むよりも、遠慮深い多くの日本の「サラリーマン」が取得することなく余らせてきた有給休暇を、この際有効活用してはどうかと。

そして、長期的な解決のためには、事業場外のみなし労働制を全社員に導入し、メールだけでなく在宅でも遜色なく働けるシステム環境を作り、(「自宅待機」ではなく)「リモートワーク(在宅勤務)」ができる環境にしていくことでしょう。今回の震災を契機として、リモートワークが多くの会社で導入され日本の労働慣行を変えていくであろうことは、間違いなさそうです。


3/16 19:00 追記:

厚生労働省より、休業手当に関する通達が発出されました。

計画停電時の休業手当について(厚生労働省)

読みにくい通達文書なので、ポイントを以下に。
1)計画停電時間について休業とする場合は、当該時間の休業手当の支払い義務なし
2)計画停電時間以外の時間帯をも含めて休業とする場合は、“原則として”休業手当の支払い義務あり
3)計画停電が実施されるものと思って休業したのに実施されなかった場合は、その事情に応じて判断

ただし、事業場(=オフィス・工場)が判定の単位とされていることには注意が必要です。実態として最も多そうな「工場/一部のオフィスが計画停電に入ってるから、本社も1日休業にしてしまおう」という様なパターンにおいては、会社は休業手当を支払う義務あり、という解釈になると考えます。


参考情報:

計画年休制とは何ですか(独立行政法人労働政策研究・研修機構)
 

更なる定年延長義務の強化が、「古きよき終身雇用制度」の崩壊を招く


イギリスが「定年制廃止」をすると聞いて触発されたのか、ここ日本でも「定年延長」というアイデアを経済産業大臣が口にしたとのこと。



しかし、このイギリスの「定年制廃止」と日本の「定年延長」が似て非なるものであるということに、みなさんお気づきでしょうか。

英政府、4月から民間企業の定年制を撤廃(日テレNEWS)
これはイギリス政府が13日に発表したもので、「65歳」としている民間企業の定年制を今年4月から廃止する。これにより、今後、企業は年齢を理由に退職させることができなくなる。イギリスでは、財政再建のための大幅な予算削減に伴い、年金の受給年齢が68歳に引き上げられることになっていて、収入がない期間をつくらないよう定年をなくすことにしたもの。

英国職業技能省(Department for Business, Innovation and Skills)の公式アナウンスとガイダンスを読むと、「法律上経営側の権利として定められていた65歳定年制をremoveする」という言い回しになっています。ポイントは、デフォルトで設定されていた65歳定年制がなくなるというだけで、65歳以上まで雇うことを義務づけたものではない、という点。

法律上解雇に合理的な理由が必要な国において、「65歳になったから」という理由で円満に労働契約を終了できる定年制をなくすということは、合理的な理由となりえる事象(懲戒や成績不良)が1回でも発生すれば、65歳まで勤め上げることなく解雇される可能性も高まります(ガイドライン上も、そのことを肯定する説明がなされています)。つまり、お年寄りを保護するように見えて、実は企業による合理的な解雇を助長し、より労働者にシビアな競争を求めるものにもなりうる、“定年なき自由競争”への突入を宣言するものでもある、という点が重要です。


対して、日本はどうか。

年金支給年齢引き上げも=定年延長前提、中長期構想で−与謝野経財相
与謝野馨経済財政担当相は21日、首相官邸で開かれた新成長戦略実現会議の席上、「『人生90年』を前提として定年延長を考え、同時に年金の支給開始年齢を引き上げることが考えられる」と述べた。

こちらが考えたのは、定年制の延長。
つまり、イギリスのように定年制をあえてなくして“定年なき自由競争”とするのでなく、高年齢者等の雇用の安定等に関する法律に定められた、
第八条(定年を定める場合の年齢)
事業主がその雇用する労働者の定年(以下単に「定年」という。)の定めをする場合には、当該定年は、六十歳を下回ることができない。
第九条(高年齢者雇用確保措置)
定年(六十五歳未満のものに限る。以下この条において同じ。)の定めをしている事業主は、その雇用する高年齢者の六十五歳までの安定した雇用を確保するため、次の各号に掲げる措置(以下「高年齢者雇用確保措置」という。)のいずれかを講じなければならない。
一  当該定年の引上げ
二  継続雇用制度(現に雇用している高年齢者が希望するときは、当該高年齢者をその定年後も引き続いて雇用する制度をいう。以下同じ。)の導入
三  当該定年の定めの廃止
この高年齢者雇用義務を強化し、68〜70歳あたりまで引き上げさせることを考えているようです。イギリスよりもより明確に、企業に強制的に雇用という負担をさせようと考えているのでしょう。

しかし、年金の受給開始年齢引き上げ対策のはずのこの政策は、(イギリスと同様に)新たな労働問題を生むのではないかと、私は考えます。というのも、このような更なる定年延長がここ日本において現実のものとなったとき、日本政府の期待に反して、賢い企業経営者達は、68〜70歳まで大量の社員に居座られるリスクと不当解雇で一部の社員と紛争になるリスクを天秤にかけ、自ら定年制を廃止するという道を選択し、合理的な理由に基づく解雇を定年年齢前に行うようになるはずだからです。その結果、日本の高齢者も、ひいては若者も“定年なき自由競争”に晒されていくことになります。

意外なところから、いよいよ日本の「古きよき終身雇用制度」を崩壊させるきっかけが生まれそうな予感がします。
 

「Facebook上で会社の愚痴を言う自由」は奪えない


Facebookなどのオンラインのメディアで会社や上司の愚痴を言うのは、労働者の権利であり、不当な解雇がなされればNational Labor Relations Act(日本でいう労基法や労働組合法)で守られるという法的解釈を、NLRB(全米労働関係委員会)が出したというお話。

NLRB


Federal labor law may protect Facebook post criticizing employer(LEXSOLOGY)※要登録
It should come as no surprise that employees sometimes complain about work, and may even do so online. Many employers may contemplate disciplining employees for making disparaging comments or complaints in such a forum. However, the National Labor Relations Board (NLRB or the Board) recently indicated that employee complaints about work posted online may be protected activity under the National Labor Relations Act (NLRA). By so doing, the NLRB sets the stage to weigh in for the first time on the subject of employee rights with respect to social media.

American Medical Response of Connecticut, Inc.という民間の救急搬送業を営む会社につとめる従業員の1人が、会社の管理監督者への愚痴として、Facebookにこんなコメントを書き込んだのだそう。
"Love how the company allows a [psychiatric patient] to be a supervisor."
うーん、愚痴とはいえ傍目から見ても日本語に訳すのもちょっとはばかられるようなコメントですが…。
これに他の同僚2名も好意的なコメントを重ねていたのが会社の知るところになり、ついにこの従業員は解雇されてしまいました。会社側はあらかじめソーシャルメディアポリシーでもこのような行為を禁じていたためです。しかし、このようなソーシャルメディアポリシーの定め並びに解雇は、NLRAの7条で保障された労働者の権利を侵害する不当な取扱いにあたる、とNLRBが見解を示したというのが本件の顛末。

ソーシャルメディアポリシー/ガイドラインの定め方についてこのブログでも何度か述べてきましたが、従業員に対し営業秘密やハラスメントにつながる発言を禁止することはできても、会社に対する不平不満を口にするのはポリシーでも禁止できないし、それを理由に不当な扱いをすることはできないということが(解雇が原則自由なアメリカでも)これだけはっきり確認されたということは、サイバースペースにおける表現の自由という観点で言えば当たり前といえば当たり前の、しかしソーシャルメディアの脅威にさらされる会社にとっては戦々恐々な出来事ではないでしょうか。

日本においても、明文上は根拠はないものの同じような発想で労働者を保護することは不可能ではないでしょう。企業サイドの法務・人事としてソーシャルメディアポリシー/ガイドラインを決める際には、このあたりは言葉を選んで策定されたほうが良さそうです。

【本】グローバル企業の人事リストラ戦略 ― 「行きはよいよい帰りはこわい」じゃ困ります

 
弊ブログでご紹介する本をお買い求めくださる方は結構いらっしゃって、いつも本当に有り難い限りです。

もちろん、誰がどんな本を買っているかはこちらからは特定できないわけですが、毎月のAmazon売上集計を拝見していると、随分昔にこのブログで紹介したマニアックな専門書をふとしたタイミングで購入して下さっているのがわかり、「今この本を買ってくださった方は、きっとこんな課題にぶち当たって苦労されているのだろうなあ」なんていう想像を膨らませていたりします。

そんな中、10月分のAmazon売上集計を見ていると、明らかに今どきな傾向が現れていることに気づきます。それは、随分前にご紹介した『グローバル人事 ― 課題と現実』が飛ぶように売れているということ。[グローバル+人事+法務]でググると当該記事がトップに出るということもありますが、グローバル化が企業にとっての切実な課題になってきたことの証左でしょう。

そんなグローバルブームに便乗して、もう一冊ご紹介しよう(笑)という企画。

グローバル企業の人事リストラ戦略 事業再編・撤退における人員整理の法務



日本/アメリカ/イギリス/フランス/ドイツ/中国/オーストラリアの計7カ国の労働法におけるリストラにまつわる法制と慣習のみをまとめた本。ストレートに言えば、いかに安全に従業員をクビにしEXITするかを考える本です。

この顔ぶれの中では俄然中国が注目なわけですが、そこは著者サイド(TMI総合法律事務所)も当然心得ているわけでして、総ページ数300頁のうち60頁あまりを割いて解説する力の入れよう。

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解説の中身も、単に条文を解説していくというものではなく、
・異動・減給
・ワークシェアリング
・一時帰休
・個別解雇
・希望退職制度
・整理解雇
というようなリストラの具体的手法ごとに配慮すべき法律の条文を当てはめていくスタイルが取られているところに、工夫のあとが見られます。例えば、“異動・減給“の項の「法的根拠」の解説を読むと、
職種、職場、職位、賃金等労働条件の更新であり、法的には労働契約の変更(労働契約法第35条、第17条)に該当する。
従って、要件は、1)当事者の合意と2)契約書への記載である(労働契約法第35条、第17条)。
といった具合に。


経営者として、解雇にリスクがあるからという理由でその国への進出をやめるなどというビジネス判断をするはずはありません。加えて、実際にリストラをする重大な局面では、当該国の弁護士にアドバイスを貰うわけで、進出する前から解雇法制を完全に理解しておく必要もないと思います。

そうは言っても、その国の人々の力を借りてビジネスをする以上、「これから進出する国で労働者に対して負う責任の重み」をできるだけ正確に理解した上で進出し、やむなく退出する際にも立つ鳥跡を濁さぬよう備えておくのが、グローバル企業の経営者たるもの(そしてそれを支える法務たるもの)の最低限のマナーだと思います。その意味で、この本はお役に立つことでしょう。

「見た目採用」は違法や差別にあたらない ― それでも気味が悪いのは何故か

 
昨日あたり相当話題になってたこのネタ。

サイバーエージェント社の内定式がリア充すぎると話題に(ネタ的な画像ちゃんねる)

日本の履歴書には写真貼付欄が当たり前のようにあり、面接では話の内容もさることながら身だしなみ・面構え・眼ヂカラを含めた容姿の良さも大きく影響するだろうことからすると、「見た目」が選考の一要素となっていることは否定しようもないと思うのですが、美男・美女という意味での「見た目」で採用するとはなにごとか!という批判は後を立ちません。

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この点、日本には差別を直接的に禁止する差別禁止法がなく、採用選考において見た目を合否の決定に用いることが違法や差別にあたるのか否か、法的な見解も不明確な部分が多いところです。しかし、行政解釈ではいくつか踏み込んだ言及があります。たとえば、職業安定法では、原則収集を禁じている個人情報に「社会的差別の原因となるおそれのある事項」という曖昧な文言入れて規制をかけているのですが、厚生労働省は行政解釈でこの例として「容姿、スリーサイズ等差別的評価に繋がる情報」を挙げています(職業紹介事業の業務運営要領)。また、男女雇用機会均等法の2006年改正時に定められた指針(平18告示614号)とその解釈通達(平18雇児発1011002号)では、事業主が労働者の募集採用にあたり女性についてのみ「自宅から通勤すること等」を条件とすることは均等法5条違反となり、この等には「容姿端麗」が含まれるとしています。

ただし所詮これらは行政解釈であり、それ自体に法的な効果はありません。結局、裁判に持ち込まれた場合に、企業の「見た目採用」は違法・差別にあたるとされる可能性があるのか?この議論に終止符を打つ、男気ある労働法学者お二人のご意見をご紹介します。

まずお一方は、神戸大学の大内伸哉先生。

その著書の中で、「会社は、美人だけを採用してはダメなのであろうか」と題した章で、このように述べられています。

雇用社会の25の疑問


会社が、美人だけを好んで採用するという方針をたてて採用することは、本当に法的に問題はないのであろうか。
本人の能力ではなく、容姿だけに着目するのは経済的な合理性を欠くことになる可能性はある。大阪大学の大竹文雄教授の『経済学的思考のセンス』(中央新書・2005年)には、興味深い「美人の経済学」が紹介されている。それによると、美人が労働市場で得をしているとすると、それは三つの場合がありうる。第1に、美人の生産性とは別に、美人を雇いたいという会社の好みから美人が高い賃金を得るという場合。第2に、顧客が美人の社員に相手をしてもらうことを喜ぶから美人の生産性が高くなり、その結果、賃金が高まる場合。第3に、女優のように美人であることそのものが生産性を高めた結果、賃金が高まる場合である。このうち、第2、第3の場合は、生産性の裏付けがあるので、美人が高い賃金を得ても、効率性の点からは問題ない。これに対して、第1の場合のように、生産性の裏付けがない場合には、容貌による差別を禁止したほうが経済全体の生産性を高めることになる。

1のように会社の好みで美男美女を選んでいる会社であっても、「一緒に働く従業員がモチベーションアップするから経済合理性は十分あるのだ」とでも反論がありそうです(笑)。

それでも、大内先生はこのように述べて、法的には問題がないから放っておけ、と一刀両断します。

生産性の裏付けのない採用をしている会社は、長期的には競争力が低下して市場から退出していくはずである。そうであるならば、あえて法的な介入をする必要はないであろう


そしてお二人目が、私の一番好きな労働法学者、森戸英幸先生。

森戸先生はもう少し視野を広げて、特に差別に厳しいアメリカにおいて、ワシントンDCで「個人の外見(personal appearance)」を理由とする差別を禁止する法律が、サンフランシスコ市では「体型(size)」に基づく差別を禁止する条例がそれぞれ制定されていること、それらに基づく裁判例なども紹介しながら、しかしこのように結論づけられています。

差別禁止法の新展開―ダイヴァーシティの実現を目指して


募集・採用時においては、三菱樹脂事件最高裁判決を前提とする限り、前掲の行政解釈を除き明文の規定がない以上、見た目や容姿、体型を募集・採用の基準とすることは違法とはいえないということになるだろう。業務上の必要性や職務関連性なども基本的には問題とされない。つまり、モデルとか俳優など、「見た目」が勝負の職種でなくても、別に「見た目」がよくなくても十分できる仕事であっても、求職者の「見た目」を採用基準とすることはできると考えられる。

一見すると、大内先生よりもかなり急進的なご意見のように見えますが、その裏には、森戸先生ならではのこんな思いが。

法が「見た目」など新しい形態の差別を禁止対象とするたびに、労働者から「消去」しなければならないものが増えることになる。性別を消し去った上で人に接することはもしかしたら可能かもしれない。しかし、その人の「見た目」を、顔や声や体や仕草をすべてないものとしてその人に接するということがはたして可能なのか。それらをすべて消し去ったら、もはやそれは「人」ではないのではないか。

選考において当然に行われる面接の際に見た目が情報として眼に入ることは避けられない以上、見た目を一切採用選考の基準に使わないと公言する企業があればそれは嘘になると思いますし、企業が「人」を選んでいる以上、積極的に見た目を評価するのも採用企業の自由であると私も思います。

一方で、「見た目採用」をしていることや、「見た目採用」者に対して彼/彼女の見た目の良さに果たして何を期待しているのかを採用企業が明示していないとすれば、そのことには違和感を超えて気味悪さを感じます。会社として、その人の見た目の良さをどう生かすつもりなのか、何をして欲しいと思っているのかが明らかにされないで採用されているという状態。それが、「見た目採用」への得も言われぬ抵抗感を生んでいる最大の原因なのではないでしょうか。

法改正を待たずとも、解雇解禁は企業の心意気次第で成し得ると思う

 
センセーショナルを超えてアジテーショナル(笑)な週刊ダイヤモンドの特集「解雇解禁 ― タダ乗り正社員をクビにせよ」を読んで。

週刊 ダイヤモンド 2010年 8/28号


終身雇用のレールに乗った正社員だけが解雇規制で守られるのは、企業の労働生産性を下げ、失業と格差を増やすものであるから、この不平等状態を是正するために解雇規制を無くすべきだ
と声高に主張する本誌。「企業にもう福祉は担えない(p28)」と言いながら「雇用保険や職業訓練といったセーフティネットは必要(p58)」と言ってみたり(その財源の半分以上は企業が負担してるんですけど)と、ところどころ突っ込みどころの多い記事ではありますが、今の政府の“一億総正社員化政策”に対してこれだけ大々的に疑問を呈したのは、価値あることだと思います。

弊ブログでは、数年前から一貫して「解雇規制はもう事実上緩和されてるんじゃないか」というスタンスでものを述べてきたつもりですが、いよいよ時は来た、という感じでしょうか。

整理解雇の議論から生まれる、解雇権濫用法理の新たな潮流
【本】解雇規制の法と経済―緩和されていく解雇法規制から身を守る唯一の方法とは
【本】解雇法制を考える―コーポレートガバナンスの変化が解雇規制を緩和するという「痛み」を生んだという必然について
【雑誌】BUSINESS LAW JOURNAL No.13 4月号―秘密なんですけど、本当は企業から解雇するのって全然怖くない事なんですよ
終身雇用という幻想、というか誤解

本特集内の囲み記事では、水町勇一郎先生がこんなことをおっしゃっています。

日本の整理解雇法理は、相対的に厳しいことは間違いないが、具体的な判断は裁判所に委ねられており、実際、個別の事例を見て整理解雇を違法でないとする判決もある。法改正を伴わなくとも、労使の話し合いを基盤とした、客観的合理性・社会的相当性の判断に委ねることも十分可能だ。画一的な基準を画一的に適用するのではなく、変化に対応出来る柔軟な仕組みこそ必要だろう。

詳細な法的論点はこれまでのエントリで検討したとおりなのでここで重ねて申し上げることはしませんが、現行民法上も労基法上も労契法上もあくまで解雇自由が原則であることは忘れてはならないと思います。だからこそ、水町先生が言うように裁判所もすべての解雇を違法とせずに個別の事例を検討するわけで。

企業は、解雇規制という亡霊を前に思考停止して、なぜ解雇する必要があるのかについて説明責任を伴なう労使紛争から逃げているだけではないでしょうか。法改正を指を加えて待つばかりでなく、企業にとって本当に必要な解雇なら胸張って解雇しましょうよ、裁判所も今の時代に即した合理的な判決を出せる日をきっと待ってるはずですよ、というのがこの記事を読んでの私の感想です。
 

日本の労働市場に漂う閉塞感を打破するための新しいアイデア ― 随意“辞職”権の保障


日本独特の「新卒一括採用」「終身雇用制度」「年功序列型賃金制度」の存在が、労働市場の流動化を妨げている。失業者の再就職がままならないのもそのせいだ。
いや違う。企業の解雇の自由が認められないから、労働市場が流動化しないのだ。解雇規制こそ撤廃し、随意解雇が可能なアメリカ型か、金銭補償を義務付けるEU型にすべきだ。
そんな随意解雇を認めてしまったら、不当解雇も合法になってしまうじゃないか・・・。

こんな堂々巡りの議論が続いている日本。

人材ビジネスで労働市場形成に関わるものとして、この閉塞感を打破するいい解決策は何かないの?という問いに対して、アイデアを考えてみました。

それは、
労働者からの随意“辞職”権を法で保障することで、採用意欲のある企業の採用を容易かつ確実にする
もっとストレートな言い方をすれば、
企業による労働者の“スカウト”“引き抜き”が確実に出来るような法制度とすることで、転職市場を活性化させる
というもの。

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アメリカ型の「随意雇用の原則(employment at will)」について語られる際、しばしば企業に随意“解雇”権があるという側面だけが取り沙汰されます。でも本来は、雇用主からの解雇(dismissal)だけでなく労働者からの辞職(resignation)の自由をも含む語です。
随意“解雇”権を導入することで日本の終身雇用という慣習を破壊するのは刺激が強すぎるというならば、労働者側の随意“辞職”権のみ認めて、雇用主に対する労働者の交渉力を高めればいいのではないかと考えた次第。

もっとも、正確に言えば、今現在労働者の辞職の自由が認められていないわけではありません。しかしあまりに中途半端な自由であるがために、せっかく“スカウト”“引き抜き”のチャンスがあっても破談になるケースがあります。それは、
  • 原則、最低でも2週間前予告が必要(民法第627条第1項)
  • 就業規則で2週間よりも長い退職予告期間が定められている場合、不当に長いものでない限りその期間は辞職できない(厚生労働省監修『改訂版・新労働法実務相談』、下井隆史『労働基準法第三版』)
  • 年俸制の場合、3ヶ月前予告が必要になる(民法第627条第3項)
  • 有期雇用契約の場合は1年を超えないとやむを得ない事由のない限り自己都合での期間内辞職はできない(民法第628条・労働基準法第137条)
  • 雇用契約に競業避止義務が定められている場合は、一定の要件のもと転職の自由が制限されてしまう
という法律・行政解釈・学説・裁判例が存在するから。しかもたちの悪いことに、企業はこれらを楯に、退職時になにがしかの嫌がらせ・脅しをするのが常。
このような労働者の一方的辞職に関する規制を完全撤廃して、企業が嫌がらせ・脅しをかける余地を無くし、明日にでも自由に辞められる権利を認めれば、労働者も安心して転職ができ、かつスカウト・引き抜きする企業も安心して声を書けることができます。

採用意欲のある元気な会社から「ウチに来てくれませんか」と声をかけてもらうことは、労働者にとってこの上ないチャンスの瞬間です。そのチャンスを逃さずにすぐに転職できれば、迎える会社は必要なタイミングで必要な人材を調達でき、かつ労働者は三顧の礼を持って迎えられハッピーに働けるはず。

一方引き抜かれる企業は、自助努力で労働者が逃げない良い会社・良い待遇にするしかなく、それでも引き止められなければ、必然的に退職者が抜けた穴を中途採用で埋めることなり、新しい雇用が生まれる機会が発生して・・・

結果、労働市場はポジティブに活性化するような気がしますが、こんなアイデア、いかがでしょうか?
 

時代おくれの職業安定法第40条 ― 従業員紹介で人材採用に成功しても、その従業員にご褒美をあげると違法になるってホント?


一番カネがかからず、しかも当たり外れの少ない確実な人材採用の手段は何か。それはなんといっても「従業員紹介」でしょう(え、tacが所属する会社の人材サービスじゃないの?というツッコミどうもw)。

自分の会社で活躍する従業員が過去一緒に働いたことがある候補者であれば、身元も能力も社風との相性の良さもお墨付きなわけで、役員と確認程度の面接だけして採用、なんてパターンも多いのでは。

会社は求人広告や人材サービスを使わず低コストかつ安心な採用ができ、
従業員も自分が推薦した気心の知れた仲間と仕事ができ、
候補者自身も無駄な面接やテストの負担なく入社できる。
これ以上みんながハッピーな採用方法はありません。
海外では、そんな風に自分の会社の従業員が紹介する候補者が採用に至った場合に、その紹介した従業員にリファラルボーナスを支払うのが当たり前になっています。

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Jobvite 2010 Social Recruiting Surveyより

ところが、日本でそれをやると職業安定法第40条違反となることは、人事ご担当者でもご存知ない方の多いのではないでしょうか。

職業安定法 第四十条(報酬の供与の禁止)
労働者の募集を行う者は、その被用者で当該労働者の募集に従事するもの又は募集受託者に対し、賃金、給料その他これらに準ずるものを支払う場合又は第三十六条第二項の認可に係る報酬を与える場合を除き、報酬を与えてはならない。

使用者側弁護士として活躍されるロア・ユナイテッド法律事務所の岩出先生の本『実務 労働法講義〈上巻〉』にも、以下のような解説があります。

従業員リクルーターが新人をみつけてきて雇主に紹介して、その新人に採用できたとしても、雇主としては、通常リクルーターに支払っている賃金を支払う以外は(略)、交通費やその新人を勧誘・口説くためにかかった1、2度の接待のための簡単な食事の費用程度については支払えるであろうが、それ以外となると法的には微妙となる。まず、特別手当や特別賞与などは直接上記の「財物」の提供となり、困難であろう。新人を口説くための接待も、高級レストランや高級クラブなどでの酒食や、海外旅行への招待などと度を越したものになると、それ自体がリクルーターらに対して恩恵を与え、上記「利益」を与えたこととされかねない。

しかもこれ、法律上は6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金という立派な罰則まであったりします。実際に適用されている企業を見たことはありませんし、行政側もこれをどこまで取り締まる気があるのかは不明ですが、この法律をご存じないままリファラルボーナスを支払っている企業も、たくさんあることでしょう。

今日本では、従業員によるTwitterを使った口コミマーケティングが盛んになってきています。この次には、LinkedinやFacebookを使った従業員紹介型リクルーティングの動きが出てくるのはほぼ間違いありません。この状況下で、こんな時代おくれの職業安定法がおきままにされるのは、精神衛生上大変よろしくないと思うんですが、如何なものでしょうかねぇ。

【雑誌】BUSINESS LAW JOURNAL No.30 9月号 ― 弁護士を企業に出向させることの適法性

 
今号のメイン特集とはまったく関係ない記事からヒトネタ。

BUSINESS LAW JOURNAL 2010年 09月号


「経験弁護士の企業出向―法律事務所からの出向アプローチが増える?」というタイトルが付けられた、不景気で若手弁護士のポストが見いだせない事務所側と、弁護士の専門能力を活用したい企業との思惑が合致し、弁護士の企業への出向が増える、という観測記事について。

大手企業と弁護士事務所の間で、顧問弁護士事務所と法務部の人事交流を名目とした弁護士の出向が頻繁に行われているのは周知の事実です。
しかし、この記事の論旨のように、法曹人口過多の解決策として企業への出向という手法を活用し、事務所が少なくない対価を得るということになると、さすがにその「出向」という取り扱いの適法性に疑問が出てくるのでは?と思った次第。

ご存知の方も多いと思いますが、「契約に基づいて労働者を他人の指揮命令を受けて労働に従事させる」ことは、派遣業の認可を受けて行う労働者派遣を除いては労働者供給にあたります(職業安定法第4条第6項)。この原則に従えば、企業と法律事務所が契約して弁護士を出向させる行為は労働者供給に該当するわけで、経営指導やグループ企業間人事といった建前が通用するシチュエーションであればまだしも、そういった関係のない法人に対して出向させ対価を得る行為は「業として行う」労働者供給に他ならず、職業安定法第44条で禁止された行為になってしまうおそれがあります。

職安法上違法にならないようにするために、事務所が派遣業の許認可を取得し労働者派遣法上の派遣社員として堂々と弁護士を派遣する、という手段が取れればいいのですが、労働者派遣法第4条第1項の派遣禁止業務に「弁護士」が挙げられており(弁護士は、資格者個人がそれぞれ業務の委託を受けて当該業務を行うものであって、当該業務については指揮命令を受けることがないものとされているため)、派遣業者として弁護士を派遣することも違法となります。

弁護士事務所として、弁護士の企業への出向の適法性をどのように理屈付けしていけばいいのでしょうか?法律事務所と企業法務部の人材交流はメリットがあると考えているだけに、合法と主張できるしっかりとした根拠が欲しいところです。
 

【雑誌】BUSINESS LAW JOURNAL No.29 8月号 ― 未払い残業手当問題の放置こそ日本の労働行政・労働慣行の暗部と言ってくれ

 
今月発売のBLJには、見所が3つありました。

・特集「労働法務の最前線」
・連載 Global Business Law Seminarの欧州の「約款規制法」解説
・連載 Legal Thinkingの無断録音テープの証拠能力についての解説

どれも大変参考になる記事でしたが、一応労働法の実務に携わるものとして、取り急ぎ労働法務の特集についてコメント。

BUSINESS LAW JOURNAL 2010年 08月号


端的に申し上げれば、レベルが高いけれど、企業側の視点で今の労働法のトピックスを抑えるには十二分な内容と思いました。

「レベルが高い」と申し上げたのは、現行労働法の基礎的知識をおさらいするような記事がないまま、改正の方向性について語られている点にあります。労基法改正にせよ派遣法改正にせよ、その改正の問題点や課題を議論するときの難しさは、実は現行法をしっかりと理解していないと議論の土俵にも立てないというところ。そうは言っても、現行法を解説しだすと紙面がいくらあっても足りないので端折らざるを得ないのも分かります。

その点を除けば、東大の水町勇一郎先生が労働法制の全体観を語り、実務感覚を交えた労働法リスクをフレッシュフィールズブルックハウスデリンガーの岡田和樹弁護士が座談会形式で語り、派遣法改正案の各論をロア・ユナイテッドの岩出誠弁護士が語り・・・と、企業側視点を持ちながらも偏り過ぎないバランス感覚をもった方々を的確に人選されているのが功を奏して、労働法の今後を概観できる良い特集になっています。

ただし蛇足ながら、ひとつ生意気な意見を申せば、P43〜「未払い残業代の請求は増加するか?」という記事については、ちょっと違和感あり。

タイムカード、時刻が記入された業務日報、社内ネットワークへのログイン/ログアウト記録、メールの送受信記録など、労働時間を客観的に証明できそうなものを請求側が有していたとしても、それですぐに請求が認められるわけではない。タイムカードは、職場にいた事実を示しても労働時間を示すものではないとした裁判例もあるし、PCを起動していた時間の立証をできてもその間ずっと業務に従事していたとは会社側が認めないケースも多い。
というのは少なくとも私が裁判例を見ている感覚とはまったく異なりますし、こう書きながら同記事の後半では
未払い残業代請求は、一般的に「原告の勝ち筋」といわれる。「証拠がまったくないので提訴しないというケースを除けば、請求が全く認められず完敗したというケースはまだ一度もない」とベテラン弁護士は言う。
なんて記載もあったりと、やや論旨不明な点が多い記事でした。過払い訴訟に変わって社会現象となりつつある安易な労働訴訟ブームへの警告、という主旨だとは思いますが、それならそれでもう少し論旨と根拠を明らかにして書いていただけると良かったのかな、と思います。

人材ビジネスの視点から労働法の実務を見つめてきた私としては、未払い残業手当問題の放置こそ日本の労働行政・労働慣行の暗部であり、ここを曖昧にせず企業の責任を問うていくことが、逆に(企業が望んでいる)労働者保護に過剰な解雇規制を適正化する議論やホワイトカラーエグゼンプションの健全な導入に向けた議論につながる、と思っています。BLJには企業法務パーソンの羅針盤としてだけでなく、経営層へのオピニオン・リーダーとしての役割も担って頂ければと、そんな期待を込めて生意気を申し上げました。どうぞご容赦を。
 

派遣法改正案審議入り ― あなたの会社に迫る「みなし雇用リスク」にお気づきですか?(追記あり)

 
21日に党首討論=派遣法改正案、16日審議入り(時事通信)
製造業派遣の原則禁止を柱とする労働者派遣法改正案について、16日の本会議で首相が出席して、趣旨説明と質疑を行い審議入りすることで合意。

2月12日のエントリで「このまま派遣労働への締め付けを厳しくしていいの?困るのは派遣先会社なのでは?」と問題提起した件、

その後(予想通り)労働局が「専門26業務派遣適正化プラン」を水戸黄門の印籠の如く振りかざし、派遣法51条を根拠にした立ち入り検査を乱発、
・電話1本取っただけで「5号業務範囲外で違法」との指導
・派遣社員を8時間拘束してヒアリング
・聴取書への署名押印を強制
など、かなりやりたい放題の取り締まりをしているとの話も聞かれる中、

製造業派遣・登録型派遣の原則禁止を謳う派遣法改正案が、明日16日からいよいよ国会で審議入りします。


・・・が、みなさんの会社では、もう対策はお済みなのでしょうか?

ここでいう「対策」とは、製造業派遣や一般事務派遣の方の直接雇用へのリプレイスを完了させることを言っていますが、私が知る限り、特に一般事務派遣の方の直接雇用へのリプレイスは、全く進んでいないようにお見受けします。

今回の改正案の恐ろしさは、派遣会社というよりも派遣先企業こそが真の“被害者”になりうる点にある、ということにまだお気づきでない・他人事だと思っていらっしゃる会社が多いのではないか、と危惧しています。

労働者派遣法:改正案閣議決定 「みなし雇用」に評価 「偽装」排除へ一歩(毎日新聞)
これまでは、禁止業務への派遣や偽装請負など違法行為があっても、派遣先の責任を問えなかった。告発すると仕事を失う恐れがあり、泣き寝入りする例も多かった。制度導入で、違法状態で働かされていた派遣労働者は派遣先と労働契約を結んでいたとみなされ、派遣先に直接雇用されることになる。

これはつまり、
・一般事務派遣を、専門26業務(5号業務の事務用機器操作・8号
 業務のファイリング業務従事者)であるかのように偽装して
 受け入れている
・一般事務派遣を、自由化業務として正々堂々受け入れているが、
 事業所単位でみて、一つの派遣会社から最長3年以上継続して
 派遣社員を受け入れている
場合は、この改正法が施行された瞬間に、その時に(違法状態で)在籍する派遣社員の方がみなし雇用となるリスクを背負う、ということです。

大手企業では、すでに本気で一般事務派遣を使わないで業務を回す方法を考え、対応をとりはじめています。
もしあなたの会社の人事の方が、「派遣会社も大変だね〜」とのんきに構えているようだったら、そろそろ本気で対策した方がいいよ、と教えてあげてください。
 

2010・4・17追記

人事労務をめぐる日々雑感さんのエントリで気付かされたのですが、閣議決定された法律案をよく読むと、製造業・登録型派遣が完全禁止になるまでは3年ー5年の猶予があるのに対して、「みなし雇用制度」については6ヶ月以内の施行対象に入ってるんですね。

「労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の就業条件の整備等に関する法律等の一部を改正する法律案」について(厚生労働省)
施行期日:公布の日から6か月以内の政令で定める日(登録型派遣の原則禁止及び製造業務派遣の原則禁止については、改正法の公布の日から3年以内の政令で定める日(政令で定める業務については、施行からさらに2年以内の政令で定める日まで猶予))

「そろそろ」ではなく、「今すぐ」の対応が必要であることが判明しましたよ・・・。
 

この期に及んで労働基準法改正が気になっている会社が増えているようです ― オススメ本3冊

 
2月にも少し触れましたが、いよいよ4月から労基法改正です。

もう準備は万端でしょ?と思いきや、現場に聞くと、お客様からの質問は増えているとのこと。

しかも、今頃気になりだした方々に限って、今の労働基準法がどうなっているかもよく理解されていないので、「労基法のここが変わります」と言われても分かるはずもなく・・・。まずは、“今”の労基法を勉強していただかないと、何ができるようになって何が大変になるのか、全く理解できないと思います。

中小企業については、強制的義務規定部分は3年後以降(まだ時期は未確定)の適用なので、他人事になるのも無理はないですし、この件に関する国の広報活動も今イチなところはありますが、いずれはすべての会社・すべての労働者に影響するのが労働基準法の恐ろしいところ。なんだかんだ言っても無関心ではいられないはず。

ということで、今頃になってやっぱり気になってますという人事・法務担当者の皆様への推薦図書3冊がこちら。


Q&A改正労基法早わかり 改定増補―厚生労働省解釈例規に対応


一番薄くて、安いのがこれ。
見開きQ&A形式で、極力図表を使って説明をしようというスタンスが貫かれているので、何が変わったかポイントだけをザッと抑えておきたいと言う方には、この本がオススメ。


実務家のための改正労働基準法、育児・介護休業法完全対応マニュアル―現場のあらゆる疑問に答える


今出ている改正労基法本の中では、一番マニアックな部類に入る本。完全に人事労務・給与担当者向けの本と言っていいでしょう。
これを読むと、時間外労働を減らすためのこの改正のせいで、逆に人事労務・給与担当者の事務量=時間外労働が増えてしまうのではないかと心配になります(笑)。


労働時間管理の基本と実務対応 第2版


改正以前から存在した本の労基法本の中で、いち速く改正にあわせて新版を出されたのが中井先生のこの本。分かりやすい本なので、以前第1版もご紹介させていただきました。
そもそもの労基法の労働時間制度に自信が無い方は、回り道のように見えるかもしれませんが、この本で一から勉強した方が早いです。その意味で、一番初心者向けの本と言えるでしょう。
 

国民健康保険制度に潜むパンドラの箱が今開かれようとしている

このエントリで伝えたいこと

  • 社会保険の問題は、社保庁の組織的腐敗だけでなく、複雑な制度設計に隠された既得権との戦いでもある。

複雑な医療保険制度に隠された“既得権”

先週、こんなニュースが出ていたのはお気づきだったでしょうか。

違法加入で建設国保を立ち入り調査(日テレNEWS)
建設業に従事する人が加入する国民健康保険組合の一つ「建設国保」がずさんな運営を行っているとして、所管する厚労省と東京都が9日朝、東京・中央区にある建設国保の本部に立ち入り調査を行った。
建設国保は総予算の4割、約240億円を国からの補助金で賄っている。市町村が運営する国民健康保険より保険料が安く、加入できるのは建設業に従事する人に限られているが、徳島県の支部で建設業と関係のない職業の人を違法に加入させていたことが発覚した。国がその分の医療費を過剰に負担していたことになり、厚労省などは、徳島県以外でも問題がないかなど組合の運営実態を詳しく調べる方針。

全健国保に個人事業所装い加入 組合本部が誘導か(asahi.com)
ずさんな会計処理や無資格加入が問題になった全国建設工事業国民健康保険組合(本部・東京、森大(もり・ひろし)理事長)で、原則では加入できない株式会社などの法人事業所が、個人事業所を装って加入している事例が大量にあることが分かった。組合本部が偽装加入を誘導してきたという証言もあり、組合は結果的に国からの手厚い補助金を不当に受け取っていたことになる。

企業にお勤めのビジネスパーソンのみなさんはあまりご存知ないと思われる、国保組合が保険者となる国民健康保険(国保組合健保)。

日本の医療保険制度はその職業別に大きく以下5つに分かれていますが、

1)企業健康保険
  健康保険組合を持つ大企業に勤めるサラリーマンが加入
2)協会健康保険
  全国国民健康保険協会が運営する中小企業サラリーマンが加入
  (社保庁解体前の政府管掌健康保険)
3)共済
  公務員および私立学校職員が加入
4)船員保険
  船員が特別法に基づき加入
5)国民健康保険
  1〜4いずれにも加入できない自営業者、無職者が加入

今回問題になっている国保組合健保とは、分類上は5)の中の1つでありながら、市町村ではなく「個人事業主が自分達自身のために作る独自の健康保険組合」が運営しているイレギュラーな国民健康保険のこと。
ニュースで取り沙汰されている建設国保をはじめ、医師国保、弁護士国保、理容国保、料理飲食国保・・・と、職業/地域別に160あまりもの組合があります(補助金負担を増やさないよう、新設は認められていない)。

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もともと5)の国民健康保険が創設された当初は、国民健康保険は農山漁村民のみを対象とする保険だったのですが、1958年に全国民をカバーする保険制度となったことを受け、それ以前に存在した国保組合健保を5)の国民健康保険の制度に取り込んだ、という経緯があります。

そして、国保組合健保を国民健保に取り込む経緯の中で、自営業者の高い結束力を背景に「集票マシン」として機能する国保組合健保に対し、多額の補助金が支払われることに。これによって国保組合健保は、加入者が毎月支払う保険料も割安、受けられる保障も通常の国民健康保険よりメリットがあるなど有利な保険となりました。

あえて少しトゲのある言葉を使えば、同じ国民健康保険制度の加入者の中に、既得権を謳歌している人たちとそうでない人たちがいるということです。

しかも、今回の事件は、既得権の濫用どころか加入資格要件をごまかして国の補助金を搾取していたということ。
たまに「当社は建設国保に加入しているので健康保険も万全です」とか書いてある求人票を目にしては、個人事業主じゃないのにおかしいよなぁ〜と思っていたんですが・・・。

ここ掘れワンワン→芋づる状態の長妻大臣・・・でも負けないで

調べてみると年始にはこんなニュースも出てたようで。

国保組合への別枠補助金、減額へ 19組合が上限超過(asahi.com)
建設業や小売業などの自営業者らがつくる国民健康保険組合(国保組合)に対して、公表されている補助金制度とは別枠で、総額229億円の補助金が出ていた問題で、長妻昭厚生労働相は6日、2011年度予算の概算要求に向けて、この補助金の内容を調べ、不要と判断される分については減額・廃止することを決めた。
法律で加入者は原則、医療費の3割(現役世代)を負担すると定められているが、全国建設労働組合総連合(全建総連)系の11国保組合で入院時の自己負担を実質無料としている。厚労省によると、このほかに奈良県歯科医師国保など4歯科医師国保、2医師国保と1建設国保でも実質無料としていた。

どうやら、社保庁の組織的腐敗以上に根深い問題が、この国民健康保険制度には潜んでいるようです。

官僚にいじめられてお疲れでは?と揶揄される長妻大臣。こんな重たい問題とも戦っているんですね。
大変でしょうが大切な問題だと思います。お体をご自愛いただきつつ、きちんとした解決へと導いてほしいものです。
 

年度末で忙しい時期だってのに、厚労省が違法派遣の取り締まりにやってくるヤァ!ヤァ!ヤァ!

このエントリで伝えたいこと

  • 厚生労働省が行おうとしている違法派遣の取り締まりの真の被害者は、派遣元企業ではなく、性急な対応を迫られることになる派遣先企業であり、派遣社員だ。

法改正もまだなのに、締め付けがはじまった

2/9付で厚労省から配信されたメルマガの2行目に、読み捨てならない記事が。

期間制限を免れるために専門26業務と称した違法派遣への厳正な対応(専門26業務派遣適正化プラン)

上記サイトにアップされているPDFの記事を要約すると、
  • 専門26業務であるかのように偽装して1年を超えて違法に派遣している企業がないか、3月〜4月にかけて派遣元を対象に集中的な指導監督(行政処分含む)を実施するよ。
  • 特に、単なる一般事務の派遣社員を専門26業務である「事務用機器操作」「ファイリング」であるかのように誤魔化している事例がないか、徹底的にチェックするから、そのつもりで。
というもの。

特に5号業務「事務用機器操作」と8号業務「ファイリング」の解釈については、「会社から言われた指示通り仕事をするだけであれば専門26業務ではない」と断言するなど、従前よりも厳しめの解釈基準となっているこの通達。

年末に開かれた労働政策審議会で、専門26職種以外の登録型派遣を原則禁止とする方向でまとまったのを受け、将来事務派遣が専門26業種であると解釈されて骨抜きにならないよう、多くの企業が派遣契約の更新を迎えるこの年度末を狙って見せしめたいという思惑がミエミエです。

しかし、労政審の答申が出たとは言え、正式な労働者派遣法の改正決議がされているわけでもないタイミングでのこの締め付け。
派遣法改正案でさえ、受入れ企業の実務に配慮して3〜5年の移行措置期間をつけようというのに、このやり方は少し乱暴に過ぎる気がします。
 

本当に困るのは派遣元ではなく派遣先、そして派遣社員だ

厚生労働省の指導・行政処分そのものは派遣元に対してなされるため、一見派遣先企業へはそれほど影響は出ないように錯覚されるかもしれません。
しかし、本当にこの問題を突きつけられることになるのは派遣元ではなく派遣先企業であることに、お気づきでしょうか。

おそらく来週以降、このような不躾な文書が派遣元から派遣先企業宛てに送りつけられることになると思います。

前略 余寒の候、貴社ますますご盛栄のこととお慶び申し上げます。平素は格別のお引き立てを賜り、ありがたく厚く御礼申し上げます。

さて、既にご承知のことと存じますが、政府による労働者派遣法改正検討の流れを受けて、厚生労働省より「期間制限を免れるために専門26業務と称した違法派遣への厳正な対応(専門業務派遣適正化プラン)」が本年2月8日付発表されております。

これによりますと、実際は専門26業務とはみなされない業務を派遣社員に行わせながら、これに名を借りて1年を超える違法派遣を行う派遣元企業に対し、行政処分を含めた厳正な指導監督がなされるほか、派遣先となりうる団体へも、改めて専門26業務の適正な運用について要請がなされるとのことでございます。

貴社におかれましては、弊社とのご契約内容を十分ご確認・遵守いただき弊社人材派遣サービスをご利用下さっているものと承知しておりますが、この機会に改めて弊社との契約内容および労働者派遣法上の義務をご確認いただきたく、ご連絡申し上げます。

ご不明な点がございましたら、弊社営業担当までお問い合わせください。
                             敬具

単純作業性を否定できない派遣事務員を受け入れていた企業の立場としては、この文書を送りつけてきた派遣会社に文句をつけたくなるのかもしれませんが、厚生労働省からあんな通達が出た以上、派遣会社にクレームしたところでどうなるものでもないわけで。

本当にそれが欠かせない業務であれば、直接雇用を検討せざるを得なくなったわけです。しかもこのただでさえ人事が忙しい時期に・・・。こんな急なタイミングで法改正という大義名分もないうちに直接雇用せよと突きつけられても、そんな大英断を企業として経営判断できるはずもなく、これをきっかけに契約終了となってしまう派遣社員の方々も少なくないのでは。

そのような重みのある指導を、何の前触れもなく行おうとする神経を疑わざるを得ません。
 
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