企業法務マンサバイバル

ビジネス法務に関する本・トピックのご紹介を通して、サバイバルな時代を生きる皆様に貢献するブログ。

_知的財産法務

【本】『特許の取り方・守り方・活かし方』― 会社を技術で強くするためには、どうしても通らなければならない道がある

 
日本能率協会マネジメントセンターの編集担当O様からご恵贈いただきました。『知財実務のセオリー』の著者岩永利彦弁護士・弁理士による、特許実務マニュアルの決定版です。





いままでの特許法分野の実務書は、実務書と言いながら特許「法」の解説に実務のエッセンスを添えた程度の書籍しかなかったと思います。それに対し本書は、<発明の発掘→先行技術調査→クレーム・明細書・図面作成→出願→中間処理→権利行使>の一連の特許業務が(知財担当者でなくとも)一人でできるようになるためのマニュアル本たることを主眼に置いた上で、その業務上どうしても必要となる新規性進歩性・均等論・相当の利益といった用語や法的概念について、必要に応じて噛み砕きながら説明するスタイルをとっています。

このようなスタイルで書ける人材が、元大手企業のエンジニアであり、その後弁理士→弁護士となられた希少なキャリアを持つ岩永先生しかいらっしゃらなかった、ということでしょう。

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本書の中で何度も繰り返し強調されているのが、以下2点です。
.レームチャートを書くこと
∪莵垉蚕冂敢困鯏按譴垢襪海

私の知る優秀な知財担当者は、確かに、どんな場面においてもこの2つを愚直にやっていました。私も形だけでも見習うようにしていたのですが、それがどれほど重要なのかを言語化できるまでには至っていませんでした。本書によってあらためて、,砲茲辰独明を客観的に評価できる状態にすることの重要性を、そして△砲茲辰匿卦性進歩性を具体的に認識・主張できる状態にすることの重要性を、それぞれ腹落ちさせることができました。


開発者が、自己の発明を会社の技術的資産となりうるものとして認識し、その発明をきちんと知財部門に情報共有し、特許として権利化されるサイクルを作るには、やはりどうしても開発者自身に特許制度の意義や仕組みを理解してもらう必要があるなあと感じています。そのためには、開発者が新人として配属された直後に、発明を自分で実際に生み出し、自分でクレームチャートを書き、自分で先行技術を調査し、知財担当者のサポートを受けながら出願するところまでを研修プログラムとしてしまうのが、手っ取り早い方法でしょう。

よい技術を生み出し、しかもそれがしっかりと権利化される強い会社づくりのスタートとしては、そうした体験型研修なども含め、どうしても経験ある知財担当者からのレクチャーが必要になってくるわけですが、そうした新人向けレクチャーのためのテキストとしてベストな書籍であると、自信をもっておすすめできます。もちろん、特許がわからない法務担当者にも。
 

FacebookがOSS規約に設定した「非係争義務」(追記あり)

 
※本記事アップ後、Facebookは「コミュニティの理解を得られなかった」という反省の弁とともに特許非係争義務を撤回しMIT Licenseとして再許諾する旨の声明を2017年9月23日に発表、その3日後のReactのバージョンアップで宣言どおりこれを実施しました。以下記事は経緯記録のため修正せずにそのまま置いておきます(この事情から一部リンク切れも発生していますがご了承ください)。


Facebookが、「私たちが作ったOSS(オープンソースソフトウェア)を使うなら私たちに対して特許訴訟するな。したら使えなくするぞ」という、いわゆる“非係争義務”を利用規約に入れてOSSを提供している問題が、エンジニアのみなさんの中で話題になっているようです。私自身は @katax のつぶやきで知りましたが、私の所属企業のエンジニアの間でも以前から話題になっていたようでした。


背景含めて経緯をわかりやすく解説して下さっているのがこちら。

Facebookの特許条項付きBSDライセンスが炎上している件について
Facebook発のOSSを多用して自社プロダクトを構築し商売している場合、事実上Facebookに特許訴訟をすることは出来なくなる。Facebookの訴訟をした時点で、Facebook発のOSSを使う権利を失ってしまうからだ。実際、Googleを初め、社内でFacebookのOSSを使うことを禁じている会社がいくつもある。

問題の非係争義務を定めている条項がこちら。

react/PATENTS at master - facebook/react - GitHub
Facebook, Inc. ("Facebook") hereby grants to each recipient of the Software ("you") a perpetual, worldwide, royalty-free, non-exclusive, irrevocable (subject to the termination provision below) license under any Necessary Claims, to make, have made, use, sell, offer to sell, import, and otherwise transfer the Software. For avoidance of doubt, no license is granted under Facebook's rights in any patent claims that are infringed by (i) modifications to the Software made by you or any third party or (ii) the Software in combination with any software or other technology.

The license granted hereunder will terminate, automatically and without notice, if you (or any of your subsidiaries, corporate affiliates or agents) initiate directly or indirectly, or take a direct financial interest in, any Patent Assertion: (i) against Facebook or any of its subsidiaries or corporate affiliates, (ii) against any party if such Patent Assertion arises in whole or in part from any software, technology, product or service of Facebook or any of its subsidiaries or corporate affiliates, or (iii) against any party relating to the Software. Notwithstanding the foregoing, if Facebook or any of its subsidiaries or corporate affiliates files a lawsuit alleging patent infringement against you in the first instance, and you respond by filing a patent infringement counterclaim in that lawsuit against that party that is unrelated to the Software, the license granted hereunder will not terminate under section (i) of this paragraph due to such counterclaim.

Facebookのように著名でおカネを持った会社になると、その代償として、特許トロール的なものも含めた知財訴訟対応に日々煩わされることになります。そうした訴訟の手間やコストを削減するための1つのテクニックが、こうしたライセンス契約に非係争義務を設定するという手法です。実際、本件について見解を述べたFacebookの声明でも、“As our business has become successful, we've become a larger target for meritless patent litigation. (中略)We believe that if this license were widely adopted, it could actually reduce meritless litigation for all adopters, and we want to work with others to explore this possibility.”と、有名税として訴訟のターゲットにされることにもう疲れたので…みんなこうやって仲良くしませんか、といった心情が吐露されています。 おそらく、数百人はいるであろう知的財産部門のパワーの半分ぐらいが、こうした訴訟対応に費やされているのではないでしょうか。


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ところが、知的財産権のライセンス契約の中でこうした非係争義務を課すことについては、健全な競争を阻害するものとして、法的に問題となる場合があります。公取の知的財産ガイドラインをみてみましょう。

知的財産の利用に関する独占禁止法上の指針(公正取引委員会)
(6) 非係争義務
ライセンサーがライセンシーに対し,ライセンシーが所有し,又は取得することとなる全部又は一部の権利をライセンサー又はライセンサーの指定する事業者に対して行使しない義務(注17)を課す行為は,ライセンサーの技術市場若しくは製品市場における有力な地位を強化することにつながること,又はライセンシーの権利行使が制限されることによってライセンシーの研究開発意欲を損ない,新たな技術の開発を阻害することにより,公正競争阻害性を有する場合には,不公正な取引方法に該当する(一般指定第12項)。
ただし,実質的にみて,ライセンシーが開発した改良技術についてライセンサーに非独占的にライセンスをする義務が課されているにすぎない場合は,後記 (9)の改良技術の非独占的ライセンス義務と同様,原則として不公正な取引方法に該当しない。
注17 ライセンシーが所有し,又は取得することとなる全部又は一部の特許権等をライセンサー又はライセンサーの指定する事業者に対してライセンスをする義務を含む。(P23)

こうした独占禁止法上の問題とならないよう、通常は、ライセンシー(今回のケースで言えばFacebookのOSSを利用する立場の事業者)が契約締結時点で保有している特定の特許権だけを非係争義務の対象にするとか、ライセンスした技術を改良して発生する将来の特許権に限定するなど、一般的なクロスライセンスの限度に留まるように非係争義務の条項をドラフティングします。

しかし、今回のFacebookの非係争義務の書きぶりはそうした限定がほとんどなく、この範囲を超えているようにも思われます。そしてそれは、Facebookとしても法的リスクは意識した上で、明確な意志をもって踏み込んでそうしているように見えます。多大なコストをかけて開発した技術をオープンソースとして広く提供しているのだから、それ相応の見返りの1つとして、合意の上で訴訟コストを下げさせてもらってもいいじゃないですか、この考えに合意できなければ当社のOSSを使わないでいただければそれで結構、という意志です。


私はエンジニアではないので、現在のOSSコミュニティにおいてFacebookがどの程度影響力を与えているのかは正確には分かりません。しかし、Facebookの声明に滲み出る熟慮の末の対応というニュアンスを見るにつけ、今後のOSSの契約実務、さらにはインターネットサービスの契約実務においても、これに倣うような事業者が出てくるのではないかと感じました。
 

2017.8.24追記

平均的なOSSのライセンス条項と比較しながら、Facebook React.jsの非係争条項について解説した記事。

▼ReactJSのライセンスにおける制限的条項の対象範囲 (特許不係争義務)
http://qiita.com/Cat_sushi/items/923914b4c25e25f2ce38
 

2017.8.25追記

通常のBSDライセンスとの比較からFacebookがReact.jsについての特許権を持っている可能性があること、そしてそもそもFacebookに対して行使できる特許を持っていなければReact.jsの利用を停止する必要もないであろうことを指摘する記事。

▼FacebookのBSD+PATENTSライセンスについて
http://katax.blog.jp/archives/52770400.html

【雑誌】サイゾー 2017年6月号 ― 音楽・映像ビジネスにかかわる著作隣接権を理解するための業界構造基礎知識

 
久しぶりの雑誌紹介。しかも法律雑誌ではなく、まさかの「サイゾー」(笑)。ですが、今号の特集「芸能界の(禁)基礎知識」は、エンタメロー・知的財産を実務で取り扱う方には一読の価値ありな特集になっています。





法務パーソンが著作権法の勉強をしている中で、わかりにくさ・もやもや感を最も感じるのが著作隣接権であることは間違いないでしょう。試しに、著作権法の基本書の中で読者フレンドリー度No.1な中山『著作権法』で著作隣接権の概説をひもといても、

著作物の伝達には物流と異なった特性があり、法で特に保護する必要性が高いものもある。(略)そこで著作権法は、実演家・レコード製作者・放送事業者・有線放送事業者の四者につき、著作隣接権という特殊な権利を与えて保護している。(P537)
1961年にユネスコとベルヌ条約同盟と国際労働機関(ILO)の共同開催による隣接権条約外交会議において「実演家、レコード製作者及び放送機関の保護に関する国際条約(略)が締結され、1964年に発効したが、わが国は1989年(平元)に加入書を寄託し加盟した。わが国がこの条約に加盟した時期はかなり遅いが、条約加盟に先立ち、条約の考え方自体は現行の当初から著作権法に取り込まれており、昭和45年著作権法全面改正で著作隣接権制度が創設された。(P538)
著作隣接権の根拠としては、著作物の伝達行為の準創作性を挙げる者が多い。(P539)
著作隣接権が必要となった必要となった最大の要因は、情報伝達技術の発展である。(略)例えば実演がレコードに複製され、それを放送で利用するという関係において、実演家・レコード製作者・放送事業者等の間での利益をいかに分配するかという問題を巡り、それらの間の権利調整のための複雑な規定が設けられている。(P540)

と、法律書らしからぬふわふわとした解説が延々と続きます。真剣に法律を勉強しようとしているこちらとしては、「必要だから法律になったのだ」と言われても、どの教科書を読んでもどうしてこれが必要になったのかという経緯も詳しく説明されないだけに、本当にこんな複雑な規定を設けてまで権利を認める必要があるのか?という疑問が先立ってしまい、なかなか頭に入ってこないわけです。少なくとも私はそうでした。

ご紹介のサイゾーの特集は、田辺エージェンシーの田邊社長が、GSブームの先駆けとしてスパイダースを結成し、自らバンドプロデュースをしながらトップ芸能プロの社長として名を上げていく過程を中心に描きながら、芸能プロダクション・レコード会社・テレビ局がそれぞれどういう立ち位置でイニシアティブを争ったかという芸能の近代史をおさらいした上で、彼ら著作隣接権者の団体である芸団協や音事協が権利処理団体として運営にかかわるCPRA・aRma・BEAJ・sarahなどとJASRAC・RIAJをはじめとする周辺法人との関係を概説してくれています。

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この手の業界基礎知識を知ったうえで著作隣接権の理解を深めたいと思っても、無味乾燥な当該団体の自己紹介、正確性に欠けるゴシップ誌、ネット記事等の断片的な情報を読みつなぐしかありませんでした。どうしても法律的な背景を正確に理解したい部分があれば、私の場合は『アプリ法務ハンドブック』でもご一緒したエンタメロー分野に特にお詳しい鎌田真理雄先生や東條岳先生をお訪ねし、無理を言って教えていただいたりしていました。いつもはブラックジャーナル臭がかなり強いサイゾーさんですが、今回の特集は比較的冷静に淡々と事実をまとめている印象です。

というわけで、著作隣接権の背景を深く理解したいという方にぜひ。

【本】『ビジネス法体系 知的財産法』― 知的財産法の概説書マーケットに突如現れたダークホース

ふだん特許・商標・著作権を実務で扱っている法務パーソンが、ちょっと腰を落ち着けて、知的財産法を体系的に学習しなおすのにぴったりな本が突如現れました。中山先生や田村先生が活躍されるこの分野に若手ダークホースの登場。その著者、森・濱田松本法律事務所の田中浩之先生より、お仕事でのご縁もあって本書をご恵贈いただいた次第です。ありがとうございます。


ビジネス法体系 知的財産法
田中 浩之
レクシスネクシス・ジャパン
2017-04-22



“知的財産法の概説書”を標ぼうする本には、必ずと言っていいほど読後に物足りなさを感じてきました。その物足りなさをパターン別に分類すると、おおよそ以下3つに分かれるというのが私の印象です。

(1)話題が身近な著作権法にばかり偏ってしまい、特許法・意匠法などの産業財産権法分野の解説がおろそかになる
(2)法体系に忠実であろうと、各産業財産権法に多数準用される特許法の条文をベースに解説するものの、中途半端な逐条解説になってしまい、実務との紐づけが薄くなる
(3)不正競争防止法・民法といった、使いようによっては幅広く知的財産をカバーできる法律の活用について、十分な解説がなされない
 
本書は、そのはしがきで、まさにこのような従来の書籍が陥りがちだったダメパターンを克服すべく体系に工夫をこらしたことが述べられています。その表れとして、本書全体の見取り図を兼ねている「第1章 ビジネスと知的財産法総論」において、まず知的財産法を「ブランド保護法」と「創作保護法」の大きく2つに分類し、そのうえでさらに創作保護法をゝ蚕僉Ε離Ε魯Δ諒欷遶▲妊競ぅ鵑諒欷遶I集修諒欷遒烹格類する体系を提案し、以降これに沿って解説がなされます。この全体を概観した表が以下となります(第1章P8-13掲載の図表より一部省略し引用)。

1.ブランド保護法
保護対象権利の名称法律保護期間登録要否本書における解説箇所
商標商標権商標法登録から10年(更新可)第2編第2章
商品等表示不正競争防止法×第2編第3章
商号会社法・商法第2編第4章
地域団体商標商標権商標法登録から10年(更新可)第2編第5章
地理的表示地理的表示法第2編第5章

2.創作保護法 ゝ蚕僉Ε離Ε魯Δ諒欷
保護対象権利の名称法律保護期間登録要否本書における解説箇所
発明特許権特許法出願から20年第3編第2章
考案実用新案権実用新案法出願から10年第3編第3章
植物の品種育成者権種苗法登録から25年または30年第3編第5章
半導体集積回路の回路配置回路配置利用権半導体集積回路配置法登録から10年第3編第6章
営業秘密不正競争防止法/民法(契約上の保護)×第3編第4章

3.創作保護法 ▲妊競ぅ鵑諒欷
保護対象権利の名称法律保護期間登録要否本書における解説箇所
意匠意匠権意匠法登録から20年第4編第1章
商品形態不正競争防止法最初の販売から3年×第4編第2章
商標商標権商標法登録から10年(更新可)第4編第2章
商品等表示不正競争防止法×第4編第2章
著作権(応用美術)著作権著作権法著作者の死後50年(原則)×第4編第2章
デッドコピー民法×第4編第2章

4.創作保護法 I集修諒欷
保護対象権利の名称法律保護期間登録要否本書における解説箇所
著作物著作権著作権法著作者の死後50年(原則)×第5編
デッドコピー民法×第4編第2章

この表をご覧になれば、各法バランスよく実務に紐づけて活用法が解説されている本であることが伝わるのではないでしょうか。

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中でも特許パートは、切り餅事件の特許を教材として、特許要件と記載要件・取得手続・侵害の成否・対応までを、類書にはないオリジナルな語り口で理解させてくれる、本書の中でも特に秀逸な部分です。親切にも、本書がどこを端折っているのかまで説明の中で明示されていて、必要に応じ専門書で詳しく学ぶことも容易になっています。さまざまな特許法の入門書を読んでも、条文や重要判例をどう実務に紐づけるかがよくわからなかったという法務担当者に、一読をお勧めします。

実務を目線に置きながら知的財産法全体を概説する書籍として、初級者向けには宮川ほか『事業をサポートする知的財産実務マニュアル』を、上級者向けには田村『ライブ講義 知的財産法』などを紹介してまいりましたが、本書は、ちょうどその真ん中の空白地帯を埋めてくれる良書だと思います。

【本】『年報知的財産法 2016-2017』― 知財の最新潮流は書籍・論文の量で計る

最新の知的財産法の潮流をコンパクトに1冊で、かつ正確におさえたいというわがままな要望にズバリ応えてくれるのがこちら。





毎年年末に刊行される、その年の知財の出来事・話題を漏れなくまとめた、文字通りの「知財業界のアニュアルレポート」が本書。編者は高林龍先生・三村量一先生・上野達弘先生と、三役そろい踏みです。巻頭の特集で最新の知財時事に関する論稿と改正法解説を、さらに2016年の判例、学説、政策・産業界、諸外国の動向を、それぞれ章を分けて輪切りで整理してくれています。

今号の巻頭特集でも、「AIネットワーク化」「職務発明」「欧州デザイン保護法制と日本法の展望」と、旬な時事ネタを取り上げます。特に最後のデザイン保護法制については、個人的にこれから研究をしようと思っているテーマだけに、大変参考になりました。パテントアプローチとコピーライトアプローチのどちらでもない、デザインが持つマーケティング機能に注目したデザインアプローチという保護のあり方が近い将来求められるようになり、立法に向けた動きにつながっていくのではないかと予想します。

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ところで、私は本書を2014年から購入していますが、実は、今号を読むまでこの本の一部を構成するすばらしいコンテンツの存在を見過ごしていました。それは何かというと、「学説の動向」と題する、直近1年間に発表された書籍や論文を、各法分野とテーマごとにまとめたパートの存在です。たとえば著作権法を例に挙げれば、

1 総論
 (1)制度全体/外国法
 (2)著作権法政策の動向
 (3)概説書等の一般的文献
 (4)著作権の教育・普及に関する動向
 (5)学会動向
2 権利の客体
 (1)舞踊又は無言劇の著作物
 (2)美術の著作物(応用美術含む)
 (3)キャラクターの保護
 (4)地図等その他の図形の著作物
 (5)プログラムの著作物
 (6)編集著作物
3 権利の主体
4 権利の内容
 (1)著作者人格権
 (2)著作権
 (3)著作隣接権
5 著作権の制限
 (1)総論
 (2)各論
6 著作物の利用と契約
 (1)著作権のライセンス
 (2)デジタルコンテンツの保護・流通
 (3)著作権の管理/担保等
7 権利侵害と法的措置
 (1)依拠性・類似性
 (2)損害賠償
 (3)差止請求権の相手方
 (4)刑事罰
 (5)その他
8 その他
 (1)パブリシティ権/肖像権
 (2)消費者法・競争法との関係
 (3)国際私法との関係
 (4)保護の交錯

このように細分化されたテーマごとに、発表された書籍or論文のタイトル・著者・要約を網羅してくださっているのです。

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これを見れば、発表されている論稿の量の偏りから各法の中で注目すべきテーマがおのずと見えてきます。2016年の著作権業界のトピックであった応用美術関連を例にとると、21もの文献がピックアップされていました。また、それだけでなく、あるテーマについて深堀りたいときなどに、最新論稿を誰がどこに寄稿・出版しているかをすぐに知ることができるわけで、大変便利です。毎号毎号巻頭の特集に目を奪われてばかりで、こんなすばらしく便利なまとめを毎年作ってくださっていたことに、まったく気付かずにおりました。


さて、そんな貴重な本書ですが、やはり刊行にあたって相当の苦労があるようです。以下は編集者代表の高林先生の巻頭言より。

インターネット情報が氾濫し、スマホで手軽に情報を参照することもできる現代において、紙版の年報紙は苦戦を続けて来ており、私達編集者としても、本誌をより魅力的なものにして、何とか継続刊行できるように、あれこれと頭を悩ませている。
これだけ盛り沢山の論文・報告集であるだけに、これを10年以上継続して刊行していく苦労は並大抵のものではないというのが正直なところである。

知財を業とされるみなさまにおかれましては、本書を購入することで編者のみなさまにねぎらいと支援を送られてみてはいかがでしょうか。

特許知財系ライトニングトークを開催しました

 
先日、ウェブ・アプリ・エンタメ系企業の特許担当者の方ばかりにお声掛けをして、はじめての「特許知財系ライトニングトーク」を @katax さんと開催しました。

知財の方が集まる場というと知財協やパテサロさんがありますが、企業内"特許"担当者、しかも非ハードウェア業界の方だけに限定した集まりとなると、あまり無いのではと思います。そもそも人数もいませんしね。なので、法務系LTの時のようなオープンな募集はやめて、ツテを辿ってお声かけをしていく方法をとりました。LTが成立するほど集まっていただけるのかが不安だったのですが、結果的に今をときめく大手企業ばかり10社から、合計20名のみなさんに集まっていただきました。


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ライブならではということで、書籍や雑誌では読めない血の通った創意工夫ぶりやこの分野の専門家ならではの知見の一端をお伺いすることができました。最近特許について情報交換することが増えた @katax さんも登壇され、しかもブログにスライドを公開されていますので、是非ご覧になってください。私も賑やかしとして登壇し、初めて発明者として登録にいたった自分の職務発明についてそれが生まれたきっかけを中心にお話したのですが、一部内容に不適切なものを含んでいたので(企業秘密という意味ではないです)、非公開とさせていただきます。

知財は未来を見る・作る仕事という要素が多い点で、LTも前向きな話が多くて楽しいなと再認識しました。というと、法務が後ろ向きな楽しくない仕事ばかりのように聞こえてしまいますが…苦笑。それと、久しぶりに運営に加えてライトニングトークをやってみて、5分の持ち時間のあまりの短さに驚きました。自己紹介は割愛し、スライドは10枚が限界ですね。

やはりこういった共通の興味と専門性をもった方同士ばかりが集まる機会自体があまりなく貴重ということで、第2回のリクエストもいただいております。次回は、お声掛けする対象者をもう少しだけ広げて、2017年1−2月ごろに開催しようかなと思っています。ご出席頂きたい方には私ども運営からまたお声掛けをしたいと思いますので、是非ご参加をお願いたします。
 

【本】『アンブッシュ・マーケティング規制法』― TOKYO2020問題に備えて

 
リオで開催されているオリンピックも、21日(日本時間明日8月22日)の閉会式をもって終了。4年後の2020年に我が国で開催予定の第32回大会に向け、抑えておきたいキーワード「アンブッシュ・マーケティング」が正確に理解できる本がでていましたので、ご紹介しておきます。





アンブッシュ(ambush)とは、「待ち伏せ」の意味。スポンサーの協賛によって世界規模で開催するイベント(オリンピックやFIFAワールドカップサッカーなど)に便乗し、そこで用いられる著名又は周知な商標の顧客誘引力を当該イベントの運営団体に許諾なく利用する表示・販売活動のことを、アンブッシュ・マーケティングといいます。

私も知らなかったのですが、オリンピック開催国(都市)として立候補するにあたっては、IOCに対しこのアンブッシュ・マーケティングを行わない・行わせないことを誓約する必要があり、すでに日本国政府としてこれを保証している状態だそうです。実際、過去開催国の中国が2001年に・英国が1995年と2006年に・ブラジルが2009年に、いずれもそのためだけのOlympic Actを特別立法しているとのこと。本書では、これら各国の立法状況と内容を分析し、日本においてそのような特別法を立法する必要の有無を検討します。

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その結論は、

我が国においては、商標法又は不正競争防止法により出所表示機能を果たす態様の使用の場合を除き、著名又は周知な商標の【原文ママ】使用した場合であっても、顧客誘引力を有する商品・役務その事業者と関連があるかのような表示、あるいはその事業者から承認、許諾、支援等を受けているかのように表示する行為について、不正競争防止法、景品表示法及び独占禁止法のいずれも行為規制の対象と考えることは困難であり、他国で制定されているアンブッシュ・マーケティング規制法の基礎となる法や法理は存在しない(P163)

ということで、政府保証をきちんと担保したいのなら立法が必要であると。しかし一方で、IOCが要求する押し付けともいえる内容をそのまま法文化すると過剰な規制となることは明白であり、そうならないよう、厳格な要件を付した適切な範囲での行為規制とすべきである、と主張します。


2020年の東京オリンピックのアンブッシュ・マーケティング規制については、この8月に入ってからもJOCが新たにガイドライン「大会ブランド保護基準(Ver3.1 2016 August)」を出しています。これを見ると、上述のとおり現時点の日本においては法的な根拠がないにもかかわらず、さもそれがあるかのように、「2020年という年号に引っ掛けてカウントダウンを行うような表現もアンブッシュである」とまで踏み込んでいます(P13)。権利を守りたい当事者側の発言とはいえそこまで言ってしまうセンスに疑問を感じざるを得ませんが、著者が懸念しているように、明らかに萎縮効果を狙ってのものでしょう。

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表現の自由を守る者として少なくとも中立的な立場であるはずの報道機関の記事なども、こういったIOCやJOCのガイドラインに盲目的に従うべしという偏った論調が妙に目立ち違和感を感じていたところですが、パートナー一覧(P04)をみて納得。読売・朝日・日経・毎日といった報道機関自身がスポンサーになってるんですね・・・どうりで(ry。

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著者のいう適切な立法がTOKYO2020に間に合うかどうかはかなり怪しいところだと思いますが、法務パーソンとしては、法律に基づいた冷静な判断に努めたいものです。
 

【本】『その音楽の<作者>とは誰か リミックス・産業・著作権』― VRによって加速する古典的著作権からのパラダイムシフト

 
法務パーソンが音楽著作権処理の実務に携わると、業界の現実や慣習が著作権法の建前どおりになってないことがあまりにも多すぎて、イライラします。といっても、法律が現実や慣習にあわせてキレイに改正されるチャンスは、そうそう巡ってくるものではありません。

こんな状況がいつまで続くのやらと重たい気分になるのですが、そのイライラの原因を具体例をもって解きほぐし、法務パーソンの精神の健康を支えてくれるのがこの本。





英米法的「コピーライト」と大陸法的「著作権」との衝突


著者増田聡先生が指摘する、イライラの根本原因は、一言で言えばこれ。

著作権制度上の「楽曲の権利者」はその音楽の「作者」とは必ずしもイコールではない。(P154)

その理由と歴史的背景について、英米法上の“コピーライト”と大陸法の“著作権”制度の成り立ち、およびベルヌ条約の批准を目的として、混乱の最中で制定された日本の著作権法の成立の過程を、詳細に紐解きます。

コピーライトの原理はあくまでも「複製」に関わる経済的利権の配分や調整に発したものであり、情報複製産業の秩序維持と国家によるその統制との間で発展してきた法制度であって、「作者の権利」保護とは異なる理念に発したものである点だ。端的に言えば、コピーライトによって保護されるのは「(芸術)作品」の価値というよりも、作品の「商品」としての価値である。(P103)
「著作権」はコピーライトと異なり、保護の焦点は「作者」にある。作品は作者の人格の表現であり、故に作者が及ぼす作品への支配権は法的に正当化される。その作品から生じる経済的利益を作者が享受するのはもちろん、英米的コピーライトには見られない、作品の改変やその公表、あるいは氏名の表示・非表示などのコントロールを作者に与える「著作者人格権」(仏 droit moral)もまた原理的に当然認められることになる。後述するベルヌ条約に加盟することによって始まった日本の著作権制度も、法制度上この制度に分類される。(P104)

こうして大陸法を前提とした法律を作っておきながら、音楽の現場では、商業的な必要性から英米法的な著作権処理がなされ、法制度の例外として部分部分でこれを受け容れてきたという実態があります。法務パーソンとしてはここにイライラを感じるわけです。なんで法律と現実が綺麗に整合していないんだ!と。


広告音楽における大陸法的「著作権」の放棄事例


ここでいう法律と現実が綺麗に整合していない事例として、本書では、クラブ・ミュージックの現場と、広告と音楽のタイアップ・システムの2点を取り上げています。

個人的には、クラブ・ミュージックに関する指摘についても(弊ブログのこの記事この記事などで触れたこととの重なりも多く)頷くことばかりでしたが、弊ブログの読者層に本書を紹介するという意味では、広告音楽タイアップの事例のほうが親しみやすいでしょう。

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広告音楽タイアップにおいて音楽提供サイドは、著作権制度が保証する経済的権利(広告における著作物使用料)を放棄し、迂回した形(プロモーション効果による楽曲のヒット)で音楽からの収益を期待する。この広告音楽タイアップの戦略は、法的な理念の上では「作者の権利」であったはずの著作権が、「出版権」「原盤権」という形に変換され、複雑な業界の力関係のなかで経済的なリソースを担保する利権となってやりとりされている現状を顕著に示している。広告音楽を、著作物使用料を期待できるビジネスの場として用いるか、あるいは楽曲のプロモーションの場として著作物使用料を免除するか、といった音楽提供サイドの戦略は、公益法人であるJASRACをもアクターとして巻き込みながら、複雑な業界諸アクター相互の力関係により媒介される。そこでの著作権制度は、うまく利用して経済的価値を生み出させるための装置である一方、JASRACの規定改定に見られるように、業界内の力関係を反映して変容していくものでもある。

先に概観したように、日本の著作権制度は大陸法的な「作者の権利」の保護という原理を機軸に成立しているとされる。がしかし、それはあくまでも法的なレベルでの理念であって、現実の音楽著作権ビジネスの実務においては、「出版権」「原盤権」という音楽産業のシステムにおいて慣習的に成立している利権を、さまざまな使用実態のなかでいかに効率的に活用していくかがポイントになることが見て取れる。(P151-152)


「現実」と「仮想(拡張)現実」の区別の崩壊


著者自身は、こういった現状については「肯定も否定もしない」「ただできることは(略)諸概念のささやかな交通整理を行うことであるにすぎない」と本書冒頭P8で宣言しています。それもあってか、本書はその末尾P206で、名和小太郎著『サイバースペースの著作権』を紹介しながら、こうおとなしめに締めくくられています。

名和小太郎は、今日の著作権制度における基本的原理を揺動させている諸原因を、大きく七つにまとめている(名和1996:174ー176)。
1 個人的制作から集団的制作への変容
2 既存の著作物を素材にする著作物の増加
3 ネットワークにおける著作物(どこの国の法律を適用するか)
4 コピー技術の発達によって、著作物使用の許諾権が行使し難くなる
5 市場をバイパスして流通する著作物の増加
6 伝統的著作物の諸カテゴリーを横断するようなデジタル著作物の増加(マルチメディア作品など)
7 「複製」と「公衆伝達」の区別の崩壊(インターネットなど)
古典的な著作権制度の基盤を危うくしているこれらの社会的変化は、その制度が依拠している原理、十九世紀的な作者概念のゆらぎの原因でもあり、その結果でもある、ということだ。

しかし、ビジネスに携わる者として、著作権制度についてこれだけの不安定な要素が見えている現状を看過できないのではないでしょうか。

そして私から付け加えるならば、2016年の今、ここにさらにもう一つの社会的変化がはじまりつつあるということを指摘しておきたいと思います。それは、

8 「現実」と「仮想(拡張)現実」の区別の崩壊(Virtual Realityなど)

です。


このVine動画内で実演されているのは、VR Chatというコミュニケーションプラットフォームです。VR技術の利用事例としては非常に単純なものですが、このような、ヘッドマウントディスプレイの中に広がる360度の「VRという別世界」の中で、他人のアバターがディスプレイやスピーカーでコンテンツを視聴している姿を私のアバターがヨコから垣間見る、というシチュエーションにおいて、
  • 私以外のアバターが、「現実世界」の私の書籍を「VRという別世界」で“私的”に閲覧する
  • 私以外のアバターが、「現実世界」の私のバンドの曲を「VRという別世界」で“私的”に演奏する
とき、どのような権利処理がなされるべきか?単にブラウザやアプリを通じSNS上で他人の著作物を利用するのとはまた違った、複雑な問題を孕んできます。

ブラウザ・アプリ時代のインターネットによって著作権制度が大きく揺らいだとはいえ、英米法・大陸法ともにパラダイムシフトと呼べるほどの変化には至らず、いわば小康状態が続いてきました。ここで次の技術であるVR技術がインターネットのプラットフォームになるかもしれないという未来が見えてきた今、その変化の加速度は一気に高まり、臨界点を迎えようとしているように思います。
 

『アプリ法務ハンドブック』出版記念セミナー報告とOSSに関するご質問に対する補足

 
10月22日(木)16:00ー18:00に、レクシスネクシス・ジャパン主催『アプリ法務ハンドブック』出版記念セミナーを、AP渋谷道玄坂で開催しました。

40名弱の方にご参加いただき、終了後のアンケートからは内容、時間の長さ、テンポ等いずれも多くの方にご満足をいただけたようで何よりでした。また終了後は、10名くらいの弊ブログを毎週のように御覧下さっているという方々に直接ご挨拶することも出来ました。お忙しい中ご参加下さったみなさまに、この場をお借りして御礼申し上げます。誠にありがとうございました!


セミナーのQ&Aの時間には、OSSと資金決済法に関してかなり具体的な限界事例に関する質問をいただき、その関心の高さを改めて感じました。

OSSについては、共著者であるField−R法律事務所の東條先生から「OSSのライセンスは法律家が読んでも難解な文言であるため、その解釈の正確さに拘泥するより、専門家と相談しながらまず自社なりの遵守基準を作っておき、いざというときに正当性を主張できるようにしておくことが大事」「その最初のステップとして、本書記載のポイントを最低限抑えておくとよい」という趣旨のアドバイスがありましたが、この点、私も以前『企業法務について』の@kataxさんのプレゼンテーションに触発されてOSSのライセンスを読み込んだことがあるのですが、やはり同様の考えをもっています。

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補足として、もう少しOSSに関する知識を広げたいという方には、以前弊ブログでも簡単にご紹介した書籍『ソフトウェアライセンスの基礎知識』を読んでいただくか、


ソフトウェアライセンスの基礎知識
可知 豊
ソフトバンククリエイティブ
2008-09-25



さらに詳しい文献として、電子書籍販売のみとなりますが、同じく可知豊さんがリリースされている『知る、読む、使う!オープンソースライセンス』をおすすめします。上記2文献は、OSSに関して知っておくべき情報が網羅的に収められているほか、日本語・英語で読める参考文献へのリファレンスも豊富にあり、OSSの情報源としては大変貴重な存在です。


知る、読む、使う! オープンソースライセンス
可知豊
達人出版会
発行日: 2011-12-20
対応フォーマット: EPUB, PDF


その他、ネットで日本語で読める記事で私が参考にしているものとして、以下をご紹介しておきます。


▼「オープンソース・ライセンス」翻訳(オープンソース法)
http://opensourcelaw.blog18.fc2.com/

▼OSIの定義に基づくOSSライセンスの特徴分類と現場での課題との関連に関する検討(情報ネットワーク法学会第14回大会資料)
http://www.in-law.jp/archive/taikai/2014/kobetsuB3-slide.pdf

▼エンジニアのための契約勉強会 – オープンソースライセンス編まとめ(オープンソース・ライセンスの談話室)
http://www.catch.jp/oss-license/2015/06/27/seminar/

▼エンジニアのための法律勉強会 #5『OSSのライセンスと、コンテンツやソースコードの著作権』参加メモ
https://gist.github.com/koyhoge/25e7b318d64d6fb1ae7e

▼エンジニアのための法律勉強会 #6『続:OSSのライセンスと、コンテンツやソースコードの著作権』 参加メモ
https://gist.github.com/koyhoge/dd2957d75fcf6e7d2734

▼「OSSライセンス=契約」という誤解を解く (@IT)
http://www.atmarkit.co.jp/ait/articles/1412/15/news011.html

▼OSSライセンスが求める条件とは? (@IT)
http://www.atmarkit.co.jp/ait/articles/0902/05/news135.html

▼OSSライセンス順守の第一歩 (@IT)
http://www.atmarkit.co.jp/ait/articles/1002/18/news106.html

▼「事例に学ぶ、オープンソース知財セミナー2010 」開催のご報告(オージス総研)
http://www.ogis-ri.co.jp/event/f-01-00000265r.html


引き続きよろしくお願いいたします。

アプリ法務ハンドブック (BUSINESS LAW JOURNAL BOOKS)
小野 斉大 (著), 鎌田 真理雄 (著), 東條 岳 (著), 橋詰 卓司 (著), 平林 健吾 (著)
レクシスネクシス・ジャパン
2015-10-09


エイベックスのJASRAC離脱で風雲急を告げる音楽業界と音楽著作権実務

 
音楽業界と音楽著作権実務に大きな影響を及ぼすニュースが飛び込んできました。ちょうど弊ブログでも9月のシルバーウィークに音楽著作権のエントリを連投していたんですが、あれは虫の知らせだったんでしょうか・・・。

エイベックスがJASRAC離脱 音楽著作権、独占に風穴(日本経済新聞電子版)
音楽最大手の一角、エイベックス・グループ・ホールディングスが同協会に任せていた約10万曲の管理を系列会社に移す手続きを始めた。JASRACから離脱し、レコード会社や放送局から徴収する使用料などで独自路線を打ち出す。
使用料はCDの場合で税抜き価格の6%、放送の場合は各社の放送事業収入の1.5%を徴収。著作権者への利益還元に役立ってきた。ただ、同協会が著作権管理を独占していることで、レコード会社や配信会社は使用料で有利な条件を引き出しにくいのが実情だ。これが音楽市場の活性化を妨げているとの指摘もある。
エイベックスは子会社のエイベックス・ミュージック・パブリッシング(AMP)を通じ、JASRACに音楽著作権を預けてきた契約を一斉に見直す。今後は系列のイーライセンス(東京・渋谷)に委託する。コンサートなどでの楽曲の演奏権を除くすべての音楽著作権が対象になる。

エイベックスさんといえば、その昔、コピーコントロールCD(CCCD)を大真面目に広めようとした(そして失敗した)歴史があります。当時ダンスミュージックが好きでDJもどきをやっていた私としては、エイベックスさんの得意分野であるトランス系アーティストのCCCDがDJ用機器で読み込めず、ユーザーとして大変困らされた記憶しかないのですが、CCCDといい今回の動きといい、「多少の波風を立ててもアーティストと音楽業界の権利を意地でも守る」というそのスタンスは、まったくブレていないということなのかもしれません。


ところで、記事を読んでいて音楽著作権処理の実務に関わる者として気になったのは、「演奏権を除く」とある点です。音楽著作権を管理団体に預ける際には、下図のようにその著作権の支分権のまとまりごとに信託・委託範囲を指定することになるのですが、JASRACに信託しない道を選ぶ場合、現時点では演奏権の管理(権利行使)が事実上行えません。


その結果どうなるのかというと、たとえば、音楽著作権者の立場として放送以外で大きな収入源となりうるカラオケでの利用において、通信カラオケ業者に対するネットワーク配信に関する公衆送信権と店舗設置カラオケ機器への複製に関する複製権に係る使用料は徴収できても、そのカラオケ機器を設置して演奏している(客に歌わせている)カラオケ店舗に対する演奏権に係る使用料を徴収できない、つまり、その分の著作権者としての収入も得られないということになります。

なぜこうなっているのかと言えば、演奏権の管理には大きな手間がかかるから。全国に支部を持ち、店舗を実際に足で回る多数の徴収担当者を抱えているJASRACだからこそ、この演奏権管理に実効性が担保できているというのが現状なのです。こういった理由から、著作権者としての利益を最大化しつつフレキシブルな音楽著作権管理を実現するための実務として、演奏権のみをJASRACに信託し、その他の支分権をイーライセンスに委託するという組み合わせワザを使うケースもあったりします。

ということで、エイベックスさんも日経記事タイトルにある「JASRAC離脱」とまではまだいかなくて、実は演奏権だけは(しばらくの間)JASRACに残すんじゃないかな?と推測しています。そうでないと、ユーザーとしてもエイベックスさんの楽曲が演奏できないということにもなりかねませんし。なお、いったん全信託していたJASRAC管理楽曲につき、演奏権だけを残してその他の支分権を引き上げるということが実務上できるのかどうかは、私も詳しく知りません。

いずれにせよ、イーライセンスがJRCと統合されエイベックス傘下に入るという動きもあり、将来この演奏権の管理についても強化が図られ、硬直的だった音楽著作権実務にブレイクスルーを実現してくれることを期待しています。 
 

サンリオキャラクターを使った広告に学ぶ新しいマルシーマーク表示法(追記あり)

昨年1月に、連続的に変化していくオンラインコンテンツのマルシーマーク表示における発行年はどう表記すればいいかという記事を書きましたが、それに関連する話題を一つ。


この週末にJRを利用した際に、サンリオさんのキャラクターを使った駅構内看板広告でこんな新しいタイプのマルシーマーク表示を見かけました。

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マルシーマーク表示部分を拡大してみると、こうです。

My Melody
©1976, 2015 SANRIO CO., LTD.
APPROVAL NO. G551102

以前私がブログで書いたように、当該著作物の最初の発行の年から更新された年までをハイフンでつなぐ ©1976ー2015のような表示例は、数多く見かけるようになりました。しかし、本広告におけるマルシーマーク表示のようなカンマで区切って2つの年号を並べている事例は、記憶の限り見たことがありません。

これは私の推測なのですが、サンリオのご担当者がこの表記方法で言わんとしているのは、おそらく、

ピンクの被り物をしたうさぎのキャラクターとしておなじみのマイメロディーの著作物の最初の発行の年は1976年ですが、本便秘薬の広告に登場する「スッキリ♪」な表情のマイメロディーは、2015年に(新たに)作画したものです

ということなのではないかと。

つまり、もともと1976年に誕生したマイメロディーのキャラクターの著作権の存続期間は、法人著作につき公表の翌年1977年1月1日から起算して50年後の2026年12月31日、あと11年弱で著作権が切れてしまいます。しかし、上記写真のようにカンマで区切った表記をあえてすることで、「この便秘薬の広告のために作画された“このマイメロディー”に関しては、2015年公表の翌年2016年1月1日から50年後の2066年12月31日まで著作権が存続する」と主張しているのではないでしょうか?

公表当初のキャラクターを原著作物として、それを変形したいわば二次的著作物として作成したキャラクター画に独立した保護期間が認められるかというのは、突き詰めて考えると面白そうな論点でもあります(誰かすでに考えていらっしゃる気もしますが)。

2015.10.4 22:45追記
と思ったらやっぱりそんなことはとうの昔に整理済みでした。大変お忙しい骨董通り法律事務所 for the Artsの中川隆太郎先生のお手を煩わせてしまいました。すみません!


こちら↓が昨年のつぶやき

ということは、本件マイメロディーにおいてはスーパーサイヤ人化がなされていない以上、このカンマ区切りのマルシーマーク表記をしたところで、著作年2015年の主張は無意味ってことになるんでしょうか(笑)。


サンリオさんのキャラクタービジネスの経験値は、日本企業の中でもトップクラスでいらっしゃいます。知財ご担当者にお会いできる機会に恵まれれば、このカンマ区切りの意図と効果について、ぜひご見解をご教示いただきたいものです。
 

2015.10.6 23:50追記
さらに追加で、以下の情報をいただきました。


早速たしかめてみたところ、本当にカンマ区切りになってます!

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加戸先生が採用しているということは、これはもう十分にアリだってことになりますね。

 

 

【本】『プロダクトデザイン保護法』― カタチのない情報デザインを守る意匠法/商標法/著作権法/不正競争防止法/民法の使い方

 
4か月前に弊ブログでも書いていた私の悩みを解消してくれる、画期的な本がもう出てしまいました。





その4ヶ月前の私の悩みがこちら。

【本】『新しい商標と商標権侵害』― 知財業務の難しさを生む権利の「跨り」と「狭間」(企業法務マンサバイバル)
知財の仕事の難しさは、特許・意匠・商標・著作権、そして不正競争防止法と、それぞれの分野だけでも深さがあるのに、その権利の「跨り」について両方を考慮しなければならないところ、もしくは「狭間」になって抜け落ちがちなところ、そういったところにこそあると常々感じています。

本書は、まさにこの「跨り」「狭間」を埋めるために、意匠法/商標法/著作権法/不正競争防止法/民法の5法をどのように用いるべきかについて横断的に解説します。特許法が対象外なのは、デザインなので当然ですね。

前半で各法の概要を、後半でその各法を使った具体的な保護の手法を説きます。その対象は有形の商品デザインにとどまらず、空間デザイン(店舗の外観、内装、陳列などのいわゆるトレードドレス)、情報デザイン(GUI、情報レイアウト、見出し、データベース、アイコン、タイプフェイス)と、無形のデザインまでを幅広く取り扱っているのが特徴。中でも前半の意匠法の解説は、適切な入門書が見当たらないこの分野にあって分かりやすさが際立っていました。また後半についても、特に情報デザインをどう保護するかというテーマは、あらゆるサービス業の知財担当者が頭を悩ましているはずのポイントです。それだけに、“プロダクトデザイン”というタイトルのせいでこの本をスルーしてしまう人がいそうで、少しもったいない気もしました。

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筆者が冒頭のP8ー11で述べている基本的な5法の使いこなし方をさらにざっくりと要約したメモを作ってみました。「こんな基本的なフレームワークなんて分かっているつもり」でも、文字にしておくと、いざというときの対応で混乱せずに済むものです。

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本書のコンセプトと構成の妙については文句のつけようもない一方で、情報デザインの保護について述べた5章における各結論部については、その多くが「情報デザインの保護は(現行法では)難しい」という断定的な結論が多く、個人的には首肯しがたい部分もありました。しかし、その部分を割り引いても、法律という武器と防具をフル活用して守るべきものを守るために戦わなければならない法務パーソンに多くのヒントを提供してくれる、やはり画期的な本だと思います。
 

【本】『判例でみる音楽著作権訴訟の論点60講』― 音楽著作権は何が難しいのか(5)

 
シルバーウィークの音楽著作権特集は、少し硬派なこの本でフィニッシュしたいと思います。





本書を読むと、重要な著作権判例の大部分が、実は音楽著作権(物)に関する訴訟で形成されてきたことが分かります。例を挙げれば、

・ワン・レイニー・ナイト・イン・トーキョー事件
・クラブ・キャッツアイ事件
・スターデジオ事件
・記念樹事件
・グッドバイ・キャロル事件
・ファイルローグ事件
・MYUTA事件
・Winny著作権法違反事件

著作権法を学んでいれば必ず目にしたことがあるはずの事件たち。これらはすべて音楽著作権に関する侵害が問題となった事件です。本書でもこのような著名事件を取り上げて、著作権訴訟上の論点 → 事案の概要 → 争点 → 判旨 → 考察 という順に解説します。

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本書ならではの工夫として、「60講」をあえて事件ごとに分けずに、一つの事件に複数の論点があれば講を分けて繰り返し取り上げている点が挙げられます。たとえば、ファイルローグ事件控訴審判決は、

21講 規範的利用主体論 プロパイダ責任制限法にいう「情報の発信者」
25講 インターネット上のサービス提供者の責任 ファイル交換サービス提供者
42講 差止請求 差止対象の特定
47講 不法行為に基づく損害賠償請求 相当な損害額の認定

の4つの講に分解して取り上げるといった具合です。


音楽著作権は何が難しいのか?法律家にとってのその難しさの原因に、よくわからない「業界慣行」「実務」という名のノイズが混ざり純粋な法的論点が取り出しにくい状況があるように思います。それらのノイズをできるだけ混ぜずに具体的な論点に絞って音楽著作権を学びたい方には、本書のような判例分析スタイルがお好みかと思い、ご紹介させていただきました。
 

【本】『よくわかる音楽著作権ビジネス 基礎編/実践編』― 音楽著作権は何が難しいのか(4)

 
この本は有名ですのでご存知の方も多いと思います。






日本の大手音楽出版社を渡り歩き、ワシントン大学LLMに学びアメリカ著作権法にも詳しい著者が、マンガを交えながら音楽著作権ビジネスの昔と今・理想と現実・オモテとウラをあますところなく取り上げた本。

マンガは、新人のシンガーソングライターである著作ケンゾウを主人公に、音楽業界の作法をプロダクションの社長とマネージャーから学んでいくというストーリー。『基礎編』は音楽出版社やJASRACの役割を知るところからスタートし、

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『実践編』では、主人公がヒット曲を出した後、音楽配信やCMに出演してその権利処理に四苦八苦するといった内容。成長を見守りながら学んでいくことができます。今や音楽ビジネスはiTunesの存在を抜きには語れませんが、その配信契約の内容まで具体的に触れられているのは、この本ぐらいかと思います。

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デジタル音楽ダウンロード販売契約では、ケンゾウ君のプロダクションのように原盤権を持つ会社がライセンサー(使用を許諾する者)となり、iTunes株式会社はライセンシー(使用許諾を受ける者)となる。そして、ライセンサーが保有する原盤を非独占的にiTunes社に使用許諾(ライセンス)することを目的とする。また、iTunes社に提供される原盤は、ライセンサーが特定する。非独占的なライセンスなので、ライセンサーは他の音楽配信事業者にも同一の原盤をライセンスすることができる。
iTunes社は、原盤が複製された音楽データをiTunes Music Storeで販売するためのデジタル形式に変換したうえで、サーバーに複製し、一般ユーザーに対して音楽データのダウンロード販売をすることができる。
次にロイヤリティーについて説明しよう。iTunes社はライセンサーに対して、ダウンロード販売の売上げに応じたロイヤリティーを支払うが、これには原盤にかかるすべての権利者に対する報酬が含まれている。すなわち、ライセンサーにアーティストやプロデューサー等に対する印税の支払義務がある場合、ライセンサーは受領するロイヤリティーから責任をもって彼らに分配しなければならない。これはジャケットにかかるアートワークも含まれる。iTunes社との契約では、ロイヤリティーではなく、卸売価格を支払うという規定になっているが、契約の内容はあくまでも原盤のライセンス契約であるため、対価の性質はロイヤリティーそのものである。
原盤に収録されている音楽著作物の利用にかかる権利処理は、iTunes社がJASRAC、イーライセンス、ジャパン・ライツ・クリアランス等の著作権管理事業者に対して行うことになっている。したがって、ダウンロード販売にかかる著作権使用料は、iTunes社からこれらの著作権管理事業者に支払われることになる。なお、iTunes社は著作権使用料を販売価格の7.7%としてビジネスを組み立てているため、この使用料が変動する場合には原盤使用料のロイヤリティーもそれに合わせて変動することがあるとしている。
原盤に収録されているアーティストの氏名・肖像についても規定がされている。iTunes社は、アーティストの実演が収録された原盤のダウンロード販売や宣伝広告のために、アーティストの氏名や肖像を無償かつ自由に利用できるという内容である。アーティストはその氏名・肖像等についてパブリシティ権を持っているため、iTunes社は事前に利用許諾を受けておく必要がある。
以上がiTunes社のデジタル音楽ダウンロード販売契約の概要であるが、おわかりのとおり、これは原盤ライセンス契約である。したがって、この契約に基づいてiTunes社がダウンロード販売した場合、プロダクションやアーティストから見ると、これは第三者使用となるため、レコード会社はプロダクションやアーティストに対して、原盤契約や専属実演家契約の第三者使用の条項に基づき、印税を支払わなければならない(略)。


『基礎編』と『実践編』を合わせると、79話・800ページ超のボリュームがあるのですが、このマンガの力と取り扱うテーマのフレッシュさとの相乗効果でどんどん読み進めることができ、業界の中で今発生している音楽著作権に関するありとあらゆる問題をあっという間に理解できてしまうのが本書のすごいところ。この本を読むと、音楽ビジネスの世界は利害関係者の多さがそのまま紛争のタネになっており、それだけに音楽著作権実務についての深い理解が重要になってくるということが痛感できます。


一方で、本書内では著作権法自体の厳密な解説はあまりなされていないので、この本だけだと法律的には「わかったつもり」で終わってしまう危険性もあります。先に音楽著作権自体を学べる本を読んだほうが良いでしょう。
 

【本】『音楽ビジネス著作権入門 はじめて学ぶ人にもわかる権利の仕組み』― 音楽著作権は何が難しいのか(3)

 
一昨日・昨日とご紹介した2冊とはうってかわって、ページ数少なめ&文字大きめ、初心者にも安心・・・と舐めてかかってしまいそうな装丁ですが、読み終る頃には、音楽著作権のテキストとしてのレベルの高さに驚かされると思います。





著者は、元CBSソニー(ソニー・ミュージックエンターテインメント)で34年間のキャリアを積んだ佐藤雅人氏。同社グループ内の研修講師も務めていたというだけあって、説明の組み立て方に他書にない工夫が見られます。特に、著者が序盤で力説している初心者のつまづきポイントが以下4点。これらは、音楽著作権は何が難しいのか?という問いへのアンサーにもなっていると思います。
  • 音楽ビジネスの基本は、三者の権利(アーティストの演奏・歌唱/作詞・作曲家の創作した楽曲/レコード製作者が録音した音源のそれぞれに係る権利)
  • 楽曲(=著作物 by 作詞・作曲家)と音源(=レコード by レコード製作者)の2つを区別する
  • 著作者≠著作権者
  • レコード会社≠レコード製作者
すでに音楽著作権で苦労された経験をお持ちであれば大きく頷いてくださると思いますが、最初はこういった登場人物や用語の違いがこんがらがってわからないんですよね。これらを初心者が混同しないように順を追って、明示的に繰り返して説明してくれます。分かりやすい予備校の先生のような語り口です。


本書中盤では、このチャートを使いながら、権利譲渡の流れを実務に沿ってわかりやすく説明していきます。

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玄人筋の方はこの図を見て、「え、レコード製作者とレコード会社は実務では一体でしょうが」とツッコミを入れたくなるかもしれません。しかしこれが初心者に「レコード会社」と著作権法上の「レコード製作者」との違いをしっかりと理解させるためのあえての工夫だったりするわけです。


圧巻は中盤以降。権利者三者ごとの微妙な支分権の差異をマトリックスで比較しながら細かく抑えていきます。著作権法の条文も丁寧に参照して読ませるなど、初心者だったはずの読者をそれとなく高いレベルへと導いていきます。

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音楽だけにとどまらず、ビデオクリップやライブビデオに係る音源と映像の隣接権と実演のワンチャンス主義の複雑なからみを整理していくあたりは、もはや上級者向け書籍。

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見かけによらず、初心者からプロまで満足できるテキストです。
 

【本】『JASRAC概論 音楽著作権の法と管理』― 音楽著作権は何が難しいのか(2)

 
タイトルはまるでJASRACの社史のようで、実際の中身は、法律家・実務家が著作権法の観点からしっかりと音楽著作権/JASRAC信託約款を分析・整理する、予想をいい意味で裏切ってくれる骨太の法律書。





その法律書らしさがいかんなく発揮された部分をご紹介しましょう。著作権法61条2項の特掲規定とJASRAC信託契約約款との関係について、上野達弘先生が書かれた第2章P32およびP42より。

JASRAC信託契約約款によると、「委託者は、その有するすべての著作権……を、本契約の期間中、信託財産として受託者に移転」するとしたうえで(3条1項前段)、「委託者が受託者に移転する著作権には、著作権法第28条に規定する権利を含むものとする」と規定されているため(同項後段)、これによって28条の権利は特掲されていることになる。したがって、現在の信託契約約款に従う限り、28条の権利は信託の対象になっているものと解される。
他方、27条の権利は特掲されていないため、編曲権を含む27条の権利は委託者に留保されたものと推定されることになる。そして実際にも、JASRAC関連文書には27条の権利が信託されていないことを前提とする説明が散見されるため、同条の権利は信託の対象になっていないものと解される。
したがって、楽曲の編曲や歌詞の翻案といった二次的著作物を作成する行為自体については、JASRACが権利を管理していないことになる。他方、そのようにして作成された二次的著作物を利用する行為については、JASRACが権利を管理していることになる。(P32)
たとえば、他人の楽曲を無断で編曲する行為は編曲権侵害に当たる。他方、このようにして編曲された音楽著作物を公に演奏する行為は、あくまで28条を介して有する演奏権の侵害であって、編曲という行為がすでに終了している以上、27条の権利である編曲権の侵害になるわけではない。そのため、翻訳物の販売や映画の上映といった二次的著作物の利用行為に対して原著作物の著作者が差止請求をする場合、その根拠となるのは、あくまで28条を介して有する譲渡権や上映権であって、27条の権利である翻訳権や翻案権ではないのである。
先述のように、現在のJASRAC信託契約約款によると27条の権利が特掲されておらず(3条1項)、編曲権を含む27条の権利は信託の対象になっていないものと解される。そのため、楽曲の編曲や歌詞の翻案といった二次的著作物の作成行為それ自体については、JASRACが権利を管理していないことになる。(P42)

「JASRACが管理する権利」について述べている書籍ばかりの中で、あえて「(著作権法には規定されているのに)JASRACが管理していない権利」にも注目するというアプローチは、著作権法をある程度理解済みの法務パーソンにとって理解を深めやすいのではないでしょうか。

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また、第7章の、前田哲男先生が著作者隣接権についてまとめたパート「音楽産業とその関係者」も、第2章同様に、著作者が持つ著作権/実演家・レコード製作者・放送事業者らが持つ著作隣接権について、「著作者は持っているが隣接権者が持っていない権利」に着目するアプローチが取られています。メモがてらマトリックスにしてみました。

著作者vs実演家

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ということで、音楽著作権は何が難しいのか? 昨日は、『音楽著作権管理の法と実務』からの学びとして「JASRACの実務と用語が分かりにくい」という点を挙げましたが、今日ご紹介の本書からの学びは、
  • 著作権と著作隣接権の各支分権に、「あるもの」と「ないもの」の細かな差異がある点
  • その差異の上に、さらに「JASRACが管理する権利」と「JASRACが管理していない権利」が重層的になっている点
の2つが挙げられるでしょうか。

本書のところどころに散りばめられたJASRAC万歳というポジショントークが鼻につくものの、音楽業界で現場業務に携わる非法曹の有識者によって書かれた書籍がほとんどという中にあって、一流の法律実務家が音楽著作権についてここまで体系的に法律論を述べてくれている書籍は他に無く、貴重な一冊です。
 

【本】『音楽著作権管理の法と実務 2015-2016』― 音楽著作権は何が難しいのか(1)

 
エンタメ法務の真骨頂ともいえる音楽著作権。私もいちおう元バンドマンの端くれとしてそこそこ分かっているつもりだったのですが、仕事で扱う機会が増えてくると、この領域は本当に難しいなと感じます。

何が難しいのか?その理由を考えてみると、

1)権利者が多い
  作詞家、作曲家、実演家、レコード製作者、放送事業者…
2)権利の種類も多い
  著作(財産)権、著作者人格権、著作隣接権、実演家財産権、実演家人格権…
3)権利者の権利に二次的に関わる関係者がいる
  音楽出版社、レコード会社、プロダクション、プロモーター、広告代理店…
4)さらにそれらの権利者と権利に関わる団体がある
  管理事業者(JASRAC・イーライセンス他)、レコ協、芸団協(CPRA)、音事協…

こんなところにあるんじゃないかと思います。

しかも、これらの登場人物と権利の背景にある歴史的な「しがらみ」が強く、新しくこのビジネスに参加する者にとってはどうしてこんなに複雑になっているのかすらよく分からないという点が、余計に敷居を高くしています。まずそのしがらみを解きほぐすために、この一冊は外せないようです。


音楽著作権管理の法と実務 2015-2016
一般社団法人日本音楽出版社協会(編)



久しぶりに、Amazonどころか一般書店でも買えない本のご紹介となりました。

本書は、法律論にはあまり詳しく触れてくれません。さらに、一章一章の筆者も筆致もまったく独立してしまっており、体系的でもありません。そのためお世辞にも法務パーソンにとっての良書とはいえないのですが、音楽ビジネスにおいて中心を担う音楽出版社とJASRAC、そして権利管理団体らがどのような歴史のもとにそれぞれの役割と業務を担っているのかを、他書よりも詳しく知ることができるという点で、入手しておくべき1冊となります。

音楽著作権の世界においては、最終的には「今のところJASRAC最強!」というのが話のオチです。そのJASRACが行う細かい実務が具体的にイメージできるようになり、そこで出てくる用語に慣れないと、どの本を読んでも頭に入ってきません。そして、音楽著作権にちょっとでも関わったことがあれば必ず目にしているはずの「例の図」=管理委託範囲の選択区分の別表。あれをカラダに染み込ませないことには、お話になりません。

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音楽著作権を理解するには、この本ではないわかりやすくて体系的にまとめられた本を読みつつ、この本も都度ひも解くという、縦糸に横糸を通す作業を業務を経験しながら地道に行っていくしかないようです。

シルバーウィークは、引き続き音楽著作権関係の本を何冊か紹介していきたいと思います。
 

【本】『事業をサポートする知的財産実務マニュアル』― 実は特許の実務経験がなかったりする“自称”知財担当者への福音書


「知的財産も担当している」と言いながら、実は著作権と商標権ぐらいしか取り扱った経験がなく、特許・意匠権となるとよく分かってないという“自称”担当者は、かなり多いと思います。そういう方にとってはまさに福音の書。





架空の電機メーカーがドローンに掃除機を付けたような「ホバリング掃除機」を開発し、キャラクター商品を用いた販促を行う、というケーススタディをベースに、以下のようなテーマをまんべんなく見渡していくという構成。
・特許公報の読み方
・パテントマップ作成
・特許調査
・特許出願
・出願および審査対応
・外国特許出願
・意匠登録出願
・商標登録出願
・著作権その他法によるキャラクター保護
・侵害警告書対応
・模倣品対策・税関対応
・秘密保持・ライセンス・譲渡契約

ところどころ4コママンガ入り、トータル300ページ弱の見かけによらず、設定されたケースが適切なことが功を奏して、網羅性・具体性・わかりやすさが高水準でバランスしています。本書ウラ表紙の見返しをみると、

中小企業といえども、「もの作り」をする上で、知財担当者は不可欠の存在であり、その基本知識・基本業務が1冊で身につけられないかという問題意識から、本書の構想はスタートしています。

親しみやすいスタイルで、しかし内容は中級レベルに自分でたどりつけるように配慮して執筆されています。

との記載があり、まさにその狙いどおりとなっています。浅すぎず深入りし過ぎず、本書に書いてあるところまでは自社内で理解するのが理想的で、ここから先の専門領域は外部の弁理士(または弁護士)に、というレベル設定がパーフェクト。

その例を挙げると、特許実務を知らない方がまず最初につまづく「請求項(クレーム)」の概念について、出願公報を読むために最低限必要な初級レベルの解説と、

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実際に自社が出願書類を提出する際に最低限求められる、特許法第36条に基づいた中級レベルの解説、

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それぞれのレベルに応じて二度に書き分けて理解を深めさせてくれる親切設計で、これまでの特許法の基本書・実務書にみられなかった良さがあります。


現状の日本では、在メーカー知財担当者でもなければ特許について出願も紛争を経験することがなく、業務として取り組む必要性を感じられないという声は仲間内でもよく聞きます。しかし、そういった平和な時代がいつまで続くかは分かりません。

今年に入って所属している業界団体で講演をした際にも、特許の話題についてはかなり反応がありました。また先日も、ウェブサービス企業に勤める知人と私のメンバーの弁理士とが集まる勉強会があり、大手ウェブサービス事業者が実際に出願し登録された特許公報を検索しながら、その読み方や一般論としての対処方法につき簡単なレクチャーをさせてもらったのですが、レクをしている側の私たち自身も、ウェブサービス関連特許の脅威が相当身近なものとして存在するのを確認し、改めてリアリティを感じました。

特許が気になっているが出願したことはない、その必要性・具体的なリスク・やるとして何をどの水準まで準備すればよいかが分からないという方は、まずは本書を片手に自社の同業他社・競合企業の出願を調査して、知らない間に背後に迫っているリスクを実感してみるところからのスタートをおすすめします。
 

【本】『新しい商標と商標権侵害』― 知財業務の難しさを生む権利の「跨り」と「狭間」


商標法が改正され、色彩・位置・動き・ホログラム・音の商標が出願できるようになりました。ただでさえ掴みどころのない商標権が、これによってまた一段とややこしくなった感があります。

私自身、担当者にまかせてちょっと手を抜いていたところなんですが、出願されはじめた大手企業の新商標を見るにつけ、「自分の理解は果たして合っているのだろうか?」と不安はつのるばかり。法律雑誌記事の断片的な情報を追いかけているだけだと抜け漏れが怖いなあ…という心の声が届いたのか、産業構造審議会商標WGの委員も務められたユアサハラ法律特許事務所の青木博通先生が、さまざまな雑誌に投稿されていたご自身の論稿を再整理するかたちで、一冊にまとめてくださいました。





この本は、改正商標法に関する記述のみならず、商標制度の基本的な理解の確認にはじまり、国旗の商用利用やオリンピック商標とアンブッシュマーケティングの問題等、実務上の頻出問題点も取り上げています。それだけに、600ページ超え&7,200円(税別)と、大部になっています。

メインテーマである「新しい商標」については、以下のように大きく2つのグループに分け、これらに関する外国の先進事例を適宜紹介しながら解説します。改正法による5つの新商標にとどまらず、旧商標法時代からの論点、さらには将来新商標として加わるだろう香りやトレードドレス商標等も取り上げられているのが、実務家にはうれしいところです。加えて、先月ご紹介した『知的財産権としてのブランドとデザイン』と同様、意匠法・不正競争防止法との関連性も意識的に解説されているのは、青木先生の御本の特徴ですね。

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旧商標法時代から解釈の拡大により論点となっていた
・キャッチフレーズ
・スローガン
・インターネットメタタグ・検索連動型広告
・キャラクター
・アイコン
・立体
・パロディ

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改正商標法により保護されることになった
・色彩
・位置
・動き
・ホログラム
・音
将来さらなる法改正によって保護される可能性がある
・香り
・触覚
・味
・トレードドレス


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そう言えばつい先日、とある業界団体の知財セミナーで講師を務めさせて頂いた際、こんな図をお示ししながら話をさせていただいたのですが、

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知財の仕事の難しさは、特許・意匠・商標・著作権、そして不正競争防止法と、それぞれの分野だけでも深さがあるのに、その権利の「跨り」について両方を考慮しなければならないところ、もしくは「狭間」になって抜け落ちがちなところ、そういったところにこそあると常々感じています。

この本は、新商標だけでなく、商標権とその周辺の権利の「跨り」・「狭間」から生まれる知財担当者の不安や疑問をも解きほぐしてくれる本と言えましょう。
 

【本】『コンテンツビジネスと著作権法の実務』― 判例ときどき産業別典型論点、のち発展的実務


次回のビジネスロー・ジャーナルのブックガイドで、著作権法部門の人気を総ナメするんじゃないでしょうか。


コンテンツビジネスと著作権法の実務
井奈波 朋子 (著), 石井 美緒 (著), 松嶋 隆弘 (著), 棚橋 祐治 (監修)
三協法規出版
2015-04-10



「実務」書を名乗る本の品質は、「当たればホームラン、しかし大振りなスイングが災いして空振り三振」な本も多く、玉石混交です。最近も「ライセンス◯◯◯◯の◎◎と実務」という中身が相当にアレな「実務」書を買ってしまい、苦虫を噛み潰していたところ。そのトラウマでドキドキしながら読み始めたのですが、大当たりの場外ホームランな本書。


第1部は、条文の建て付けに沿って著作権法をひと通り解説するところから始まるのですが、うざい「実務」書にありがちな経験談や自説の押し売りオンパレードもなく、むしろ、基本書以上に丁寧に判例を引用して現状の法解釈を確認した上で、各論点に突っ込んでいくスタイル。続く第2部は、出版/音楽/映画/放送/ゲーム/舞台芸術/商品化ビジネス/レンタルビジネスと、産業ごとに分解しながら、近時の論点をピンポイントに解説します。

想定読者レベルを高めに設定した解説となっていて、「当然、中山『著作権法』は十分に読み込んだ上でこれ読んでるよね?」という前提で読者層を足切りしている感があります。従って、そのレベルにある方にとっては、まわりくどい初心者向け教科書風解説にイライラすることなく、知りたいことだけがポンポン目に飛び込んで来る感覚。逆に、中山著作権法をまったく読んだことのない方には、ちょっと厳しいかも。
※中山『著作権法』の読者を意識していることは間違いないのに、本書で参照・引用しているのが初版という点は、もったいなさを感じるポイントではありました。


その発展的実務として取り上げている論点は、(本書のタイトルからすれば当然ではあるわけですが)コンテンツビジネスに関わる私のような者のストライクゾーンをズバズバと突いてくる感じ。私が付箋を貼ったところとそこで取り上げられているキーワードを、ちょっとピックアップしてみました。

・P32-39 二次的著作物 …複製・二次的著作・別個の著作物の境界
・P72ー85 同一性保持権 …プログラム著作物とゲーム
・P105ー119 パロディ …適法性をめぐる争点の整理
・P125ー131 未知の利用方法に関する契約解釈 …法61条2項の類推適用
・P131ー141 ライセンス契約 …OSSを契約とみるか単独行為によるライセンスとみるか
・P145ー159 著作隣接権 …シチュエーション別での実演家権影響範囲
・P198-219 侵害論 …制限規定の整理・カラオケ法理・メディアの注意義務
・P250-264 音楽産業と著作権 …サンプリングと原盤権
・P298ー322 放送業と著作権 …放送番組の二次利用の困難性
・P323ー331 ゲーム産業と著作権 …ゲームはプログラムか映画かその他か・組込み著作物
・P339ー348 商品化ビジネスと著作権 …キャラクターの著作物性
・P385ー392 プログラムの著作物 …プログラムの具体的記述と創作性判断基準

いずれも、著作権法に興味がある方にとっては興味津々なキーワードが並びます。かといって新しいキーワードばかりをつまみ食いするのではなく、プログラムの著作物やカラオケ法理といった典型論点も、最新の判例や視点も踏まえてしっかりと論じているところが、とても頼もしい本書です。


書籍の体裁としては、そんなに図表が多い本ではないこともあり、見た目取っ付きにくい感じもあるのですが、その中でキラリと光っていた2ページをご紹介。

1つめが、P107のパロディの適法性をめぐる争点を整理したチャート。文章では何度か読んだはずなのになかなか頭に入ってこなかった論点が、この図でようやくスッキリと。

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2つめが、著作権制限規定を一覧したP201の脚注。もちろん条文を丹念に追っていけば分かることではありますが、こう一覧化したものって、なにげに今まで無かったのでは。渋い。

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出版社の三協法規出版さんはあまり目にしない名前でしたので、ほかにどんな本を出していらっしゃるのだろうと調べてところ、2年前に弊ブログで絶賛した『ブランド管理の法実務』を出されている出版社でした。恐るべし。
 

【本】『知的財産権としてのブランドとデザイン』― 法務を地味に悩ませる「商標的使用」論

 
キャリアアップのための知財実務のセオリー』の巻末にて、意匠権に関する推薦図書としておすすめされていたのを拝見し、この本の存在を知りました。





「ブランド」「デザイン」を保護する武器としての商標法、意匠法、著作権法さらには不正競争防止法の跨がりを、主要外国法も含めて横断・俯瞰し、解きほぐしてくれる本です。

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意匠権以外も充実しています。特に、「商標的使用」についてのこんな整理・類型化は私のツボ。以下P244より。

以下の事情がある場合には、商標的使用態様を否定する方向で作用する。
  1. 一般に認知されている業界の取引慣行(例:包装容器の目立つ位置には内容物の商品名が表記される)により商標として認識されない(十二支事件、Marlboro事件、巨峰事件、For brother事件、Happy Wedding事件、TASTY事件)
  2. 商標を使用する位置に被告商標が別途使用されている(ポパイ(アンダーシャツ)事件、Marlboro事件、ニンニク写真事件、Happy Wedding事件)
  3. 被告標章が使用される位置が商標の使用される位置ではなく、記述的表示が使用される位置である(巨峰事件、POS実践マニュアル事件、Under The Sun事件)
  4. 被告標章の使用されている商品との関係で(例:通行手形の形をしている)、商標とは認識されない(通行手形事件、Happy Wedding事件)
  5. 他社の商標も並列的に使用されている(Marlboro事件)
  6. 打ち消し表示が使用されている(タカラ本みりん入り事件、For brother事件)
  7. 他の商品分野でも記述的に使用されている(カルゲン事件)
  8. 被告独自の取引慣行(例:キャッチフレーズを利用した広告宣伝を長年行っている)が認知されている(Always Coca-Cola事件)
  9. 書籍の題号として認知されている(三國志武将争覇事件)
  10. 他の文章との関係で商標として認識されない(POS実践マニュアル事件、Always Coca-Cola事件)
  11. 商標権者が不正の目的で商標登録した(ポパイ(アンダーシャツ)事件)

インターネットで何らかのコンテンツを提供するサービスにおいて、最も問題になる頻度が高い知的財産権が著作権であることは異論がないところだと思いますが、その裏で“地味に”法務パーソンを悩ませているのが、この商標の使用と権利侵害の問題、いわゆる「商標的使用」論ではないかと思います。

検索連動型広告での競合他社商標のキーワードバイイングなどは古くからある代表的な論点ですが、それ以外にも、
  • オンラインゲームの主人公の生活描写としてコカ・コーラの赤い缶を片手にカルビーのポテトチップスを食べている絵を書いてしまっていいのか?
  • ユーザー投稿型のレシピサービスで「味の素」と投稿されたレシピを「うま味調味料」と訂正させるべきか?
  • 音の商標が認められる現代においてネット動画の音声にサウンドロゴが入りこんだ場合にはどう考えれば?
etc…、気になりだすととまらなくなってしまうところです。

こういった商標の使用が商標権者の深刻な権利侵害となる事例が少ないからか、大きな問題とはなっていませんが、比較的権利化が容易な商標権だけに、侵害を主張された場合に備えた理論武装は十分にしておくべきところだと思います。
 

著作権法における「利用」と「使用」の使い分け

 
著作物に関する文書やライセンス契約書をドラフティングする際に気を使う「利用」と「使用」の語の違いと使い分け方について、メンバーにレクチャーしようと思い、教科書に指定している中山『著作権法 第2版』にその説明を探し求めたところ、はっきりと説明しているページがなく、はてと困ってしまいました。

さらに、有斐閣『法律用語辞典 第4版』にもなし。新日本法規出版『契約用語使い分け辞典』にはあったものの、その説明には少々怪しげな雰囲気が・・・。

そこで、蔵書する先生方の基本書に加え、この際持っていなかった基本書も買い漁り総当りでチェックしてみた結果、岡村久道『著作権法 第3版』P154ー155のこの解説がベストでした。


著作権法
岡村 久道
民事法研究会
2014-08-01



4.1.2.5 支分権の対象となる法定利用行為の総称―利用
 各支分権の対象となる法定利用行為(主として対象著作物の種類と対象利用態様の組み合わせ)を、本法は全体として「利用」(例:32条)という言葉で総称していると解されている。
これに対し、いずれの支分権にも該当しない行為は、原則として自由に行うことができる。これを本法は「使用」という言葉で総称して(例:113条2項)、前記「利用」と区別している。
 その例外として、支分権に該当しない一定の行為を侵害とみなす規定(みなし侵害規定)が置かれている(113条)。その結果、支分権よりも、さらに著作権が及ぶ範囲が実質的に拡張されている。他方では、制限規定・みなし侵害規定によって、支分権が及ぶ範囲が縮減されている。したがって、より正確には、各支分権(制限規定・みなし非侵害規定に該当する場合を除く)と、みなし侵害規定の、どちらにも該当しない行為が、著作権に抵触することなく自由に行うことが可能な行為の範囲となる。
ただし、本法は20条2項3号・4号、47条の3第1項、113条6項のように「使用」の前記意味で「利用」と呼ぶ場合もあるので、この区別は厳密とはいえず、一応の概念整理にとどまる。


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岡村先生のこちらの本、大変失礼ながら今日まで購入に至っていなかったのですが(恥)、この件に限らず非常に有益な記述・図表が多いことを知りました。弊ブログでまた機会を改めてご紹介させていただきたいと思います。


さて、今回いろいろな書籍をひっくり返してみて、「利用」と「使用」の使い分けは著作権法学において自明なことなのかと思っていたところ、中山先生や加戸先生の本をはじめとしてそもそもこの区別について言及していない書籍が多く、また言及されているものの中でもかなり温度差があるということもあらためて知りました。読んだ限りでは、上記岡村説が中立的な立場、一方で最も使い分けに積極的なのが斉藤先生で、最も消極派だったのは作花先生であるようにお見受けしました。これらを含め、具体的に「利用」と「使用」の違いについて言及があった基本書を、以下タイプ的に分けてみます。


■岡村説以上に厳密な使い分けを推奨する立場

著作権法 第3版
斉藤 博
有斐閣
2007-05-01



著作権法詳説【第9版】-判例で読む15章-
三山 裕三
レクシスネクシス・ジャパン
2013-01-29



■区別は流動的・政治的なものであるとする立場

ビジネス著作権法
荒竹 純一
産経新聞出版
2006-09



■法的な差異はあまりないとしつつ、著作権を無体的に用いると「利用」・有体的に用いると「使用」であるとする立場

詳解著作権法
作花 文雄
ぎょうせい
2010-04-23




また、岡村先生の本でも紹介されている下記文献は、ネットでも確認できます。

著作権審議会 マルチメディア小委員会ワーキング・グループ(技術的保護・管理関係)中間まとめ(コピープロテクション等技術的保護手段の回避について)(平成10年2月20日 文化庁)
「利用」とは、複製や公衆送信等著作権等の支分権に基づく行為を指す。
「使用」とは、著作物を見る,聞く等のような単なる著作物等の享受を指す。


その他、信頼のおける実務家の記事としては、@redipsjp先生のこちらの記事があります。

著作権がないと困るのか(Footprints)
著作権法では,著作物の「利用」と「使用」は区別されている。「利用」とは,上述のとおり,著作権者の許諾なくして行えない行為であり,著作権法21条から28条に列挙された行為をいう。具体的には,システムに関するところでは,複製(21条),公衆送信(ネットを通じた配信,23条1項),翻案(改良・修正等,27条)などである。他方,「使用」とは,著作物の効果を享受する行為で,プログラムであれば,コンピュータ上で実行させる行為であるし,本であれば読む,音楽であれば聴く行為を指す。

 

【本】著作権法 第2版 ― 差分取り&マーキング読み込み


ついに、重い腰を上げて読了しました・・・。


著作権法 第2版
中山 信弘
有斐閣
2014-10-27



中山先生とその教え子の皆様を除けば、その次ぐらいに読み込んだ人間かもしれません(自分調べ)。なぜそんなに読み込むことになったかと言いますと、



という輪読会企画の存在に加え、所属組織のメンバーにも本書を基本書として、ライセンス契約とその前提となる著作権法をレクチャーすることになったため。


まず、輪読会のお題が「一版と二版の記述差異を指摘した上で」ということで、どうやったら差異を漏れ無く効率的に見つけられるだろうか考え、まずはオーソドックスに目次を比較。してみて、ほとんどその体系・構成に変更がないことに驚かされました。本文を最初に読んでいる時は、フェアユースフェアユース連呼をしているような印象があり、第一版から大幅に書き換わったような印象だったのですが、それはパッと見の印象だけだったよう。もちろん、30条の2の付随対象著作物や、42条の3の公文書管理法等による保存等、第一版が出た後に大々的な法改正が施された権利制限規定は大幅に記述が追加されていますが、第一版時点での本書の完成度がいかに高かったかがわかります。

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目次で差異が掴みにくいとなると・・・索引か?ということで、索引も第一版と比較してみると、キーワードレベルだけでみてもかなり増量(83件増)していることがわかります。あわせて、判例索引も比較してみたところ、平成18年以降の判例が新たに追加されている(73件増)のは当然として、平成17年以前も14件の判例が追加(4件削除)されていました。

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こうやって差分を追いかけて行くだけでも、私のような浅学な者でも著作権法学の変遷が垣間見えてきます。たとえば、頒布権と消尽の論点について、

しかしながら、この問題は立法時には想定すらできなかった事態を扱っており、<<実質的には>>法が欠缺している分野と見ることもでき、その意味で判決の理論構成が区々に分かれているのはやむを得ぬことである。究極的には立法的解決によるべきかもしれないが、それまでの間は、最高裁判決のような立法的論的解釈論にならざるを得ず、最高裁の結論は、著作権が経済財的要素を強めている現在では妥当なものといえよう。

このような(大変失礼ながら)立法論への逃げとも見える記述が、

しかしながら、映画の頒布権は劇場用映画の特殊性から例外的に認められたものであり、劇場用映画とは全く異なった流通形態をもつゲームソフトのような通常の流通形態の商品にまで同じ論理で規整することには問題がある。この問題は立法時には想定すらできなかった事態を扱っており、<<実質的には>>法が欠缺している分野と見ることもでき、その意味で判決の理論構成が区々に分かれているのはやむを得ぬことである。敢えて言えば、知的財産法における消尽は必ずしも条文に書かれているとは限らず、一部を除いて解釈で認められていることからして、26条では消尽についてなんら規定されておらず、解釈に委ねられていると考えることも可能である。それまでの間は、最高裁判決のような立法的論的解釈論にならざるを得ず、最高裁の結論は、著作権が経済財的要素を強めている現在では妥当なものといえよう。
ただ近年は映画のデジタル化が進み、映画のマスターフィルムからプリントフィルム(複製物)を作成し、それを各映画館に配るというビジネス・モデルは少なくなり、デジタル方式で各映画館に電子配信されることが増えた。そうなると技術的手段の発展により、映画館に映画の複製物の譲渡や貸与(頒布)をするという行為自体がなくなり、映画館としても物理的に映画の複製物を他に譲渡や貸与ができず、26条で規定されている頒布権の出番がなくなる。劇場用映画以外の映画に26条の適用が判例上否定された現在、26条の意義はなくなると言えよう。ただ現在でも旧来の方式であるフィルムの配給も皆無ではなく、その限りでは頒布権の意味が残存している。

と踏み込んでいたり。


さらに、3周目からはメンバー向けレクチャーのために、これまでの私なら絶対にしなかった「マーキング」をしながらの読み込み。覚えるべき定義や判例通説は赤、論点となっているところは紫と塗り分けているのは、某予備校H講師の授業の影響であります。こうやって作業してみると、本書が予備校のテキストなみに論点・通説・自説がくっきりと丁寧に書き分けられていて、初学者の学習用としてもすばらしい本だということをしみじみ感じました。

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一人で著作権法の基本書を読みこむことほどヤル気が起きないことはありませんが、このタイミングでこういうきっかけを頂いてやり終えて、自分のためにも良かったと思っています。
 

【雑誌】IPマネジメントレビュー Vol.14 ― UGCと「暗黙の領域」問題


IPマネジメントレビュー Vol.14 に掲載されている、骨董通り法律事務所 For the Artsの福井健策先生と中川隆太郎先生による、「UGCと著作権 ― 進化するコンテンツの生態系」を拝読。


IPマネジメントレビュー14号
知的財産教育協会
 
2014-09-15



インターネットを介した口コミの力が、企業のマーケティング施策上も無視できなくなっている中で、UGC(User-Generated Contents)に法的にどう対処すべきかという問題は、私が携わる実務の中でも日に日に大きくなっているところです。そんな現状を、『アナ雪』や『Perfume Global Site Project』といった最近の事例も交えながら概観できる良記事です。


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中でも、さすが福井・中川両先生は今の“雰囲気”を正確に切り取っていらっしゃると思ったのが、P06ー07の以下の一節。

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とはいえ、これらの工夫により著作権処理が上手く行えない場合ももちろんあります。そうした場合を含めて、実は多くのケースでは、いわゆる「グレーゾーン」、「暗黙の領域」の中でUGCが制作・共有されています。つまり、(i)規模や態様(販売場所や期間を含みます)、(ii)表現内容などの点で、「権利者にあまり迷惑をかけない」「目立ちすぎて怒られない」よう配慮をした上で、個別の許諾を得ずに利用されています。これらの利用は、形式的には違法である可能性が高いものも多いですが、基本的にはファン活動です。そのため、権利者による黙認(黙示のライセンス)にまでは至らなくとも、権利者への経済的影響も大きくない場合などには、あえて放置していると思われるケースも少なくありません。


クリエイティブ・コモンズ・ライセンスや初音ミクが採用するピアプロ・キャラクター・ライセンスのように、パブリックライセンスとして積極的に開放を打ち出していくという方向性もあるにはあります。しかし、企業としてそういったスタンスを取りたくても、コンテンツ上の性格により取れないものがあります。中でも、Youtubeやニコ動におけるUGC動画の問題は、古いようでいてこれからますますホットになっていくところではないかと思っています。

具体的事例としては、本記事でも紹介されているゲーム実況動画の事例が特にわかりやすいかもしれません。動画は映像(影像)と音声の大きく二つの要素からなるわけですが、ユーザーにYoutubeやニコ動で動画を拡散して欲しくても、BGMにまつわる音楽著作権や、中で演じて下さっている有名声優さんの声や歌に関する実演家権の処理上、おいそれとパブリックライセンスに踏み切れない場合は少なくありません。その割に、ゲーム実況動画の類はかなりの量アップロードされ特に削除もされていないわけですが、これは先生方も記事で触れられているように、あくまで「暗黙の領域」であって、「黙示のライセンス」ではないのです。従って、真面目なファンやユーザーさんから利用許諾を求められてしまうと、企業としては「許諾はしていませんので・・・」と回答せざるを得ず、まさに正直者がバカを見る、といった状態になっています。
 
個人的には、このような実況動画モノに関する「暗黙の領域」問題については、映像部分については、画面面積シェアの3分の1程度を上回らないようにして著作権法32条の引用要件を充足していただきつつ、BGM等音声部分については、新設された著作権法第30条の2の付随対象著作物の範囲で処理していることにできないものか、と思っていますが、どんなもんでしょうか。このあたり、先生方ともお会いできる機会を見つけて、ぜひ意見交換させていただきたいところです。
 

【本】キャリアアップのための知財実務のセオリー ― 特許業務から逃げない法務になれる本

 
「知財」の中でも、やれてるつもりになれてしまう著作権や商標権と違い、素人の独学ではまったく対処できないのが特許業務。これに少しでも携わっている方にとって、文句なしの良書です。ご恵贈くださいましたレクシスネクシスのO様に感謝。




 
著者の岩永利彦先生は、東工大大学院にて物理学専攻、ソニーに入社されエンジニア→知財を担当された後、弁護士・弁理士としてご活躍されている方。ブログ「理系弁護士の何でもノート」でも、積極的な情報発信をされています。

業務の概要や戦略・組織・人員の重要性が語られる第1部の「知財部門担当者の心構え」や、特許庁からの拒絶理由通知の対応、他者による自社特許権侵害/自社による他者特許権侵害の対応等を実戦的に解説する第3部の「知財案件のセオリー」も参考になります。しかし、私にとって一番ありがたかったのは、第2部の「知財業務遂行スキル」のパート。法的文書としての特許クレームの書き方を具体例で示しながら、そこで必要となる特許法の知識、スキルとしての特許調査の方法、さらにクレームチャートの書き方を教えてくれるところです。

このパートで公開されているノウハウは、これまで刊行された書籍等文字になったものはなかったように思います(もしかしたら、弁理士向けの実務セミナー等では語られているのかもしれませんが)。特に、特許法第29条2項の「進歩性」とは何か・「新規性」と何が違うのかについては、我が家に10冊ほどある特許法の基本書のどれを読んでも解せなかったところ。ようやく自分自身の感覚にマッチした解説に出会えた気がします。


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新規性が先行技術との同一性の問題であるのに対し、進歩性とは、先行技術との発明の幅の問題といえる。
進歩性には作用効果や商業的成功などに結びつきやすい、技術的な結果が必須であるとされる。まさに技術的な進歩が必要であると考えることになる。進歩性という呼び名も、この考え方に基づいているわけである。
他方、特許法29条2項には、「進歩」という言葉が存在しない。このため、技術的な進歩は不要とする考え方もある。条文の文言上での進歩性は、当業者が容易に発明をすることができたかだけを判断するからである。そのため、この考え方は、価値中立性や多様性を重視することになる。
私は後の考え方を支持している。
要するに、創作(発明)のバリエーションの幅を広くしたものこそ進歩性ありと考えるわけである。他方、既に存在する発明をほんの少し変えただけの発明に特許を付与しても産業の発達には寄与しないと考えるわけである。
したがって、一見退歩したような発明であっても、先行技術から狭い幅しか持っていない発明であれば、進歩性はないことになるだろう。
ある技術の分野に多様性(バリエーション)をもたらす発明こそ、イノベーションの元であって、それこそが究極的に産業の発達をもたらすものである。


IPDLを使った特許調査をするにあたっての具体的な流れやコツといった、スキル部分のレクチャーも充実してます。

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私が特許業務に本格的に携わるようになったのは転職してからのここ数年のこと。そんな私がこの本の真価を理解できているか自信がないのですが、特許事務所から移籍してくれたインハウス弁理士のメンバーから都度都度教えてもらうたびに「そうか」「なるほど」と亀のようなゆったりとしたペースで学んでいたこと、そうして丁寧に教えてもらってもテクニカルタームの難解さから理解が追いつけていなかったこと、それらのいずれもがこの本で見事に体系化され端的に説明されていました。特許業務に関して抱いていたもやもやが、読了後は跡形もなくなったと言っても言い過ぎではないと思います。

その特殊性や難しさから真剣に向き合ってこなかった特許という領域から逃げられなくなり正直困り果てながら、メンバーや外部弁理士の方々の助けを借りて、組織の力でなんとか回してきた特許業務。所属組織のためだけでなく、自分自身が法務パーソンとしてもう一皮剥けて成長するためにも、逃げずにこれに立ち向かってみようという勇気と方法論を授けてくれる一冊です。
 

【本】インターネットビジネスの著作権とルール ― 交差点の真ん中に立つ当事者だからこそ語れること

 
発売前に予約していたにもかかわらず、到着までだいぶ待たされてしまいました。書店への流通もまだ少なめなようです。こういうときはジタバタせずにAmazonに発注して、届くのをゆっくり待つのが吉。





著作権とインターネットの交わりを取り上げた本は数多く存在します。そして、それらには著作権法に軸足を置いたものと、インターネットの知的財産権法全般に軸足を置いたものの2種類に分けることができます。

参考までに、比較的新しめのものからいくつかピックアップしてみると、

・著作権法を論じる中で、インターネット特有の論点を多く取り上げた書籍
 『デジタル時代の著作権
 『著作権の世紀 変わる「情報の独占制度」
 『REMIX ハイブリッド経済で栄える文化と商業のあり方

・インターネット時代の知的財産法を広く概説する中で、著作権の論点を多く取り上げた書籍
 『デジタルコンテンツ法制
 『インターネット新時代の法律実務Q&A
 『インターネットの法律問題 ー理論と実務ー

こんなものがありますが、読了後それらとこの本とは何が違うのかを考えてみると、本書はその両者のちょうど真ん中の交差点、つまり、著作権法かつインターネット特有の論点に絞った本であるなあと。

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そして意外にもこのど真ん中のポジションをとる本が少ないことに、このポジションマップを書いているうちに気付かされました。まさにその隙を突いた本と言えます。
というか、よく見ると、その意図がこの本の表紙に大きく描かれた灰色のマルCとブルーの@によって、まさに表現されているじゃないですか(驚)!


前半は【必須知識編】と題して、著作権法そのものの中でも特にネットビジネスで問題となりがちな公衆送信権・翻案権・二次的著作物の利用権・著作隣接権を丁寧に解説し、後半は【実践編】と題して、オープン化・グローバル化に伴う最新の<ネット×著作権>まわりのトピックスを拾い集めた構成。法律上の細かい論点は丁寧さを失わない程度にうまく端折りながら、どちらかというと海外情勢を含む最新の著作権の「トレンド」を漏らすこと無く拾おうとする姿勢が、全体に溢れています。

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しかも、そのトレンドを語る語り部は、福井健策先生と、MHMの池村聡先生・増田雅史先生、そしてニワンゴ社長の杉本誠司氏という、著作権の最前線で実際に戦っている当事者たち。まえがきによれば、企画段階では元MHMでグーグル法務部長に就任された野口祐子先生も参加されていたとの由。実際の事件に関わっていない学者や弁護士が語るのとは一味違う凄みが、文章に漂っています。私も、増田先生が関わっている領域に身を置く者として、先生がどこまで実務の生々しいところに踏み込んでいらっしゃるのかを楽しみにしながら読ませていただいたわけですが、クライアントとの守秘義務と利益相反に配慮しながらの「真剣を振りつつ、ギリギリの寸止め」で執筆されていることが伝わってきます。部外者がニュース解説的に書くのはカンタンなのに対し、実務のスクランブル交差点にいる当事者がこういった本を書くのは逡巡があるはずで、しかしそれが十分に滲み出ているところも読みどころといえるでしょう。


余談ですが、まえがきによると、このCRICのエンタテインメントと著作権シリーズの既刊の改訂作業もすすめられているそうです。前4冊の中では特に『音楽ビジネスの著作権』にはお世話になりましたので、楽しみにしています。
 

【本】見ればわかる!外国商標出願入門 改訂版 ― 外国商標制度はIT法務パーソンのたしなみ

 
日本を皮切りに、アメリカ、EU、中国、香港、台湾、韓国、シンガポール、ベトナム、タイ、オーストラリア、ロシア、インド、ブラジルと、14の国と地域の商標出願・審査制度+国際登録出願(WIPO)制度についてコンパクトに整理した書籍の改訂版。このブログでは初版も紹介させていただいていましたが、こういったリファレンス本がきちんと改訂していただけるのは本当にありがたい。


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初版刊行(2010年)以降の各国法改正や出願登録料改定を反映したただけでなく、本文の情報もところどころ実務を意識した細かな情報の追加が入ってました。アメリカを例に挙げると、異議申立ての期限について延長請求含めて公報の日から180日が最長となるとか、登録の際に必要になる使用証拠の例(商品:商標が付された商品のパッケージ・タグ・ラベル/役務:商標が付された広告や会社案内等)が追記されるなど。

今後の法改正の見込みについてもいくつか言及されています。はしがきによれば、そもそも今回この本が改訂されたきっかけも、今年5月の中国商標法第三次改正のタイミングに合わせてだそう。その中国もようやく、一出願多区分制度が採用されました。また、私も悩まされた経験があるタイの連合商標制度が、次回の法改正で廃止予定といううれしいマニア情報も♬。


インターネットを使ったサービスで、国ごとにサービスの商標を変更するなどということは現実的ではありませんし考えたくもありませんが、実際、Googleがドイツで"Gmail"の商標をしばらく使えず "googlemail.com" というメールアドレスでサービスしていたなんていう、冗談みたいな実話もあります(2012年にGoogleが買い取って解決した模様)。そんなことにならないようにするためにも、商標の世界はとにかく「先手必勝」。初版の紹介でも必修科目という表現をしていましたが、この本に掲載されている主要国の商標制度について勘所を抑えておくのは、IT法務パーソンのたしなみになりつつあります。タイヘンですけど。
 

【本】キャラクター戦略と商品化権 ― 商品化権はコンテンツ知的財産権の総合芸術

 
TBSが1963年に放送した「エイトマン」がアメリカのテレビ局に買われることになった際、その契約書の原案にMerchandising Rightsという言葉があり、この経験をもとに「スーパージェッター」のキャラクターをTBSが国内玩具メーカーに対してライセンスする際にはじめて使われたのが、日本における「商品化権」のはじまりである。

と、そんなエピソードの紹介から始まる、とても興味深い本をご紹介します。





電気通信、放送、広告、そしてウェブサービスに携わる中で、ある程度はコンテンツの知的財産権というものについて理解も実践もしてきたつもりが、今の業界で著作権や商標権の本当の奥深さを知り、最近ではこれまでほぼ未体験ゾーンだった意匠権との関わりまで考えなくてはならなくなって、己の勉強不足を痛感しております。そのコンテンツの知的財産権の中でも、総合芸術とも言うべきものが、キャラクターの商品化権だと思います。

商品化権とは、基本的に契約により権利者に設定される権利であって、法定されているものではありません。そして本書の著者は、その権利の曖昧さから生まれている紛争の多さに鑑みて、商品化権を法令で定めるべきと主張しています。一方で、現時点でも実定法や判例で認められた権利が何もないわけではありません。この本で観点として取り上げているものだけでも
・著作権
・商標権
・意匠権
・不正競争防止法
・パブリシティ権
そして、これらを束ねる一般法としての民法(不法行為法・契約法)の存在を挙げることができます。

「キャラクターの商品化だったら、著作権の許諾だけで十分なんじゃないの?」という声もあるでしょう。しかし、たとえば
  • キャラクターの絵(平面)からぬいぐるみ(立体)を作ったときに、著作権法第27条の規定する「変形」がこれをカバーしうるのか、それは意匠法のみがカバーしうるのでは、という論点(P121ー128)
  • あるキャラクターを想起させる文字列や図柄を商標として登録した権利者に対して、そのキャラクターの著作権者が対抗しうるのか、という論点(P270ー277)
などの例を見てもわかるように、著作権の処理だけでは、キャラクターの商品化を安心して行えるとは必ずしも言えなさそうだ、ということが分かるのではないでしょうか。

様々な法令の使える部分を武器にしつつも、その法令と法令の間に存在するスキマを契約で埋めて“編んで紡いで”いく。法務パーソンとして商品化権を扱うとき、そんな作業が楽しくもあり、実に難しくもあるわけです。本書は、このようなスキマに生じた紛争判例を数多く取り上げながら、どのような視点で商品化権を契約によって構成すべきかを教えてくれる、他に類を見ない本となっています。


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ご紹介の最後に、法令のスキマの埋め方、契約の編み方・紡ぎ方についての貴重な示唆がなされている部分をご紹介させていただきたいと思います。これは、私自身Evernoteに入れて「家訓」にしているものです。

漫画キャラクターの商品化のための使用許諾をするに際して必要な基本的条件について、ウォルト・ディズニー・プロダクションではどのように考えているかについて、同社のフランクリン・ワルドハイム氏の論文から紹介しよう。これは1964年の論文であるから、今日では多少事情が変わっているかも知れないが、基本的条件は現在でも十分通用するものである。
  1. 使用されるキャラクターと使用される物品とを具体的に特定すること。
  2. 場合によっては、異なる製造者が同じ物品を異なった価格で製造することを認めること。けだし、価格の異なる物品が同一市場で、競って売られることはないからである。ただし、その物品が、ある一定の価格で売られなければならないという取り決めを契約でしてはならない。けだし、このような価格の固定は独占禁止法に違反するからである。
  3. 物品が製造され販売される地域を特定すること。――使用権者の中には、生産コストの安い国で製造させ用途する者がいるが、これはその外国の製造者がその注文主である使用権者だけに売ることを誓約させる条件のあるときに限って認められる。したがって、使用権者の仕様権が契約期間の満了などで消滅した時は、そのキャラクターの商品化に使われた金型や仕掛品をすべて破棄させなければならない。
  4. 使用の有効期間および更新するための期限について定めること。
  5. 使用料について定めること。――この使用料は前払い制であること。
  6. キャラクター使用権とは、そのキャラクターを、被許諾者に与えられたままのデザインを、外観を変更せずに複製(reproduce)する権利をいう。
  7. そのキャラクターに関するすべてのもの(物品・包装紙・容器・広告など)の製造は、許諾者による承諾が必要であること。――これは、キャラクターの完全性を保つために必要である。
  8. 使用権者が製造するキャラクター入りの物品デザインは、できれば許諾者にまかされ、許諾者が創作したデザインに要した費用は、使用権者によって支払われること。
  9. キャラクターが使用される物品の種類・品質・価格などの必要事項を、許諾者に定期的に報告させること。
  10. キャラクターについての著作権・商標権などのいかなる権利も、使用権者に譲渡されるものではないこと。
  11. キャラクターに関する全商品には、正当な著作権表示を付すること。
  12. 使用権者は、許諾者の承諾があるならば、商品が販売される地域内で、キャラクターを使用した商品を陳列、宣伝することができる。――この場合、許諾者にとって注意しなければならないのは、キャラクターとその制作者がつくり出した公のイメージを傷つけるような広告が使われないようにすることである。
  13. 使用権者は、許諾者の承諾がない限り、キャラクターを使用した商品をラジオ・テレビ・広告掲示板などで宣伝してはならない。使用権者が無制限に宣伝するときは、ラジオ・テレビ番組の評価に悪影響を及ぼすことにもなる。
  14. 使用権者は、製造販売した物品が他人の特許権等を侵害した場合に、許諾者に全く迷惑を与えないようにしなければならない。
  15. 使用権者が、その物品の製造販売ができなくなり、契約が有効に履行されないときは、許諾者はその契約を解除することができる。
  16. 契約の有効期間満了後もなお使用権者の工場や倉庫に物品が残存しているときは、すべて許諾者において処分する権限をもつことがよい。――これは、使用権者が期間満了後に投げ売りすることを防止することになる。
  17. 使用許諾権は、譲渡されてはならないようにすべきである。
  18. 契約上の一つの重要な問題は、使用権者は通常、一つの物品についてはそのキャラクターの使用の独占権を欲する。したがって、許諾者としては、同一の物品に同一のキャラクターを複数の者に許諾して競争させることは望まない。――しかし、契約上は、独占的な許諾の条件は与えない。その理由の一つは、物品の領域を正確に決定することは難しいからである。一つの物品が、別の物品の機能を備えた新しい物品(例、鉛筆に対し電灯付鉛筆)の例はいつもある。しかし、このような物品の重要性はどちらの許諾者にとっても重要な問題にはならないだろう。理由の他の一つは、使用権者が、一般大衆がそのキャラクターを使用した物品を強く要求しているのに、その要求を満たすことの出来ない場合に対処しなければならないことがあるからである。

連続的に変化していくオンラインコンテンツのマルシーマーク表示における発行年はどう表記すればいいか


万国著作権条約により、無方式主義を採用している国の著作物であっても、©(マルシーマーク、英語ではthe letter C enclosed within a circle)表示をすることで、方式主義の国においても自動的に保護が受けられるようになっているのは、多くの方がご存知かと思います。


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過去、アメリカ等いくつかの国が方式主義にこだわり、無方式主義を原則とするベルヌ条約に加盟をしなかったため、それらの方式主義国において万国著作権条約に基づく保護を受けるためにも©表記は必須とされていました。ところが、そのアメリカが1989年にベルヌ条約に加盟したたため、©表示がない日本の著作物も同条約によりアメリカで保護されることになりました。こうなると、いまや方式主義を採用する国はラオスぐらいしかないこともあって、もはや©表示に法的には意味がないとも言われています(この点については後述)。・・・とは言いながら、実際は©表示をしているコンテンツがほとんどではないでしょうか?

そこで今日取り上げたいのが、オンラインコンテンツにおけるマルシーマークの表記方法についてです。

万国著作権条約に定められた©表示の要件とその問題点


万国著作権条約第3条によれば、©表示の要件として、
・著作権者の名
・最初の発行の年
とともに「©」の記号を表示することが必要とされています。そして、「©」の記号、著作権者の名及び最初の発行の年は、著作権の保護が要求されていることが明らかになるような適当な方法でかつ適当な場所に掲げる必要がある、とあります。

ここで問題になるのが、連続的に変化する著作物の©表示の発行年の書き方です。なぜなら、書籍・CD(レコード)など、著作物を物に固定することが前提であった時代は終わり、いまどきのウェブサービスやスマホアプリは、オンラインでコンテンツの追加・更新・バージョンアップを繰り返し、継続的に運営していくコンテンツに変化してきているからです。もちろん、文章の著作物や音楽著作物であっても改版やリミックス版といったコンテンツのバージョンアップはあるわけですが、オンラインコンテンツにおける頻度・量・差分の大きさは、その比ではありません。

そういう連続的に変化していくことが前提となるオンラインコンテンツの©表記において、最初の発行の年“だけ”を表記するのもどうなのだろう?と思ったわけです。

発行年を幅表記する


いっそ、年表示は抜いてしまうのがいいのではないか、とも考えました。事実、オンラインコンテンツを見ていると、年表示をしない©表示を多数見かけます。しかしながら、前述のとおり条約の条文にははっきりと「最初の発行の年」が表示要件として書かれているわけです。これを無視するわけにもいかず、はて、どうしたものか・・・と悩んだ私の結論はこれ。

© 2005-2014 ABC, Inc.
Copyright © 2005-2014 ABC, Inc. All rights reserved.

条約上は上の記載例のみでOKなのですが、一般的には下の表記が多用されているので一応。

幅表記は不適切という意見への反論


ネット上の記事では、“2005-2014”のような発行年表記は間違いとか、年表記は無くてもよいのであるとしているものも多くあります。しかし、条約には「最初の発行年」が書いてあることが要件とされている以上、むしろ発行年を何も書かないことの方が問題であるし、一方で“-2014”のように最新の発行年(更新年)を付記したからといって無効となるわけではない(-2014を表示してはならないわけではない)、と私は考えています。

もちろん、実際に発行年が問題となるような紛争になれば、©表記された発行年如何にかかわらず、その連続的に変化した過程のコンテンツ1つ1つごとに正確な発行年を立証しながら争うことになるのでしょう。しかし、「-2014」を付記したからといって無効となるわけではないというこの考えが正しいと仮定すれば、連続的に変化する著作物においては、©表記の発行年は幅表記をし、その最古年だけではなく最新年もあわせて発行年として「主張」しやすくなる余地を残しておくべきではないかと思います。最古年表記がないと、「ウチの方が先に著作してたぜ、パクったのはそっちだろこの野郎」と言い難くなりますし、一方で最新年表記がないと、死後または公表から50年という著作権の保護期間をフルにenjoyしようというシチュエーションで不利になりかねません。少なくとも、このような発行年の幅表記をもって「主張」することについて、利はあっても害はないものと考えます。

なお、世の中の事例を見てみますとみなさん迷っていらっしゃるご様子。大手ネットサービス企業は最新年・現在年である2014年表示が多いものの、年表示せずに©と権利者名だけ書いている例もかなりあります(ちなみに裁判所サイトは最初の発行年である2005年を表示していました)。一方、私が携わっているエンタテインメントよりのオンラインサービスのご同業で、知的財産権に強いと定評のある企業さまは、軒並み発行年の幅表記を採用していました。連続的に変化していくコンテンツの著作権を、スナップショット的に捉えるか、ストック的に捉えるかという考え方の違いも反映されているのかもしれません。

©表示にこだわる価値・意味自体がもはや無い、という言説について


上述のとおり、「©表示をしなくてもほとんどの国で保護されるのだから、©表示自体にもはや意味が無い」という言説もよく目にするわけですが、本ブログでも近々ご紹介しようと思っている『よくわかる音楽著作権ビジネス 基礎編』P167に、こんな記載がありましたので、ご紹介まで。




1989年にアメリカがベルヌ条約に加盟したことによって、©表示がアメリカで保護されることについてまったく意味を持たなくなったと考えるのは早計である。アメリカ著作権法には、「善意の侵害者(innocent infringers)」という言葉が出てくる。これは著作権表示に関する条文に登場するのだが、か簡単にいえば、著作権に著作権表示がなされていないことから、その著作物がパブリックドメインだと信じ、善意でその著作権を侵害した者をいう。方式主義国のアメリカならではの規定である。
この善意の侵害をした場合、もしも著作物に©表示がなければ、侵害者が善意でやったことであり、無過失であることを立証できれば善意の著作権侵害ということになる。(略)
では、著作物に©表示があった場合どうなるのか。この場合、侵害者は「パブリックドメインであると思った」「権利が生きているとは知らなかった」などと言い逃れはできない。なにしろ、はっきり第一発行年と著作権者名が表示されているのだから。したがって、アメリカ著作権法は原則として侵害者に善意の侵害を認めないこととしている。
以上のことから、アメリカがベルヌ条約に加盟した後でも©表示は必要であることは、一目瞭然だろう。

 

自炊代行と複製主体性(または代行者性)


NBL1015は取り上げるべき話題が盛りだくさんではあるのですが、「自炊代行事件(東京地判平成25・9・30、同平成25・10・30)における複製主体の判断について」と題する池村聡先生の判例評釈については、ぜひ個人的にも支援したく、一部紹介とコメントをさせていただきたいと思います。

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本件判決は、利用者の複製主体性を明確に否定している。しかしながら、利用者の複製主体性を判断するに際しては、利用者が複製の対象となる著作物を購入・指示していることや、裁断やOCR処理の有無、複製物の納品方法を支持していること等をどう評価するか(略)という視点からの検討も必要であると思われるところ、本件判決においては、かかる視点が欠けているように思われる。
さらに本件判決は、書籍の裁断やスキャン、スキャン後の点検等の作業を利用者自身が行うことは、設備の費用負担や労力・技術の面で困難を伴うことを自炊代行業者の主体性を肯定する事情として考慮しているが、自炊は裁断機やスキャナー、パソコンという誰でも入手が容易な機器で実現することが可能な行為であることに鑑みると、たとえば同様の考慮をしたMYUTA事件(東京地判平成19・5・25判時1979号100頁)と比しても困難さの程度には大きな差があり、この点においても説得力に乏しいように思われる。
行為主体性が争点となる事案において、「枢要な行為か否か」というきわめて抽象的な基準(?)が活用されることは、予測可能性の点からも望ましいものではなく、(略)控訴審では、社会的、経済的側面を含めた総合的な観察の下で、より丁寧な検討が行われるとともに、同種事案において参考となる基準や考慮要素等が明らかにされることが強く望まれる。

裁判所が今回使った「枢要な行為」なるマジックワードに対する批判だけで終わらせず、複製主体の評価という観点について深堀りされているところは、是非控訴審の裁判官のみなさまも熟読していただければと。

池村先生による指摘の無かった点で、「利用者の複製主体性」(=「自炊代行業者の代行者性」)を強化するポイントがあるとすれば、合法な自炊代行業者は、利用者が自ら書籍に書き込んだ書き込みを含めて、利用者が引き渡した書籍を1冊1冊スキャンして利用者にファイルとして納品し返しているという点でしょう。書籍にもともと印刷されている文章や図は、もちろん著者の著作物です。しかし、それは紙に固定されて書籍となって利用者に引き渡され、利用者の所有物となります。利用者は、著者の文章や図を読みながら、その書籍の所有者として堂々と、共感とともに何度も線を引いたり、気になる頁をドッグイヤーしたり、疑問に思う箇所に印をつけたり、本人にしか価値を持たない(一方で本人にとっては大きな意味のある)コメントを余白に加えていきます。こうしてできあがった利用者の所有物としての加工入り書籍は、レッシグ的な意味で“REMIX”されたプロパティとも言えるでしょう。そして、その「REMIXが施された利用者だけの書籍」を1冊1冊スキャンしているのが、自炊“代行”者なのです。

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さて、控訴審に向けて私が不安に思うのは、自炊の作業を自分でやったこともなく、自炊した書籍をタブレットで使ったこともない(もしかするとタブレットというものに触ったことすらない)裁判官がいるとすれば、こういった議論にリテラシーレベルのレイヤーでついていけず、その結果、そもそもなぜ代行が社会的に必要とされているのか、原告がいうようなリスクが果たして本当に脅威と言えるほどのものなのかについても、正しい評価が下せないのではないか、という点ですね。

裁判官のみなさまには、是非、タブレットと自炊を体験していただきたいものです。なんだったら、裁判の途中で自炊(代行)の実演とか、裁判官に体験してもらったりできないものでしょうか?
 
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