企業法務マンサバイバル

ビジネス法務に関する本・トピックのご紹介を通して、サバイバルな時代を生きる皆様に貢献するブログ。

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【本】『企業訴訟実務問題シリーズ システム開発訴訟』― リサーチするならウエストローは必須かも


著者のお一人、田中浩之先生からご恵贈いただきました。ありがとうございます。


システム開発訴訟 (【企業訴訟実務問題シリーズ】)
飯田耕一郎・田中浩之著
中央経済社
2017-07-01



森・濱田松本法律事務所におけるIT分野のスペシャリストである飯田耕一郎先生と田中浩之先生による、システム開発訴訟の判例まとめ本。この「企業訴訟実務問題シリーズ」、本書を頂くまでこのシリーズの存在自体に気づいていませんでした(汗)。総論/会社法/証券/消費者契約/労働/税務/独禁法/環境/インターネット/システム開発の分野ごとに1冊ずつ計10冊、そのすべてを森濱の先生で分担して書かれているんですね。その最終巻となるのが本書とのことです。

200ページ足らずの少なめボリュームから想像されるとおり、計48の判例を主な紛争発生ポイントごとに分類したうえで、要点をコンパクトにまとめて紹介しながら、そこに共通するリスクポイントを抽出して解説していくオーソドックスなスタイル。システム開発分野の判例を総ざらいしたいというニーズに焦点をあわせて、無駄な情報を一切排除しているのが特徴的です。

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システム開発の法的リスクに関する実務書として著名なものとして、計96の判例を整理した松島・伊藤著『システム開発紛争ハンドブック』があります。あちらで抽出されている判例との被りぐあいを見てみると、
・松島・伊藤本には掲載されているが飯田・田中本に掲載されていない判例 50件
・飯田・田中本には掲載されているが松島・伊藤本に掲載されていない判例 32件
でした。1年弱の後発であることももちろんあるものの、飯田・田中本は、昭和の地裁判決をあえて切り捨て、平成以降の近時判例の傾向を抑えることに割り切ることで、少ない紙幅に情報を詰め込んでいるなという感じです。

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それにしても、こう見ると公刊物未登載・ウエストローでしか見られない裁判例の多さが目につきます。2014年に開催した第3回法務系ライトニングトークで、サイ太先生に登壇していただいた際にも判例DBそれぞれの特徴を解説いただき、ウエストローは登載件数に強みありとお伺いした記憶がありますが、リサーチをきっちりやろうと思うと判例秘書のみでは厳しいんだな、ということを改めて認識させられます。
 

遅まきながら、要件事実

 
師事する先生が、講義の中で「これを読めば、今学んでいる要件事実論を企業法務の実務でどう使うのかがわかる」とすすめていらっしゃったのがこの本なのですが、





実はこちら、数か月前にレクシスネクシスさんからご恵贈いただき(ありがとうございます)、一読したものの、ちょっと暑苦しさを感じる文体に途中でギブアップした本でした(申し訳ありません)。先生がおっしゃるなら・・・と要件事実のところだけ読みなおしてみたところ、たしかに分かりやすい。

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法律事務所に法的紛争が持ち込まれた場合には、まずは交渉によって解決できる可能性を探ります。その際に、私たち弁護士が行うことは、事実関係を精査して、証拠の有無を分析し、裁判になった場合に勝訴できるかどうかを予測します。勝訴できる可能性が高ければ強硬に交渉を進められますが、勝訴できる可能性が低ければより有利な妥協の道を探るか、側面攻撃によりゲリラ戦に持ち込むくらいしかありません。
企業法務で徹底して追求すべきは、裁判に勝つことです。そして、裁判に勝つためには、裁判所が用いるルール・判断基準を知っておくことが不可欠です。
裁判官には裁判官の判断構造があります。それが「要件事実論」です。
あらかじめ法律を分析して法律要件というものに細分化して、原告が、この法律要件に該当する事実を主張し、それを裏付ける証拠が認定されれば、一定の法律効果が出てくるようになっているのです。
そして、この法律要件は、原則として「また(or)」ではなく「かつ(and)」で括られています。したがって、全ての法律要件を充足しなければそれに対応する法律効果は発生しません。
裁判では、単純に、この法律要件を充足しているかどうかというポイントが判断されます。裁判官としては、いかに記録が膨大なものであったとしても、そのポイントの主張・立証が1つでも欠けているとなと判断されれば、いかにその裁判が悲惨な被害を受けたものであったとしても、いかに裁判の準備が大変であったとしても、請求を認めてくれないのです。
このポイント、すなわち一定の法律効果が発生するために必要な具体的事実のことを、訴訟実務では「要件事実」と呼びます。

取引先やお客様と取引をはじめる際、契約書を締結する際、そして紛争が発生しそうな状況に陥った際、その場面場面において必要な法律要件を漏らさず満たすよう、立証すべき損害が立証できるよう、そして相手方の抗弁に対し再抗弁できるよう、現場を動かしサポートする。こういう意識が働いてくると、『要件事実マニュアル』が欠かせない存在になってきます。これまでは、「引用文献が豊富なリファレンスツール」ぐらいにしか思っていなかったのですが、遅まきながらその有用性が漸く理解できるようになり、業務用として会社でも購入。


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たとえば、契約検討や紛争の場面で避けて通ることのできない「瑕疵担保責任」について、同書の整理を抜き書きさせていただくと、こんな感じ。

 ■売買契約の瑕疵担保責任■請負契約の瑕疵担保責任
請求原因の要件事実(特定物の場合)
要件1 特定物を目的とする売買契約の成立
要件2 1の目的に隠れた(通常人の普通の注意で発見できない)瑕疵があったこと
要件3 損害の発生及び額
(不特定物の場合)
要件1 不特定物を目的とする売買契約の成立
要件2 1の目的が特定されたとき、その目的に隠れた(通常人の普通の注意で発見できない)瑕疵があったこと
要件3 2で特定された物を買主が売主から受領したこと
要件4 買主が3の受領後、2の瑕疵を認識した上、これを履行として認容したこと
要件5 損害の発生及び額
要件1 請負契約の成立
要件2 1の仕事の完成
要件3 1の仕事の目的物に瑕疵があること
要件4 損害の発生及び額
損害の額a 契約締結のために要した費用―公正証書手数料ほか
b 転売利益等の履行利益―信頼利益に限定され認められない
c 瑕疵があることによる減価―解除をしない場合のみ
d 補修費用―争いあり
e 拡大損害―別途債務不履行損害とする場合多し
f その他―慰謝料・弁護士費用は認める例あり
a 原則―補修費用額が損害額
b 例外1―建て替えるしかない場合はその費用
c 例外2―修補に著しい費用を要する場合は完全な目的物と瑕疵ある目的物の差額
d 例外3―修補不能な場合は完全な目的物と瑕疵ある目的物の差額
e 付随的損害―鑑定・調査・引っ越し・逸失賃料・休業損害・相当因果関係の範囲内の拡大損害・慰謝料・弁護士費用(認容額の10%)
抗弁ア 除斥期間―事実を知った時から1年
イ 消滅時効―引渡日より商事5年
ウ 担保責任を負わない特約
エ 検査通知義務違反―商人間売買は遅滞なく検査し通知/直ちに発見できない(≠隠れた)瑕疵については6カ月以内に通知
ア 注文者の供した材料又は指図
イ 除斥期間―土地工作物以外の場合 引渡し(仕事の終了)より1年
ウ 担保責任を負わない特約
エ 請負報酬債務との同時履行又は相殺
オ 過失相殺
カ 修補請求をすべきであること
キ 仲裁契約
ク 黙示の承認


たくさんの情報を頭の中でもれなく整理するということが得意でない私にとっては、こんな基礎知識部分の整理であっても新たな発見があります。このブログでも何度か話題にした瑕疵担保期間における民法637条vs商法526条問題も、前者を瑕疵担保責任の除斥期間、後者を商人間売買契約特有の検査通知義務として整理することで、準用されないことがすっきりと理解できますし、民法570条の「隠れた瑕疵」と商法526条2項の「直ちに発見できない瑕疵」は違うものだということも、こうして構造化することではっきり認識ができます。条文と判例を立体的に捉えることによって、曖昧な知識と理解が矯正されていく感覚といったらいいでしょうか。

こうして、勉強不足を痛感する日々はまだまだ続きます。
 

【本】アジア国際商事仲裁の実務 ― モデル事例によるサンドイッチで知識をおいしく頂く本

 
レクシスネクシスのI様よりご恵贈いただきました。いつもありがとうございます。『企業法務のセオリー』といい『クレーム対応の「超」基本エッセンス』といい、相変わらずいい仕事されてます。

6月20日の今日発売です。


アジア国際商事仲裁の実務 International Commercial Arbitration in ASIA
栗田 哲郎 (著, 編集), 吉田 武史 (著), 舘野 智洋 (著), 大森 裕一郎 (著)
レクシスネクシス・ジャパン
2014-06-20



まず800ページ弱という厚さにびっくり。子供の頃何度も読んだ藤子不二雄『まんが道』愛蔵版を彷彿とさせる手触り感です。先日ご紹介した『よくわかる国際商事仲裁』と比較するとこれだけの差!

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そして厚さだけ見ると辞書的な・味気のない本を想像されるかもしれませんが、そうなっていないところが編集のワザ。モデル事例でまず流れをイメージ → 体系的な概説 → 各国制度比較 → さらにリアルなモデル事例で紙上疑似体験しながらポイントを復習 → 資料編にリファレンス機能を集約、というボリューミィなクラブハウスサンドイッチ構造となっており、1)とっつきやすさと2)理解のしやすさと3)詳細な情報量の三位一体が実現された、見事な構成となっています。特に、モデル事例を一ヶ所にまとめるのでなくバンズの如く途中途中に織り込んだのが、この本を理解しやすいものにした一工夫だと思います。

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また、「筆者ら意見」「筆者らによる調査」等の責任限定表記が付いてはいるものの、条文・判例では必ずしも明らかでない事象に対する経験に基づいた見立てが積極的に表明されています。読者の「そこが知りたい」という欲求に応えて、相当踏み込んで持つ限りのノウハウを開示されようという姿勢で書かれていることが伝わってきます。

編著者がシンガポールの Rajah & Tann LLPにいらしたことで有名な(現在はベーカー&マッケンジー法律事務所在籍)栗田哲生先生でいらっしゃるので、シンガポールオンリーかと思いきや、タイトルのとおりきちんと韓国/中国/香港/台湾/インドネシア/タイ/フィリピン/ベトナム/マレーシア/インドそして日本の制度が網羅されてました。もちろん、それら各国の仲裁法や仲裁機関の特徴を一覧・比較できる表も文中・巻末にばっちりついています。このボリュームから推察するに、シンガポールにいらっしゃるころから自分のノウハウを書き溜めていらっしゃった、ということなのかもしれません。これだけのノウハウを開示してしまっていいんですかと驚きますが、経験を伴わなければマネはできない、という自信がおありなのでしょう。

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厚さだけでなくその内容・編集方針も良い意味で『よくわかる国際商事仲裁』とはまったく異なる本書。特に海外案件に携わることのある専門家としては、手元に置いておきたくなる本ではないでしょうか。
 

2015.9.18追記

本書専用ウェブサイトとして便利なリンク集がありました。

▼アジア国際商事仲裁の実務 専用ウェブサイト
http://lexisnexis.co.jp/ICAA/

ディスカバリーリスク恐るるに足らず?(「日々、リーガルプラクティス。」のCeongsuさんより情報提供)(訂正あり)

 
広告収益型モデル一辺倒だったインターネットビジネスも、GoogleやAppleのプラットフォームを通じ、グローバルにコンテンツを配信しエンドユーザーに直接課金するBtoC商売がカンタンにできるようになりました。

こうして、日本以外の国のユーザー数が数万人・売上が数千万単位ともなってくると、特に訴訟大国と呼ばれるアメリカなどでのリスクは気になります。そこに目をつけたわけではないでしょうけれども、法律雑誌などで、ディスカバリーリスクへの対応の必要性を唱えるディスカバリーベンダーの記事広告も、目につくようになってきました。

「ディスカバリーのリスクは、日本企業も他人事ではない」と書き立てるその宣伝文句を見ていると、もしかしたら、米国に現地法人を置かない日本企業も、そこそこ売上を上げているとなると巻き込まれる可能性も否定出来ないのか?と、だんだん不安になってきます。


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そこで、そういった広告を出しているディスカバリーベンダーに早速連絡。「現地に法人・子会社のない日本企業にも、ディスカバリーで証拠開示が強制されることはあるのか?実際に文書提出命令が出された事例はあるのか?」と質問を投げてみました。すると、彼らの回答は「理論上はありうるが、事例はなかなか表に出てこない。ちょっと調べてみます。」というもの。その後の詳細なレポートは、待てど暮らせどもらえません。

業を煮やした短気な私は、最もこの手の話に詳しそうな「日々、リーガルプラクティス。」のCeongsuさんに単刀直入に聞いてしまうという、なんとも迷惑な行動に出たのでした・・・。

結論:現地法人・子会社がなければ、民事訴訟上のディスカバリーリスクは原則及ばない(ただし後先考えて行動を)現地法人・子会社がないからといって、民事訴訟上のディスカバリーリスクが及ばないとは言い切れない


今考えても本当に図々しいのですが、心優しいCeongsuさんは、ブログに私が書き込んだコメントにお返事を下さっただけではなく、わざわざ詳細な解説エントリまでUPしてくださいました。

日本企業と米国のディスカバリーと日米領事条約第17条との関係(1)(追記あり)
連邦民事訴訟規則による*4ディスカバリーを国外に所在する個人や企業に対して強制する場合、その行為は国権の行使とみなされますので、日本の主権(Sovereignty)との関係が問題になります。

ただ、そうするとクロスボーダーの訴訟で外国にある証拠の証拠調べをすることがどんな訴訟でも難しくなるため、多くの国は「民事又は商事に関する外国における証拠調べに関する1970年条約(CONVENTION ON THE TAKING OF EVIDENCE ABROAD IN CIVIL OR COMMERCIAL MATTERS)(ハーグ証拠調べ条約)」を締結しています(現在50カ国を超える国が締結している模様)。
しかし、このルールは日本には上手くフィットしないんですね。なぜなら、日本はハーグ証拠調べ条約を締結も批准もしていないためです。そのため、上述の米国連邦最高裁判例であるAerospatiale事件で確立されたルールは日本企業には適用できません。そのように判断している事例も現に存在します*6。

その代わり、日本と米国は、双方の国でのクロスボーダーの証拠調べについて、1963年に締結した日米領事条約第17条でその詳細を定めました。

そしてこの日米領事条約の条文が見つからないんです。。。なので正確なところはわかりませんが、本条約第17条では、どうやら"voluntary"な文書提出しか認められていないようです*7。よってこの日米領事条約第17条と米国連邦民事訴訟規則によるディスカバリーとの関係が問題になるのですが、、、この問題についてばっちり言及している事例がなかなか見つからない。

と思ったら、独禁法関連事案で1件事例が見つかりました(下記注釈にも記載の、IN RE VITAMINS ANTITRUST LITIGATION 120 F. SUPP. 2D 45 (D.D.C. 2000))。
春日偉知郎「証拠収集及び証拠調べにおける国際司法共助--執行管轄権の視点を交えて--」中野貞一郎先生古稀祝賀『判例民事訴訟法の理論(下)』(有斐閣, 1995年)では、本論点については非常に詳細な分析がなされています。特に面白いのは以下の部分。

アメリカの受訴裁判所が自国の領域において外国人の当事者に対して(文書等の)不提出の場合に不利益を課すことにより証拠提出を要求することが、主権侵害にあたるかどうかが問題となる。(中略)しかしながら、当事者には、開示に応じ不利益を回避するか、それとも開示せずに不利益な認定を甘受するかについて選択権があり、開示命令に従わないときでも強制力が行使されるわけではない。こうした意味において、当事者に対して開示「強制」又は「義務」が課されているのではなく、「不利益(効果)」又は「責任」が及ぶにすぎず、強制力の直接行使であるとは認められない。
これに対して、同じく制裁といっても、本来的な強制力の行使(特に強制金の賦課)については、他国が外国主権を侵害せずには外国人に対して要求することのできない行為を事実上強制することになり、右の場合とは事情が異なる。(中略)ディスカヴァリーに応じない場合の制裁を規定しているアメリカ連邦民事訴訟規則第37条は、開示の非協力に対して不利益制裁をするにとどまらず、開示の懈怠に対して敗訴判決、法廷侮辱罪、費用負担をもって臨んでおり(特に法廷侮辱罪は刑罰的色彩が濃い)、当事者に開示を強制している。したがって、裁判所がこのような制裁を行使してする開示命令(アメリカ対外関係法第3リステイトメント442条1項参照)は、明らかに主権侵害性を帯びており、わが国からすれば許されない。(同書P.462)

この説に従えば、日本に所在する日本企業の文書提出命令を拒否した場合に、Adverse Inference Jury Instructionあたりまでは主権侵害とはならないが、Default JudgmentやContempt of Court、Attorney's Fees等の負担という制裁については、主権侵害となる、ということでしょうか。

「ハーグ証拠調べ条約」も、それを日本が批准していないことも、「日米領事条約」も知らなかった・・・ということで、今のところは、よっぽどの特殊事情がない限り日本法人がディスカバリーで強制開示を強いられることはなさそうです。

とはいうものの、後々の米国でのビジネス継続のことを考えれば、voluntaryには提出すべきであろうし、実際日本企業はそういう行動を取るのだろうとのご見解を頂きました。確かにおっしゃるとおりですね。


Ceongsuさんにはお礼を申し上げるのが大変遅くなってしまったのですが、ただでさえお仕事&試験勉強でお忙しいのに、本当にありがとうございます。m(_ _)m


2014.4.29追記

上記について、Ceongsuさんのブログにてご本人さまより「リスクなし」は言い過ぎなのではないかとの補足コメントをいただきましたので、結論とした見出し部分ほかの修正、および以下追記(コメント転載)をさせて頂きます。

通常の民事訴訟でも米国訴訟において文書提出が強制されるリスクは、公法関係ではなくてもあると思います。ただ、訴訟の判決ではなく、文書提出命令自体を探すのはなかなか大変なこともあり、優良な検索サービスへの自分のアカウントが期限切れしてしまったのもあって、具体的な事例は見つかっていませんが。

というのも、前回のエントリで取り上げたIn re Vitamin Antitrust Litigationでは、日本企業にはハーグ証拠調べ条約と米国連邦民事訴訟規則との関係に関するルールは当てはまらない、と認めつつも、結局、日米領事条約を使わない、連邦民事訴訟規則によるディスカバリー手続きの強制は認めていて、そこでは公法的な裁判の性格はその主要な理由として挙げられていません。ただ別の訴訟(トヨタが関係する税法関連訴訟)では、公法性を理由の1つにあげている場合もあります。

また、ハーグ証拠調べ条約には、明確に他の証拠調べの方法もとれる、という記載があるのですが、日米領事条約にはその記載がありません。

しかし、逆に日米領事条約には、「日本で行う証拠調べは、この条約に基づかなければならない」といった類の文言もありません。ここが、この問題について米国でも裁判所によって見解が分かれる原因だと思います。

日本にある証拠調べの方法は本エントリーに記載の通り2通りあるので、△鬚箸蕕譴襪函¬瓜訴訟でも文書提出命令を下されるリスクが原則はあると思われますが、必ず強制させられるか、というのは分かりません。

例えば、最近の日本の最高裁判決(http://www.courts.go.jp/search/jhsp0030?hanreiid=84147&hanreiKbn=02)で、カリフォルニア州の企業が純ドメの日本企業を営業秘密の不正利用でカリフォルニアで訴えて、勝訴している判決の日本での執行が問題とされていますが、この元となっているカリフォルニア州での訴訟でもディスカバリーが強制されているかもしれません。ただ、そのあたりの情報は見つかりませんでした。

なので、「リスクがない」というと、言い過ぎかもしれないな、という気はしています。それくらい、言い切るのが難しい問題である、という気がしております。

私自身の読解力の無さが原因で、Ceongsuさんに余計な筆の労を取らせてしまいました。正確を期すためにも、Ceongsuさんのブログを読んでいただくことをお勧めします。私自身もきちんとリサーチして、理解してから書くべきであったと反省しております。

仲裁合意をしていると、越境ディスカバリーリスクはUPする


さて、「ハーグ証拠調べ条約」や「日米領事条約」というキーワードをCeongsuさんから頂いて、私もこれらを使ってざっくりとネット上でリサーチしてみました。すると、民事訴訟上のリスクは低いにしても、仲裁合意をしているケースでは、上記のような越境ディスカバリーリスクがUPすると述べる記事が、いくつか見つかります。

米国外で利用・濫用される米国のディスカバリーの脅威(西村あさひのリーガル・アウトルック)
米国においては、相手方当事者の支配領域下にある文書や証人について、極めて広汎な証拠収集の手段を訴訟当事者に認めていることは、前記のとおりである。このように強力な証拠収集のためのツールを、米国国内における訴訟手続だけでなく、米国外における訴訟手続等についても使用することを認めたものが、USC1782条の手続である。
 もっとも、USC1782条の制度が、米国外での国際仲裁において利用できるかという点については、米国における判例においても見解が分かれている。USC1782条は、「外国又は国際法廷の手続(a proceeding in a foreign or international tribunal)」と規定しており、この「tribunal」に仲裁廷が含まれるかという問題である。この点について、Intel事件最高裁判決以前は、否定的な判例が目立つ状況にあった。

 ところが、i) Intel事件最高裁判決は、欧州委員会がかかる「tribunal」に当たるかを判断する際、「tribunal」には仲裁廷(arbitral tribunals)が含まれるとのハンス・シュミット名誉教授(コロンビア大学)の文献を引用していたこと、また、ii) Intel事件最高裁判決が、欧州委員会が「tribunal」に当たると判断する際に、これが「第一次的な判断を行う機関であること」という、当該機関の判断作用の実質を見る判断を行ったことから、仲裁廷も「tribunal」に当たる旨の判断が、米国の判例上現れるようになった。

日米国際商事仲裁のための外国裁判所による証拠収集の可能性(浜辺陽一郎)
日本において仲裁手続が行われている場合に米国の証拠開示が利用される可能性については、米国の証拠開示手続(ディスカバリ)が極めて広範囲に及ぶ強力なものであることから、米国外で仲裁手続がなされているにも拘らず、米国における強制力を伴った広範囲の開示手続制度を利用でき
ることになってしまうのは、奇異な感じを受けるかもしれない。
(略)
しかしながら、本稿の冒頭で述べた通り、日本の仲裁手続の場合においても裁判所に幅広く証拠調べ等を申し立てる途が開かれているのである。そして、日本の仲裁廷が、十分な証拠に基づいて判断がなしうるように、当事者が任意に提出しない証拠を収集できるようにする仲裁法第35条の趣旨からするならば、日本国内だけではなく外国にも証拠収集の範囲が及ぶことを常に排除する正当な理由までは認められない。
(略)
国際取引契約書において明確な特段の定めがなければ、日米間の商事紛争は仲裁によって解決するつもりでいたのに、米国裁判所による面倒な証拠開示手続に巻き込まれてしまうリスクが広く存在していることになるのではないかと考えられる
一方、米国において仲裁手続が行われている場合に、米国国境を越えて、日本での裁判所に、証拠調べの申し立てをすることができるかどうかは明らかではない。米国の仲裁法においてはこれを禁止する定めは見当たらず、むしろ先に検討した通り外国の仲裁のためにも米国の裁判所における証拠開示を許容しているだけではなく、米国の裁判所は外国法人や外国人が米国の管轄に服する限りは原則として証拠開示命令を出すことができるという立場であり、日本での証拠収集を禁じていないのは当然のことであると考えられる。問題は、日本の裁判所がそのような申し立てを受け入れるか否かである。
日本の仲裁法第1条の定めからすると、これも消極的に解さざるをえないが、同法第35条第1項は、仲裁廷又は当事者が、民事訴訟法の規定による調査の嘱託、証人尋問、鑑定、書証及び検証であって仲裁廷が必要と認めるものにつき、裁判所に対し、その実施を求める申立てをすることができることを定めるだけである。この制度趣旨からすると、その仲裁を日本国内の仲裁手続に限定しなければならないと解するべきではなく、日本における証拠収集手続を利用することを禁じる必要はないはずである。同条の趣旨は、仲裁手続が証拠に基づいて行なわれることを実効あらしめるものであり、その仲裁を国内仲裁に限定する必要はないからである。

仲裁合意を結んでいるのは、通常はBtoB案件でしょう、しかし最近、Dropboxが2月にユーザー向けブログで告知し導入したように、BtoCなウェブサービス利用規約でも仲裁合意の条項を入れるのがトレンドになり始めていたところ。それを受けて、私も真似して利用規約に日本における仲裁合意条項を入れようかと思っていた矢先でした。

とりあえず、こういった検討をろくにしないまま安易に入れてなくて良かった、ということになりますが、仲裁には様々メリットもあるところなので、このリスクとのバランスも考えながら研究を深めて判断したいと思います。
 

【本】よくわかる国際仲裁 ― 「裁判と仲裁、どっちがいいか?」は愚問です

 
「裁判と仲裁、どっちがいいですか。」と聞かれることが少なくありません。しかし、率直に言って、「愚問」と言わざるを得ません。なぜなら、国際的な取引に関わる紛争を解決する場合、「国際仲裁以外に、選択肢がない」というのが実情だからです。つまり、仲裁は、国際的な紛争を解決する唯一の手段なのです。

こういう白黒はっきりした、大胆な物言いが好きな私みたいな性格の方にはうってつけの、仲裁制度解説本がでました。オレンジと白の表紙がオシャレでとてもまぶしい本です。フレッシュフィールズブルックハウスデリンガー × 商事法務から。





「よくわかる〜」というタイトルも、セミナーを聞いているような口語体の文体も、法律専門家に絞らずに一般ビジネスパーソンまで対象読者を広げようと意識して書かれた本のようでいて、そこに詰め込まれたノウハウは、これまで発売された書籍では見られなかった、具体的でためになるものばかりでした。

たとえば、仲裁地の選び方について。

  • クロス式条項(被告地主義)は採用すべきではない。最終的に後攻手続が却下ということになったとしても、2件の仲裁が並行して行われることになってしまう。第三国を指定すべき
  • 仲裁合意に記載する「仲裁地」は法的な概念であり、どの国の仲裁法が適用されるか/仲裁手続の間に裁判所の援助が必要となった場合にどの裁判所にいくか、ということ。実際にどこで仲裁をするかは別の話。日本と香港の企業の契約で、仲裁地をロンドンとしていたとしても、実際のヒアリング(口頭審問)をロンドンでやる必要はなく、当事者間で合意してシンガポールやプーケットで行うこともできる。
  • 1)NY条約締約国であるのは当然、2)裁判所から干渉されにくい国で、かつ3)仲裁法がきちんとしている国を選ぶことが重要。

では、結局どこの国にしておいたらいいの?という疑問にも、以下のようにはっきりと具体的な国を挙げて答えてくれています。契約書実務を見ていると、最近はシンガポールを仲裁地にするのがやけに流行っていて、この本でも推奨国の一つに挙げられてはいるものの、仲裁法の明確さと対中国での執行という側面から香港がもっともオススメされているあたり、さすがプロといった感じです。なお我が国日本も、飯がうまいということで推奨されています。笑いごとのようですがこれ重要。腹が減っては戦ができません。

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それ以外にも、仲裁のスケジュール感(17〜20か月)、実際のコスト感(係争額50億円のケースで3,000万〜1億円)、ベストな仲裁条項例、準拠法の選び方、弁護士の選び方、申し立ての仕方、記録の保存、証拠開示とprivilege、申し立てられた際の対応、執行時に注意を要する国(インド)・・・等々、法務パーソンが知りたいことは漏れ無く書かれています。私自身は、仲裁手続きにかかわったのは数件で、そのうち6割強がJCAAでしたので、ICCやSIACとの細かな違いまで知ることができたのは望外の収穫でした。おまけに、ヒアリング(口頭審問)の様子の写真までが掲載されているという。これは見たことのある方はなかなかいなかったのでは。

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200ページほどの、法律専門書としては薄めの本ではありますが、隅から隅まで有益な情報で埋め尽くされた、満足度の高い本になっています。
 

【本】法務担当者のための民事訴訟対応マニュアル 第2版 ― 気になる「新種証拠」の実務

 
一般的には訴訟経験が決して多くない法務担当者のレベルにあわせて説明を噛み砕き、豊富な図表とともに民事訴訟を解説してくれることで人気の書の第2版。





初版が出た2005年以降、民事訴訟の進め方が大きく変わるような法改正はなかったはずなので、今回はパスしてもいいかな…と思ったのですが、いざ読んでみると、細かな法改正情報を反映するための改版にとどまらず随所に渡りブラッシュアップされていて、買ってよかったなと。

余談ですが、左ページに本文、その右ページに参考図表・チェックリスト・コラムという見開き2ページ構成となっているこの本は、自炊するととても読みにくく・探しにくくなる(私自身、初版を自炊して後悔していたところだった)ので、書籍のまま持っておくことをお勧めします。


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私が確認できたところで大きな変更は3点です。
第1に、初版では(法改正直後ということもあり)補講として巻末に申し訳程度に解説されていた「会社訴訟」のパートが本文に自然な形で織りこまれた点。
第2に、初版にはなかった「執行」のパートが新規追加された点。
第3に、初版では記載がやや薄かった「保全処分」が1章の「提訴前夜」のパートにしっかりと記載された点。

加えて、読み物としても楽しく参考になるトリビア的なコラムも大幅に増えました。洗い替えもあるのでカウントは難しいのですが、私が確認した限りで少なくとも40のコラムが新設されています。特に証人尋問まわりのコラムが大増量していたのは、そういうニーズが高かったのでしょうか。

私が楽しみにしていたのが、電子ファイルや電子メール等の書面以外の新種証拠の採用実務についての解説。初版では、

録音テープやビデオテープの証拠調べについては、法231条に規定されているものについては,書証の規定を準用することになった。これ以外の、たとえば、コンピュータ用記憶媒体(磁気テープ、光ディスク等)の証拠調べについては,準文書とは規定せずに、解釈と運用に委ねることになった。
通常,録音テープなどは,反訳文書を作成して書証として提出するが、反訳文書を書証として提出した者は,相手方の求めがあった場合には、録音テープ等の複製物を相手方に交付しなければならない(規則144条)。

といった程度の記載でした。これが第2版では

書面以外の証拠を提出するには、どのように提出すればよいのだろうか。ここでは、]寝札董璽廖↓▲咼妊テープ、メールを取り上げる。
(略)
メール
メールについては、まずこれをプリントアウトして証拠提出するのが通常である。特にメールの成立の真正に争いがなければ、これで足りることが多い。仮に相手方がメールの内容が捏造である等と主張した場合は、「検証」(法232条)の手続により、メールをディスプレイに映し出すといった方法がとられることもある。(P167)
仮に、相手方に無断で録音をした場合、当該録音には証拠能力が認められるのだろうか。
裁判例では、酒席における発言を無断で録音したという事案において、「証拠が著しく反社会的な手段を用い、人格権侵害を伴う方法によって採集されたものであるときは、その証拠能力を否定されてもやむを得ない」と述べた上で、秘密録音は話者の人格権を侵害するものとしながら、当該事案における録音の方法は著しく反社会的な手段であるとまではいえないとして証拠能力を肯定したものがある(東京高判昭和52年7月15日判タ362号241頁)。(P166)

と、多少ではありますが追記。この辺りは、もう少し実務で具体的に争われるようになるでしょうから(すでになりはじめている気もします)、改版にともなって記載も増えていくことを期待しています。
 

【本】若手弁護士のための民事裁判実務の留意点 ― 話し相手は裁判官

 
「若手弁護士向け」というタイトルで私には敷居が高いかな?と思いきや、流暢な講義を聞いているような筆致でとても読みやすい本でした。企業法務に携わる人が、裁判とはどういう手続きで、どのように進んでいくのかをすみずみまで理解したいのであれば、この本が一番ではないでしょうか。





2月1日現在、Amazonだと品切れ表示になっていますが、私が入手した平成26年1月6日付第二版がちょうど発行されたところのようですので、そろそろ市場には出回っているものと思います。

2014.2.9追記:
圓道先生より、Amazonでは販売停止となっているとのことで、以下のようにご案内いただきました。ご教示ありがとうございます。



 
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依頼者(潜在的原告)が弁護士に相談に行くところから、訴え提起→裁判所の受付→送達→第1回口頭弁論期日→続行期日→証拠調べ期日→最終口頭弁論期日→判決言渡し期日、そして控訴審へと時系列に徹底的に忠実に書かれているのが読みやすさのポイントですね。書式サンプルも、委任状から内容証明、口頭弁論再開の上申書といった訴訟実務に使われるものまで50種以上をカバー。その端々に、細かいノウハウが披露されています。こんな細かいところまでカバーしてるんですよというご紹介方々、以下、私が「へーそうなんだ」と思った点をいくつか。

  • 証拠収集のための弁護士紹介費用は、東京弁護士会の場合1件1箇所で7,000円
  • 被告会社の代表者として、監査役とすべき場合と代表取締役とすべき場合がある点注意
  • 口頭弁論期日に先立って訴状に誤りがあれば、職印訂正ではなく訴状訂正申立書を出すのが望ましい
  • 裁判所の開廷日は、裁判体ごとに曜日が決まっている(ウェブサイトの担当裁判官一覧で確認可能)
  • 書証のうち、証拠として重要な部分が一部分であれば(コピーで写らない)黄色でマーキングするなどの配慮もよい
  • 自己に有利な記載と不利な記載のある社内文書について準備書面中に不用意に言及すると、法220条1号の引用文書にあたる旨を相手方に主張され提出義務が認められるケースも
  • 裁判所が筆跡の同一性を検討する際の方法にはいくつかあり、筆跡鑑定の証拠としての価値は実は大きくない
  • 裁判所が弁論を終結しようとすることに対する引き伸ばしの忌避の濫用に注意
  • 反対尋問においては、ウソをついていたと認めさせるまで深追いすると、相手方の当事者本人・証人が意図に気づいて供述を修正してしまうので、裁判官にその意図を理解させれば十分
  • 判決言い渡し期日に出頭しても、判決書の送達を受けなければ、2週間の控訴期間はスタートしない

先日、この本の著者、圓道至剛先生のお話を伺う機会に恵まれました。ご存知の方も多いと思いますが、先生は元裁判官というキャリアをお持ちの弁護士でいらっしゃいます。短い時間ながらも、企業の訴訟担当者が外部弁護士とどう協働すれば裁判に勝てるのかを、裁判所トリビアを交えて楽しくお話くださいました。当日頂いたレジュメも情報量が多く大変参考になるもので、この本と一緒にして何度も見返しています。内容はオフレコもあり詳細控えますが、一つ、企業の訴訟担当者や若手弁護士が抱きがちな勘違いとして教えていただいたのが、裁判とは、相手方当事者・弁護士を説得する場ではなく、あくまで裁判所(官)に当方主張の優位性を理解してもらう場である、つまり、話し相手は裁判官だということ。

ドラマでは弁護士同士が丁々発止で主張し合い、裁判官は置いてけぼりで話についていけずに蚊帳の外・・・といったシーンがよく見られます。しかしあれを本当に裁判所でやってしまったなら、本来の“主役”であり、事案を隅々まで理解して判断すべき裁判官からすれば、「じゃあ私抜きで、当事者同士よく話し合って和解したらどうですか」という気持ちなるのも当然なのかもしれません。いや、ベテラン弁護士の方からすれば当たり前のマナーなのでしょうが、いままで訴訟の進行を傍聴席から見て違和感を感じていた私としては、まさに目からウロコのお話でした。

そういった圓道先生ならではの“裁判官視点”はこの本にも存分に発揮されており、弁護士からの視点に加えて、裁判所が裏でどう訴訟を進行しているか、裁判官がどう当事者・弁護士のアクションを評価しているかという視点からの描写も多く、この点、他の民事訴訟の実務解説本とは一線を画していると言えます。
 

【本】標準 民事手続法 ― 知的財産権に携わる人だけに読ませておくのはもったいない

 
ブログ『知財渉外にて』の@senri4000さんからGoogle+で教えていただいたこの本を読んでみたところ、素晴らしい本だったので、私からもご紹介させていただきます。

実は、この本のタイトルには「知的財産に携わる人のための〜」という枕詞がついているのですが、ブログでのご紹介にあたり著者・編集者に失礼を承知で、あえてその枕詞を外させていただきました。「知財担当者向け」という先入観なしで、ふつうの法務担当者のみなさまにもこの本を知って頂いたほうがいいのではないかと思ったからです。


知的財産に携わる人のための 標準民事手続法知的財産に携わる人のための 標準民事手続法 [単行本]
著者:高林龍
出版:発明推進協会
(2012-12-18)


法務パーソン向けの民事訴訟法の超入門書としては『小説で読む民事訴訟法』を、書式を含む手続実務寄りの概説書としては『法務担当者のための民事訴訟対応マニュアル』をお薦めしてまいりましたが、執行法・保全法までを含めた訴訟実務と法理論を体系的・網羅的につないでくれるちょうどよい基本書って、よく考えたらなかったんですよね。どうやら著者の高林先生自身もそこに問題意識を感じていらっしゃったようで、

知的財産訴訟の特殊性を理解する前に、日本の裁判制度や民事訴訟法、民事執行法、民事保全法といった民事手続法の全体の基本を理解しておく必要があるが、これらの全体像を分かり易く簡潔に教示している本はほとんどないというのが現状である。本書はその間隙を埋めるべく企図したものである。

と、「はじめに」で述べられています。

  • 訴訟物とは
  • 訴訟の3類型…給付の訴え/確認の訴え/形成の訴え
  • 民事訴訟の諸原則…公開審理主義/口頭審理主義/直接主義/処分権主義/弁論主義/自由心証主義
といった民訴の基礎用語・概念からきちんと説明してくださっているのに、伊藤眞先生の分厚い教科書を読んでいる時のような眠さや苦しさ(笑)を読者に全く感じさせず、しかも訴訟実務の流れまで十分イメージできる心地よい筆致。民事訴訟法だけでなく手続・保全法までカバーしつつ、それでいて200頁足らずのコンパクトな本にまとまっているところがすごいです。とはいえところどころに入る小さな文字で書かれた補足説明まで丹念に読んでいくと思いのほか文字数が多く、読破するのは見かけ以上にホネだったりしますが(こういう本に飛びつくのは私のような落伍者が多いからでしょうか、「はじめに」に「小さい文字だからといって注ではないので、読み飛ばさずに順番どおり読め」と見透かされたようなご注意書きがしっかり書いてあります…)。

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幅広い法分野がこのボリュームに収められているのは、訴訟実務ではあまり問題とならない学術的な部分をバッサリと端折っているからこそ。そして、著者としてはこの切り捨て加減が難しいのだと思いますが、そこは20年近く裁判所で判事・調査官を務められていた経験を持つ高林先生だからこそ成せる業なのでしょう。
 

【本】企業間紛争解決の鉄則20 ― タイトルに“国際”を入れなかったのはなぜだ

 
出版社さまに代わってお知らせします。この本、タイトルを「“国際”企業間紛争解決の鉄則20」とすべきところ、この2文字を落としてしまったようです。

と言いたくなるぐらい、しかしいい意味でタイトルから予想される内容と実際の中身が異なる本。


企業間紛争解決の鉄則20企業間紛争解決の鉄則20
著者:蘯菲Ч
販売元:中央経済社
(2012-09-20)
販売元:Amazon.co.jp



リアル書店で法律書を漁る時、中身だけでなくてはしがきにはかならず目を通します。まさにこの本は、はしがきを読んではじめて「あ、そういう本なんだ、きっと面白いに違いない」と期待できた本でした。タイトルだけみたら買わなかったと思います。

日頃私が担当している国際紛争案件について、主にその経験に基いて、ある意味、「思い切った独断」を「鉄則」の名のもとにあえてルールブックのような体裁で文章にまとめる機会を頂き、本書の形になりました。訴訟や仲裁などの紛争案件は国境をまたがった瞬間に、法律的・手続的な論点が生じ、各関連国の法的文化や法律実務家の考え方がぶつかりあったりします。そのため、本書に「鉄則」として書かせて頂いたノウハウ的なものは、あくまでも私の訴訟弁護士としての経験に基づく「鉄則の」の試みであり、普遍のルールとしてあらゆる事案に適合するものかどうかは、私や私が所属する訴訟チームを含めて、今後も常に検証し続けなければらないものと考えています。
私が目指したのは、アカデミックな学術論文や法律解説書ではなく、むしろ企業の法務部の方達がアンチョコ的参考書のように“つまみ食い”できるノウハウ本です。

法務パーソンが国際取引の契約書を書くときに最も重要と言っても過言ではない(この本の著者高取先生も、鉄則4として同じようにおっしゃっている)準拠法や裁判管轄の法理論については、以前ご紹介した道垣内先生の『国際契約実務のための予防法学 』が必読書ですが、この本は、あの本で述べられているような高級な法理論が実務でどう生かされ・もしくは回避されているのかも含めて、実例や仮想事例を交えて臨場感をもって解説されている点で、「副読書」のような存在といえるでしょう。

ネット上で無料で読めるレベルの弁護士さんの記事ですと、裁判と仲裁の制度メリデメ比較表をひととおり眺めさせて、あとはケースバイケースで考えてね、というオチで終わるところです。私自身も、少ない経験と知識から、執行力が担保できない裁判制度を安易に採用すべきではない、という結論を導きそうブログに書いたことがあるものの、絶対的な自信までは持ち合わせていませんでした。この本ではその点、豊富な国際訴訟経験をもとに「執行容易性は仲裁の重要なメリットとして再認識されるべき」と鉄則4および9ではっきりとおっしゃっています。また、鉄則11では、「フォーラム・ノン・コンビニエンス(いったん米国で係属した裁判手続を却下して日本の裁判所に持ち込むための法理論)」の生かし方まで触れられていて、このあたりの実務の話は他ではあまりお目にかからない・聞けないものだと思います。

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ところで、高取弁護士も鉄則として取り上げている話の中で、最近、私も複数の弁護士さんからやけに耳にするようになったのが、弁護士秘匿特権(attorney client privilege) の重要性についてです。簡単に言うと、米国裁判管轄となった場合に勝敗を大きく左右する「ディスカバリー(証拠開示制度)」において、弁護士との相談記録はconfidentialな事項として証拠開示を免れることができる、という特権のこと。米国での修行からお帰りになったばかりの先生や、以前お世話になった外国法事務弁護士の若手先生とお話をしている中で、「日本企業はとにかく弁護士を起用する初動が遅く、またメールに不用意な発言を残しがちな脇の甘さもあいまって、結果ディスカバリーでこちら側が不利になるメール等を証拠として相手に開示しなければならないはめになるリスクが放置されている」と、皆さん口をそろえておっしゃいます。そういえばこのあたり、だいぶ前からdtk’s blogさん知財渉外にてさんが問題意識を持たれているところなので、過去ログをご覧になると参考になると思います。

ネットとサプライチェーンの拡大で世界が繋がってしまっている以上、法的紛争にも国境というカベはなくなっていることを日々実感します。相手の国にまで行ってわざわざ喧嘩を売りにいくつもりはなくても、売られた喧嘩は買わなければならないときもあるはずです。法的紛争に国境がなくなった以上、「国際法務担当」になるつもりはなくても事実上なっているのだ、「国内法務担当」などという甘ったれた職業分類自体もはや存在しないものと考えるべきだ・・・もしかしたら、そういう意味であえてタイトルに“国際”の2文字を入れなかったのかもしれませんね。
 

【本】実践的eディスカバリ 米国民事訴訟に備える― 日本の民事訴訟における電子情報の取り扱いまでもカバーしてるなんてありがたや

 
これは素晴らしい本。

実践的eディスカバリ―米国民事訴訟に備える


NTT出版と聞いて、IT寄りのちょっとした事例や対策ソフトウェアの紹介が中心だったら・・・という懸念を抱いてましたが、ど真ん中ストレートの、しかもとても分かりやすい法律論。

eディスカバリの手続きやその負担の大きさだけに触れるのでなく、始めにアメリカ民事訴訟法と(電子情報に限らない)通常のディスカバリ手続きを解説してから、肝心のeディスカバリの部分について代表的な判例もしっかりとなぞって解説してくださっているところが素晴らしい。今まで米国民事訴訟法や訴訟制度もろくに勉強せずに、よく英文契約書なんてレビューしてたなと、思いっきり反省しました。

さらに、期待以上だったのは、サブタイトルでは「米国民事訴訟に備える」とあるにもかかわらず、日本の民事訴訟において電子情報が証拠としてどう扱われるかについても、7章あるうちの1章をまるごとひとつ割いて解説して下さっている点。

これまでに、弁護士会等から出版されている証拠収集の参考書も読んだものの、いずれも講学上の話が多く、電子情報が証拠としてどう扱われるのかという実際のところまではつかめなくてリアリティが感じられなかったわけです。しかし下記表のような現実をまとめた表があったりすると、途端に「他人事ではないな」と思えるわけで。人間とは単純な生き物であります。

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文書の原本性・真正性を立証するフォレンジック技術について、もう少し深掘っていただけたら、先日のエントリで触れた私の疑問(電子情報の原本性を担保する手段はタイムスタンプしかないのか?)も解消したかも・・・なんて贅沢な感想を抱きつつも、日本においては類書のない素晴らしい本として自信をもってオススメします。
 

紛争に勝つための事実を突き止める一手法「弁護士会照会制度」がいつの間にか強力な制度に成長しつつある件

 
今度、とある案件で取引における不正を否定している相手方のウソを暴くために、この制度を使おうかなと思ってまして。

弁護士会照会制度―活用マニュアルと事例集



完全任意かと思いきや、意外と強力な報告請求権限あり

訴訟に限らず、紛争の早期解決には、揺るぎない事実を突き止めて相手方に突きつけるのが一番。

しかしながら、民事の紛争において強制力を持った警察のような公権力が調査に協力してくれるわけもなく、一方で個人情報保護法など情報を守る義務を明文化する法律はどんどん制定されて・・・と、いざ紛争になってみると、事実を集めて客観的に証明するということがこんなにも大変なんだということに、愕然とさせられることばかり。

そんな中で、唯一といってもいいかもしれない合法的情報収集手法が、この「弁護士会照会制度」。

弁護士法 第23条の2(報告の請求)
  弁護士は、受任している事件について、所属弁護士会に対し、公務所又は公私の団体に照会して必要な事項の報告を求めることを申し出ることができる。申出があつた場合において、当該弁護士会は、その申出が適当でないと認めるときは、これを拒絶することができる。
2 弁護士会は、前項の規定による申出に基き、公務所又は公私の団体に照会して必要な事項の報告を求めることができる。

条文を読んでいただければお分かりかと思いますが、弁護士の申し出に基づく弁護士会の審査のもと、弁護士会の名義をもって調査対象に情報公開を求めるという手続になっています。

弁護士法にはこの条文に対応する罰則が規定されていないため、この請求に対して照会先が報告するのは任意なのか義務なのかという議論もあるものの、近時の裁判例では「法律上、報告する公的な義務を負う」というものが多数出ているほか(大阪高判平成19年1月30日ほか)、これに違反した者に対し実際に損害賠償を認めた裁判例も出てきている(京都地判平成19年1月24日)とのこと。

また、個人情報保護法に基づき各省が制定する個人情報の保護に関するガイドラインにおいても、弁護士法第23条に基づく照会は個人情報保護法第16条3項1号及び第23条1項1号の「法令に基づく場合」に該当し、本人の同意を得ずに回答することに問題は無い旨言及するものが増えてきています。

実際、この本に掲載されている実際の応答事例集にも、以前は金融機関などは口座番号等の情報はこの制度で照会をかけても回答を拒絶していたのが、ヤミ金融事件の多発などを契機に回答する姿勢に変わりつつあることが紹介されています。

ということで、あまり知られていないけれど、結構強力な事実調査手法に成長しつつある弁護士会照会制度。

不正をしていることは分かっているのに、相手がそれを認めずらちが明かないといったシチュエーションにお悩みの方は、弁護士とも相談の上利用を検討されてみては。

【本】小説で読む民事訴訟法―手続法は迷わず使えよ、使えば分かるさ

 
このブログの左バナーには、私の中の教科書的なオススメ法律書を並べているコーナーを設置していますが、半年ぶりぐらいに入れ替えが発生しましたよ。

小川先生の2009-07-27 18:55:15のtwitterつぶやきによれば、
【法律裏話】漫画「ナニワ金融道」(青木雄二作)は、15年以上前に東京地裁の執行部修習をした際、同部非公式推薦図書だった。
だったそうですが、この本なら弁護士の木山先生が書かれていることですし、堂々と公式推薦図書にできるのでは?

漫画と小説という技法の違いはあるものの、『ナニワ金融道』なみの親しみやすさで、民事訴訟法の基本を理解させてくれる素晴らしい本かと。

小説で読む民事訴訟法―基礎からわかる民事訴訟法の手引き



訴訟用語は使って親しんだもの勝ち

法律事務所でアルバイトを始めたばかりの、ちょっとものわかりの悪い法学部3年生の主人公が、バイト先では若手弁護士に罵倒されながら、そして大学では勉強が一歩も二歩も進んでいるライバル達に刺激されながら負けじと訴訟法を学んでいくという、一見安易な設定なんですけれど、

私の経験上も、民事訴訟法をなんとか理解できるようになったのは、法務に配属され実際の紛争に出くわして準備書面の骨子をドラフトしたり、(有給休暇をとって見に行ったものも含めて)法廷見学するようになってからでしたし、訴訟当事者に限りなく近いこんな舞台設定じゃないと、訴訟法を漏れなく語るのはやっぱり難しいんでしょうね。

加えて、民事訴訟法の教科書的体系をまったく無視したその構成。何せ、7章に分けられた第1章のテーマが唐突に管轄から。まあ、確かに管轄は民事訴訟法の第一編総則に出て来るので最初に持ってくるのもアリだとしても、民事訴訟法の中心概念たる弁論主義は4章でようやく登場する始末ですし、教科書的には最初に出てくる訴え提起・訴えの種類にいたっては、なんと最終章で解説されるという。

一見脈絡のないようなこの構成で民事訴訟を学び直して改めて思ったのは、結局、民事訴訟法の理解の差というのは出て来る訴訟用語に親しんでいるかどうかの差であり、その親しみは理屈を理解して発生するものではなく使うことで発生するものであるということ。

民法などの「実体法」は体系的に学ぶ必要があるのかもしれませんが、民事訴訟法は「手続法」であって、訴訟という手続きに直面しなければ体得できないのだ、という当たり前の事実を再認識した次第。

自分の勉強のためだけに訴訟を起こせるわけもなく(とかいいながらそれに近いことをやってきたような気がしないでもない)、法律事務所でバイトするわけにもいかない(とかいいながらこの本を読んで週末だけでもやってみたいと思ったりもする)われわれビジネスパーソンには、この本がもってこいの疑似体験を提供してくれます。

【本】刑事と民事 こっそりと知りたい裁判・法律の超基礎知識―訴訟社会の相場観

 
冒頭刑事ドラマを引き合いにしながら、刑事裁判と民事裁判の違いという基礎的な部分から訴訟がどういう仕組みと流れで行われるのかを解説してくれる本。

刑事と民事―こっそり知りたい裁判・法律の超基礎知識



「○○なトラブルで訴訟になると××になります」式

タイトルから、そして弁護士が書いている本ということから、裁判上の手続の違いの解説がずっと続く硬派な本かも・・・と思っていたところ、意外にも本の中盤以降はビジネスと日常生活でおきがちな訴訟のケースをいくつも紹介しながら、弁護士の視点で判決の相場観を教えてくれる読みやすい本でした。
仮に時給換算で2,000円の賃金を得ている人が月平均20時間のサービス残業をしていたとしたら、支払われるべき残業代は2年間(24ヶ月)で120万円にもなる。会社側は、裁判の口頭弁論終結時までに、残業代を任意に払わないと、さらに2年分の残業代と同額の「付加金」が加算され、その付加金には5パーセントの利息がついてくる。本来の残業代にも6パーセントの利息がつき、退職した場合はさらに利息は上がり、14.6%の利息がついてくるのである。かなり多額になる。
受けるのが行政処分か刑事処分かは、切られるのが「青キップ」か「赤キップ」かによって決まる。交通違反は種類ごとに「点数」が決められており、程度が重いほど点数も多い。その点数が1〜3点なら青キップ、6点以上なら赤キップだ。
どの程度の痴漢なら迷惑防止条例で済むのかというのはきわめて微妙な問題だが、一般的には、「下着」の外側なら迷惑防止条例、内側なら強制わいせつということになっている。世間の常識と合致しているかどうかはわからないが、少なくとも、われわれ法曹関係者にとってはそれが「常識」だ。
被害者が警察に通報したからといって、ただちに逮捕されるというわけではない。あまりに悪質な場合はいきなり刑事罰の対象となることもあるが、基本的には、まず警察からストーカー行為に対する警告が出される。それに従わず行為をくり返せば、次は公安委員会からの禁止命令。これはいずれも役所からのものだから、行政処分である。その禁止命令にも従わなかったときに、「1年以下の懲役又は100万円以下の罰金」という刑事罰が待っているのだ。

こんな調子で、弁護士としての経験から行政罰を超えて刑事罰になる一線や、訴訟になった場合の判決の相場観を教えてくれます。
言葉の使い方に気を配らないととたんに難しくなる法律の話を、テンポよく、身近に感じられるネタを取り上げて、とても読みやすく仕上げていると感心します。私もブロガーとして大いに見習わせていただきたいです。 

なお、どちらかというと刑事系の話が多いので、法務パーソンとして業務に役立つ知識というよりは、お酒の席で話すと喜ばれる雑学的な知識が中心にはなっています。

著者の元榮太一郎さんは、アンダーセン毛利から独立され法律事務所オーセンスを開所、それだけにとどまらず弁護士ドットコムの立ち上げ、その他著作活動も活発に行われている若手弁護士。おそらく、この本を書かれたのも、訴訟社会化と法曹人口拡大が進む中で、そういったご自身の活動を世に知らしめるマーケティング活動の一環と思われ、失礼を承知で申せば、商魂逞しい方なのかもと。

溢れるバイタリティをもてあまして、とにかく思いつくことを確実にやりきっちゃうタイプなんでしょうね。

裁判員制度ドラマスペシャル『サマヨイザクラ』

 
フジテレビ土曜プレミアム・裁判員制度ドラマスペシャル『サマヨイザクラ』を見ました。

原作はモーニングに連載されていた漫画だそうなのですが、見てない方にとっては以下ネタバレ注意ということで。


法律が施行された今だからこそ身に沁みる問題提起

もうドラマも終わりか・・・という大杉蓮演じる裁判長が主文読み上げる場面で、伊藤淳史演じる主人公のフリーターが自分のケータイに偶然写っていた新しい証拠を出し、慌てて閉廷したあげく判決が変わる大どんでん返しは、サスペンスとしては中々のものでしたが、訴訟手続き上はあり得ないでしょと突っ込みを入れつつ・・・

判決にいたるプロセスでの裁判員制度に対する数々の問題提起は、各キャストの迫真の演技とあいまって、引き込まれるものがありました。


自分と似た境遇、かつ自分も一歩間違えば同じように一線を越えてしまったかもしれないと半ば共感すら覚えるような犯罪をしてしまった被告を前に、自分自身を裁くような感覚を覚えながら、生死をかけた断罪をするということ。

しかも、その判断を一般人が集まって合議して行うがために、裁判官だけの裁判にはない「感情」に多分に影響された判決になりうること。

そして、裁判員の秘密は、おそらく裁判員自身の心の弱さによって簡単に破られるであろうこと。


すでに批判はし尽くされた感はありますが、法律が施行されリアルになった今ということもあって、いずれも自分にダブらせながら真剣に考えさせられました。特に3つ目の秘密保持義務違反は、ドラマのような漏洩は容易に起こりうるだけに、そうなったときに罰則が実際に適用されるのかは見ものです。

最後のドラマ的大ドンデン返しが無かったとして、自分自身があの場にいたら、裁判員が加わるからこそ新しい裁判にすべきという「感情」で、死刑回避に一票を入れたかなと思います。

【本】民事執行実務マニュアル―訴訟に勝っても執行できなきゃ意味がない

 
訴訟に勝っても、金銭が取れないケースはしばしばあります。

裁判で単に勝訴したいだけなら、「証拠がきちんとそろってるか」だけ気にしていればいいと言っても過言ではありませんが、債権回収訴訟のように金銭をきちんと勝ち取りたい訴訟なら、民事執行の実務を知った上で、「執行までやり切れそうな案件かどうか」の見極めをした上で訴訟に踏みきりたいところです。

・・・と、えらそうなことを言っている私ですが、今年は、勝訴したものの肝心の執行ができず回収までいたらない訴訟をやってしまいました。

そんなわけで、この本を読んで反省しているところです。



民事執行の場面を書式でイメージする

今年のビジ法1級試験にも出題された物上代位に基づく賃料差押の問題、中小企業の社長の個人保証を追いかける時に問題となる自動車執行の流れ・やり方や差押禁止債権(給料の4分の1以上は差し押さえられないetc)など、まさに“最終的な回収場面”で現実問題となる手続きとその書式がきっちりまとまった良書。

特に説明の中でいちいち書式を見せてくれるのがgood。書式の量や内容を見れば、「ああこの場面でわざわざこんな許可をとって執行官がこれを相手に見せて差し押さえなきゃいけないのか」なんて具合に、執行手続の面倒さや難しさが一目瞭然にわかります。

民事執行の本は小難しいものが多い中、この本は専門的過ぎない・難しすぎないよう意識して書かれている本なので、読みやすい・探しやすいのも特徴です。

【本】証拠収集実務マニュアル―機動的な証拠集めで訴訟に勝つ

 
東京弁護士会の弁護士52人が集まって、
弁護士業務の一助になるべきものを目指し
訴訟における証拠の種類と収集方法についてのみをまとめた本。


読み物という要素はほとんどなく、完全に弁護士のためのマニュアル・リファレンス本です。


機動的な証拠集めで訴訟に勝つ

「基本編」で登記(不動産・商業)、登録(車両・船舶)、公正証書、裁判記録、筆跡、印影など23種類の基本的な証拠を抑えた上で、

続く「実践編」で、45種類に分類された訴訟類型ごとに、それぞれの訴訟で必要となることが予想される証拠と、その入手方法をまとめています。

惜しむらくは、刊行が平成11年とちょっと古いこと。それでも私が入手しているもので平成16年の11刷と、この手の本の中では立派なロングセラー。

言うまでもなく、訴訟は証拠がほぼすべてを決します。

我々法務パーソンが「何を証拠として収集すべきか」を把握しておけば、有事の際に弁護士の指示・アドバイスを待つことなく機動的に必要な証拠を散逸させないよう集めることができ、結果勝訴率をも高めることができます。

訴訟をやるからには絶対に勝つ。
そんなプロ意識のある法務パーソンにお奨めします。

「企業と人との新しい結びつき」の実現を目指して頑張ります。ご支援いただける方はこちらをクリック!(blogランキング)

【本】法務担当者のための民事訴訟対応マニュアル―弁護士にいい仕事をさせるのも法務パーソンの仕事です


民事訴訟を実際に担当したことのない法務パーソンって、実は結構多いのではないでしょうか。

トラブルが発生し、現場も「訴訟だ!」と最初は意気込んでいても、最終的には泣き寝入りしたり、役員の方針で(訴外の)和解をしたりというパターンは相当多いと思うんですよね。

私は、相手に自社を舐められたくないという思い、白黒はっきりけじめはつけたいという信条、自分自信の経験、そして訴訟経験の少ない後輩の教育のために、チャンスがあれば積極的に「訴訟に出るべし」と会社を動かすタイプ(笑)。
採算が合わない恐れのある150万〜300万前後の債権回収案件であっても、支払督促→訴訟に挑みます。

そんな喧嘩っ早い法務パーソンを力強くバックアップしてくれる良書がこちら。



弁護士にいい仕事をさせたいなら、訴訟のことも勉強しましょ

訴訟の進め方について解説している本はいくつかありますが、タイトルに「法務担当者のための〜」とあるように、企業の法務パーソンからみた視点で訴訟に必要な情報を集めている点が、この本の特色。

見開きページの左側に文章で訴訟の流れが、右側には関連するサンプル書式、用語解説、コラムなどが配されているのが読みやすさのポイント。
この形式は以前ご紹介した『債権回収基本のき』とそっくりなわけですが、マニュアルを作るときはこの形式が一番読み手にやさしいように思います。
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訴訟が始まり弁護士を選任すると、「口頭弁論期日」「準備書面」「弁論準備手続」など、言葉の意味をいちいち理解しなくても訴訟はつつがなく進んでいきます。高い金払って弁護士に委任してるんだからそれでいいや、という考え方もあるかもしれません。

しかし、弁護士を使う立場の法務パーソンとしては、最低でも訴訟の流れやそこで使われる言葉を知った上で弁護士とコミュニケーションを取れるようでなければ、訴訟の戦略をディスカッションすることはおろか、弁護士に緊張感を与えることすらできません。

訴訟実務を理解したうえで弁護士とコミュニケーションし、いい仕事をさせるという意味において、私は法務パーソンも訴訟実務をできるだけ勉強すべきだと思います。


訴訟実務に長けているあなたにも

訴訟経験をある程度お持ちの方にも、きっとこの本は参考になるでしょう。

たとえばこんなノウハウ。
企業能法務担当者として気をつけなければならないのは、自社の攻撃防御方法を積極的に基礎付ける意図で準備書面等において記載する内容を、稟議書、日記、備忘録などのもっぱら内部限りとして作成されていた文書から引用する場合があるが、これがのちに引用文書として文書提出命令の対象となって相手方の攻撃にさらされる可能性があるということである。
社内文書やメモも証拠に使えるといっても、何でもかんでも準備書面で言及すればいいというものではないという話ですね。

そして一番びっくりしたのがこの2つ。
判決を言い渡すに当たっては判決書が作成されているので、法廷での言渡後にすぐ判決正本の交付を受けることができる。注意すべきは、勝訴判決ならすぐ受領しても何も問題はないが、仮執行宣言付きの敗訴判決は受領してしまうと、その時点から相手方の強制執行が可能となることである。
実務的には、判決言渡期日には当事者は出席せず、まずは裁判所書記官に電話連絡した上で判決の内容を確認するのが一般的である。これは、判決が当事者にとって不利な内容である場合に、判決を言渡期日において受け取ってしまうと、その時点で判決を送達されたことになってしまい、控訴期間がその時点から起算される結果、控訴検討期間が短くなってしまうからである。
結構大手の弁護士事務所に世話になってるんですが、弁護士からこんな話聞いたことはありませんでしたよ…。むしろ判決言渡期日は自分も陪席して、勝訴の喜びを味うのを楽しみにしてたぐらいです(汗)。

その他、知的好奇心をくすぐるこんなトリビアも。
合議体では、法廷では、真ん中に座っているのが裁判長、左右に座るのが陪席裁判官であるが、傍聴席から見て左側に座るのが右陪席、向かって右側に座るのが左陪席であり、右陪席の法が、左陪席よりキャリアが長い。
どうでもいいっちゃいいトリビアですが、裁判の度に傍聴席で裁判官のマンウォッチングをしたり似顔絵を描いている私としては、あーそうだったのか!と。
そういえば司法修習生なんかが陪席するケースに何回か出くわしたことがありますが、確かに必ず向かって右側に座ってましたね。

実際の訴訟を進めながらこの本を読めば、これまで以上に興味深く訴訟実務を学べることは確実です。

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【本】MBA訴訟戦略

松山 遙/著、日経BP社
価格:2,800円(税別)
評価:★★★★★

久しぶりの5ツ星です。

企業にとって、紛争を訴訟と和解(話合い)のどちらで解決するのが経済的に得なのかといった、大局的なものの考え方を整理したうえで、送達はどのように行われるか、口頭弁論はどのように行われるかといった実務的な細かい点までをもフォローする素晴らしい本です。

そして、これほどの内容を290ページ程度に簡潔にまとめてしまった構成力・文章力にも敬服しきりです。続きを読む

民事裁判入門

中野貞一郎/著、有斐閣
価格:1,900円(税別)
評価:★★★

民事訴訟法の分厚い教科書を読む前に読むと良い本。

判例を参考にしたケース(事件例)をベースに、民事裁判の手続き、ポイントをわかりやすい言葉で解説してくれます。

「裁判制度とはなにか」みたいな雑学本とは違って、あくまでも民事訴訟法の言葉を用いて解説してくれているのがポイントです。

文庫本サイズの本なので本屋の法律書コーナーでも端っこの方に追いやられてましたし、中を開いても結構字がギッシリしていて、ぱっと見はあまり読む気が湧かない本なのですが、LECの柴田講師のサイトでお薦めされていて知りました。運良く出会えて良かったなと思ってます。

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