企業法務マンサバイバル

ビジネス法務に関する本・トピックのご紹介を通して、サバイバルな時代を生きる皆様に貢献するブログ。

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今後友人・知人から会社設立手続きについて相談されたら「会社設立 freee」を案内することにします

 
6/23にリリースされたこのサービスの評判がすごくいいです。私自身、今後友人・知人から会社設立手続きについて相談されたら、「オレの説明聞いてメモ取って自分でやろうとするより、こっち使った方が絶対早いよ!」とお勧めしてしまうと思います。
 
会社設立 freee(フリー)
会社設立に必要な書類が、特別な費用・知識なしで5分で作成できます
会社設立 freee(フリー)を利用すれば、法人登記から運営の手続きまで、特別な費用なしで簡単に行えます

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パッと見、設立“時”に必要となる登記申請書や定款を自動作成して、あとは公証人役場と法務局に持っていけばOKというところまでフォローしてくれるサービスなのかー、ついに出ましたかー、と思ったのですが、このサービスはそれだけでは無いんですね。

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設立“後”、数日〜数ヶ月内に届け出が必要となる社会保険各種や諸税の届出書作成までフォローしてくれているのでした。弁護士や司法書士だけでなく、社労士や税理士の領域もカバーしてしまったと。こういったすみずみきめこまやかなところまで意識されたサービス設計に、感動しました。しかもオプションのハンコ作成や銀行口座位開設等を除いて無料。運営者のfreeeさんとしては、本業のクラウド会計サービスへの誘導・囲い込みという戦略のひとつなんだそうです。

人材サービス業に在籍していたときに強く感じましたが、新規開業直後の社長さんや担当者さんは、こういった手続きをしなければいけないことすら知らない方がほとんど。自分で適当な本を1〜2冊買って勉強して数日費やし申請書類と格闘してもいいのですが、経営者はこういう本業と直接関係のないところに力を割く余裕はありません。かといって、士業として領域が幅広義過ぎる上に儲からないためにワンストップ・低料金でサポートしてくれる士業の方もいない。そうこうしているうちに法律上設定されている期限は迫って、経営者から助けを求められることは少なくなく、当時法務部門で(営業サポートツールとして)似たようなペライチのガイドを作ってお助けしていたのを思い出します。

士業領域であった法務業務のコモディティ化・自動化がこうしてどんどん進み、一介の企業法務パーソンが貢献できることはどんどん少なくなってきたなあ・・・などとどうしても感傷に浸ってしまうのですが、このサービスの登場に関しては、世の中のみんなの法的なお悩みをITで一気に解決してくれるものとして、素直に歓迎・賞賛したいです。
 

【本】『コーポレートガバナンス・コードの実践』― ソフト・ローの追い風と波にこの際だから乗ってみる

 
東証より、コーポレートガバナンス・コードの正式版および有価証券上場規程の改定がリリースされました。これにより、上場会社に対し、2015年6月1日以降最初に開催される定時株主総会終了後遅くとも6か月後までに、ガバナンスコードへの対応状況について開示や説明を行う(ガバナンス報告書を提出する)義務が課されます。

こちとら会社法改正対応や株主総会準備に追われる中で、コーポレートガバナンスなんか面倒みる余裕もないんでIRその他ご担当者さまよろしくお願いいたします・・・という声が聞こえてきますが、そんな上場企業の法務なみなさんのカンフル剤となりそうな本がこちら。





法的に強制力のあるハードローと普段戦っている法務の立場としては、それがないソフトローと言われると、その中途半端さにどう向き合っていいかわからず、苦手意識が先行してしまうところがあるんじゃないでしょうか。実際、ここ数年の「コンプライアンス」や「CSR」ブームに、法令を尊重しようという意味では“追い風”や“波”を感じながらも、どうもしっくりこない・両手を挙げて賛成できないという法務の方のつぶやきは、幾度となく耳にしてきました。今回のコーポレートガバナンスにも同じような危惧を抱いてしまうのも、無理からぬところです。

しかし本書を読むと、今回の“追い風”や“波”は、上手く乗りさえすれば法務パーソンが職域を拡大する大きなチャンスになるのでは?と思えてきます。たとえば、長期投資家と企業がガバナンス・コードをベースにどのように対話していくべきかについての、こんな一節から。

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武井 対話はどのぐらいの頻度で行うイメージでしょうか。四半期に1回必要なのか、そとも半年か1年に1回でも大丈夫なのかですが。
井口 決算数字関係はIRのご担当の方とお話し、経営者の方とお話するのは、四半期の数字の確認などではなく、大きな話ですので、年に1回ないし2回ぐらいかなと思います。ただ、大きな方針の変更や突発的な事象があった場合は、不定期となります。
武井 ちなみにIRの担当では分からないESG項目もありますか。
井口 IRの会社での位置づけにもよると思いますので、一概には言えません。ただ、よくあるのは、IR担当者、CSR担当者(社会的責任)、SR担当者(総会などを担当する法務担当者)の部署が分かれ、企業内で情報分断が起きてしまっているケースです。そして、結局、各部署を統括する立場におられて、組織の壁を越えてよくご存じの経営者の方との対話が必要となってしまうのです。(中略)例えば、法務部・総務部の方々は、企業がどう動いているかをご存じで、長期投資家にとっても大変重要な情報をお持ちです。このような情報をIRの方々と共有してほしいと考えています。

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この情報分断の問題、上場会社で事業報告や株主総会想定問答の作成も担当している法務の方であれば、間違いなく認識されていらっしゃる問題かと思います。株主との対話がこれまで以上に求められるガバナンス・コード時代には、いよいよ誰かが社内で陣頭指揮を取ってこういった課題を解決しなければならないのですが、誰も腰をあげたがらない。しかし会社法改正のようなハードローの力だけでは、どうしても「ミニマムでやらなければならない義務を抽出して処理する」という態度になりがちで、踏み込むのは案外難しいもの。今回のような、国を挙げて成長戦略を目指すという大義名分のあるソフトローの力を借りることで、このような部門横断的かつ対社外なエリアに積極的に進出していくチャンスが生まれるんじゃないか、と思うわけです。

ちなみに上記は「第1章 ESGの視点から企業価値創造プロセスを示す」と題するニッセイアセットマネジメントの井口譲二さんと西村あさひの武井一浩先生の対談の一節の引用させていただきました。このように本書は、上記引用部のように、ガバナンス各分野の専門家の話を武井先生を聞き手とする対談形式で収録したものとなっています。この弁護士との対談形式というのが、どうも読み物として法務パーソンにフィットするようです。上記引用部は、この分野の必読本と言われている『スチュワードシップとコーポレートガバナンス』P123ー125に同様のことが書いてあるのですが、こちらの本の方がわかりやすいと思います。

対談ベースである分、ページ数は400ページ超とボリューミーにはなってしまっているものの、2色刷りで見やすく、章・節だてのテンポもよく、また図表もこの手のタテ書きの本にしてはかなりふんだんに入っていますので、二晩もあれば読み切れる内容。これを読んで背景知識やここにいたる流れを抑えた上で、巻末にも収録されているコーポレートガバナンス・コードおよびスチュワードシップ・コードの2つを(さらに余裕があれば伊藤レポートも合わせて)読めば、苦手意識を持っている方も一気に解消できるのではないでしょうか。

アジア新興国法制ガイドブックブーム

 
一昨年ぐらい前から、日本企業によるアジア新興国への投資・現地法人設立が盛んとなり、それにともなって大手渉外法律事務所が主要都市に支所を設けたり、そこで蓄積されたノウハウが書籍化されるようになりました。

私が今年買ったものだけでも以下3冊。










加えて直近では、曽我法律事務所からも「◯◯国法務ハンドブック」がシリーズとして刊行されたところ。

ベトナム法務ハンドブック
粟津卓郎
中央経済社
2013-09-19



これだけアジア新興国法制本がブームになってくると、どれを買っていいのか迷うところ。私もいったいどれをお勧めするべきか、一長一短ある各書籍のプロコン比較表を作成しかけていたのですが・・・昨日経営法友会からこんな冊子が届きまして、早速目を通してみたところ、「なんだ経営法友会入ってればこれだけでいいじゃん」という結論になりました。

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弁護士が組織する日本IPBAの会と企業法務パーソンによる経営法友会が共同で「新興国法制研究会」を立ち上げ、国別に10人前後のワーキンググループを作り、並行して経営法友会の会員向けウェブサイトで寄せられた質問を集めながら研究成果をまとめたのがこの冊子『新興国法制ガイドブック』。

第1部 外資規制を中心とした法制度の概要
第2部 事例(架空のものを含む)をベースにしたポイント解説
第3部 現地駐在員による苦労話アンケート
すべての国について、この3部構成でまとめられています。特にコンテンツの中心を占める第2部については、
1 進出(外資規制/設立/会社運営/株式/撤退)
2 人事労務(労使協議/スト権/賃金カット/解雇)
3 事業(資金調達/取引・契約/債権保全・回収/コンプライアンス)
4 個別法(知財/競争法/PL/税務)
5 司法制度(紛争解決/仲裁)
と、多少の異同はあるものの、ほぼこの切り口で各国統一的に整理されています。国と国を横串にさして比較して読むときなどに便利です。

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何より、「法務パーソンが読むことを前提に法務パーソンが書いた調査報告書」スタイルなので、文字量・情報量・レベルがいずれも丁度よいわけです。市販の本となると、経営者など必ずしも法務ではない人も想定読者に入ってくるために、書き方が冗長になって読みづらかったりしますしね。

今後もこの新興国法制研究会は活動を続け、本ガイドブックの追補版も出していくとのこと。法務パーソンのギルドたる経営法友会として、貴重なノウハウを共有いただけることを引き続き期待しています。
 

株主総会のトレンド

 
企業法務パーソンが多忙を極める株主総会ハイシーズンが、今年も終わりを告げようとしています。

株主総会ピーク、1100社 ANA・大王製紙など開催 (日本経済新聞)
3月期決算企業の株主総会が27日ピークを迎えた。日本経済新聞社の集計では上場企業全体の43%にあたる約1100社が開催。株高局面で増えた個人株主らは企業の成長戦略やコーポレートガバナンス(企業統治)への関心を強めており、今年は出席者が最多となる総会も目立つ。

総会シーズンってだけでそわそわして仕事に集中しにくいのに、4月の組織変更後の新組織が安定稼動し始めて案件が動き出す時期でもあって、通常の案件も増えたりするんですよね。心なしか、各法務ブログやSNSのほうでも企業法務系の方の投稿が減っていたかなと感じましたが、きっと気のせいではないでしょう。

私も、最近のトレンドの勉強のために、久しぶりにいくつかの会社さんの総会をウォッチさせていただきましたが、そこで共通して感じたことを3つほど。

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1 社長の喋る量は増える一方


2000年以降「開かれた総会」が合言葉のように唱えられましたが、実際はあえて社長があえて質疑応答の場面で回答せずに、議長として司会進行に徹する昔ながらの会社さんもまだまだ多かったと思います。しかし最近は、若く頭のやわらかい方が社長を務める新興企業が増えたこともあってか、社長が積極的に発言をするのが本格的トレンドになっているよう。他の取締役が管掌する事業であっても、その取締役の回答の後に社長としての意見を添えるスタイルが目につきました。
プレゼンの上手さ、誠実なキャラクター、頭のキレ・・・ウリにする部分は社長それぞれなれど、社長が積極的に喋る総会ほど、株主にとって満足度の高い総会となることはどうやら間違いがなさそう。株主は社長の器に投資しているところもあるわけで、直接社長と対話できる1年に1回の場なんだから社長の頭のなかを少しでも多く覗きたい、ということなのでしょう。

2 個人株主の質問レベルが上がっている


冒頭の日経記事にあるように総会に参加する個人株主が増えているだけでなく、その質疑応答のレベルも数年前とは比べ物にならないほど上がってますね。自分が想定問答集を作成しひな壇事務局を担当していた頃とは、隔世の感がありました。「事業報告書◯◯ページのこの数字ですが・・・」など、具体的な記載の確からしさについて質問される株主が増えてますし、配当性向などについても「17%だったのが15%程度にこの2年下がっている」「◯◯社や××社は20%であり、比較しても低い」など、具体的な数値を示しながら質問する方も。いや本来総会とはそうあるべきなのですが、ぶっちゃけ事業報告書や参考書類の作成担当者しか把握してない細かいデータもあるわけで、時間を置いて事務局に調べさせて回答をしている場面もちらほら見かけました。ネット証券によって個人株主が一気に増えてから数年経って、個人の方も勉強されかつ経験を積まれてるんだなと。
上場会社においては四半期決算プレゼンとの整合性も当たり前のように見られて突っ込まれます。「本日の報告事項・決議事項とは関係がない」と言いたいところですが、内容的にはそう一刀両断しにくく、対処に苦難されている場面もありました。
あと余談ですが、かならずいらっしゃるただただ株価に不満を唱える個人株主に対し、経営陣が「今の当社の株価水準は大変不満である」「正しい評価がされていない」とはっきり回答する場面に何回か出くわしてびっくりしました。「株価は市場の需給によって形成されるものであり、弊社が論評すべきものでは云々かんぬん・・・」が常套句だと思っていた私が古い人間のようで、時代は変わるものです。

3 お土産渡すのっていつの間にか当たり前になってるの?


個人的には総会にはお土産なんていらない派なんですが、頼んでもないのに(しかも事業とは直接関係のないお菓子などを)配る総会が急に増えた気がします。あれって、一度配り出すとやめにくいですし、なんで会議にお土産が必要なのか本当に意味がわからないのですけれど。これがトレンドになると、運営する側としてはいやだなーと思います。毎年違うものを選ぶの大変ですし、準備項目も増えますしね。


ということで、総会を担当された法務のみなさま、お疲れ様でした。
 

【本】Q&A株主総会の実務 ― これは商事法務の新しいマーケティング戦略なのか

 
3月決算の上場会社にお勤めの法務・総務のみなさんは、この連休を挟んで招集通知と参考書類も仕上げに向けて佳境に入る頃で、株主総会モードにも拍車が掛かってくる頃でしょう。私も、毎年この時期は総会関連の書籍を読んで、会社法周りの実務知識のアップデートを心がけているところです。

特に、私が総会担当者だったころよりも増えているであろう
・株主提案に対する対応(総会当日の投票実務)
・委任状勧誘の限界
・招集通知のweb修正(twitterでも話題がちらほら)
・非株主の代理人出席対応(ウッドフォード氏の例)
・利益供与(モリテックス事件のクオカードとか)とお土産価格相場
のあたりは、トレンドを抑えておかなければという課題意識を持っていました。

そんな視点で今年選んだお薦めの1冊がこちら。


Q&A株主総会の実務Q&A株主総会の実務
著者:桃尾松尾難波法律事務所
販売元:商事法務
(2012-03)
販売元:Amazon.co.jp



この本を見つけたのは丸の内oazo内の丸善でしたが、同じ商事法務さんから出ている西村あさひの『株主総会の実務相談』とこれが並べておいてあって、2冊があまりにもコンセプトが一致、内容的にも丸被りなところにびっくりました(笑)。さすがにどうなんでしょう。総会シーズンだからとは言え、同じ時期に同じ出版社から同じコンセプトの本を(別の著者で)出すというのも珍しいというかなんというか。

ためしに目次を並べてみると

『Q&A株主総会の実務』『株主総会の実務相談』
第1章 開催手続

第2章 招集通知・書面投票制度

第3章 株主提案

第4章 委任状勧誘

第5章 閲覧謄写請求

第6章 検査役選任

第7章 会場と開催時刻

第8章 事前質問

第9章 受付の事務

第10章 お土産

第11章 議事整理・議事進行

第12章 説明義務

第13章 動議

第14章 議案の採決

第15章 利益供与

第16章 総会終了後の実務
第1 章 株主総会の概要

第2 章 株主総会の準備
 第1 節 招集手続
 第2 節 書面投票制度
 第3 節 委任状の勧誘
 第4 節 株主提案権
 第5 節 定時株主総会前の有価証券報告書の提出
 第6 節 利益供与の禁止

第3 章 株主総会当日の運営
 第1 節 受  付
 第2 節 議事の運営
 第3 節 質疑応答
 第4 節 動  議
 第5 節 決議方法
 第6 節 議決権行使に係る諸問題

第4 章 種類株主総会

第5 章 特殊状況下の株主総会
 第1 節 少数株主が招集する株主会
 第2 節 総会検査役の選任
 第3 節 震災時における株主総会

第6 章 各種書類の閲覧・謄写請求

第7 章 株式買取請求権

第8 章 株主総会等の電子化
 第1 節 株主総会の電子化
 第2 節 株券電子化

第9 章 株主総会後の手続


建付けは違えども、入っているコンテンツはほとんど同じ。ただし、西村あさひの『株主総会の実務相談』のほうが160ページ厚く、その分情報の絶対量は多いとは思います。後は、
・文体やレイアウトの読みやすさ
・値段
ぐらいしか差別化要素がないところ、ゴシック体のフォントや罫囲みを多用してあえて教科書チックではない編集にしている点が読みやすくできていた点と−2,000円お安い点が優位点でしょうか。実際のところ、迷いすぎて2冊とも買っちゃいそうになりましたが、すんでのところで踏みとどまりました。なお、Q&AのQについては商事法務さんのHPで確認できますのでご参考まで。

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結論。西村あさひの『株主総会の実務相談』は会社に置いておく公式教科書として会社の予算で買っていただき、こちらの『Q&A株主総会の実務』は自分のアンチョコ的にお小遣いで買うっていうのではどうでしょうか(著者の皆様には失礼な言い方に聞こえたら申し訳ございません)。

というか、商事法務さんが確信犯的にそんな売り方を考えていたとしたら、まんまとそのマーケティング戦略にハマっているだけのような気がしてきました。
 

【本】会社法施行5年 理論と実務の現状と課題 ― 時事ネタのまとめで学ぶ会社法は面白い

 
現職についてから疎かになりがちな会社法の勉強をしようと思いたち、リアル書店に本を漁りに。


会社法施行5年 理論と実務の現状と課題 (ジュリスト増刊)会社法施行5年 理論と実務の現状と課題 (ジュリスト増刊)
販売元:有斐閣
(2011-05-26)
販売元:Amazon.co.jp



Jurist増刊にしてはかなりビビッドな表紙。いつもならJuristってだけでスルーなのですが(笑)、思わずこの派手さに惹かれて手にとって数ページめくって「これは当たりだ」とすぐに購入。

要は、この5年間で発生した会社法の時事ネタのうち、特に重要なものが論点ごとにまとめられている本なわけです。教科書を最初から最後まで通読する学習では絶対挫折する会社法も、このアプローチだとリアリティがぐっと増すからでしょうか、途端に面白い法律に見えるから不思議です。

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取り上げられている事件・論点は例えばこんな感じ。
  • 「委任状勧誘」において、株主提案に賛成する委任状を会社提案にかかる議案の出席議決権数に含めるか否かが争われたモリテックス事件
  • 子会社の株式買い取り価格が高すぎたとして、経営判断の原則に基づく「取締役の経営責任」が問われたアパマンショップ事件
  • 「監査役の監査権限行使」がどこまで及ぶかが話題となった春日電機事件・トライアイズ事件・荏原製作所事件
  • 会社法の社外取締役・社外監査役には求められていなかった独立性を証券取引所の上場規則によって義務付けた「独立役員制度」の導入
  • 株式併合および特に有利な条件による新株予約権第三者割当てによって、発行済み株式数を30倍に希釈化する決議をし、その強引とも見える資金調達法が耳目を集めたモック社の事案(ちなみにモック社はその2年後破産)
  • 株主の株式買取請求における「公正な価格」の妥当性について争われた協和発酵キリン事件・テクモ事件・インテリジェンス事件
  • 「敵対的買収防衛策」としてのポイズン・ピルの合法性が争われたブルドックソース事件

それぞれの事件については、私も山口先生のブログ『ビジネス法務の部屋』などを頼りに発生の都度押さえてはいるつもりですが、事件から会社法への当てはめを部分部分でやられても、普段から会社法とニラメッこしている商事法務担当や株式担当の方でもないと頭がついていかないと思います。そういう方にこそ、会社法の大きなテーマ毎に法と事件をヒモ付け解説してくれているこの本はピッタリ。しかもよく考えると、世の中を騒がせた会社法関連事件を後からまとめて俯瞰できる文献というのもそうそうなく、そういう意味でも価値ある本ではないかと。

重要かつ争いのある論点をこの本で抑えつつ、周辺の基礎知識を私がイチオシの長島大野常松『アドバンス 新会社法』でおさえるのがベストな“法務パーソン向け会社法学習セット”だと、この週末で確信しました。この組み合わせ、ズバリお勧めです。


アドバンス 新会社法アドバンス 新会社法
販売元:商事法務
(2010-09)
販売元:Amazon.co.jp


 

株主総会事務局の仕事とは何か

 
私の法務経験の中で、会社という存在についての価値観を大きく変えたのが、株主総会の事務局業務です。

取締役会の意向を調整しながら議案をまとめ、参考書類等を間違いのないように作成し、総会の会場を手配するばかりでなく、数百問に渡る想定問答を用意し、当日は議場で議長の真後ろに座り、インカムマイクを使って会場の係員や裏方と連絡を取りながらリアルタイムに集めた情報を議長にインプットしたり、株主からの質問に対して法的なポイントをその場で整理し助けるために、株主席からは見えないような死角に設置した書画カメラを使い、議長席に置かれたテレビモニタ上に“カンニングペーパー”を瞬時に映し出しながら、議長の総会議事進行を補助します。正確な会社法知識はもちろんのこと、スピーディにミスなく書類を仕上げる事務処理能力、総会で繰り出される株主のあらゆる質問に対し回答を作るだけの事業全体の知識、そして臨機応変・当意即妙な対応能力が問われる仕事です。

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会社からミッションとして与えられる事務局としてのゴールは一つ。
大株主・個人株主のみなさんに貴重な時間を頂いてお集まり頂く以上、効率的に、かつ法的要件を満足するように遺漏のない会議を運営し、予め提出された議案について結論を出すこと。

議決については、実際のところ大株主との調整も済んでいて、議案が会社提案どおり可決されるかどうかが当日まで心配される総会というのはほとんどなく、いわば出来レースです。そのような状態での「会議」の効率性を考えると、会議の目的である議案の決議に関係の無い質問・発言は、株主総会においてはすべて不規則発言=時間の浪費と位置付けることになります。もちろん、大株主の議決に影響を与えるような新事実が当日の議場から出てくるという展開も完全には否定できませんが、事前質問として提出されていなければ実際にはその可能性はありません。ですから、事務局としては総会当日の議場における株主の発言については、それが総会の目的である議案の決議に関係がないことが会社法314条に照らして法的に判断できれば、無視はしないまでも、時間を浪費しないために質問を“捌く”対応をとったりもします。

総会事務局の経験が浅いうちは、こんな出来レースの一翼を担うという仕事、それにかかるパワーと金、それでも物見遊山に参加する個人株主の不規則発言に、バカバカしさを禁じ得ない自分がいました。でも、その業務を何年か続けて私がたどり着いた答えがあります。

株主総会とは、
1)決算
2)監査
3)議案に関する取締役会決議(特に取締役・監査役候補者の人選)
4)事業報告・監査報告・参考書類等の作成
5)招集通知と参考書類等の送付
6)委任状勧誘・議決権行使書類の回収
7)当日の議事・決議
8)決議の報告
以上のような法に定める手続きに従い、株主一人ひとりが、1年に1回定期的かつ強制的に、自らが所有する会社のあり方を振り返るというプロセス全体に価値があるのであって、総会当日の議事はあくまでその一部に過ぎないということ。そして、当日の議事はもちろん大切な一部ではあるけれど、ほとんどは総会の議案と取締役・監査役候補人事案が決定する3)が完了した時点で株主の多数派の委任を受けた取締役が取締役会で議論を尽くして決定したものなのであって、株主の多数派が総会当日になって反対するはずもなく、すでに「勝負あった」なんだなあと。株主の多数派が会社のあり方を振り返った結果「変えなきゃ」と考えるとすれば、それは総会当日ではなく、3)が決まる時点こそがポイントなのだと。

それでもなお会社法が少数派にも株主総会に参加する権利を与えた意味はなんなのか。私は、株主の多数派の代理者たる取締役が1年を振り返るプロセスに透明性を担保することで、そのプロセスを見た少数派が株を買い増して多数派を目指すか否かの判断材料を提供することにあるのではないか、と思います。

東京電力の株主総会 原発撤退提案の株主VSあっさり「反対」経営陣(毎日jp)
大企業が株式を互いに持ち合う日本で、株主総会は会社提案を追認するだけのセレモニーになりがちだ。東京電力の大株主には東京都のほか、銀行、生命保険会社など大企業がずらり。議長は会社側が、大株主から過半数の委任状をもらっていることを明かした。要するに、採決は“茶番”なのだ。

だが、事故を受けて個人株主たちは肉声を会社にぶつけた。「津波対策を無視した人災だ。現役員と元役員は私財で償ってほしい」という質問に、武藤栄副社長(61)は「法令基準に従ってきた」と法律を盾にした。「事故直後にデータを隠したために放射能汚染が広がってしまった。あなた方は責任を取っているのか」との質問に、小森明生常務(58)は「情報については当社ホームページなどで発信に努めていきたい」とにべもない。企業対個人。この日の対立軸が鮮明になってきた。

東京電力の株主総会が少数派にとって理想的でなかったとすれば、それは会社を批判するというよりも、その1年の振り返りを通じた取締役の発言・態度に滲み出る多数派大株主の「現状・現体制追認」の姿勢に対する不満なのだと認識し、怒りや批判の矛先を正しい方向に向けるべきだと思います。そして残念ながらその不満の解消策は、株主総会で取締役を批判するという手段ではなく、ほんとうの勝負の場である取締役会に代理人たる取締役を送り出せるくらいに多数派から株を買い増し、来年の定時または臨時株主総会で現状・現体制追認の姿勢を株主として改める議案を提出させることしかないのかもしれません。

一方で多数派も、変化を認めない硬直的なコミュニケーション・態度を必要以上に見せることで、現実的には会社のファンであるはずの少数派株主さえもだんだんと会社から離れていくリスク(株価の更なる下落)を真剣に考えておく必要はあるでしょう。私が事務局業務をやっていたときは、作成する参考書類の言葉遣いに気を使ったり、当日の進行シナリオに議長が議場全体に視線を配るような指示を必要以上に入れたり、想定問答にあえて取締役=大株主にとって耳の痛いQAを入れたりという小さな抵抗で、少数派というファンに微かでも希望を感じ取ってもらえるような工夫はできないかと考えていました。

株主総会の事務局とは、現実的には大株主と取締役の意向に忠実に、当日の出来レースをつつがなく終わらせることを使命として帯びながらも、その裏では、利害が対立する多数派株主と少数派株主の情報共有や意思疎通が出来る限り円滑になるように、そしてその結果会社のファンたる株主が一人でも多く生まれるようできることを考える仕事なのではないかなと、私は思います。
 

最高経営責任とは何か

 
ゼンショーがやってるすき家も、ココスジャパンがやってるエルトリートも好きな私としては、残念なお話。

「代表取締役」と「社長執行役員」どっちがCEO(最高経営責任者)?(ビジネス法務の部屋)
ゼンショーさんの連結子会社であるココスジャパンさん(JASDAQ)のリリースによりますと、収益回復に向けた経営戦略の一環として、代表取締役の交代ならびに社長執行役員の新設を発表しておられます。そして代表取締役にはココスジャパンさんの取締役の方が就任され、新設された社長執行役員には親会社であるゼンショーさんの関係者の方が就任される、とのこと。つまり同じ上場会社に「代表取締役」と「社長執行役員」が別々に就任される、ということのようであります。
やはり株主に対して直接責任を負う方こそ(法律家らしからぬ言い方で恐縮ですが)会社で一番偉い人のように思います。対外的な代表権だけでなく、対内的にも取締役会から包括的な委任を受けた決定権限はまず第一に(社長ではなく)代表取締役にあると思うのでありますが。

以前ライブドア事件の際にも言及したような「取締役でないただの使用人が社長を名乗っても、表見代表取締役として保護されるのか?」という問題は今日はさて置き、この統治機構と経営責任のあり方について、私も山口先生のご意見同様違和感を感じました。歯に衣着せずに言ってしまえば、この決定には欠陥があると思います。それは、すべてのステークホルダーの利害を一元的に背負って立つ者が不在になると考えるからです。

・代表取締役は業務執行をしない
 →顧客・従業員への直接説明責任を負わない
・社長執行役員は株主総会・取締役会に出ない
 →株主への直接説明責任を負わない

このような状況では必然的に、代表取締役は株主の利害を踏まえた判断をし、社長執行役員は顧客・従業員の利害を踏まえた判断をすることになります。結果、株主の利益代表たる代表取締役と顧客・従業員の利益代表たる社長執行役員がいちいち衝突するはずで、それらが相反するような高度な経営判断を正確・迅速に行うことは困難になるのでしょう。

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おそらく、ゼンショー・ココスジャパンは、「業務執行を迅速にするために経営のうちの業務執行の責任のみを分割して社長執行役員に委任したのであって、株主の利害も絡むような高度な経営判断は代表取締役が最終責任を負うのだ」と仰るのでしょうが、経営責任ってそんな簡単に分割できるようなものなのでしょうか。たとえ物理的に出来たように見えても、普段顧客や従業員から遠い場所に居るような代表取締役に、正しい経営判断ができるとはあまり思えません。実際にこの責任二分割体制の下で法務を担うことになったら、反目する2人の間を取り持つ仕事に日々忙殺される予感がします(笑)。

企業の経営・統治とは、全てのステークホルダーの厳しい要望に経営者自身が晒された上で苦しみ悩み抜いた末に判断するプロセスであり、そのプロセスと結果に最終責任を負うのが最高経営責任というものではないかと、私は考えます。
 

【雑誌】BUSINESS LAW JOURNAL No.25 4月号 ― 「公開会社法(案)」に対する江頭先生のカウンターパンチ

このエントリで伝えたいこと

  • コーポレート・ガバナンスを改善したければ、会社じゃなくてカネを出す人の姿勢を正したら?という江頭憲治郎先生の意見はまさに慧眼。

民主党の某議員へ江頭先生からのキツイ一言

今号でいよいよ創刊2周年を迎えたBLJ。たんなる専門誌的記事にとどまらず、勉強会や覆面座談会形式の記事を交えた飽きさせない内容の良さはもちろんのこと、法務パーソンを横串でつなぐ定期的な読者懇親会の開催、そしてついにはTwitterにも参戦を果たされ、今後もますます楽しみなメディアに成長されている感があります。

BUSINESS LAW JOURNAL 2010年 04月号


今回の特集「弁護士との関係はどう変わったか」も、私達法務実務家が日ごろ抱えている思いと、若手の弁護士さんと情報交換している中で漏れ伝え聞こえてくるような弁護士の本音の双方がバランスよくまとまっていて、楽しく読ませていただきました。

しかし、それよりも私の目を引いたのが、巻頭のOPINIONのコーナー。

このコーナー、たった1ページながら毎号大御所をブッキングしてくださっていて密かに楽しみにしているのですが、今回登場されたのはこれまた大御所、会社法の権威、江頭憲治郎先生。

昨今、民主党の一部議員が騒いで物議を醸している「公開会社法(案)」創設議論を意識しての、五寸釘ぐらいの太い釘を刺す刺激的な一言がw。

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日本と英米のコーポレート・ガバナンスの違いが指摘される場合、社外取締役などの機関構造の面が取り上げられることが多いが、実は彼我の最大の差異はそこではなく、株主のコーポレート・ガバナンスへの姿勢の差なのである。もちろん、個人投資家にそれへの積極的参加を期待しても無理であり、期待出来るのは機関投資家のみである。
現在また日本では、会社法改正の動きがある。そこでコーポレート・ガバナンスの改善を目指すのであれば、機関構造の改革とか取締役の責任強化を図ってみても、おそらくたいした効果は期待できない。真にわが国で改革が必要なのは、株主構造の機関投資家化を図ること、および機関投資家の資金拠出者の資金拠出者に対する義務の強化であろう

取引先を審査する業務をやってきた中で、私は「株主の筋を見ればその会社の筋が分かる」という確信を持っています。これは、大株主が変わったことでガバナンスが大きく変わっていく様を前職において目の当たりに実感し、それが原因で辞めるに至ったことも強く影響しているのですが、それもあってこの指摘にはとても共感を覚えました(「個人投資家に期待しても無理」のくだりはちょっと気になるものの)。

先生としては、当時の法務省法制審議会部会長として、会社法改正で会社側のガバナンス向上のための工夫はすべてやりつくした、という自負もお持ちなのだと思います。

「公開会社法(案)」に感じていた、これ以上会社をイジッてイジメてどうするの?という違和感が、この江頭先生の一言でスッキリした次第です。
 

まだ見えぬ公開会社法(案)に関する情報を整理してみたら、誰の利益のための法案なのかが分からなくなった

 
あいかわらずtwitterでは藤末議員(@fujisue)がこれをネタに叩かれ気味なこともあってか、ご本人が何度かブログ等で釈明されている公開会社法(案)について。

公開会社法,民主党はこう考える(Tech On)

とりあえず藤末議員が言いたいのは、「従業員代表監査役の話ばっかり一人歩きしちゃいましたけど、それだけじゃないんでヨロシク」ということらしいです。

そのわりには、民主党プロジェクトチームなる人たちが考えている法案の中身に関する情報はあいも変わらず断片的にしか出されていないので、全体として評価しようにもしようがないじゃないかと。

ということで、現時点で私が入手している断片的な情報(新聞記事・大久保/藤末議員の発言・法務筋の情報)をつなぎあわせて整理しようという試みが以下。もし事実と異なる点があればご教示下さい>民主党プロジェクトチームなる方々。


■対象
上場会社。
会社法上の公開会社の定義(株式に譲渡制限が付されていない会社)とは一致しない。

■法案骨子
骨子は以下4点。

1)情報開示の徹底
a.既存の金商法、会計監査制度等を準用した上で、一般会社より
 情報開示を強化。
b.株主に随時質問権を付与

2)内部統制の強化
a.社外取締役の選任要件強化
 ー親会社・借入先の銀行・有力取引先の出身者は社外要件を
  満たさないものとする
 ー社外過半数化も含めた人数要件の変更
b.監査役の一部の選任要件強化
 ー従業員代表(非組合員含む)より1名の選任義務化
c.監査役の権限強化
 ー会計監査人の監査役会等に対する報告義務
 ー会計監査人の選任・報酬決定の権限の監査役会等への移行

3)企業集団の明確化
a.企業集団の定義明確化
 ー金商法の概念を前提に再定義
b.親会社の責任・権限明確化
 ー子会社の重要な意思決定は、親会社の株主総会での承認を
  要する
 ー親会社は、子会社取締役の業務執行を指揮
 ー子会社債権者に、親会社とその取締役への損害賠償請求権
  を付与
 ー親会社株主に、子会社取締役への株主代表訴訟提起権を
  付与

4)その他
a.M&A規制の強化
 ー買収防衛策としてのポイズンピルの禁止
 ー買収者に全部買付義務

■導入時期
公開会社法の制定は3年後(2012〜13年)を見込むが、金商法の改正等や上場規則の変更による随時導入もにらむ。
 

と、あらためて眺めてみると、2bの従業員代表監査役は言わずもがな、3bあたりも法律関係を複雑にする百害あって一利なし、1bの株主随時質問権なんてIR部門がコールセンター化するわ公平な開示もあったもんじゃないわ・・・と、いったい誰の利益のためにこのような法案を検討されているのか、理解出来ません。

この点、藤末議員は冒頭紹介の記事で
まず根源的な疑問点として、現在の日本における企業の行動が野放図になっているのではないかということが挙げられる。下表のように続発する企業の不祥事を検討すると、適切な情報開示や企業統治を担保する仕組みが、法的に不十分なことに行き着く。
と述べた上で、カネボウの粉飾やライブドア事件等を列挙しています。
この法律が先に制定されていたら、カネボウやライブドアの事件は起こらなかったのか?という突っ込みどころはあるものの、ここだけ読むと、「株主が騙されないよう、株主の利益のために」ということのようにも読めます。

しかし、続く後段では突然株主が敵視(笑)され、
ここから先は藤末個人の意見であるが、やはり「会社は株主のもの」として短期の配当性向を過度に高めるように株主から強要されたことが、企業の健全な発展や社会の安定の妨げになっているといえるのではないか。
と、「企業や社会の利益」が持ち出されます。
株主が短期の配当性向を求めたんだったら当然企業は(合理的経営判断のもと応じられる範囲で)応じるんじゃないの?社会の安定って具体的には何?と、ここもお伺いしたくなるところです。

連合をはじめ、色々な団体の利益を総合的に勘案しているうちに、目指す方向性がわからなくなっている気がしないでもないこの法案。私としては、むしろ労働者の利益のための法案ということで振り切った再整理をした方まだいいのではないかと思うのですが。それが本音であるならば。
 

【本】株主総会と投票の実務―総会での決戦投票に備えて「出席票一体型の投票券」と「アクリル製の透明な投票箱」は早めに発注しておくべし

 
私が誇りにしているこれまでのキャリアの一つに、株主総会の準備・運営業務経験があります。

・招集通知、参考書類、議決権行使書といった文書の準備
はもちろんのこと、
・総会のシナリオを作成し、
・議場をおさえてイベント業者に発注して会場設営し、
・係りを社員に割り振ってレクチャーし、
・株主総会当日は運営事務局として議長の後ろで
 顧問弁護士と一緒に議事進行を管理しつつ、
・株主からの質問に回答する社長・役員向けにカンニング
 ペーパーを書画カメラを使ってモニターに映し出す
ところまで、なんでもやってました。

会社法知識を中心とした専門性と調整能力の両方を求められる難易度の高い仕事という自負があったのですが、転職活動していてもこのキャリアはまったく売り物になりませんでした。これは意外でしたね。
まあ、売り物にはならなくても、プロジェクトマネジメントの難しさ・コツを学ばせてもらった仕事であり、また法的な責任も伴う大きなイベントを無事にやり遂げたという自信にもつながる仕事でしたので、私の中の誇りには変わりはないのですが。

非上場会社に転職してからというもの、こういう“総会屋”的仕事はなくなってしまい、この時期のリアルな緊張感こそ味わえなくなってしまったわけですが、最低限の知識のアップデートはしようと、この季節になると会社法や株主総会関係の本を読むようにしてます。

そんな中でも、株主総会の変化を的確に捉えたいい本がでていたので、是非ご紹介を。

株主総会と投票の実務




拍手や発声で決議することの法的解釈

法務でない方でも、株主総会に一度でも出たことがあれば、違和感を感じたことがあるはず。

形式的に議場に諮っているだけの、拍手や「異議なーし」という発声による白々しい意思表示で淡淡と議案が決議されていく、あの異様な会議の姿に。

この拍手や発声をもって決議とみなすことのアバウトさに関する法的解釈について、はっきりと文字で書かれたものを見たのは、この本がはじめてかも。
会社に提出された包括委任状と出席する役員等の議決権数を加えれば、通常は、議案の成立に必要な議決権数は確保される見通しが立つため、総会上で、出席株主の議決権数をいちいち確認することはせず、拍手等のアバウトな方法で済ませているわけである。拍手等の持つ意味は、大株主(またはその代理人)等の賛否の確認と多数の賛成を得たという外観を得るためという程度にすぎない。

ちなみに、私が事務局にいたときは、議長に「最前列向かって左側に座る大株主5名の意思表示をもって賛成多数が確認されますので、視線を送ってきちんと確認した上でシナリオをすすめてください」と念を押していました。

前職の総会も株主の皆さんにとっては“白々しい会議”ではあったのでしょうが、裏方はかなり真剣に“法的に無効と言われない会議”になるように気を配ってたりするんですよ。


そろそろ投票の準備もしておきますか

そんな白々しい「シャンシャン総会」が当たり前だった日本でも、最近では持合いの解消や株主の権利行使意識の高まりから、議案の成立に必要な議決権数が確保できるかどうかが当日まで定かにならず、投票を行うケースも増えてきています。

商事法務研究会編『株主総会白書2008年版』によれば、3社が投票を実施したとのこと。こうなってくると、総会を運営する会社側としては、当日の“決戦投票”の準備は、しておいてもしすぎることはないでしょう。

株主総会における投票の方法には、大きく分けて
1)挙手(起立)
2)書面
3)電磁的方法
の3つがあるわけですが、議決権カウントの正確さと準備の簡便さのバランスから2)の書面投票が一番適切ということで、この本ではこの書面投票を中心に、具体的準備の方法が述べられます。

ここからは、元三菱UFJ信託で証券代行の視点から総会実務を知り尽くした著者中西敏和さんの強みが最大限発揮される部分。
必要な文書の準備から、受付事務、集計事務、採決に至るまでの法的ポイントを細かくフォローしてくれます。

投票の実践にあたり、特に前もって準備しておいたほうがよさそうなのが、
・出席票と一体化した投票券
・アクリル製の透明の投票箱
の2つ。
後のものは直前でもなんとか間に合いそうですが、この2つだけは前もってどこかに発注して作ってもらう必要ありと思われるので、早めのご検討を。

今年は大丈夫そうだけど、来年あたり議案によっては議決権行使の雲行きが読めないかも・・・という将来の不安を抱えている会社の担当者さんにも、会社法知識の整理とあわせて、安心のためのお守りとしてオススメします。

【本】会社法マスター115講座―インターネット+この本で、濃ゆーい会社法セミナーが受講できます

 
そろそろ総会シーズン真っ盛りですし、会社法の本を取り上げておきましょうか。


この本をテキストにした著者葉玉先生ご自身によるインターネット講義が、出版社が開設している特設ページで見られちゃうところが、この本の最大のウリ

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この本自体は、会社法1テーマを1ページ+図表1〜3ページで見開きで整理したもの。なので、この本で会社法を一から勉強するというよりは、基本書や実務を通して勉強する中でぐちゃぐちゃになってしまった頭の中の知識を、すっきり整理するための本といった感じ。

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そういう使い方だけでも十分この本の価値はあります。けれども、上記で紹介したインターネット講義とこの本を組み合わせると、初学者でも会社法をきちんと理解できる、濃ゆーい有料の法務セミナーを受けているような充実感に襲われること請け合いなのです。

まだ2回分のコンテンツしか公開されていないのですが、1回あたり2時間/全10回に渡って会社法の背景とポイントを講義してくれます。
※どうやら、この講義は将来的にはDVDで販売されるみたいです。

これからは、こういった社会人向けのセミナーも自宅で手軽に受講できる時代になっていくんでしょうね。

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中村弁護士が指摘する会社法対応要注意点

昨年12月に行われた、中村直人弁護士の会社法実務対応に関する講演録を読み直しています。

彼が指摘していた影響の大きい会社法対応の実務ポイントのうち、上場会社・大会社担当者がつい対応を忘れてしまいそうな点を参考までにご紹介します。

‘睇統制システム構築
 取締役会決議の期限は、5月の最初に開催される
 取締役会終結の時迄(整備法経過措置令14条)。
 自社はもちろんのこと、グループの連結対象子会社
 の内部統制システムも定める必要あり。

定款変更
 5月の新法施行後〜6月の総会までの間は会社法
 施行時にみなし規程で定款が変更されることになる
 が、そのみなし変更については説明文書を渡せる
 ようにしておかないとダメ(整備法77条)。

7荵燦告
 有報を出している会社は、決算公告が不要になる
 (会社法440条4項)。

ぜ萃役会・監査役会規程の変更
 5月には取締役会・監査役会規程も変更必要
 (付議事項の変更、取締役会の報告の省略、書
 面決議、etc)。

コ式取扱規程の変更
 名義書換代理人→株主名簿管理人に名称変更
 (但し株懇の雛型待ち)。

Τ主の権利行使に関する規程の制定
 旧商法では株主が権利に基づく請求をする場合
 に「書面」での請求を義務づけていたが、会社法
 では「書面」が削除された。
 →書面で請求せよという規程を作らないと口頭・
 メールなどで請求され捌けなくなるおそれあり。

端株会社としての対応
 単元株制度に移行しない会社について、株主名
 簿は株主名簿管理人に名称変更となる一方、端
 株原簿は名義書換代理人という形でそれぞれ別
 々の名称で登記。

,離哀襦璽弉饉丗弍は現時点で対応できていない会社は結構多いのではないでしょうか。今できてなければ今更間に合わないと思いますから、開きなおるしかないでしょう。

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誰でもわかる新会社法

蓮見 正純、六川 浩明/著、エクスメディア
価格:1,124円(税別)
評価:★★★★

最近、本屋へ行くとおよそ法務とは関係の無さそうなビジネスマンが新会社法の本を買い求められています。

雑誌でも特集がしばしば組まれていますし、「今度の改正は法務にお任せじゃすまされないらしい」「ビジネスマンとして常識」というような強迫観念すら感じている方もいらっしゃるようにお見受けします。

法律系出版社各社も、これを商機に色々な新会社法解説本を出しています。しかしその中には本の半分近くが条文の掲載だったりする悪本もかなり多いです。

どれを買ったらいいのかという問い合わせが法務にも来ますが、私がお薦めしているのはこの本です。法律系出版社ではなく、WordなどPCアプリケーションの解説本を出している出版社が作った本なので、選ぶときには抵抗を覚えますが、
・全体の構成
・見開き2ページ単位での要点の纏め方
・フルカラーの図表
・価格
などの点で、本日現在発売されている新会社法の解説本の中では群を抜いていいです。

どこかの法律事務所に監修させたら爆発的ヒットしただろうにと思います。

株主総会のポイント 株式実務 株主総会の重要ポイント、判例、参考書式を平易に解説!

中央三井信託銀行証券代行部/編 中央三井信託銀行証券代行部法務グループ/編著、財経詳報社
価格:3,465円
評価:★★★★

株主総会実務担当者向けのオススメ本。

特に総会の進行台本を作成するにあたって、一括/個別審議、株主からの突発的な動議のさばき方など、いろいろなシチュエーション・パターンのシナリオがシンプルに整理されています。

議場解任動議が提出されるなど、議場が荒れた場合に合法的に対処できるよう取得しておくべき大株主からの委任状のサンプル書式なども豊富です。

また、昨年の改訂版から総会にまつわる訴訟の判例も整理され、ますます一覧性が高まり使いやすくなっています。

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