企業法務マンサバイバル

ビジネス法務に関する本・トピックのご紹介を通して、サバイバルな時代を生きる皆様に貢献するブログ。

_クレーム・トラブル対応

【本】『サイト別 ネット中傷・炎上対応マニュアル』― 企業にとっては名誉権が頼みの綱


法律事務所アルシエン 清水陽平先生のご著書。同事務所では、インターネット上の誹謗中傷・炎上対策を数多く扱い、2014年にはTwitterやFacebookに対して日本初となる開示請求事案も担当されたそうです。





本書全体の見取り図ともいうべき図表がこちら。本書冒頭で紹介される10の事例に照らし、表見出しに記載されている4つの要件、すなわち
 要件 ‘営蟆椎柔があること
 要件◆仝⇒侵害性があること
 要件 違法性阻却事由がないこと
 要件ぁ ̄蠑絏椎柔がないこと
に当てはめながら、削除依頼および発信者開示請求ができるか・すべきかどうかを考えていく構成となっています。

s-IMG_4945


法律上もっとも問題となる要件△痢峺⇒侵害性」を考えるにあたって、本書では、その根拠となる権利を以下の7項目として整理しています。あくまで名誉権が中心であり、それ以外の権利は結局のところあまり使えないケースが多いということが、クリアに分かります。

(1)名誉権:◯ 
   違法性阻却事由がなければ法人にも認められる
(2)名誉感情:△ 
   看過し難い&明確&程度が甚だしければ認められる、ただし法人は×
(3)プライバシー権:△ 
   プライバシーとして認められる範囲は広がりつつある、ただし法人は× 
(4)肖像権(パブリシティ権):△ 
   公開拒絶権という意味ではプライバシー権とあまり変わらない
(5)著作権:△ 
   ネット(公衆送信)では私的使用の複製は認められないが、引用は主張されうる 
(6)商標権:△ 
   商品やサービス名を挙げて批判・中傷されても、それ自体は商標権侵害とはならない 
(7)不正競争防止法:△ 
   秘密管理性等要件を満たさない場合がほとんど 


個別サイト対応のマニュアルパートについては、本書全230ページのうち約120ページあまりを割いて、30の代表的なウェブサイトおよびサービスについて、それぞれの企業の削除・開示請求への対応スタンス、請求画面への辿り着き方、フォームの書き方をスクリーンショットを交えて具体的な対応方法を紹介しています。2ちゃんねるはもちろん、みん就、ニコ動、Yahoo!知恵袋、Ameba、LINE、さらには外国勢のtwitter、Facebook、Google、Amazonにいたるまで幅広くカバー。

例えば、「FC2」や「みん就」の削除請求フォームとその書き方については、こんな感じだそうです。フォームが載っているだけでなくて、そこにどのくらいの細かさ・ボリュームで記入すべきかが具体的に分かるのがいいですね。

s-IMG_4946s-IMG_4955

 
過去弊ブログでも紹介した、法律実務家向けに書かれた類書として、『インターネットにおける誹謗中傷法的対策マニュアル』があります。あちらと比較すると、まず問題を評価し、対応を取るかスルーするかを判断し、ネット上で行いうる一次対応を取るまでのスピードを要求される企業法務パーソン向けに、ちょうどよくチューニングされている本になっていると思います。
 

【本】企業法務のFirst Aid Kit 問題発生時の初動対応 ― 法務パーソンとしてのトラブル・事件対応経験値をチェックする

 
田辺総合法律事務所のY先生、そしてレクシスネクシスのO様より1冊ずつご恵贈頂きました。自宅用と会社用それぞれ大切に使わせていただこうと思います。





First Aid Kitとは「救急箱」のこと。トラブル・事件が発生してから(お医者様にあたる)弁護士に相談に行くまでの間に、企業法務パーソンがなすべきファーストアクションの部分“だけ”を、計81のCASEをもとに解説するという、非常にチャレンジングなコンセプトで作られた本。

s-IMG_4304s-IMG_4305


失礼ながら、コンセプト倒れになってるんじゃないかという懸念を抱きながら読み始めたのですが、その予想は良い意味でハズれました。この本で想定されているCASEが、自分自身が法務として実際に初動対応にあたった経験があるものだったり、知人の所属企業がそれに遭遇して「人ごととは思えない」「自分が彼・彼女の会社の法務だったらどう対応しただろうか」と考えたことがあった、現実味のあるCASEにきっちりフォーカスしているからでしょう。

s-IMG_4302s-IMG_4303


一貫して「生兵法は怪我の元。できるだけ早く専門の弁護士に相談すべきである」という結論をぶらしていないのもすごい。こうまで徹底的に書かれると、なんだか「企業内の法務部門なんて初動対応するのがせいぜい」と言われてしまっているような気もしないでもないのですが(苦笑)、自分のここ数年の考えとしても、やはり大きな案件では躊躇せずにその道の一線級のプロに最初から相談するのが正解と思うことが多いので、特に異論を申し上げることもございません。


法務部門が設置されているような規模の企業であれば、買って本棚においておけば、ボヤも含めて1年に1〜2回ぐらいはこれを紐解いて初動対応を確認する機会に遭遇する、つまりこの本が役立つことはあると思いますが、それだけでなく、法務パーソンが法律分野ごとの自分の「法務経験値」を測ったり振り返ったりするのにも使えるんじゃないかと思いました。この本の目次でCASEを読みながら、実際に自分が法務として対応を経験したことのあるトラブル・事件が何%あるかをチェックしてみるのです。恥ずかしながら、私の経験値も【 】で書き出してみると・・・、

 第1章 企業不祥事・刑事事件対応【2/7】
 第2章 M&A、株主対応、コーポレートガバナンス【7/17】
 第3章 知的財産権【7/11】
 第4章 労働法【10/17】
 第5章 独禁法【2/5】
 第6章 債権管理・債務整理【7/8】
 第7〜12章 IT法、不動産、環境法、渉外案件、反社会的勢力、その他【6/16】
 
私でもざっくり半分ぐらいは遭遇してきたということなので、おそらく、上場企業で企業法務を20年ぐらい務められていれば、80%近くは経験されているんじゃないでしょうか。企業不祥事・刑事事件の実対応経験が少ないのは、ハッピーなことではある一方で、自分でも意外だったのが、2章の会社法分野のトラブル・事件の実対応経験が自己認識ほど高くなかったこと。座学は積んでいても、実際の異常事態には遭遇してこなかったんだなー、と。なお、上記で7〜12章をまるっとまとめてカウントしているのは各論だからということもあるのですが、ある章で満点を取ってしまってまして、それをここに書くのが憚られたからです(笑)。
 

さらに応用的な使い方として、法務パーソンの採用面接で口頭試問の問題として使うのもありかもしれませんね。
 

【本】クレーム対応の「超」基本エッセンス ― 「誠意を見せろ!」は“要求”ではなく“意見”です


レクシスネクシスのI様よりご恵贈いただきました。ありがとうございます。お手紙には「はっしーさんのお仕事にはあまり関係ないかもしれませんが」と添えられていましたが、そんなことないです!BtoCビジネスですので、日々クレーム対応の仕事もやっております・・・。





この本を一言で評すれば、数あるクレーム対応本の中でも、最も「丁寧に」「根気強く」書かれた本だと思います。

クレーム対応において大切にしなければならないこと・守らなければならない原則は、ほんとうはそれほど多くありません。ではなぜ難しい仕事のように感じるのか?なぜ面倒な仕事と捉えられているのか?それは、クレームの切り口・内容・表現方法・要求が、お客様によってあまりに千差万別なために、対応のたびに臨機応変さや応用力が求められるからだと思います。この本の特徴は、その大切にしなければならないこと・守らなければならない原則を見開き2枚でシンプルな「鉄壁の5ケ条」にまとめたうえで、

s-IMG_2901

この鉄壁の5ケ条の具体的運用方法について、具体的なシチュエーションに対する対応の要諦を圧倒的文字量で紹介し、図表にすっきりとまとめて丁寧に解説する本文の厚みとの、コンビネーションにあります。

特に第4条のお客様の「話」を
1.事実
2.不満
3.意見
4.要求
上記4つの要素に分解し、その要素ごとに対処を考える、というところは、混乱しがちなクレーム対応をスッキリと整理してくれるフレームワークだと思います。

たとえば、クレーマーの常套句に、「誠意を見せろ!」というものがあります。著者エス・ピー・ネットワークさんのセミナーでクレーム担当者にアンケートをとると、これを「4.要求」と捉えてしまいがちなのだそうです。しかし、これを要求と捉えてしまうと、(相手が要求の内容を明示していない謎かけ問答になっているだけに)余計対応が混乱すると。そうではなく、当社としての意思・姿勢を表明する場面であると解説します。とてもスッキリしますね。

s-IMG_2902


話は逸れますが、クレーム対応で「誠意を見せろ!」が出てくるたびに、北の国からのこのシーン、「誠意って、何かね?」を思い出すのは、私だけではないはずです。

seiittenanikane


また、その長さゆえブログでは魅力を伝えきれないのが残念ですが、第1部第2章の「代表的な不当要求への対応例」や、第2部事例編の「クレーム対応・実践ケーススタディ」などは、クレームがヘビークレームに発展していく様子が本当にリアルに描写されていて、ここは読んでいてゾクゾクしました。

鉄壁の5ケ条を起点にして、文字による丁寧な解説→図表によるまとめ→事例を通した運用実例で具体的運用イメージを植え付け、そしてまた鉄壁の5ケ条に立ち戻って整理するという解説サイクルが、一つの本の中で何度も徹底的に繰り返されていて、読み通すことによっていやがおうにも鉄壁の5ケ条が身体に染み付くように編集されようとした意図を感じました。ともすればベテラン弁護士が、「法的にはこれはだめ」というNG例のみをことさら強調した後、結局「俺に任せておけば大丈夫」的なノリだけで書いている鼻持ちならない本ばかりが多数出版されている中で、クレーム対応チームにシンプルで揺るぎない対応理論を打ち立ててくれる、良い教育書だと思います。
 

【本】インターネットにおける誹謗中傷法的対策マニュアル ― ネットでの企業いじめに泣き寝入りしないために

 
企業の立場から、自社に対する営業妨害や嫌がらせを目的としたインターネット上での誹謗中傷にどう対処するかのノウハウを、あますところなく伝えてくれる実用書。





ネット上の書き込みに対して企業がどのような法理論で対抗しうるかという本はあっても、では具体的にどのように手続きをすればよいかは言及がなかったり、反対に、プロバイダ責任法等を活用した削除請求等の具体的対処法がまとめられていても、視点があくまで個人の名誉・プライバシーを回復することに特化したものだったりと、その法理論と具体的対処の両方を企業目線だけに立って一気通貫で一冊にまとめてくれている本は無かったと思います。いや私が知らないだけで有るのかもしれませんが、この本まで具体的には書かれていないでしょう。

フローが整理され、

s-IMG_2804


各種申立て書式の記載例・訴状サンプル等が掲載されているのはもちろんのこと、

s-IMG_2809


・2ちゃんねるを相手に削除請求する際のシンガポールでの登記簿の取得方法
・削除請求前の証拠保全の方法(印刷/スクリーンショットにはURLがすべて入ってないと無意味)
・仮処分手続き当日の裁判所での持ち物リスト
・裁判所と発生するやりとり
・所要時間(午前11時までに書類提出・供託が完了すれば、当日午後4時に仮処分発令)
といった細かいところまで、弁護士である筆者の実務経験を披露するかたちでレポートされています。順序や理論はわかっていてもやってみなければ知りえない、まさしくノウハウがこの本にはすべて公開されています。


本書冒頭でもネットデマや誹謗中傷に苦しめられた有名文具会社や不動産会社の事件が紹介されていますが、これは他人ごとではありません。実際、私の所属組織も、インターネットメディア上に掲載されていた記事を読んだある識者および複数の自称識者が「これは◯◯社(私の所属組織)のことだろう」とSNSに一方的に推測に基づく批判を書き込まれ、その結果
「あの会社がそんなことをしているとは思わなかった」
「他のユーザーは知っているのだろうか?拡散キボンヌ」
「もうあの会社のサービスを使うのをやめよう」
と、ユーザーや一般消費者にネガティブな印象と拒絶感情を広められるなど、現実の被害を被った経験があります。

私も私なりに、ネット上で所属組織に関するネガティブな投稿がなされた際にアラートが立つような仕組みは構築してますので、すぐに当該書き込みに気付き、とあるルートを通じ情報の出元にアクセスし、初期段階で拡散をくい止めることができたものの(とはいえ拡散分含め書き込みは現存しており、被害はあると認識)、日本人的な「強きをくじき弱きを助ける」気質も手伝って、事実確認もなしににそういったデマ・噂・誹謗中傷が簡単に拡散していくさまを目の当たりにしました。

本当に事実無根のデマ・噂・誹謗中傷であれば、企業だからと泣き寝入りせず法的に厳しく対処することも検討しなければと、対抗手段について調査し情報を集めていたところに、この本が丁度よく発売されて助かったという次第です。
 

法務マンが教える安全かつ外国人にも受け入れられやすい英文お詫び状の書き方

 
ウェブサービス業は、製造業等と違いグローバルに打って出るのが容易なのと引き換えに、サービスを立ち上げたばかりのベンチャー期からグローバルな顧客対応を求められる宿命にあります。そういった企業の法務部門には、外国の個人顧客宛に英文で書くお詫び状に関する相談がくるようになるはずです。

それで思い出したんですが、1年半前ぐらいに、(日本語での)お詫び状の書き方に関する私なりのノウハウをブログでご紹介したことがありました。

法務マンが教える安全なお詫び状の書き方
お詫び状は、

1)お詫びの言葉
2)経緯
3)原因(再発防止が可能なら再発防止策)
4)改めてお詫びと許容の依頼(補償する場合はその内容)

この様な構成で書くのが通常ですが、3において発生した事象の原因をどのように分析するかが最大のポイント
そもそも防ぎようがなかったことについてだけはお詫びしない
「できるだけお詫びをしないようにする」のではなく、発生した事故が防げたものなのか/防ぎようは無かったのかという<原因>をきちんと意識・分析した上で、<お詫びと許容の依頼>に書く内容を決める

相手が外国人であっても、基本的にはこのフレームワークの通りで問題ないのですが、英文、とくにアメリカ的サービスであるApple、AmazonそしてZappos等のカスタマー対応メールを見ていて感じる特徴は、日本のようなお詫びにはじまりお詫びに終わる“しおらしい”・“へりくだった”対応では決してないという点です。どちらかというと「頼り甲斐のある雰囲気」「肯定的なトーン」の演出に骨を砕いていて、それが上手な会社が顧客に受け入れられていると思います。以前このブログでご紹介したZapposの個人情報漏洩事故の際のカスタマーへの対応メールはこの典型と言ってよい実例ですが、実際あの後問題が拗れたとかZapposの評判が落ちたという話は聞きません。これがいわゆる文化の違いというものなのでしょう。


ここで、最近書店で見つけて重宝しているこの本のP90〜92から、カスタマーへの返答例文を一つ引用させていただいて、どのような言い回しを使えば「頼り甲斐のある雰囲気」「肯定的なトーン」を演出できるのかを見てみたいと思います。シチュエーションは、ウェブサイトで注文した商品が届かないというクレームに対するお詫びメールです。


カスタマーサービスの英語――お客様の苦情・要求にはこう対応したい!カスタマーサービスの英語――お客様の苦情・要求にはこう対応したい!
著者:ロッシェル・カップ
販売元:研究社
(2012-08-25)
販売元:Amazon.co.jp


Dear Ms, Amani,

Thank you for getting in touch(1) and we're very sorry that you have not yet received your order.

I have done some research(2), and would like to let you know that the order left our facility via DHL on January 9th. Normally, DHL shipments would arrive at your location within two weeks, but since it has been longer than that I'm glad that you let us know about it(3).

I am currently following up(4) with DHL in order to get more information from them on the whereabouts of your shipment. They told me that it may take up to three days to do a thorough trace and search. I will get back to you as soon as I have some concrete information from them.

Thank you for your patience, and I'm very sorry for this inconvinience. We do appreciate your business, and are looking forward to getting your shipment to you(5).

Sincerely,

Naoki Saito
Shipping Clerk
 ※下線は私が勝手に付けてます。

いかがでしょうか。日本語同様【1)お詫びの言葉 → 2)経緯 →3)原因 → 4)改めてお詫びと許容の依頼 】のお詫びフレームワークはしっかりと守られていますね。
その一方で決定的に異なるのは、日本語では「申し訳ございません。DHLに調査を依頼し、所在判明次第報告の上再手配をいたします。ご不便をおかけし恐れ入りますが、お時間を頂戴したく存じます。」のように、平謝りモードになるところを、
  1. (2)(4)の "have done" "I am currently -ing" のような表現で、責任をもって能動的に調査・対応を遂行していることを強調し、
  2. (1)(3)(5)のように、"very sorry" とお詫びしつつも "Thank you" "be glad"を強く打ち出した言い回しを用い、クレームを下さったことにさわやかな“感謝”で返してしまう
という点、トーンの違いがはっきりと見て取れるのではないでしょうか。

なお、今回引用させたいただいたこの本では、
Chapter 1 お詫びが必要でない場合
Chapter 2 すぐに返答できない場合
Chapter 3 こちらに非があるが、すぐに解決できない場合
Chapter 4 お詫びして、対策を提示する場合
Chapter 5 顧客の要望に応えられない場合
Chapter 6 再度要求を断る場合
というケースに分けて、お詫びフレームワークに忠実に、
・電話対応を想定したSpeaking Example
・メール・レター対応を想定したWriting Example
にそれぞれについて2例ずつ応答例文が載っていて、大変参考になります。

s-IMG_0384


こう書けば必ず許してくれるというワケではもちろんありませんが、日本語のお詫び文を直訳したものとは全く異なるということ、顧客が返事に期待するトーンに文化的な違いがあるということは、覚えておいて損はないかと思います。
 

法務マンが教える安全なお詫び状の書き方

 
BtoBの法務をやっている間は滅多に無かったのに、BtoCの会社に転職してドッと増えたのが、お客様に対するお詫び状を作成・レビューする量。
iStock_000014293061XSmall

法人相手だと上司が面会して謝罪すれば済むようなトラブルも、個人が相手となると、企業間と違い継続的な取引関係を前提とせず、個人は企業に対して圧倒的弱者であるというやり場のない被害者意識とが相まって、面会よりも文書での謝罪を要求されるケースが多くなるのだと思います。

お詫び状というのは、まだ紛争状態にない相手に提示する契約書と違って、すでに怒らせている相手に出す文書なわけですから、実は最も緊張度の高い法律文書だったりします。それだけに、慣れない人が書こうとすると
「お詫びすると否を認めたことになって損害賠償とか要求されるから、たぶん『申し訳ございません』って書いちゃいけないんだよな・・・」
などと悩み出し、お詫び状なのにお詫びの言葉が全く入っていない意味不明な文書ができあがったり(笑)。果ては法務パーソンまでもが
「お詫び文書は書いた瞬間に法的責任が発生するから一切出すな」
と言っている会社もあったり・・・。

しかし、私のこれまでの経験から、お詫び状にはここさえ理解して書けば不安にならずに書けるようになる法則が一つあると思っています。それは、そもそも防ぎようがなかったことについてだけはお詫びしないように気をつける、というものです。


お詫び状は、

1)お詫びの言葉
2)経緯
3)原因(再発防止が可能なら再発防止策)
4)改めてお詫びと許容の依頼(補償する場合はその内容)

この様な構成で書くのが通常ですが、3において発生した事象の原因をどのように分析するかが最大のポイント。

例えば、業務において通常払うべき注意をしていれば防げた事故なのであれば、反省とともに再発防止策について述べ、なんらかの補償を提案した上でお詫びをすることになります。一方で、そもそも防ぎようがなかった事故なのであれば、結果として掛けたご迷惑に関してお詫びの言葉は述べるものの、会社として負うべき責任の範囲外であり補償はできないことをはっきり併せ述べます。何について謝っているのかを分析せず、中途半端に謝るだけ謝ってみたり、できもしない再発防止策を口だけで述べたり、逆に原因分析もろくにせずに結果的に何に対しても謝っていないニセのお詫び状を書いたのでは、お客様にも見透かされ、かえって怒りを増長するだけです。

「できるだけお詫びをしないようにする」のではなく、発生した事故が防げたものなのか/防ぎようは無かったのかという<原因>をきちんと意識・分析した上で、<お詫びと許容の依頼>に書く内容を決める。これを法務パーソンの方向けに法律の言葉で法的に説明すれば、会社として負うべき責任の範囲か否かの判断にあたって、①善管注意義務を果たしていたか、②不法行為責任はないか(故意・過失がなかったかを中心に)の2つを丁寧に確認し、これらを踏まえて謝罪によって発生する法的効果を見極めて文書を書く、ということになるでしょうか。
 
もちろん、善管注意義務の範囲外かどうかや、故意・過失が無かったと言い切れるかどうかは、非常に微妙な判断を伴うものです。自社に責任無しと確信できない微妙な案件は、弁護士にも客観的な意見を貰った上で文書化することもお忘れなく。
 

【本】慰謝料算定の実務―非財産的損害に対する慰謝料の相場は、100万円がいいところという現実を知れ

 
千葉県弁護士会が、慰謝料をテーマに価値ある資料をまとめて下さっています。

慰謝料算定の実務



死傷事故でもなければせいぜい100万円

個人相手のサービスをしていれば、お客様に対して迷惑・損害をおかけする不幸な事故やミスは発生します。そのミスに対し、容赦なく慰謝料を請求されるお客様もいらっしゃいます。

その慰謝料の相場とは、いかほどなのか。

男女関係、名誉毀損・プライバシー、医療、相隣関係・公害、労働・・・と、14種類の紛争類型ごとに裁判例を一覧表にまとめたうえで各裁判例を検証し、慰謝料額の決定要因にみられる法則を洗い出そうという試み。

裁判所における慰謝料の算定にあたって、特に死傷を伴う事案においては交通事故慰謝料算定のスタンダードとなっている通称「赤い本」(東京三弁護士会交通事故処理委員会による『民事交通事故訴訟・損害賠償額算定基準』)や「青い本」(日弁連交通事故相談センターによる『交通事故損害額算定基準』)によって立つところが大きいと言われています。

一方で、
人格権等の非財産的損害の場合については極めて低額である。離婚事件、名誉については、その社会的地位等によって高額な慰謝料が認められる場合もあるが、多くの場合、このように非財産的損害について、高額な慰謝料が認められることは無く、精神的損害として100万円を下るような低額な慰謝料しか認められない
(同書P10より)というのが日本の慰謝料の現実。

死傷事故損害は「赤い本」に右へならえ、そのような基準が定まっていない分野の損害は算定しようがないから総じて軽視、というように見える裁判実務の判断基準に批判的な立場も表明しながら、今後の展望を述べます。

個人のお客様を相手にするご商売にたずさわる方は、現実の相場観を知るための資料として価値ある本ではないでしょうか。

【本】プロ法律家のクレーマー対応術―従業員の心身を守るための弁護士起用


東京商工リサーチの顧問も勤める横山雅文弁護士によるクレーマー対応術。


以前ご紹介した『企業のためのクレーム処理と悪質クレーマーへの対応』が、あくまでも法律論を踏み外さないスタンスであるのに対し、横山先生のこの本は、ご自身の経験則から導き出した“横山流豪腕クレーム処理法”といったテイストになっています。なので、法律で理論武装をしたい方というよりも、クレーム処理に毅然と立ち向かう勇気をもらいたい方向けの本、という印象です。

私が今勤務する会社でも、顧客対応の専門部署でも手に負えないクレーマーの対応を、横山先生にお願いするケースがあります。

クレーマー対応を嫌がる弁護士もいる中で、横山先生は臆することなく対応窓口役を引き受けて下さいます。
彼らは、顧客対企業という優位な立場を利用して不当要求を仕掛けているからです。そして、当然、彼らも法的には自己の要求が通らないことはわかっているので、弁護士と交渉すれば、引き下がらずを得ず、自己の有能感が傷つくことになるからです。
また、彼らは、弁護士が介入することによって、自分に何らかの法的手続きをとられることを非常に警戒します。
したがって、彼らによる企業に対する不当要求行為は、交渉窓口弁護士移管の通知を出すことでほぼ確実に収束します。

これだけ言い切られると、もう全部お任せしちゃおうという気にもなりますよね。

このように、横山先生が弁護士への移管を対応手段として強調されている背景には、クレーム対応する従業員の心身の保護に対する思いがあります。

実際に、クレーム処理ばかりをやっている部署の従業員は、精神的にきつく、また社内的にも逃げ場がありません。まさに最後の砦となってしまうがために、メンタルヘルスの問題も発生しかねないわけです。

そうならないためにも、コトが起こってからでなく、平常時からクレーマーの対応を引き受けてくれる弁護士とのパイプを作っておくことが重要だと思います。

「企業と人との新しい結びつき」の実現を目指して頑張ります。ご支援いただける方はこちらをクリック!(blogランキング)


【本】企業のためのクレーム処理と悪質クレーマーへの対応 改訂版−法律論をはずさないクレーム対処マニュアル


あくまでも法律論に忠実に、消費者クレーム・反社会的勢力にどう対応すべきかをシンプルに解説する良本。


クレーム対応に関する本は、たくさん出版されています。しかしそのどれもが「それはアンタだから対処できたナニワ節の世界でしょ・・・」と突っ込みたくなるような、精神論、小手先テクニック論、自慢話的なものばかり。法務パーソンに役立ちそうなものはあまりありません。

この本はあくまでベースの法律論を踏み外さず、経験談はアクセントとして冗長にならない程度に控えめにちりばめられています。著者は、商事法務主催のセミナーでクレームへの法的対応の講師を担当されている弁護士ですが、その内容を本にするにあたって、相当“シンプルイズベスト”にこだわって書かれたのではないかと推察します。
企業側に「法的責任」が認められる場合とは、原則として「過失」があり、かつ消費者が蒙った被害(損害)との間に「因果関係」が認められる場合である。
「過失」とは、「落ち度」のことである。「落ち度」があるとされるのは、企業側に消費者に損害を与えることを「予想」しながら(あるいは予想すべきであるのに)、これを「回避」しなかったからである。
「因果関係」の判断は(中略)、常識的にみて(一般的にみて)その原因からそのような結果が生じることが相当だと考えられる場合に限って因果関係を認めるのが法律の考え方である。
消費者から「損害を受けたので補償してほしい」と請求があった場合、企業側が検討すべき事項は、
,修發修眤山欧あるといえるのか
損害があるとしても企業側に過失(または欠陥)
  があるといえるか、
,鉢△箸隆屬冒蠹因果関係があるかどうか
の3点であり、かつそれぞれを区別して判断する必要がある。

ここまでわかりやすく噛み砕いてくれているので、法律知識のないクレーム対応の部署の方に、法的責任という言葉の刃を振りかざしてくるクレーマーに対してどう対処すればよいか、その基礎を理解してもらうテキストとしても十分使えるものになっています。


今の会社に転職してよかったなと思うことのひとつが、一般消費者とダイレクトに対峙する環境になったこと。前職は通信・放送のインフラ屋だったため、完全なBtoBで、クレーム対応といっても基本的に企業。個人クレーマーはたまにくる総会屋や株主ぐらいなものでした。

BtoCの世界に移って、ホント人間って自分勝手な要求してくるなーと実感しながら、それにどう対処すべきかを毎日学ぶことができています。

一方で意外だったのは、BtoCの世界では毎週のように個人から訴訟をけしかけられるのかと思っていたんですが、実際はほとんどなかったこと。
途中まで、「訴えてやる」「弁護士に相談している」と鼻息荒く脅しはかけてくるものの、実際に訴訟にまで持ち込まれるケースは少ないのが実態。もちろんクレーム対応をしている専門部署の腕がいいというのもありますが。

まだまだ、個人にとっては、訴訟はハードルが高いもののようです。

週3冊本を読む法務マンの本棚と書評を見たい方はこちらをクリック!(Booklogへのリンク)
記事検索
月別アーカイブ
プロフィール
Google