企業法務マンサバイバル

企業法務を中心とした法律に関する本・トピックのご紹介を通して、サバイバルな時代を生きるすべてのビジネスパーソンに貢献するブログ。

ロビイング

【映画】『女神の見えざる手(Miss Sloane)』― 天才ロビイストは肉を切らせて骨を断つ

 
先日、北周士先生主催のロビイング研究会に参加させていただき、その席で、風営法改正のロビイングをリードされたことで有名な齋藤貴弘先生とご挨拶をすることができました。

その齋藤先生がお勧めされていたこともあって、封切りまもなく見に行った映画がこちら。




建国の経緯を背景として合衆国憲法修正2条が国民に対し保障する、銃を保有し武装する権利。

これを規制しようとする側に立ち、全米ライフル協会をはじめとする強固な規制反対派と戦う女性天才ロビイスト、エリザベス・スローンの活躍を描くサスペンスムービーです。

ロビー活動は予見すること。
敵の動きを予測し、対策を考えること。

主人公スローン自身が映画冒頭から何度となく唱えるのが、このロビイストとしてのセオリー。銃規制キャンペーンの成功というプロジェクト目標に向かって、このセオリーに冷酷なまでに忠実に、プロとして仕事を遂行していく姿は、ビジネスパーソンであればまず間違いなく感化されてしまうはずです。

脚本は元英国弁護士のジョナサン・ペレラ氏、さらにパブリックアフェアーズ企業のグローバルパークグループがアドバイザーとして監修し、ロビイング業界の実態もリアルに描かれています。

主人公の強烈なキャラクター描写と、「シェイクスピア劇のよう」と評されるテンポの良いセリフ回しの連続。敵がTrump Card=切り札を使った後に自分の切り札を出す、「肉を切らせて骨を断つ」ようなスローンの手法はどこまで通用するのか?132分となかなかの長尺にも関わらず、純粋なエンターテインメントとして最後まで飽きずに楽しめる映画だと思います。


ロビイングなんて自分の住む世界からは縁遠くって・・・という方でも、ちょうど選挙が終わり、憲法改正の是非が論点となる時期が近づいた日本国民としては、コナーズ(元同僚ロビイストであり、敵)とスローン(主人公)のテレビ公開討論シーンで交わされるこのやりとりに、他人事ではない緊張を覚えるのではないでしょうか。



コナーズ:合衆国憲法は、時の試練に耐えた。決して揺らがぬ、完全無欠な権利を保証(劇中翻訳ママ)すべく起草されたものだ。あなたのような人々から国を守るためだ。憲法でケツを拭き、勝手な判断で書き換える。建国の父たちをバカにするつもりか。

スローン:完全無欠なものはない。憲法でさえも。
コナーズ:全購入者の身元確認は権利の侵害だ。“権利を侵してはならない”とある。

スローン:それは最も陳腐で貧弱な反論であって、論点なき者の言い分よ。

コナーズ:これは合衆国憲法だ。

スローン:もっと理性的な議論をすべきなのに—これでは不毛。 “憲法にある”では聖書や占いと同じ。知的レベルではまるで母親のスカートに隠れる臆病な子供と同じ。

 

【本】『ファイナンス法大全(上)〔全訂版〕』― 業法による規制に専門家はどう向き合うべきか


西村あさひ法律事務所の掘越先生・本柳先生よりご恵贈いただきました。ありがとうございます。





14年振りの改訂ということで、金融業界隈の方々はきっと首を長くしてお待ちになっていたのではないでしょうか。金融業界でない新興ベンチャーを転々としている私のような者にとっても、IPOやストックオプションの法務にはじまり近年では投資契約やファンド法などにも関わるようになってきた時代ですので、このあたりの規制を概観できる文献がアップデートされるのは大変ありがたいことです。


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業法の中でも最も法律が複雑に絡み合い、論点も枚挙に暇がないファイナンス分野。しかも本書は、中国・香港・シンガポールといったアジア金融マーケットの法律も出来る限りカバーしようという意気込みと相まって、この上巻だけで1200ページを超えるボリュームとなっています。さすがに各論点の詳細については本書脚注等で引用されるそれぞれの専門書に譲っている部分も少なくありませんが、それがかえって関連規制を概説するための必要最低限の情報量に留める効果をもたらし、その分野の専門書を読んでいても頭に入ってこなかった各法の骨子や規制にいたる背景が、かえって分かりやすく見えてくることと思います。

業法ならではの、明文化されていない監督官庁独自の運用ルールについても、
「筆者らにおいて金融庁に確認したところ、・・・記載が紛らわしかったかもしれないとのことであった」
「・・・を・・・とする方式もいずれも受理されているようである」
といった“実務”に即した言及が随所にあるところなどは、この分野の業法規制とその運用の恣意性に苦しむクライアントに寄り添ってサポートしてきた経験豊富な先生方が書かれていることを感じさせます。


そういった、業法の実務において交わされる当局との対話・対応の積み重ねの重要性について、序章に書かれたこの一節が、私の胸にチクリと刺さりました。

今日金融関連の規制は複雑かつ重層化して金融機関の自由な活動の足かせになっていることは事実であるが、規制そのものを問題視するのではなく、マーケットのニーズを十分に汲み取った予測可能性と実効性を備えた適切な規制であることこそが必要であるとの認識が必要であろう。あるべきファイナンス・ロイヤーの姿勢は、規制と向かい合い、当局との話し合いを積み重ね、あるべき方向と既存の法規制や法理が単純な論理の組立てでは相容れないときに、それを喝破する新たな解釈や論理を構築することであろう。(P14)

私の属する業界内で、とある規制が強化されようという動きが突如発生したときのこと。「自社は巻き込まれたくない」「ここは静かにしていたほうが目をつけられずに済むのでは」という思いから、多くの企業側関係者が当局とは距離を置いた姿勢をとる中で、私の知人が規制当事者の懐に飛び込み、自身が所属する会社のみならず業界団体をも巻き込んで交渉し、時に腹芸も交えながら、業界全体にとってプラスとなる落としどころを引き出していく姿を目の当たりにしました。それはまさに、規制を陰で批難するだけではなく向かい合って喝破していく渉外マンの姿でした。


近年、法務パーソンがそのキャリアを発展的に分岐させる道のひとつとして、ロビイングを含む官公庁や業界団体との渉外業務領域に注目が集まっているように感じています。そういったところに飛び込んで得たい結果を得るためには、情報収集力・人脈力・胆力もさることながら、このような「喝破する新たな解釈や論理を構築」するだけの緻密さを備えなければと、序章の一節に知人の行動を重ねながら考えています。
 

Googleの公共政策情報誌 『g-SPHERE』に 慶應の新保先生とヤフージャパンの別所氏が登場

 
Googleの方から、Google発の公共政策情報誌『g-SPHERE』をお分けいただきました。一般配布はされていない貴重な冊子とのこと。特別にこのブログでのご紹介をご快諾くださいましたので早速。


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バックナンバーとしていただいた2013.Octの創刊号ご挨拶を読むと、

インターネットの世界を最先端の技術で牽引することを自ら使命とするグーグルとしては、技術がもたらすそのような経済・文化・社会の変化についても常に広く視野を保ち、技術がよりよい社会を作っていくための諸条件を検討し、その結果を社会に還元していくことも同様に重要な任務と考えています。
インターネットと社会の接点に関わる様々なステークホルダーの方々と共同研究や情報交換・意見交換を行っており、その成果も社会とインターネットの在り方を考える上で非常に貴重な知見・経験となっています。こういった情報を少しでも日本の政府・学会・業界の方々と分かち合うために、この度不定期の政策情報誌『g-SPHERE』を創刊いたしました。

とあります。察しの良い方はお分かりかもしれませんが、昨年末ご紹介した『パブリック・アフェアーズ戦略』を、グーグルはこの日本においてもすでに実践している、というわけです。

私は、Googleという会社はAppleと違って、思想を自らの口で語って世の中を動かそうというよりは、誰もが使える便利なサービスをシンプルかつ洗練された形で提供することによって、結果的に行動ベースで世の中を変えてしまう、“無機質な革命者”というようなイメージを勝手に抱いていました。そのGoogleが、紙冊子という超ローテクな手段をあえて採用し(現段階ではまだウェブ上でも見られないそうです)、「私たちはこう思います」という意志を特定のステークホルダーに届けようとしていることに、まず驚きました。


最新号である2014.Feb号には、一昨日のNHK-WEBの記事も話題となっている今がまさに旬なお二人、慶応義塾大学の新保先生とヤフー株式会社の別所氏によるプライバシー対談が掲載されています。学会と産業界(しかもある種競合会社)の大御所を、このような一企業の広報誌に招いて対談させているところもすごいですが、本誌自体がある一定の知識と理解力のある読者層を想定しているとあって、一般紙よりもハイレベルな次元で、お二人が本当の意見交換をしている様子が伺えて、読み物としてかなり貴重なものとなっています。


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――日本のプライバシーないし個人情報に関する法制度は、イノベーションの阻害要因になっているとお考えですか。
新保 私は阻害しているとは思いません。その理由は、現行の個人情報保護制度は、それほど事業者にとって厳しい法律ではないからです。例えば「第三者提供の制限」については原則本人同意ではありますが、オプトアウト(規定の適用除外)の手続きで本人の同意なく提供できるからです。これは、おそらく日本と米国の金融サービス近代化法など一部の法律に限られます。ですから、例えば検索エンジンについて言えば、過去に著作権法によるイノベーションの阻害があったと思いますが、個人情報保護法について言えば、現行制度はイノベーションを阻害していません。もし阻害している面があるとすれば、いわゆるレピュテーションリスク(風評リスク)と言われる社会の非難に対する萎縮効果はあるでしょう。
別所 制度や仕組みの面からすると新保先生がおっしゃる通り、イノベーションの阻害はないと思います。ただ、実態面では制度設計通り、影響が出ずに済んでいるかというと、そうではないと思います。確かに多くの企業はレピュテーションリスクを意識しています。また、自分たちで法律を読み込んだ上で線引することができず、白黒はっきりさせられない企業も少なくないのが現状です。それが結果としてイノベーションの促進に影響していると言われる素地になっていると理解しています。

冒頭、こんなパンチの打ち合い(笑)からいきなりはじまったかと思えば、

別所 今の個人情報保護法は、いわゆる「個人情報」という記号を保護する法律で、プライバシーを保護する設計はされていません。現行の法律は記号がパブリックの要でありながら保護対象になっているのです。そこのところは非常にバランスが悪い。
一方で、プライバシーは公になっている情報に関して一定のバランスで自分の情報が秘匿されるべきというところから発達した概念です。そのバランスの取り方が制度設計に入れられるかが重要で、定義だけではバランスが取れませんから、そこは企業がきちんと考えて調整する必要があると考えています。

と、最近発言のたびにネット上で炎上を招きがちな別所さんのヤフージャパンとしての主張も、この対談だとクリアに言いたいことが伝わってきますし、また、マルチステークホルダープロセスを採用できるのか?という問いについて、

新保 これは国の考え方と私の考え方は違います。国の考え方は、民間の自主的取組みを尊重する形のマルチステークホルダープロセスではありません。なぜそうなるかというと、日本にはステークホルダーがマルチに存在しないからだと思います。そもそもステークホルダーが偏っていてバランスの取れた議論ができない。まずはマルチステークホルダープロセスを実現する前段階として、個人情報、プライバシー関連のステークホルダーをきちんと育てる。そこから始めない限り、今までのガイドラインの検討と変わらなくなってしまうと思います。

と、話しやすい媒体だからということもあるのか、いつもはいかにも学者然とした新保先生の物言いも率直かつ明快。とにかく、読んでいてスリリングかつ大変ためになるハイレベルな本音の対談になっていて、この対談記事だけでも参考になる方は多いのでは、という感想を持ちました。バックナンバーだけでも、ウェブで公開されるようになるといいですね。


私も、人づてにではありますが省庁の方に意見を聞いていただく機会が最近増えており、民間が困っていること・将来について不安に思っていることをどうしたらそういった方々にご理解いただけるかを考えるようになりました。私が所属する企業はまだまだ『g-SPHERE』のような大々的なアプローチを取る予算もなければ規模でもありませんが、このような民間サイドの動きに協調して、企業として伝えるべきことを伝えていきたいところです。また、私個人で言えば、このブログも微力ながらその一手段であれたらなとは思っていますので、そういう視点からの記事も少し意識して書いていきたいと考えています。
 

パブリック・アフェアーズ人材を目指す前に


まだ年内2週間あるのでフライング気味ですが、今年一年の仕事を振り返ると、今までとはひと味違う「渉外」業務に携わったことが特に印象に残っています。

前職の放送通信/人材サービスは、業法に基づく認可・届出や法的規制が明確化された業界でしたので、省庁対応も業界団体の中でのふるまい方もあまり戸惑うことはなく、「渉外」と呼べるほどの業務ではありませんでした。対して今いるエンタメ業界は、明確な業法規制がなく自由でありながら、“おイタ”をすると厳しいご注意をいただくという、難しい間合いの中での事業運営。業界団体の先輩方にトーン&マナーを伺いながら、某公聴会にお呼ばれして出席したり、自社で発生した問題について省庁に報告・相談に伺ったりと、まさに手探りの日々でした。

そんな中で、来年に向けてこの分野で何ができるか・何をすればいいのかについて、各企業で「渉外」「公共政策」を担当している方にお話を伺って勉強していたところに、@overbody_bizlaw 先生が「法律家によるルールメイキング関与の可能性はあるか??」を投稿してくださいました。ロビイングともPRとも違う、「公正・透明な方法で交渉し、合意を形成する」業務としてのパブリック・アフェアーズ。overbody先生とは、ブログの感想をお伝えしがてらお話しもしたのですが、

当該事業が法令上問題がないことを示すために、既存の法解釈を変えていく、またはこれまで議論のなかった曖昧な点を解釈で明らかにしていくことも当然含まれてくる。具体的なアクションとしては、まずは関係する行政当局にかかる立場の理解を求めていくのだろうし、最後のステップとしては裁判だろう。

この能力が求められる限り、法務パーソンがこの役割を担う必然性はあるだろうと、私も思っています。


一方で、先生もブログで紹介されている書籍『パブリック・アフェアーズ戦略』は、私がその役割を担わんとするにはまだまだ足りない要素を指摘してくれます。

パブリック・アフェアーズ戦略
西谷武夫
東洋経済新報社
2011-11-25


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役割として●がついているところを見ると、私は講演を求められることもなければ、書籍や論文の発表も(自分なりにはチャレンジしてきましたが)社会から専門性を評価されるレベルにはいたっていません。そして、やはり最も重要だなと思うのが、特定マスメディア・一般メディアを利用できるほどのメディアパワーを持っているかという点。こればかりは、自分の能力や経験だけでなく、自分が携わる事業に社会的意義が認められなければ持ち得ないのです。最近、同業他社最大手の渉外担当の方がマスメディアからたくさんの取材を受けていて、すごいなあと指をくわえて見ているのですが、それはやはり同社の事業が当業界において影響力を持っているからこそ。自分一人だけが専門性を高めてその道の有名人になって公共政策を唱えたところで、「馬耳東風」にスルーされるか、場合によっては「物言えば唇寒し秋の風」となることもあるかも。私の今の状況を鑑みるに、パブリック・アフェアーズを云々するより前に、自分が携わる事業がメディアパワーを持つぐらいの社会的意義を認めていただけるよう、目の前の事業サポートに集中するのが先と考え直した次第です。


法務パーソン×メディアパワーを持つ企業=パブリック・アフェアーズで思い出した話を最後に一つ。森・濱田松本法律事務所にいらした野口祐子先生が、なんとGoogle日本の法務に移籍されたそうです。弁護士会の登録も、すでにそのように変更されていました。ローレンス・レッシグに師事し、『デジタル時代の著作権』で未来の日本の著作権のあり方を具体的に提言され、日本におけるクリエイティブ・コモンズの普及活動を通じ若き知財関係者に多大な影響力を持つ野口先生。ご自身の思いを具体化するべく、今メディアパワーにおいて右に出るものはいない組織であるGoogleと「組んだ」ようにも見えます。Googleの法務としてだけでなく、IT業界知財パーソンの先駆者としての先生のますますのご活躍に、期待したいと思います。




 
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