企業法務マンサバイバル

企業法務を中心とした法律に関する本・トピックのご紹介を通して、サバイバルな時代を生きるすべてのビジネスパーソンに貢献するブログ。

仲裁

グローバル企業の利用規約が、一切の妥協を許さない水準を目指しはじめた

 
グローバル企業の利用規約をウォッチしていると、最近になって各社次のステージにレベルUPしてきたな、と感じます。


ひとつは、Appleのデベロッパー(アプリ開発者)向け規約の変化です。これまで、英語版一本槍で貫いてきたこの規約が、9月のiOS8リリースとともに改定されたバージョンから、ついに多言語対応となったのです。翻訳の品質はやや疑問符が残るところはありますが、お殿様のようなあのAppleが、消費者向けではないBtoBサービスに対してまで多言語対応のリーガルコストをかける覚悟を決めたことに、大きな時代の変化を感じます。

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そしてもう一つが、ハイヤー配車サービスのUberのユーザー向け利用規約。米国の弁護士も「非常に堅固」と唸ったという仲裁条項の分厚さを誇るUSAバージョンも見逃せないのですが、

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プルダウンメニューから「日本」バージョンを選択すると、なんと、英語版を日本語に訳した利用規約ではなく、法的にも完全に日本向け仕様にアレンジした利用規約が現れるのです。もちろん準拠法も潔く日本法となっていますし、仲裁法により消費者契約の仲裁合意は消費者から解除可能であることにも配慮して、東京地裁管轄の訴訟による解決と書き換えられているのには、本当に恐れ入ります。

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サービスは単一でも、利用規約は国ごとにオーダーメイドで作りなおす時代へ。日本の企業がやってしまいがちな、日本語の利用規約を英語に訳し、「ただし、正文は日本語とします」と注意書きしたものをグローバル版利用規約とするなんちゃってグローバル対応に甘んじていると、数年後には通用しなくなっている予感、というか悪寒がします。みなさん妥協という言葉を知らないというか、いやこれこそがあるべきリーガルサービスの水準というべきか。

これは大変な時代になってきました。
 

【本】アジア国際商事仲裁の実務 ― モデル事例によるサンドイッチで知識をおいしく頂く本

 
レクシスネクシスのI様よりご恵贈いただきました。いつもありがとうございます。『企業法務のセオリー』といい『クレーム対応の「超」基本エッセンス』といい、相変わらずいい仕事されてます。

6月20日の今日発売です。


アジア国際商事仲裁の実務 International Commercial Arbitration in ASIA
栗田 哲郎 (著, 編集), 吉田 武史 (著), 舘野 智洋 (著), 大森 裕一郎 (著)
レクシスネクシス・ジャパン
2014-06-20



まず800ページ弱という厚さにびっくり。子供の頃何度も読んだ藤子不二雄『まんが道』愛蔵版を彷彿とさせる手触り感です。先日ご紹介した『よくわかる国際商事仲裁』と比較するとこれだけの差!

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そして厚さだけ見ると辞書的な・味気のない本を想像されるかもしれませんが、そうなっていないところが編集のワザ。モデル事例でまず流れをイメージ → 体系的な概説 → 各国制度比較 → さらにリアルなモデル事例で紙上疑似体験しながらポイントを復習 → 資料編にリファレンス機能を集約、というボリューミィなクラブハウスサンドイッチ構造となっており、1)とっつきやすさと2)理解のしやすさと3)詳細な情報量の三位一体が実現された、見事な構成となっています。特に、モデル事例を一ヶ所にまとめるのでなくバンズの如く途中途中に織り込んだのが、この本を理解しやすいものにした一工夫だと思います。

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また、「筆者ら意見」「筆者らによる調査」等の責任限定表記が付いてはいるものの、条文・判例では必ずしも明らかでない事象に対する経験に基づいた見立てが積極的に表明されています。読者の「そこが知りたい」という欲求に応えて、相当踏み込んで持つ限りのノウハウを開示されようという姿勢で書かれていることが伝わってきます。

編著者がシンガポールの Rajah & Tann LLPにいらしたことで有名な(現在はベーカー&マッケンジー法律事務所在籍)栗田哲生先生でいらっしゃるので、シンガポールオンリーかと思いきや、タイトルのとおりきちんと韓国/中国/香港/台湾/インドネシア/タイ/フィリピン/ベトナム/マレーシア/インドそして日本の制度が網羅されてました。もちろん、それら各国の仲裁法や仲裁機関の特徴を一覧・比較できる表も文中・巻末にばっちりついています。このボリュームから推察するに、シンガポールにいらっしゃるころから自分のノウハウを書き溜めていらっしゃった、ということなのかもしれません。これだけのノウハウを開示してしまっていいんですかと驚きますが、経験を伴わなければマネはできない、という自信がおありなのでしょう。

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厚さだけでなくその内容・編集方針も良い意味で『よくわかる国際商事仲裁』とはまったく異なる本書。特に海外案件に携わることのある専門家としては、手元に置いておきたくなる本ではないでしょうか。
 

2015.9.18追記

本書専用ウェブサイトとして便利なリンク集がありました。

▼アジア国際商事仲裁の実務 専用ウェブサイト
http://lexisnexis.co.jp/ICAA/

【本】企業間紛争解決の鉄則20 ― タイトルに“国際”を入れなかったのはなぜだ

 
出版社さまに代わってお知らせします。この本、タイトルを「“国際”企業間紛争解決の鉄則20」とすべきところ、この2文字を落としてしまったようです。

と言いたくなるぐらい、しかしいい意味でタイトルから予想される内容と実際の中身が異なる本。


企業間紛争解決の鉄則20企業間紛争解決の鉄則20
著者:蘯菲Ч
販売元:中央経済社
(2012-09-20)
販売元:Amazon.co.jp



リアル書店で法律書を漁る時、中身だけでなくてはしがきにはかならず目を通します。まさにこの本は、はしがきを読んではじめて「あ、そういう本なんだ、きっと面白いに違いない」と期待できた本でした。タイトルだけみたら買わなかったと思います。

日頃私が担当している国際紛争案件について、主にその経験に基いて、ある意味、「思い切った独断」を「鉄則」の名のもとにあえてルールブックのような体裁で文章にまとめる機会を頂き、本書の形になりました。訴訟や仲裁などの紛争案件は国境をまたがった瞬間に、法律的・手続的な論点が生じ、各関連国の法的文化や法律実務家の考え方がぶつかりあったりします。そのため、本書に「鉄則」として書かせて頂いたノウハウ的なものは、あくまでも私の訴訟弁護士としての経験に基づく「鉄則の」の試みであり、普遍のルールとしてあらゆる事案に適合するものかどうかは、私や私が所属する訴訟チームを含めて、今後も常に検証し続けなければらないものと考えています。
私が目指したのは、アカデミックな学術論文や法律解説書ではなく、むしろ企業の法務部の方達がアンチョコ的参考書のように“つまみ食い”できるノウハウ本です。

法務パーソンが国際取引の契約書を書くときに最も重要と言っても過言ではない(この本の著者高取先生も、鉄則4として同じようにおっしゃっている)準拠法や裁判管轄の法理論については、以前ご紹介した道垣内先生の『国際契約実務のための予防法学 』が必読書ですが、この本は、あの本で述べられているような高級な法理論が実務でどう生かされ・もしくは回避されているのかも含めて、実例や仮想事例を交えて臨場感をもって解説されている点で、「副読書」のような存在といえるでしょう。

ネット上で無料で読めるレベルの弁護士さんの記事ですと、裁判と仲裁の制度メリデメ比較表をひととおり眺めさせて、あとはケースバイケースで考えてね、というオチで終わるところです。私自身も、少ない経験と知識から、執行力が担保できない裁判制度を安易に採用すべきではない、という結論を導きそうブログに書いたことがあるものの、絶対的な自信までは持ち合わせていませんでした。この本ではその点、豊富な国際訴訟経験をもとに「執行容易性は仲裁の重要なメリットとして再認識されるべき」と鉄則4および9ではっきりとおっしゃっています。また、鉄則11では、「フォーラム・ノン・コンビニエンス(いったん米国で係属した裁判手続を却下して日本の裁判所に持ち込むための法理論)」の生かし方まで触れられていて、このあたりの実務の話は他ではあまりお目にかからない・聞けないものだと思います。

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ところで、高取弁護士も鉄則として取り上げている話の中で、最近、私も複数の弁護士さんからやけに耳にするようになったのが、弁護士秘匿特権(attorney client privilege) の重要性についてです。簡単に言うと、米国裁判管轄となった場合に勝敗を大きく左右する「ディスカバリー(証拠開示制度)」において、弁護士との相談記録はconfidentialな事項として証拠開示を免れることができる、という特権のこと。米国での修行からお帰りになったばかりの先生や、以前お世話になった外国法事務弁護士の若手先生とお話をしている中で、「日本企業はとにかく弁護士を起用する初動が遅く、またメールに不用意な発言を残しがちな脇の甘さもあいまって、結果ディスカバリーでこちら側が不利になるメール等を証拠として相手に開示しなければならないはめになるリスクが放置されている」と、皆さん口をそろえておっしゃいます。そういえばこのあたり、だいぶ前からdtk’s blogさん知財渉外にてさんが問題意識を持たれているところなので、過去ログをご覧になると参考になると思います。

ネットとサプライチェーンの拡大で世界が繋がってしまっている以上、法的紛争にも国境というカベはなくなっていることを日々実感します。相手の国にまで行ってわざわざ喧嘩を売りにいくつもりはなくても、売られた喧嘩は買わなければならないときもあるはずです。法的紛争に国境がなくなった以上、「国際法務担当」になるつもりはなくても事実上なっているのだ、「国内法務担当」などという甘ったれた職業分類自体もはや存在しないものと考えるべきだ・・・もしかしたら、そういう意味であえてタイトルに“国際”の2文字を入れなかったのかもしれませんね。
 

【本】国際契約実務のための予防法学 ― 「準拠法は日本法・紛争解決は仲裁で」の一本槍から脱皮する

 
ついに出てしまいました。1冊まるごと準拠法/裁判管轄/仲裁条項の理解・適法性・ドラフティングだけにテーマを絞った超専門書が。


国際契約実務のための予防法学―準拠法・裁判管轄・仲裁条項国際契約実務のための予防法学―準拠法・裁判管轄・仲裁条項
著者:道垣内 正人
販売元:商事法務
(2012-05)
販売元:Amazon.co.jp



タイトルからは学術的な本を想像していたのですが、どのような文言であれば法的に有効な条項となるかといった具体的ドラフティングの技術や、実際に有効性が問題になった事例・裁判例にまで言及されており、それでいてその背景として必須となる国際私法の理論から紐解いて整理がされているのがこの本のすごいところ。冒頭の「本書の目的」を読むと、法律実務書としてこれ以上に正しく美しい整理・解説方法はないなと溜飲が下がります。

「枝葉」の剪定をするからといって、技術論に終始するだけでは足りない。「木」全体のことを知らなければ、適切な剪定はできない。また、正しく「木」を扱うためには、「森」の体系を知らなければならない。「森」を知り、「木」を知ってはじめて、「枝葉」を正しく理解し、それを適切に扱うことができるだけではなく、「枝葉」についての新しい問題に直面した際にも誤りのない判断ができるはずである。
上記の目的の達成のため、本書は以下のような構成となっている。
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.1 「森」 国際私法基礎国際民事訴訟法基礎国際商事仲裁法基礎
.2 「木」 契約準拠法決定ルール国際裁判管轄ルール仲裁合意ルール
.3 「枝葉」準拠法条項のドラフティング裁判管轄条項のドラフティング仲裁条項のドラフティング

こんな風に、表で本の構成・体系がほぼ表現できてしまう本というのも、なかなかお目にかかれるものではありません。当然、読み手としても探しやすい・理解しやすいわけで。

さらにダメ押し。巻末の4章には、実務ですぐ活用できるチェックリストまでもがついています。

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道垣内先生は「ベテランであると自認されている方々は、まず4をご覧になり…」と書かれていますが、このチェックリストには各章の番号へのリンクまでも親切に脚注に振ってあるので、むしろこの本に詰め込まれた溢れんばかりの知識をすぐには吸収しきれない初級〜中級法務パーソン(自分含め)は、今日明日レビューする国際契約書のボイラープレートをこれに照らし、必要な章から読み込んでいくという使い方をしてはいかがかと。

道垣内先生が「森」と表現される国際私法の世界は、入り口からして奥が深すぎて、できるだけ立ち入らないようにしていたところが正直あります。数々の法律基本書・実務書を取り上げてきたこのブログでも、国際私法の基本書を紹介していないのはその現れ。「準拠法はMOUの段階から日本法にすべく仕込みをし、紛争解決手段もNY条約締約国だったら裁判ではなく仲裁合意にしておこう」ですませようとしていたわけですが、その一本槍では交渉がまとまらなかったときにどうするのかのソリューションはなく、相手方の案を飲むということだけしか無かったように思います。

英語力もさることながら、相手方の提示してきた条項案に対し、その有効性にまでツッコミが入れられて時に形成を逆転できるくらいの国際私法の確かな知識と実務能力とがなければ、本当に頼りになる国際契約法務パーソンにはなれない。そのことをイヤというほど思い知らされますね。
 

紛争解決条項の落とし所 ― 「裁判か仲裁か」「管轄地は自国か相手国か第三地主義か被告地主義か」の議論に終止符を打つ

 
英文契約に触れる以上避けて通れないテーマであり、かつ契約交渉実務でも必ずと言っていいほどひな形に相手方からケチがつくにもかかわらず、結構適当に修正・ドラフティングしてしまいがちな「紛争解決条項」について。
BLJ4月号でも特集があったので、私なりの考え方を整理しておこうと思います。


BUSINESS LAW JOURNAL (ビジネスロー・ジャーナル) 2011年 04月号 [雑誌]BUSINESS LAW JOURNAL (ビジネスロー・ジャーナル) 2011年 04月号 [雑誌]
販売元:レクシスネクシス
(2011-02-21)
販売元:Amazon.co.jp



紛争解決条項の定め方には、まず大きく裁判での解決と仲裁での解決の2パターンがあります。よく見かける比較表がこんな感じ。

裁判官は当事者では選べない仲裁人は当事者が紛争の事案に応じて合意により自由に選べる
裁判の対審および判決言渡しが公開される仲裁手続および仲裁判断は非公開
裁判は多くの国で三審制、上訴ができる反面長期化し非経済的仲裁は一審制で、早期解決が図れて経済的
判決の国際的強制に関する多数国間条約が存在しないニューヨーク条約、ジュネーブ条約または日本との二国間条約による仲裁判断の国際的強制力が存在する

これに、管轄地を自国/相手国/第三地主義/被告地主義のいずれとするかの4パターンをかけあわせると、紛争解決条項のパターンには理論上合計2×4=8通りの組み合わせが存在することになります。
※第三地主義=いずれの当事者の国でもない第三国において紛争解決を図る考え方
※被告地主義=訴えを起こす側が相手側の国において紛争解決を図る考え方

言うまでもなく、「裁判」を「自国」で行う管轄合意ができれば安心です。しかし、契約に定められた商行為が全て自国内で完結するとか、相当なバーゲニングパワーが自社側にない限りは、ほとんどのケースでそんな希望はとおりません。その結果、なかなか紛争解決条項で折り合いがつかないときに採用されがちな「落とし所ベスト3」が、以下3パターン。
1)「裁判」×「被告地主義」
2)「仲裁」×「第三地主義」
3)「裁判」×「第三地主義」

この3つの選択肢の中でどれがベストかは、契約相手国がどこかにもよるでしょう。しかし私は、外国の裁判制度の影響を受ける1)や3)の組合せは安易に採用すべきではなく、仲裁を利用する2)がベストであると考えます。それは
(a)契約内容・条件により被告地/第三地の裁判所において管轄合意が有効とされないリスク
(b)第三地の裁判所で得た勝訴判決が相手国で承認執行されないリスク
がある以上、裁判制度を前提とした紛争解決条項を契約に定めるにあたっては、本来相当綿密に当該地の訴訟法、執行法を事前に調べておかないとならない(しかし現実にはそれは困難である)からです。

今月のBLJにも記載されていましたが、たとえば(a)のリスクについていえば、NY州のGeneral Obligations Law(一般債務法)のSection5-1402には、履行地がニューヨークでないなど契約内容がNY州に関わりのない場合、NY州法を準拠法としかつ100万USドル以上でない限り、第三地主義的な裁判管轄合意は受け入れない旨が定められています。
準拠法と合意管轄の裁判所との相性が合わないケースも少なくありません。昨年10月施行の中華人民共和国渉外民事関係法律適用法10条2項によれば、当事者合意で準拠法を日本法としていても、中国の裁判所では「職権による調査によっても日本法が調査できず」とされると中国法が適用される可能性もあります。
また、(b)の執行力の面でも、例えば中国最高人民法院は未だ日本における判決の承認をしていないとも聞かれます。

これに対し、仲裁を用いれば、各国裁判所特有の手続法の影響も準拠法の抵触の問題も切断でき、アウェイな国で起きがちな“お国事情のえこ贔屓”な判決が下される懸念もなく、条約批准国であれば仲裁判断の結果に従い執行までもちこめる点、変な国の変な裁判制度に乗っかるよりも実効性が高いと考えます。

「仲裁って、仲裁人の費用とか滞在費とか、意外と裁判より金がかかるらしいけど・・・」という声もよく聞きますが、仲裁人を1人と合意している限りはそれほど高額にはなりませんし、当該地の裁判制度について調査をするコストの方が(結局渉外事務所を通じて現地弁護士に確認することになるので)馬鹿になりません。何より、そんな調査をしている間に「出るところに出てもいいのか?」と相手方にプレッシャーをかけるべきタイミングすら見失ってしまうことが問題だと私は思います。
事前にろくに調査もせず、ギリギリの交渉を行う重要なタイミングで「そもそもこの契約書の紛争解決条項って実行力あるんだっけ?」などというマヌケな調査を必要とするような契約書を作っていたのでは、現場を支援する法務として無責任というそしりを受けても反論はできないでしょう。

相手法人の所在国が条約批准国であることだけ確認できれば、よっぽどの事情が無い限り紛争解決条項の落とし所は「仲裁」×「第三地主義」の組み合わせで契約締結しておくのが一番妥当である。私はそう思っています。

 
参考図書:


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