企業法務マンサバイバル

ビジネス法務に関する本・トピックのご紹介を通して、サバイバルな時代を生きる皆様に貢献するブログ。

借地借家法

賃貸物件のオーナーが更新料(の相当額)を低リスクで徴収する方法

 
7/29および30にアップした、賃借人としていかに更新料の慣習を断ち切るかというエントリについて、批判的なコメントをいくつかいただきました。

原因は、オーナーサイド各位の感情を逆撫でするような内容となっていたからです。特に、7/30のエントリの「余談」部分がオーナーの感情を無視した物言いであるとのご批判を頂戴した点は、当該エントリの表現が目指した主旨がご期待にそえなかったものであり、残念に思うとともに、不快感を感じられたオーナーサイドの皆さんには申し訳なく思います。私が私の責任において発言する自由があるとともに、各位がエントリの内容についてどのような批判をされるのも自由であり、批判は甘んじて受けたいと思います。

なお、結果的にそう伝わってない方がいらっしゃるので仕方ないのですが、私としては現実のオーナーに対しては「余談」部分に記載した手段を行使するつもりはさらさらありません。加えて言えば、借地借家法32条の賃料減額請求権を行使した場合に(それが強力な形成権であるとは言え)裁判で勝てるかどうかについても否定的な見解です。以上2つの理由からフィクションである旨を併記した次第です。また、一方的に更新料支払いを拒絶したわけでもなく、更新料無しプラン/更新料有りプランという2つの選択肢を提示した上で、オーナーが更新料無しプランを選択し合意の上契約に至っている点も、あわせて申し述べておきたいと思います。

それでもなお、あのエントリのオチとしてあの「余談」を持ってきた主旨は、現実にそういう賃借人が出てきたら法律上はどう解決されるのか?という問題提起に他なりません。

では問題提起をした手前、更新料の支払いを拒絶しようとする賃借人に対し、賃貸物件のオーナーの立場からどのような対応がなしうるでしょうか。弁護士の方が運営されているブログでオーナーの立場からこんな検討をされていたので、以下ご紹介させていただきます。

更新料のリスク回避策(アヴァンセの企業法務インサイト 弁護士ブログ)
更新料に対する対応策について、弁護士の間でも様々な角度から議論がなされ、ほぼ出尽くしたかなという感じがしますので、その対応策を整理して紹介したいと思います。

1 更新料の徴収をやめる。
2 更新料を月額賃料に按分する方法で転嫁する(したがって、月額賃料の値上げとなります)。
3 中途解約の際に精算して更新料の一部を返還する(中途解約精算型一時金と呼ばれてます)。
4 月額賃料転嫁型と現状の更新料との借り主に選択させる。
5 定期借家契約に切り替えて、更新料の代わりに再契約料として徴収する。

以下リスクについて解説があった上で「どれもリスクがあるから選択はオーナー次第」と仰られていますが、私としては、オーナーが交渉のイニシアチブを握るという意味で、5の定期借家契約への切り替えを提案するのは効果的ではないかと考えます。賃借人にとっては、定期借家という聞きなれない契約形態がオーナーから提案され、それが「当然に次回の更新権は保証されていない契約形態である」と知れば、交渉上のパワーバランスを賃貸人に取り戻す一助になるのではと。その上で定期借家契約への移行に賃借人が乗ってきたときは、“再契約料”として更新料相当額を徴収する契約上の位置づけについて説明を尽くせば、消費者契約法違反のリスクも低減できるものと考えます。定期借家契約に切り替えられるのなら無理に更新料相当額(再契約料)を取らなくても、という考え方もあるでしょう。

(ちなみに、金崎先生のご意見でも、私が今回実際にオーナーに提案した手段、すなわち月額賃料に転嫁する方法は、くだんの「余談」で言及したとおり賃料減額訴訟を提起されるリスクがある、との指摘があります。)

その他の選択肢の検討結果も含め、オーナーサイドの皆さんにも役立つ記事かと思います。
 

更新料0円交渉成立 ― 改めてそのポイントまとめ

 
昨日ブログでお伝えした、マンションの賃貸借契約で更新料をしらっと請求された件、首尾よく更新料0円で交渉成立しました。

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1)更新料をゼロにし、家賃を◯千円上げる。
2)更新料を支払う代わりに、家賃を◯千円下げる。ただしこの場合、
  他の物件も選択肢に加え更新するかしないかを再検討する。

この2つのオプションをオーナーに提示したところ、1での契約更新をオーナーが選択し、私の希望どおり、更新料を支払わずに更新することができました。

今回、ウン十万のまとまったキャッシュアウトを免れたこともさることながら、ここで断ち切らなければまた次回も繰り返されたであろう悪しき慣習を断ち切ったことが、大きな成果と思っています。

交渉のポイントとしては、単に法律や裁判例を振りかざして更新料支払いを拒絶するというスタイルを採らずに、オーナーにとってのメリット、すなわち「所有する賃貸物件の月額賃料を上げる」というメリットを提供したという点にあります。もちろん、上昇させる賃料×24ヶ月分がこれまでの更新料水準を超えない範囲に、しかし下回り過ぎない程度に設定する価格設定の妙も交渉上は大切ですが、基本的に月額賃料を上げますよというのは、オーナーとしては悪い気はしない提案だと思います。

タイミングも絶妙だったかもしれません。(昨日もご紹介したとおり)高裁判決では3勝1敗で更新料無効説が優位という現実がある以上、当然にオーナー側にはプレッシャーになっていたでしょう。逆に仮に最高裁で「更新料は慣習として有効」とオーナー側に有利な判決が出た後に更新を迎えていたとしたら、この交渉手段は通用しなかったはず。賃貸人/賃借人のどちらが法的に有利かという結論が出ていないカオスなタイミングで更新を迎えたのは、交渉のペースを作るのにもってこいな状況でした。

さて、あくまで個人的な予想ですが、私は最高裁判決で更新料の“慣習”が全面的に否定される可能性は低いと考えています。そう仮定すると、せめて「自分の不動産賃貸借契約においては、更新料を支払うという“慣習”が無い状態」にしておくことが、次回以降の契約更新において非常に重要となるわけです。これから年末までに更新を迎える方は、多少月額賃料を上げてでも、更新料0円にすべく交渉を検討されてはと思います。
 

余談 ― その後の妻と私の会話

妻:「更新料払わなくて済んでよかったね。でも、ホントに月額賃料上げちゃって良かったの?」

私:「ああ、でも実はこれにはカラクリがあるんだ。」

妻:「カラクリ?」

私:「月額賃料を上げたことで、近隣賃料相場よりも高くなってるはずだよね。そこで、何ヶ月か経ったら借地借家法第32条に基づく賃料減額請求権を行使して、上げた賃料を元の水準にまた下げるんだ。そうしたら更新料の慣習がなくなった上に、賃料も元通りってわけ。」

妻:「・・・ヤ◯ザだよね、それって。」

(この物語はフィクションです。)


“web(画面)上の契約約款なんてみんな読まずに同意する”ことを前提にしちゃったら、「個人情報の収集・利用のオプトイン同意」ってどう取ればいいの?

 
「総務省がユルユルなせいで個人情報がネットで盗取されるようになるからおまいらビビれ」的なノリで話題になっているasahi.comのこの記事から。

「ネット全履歴もとに広告」総務省容認 課題は流出対策(asahi.com)
インターネットでどんなサイトを閲覧したかがすべて記録される。初めて訪れたサイトなのに「あなたにはこんな商品がおすすめ」と宣伝される―。そんなことを可能にする技術の利用に、総務省がゴーサインを出した。ネット接続業者(プロバイダー)側で、情報を丸ごと読み取る技術を広告に使う手法だ。だが、個人の行動記録が丸裸にされて本人の思わぬ形で流出してしまう危険もある。業者は今後、流出を防ぐ指針作りに入る。

asahi.comは単に「総務省は容認」と短く評していますが、少し眉に唾しながら読んで頂く必要もあるかと思います。以下が総務省が出している提言の原文になりますが、これを読むと、DPI(ディープ・パケット・インスペクション)による個人情報収集・利用の基本的な法的論点について網羅的に検討・言及され、同意がなければ違法であることも断言されています。

利用者視点を踏まえたICTサービスに係る諸問題に関する研究会」第二次提言ー別紙2(PDF)
DPI 技術を活用した行動ターゲティング広告の実施は、利用者の同意がなければ通信の秘密を侵害するものとして許されない。(P58)

しかし、その違法性を阻却するために事業者が採用すべき“新しい同意の取り方”が、何とも事業者泣かせな嫌な感じになっています。
通信当事者の同意がある場合には、通信当事者の意思に反しない利用であるため、通信の秘密の侵害に当たらない。もっとも、通信の秘密という重大な事項についての同意であるから、その意味を正確に理解したうえで真意に基づいて同意したといえなければ有効な同意があるということはできない。一般に、通信当事者の同意は、「個別」かつ「明確」な同意である必要があると解されており、例えば、ホームページ上の周知だけであったり、契約約款に規定を設けるだけであったりした場合は、有効な同意があったと見なすことは出来ない。(P56)
つまり、色々書いてあって長文な契約約款をweb上のスクロールボックスの中でだらだらよませて「同意」ボタンを押させるような同意の取り方じゃダメだよと。

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では、どうすればいいの?という回答がこれまた意味不明。
有効な同意とされるためには、例えば、新規のユーザに対して、契約の際に行動ターゲティング広告に利用するため DPI 技術により通信情報を取得することに同意する旨の項目を契約書に設けて、明示的に確認すること等の方法を行う必要がある。(P56)
ん?web上で「契約約款に規定を設けるだけ」ではダメだけど、「同意する旨の項目を契約書に設け」るとOKになるんですか?

私はこれを読んで、2001年に定められた借地借家法第38条第2項の定期借家契約制度を思い浮かべました。

それまで日本では困難だった定期借家(賃借人が強制的な返還義務を負う借家)契約が法律で認められた際、賃貸人にはそれを契約書に明示するだけではなく、契約書とは別に「更新がなく、期間の満了により終了する」ことについて別途書面を交付し説明しなければならない(で結局説明を受けた旨の証拠として印鑑を押させる)という、なんとも重畳的な義務が課されたあの改正。
今回の提言では「書面で」とははっきりと言わず、「契約書」という文字でさらっとごまかしていますが、総務省はDPIをやりたくてしょうがない事業者サイドと権利意識の強い消費者サイドとの狭間で、この定期借家契約スキームを落とし所として想定しているのかもしれません・・・。

web(画面)上の契約約款だとどうせ読まないから同意したとは認めないが、紙の契約書だったらちゃんと読むだろうからOKっていうのはもうやめませんか。どれだけ消費者の契約行為に対して過保護な国なのかと。

利用者も事業者も喜ばない行き過ぎた個人情報保護に対する批判を反映した提言になるはずが、個人情報保護法にも規定されていないような収集・利用にあたっての不毛な義務を事業者に新たに課すだけの提言にならないことを、そして、この過保護さが今回のDPI許諾以外のネット上でのあらゆる契約行為に対する規制に波及しないことを、祈るばかりです。

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