企業法務マンサバイバル

ビジネス法務に関する本・トピックのご紹介を通して、サバイバルな時代を生きる皆様に貢献するブログ。

商標法

【本】『ビジネス法体系 知的財産法』― 知的財産法の概説書マーケットに突如現れたダークホース

ふだん特許・商標・著作権を実務で扱っている法務パーソンが、ちょっと腰を落ち着けて、知的財産法を体系的に学習しなおすのにぴったりな本が突如現れました。中山先生や田村先生が活躍されるこの分野に若手ダークホースの登場。その著者、森・濱田松本法律事務所の田中浩之先生より、お仕事でのご縁もあって本書をご恵贈いただいた次第です。ありがとうございます。


ビジネス法体系 知的財産法
田中 浩之
レクシスネクシス・ジャパン
2017-04-22



“知的財産法の概説書”を標ぼうする本には、必ずと言っていいほど読後に物足りなさを感じてきました。その物足りなさをパターン別に分類すると、おおよそ以下3つに分かれるというのが私の印象です。

(1)話題が身近な著作権法にばかり偏ってしまい、特許法・意匠法などの産業財産権法分野の解説がおろそかになる
(2)法体系に忠実であろうと、各産業財産権法に多数準用される特許法の条文をベースに解説するものの、中途半端な逐条解説になってしまい、実務との紐づけが薄くなる
(3)不正競争防止法・民法といった、使いようによっては幅広く知的財産をカバーできる法律の活用について、十分な解説がなされない
 
本書は、そのはしがきで、まさにこのような従来の書籍が陥りがちだったダメパターンを克服すべく体系に工夫をこらしたことが述べられています。その表れとして、本書全体の見取り図を兼ねている「第1章 ビジネスと知的財産法総論」において、まず知的財産法を「ブランド保護法」と「創作保護法」の大きく2つに分類し、そのうえでさらに創作保護法をゝ蚕僉Ε離Ε魯Δ諒欷遶▲妊競ぅ鵑諒欷遶I集修諒欷遒烹格類する体系を提案し、以降これに沿って解説がなされます。この全体を概観した表が以下となります(第1章P8-13掲載の図表より一部省略し引用)。

1.ブランド保護法
保護対象権利の名称法律保護期間登録要否本書における解説箇所
商標商標権商標法登録から10年(更新可)第2編第2章
商品等表示不正競争防止法×第2編第3章
商号会社法・商法第2編第4章
地域団体商標商標権商標法登録から10年(更新可)第2編第5章
地理的表示地理的表示法第2編第5章

2.創作保護法 ゝ蚕僉Ε離Ε魯Δ諒欷
保護対象権利の名称法律保護期間登録要否本書における解説箇所
発明特許権特許法出願から20年第3編第2章
考案実用新案権実用新案法出願から10年第3編第3章
植物の品種育成者権種苗法登録から25年または30年第3編第5章
半導体集積回路の回路配置回路配置利用権半導体集積回路配置法登録から10年第3編第6章
営業秘密不正競争防止法/民法(契約上の保護)×第3編第4章

3.創作保護法 ▲妊競ぅ鵑諒欷
保護対象権利の名称法律保護期間登録要否本書における解説箇所
意匠意匠権意匠法登録から20年第4編第1章
商品形態不正競争防止法最初の販売から3年×第4編第2章
商標商標権商標法登録から10年(更新可)第4編第2章
商品等表示不正競争防止法×第4編第2章
著作権(応用美術)著作権著作権法著作者の死後50年(原則)×第4編第2章
デッドコピー民法×第4編第2章

4.創作保護法 I集修諒欷
保護対象権利の名称法律保護期間登録要否本書における解説箇所
著作物著作権著作権法著作者の死後50年(原則)×第5編
デッドコピー民法×第4編第2章

この表をご覧になれば、各法バランスよく実務に紐づけて活用法が解説されている本であることが伝わるのではないでしょうか。

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中でも特許パートは、切り餅事件の特許を教材として、特許要件と記載要件・取得手続・侵害の成否・対応までを、類書にはないオリジナルな語り口で理解させてくれる、本書の中でも特に秀逸な部分です。親切にも、本書がどこを端折っているのかまで説明の中で明示されていて、必要に応じ専門書で詳しく学ぶことも容易になっています。さまざまな特許法の入門書を読んでも、条文や重要判例をどう実務に紐づけるかがよくわからなかったという法務担当者に、一読をお勧めします。

実務を目線に置きながら知的財産法全体を概説する書籍として、初級者向けには宮川ほか『事業をサポートする知的財産実務マニュアル』を、上級者向けには田村『ライブ講義 知的財産法』などを紹介してまいりましたが、本書は、ちょうどその真ん中の空白地帯を埋めてくれる良書だと思います。

【本】『プロダクトデザイン保護法』― カタチのない情報デザインを守る意匠法/商標法/著作権法/不正競争防止法/民法の使い方

 
4か月前に弊ブログでも書いていた私の悩みを解消してくれる、画期的な本がもう出てしまいました。





その4ヶ月前の私の悩みがこちら。

【本】『新しい商標と商標権侵害』― 知財業務の難しさを生む権利の「跨り」と「狭間」(企業法務マンサバイバル)
知財の仕事の難しさは、特許・意匠・商標・著作権、そして不正競争防止法と、それぞれの分野だけでも深さがあるのに、その権利の「跨り」について両方を考慮しなければならないところ、もしくは「狭間」になって抜け落ちがちなところ、そういったところにこそあると常々感じています。

本書は、まさにこの「跨り」「狭間」を埋めるために、意匠法/商標法/著作権法/不正競争防止法/民法の5法をどのように用いるべきかについて横断的に解説します。特許法が対象外なのは、デザインなので当然ですね。

前半で各法の概要を、後半でその各法を使った具体的な保護の手法を説きます。その対象は有形の商品デザインにとどまらず、空間デザイン(店舗の外観、内装、陳列などのいわゆるトレードドレス)、情報デザイン(GUI、情報レイアウト、見出し、データベース、アイコン、タイプフェイス)と、無形のデザインまでを幅広く取り扱っているのが特徴。中でも前半の意匠法の解説は、適切な入門書が見当たらないこの分野にあって分かりやすさが際立っていました。また後半についても、特に情報デザインをどう保護するかというテーマは、あらゆるサービス業の知財担当者が頭を悩ましているはずのポイントです。それだけに、“プロダクトデザイン”というタイトルのせいでこの本をスルーしてしまう人がいそうで、少しもったいない気もしました。

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筆者が冒頭のP8ー11で述べている基本的な5法の使いこなし方をさらにざっくりと要約したメモを作ってみました。「こんな基本的なフレームワークなんて分かっているつもり」でも、文字にしておくと、いざというときの対応で混乱せずに済むものです。

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本書のコンセプトと構成の妙については文句のつけようもない一方で、情報デザインの保護について述べた5章における各結論部については、その多くが「情報デザインの保護は(現行法では)難しい」という断定的な結論が多く、個人的には首肯しがたい部分もありました。しかし、その部分を割り引いても、法律という武器と防具をフル活用して守るべきものを守るために戦わなければならない法務パーソンに多くのヒントを提供してくれる、やはり画期的な本だと思います。
 

【本】『知的財産権としてのブランドとデザイン』― 法務を地味に悩ませる「商標的使用」論

 
キャリアアップのための知財実務のセオリー』の巻末にて、意匠権に関する推薦図書としておすすめされていたのを拝見し、この本の存在を知りました。





「ブランド」「デザイン」を保護する武器としての商標法、意匠法、著作権法さらには不正競争防止法の跨がりを、主要外国法も含めて横断・俯瞰し、解きほぐしてくれる本です。

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意匠権以外も充実しています。特に、「商標的使用」についてのこんな整理・類型化は私のツボ。以下P244より。

以下の事情がある場合には、商標的使用態様を否定する方向で作用する。
  1. 一般に認知されている業界の取引慣行(例:包装容器の目立つ位置には内容物の商品名が表記される)により商標として認識されない(十二支事件、Marlboro事件、巨峰事件、For brother事件、Happy Wedding事件、TASTY事件)
  2. 商標を使用する位置に被告商標が別途使用されている(ポパイ(アンダーシャツ)事件、Marlboro事件、ニンニク写真事件、Happy Wedding事件)
  3. 被告標章が使用される位置が商標の使用される位置ではなく、記述的表示が使用される位置である(巨峰事件、POS実践マニュアル事件、Under The Sun事件)
  4. 被告標章の使用されている商品との関係で(例:通行手形の形をしている)、商標とは認識されない(通行手形事件、Happy Wedding事件)
  5. 他社の商標も並列的に使用されている(Marlboro事件)
  6. 打ち消し表示が使用されている(タカラ本みりん入り事件、For brother事件)
  7. 他の商品分野でも記述的に使用されている(カルゲン事件)
  8. 被告独自の取引慣行(例:キャッチフレーズを利用した広告宣伝を長年行っている)が認知されている(Always Coca-Cola事件)
  9. 書籍の題号として認知されている(三國志武将争覇事件)
  10. 他の文章との関係で商標として認識されない(POS実践マニュアル事件、Always Coca-Cola事件)
  11. 商標権者が不正の目的で商標登録した(ポパイ(アンダーシャツ)事件)

インターネットで何らかのコンテンツを提供するサービスにおいて、最も問題になる頻度が高い知的財産権が著作権であることは異論がないところだと思いますが、その裏で“地味に”法務パーソンを悩ませているのが、この商標の使用と権利侵害の問題、いわゆる「商標的使用」論ではないかと思います。

検索連動型広告での競合他社商標のキーワードバイイングなどは古くからある代表的な論点ですが、それ以外にも、
  • オンラインゲームの主人公の生活描写としてコカ・コーラの赤い缶を片手にカルビーのポテトチップスを食べている絵を書いてしまっていいのか?
  • ユーザー投稿型のレシピサービスで「味の素」と投稿されたレシピを「うま味調味料」と訂正させるべきか?
  • 音の商標が認められる現代においてネット動画の音声にサウンドロゴが入りこんだ場合にはどう考えれば?
etc…、気になりだすととまらなくなってしまうところです。

こういった商標の使用が商標権者の深刻な権利侵害となる事例が少ないからか、大きな問題とはなっていませんが、比較的権利化が容易な商標権だけに、侵害を主張された場合に備えた理論武装は十分にしておくべきところだと思います。
 

【本】新 商標教室 ― あの名著の「基礎編」が「上級編」にレベルアップしました

 
弁護士会館ブックセンター出版部 LABOの渡邊さまより、以前このブログでもご紹介した商標実務の名著『商標教室』が出版社もあらたに新版となってリリースされるとのご連絡を頂戴し、ご好意によりご恵贈いただきました。ありがとうございます。

 
新 商標教室新 商標教室 [単行本]
著者:小谷 武
出版:LABO
(2013-05)


頂いて、読んでみてびっくり。事前のご連絡では『商標教室 基礎編』のアップデートと聞いていたのに、別モノの本になってました。そのわかりやすい証拠がこのページ数の圧倒的な差。旧版が(商標法の条文抜粋部を除き実質)150ページなのに対して、新版は450ページと3倍になっています。

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では旧版と新版では何が変わり、その増えた300ページに何が書かれているのでしょうか?この点、旧版のよいところである、法律の建て付けに左右されない章立てと、セミナー講義を聞いているかのような読みやすい筆致はそのまま残っています。しかし、あきらかに変わったのは“レベル”です。説明をあえて基礎レベルにとどめていた前作とはうってかわって、著者小谷先生の頭の中の“ノウハウ”が遠慮無くつめこまれただけでなく、先生が長年の商標実務の中で鬱積させてきた特許庁の「机上の審査」のクセに対する“ツッコミ“がすべてぶちまけられているかのような本になっているのです。


“ノウハウ”とは例えばどんなものか。たくさんありすぎてどこをご紹介すべきか迷いますが、旧版に無かった中で「おおー」と唸ったのがこれ。

筆者は30年以上にわたって特許庁の審決例を集めてきました。その結果、商標の類否が問題になるケースに、以下のようなパターンがあることに気がつきました。
これらの大半は、商標中の核となる語に、形容詞的に他の語が結合していて、その後が商品や役務の内容を記述しているような場合ということができます。
(中略)
【類似のパターン】
(1)愛称
(2)1音有無の相違
(3)IT用語
(4)大きさ
(5)外国語
(6)普通名称を含む商標の称呼
(7)語順の相違
(8)色彩
(9)商号的商標
(10)称呼同一で非類似の商標
(11)書体の相違・二段書きの商標
(12)数字
(13)人名や性別・子供を表す商標
(14)地名を含む商標
(15)定冠詞
(16)長い称呼
(17)2音相違
(18)派生語
(19)連音
(20)ローマ字1文字・2文字・3文字
(21)ハイフン・スラッシュ・中黒・コロン記号
(22)その他のキーワード
(23)図形商標

日頃商標の類似判断に悩まれている方であれば、このパターンリストを見ただけでうんうんそうそういつもこの辺りで迷うんですよね〜と共感されるんじゃないでしょうか。この後これら一つ一つの項目について40ページに渡って、以下のように表形式で実際の審判事例(これは「(6)普通名称を含む商標の称呼」の審判事例ですね)をリストアップしながら、類否の見極め方の解説が加えられています。この部分だけでも、3万円のセミナーを受講するぐらいの価値はあるでしょう。ちなみに、このあたりの参考データは、先生が所属されている不二マークス・ジャパンのウェブサイト 審決データファイル のコーナーにもまとめられていて便利です。


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“ノウハウ”の公開はこれにとどまりません。審査基準の理解に必要となる、しかしながら普通の商標法本ではほとんど正面から解説されることのない「類似群コード」「他類間類似」「備考類似」についても、旧版にはなかった説明が加えられています。例えば、スマートフォンという商品の商標審査基準上のクラスは「第9類 電気通信機械器具」になるところまではわかると思いますが、類似商品コードとして「11B01」も割り当てられています。この番号は何か・なぜクラスと違う数字になるのか・どのように審査に使われるのか、という話です。

現在付けられている類似群コードの基礎は、1992年(平成4年)3月31日まで使用されていた旧日本商品分類にあります。
類似群コードの基礎となる旧日本分類の中心は用途販売店主義、つまり商品の用途や販売店が共通するものが類似商品として判断されています。これに対して1992年(平成4年)4月からの国際分類は、主に原材料主義や機能又は用途主義、つまり商品の原材料が皮革製品か、金属製品か、布製品かのような基準や、商品の機能や用途の共通性で分類されているため、旧分類では同じ商品であっても、国際分類に置き換えた場合、異なるクラスに分類される商品がたくさん出ることになりました。ただし、クラスは違っていても類似群コードは現在も変わりませんので、いずれも類似商品と扱われることになります。このように、異なるクラスの商品が類似商品と判断されることを「他類間類似」といいます。


・・・と、この辺でストップがかかっていれば中級編へのパワーアップで良かったね!で済んだのですが、この本を上級編にまでレベルアップ「させてしまった」のは、先生のあまりの経験の豊富さによって、特許庁の審査基準の揺れや甘さが暴かれてしまっている点にあります。それが増ページ要素のもう1つである“ツッコミ”のパートです。たとえば、識別性の論点について、コンデナスト社の雑誌『GQ』とソウル・ミュージックを聴かせる飲食店「CAFE GQ GINZA」の裁判を取り上げて、こう述べます。

商標審査基準ではローマ字2文字は識別性がなく登録できないので、識別性を欠く商標を使用することは問題ないように説明してきましたが、そうも言ってられない判決が出ています。GQ事件(東京高裁平14.4.24、平13(ラ)1814、判例時報1807号137頁)です。
東京高裁は、<<GQ」の文字に書体上の特徴は認められるが、需要者がみた場合、基本的に「G」と「Q」を表すと理解するにとどまり、このような認識を上回るほどの外観上の特徴を見出すことはできない。そこで、両商標を比較すると、両者は「ジーキュー」の称呼が同一で、観念、外観において、両社の類似性を否定する要素も見出だせないので、両商標は全体として類似する。>>と判断しました。
東京高裁の決定理由を正確に理解することは困難ですが、やはり「GQ」の文字自体に権利があるといっているように理解する以外にありません。特許庁のプラクティスでは、共通するローマ字2文字の商標で、外観デザインの異なる商標が多数並存登録されていますので、銀座GQ店商標を出願した場合、C社商標と並存登録される可能性が十分にあることになります。

新版ではこのように、特許庁の審査基準では説明し得ない審決例・裁判例を紹介しながら、現実の商標審査の通過可能性を読む難しさや問題点を語るパートが、旧版に比べて圧倒的に増えているのです。


以上の結果、「基礎編」だった旧版の中身もすべて入っているにもかかわらず、「上級編」にまで一気にパワーアップしてしまった感のあるこの『新商標教室』。旧版を読んだ方にとっては、この新版で知識を深められるのは朗報であり知的好奇心をくすぐられるものに違いありません。その一方で、読んでないand/or初級者の方は、いきなりこの本を読むと基礎部分と上級部分が切り分けられず混乱する可能性もあります(かくいう私も、実は混乱してますのでまだまだ初級者なのかもしれません…)。用法・用量に気をつけて、読んでみてください。
 

【本】実例で見る商標審査基準の解説 ― 現場担当者渾身の商品・サービス名称案が登録・使用できないことがわかったその時に

 
自社から新しい商品・サービスが生まれるのをお手伝いするのは法務として楽しい瞬間ですが、時に、法務がきまずいブレーキを踏まなければならないこともあります。その商品・サービスの名称案を正式決定しようかという場面で、法務による調査・検討の結果、その名称では登録・使用ができないことを報告するときは、このきまずい瞬間の一つ。その名前の案に強い思い入れがある現場の人に、その名称では登録・使用が不可能な理由を「言葉で」「商標実務を知らない人にも分かるように」「明瞭に」説明し、納得ずくで名称案を変えてもらうためには、一苦労があったりします。

「どうして登録できないのか、法的な根拠を詳しく教えてくれますか?」と現場サイドからにじり寄られた場合、形式的には法律の説明からすることになります。商標法を見ると、以下のように商標登録の要件が(一応)記載されています。

(商標登録の要件)
第3条 自己の業務に係る商品又は役務について使用をする商標については、次に掲げる商標を除き、商標登録を受けることができる。 
  1. その商品又は役務の普通名称を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標
  2. その商品又は役務について慣用されている商標
  3. その商品の産地、販売地、品質、原材料、効能、用途、数量、形状(包装の形状を含む。)、価格若しくは生産若しくは使用の方法若しくは時期又はその役務の提供の場所、質、提供の用に供する物、効能、用途、数量、態様、価格若しくは提供の方法若しくは時期を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標
  4. ありふれた氏又は名称を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標
  5. 極めて簡単で、かつ、ありふれた標章のみからなる商標
  6. 前各号に掲げるもののほか、需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができない商標
2 前項第3号から第5号までに該当する商標であつても、使用をされた結果需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができるものについては、同項の規定にかかわらず、商標登録を受けることができる。

続く第4条には「不登録事由」もたくさん列挙されています。これらを根拠法に、実務的には特許庁の審査官が「商標審査基準」(これも特許庁のサイトで公開されています)に基いて登録の可否を判断しているのです。

しかし、これらすべてを現場の人に読ませて理解してもらおうというのは無理な話。特許庁において登録になるものとならないものの差とは何か、どうしてその商品・サービス名の案が登録・使用できないのかを、法務が世の中の実例に学んで説明できるようになるのはもちろん、時には現場の人に近しい実例を見せてあげることで、納得してもらう必要があります。

意外と少なくない、そういったフェーズで活躍してくれるのがこの本です。


実例で見る商標審査基準の解説実例で見る商標審査基準の解説 [単行本]
著者:工藤莞司
出版: 発明推進協会
(2012-09-06)


元特許庁商標審査官が、商標法に基づき特許庁が定める「商標審査基準」について、登録/不登録/審決取消の実例を交えて具体的にその意図までを解説する本。600ページを超えるなかなかの分厚さですが、それは審決例・裁判例の紹介が多いためで、読み通すのはそれほど苦になりません。ページ数のほとんどが下の写真のとおり3条・4条の審査基準の解説に割かれており、読み終わるころには文字通り3・4条マスターになれること請け合い。私はのべ2時間ぐらいで楽しく(?)読み終わりました。

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商標登録における登録可能性の調査は、類似調査を行うためのデータベースの網羅性や指定商品・役務の区分の検討の難易度にも鑑みると、基本的には弁理士に頼めるなら頼んだほうがいい仕事です。しかし、私としては、標準文字商標であれば、調査・出願は弁理士に頼らずにできるだけ自社内で完結したいと思っています。インターネット出願ソフトがあれば、出願だけなら特許庁の手数料1万円ちょっと/1区分しかかかりませんしね。


そして、私がおすすめする発展的&実践的学習法が、これを読み込んだ後に、twitterで出願公開された商標をフィードしてくれる商標速報bot (‏@trademark_bot)をフォローし、実際の他人の商標出願を教材として審査基準に当てはめて考えてみるという、名付けて「商標審査基準素振り」。



このbotのいいところは、登録査定となった商標ではなく、あくまで出願されたものを公開時点で拾ってくれている点にあります。そのため、かなりの頻度で「おそらく登録にいたらないモノ」が混ざっているのです。
「あれ?キャッチフレーズ・スローガンって、3条1項6号(識別力のないもの)になるんじゃ…」
「これ、有名なモータースポーツの名前過ぎて、4条1項第19号(他人の周知商標と同一又は類似で不正の目的をもって使用をする商標)にあたるんじゃ…」
なんて感じでツッコミを入れながら、この本を見直すことで、審査基準が身についてくると思います。

たまーに、自社が出した商標が出てきてぶっとなりますw。
 

【本】商標教室 ― 「頭でわかる」から「説明できる」商標担当になれる本


商標法を初めて学ぶ人には『商標法のしくみ』をおすすめしてきたのですが、その先の、法律実務家としての本格的な学習に耐えうる初級〜中級者向けの本がないものかと探していたところに、ずっと昔からそのポップなデザインが気になっていたこの本を入手することができました。

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商標教室(基礎篇)
著者:小谷武
販売元:トール
(2003-10)
販売元:Amazon.co.jp



Amazonにサムネイル画像すら無いことからも想像がつくように、すでに入手困難になりつつある本ですが、ネットで検索してみると、実務家からの評判が相当高いことがわかります。

基本書アーカイブス(GSN弁理士受験指導)
『商標教室』(商標実務あれこれ日記)
知財ゼミ(弁理士試験対策/知的財産判例紹介サイト)
商標法の最良の入門書〜「商標教室」(アニメキャラが行列を作る法律相談所withアホヲタ元法学部生の日常)

その人気の秘密は、商標法のポイントを法律の建て付けに従って解説するスタイルを敢えて避けて、商標法に込められたエッセンスを分解し、商標論→商品論→顕著性論→類似性論→制度論として再構築する、他にないアプローチを採っている点にあろうかと思います。

そしてなぜ、そんなアプローチを採る必要があるのかについて、著者はこう述べます。

商品を識別するための商標は商標法が制定される前からあったのですから、商標は社会的な事実として捉える必要があります。ある音やあるメロディーを聞いたとき、あるいはある匂いをかいだとき、ある会社の商品を思い出すことがあります。その音や匂いによって、その会社の商品を識別できるのであれば、それらは商標ということができます。
しかし、商標法では、音や匂いは商標の定義の中に入れていませんので、まず商標法ありき、という考えの人は、音や匂いは商標ではない、と言い張ることになり、そこで、商標とはの素朴な議論がはじまることになります。
その証拠に、ケンタッキーフライドチキンのサンダースおじさんの人形は、現在の商標制度では立体商標として商標登録され保護されていますが、旧商標法では、商標を平面的な文字、図形、記号、これらの組み合わせとしか定義していませんでしたので、たとえ有名な商標であっても、商標法上の商標の定義に当てはまらなかったため、商標登録による保護は受けられませんでした。
ですから商標法の商標の定義は、商標登録により保護することができる商法の範囲を決めているだけであり、社会的な意味での商標を定義しているのではないことがわかります。

商標法があるから商標を守らなければならないのではなく、自社の製品であること・他製品と違うということ・品質が保証されていることを伝える“しるし”を保護しようというのが商標法の本来の主旨。実際に、来年の法改正で商標法の保護の範囲に香り・音・触感も加わろうとしているわけで、このような考え方に立って商標法を理解しているかどうかが、応用力の差になって顕れてくるのだと思います。


こういった書物としてのアプローチの妙だけでなく、実際の実務で「自分は頭ではわかってるんだけど、後輩や現場に旨く説明できなくていつももどかしく感じる」ポイントに、数多く言及してくださっているところもありがたいです。例えば、IT・ウェブ系企業法務の方だったら絶対でくわしているはずの、“無形の商品”の出願における指定商品・指定役務の指定の仕方に関するこんな記述が例に挙げられるでしょう。

ここで注意しなければならないのは、ネット配信の場合、ダウンロードが可能かどうかという点です。パソコンでインターネットを使用する以上、すべてダウンロードすることになりますが、これは広い意味でのダウンロードであり、商品分類の決め手となるのは、狭い意味でのダウンロードです。たとえば、音楽配信の場合、インターネット経由で送られてきた音楽をパソコンで楽しみ、聞き終わったらそれでお終いという場合、第41類の「音楽の提供(配信のみ)」としてサービスマークの対象になります。

一方、自分のパソコンやCD、MDにダウンロードして繰り返して利用することが出来る場合には、レコードやCDを買ったのと同じ扱いで、商品商標の対象になります。
コンピュータソフトの場合も、インターネットで提供されたものを、利用するだけであれば、第42類のサービスの提供になりますが、ダウンロードして繰り返し利用できる場合には、CD-ROMを買ってきたのと同じく第9類の商品になります。
しかし、ダウンロード可能かどうかで商品とサービスとに分類は分かれますが、いずれの場合も、提供するのはソフト会社であるため、類似商品役務審査基準では、第9類「電子計算機用プログラム」の「備考」として、「電子計算機用プログラム」は、第42類「電子計算機用プログラムの提供」に類似すると付記されています。したがって、第9類か第42類のいずれかで「電子計算機用プログラム」について権利を確保していれば、他のクラスの使用に対しても、権利を行使できることになっています。
「電子出版物」についても、第41類の「電子出版物の提供」に類似する旨の「備考」がつけられています。

なおこの「備考類似」では、審査の過程で審査官が職権でクロスサーチをすることはしませんが、情報提供や異議申し立てがあった場合にだけ審査の対象となりますので、ソフト会社では、積極的に第9類と第42類の両方のクラスで権利を確保するようにしています。

実務経験やノウハウという言葉で片付けられてしまいがちなこのあたりの実務的なポイントも、「頭でわかる」のと「説明できる」のとでは大違いです。


この商標教室、写真にあるように2分冊の判例研究編もあります。出版社の倒産による絶版とのウワサがありますが、是非『基礎編』だけでも探して読んでみてください。


商標教室 判例研究編
著者:小谷武
販売元:トール
(2003-10)
販売元:Amazon.co.jp

商標教室 判例研究篇 2
著者:小谷武
販売元:トール
(2004-08)
販売元:Amazon.co.jp


 

スタートアップといえども社名は商標登録しておいたほうがいい3つの理由

 
とかくキャッシュを大切に使いたいスタートアップ期において、法的な手続きにかかるコストにはうんざりさせられるもの。必要不可欠なものでなければ、「後でお金に余裕ができたらね・・・」となるのも無理はありません。

しかしそんなスタートアップの苦しい時期といえども、社名だけは早期に商標登録をして商標権を取得しておくことをお薦めします。「え?商標権って、具体的な商品名とかサービス名を決めるときとか、あわよくば商品・サービスがヒットしてから取得すればいいんじゃないの?」と言う方のために、以下その理由を3つにまとめてみます。


1.社名を商品・サービスブランドとしてそのまま“活用”できる


たとえばGoogleがわかりやすい事例ですが、社名であり検索サービスの名称であった“Google”がブランドとして認知されるようになった後、サービスの多角化にあたって“Google Map”、“Google Calendar”、“Google Docs”、“Google Reader”…という風に、ブランド名としての“Google”を流用して様々なサービスを展開しています(GmailやYoutubeやPicasaなど例外もありますが)。

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このように社名を商標として権利化してブランドとして育てれば、【ブランドとして権利化した社名+商品・サービスの機能を表す普通名詞】を組み合わせて用いることにより、商標権をいちいち抑えなくても安心して商品・サービスを展開できます

もちろん、商品・サービスを開発するごとに独自のユニークな名前を考えてもいいわけですが、このGoogle方式の方が新しい商品・サービスをリリースする際の機動性が確保できるだけでなく、商標権取得コストの節約にもつながるという点で、時代にあった賢い方法と言えるのでは。

2.同じ商号(社名)の会社が出て来ても対抗できる


会社を設立する際に商号(社名)を法務局に登記しているので、何か法務局が会社名を守ってくれるような錯覚を覚えますが、同じ名前の会社が存在しても、実は法務局は全くチェックしていません※1。従い、まったく別の会社があなたの会社と同じ社名で登記をすることも、似たような商品・サービスの商売をすることも、会社法上は可能となっています※2。

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そのため、万が一同じ会社名で同じような商品・サービスを提供する会社がすでに存在し、または後で誕生してしまうとも限りません。そうならないようにするためには、商号(社名)を商標として権利化してしまうのが一番。裏を返せば、商号を商標として権利化しておかないと、商品やサービスのパッケージや広告に会社名をブランドとして表示できなくなるおそれもあるということです。

※1 以前は同一の市区町村内では同一商号では登記できない制度になっていたが、現在の会社法ではこの商号規制が廃止された。
※2 既に有名になっている商号(社名)を真似することは、不正競争防止法により規制あり。

3.ドメインネーム紛争リスクを低減できる


webサービスのスタートアップでなくとも、広告宣伝と信用創造の手段としてインターネットにHPやblogを開設することは当たり前の時代。その際には、社名にちなんだ独自ドメインを取得するのが通常です。いやむしろ、イマドキはドメインの空きを調べてから社名を決めるのが通常かもしれません。

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しかし、ドメインネームが取れたからといって安心して商号(社名)として使うのは危険。ドメインネームは、その名前が商号として登記されているかどうかや商標登録されているかどうかとは無関係に取れてしまう(登録にあたりクロスリファレンスされるわけではない)ため、後でそのドメインネームに類似する正当な権利者が異議を申し立てた場合、不正競争防止法や日本知的財産仲裁センターのJPドメイン名紛争処理に基づき、ドメインネームの取消しや移転請求がなされる可能性があります。前述のように商号を商標権として抑えておけば、そのようなドメイン紛争に巻き込まれることもほぼなくなります


なお、社名を商標登録する際、商標権の“守備範囲”(指定商品・指定役務といいます)をどこまで広くとっておくかがポイントになってきます。広く取れば取るほど将来に渡って安心ですが、コストも高く付く場合があるからです。この辺については弁理士等や商標管理の経験のある人に相談して検討してみてください。


8:20追記:
以下Twitterで“弁理士兼技術系の弁護士(マイノリティ)”wこと、この分野にお強い高橋先生よりいただいたコメント。

実際、大変なことになっちゃったケースは私もよく耳にしますので。こうなると専門家に任せるしかないです。


参考文献:

商標法全般についての易しい解説はこちら。
なるほど図解 商標法のしくみ (CK BOOKS)なるほど図解 商標法のしくみ (CK BOOKS)
著者:奥田 百子
販売元:中央経済社
(2006-01)
販売元:Amazon.co.jp



ドメインネーム紛争について解説が詳しい。
インターネットの法律Q&A―これだけは知っておきたいウェブ安全対策インターネットの法律Q&A―これだけは知っておきたいウェブ安全対策
著者:岡村 久道
販売元:電気通信振興会
(2009-07)
販売元:Amazon.co.jp

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