企業法務マンサバイバル

ビジネス法務に関する本・トピックのご紹介を通して、サバイバルな時代を生きる皆様に貢献するブログ。

定年制

更なる定年延長義務の強化が、「古きよき終身雇用制度」の崩壊を招く


イギリスが「定年制廃止」をすると聞いて触発されたのか、ここ日本でも「定年延長」というアイデアを経済産業大臣が口にしたとのこと。



しかし、このイギリスの「定年制廃止」と日本の「定年延長」が似て非なるものであるということに、みなさんお気づきでしょうか。

英政府、4月から民間企業の定年制を撤廃(日テレNEWS)
これはイギリス政府が13日に発表したもので、「65歳」としている民間企業の定年制を今年4月から廃止する。これにより、今後、企業は年齢を理由に退職させることができなくなる。イギリスでは、財政再建のための大幅な予算削減に伴い、年金の受給年齢が68歳に引き上げられることになっていて、収入がない期間をつくらないよう定年をなくすことにしたもの。

英国職業技能省(Department for Business, Innovation and Skills)の公式アナウンスとガイダンスを読むと、「法律上経営側の権利として定められていた65歳定年制をremoveする」という言い回しになっています。ポイントは、デフォルトで設定されていた65歳定年制がなくなるというだけで、65歳以上まで雇うことを義務づけたものではない、という点。

法律上解雇に合理的な理由が必要な国において、「65歳になったから」という理由で円満に労働契約を終了できる定年制をなくすということは、合理的な理由となりえる事象(懲戒や成績不良)が1回でも発生すれば、65歳まで勤め上げることなく解雇される可能性も高まります(ガイドライン上も、そのことを肯定する説明がなされています)。つまり、お年寄りを保護するように見えて、実は企業による合理的な解雇を助長し、より労働者にシビアな競争を求めるものにもなりうる、“定年なき自由競争”への突入を宣言するものでもある、という点が重要です。


対して、日本はどうか。

年金支給年齢引き上げも=定年延長前提、中長期構想で−与謝野経財相
与謝野馨経済財政担当相は21日、首相官邸で開かれた新成長戦略実現会議の席上、「『人生90年』を前提として定年延長を考え、同時に年金の支給開始年齢を引き上げることが考えられる」と述べた。

こちらが考えたのは、定年制の延長。
つまり、イギリスのように定年制をあえてなくして“定年なき自由競争”とするのでなく、高年齢者等の雇用の安定等に関する法律に定められた、
第八条(定年を定める場合の年齢)
事業主がその雇用する労働者の定年(以下単に「定年」という。)の定めをする場合には、当該定年は、六十歳を下回ることができない。
第九条(高年齢者雇用確保措置)
定年(六十五歳未満のものに限る。以下この条において同じ。)の定めをしている事業主は、その雇用する高年齢者の六十五歳までの安定した雇用を確保するため、次の各号に掲げる措置(以下「高年齢者雇用確保措置」という。)のいずれかを講じなければならない。
一  当該定年の引上げ
二  継続雇用制度(現に雇用している高年齢者が希望するときは、当該高年齢者をその定年後も引き続いて雇用する制度をいう。以下同じ。)の導入
三  当該定年の定めの廃止
この高年齢者雇用義務を強化し、68〜70歳あたりまで引き上げさせることを考えているようです。イギリスよりもより明確に、企業に強制的に雇用という負担をさせようと考えているのでしょう。

しかし、年金の受給開始年齢引き上げ対策のはずのこの政策は、(イギリスと同様に)新たな労働問題を生むのではないかと、私は考えます。というのも、このような更なる定年延長がここ日本において現実のものとなったとき、日本政府の期待に反して、賢い企業経営者達は、68〜70歳まで大量の社員に居座られるリスクと不当解雇で一部の社員と紛争になるリスクを天秤にかけ、自ら定年制を廃止するという道を選択し、合理的な理由に基づく解雇を定年年齢前に行うようになるはずだからです。その結果、日本の高齢者も、ひいては若者も“定年なき自由競争”に晒されていくことになります。

意外なところから、いよいよ日本の「古きよき終身雇用制度」を崩壊させるきっかけが生まれそうな予感がします。
 

【本】いつでもクビ切り社会―定年制万歳!という考え方

 
もはや企業の人事担当者の中では有名無実化してしまっているのかもしれません。2007年10月の雇用対策法改正による“年齢差別の原則禁止”施策は。

本当に忘れてしまっている方のために補足すると、
「募集・採用時の年齢制限を原則禁止」とし、
「例外的に認められる年齢制限を行う場合であっても、制限する理由を書面(電子メールも可)で明示せよ」
というアレです。思い出していただけましたでしょうか?

一所懸命に法律で禁止をしても、履歴書でその人の年齢が見えている以上、書類選考の段階で企業が年齢で足切りすることは明々白々なわけで、いっそ履歴書に欠かせないなど年齢情報を収集すること自体を禁止しなければ有名無実化することは、誰の目にも明らかだったわけですが・・・。

このように、日本の雇用慣行との矛盾をはらんだまま企業の実態にそぐわない入口規制に対する問題提起を、私が初学者用の労働法本としてお勧めしている『プレップ労働法』を書かれた森戸先生が、1冊の新書にまとめてくださったのがこの本です。

いつでもクビ切り社会―「エイジフリー」の罠 (文春新書)



定年制の良さを残す、というアプローチ

本書の前半第1章から第4章では、出口の年齢差別である定年制を認めながら、雇用の入口において年齢制限を認めるのはおかしい、諸外国と同様に定年制も廃止しなければ、という問題提起から始まります。

この“入口と出口の矛盾”については、私も以前同様のことを指摘させていただきました。
日本における募集・採用時の年齢差別完全撤廃は、遠い未来の夢物語か(企業法務マンサバイバル)

ここで終わってしまうと並の労働法学者のお話なわけですが、森戸先生ならではの主張がちゃんと5章以下に。
その主張を要約すると、
・解雇規制が厳しく、能力がないという理由でドライに人を解雇
 することに馴れていない日本の雇用慣行を考えると、定年制を
 廃止するのは大混乱を招くだけ。
・世界動向を鑑みると、年齢差別禁止の方向にあるものの、人権
 差別問題として年齢を差別の要素と捉えるべきかには議論の余地
 がある。
・そうであるならば、むしろ人をドライに解雇しなくてすむ定年制
 の良さを生かす道を考えては。
という、一風変わった「定年制存続万歳」案。

エイジフリー社会にするということは、年齢による「割り切り」を、性別によるそれと同様、許されない「割り切り」として位置づける、ということである。では、本当に年齢は性別と同じ位置付をしてもよいものなのだろうか。言い換えれば、人生のあらゆる局面で年齢を目安に生きている日本国民に、この「割り切り」を捨て去る覚悟はあるのだろうか。

本来ウェットな能力不足による解雇を、年齢にかこつけてさわやかに行えるのが定年制の良さ。

年齢制限法制化が決まってまだ数年の日本において、この定年制の良さに代表される「日本的割り切り」を残すために、あえて募集・採用時の年齢制限を再び認める方向性を追及してはどうかと提言されるあたり、多忙な学究活動の傍らで労働市場の実態をきちんとフォローされている様子が伺われ、さすがだなと思います。

一見詭弁に見える「定年制を存続させることの意義」を、これだけ堂々と意見表明されているのは、現実の労働市場を知り尽くしているという自負があってこそできることだと思います。


年齢制限明示義務の強化による解決

とはいえ、定年制廃止を含む年齢制限禁止の流れは世界的な潮流でもあり、避けられない展開になっているのは森戸先生も認める事実。
これを踏まえて、森戸先生は、今回の本でより現実的で具体的な施策案も提案されています。

それが、年齢差別を正面から禁止するのではなく、「企業に課す年齢制限理由説明義務を、今より厳格なものにする」という案。

すでに募集書面での明示義務は高年齢者雇用安定法上で規定されているのですが、実はこの義務が法律に盛り込まれたのは、2001年の小泉内閣総合規制改革会議での森戸先生の提案によるものなのだそうです。これは初めて知りました。
この説明義務を今以上に厳格化することで、本当にその年齢制限が必要かどうかを企業自身に今一度考えさせ、ステレオタイプで差別的な年齢制限を踏みとどまらせよう、それでも年齢制限が必要というならさせたらいいじゃないか、という主旨。

法律上の義務を強化するだけでなく、きちんと行政側からも確認・指導するなどの施策と組み合わせれば、企業の年齢を用いた選考姿勢も変わるかもしれないし、落としどころとしては現実的かもと思える部分もあります。


そんな森戸先生ならではの「大人の解決策」にふむふむなるほどと感心しながら、最近の私自身の心境はというと、年齢制限禁止はやるならとことん禁止、つまるところ“履歴書を通じた年齢情報の収集禁止”にまで踏み切るべきではと思っていたりするのですが。

この話はまた追々。

今週のビジネス法務的ニュース・ネタまとめ 2009年3月第2週


65歳定年制は年齢差別ではない、とECJ判決(EU労働法政策雑記帳)

要するに、雇用政策、労働市場、職業訓練に関係する合法的な社会政策目的によって正当化されるのなら65歳定年も指令違反じゃないよ、といっているわけなので、実質的には政府側が勝訴と読むのが適切でありましょう。

本当は原文にあたるべきですが、hamachan先生の要約に甘えさせていただいて。

年齢差別を撤廃するには、先に定年制が撤廃されなければならないはずなんですが、ちょっとここ最近の世界の潮流とは逆行するような話に見えますね。


More Workers Cite Age Bias After Layoffs (WALLSTREET JOURNAL)

Figures scheduled for release later this week by the federal Equal Employment Opportunity Commission show that age-discrimination allegations by employees are at a record high, jumping 29% to 24,600 filed in the year ended Sept. 30, up from 19,103 in 2007.

差別に厳しいアメリカにおいても、不景気で真っ先に首を切られるのは高年齢者。しかし年齢差別は立証も難しく、なかなか勝ち目がないという現実もあります。


車両撤去土地明渡等請求事件(裁判所)

動産の購入代金を立替払する者が立替金債務が完済されるまで同債務の担保として当該動産の所有権を留保する場合において,所有権を留保した者(以下,「留保所有権者」といい,留保所有権者の有する所有権を「留保所有権」という。)の有する権原が,期限の利益喪失による残債務全額の弁済期(以下「残債務弁済期」という。)の到来の前後で上記のように異なるときは,留保所有権者は,残債務弁済期が到来するまでは,当該動産が第三者の土地上に存在して第三者の土地所有権の行使を妨害しているとしても,特段の事情がない限り,当該動産の撤去義務や不法行為責任を負うことはないが,残債務弁済期が経過した後は,留保所有権が担保権の性質を有するからといって上記撤去義務や不法行為責任を免れることはないと解するのが相当である。なぜなら,上記のような留保所有権者が有する留保所有権は,原則として,残債務弁済期が到来するまでは,当該動産の交換価値を把握するにとどまるが,残債務弁済期の経過後は,当該動産を占有し,処分することができる権能を有するものと解されるからである

今週弁護士・法務系ブロガーから最も注目を集めていたニュースがこちら。

債権回収のために設定した担保権(所有権留保)のせいで、オートローン会社が思いもよらず車の管理責任と負担を強いられるということに。

残債務弁済期の経過後に「占有する権能を有している」かどうかは微妙ですね。品川のよっちゃんさんも指摘されていますが、自動車のカギでも預かってないと、金かけてレッカーするしかないですしね。

いずれにしましても、安全のために担保権を設定することがかえってリスクを生むこともある、という視点を勉強させていただきました。


ソフト開発社員3人、名ばかり管理職に認定 東京地裁(NIKKEI NET)

「課長代理」の肩書を管理職とみなして、残業代を支払わないのは不当として、ソフトウエア開発会社、東和システム(東京・千代田)の社員3人が残業代など計約1億700万円の支払いを求めた訴訟の判決が9日、東京地裁であった。村越啓悦裁判官は「統括的な立場になく管理職といえない」として、同社に計約 4500万円の支払いを命じた。
判決によると、3人は1990年以降、同社のシステム開発部門で課長代理(後に課長補佐)の職位に就き、管理職としての手当を受領。残業代は支払われなかった。残業は多いときは200時間を超えることもあったという。

めっちゃわかりやすい、とってもありがちな不払いパターン。

ところで、私は職業柄残業手当不払いの会社を山のように目にしていますが、名ばかり管理職問題は氷山の一角に過ぎないと思っています。これが片付いたとしても、その後には「年俸制」や「定額残業手当制」を口実にした不払いという大きな山が残っているのは、まだあまり指摘されていないのです・・・。


Litigation Activity Accelerating in China(Law.com)

Chinese courts handled 10.71 million cases of various types in 2008, up 11 percent from the year before.
Even greater increases were seen in labor disputes, which jumped 94 percent to 286,221 cases, and disputes involving health care, housing and consumer rights, which were up 45 percent to 576,013 cases.

日本よりも一足お先に、中国が訴訟社会化してきました。

労働訴訟や消費者系訴訟の増加率が異様に高いのは、個人としての権利意識の高まりによるものなのかもしれません。

日本における募集・採用時の年齢差別完全撤廃は、遠い未来の夢物語か

 
最近、企業からご依頼いただく求人数がめっきり減ってしまい、私のいる人材ビジネス業界は本当に悲惨な状況です。まあ、この世の中の情勢では当たり前の結果なんですけど。

しかし、堀江さんにまで名指しで心配されてしまうとは・・・。
しかし・・・不況はどんどん進行しているようです。人材紹介会社は青息吐息らしいです。以前は紹介する人を見つけさえすれば、業績を上げられたようですが、今は、去年人を採用しすぎて内定取り消しすら出ている状況で中途採用なんか出来ません。ということらしいです。最大手のリクルートでも人材紹介事業は赤字だとか。他は推して知るべしです。


募集・採用時の年齢制限は禁止されたけれど

こういう時期には、景気拡大期と違い、企業からの求人依頼は欠員募集などのピンポイントな求人のみに絞られていきます。そしてこのピンポイントが行き過ぎて、企業も意識しないうちに法律上問題のある募集条件となってしまうケースも少なくありません。

特に、最近の不景気で問題が深刻化するのでは?と懸念しているのが「年齢制限」問題です。

2007年10月から施行された改正雇用対策法により、募集条件に年齢を設定することが原則禁止になったのですが、実態としてはそれが守られているのかは甚だ疑問な状態。

採用選考においては、希望者全員と面接するわけにもいかず、書類選考で履歴書に記載される年齢を使ってふるいにかけている企業は多いというのが実感値であり、「35歳転職限界説」はまだまだ根強く残っていると言わざるを得ません。


定年制がいまだ合法とされている国、日本

一方で、世界各国の年齢差別に対する対応は、日本のそれよりもかなり厳しく、またスピードについても2歩、3歩先を行っています。

例えば、アメリカでは1967年より年齢差別が禁止されていますし、EUでも2003年までには主要国に年齢差別規制が導入されています。

しかし、これら各国の年齢差別禁止法令には、日本の年齢制限禁止法の発想と決定的に違う点が1つあります。それは、年齢を理由とした労働契約の終了、つまり“定年制”をも原則違法としている点です。

年齢だけを理由とした労働契約締結の可否判断が非合理的ならば、年齢だけを理由とした労働契約終了の判断も非合理的と言わざるをえない。これが道理ですね。

一方日本の雇用対策法では、“定年制”という年齢による労働契約終了の非合理性についてはまったく触れずに、採用についてのみ禁止法が立法されてしまいました。

なぜ定年制については触れなかったのか。そこには、日本に根強く残る終身雇用という慣行の存在があります。

終身雇用を成り立たせる制度として、“定年制”は欠かせない表裏一体の制度です。解雇規制がなくなって、アメリカ並に解雇が原則自由にできるようにならない限り、終身雇用に一定の上限を設けるための“定年制”は無くせないわけです。


年齢差別を完全に禁止するためには、踏むべきステップがある

年齢だけで採用をしないと判断するのはナンセンスですし、先進国として恥ずかしい状態なのは間違いありません。それは誰も異論を唱えることはできないでしょう。

しかし、定年や解雇規制との整理を端折って、採用における年齢制限についてだけ規制をしたことで、改正雇用対策法は事実上骨抜きとならざるを得なくなってしまった、と言わざるを得ません。

 解雇規制撤廃⇒定年制禁止⇒採用における年齢制限禁止

このようなステップで、しっかりと議論を積み重ねる必要があったのではないでしょうか。

「日本は定年制を前提とした終身雇用の年功人事なのだから、採用において年齢は重要な要素でありつづけるのだ」
「定年という年齢を理由とした契約終了が認められるのに、採用では年齢を使うなというのはおかしい」
改正雇用対策法に対する各企業のこういった反論はごもっともなところ。今の状態では、仏作って魂入れずな悪法だと言われても仕方がありません。

安倍政権下でこのような中途半端なカタチで改正雇用対策法を立法してしまった「立役者」は、某美人女優を妻に持つ某2世議員と聞いていますが、所轄官庁である厚生労働省には、正義感だけでなく、このような企業の現実の声に応えた立法をして欲しいと思いますし、世の中の実情に鑑みて改正する勇気ももってほしいと思います。




関連エントリ:

募集・採用における年齢制限禁止についての一考察(リクルート ワークス研究所)
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