企業法務マンサバイバル

企業法務を中心とした法律に関する本・トピックのご紹介を通して、サバイバルな時代を生きるすべてのビジネスパーソンに貢献するブログ。

更新料

更新料の特約は有効 ― 慣習に従って判決文を書くだけの簡単なお仕事です

 
ついに、最高裁で更新料の特約が有効と判示されてしまいましたね。
(速報ベースの詳しい解説は町村先生のブログがお薦めです。)



そんなことになるだろうという予感はあり、約1年前にこんな記事を書いていました。たまには見立てが当たることもある、ということで。

更新料0円交渉成立 ― 改めてそのポイントまとめ(企業法務マンサバイバル)
さて、あくまで個人的な予想ですが、私は最高裁判決で更新料の“慣習”が全面的に否定される可能性は低いと考えています。そう仮定すると、せめて「自分の不動産賃貸借契約においては、更新料を支払うという“慣習”が無い状態」にしておくことが、次回以降の契約更新において非常に重要となるわけです。これから年末までに更新を迎える方は、多少月額賃料を上げてでも、更新料0円にすべく交渉を検討されてはと思います。

最高裁は、更新料は払うのが当たり前という“慣習”に従順すぎるほど従順でした。日本の不動産賃貸借契約の不明瞭さをすっきりさせる何十年に一度のチャンスも、これでしばらくは巡ってこなくなったわけです。当然の帰結として、不動産市場に増えはじめていた「更新料無物件」もめったにお目にかかれなくなるのでしょう。私個人としては、あの時大家と交渉して良かったという一言に尽きますが、借り手側の一人としては長期的に見ればやはり不幸な判決です。こうなったら、自分が貸し手側に回るしかないですか(笑)。

慣習をなぞってそれらしい文章を書いていれば給料を頂けるお仕事って、ラクでいいですね。
 

賃貸物件のオーナーが更新料(の相当額)を低リスクで徴収する方法

 
7/29および30にアップした、賃借人としていかに更新料の慣習を断ち切るかというエントリについて、批判的なコメントをいくつかいただきました。

原因は、オーナーサイド各位の感情を逆撫でするような内容となっていたからです。特に、7/30のエントリの「余談」部分がオーナーの感情を無視した物言いであるとのご批判を頂戴した点は、当該エントリの表現が目指した主旨がご期待にそえなかったものであり、残念に思うとともに、不快感を感じられたオーナーサイドの皆さんには申し訳なく思います。私が私の責任において発言する自由があるとともに、各位がエントリの内容についてどのような批判をされるのも自由であり、批判は甘んじて受けたいと思います。

なお、結果的にそう伝わってない方がいらっしゃるので仕方ないのですが、私としては現実のオーナーに対しては「余談」部分に記載した手段を行使するつもりはさらさらありません。加えて言えば、借地借家法32条の賃料減額請求権を行使した場合に(それが強力な形成権であるとは言え)裁判で勝てるかどうかについても否定的な見解です。以上2つの理由からフィクションである旨を併記した次第です。また、一方的に更新料支払いを拒絶したわけでもなく、更新料無しプラン/更新料有りプランという2つの選択肢を提示した上で、オーナーが更新料無しプランを選択し合意の上契約に至っている点も、あわせて申し述べておきたいと思います。

それでもなお、あのエントリのオチとしてあの「余談」を持ってきた主旨は、現実にそういう賃借人が出てきたら法律上はどう解決されるのか?という問題提起に他なりません。

では問題提起をした手前、更新料の支払いを拒絶しようとする賃借人に対し、賃貸物件のオーナーの立場からどのような対応がなしうるでしょうか。弁護士の方が運営されているブログでオーナーの立場からこんな検討をされていたので、以下ご紹介させていただきます。

更新料のリスク回避策(アヴァンセの企業法務インサイト 弁護士ブログ)
更新料に対する対応策について、弁護士の間でも様々な角度から議論がなされ、ほぼ出尽くしたかなという感じがしますので、その対応策を整理して紹介したいと思います。

1 更新料の徴収をやめる。
2 更新料を月額賃料に按分する方法で転嫁する(したがって、月額賃料の値上げとなります)。
3 中途解約の際に精算して更新料の一部を返還する(中途解約精算型一時金と呼ばれてます)。
4 月額賃料転嫁型と現状の更新料との借り主に選択させる。
5 定期借家契約に切り替えて、更新料の代わりに再契約料として徴収する。

以下リスクについて解説があった上で「どれもリスクがあるから選択はオーナー次第」と仰られていますが、私としては、オーナーが交渉のイニシアチブを握るという意味で、5の定期借家契約への切り替えを提案するのは効果的ではないかと考えます。賃借人にとっては、定期借家という聞きなれない契約形態がオーナーから提案され、それが「当然に次回の更新権は保証されていない契約形態である」と知れば、交渉上のパワーバランスを賃貸人に取り戻す一助になるのではと。その上で定期借家契約への移行に賃借人が乗ってきたときは、“再契約料”として更新料相当額を徴収する契約上の位置づけについて説明を尽くせば、消費者契約法違反のリスクも低減できるものと考えます。定期借家契約に切り替えられるのなら無理に更新料相当額(再契約料)を取らなくても、という考え方もあるでしょう。

(ちなみに、金崎先生のご意見でも、私が今回実際にオーナーに提案した手段、すなわち月額賃料に転嫁する方法は、くだんの「余談」で言及したとおり賃料減額訴訟を提起されるリスクがある、との指摘があります。)

その他の選択肢の検討結果も含め、オーナーサイドの皆さんにも役立つ記事かと思います。
 

更新料0円交渉成立 ― 改めてそのポイントまとめ

 
昨日ブログでお伝えした、マンションの賃貸借契約で更新料をしらっと請求された件、首尾よく更新料0円で交渉成立しました。

s-1285338_49862796


1)更新料をゼロにし、家賃を◯千円上げる。
2)更新料を支払う代わりに、家賃を◯千円下げる。ただしこの場合、
  他の物件も選択肢に加え更新するかしないかを再検討する。

この2つのオプションをオーナーに提示したところ、1での契約更新をオーナーが選択し、私の希望どおり、更新料を支払わずに更新することができました。

今回、ウン十万のまとまったキャッシュアウトを免れたこともさることながら、ここで断ち切らなければまた次回も繰り返されたであろう悪しき慣習を断ち切ったことが、大きな成果と思っています。

交渉のポイントとしては、単に法律や裁判例を振りかざして更新料支払いを拒絶するというスタイルを採らずに、オーナーにとってのメリット、すなわち「所有する賃貸物件の月額賃料を上げる」というメリットを提供したという点にあります。もちろん、上昇させる賃料×24ヶ月分がこれまでの更新料水準を超えない範囲に、しかし下回り過ぎない程度に設定する価格設定の妙も交渉上は大切ですが、基本的に月額賃料を上げますよというのは、オーナーとしては悪い気はしない提案だと思います。

タイミングも絶妙だったかもしれません。(昨日もご紹介したとおり)高裁判決では3勝1敗で更新料無効説が優位という現実がある以上、当然にオーナー側にはプレッシャーになっていたでしょう。逆に仮に最高裁で「更新料は慣習として有効」とオーナー側に有利な判決が出た後に更新を迎えていたとしたら、この交渉手段は通用しなかったはず。賃貸人/賃借人のどちらが法的に有利かという結論が出ていないカオスなタイミングで更新を迎えたのは、交渉のペースを作るのにもってこいな状況でした。

さて、あくまで個人的な予想ですが、私は最高裁判決で更新料の“慣習”が全面的に否定される可能性は低いと考えています。そう仮定すると、せめて「自分の不動産賃貸借契約においては、更新料を支払うという“慣習”が無い状態」にしておくことが、次回以降の契約更新において非常に重要となるわけです。これから年末までに更新を迎える方は、多少月額賃料を上げてでも、更新料0円にすべく交渉を検討されてはと思います。
 

余談 ― その後の妻と私の会話

妻:「更新料払わなくて済んでよかったね。でも、ホントに月額賃料上げちゃって良かったの?」

私:「ああ、でも実はこれにはカラクリがあるんだ。」

妻:「カラクリ?」

私:「月額賃料を上げたことで、近隣賃料相場よりも高くなってるはずだよね。そこで、何ヶ月か経ったら借地借家法第32条に基づく賃料減額請求権を行使して、上げた賃料を元の水準にまた下げるんだ。そうしたら更新料の慣習がなくなった上に、賃料も元通りってわけ。」

妻:「・・・ヤ◯ザだよね、それって。」

(この物語はフィクションです。)


賃貸借契約更新の時期がやってきたので、更新料について交渉してみた

 
今のマンションにはだいぶ長いこと住んで、もうそろそろ何回目かの契約更新の時期を迎えます。

・・・賃貸借契約の更新といえば、そう、更新料問題です。

私も法務パーソンの端くれ、更新料無効判決のニュースには敏感です。
年末にも最高裁判決が出るのではと言われているこの問題、現状をまとめたものを見てみると、現在のところ高裁では3勝1敗で無効判決が勝っている状況。

s-IMG_0866週刊東洋経済6/19号より


私の住まいは分譲マンションのオーナーが賃貸に出しているパターンなので、契約管理はその大手マンションデベロッパーの子会社が担当しています。今回も、そのデベロッパー子会社から更新手続きの封書が届いたのですが、内容はこれまでと一言一句変わらず、更新料を◯か月分しらっと請求するもの。更新料無効判決も何のそのです。

おお〜そうきたか、ということで、しばらく交渉のオプションを整理した上で、連絡先に指定されている大手デベロッパー子会社に電話をしました。

私:「更新料の請求書をいただきましたけど、御社はこのご時世でもなお更新料を請求されるというスタンスなんですか?このご時世というのは、つまり、更新料無効判決がいくつも出ている中で、ということを申し上げていますが。」

管理会社:「いえ、弊社がというわけではありません。更新料のご請求はオーナー様のご意向なので。」

私:「いや、オーナーだけの意向じゃないでしょう。更新料のうち何%かは、管理会社として契約更新手続きにたずさわる御社にも取り分がありますよね。」

管理会社:「いえ、オーナー様の意向ですので。」

私:「そうですか、それなら私からオーナー様へ2つのオファーをさせて頂きたいと思いますのでお伝え下さい。1)更新料をゼロにし、家賃を◯千円上げる、2)更新料を支払い、家賃を◯千円下げる。私の希望はあくまで1)ですが、もし無理なのであれば、他の物件を含めて残る2)の選択肢を取るかどうか、検討させていただきます。」

管理会社:「わかりました。お住まいの地域の家賃水準もお調べした上で、オーナーに検討していただきます。」

こんな感じのやりとりで7分ほどの交渉。
更新手続きを代行する管理会社に更新料の取り分がない(更新手続きをタダで代行する)というのは私の常識ではにわかには信じがたいのですが、ハッタリだとしたら電話の担当者さんは大したものです。

さて、私が提示した2つのオプションのうちの1)について、更新料ゼロを家賃値上げとバーターにした点はお人好しのように見えるかもしれません。しかし、これがよくよく考えた末の私なりの更新料無効判決に対する見解なのだと思っています。つまり、慣習に甘えた説明不十分な(消費者契約法的には違法な)請求であるという誹りはあれど、オーナーの立場で考えれば更新料はやはり家賃と同様の“収益源”。更新料という形では払わないにしても、2年分の賃料の一部を一括前払いするリスク料を割り引いた金額は、(家賃相場が下落していない場合には)家賃に乗せて支払うのがフェアなんだろうな、という見解です。

いくら上乗せするか、ここは互いのリスク料の見積り次第なわけですが、私の場合は結構長いこと住んで滞納もない優良賃借人を自負していますので、オーナーサイドは低く見積もってくれるのではないかと期待してますし、私もこれまでオーナーにはよくして頂いた御礼を込めて、合理的な金額を提示させていただいたつもりです。
 
ところで、この大手デベロッパー管理子会社さん、これまでの裁判では更新料についての説明不足で消費者契約法違反を問われているという現状がある中で、更新料の意味・内容・内訳について説明文書も何も無いって言うのもどうなんでしょうか。こんなノーガードな請求の仕方では、今はおとなしい賃借人からしらっと更新料を回収できればいいとしても、年末に最高裁で全面無効判決がでた場合には更新料の返還訴訟にまったく対抗できなくなるのでは?と思うのですが。不動産に疎い私が生意気を申し上げるのもなんですが、果たして法務は機能しているのかとちょっと心配になりましたよ・・・。
 
記事検索
月別アーカイブ
プロフィール

はっしー (Takuji H...