企業法務マンサバイバル

企業法務を中心とした法律に関する本・トピックのご紹介を通して、サバイバルな時代を生きるすべてのビジネスパーソンに貢献するブログ。

株主総会

株主総会のトレンド

 
企業法務パーソンが多忙を極める株主総会ハイシーズンが、今年も終わりを告げようとしています。

株主総会ピーク、1100社 ANA・大王製紙など開催 (日本経済新聞)
3月期決算企業の株主総会が27日ピークを迎えた。日本経済新聞社の集計では上場企業全体の43%にあたる約1100社が開催。株高局面で増えた個人株主らは企業の成長戦略やコーポレートガバナンス(企業統治)への関心を強めており、今年は出席者が最多となる総会も目立つ。

総会シーズンってだけでそわそわして仕事に集中しにくいのに、4月の組織変更後の新組織が安定稼動し始めて案件が動き出す時期でもあって、通常の案件も増えたりするんですよね。心なしか、各法務ブログやSNSのほうでも企業法務系の方の投稿が減っていたかなと感じましたが、きっと気のせいではないでしょう。

私も、最近のトレンドの勉強のために、久しぶりにいくつかの会社さんの総会をウォッチさせていただきましたが、そこで共通して感じたことを3つほど。

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1 社長の喋る量は増える一方


2000年以降「開かれた総会」が合言葉のように唱えられましたが、実際はあえて社長があえて質疑応答の場面で回答せずに、議長として司会進行に徹する昔ながらの会社さんもまだまだ多かったと思います。しかし最近は、若く頭のやわらかい方が社長を務める新興企業が増えたこともあってか、社長が積極的に発言をするのが本格的トレンドになっているよう。他の取締役が管掌する事業であっても、その取締役の回答の後に社長としての意見を添えるスタイルが目につきました。
プレゼンの上手さ、誠実なキャラクター、頭のキレ・・・ウリにする部分は社長それぞれなれど、社長が積極的に喋る総会ほど、株主にとって満足度の高い総会となることはどうやら間違いがなさそう。株主は社長の器に投資しているところもあるわけで、直接社長と対話できる1年に1回の場なんだから社長の頭のなかを少しでも多く覗きたい、ということなのでしょう。

2 個人株主の質問レベルが上がっている


冒頭の日経記事にあるように総会に参加する個人株主が増えているだけでなく、その質疑応答のレベルも数年前とは比べ物にならないほど上がってますね。自分が想定問答集を作成しひな壇事務局を担当していた頃とは、隔世の感がありました。「事業報告書◯◯ページのこの数字ですが・・・」など、具体的な記載の確からしさについて質問される株主が増えてますし、配当性向などについても「17%だったのが15%程度にこの2年下がっている」「◯◯社や××社は20%であり、比較しても低い」など、具体的な数値を示しながら質問する方も。いや本来総会とはそうあるべきなのですが、ぶっちゃけ事業報告書や参考書類の作成担当者しか把握してない細かいデータもあるわけで、時間を置いて事務局に調べさせて回答をしている場面もちらほら見かけました。ネット証券によって個人株主が一気に増えてから数年経って、個人の方も勉強されかつ経験を積まれてるんだなと。
上場会社においては四半期決算プレゼンとの整合性も当たり前のように見られて突っ込まれます。「本日の報告事項・決議事項とは関係がない」と言いたいところですが、内容的にはそう一刀両断しにくく、対処に苦難されている場面もありました。
あと余談ですが、かならずいらっしゃるただただ株価に不満を唱える個人株主に対し、経営陣が「今の当社の株価水準は大変不満である」「正しい評価がされていない」とはっきり回答する場面に何回か出くわしてびっくりしました。「株価は市場の需給によって形成されるものであり、弊社が論評すべきものでは云々かんぬん・・・」が常套句だと思っていた私が古い人間のようで、時代は変わるものです。

3 お土産渡すのっていつの間にか当たり前になってるの?


個人的には総会にはお土産なんていらない派なんですが、頼んでもないのに(しかも事業とは直接関係のないお菓子などを)配る総会が急に増えた気がします。あれって、一度配り出すとやめにくいですし、なんで会議にお土産が必要なのか本当に意味がわからないのですけれど。これがトレンドになると、運営する側としてはいやだなーと思います。毎年違うものを選ぶの大変ですし、準備項目も増えますしね。


ということで、総会を担当された法務のみなさま、お疲れ様でした。
 

【本】Q&A株主総会の実務 ― これは商事法務の新しいマーケティング戦略なのか

 
3月決算の上場会社にお勤めの法務・総務のみなさんは、この連休を挟んで招集通知と参考書類も仕上げに向けて佳境に入る頃で、株主総会モードにも拍車が掛かってくる頃でしょう。私も、毎年この時期は総会関連の書籍を読んで、会社法周りの実務知識のアップデートを心がけているところです。

特に、私が総会担当者だったころよりも増えているであろう
・株主提案に対する対応(総会当日の投票実務)
・委任状勧誘の限界
・招集通知のweb修正(twitterでも話題がちらほら)
・非株主の代理人出席対応(ウッドフォード氏の例)
・利益供与(モリテックス事件のクオカードとか)とお土産価格相場
のあたりは、トレンドを抑えておかなければという課題意識を持っていました。

そんな視点で今年選んだお薦めの1冊がこちら。


Q&A株主総会の実務Q&A株主総会の実務
著者:桃尾松尾難波法律事務所
販売元:商事法務
(2012-03)
販売元:Amazon.co.jp



この本を見つけたのは丸の内oazo内の丸善でしたが、同じ商事法務さんから出ている西村あさひの『株主総会の実務相談』とこれが並べておいてあって、2冊があまりにもコンセプトが一致、内容的にも丸被りなところにびっくりました(笑)。さすがにどうなんでしょう。総会シーズンだからとは言え、同じ時期に同じ出版社から同じコンセプトの本を(別の著者で)出すというのも珍しいというかなんというか。

ためしに目次を並べてみると

『Q&A株主総会の実務』『株主総会の実務相談』
第1章 開催手続

第2章 招集通知・書面投票制度

第3章 株主提案

第4章 委任状勧誘

第5章 閲覧謄写請求

第6章 検査役選任

第7章 会場と開催時刻

第8章 事前質問

第9章 受付の事務

第10章 お土産

第11章 議事整理・議事進行

第12章 説明義務

第13章 動議

第14章 議案の採決

第15章 利益供与

第16章 総会終了後の実務
第1 章 株主総会の概要

第2 章 株主総会の準備
 第1 節 招集手続
 第2 節 書面投票制度
 第3 節 委任状の勧誘
 第4 節 株主提案権
 第5 節 定時株主総会前の有価証券報告書の提出
 第6 節 利益供与の禁止

第3 章 株主総会当日の運営
 第1 節 受  付
 第2 節 議事の運営
 第3 節 質疑応答
 第4 節 動  議
 第5 節 決議方法
 第6 節 議決権行使に係る諸問題

第4 章 種類株主総会

第5 章 特殊状況下の株主総会
 第1 節 少数株主が招集する株主会
 第2 節 総会検査役の選任
 第3 節 震災時における株主総会

第6 章 各種書類の閲覧・謄写請求

第7 章 株式買取請求権

第8 章 株主総会等の電子化
 第1 節 株主総会の電子化
 第2 節 株券電子化

第9 章 株主総会後の手続


建付けは違えども、入っているコンテンツはほとんど同じ。ただし、西村あさひの『株主総会の実務相談』のほうが160ページ厚く、その分情報の絶対量は多いとは思います。後は、
・文体やレイアウトの読みやすさ
・値段
ぐらいしか差別化要素がないところ、ゴシック体のフォントや罫囲みを多用してあえて教科書チックではない編集にしている点が読みやすくできていた点と−2,000円お安い点が優位点でしょうか。実際のところ、迷いすぎて2冊とも買っちゃいそうになりましたが、すんでのところで踏みとどまりました。なお、Q&AのQについては商事法務さんのHPで確認できますのでご参考まで。

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結論。西村あさひの『株主総会の実務相談』は会社に置いておく公式教科書として会社の予算で買っていただき、こちらの『Q&A株主総会の実務』は自分のアンチョコ的にお小遣いで買うっていうのではどうでしょうか(著者の皆様には失礼な言い方に聞こえたら申し訳ございません)。

というか、商事法務さんが確信犯的にそんな売り方を考えていたとしたら、まんまとそのマーケティング戦略にハマっているだけのような気がしてきました。
 

【本】株主総会と投票の実務―総会での決戦投票に備えて「出席票一体型の投票券」と「アクリル製の透明な投票箱」は早めに発注しておくべし

 
私が誇りにしているこれまでのキャリアの一つに、株主総会の準備・運営業務経験があります。

・招集通知、参考書類、議決権行使書といった文書の準備
はもちろんのこと、
・総会のシナリオを作成し、
・議場をおさえてイベント業者に発注して会場設営し、
・係りを社員に割り振ってレクチャーし、
・株主総会当日は運営事務局として議長の後ろで
 顧問弁護士と一緒に議事進行を管理しつつ、
・株主からの質問に回答する社長・役員向けにカンニング
 ペーパーを書画カメラを使ってモニターに映し出す
ところまで、なんでもやってました。

会社法知識を中心とした専門性と調整能力の両方を求められる難易度の高い仕事という自負があったのですが、転職活動していてもこのキャリアはまったく売り物になりませんでした。これは意外でしたね。
まあ、売り物にはならなくても、プロジェクトマネジメントの難しさ・コツを学ばせてもらった仕事であり、また法的な責任も伴う大きなイベントを無事にやり遂げたという自信にもつながる仕事でしたので、私の中の誇りには変わりはないのですが。

非上場会社に転職してからというもの、こういう“総会屋”的仕事はなくなってしまい、この時期のリアルな緊張感こそ味わえなくなってしまったわけですが、最低限の知識のアップデートはしようと、この季節になると会社法や株主総会関係の本を読むようにしてます。

そんな中でも、株主総会の変化を的確に捉えたいい本がでていたので、是非ご紹介を。

株主総会と投票の実務




拍手や発声で決議することの法的解釈

法務でない方でも、株主総会に一度でも出たことがあれば、違和感を感じたことがあるはず。

形式的に議場に諮っているだけの、拍手や「異議なーし」という発声による白々しい意思表示で淡淡と議案が決議されていく、あの異様な会議の姿に。

この拍手や発声をもって決議とみなすことのアバウトさに関する法的解釈について、はっきりと文字で書かれたものを見たのは、この本がはじめてかも。
会社に提出された包括委任状と出席する役員等の議決権数を加えれば、通常は、議案の成立に必要な議決権数は確保される見通しが立つため、総会上で、出席株主の議決権数をいちいち確認することはせず、拍手等のアバウトな方法で済ませているわけである。拍手等の持つ意味は、大株主(またはその代理人)等の賛否の確認と多数の賛成を得たという外観を得るためという程度にすぎない。

ちなみに、私が事務局にいたときは、議長に「最前列向かって左側に座る大株主5名の意思表示をもって賛成多数が確認されますので、視線を送ってきちんと確認した上でシナリオをすすめてください」と念を押していました。

前職の総会も株主の皆さんにとっては“白々しい会議”ではあったのでしょうが、裏方はかなり真剣に“法的に無効と言われない会議”になるように気を配ってたりするんですよ。


そろそろ投票の準備もしておきますか

そんな白々しい「シャンシャン総会」が当たり前だった日本でも、最近では持合いの解消や株主の権利行使意識の高まりから、議案の成立に必要な議決権数が確保できるかどうかが当日まで定かにならず、投票を行うケースも増えてきています。

商事法務研究会編『株主総会白書2008年版』によれば、3社が投票を実施したとのこと。こうなってくると、総会を運営する会社側としては、当日の“決戦投票”の準備は、しておいてもしすぎることはないでしょう。

株主総会における投票の方法には、大きく分けて
1)挙手(起立)
2)書面
3)電磁的方法
の3つがあるわけですが、議決権カウントの正確さと準備の簡便さのバランスから2)の書面投票が一番適切ということで、この本ではこの書面投票を中心に、具体的準備の方法が述べられます。

ここからは、元三菱UFJ信託で証券代行の視点から総会実務を知り尽くした著者中西敏和さんの強みが最大限発揮される部分。
必要な文書の準備から、受付事務、集計事務、採決に至るまでの法的ポイントを細かくフォローしてくれます。

投票の実践にあたり、特に前もって準備しておいたほうがよさそうなのが、
・出席票と一体化した投票券
・アクリル製の透明の投票箱
の2つ。
後のものは直前でもなんとか間に合いそうですが、この2つだけは前もってどこかに発注して作ってもらう必要ありと思われるので、早めのご検討を。

今年は大丈夫そうだけど、来年あたり議案によっては議決権行使の雲行きが読めないかも・・・という将来の不安を抱えている会社の担当者さんにも、会社法知識の整理とあわせて、安心のためのお守りとしてオススメします。

【本】会社法マスター115講座―インターネット+この本で、濃ゆーい会社法セミナーが受講できます

 
そろそろ総会シーズン真っ盛りですし、会社法の本を取り上げておきましょうか。


この本をテキストにした著者葉玉先生ご自身によるインターネット講義が、出版社が開設している特設ページで見られちゃうところが、この本の最大のウリ

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この本自体は、会社法1テーマを1ページ+図表1〜3ページで見開きで整理したもの。なので、この本で会社法を一から勉強するというよりは、基本書や実務を通して勉強する中でぐちゃぐちゃになってしまった頭の中の知識を、すっきり整理するための本といった感じ。

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そういう使い方だけでも十分この本の価値はあります。けれども、上記で紹介したインターネット講義とこの本を組み合わせると、初学者でも会社法をきちんと理解できる、濃ゆーい有料の法務セミナーを受けているような充実感に襲われること請け合いなのです。

まだ2回分のコンテンツしか公開されていないのですが、1回あたり2時間/全10回に渡って会社法の背景とポイントを講義してくれます。
※どうやら、この講義は将来的にはDVDで販売されるみたいです。

これからは、こういった社会人向けのセミナーも自宅で手軽に受講できる時代になっていくんでしょうね。

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