企業法務マンサバイバル

企業法務を中心とした法律に関する本・トピックのご紹介を通して、サバイバルな時代を生きるすべてのビジネスパーソンに貢献するブログ。

約款

【本】『選択しないという選択』― Amazonダッシュボタンに利用規約の未来が見える

 
全体を通じて翻訳が硬めなところが気になるものの、法や契約・利用規約によってルールを作る法務パーソンであれば、レッシグの『CODE VERSION 2.0』とあわせて読んでおくべき一冊。





利用規約・約款は、たくさんの利用者を取引相手とする消費者取引には欠かせない契約文書です。ほとんどの利用者は、冒頭をちら見する程度で同意ボタンを押しますが、一部の人は、激しい嫌悪の対象としてこれを捉えます。利用規約の多くが企業に一方的に有利に見え、たとえ内容に納得できなくてもそのサービスを利用する以上同意するしかない、という点にあるのでしょう。

その嫌悪レベルが許容ラインを越えると、こんな事件に発展することもあります。

消費者団体、ドコモを提訴 同意なく約款変更「不当」 (日本経済新聞)
利用者の同意なく携帯電話サービスの約款を変更できるのは不当だとして、さいたま市の消費者団体が25日、NTTドコモに約款を変更できる条項の使用差し止めを求める訴訟を東京地裁に起こした。
原告のNPO法人「埼玉消費者被害をなくす会」によると、2015年にそれまで無料だった請求書の発行手数料が原則1通100円となったことをきっかけに提訴した。

約款を変更した目的は何だったのか?NTTドコモの2014年7月14日付報道発表資料を読んでみました。口座振替、クレジットカード、請求書の3つの支払い方法のうち、口座振替またはクレジットカード払いを選択していた利用者に対しては、ドコモに対し書面送付を積極的に要求した場合には50円の追加費用を請求(電子交付なら無料化)し、請求書払いを選択していた利用者については、支払い方法自体を(口座振替またはクレジットカード払いに)変更しない限り、自動的に毎月100円を請求するという方法に変えたようです。これによって、利用者が請求書払いを選択する以上は、サービス料とは別に100円を支払うしか選択の余地がないことなりました。

それまで3つの支払い方法を認めてきたドコモとしては、口座振替またはクレジットカード払いをデフォルト・ルールとし、過去請求書払いを選択してきた利用者をそちらに誘導したかったのかもしれません。有償サービスでありしかも生活インフラである携帯電話の料金請求において、そのような不利益変更が許されるのか?この点が論点となりそうです。


さて、少し話は逸れましたが、このように世の中から嫌悪の対象とされがちなデフォルト・ルールも、一定の範囲で許容する実益があるのではないか。著者サンスティーンは、本書全編を通じてきわめて楽観的に、力強く擁護します。

個別化したデフォルト・ルールは多くの領域で今後の流れとなっていく。多様な人々が情報にもとづいて判断した選択についての大量の情報が利用できるようになるに伴い、個別化が大幅に進むのは避けられないだろう。来たるべき波はすでに動き出している。それが重大なリスクを生むであろうことを誰も疑うべきではない。プライバシー、学習、自己の能力開発の重要性――そして多くの状況で能動的選択を要求することの必要性を私は力説してきた。しかしおおいに楽観視する理由がある。時間は貴重である。おそらくほかの何よりも貴重であり、もっと時間があればもっと自由になり、より多くの能動的選択ができるようになる。場合によっては、選ばないことが最善の選択である。個別化したデフォルト・ルールは、われわれがよりシンプルに、より健康的に、そしてより長く生きられるようにしてくれるだけでなく、もっと自由になれると約束してくれる。(P221)

ビッグデータの力を借りて、デフォルト・ルールを適切に個別化することができる時代になれば、人間はさらなる時間と自由を手に入れることができる。もしそのデフォルトルールが受け入れられないなら、利用者は「選択しないという選択」をすればいい。不適切なサービス・企業は自然淘汰され、適切なデフォルト・ルールだけが残っていくのだ。そうサンスティーンは述べます。


デフォルト・ルールを適切に個別化するための手法として、サンスティーンは、ビッグデータの活用を前提としています。データのプライバシー性もさることながら、その提供するモノやサービスを選択の性質に配慮して、何をどの程度個別化していくのかが重要なポイントです。AmazonやWalmartが取り組む「予測ショッピング」システムを題材にこの考え方を整理した第7章は、利用規約・約款を取り扱う企業法務パーソンにとって参考になることでしょう。

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左上の欄の項目は、選択にかかる判断のコストが小さく、関連する選択はコストではなく利益となる。このような場合、予測ショッピングを選ぶ理由はほとんどない。能動的選択が重要となる。一方、右上の欄は難しい選択がかかわる――しかし多くの人にとって、こうした判断を下すことは利益となる。この場合、予測ショッピングは楽しみを奪うので望まない人が多い。
左下の欄は予測ショッピングに最適である。このような買い物は楽しくないからだ。しかし選択のコストは小さいので、急いで自動化する必要性はない。自動化する価値があるかどうかは、関連する時間を節約することで大きな利益があるかどうかによる(略)。予測ショッピングにとっては右下の欄が最も重要である。この場合、選択することは面白くも楽しくもなく、また選択が難しいので、自動化することに実質的な価値がある。予測ショッピングが正確で簡単になれば、自動購入を支持する有力な論拠となるだろう。予測ショッピングが本当の利益をもたらせるのはこの状況である。(P197-198)

さて、この表の左下の欄をもう一度ご覧ください。選択することが面白くも楽しくもない × 簡単もしくは自動的な“予測ショッピングに最適”なものの例として、歯磨きなどの家庭用品が挙げられています。これを見て、Amazonが最近始めた「Amazonダッシュボタン」のことを思い浮かべた方もいらっしゃるのではないでしょうか?

Amazon Dash Button
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完全自動化とはせずにシンプルなボタンを押させる形を採用してはいますが、これぞまさに、顧客と商品の特性に合わせたかたちでデフォルト・ルールを個別化し、利用者がほぼ無意識に同意して(させられて)いるボタンそのものと言えるでしょう。「個別化したデフォルト・ルール」なる利用規約・約款の未来は、こんなかたちですでに実現されているのです。

Amazonアフィリエイト紹介料率変更の有効性

 
Amazonがアフィリエイトプログラムの紹介料率を変更するとの連絡が本日メールで到着。しかも今回は昨年変更されたCD/TVゲーム/服といったジャンルではなく、本がその対象となっています。適用は6月1日から。2週間前通知ってことなんでしょうね。私もチリも積もればで結構な額をAmazonさんから頂いてきましたので、影響が無いといえばウソになります。


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たしかに、条件変更の可能性については、紹介料率の変更含め、かなり具体的に規約に明示されています(太字は原文ママ)。

Amazonアソシエイト・プログラム運営規約
15. 修正
甲は、本規約(および運営文書)に含まれる条件を、amazon.co.jpのサイトに変更のお知らせ、修正済み規約、または修正済み運営文書を掲載することにより、いつでも、甲の独自裁量にて修正する場合があります。修正には、例えば、アソシエイト・プログラム紹介料率表、アソシエイト・プログラム参加要件、支払手続、およびその他のプログラム要件の変更が含まれる場合があります。甲の修正に乙が同意できない場合は、乙の唯一の対応方法は本規約を解除することだけです。アマゾン・サイト上に変更のお知らせ、修正済み規約または修正済み運営文書が掲載された後も引き続きプログラムに加入していただいている場合は、乙がその修正を拘束力のあるものとして承諾したものとみなします。

契約論的には、利用規約・約款を用いた契約において、このような一方的な契約内容変更権条項・価格変更件条項が有効なのか?という論点はあります。この点、消費者契約法の以下の条文の適用の余地を検討する必要があります。

(消費者の利益を一方的に害する条項の無効)
第十条  民法 、商法 (明治三十二年法律第四十八号)その他の法律の公の秩序に関しない規定の適用による場合に比し、消費者の権利を制限し、又は消費者の義務を加重する消費者契約の条項であって、民法第一条第二項 に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するものは、無効とする。

ほらみろAmazon乙!と快哉を上げたくなる方もいらっしゃるかもしれませんが、今回の件については、特に影響があるであろうアフィリエイトを食い扶持にしているようなプロブロガーさんについては、残念ながらこれは適用されません。なぜなら、消費者契約法第2条において、

第二条  この法律において「消費者」とは、個人(事業として又は事業のために契約の当事者となる場合におけるものを除く。)をいう。

となっているから。特にアフィリエイト報酬で生計が立っちゃうようなプロブロガーさんであればなおさら「事業のために契約の当事者となる場合」にあたると考えられ、消費者ではないとされてこの法律では守られないでしょうね。


なお、実際にそうなるかどうかは微妙な情勢なので参考までに、ということでご紹介しますが、約款の変更についてはいま法務省が進めている民法(債権法)改正議論でも論点となっており、中間試案においてこのように触れられています。変更の法的有効性を検討する観点としては、参考になるかもしれません。

「民法(債権関係)の改正に関する中間試案」(平成25年2月26日決定)
4 約款の変更
約款の変更に関して次のような規律を設けるかどうかについて,引き続き検討する。
(1) 約款が前記2によって契約内容となっている場合において,次のいずれにも該当するときは,約款使用者は,当該約款を変更することにより,相手方の同意を得ることなく契約内容の変更をすることができるものとする。
ア 当該約款の内容を画一的に変更すべき合理的な必要性があること。
イ 当該約款を使用した契約が現に多数あり,その全ての相手方から契約内容の変更についての同意を得ることが著しく困難であること。
ウ 上記アの必要性に照らして,当該約款の変更の内容が合理的であり,かつ,変更の範囲及び程度が相当なものであること。
エ 当該約款の変更の内容が相手方に不利益なものである場合にあっては,その不利益の程度に応じて適切な措置が講じられていること。
(2) 上記(1)の約款の変更は,約款使用者が,当該約款を使用した契約の相手方に,約款を変更する旨及び変更後の約款の内容を合理的な方法により周知することにより,効力を生ずるものとする。

ただし、これは事業者による約款変更を認めない方向にもっていくための改正ではなく、利用規約・約款の変更は多数当事者に対して継続的に役務を提供する取引においては不可避であるため、ア〜エのような「変更が正当と認められるための4つの要件」を明らかにすることで、その法的安定性を明確にすることが目的と言われています。


さて少し脱線してしまいましたが、Amazonさんちょっと冷たいですね(泣)という感情論はあっても、現行法に則って評価すると、上述したとおりアフィリエイトというサービスの性質上消費者契約法の世界とも関係なく、対等な二者間の契約論という前提でアフィリエイト開始時に利用規約に同意し、そして2週間前というある程度の期間を置いてメールによる能動的通知がなされている以上、いやだったら契約解除して使うの辞めれば?というAmazonの言い分に反論する武器が見当たりません。もし、Amazonのアフィリエイト規約がユーザー側からの解除権を認めていなかったら(つまり一定期間アフィリエイトを続けなければいけない義務をユーザーに課していたら)、それは事業者間といえども公平に欠けるという評価もあり得ますが、ユーザーの解除権を正面から認めている点からも、この変更は有効ということになると考えます
 
きっと今回の件を受けて、「やっぱり利用規約とか約款で一方的な条件を押し付けるのはけしからん!厳しく約款を規制しろ!」と盛り上がる方がいるんだと思いますが、ユーザー側にも「利用規約を良く読んでリスクを分析・把握してからサービスを使う義務」というのもあってしかるべき、と思います。

 
良いウェブサービスを支える「利用規約」の作り方良いウェブサービスを支える「利用規約」の作り方 [単行本(ソフトカバー)]
著者:雨宮 美季・片岡玄一・橋詰卓司
出版: 技術評論社
(2013-03-19)
販売元:Amazon.co.jp

 

「約款が法律で規制されるらしいよ」と聞いて民法改正をはじめて知る人は少なくない、という事実が物語るもの

 
このへんの記事をきっかけに、法務パーソンではない友人・知人数人から民法改正について尋ねられるという経験をしました。

時代遅れの約款に法務省がテコ入れ?(スラッシュドット・ジャパン)
アプリケーションなどの利用など、必ず読まされることの多い「約款」。記載されている内容は重要だが、ほとんどの人は読み飛ばして Yes を選択していることが多い。この約款をめぐるトラブルが頻繁に発生していることから、法務省は関連する民法を見直す動きを見せているらしい (MONEYzine の記事より) 。

法務パーソンからすれば、「何をいまさらそんな話をしているの?」「べつに約款をめぐるトラブルが頻繁に発生しているから民法改正するわけじゃないよね・・・」と苦笑されるかもしれません。しかし、実際はそういった民法改正を知ってる人のほうが少ないのであって、日常生活の中で“契約”を意識するのはウェブで「利用規約に同意」ボタンを押すときぐらいの一般市民感覚からすれば、そういった日常生活にも影響や変化を及ぼす法改正があるんだよって言われてはじめて、「あ、なんか自分たちにも関係ある話なんだ!」と思えるということなんですよね。関係者のみなさんは「3年前からきっちり議論してました」とおっしゃいますが、普段法律を意識せずに生活できる一般人には、その改正の方向性や内容はおろか、民法が改正されようとしているということすらまだぜーんぜん広まっていないんだということは、特に法改正を強力に推進されようとしている内田貴氏やその他関係者のみなさまにはぜひご理解いただきたいところです。

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「国民が民法を読んで分かるようになるのは無理」というびっくり発言by内田貴氏もあったよみうりホール3/16講演会にて撮影


ちなみに、その約款に関して、民法改正で何がどう変わろうとしているのかを正確にお知りになりたい方は、今まさに法務省が国民に広く意見を求めるためのパブリックコメントの手続中で、そこに資料としてアップロードされている「民法(債権関係)の改正に関する中間試案の補足説明(PDF)」のP377ー390に記載されています。簡単にまとめると、
1 規制対象となる「約款」とは何かがはじめて定義される
2 約款が利用者との契約条件として有効に組み入れられるための要件が明確化される
3 約款の中で利用者が予想もしないような条項(不意打ち条項)は無効とされる
4 合理的な周知・通知がなされれれば、事業者が途中で約款を変更しても有効とされる
5 約款の中に不当な条項があった場合は無効とされる
の5点。1と2はこれまで不明確だった点の明文化、3と5は利用者保護のための、4については事業者にとっての約款の法的安定性を担保するための改正、といったところ。


冒頭紹介の記事にあるように「約款をめぐるトラブルが頻繁に発生している」のは事実だと思います。でもそれは、法律が約款について規律していないことが原因なのではなくて、たんに約款が必要になるような一対多サービスを利用する人の絶対数が多いから、ということなのではと。そもそも、「約款とは何か」「有効な約款・無効な約款とは」を一生懸命法律に書き込んだところで、(契約時に目の前に掲示される約款・利用規約すら読まない)一般の方が果たしてその法律を読むのでしょうか?法律で規律されるとトラブルが減るんでしょうか?結局のところ、約款・利用規約を事業者が読みやすくわかりやすくする工夫をしたり、契約行為に対するリスク認識を利用者の努力で向上させるなどして、お互いが真の合意形成をする習慣を身につけなければ、何の解決にもならないのではないのではないかと、私は考えます。
 
ということで、こちらをもって私からのパブリックコメントに代えさせていただきたいと思います。
 

やっぱりウェブサービスの利用規約を安易にパクるのはまずいと思います

 
利用規約ナイトVol.2を明日に控えて、利用規約に関するあるあるネタを1つ。

ウェブサービスの利用規約を作るときって、類似のサービスの利用規約を参考にするか、インスパイヤ(のまネコ懐)されるか、おもいっきりパクるかしてますよね?ね?

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もし契約書や利用規約のような法律文書に著作権がみとめられるとすると、パクったら著作権侵害になるわけですが、この契約書・利用規約のパクリは許されるのか?という議論については、地裁判決にもかかわらず有名な土地売買契約書事件(東京地裁昭和62年5月14日判決)の以下判決文がよく引き合いにだされて、「パクったって大丈夫だよ!」と一般的に説明されていたりします。

著作権の対象となる著作物は思想又は感情を表現したものでなければならないが、本件文書は原告らの希望する契約条件ないし意思を被告会社に伝達するための文書にすぎないから、著作物には該当しない。
本件文書の記載内容は、「思想又は感情を創作的に表現したもの」であるとはいえないから、著作物ということはできない。


しかし、昨今流行りつつある、サービスの特徴をスクリーンショット等も用いながら豊かな表現で書いているような手の込んだ利用規約を安易にパクるとちょっと危ないかも、と思わせる裁判例もあるのです。それが駒沢公園行政書士事務所日記さんで昨年ご紹介されていた、火災保険改定説明書面事件(東京地裁平成23年12月22日判決)

以上で述べたような本件説明書面の構成やデザインは,本件改定の内容を説明するための表現方法として様々な可能性があり得る中で(甲3ないし5,弁論の全趣旨),本件説明書面の作成者が,本件改定の内容を分かりやすく説明するという観点から特定の選択を行い,その選択に従った表現を行ったものといえるのであり,これらを総合した成果物である本件説明書面の中に作成者の個性が表現されているものと認めることができる。
以上によれば,本件説明書面は,作成者の思想又は感情を創作的に表現したものであって,著作権法2条1項1号の著作物に当たるものといえる。
 本件説明書面の著作権の使用料相当額について検討するに,本件説明書面は,原告の第一営業部長の地位にあったY1が,相応の労力と時間をかけて作成したものであり,その内容には,本件改定を分かりやすく説明するための工夫が見られること,また,被告による複製行為は,本件説明書面をほぼそのまま複写するというものであり,その複製及び頒布の部数も345件の多数にのぼっていること,被告は,本件説明書面の複製物を,自己の営業目的に利用しており,これによって,説明書面作成の手間を省くなど,相応の営業上の利益を得ているものといえることなど,本件に現れた諸般の事情を総合考慮すると,上記使用料相当額は,15万円と認めるのが相当である。

かいつまんで状況を説明すると、原告である損保代理店が作ったお客さま向け保険契約説明書面を、代理店契約が解除となった後にAIU保険がコピーし、しかもその原告の代理店の元お客さまを含む300件超もの保険勧誘に使ったというもの。代理店が顧客開拓のために苦労して作ったものなのだから、それをパクって利益を得たなら15万円の使用料を払え、という判決が下されたというわけです。説明書面の実物が見てみたい方は、裁判所サイト上のPDFでご覧いただけます。

契約書や利用規約そのものの著作物性について争ったわけではないですが、この判決文の理屈でいうと、GoogleやFacebookが率先してすすめているような、手の込んだデザイン・レイアウト・分かりやすさを追求した表現を備えた利用規約の中には、著作物性が認められるものもでてくるでしょう。ウェブサービスは似たものも多い中、利用規約をゼロから作るとなると弁護士に相談したりと時間もコストがかかるからと、その似ているサービスの利用規約をパクってすませているケースも結構ありそうです(というか、よく見かけます…)。しかもウェブサービスの場合、300件などという数ではすまないでしょうから、そこそこの使用料を払わされることになるかもしれません。


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著作権に関する文献の中にも、まさにこのような契約書の著作物性について丁寧に言及している本があります。以前もご紹介したのですが、北村行夫・雪丸真吾編『Q&A引用・転載の実務と著作権法』26-27頁(中央経済社,2005)がそれ。


Q&A 引用・転載の実務と著作権法Q&A 引用・転載の実務と著作権法
販売元:中央経済社
(2010-11)
販売元:Amazon.co.jp

Q 契約書は、著作物ですか?
A 契約書によります。
 契約書は、合致した両当事者の意思表示を表現したものですから、「思想の表現」です。ただ、その表現が創作的かどうかという点は、契約書によりけりと言うほかありません。
 もし契約書が、民法に定める典型契約で、しかも当該契約の要件部分や債務不履行に関する民法の規定を反映したものに過ぎないものであれば、その表現には創作性はないので著作物とは言えません。
しかし、特殊な法律関係を形成する条項で、そのことを明確にするために表現上工夫を要した場合には創作性ある著作物となる余地があります

そういえば最近、「自社サービスに対する不満を流布する行為」を禁止行為の一つとして列挙した利用規約が話題になっていますが、これなんかは、他社の利用規約には見られない斬新さをもった特殊な法律関係を形成する利用規約として、著作物性を備えていると言えるかもしれませんね(棒読み)。
 

ブラウズラップ無効判決の衝撃 ― 利用規約の同意とユーザビリティのバランスを考えなおす時が来た

 
世界中の法務パーソンが考えないようにしていたことであり、法務のパンドラの箱ともいうべきこの問題について、その甘えた考えを改めなければならない時がきたようです。

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利用規約のブラウズラップ/一方的変更権は無効


「このサービスを利用した場合には、本利用規約にも同意したものとみなします。」
「本利用規約は、当社がいつでも変更できるものとします。」


世界中のウェブサービスの利用規約でよくみかける文言ですが、こんな文言があったところで契約は存在しないし、存在したとしてもまったく無効である、とはっきりと断言する判決が、アメリカネバダ州裁判所で下されたというニュース。

米裁判所、顧客が読んでいない『ユーザー使用許諾契約』は無効という判断を下す(スラッシュドット・ジャパン)
taraiok 曰く、
「ユーザー使用許諾契約の『仲裁条項』による訴訟回避」は認められない、という判断が米国の裁判所で下された模様。問題となっているのは、今年の1月に外部からの不正アクセスによる個人情報流出事件を引き越したAmazon.com傘下のアパレル通販サイト「Zappos.com」だ(BusinessInsider本家/.)。

個人情報流出を受け、その顧客の一部がZappos.comを提訴した。Zappos側はユーザー使用許諾契約の仲裁条項を根拠に訴訟を終結させるつもりだったようだが、裁判所は「顧客はZappos.comのユーザー使用許諾契約を読まなくてもサービスが利用できていた」「ユーザー使用許諾契約に『一方的に協定内容を変更できる』という一方的かつ不公平な文言が含まれていた」ことからこの条項を無効と判断したという。

この裁判の発端となったザッポスの個人情報漏洩事故、そしてその対応の機敏さについては、以前このブログでもご紹介しましたが、その後もこんな揉め事がつづいているとは知りませんでした。複数人から訴訟を提起され、一括で仲裁に持ち込んでリーガルコストの削減を図りたかったザッポスとしては、これにより複数の(場合によっては世界中の)裁判所を相手にしなければならなくなったわけです。個人情報漏洩事故によってユーザーが抱く恨みの強さ・根深さを甘く見てはいけないという教訓でもあります。

判決文はこちら。(購買契約全体を明確に否定しているわけではなく)仲裁条項の合意の有効性に限定した判断とはいえ、ほぼニュースにあるとおりの判決内容でした。“clickwrap”=ウェブサービスに入る前にクリックをさせることで同意を求める形式ならいざしらず、“browsewrap”=サイトをブラウジングしただけで法的な同意がとれていると思ったら大間違いですよというくだりでは、同種の判例もたくさんリファレンスされていて、一読の価値があると思います。そして結論部では冒頭にも書いた様に、

there is no contract, and even if there was, it would be illusory and therefore unenforceable.

と、それはそれは力強く、ザッポスが一刀両断されています。

ユーザビリティにかまけることの代償の大きさをもう一度考える


さて、私たち法務パーソンがこれを受けてどう目の前の現実に対処すべきなのか整理をしてみると、以下の3つに集約されるのではないかと考えます。

  1. 自社ウェブサイトにおいて、広告媒体としてのウェブ/サービスとしてのウェブの境目をはっきりさせる(気づいたらサービスイン・購入してたはNG)
  2. サービスインのタイミングで、利用規約に対する明確な同意を取る(利用規約を積極的に見せないブラウズラップ契約スタイルはやめる)
  3. 一度クリックラップした後の利用規約の変更は、少なくとも通知をすることとする(「事業者が利用規約を自由に変更できる」と書かない)

しかし、1も2も3も、言うは易し行うは難しなのはなぜか。もちろん、ザッポスの法務だって、商品を買う画面で利用規約への同意ボタンをクリックさせたり、一方的変更などと乱暴なことをせずにきちんと顧客に規約変更の説明ができれば安全だよね、とは理解していたはずです。理解していたのになぜそれができていなかったのか?私は、ザッポスが顧客中心主義だからこそ、ユーザー導線の中に邪魔なものを入れたくないという思いが強く出すぎたのではないかと推測します。

たかだか靴を1足買っていただくのに、長い利用規約を読ませるのか?いやそれは顧客にとって迷惑だろう、と。Googleで商品を検索し、Zapposのサイト・商品ページに検索やアフィリエイトでたどり着いてくれたユーザーが、そのまま購入ボタンを押したらすぐに欲しかった靴が配送されてくる。こんなに素晴らしいことはないじゃないか、と。利用規約の変更の度にメールを送られて喜ぶユーザーがいるのか?必要な商品の発売だけをタイムリーにお知らせする、スパムメールのないサービスのほうが喜ばれるのでは?と。

マーケティング担当者と法務パーソンとの間でも、似たような議論をした経験がおありなのではないでしょうか。みんな利用規約なんて読まない。読まないものに建前だけのクリック画面を挟ませて、ユーザーのためになるのか?実際に、ここでクリックを入れさせると、会員登録に至るコンバージョンレートが◯◯%落ちるというデータもあるんだ。コンバージョンレートが落ちると、当然に売上も落ちる。法務はそれでも入れろというのか?メールを送る度に、解約するユーザーが◯%発生する。それでも利用規約変更の通知メールをいちいち送信しろというのか?そのせいで売上が落ち目標が達成できなかったら法務が責任を取ってくれるのか、と。

相談もせずに先にサイトを開設しておきながら完全に責任転嫁だよなあ・・・と、このお決まりの口上を聞かされるたびにいつも思いながら(笑)、たしかに97%のユーザーは利用規約なんて気にしてないよね、と同意していたのも事実。しかし、BtoCで何十万何百万人を相手にするサービス、ザッポスで言えば2,400万人いた会員との間でブラウズラップ契約を採用したがために、「すべてのユーザーとの契約が存在しない」状態になってしまうというリスクがこの規模の契約で現実のものとなった今、ユーザビリティにかまけたこの考えを改めなければならなくなりそうです。


繰り返すようですが、ウェブサービスにおいてこのブラウズラップからクリックラップへ変更するにあたっては、ウェブサイト(顧客動線)の設計・マーケティング戦略とも密接に関係し、解決と対応にそれなりの時間がかかる問題です。対岸のアメリカで発生したこの火の手が日本に迫ってくる前に、早めに手をうっておくべきポイントだと思います。
 

2012.11.7追記:

国際商事法務Vol.39 No.7(2011)にて、平野晋先生がブラウズラップ契約についての裁判例(Hines vs Overstock.com,Inc)を解説されている旨、『日々、リーガルプラクティス。』のCeongsuさまからご教示いただきました。ありがとうございます。

なお、平野先生のブラウズラップ契約に関するいくつかの論稿がこちらでも読めるようになっていますので、あわせてご紹介させていただきます。
ブラウズラップ契約の研究
 

Amazonの障害と利用規約による免責 ― ウェブサービス利用規約の「日本流」と「米国流」を比較してみる

 
先週は日本のファーストサーバ、今週はAmazonと、世界各地で相次いでクラウド/データセンターの障害が発生し、その上でサービスを展開する法人に大打撃を与える事態が発生しています。あれ?自前でサーバーを持つよりもそういうリスクが低減できるのがいいところじゃなかった?という感じですが、ファーストサーバはメンテナンス中の事故、Amazonは自然現象が原因とはいえ、事業を支えるシステム・データを人に預けてしまうことの危険性を改めて認識させてくれています。

Amazon EC2が落雷で障害 InstagramやPinterestがダウン(ITmedia)
米Amazon.com傘下のAmazon Web Services(AWS)の複数のクラウドサービスで米太平洋時間の6月29日午後8時過ぎから障害が発生し、Instagram、Pinterest、Netflix、Herokuなどのサービスが数時間にわたってダウンした。AWSのステータスダッシュボードによると、北バージニアにある米東海岸リージョンが激しい雷雨のため停電したのが原因という。
停電は数十分で回復したが、この停電でEC2のストレージ(Elastic Block Store)のデータに不整合が起きたとしている。

この停電に伴うほぼ丸一日の障害によって、Amazonはユーザーに対しどのような責任を負うのか。今日は、ウェブサービスのベンチャー企業様ならほぼ例外なく利用されているであろうAmazon Web Servce(AWS)の利用規約を見てみましょう。ファーストサーバの利用規約では、重過失事故であっても損害賠償額の上限を定めていることについて、さまざまな批判もありますが、米国流の利用規約なんてもっと容赦無いぜ、ってあたりを目の当たりにして頂くいい機会かと思います。

AWSカスタマーアグリーメント
AWS

利用規約が左側のメニューにいくつもならんでいて構成が複雑ですが、ここでチェックするのは「AWSカスタマーアグリーメント」。この規約にはAmazonがユーザーに対して負う義務が記載されています。が、ほとんどが如何にその義務を免責するかという免責条項に終始しているのが米国流。以下、その特徴的な部分を、ファーストサーバの利用規約と比べてみましょう。


不可抗力条項に一片の隙なし


まず今回は、サンダーストーム(雷雨)による停電が直接の引き金と発表されています。その場合に適用されそうな条文がこれ。

13.2 不可抗力
アマゾンおよびアマゾンの関連会社は、本契約に基づく義務の履行遅延または履行不能につき、かかる遅延または不履行がアマゾンの合理的な支配の及ばない原因によるものである場合には、責任を負わない。かかる原因には、天災、労働紛争その他の産業騒乱、システム全体にわたる電力、電気通信その他の公共サービスの故障、地震、嵐その他の自然現象、封鎖、通商停止、暴動、政府の行為もしくは命令、テロ行為、および戦争が含まれる。

当ブログの検索経由の人気記事「契約書の不可抗力条項に列挙される事象を整理しながら、不可抗力とそうでないものの境界線を探ってみた」に列挙しているほどの数ではありませんが、短い文章の中に網羅的にリスクを記載し免責していますね。今回のサンダーストームによる停電で言えば、「システム全体にわたる電力、電気通信その他の公共サービスの故障」「嵐」「その他の自然現象」であったりという部分の適用を主張するでしょう。

この点、日本流のファーストサーバさんの利用規約では、「別記1 サービスレベルとその保証にかかる特約」の第3条に、こんなちょろっとした一言で触れられているのみ。

第3条(月間停止時間の例外)
(6)天災地変等不可抗力により本サービスを提供できないことに基づく場合

日本の契約書での不可抗力条項だと、この程度の言及しかしていないものは、まだまだザラにありますね。

容赦ない無保証


Amazonの今回の障害は不可抗力ではない、と主張するユーザーも出てくるでしょう。なぜなら、冒頭時の記事引用部にあるとおり、サンダーストームに伴う停電は数十分だったのに、回復後もデータベースをほぼ1日の間回復できなかったからです。では、そういった主張に対し、Amazonはどのように対抗する・できるでしょうか?

通常、インフラ系の利用規約には、◯時間連続してダウンしたらそのダウン時間に対応した返金を行う、という返金保証があるのが常。ファーストサーバさんの利用規約もそうですし、東京電力の電気供給約款もそうでした。そしてファーストサーバさんの例では、故意・重過失による損害が発生すれば、それまで顧客が支払ったサービス料合計相当額までは損害賠償をするということも宣言されていました(重過失かどうかについて争いがあるのは御存知の通り)。

この点Amazonは、別途サービスごとに定められたサービスレベルアグリーメント(SLA)で、稼働率等が基準を下回った場合、“将来の”AWS利用の支払いに充当できるサービスクレジットとして付与することが規定されています。決して返金ではなく、将来の費用と相殺しているのがミソ。加えて、それ以外一切の責任は、以下の「保証の否認」と「責任限定」の2つの条項によりあっさりと否定しています。

※多少読みやすくするために、改行を入れています。
10.保証の否認

提供される本サービス内容は「現状」のままで提供される。

アマゾン、アマゾンの関連会社およびアマゾンのライセンサーのいずれも、提供される本サービス内容または第三者コンテンツに関して、提供される本サービス内容または第三者コンテンツが中断されないこと、エラーがないこと、もしくは有害な構成要素を含まないことの保証、またはサービス利用者コンテンツおよび第三者コンテンツを含むすべてのコンテンツが安全であり、その他紛失または損傷もしないことの保証を含め、明示であると黙示であるとを問わず、法定のものであるかその他のものであるかに関わらず、いかなる種類の表明も保証もしない。

法律により禁止される場合を除き、アマゾン、アマゾンの関連会社およびアマゾンのライセンサーは、商品性、満足な品質、特定目的への適合性、非侵害および平穏享有に関する黙示の保証ならびに取引過程または取引慣行により生じる保証を含め、一切の保証をしない。
11.責任限定

アマゾン、アマゾンの関連会社またはライセンサーのいずれも、いかなる直接、間接、付随的、特別、結果的または懲罰的損害(利益、のれん、使用またはデータの損失による損害を含む。)につき、たとえ当事者がかかる損害の可能性を通知されていたとしても、サービス利用者に対して責任を負わない。さらに、アマゾン、アマゾンの関連会社およびアマゾンのライセンサーのいずれも、以下の(A)から(D)に関連して生じる填補、償還または損害賠償につき、いかなる責任も負わない。

(A)サービス利用者が本サービスを利用できない場合((I)本契約、またはサービス利用者による提供される本サービス内容へのアクセスもしくはその利用の、解除または停止、(II)アマゾンによる本サービスの一部または全部の中止、または(III)サービスレベルアグリーメントに基づく義務を制限することなく、その理由を問わず(停電、システムの故障その他の障害の結果である場合を含む。)、本サービスの全部または一部の予期されない、または予定されないダウンタイムの、いずれかの結果としての場合を含む。)、

(B)代替の商品またはサービスの調達費用、

(C)本契約、またはサービス利用者による提供される本サービス内容の利用もしくはアクセスに関連して、サービス利用者がなした投資、支出または履行約束、

(D)サービス利用者コンテンツまたはその他のデータへの不正アクセス、その変更、またはその削除、破棄、損害、損失もしくは保存の失敗。

いずれの場合も、本契約に基づくアマゾン、アマゾンの関連会社およびアマゾンのライセンサーの責任の総額は、請求の原因となった本サービスについて、かかる請求に先立つ12ヶ月間に本契約に基づいてサービス利用者がアマゾンに対して実際に支払った金額を限度とする。

このサービスが止まろうがデータが消えようが、なにしようが(SLAによるサービスクレジットの付与対応以外)知ったこっちゃない。「たとえ当事者がかかる損害の可能性を通知されていたとしても」つまり「そんなやり方で事故ったら責任問題だぞ」とユーザーがAmazonに警告をしていたとしても、責任はとらない。という契約になっています。このリーズナブルな価格である代わりに、そういう品質保証のないサービスであることを認識の上、契約してくださいねということでしょう。

営業担当者を信じるな ― 完全合意条項の恐ろしさ


ファーストサーバでもう一つ問題になったのが、営業パンフレットや営業トークでは「バックアップをとっている」と説明してしまっていたという点。嘘つきにはしかるべき制裁を、というのが日本的感情論ですが、米国流契約では、そういうものが一切通用しません。この利用規約以外に何か違う説明を受けたとしても、この利用規約に書いてある事が合意のすべてである、ということが明言されています。

13.12 完全合意 

本契約には、アマゾン規約が含まれ、本契約は、本契約の対象事項に関するサービス利用者とアマゾンの間の完全な合意を構成する。本契約は、本契約の対象事項に関して、本契約以前の、または本契約と同時に存在する、書面または口頭によるサービス利用者とアマゾンの間の一切の表明、了解、合意または連絡に優先する。サービス利用者とアマゾンの間の他のいかなる合意にかかわらず、本契約第3条のセキュリティおよびデータ プライバシーに関する規定は、サービス利用者コンテンツのセキュリティ、プライバシーおよび秘密保持に関するアマゾンおよびアマゾンの関連会社の義務のすべてを含むものである。

アマゾンは、サービス利用者がその注文書、領収書、受領書、確認書、連絡その他の文書において提示する、本契約の規定と異なる、またはそれに追加される、いかなる条件またはその他の規定(それが本契約を重大に変更するか否かを問わない。)にも拘束されず、かかる条件その他の規定に拘束されることを明確に否認する。

本契約の条件が、アマゾン規約のいずれかに含まれる条件と矛盾する場合には、本契約の条件が優先する。ただし、サービス条件と矛盾する場合には、サービス条件の条件が優先するものとする。(以下略)

これ、海外企業との契約書には必ずと言っていいほど入っている定番の条項なのですが、これがある以上、たとえ書いていないことを耳にして契約したとしても、それをもとに請求はできないのです。それが嫌だったら、契約書に書いておけば良かったじゃない、ということ。

一方で、ファーストサーバさんの規約には、6/25のエントリにも書いたように

第1条(約款の適用)
4. 当社のウェブページ等において当社が公開するまたは個別に通知若しくは提供等する本サービスの機能説明、利用方法に関する説明、注意事項及び制限事項等(以下「説明書等」といいます。)は、本約款の一部を構成するものとし、本サービスの利用に適用されます。

と全く逆のこと、つまり「利用規約に書いてないことも説明をした以上は責任を取る」、と記載されていたわけです。このあたり、日本流の契約文化との差がもっともハッキリと現れているところでしょう。

戦おうにも、裁判地が遠いです・・・


日本のユーザーがもしAmazonのこういった態度に不満を感じて「訴えてやる!」となっても、ファーストサーバと勝手が違うのが、文句を言うにもアメリカの遠い裁判所まで行かなければならないということでしょうか。

13.11 準拠法、裁判地 
本契約およびサービス利用者とアマゾンの間に生じるすべての種類の紛争は、法の抵触に関する規則の適用は除外して、アメリカ合衆国ワシントン州法に準拠する。提供される本サービス内容または本契約に関連して、当事者が合計7,500ドル以上の救済を求める紛争の場合には、アメリカ合衆国ワシントン州キング郡に所在する州裁判所または連邦裁判所で判断されるものとする。サービス利用者はこれらの裁判所の専属管轄権および裁判地に同意する。(以下略)

日本の首都、都心にある東京地方裁判所で争えるファーストサーバさんと違い、こののどかなキング郡(行ったことありませんが、ストリートビューでも裁判所は撮影対象外地域でした…)の裁判所に弁護士を連れて行くだけで、一体何百万掛かるのやらと。

kingdistrictcourt

アマゾンウェブサービスの日本支社を訴えるという手もありますが、基本的に裁判管轄条項で合意するとそれには日本の裁判所も逆らえないので、訴えは受け付けてもらえません。相当な訴訟額でかつ勝てる見込みが無い限り、事実上法的紛争に打って出るのは経済合理性に合わないと思った方がよいでしょう。

2012/7/5追記:
ファーストサーバさんの裁判管轄地はまさかの「大阪」でしたので訂正します。条文読んだんですけど目が素通りしてました・・・。



現実には、昨年の数日間に渡るシステム障害において10日間のサービスクレジットで補償をしたような方法で、ユーザーの感情を和らげる対応は今回も取られるものと思います。でもそれだけ。ファーストサーバ社のような事故を起こしても、将来使えるサービスクレジットのamountが増えるだけでしょう。

クラウド/データセンターのサービスなんてそんなもんだよね、それが社内にサーバ機器とシステム要員を抱えなくて済ませることの代償だよねということを、まざまざと示してくれます。 
 

ファーストサーバ社は“バックアップ”の提供を契約上の義務として負っていたのか

 
昨日のエントリに対しては、「クラウドとかホスティングとかレンタルサーバとか言いながら、バックアップとは呼べないバックアップしかしていなかったということが、重過失にあたるのではないか」という意見を、コメント欄ほかで頂きました。

私は、一部のユーザーに限り、“バックアップ”をしていなかったことについての契約違反(債務不履行責任)による損害賠償を請求できるとは思いますが、それによってファーストサーバ社の重過失が認められ、損害賠償額の上限を超えて責任を追求できるとは考えていません。以下そう思う理由を述べます。


まず確認ですが、ファーストサーバさんの利用規約には、「契約者がバックアップを取れ」とは書いてありますが、「ファーストサーバが契約者データの保全のためのバックアップを取ります」とは書いていません。

第16条(データ等の保管およびバックアップ)
1.契約者は、本サービスが本質的に情報の喪失、改変、破壊等の危険が内在するインターネット通信網を介したサービスであることを理解した上で、サーバ上において利用、作成、保管記録等するファイル、データ、プログラム及び電子メールデータ等の全て(以下「契約者保有データ」といいます。)を自らの責任において利用し、保管管理し、且つ、バックアップをするものとします。
2.当社は、システム保安上の理由等により、契約者保有データを一時的にバックアップする場合があります。ただし、当該バックアップは、契約者データの保全を目的とするものではなく、当社が契約者からの当該バックアップデータの提供要求に応じる場合であっても、当社は、当該データの完全性等を含め何らの保証をしません。
3.契約者が契約者保有データをバックアップしなかったことによって被った損害について、当社は損害賠償責任を含め何らの責任を負わないものとします。

事故が発生した後の中間報告の説明の図において、ファーストサーバさん自身が「バックアップ環境」という言葉を使ってしまっていることもあって、議論が混乱している気がしますが、利用規約上はデータ保全のための“バックアップ”の提供はファーストサーバの義務ではないことが明確に記載されていた、ということを、まずここでは抑えておきたいと思います。

(なお、ファーストサーバさんの事故対象サービスの中で、簡易バックアップというオプションメニューが存在しますが、これは“顧客のサーバ領域内でのファイルコピー”である旨ウェブサイト等で明示されていたようです。)


ただし、ある一部のユーザーについては例外が。昨日の日経新聞が報じた、サービスメニュー「ビズ2」の営業パンフに存在したバックアップに関する表記のミスについてです。

ファーストサーバ障害、深刻化する大規模「データ消失」(日本経済新聞)
FSbackup ファーストサーバの主力サービスであるビズ2・シリーズのパンフレットに、こうある。
「ファーストサーバは、これまで以上に安心してレンタルサーバーサービスをご利用いただくために品質保証制度(SLA)を設け、稼働率100%を保証した高いビジネス品質のサービスでお客様のビジネスを支えます」

 これは、本番系と同時にリアルタイムで待機系を動かし、サーバーを止めることなく稼働させる仕組みをうたっている。「100%」は実現できなかったが、もう1カ所の記述が事実であれば、少なくとも消失は防げたはずだった。

「さらに人為的なデータ損失があった場合にそなえ、日に1回、外部サーバーにデータを保存していますので、お客様によるデータの誤消去があった場合にも、前日の状態に戻すことが可能です」――。

今回はファーストサーバによる「人為的な誤消去」。しかし実際は、バックアップは「外部サーバー」ではなく、「同一のサーバー内の別ディスク」にあり、完全なデータ消失に至ってしまった。この点についてファーストサーバの村竹室長は「数年前までは記述の通りだったが、現在は説明の通り異なる。記述ミスで、修正をせずにいた可能性がある」と語った。

パンフレットを契約書と一緒に後生大事に保管していた「ビズ2」ユーザがいたとしたら、それはファインプレーです。

第1条(約款の適用)
4. 当社のウェブページ等において当社が公開するまたは個別に通知若しくは提供等する本サービスの機能説明、利用方法に関する説明、注意事項及び制限事項等(以下「説明書等」といいます。)は、本約款の一部を構成するものとし、本サービスの利用に適用されます。

この条項により、パンフレットの記載内容、すなわち外部サーバに1日1回“バックアップ”するという約束が<約款の一部を構成するもの>となり、契約義務違反を問うことが出来るからです。法務の世界では、例え話的に「営業担当者が(勝手に)作るパワポ資料も契約の一部を構成するものとなりうるから、きちんとチェックしなければならない」とは教わるのですが、著名事件でこういう事例に出くわしたのは初めてのような気がします。

とはいえ、パンフレットで間違ったサービス説明をしていたから過失が重過失になるわけではなく、あくまでそれはそのパンフを見て誤認したまま契約したユーザーに対する「契約違反」になるという話。パンフレットによって提供されると誤認した“バックアップ”サービスを提供しなかったという契約違反に対して、(利用規約に定められた上限額の範囲で)債務不履行による損害賠償を請求するということになります。しかもその責任が追求できるのは、パンフレットを見て誤認したまま契約したと立証できる一部のユーザーだけ。

バックアップがそもそも契約上のサービスとして約束されていなかった他のユーザー(パンフレットを見てないユーザー)については、重過失であったかどうかについて責任を追求していくしかありませんが、重過失議論は、昨日のエントリに書いた通り、脆弱性対策のための更新プログラムに潜む「プログラム削除コマンド」と「対象サーバーの設定」の瑕疵によって、別のサーバの消すべきでないデータを消してしまったという行為(原因1)が過失を超えた重過失にあたるかがポイントだと私は思っています。事故調査委員会の論点も、そこに絞られていくんじゃないでしょうか。


「クラウド/ホスティング/レンタルサーバを名乗る以上、全ユーザー分のデータ保全のための“バックアップ”を取っていて当たり前」

それをこの業界の常識として明確化し、クラウド・レンタルサーバ事業者の責任として問いたいのなら、一昨日来の繰り返しになりますが、そのことを法律として定めるしかないと思っていますが、それができないうちは、利用規約・約款・サービス仕様書をよくよく読み込んでサービスを選んで使うしかない、ということなのでしょう。
 

ファーストサーバ社の事故は重過失か

 
昨日のエントリに対し、「いくら利用規約に免責されると書いてあっても、メンテナンス時にデータを自分で消しちゃうなんて重大な過失にあたるだろうから、免責できないんじゃないんですか?」というコメントをいただきました。その点について私見を書きます。

まず、今回のファーストサーバさんの利用規約(PDF)を読むと、

35条8項(免責)
(中略)
8.本条第2項から第6項の規定は、当社に故意または重過失が存する場合または契約者が消費者契約上の消費者に該当する場合には適用しません。
第36条(損害賠償額の制限)
本サービスの利用に関し当社が損害賠償義務を負う場合、契約者が当社に本サービスの対価として支払った総額を限度額として賠償責任を負うものとします。

つまり、重過失であれば責任を負う、と一旦引き受けたうえで、でもその賠償金額は今までにファーストサーバに払ったお金の合計額が限度ですからね、と言っているわけです。

36条のように、重過失であっても損害賠償額に上限をつけることについて、過去の判例(最判H15.2.28判時1829.151)を引き合いに無効ではないかとの議論もあるようです。この点について、私はこういった不特定多数を対象とするウェブサービスにおいては、重過失であろうが賠償額に上限を定めるのは致し方ないものと考えます。だいぶ昔話になりますが、インターネットがはじまる前、NTTがまだ公社だったころの法律(旧公衆電気通信法)109条において、基本料の5倍を損害賠償責任の上限と定めていた(そして世田谷ケーブル火災事件 東京地判平成元・4・13においても基本的に免責の有効性が認められた)ことも、そう思う理由の一つ。

昨日のエントリでも言及したように、いちいち裁判で利用規約の免責文言の有効性を争うのは不毛であり、いっそのことクラウドサービスや電気通信サービスのような公共的商業サービス一般の法的責任の上限のあり方について、電気通信事業法や商法で規定してしまえ、という流れが生まれる気がします。


さらに申し上げると、ファーストサーバさんの肩を持つわけではありませんが、同社発表情報だけをもとにすれば、今回の事故は重過失にあたらない可能性があるのでは、と考えています。もう一度同社ウェブサイトにある図を引用させていただきますと、

大規模障害の概要と原因について(中間報告)

FSjiko


事故のきっかけとなったのが、「プログラム削除コマンド」と「対象サーバーの設定」が正しくなされていなかったサーバ管理プログラムの瑕疵(原因1)だというのがミソ。対象サーバー以外での確認を怠っていたという瑕疵(原因2)も、過去の反省から脆弱性対策は時を待たずしてバックアップサーバー側にも摘要することにしていたというメンテナンスポリシー設計の瑕疵(原因3)も、今回の原因1と連動してしまったがために影響を甚大なものにしてしまったとはいえ、果たしてこの1〜3が連動して大事故になってしまったこと全体を捉えて重過失に問えるかは微妙だと思います。仮に、今回の作業員が検証環境で検証することもなく、いきなりバックアップサーバーを含む全本番サーバーに瑕疵のあるプログラムを当てて、確認もせず立ち去ったのならば、文句なく重過失にあたるとは思いますが・・・。

例えは稚拙ですが、火事に例えれば、こういったクラウドサービス・ホスティングサービスにしばしば起こるボヤ(脆弱性)を消そうとしたら、ボヤどころか大炎上・延焼しちゃったというような話。火事といえば失火責任法という法律がありますが、失火責任法においての重過失の定義は

通常人に要求される程度の相当な注意をしないまでも、わずかの注意さえすれば、たやすく違法有害な結果を予見することができた場合であるのに、漫然とこれを見過ごしたような、ほとんど故意に近い著しい注意欠如の状態(最判昭32・7・9)

と判示されていますが、そのレベルには達しないのではないかなと。重過失というのは、「結果的にみて事故を大きくしたミス」とは性質が違うんじゃないかなと思います。


今回の事故は、「クラウドの方が社内の技術者に任せるより安全・安心」などというこれまでよく使われてきた常套句が信じられなくなった点で影響は大きいと思いますし、法務パーソンから見て非常に完成度の高いファーストサーバさんのような利用規約を作っていても、結局顧客対応においては納得が得られないという現実も垣間見、学ばされることは多いです。
 

ファーストサーバ社事件に思う利用規約と法律のあり方

 
“クラウドホスティング”を標榜するファーストサーバ社において、webサーバーとそのバックアップサーバーに保存されていたデータが全て消失するという事故が発生しました。

以下ファーストサーバ社のHPより。

大規模障害の概要と原因について(中間報告)

FSjiko

この絵に書かれた原因 銑をみると、ファーストサーバさんの管理体制に不備・過失があったことを自ら認めているようですね。

このファーストサーバさんの事故に適用される同社利用規約の法的論点とその評価については、伊藤雅浩弁護士が分かりやすく解説してくださっているのでそちらでぜひご確認いただきたいのですが、結論としては、同社の利用規約において、ユーザー自身がバックアップをとっておく責任が課され、かつ「契約者が当社に本サービスの対価として支払った総額を限度額として賠償責任を負う」旨規定され事実上完全免責されている以上、責任追及は難しいのではと(ただし法人間の責任であって、消費者については消費者契約法で免責範囲は限定されます)。


それはそれとして今回の事故で気になったのは、「レンタルサーバーやクラウドのようなサービスがいまだ法律上想定されておらず、したがって利用規約の定めるところで紛争を解決するしかない」という点です。具体的には、比較的近しい事態を想定して立法されたはずの寄託契約などの法律上の規定が、これだけ世に広まっているwebサービスにおいてまったく役にたたないというのは、そろそろ異常な事態かもしれないなと。

例えば、商法において寄託契約の性質を規定した規定にこんなものがあるのですが、

商法第594条
1.旅店、飲食店、浴場其他客ノ来集ヲ目的トスル場屋ノ主人ハ客ヨリ寄託ヲ受ケタル物品ノ滅失又ハ毀損ニ付キ其不可抗力ニ因リタルコトヲ証明スルニ非サレハ損害賠償ノ責ヲ免ルルコトヲ得ス
2.客カ特ニ寄託セサル物品ト雖モ場屋中ニ携帯シタル物品カ場屋ノ主人又ハ其使用人ノ不注意ニ因リテ滅失又ハ毀損シタルトキハ場屋ノ主人ハ損害賠償ノ責ニ任ス
3.客ノ携帯品ニ付キ責任ヲ負ハサル旨ヲ告示シタルトキト雖モ場屋ノ主人ハ前二項ノ責任ヲ免ルルコトヲ得ス

仮に「場屋」をクラウド・「客ノ携帯品」を自己バックアップ前提のデータと読み替えると、3項は「あなたがお持ち込みのデータに関しては、責任を負いませんよ」とクラウド側が告げていても、クラウド側の不注意によって発生したデータの事故であれば、一方的に免責はできませんよ、という強行規定のようにも読めます。今回のファーストサーバのユーザーの感情的には「そうだそうだ」と言いたくなる規定でしょう。しかし、 法律が守ろうとしていること(その場の安全を管理すべき管理者の不注意による事故であれば、免責はできない)の発想は同じでも、「場屋」で想定されているものがあまりにも古かったり、データが「物」でないという古風な作りによって、こういった商法の寄託契約に関する規定は、今回の事件において役にたちません。かつて刑法において電気の盗み取りが「物」の窃盗にあたるかどうかで論争が巻き起こったあげく、法改正がされたという歴史を思い出させますね。

民法を乱暴に大改正して利用規約全般を規制しようとしている某元法律学者さんがいらっしゃったかとお思いますが(笑)、こういうところを丁寧に現代に通用するように改正したほうが世の中のためになるのではないかと。いや、Doblogさんの事故もしかり、こういった事故が立て続けに起きるようですと、もしかしたら今度は商法学者さんの中からそういう議論が起きるのかもしれませんが。
 

Facebook利用規約改定案にみる利用規約変更の最新トレンド

 
Googleの利用規約変更が世界でちょっとした騒ぎを起こしたのは記憶に新しいところ。こんどはFacebookが利用規約の改定に向けて動いています。

3月から意見聴取が行われ、現在その意見を踏まえて再度改定案が提示されているところで、実際に変更となるのは9月が目処になるようですが、ほぼ間違いなくこのままリリースされることでしょう。そこで、何が変わったのか確認しやすくなるよう、Google利用規約の例によりまして、新旧対照表を作成してみましたので公開します。


Facebook利用規約 新旧対照表

s-fbTSAhikaku


Facebook自身が自社サイトで解説している改定背景も対照表の右側にコメントとしてつけています。併せてお読みください。

CNNの報道などでは若干ヒステリックな反応になっているものの、結論からいうと、この改定による一般ユーザーへの悪影響はほとんどないと申し上げてよいと思います。一方で、法務パーソンやweb上の利用規約の最新動向に興味がある方には、参考になるところがあるんじゃないかと思いました。例えばこんな2点。


<サービスの継続利用=みなし改定承諾>がスタンダードに


Facebookは、改定案に対して7,000件以上のコメントが寄せられた場合は投票による賛否を問い、その投票において30%以上反対意見が寄せられた場合には、その意見に拘束される、つまり改定を行わない旨を規約でうたっています。ユーザー側の立場としては極めて民主的だなあと思いつつも、企業法務側の立場としてはちょっと真面目すぎるんじゃないの?と思っていたのですが、今回、やっぱりFacebookもその手で来たかという規定の追加がありました。それがこれ。

14.改定
(略)
6. 利用者が弊社規約に変更があった後もFacebookの利用を継続した場合、修正された規約を承諾したものと見なします。

<サービスを継続利用する=利用規約改定の承諾とみなす>というアイデアはすでに多くのwebサービスの利用規約で採用されている考え方であり、多数のユーザーを抱えるサービスの承諾取得方法として合理的な落とし所ではないかと私も思っているところですが、Facebookが明確にこれを採用したことで、改定に対する承諾取得のスタンダードになったと言ってよいと思われます。

なお、Googleも3月に利用規約を改定していますが、言い方こそ違えどこんな文言で同様に継続利用を承諾とみなすスキームを採用しています。
Google は、たとえば、法律の改正または本サービスの変更を反映するために、本サービスに適用する本規約または特定の本サービスについての追加規定を修正することがあります。ユーザーは定期的に本規約をご確認ください。Google は、本規約の修正に関する通知をこのページに表示します。追加規定の修正については、該当する本サービス内において通知を表示します。変更は、さかのぼって適用されることはなく、その変更が表示されてから 14 日以降に発効します。ただし、本サービスの新機能に対処する変更または法律上の理由に基づく変更は、直ちに発効するものとします。本サービスに関する修正された規定に同意しないユーザーは、本サービスの利用を停止してください。

それでもこのようなみなし承諾では心配だという法務パーソンには、「敢えて契約期間を設けて改定後に異議なく更新したらその時に当然に同意とみなす」という安全策をお薦めします。

改定案に対するユーザーの意見を(本当に)反映させた


上記のような文言の追加を見ると、あらかじめ改訂案を提示して意見を募る“公聴”プロセスがなんだか形式的で、ユーザーの不満をそらすガス抜きが真意なのではとついつい穿った見方をしてしまうんですが、実はFacebookが寄せられた反対意見を実際に取り入れて改定案を修正している点があります。

3月に提示された改訂案には、17.4に以下のような文言が追加されていました。

17. 米国外のユーザーに適用される特別規定
(略)
4. 特定の地域では、Facebookのサービスや機能の一部またはすべてが利用できないことがあります。弊社は、独自の裁量により、サービスまたは機能の提供を除外または制限する権利を留保します。

これは、特に最近になってドイツ等でGoogleのサービスが著作権法違反に問われていることなど、グローバルに同一のサービスを展開する保証は法律的にはできないということについて、留保条件をつけようとした文言なのではないかというのが私の推測です。しかし、この文言の追加が「国の意向に沿って検閲を行うことを意図しているんじゃないか」と食いついたユーザーがいたようです。その意見に対し、Facebookは以下のように文言の追加をあきらめることを決定しています。以下はFacebookのサイトより。

Q: セクション17.4の追加は、ユーザーや活動家によるFacebookの利用を検閲する場合があることを意味しているのですか。

A: この変更案に対するユーザーのコメントを確認した後、弊社は追加規定が誤解されやすいものであると判断しました。変更案は、弊社のサービス提供が妨げられる状況を対象にすることを意図していました。たとえば、インターネットの障害が発生する、一部の地域において一部の機能が使用できなくなる、ある国の政権が弊社のサービスをブロックする、などの場合です。

このご意見に基づき、弊社はこの変更案の削除を決定しました。

一度発表した改定案を撤回するのは、法務的にはカッコ悪い事態です。ここで一歩引くということはしばらくはこの修正案を再提示することも難しくなるわけで、多少なりとも勇気がいることだと思いますが、口だけ・格好だけの“公聴システム”にしていない点は大変素晴らしいと思います。
 

Gumroadの利用規約をリバースエンジニアリングしてみる

 
デジタルコンテンツをネット上で売買したい、しかも簡単・スピーディに。

いつかはできるようになるんだろうと思っていたそれを、とってもシンプルな仕組み&ユーザーインターフェースで可能にし、話題になっているGumroadというサービスがあります。

s-gumroad

こういった新しいタイプのサービスを企業として企画開発する際、法務の役割は、取引のどこにリスクが生まれるのか分析し、そのリスクをユーザーとどう分担すべきかを考え、契約や利用規約に落としこんでいくこと。今回は、Gumroadがどうこのデジタルコンテンツの取引におけるリスクをシェアしようとしているのかを、Gumroadの利用規約をリバースエンジニアリングして理解してみたいと思います。

Gumroad自身は「デジタルコンテンツの販売者」ではない


売り手が売りたいコンテンツの紹介文・スクリーンショットと売り値を表示し、買い手がクレジットカードの情報を入力して決済したら、デジタルコンテンツをダウンロードするリンクが表示される。
これがGumroadでできることのすべてです。

日本の紹介記事では「さまざまなコンテンツを簡単に販売することができるプラットフォーム」と表現されています。しかし、Gumroad側が「コンテンツ」を「販売」しているという認識があるかというと、利用規約上はかなり微妙です。規約の冒頭にある前文では、サービスの内容がこう表現されています。

Gumroad provides buyers and sellers (collectively, "Users") an e-commerce engine (the "Service") for the purchase and sale of electronic content ("Digital Goods") via a link (the "Gumroad Link") to a file hosted by the seller ("Seller") or by Gumroad at Gumroad.com (the "Website").

“Gumroadは、ファイルに紐付くリンクを経由してエレクトロニックコンテンツを売り買いするための「e-commerce engine」を、売り手と買い手に提供する”。これが、正しいGumroadのサービスの定義です。あくまでも、売り手と買い手が取引を便利にできる仕組みを提供するだけの存在である、ということです。

このことは、数ページ先の“8. Limitation of Liability”の条文において、さらに明確にされます。

You acknowledge that we are not a traditional auctioneer. Instead, our Service allows anyone to offer, sell, and buy Digital Goods, at any time, from anywhere, in a variety of pricing formats and locations. We are not involved in the actual transaction between Buyers and Sellers. While we may help facilitate the resolution of disputes through various programs, we have no control over and do not guarantee the quality, safety or legality of Digital Goods advertised, the truth or accuracy of User Content or listings, the ability of Sellers to sell the Digital Goods, the ability of Buyers to pay for Digital Goods, or that a Buyer or Seller will actually complete a transaction or return a Digital Good.

「売り手と買い手の実際の取引に介在する立場ではない」「だから、取引されるデジタルコンテンツの中身がどうあろうが、Gumroadは知ったこっちゃない」ということが表明されています。

この2つの条文を見て分かることは、Gumroadは、どうやら「期待された商品を買い手にきちんと納品する」という販売者としての義務を負うつもりはなく、基本的にカード/Paypal決済と引き換えにリンクURLを引き渡す責任しか負わないつもりである、ということ。だからでしょうか、本日現在、Gumroadのサイトにはインターネット通販事業者に義務付けられた特定商取引法に基づく表示すらも見当たりません(それが法的に認められるかどうかは別として)。

ただし、売り手と買い手の間に発生する紛争については、一定の範囲で対応することも表明されています。この点については後ほど改めて言及したいと思います。

売り手の違法な販売行為には事後的対処しかしない


URLにひもづけられるデジタルコンテンツであれば何でも販売できる点は、このビジネスモデルの最大の特徴でありますが、それは便利であるのと同時に様々な危険も伴います。Gumroadにとって、売り手が商品としてどんなものを販売されてしまうかわからない、という危険です。ネット上の反応をみても、「人の著作物を売って稼ぐ輩が出て問題になるだろう」と囁かれていますが、そういうユーザーも既に存在するようです。

Gumroadはこの類の危険に対し、利用規約“7. Content”の項で「販売してはいけないモノリスト」を明示し、これに違反する販売行為にはアカウント停止をすることで、これに対処しようとしています。以下その販売禁止物リスト。私の方でラフな対訳をつけてみました。

promotes racism, bigotry, hatred or physical harm of any kind against any group or individual;
人種差別、偏見、憎悪、その他身体的危害を組織または個人に与えるもの

is intended to or tends to harass, annoy, threaten or intimidate any other Users of the Website or Service;
嫌悪感、困惑、恐怖、畏怖をサイトのユーザーに感じさせるようなもの

is defamatory, inaccurate, abusive, obscene, profane, child pornographic, offensive, obscene or otherwise objectionable;
誹謗中傷的、事実では無い、罵倒をするような、卑猥な、冒涜的な、児童ポルノ的な、攻撃的な、不愉快または好ましくないもの

harmful to minors in any way;
未成年者に対し何らか有害となるもの

contains others’ copyrighted content (e.g., music, movies, videos, photographs, images, software, etc.) without obtaining permission first;
許可を得ずに他者が著作権を持つコンテンツ(音楽、映画、映像、写真、画像、ソフトウェア他)を含むもの

contains video, audio photographs, or images of another person without his or her permission (or in the case of a minor, the minor’s legal guardian);
その人物(当該人物が未成年の場合はその保護者)の許可を得ずに、その人物が写り込んだ映像、動画付写真、画像を含むもの

promotes or enables illegal or unlawful activities, such as instructions on how to make or buy illegal weapons or drugs, violate someone’s privacy, harm or harass another person, obtain others’ identity information, create or disseminate computer viruses, or circumvent copy-protect devices;
違法または不法行為を助長するもの、たとえば違法な武器や薬物を製造する、プライバシー侵害をする、他人を傷つけまたは害する、他者の身分情報を取得する、コンピュータウイルスの作成、コピープロテクトを回避する等の方法を教示するようなもの

intended to defraud, swindle or deceive other Users of the Service;
サービスの利用者に詐欺を働き、騙し、または嘘をつくもの

contains viruses, time bombs, Trojan horses, cancelbots, worms or other harmful, or disruptive codes, components or devices;
ウイルス、時限爆弾、トロイの木馬、キャンセルボット、ワームその他害のあるまたは破壊的なコード、コンポーネントやデバイスを含むもの

promotes or solicits involvement in or support of a political platform, religion, cult, or sect;
政治団体、宗教団体またはセクトへの参加やサポートを宣伝、勧誘するもの

disseminates another person’s personal information without his or her permission, or collects or solicits another person’s personal information for commercial or unlawful purposes;
商用または違法な目的のために本人の許可なく個人情報をばらまく、または収集もしくは提供を促すもの

is off-topic, meaningless, or otherwise intended to annoy or interfere with others’ enjoyment of the Website or the Service;
主題からそれた、意味のない、または他社を煩わせ他社のウェブサイト・サービスの利用を邪魔するもの

impersonates, or otherwise misrepresents affiliation, connection or association with, any person or entity;
人や組織になりすまし、その他関連、関係、結びつきを誤認させるようなもの

solicits gambling or engages in any gambling or similar activity;
ギャンブルその他賭博行為に勧誘するもの

uses scripts, bots or other automated technology to access or scrape content from the Website or Service;
スクリプト、ボットその他自動化技術を用いてウェブサイトやサービスにアクセスまたは収集するもの

uses the Website or Service for chain letter, junk mail or spam e-mails;
チェーンレター、ジャンクメール、スパムメールのためにウェブサイトやサービスを用いるもの

collects or solicits personal information about anyone under 18; or
18歳未満の児童の個人情報を収集し、または提出を勧誘するもの

is in any way used for or in connection with spamming, spimming, phishing, trolling, or similar activities.
スパミング、スピミング、フィッシング、トローリングまたはこれに類似する行為を用いるもの

ご覧のとおり、かなり抽象的かつ広範囲なNGリストです。2文目の”harass, annoy, threaten or intimidate”なんかは、たとえポルノコンテンツでないものだとしても、ちょっと刺激のあるコンテンツは引っかかる感じがしますし、“efamatory, inaccurate, abusive”あたりは、「根拠無き批判的言論」はご法度で「裏取りが確かな学術論文」でも書かせる気かと思わんばかりの文言、かなりGumroad側に都合よく解釈できるような言葉ばかりになっています。実際に何かトラブルがあった際には、このどこかに抵触するという名目で、売り手のアカウントを停止するのでしょう。

検閲を入れずに配布できるようにしている以上、こういう抽象的な言葉で広く制約をかけたくなる気持ちもわかりますが、果たしてその実効性については疑問です。Yahoo!やDeNAなどのオークションサイトがそうであるように、ルールが守られているかをチェックする出品物パトロール隊を置くような措置は、早晩必要になってくるように思います。

買い手が騙された時、Gumroadはどうふるまうのか


Gumroadは、クレジットカード決済を完了させた上で買い手にダウンロードリンクを引き渡すという方法で、取引の迅速化を優先しています。ここで当然に不安になるのが、そのリンクが蓋を開けたらニセモノで、引き渡されるべきものが入ってなかったら?ということ。

この点についてGumroadは、「異議申立て制度」を設けることで、買い手の保護を果たそうとしています。しかし、まず買い主自身が商品がニセモノ・欠陥品であることをなんらかの方法で売り主とGumroadに立証しなければなりません。これに成功してはじめて、Gumroadが売り主のアカウント停止・買い主への返金などの措置をとることになっています。

このことが、利用規約の“4. Buyer Protection”からリンクされた“Buyer Protection Policy”に記載されているのですが、これ、言っちゃ悪いですがとっても読みにくい(何か別言語から直訳したような)英語で、しかも利用規約そのものと同じぐらい長い。そのわりによく読むと「Buyerはこうして、それに対してSellerはこうして・・・」と、それぞれの役割とプロシージャを書いているだけ。売り手も買い手もいざというときにこんな文書に従う人はいないでしょう。

そういう目でもう一度利用規約“4. Buyer Protection”を最初から読みなおしてみると、この冒頭の一文の意図がよく分かります。

Buyers of Digital Goods ("Buyers") and Sellers share the responsibility for making sure purchases facilitated by Gumroad are exciting, rewarding and hassle-free. Buyers and Sellers agree to follow the requirements of the Gumroad Buyer Protection Policy with respect to claims. We may suspend the Gumroad Buyer Protection Policy without notice if we suspect abuse or interference with the proper working of the program.

仕組み上は「双方の間に立って取引が円滑になるような役割を担う」ようで、その実「BuyerとSellerがGumroad上で行う購買行為の責任をシェアする=Gumroadは責任をシェアしない」ということが徹頭徹尾表明された利用規約になっているわけですね。

このような完全自己責任スタンスが、このような新しいweb上の決済円滑化支援サービスにおいてどの程度受け入れられていくのか、先駆者としてのお手並みを拝見しつつ、私も参考にさせていただきたいと思います。


参考リンク:
なぜ Gumroad や PayPal が日本から現れないのか(考える日常)
Gumroad の危険性について早めに警鐘を鳴らします(物語を語ろう。物語を創ろう。)
もしあなたの著作物が知らぬ間にGumroadで売られていたら(RMB)
 

契約書は多国籍化する ― Googleの規約改訂ポイント解説(その3)


Googleのプライバシーポリシー/サービス利用規約の解説(その1その2)は、質はともあれ速報としてお届けしたことが評価され、一部の方から感謝のお言葉までいただきました。この場を借りて御礼申し上げます。

一方で、「指摘されていることのいくつかは別にSNS・クラウドとは関係ない、昔からあったリスクの話だ」など、知識共有系ブログで起こりがちな知ったかぶりしてんじゃねーよ的ご指導もいただきまして、こちらもありがとうございます。

懲りずに3発目いかせていただきます(笑)。
言葉を商売道具にする法務パーソンにとって、これが一番ショッキングな現実だったりするのですが。

あるはずのアレがなくなった


契約書は、人間が読める自然言語によって書かれます。

多くの日本人にとっては、やっぱり日本語で読めるのが一番ありがたいはずですし、また結果としてそのほうが読み違いによる誤解・クレームも起こらなくなるでしょう。とはいえ、すべての国の言語で契約書を作っていたら、キリがありません。できれば1通のマスター契約書を読んでもらって利用者全員との共通の基準とさせてもらうのが効率的です。そうなると、世界共通語としての英語をマスター契約書の使用言語として選択することが必然の選択となります。

それでも、日本は1億人のマーケットということもあって、多くのサービスで日本語での翻訳が用意されており、英語が苦手な人でも契約内容が理解ができるようになっています。ただし、その翻訳版の契約には、決まってこんな添え書きがなされているのが常。

たとえば、twitterはこう。
ご参考までに日本語の翻訳を用意しました。ただし、法的な拘束力があるのは英語版であることをご了承ください。

Facebookはこう。
本規約は英語(米国)で書かれたものです。本規約の翻訳版と英語版に相違がある場合は、英語版が優先されるものとします。セクション16には、米国外のユーザーに関する一般的な規定の変更が記載されていますので、ご留意ください。

もちろんAmazonEC2も然り。
アマゾンが本契約の英語版の他言語による翻訳を提供した場合であっても、翻訳版と英語版との間に齟齬がある場合には、英語版が優先するものとする。

そしてGoogleの旧規約にも、この記載がありました。
3. 本規約の使用言語
3.1 Google が本規約の翻訳を提供している場合、かかる翻訳はユーザーの便宜を図ることのみを目的としたものであり、ユーザーと Google の関係に関しては、本規約の英語版が適用されることに同意するものとします。
3.2 本規約の英語版と翻訳版で相違や矛盾が発生する場合、英語版が優先するものとします。

“規約の内容・解釈で揉めた際には、英語版を正として争うことになりますよ”という注意書き。これは、これまでの法務の世界では当たり前のエクスキューズでした。

しかし、驚くべきことに、今回リリースされたGoogleの新規約からは、このエクスキューズがなくなっているのです。そう、Googleは、「英語版が正」という逃げ道を作らず、プルダウンで選択できる43カ国すべての国の言語それぞれでこの規約の正規版を作成するという、まさかと思うことをやってのけ、その国の言語に基づいた契約解釈を正面から争うことを表明しています。


s-multiling


こんなことをやってのけるのは、クレ●ジーなGoogleだけなんじゃないか・・・そう思ってMicrosoftのクラウドサービスの利用規約を見たところ、同じく、契約解釈についての言語の限定はありませんでした(仲裁手続きにおける使用言語の指定とドイツにおけるサービス利用時の例外を除く)。世界を股にかける前提のサービス利用規約においては他言語化の波はいやがおうにも避けられないという現実が、露わになってきたということでしょうか・・・。

法務のマルチ○○○○化からはもう逃げられない?


以前、私はこんなことをこのブログで書きました。

法務のアウトソーシング(LPO)を進めなければならないワケ
取引のグローバル化が進んでいる今、“マルチリンガル”が求められるのはどの職種でも同じです。しかし法務については、その国の言語が分かるだけでは役に立たず、そのそれぞれの法律や商習慣といった文化までもが分かる人材を確保して“マルチリーガル”“マルチカルチュラル”にならなければなりません。
マイクロソフトやヒューレットパッカードは、コストセーブのことだけ考えてアウトソースをしているのではなく、国ごとの言語・法律・文化という障壁が存在する限り内製で法務業務を行うのには限界があること、そしてアウトソーシングを進めることが法務ダイバシティを高めそれに対応するベストな手段であることにいち早く気づき、行動を始めたのだ。この記事にははっきりとそう書いてあるわけではありませんが、そのように読み取るべきだと思います。自前では多国籍軍化しえない企業法務部門が、グローバルな競争を勝ち進むためには、必然的にLPOに頼らざるを得なくなっていき、それを契機に法務業務全体の外注化に拍車がかかっていく。私はそう考えています。

Googleもこの規約を多国籍化させるために、法的有効性・顧客が読んだときの分かりやすさについて、現地弁護士事務所にLPOして検証したことでしょう(いや、もしかしたらGoogleだけに自社法務に43カ国の弁護士を抱えているのかもしれませんが・・・)。

SNS・クラウドといった新しいネットサービスがこれだけ急激に広まるようになったのも、どんな国からでもアクセスできること、そして1カ国のブームではなく様々な国でサービスが同時多発的に広まることで生まれるネットワーク効果がサービスの価値を高めるからこそ。その爆発力というメリットの裏側には、いままでの常識が通用しないこんな負担も孕むことになっていくのだなあと、考えさせられてしまいました。

それにしても、非常識に思える多国籍対応を軽々とやってのけ、それを広報で自慢したり鼻にかけたりするわけでもなく、何事も無かったかのようにリリースしているGoogle。この会社の法務と一戦交えるようなことは、できる限り避けたいものです。
 

SNS・クラウド時代のプライバシーポリシー/利用規約とは ― Googleの規約改訂ポイント解説(その2)

 
さて、前回の「プライバシーポリシー」編に続いて、今回は「サービス利用規約」編です。

前回の記事を書いた直後から、Googleへのログイン時にこんな↓オプトインの画面が表示されたり、
s-googleoptin2

Googleからのこんな↓お知らせメールが届き始めたりしていると思いますが、
s-googleoptoutmail


ここまでされると、さすがにみなさんも気になりはじめているはず。このエントリが、みなさんの理解に少しでもお役に立てば幸いです。

どうしてこんなに短くできた?


例によって、新旧対照表を作りましたので、まずは一読を。

Googleサービス利用規約 新旧対照表
s-googletos


プライバシーポリシーがとっても長くなったのに対して、サービス利用規約はとっても短くなりました。旧versionは11,416文字、対して新versionは5,385文字、なんと半減です(ちなみに英語版も4,223文字→1,720文字)。きっとGoogleの法務のみなさんは、50%減を明確な考課目標と定めていたに違いありません(笑)。

さらに、れっきとした利用規約=契約であるにもかかわらず、条文につけられていた条項番号すらなくなってしまいました。こうなるともはや、契約を読んでいる気すら薄れて、サービス説明のお手紙のような文章にも見えてきます。

どうしてこんなに短く、シンプルにしたのか?一言でいえば、それはGoogleがユーザーと正面から対峙する覚悟を決めたからだと思います。


ポイント1:「訴訟に勝てる」規約ではなく、「読んで分かる」規約に


特に、このすっきりあっさりとした保証・免責条項に、旧versionと新versionの顕著な違いが現れています。

保証および免責

Google は、商業上合理的な水準の技術および注意のもとに本サービスを提供し、ユーザーに本サービスの利用を楽しんでいただくことを望んでいますが、本サービスについて約束できないことがあります。
本規約または追加規定に明示的に規定されている場合を除き、Google またはそのサプライヤーもしくはディストリビューターのいずれも、本サービスについて具体的な保証を行いません。たとえば Google は、本サービス内のコンテンツ、本サービスの特定の機能、その信頼性、利用可能性、またはユーザーのニーズに応える能力について、何らの約束もしません。本サービスは「現状有姿で」提供されます。
一部の法域においては、商品性、特定の目的への適合性、および権利の侵害がないことに関する黙示保証などの保証が認められることがあります。法律で許されている範囲内で、Google はすべての保証を排除します。

基本的には何も保証できない、そして提供できるサービスを「現状有姿」=あるがままに提供するのみである、ということだけをきっぱりと宣言するこの文言。旧versionの14・15条のような具体的な事項例示もせずに一切の免責と書いただけで本当に免責が有効になるのかとか、あるがままとはどのくらいのサービスレベルを指すのかとか、契約的には曖昧さが残る分、裁判となった場合には面倒なことになるのでしょう(たとえば日本の消費者契約法との関係についてはこちら)。

しかし、誰も読まないあからさまな裁判対策用の規約を作るのはやめて、ユーザーが読もうと思える合理的な長さにし、読んでもらうことであらかじめGoogleの姿勢を理解してもらうべきだ。Googleはそう考えたのではないでしょうか。そしてもし訴訟となったときには、この頼りなくなった文言なりの戦い方をしようと、覚悟を決めたのだと思います。

「契約書」とは誰が読むためにあるのか。契約相手か?はたまた裁判官か?この問いは、法務パーソンの中でも意見が分かれるところなのですが、それは裁判官ではない、とGoogleは考えたと見えます。SNSやクラウドサービスは、誰もが手軽に・便利に使えるからこそ、契約書も誰もが読める文言にするのが筋。この英断は、世の中に星の数ほどあるweb上の利用規約に大きな影響を与えることでしょう。


ポイント2:SNS・クラウド時代の契約締結方式「従業員代理型契約」


プライバシーポリシーでも、隙の無いSNS・クラウド対応巧者ぶりを見せつけたGoogleが、利用規約でもまた見せつけてくれました。

事業者による本サービスの利用

本サービスを事業者のために利用する場合、その事業者は本規約に同意するものとします。かかる事業者は、Google とその関連会社、役員、代理店、従業員を、本サービスの利用または本規約への違反に関連または起因するあらゆる請求申し立て、訴訟、法的措置について、請求申し立て、損失、損害、訴訟、裁判、告訴から生じる法的責任および費用、弁護士費用を含め、免責および補償するものとします。

例えば、手軽に始められるエンタープライズ向けSNS/クラウドサービスの代表格Yammerを、会社の中の小グループだけで登録して勝手に使ってる方って、結構いると思います。あんな風に、会社の中で個人が勝手にクラウドサービス使うのって、Yammerの利用規約にもとづく契約はその個人とYammerが結んでいるのか、それともYammerと従業員が所属する法人との間でしているのかが明らかではありません。

これに対してGoogleは、上記引用文言によって、従業員が従業員として会社の業務でGoogleのサービスを使った場合には、それはその会社とGoogleとの契約になるよ、ということをこの利用規約で明言しているわけです。従業員としては大変おそろしい文言ですが、前回の記事の「ポイント3:クラウドが消す“法人と個人の境界”」でも述べたように、SNSやクラウドが会社の内と外の境界を曖昧にしていくことによって、契約の責任主体が誰かも分かりにくくなり、今後かなりの訴訟においてこの「契約者は法人だったのか?個人だったのか?」が争点になるはず。予めここまで文言化するあたりさすがGoogleです。勝手ながら今後、私はこれをクラウドサービスにおける従業員代理型契約と呼ぶことにします。


情報流出を防ぐという意味でfacebookやevernoteを社内からアクセスブロックしている会社は最近増えてきましたが、Google検索やYoutubeまでブロックしている会社は少ないと思われます。そんな現実を考えると、会社として勝手に契約成立させないためには、「Googleのwebサービスを勝手に使うな」という非現実的なルールを徹底するしかなくなりますね…。

ポイント3:それでも絶対にGoogleが譲らない条項が1つあった


最後に、ちょっと法務に詳しい方向けのお話を。

契約書の最後の方には、裁判管轄、不可抗力、完全合意の確認、損害賠償、免責etcといったどんな契約にも共通して規定される「一般条項」とよばれる条文があります。とくに英文契約ではそのパートだけでA4×2〜5枚ぐらいになってしまのが常で、webサービスのように不特定多数を相手にする契約では、会社としての防御本能はより一層強くなることから、勢い文字数も増えていくのが当たり前でした。しかし、Googleの利用規約は、そんな私たち法務の常識を打ち破り、その一般条項ですらスリムにしてしまいました。完全合意条項もカットされていれば、損害賠償額の上限設定すらありません。

それでも、Googleがここだけは死守しようとしたであろう、ほとんど文字数を減らしていない条項が1つだけあります。それは“準拠法&裁判管轄”条項です。

カリフォルニア州の抵触法を除き、本規約または本サービスに起因するまたは関連するいかなる紛争に関しても、アメリカ合衆国カリフォルニア州の法律が適用されます。本規約または本サービスに起因するまたは関連するいかなる主張についても、アメリカ合衆国カリフォルニア州サンタクララ郡内に所在する裁判所においてのみ裁判手続を取ることができるものとし、ユーザーと Google はその裁判所の対人管轄権に同意するものとします。

(冒頭「カリフォルニア州の抵触法の原則に関する条項を除き」の方が適切かと思いますが、それはさておき)その他の条項がどんなに曖昧であろうが、勝手知ったるカリフォルニア州法を準拠法として、自社のホームグラウンドであるサンタクララの裁判所を戦いの土俵にさえできれば、完全勝利にはならなくとも、常識的な範囲でおさまり大負けはしないはず。Googleは、これまでの数多くの訴訟経験の積み重ねの中で、そう割り切ったのだと思います。

以前、準拠法と裁判管轄の交渉でリードする方法についてエントリを書いたことがありますが、やはり契約交渉においては、この2つの要素を抑えた方が勝つのだ、そう確信させられた今回の利用規約改訂でした。
 

SNS・クラウド時代のプライバシーポリシー/利用規約とは ― Googleの規約改訂ポイント解説(その1)

 
Googleが、プライバシーポリシーとサービス利用規約の3/1付け大規模変更をアナウンスしました。

検索サービス、Gmail、Youtubeを含むほぼすべてのサービスに適用される今回の変更。Googleが嫌いでも、インターネットを使っていてGoogleのサービスを全く使っていない人はそうそういないはずで、その意味ではインターネットの法律が変わったようなものとも言えます。そこで速報的にではありますが、ポリシー編と規約編の2回に分けて、ポイントを抑えておきたいと思います。

今日はまず、Googleの個人情報の取扱いについてのお約束文書である「プライバシーポリシー」編です。


「長く」なったのは何のため?


まずは、現行の旧versionと3/1リリースの新versionとの差異が分かりやすくなるよう、新旧対照表を作成してみました。このブログの幅に貼り付けてしまうと見にくくなりますので、Googleドキュメントにアップロードした表をご覧ください(公開設定していますので、ログイン等は不要です)。

Googleプライバシーポリシー新旧対照表
s-googlepp0


一見して分かること。それは新Versionのポリシーの方が長くなった、ということでしょう。そう、普通こういった企業のプライバシーポリシーの類に起きがちなのは、企業が訴訟やトラブルを抱える度にその反省から定義が厳密に・細かくなっていき、その分文字量ばかりが増えていくという現象です。

しかし新Versionを読みすすめてみると気づくはずです。長くなったにもかかわらず、圧倒的に読みやすく・理解しやすくなっているということに。そしてこの長さは、下記3点のポイントを実現するのに必要最低限な長さになっているのです。


ポイント1:ポリシーの全サービス共通化による“シェア”への対応


今回のプライバシーポリシー/利用規約の改訂により、60を超えるGoogleのサービスの(ほんの一部の例外を除く)ほぼすべてに、同じプライバシーポリシーが適用されることになりました。

私は最初、これは「いろんなプライバシーポリシーがあると、Googleも管理しきれないだろうし、ユーザーも読む気がしないからなんだろう」ぐらいに思っていたのですが、少し考えてそれだけではないことに気付きました。サービス間をまたいで個人情報が行き来しはじめているという現実に正しく対処するための、あるべきポリシーの姿なのだということに。

s-googlepp1

たとえば、Googleが始めたSNSであるGoogle+上で、ユーザーAさんが「●●がほしい」と投稿したり、Bさんの投稿に対して“+1”ボタンを押した商品の情報を、Aさんがその後にGoogle検索したときの検索結果や広告表示の命中率を上げるために用いる。そんな行為も、今まではGoogle+とGoogle検索の2つのサービスのプライバシーポリシーを満たしていないと説明がつかなかったり、整合性がとれなかったわけですが、ポリシー自体が1つに統一・共通化されていれば、堂々とサービス間でユーザーの個人情報の受け渡しができるようになるわけです。

実際、Googleは"Search, plus Your World"というコンセプトを打ち出し、Youtube等ですでにこれを実装しはじめています。また、今回のプライバシーポリシーの中にも、以下のような規定で「サービス間でまたがって使う」ことを宣言しています。

お客様による情報の共有
Google の多くのサービスでは、お客様は他のユーザーと情報を共有できます。お客様が情報を公開されると、Google などの検索エンジンのインデックスの登録対象になることがあります。Google サービスでは、お客様のコンテンツの共有と削除に関して、さまざまなオプションをお客様に提供しています。

書いてしまうとなんだそんなことか、という感じではありますが、SNSとはすなわちシェア文化の加速であるという本質を端的に捉え、プライバシーポリシーを全サービスで統一するという面倒な作業を厭わず整合性を追求しようという姿勢は、(facebookと並んでプライバシーの取扱いに関して何かと叩かれるGoogleですが)評価してよいと思います。


ポイント2:「収集する個人情報と利用目的」のイノベーション


ポリシー作りに一度でも関わったことがある人は分かると思いますが、「収集する個人情報と利用目的」の明確化は、ポリシーを作成する上でもっとも悩ましい問題です。

法律やプライバシーマーク基準そして顧客保護の視点からは、できるだけ具体的に定義をしろという要請があるわけです。その一方で、具体的に定義をしてしまえばしてしまうほど、後々自由に個人情報が収集できなくなり、変化を余儀なくされるサービスの成長に対する足かせ・制約条件になってしまいます。しかも今回、上記ポイント1にあるように、サービスを横断的に情報が行き来できるよう、全サービス共通化したのですから、そのひとつひとつをすべて定義し列挙していたら、いくら情報の種類を羅列してもし切れない気がしてきます。

そこでGoogleが編み出したアイデアが、“収集する情報の種類”や“利用方法のバリエーション”を定義するのをやめて、“収集する方法”によって情報を定義するという手法

Google は、すべてのユーザーによりよいサービスを提供するために情報を収集しています。その内容は、お客様の使用言語などの基本的情報から、お客様にとって最も役に立つ広告やオンラインで最も重要視している人物などの複雑な情報まで、多岐にわたります。
情報の収集は以下の 2 種類の方法で行います:

・お客様からご提供いただく情報
たとえば、多くの Google サービスでは、Google アカウントのご登録が必要です。ご登録に際して、氏名、メール アドレス、電話番号、クレジットカードなどの個人情報の提供をお願いしています。Google が提供する共有機能をすべてご活用いただく場合は、公開される Google プロフィールを作成していただくようお願いすることもあります。これには、名前や写真などを掲載することができます。

・サービスのご利用時に Google が収集する情報
Google は、ご利用のサービスやそのご利用方法に関する情報を収集することがあります。たとえば、Google の広告サービスを使用しているウェブサイトにアクセスされた場合や、Google の広告やコンテンツを表示または操作された場合です。これには以下の情報が含まれます:
  • 端末情報  Google は、端末固有の情報(たとえば、ハードウェア モデル、オペレーティング システムのバージョン、端末固有の ID、電話番号などのモバイル ネットワーク情報)を収集することがあります。Google では、お客様の端末の ID や電話番号をお客様の Google アカウントと関連付けることがあります。
  • ログ情報  お客様が Google サービスをご利用になる際または Google が提供するコンテンツを表示される際に、サーバー ログ内の特定の情報が自動的に収集および保存されます。これには以下の情報が含まれることがあります:
(中略)
Google は、どの Google サービスから収集した情報も、そのサービスの提供、維持、保護および改善、新しいサービスの開発、ならびに、Google とユーザーの保護のために利用します。Google は、お客様に合わせてカスタマイズしたコンテンツを提供するため(関連性がより高い検索結果や広告を提供するなど)にも当該情報を利用します。

まず冒頭で「その内容は、〜多岐にわたります」と、そりゃ情報の種類はいろいろありますがな!とあっさり言い放った上で(笑)、かと言って何も定義しないわけでなく、「情報の収集は、以下の2種類の方法で行います」という収集の方法論に置き代えてできるだけ具体化する努力をしているのです。

これは、読み手であるユーザーにも抵抗がなく、かつ定義はちゃんとしてますよと主張でき、将来の拡張もしやすい、プライバシーポリシーのイノベーションなのではないかと思います。


ポイント3:クラウドが消す“法人と個人の境界”


データの量や重要性という意味で、SNSでの個人情報の取扱いよりももっと悩ましいかもしれないのが、クラウドの問題です。例えば、ユーザーのデータが外国のサーバーに保存されることもあるという越境性の問題についての規定などは、クラウドサービスを実施されている事業者の法務部門の方は、手探りで文言を検討されていたと思います。

もちろん、クラウドが国境を無きものにするという“越境問題”については、Googleともなればさすがにすでに現行ポリシーでも規定対応済み。しかし、それを超えるさすがGoogle!という問題意識の高さが垣間見える規定が、今回のポリシーから新たに挿入されていました。それがこれ。

Google は、以下のいずれかに当てはまる場合を除いて、個人情報を Google 以外の企業、組織、個人と共有することはありません:

・お客様の同意を得た場合
Google は、お客様の同意を得た場合に、個人情報を Google 以外の企業、組織、または個人と共有します。Google は、事前の同意なしに、機密性の高い個人情報を共有することはありません。

・ドメイン管理者の場合
お客様の Google アカウントがドメイン管理者によって管理されている場合(Google Apps ユーザーの場合など)、お客様のドメイン管理者と、お客様の組織にユーザー サポートを提供する販売代理店は、お客様の Google アカウント情報(メールなどのデータも含む)にアクセスすることができます。ドメイン管理者は、以下の事項を行うことができます
  • お客様のアカウントに関する統計情報(お客様がインストールしたアプリケーションに関する統計情報など)を表示すること。
  • お客様のアカウントのパスワードを変更すること。
  • お客様のアカウントのアクセス権を一時停止または停止すること。
  • お客様のアカウントの一部として保存されている情報にアクセスし、またはその情報を保持すること。
  • 該当する法律、規制、法的手続または強制執行可能な行政機関の要請に応じるために、お客様のアカウント情報を受け取ること。
  • 情報またはプライバシー設定の削除や編集を行うお客様の権限を制限すること。
詳細については、お客様のドメイン管理者のプライバシー ポリシーをご覧ください。(以下略)

注目すべきは、ドメイン管理者への個人情報の開示・コントロール権の付与を保護の例外として明示していること。つまり、クラウド時代になると、ビジネスとプライベートの境界がなくなり、Googleの法人向けクラウドサービスを通じて管理者が従業員個人の個人データを収集したり、逆にプライベートで使っていたGoogleアカウントをビジネスでも利用する人が増えて、会社も個人アカウントを管理するようになるよね、ということを規定に表現したわけです。

「本人が会社と合意して業務目的でGoogleのアカウントをビジネスユースしてるんだったら、本人がドメイン管理者に対してコントロール権を渡したとみなしちゃっていいんじゃないの?」などと乱暴に考えたくもなるところですが、そういった解釈論に逃げず、国境はおろか法人と個人の境界すらなくしてしまおうというクラウドコンピューティングのあり方を真正面から捉え、契約的な解決策を提示した好例ではないかと思います。

2012.1.30追記:
twitterで、こんなご指摘をいただきました。
2012/01/27 17:19:05
「Google アカウントがドメイン管理者によって管理されている場合」とちゃんと前提条件書いてあるのに「クラウド時代になると、ビジネスとプライベートの境界がなくなり」って結論づけたいがために無理な読み方してないか。

ご指摘のようにクラウドが境界を無くすという仮説ありきの発想ではありますが、この例外規定の中でわざわざ「お客様の同意を得た場合」という場合分けと並列に「ドメイン管理者によって管理されている場合」が並べられているのを見ると、「同意を得なくてもドメイン管理者の定義を広めに解釈すれば例外適用可能」というような邪悪方向に拡大解釈する意図と可能性を感じました。この部分については、もうちょっと検討してみたいと思います。


(次回「サービス利用規約」編に続きます)
 

web上での利用規約の同意の取り方について、経産省が態度をこんなに軟化させてたなんて知らなかったよ

 
@at1117先生のGoogle+での投稿で、経産省の「電子商取引及び情報財取引等に関する準則」が今年の6月末に改訂されていたことを知りました。不覚です。

「電子商取引及び情報財取引等に関する準則」の改訂について(経済産業省)
s-jyunsoku

改訂されたのは以下。
・項目の並び順(目次)の修正
・ウェブサイトの利用規約の有効性に関する論点の修正
・未成年者による意思表示に関する論点の修正
・CGM サービス提供事業者の責任に関する論点の修正
・電子商取引の返品に関する論点の追加・修正
・インターネット上の著作物の利用、掲示に関する論点の修正
・国境を越えた商標権行使に関する論点の追加・修正
・法改正、新たな裁判例への対応、その他軽微な修正

この中でもっとも注目すべきは、web上での利用規約の同意の取り方について述べた「ウェブサイトの利用規約の有効性に関する論点」が修正されている点でしょう。

平成22年バージョンでは
インターネット取引はまだ新しい取引形態であり、現時点でウェブサイトに掲載されたサイト利用規約に従って取引を行う商慣行が成立しているとは断定できない。(中略)よって、サイト利用規約への同意クリックなど利用者からのサイト利用規約への同意の意思表示が確認されない限り取引が実施されない仕組みが構築されていない場合には、サイト利用規約に法的効力が認められない可能性が残る。特に、単に同意クリックなどの仕組みがないだけでなく、サイト利用規約へのリンクボタンがサイト内の目立たない場所に小さく表示されているに過ぎないなど、利用者がサイト利用規約の存在に気がつかないであろう場合には、原則として法的効力は認められないと考えられる。

とあったのが、平成23年バージョンではなんと
インターネットを利用した電子商取引は今日では広く普及しており、ウェブサイトにサイト利用規約を掲載し、これに基づき取引の申込みを行わせる取引の仕組みは、少なくともインターネット利用者の間では相当程度認識が広まっていると考えられる。従って、取引の申込みにあたりサイト利用規約への同意クリックが要求されている場合は勿論、例えば取引の申込み画面(例えば、購入ボタンが表示される画面)にわかりやすくサイト利用規約へのリンクを設置するなど、当該取引がサイト利用規約に従い行われることを明示し且つサイト利用規約を容易にアクセスできるように開示している場合には、必ずしもサイト利用規約への同意クリックを要求する仕組みまでなくても、購入ボタンのクリック等により取引の申込みが行われることをもって、サイト利用規約の条件に従って取引を行う意思を認めることができる

見事なまでの180度方向転換です。いや、時代の流れを積極的に反映しようという姿勢はすばらしいと思うのですが、さすがに今回ばかりはいさぎよすぎますぜ経産省・・・。私は以前の準則に忠実であろうと頑張ってたクチですので、なんだか裏切られた気すらします。


さて、この準則の改定については、ちょうど今月発売のBusiness Law Journal No.46で、田辺総合法律事務所の橋本裕幸弁護士が解説をされていらっしゃいます。

BUSINESS LAW JOURNAL (ビジネスロー・ジャーナル) 2012年 01月号 [雑誌]BUSINESS LAW JOURNAL (ビジネスロー・ジャーナル) 2012年 01月号 [雑誌]
販売元:レクシスネクシス
(2011-11-21)
販売元:Amazon.co.jp


橋本先生はこの記事中「少なくとも筆者の過去の経験からいって、購入手続きの途中で利用規約の画面が表示されたため、面倒になって購入を断念した、というようなケースは記憶にないし、周囲の人間(法律家以外を含む)からも、そのような話を聞いたためしはない」とおっしゃっていますが、webマーケティングの世界では、「利用規約を確認しました」チェックボックスにチェックを入れさせるというそのアクションだけでサイト離脱率が数%上がってしまうことは実証されてまして、私自身もそういうリアルな数字を見せつけられて反論に苦慮した経験があります。経産省の今回の準則改定は、こういった離脱率と日々戦うwebマーケティング担当者にとっては、朗報といえるでしょう。

一方で、プライバシー保護のためのオプトインの手続きに関する総務省のスタンスはまったく逆の厳しいものだったり(こちらの過去エントリ参照)するというこの省庁間の温度差はどっちの方向で調整されていくのか、気になるところではあります。

NHKさんが「地デジ難民は1年以内に受信契約終了の手続きをしないと、過払い受信料は返さないよ」って言ってますよ

 
さて、昨日でアナログ放送が終了しましたね。地デジ対応テレビも買わずじまいの私ですので、晴れて総務省発表29万世帯/放送業界推定10万世帯いるという地デジ難民の一人です(本当はそれどころの件数じゃないと思いますが)。



で、反射的に思ったのが、29万世帯の地デジ難民のNHK受信契約ってちゃんと解約されるんだろうか?ということ。もはや法務の職業病の域に達してますが、興味本位で調べてみました。

「地デジ対応テレビありません」と自己申告しないと契約終了にならない


すると、NHKの受信料の窓口ページのトップ左上リンクから飛んだところに、こんな表記が。

アナログ放送の終了によりNHKの放送を受信できなくなった場合の受信契約の手続き(NHK受信料の窓口)
  • アナログ放送の終了に伴い、NHKの放送を受信できなくなった場合、受信契約の対象外となるため、受信契約を終了させていただきます。
  • 受信契約の終了にあたっては、受信機の設置状況を確認させていただいたうえで、必要事項(お名前・ご住所・NHKの放送が受信できなくなった事情等)のお届けが必要となりますので、「NHKふれあいセンター」までご連絡ください。

すごいさらっと書いてありますが、要は自分から理由を添えてNHKさんに申告しないと契約終了扱いにできないわけですね。

全国の地デジ対応テレビを買わない・買いたくても買えないおじいちゃんおばあちゃんが、ちゃんとその旨を申告して大切な年金から口座引落しされないよう手続きできるのかどうか、とっても心配になります。

1年内に申告しないと、過払い受信料を返してくれない


こうなると、NHKさんがいつまで気づかずに払い過ぎた受信料を返金する用意をしてくれているのかも疑問になります。

NHKとしても、決算書上「受信料返還未払金」を計上しなければならないでしょうし、仮に10年後にこの29万件の契約者から「受信料10年分返せ」と言われたら、29万件×年間14,190円×10年分=411億円もの大金をキャッシュで用意しなければならないわけですし。どうするんだろ?と思って放送契約約款を確認してみたら、一番最後の付則のところにこんな規定が。

日本放送協会放送受信規約
(アナログ放送の終了に関する措置)
10 第9条の規定にかかわらず、放送受信契約者がNHKのテレビジョン放送のうちアナログ方式の放送(以下「アナログ放送」という。)の終了に伴い、NHKのテレビジョン放送を受信することができなくなり、第1条第2項に定める受信機の設置がないこととなったときは、アナログ放送の終了日(以下「アナログ放送終了日」という。)から1年以内に、次の事項を放送局に届け出なければならない
(1)放送受信契約者の氏名および住所
(2)設置がないこととなった受信機の数
(3)受信機を住所以外の場所に設置していた場合はその場所
(4)NHKのテレビジョン放送のうちデジタル方式の放送を受信することができない事情

11 NHKにおいて前項各号に掲げる事項に該当する事実を確認できたときは、放送受信契約は、アナログ放送終了日に終了したものとする

12 (略)

13 付則第11項の規定により放送受信契約が終了した放送受信契約者における第5条第1項の適用については、同項中「第9条第2項の規定により解約となった月」とあるのは「アナログ放送終了日の属する月」と、「受信機を設置した月に解約となった」とあるのは「受信機を設置した月にアナログ放送終了により放送受信契約が終了した」とし、付則第11項の規定により放送受信契約が終了した場合における放送受信料の精算については、第11条第1項を準用する。この場合において、「解約」とあるのは「終了」と読み替えるものとする。
(放送受信料の精算)
第11条 放送受信契約が解約となり、または放送受信料が免除された場合において、すでに支払われた放送受信料に過払額があるときは、これを返れいする。この場合、第5条第1項または第2項に定める前払額による支払者に対し返れいする過払額は、次のとおりとする。
(1)経過期間が6か月に満たない場合には、支払額から経過期間に対する放送受信料額を差し引いた残額
(2)経過期間が6か月以上である場合には、支払額から経過期間に対し支払うべき額につき、第5条第1項または第2項に定める前払額により支払ったものとみなして算出した額を差し引いた残額

さすが天下のNHKさんというべきか、知らない間に「地デジ難民になったのが解約の理由なら、アナログ放送終了日から1年以内に届け出ないと遡っては返金しないよ」という契約にしてたんですね。契約者数が多いから、そして虚偽申告が多くなりそうだからとはいえ、これはなかなか大胆な規定です。万が一、契約者が1年後以降に気付いて過払い受信料の返還を請求した場合は、この付則を根拠に普通の解約者と同様第9条2項に従ってその届出日まで契約があったと主張するつもりなのでしょう。


地デジコールセンターへの問合せで質問すれば回答をもらえたり、NHKの請求書等には記載されているのかもしれませんが、周知徹底が十分とは思えないこの1年内申告義務。余計なお世話かもしれませんが、付則に目立たないように書くだけじゃなくて、せっかくテレビ放送という強力な告知媒体をお持ちなのですから、アナログ放送が見えていた時にアナログ契約者に対して画面を通じてもっと積極的に告知すべきだったのではないでしょうか?時すでに遅しですが・・・。
 

【雑誌】BUSINESS LAW JOURNAL No.40 7月号 ― 保存版「利用規約作成・運用・変更マニュアル」


最近のBLJは評判良すぎで、他の法務ブロガーの皆さんが紹介記事をバンバン書かれるので、遅筆な私は遠慮がちになってました。今号はちょこっとだけ記事にご協力させていただいた御礼で献本までいただいたので、その御礼も兼ねこれまた遅ればせながら。


BUSINESS LAW JOURNAL (ビジネスロー・ジャーナル) 2010年 07月号 [雑誌]BUSINESS LAW JOURNAL (ビジネスロー・ジャーナル) 2011年 07月号 [雑誌]
販売元:レクシスネクシス
(2011-05-21)
販売元:Amazon.co.jp



見どころはやはり特集の「利用規約の作成・運用・変更」。
BLJの読者懇親会のアンケートでぜひこのような企画をと何度か希望していた記憶もあり、また他誌でもこれだけまとめた特集はなかなか無く、読む前から興味深い特集でしたが、

1)利用規約の条項例
2)作成・制定の手順
3)抜け漏れチェックリスト
4)企業法務部の規約苦労話×7
5)消費者団体視点からみた注意点×2

が、35ページにわたって纏められている素晴らしい特集。献本頂いたからということを抜きにして、お世辞抜きに良い特集だと思います。仕事柄日頃から利用規約・約款に関する資料・文献を血眼になって探していても、ここまで過不足なくまとまっているものは出会えませんでした。

特にNTTドコモ法務部坂下氏が作成されたという3)の利用規約の抜け漏れチェックリストは、お目にかかったことのない「大胆な」記事。契約書のチェックリストはあっても、利用規約に特化したものとなるとあまり他ではなかったのでは。

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ページ上部に「以下の規定をそのままつなぎ合わせて作っても適切な利用規約になりません」と利用上の注意が大きく書いてあるあたりに、このまとめに意味や価値があるのか・載せるにしてもどうまとめるかに悩まれたであろう編集部の皆さんの苦労が偲ばれますが、他ではやらないからこそ価値があるわけで、BLJ編集部Sさんの編集者魂を見た気がします。
実際のところ、BtoCで利用規約まみれになっている法務部の方だけでなく、弁護士の先生方にとっても、こういったチェックリストは忘れがちな視点に気づかせてくれ、相当心強い存在になるのではないでしょうか。

他にも4)に登場する1社、ヤフー法務部長古関さんによる「70本の規約一本化」の話は、規約の本数が増殖するとゆくゆくどうなるか/あらかじめ避けるにはどうすればいいかについての示唆が有用ですし、5)なんかも、企業法務部からは怖すぎて意見交換するにもアプローチが難しい消費者団体という存在から利用規約を見たときの視点を提供してくれ、大変ありがたい記事です。利用規約のあり方に課題を感じている方もそうでない方も、今後3年ぐらいは保存版になるでしょう。


それと今号はもう一つ、大寺正史弁護士による「債権償却のすすめ〜債権をうまく回収できないようなときは〜」と題する記事にある“無資力の判断/債権回収断念の事情を主張するにあたって確保しておくとよい資料”のまとめも、取引審査や与信管理系の実務をされている方も泣いて喜ぶお役立ち記事だと思います。

BLJという雑誌には、ただ単に法務部員のよもやま話を寄せ集めただけではない、けれど弁護士や学者先生の書きたいマニアックな論稿を寄せ集めただけでもない、雑誌としての価値を追及しようという編集部(者)の意志や意地が誌面に滲みでているように感じます。当たり前ですが私のような一介のブロガーにはやはりマネのできないプロの仕事だなと、あらためて敬服するとともに、感謝したいと思います。
 

東京電力の「電気供給約款」を分析してみた

 
企業法務マンサバイバルは、「約款」「利用規約」という単語にとても反応するブログです。

これまでもmixiの利用規約Appleの販売約款Facebook利用規約などなど、数々の「利用規約」「約款」ネタを取り上げてきました。以前も述べたとおり、これからの企業法務において、契約にかかるコストを下げること、そのための手法として約款を活用することは、とても重要になっていくだろうと考えるからです。

そういう意味で言うと、今回研究対象として取り上げる東京電力の電気供給約款は、この関東圏のすべての人・事業所が利用している約款にもかかわらず、全くノーマークでした。電気だけに、灯台下暗し・・・。

電気供給約款(東京電力HP)

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約款上、今回のような計画停電は想定されていたか?


されていたと思います。ここまでの規模じゃないにせよ。

計画停電という明確な言葉はこの約款には登場しませんが、以下の(1)二の「非常変災」に該当するものとしての「電気の供給中止」と解釈できます。

40 供給の中止または使用の制限もしくは中止
(1) 当社は,次の場合には,供給時間中に電気の供給を中止し,またはお客さまに電気の使用を制限し,もしくは中止していただくことがあります。
 イ 異常渇水等により電気の需給上やむをえない場合
 ロ 当社の電気工作物に故障が生じ,または故障が生ずるおそれがある場合
 ハ 当社の電気工作物の修繕,変更その他の工事上やむをえない場合
 ニ 非常変災の場合
 ホ その他保安上必要がある場合
(2) (1)の場合には,当社は,あらかじめその旨を広告その他によってお客さまにお知らせいたします。ただし,緊急やむをえない場合は,この限りではありません。

それにしても、(2)の「あらかじめその旨を広告その他によってお客さまにお知らせ」のあり方は、東電としていくつか反省すべきポイントがあったと思います。

まず、あれだけの重要かつ複雑な情報をホームページでの告知に頼ろうとしたこと。後にYahooやニュースサイト、経済産業省のサイトに転載されたからよかったものの、アクセスが集中してパンクするのは目に見えてましたし、インターネットが使えない家庭では知る手段は無かったと言ってよいと思います。

加えて、最初に東電が出した情報が間違っていたのも問題でした。HPでは差し替えが行われたものの、ニュース番組では大体的に間違ったままのリストで説明され、SNSなどを通じて間違ったリストがどんどん広まっていきました。

そして何よりも発表が実施前日の深夜と非常に遅かったのは乱暴でした。しかし、私はこれには深い理由があったと推察しています。3/12には既に「計画停電が必要になるかも」と報道でも囁かれながら、正式発表が前日の深夜になったのはなぜか?その理由の考察は、後ほど損害賠償責任の条項を解説した上での「余談」としてまとめていますので、ご覧ください。

計画停電に対するユーザー補償は?


計画停電=電気の供給中止に伴う金銭的な補償措置としては、以下の条項が用意されています。

41 制限または中止の料金割引
(1) 当社は,40(供給の中止または使用の制限もしくは中止)(1)によって, 定額電灯,従量電灯および低圧電力に対する電気の供給を中止し,または 電気の使用を制限し,もしくは中止した場合には,次の割引を行ない料金を算定いたします。たただし,その原因がお客さまの責めとなる理由による 場合は,そのお客さまについては割引いたしません。
イ 割引の対象
定額電灯については需要家料金,電灯料金および小型機器料金の合計とし,その他については基本料金(力率割引または割増しの適用を受ける場合はその適用後の基本料金とし,従量電灯Aの場合は最低料金とし, また,従量電灯で最低月額料金の適用を受ける場合は最低月額料金といたします。)といたします。ただし,26(料金の算定)(1)イ,ロまた はハの場合は,制限または中止の日における契約内容に応じて算定される1月の金額といたします。
ロ 割引率
1月中の制限し,または中止した延べ日数1日ごとに4パーセントといたします。
ハ 制限または中止延べ日数の計算
延べ日数は,1日のうち延べ1時間以上制限し,または中止した日を1日として計算いたします。

まずポイントなのが、「定額電灯」と「基本料金」のみが割引の対象となっている点です。従量電灯や低圧電力については割引の対象ではありません。しかも、一般家庭では「定額電灯」契約はしてない(マンションの共用部の電灯や公衆電話用)と思いますので、結果基本料金のみが割引の対象となります。

割引の考え方がやや複雑ですが、1日のうち延べ1時間以上制限すると1日停止とカウントされると。つまり2〜3時間ずつの輪番停電に1日どこかであたるごとに4%ずつ、つまり輪番停電に25日にあたってはじめて、その月の基本料金がタダになるみたいです。微々たるものですね(笑)。

しかし、さすがに今回のような規模と頻度は想定していなかったはず。住所ごとにグループを分けて何回にも渡って実施したりしなかったりしている今回の計画停電と、各家庭ごとに請求金額を計算する東電の請求額計算システムとが連動しているとは思えません。次の請求までに、システム改修は間に合うのでしょうか・・・。

東京電力は損害賠償責任を負うのか?


約款上はどう読んでも負うことになるだろう、というのが結論です。

こういった事態を想定していたであろうわりには、損害賠償の免責規定の作り方は少し甘かった様に思います。

42 損害賠償の免責
(1) 40(供給の中止または使用の制限もしくは中止)(1)によって電気の供給を中止し,または電気の使用を制限し,もしくは中止した場合で,それが当社の責めとならない理由によるものであるときには,当社は,お客さまの受けた損害について賠償の責めを負いません。

以前このブログでも解説したとおり、「一切を免責」と規定してしまうと、消費者契約法によってその条文自体が無効となってしまうことなどに配慮し、「当社の責めとならない理由によるものであるときには」という免責にとどめたのでしょう。しかし、少なくとも(消費者契約法の制限を受けない)事業者の営業停止損害などは、条文上免責をしておくべきだったのではないでしょうか。

一般家庭と違って、事業者が計画停電で営業停止を余儀なくされたことについての損害の立証は比較的容易です。そこに対して規定上も免責がないとなると、訴訟は数十件の単位では収まらないものと思います。日本の裁判所がこの状況を踏まえてどのように判断するか、見守っていきたいと思います。

余談:計画停電実施の正式発表までに時間がかかったのはなぜか?


私が今回の東京電力の対応の中で何より驚いたのは、計画停電実施の正式発表が前日の深夜だったということ。

もちろん、グループ分けの実務が大変だったということもあるでしょう。しかし東京電力はなぜあの時間まで計画停電をすること自体も発表できなかったのか?ずっとそこだけが解せなかったのですが、損害賠償条項を分析しながらこの記事を読んでいて、ピンと来るものがありました。

計画停電 危機対応 東電任せ(YOMIURI ONLINE)
東京電力が14日から始めた「計画停電」は、一般家庭や企業などの顧客との取り決めである「電力供給約款」を根拠に行われている。

これに対し、第1次オイルショック時の1974年1月には、政府が電気事業法27条に基づく強制的な電力の使用制限を行った。電力の供給不足への対応には国も大きな責任を負うはずだが、今回は東電と顧客という民間同士が決めた約款に危機対応を委ねた形だ。事前の説明が二転三転するなどした背景には、菅政権の無責任な対応もある。
参考:電気事業法第27条(電気の使用制限等)
経済産業大臣は、電気の需給の調整を行わなければ電気の供給の不足が国民経済及び国民生活に悪影響を及ぼし、公共の利益を阻害するおそれがあると認められるときは、その事態を克服するため必要な限度において、政令で定めるところにより、使用電力量の限度、使用最大電力の限度、用途若しくは使用を停止すべき日時を定めて、一般電気事業者、特定電気事業者若しくは特定規模電気事業者の供給する電気の使用を制限し、又は受電電力の容量の限度を定めて、一般電気事業者からの受電を制限することができる。

おそらく、東京電力は、電気事業法27条に定める経済産業大臣の命令に基づく供給制限という構成にすべく、官邸と交渉を重ねていたのではないでしょうか?

「法律に基づく大臣決定による強制的な供給制限」ということにできれば、まさに「当社の責めとならない理由による」超法規的な措置として、東京電力が停電による損害賠償義務を負わずに済む構成となるはずだったからです。しかし、政府はこれをまるで自己責任と言わんばかりに突き放しました。だからこそ、「東電が(約款に基づいて実行する)計画停電の実施を“承認”した」という言い回しになったのでしょう。

東電:「大臣命令の供給停止ということにさせて下さい、でないと後が…」
政府:「原発問題は東電が起こしたことなんだから、自分で責任取って、会見で詫びてこい」

こんな責任のなすりつけあいが3/12〜/13を通して発生し、結果あの時間まで発表が遅れたのではと推察します。もしそうだとすれば、政府も東電も、国民・顧客の生命・身体・財産の危険を無視した迷惑極まりない態度だと批判されても、仕方がないでしょう。
 

【本】約款による契約論 ― 契約コストが企業競争力を左右する時代


これからの企業法務において、契約にかかるコストを下げること、そのための手法としての約款理論を理解することは、とても重要になっていくだろうと私は考えます。

誰もがインターネットを使うようになり、かつグローバル化した社会においては、世界中にある数百・数千・数万社の候補の中から取引先を選べるようになります。取引先が選べるのであれば、コスト削減の追及とリスクマネジメントの観点から考えても、取引先を分散・小口化していくことを企業は望むでしょう。そうなると、取引にかかるコストの中で、契約交渉を重ねて契約書を作成しサインを交わして・・・という契約コストさえ、削減の対象になるはずだからです。

振り返ってみれば、企業と個人との間の契約は、そのほとんどが約款による契約だったりします。今あなたがネットにつないでいるプロバイダ契約、PCに含まれるライセンス契約、生命保険契約なんかは約款による有償契約の代表的なものですし、TwitterやFacebook、私が利用するlivedoorブログなどは無償とはいえこれも約款による無償契約です。企業からすれば、いちいち個人と契約条件について交渉などしていられません。なので約款を提示してそれに同意してくれる人にだけ商品やサービスを提供するわけです。このスタイルが、上述した理由で、企業間の取引においても加速していくだろうと考えています。

事実、複数社から「ネット上で企業間契約を自動化する仕組み」について検討しているという声を実際に聞いています。ここでいう契約の自動化とはすなわち「約款による附合契約」。商品やサービスの品質や価格に加えて、契約にかかる取引コストの削減が企業競争力を左右する時代がくる。これは想像ではなく、現実なのだと思います。

そんな近い将来に備える一冊として、この本を推薦します。

約款による契約論 (信山社双書)


英、独、米を中心に、各国の約款を用いた契約に対する法規制、判例等をつぶさに検討しながら、比較法学的に日本の約款規制の今を分析する本。

約款による取引は、事業者が自分に一方的有利な条文を定めがちなため、国によっては法律で直接規制している国もあります。また、契約相手への契約条件の認知のさせ方にも、規制の温度差があったりします。
たとえば、約款をURLで表示して契約申込みボタンを押させる一般的な手法について、ドイツでは
顧客の申込表示のフォームに、約款が明白で誤解を生じさせない形で組み込まれていれば足りる。例えば、「全ての申込と取引は、当社の『XYZ』番号の下で呼びだせる約款を基礎としてなされるものとする。」という挿入文言で足りる。
のに対し、イギリスでは
相手方にとって不利な条項については、前述のように特別に顕著な手段が要求されているから、ハイパーリンクによる手段では不十分とされることになる。従って、この条項を提示するのにハイパーリンク手段を使用する企業は、不意打ち条項及び免責条項に就いては約款本文から切り離して、実際の注文フォームに移しておくことがベストと言える。
とあったりと、グローバル化する取引の中で約款で取引しようと思うならば、この辺りは今からおさえておく必要がありそうです。

現在の日本には、このような具体的な約款に対する法規制は(消費者契約法の一部を除き)特にありませんが、現在法制審議会で検討されている民法(債権法)改正議論では、日本において約款理論に一家言お持ちの内田先生の影響もあり、約款規制が入る可能性が高くなっています。諸外国の約款規制を学び、それに備えておくのも一考でしょう。

“web(画面)上の契約約款なんてみんな読まずに同意する”ことを前提にしちゃったら、「個人情報の収集・利用のオプトイン同意」ってどう取ればいいの?

 
「総務省がユルユルなせいで個人情報がネットで盗取されるようになるからおまいらビビれ」的なノリで話題になっているasahi.comのこの記事から。

「ネット全履歴もとに広告」総務省容認 課題は流出対策(asahi.com)
インターネットでどんなサイトを閲覧したかがすべて記録される。初めて訪れたサイトなのに「あなたにはこんな商品がおすすめ」と宣伝される―。そんなことを可能にする技術の利用に、総務省がゴーサインを出した。ネット接続業者(プロバイダー)側で、情報を丸ごと読み取る技術を広告に使う手法だ。だが、個人の行動記録が丸裸にされて本人の思わぬ形で流出してしまう危険もある。業者は今後、流出を防ぐ指針作りに入る。

asahi.comは単に「総務省は容認」と短く評していますが、少し眉に唾しながら読んで頂く必要もあるかと思います。以下が総務省が出している提言の原文になりますが、これを読むと、DPI(ディープ・パケット・インスペクション)による個人情報収集・利用の基本的な法的論点について網羅的に検討・言及され、同意がなければ違法であることも断言されています。

利用者視点を踏まえたICTサービスに係る諸問題に関する研究会」第二次提言ー別紙2(PDF)
DPI 技術を活用した行動ターゲティング広告の実施は、利用者の同意がなければ通信の秘密を侵害するものとして許されない。(P58)

しかし、その違法性を阻却するために事業者が採用すべき“新しい同意の取り方”が、何とも事業者泣かせな嫌な感じになっています。
通信当事者の同意がある場合には、通信当事者の意思に反しない利用であるため、通信の秘密の侵害に当たらない。もっとも、通信の秘密という重大な事項についての同意であるから、その意味を正確に理解したうえで真意に基づいて同意したといえなければ有効な同意があるということはできない。一般に、通信当事者の同意は、「個別」かつ「明確」な同意である必要があると解されており、例えば、ホームページ上の周知だけであったり、契約約款に規定を設けるだけであったりした場合は、有効な同意があったと見なすことは出来ない。(P56)
つまり、色々書いてあって長文な契約約款をweb上のスクロールボックスの中でだらだらよませて「同意」ボタンを押させるような同意の取り方じゃダメだよと。

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では、どうすればいいの?という回答がこれまた意味不明。
有効な同意とされるためには、例えば、新規のユーザに対して、契約の際に行動ターゲティング広告に利用するため DPI 技術により通信情報を取得することに同意する旨の項目を契約書に設けて、明示的に確認すること等の方法を行う必要がある。(P56)
ん?web上で「契約約款に規定を設けるだけ」ではダメだけど、「同意する旨の項目を契約書に設け」るとOKになるんですか?

私はこれを読んで、2001年に定められた借地借家法第38条第2項の定期借家契約制度を思い浮かべました。

それまで日本では困難だった定期借家(賃借人が強制的な返還義務を負う借家)契約が法律で認められた際、賃貸人にはそれを契約書に明示するだけではなく、契約書とは別に「更新がなく、期間の満了により終了する」ことについて別途書面を交付し説明しなければならない(で結局説明を受けた旨の証拠として印鑑を押させる)という、なんとも重畳的な義務が課されたあの改正。
今回の提言では「書面で」とははっきりと言わず、「契約書」という文字でさらっとごまかしていますが、総務省はDPIをやりたくてしょうがない事業者サイドと権利意識の強い消費者サイドとの狭間で、この定期借家契約スキームを落とし所として想定しているのかもしれません・・・。

web(画面)上の契約約款だとどうせ読まないから同意したとは認めないが、紙の契約書だったらちゃんと読むだろうからOKっていうのはもうやめませんか。どれだけ消費者の契約行為に対して過保護な国なのかと。

利用者も事業者も喜ばない行き過ぎた個人情報保護に対する批判を反映した提言になるはずが、個人情報保護法にも規定されていないような収集・利用にあたっての不毛な義務を事業者に新たに課すだけの提言にならないことを、そして、この過保護さが今回のDPI許諾以外のネット上でのあらゆる契約行為に対する規制に波及しないことを、祈るばかりです。

利用規約・約款における免責条項の落とし穴―消費者契約法があなたの会社の免責条項を無効化する

 
一般消費者向けに広く提供されるサービス約款・サービス利用規約と名の付く消費者契約にはつきものの、お決まりのフレーズがあります。

たとえばこれは弊blogがお世話になっているライブドアの利用規約。
ライブドアは、本サービスの利用に関して利用者が被った損害又は損失などについては、一切の責任を負わないものとします。
会社側に債務不履行があろうと、不法行為があろうと文句を言うなといわんばかりです。

このような免責条項は、消費者契約法第8条により、無効となります。

ならば、ということで、故意や重過失の場合のみ責任を負うことを表現したこんな免責条項ではどうでしょうか。
当社は、サービスを利用するにあたって会員に生じた一切の損害(精神的・財産的損害を含む一切の不利益)について、故意または重大な過失がない限り責任を負いません。

残念ながら、これも同法8条により無効になります。

下手をすると軽過失の特別損害すら免責できなくなる


この消費者契約法が困るのは、条項のうちの無効な部分をなかったことにするだけでなく、その条項すべてを無効化する力を持っているという点にあります。

これにより、債務不履行責任や不法行為による損害賠償責任はすべて民法の原則どおりに処理されることとなり、重過失まで至らない単なる(軽度の)過失であっても、通常損害に加え、二次的な被害などの特別損害の賠償責任を負う可能性までもが排除できなくなります。ネット上で検索するだけでもこの手の消費者契約法違反の条項がたくさん出てきますので、このことは意外に気付いていない法務パーソンも多そうです

消費者契約法では通常損害の範囲を正当な範囲で限定したり、特別損害を免責することまではNGとしていないので、せめてこの部分はきっちり排除しておくべきです。

ということで、消費者契約法違反にならないようにしつつ通常損害と特別損害とを適度に免責するために考えてみた案がこちら。
サービスを利用されたことにより利用者に損害が発生した場合に、当社に軽度の過失が認められるときであっても、それにより直接かつ通常生じる範囲内の損害に限り責任を負い、その他の特別損害については責任を負いません。


こんなの見つけた・・・「ここまでやるか」な条項例


私はちょっとナシかなと思うのですが、某SNS事業者さんの利用規約にはこんな“工夫”が。消費者契約法対策の知恵の一例として、ご紹介させていただきます。
第19条 免責事項
1 弊社は、ユーザーの通信や活動に関与しません。万一ユーザー間の紛争があった場合でも、当該ユーザー間で解決するものとし、弊社はその責任を負いません。
2 弊社は、本サービスの内容の追加、変更、又は本サービスの中断、終了によって生じたいかなる損害についても、一切責任を負いません。アクセス過多、その他予期せぬ要因で表示速度の低下や障害等が生じた場合も同様とします。
(中略)
7 本利用規約又はその他の利用規約等が消費者契約法(平成12年法律第61号)第2条第3項の消費者契約に該当する場合には、本利用規約及びその他の利用規約等のうち、弊社の損害賠償責任を完全に免責する規定は適用されないものとします。この場合においてユーザーに発生した損害が弊社の債務不履行又は不法行為に基づくときは、弊社は、当該ユーザーが直接被った損害を上限として損害賠償責任を負うものとします。ただし、弊社に重過失がある場合に限ります

いったんは1項・2項で「一切免責」と明記することでユーザーを牽制しつつ、いざ裁判に持ち込まれたときには法的に無効化されないように7項でカバーしておくというアイデア。
しかも上限をユーザーに実際に生じた直接被害に限定する念の入れよう。

法務担当者と顧問弁護士さんが相当意識して考え抜いたことがうかがえる、他には見られない興味深い事例です。消費者との紛争経験知が高い同社ならではの工夫ですねぇ。(ただ、最後の「ただし、弊社に重過失がある場合に限ります」の置き方が私が顧問弁護士から聞いた見解を踏まえるとまだ無効化される余地をはらんでいるような気もしているのですが)。


最後に、消費者契約法の参考書をご紹介しておきます。私はQ&A形式の法律解説書はあまり好きではないのですが、この本は免責まわりの解説が充実していたのでオススメ。

ガイドブック消費者契約法


あとは内閣府のサイトに上がっている逐条解説を読んでいただければ完璧かと。
逐条解説(内閣府消費者の窓)

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