英文契約に触れる以上避けて通れないテーマであり、かつ契約交渉実務でも必ずと言っていいほどひな形に相手方からケチがつくにもかかわらず、結構適当に修正・ドラフティングしてしまいがちな「紛争解決条項」について。
BLJ4月号でも特集があったので、私なりの考え方を整理しておこうと思います。
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(2011-02-21)
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紛争解決条項の定め方には、まず大きく裁判での解決と仲裁での解決の2パターンがあります。よく見かける比較表がこんな感じ。
裁判官は当事者では選べない | 仲裁人は当事者が紛争の事案に応じて合意により自由に選べる |
裁判の対審および判決言渡しが公開される | 仲裁手続および仲裁判断は非公開 |
裁判は多くの国で三審制、上訴ができる反面長期化し非経済的 | 仲裁は一審制で、早期解決が図れて経済的 |
判決の国際的強制に関する多数国間条約が存在しない | ニューヨーク条約、ジュネーブ条約または日本との二国間条約による仲裁判断の国際的強制力が存在する |
これに、管轄地を自国/相手国/第三地主義/被告地主義のいずれとするかの4パターンをかけあわせると、紛争解決条項のパターンには理論上合計2×4=8通りの組み合わせが存在することになります。
※第三地主義=いずれの当事者の国でもない第三国において紛争解決を図る考え方
※被告地主義=訴えを起こす側が相手側の国において紛争解決を図る考え方
言うまでもなく、「裁判」を「自国」で行う管轄合意ができれば安心です。しかし、契約に定められた商行為が全て自国内で完結するとか、相当なバーゲニングパワーが自社側にない限りは、ほとんどのケースでそんな希望はとおりません。その結果、なかなか紛争解決条項で折り合いがつかないときに採用されがちな「落とし所ベスト3」が、以下3パターン。
1)「裁判」×「被告地主義」
2)「仲裁」×「第三地主義」
3)「裁判」×「第三地主義」
この3つの選択肢の中でどれがベストかは、契約相手国がどこかにもよるでしょう。しかし私は、外国の裁判制度の影響を受ける1)や3)の組合せは安易に採用すべきではなく、仲裁を利用する2)がベストであると考えます。それは
(a)契約内容・条件により被告地/第三地の裁判所において管轄合意が有効とされないリスク
(b)第三地の裁判所で得た勝訴判決が相手国で承認執行されないリスク
がある以上、裁判制度を前提とした紛争解決条項を契約に定めるにあたっては、本来相当綿密に当該地の訴訟法、執行法を事前に調べておかないとならない(しかし現実にはそれは困難である)からです。
今月のBLJにも記載されていましたが、たとえば(a)のリスクについていえば、NY州のGeneral Obligations Law(一般債務法)のSection5-1402には、履行地がニューヨークでないなど契約内容がNY州に関わりのない場合、NY州法を準拠法としかつ100万USドル以上でない限り、第三地主義的な裁判管轄合意は受け入れない旨が定められています。
準拠法と合意管轄の裁判所との相性が合わないケースも少なくありません。昨年10月施行の中華人民共和国渉外民事関係法律適用法10条2項によれば、当事者合意で準拠法を日本法としていても、中国の裁判所では「職権による調査によっても日本法が調査できず」とされると中国法が適用される可能性もあります。
また、(b)の執行力の面でも、例えば中国最高人民法院は未だ日本における判決の承認をしていないとも聞かれます。
これに対し、仲裁を用いれば、各国裁判所特有の手続法の影響も準拠法の抵触の問題も切断でき、アウェイな国で起きがちな“お国事情のえこ贔屓”な判決が下される懸念もなく、条約批准国であれば仲裁判断の結果に従い執行までもちこめる点、変な国の変な裁判制度に乗っかるよりも実効性が高いと考えます。
「仲裁って、仲裁人の費用とか滞在費とか、意外と裁判より金がかかるらしいけど・・・」という声もよく聞きますが、仲裁人を1人と合意している限りはそれほど高額にはなりませんし、当該地の裁判制度について調査をするコストの方が(結局渉外事務所を通じて現地弁護士に確認することになるので)馬鹿になりません。何より、そんな調査をしている間に「出るところに出てもいいのか?」と相手方にプレッシャーをかけるべきタイミングすら見失ってしまうことが問題だと私は思います。
事前にろくに調査もせず、ギリギリの交渉を行う重要なタイミングで「そもそもこの契約書の紛争解決条項って実行力あるんだっけ?」などというマヌケな調査を必要とするような契約書を作っていたのでは、現場を支援する法務として無責任というそしりを受けても反論はできないでしょう。
相手法人の所在国が条約批准国であることだけ確認できれば、よっぽどの事情が無い限り紛争解決条項の落とし所は「仲裁」×「第三地主義」の組み合わせで契約締結しておくのが一番妥当である。私はそう思っています。
参考図書: