ビジネスロージャーナルの今月号の特集を読んで「みんなこんなにきちんと契約書管理しているのか!」と愕然とした法務パーソンも少なくないんじゃないでしょうか。私もその一人です。
![BUSINESS LAW JOURNAL (ビジネスロー・ジャーナル) 2013年 06月号 [雑誌]](http://ecx.images-amazon.com/images/I/5122%2BF8CsLL._SL160_.jpg)
出版:レクシスネクシス
(2013-04-20)
企業名こそ匿名の企業が多いとはいえ、各社の契約管理システムについて、気前よくスクリーンショットまで公開されている本特集。なかなか知ることのできない貴重な資料ですので詳しくはそちらをご購読いただくとして、登場されている各社の取組みについて、文章だけ読んでいたら頭がこんがらがってきたので表にしてみました。ただし、この◯×△は記事に登場したご回答者が明確にそのようにお答えになっているわけではなく、また各社のシステムが同じ基準で比較されているわけでもなく、私が記事に出てくるコメントを読んだ印象でつけてますので、ご参考までということで。
会社規模の大小はありますが、登場した9社のうち過半数の企業で実現している(◯が5社以上ついている)のが、
・依頼受付・進捗の管理
・締結済文書の電子保存
・契約概要の登録
の3つの機能。自分の会社はやれているという自負があるから登場されているとはいえ、私は「ここまでやってるのか…」とビビリました。私がこれまで見てきた企業では、この3つでさえ、すべてやれていた会社はなかったと思います。
契約内容までの一括管理は必要か?
しかし、本当にこういったきっちりとした“契約(書)一括管理システム”が必要なのかという点については、私自身はかなり懐疑的です。揚げ足を取るような言い方になりますが、現場で日々発生する「契約書」にならないレターアグリーメント的なメール・議事録・SLA・あげくの果てには口頭での合意などは管理しきれないですし、システム化後のOS・コンピューティング技術の変更によるコスト、組織変更の度に発生するメンテナンスコスト、入力人件費コスト等と現実的に発生するリスクを考えると、割に合わないと思うからです。特に、契約内容(契約種別や満了期日)の一括・一覧管理までをやろうと欲張ると、法務のような専門部署が内容の確認と入力作業を一手に担わなければならなくなる点、費用対効果は著しく落ちると思います。さらにいえば、「法務が一括で管理する」という発想は、法務部門がいつまでも同じように存在するという前提があるからこそ成立するわけですが、法務部門やその機能のあり方もいつまでも一定とは限りません。他部門と合体したり、現場寄りに分散したり、究極的にはすべて現場に委譲されたり、ということも前提とすべきではと。
その点私は、記事P46−47に登場されている外資系メーカーの方の意見、
法務担当者の人数に対して企業規模が大きくなればなるほど、契約書管理は法務部門から手放し、管理の仕組みだけ作って全社に浸透させ、あとは部門ごとにやってもらうという割り切りが必要になってくるのだと思います。に近い立場といえます。
契約書管理の最低ラインは「PDFと原本の企業名別保存」
では、企業の契約書の管理について、最低限のラインとして誰が何をどこまでやるべきでしょうか?私見ではありますが、紛争の発生防止ないし訴訟前解決(予防&臨床法務)という契約書作成の目的に忠実に考えると、原本管理はもちろんのこと、取引がいざトラブルに発展しそうになったときに締結済契約書を素早く取り出して参照するための、署名・押印済み契約書をスキャン→PDF化して企業名別に取り出せるようにするところの仕組み化ができているかどうかがポイントと考えます。
作業としてここまで単純なものに絞ると、“誰が”実行すべきかという点については、必ずしも法務である必要はなくなります。押印・署名手続きを所管する部門を明確にし(社内規程等で明確にしているのであれば現場でもOK)、押印・署名したらすぐにそのままPDF化して企業名別に保存、原本は訴訟時に取り出せるよう倉庫等で保管を徹底することが、リスクマネジメント上重要になると思います。ところで、多くの企業では、総務や法務部門に押印・署名手続を寄せている例を多く見かけますが、本来押印・署名はその契約締結意思と権限がある人が行う、というのが法律上の原則にもかかわらず、特に押印作業は本人でなくても行えてしまうこともあって、末端の平社員にまかせてしまっている企業も少なくありません。ここに、決して小さな問題とはいえない、リスクマネジメントのポイントと実務的な悩みどころが集約されているように思われます。
それで思い出したのですが、ある外国企業との契約で、契約書の相手方サイン欄のちょっと下に、サインとは別にLegal Departmentの黒い確認ゴム印(縦2×横3センチぐらいの、入国管理局がパスポートに押すスタンプのようなもの)が押してあるのを見かけたことがあります。どうやら、このゴム印を押したものが法務確認済みのファイナル版で、それをみて最終サイナーがサインをし、そのサイン済み文書を法務部門が回収して電子化しているようでした。この例のように、必ずしも大掛かりなシステムを組んだりしなくても、契約手続きのクリティカルなポイントを捉えてちょっとした工夫を施すことで、法的リスクの低減が図れるんじゃなかなと思います。