企業法務マンサバイバル

企業法務を中心とした法律に関する本・トピックのご紹介を通して、サバイバルな時代を生きるすべてのビジネスパーソンに貢献するブログ。

BLJ

契約書の管理は誰が何をどこまでやるべきか

 
ビジネスロージャーナルの今月号の特集を読んで「みんなこんなにきちんと契約書管理しているのか!」と愕然とした法務パーソンも少なくないんじゃないでしょうか。私もその一人です。


BUSINESS LAW JOURNAL (ビジネスロー・ジャーナル) 2013年 06月号 [雑誌]BUSINESS LAW JOURNAL (ビジネスロー・ジャーナル) 2013年 06月号 [雑誌] [雑誌]
出版:レクシスネクシス
(2013-04-20)


企業名こそ匿名の企業が多いとはいえ、各社の契約管理システムについて、気前よくスクリーンショットまで公開されている本特集。なかなか知ることのできない貴重な資料ですので詳しくはそちらをご購読いただくとして、登場されている各社の取組みについて、文章だけ読んでいたら頭がこんがらがってきたので表にしてみました。ただし、この◯×△は記事に登場したご回答者が明確にそのようにお答えになっているわけではなく、また各社のシステムが同じ基準で比較されているわけでもなく、私が記事に出てくるコメントを読んだ印象でつけてますので、ご参考までということで。

keiyakukanri

会社規模の大小はありますが、登場した9社のうち過半数の企業で実現している(◯が5社以上ついている)のが、
・依頼受付・進捗の管理
・締結済文書の電子保存
・契約概要の登録
の3つの機能。自分の会社はやれているという自負があるから登場されているとはいえ、私は「ここまでやってるのか…」とビビリました。私がこれまで見てきた企業では、この3つでさえ、すべてやれていた会社はなかったと思います。

契約内容までの一括管理は必要か?

しかし、本当にこういったきっちりとした“契約(書)一括管理システム”が必要なのかという点については、私自身はかなり懐疑的です。揚げ足を取るような言い方になりますが、現場で日々発生する「契約書」にならないレターアグリーメント的なメール・議事録・SLA・あげくの果てには口頭での合意などは管理しきれないですし、システム化後のOS・コンピューティング技術の変更によるコスト、組織変更の度に発生するメンテナンスコスト、入力人件費コスト等と現実的に発生するリスクを考えると、割に合わないと思うからです。特に、契約内容(契約種別や満了期日)の一括・一覧管理までをやろうと欲張ると、法務のような専門部署が内容の確認と入力作業を一手に担わなければならなくなる点、費用対効果は著しく落ちると思います。

さらにいえば、「法務が一括で管理する」という発想は、法務部門がいつまでも同じように存在するという前提があるからこそ成立するわけですが、法務部門やその機能のあり方もいつまでも一定とは限りません。他部門と合体したり、現場寄りに分散したり、究極的にはすべて現場に委譲されたり、ということも前提とすべきではと。

その点私は、記事P46−47に登場されている外資系メーカーの方の意見、
法務担当者の人数に対して企業規模が大きくなればなるほど、契約書管理は法務部門から手放し、管理の仕組みだけ作って全社に浸透させ、あとは部門ごとにやってもらうという割り切りが必要になってくるのだと思います。
に近い立場といえます。

契約書管理の最低ラインは「PDFと原本の企業名別保存」

では、企業の契約書の管理について、最低限のラインとして誰が何をどこまでやるべきでしょうか?

私見ではありますが、紛争の発生防止ないし訴訟前解決(予防&臨床法務)という契約書作成の目的に忠実に考えると、原本管理はもちろんのこと、取引がいざトラブルに発展しそうになったときに締結済契約書を素早く取り出して参照するための、署名・押印済み契約書をスキャン→PDF化して企業名別に取り出せるようにするところの仕組み化ができているかどうかがポイントと考えます。

作業としてここまで単純なものに絞ると、“誰が”実行すべきかという点については、必ずしも法務である必要はなくなります。押印・署名手続きを所管する部門を明確にし(社内規程等で明確にしているのであれば現場でもOK)、押印・署名したらすぐにそのままPDF化して企業名別に保存、原本は訴訟時に取り出せるよう倉庫等で保管を徹底することが、リスクマネジメント上重要になると思います。ところで、多くの企業では、総務や法務部門に押印・署名手続を寄せている例を多く見かけますが、本来押印・署名はその契約締結意思と権限がある人が行う、というのが法律上の原則にもかかわらず、特に押印作業は本人でなくても行えてしまうこともあって、末端の平社員にまかせてしまっている企業も少なくありません。ここに、決して小さな問題とはいえない、リスクマネジメントのポイントと実務的な悩みどころが集約されているように思われます。

それで思い出したのですが、ある外国企業との契約で、契約書の相手方サイン欄のちょっと下に、サインとは別にLegal Departmentの黒い確認ゴム印(縦2×横3センチぐらいの、入国管理局がパスポートに押すスタンプのようなもの)が押してあるのを見かけたことがあります。どうやら、このゴム印を押したものが法務確認済みのファイナル版で、それをみて最終サイナーがサインをし、そのサイン済み文書を法務部門が回収して電子化しているようでした。この例のように、必ずしも大掛かりなシステムを組んだりしなくても、契約手続きのクリティカルなポイントを捉えてちょっとした工夫を施すことで、法的リスクの低減が図れるんじゃなかなと思います。
 

【雑誌】BUSINESS LAW JOURNAL 2013年 1月号 ― ひろみちゅせんせ、降臨

 
表紙の装いも新たに、さらに洗練されたBLJ。
デザインをよく見ると、特集の「クロスボーダー契約のリスク」にひっかけて、“CROSS”って書いてあるんですね!

BUSINESS LAW JOURNAL (ビジネスロー・ジャーナル) 2013年 01月号 [雑誌]BUSINESS LAW JOURNAL (ビジネスロー・ジャーナル) 2013年 01月号 [雑誌]
販売元:レクシスネクシス
(2012-11-21)
販売元:Amazon.co.jp


このクロスボーダー特集もさることながら、もう一つの目玉記事「データ活用ビジネスとプライバシー問題」に、BLJ編集部のいつも以上の執念といいますか、約束したことは絶対守るというプロの意地を見せていただきました。

なんと・・・あのひろみちゅせんせこと、産業技術総合研究所主任研究員の高木浩光先生が登場しているのですアッー!

高木浩光先生が登場するに至った経緯のまとめ


経緯をたどれば、遡ること2011年10月。「app.tv事件」と呼ばれる、Androidアプリを使った不正情報アップロードの事件が発生します。いわゆるリワード広告のたぐいなのですが、悪質なことに、そのアプリの使用履歴だけでなく、アプリがインストールされた端末に入っている他のアプリの使用履歴までもが、製作運営会社である株式会社ミログに送信されるスパイウェアになっていた、というものでした。

第一発見者の崎山伸夫氏に続き、高木先生もこれを問題としてとりあげ、twitterとブログで糾弾。結果、株式会社ミログはこの事業を停止し、第三者委員会を設置して問題の精査を行います。しかし、この第三者委員会の報告書についても再度ブログに取り上げ「出鱈目である」と追求の手を緩めない高木氏。twitterを中心としたセキュリティクラスタの批判も日に日に大きくなり、2012年4月2日、ついにミログは会社を清算するにいたったのですが・・・。



誰もがそのミログの名前を忘れはじめていた8月、ビッグデータに関する特集記事を組んだBLJ10月号が発売されます。そこに、ミログの第三者委員会の委員の一人である達野大輔弁護士が、「ミログ第三者委員会報告書から考える プライバシー情報 ビジネス利用の問題」と題する記事を寄稿し、高木先生を中心とするセキュリティクラスタに対する反論を試みたのです(よせばいいのにを通り越して、なんという勇気といいますかむにゃむにゃw)。

s-IMG_0776


これを見た高木先生、当然ながら再び反応します。


私もリアルタイムにこの不気味な顔文字の応酬を見ていたのですが、達野先生も高木先生も懲りないなあと苦笑しながら、まさかBLJも高木先生のために再びプライバシー特集を組むとも思いませんでしたし、高木先生のtwitterのつぶやきも、半分冗談なんだろうなと思っていたわけです。それが、冗談では終わらず、こんなカタチで本当に実現されるとは、驚きました。

s-IMG_0779

1)当該アプリの作成・頒布が不正指令電磁的記録に関する罪(刑法168条の2&3)にあたるか
2)かかる情報収集がプライバシー侵害として不法行為を構成するか
3)当該収集情報が個人情報保護法における「個人情報」に該当するか否か

本稿では、主にこの3つの観点のうちの1)について、第三者委員会報告書の“事実誤認”を指摘しながら、総務省の「第二次提言」を参照して丁寧な当てはめを行いその違法性を再度指摘。その上で、事業者がこのような事態にいたらないために留意すべきことを、同じく高木氏が以前より問題視していた「Tポイントツールバー」のケースにも照らしながら、忠告をする内容となっています。

願わくば2・3についても言及があればなあ、と残念な部分もありましたが、鈴木正朝先生と共著という形での、10ページにわたる力の入った論稿。まさに2012年10月号掲載の達野先生とのガチンコ勝負といった様相で、どちらに軍配が上がったかは読んでみてのお楽しみ。
 

森亮二先生のライフログプライバシー論稿も注目


と、どうしても派手な“直接対決”の方に目を奪われてしまうところではあるのですが、その高木・鈴木両先生の論稿の直前に掲載されている、森亮二先生による「ライフログ活用サービスにおけるプライバシー侵害リスクをどう検討すべきか」も、“そこが知りたい”を誰よりも早く言葉にしてしまうIT法務界の魔術師、森先生ならではのキャッチーな記事となっています。

ライフログを収集するビジネスに携わる多くの企業は
  • 企業内での分析とその結果としての統計情報を広告等に流用するだけなのであって、生ログを公表するわけではない
  • 氏名や住所等の基本属性情報を収集しておらず、したがって個人識別性がない
この2つをおもな論拠としてプライバシー侵害を構成しないと主張しており、私の知人にもそういう人は少なくありません。しかし本稿では、ライフログ収集から生まれるユーザーの「漠然とした不安」を法的に分析すると権利侵害を構成する可能性は十分あるということを、客室乗務員DB事件・Nシステム事件・北朝鮮スパイ報道事件・川崎市職員アンケート事件等の裁判例、さらには情報公開法・条例事案も参照しながら、丁寧に検証されています。

s-IMG_0780


個人情報保護法がプライバシー保護法たり得ず、プライバシーを規定する具体的な法令がない日本。ベンチャー企業を中心に「クロともシロとも言えないグレーなうちに、プライバシー情報を使ってイノベーション()を起してしまえ」と暴走感すら漂うライフログビジネス界隈において、まさにそういったベンチャーの経営者さんこそ読む価値がある記事になっているかと。


というわけで、新年号にふさわしい見所いっぱいのBLJに拍手。
 

旬なインターネット広告の法規制を網羅するならこの2冊

 
今月発売のBLJの第二特集、「インターネット広告規制の現在」は、
・森亮二先生がステルス/フラッシュマーケティングを始めとする旬なネット広告手法に切り込み、
・二関辰郎先生が日本ではなぜかそれほど問題視されない行動ターゲティングについて詳しく言及し、
・米国弁護士フローレンス・ロスタミ先生が、それらについて一歩先に規制を始めた米国の現状を紹介
するという、時事性と個別専門性を織りまぜられる雑誌ならではの良さを生かした、非常に良い特集だと思いました。


BUSINESS LAW JOURNAL (ビジネスロー・ジャーナル) 2012年 04月号 [雑誌]BUSINESS LAW JOURNAL (ビジネスロー・ジャーナル) 2012年 04月号 [雑誌]
販売元:レクシスネクシス
(2012-02-21)
販売元:Amazon.co.jp



特に、森亮二先生のステマに関する解説は、
口コミサイトに消費者が求めるのは、事業者から独立した消費者側の意見・感想であり、そのためにはニュートラルなユーザーとしての意見なのか、事業者の依頼に基づいて(または事業者の何らかの影響の下に)書かれた意見なのか、判別できるようになっていることが望ましい。
と、フローレンス・ロスタミ先生が別途解説する米国的な「関係者の明示」規制の話とリンクさせ、かつそれだけにとどまらず、
自社の高評価の書き込みを作り出すことが「やらせ」のすべてではない。この手の情報操作手法としては、他に「競合他者の低評価情報を書き込む」「自社に対する低評価情報を削除させる」の二つがある。
といった古くて新しい論点について、ご自身の具体的な代理人経験を踏まえて問題提起をされているもので、大変読み応えがありました。

また、二関先生の行動ターゲティング広告解説で特筆すべき点は、総務省がはじめて行動ターゲティングやDPI(ディープパケットインスペクション)の規制の方向性について明文化した「第二次提言」を引き合いに出しながらも、
第二次提言では、本人の同意さえ取り付ければDPI技術は許容されるかのような位置付けをしていた。しかし、DPI技術は通信の秘密の侵害につながるので、行動ターゲティング広告目的での利用はNGとすべきであろう。
と、こちらもかなり踏み込んだ意見を提示されている、気合の入った投稿でした。

ステルス/フラッシュマーケティングにせよ、行動ターゲティング広告にせよ、法律上規制が明確でないテーマを先取りして事業に取り込んでいく際に法務がやってしまいがちなのは、弁護士から「現在の法律においては明確に違法とはならない」という経営者が喜びそうな“前向き”な回答を導きだすこと。しかし、そういう「法律上グレーだからやっていい」という回答を誘導することは、本当に自社の事業の発展にとって適切な行為なのか?法務パーソンだったら一度や二度は大きく悩んだ経験があると思います。

まだ誰もやっていない新しいテーマにチャレンジすることそれ自体は賞賛されるべきです。しかしそれが顧客と社会に対して正々堂々と語れる・説明できることなのかを一番深く考えるのが、企業法務に携わる我々の役割でもあると思います。そういった場面で冷静に、しかし迅速にリスクを判断するためにも、“顧問料と引き換えに半ば無理矢理引き出した適法意見”ではない、ニュートラルな専門家の意見がこのように早いタイミングで文字化されていることにこそ、法律雑誌の価値があるのだと改めて感じました。


で、ついでと言っては大変失礼なんですが、この特集で<森亮二先生×インターネット広告規制>という組み合わせに既視感を覚え、そう言えば!とこの本をご紹介し忘れていたことを思い出しましたので、ちょこっとご紹介させていただこうと思います。


インターネットの法律Q&A―これだけは知っておきたいウェブ安全対策インターネットの法律Q&A―これだけは知っておきたいウェブ安全対策
著者:岡村 久道
販売元:電気通信振興会
(2009-07)
販売元:Amazon.co.jp



岡村久道先生と森亮二先生の共著により、
・アフィリエイト
・ドロップシッピング
・迷惑メール規制
・オンライン通販と広告表示事項
・ウェブショップにおける確認画面と利用規約
・価格誤表示
・RMT(リアルマネートレーティング)
・発信者情報開示制度
・SNS事業者の違法情報媒介責任
・モール事業者・オークション事業者の法的責任
・他人の著作物のブログへの掲載と権利処理
といった、まさに今回のBLJの特集で触れられた話題の周辺領域について幅広く抑えてあるトピック集です。

s-IMG_7847

速報性という意味では雑誌のそれにはかないませんが、今回のBLJと合わせて読めば、インターネット広告の法規制のいろいろについてほぼ網羅できるものと思います。
 

【雑誌】BUSINESS LAW JOURNAL No.40 7月号 ― 保存版「利用規約作成・運用・変更マニュアル」


最近のBLJは評判良すぎで、他の法務ブロガーの皆さんが紹介記事をバンバン書かれるので、遅筆な私は遠慮がちになってました。今号はちょこっとだけ記事にご協力させていただいた御礼で献本までいただいたので、その御礼も兼ねこれまた遅ればせながら。


BUSINESS LAW JOURNAL (ビジネスロー・ジャーナル) 2010年 07月号 [雑誌]BUSINESS LAW JOURNAL (ビジネスロー・ジャーナル) 2011年 07月号 [雑誌]
販売元:レクシスネクシス
(2011-05-21)
販売元:Amazon.co.jp



見どころはやはり特集の「利用規約の作成・運用・変更」。
BLJの読者懇親会のアンケートでぜひこのような企画をと何度か希望していた記憶もあり、また他誌でもこれだけまとめた特集はなかなか無く、読む前から興味深い特集でしたが、

1)利用規約の条項例
2)作成・制定の手順
3)抜け漏れチェックリスト
4)企業法務部の規約苦労話×7
5)消費者団体視点からみた注意点×2

が、35ページにわたって纏められている素晴らしい特集。献本頂いたからということを抜きにして、お世辞抜きに良い特集だと思います。仕事柄日頃から利用規約・約款に関する資料・文献を血眼になって探していても、ここまで過不足なくまとまっているものは出会えませんでした。

特にNTTドコモ法務部坂下氏が作成されたという3)の利用規約の抜け漏れチェックリストは、お目にかかったことのない「大胆な」記事。契約書のチェックリストはあっても、利用規約に特化したものとなるとあまり他ではなかったのでは。

s-IMG_4663


ページ上部に「以下の規定をそのままつなぎ合わせて作っても適切な利用規約になりません」と利用上の注意が大きく書いてあるあたりに、このまとめに意味や価値があるのか・載せるにしてもどうまとめるかに悩まれたであろう編集部の皆さんの苦労が偲ばれますが、他ではやらないからこそ価値があるわけで、BLJ編集部Sさんの編集者魂を見た気がします。
実際のところ、BtoCで利用規約まみれになっている法務部の方だけでなく、弁護士の先生方にとっても、こういったチェックリストは忘れがちな視点に気づかせてくれ、相当心強い存在になるのではないでしょうか。

他にも4)に登場する1社、ヤフー法務部長古関さんによる「70本の規約一本化」の話は、規約の本数が増殖するとゆくゆくどうなるか/あらかじめ避けるにはどうすればいいかについての示唆が有用ですし、5)なんかも、企業法務部からは怖すぎて意見交換するにもアプローチが難しい消費者団体という存在から利用規約を見たときの視点を提供してくれ、大変ありがたい記事です。利用規約のあり方に課題を感じている方もそうでない方も、今後3年ぐらいは保存版になるでしょう。


それと今号はもう一つ、大寺正史弁護士による「債権償却のすすめ〜債権をうまく回収できないようなときは〜」と題する記事にある“無資力の判断/債権回収断念の事情を主張するにあたって確保しておくとよい資料”のまとめも、取引審査や与信管理系の実務をされている方も泣いて喜ぶお役立ち記事だと思います。

BLJという雑誌には、ただ単に法務部員のよもやま話を寄せ集めただけではない、けれど弁護士や学者先生の書きたいマニアックな論稿を寄せ集めただけでもない、雑誌としての価値を追及しようという編集部(者)の意志や意地が誌面に滲みでているように感じます。当たり前ですが私のような一介のブロガーにはやはりマネのできないプロの仕事だなと、あらためて敬服するとともに、感謝したいと思います。
 

英文契約書を読み書きしたい法務のためのブックガイド2011


法務ブロガーの中でも、ウイットに富んだネタでいつもみんなを楽しませてくれる『企業法務について』の@kataxさんと、意地でも毎日更新され不気味な存在感では誰にも負けない『dtk's blog』の@dtk1970さん。
お二人が示し合わせたようにブログで英文契約書の読み方を解説されていまして、これは私もなんかしなくちゃいけないんでしょうか?と強迫観念に駆られたわけですが、私如きが語るようなネタはもう残されておらず。

そんなおり、BLJ2月号では毎年楽しみな特集「法務のためのブックガイド」が。

BUSINESS LAW JOURNAL (ビジネスロー・ジャーナル) 2011年 02月号


拝見させていただいたところ、本特集では“英文契約書”という括りではまとめられていない模様。ということで、法務ブロガーの英文契約書祭り×BLJ特集の双方に勝手に便乗企画、

英文契約書を読み書きしたい法務のためのブックガイド2011

をやってみたいと思います。

s-IMG_3151



STAGE1 外国の契約法を理解する

アメリカ契約法第2版


英文契約書を作りはじめる前に、英米法の考え方、特に準拠法の関係で登場頻度が高いと考えられる米国契約法の基本的な考え方を、日本法と比較しながら勉強しておくことは、英文契約書の検討をするようになる前のステップとして不可欠と考えます。しかし、残念ながらあまりにも学術的な本、古くてアップデートがされていない本ばかり。そんな中で唯一お勧めなのがこれです。本当はロースクール向けの英語の教科書読むべきなんでしょうけどね。


STAGE2 英文契約書のマナーと必須知識を覚える

英文契約書作成のキーポイント


永遠の定番として外せない本。英文契約書のマナー、全体の構成(例:Whereas clauseの意味)、数字・日付の書き方、期間の表し方、以上・以下・未満の書き方、英文契約特有のラテン語由来表現(bona fide, pari passu, pro rata…)などなど、まさに契約書を読む・書くにあたっての英文契約書の必須知識が過不足なく詰め込まれています。
BLJでも多くの法務パーソンがオススメしていたとおり、持ってないとお話にならない感じ。


STAGE3 英文契約書を読み修正すべきポイントを契約類型毎に抑える

英文契約書の基礎と使い方がわかる本


続いてのステージは、売買、請負、業務委託・・・といった契約類型ごとの読み方の勘処・ポイントを掴み、譲るべきでない重要なポイントについては変更を要求できるようになること。
このステージでのお勧め本はいろいろあって悩ましいのですが、私のお勧めはこれ。
初心者向けではあるものの、準拠法や裁判管轄などの一般条項のパートと契約類型ごとの注意ポイントがまとめられたパートがはっきりと分けてあり、契約の基礎知識が身についている法務2〜3年目の方にはとても読みやすいこと、この価格帯で14種もの契約書サンプルとポイント解説がコンパクトにまとめられている本はこの本をおいて他にないことがその理由。


STAGE4 典型条項を組み合わせて英文契約書を作成する

英文契約書ドラフティングハンドブック
英文契約書の基礎知識


英文契約書の全体構成、基本的な組み立て方、英語表現の特徴が分かったら、次は英文契約書の典型条項をパーツ毎に探して組み合わせながら、英文契約書を読んで修正するだけでなく、作成していく段階へ。
このステージでのお勧めはこの2冊。この2冊に出てくる定型表現をくまなくおさえれば、典型的な契約であればおおよそ直したいように直し・作成できるのでは、と思います。よほどの英文契約書の達人でもない限り、手元に置いておく価値のある2冊です。


STAGE5 モノマネではない英文契約書を自分で書く

英文ビジネス契約書大辞典


パーツから組み立てるのではなく、自分で英文そのものを操りつつ英文契約書を作成するようになって、条項ではなく文・句レベルでよりよい表現はないかを探しだす中〜上級ステージに辿りついたら、行き着くのはこの本。
何せ高いですが、そのボリュームは現時点で日本一。どうせいつか買うのなら、早めに買っとくのが吉だと思います。


■番外編■

チェックリスト形式で契約書を作る

国際取引契約実務マニュアル


売買契約しかカバーされていないという弱点はあるものの、正式契約を締結する前に結ぶMOUと正式な契約の両方を、チェックリスト形式で契約条件をチェックしていくだけで作成できるという画期的な本。
そのユニークなコンセプトと完成度は折り紙つきなんですが、残念ながら絶版。どこかで在庫を見つけたら、迷わず買っておくことをお勧めします。共著なので著作権法的には全員が同意しないと改版もできないことを考えると、可能性は低いと思われます。残念。


ライセンス契約も勉強しちゃう

ライセンス契約のすべて
ライセンス契約のすべて 実務応用編


英文契約の中でも圧倒的に頻度が高く、また契約期間が長期に渡るだけにドラフティングにいっそう気を使うライセンス契約については、(和文契約の解説も混ざっていますが)この2冊を是非読んでください。特に『実務応用編』は私も共著者の一人として名前を並べておりまして、BLJのアンケートでもご評価を頂き(P29)、うれしい限りです。


なお、上記の本については、過去弊ブログでもう少し詳しくご紹介しています。もしご興味あればご覧ください。

アメリカ契約法第2版
英文契約書作成のキーポイント
英文契約書の基礎と使い方が分かる本
英文契約書ドラフティングハンドブック
英文契約書の基礎知識
英文ビジネス契約書大辞典
国際取引契約実務マニュアル
ライセンス契約のすべて
ライセンス契約のすべて 実務応用編




【雑誌】BUSINESS LAW JOURNAL No.33 12月号 ― クラウド採用の障害は、セキュリティよりもコンティニュイティ

 
日曜日の法科大学院修了生の採用に関するエントリでも取り上げさせてもらったBLJですが、今月号は色々気になる記事があってメモとりまくり。中でも注目したいのが、「クラウドサービスのリーガルリスク」。

BUSINESS LAW JOURNAL 2010年 12月号


最近はTwitterやFacebookの話題に押され気味で、企業におけるクラウド利用の話題を耳にする機会がだいぶ減ってきてしまっているように思いますが、政府がエコポイント申請のみならず国勢調査までセールスフォース社に委託したと聞くと、これはそろそろ企業利用も爆発的に増加するのではと思っています。

今号では、TMI総合法律事務所から独立されてエンデバー法律事務所を立ち上げられた後、今クラウドの法務といえばこの人と言わんばかりに各誌に登場される水越尚子先生が、契約上のチェックポイントについて解説と対談の2つの記事に登場。

s-IMG_2044

まず、クラウド利用契約検討のポイントについての簡単なまとめ。GoogleやMicrosoft,Amazon社の事例を引き合いにだしながら、以下3点が重要というお話。
1)SLA(サービスレベルアグリーメント)
2)責任の上限
3)プライバシー保護およびセキュリティ

続く対談では、ベンダーサイドからMicrosoftの舟山法務本部長、ユーザーサイドから大成ロテックの木内常勤監査役を迎え、ユーザーとの契約交渉における悩みどころについて意見交換。画一的だからこそのクラウドサービスのはずが、ユーザーが色々とわがままを言うので結局システムだけでなく契約条件も諸々カスタマイズせざるを得無くなっているという現状が、ベンダーサイドの舟山さんを中心に赤裸々に語られています(法務責任者自ら実は契約条件の変更に応じてるなんてこと、公開しちゃっていいのでしょうか笑)。

そして対談の終盤に、ユーザーサイドから木内さんから重要な指摘が。

よく最近「クラウドを利用するときのリスクは何か」といった話でセキュリティ問題が最初に挙げられますが、セキュリティ問題はベンダの事業に直結している分、ユーザ企業とは必死さが違いますから、各事業が自前でやるより実ははるかに安全だろうと思います。
むしろ問題なのは、クラウドは継続的なサービス提供であるにもかかわらず、提供側が事業を止めたいといってきたときに、データをどうやって安全に移すかということでしょう。

単なるデータストレージサービスならいざしらず、クラウドはアプリケーション部分もベンダーサイドに依存してますし、むしろそのアプリによって他社にできないサービスを提供することで差別化を図っているわけで、簡単に他事業者がサービス継続を請け負えるようなシロモノにはなりえない点、実は企業にとってはセキュリティ(安全性)よりもコンティニュイティ(継続性)の問題が導入にあたっての最も大きな障害になるのではないかと、私も思います。まさか、「最悪、文書はtxtで、DBはcsv形式で吐き出せます」程度では、ユーザーは満足しないでしょうし。

クラウド事業者同士が協議の上他のクラウド事業者とのデータ互換性をある程度のラインまで確保しておき、いざというときは、その互換性の範囲で他社ユーザーを引き受けてくれるぐらいの保険機構的な仕組みを用意してもらえないものでしょうか。そんなにコンティニュイティが心配なら、クラウドなんて使わずに自分でやれば?と怒られますかね。
 

【雑誌】BUSINESS LAW JOURNAL No.31 10月号 ― 採用選考に落ちるべくして落ちる法務パーソンとならないための5つのポイント


今月のBLJは、「人材流動化時代の法務キャリア」。キャリアで悩んでいない法務の方なんていないと思われ、皆さんのハートにグサっとささる記事ばかりのはず。

で実は、私も匿名で特集のどこかに登場させていただいてたりします。読んで分かったらすごい。

BUSINESS LAW JOURNAL (ビジネスロー・ジャーナル) 2010年 10月号


特に読んで即効性が高そうなのは、p39からの「採用担当者はここを見る!」(念のため、このコーナーには私tacは出ておりません)。BLJ編集部さんのネットワークでかき集めた生々しい“企業が法務担当者を採る時の目線”が描かれています。以下、記事中の採用担当者コメントを引用させていただきながら、私が特に大切と思う切り口に再整理して5つにまとめてみましたので、本誌と併せご参考になさって下さい。


ポイント1:転職回数は重ねるな

まずは転職回数について。
許容範囲は3回までです。(略)転職を繰り返す人は変な自信があったり協調性に欠けていたり、こらえ性がないのではと感じてしまいます。
これは現実。同感です。自分自身がそうならないように気をつけないと。


ポイント2:本流の法務たれ、そうでなければ語れる専門性を磨け

評価される「法務担当」とそうでない「法務担当」の範囲について。
法務部は別にあって、本人は事業部門の法務担当に過ぎないというパターンがよくあります。このような立場はやはり社内の主流ではなくあくまで“出城”なので(略)それなりの経験しか積んでいないという評価になります。
出城とは手厳しいですが確かに・・・。業務上そういう立場で法務をやらざるを得なかった方は、個人的に問題意識を持って研究した専門的法分野をアピールしないと、評価されにくいのは事実かもしれません。


ポイント3:関わった案件それ自体の大きさはアピールするな

続いて経験アピールの仕方についていくつか。まずはM&Aなど、関わった案件の大きさをアピールすると・・・
どのような関与か詳しく聞くと、実際は最初の簡単な秘密保持しか関わっていないことが分かったり(略)自分を大きく見せようとしているわけです。
自分がこういうアピールしたことがあるので身につまされます(汗)。だいたいM&Aなんて自分ひとりでできるわけもないですし、弁護士事務所を担ぐケースが殆どであって、冷静に考えれば自慢になりません。関わった案件のone of themとして職歴書にそっと書いておいて、面接官から聞かれたら「デューデリでどんな視点をもって相手企業をチェックしていたか」ということでも具体性をもって語れればそれで十分、むしろそれ位に留めておいた方が得策かと思います。


ポイント4:数・量よりも守備範囲の広さを語れ

では「契約件数年間◯百件」という数・量のアピールは?
稼働日数が年間200日として、私の感覚では打ち合わせや修正を含めて1日3件はきついはずです。どんな契約か聞くと、ひな形どおりで修正のない取引基本契約であったり(略)数字でこけおどしをしようとしているのだなと判断してしまいます。
数字のこけおどしにならないようにするためには、ひな形系とオーダーメイド系を分け、かつ契約種別を分けてアピールされてはどうかと思います。そうやって経験している範囲の広さは伝えておいたほうが、企業が求める専門性との重なりも見出しやすいというものです。


ポイント5:あえてノーガードで行け

さてさて、ありがちなパターンとはいえ、こんなにダメ出し・タブーばかり列挙されると、一体どうしたらいいのか困っちゃいますね(笑)。そんなあなたに私からのアドバイスがあるとすれば、アピールではなくあえてノーガードで行け、ということでしょうか。

ノーガードとはつまり、自己紹介や職務経歴において、わざと聞きたくなるところ、ツッコミどころを用意しておくということです。この特集の最後でも
法務に求められるのはあくまで代理人としての能力、つまり依頼者の業務をすぐに理解する感度とニーズを引き出すコミュニケーション能力だと思います
と述べられているように、面接官は(他の職種以上に)現場とのコミュニケーション能力を測ろうとします。その場に応じた当意即妙なやりとりができるかを見ようとしている相手に対して、質問の余地・隙がない自己紹介や職務アピールをしたのでは会話も弾みようもなく、「あの人、現場とうまくやれる感じがしないね」で選考脱落です。


蛇足ながら、法務の基礎知識を確かめる質問をクリアできるだけの勉強も、ちゃんとしておきましょう。私だったらいくらコミュニケーション能力高くても、民商法や会社法を身につけて無い人は、採用しませんから。
 

【雑誌】BUSINESS LAW JOURNAL No.30 9月号 ― 弁護士を企業に出向させることの適法性

 
今号のメイン特集とはまったく関係ない記事からヒトネタ。

BUSINESS LAW JOURNAL 2010年 09月号


「経験弁護士の企業出向―法律事務所からの出向アプローチが増える?」というタイトルが付けられた、不景気で若手弁護士のポストが見いだせない事務所側と、弁護士の専門能力を活用したい企業との思惑が合致し、弁護士の企業への出向が増える、という観測記事について。

大手企業と弁護士事務所の間で、顧問弁護士事務所と法務部の人事交流を名目とした弁護士の出向が頻繁に行われているのは周知の事実です。
しかし、この記事の論旨のように、法曹人口過多の解決策として企業への出向という手法を活用し、事務所が少なくない対価を得るということになると、さすがにその「出向」という取り扱いの適法性に疑問が出てくるのでは?と思った次第。

ご存知の方も多いと思いますが、「契約に基づいて労働者を他人の指揮命令を受けて労働に従事させる」ことは、派遣業の認可を受けて行う労働者派遣を除いては労働者供給にあたります(職業安定法第4条第6項)。この原則に従えば、企業と法律事務所が契約して弁護士を出向させる行為は労働者供給に該当するわけで、経営指導やグループ企業間人事といった建前が通用するシチュエーションであればまだしも、そういった関係のない法人に対して出向させ対価を得る行為は「業として行う」労働者供給に他ならず、職業安定法第44条で禁止された行為になってしまうおそれがあります。

職安法上違法にならないようにするために、事務所が派遣業の許認可を取得し労働者派遣法上の派遣社員として堂々と弁護士を派遣する、という手段が取れればいいのですが、労働者派遣法第4条第1項の派遣禁止業務に「弁護士」が挙げられており(弁護士は、資格者個人がそれぞれ業務の委託を受けて当該業務を行うものであって、当該業務については指揮命令を受けることがないものとされているため)、派遣業者として弁護士を派遣することも違法となります。

弁護士事務所として、弁護士の企業への出向の適法性をどのように理屈付けしていけばいいのでしょうか?法律事務所と企業法務部の人材交流はメリットがあると考えているだけに、合法と主張できるしっかりとした根拠が欲しいところです。
 

【雑誌】BUSINESS LAW JOURNAL No.29 8月号 ― 未払い残業手当問題の放置こそ日本の労働行政・労働慣行の暗部と言ってくれ

 
今月発売のBLJには、見所が3つありました。

・特集「労働法務の最前線」
・連載 Global Business Law Seminarの欧州の「約款規制法」解説
・連載 Legal Thinkingの無断録音テープの証拠能力についての解説

どれも大変参考になる記事でしたが、一応労働法の実務に携わるものとして、取り急ぎ労働法務の特集についてコメント。

BUSINESS LAW JOURNAL 2010年 08月号


端的に申し上げれば、レベルが高いけれど、企業側の視点で今の労働法のトピックスを抑えるには十二分な内容と思いました。

「レベルが高い」と申し上げたのは、現行労働法の基礎的知識をおさらいするような記事がないまま、改正の方向性について語られている点にあります。労基法改正にせよ派遣法改正にせよ、その改正の問題点や課題を議論するときの難しさは、実は現行法をしっかりと理解していないと議論の土俵にも立てないというところ。そうは言っても、現行法を解説しだすと紙面がいくらあっても足りないので端折らざるを得ないのも分かります。

その点を除けば、東大の水町勇一郎先生が労働法制の全体観を語り、実務感覚を交えた労働法リスクをフレッシュフィールズブルックハウスデリンガーの岡田和樹弁護士が座談会形式で語り、派遣法改正案の各論をロア・ユナイテッドの岩出誠弁護士が語り・・・と、企業側視点を持ちながらも偏り過ぎないバランス感覚をもった方々を的確に人選されているのが功を奏して、労働法の今後を概観できる良い特集になっています。

ただし蛇足ながら、ひとつ生意気な意見を申せば、P43〜「未払い残業代の請求は増加するか?」という記事については、ちょっと違和感あり。

タイムカード、時刻が記入された業務日報、社内ネットワークへのログイン/ログアウト記録、メールの送受信記録など、労働時間を客観的に証明できそうなものを請求側が有していたとしても、それですぐに請求が認められるわけではない。タイムカードは、職場にいた事実を示しても労働時間を示すものではないとした裁判例もあるし、PCを起動していた時間の立証をできてもその間ずっと業務に従事していたとは会社側が認めないケースも多い。
というのは少なくとも私が裁判例を見ている感覚とはまったく異なりますし、こう書きながら同記事の後半では
未払い残業代請求は、一般的に「原告の勝ち筋」といわれる。「証拠がまったくないので提訴しないというケースを除けば、請求が全く認められず完敗したというケースはまだ一度もない」とベテラン弁護士は言う。
なんて記載もあったりと、やや論旨不明な点が多い記事でした。過払い訴訟に変わって社会現象となりつつある安易な労働訴訟ブームへの警告、という主旨だとは思いますが、それならそれでもう少し論旨と根拠を明らかにして書いていただけると良かったのかな、と思います。

人材ビジネスの視点から労働法の実務を見つめてきた私としては、未払い残業手当問題の放置こそ日本の労働行政・労働慣行の暗部であり、ここを曖昧にせず企業の責任を問うていくことが、逆に(企業が望んでいる)労働者保護に過剰な解雇規制を適正化する議論やホワイトカラーエグゼンプションの健全な導入に向けた議論につながる、と思っています。BLJには企業法務パーソンの羅針盤としてだけでなく、経営層へのオピニオン・リーダーとしての役割も担って頂ければと、そんな期待を込めて生意気を申し上げました。どうぞご容赦を。
 

【雑誌】BUSINESS LAW JOURNAL No.27 6月号 ― 飾りじゃないのよ秘密保持契約は

 
今月のBLJは、秘密保持契約(NDA)特集。

BUSINESS LAW JOURNAL (ビジネスロー・ジャーナル) 2010年 06月号


カッコだけじゃない実効性のあるNDAを目指して知恵を絞る

NDAといえば・・・。

2月の終わりに、秘密漏洩が起こっても損害の立証ができずに結局何も請求できずに終わる、そんな実効性のない秘密保持契約って、どうにか卒業できないものだろうかとふと思い、Twitter上でこんなideaを呟いてみたところ、

そこにeurosellerさんから鋭いコメントが。
うーんなるほど・・・としばし考えた挙句、苦し紛れに、
 なんてことをさらにつぶやいてはみたものの、お互いの秘密の評価額を契約時に見積もるなんて現実的じゃないよねー、という誰もが気づくオチで終了。とはいえ内心では、皆さんどうやってNDAの実効性を高めようとされてるのかな?と引きずっていた部分でした。

そこへきて、さすが本号はNDA特集というだけあり、この点にもう少し踏み込んだこんなideaが披露されていて、参考になりました。
いざ訴訟になった場合、X社がこの因果関係と損害額を立証することは困難を極める。そのため、X社の立場では、あらかじめ因果関係の存在と損害額を推定できるような条項を定めておくのがよい。そこで参考になるのが、特許法に定められている、特許権侵害を理由とした損害賠償請求でのみなし(推定)条項である。
1.X社は、自社の書面による承諾なしに、Y社が秘密情報を漏洩・開示・利用した場合には、Y社に対して、損害賠償請求することができる。
2.前項の場合において、X社が損害賠償として請求出来る損害は、X社の請求時の直前2期の事業年度末の売上高の◯%とみなす

秘密の評価額を契約時に確定させるものでもなく、かと言って、鉛筆ナメナメ思いつきのように数字を入れるのとも少し違う、ある程度考え方として受け入れやすいideaではないかと。
※「直前2期の事業年度末の売上高“平均値”の◯%」の誤植かも?

もちろん、これが完璧なideaではないことは承知していますが、法務パーソンそれぞれが様々な知恵を自ら絞って、こうして他者と交換しながらその知恵を磨き合っていくことで、契約書検討業務の質をだんだんと上げていきたいものですね。
 

2010.4.24追記
※について、著者浅見先生とBLJ編集部様から、以下補足をいただきました。有難うございます。
------------------------------------
<条項案6>
2. 前項の場合において、X社が損害賠償として請求できる損害は、X 社の請求時の直前2期の事業年度末の売上高の○%とみなす。

↓(第2項の「売上高」と「の◯%」の間に「平均値」を入れる。)

2. 前項の場合において、X社が損害賠償として請求できる損害は、X 社の請求時の直前2期の事業年度末の売上高平均値の○%とみなす。

------------------------------------

2年分の売上高(合計)の○%よりも、2年分の売上高平均値の△%としたほうが分かりやすいですね。
ご指摘くださった企業法務マンサバイバルさまありがとうございました。

 

【雑誌】BUSINESS LAW JOURNAL No.25 4月号 ― 「公開会社法(案)」に対する江頭先生のカウンターパンチ

このエントリで伝えたいこと

  • コーポレート・ガバナンスを改善したければ、会社じゃなくてカネを出す人の姿勢を正したら?という江頭憲治郎先生の意見はまさに慧眼。

民主党の某議員へ江頭先生からのキツイ一言

今号でいよいよ創刊2周年を迎えたBLJ。たんなる専門誌的記事にとどまらず、勉強会や覆面座談会形式の記事を交えた飽きさせない内容の良さはもちろんのこと、法務パーソンを横串でつなぐ定期的な読者懇親会の開催、そしてついにはTwitterにも参戦を果たされ、今後もますます楽しみなメディアに成長されている感があります。

BUSINESS LAW JOURNAL 2010年 04月号


今回の特集「弁護士との関係はどう変わったか」も、私達法務実務家が日ごろ抱えている思いと、若手の弁護士さんと情報交換している中で漏れ伝え聞こえてくるような弁護士の本音の双方がバランスよくまとまっていて、楽しく読ませていただきました。

しかし、それよりも私の目を引いたのが、巻頭のOPINIONのコーナー。

このコーナー、たった1ページながら毎号大御所をブッキングしてくださっていて密かに楽しみにしているのですが、今回登場されたのはこれまた大御所、会社法の権威、江頭憲治郎先生。

昨今、民主党の一部議員が騒いで物議を醸している「公開会社法(案)」創設議論を意識しての、五寸釘ぐらいの太い釘を刺す刺激的な一言がw。

s-IMG_9704

日本と英米のコーポレート・ガバナンスの違いが指摘される場合、社外取締役などの機関構造の面が取り上げられることが多いが、実は彼我の最大の差異はそこではなく、株主のコーポレート・ガバナンスへの姿勢の差なのである。もちろん、個人投資家にそれへの積極的参加を期待しても無理であり、期待出来るのは機関投資家のみである。
現在また日本では、会社法改正の動きがある。そこでコーポレート・ガバナンスの改善を目指すのであれば、機関構造の改革とか取締役の責任強化を図ってみても、おそらくたいした効果は期待できない。真にわが国で改革が必要なのは、株主構造の機関投資家化を図ること、および機関投資家の資金拠出者の資金拠出者に対する義務の強化であろう

取引先を審査する業務をやってきた中で、私は「株主の筋を見ればその会社の筋が分かる」という確信を持っています。これは、大株主が変わったことでガバナンスが大きく変わっていく様を前職において目の当たりに実感し、それが原因で辞めるに至ったことも強く影響しているのですが、それもあってこの指摘にはとても共感を覚えました(「個人投資家に期待しても無理」のくだりはちょっと気になるものの)。

先生としては、当時の法務省法制審議会部会長として、会社法改正で会社側のガバナンス向上のための工夫はすべてやりつくした、という自負もお持ちなのだと思います。

「公開会社法(案)」に感じていた、これ以上会社をイジッてイジメてどうするの?という違和感が、この江頭先生の一言でスッキリした次第です。
 

【雑誌】BUSINESS LAW JOURNAL No.22 1月号一債権回収は潜った修羅場の数だけ強くなる

 
弁護士会館ブックセンタ−には発売日の2日前にフライングで置いてあることを今月知ったこの雑誌。

BUSINESS LAW JOURNAL 2010年 01月号


今月から始まった2大新企画
・徹底マスター 契約実務
・誌上ワークショップ
に加え、
・2010年社内研修テクニック
なる特集もあって、総ページ数は先月号と変わらないのに結構なお得感を感じます。

特に、2つめの「誌上ワークショップ」は、実は私も編集部からお声掛け頂きながら参加できなかった(すみません)分楽しみにしていた企画。

「取引先の信用不安情報を入手した際に出荷停止にするか」という与信管理の一場面を取り上げたケーススタディをもとに、ユニリーバ・ジャパンの取締役ジェネラルカウンセルの北島さんがファシリテーターとなって、6名の法務担当者が意見を戦わせるというもの(なんでも、この中のお一人に、いつも弊blogをご覧下さっている「風にころがる企業ホーマー」のhiroさんが混じっているという噂も…)。

いわゆる「不安の抗弁」を主張する際の注意点という典型的なネタではあるものの、出荷したい現場の思いをどう制御するかという実務的な視点も踏まえたディスカッションになっていて、なかなか臨場感のある特集になっていました。

6名の参加者の皆さんも健闘されていましたが、やはりファシリテーターの北島さんのコメントには、圧倒的なベテランの深みを感じてしまいます。

私なら第一声として「現場に行ったか?」「その会社の誰としゃべったか?営業部長なのか、経理部長なのか、あるいは社長なのか」を聞く。そして、「出荷を止めなくてもいい材料をください」と営業から相手に頼むよう求めます。

情報も出所で評価が変わるという基本、そして経営不安に陥った債務者を詰めるのではなく、「この債権者には情報を出そう」というモチベーションを債務者に与える言葉使いができるかが、大きな差を生むということが、この短いコメントに凝縮されています。

債権回収は、やっぱり潜った修羅場の数で差がつくんだなということをひしひしと感じました。

【雑誌】BUSINESS LAW JOURNAL No.21 12月号一中国の契約なら俺にまかせろとシノギを削る法律事務所達

 
今月発売のBLJで中国企業との契約実務を特集しているとはつゆ知らず、昨日のエントリを書いてました。まことに恥ずかしい限り。

BUSINESS LAW JOURNAL (ビジネスロー・ジャーナル) 2009年 12月号



法務担当者受けする雑誌記事の作り方

合計32ページにわたり、アンダーソン・毛利・友常/光和/TMI/黒田/高井伸夫/曽我・瓜生・糸賀/森・濱田松本といった大手〜中堅事務所の先生方が、それぞれの得意分野についてまるでシノギを削るかのように文字数いっぱいに濃い記事を寄稿しているこの特集。

・合弁契約、持ち分譲渡契約等および出資契約は、法律上
 中国語を正本にしたうえ準拠法も中国法にしなければ
 ならないとか、

・損害賠償が実損主義なので、契約で損害賠償額のキャップ
 をしても意味がないとか、

・最高人民法院による契約法の司法解釈6条により、定型的
 な契約書式(約款)を提示した企業は、権利・義務を規定
 しもしくは責任を免除・限定する条項について、相手方に
 注意喚起義務と説明責任を負うとか、

・日本での判決は中国で執行できないため、裁判管轄を日本
 にするのは無駄であるとか、

私のように中国企業との契約経験が多くない法務パーソンには、いちいちへぇ〜な小ネタが満載。

そして何よりもこういった各事務所による顕名の寄稿記事がありがたいのは、この分野はこの事務所のこの先生が強そうとか、この先生の説明は分かりやすいなというのが比較できるところ。顧問弁護士事務所のほかにセカンドオピニオンを取りにいくアテをつけることができますからね。

なお巻末の編集後記「Editor's voice」によれば、
ご好評いただいた契約書特集が個別的な問題をより深く取り上げる形にして次号より毎号掲載の予定です。
とのこと。

やはりwebと比較した際の専門雑誌記事の良さは、今回の特集がそうであるように、一定の信用をもつ寄稿者が顕名で、タイムリーなネタを、ある程度まとまった単位で提供してくれるところにあると思います。

次号以降の契約書連載も、今回のようなノリで記事をまとめていただけると、法務担当者受けはすごくいいんじゃないか、と期待してます。

【雑誌】BUSINESS LAW JOURNAL No.16 7月号―「戦う法務パーソン」が「戦う監査役」を作る

 
7月号責了です(BLJ編集部ブログ)
今回はいつもと少しテイストが違うかな??

という編集部のあめちぇさんのつぶやきにもあるように、取材内容が、そして気のせいか編集デザインまでもが濃い今月のBLJ。

「取締役・監査役を取り巻くリーガルリスクの現在」という特集記事の緊張度の高さがそうさせたのかもしれません。

BUSINESS LAW JOURNAL (ビジネスロー・ジャーナル) 2009年 07月号 [雑誌]




え、辞めてなかったんですか?

まあとにかくびっくりしたのが、荏原製作所の社外監査役、大森義夫さんの取材記事。

役員の不正取引の調査について疑義を感じたことを理由に、株主総会で
コンプライアンス上重大な疑義があるので事業報告を承認しない
という意見を付記するという、「監査役の乱」を起こし一躍有名になった方です。

結局あの事件、特に株主総会議場での株主からの質問も無く、計算書類の承認決議はそのままなされたということだったので、私はてっきり大森さんはその後お辞めになったのだろうと思っていたのですが、なんとまだ荏原製作所の社外監査役を務められているとのこと。

さすが警察庁・公安部長・内閣情報調査室長を歴任した方だけあって、正義感が強いというか肝っ玉が据わっていると言いましょうか・・・。


監査役とのパイプが「戦う法務パーソン」の武器になる

そんな大森さんのコメントに、法務パーソンが担うべき役割への示唆があります。
監査役、会計監査人、顧問弁護士、社内の内部統制担当部署が緊密に連絡しあって情報を共有することが、日本企業のガバナンス上最大の課題だと思います。ところが実態は、企業は特に社外監査役に対しては、都合の悪い情報は開示せず、自分達に都合のいい学説、論文は取締役会議事録に添付したりするのが現状です。

大森さんが危惧する実態があるとすれば、まさにその「自分達に都合のいい学説、論文」を探して提出しているのは、その会社の法務パーソンに他ならないのでしょう。たとえ企業に雇われた身だとしても、そんな“情報操作”に加担する法務パーソンは失格だと思います。

このblogでも何度か述べてきたように、私たち法務パーソンは
自分の雇い主である経営者が嫌がる本音ベースの提言も(時と場合によっては嫌われるのを覚悟で)しなければならない
存在。
私たちが最後の砦を守ることを放棄したら組織のコンプライアンスは崩壊する、ぐらいの気概をもって仕事をしたいものです。

とはいえ、法務パーソン自身がひとりで戦うのは無謀ですし、賢いやり方ではありません。そこで武器にしたいのが、監査役とのパイプです。

法務担当者やコンプライアンス部門担当者であれば、日常で監査役から質問や調べ物の依頼を受ける機会もあるはず。そんな細かいことまでお気になさらないでも・・・とうざったく思う時も正直あるとは思いますが(笑)、そんな小さな機会を捉えて監査役を支援し、パイプを太くしておくのです。そして、経営者と戦わなければならないいざ、というときには、私たちが監査役という神輿を担いで「戦う監査役」になってもらえばいい。私はそう思っています。

ちなみに、このパイプを太くするための監査役への小さな奉仕活動は、会社の中では目立たないようにした方が得策かもしれません。
監査役が取締役にとって耳が痛い情報を口にしたときに、「法務のやつら、また影でコソコソ告げ口しやがって」と取締役に思われないためにも。

内部通報って来てます?

 
今月のBLJに、いつも拝読させていただいている『ビジネス法務の部屋』の山口利昭先生が『不祥事の公表・調査義務―内部通報を発端とするケースを中心に』という記事を寄稿されていたのに関連して、休日モードでひと言つぶやいてみます。

コンプライアンス・法務部門で内部通報の受付窓口になってるみなさん、内部通報って来てますか?

678339

私のネットワークで各社の実務担当者にいろいろ聞きまわっている限りでは、0件か1件がほとんどで、大手一部上場企業でも1年に10件は無い程度。せっかく用意した外部通報窓口にはほとんど入ってこないというのが実感値。
しかもあったとしても、
・セクハラ
・パワハラ
・人事考課に対する不満
がそのほとんどを占める、というのが実務担当者が把握している実態のようなのですが。

当然私にも秘密保持義務がありますので多くは語れませんけれど、まあ同じ様な感覚です。

ちなみに、平成19年時点のものにはなりますが、この調査結果でも同じような結果がでているみたいで(P40〜参照)。

民間事業者における通報処理制度の実態調査報告書(内閣府国民生活局 PDF)
内部通報制度を導入している民間企業(n=1,310)、病院(n=24)、学校(n=34)に対して、過去1 年間に通報窓口(社内窓口・社外窓口)に寄せられた内部通報件数を尋ねた。
民間企業全体では、「0 件」(42.7%)と「1〜10 件」(39.5%)が多く、共に約4 割を占めている。
11 件以上受け付けている企業は、10.3%であった。

山口先生の力のこもった記事に水を差すつもりはありませんが、内部通報をきっかけに発覚する不正・不祥事よりも、法務担当者として業務の相談や打ち明け話的に受ける相談の中で発見する不正・不祥事の方が何倍も多いかも、と思ったり。

とはいえ、去年発覚した企業不正・不祥事の多くが内部通報で明るみになっていることからもわかるとおり、内部通報される“本当の1件”の重みは相当重いということも、肝に銘じなければなりません。

今月のBLJはこれ以外にも興味深い記事が。明日あらためて感想をアップしたいと思います。

BUSINESS LAW JOURNAL (ビジネスロー・ジャーナル) 2009年 07月号 [雑誌]

【雑誌】BUSINESS LAW JOURNAL No.15 6月号―やましいことは何もなくても、やっぱり公取委は怖いよ

 
独占禁止法のコンプライアンスというテーマは、法務パーソンが最も実務経験を積みようがない分野だと思います。なぜなら、経験を積む=独禁法違反の嫌疑をかけられて公正取引委員会等々と戦うということで、それはもはや“実戦”そのものなわけで(笑)。

かくいう私も、前職入社間も無いころ(当時は総務担当として)公取委が来訪してのヒアリング調査対応に関わったぐらいで、この分野に関する具体的な経験値は少ないと言わざるをえません。

今月のBLJの特集「高まる課徴金リスクへの備えは万全か」の9本の記事中、6本が弁護士事務所の先生の寄稿となっていて、現場法務の方の実戦訓が若干少なめになっているのも、そんなわけで致し方ないところ。

しかし、その残りの2本の現場法務の取材記事と、1本の行政当局へのインタビュー記事が、まさにリアルな独禁法違反リスクを感じさせてくれるものになっていて、非常に勉強になりました。

BUSINESS LAW JOURNAL (ビジネスロー・ジャーナル) 2009年 06月号 [雑誌]



反則調査の恐ろしさ

まず参考になったのが、P50〜の「法務担当者のつぶやき」と、P54〜の「実録公取委の反則調査」のコーナーでの法務担当者の取材記事にみる、当局による反則調査の恐ろしさについてです。

弁護士との連絡記録を持っている可能性があるということで、法務担当者個人のカバンの中の書類も半強制的にもっていかれることはざらだ。
「任意」との名目で、調査は社員の実家にまで及ぶ。そこでは、個人の銀行通帳やパスポートの差押えから、家族のアルバムや子供のランドセルも調べたという事例まである。
調査で得た社員の個人情報を使って「最近マンション買ったんでしょ。どうせ、逮捕されて、会社クビになるのにこれからどうするの?」と揺さぶりをかける。
深夜まで及ぶ長い取調べの後に「今日、この調書にサインしても、明日もう一度、訂正できるから」と曖昧なことを言われ、もうろうとした状態でサインしてしまい、窮地に追い込まれる社員も少なからず存在する。
数年前の交通費、交際費などの伝票や明細書を短期間に提出することを求められ、これらを全部探し出すために管理部署が総動員で、何日間も、コピー等することとなり
地方にいる社員が取り調べに呼び出されることも多く、そのための交通費等は数百万円にもなり得るし、何日間も営業活動に専念できないことによる逸失利益も無視できない。

通り一遍のコンプライアンス研修で、独占禁止法違反についての講釈を従業員にぶってみても、何にも響かないのが実態。

一方で、こういった事態に巻き込まれたことがある企業のベテラン社員さんなんかは、身をもってその怖さを知っています。法律の理屈はさておいて、そういった経験のある社員を捕まえて“語り部”になっていただくのが、独占禁止法違反のコンプライアンス研修としては実は一番効果があるのではないかと、この記事を読んで改めて思った次第です。


事業者団体の会合への出席に気をつけろ

そして、BLJ編集部の取材姿勢に思わず拍手!したくなったのが、行政当局の当事者、公取委の松山事務総長へのインタビュー記事です。

・インパクトのある事件審査を行うことで、世の中にカルテル・談合
 を続けることのリスクを知らしめる
・不況であっても執行方針に変更は無い
・トップが「利益も大事、法令順守も大事」と言っているようでは
 ダメ
といった、松山事務総長の容赦ないコメントの数々。

それにひるまずに、全企業の法務担当を代表してBLJの取材陣が突っ込んで聞いてくださった、「具体的な事項で気になること」への回答がこれ。

例えば事業者団体の会合に出席する際の社内規則を定めていない会社がまだ多いと思います。日本においては、業界団体の会合があれば、その際に多少の情報交換があってもいいではないか、という甘えがあるように思われます。
日本で、同業者の会合に出席する際に、必ず上司の許可を取る、価格の話が出たら直ちに退席する、その記録を残す、と言った教育をしている会社はそう多くないでしょう。

BLJ取材陣がピンポイントなところまで深堀りしてインタビューして下さったおかげで、当局が頭の中で考えていること・その程度がかなり具体的に透けて見えた気がします。


日本企業に松山事務総長がいう“甘え”があるのも否定できない事実。
そして、そんな甘え体質が残っていると思われているからこそ、先に紹介した反則調査の事例で見るような、「違反行為ありき」の厳しい取調べが行われるという悪循環があります。

重たい仕事ですが、我々法務パーソンはこの悪循環を断ち切るための努力と工夫を、あきらめずに追求していく必要があります。

公取委が来たときにも、私達は正々堂々と商売をやっている、調べたいだけ調べるがいいさ、と啖呵を切れるような会社であり続けたいと思います。

【雑誌】BUSINESS LAW JOURNAL No.14 5月号―著作物の社内/部門内コピーという現実に対する法務パーソンのスタンスを問う

 
今月のBLJの特集「法的リスクの見落とし事例」は、一見地味ながら共感度の高い事例がギュッと集まっている、読み応えのある記事でした。

BUSINESS LAW JOURNAL 2009年 05月号


・秘密保持契約に、よく読むと競業避止条項が入っていた
・サプライヤーとして結ぶ取引基本契約に、「バイヤーの責に
 帰すべき事由による場合を除き、〜損害を賠償しなければな
 らない」という条項を受け入れたことで、“当事者以外”の
 責任も負うことになってしまった
・株主からの質問に対して、ついうっかりインサイダー情報と
 知らずに総会で開示してしまった
などなど、あるある!なケースが勢揃い。


「部門内コピーは合法」?

その中の記事「著作権等侵害トラブルはこうして起きる」の中に、TMI総合法律事務所の宮川先生・升本先生の踏み込んだコメントが。

企業その他の団体において業務上利用するために著作物を複製する行為は、私的使用目的複製にはあたらないとした判例もあります。
と、いわゆる舞台装置設計図複製事件(昭和 48年7月22日東京地裁)に基づく“常識的見解”を披露した上ではあるものの、
社内での文献等のコピーが著作権侵害になるとして一切許されないということにも抵抗を感じます。
会社内の同じ部署の人たちが、数人程度の小規模な会議や研修会の資料として文献等をコピーする場合には、同項の「これに準ずる限られた範囲内」に当たると解釈することも無理ではないのではないかと思います。
つまり、社内であっても部門内コピーは合法という解釈ができるのではないか、という思い切ったご意見を披露されているのです。

厳格な法律解釈に囚われてビジネスを過度に制約すべきではない、という意図が多分に込められていることは分かりますが、さすがに弁護士の先生が公の場でこの発言は行き過ぎでは?とこちらが心配になってしまいました。


100%は無理でも、守るべきものは守る

どこの会社においても、「まあ、良識の範囲でやってるのはしょうがないよね」と現実から目をそらしているであろうこの著作物の社内/部門内コピー問題。法務パーソンの皆さんはどのように考え、対応されていらっしゃるのでしょうか。

現場から正式な見解を求められれば、
「残念ながら、社内で会社のコピー機を使ってコピーしている時点で私的利用とは言えず、部門内に限定した利用であっても、著作権法上はNGです。」
苦悶しながらも、私はそう答えてきました。

私の様なブロガーが増えていることに象徴されるように、一億総クリエータ化も進む現代。何でもかんでも権利でがんじがらめは時代にそぐわないよねとフェアユース論が沸騰しはじめている一方で、100%は無理でも権利者の権利は守れる限りにおいて守っていくべきではないか、というのが私の今のところのスタンスなのですが。

同じ号のBLJの5ページ“OPINION”のコーナーでは、関西大学の森岡教授がちょうどこんなことを述べていらっしゃいます。

問題を労務に限れば、日本企業にはコンプライアンスからほど遠い状況がある。その例は、障害者法定雇用率の未達成、女性賃金差別、不当解雇、賃金不払残業、過労死、偽装請負、労災隠し、最低賃金法違反など挙げればきりがない。

著作権もしかり、労務もしかり、真のコンプライアンスとは、今まで「現実」という一言で解決を先送りし続けた問題を、ひとつひとつ聖域なくクリアしていく終わりなき戦いなのかもしれません。

【雑誌】BUSINESS LAW JOURNAL No.13 4月号―秘密なんですけど、本当は企業から解雇するのって全然怖くない事なんですよ

 
今月は、創刊1周年特大号ということで、題字が金色でいつもと違う雰囲気。なんか豪華っぽい!


特集も豪華2本立て。
第1特集が、「リストラ実務と労働法リスク」
第2特集が、「ハイスペック法務を目指す能力開発&ステップアップの道標」

第2特集では、他社の法務パーソンのスキルアップ環境がいかに恵まれてるかを思い知らされ(法務部の書籍購入費予算は年間5万〜90万/定期購読誌は1〜20誌/有料セミナー参加件数は年間3〜70件/勉強会を週1.5時間〜3時間実施etc)、不景気の波に飲みこまれ浜に打ち上げられてメンバー全員干からびそうになっている私の職場とのあまりの違いに色々コメントしたいこともあるのですが・・・。

単なるひがみになりそうなので控えさせていただきまして、本職の労働法絡みの方にコメントさせていただきます。


日本の解雇は簡単だ

特集の中でも際立っていたのは、何と言ってもフレッシュフィールズブルックハウスデリンガー法律事務所の弁護士、岡田和樹さんのインタビュー。

題して、「解雇を難しく考えすぎない―労使双方の経験をもつベテラン弁護士からみた日本のリストラ事情―」。

外資系企業の役員をしている外国人からは、「日本の法律は労働者に有利過ぎる」というようなことをよく言われるのですが、私は「とんでもない。日本では使用者の方がよほど楽だ」と反論します。
現状を前提とするかぎり、使用者はあまり訴訟リスクを気にする必要はないと思います。労働者は裁判まで起こして負けたら本人の将来を考えると最悪なので、訴訟リスクは使用者側より格段に大きいのです。

岡田弁護士がこここまで断言する決定的な理由は、アメリカと比べた日本の証拠開示制度の甘さにあります。

ディスカバリー制度もない日本では、顧客とのEメールのデータをはじめとして労働者の労働実態を示す証拠はすべて企業が握っており、労働者は会社の中で起こっていることを証明できないという現実がある、ということです。

かつては国鉄の労働組合側代理人として活躍していたにもかかわらず、立場を一転、現在は使用者側の立場で活動する弁護士ならではの「実戦」的コメント。

特集の写真ではすごく柔和な笑顔なのに、鬼のようなことをサラリと言ってますね・・・(苦笑)。

私も仕事がら、労働基準監督署に駆け込む労働者を何人も見てきましたが、労働基準監督署も個別の紛争解決において職場から証拠を集めるところまでは補助してくれません。「企業と交渉して、○○をもらってきてください。そうしたら企業を指導しますから。」というスタンス。
それでは労働者はいつまでも泣き寝入りなわけですよ、労基署の皆さん。

今はまだ、このことを企業側もあまり理解していません。ですので、「労働者が労基署に駆け込んだ!」と聞くと、企業も焦って大幅に譲歩した和解案に応じたりするわけですが、岡田先生のような弁護士が企業側に立ってこのような知恵を授けはじめると、労働者にとっては良くない方向に形勢が傾いてしまうかもしれませんねぇ。
記事検索
月別アーカイブ
プロフィール

はっしー (Takuji H...