企業法務マンサバイバル

ビジネス法務に関する本・トピックのご紹介を通して、サバイバルな時代を生きる皆様に貢献するブログ。

M&A

【本】『M&Aにおける財務・税務デュー・デリジェンスのチェックリスト』― 結局DDの責任を取らされるのは法務だし

 
昨日ご紹介の『法務デューデリジェンス チェックリスト』とセットでどうぞ。





M&Aのデューデリジェンスには、法務・知財・財務・税務・人事・ビジネスと大きく分けて6つの側面があります。そして法務は、契約書の表明保証条項を作り込む立場である以上、少なくとも各DDの結果についてはすべての側面から把握しておく必要があります。買収後に実際に問題が発覚・発生した時には、それが財務・税務分野の問題であったとしても、「どうにかしろよ」と責任を追求されるのは残念ながら法務です(はい、そんな経験をしたことがあったような気がすっごくします。あれ、目から大量の汗が)。監査法人・税理士法人等の専門家を使って調査したからといって、DD委託契約の鉄壁の免責条項に守られた彼らが、あなたの代わりにその問題の責任を取ってくれるわけではありません。

結果を把握するために、DDを委託した専門家が対象会社との間で交わしたQAリスト・DD報告書を読み、DD報告会に出て…というのは当然にやっていらっしゃることだと思いますが、加えて、その過程で必ず行われているはずの対象会社の責任者に対して行う財務・税務インタビューについても、長時間で疲れはしますができる限り同席したほうがよいと思います。インタビューに立ち会っていればはっきりと匂いが嗅ぎ取れる“危ない話”も、QAのアンサーメモやDDレポートの形になるとどうしても上品・マイルド・曖昧な表現になってしまい、見落としがちだからです。M&Aを得意分野とされている弁護士の先生方ほど、こちらからお願いしなくても「財務・税務のインタビューにも同席させて欲しい」と大概おっしゃるので、これはセオリーなのでしょう。とはいえ、普段財務や税務の実務に携わっていない者には疑問・質問の目線をどの辺に置けば効果的なのかわからない。そんな時にこのようなチェックリストが手元にあると、インタビューの時間を有効に活用できるものと思います。

本書はDDのチェックリスト本の中でも、財務だけでなく税務をあわせて取り扱い、さらには法務DDで確認する定款・登記簿・規程をはじめとする基礎情報や、ビジネスデューデリの範疇となる企業評価との整合性を確認する目線も意識的・体系的にカバーされているのがよいところだと思います。その現れが、璽據璽犬砲△詼椽颪料澗料や、チェックリストと合わせて示されている図表・解説にも見て取れます。

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余談ですが、この本、「はじめに」に面白い一幕が。

チェックリストは網羅性を重視し、一方で、各項目の解説については、エッセンスを記載することで、1つの論点を詳細に解説することは避けています。決して怖い編集者の方に、締め切りに間に合わせるように急かされた結果、このようなシンプルな形になったわけではありません。
最後に、本書を企画時から担当してくださり、締め切りに間に合わせることの重要性を教えてくださった中央経済社の末永芳奈氏(中略)に改めて厚く御礼申し上げます。

なんかあったんですかね?あったんでしょうね…。
 

【本】『法務デューデリジェンス チェックリスト』― 10億円サイズのM&Aというリアリティ

 
西村あさひ法律事務所パートナー 佐藤義幸先生の著書。オンデマンドペーパーバックで9月29日に発売予定だそうなのですが、私は待ちきれず、Kindle版を購入しました。






法務DD本といえば、長島大野の『M&Aを成功に導く 法務デューデリジェンスの実務(第3版) 』が定番の書として不動の地位を築いています。その独占市場に、チェックリストに特化しかつオンデマンド&Kindleフォーマットによるお買い得価格で殴り込みを掛ける本書。その意気込みとアプローチ、素敵です。

本書は、筆者が長年使用してきた法務デューデリジェンス(法務DD)のチェックリストを標準的なものに再整理した上で公開するものです。

お買い得価格といっても、内容は西村あさひクオリティという安心感。そして、

対象会社として、特に強い業法規制のない時価総額10億円程度で、上場を前向きに検討しているが、他社グループとの統合も選択肢としている未上場会社を想定しました

この「時価総額10億企業」というターゲットもリアリティがあります。四大クラスの法律事務所は起用しない、かと言って法務DDをさぼるわけにはいかないというライン。掘り出しもの案件であればあるほどスピード勝負となり、チェックリストを片手にさっさと商談→DDをはじめ、鉄は熱いうちに打てで一気にクロージングに突き進むに限ります。去年まさにそういう案件にまみれていた私としては、この本がその時出て入たら助かったのに…と。

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サブタイトルには「万全のIPO準備とM&Aのために」とあります。たしかに、ウェブサービスで起業して早期のEXITを狙っているアントレプレナーの方なんかが、企業価値をより高く見せるためのセルフチェックに使うのもいいですね。
 

モテないヤツが投資契約にかかわるとロクなことがない

 
フィナンシャルアドバイザーのような職業の方々からすれば、いまさら何を言っているのかという話だと思いますが、投資やM&Aというのはつくづく恋愛や結婚と同じなんだよなと、ようやく身に沁みて理解できるようになりました。

・出会いという偶然 
・互いの相性を確認するコミュニケーション
・本心を探る駆け引き
・告白・プロポーズ
・無償の愛

エンジェル、ベンチャーキャピタル、事業会社の投資部門、機関投資家、政府系ファンド…と、投資家の立ち位置によって、相手=投資先の選び方や結ばれ方の濃さにグラデーションは出るにせよ、結局は男女のソレ(いまどきは非ジェンダーな表現ですが、一般にわかりやすい表現として使用することをご容赦ください)と変わらないというか。

デューデリジェンスのたびに「今回も相手の恥ずかしい部分を晒してやったぜ」と失礼な質問を重ねて悦に浸っていたり、タームシート上で条項ごとにちまちました交渉を重ねて「勝った」「負けた」と一喜一憂したりしているようでは、まとまるものもまとまらなくなるでしょう。法務として経験豊富でも、人としてモテないヤツが投資やM&A案件にかかわってでしゃばると、ロクなことがありません。はい、私を含めてです。

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自分の蔵書置き場を見ても無駄に書籍が多い投資・M&Aの分野で、法務パーソンにも歯ごたえのあるようなカッチリとした体系書が少ないのはなんでだろう?と疑問だったのですが、恋愛や結婚においてマニュアルやハウツー本に書かれたテクニックをあてはめようとすることがナンセンスなのと同じだからという気がします。


モテる投資契約(笑)とは何かを教えてくれる文献は、投資を受ける側である起業家の揺れる思いをよく理解している方が書かれたものに絞られます。「理解してから理解される by 7つの習慣(R)」ってやつです。その意味で、やはり磯崎先生のこちらははずせないでしょうし(磯崎先生が全米ベンチャーキャピタル協会契約ひな型について解説されたメルマガシリーズもおすすめ)、




英文ではありますが、以前shibaken_law先生が詳しくご紹介くださっていたこちらなど。




webで読めるものとして、増島先生がまとめて下さっているこちらも参考になります。

Startup Innovators
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投資やM&A案件をうまくすすめたいなら、こういう文献を読むまでもなく天性の人懐っこさや嫌がられない図々しさを備えた、モテるヤツを前面に出すに限ります。
 

【本】『M&A実務の基礎』― いつまでも改訂されないあの本に取って代わる、M&A法務本の新スタンダード

 
まだ一部大規模書店にしか配本されていないようですが、首尾よく入手。M&Aの、特に法務面にフォーカスした書籍として、ついにあの『M&A法大全』の後継となるものが出た!という感じです。





「主に法務のバックグラウンドを持つ若い読者が、M&Aについて専門的な文献や実務に触れる前の足がかりとなる知識を満遍なく得ることができる1冊」、これが本書のコンセプトである。

はしがき冒頭に書かれたこのコンセプト通りの本。いや、「若い読者向け」は相当に謙遜が含まれていますね。

全400ページ弱のボリュームに抑えることを優先したのでしょうか、確かに本書はたとえば契約書作成の部分だけ見れば藤原『M&Aの契約実務』に、DDについてはNOT『M&Aを成功に導く 法務デューデリジェンスの実務』に、それぞれ細かいことは譲っている部分はあると思います。しかし一方で、社内でM&Aをつつがなくリードし目指すクロージングに向け調整・推進する役割を担う我々企業法務パーソンにとっては、そういった部分部分の法律知識よりも、本書が目指す「全体をくまなく、しかし漏れ無く把握する」ことのほうがむしろ重要だったりします。法務が担う役割の重要性に比して、M&Aの経験を積むチャンス自体が(通常の事業会社においては)限定されていることもあって、それがなかなか理解できずにもどかしさを感じていた法務パーソンは多いはずで、本書はそういった方への福音となることでしょう。

本書では、契約法・会社法・金商法などのM&A必須法令にとどまらず、税法・競争法・労働法・知的財産権法・東証ルールといった周辺領域、さらにはクロスボーダー案件における外為法や準拠法の問題などが、広範囲にカバーされています。M&Aで出くわすほとんどの問題について、平成26年会社法改正で新設された特別支配株主による株式等売渡請求制度などの最新トピックスを含めて、本書を紐解けばなにかしらの手がかりが示されているという安心感があります。


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総ページ数は『M&A法大全』より控えめながら、アンダーソン・毛利・友常法律事務所(旧ビンガム・坂井・三村・相澤法律事務所から統合)のパートナーを務めていらっしゃる柴田義人先生らの豊富な経験が、本文やコラムの随所に散りばめられており、これまでの類書では言及はされていても踏み込みが浅かった実務上のお悩みポイント、たとえば、
・DDにおける情報開示と、個人情報保護法抵触/秘密保持義務違反/ガンジャンピング問題
・価格調整条項による具体的な価格調整の方法、そしてその請求を担保する方法
・MAC条項に例外(Carve-out)事由をどこまで規定すべきか
・適時開示の対象に該当するか、東証への開示の事前相談・説明手続き
・クロージングにおける株式譲渡と銀行振込の手順
について一歩踏み込んだ記載があります。


他の大手事務所の先生方が、「なんでこういう本をウチから出さなかった(出せなかった)んだろう」と、悔しがる姿が目に浮かぶようです。
 

【本】企業買収の実務プロセス ― M&Aの司会進行役は誰だ

 
一昨日、デューデリジェンスに関する本を紹介したところ、思いのほかリアクションがあり、「DDだけじゃなく、M&A全体を見渡せるいい本はどれ?」という質問をいただきました。

私からはこの本がおすすめ。

企業買収の実務プロセス企業買収の実務プロセス [単行本]
著者:木俣 貴光
出版:中央経済社
(2010-01)


M&Aの流れを時系列でまとめている概説書が何冊かある中でも、戦略・財務・法務・現場の目線がもっともバランスよく配分されているのが特徴。その特徴が顕著に現れているのが以下写真2ページ。誰が何をどこまで担当するか(すべきか)という役割分担を、社内部門/社外専門家にページを分けて分り易く表形式で整理してくれています。関わった経験が少ない人だと、はじめからおわりまで全部外部弁護士がリードしてくれるんでしょ?と勘違いしちゃったりしがちなところなので、これはわきまえておきたいところです。といいながらも現実は、この写真1枚目の社内の役割分担表にある「M&A担当部門」の役割=司会進行役は、そんな部門がある会社自体がかなり限られているという現実において、法務担当者が期待されたり背負わされたりするのが常。全部を一人で担う能力・経験がなくとも、社内の各部門や社外専門家に協力を仰いで案件をリードしていくために必要な常識・最低限の知識は抑えられていて、こういう本があると助けられます。

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ちなみに、この表の見出し(網掛け)部分が、そのままこの本の章立てに対応しています。網羅性の高さもおわかりいただけるかと。


概説書らしく、「フローチャート」「DDチェックリスト」の類も充実しています。それだけにとどまらず、法務面では、プレM&AフェーズにおけるNDAサンプル/実行フェーズにおける基本合意書・株式譲渡契約書サンプルもついています。著者は純粋法務ではなくFAサイドの方ということもあり、この辺りは期待できないものと思いきや、契約書サンプル中の5ページに渡る表明・保証条項などは、ヘタな法務パーソン向けのMA概説書についているものよりも緻密だったり。シンプルな株式譲渡案件であれば、このサンプルを参考にするだけでも十分かもしれません。

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強いてこの本の弱点を挙げるとすれば、買収スキームの選択について、スキームごとの法的なメリデメ整理・分析が足りないところでしょうか。その辺りに強い本は、また機会を改めて紹介させていただこうと思います。
 

【本】M&Aを成功に導く法務デューデリジェンスの実務 ― DDの基本と応用

 
デューデリがあまり問題とならないグループ会社の再編案件を除くと、一企業に所属する法務パーソンがピュアなM&A案件に携われる機会はそうそう多くないでしょう。しかも、億単位のお金が動くことにより自動的に取締役会案件になり、となるとデュープロセス的には経験豊富なきちんとした法律事務所を選び、高いフィーを払ってお任せてしまう・・・ということになりがち。結果、様々な企業の案件が4大と呼ばれるような大手事務所やM&Aを専門に手がける中堅事務所にのみ集中し、ノウハウも彼らだけに溜まるという循環ができるわけです。いつ案件が立ち上がるかわからないだけに、法務部員が気づいたら蚊帳の外ということにならないよう、こういうおいしい前向き案件でどんな貢献ができるか、日頃から考えて備えておきたいところです。

そんな中、法務パーソンにとって貴重な情報源となっているのが、4大の一つである長島・大野・常松法律事務所の持つDD(デューデリジェンス)の体系とノウハウを1冊にまとめて公開してくれているこちらの本。


M&Aを成功に導く法務デューデリジェンスの実務M&Aを成功に導く法務デューデリジェンスの実務 [単行本]
出版:中央経済社
(2009-01)


前半1/3でDDの目的・概要・流れを抑えた上で、後半の2/3で株式・知財・契約・訴訟・許認可といった個別の切り口ごとにDDにおけるポイントをまとめるという構成。中央経済社さんのこのシリーズに共通することですが、構成が体系的であるという点はこの手の専門書には重要なことだと思います。M&Aアドバイザーがその経験をもとにDDについて語る本は沢山あっても、「よく問題になるポイント」だけが取り上げられているケースが多いのが難点。それはそれでためになりますが、法務のように小さな見落とし・隠れた瑕疵が後に大きなリスクをはらむ可能性がある分野については、本書のようにまずは「取りこぼしが無い」という安心感のほうが重要です。

かと言って網羅性だけでなく、NOTの専門性の高さも十分に織り込まれています。個別の切り口ごとにDDの視点をレクチャーする後半において、検討すべきポイントを「基本」パートと「応用」パートに節を分けて書いている点は、
・「基本」パートだけをまず通読して概要を理解したいというニーズ
・分野によっては「応用」パートでさらに専門的な示唆を得たいというニーズ
の両方を満たすソリューションとなっており、見事の一言。契約DDの章を例を挙げれば、「基本」パートには各契約類型に共通する一般的なチェックリストとChange of Control条項への対処について、「応用」パートには代理店契約・請負契約・コンサルティング契約の3つを例に個別の契約類型ごとのチェックリストが掲載されている、といった具合。

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ところどころに挿入されるコラムも実戦的です。DDにおける情報開示においては個人情報保護法をまじめに解釈するとどうにも無理が生じる(プライバシーポリシーにおいてM&AのDDにおける個人情報開示可能性を明示→オプトアウトをしている事例はほとんどない)といったお話、知財についてそもそも特許権や商標権をチェックしたところで、無効審判請求件数の半数近くにおいて無効が成立している(特許で142/284、商標で83/193)以上、知財DDって限界があるよね、などといった赤裸々なつぶやきもあります。

使用頻度の低さに対する値段の高さと分厚さのせいで、「会社で買ってもらう本」にされがちな本書ですが、M&A案件に触れる機会が1年に1回あるかないかな人でも、バイヤーの目線を知ることで日頃の自社の法務リスクマネジメントのあり方を客観視することもできますし、自分で買って通読する価値が十分にある本だと思います。出版社でも品切れのようなので、そろそろ重刷、もしかしたら第三版がでるのでしょうか?
 
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