2006年02月22日
新しいつながり＠群馬講演会
先週の土曜日、群馬の前橋で講演をしてきた。
県の「こころの健康センター」内に新しく発足した『群馬県自殺防止対策会議（地域の自殺対策ネットワーク）』の招きを受けて、「ひとりの命、大切ないのち」という演題で話をしてきた。
主な内容としては、
◆現代の自殺の多くは「身勝手な死」などではなく、「追い詰められた末の死」であり「避けられる死」であるということ
◆自殺は社会的な問題であり、社会全体で対策を講じていかなければならないということ、またそうすれば多くの自殺を防ぐことができるということ
◆いま進み始めている「自殺総合対策」の舞台裏について（ターニングポイントとなった、昨年５月３０日の国会議員会館でのライフリンク主催「自殺対策シンポジウム」について。その他、詳しいことはここでは話せないです。苦笑）
◆地域で取り組むべき総合対策のあり方について。具体的には、�〜蠱盟觚�を自殺の要因別に増やしていくこと、�∩蠱盟觚�同士につながりを持たせていくこと、��そうやってセーフティーネットの網の目を大きくかつ細かくしていく必要があるということ
◆社会的な抑圧を受けて孤立している自死遺族への支援は緊急の課題であり、群馬でも自殺総合対策の第一歩としてすぐに始めてみてはどうかということ（ライフリンクとしても、そのための支援は惜しまないということ）など、
途中「資料ＶＴＲ」を上映しながら、およそ２時間に渡り話をしてきた。
関連記事： 上毛新聞、朝日新聞群馬版
会場には、若い人から中高年まで、およそ２３０名が集まってくれた。
みなさん、保健師や教師、医師や行政関係者、あるいはご遺族といった、自殺や自殺対策に直接的・間接的に関わっている方ばかりということで、実に熱心に話を聞いてくださった。
私が一方的に話をしてきたというよりは、みなさんの反応と「対話」をしながら、私たち自身に何ができるかを一緒に考えてきたという実感の方が、だから強い。
私はもともとテレビディレクターという裏方の仕事が専門なので、人前に出て話をすることは不慣れであり苦手でもある。
それでも今回のように、「対話している」ことを実感しながら壇上に立っていると、ほとんど緊張せずにすむし、自分なりに「思い」を伝える（というか、吐き出す）こともできるようになるのだから不思議だ。
「人を受け入れる・人から受け入れられる」というのは、こういうことを言うのかな。
招かれて話をしに行ったにもかかわらず、実は私自身が一番「与えられている」のかもと、そんなことさえ感じられる講演会であった。（会場にお越しいただいた方々にも、何らかを持ち帰っていただけていたらいいのだが。）
さらに、講演後の舞台裏（控え室）も、かなり盛り上がった。
地域の自殺対策を担っていく保健師や行政の人たちと、「これから具体的に何をどう進めていけばいいのか」というかなり突っ込んだ話をすることができ、そうした中で「ライフリンクとどう協働していけるか」という建設的な話し合いもできた。
つくづく「現場の人たち」には活気があるなーと頼もしく思うことができたし、それに国が自殺総合対策に向けて動き出したことによって地域でも確実に対策が進み始めていることを確認できた。（国レベルでやるべきことというのは、「現場の人たち」が少しでも仕事をしやすくなるよう、その環境を整えること。そうあらためて実感させられた。）
そうそう、それともうひとつ、なんともうれしい「つながり」ができた。
講演を聞きに来ていた２４歳と２３歳の男女２人組が、「一度は会場を出て帰ろうとした」ところをわざわざ戻って私に相談しに来てくれたのだ。
聞けば、「自分は周りの仲間たちから、こころの悩みや借金などに関する相談を受けることが多い。でも自分だけでは解決策を提示してあげられないこともあるし、自分自身だけで相談を受けていることへの不安もある」という。
外見はいかにも「今風」といった感じの男女だったけど、こんなテーマの講演会に足を運ぶくらいだから、なにか「思い」を持った子たちなのだろう。
私は控え室から呼び出されて会場の入口で彼らからこの話を聞いていたのだが、「これも何かの縁だろう」と、しばし躊躇する彼らを控え室に引っぱっていくことにした。
ライフリンク的「世代や立場の枠を越えた地域ネットワーク」の誕生（笑）である。
行政の担当者や精神保健福祉センターや保健所の方々も、最初は「今風の若者」の突然の訪問にちょっとびっくりした様子だったが、事情を説明するとすぐに打ち解けてしまった。
私が「彼らみたいに“人を支えている人”を孤立させるべきではない。彼らのような一般市民をこそネットワークに巻き込むべきで、“専門家”だけで専門分野の枠の中で閉じこもっていては発展がない。自分では“なにもできない”私や彼らたちのような“素人”がエンジン役になってネットワークを転がしていくようになれば、いろいろな人たちとのつながりが自然と生まれてくる。私たちは自分たち自身の限界を知っているからこそ、つながるという発想が出てくるわけで、“専門家”だけでやっていてもそうした発想は出てこないのだから」と持論をぶつけると、みなさんも納得してくれた。
その後は、互いの連絡先を交換したり、雑談したりで３０分程を共に過ごした。
（それにしても地域の保健師さんたちは、本当にパワフルで頭が下がる。この若者たちともすぐに打ち解けていたし。）
印象的だったのは、別れ際に呟いた若者のひと言。
「こうやってつながっていくんですね」。
「そうだよ、こうやってつながっていくんだよ。自分から前に一歩踏み出すことが大事なんだ。大人にだって話の分かる人はたくさんいる。同じ方向を向いて歩いている人同士であれば、簡単につながれるから」。
私がそう言うと、若者は大きくうなずいた。
『新しいつながりが、新しい解決力を生む。』（ライフリンクのモットー）
それぞれが勝手に築いてしまっている「自分の枠」を乗り超えて、とにかく一歩前に踏み出していくこと。そうすれば、そこに「新しいつながり」が生まれ、様々な可能性が芽生えてくる。
自殺は、私たちの社会全体に関わる問題である。
自殺対策の実践を通して、私たち自身の関係性のあり方、ひいては「いのちのあり方」を見つめ直していこう。そう、あらためて実感した群馬での一日だった。
2006年02月15日
「現場」を読み解く想像力
今日の読売新聞（ネット版）に、『通勤時の東京駅で人身事故、３万５千人に影響』という見出しで、こうした記事が掲載されていた。
「１５日午前８時５０分ごろ、東京都千代田区丸の内のＪＲ東京駅構内で、男性が京浜東北線大船発南浦和行き普通電車（１０両編成）にはねられた。
男性は右足首切断などの重傷。この事故で、同線は大船〜大宮間で上下計６本が運休、２６本が最大４４分遅れ、約３万５０００人に影響が出た。
警視庁丸の内署の調べでは、男性は５０歳前後。目撃者の話などから、男性はホームから線路に飛び降りたとみられ、同署では自殺を図った可能性が高いとみている。
（読売新聞） - 2月15日13時13分更新」
気になるのは、「通勤時の」とか「３万５千人に」とか「最大４４分遅れ」とかいう言葉。
確かに、淡々と事実を書いているだけだし、また電車が遅れて「影響」を受けた人にとっては「えらい迷惑な話」なのだろう。「なにもわざわざ通勤電車に飛び込まなくても」と思うのが、ごく普通の感覚なのだろう。
でもさ。３万５千人の人が仮にそれぞれ１時間ずつ遅れたのだとしてもさ、１人の「いのち」がこれで救われたのであれば、私はそっちの方に想像力を働かせたいと思うな。
「自殺は身勝手な死」と思われているかも知れないけど、実は多くの人たちは追い詰められた末に、生きていく術を失って「自殺」しているのであって、もしかしたらこの男性もそうだったかも知れないし、それに今回のことが切っ掛けとなって今度は生きる道を選んでいけるようになった可能性もあるわけだし。（「自殺」をすると、周りの人たちがコトの重大さに気付き、いろいろと動いてくれるということが多々あるので。）
まあ、かく言う私も、自死遺児の子たちと出会い、取材を通して自殺の実態を知るまでは「人身事故＝大迷惑」としか考えていなかったから、なにも偉そうなことを言える義理ではまったくないのだけれど。（そんな気もないし。）
自戒の念を込めて言えば、「現場」の背景に思いを馳せるのを止めたくはないということ。きっと自殺を図った男性には、そうせざるを得ない理由があったのだろうし、もしかしたらそれは日本社会の歪みに端を発していることなのかも知れないから。
年間３万人以上が自殺していく、「自殺」していかざるを得ないという、この現代日本社会に自分自身も生きている。そのことの意味をよく噛み締めて、物事をしっかりと見極めながら行動していかないといけないな。。。
そんなことを、今回の「記事」を読んでいて思ったもので、「これは」とブログ再開のいい切っ掛けにさせてもらいました。
これまで長きに渡り勝手に「休止」しておりましたが、これをもって「再開」します。相変わらずブログでは書けないこと（公にできないこと）が、この活動をしていると多々あるのですが、それでも少しずつ情報公開をしながら、日々思ったことを綴っていきたいと思います。
ということで、あらためまして今後ともよろしくお願いいたします。
追伸。そうそう、前々号のブログで取りあげさせていただいた「心理の専門家」の方とは、その後飲みにご一緒させていただきました。とても有意義なお話をさせていただいたので、その時のことはあらためてここでも報告するようにします。楽しみにしてて下さい。
「１５日午前８時５０分ごろ、東京都千代田区丸の内のＪＲ東京駅構内で、男性が京浜東北線大船発南浦和行き普通電車（１０両編成）にはねられた。
男性は右足首切断などの重傷。この事故で、同線は大船〜大宮間で上下計６本が運休、２６本が最大４４分遅れ、約３万５０００人に影響が出た。
警視庁丸の内署の調べでは、男性は５０歳前後。目撃者の話などから、男性はホームから線路に飛び降りたとみられ、同署では自殺を図った可能性が高いとみている。
（読売新聞） - 2月15日13時13分更新」
気になるのは、「通勤時の」とか「３万５千人に」とか「最大４４分遅れ」とかいう言葉。
確かに、淡々と事実を書いているだけだし、また電車が遅れて「影響」を受けた人にとっては「えらい迷惑な話」なのだろう。「なにもわざわざ通勤電車に飛び込まなくても」と思うのが、ごく普通の感覚なのだろう。
でもさ。３万５千人の人が仮にそれぞれ１時間ずつ遅れたのだとしてもさ、１人の「いのち」がこれで救われたのであれば、私はそっちの方に想像力を働かせたいと思うな。
「自殺は身勝手な死」と思われているかも知れないけど、実は多くの人たちは追い詰められた末に、生きていく術を失って「自殺」しているのであって、もしかしたらこの男性もそうだったかも知れないし、それに今回のことが切っ掛けとなって今度は生きる道を選んでいけるようになった可能性もあるわけだし。（「自殺」をすると、周りの人たちがコトの重大さに気付き、いろいろと動いてくれるということが多々あるので。）
まあ、かく言う私も、自死遺児の子たちと出会い、取材を通して自殺の実態を知るまでは「人身事故＝大迷惑」としか考えていなかったから、なにも偉そうなことを言える義理ではまったくないのだけれど。（そんな気もないし。）
自戒の念を込めて言えば、「現場」の背景に思いを馳せるのを止めたくはないということ。きっと自殺を図った男性には、そうせざるを得ない理由があったのだろうし、もしかしたらそれは日本社会の歪みに端を発していることなのかも知れないから。
年間３万人以上が自殺していく、「自殺」していかざるを得ないという、この現代日本社会に自分自身も生きている。そのことの意味をよく噛み締めて、物事をしっかりと見極めながら行動していかないといけないな。。。
そんなことを、今回の「記事」を読んでいて思ったもので、「これは」とブログ再開のいい切っ掛けにさせてもらいました。
これまで長きに渡り勝手に「休止」しておりましたが、これをもって「再開」します。相変わらずブログでは書けないこと（公にできないこと）が、この活動をしていると多々あるのですが、それでも少しずつ情報公開をしながら、日々思ったことを綴っていきたいと思います。
ということで、あらためまして今後ともよろしくお願いいたします。
追伸。そうそう、前々号のブログで取りあげさせていただいた「心理の専門家」の方とは、その後飲みにご一緒させていただきました。とても有意義なお話をさせていただいたので、その時のことはあらためてここでも報告するようにします。楽しみにしてて下さい。
2005年11月13日
なぜ「自殺総合対策」が必要なのか（長文）
一作日、ある著名な心理療法の専門家の方の講演を聞きに行った。
『自殺願望 身近な人をどう支えるか』という講演タイトルに惹かれるものがあったし、その講演者の方のお話しをぜひ一度聞いてみたいと前々から思っていたので、仕事の合間を縫って聞きに行ったのだ。
結論から言えば、私にはとても「違和感」の残る講演内容であった。
理由はふたつ。ひとつは「話の中身が講演タイトルとはかけ離れたものになっていた」ということ。もうひとつは話の趣旨が「自殺はうつ病対策をやっていれば防ぐことができる」といったニュアンスのものだったということである。
前者については、理解ができないわけではない。
実際の講演は『うつ病 人が死にたくなるメカニズム』とでも銘打つべき内容だったわけなのだが、何らかの理由があってそのように変更したのだろう。それに、講演のタイトルと内容とが違っていたというのは、講演者ではなく主催者の責任である。
しかし、問題は後者だ。
「自殺はうつ病対策をやっていれば防ぐことができる」というのは「うつ病対策万能論」とでも言うべきものであり、「自殺を防ぐためには社会全体での自殺総合対策が必要」だと考える私から見ると、著しくバランスを欠いたアンフェアな内容だと感じられた。
もちろん誰を対象とした講演であったのか。また「自殺を防ぐ」といった時に、それが「個人の自殺」を指しているのか、あるいは「社会問題としての自殺」を指しているのか。そうした違いによっても、議論の中身が変わってくる。
ただ、それにしても「社会的な対策の必要性」について一切触れていなかったり、また話の内容に論理的な問題点があったりと、反論の余地があった。
私としては前回のブログの“続き”という意味も込めて、講演者の方の論点を私なりに整理しながら、それに反論を加えていくというカタチで今回も表題のテーマで話をしてみたいと思う。
まず、講演の内容について、その中で自殺対策に関連した話の要旨を整理しよう。
▼自殺は、その「原因（社会環境的なもの）」を取り除けば防げるだろうと考えるのは、素人の発想。誤りである。
▼「死にたい」と思うのはうつ病の症状のひとつなので、うつ病を治療すれば社会的環境が変わらなくても、死にたいという思いは消えてなくなる。
▼自殺は社会環境のではなく、うつ病の問題。自殺はうつ病対策をやっていれば防ぐことができる。
また、そうした主張の裏付けとして、実際にあったというある自殺未遂をされた方の具体例が紹介された。
▼家庭を持ったある男性が、借金１０００万円を背負い、さらにそのことがきっかけとなって妻と離婚の危機に陥り、やがて自殺未遂をした。
▼この男性の自殺（未遂）の原因を、「借金と離婚の危機」と考えてしまうのは、素人である。実は、この男性はうつ病になっていて、自殺の原因はそのうつ病だったのである。（それが専門家の考えであり、正しい。）
▼その証拠に、この男性はうつ病の治療を受けた後、「死にたい」と思わなくなった。その時点ではまだ、借金１０００万円も離婚の危機も解決しておらず、つまり自殺する前と社会的環境が何ら変わっていなかったのに、である。（後にこの男性は、妻との離婚を前向きに受け入れられるようなり、自己破産の手続きも取って借金にカタをつけることができた。）
▼だから、社会環境を変えれば自殺がなくなるというのは大きな間違いである。うつ病を治療することが、自殺を防ぐことにつながるのである。
さて、私が「反論の余地」があると考えるのは、以下の三点についてだ。
まず一点目は単純なこと。この主張には「論理の飛躍」がある。つまりこの主張は論理的ではない。
「社会環境を変える」ということと「死にたいという気持ちがなくなる」ということの、論理上の関係について注目して欲しい。
講演者の方は、「社会環境を変えていないのに、死にたいという気持ちがなくなった」ということをして、「社会環境を変えても、死にたいという気持ちがなくなるわけではない」ということが実証されたかのように話したわけだが、これは論理的に誤りである。前者はあくまで、「社会的な環境を変えなくても、死にたいという気持ちがなくなることがある」ことを示しているだけであって、「社会的な環境を変えれば、死にたいという気持ちがなくなる」という可能性を否定するものではないのだ。
そして二点目は、「社会環境を変えても、死にたいという気持ちがなくなるわけではない」という命題は、現実的にも決して正しくはないということである。現実社会ではむしろ、「社会環境を変えることで、死にたいという気持ちがなくなる」といったケースが、それこそ無数に存在している。
例えば、多重債務者や中小企業経営者からの借金相談を受けている吉田猫次郎さん（ライフリンクの特別会員）のところには、借金を抱えてうつ状態になっている人たちが大勢すがりつくようにして相談にやってくるわけだが、「死にたい、死にたい」と言っている人たちでも借金の問題を解決できることを教えてあげると、また実際にそうして問題が解決されていくと、みんな元気になっていくという。（ホームページは圧巻！）
しかも、そうした例は半端な数に留まらない。多重債務整理を請け負う弁護士や、自殺防止活動を水際でやっている方々なども、まったく同じことを言っているのを私は知っている。
つまり、「社会的な環境を変えることで、死にたいという気持ちがなくなることもある」というのが現実なのだ。（だからといって、「社会的な環境を変えれば、死にたいという気持ちがなくなる」と主張しているわけではないが。）
そして三点目。議論が、“木を見て森を見ず”的になっているということである。
自殺を分析するときには、個人を社会とは切り離して「人の病気（うつ病）の問題」として自殺を捉えている（＝医療モデル）にも関わらず、その対策の話になると「個人への対応＝うつ病の治療」の有効性を社会レベルにも無防備に当てはめようとしているように思える。
個人に有効な対策は、社会に生きる個々人に対しては有効だろう。しかし、それだけで社会全体に対する十分な対策になっているかといえば、もちろんそうだと言い切ることはできない。
社会的な活動としての自殺対策を語るのであれば、まず社会システムや時代背景といった文脈の中で自殺を分析する必要がある。そしてその上でその分析結果（社会の実情）に合った対策を立てようとするのが常識的なやり方だ。（現に、フィンランドや秋田では、「ヘルスプロモーション」というそうしたやり方で自殺者の数を減らすことに成功している。両者の対策担当者が口を揃えて言うのは、「うつ病対策が決め手となったわけではない」ということだ。）
実際に９８年から急増した中高年男性の自殺などについては、明らかに社会環境の変化が起因しているのであって、それをうつ病対策だけやれば十分（防げる）と考える人などいるのだろうか。また１００歩譲って、そうした人たちの自殺もうつ病対策で防げる（防げた）のだとしても、そもそもうつ病になる前に打てる手があるのならば、それらを打つべきではないのだろうか。
自殺を社会的に分析していけば、連帯保証人制度や生命保険の問題といった社会システムに関する弊害や、労働環境や学校・職場でのいじめの問題、ＤＶや幼児虐待の問題など、それこそいろいろなものが見えてくる。逆にいえば、人が自殺（あるいはうつ病）へ追い込まれていく前に、そうやって人を追い込んでいる社会に対して打てる手・打つべき手はたくさんあるということなのだ。
講演者の方は、「原因を変えれば自殺を防げるというのは、素人の考え。誤りだ」と繰り返し発言していたが、私に言わせればそれは専門家になりすぎて「視野狭窄」に陥り、普通の感覚を失ってしまったということなのではないかと思う。
「病気になった人への対策だけで十分」と考えていると、「人を病気に追いやっている社会的な要因を温存させてしまう」ことにもなりかねない。“木を見て森を見ず”的な議論を止めて、少しでも生き心地の良い社会を作っていきながら自殺を防いでいくという発想で、社会全体で取り組む骨太の自殺総合対策を実施していくべきだと私は考えている。
◆なお、断っておきたいのだが、私はうつ病対策をやらなくてもいいなどと言うつもりはまったくない。むしろその逆で、うつ病対策も啓発活動などを含めもっとやるべきだと考えている。
しかし、うつ病対策は自殺対策の一部に過ぎないわけで、他の総合対策にもやはりもっとチカラを入れるべきだというのが私の主張である。（私がこのテーマにここまでこだわる理由については、前回のブログで書いたのでここでは省く。）
◆また、医療関係者は、もっと医療にできることの限界を知るべきだと思う。（もちろんそのことに気付いている方も少なくないが。）
「うつ病対策をやれば自殺は防げる」「自殺は医療の問題」といった誤った考えからは、他の分野の人たちと「つながろう」という発想は生まれない。
私たちが「つながり」の必要性を訴えるのは、それぞれが個々にやれることには限界があるという前提に立っているからだ。そして、ライフリンクのモットーの通り、「新しくつながることで、新しい解決力が生まれる」という確信があるからである。（「つながりあうこと」による問題解決への試みは、それ自体が社会作りになるという側面もある。）
◆ただ、振り返ってみれば、これまで社会が自殺について語ることをタブー視してきたから、実のところは自殺対策を精神医療の専門家に任せきりにしてきてしまったという側面もあるのだろう。社会的な視点で自殺や自殺対策について語る人（社会学者やマスメディア）があまりに少なかったということも、ここで確認しておく必要があるだろう。（もちろん自戒の意味も込めて。）
◆最後になるが、私だけの一方的な「受け止め」を事実としてしまうのは乱暴だと思ったので、あえて講演者の方の名前は伏せさせてもらった。（また表現が多少過激になってしまっていることについては、ご海容いただければ幸いです。）
ただ、ご本人にはこのブログをお読みいただき、反論があればコメントを書き込んでいただくようお願いしようと思っている。
また、このテーマについてご意見のある方は、ぜひ遠慮なくコメントを寄せて欲しい。私の議論の中にも乱暴な部分が多々あるだろうし、お互いに意見を交わしあう中で、自殺対策のあるべきカタチをブラッシュアップしていければ幸いである。
自殺を防ぎたいという思いさえ共有していれば、いつかどこかで必ずつながれる。
私はそう信じながら、いろいろな立場の方々と議論していきたいと思っています。（いつもながら生意気ですみません。）
2005年11月03日
「戦略研究」評価委員会に出席して（長文）
【初会合に委員として出席】
１１月１日、都内で「戦略研究」評価委員会なるものが開かれ、私も委員のひとりとして出席してきた。
【「戦略研究」とは】
この「戦略研究」とは、高止まりを続ける日本の自殺者数を減らすために、国が１０億円（５年間で）の予算を投入して「有効な自殺防止策」を研究・解明しようというものである。二つの大きなテーマがあって、「地域特性に応じた自殺予防地域介入研究」と「うつによる自殺未遂者の再発防止研究」、つまり「社会」を対象とした公衆衛生的な研究と「人」を対象とした精神医学的なそれとを行うことになっている。（それなのに、なぜか『自殺関連うつ対策戦略研究』という名称がつけられているので、これについては後ほど触れる。）前者は地域での自殺率を２０％減少させる自殺予防方法の開発を、後者は自殺未遂者の再発率を３０％引き下げる再発防止方法の開発を、それぞれ目標として明確に掲げている。
【評価委員の役割】
また評価委員会というのは、第三者機関的な立場に立って、まず「戦略研究」に応募してきた研究提案のふるい分け（足切り）を行い、さらに実際に研究が走り出したあとで、それらの内容や成果について適宜評価を行うという役割を担った組織である。（研究提案の最終的な決定権は、研究の実施母体である財団法人「精神・神経科学振興財団」と、他の機関によって選ばれた研究者である「戦略リーダー」とにある。したがって、評価委員会は研究提案を決めるわけでもなく、研究提案を決める「戦略リーダー」を選ぶわけでもないから、メインの仕事は「選ばれた研究を適宜評価する」ということになろう。事前に受けた説明では、「研究提案を決める」のも役割のひとつだと聞いていたが、実質的にはそれは違っていた。）
委員は全部で１４人（厚労省からの行政委員５人を含む）。大学教授や医師会の理事、医大の学長や病院の院長といったそうそうたる医療の専門家たちに混じって、民間の活動団体からはただひとり、私が選ばれている。これは、「社会的な視点」を委員会に持たせることを期待されてのことなのだろうから、私としては身の引き締まる思いがしているところだ。
【「ふるい分け」作業】
この日は初会合ということで自己紹介などをしたあと、早速「研究提案のふるい分け」を行うこととなった。ただ、前もって評価委員には、応募のあった研究申請書がすべて渡されてあって、さらに各自でそれらの評価をすでに行ってしまっていて、その評価結果をまとめてもあったから、まあ「ふるい分けをする」といっても大した時間は掛からなかった。（５０あったものを４０に絞り込んだ程度だったし。）
研究提案の細かい中身については、評価委員としての守秘義務があるので、ここで詳らかにすることはできない。ただ雑駁な表現になるが、「これはぜひすぐにやるべきだ」と思わず唸りたくなるものから「これって何をやりたいの？」と首を傾げたくなるものまで、その中身はピンキリであった。私としては、国のお金を１０億円も掛けて行う研究なわけだから、もっと意欲と創意工夫に溢れた研究提案が来るものだと期待していたのだが、全体的には「日本の研究者のレベルってこんなものなのかなー」といった印象を残念ながら受けるくらいのものだった。（私はディレクターとして、数多のＮＨＫ番組提案を目にしてきたが、全体の質から言えば、よっぽどそっちの方が優れてる。番組と研究という、その違いを考慮したにしても、だ。だって、研究提案の中には、読んでいるだけで腹が立つほど、熱意がまったく感じられないものすらあったし。←要は、「研究費がもらえればもうけもの」くらいの気持ちで申請してきたのだろう。まったく。。。）
まあそうは言っても、非常に優れた研究提案ももちろんあったわけで、これから財団と戦略リーダーとがあらためて検討を重ね、そうしたものをしっかりと選択してくれるものと私は信じている。（もちろん「信じている」だけでなく、後述する通り「事後説明」をも求めることにしたが。）
【「戦略研究」の名称についての議論】
「ふるい分け」が一段落したところで始まったのが、質問タイム。
そこで委員のひとりが『自殺関連うつ対策戦略研究』という名称と、二つの研究テーマの中身とのあいだにギャップが生じているのではないかという問題提起を行った。「うつと自殺と、どちらに研究の比重が置かれているのかが不明確すぎる」という指摘であった。
その方（精神医学の専門家）は「うつ対策により絞り込んで研究を行うべきだ」という視点からのそうした発言であったが、これに対して評価委員長から「どちらかというと、うつよりも自殺対策に重点を置いた研究である」ことが、また厚労省の方などから「うつ対策から自殺対策に重点がシフト」していったその経緯に関する説明が行われた。
なるほど研究の中身はうつ対策に縛られたものではないわけだから、要するに名称が中身に合っていないわけである。私は先の発言をした委員とはまったく逆の視点から、つまり「うつ対策に限定せず、有効な自殺対策を検証するための研究にすべきだ」という研究の実態を肯定する立場から、以下のような発言をした。
▼『自殺関連うつ対策戦略研究』を日本語として簡略化すると「うつ研究」になろう。
▼しかし、研究の二大テーマを「うつ研究」として括ることが適切でないことは明らかだ。（未遂者の再発防止に関する研究は「うつ研究」が柱になったとしても、自殺が起きない地域社会作りに関する研究がそう限定されるべきではないし。）
▼このままの名称だと、「自殺対策はうつ対策がすべて」という誤解をも与えかねないという懸念が残る。
▼この研究は国民の税金で行われ、その成果は最終的に国民に還元されるべきものなわけだから、誤解を生むような名称は避けて『自殺対策戦略研究』とあらためるべきである。（つまり研究の中身を反映させた名称に正すべきだということ。）
【なぜ「うつ研究」ではいけないのか】
私はそうしたことを繰り返し強調し、しつこいくらいに名称問題にこだわったわけなのだが、それはこれが「自殺を個人の問題と捉えるのか」あるいは「社会（地域）全体の問題と捉えるのか」といった、テーマ設定の本質に関わることだと考えているからであった。
ＷＨＯの『自殺予防戦略』においても、厚労相の諮問機関がまとめた『自殺予防に向けての提言』においても、あるいは参議院厚労委の『自殺に関する総合対策の緊急かつ効果的な推進を求める決議』においても、もはや「自殺を防ぐためには、多角的な観点からの対策が必要で、うつ対策だけでは不十分である」ということが明確に謳われている。（自殺率を３０％下げることに成功したフィンランドでも、やはり「ヘルスプロモーション」という地域社会を対象とした対策の実践が功を奏したということもある。）「自殺が社会的な問題であること」は、いまや常識といってもいいだろう。
それなのに、なぜか日本の研究では、これまでずっと「自殺はうつ病の問題である」とされてきた。（そう主張しているのは、多くが精神科医の方々なわけだが。）そしてそのことが、「自殺はうつ病の、すなわち個人的な問題である」という誤解を社会に植え付けてもきた。社会全体での自殺対策が、私たちのような民間団体が粘り強く要望し、厚労大臣に直談判するまで行われてこなかったのは、まさにそうした背景があったからだ。
「もしも話」をしても仕方がないが、しかし「自殺はうつ病だけの問題ではなく、つまり個人だけの問題ではなく、社会全体に関わる問題である」ことをもっと早くに認めることができていたならば、もしかしたら自殺はここまで深刻な社会問題にはなっていなかったかも知れない。精神医学にできることの限界をもっと周知していれば、こうした研究だってもっと早くに実施され、自殺で亡くなる人を少しでも減らすことができてきたかも知れない。人のいのちに関わるほど、つまりこの「問題の捉え方」というのは重要なテーマなわけである。
【誰のための研究か】
研究者が身銭を切って自らのために研究を行うというのであれば、私がとやかく言うべきではないだろう。しかし、今回の「戦略研究」は、私たちの税金を使って日本社会全体のために行う（行ってもらう）もの。一日９０人の人たちが自殺で亡くなっているという、この異常事態に歯止めを掛けるためのものなわけである。だから、もちろん研究内容についても、あるいはその名称についても、なにひとつ妥協などすることなく、「日本の自殺を防ぐ」という目的に沿って最善の判断がなされていくべきなのだ。
私とて、研究テーマの柱のひとつを「自殺未遂者の再発防止（うつ対策関連）」にすることに異論はない。しかし、それだけでは不十分だといことで「地域社会を対象とした自殺対策」ももうひとつの柱として据えているわけだから、それらを括る名称としては『自殺関連うつ対策戦略研究』というのはやはり不適切。どう考えても、『自殺対策戦略研究』へと変更すべきなのである。（二つのテーマはキッチリと設定しているわけだから、「自殺対策」としたところで範囲が広がりすぎるという心配もないわけだし。）
研究の補助金を出している厚労省や、研究の実施団体である財団法人「精神・神経科学振興財団」が、私の要望をどう判断するのかは分からない。
しかし、研究が一体誰のために行われるものなのか。そして何のために行われるものなのか。その原点に立ち返って考えれば、答は自ずと出てくることになるだろうと思う。もし仮に行政書類上の理由とか、そういった「くだらない理由」で名称が修正されないのだとしたら、それこそ研究全体の意図が疑われることになるだろう。
私は、第三者機関的な組織である評価委員会のメンバーに選ばれたというその職責を果たすため、この件に関して「誰がどういった判断をするのか」、しっかり注視していこうと思う。そして、もちろんここ（ブログ）でも、あるいは他のあらゆる場面においても、そのことについての報告をしていくつもりだ。
最後にもう一度だけ繰り返そう。「自殺はうつ病対策だけで防ぐことはできない。」そのことを認めた上でなければ、今後も有効な対策研究は望めない。『自殺関連うつ対策戦略研究』をあらため、『自殺対策戦略研究』とすべきなのである。
【もうひとつの要望】
この「名称問題」ともうひとつ、研究提案の決定プロセスについて報告をしてもらうようにとの要望も出した。
繰り返すようだが、研究提案の最終的な裁量権は戦略リーダーにある。しかも、そのリーダーはまったく別の機関に選ばれている（選んでいる人たちが誰なのかも私には分からない。）。
しがっって、評価委員会としては、私たちが「ふるい分け」を行ったあと、リーダーがどのような基準に従って最終的な判断を行ったのか、その報告を受けるべきだと考えたわけである。（そうでないと、評価委員会がただの「お飾り」になってしまう危険性もあるし。）
なお、この要望については、財団側の速やかな判断があって了承されることになった。ということで、そこにおけるチェック機能は果たせることになるはずである。
【第一回目の会合を終えて】
いやー、なんか勢いに任せてザッーと書いてきてしまったが、まあ要するにかなりくどいくらいにモノを申してきたということです。（私を評価委員に選んでくださったわけだから、そうすることを期待されていたのだとも思うし。）
そうそう、それと他の委員の方たちとも挨拶をしたり、名刺交換をしたりしたのだが、中にはライフリンクのことをまったくご存知ないという方も数名いらして、実はちょっと驚いた。一般の方が知らないというのなら十分に理解できるが、自殺対策に関わっている方でライフリンクを知らないという人に会ったのは、ここ最近でははじめてのことだったから。（もちろんご存知の方のほうが割合的には多かったけど。）
「世界自殺予防デー」にＷＨＯの後援を受けて緊急フォーラムを開いたり、政府が自殺対策に取り組むきっかけとなった『自殺総合対策の実現に向けて』という提言を尾辻大臣に直接訴えたり、その都度テレビや新聞などで取りあげられてきたはずなのに。まだまだライフリンクが実績不足だからなのか、それともその方が実社会の現場で着々と進もうとしている最近の自殺対策の現状についてあまり関心がないだけなのか。その辺りのことはよく分からないが、そういえば先の「うつ対策重視」を訴えた精神医学の専門家の方もライフリンクのことはご存知ではなかったな。
【最後に】
今年から始まったこの『戦略研究』は、その成果が根拠となって政府の自殺対策を大きく推進していくことを期待されているものである。１０億円の税金を使って行われるといっても、それは５年間の合計金額なわけだから、実は額として決して大きなものではない。
それでも、「少しでも自殺を減らしたい」という熱意ある研究者の方たちの努力と工夫とで、きっと社会全体にとって役立つデータを集めてくださるだろう。
私は国民のひとりとして、この研究に注目し期待し、そして評価委員会のメンバーのひとりとして、この研究を監視し続けていこうと思う。次回の会合は早ければ３月とのことだから、またいろいろな動きが出てきたときにここでも報告したい。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。書いている私も、ちょっと疲れました（苦笑）。
2005年10月29日
東京観光。（再掲載）
（このブログは、今年３月９日に掲載したものです。）
先週末、久し振りの休みをとって、都内観光をした。
札幌から招待していたI君に、「社会はでっかいのだ」ということを感じさせてあげたくて、一日かけて東京の街を歩き回った。
I君は20歳。現在は札幌でトラックの運転手をしている。街中に積もった雪を郊外へと運ぶ仕事なのだが、吹雪の日などは一日20時間働くことも珍しくないのだという。
「そんなの労働基準法違反だ。会社の名前を教えてよ。俺が連絡してあげるから。」と、その事実を聞いていきり立つ私に、「この仕事は姉ちゃんの旦那さんに紹介してもらったんだ。恩を仇で返すようなことはしたくないよ。」と真顔で答えるＩ君。今どき珍しいくらい、人情味があって誠実な若者なのである。
私とＩ君との出会いは、５年前に遡る。
遺児を支援している「あしなが育英会」主催の夏の合宿に、私が体験取材に訪れたときのこと。私が参加させてもらったグループの中に、Ｉ君はいた。
そして、子どもたちがそれぞれの体験を分かち合う時間になったとき、私は彼がお父さんを自殺で亡くしていることを知った。全身を震わせながら自らの辛い胸の内を語ってくれた15歳の彼の姿を、いまも私は決して忘れてはいない。
その後、彼を取材することはなかったが、その時に触れた彼のまっすぐさに惚れてしまい、個人的なつき合いをずっと続けさせてもらってきた。
今回は、どうしてもＩ君と直接話をしたいことがあって、無理矢理３連休を取ってもらい、東京に招いたというわけであった。
都内観光は、とても楽しかった。
新宿を見て回ったり、Ｉ君のリクエストに応えて浅草寺を訪ねたり、そして何より印象的だったのが東京タワーに登ったときのことだった。
これまで何度か登ったことはあったが、今回初めて地上250メートルに位置するという特別展望台にまで登ってみた。
「あれが皇居で、あれが六本木ヒルズ、あれがNHKで、、、」なんて案内しているとき、フッと思い出した言葉があった。映画「樹の海」試写会（3.4日記を参照）の舞台あいさつで、俳優の塩見三省さんがポツリポツリと呟くように話していた言葉だ。
「私は樹海と東京とで撮影があったのですが、東京もまた樹海なんだと思いながら演技をしました。」
東京タワーの展望台から見下ろす街並みは、まさに樹海のようだった。
いったいどれ程の人が、この東京という樹海で、「出口」を見つけられずに彷徨っているのだろう。いったいどれ程の人が、もがきながら「出口」を探し続けているのだろう。いや、そもそも、「出口」なんて本当にあるのだろうか−。
そんなことを思いながら窓の外を眺めていたら、ガラス窓に反射するＩ君の姿が目に入った。
彼には「出口」を指し示してあげないといけないよな。真剣な眼差しで街並みを眺めるＩ君を見てそう思った。
過去の古い傷にずっと縛られたままの人生から解き放たれて生きていって欲しい。親が自殺したという過去を変えることはできないが、そうした過去を持つ人だからこそ生きられる人生だってきっとあるはずだ。自分で人生を切り開いていくたくましさを、身に付けていってもらいたい。そうした願いが、またジワッとこみ上げてきた。
その晩、５年前に誓い合った通り、居酒屋でお酒を一緒に飲んだ。
そして東京に招いてまでしたかった「話」を切り出した。Ｉ君の可能性を伸ばすために、ぜひ進学をしてもらいたいと。
生活費や学費のことは、奨学金などでなんとか工面できることが分かったから、目の前の生活に忙殺されていないで、しっかりと将来を見つめて歩んでもらいたいと。
Ｉ君は些かびっくりした様子だったが、実は前から進学したいと思っていたと打ち明けてくれた。ただ、お金の問題があるから諦めていたのだとも。
そして翌日、奨学金などの資料をしっかりと抱えて、Ｉ君は東京を離れた。帰り際にひと言、「行ってきます。（進学するために）絶対に戻ってきます。」と力強い言葉を遺して。
まだ樹海の「出口」までは程遠いのかも知れない。それでも出口に向かって少しずつ歩き始めていることは確かだろう。
進学することが重要なんじゃない。でも自分の人生を自分の選択によって切り開いていこうとする姿勢になれたことは大きい。
「おう、行ってらっしゃい」とＩ君に返事をしながら、私もまた樹海の中に身を投じる覚悟を決めた。
きっと樹海の「出口」は、樹海にではなく自分自身の中にあるのだ。だから何も恐れることはない。前へ進もう。そう自分に言い聞かせながら。
先週末、久し振りの休みをとって、都内観光をした。
札幌から招待していたI君に、「社会はでっかいのだ」ということを感じさせてあげたくて、一日かけて東京の街を歩き回った。
I君は20歳。現在は札幌でトラックの運転手をしている。街中に積もった雪を郊外へと運ぶ仕事なのだが、吹雪の日などは一日20時間働くことも珍しくないのだという。
「そんなの労働基準法違反だ。会社の名前を教えてよ。俺が連絡してあげるから。」と、その事実を聞いていきり立つ私に、「この仕事は姉ちゃんの旦那さんに紹介してもらったんだ。恩を仇で返すようなことはしたくないよ。」と真顔で答えるＩ君。今どき珍しいくらい、人情味があって誠実な若者なのである。
私とＩ君との出会いは、５年前に遡る。
遺児を支援している「あしなが育英会」主催の夏の合宿に、私が体験取材に訪れたときのこと。私が参加させてもらったグループの中に、Ｉ君はいた。
そして、子どもたちがそれぞれの体験を分かち合う時間になったとき、私は彼がお父さんを自殺で亡くしていることを知った。全身を震わせながら自らの辛い胸の内を語ってくれた15歳の彼の姿を、いまも私は決して忘れてはいない。
その後、彼を取材することはなかったが、その時に触れた彼のまっすぐさに惚れてしまい、個人的なつき合いをずっと続けさせてもらってきた。
今回は、どうしてもＩ君と直接話をしたいことがあって、無理矢理３連休を取ってもらい、東京に招いたというわけであった。
都内観光は、とても楽しかった。
新宿を見て回ったり、Ｉ君のリクエストに応えて浅草寺を訪ねたり、そして何より印象的だったのが東京タワーに登ったときのことだった。
これまで何度か登ったことはあったが、今回初めて地上250メートルに位置するという特別展望台にまで登ってみた。
「あれが皇居で、あれが六本木ヒルズ、あれがNHKで、、、」なんて案内しているとき、フッと思い出した言葉があった。映画「樹の海」試写会（3.4日記を参照）の舞台あいさつで、俳優の塩見三省さんがポツリポツリと呟くように話していた言葉だ。
「私は樹海と東京とで撮影があったのですが、東京もまた樹海なんだと思いながら演技をしました。」
東京タワーの展望台から見下ろす街並みは、まさに樹海のようだった。
いったいどれ程の人が、この東京という樹海で、「出口」を見つけられずに彷徨っているのだろう。いったいどれ程の人が、もがきながら「出口」を探し続けているのだろう。いや、そもそも、「出口」なんて本当にあるのだろうか−。
そんなことを思いながら窓の外を眺めていたら、ガラス窓に反射するＩ君の姿が目に入った。
彼には「出口」を指し示してあげないといけないよな。真剣な眼差しで街並みを眺めるＩ君を見てそう思った。
過去の古い傷にずっと縛られたままの人生から解き放たれて生きていって欲しい。親が自殺したという過去を変えることはできないが、そうした過去を持つ人だからこそ生きられる人生だってきっとあるはずだ。自分で人生を切り開いていくたくましさを、身に付けていってもらいたい。そうした願いが、またジワッとこみ上げてきた。
その晩、５年前に誓い合った通り、居酒屋でお酒を一緒に飲んだ。
そして東京に招いてまでしたかった「話」を切り出した。Ｉ君の可能性を伸ばすために、ぜひ進学をしてもらいたいと。
生活費や学費のことは、奨学金などでなんとか工面できることが分かったから、目の前の生活に忙殺されていないで、しっかりと将来を見つめて歩んでもらいたいと。
Ｉ君は些かびっくりした様子だったが、実は前から進学したいと思っていたと打ち明けてくれた。ただ、お金の問題があるから諦めていたのだとも。
そして翌日、奨学金などの資料をしっかりと抱えて、Ｉ君は東京を離れた。帰り際にひと言、「行ってきます。（進学するために）絶対に戻ってきます。」と力強い言葉を遺して。
まだ樹海の「出口」までは程遠いのかも知れない。それでも出口に向かって少しずつ歩き始めていることは確かだろう。
進学することが重要なんじゃない。でも自分の人生を自分の選択によって切り開いていこうとする姿勢になれたことは大きい。
「おう、行ってらっしゃい」とＩ君に返事をしながら、私もまた樹海の中に身を投じる覚悟を決めた。
きっと樹海の「出口」は、樹海にではなく自分自身の中にあるのだ。だから何も恐れることはない。前へ進もう。そう自分に言い聞かせながら。
2005年10月09日
『自殺する前に読む本』という本
今月１日、『自殺する前に読む本』という本が、ライブドアパブリッシング（あのライブドアと幻冬舎ルネッサンスとが出資してできた出版社）から刊行された。１００個の「人生」や「言葉」を淡々と紹介しているだけの本なのだが、これがなかなか味わい深く読みごたえのあるものに仕上がっている。
例えば、
「どん底に落ちたら、掘れ」（解剖学者・養老孟司）
「さあ、俺も立ち上がるかな まあ、もう少し坐っていよう」（武者小路実篤『さあ俺も』より）
「濁った水を飲んでも、小便は透き通っていた。」（冒険家・中山嘉太郎）
などという言葉が数多紹介されていて、読んでいると不思議なことにスッーと気持ちが穏やかになっていく。人間の「たくましさ」や「いい加減さ」が言葉を通して伝わってきて、本を読み終えたときには「あるメッセージ」を自分が受け取っていることに気付かされる。
「私は私のままで生きてきた。あなたもあなたのままで生きていけばいい。」
そんな「１００通りの人生を生きた１００人からのメッセージ」の結晶が、なんとも言えぬ爽快な読後感を与えてくれるのである。
そして実は、この本の売り上げの一部がライフリンクに寄付されることになっていて、私が、そのお礼にというわけではないのだが、簡単な「応援文」を書かせてもらっている。
９月１０日に開催した「ＷＨＯ世界自殺予防デー」緊急フォーラムのことにも触れてくれているので、私としては本の宣伝を積極的にしなければならないわけである（笑）。
またライブドア（本体）が、ホームページ上で「自殺防止キャンペーン」を始めてくれている。
自殺対策の現場で活動する者としては「果たして彼らは本気なのだろうか」と疑ってみたくもなるわけだが、私は「本気か否か」はこの際どうでも良いと思っている。結果的に自殺対策が進み、自殺の減少につながっていけばそれでいいわけだから、もし仮に彼らに何らかの思惑があったのだとしても（私自身は彼らは本気なのだと信じているわけだが）、私には「そんなこと」どうだっていい。
自殺対策を進めていくために彼らとどう連携していけるのか。いまはその一点を、模索しているところである。
2005年09月23日
勝手ながら「パンク宣言」
「パンク宣言」と言っても、あの赤や黄色に染めた髪を逆立てて歌い踊る人（ヘビメタ）になる！と宣言しているわけではありません。
「９．１０フォーラム」の事後処理や関連の動きに追われ、また私自身の学校や体調のことなどもあって、殺到する問い合わせに対応しきれなくなっている、という意味です。
この場をお借りして、メールを下さった方々には、お返事できていないことをお詫びいたします。そう遠くないうちに必ずお返事差し上げますので、どうかご容赦いただければと思います。ごめんなさい。
以上、「パンク宣言」でした。
「９．１０フォーラム」の事後処理や関連の動きに追われ、また私自身の学校や体調のことなどもあって、殺到する問い合わせに対応しきれなくなっている、という意味です。
この場をお借りして、メールを下さった方々には、お返事できていないことをお詫びいたします。そう遠くないうちに必ずお返事差し上げますので、どうかご容赦いただければと思います。ごめんなさい。
以上、「パンク宣言」でした。
2005年09月16日
「９．１０フォーラム」の舞台裏��
大盛況に終わった「ＷＨＯ世界自殺予防デー」緊急フォーラム。しかし、当日を迎えるまでの準備の舞台裏では、実に様々な出来事があった。
時間との闘いに追われての徹夜続きの日々。参加者が思うように集まらずに募る焦り。翌日の総選挙に関心を集中させているマスコミへの必死の売り込み。運営資金を確保するために敢行した企業まわり。フォーラム当日の朝まで続いたプログラムなどの資料作りなど。
振り返ってみれば、たった一ヶ月しかない準備期間の中で、しかもたった３人という少人数で、よくもあそこまでやったもんだと思う。もちろん横断幕や名札やプログラムなどの「小道具」を担当してくれたメンバーや（信じられないかも知れないが、ああいったものはすべて手作り！もちろん写真の横断幕も）、受付や会場整理といった当日の運営をサポートしてくれたメンバーもいたわけだが、「責任者」としてフルタイムでフォーラムに関わったのは３人だけだったわけで、とにかくよくあれだけやったなと我ながら思うわけである。
ただ実は、充分な時間も人材もお金もない中で、これだけ大がかりなフォーラムを開催することについては、最初から不安がなかったわけではなかった。
むしろ、相当の負担を覚悟しなければならないことが明らかだったから、私自身は開催しようかどうか、一ヶ月前の段階ではかなり迷っていた。２月、５月と、やはり私がプロジェクト・リーダーとなってシンポジウムを開いてきたから、短期間で大がかりなイベントの準備をする大変さは身に染みて分かっている。ましてや今回は１００人以上の専門家（あらゆる分野で自殺対策に取り組んでいる人たち）を全国から集めて行おうという、かつてない規模のものを考えていたから、単に「やりたい」という気持ちだけで簡単に踏み出すことはできなかった。
しかし、今回新たにプロジェクト・メンバーとして加わったＭさんとＯさんが「ぜひ、やろう」「やらないなんてことはあり得ない」と後押ししてくれたので（二人はまだこの段階では、その後どれだけ大変な思いをすることになるか知るよしもなかったわけだが）、その勢いを信頼して最終的には「やる」と決めたのだった。
「参院厚労委の決議など、せっかく自殺対策への社会的機運が高まってきているにもかかわらず、ＷＨＯが定める世界自殺予防デーに日本で誰も何もやらなくていいのか」という疑問がずーっと頭の中にあったから、かなり無理することになると分かっていても、結局は「やる」という選択（苦渋の）をせざるを得なかったわけだが。
（しかし、人も資金も時間も、ついでに事務所もないライフリンクのような小さなＮＰＯが、身を削る覚悟で企画しなければ、ＷＨＯが定める「世界自殺予防デー」に日本では関連イベントのひとつも開催できないというのだから、それだけを見たって「自殺の問題における解決力」が日本では相当に低いことが分かる。自殺対策の必要性を社会に認識してもらうことが極めて重要だということは、それなりの立場で自殺対策に取り組んでいる人なら誰だって分かっているだろうに。。。※「９．１０フォーラム」に関する報道：朝日、日経、共同通信（地方紙）、ＮＨＫなど。総選挙の日にここまで広く紹介されたのは、決して「運が良かったから」ではないことを付言しておきたい。）
ところで、私はＮＨＫで番組作りをしていたときから、仕事をするときにはまず「やるべきこと」をリストアップしてビジュアル化することから始める。
縦１５０センチ、横９０センチ程度のプラスチックボードに、ポストイット一枚につき「やるべきこと」をひとつずつ書いて貼っていくのである。縦軸には、大きな項目としての「やるべきこと」を貼り、それらの横にそれぞれの具体的な作業内容をやはり一枚にひとつずつ書いて貼っていく。
すると、
「ＷＨＯ後援の交渉」 ▼申請書（英文）作り ▼電話して確認、、、
「参加者集め」 ▼行政 ▼自殺予防・民間 ▼遺族支援・民間、、
「報道取材依頼」 ▼報道依頼の作成 ▼記者への個別売込み、、
「小道具作成」 ▼横断幕 ▼名札 ▼プログラム、、、、、
「当日の配付資料作り」 ▼プログラム ▼参加者プロフィール、、、、
「資金集め」 ▼民間助成金の申請 ▼企業回り、、、、、
「○○○」
「◇◇◇」
というように、当日を無事に迎えるまでに必要な作業がボードいっぱいに貼り出されて、仕事量が目で確認できるようになる。まだやっていないものは「赤の紙」に書いてはっていく。そして片付けたものから、今度は「青の紙」に書いて貼り直していく。
すると「あと何をしなければならないんだっけ？」などという不要な不安に駆られることがなくなる。準備の進捗状況も、青紙と赤紙との割合を見て、一発で実感することができるようになる。（そうした分類の仕方を応用して、５枚くらいのボードを使って仕事をビジュアル化し、効率よく準備ができるように努めた。）
それにしても、どれひとつとってもスムーズにいったものはなかった。
例えば参加者集め。まず私たちが声を掛けたのは、全国の都道府県庁の保健福祉担当者とやはり全都道府県にある精神保健福祉センターだった。８月に発行したライフリンクの会報とフォーラムの案内状をそうしたすべての人たちに宛ててまず送り、その上で全員に電話もして反応を探った。
かなり骨の折れる作業ではあったが、そうした中で分かってきたこともあった。それは、それぞれの担当者によってハッキリとした「温度差」があるということ。「自殺対策のフォーラム？うちでは特にそういったことはやってないんで」という人もいれば、「ぜひ参加させてください。勉強させてください。」という人もいる。実際に、自殺対策をやっている自治体とやっていない自治体とでは、明らかな意識の差があるわけだが、住民の意識をそのまま反映しているのだろう、少なくない自治体が「なんでうちでそんなことしなければいけないのか？」というような反応であった。
（「国民の生命の安全を守る」というのが政府の一義的な義務であるにもかかわらず、そのひとつのカタチである自殺対策が自治体の任意で行われている／行われていないというのは、あとでも述べるが極めて重大な問題であるわけだが。）
と、つらつらと書いていたらだいぶ長くなってきてしまったので、「９．１０フォーラム」については何回かに分けて書くことにしたい。とりいそぎ、今回はここまで。
2005年09月08日
あと二日。
ライフリンクがＷＨＯの後援を受けて主催するイベント、「ＷＨＯ世界自殺予防デー」緊急フォーラム『自殺対策のグランドデザインを考える』が、開催まであと二日と迫っている。
ＷＨＯが「世界自殺予防デー」と定める９月１０日。日本ではじめて、自殺対策の現場で活動している人たちが全国から集結し、日本の自殺対策のグランドデザイン（全体構想）について議論するのである。
参加者は、国や自治体の自殺対策担当者、それに民間のボランティア団体や研究者など、合わせて１００名以上（会場の収容人数の関係で、１１０名がマックス）。
『新しいつながりが、新しい解決力を生む。』というライフリンクのモットーの通り、このフォーラムで様々な「つながり」が生まれ、そして多様な「解決力」が育っていってくれればと願うばかりである。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
ちなみにいまは、８日の午前２時過ぎ。
「フォーラムが終わるまで」という条件で間借りさせてもらっているライフリンクの仮事務所で、私はもうひとりの専従スタッフであるＭさんと机を並べ、いまも準備作業を続けています。「自殺対策のグランドデザインを考える」フォーラムの、それ自体のグランドデザインを考えながら、七転八倒しているところです（苦笑）。
それはともかく、泣いても笑ってもあと二日。
いろいろな人たちの思いが詰まって実現することになるこのフォーラムに向けて、私は私のできることを精一杯やろうと思っています。
さっきＭさんが入れてくれた「気分が前向きになるハーブティー」を飲み、さらに前向きになっている清水より
ＷＨＯが「世界自殺予防デー」と定める９月１０日。日本ではじめて、自殺対策の現場で活動している人たちが全国から集結し、日本の自殺対策のグランドデザイン（全体構想）について議論するのである。
参加者は、国や自治体の自殺対策担当者、それに民間のボランティア団体や研究者など、合わせて１００名以上（会場の収容人数の関係で、１１０名がマックス）。
『新しいつながりが、新しい解決力を生む。』というライフリンクのモットーの通り、このフォーラムで様々な「つながり」が生まれ、そして多様な「解決力」が育っていってくれればと願うばかりである。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
ちなみにいまは、８日の午前２時過ぎ。
「フォーラムが終わるまで」という条件で間借りさせてもらっているライフリンクの仮事務所で、私はもうひとりの専従スタッフであるＭさんと机を並べ、いまも準備作業を続けています。「自殺対策のグランドデザインを考える」フォーラムの、それ自体のグランドデザインを考えながら、七転八倒しているところです（苦笑）。
それはともかく、泣いても笑ってもあと二日。
いろいろな人たちの思いが詰まって実現することになるこのフォーラムに向けて、私は私のできることを精一杯やろうと思っています。
さっきＭさんが入れてくれた「気分が前向きになるハーブティー」を飲み、さらに前向きになっている清水より
2005年07月25日
これまでの総括。
７月１９日。参議院厚生労働委員会において、国に「自殺総合対策」を求める画期的な決議が採択された。ライフリンクが発足以来目指してきた活動の柱のひとつ、「国に、自殺対策に取り組ませること」が、これで実現に向けて大きな一歩を踏み出したことになる。
そこで今日は、これまでのライフリンクの活動と決議が採択されるまでの歩みについて、私なりに総括したいと思う。
まず、『この決議の意義』についてだが、私は大きく二つあると考えている。
ひとつは実質的な意味での意義。つまり、自殺（の多く）は社会的な総合対策を講じれば防げると言われているわけだから、「国を挙げて対策に取り組むようになれば日本人の自殺は減っていくだろう」ということだ。特に、「追い込まれての自殺」とよく言われる部分の、過労自殺やリストラ自殺、借金自殺やいじめ自殺など、その原因が社会的なものである自殺については、社会の側に網を掛けることによってある程度防ぐことができるようになっていくはずである。
もうひとつは価値的な意味での意義だ。これまで自殺は「身勝手な死」と言われ個人の問題とされてきたわけだが、国が自殺対策に取り組むことになったことで、「自殺は社会問題である」と認められたことにもなるということだ。この発想の転換は、特に自死遺族が故人との関係性の物語を自身の中であらためて紡ぎ直すときに少なからず助けとなるだろうと思う。もちろん大切な人を亡くしたという事実は、物語をどう構築できるようになろうと決して変わらないわけであるが、少なくともこれまでのように自殺に対する社会の偏見による「理不尽な物語の押しつけ（例えば、あの人は逃げたんだとか）」はなくなっていくだろうと思われるからである。
次に、『この決議採択におけるライフリンクの関わり（貢献）』について。
冒頭で書いた通り、ライフリンク発足当初から、とにかく「国を挙げて自殺対策に取り組む体制を作る（＝国に、自殺対策に取り組ませる）」ということが、活動の大きな柱となっていたわけで、実際にこの決議採択におけるライフリンクの関わり（貢献）度は非常に大きなものがある。
決議の中身そのものへの貢献が、まず挙げられよう。これは、ライフリンクがまとめた『自殺総合対策の実現に向けて』という国への提言と、今回の決議内容とを見比べてもらえれば容易に分かることだ。決議の「５項目」というのは、私たちの提言の「５項目」そのものであり（唯一、「予算確保」というのは提言の中には盛り込んでいなかったが。）、仮にこの提言がなかったとしたら、決議内容ももっと別のものになっていたことは間違いない。
また自殺対策の現場で活動する人たちや自死遺族の人たちの声を取りまとめたという部分での、ライフリンクの貢献度も大きい。自殺というとタブー視されがちで、遺族はもちろん、対策に取り組んでいる人たちの活動も、それまではずっと内向的・閉鎖的になりがちだった。しかし、自殺対策を社会的な課題にしていくためには、「そうした人たちの“声”のとりまとめ」が絶対に欠かせないと最初から分かっていたから、ライフリンクは発足当初から「つなぎ役」として、「つながり作りによる“声”の取りまとめ」に尽力してきたのだ（いろいろな人たちの壁を乗り越えて「つながり」を作っていくのは、本当に大変だった。）。２月には「自死遺族会のつながり」をテーマとしたシンポジウムを開き、自ら地道な「自死遺族同士のつながり作り」に日夜奔走してきた。５月のシンポジウムでは、自殺対策の現場で活動する人たちの“声”を集約させるべく、そうした人たちとのつながり作りを精力的に行った。そうやって、これまで誰にもできなかった「自殺の問題に関心を持つ人たちの声」をまとめ上げることに成功したのだった。
さらに言えば、マスコミとの信頼関係を築いていく中で、そうした“声”を社会に届けたこともライフリンクの貢献である。マスコミ関係者の中には不誠実な人もいたりして、途中で裏切られたりしたこともあったが、それでもひとりまたひとりと信頼できる報道人との関係を築き、“声”を全国に届けてもらった。自殺対策の現場で活動する人たちの間には「マスコミ不信」が蔓延していたが、ライフリンクは“声”を社会に届けることの重要性を鑑みて、マスコミ関係者との関係を積極的に築いてきたのである。（そのことによって「新たなつながり」も生まれ、自殺対策の現場に活気も生まれた。）
そしてもちろん、『自殺総合対策の実現に向けて』という私たちの提言を、国の政策に反映させるために国会議員との連携も模索した。これも、これまで自殺対策の現場では発想すらされなかったことだったろうと思う。ライフリンクも、もとから国会議員とのつながりがあったわけではなく、たまたま私が民主党の「自殺予防対策ワーキングチーム」に関するベタ記事を見つけて、それでこちらからダメもとでアプローチしたのだった。５月の参議院議員会館でのシンポジウム（ライフリンク主催）も、つまりは私が民主党の山本孝史参議院議員に「つながり」を呼びかけたことがきっかけで実現したものだったわけで、詳細は後述するが、山本議員のような誠実で献身的な国会議員と信頼関係を築けたことは、ライフリンクの目指すものを国の政策に反映させる上で非常に大きかったし、ライフリンクの貢献と言っても過言ではないと思う。
最後になるが、『決議採択における自死遺児の子たちの貢献』についても触れたい。
ライフリンクは、会のホームページの中でも記してある通り、自死遺児の子たちの意志を引き継いで自殺対策の取り組みを始めた。彼らが、自殺に対する偏見に怯えながらも、自らの胸の内を語ることで「自殺についてもっと真剣に考えて欲しい」と社会に呼びかけた、その勇気に心動かされた大人たちが先頭に立って、この活動をずっと進めてきた（進めている）のである。
つまり、自死遺児の子たちの、身を削る思いで行った「社会への呼び掛け」がもしなかったならば、そもそもライフリンクは存在していなかったし、今回の決議だってなかったはずなのだ。
彼らの行動から現在に至るまで４年近くの歳月を要してしまったが、いまは胸を張って、だから彼らに報告したい。
「私たち大人は、君たちの声をしっかりと受け止めたよ。そしてちゃんと行動し、君たちの声を社会政策に反映させることに決めたよ、ちょっと手間取ってしまったけど。
でもさ、この社会も捨てたもんじゃないでしょ。人間って、そんなに捨てたもんじゃないんだぜ。
私たちは、君たちひとりひとりが、それぞれの道を歩んでくれることを願っています。今回の『決議』は、私たちから君たちに送るエール。そう思ってくれたらとてもうれしいです。」
※なお、次回は「決議に至るまでのプロセス」について、より具体的に書いてみようと思います。
そこで今日は、これまでのライフリンクの活動と決議が採択されるまでの歩みについて、私なりに総括したいと思う。
まず、『この決議の意義』についてだが、私は大きく二つあると考えている。
ひとつは実質的な意味での意義。つまり、自殺（の多く）は社会的な総合対策を講じれば防げると言われているわけだから、「国を挙げて対策に取り組むようになれば日本人の自殺は減っていくだろう」ということだ。特に、「追い込まれての自殺」とよく言われる部分の、過労自殺やリストラ自殺、借金自殺やいじめ自殺など、その原因が社会的なものである自殺については、社会の側に網を掛けることによってある程度防ぐことができるようになっていくはずである。
もうひとつは価値的な意味での意義だ。これまで自殺は「身勝手な死」と言われ個人の問題とされてきたわけだが、国が自殺対策に取り組むことになったことで、「自殺は社会問題である」と認められたことにもなるということだ。この発想の転換は、特に自死遺族が故人との関係性の物語を自身の中であらためて紡ぎ直すときに少なからず助けとなるだろうと思う。もちろん大切な人を亡くしたという事実は、物語をどう構築できるようになろうと決して変わらないわけであるが、少なくともこれまでのように自殺に対する社会の偏見による「理不尽な物語の押しつけ（例えば、あの人は逃げたんだとか）」はなくなっていくだろうと思われるからである。
次に、『この決議採択におけるライフリンクの関わり（貢献）』について。
冒頭で書いた通り、ライフリンク発足当初から、とにかく「国を挙げて自殺対策に取り組む体制を作る（＝国に、自殺対策に取り組ませる）」ということが、活動の大きな柱となっていたわけで、実際にこの決議採択におけるライフリンクの関わり（貢献）度は非常に大きなものがある。
決議の中身そのものへの貢献が、まず挙げられよう。これは、ライフリンクがまとめた『自殺総合対策の実現に向けて』という国への提言と、今回の決議内容とを見比べてもらえれば容易に分かることだ。決議の「５項目」というのは、私たちの提言の「５項目」そのものであり（唯一、「予算確保」というのは提言の中には盛り込んでいなかったが。）、仮にこの提言がなかったとしたら、決議内容ももっと別のものになっていたことは間違いない。
また自殺対策の現場で活動する人たちや自死遺族の人たちの声を取りまとめたという部分での、ライフリンクの貢献度も大きい。自殺というとタブー視されがちで、遺族はもちろん、対策に取り組んでいる人たちの活動も、それまではずっと内向的・閉鎖的になりがちだった。しかし、自殺対策を社会的な課題にしていくためには、「そうした人たちの“声”のとりまとめ」が絶対に欠かせないと最初から分かっていたから、ライフリンクは発足当初から「つなぎ役」として、「つながり作りによる“声”の取りまとめ」に尽力してきたのだ（いろいろな人たちの壁を乗り越えて「つながり」を作っていくのは、本当に大変だった。）。２月には「自死遺族会のつながり」をテーマとしたシンポジウムを開き、自ら地道な「自死遺族同士のつながり作り」に日夜奔走してきた。５月のシンポジウムでは、自殺対策の現場で活動する人たちの“声”を集約させるべく、そうした人たちとのつながり作りを精力的に行った。そうやって、これまで誰にもできなかった「自殺の問題に関心を持つ人たちの声」をまとめ上げることに成功したのだった。
さらに言えば、マスコミとの信頼関係を築いていく中で、そうした“声”を社会に届けたこともライフリンクの貢献である。マスコミ関係者の中には不誠実な人もいたりして、途中で裏切られたりしたこともあったが、それでもひとりまたひとりと信頼できる報道人との関係を築き、“声”を全国に届けてもらった。自殺対策の現場で活動する人たちの間には「マスコミ不信」が蔓延していたが、ライフリンクは“声”を社会に届けることの重要性を鑑みて、マスコミ関係者との関係を積極的に築いてきたのである。（そのことによって「新たなつながり」も生まれ、自殺対策の現場に活気も生まれた。）
そしてもちろん、『自殺総合対策の実現に向けて』という私たちの提言を、国の政策に反映させるために国会議員との連携も模索した。これも、これまで自殺対策の現場では発想すらされなかったことだったろうと思う。ライフリンクも、もとから国会議員とのつながりがあったわけではなく、たまたま私が民主党の「自殺予防対策ワーキングチーム」に関するベタ記事を見つけて、それでこちらからダメもとでアプローチしたのだった。５月の参議院議員会館でのシンポジウム（ライフリンク主催）も、つまりは私が民主党の山本孝史参議院議員に「つながり」を呼びかけたことがきっかけで実現したものだったわけで、詳細は後述するが、山本議員のような誠実で献身的な国会議員と信頼関係を築けたことは、ライフリンクの目指すものを国の政策に反映させる上で非常に大きかったし、ライフリンクの貢献と言っても過言ではないと思う。
最後になるが、『決議採択における自死遺児の子たちの貢献』についても触れたい。
ライフリンクは、会のホームページの中でも記してある通り、自死遺児の子たちの意志を引き継いで自殺対策の取り組みを始めた。彼らが、自殺に対する偏見に怯えながらも、自らの胸の内を語ることで「自殺についてもっと真剣に考えて欲しい」と社会に呼びかけた、その勇気に心動かされた大人たちが先頭に立って、この活動をずっと進めてきた（進めている）のである。
つまり、自死遺児の子たちの、身を削る思いで行った「社会への呼び掛け」がもしなかったならば、そもそもライフリンクは存在していなかったし、今回の決議だってなかったはずなのだ。
彼らの行動から現在に至るまで４年近くの歳月を要してしまったが、いまは胸を張って、だから彼らに報告したい。
「私たち大人は、君たちの声をしっかりと受け止めたよ。そしてちゃんと行動し、君たちの声を社会政策に反映させることに決めたよ、ちょっと手間取ってしまったけど。
でもさ、この社会も捨てたもんじゃないでしょ。人間って、そんなに捨てたもんじゃないんだぜ。
私たちは、君たちひとりひとりが、それぞれの道を歩んでくれることを願っています。今回の『決議』は、私たちから君たちに送るエール。そう思ってくれたらとてもうれしいです。」
※なお、次回は「決議に至るまでのプロセス」について、より具体的に書いてみようと思います。
2005年06月26日
有言実行。
いつ頃からだったろうか、自分なりの「行動パターン」として、私は「有言実行」を心掛けるようになった。
自分がこころの奥底で考えていることをできるだけ素直に表現し（他人にも自分自身に対しても）、そうやって言葉というカタチになった夢や目標を実現させるために邁進していく。
「強く念じていれば、それがいずれは現実となる」というようなことを良く聞くが、私も自分自身の体験から、そう信じるようにさえなった。（決して超常体験とかいうことではなく。）
しかし、「有言実行」には、時として副作用が伴うことがある。
自分で「これだ！」と思ったことは、なりふり構わず実現させようとするから、手段が強引になり過ぎて思わぬ事態を引き起こすこともしばしばだ。そして実現させようとしていることが困難なものであればあるほど、その傾向は強くなる。
「いま」がいい例だ。
去年の６月以降、私はライフリンクの活動に没頭しすぎて、いつの間にか自分の私生活をボロボロにしてしまった。それこそ無休かつ無給でずっとやってきたから、すっかり貯蓄もなくなってしまったし（お金を稼ぐため仕事をする時間すらなかった）、せっかく入学したロースクールの授業にも出られずに退学の危機を迎えてしまった。精神的・身体的な負担も大きく、かなり疲弊しているのも確かだ。大切な人を傷つけてしまったりもしたし。
自分でやろうと決めた「自殺対策を社会的なものにしていくこと。国にもしっかりと自殺対策に取り組ませること。」は実現させつつあるけれども、その代償は決して小さくはなかったということだ。「有言実行」は、決してきれいごとだけですませられるものではない。
ライフリンクの立ち上げから一年が経ち、ここらで一度立ち止まって考える時期が来たのかなと思う。このままの状態を続けていくことはもうできないわけだし、そのことは自分が一番良く分かっていることだし。
とにかく、もう少し落ち着いたら、自分自身の、そしてライフリンクの今後のことについて、冷静に考えてみよう。だがそれまでは、まだ全力で走り続けるぞ。「有言実行」の甲斐もあって、吸水地点の近くまではもう来ているのだから。
追伸。ＮＰＯの活動は、「非営利活動」ということで聞こえはいいかも知れないが、実はかなり大変なのものだ。シンポジウムひとつ開催するにしても、組織を管理運営していくにしても、日々の細かい作業（電話やメールの対応、行政への提出資料の作成や助成金の申請など）から大きな事業（政治家や自治体との交渉、プロジェクトの推進など）まで、実にたくさんの仕事が発生してきて、それこそ理想論やきれいごとを語っているだけでは、なにひとつ物事が進んでいかない。
しかも、ライフリンクは財政難で給料も出ないから（出せないから）、お金で割り切れない分、より強い気持ちがなければ活動を続けていくこともできない。せめて有償スタッフを雇えるだけの財政的な基盤があればいいのだけれど。。。
自分がこころの奥底で考えていることをできるだけ素直に表現し（他人にも自分自身に対しても）、そうやって言葉というカタチになった夢や目標を実現させるために邁進していく。
「強く念じていれば、それがいずれは現実となる」というようなことを良く聞くが、私も自分自身の体験から、そう信じるようにさえなった。（決して超常体験とかいうことではなく。）
しかし、「有言実行」には、時として副作用が伴うことがある。
自分で「これだ！」と思ったことは、なりふり構わず実現させようとするから、手段が強引になり過ぎて思わぬ事態を引き起こすこともしばしばだ。そして実現させようとしていることが困難なものであればあるほど、その傾向は強くなる。
「いま」がいい例だ。
去年の６月以降、私はライフリンクの活動に没頭しすぎて、いつの間にか自分の私生活をボロボロにしてしまった。それこそ無休かつ無給でずっとやってきたから、すっかり貯蓄もなくなってしまったし（お金を稼ぐため仕事をする時間すらなかった）、せっかく入学したロースクールの授業にも出られずに退学の危機を迎えてしまった。精神的・身体的な負担も大きく、かなり疲弊しているのも確かだ。大切な人を傷つけてしまったりもしたし。
自分でやろうと決めた「自殺対策を社会的なものにしていくこと。国にもしっかりと自殺対策に取り組ませること。」は実現させつつあるけれども、その代償は決して小さくはなかったということだ。「有言実行」は、決してきれいごとだけですませられるものではない。
ライフリンクの立ち上げから一年が経ち、ここらで一度立ち止まって考える時期が来たのかなと思う。このままの状態を続けていくことはもうできないわけだし、そのことは自分が一番良く分かっていることだし。
とにかく、もう少し落ち着いたら、自分自身の、そしてライフリンクの今後のことについて、冷静に考えてみよう。だがそれまでは、まだ全力で走り続けるぞ。「有言実行」の甲斐もあって、吸水地点の近くまではもう来ているのだから。
追伸。ＮＰＯの活動は、「非営利活動」ということで聞こえはいいかも知れないが、実はかなり大変なのものだ。シンポジウムひとつ開催するにしても、組織を管理運営していくにしても、日々の細かい作業（電話やメールの対応、行政への提出資料の作成や助成金の申請など）から大きな事業（政治家や自治体との交渉、プロジェクトの推進など）まで、実にたくさんの仕事が発生してきて、それこそ理想論やきれいごとを語っているだけでは、なにひとつ物事が進んでいかない。
しかも、ライフリンクは財政難で給料も出ないから（出せないから）、お金で割り切れない分、より強い気持ちがなければ活動を続けていくこともできない。せめて有償スタッフを雇えるだけの財政的な基盤があればいいのだけれど。。。
2005年06月10日
瀧本監督との対談。
『シリーズ対談 いま“自殺”を考える』の第一弾として、きのう映画監督の瀧本智行さんと対談をしてきました。
瀧本さんは、今月下旬にロードショーになる映画、『樹の海』の監督さん。この時代に、自殺をテーマとして日本人の「生き死に」の問題に深く切り込んだ瀧本さんの真意を聞いてみたくて、ワガママを言って対談させていただいてきました。
対談の詳しい内容については、今月下旬にはライフリンクのＨＰ上でご紹介できると思いますが、瀧本さんとはじめてお会いして感じたことは「昭和のにおいのする人だなー」ということでした（笑）。先日の「ラヂオの時間」じゃないけれど、話をしていると不思議と「自分が受容されているような感覚」を持ったんです。「あー、なんかこの人だったら、こんな俺でも許してくれるのかも知れない」って。
それと、社会（他の人たち）とのスタンスが、とてもフェアな人だとも思いました。その目線も、言葉も、発想も、すべてが瀧本オリジナルで、大上段に構えてなんかない。すべてが等身大でありながら、しかし懐がやけに深くて、「小さき人たち」への眼差しが温かい。
実は、『樹の海』がまさにそうした映画なので、「あれはやっぱり瀧本さんが作った映画だったんだなー」という当たり前のことを、対談を終えて駅に向かう帰り道に思い、ひとりで妙に納得したりしていました（苦笑）。
ちなみに、ロードショーは６月２５日からです。瀧本さんに会いに行く気分で、私ももう一度見に行ってみようと思っています。
とにかく、おすすめの一本です。みなさんもぜひご覧になってみて下さい！（ただし、人が縊死するシーンがありますので、その点にはどうぞご留意を。←映画の趣旨は「生きる！」ですが、当然「死」も描かれているということです。）
瀧本さんは、今月下旬にロードショーになる映画、『樹の海』の監督さん。この時代に、自殺をテーマとして日本人の「生き死に」の問題に深く切り込んだ瀧本さんの真意を聞いてみたくて、ワガママを言って対談させていただいてきました。
対談の詳しい内容については、今月下旬にはライフリンクのＨＰ上でご紹介できると思いますが、瀧本さんとはじめてお会いして感じたことは「昭和のにおいのする人だなー」ということでした（笑）。先日の「ラヂオの時間」じゃないけれど、話をしていると不思議と「自分が受容されているような感覚」を持ったんです。「あー、なんかこの人だったら、こんな俺でも許してくれるのかも知れない」って。
それと、社会（他の人たち）とのスタンスが、とてもフェアな人だとも思いました。その目線も、言葉も、発想も、すべてが瀧本オリジナルで、大上段に構えてなんかない。すべてが等身大でありながら、しかし懐がやけに深くて、「小さき人たち」への眼差しが温かい。
実は、『樹の海』がまさにそうした映画なので、「あれはやっぱり瀧本さんが作った映画だったんだなー」という当たり前のことを、対談を終えて駅に向かう帰り道に思い、ひとりで妙に納得したりしていました（苦笑）。
ちなみに、ロードショーは６月２５日からです。瀧本さんに会いに行く気分で、私ももう一度見に行ってみようと思っています。
とにかく、おすすめの一本です。みなさんもぜひご覧になってみて下さい！（ただし、人が縊死するシーンがありますので、その点にはどうぞご留意を。←映画の趣旨は「生きる！」ですが、当然「死」も描かれているということです。）
2005年06月07日
ヴェロニカ・ゲリン。
ヴェロニカ・ゲリンをご存知だろうか。
アイルランドの麻薬犯罪の実態を暴き、歪んだ社会を変えようとして殉職した実在のジャーナリストである。麻薬組織からの脅しに屈することなく、執拗な取材を続けていた彼女は、わずか９年前のことになるが、ダブリンの街中で凶弾に倒れた。享年３７才。愛する夫と一人息子を遺して、彼女は他界した。
ヴェロニカは、いのちを賭けてでも「守るべきもの」を持っていた。
社会に不正が蔓延ることで失われていくものを彼女は敏感に感じとっていたのだろう。麻薬に蝕まれていく大勢の子どもたちの姿を黙って見過ごすことができなかったのだろう。人が人として生きていく上で（ただ存在するためでなく）必要なものを、彼女は身体を張って守ろうとしていた。
だから彼女の記事は、記事のための記事ではなく（番組のための番組ではなく）、必ずその先に「現実にある人間の営み」を見据えていた。あるべき社会の姿（あってはならない社会の姿というべきかも）を理念として持っており、その実現（あるいは改善）のために彼女は記事を書いていた。当然、彼女にとって記事は手段であり、目的ではなかったのである。
私は、彼女の実話に基づいた映画『ヴェロニカ・ゲリン』を観たとき、本当の意味での「プロの仕事」というものを見せつけられた気がした。それまでかつての職場で交わされていた「（番組として）成立する・しない」という価値基準が何ともバカバカしく空虚に思えるようになった。
そして自分も、自分なりにしっかりと「仕事」をしてみようと思った。社会には、抑圧されていながら、あまりに無力で声を上げることすらできずに苦しんでいる人たちが大勢いる。（私自身がかつてはそうだったし。）日本社会が大きな分岐点に立っているいま、私にできること・やるべきことを大局的に見つめてとにかく行動していこうと、この映画に背中をポンと押された気がしたのを思い出す。
理想を語るのは簡単だ。しかし、理想を実現させるために行動することは容易ではない。
ヴェロニカの遺した足跡を励みにしながら、できれば行動することを私も選択し続けていきたい−。なぜだろう、あらためてそう実感することの多い今日この頃なのである。
アイルランドの麻薬犯罪の実態を暴き、歪んだ社会を変えようとして殉職した実在のジャーナリストである。麻薬組織からの脅しに屈することなく、執拗な取材を続けていた彼女は、わずか９年前のことになるが、ダブリンの街中で凶弾に倒れた。享年３７才。愛する夫と一人息子を遺して、彼女は他界した。
ヴェロニカは、いのちを賭けてでも「守るべきもの」を持っていた。
社会に不正が蔓延ることで失われていくものを彼女は敏感に感じとっていたのだろう。麻薬に蝕まれていく大勢の子どもたちの姿を黙って見過ごすことができなかったのだろう。人が人として生きていく上で（ただ存在するためでなく）必要なものを、彼女は身体を張って守ろうとしていた。
だから彼女の記事は、記事のための記事ではなく（番組のための番組ではなく）、必ずその先に「現実にある人間の営み」を見据えていた。あるべき社会の姿（あってはならない社会の姿というべきかも）を理念として持っており、その実現（あるいは改善）のために彼女は記事を書いていた。当然、彼女にとって記事は手段であり、目的ではなかったのである。
私は、彼女の実話に基づいた映画『ヴェロニカ・ゲリン』を観たとき、本当の意味での「プロの仕事」というものを見せつけられた気がした。それまでかつての職場で交わされていた「（番組として）成立する・しない」という価値基準が何ともバカバカしく空虚に思えるようになった。
そして自分も、自分なりにしっかりと「仕事」をしてみようと思った。社会には、抑圧されていながら、あまりに無力で声を上げることすらできずに苦しんでいる人たちが大勢いる。（私自身がかつてはそうだったし。）日本社会が大きな分岐点に立っているいま、私にできること・やるべきことを大局的に見つめてとにかく行動していこうと、この映画に背中をポンと押された気がしたのを思い出す。
理想を語るのは簡単だ。しかし、理想を実現させるために行動することは容易ではない。
ヴェロニカの遺した足跡を励みにしながら、できれば行動することを私も選択し続けていきたい−。なぜだろう、あらためてそう実感することの多い今日この頃なのである。
2005年05月19日
ラヂオの時間。
「ラヂオの時間」と言っても、あの映画のことではないです。
マイブームとでも言うべきなのでしょうか、深夜まで仕事がずれ込むことが日常化している最近、仕事をしながらＦＭ世田谷というラヂオを聴くことが多いんです。
このＦＭ世田谷というのがミソでして、このローカルラヂオ局では深夜帯に「懐メロ」を流しているんです。80年代〜90年代の、私が学生だった頃の歌がポンポン流れれてきて、聴いているとホッとするんですよ。
ほら、深夜のテレビでもやっているじゃないですか「通販限定。ＣＤ５枚組、十八番（おはこ）。あなたの青春時代がいま甦る」とかいって（笑）。あの宣伝を聴いているとなんだか妙に癒されたりしませんか？（うちのテレビではそんなのやっとらんという方、すみません。）あれと同じです、ＦＭ世田谷の深夜放送は。
何なんでしょうね、あれって。なんで昔の歌とかを聴くとホッとするんでしょう。青春時代を思い出して、それでホッとしているというわけではないと思うしなー。。。あ、だからといって私の青春時代が小恥ずかしい思い出ばかりというわけではないですよ。（そうでないとも言い切れませんが。笑。）でも、「ホッとする」のって感覚的なことで、記憶が甦るとかいうよりも前に感じていることだと思うんですよね。
どうなんでしょう、すでに馴染んでいるものだから、ということなんでしょうかね。最近の歌は新鮮ではあるけど、未知なるものでもあるから刺激が強すぎる。昔の歌は旧知なわけだから、安心して聴いていられる。もしかしたらそんなことなのかも知れないなーと思うのですが、どうでしょうね。
ちょっと話が飛びますが、日本にいると「常に時代の先端をいってないとならない」というような感覚に無性に駆り立てられることが多いですよね。携帯電話にしても車にしても、大して機能が変わったわけでもないのにモデルチェンジを繰り返して、あるいは今年の夏のトレンドはアニマル柄（んなわけない？）だとかなんだとか言って、「それを持っていないと恥ずかしい人」みたいな感じにさせられるというか。（もちろん音楽だって、週替わりでトップ１０が入れ替わったりもするわけですし。）
私は、これは日本に宗教性が根付いていなくて、その代わりを商業主義が担ってしまっているからだろうと勝手に分析しているのですが、とにかく「いまのあなたではダメですよ」っていうメッセージがやたら強いんですよね、日本には。「もっとやせなければダメ」とか「もっと上を目指さなければダメ」とか、だから「そのためにはこれを買いなさい」っていう駆り立て方がすごく多い。
まあ「十八番」も通販なわけで、「これを買えば青春が甦る！」という完全な商業主義に基づいているわけなのですが（笑）、それはそうと話を戻しますと、懐メロというのは過去のものであり、だから聴いていると「すでに受容されている」という感覚を持てるのかなーなんてことを思います。だからホッとするのかなという。
あー、、、とか何とか言っている間に、辺りがうっすらと明るくなってきてしまいました。。。さすがにもう寝よう。
でもいつか、宗教性（受容の思想）と商業主義（駆り立てのメカニズム）について、あるいは「駆り立てられずに、受容されているという感覚を持てる社会にするには」ということで、またこの続きを考えてみたいと思っています。
ちなみにいまＦＭ世田谷では、カズンの「冬のファンタジー」が流れています。聴き心地の良い歌ですね、かなり季節はずれではありますが（微笑）。
では、おやすみなさい。
マイブームとでも言うべきなのでしょうか、深夜まで仕事がずれ込むことが日常化している最近、仕事をしながらＦＭ世田谷というラヂオを聴くことが多いんです。
このＦＭ世田谷というのがミソでして、このローカルラヂオ局では深夜帯に「懐メロ」を流しているんです。80年代〜90年代の、私が学生だった頃の歌がポンポン流れれてきて、聴いているとホッとするんですよ。
ほら、深夜のテレビでもやっているじゃないですか「通販限定。ＣＤ５枚組、十八番（おはこ）。あなたの青春時代がいま甦る」とかいって（笑）。あの宣伝を聴いているとなんだか妙に癒されたりしませんか？（うちのテレビではそんなのやっとらんという方、すみません。）あれと同じです、ＦＭ世田谷の深夜放送は。
何なんでしょうね、あれって。なんで昔の歌とかを聴くとホッとするんでしょう。青春時代を思い出して、それでホッとしているというわけではないと思うしなー。。。あ、だからといって私の青春時代が小恥ずかしい思い出ばかりというわけではないですよ。（そうでないとも言い切れませんが。笑。）でも、「ホッとする」のって感覚的なことで、記憶が甦るとかいうよりも前に感じていることだと思うんですよね。
どうなんでしょう、すでに馴染んでいるものだから、ということなんでしょうかね。最近の歌は新鮮ではあるけど、未知なるものでもあるから刺激が強すぎる。昔の歌は旧知なわけだから、安心して聴いていられる。もしかしたらそんなことなのかも知れないなーと思うのですが、どうでしょうね。
ちょっと話が飛びますが、日本にいると「常に時代の先端をいってないとならない」というような感覚に無性に駆り立てられることが多いですよね。携帯電話にしても車にしても、大して機能が変わったわけでもないのにモデルチェンジを繰り返して、あるいは今年の夏のトレンドはアニマル柄（んなわけない？）だとかなんだとか言って、「それを持っていないと恥ずかしい人」みたいな感じにさせられるというか。（もちろん音楽だって、週替わりでトップ１０が入れ替わったりもするわけですし。）
私は、これは日本に宗教性が根付いていなくて、その代わりを商業主義が担ってしまっているからだろうと勝手に分析しているのですが、とにかく「いまのあなたではダメですよ」っていうメッセージがやたら強いんですよね、日本には。「もっとやせなければダメ」とか「もっと上を目指さなければダメ」とか、だから「そのためにはこれを買いなさい」っていう駆り立て方がすごく多い。
まあ「十八番」も通販なわけで、「これを買えば青春が甦る！」という完全な商業主義に基づいているわけなのですが（笑）、それはそうと話を戻しますと、懐メロというのは過去のものであり、だから聴いていると「すでに受容されている」という感覚を持てるのかなーなんてことを思います。だからホッとするのかなという。
あー、、、とか何とか言っている間に、辺りがうっすらと明るくなってきてしまいました。。。さすがにもう寝よう。
でもいつか、宗教性（受容の思想）と商業主義（駆り立てのメカニズム）について、あるいは「駆り立てられずに、受容されているという感覚を持てる社会にするには」ということで、またこの続きを考えてみたいと思っています。
ちなみにいまＦＭ世田谷では、カズンの「冬のファンタジー」が流れています。聴き心地の良い歌ですね、かなり季節はずれではありますが（微笑）。
では、おやすみなさい。
2005年05月02日
「いのち」の棒倒し。
前回、『本来であれば「いのち」について学び、「生きるチカラ」を育む場であるはずの学校で、教師が「何か」に追い詰められて自らいのちを絶っていかなければならないなんて、なんと皮肉なことか』と書いた。
その数日後、ある方から「実は病院でも医師の自殺が多いのだ」と訴える一報をいただいた。「いのち」を救うはずの職場でも、「何か」に追い詰められて医師が自殺していくことが少なくないのだということだった。
確かに私の知るところでも、医師（精神科医）で自殺された方が二人いるし、医師をしている友人などは「勤務時間が不規則で肉体的にも精神的にもかなりツライ」と悲鳴を上げている。効率経営の波は、病院をもとっくに呑み込んでしまっているものらしい。
（小児科医で過労自殺された方のご遺族が公開しているＨＰがあります。５月４日には都内で集会も開かれるそうです。）
考えてみれば、先日起きたＪＲ福知山線の脱線事故にも共通点がある。「いのち」よりも「効率」が優先されているということである。
巧妙なのは、そのやり方だ。「いのち」を一応は重んじつつ、しかしジリジリと、しかもギリギリまで、「効率」を極めていく。「いのち」の棒倒しとでも言うべきだろうか。あからさまに「効率」を優先させるのではなく、砂場でやる「棒倒し」のようにして、「いのち」がなんとか倒れないでいられる極限のところまで「効率」を追求していく。砂をあとひと掻きすれば棒が倒れてしまうような状況に、先生も医者も運転士も、そして乗客も追い詰められていた。だから、歯車がひとつ狂っただけで、いっぺんにすべてが崩れ落ちていってしまったのではないだろうか。
そして実は、私たち自身の日常だって、「いつ棒が倒れてもおかしくない状況」にさらされているのかも知れない。「効率」を優先するあまり、「いのち」のゆとりが奪われていて、常に「あとひと掻き」されることに怯えながら生きることを余儀なくされているようにも感じる。無意識の内に、自分自身の手で、ひと掻き、またひと掻きと、「いのち」を追い詰めてしまっていることだってあるだろう。
「まさか自分の身内が自殺すると思わなかった」と多くのご遺族が言うのも、であれば理解できる。自殺に追い込まれていく可能性は、きっと誰にでもあって、要するに「あとひと掻き」されるかされないかの違いしかないのだ。
「いのち」と「効率」。目的と手段という、その関係性のねじれを、まずは自分の足元から見つめ直していこう。「いのち」の棒倒しで言うならば、砂を掻くのではなく、逆に砂をギュッと押し固めて棒を支えてやろうって、そう強く思うのである。
その数日後、ある方から「実は病院でも医師の自殺が多いのだ」と訴える一報をいただいた。「いのち」を救うはずの職場でも、「何か」に追い詰められて医師が自殺していくことが少なくないのだということだった。
確かに私の知るところでも、医師（精神科医）で自殺された方が二人いるし、医師をしている友人などは「勤務時間が不規則で肉体的にも精神的にもかなりツライ」と悲鳴を上げている。効率経営の波は、病院をもとっくに呑み込んでしまっているものらしい。
（小児科医で過労自殺された方のご遺族が公開しているＨＰがあります。５月４日には都内で集会も開かれるそうです。）
考えてみれば、先日起きたＪＲ福知山線の脱線事故にも共通点がある。「いのち」よりも「効率」が優先されているということである。
巧妙なのは、そのやり方だ。「いのち」を一応は重んじつつ、しかしジリジリと、しかもギリギリまで、「効率」を極めていく。「いのち」の棒倒しとでも言うべきだろうか。あからさまに「効率」を優先させるのではなく、砂場でやる「棒倒し」のようにして、「いのち」がなんとか倒れないでいられる極限のところまで「効率」を追求していく。砂をあとひと掻きすれば棒が倒れてしまうような状況に、先生も医者も運転士も、そして乗客も追い詰められていた。だから、歯車がひとつ狂っただけで、いっぺんにすべてが崩れ落ちていってしまったのではないだろうか。
そして実は、私たち自身の日常だって、「いつ棒が倒れてもおかしくない状況」にさらされているのかも知れない。「効率」を優先するあまり、「いのち」のゆとりが奪われていて、常に「あとひと掻き」されることに怯えながら生きることを余儀なくされているようにも感じる。無意識の内に、自分自身の手で、ひと掻き、またひと掻きと、「いのち」を追い詰めてしまっていることだってあるだろう。
「まさか自分の身内が自殺すると思わなかった」と多くのご遺族が言うのも、であれば理解できる。自殺に追い込まれていく可能性は、きっと誰にでもあって、要するに「あとひと掻き」されるかされないかの違いしかないのだ。
「いのち」と「効率」。目的と手段という、その関係性のねじれを、まずは自分の足元から見つめ直していこう。「いのち」の棒倒しで言うならば、砂を掻くのではなく、逆に砂をギュッと押し固めて棒を支えてやろうって、そう強く思うのである。
2005年04月20日
新任教師の自殺。
昨日、埼玉県内の小学校で、新任の男性教師が自殺で亡くなったという。
報道（産経新聞）によれば、事実関係として分かっているのは、図工室で縊死していたということ。死亡推定時刻が午前７時頃だということ。またその日は、授業参観日で午後から算数の授業を行うことになっていたということ、である。
私が自分で取材したわけではないので詳細は分からないが、「責任」に対する何らかのプレッシャーがきっとあったのだろう。本来であれば「いのち」について学び、「生きるチカラ」を育む場であるはずの学校で、教師が「何か」に追い詰められて自らいのちを絶っていかなければならないなんて、なんと皮肉なことかと思う。
それと心配なのが、子どもたちへの影響である。
やはり報道によれば、「授業は別の教員が代行したが、学校側は精神的ショックなどを考慮し、児童には詳しく説明していない（産経新聞）」という。
もしこれが事実だとすれば、なおさら子どもたちのことが心配になる。子どもたちの多くは、「うろたえる大人たち」を見て、自分たちが異様な事態に遭遇していることを容易に察するだろうし、少なくない子たちが「先生が自殺した」という事実を、遅かれ早かれ知ることになるだろう。それなのに、大人たちが「子どもたちに知られる」ことに怯えるあまり、先生の死を隠蔽してしまったのでは、それこそ子どもたちに悪影響を与えかねない。子どもたちのこころの中で増幅しかねない「死への漠然とした悶々とする思い」を放置しておくことの危険性くらい、学校側だって分かっているだろうに。
とかく日本の学校は、子どもたちに「教えようとする」という傾向がある。
問題には常に答えがあって、先生はそれを「教える側」であり、子どもたちはそれを「教えてもらう側」なのだという、硬直化した図式がある。（ただし、これは今回の埼玉県の学校のことについて言っているのではなく、あくまで一般論としてである。）
だから、答えのない問題・あるいは自分たちに答えが分からない問題に直面すると、その問題は存在しなかったことにしてしまう。図式を崩させないようにと、そうした問題を隠蔽したがる。
「いのち」や「死」に関することが、いい例だ。
誰だって「いのち」や「死」を前にしたら、学ぶ立場になるはずなのに、先生は「何かを教えなければならない」と考えるから、学校では扱えなくなる。「学校は学ぶ場なのであって、それは子どもにとっても、先生にとっても同じこと。ただ少し人生の先を生きている人が、先生という立場にいるだけ。」といった謙虚さがないから、「答えのない大切なこと」を子どもたちが学び取る機会を持たせてあげられず、「答えのあるどうでもいいこと」しか教えてあげられないのだと思う。
誤解を恐れずに言えば、今回若くして亡くなった先生のことを思えば、彼の死から、遺された子どもたちも先生たちも、できるだけ多くのことを学ぶしかないのだと思う。
２２歳の若者のご冥福をお祈りしつつ、数日間という短い期間であっても、彼と接する機会を持った子どもたちの学ぶチカラ・生きるチカラを、私は信じたい。
2005年04月06日
一家心中。
４月に入って、立て続けに一家心中が起きているのが気になる。
一昨日には愛知で（６人が亡くなり大きなニュースとなった）、昨日は大阪と愛知とで起きた。新年度ということも関係しているのだろうか、どれも借金や経営難を苦にした自殺ということらしい。
「借金で自殺することはない」。これは、ライフリンクの会員であり、事業再生コンサルタントの肩書きを持つ吉田猫次郎さんの言葉である。
ご自身の著書やＨＰには、具体的な借金問題の解決方法が驚くべきほど詳細に記されており、それが単なる「気休め」や「べき論」でないことが分かる。極めて現実的な考えとして、猫次郎さんは「借金で自殺することはない」と主張しているのだ。
背景にあるのは、猫次郎さん自身の体験だ。
７０００万円を超える借金を背負い、ヤミ金に監禁され、自殺も考えたりしながら、それでも自力で這い上がってきたという壮絶な過去がある（詳細は猫次郎さんのＨＰで）。猫次郎さんが提示する「解決方法」とは、つまりご自身の体験談であり、また体験を活かして事業再生の手助けをする中で蓄積してきた生きた情報なのである。
つい先日も、こんなことがあった。
「借金があって自殺したいと言っている知り合いがいる。どうすればいいか？」という相談がライフリンクにあった時のこと。私が迷うことなく、すぐに猫次郎さんにつなぐと、その日のうちに極めて明快かつ具体的ないくつかの選択肢が返事としてかえってきた。「その場合の対処方法。プランＡ、プランＢ、プランＣ」と。
それを相談してきた方に具体的に説明すると、電話の向こう側の声が明らかに変わっていくのが分かった。それまで為す術が見つからず無力感に打ちひしがれていたような声が、自信に満ちたものへと変貌したのである。「さっそく知人に報告します！」と、電話を切るときの声は弾んでいた。きっと猫次郎さんが提示してくれた選択肢の中から、自分なりの生きる道を選んでくださったことだろうと思う。
窮地に立たされている人たちに必要なのは、具体的な解決策である。
こと借金を苦にした自殺に関しては、解決策を提示してあげることで救われる人は確実にいる。しかも、きっと大勢いる。
ライフリンクとしても、「借金で自殺することはない」という猫次郎さんのメッセージを、社会に届けるべく尽力していこう。（実際に、猫次郎さんの連載コラムもＨＰ上で始めたところである。）
「借金があったんだから自殺したのも仕方がない」という考え方は間違っている。具体的な解決策を提示しながら、そう訴えていこう。
もしこの「声」が、心中してしまったご家族の元にもっと早く届けられていたらと思うと胸が痛む。
その胸の痛みを噛み締めながら、精一杯大きな声で訴え続けていくしかあるまい。「声」よ、響け。それを必要としている人たちの元へと届け、「声」よ。
追伸。「借金で自殺することはない」というメッセージには、経済状況の変化に人生が左右されてしまうような私たちの生き方への問題提起も孕んでいる。その意味でも、社会に発していく意義は大きいと私は考えている。
一昨日には愛知で（６人が亡くなり大きなニュースとなった）、昨日は大阪と愛知とで起きた。新年度ということも関係しているのだろうか、どれも借金や経営難を苦にした自殺ということらしい。
「借金で自殺することはない」。これは、ライフリンクの会員であり、事業再生コンサルタントの肩書きを持つ吉田猫次郎さんの言葉である。
ご自身の著書やＨＰには、具体的な借金問題の解決方法が驚くべきほど詳細に記されており、それが単なる「気休め」や「べき論」でないことが分かる。極めて現実的な考えとして、猫次郎さんは「借金で自殺することはない」と主張しているのだ。
背景にあるのは、猫次郎さん自身の体験だ。
７０００万円を超える借金を背負い、ヤミ金に監禁され、自殺も考えたりしながら、それでも自力で這い上がってきたという壮絶な過去がある（詳細は猫次郎さんのＨＰで）。猫次郎さんが提示する「解決方法」とは、つまりご自身の体験談であり、また体験を活かして事業再生の手助けをする中で蓄積してきた生きた情報なのである。
つい先日も、こんなことがあった。
「借金があって自殺したいと言っている知り合いがいる。どうすればいいか？」という相談がライフリンクにあった時のこと。私が迷うことなく、すぐに猫次郎さんにつなぐと、その日のうちに極めて明快かつ具体的ないくつかの選択肢が返事としてかえってきた。「その場合の対処方法。プランＡ、プランＢ、プランＣ」と。
それを相談してきた方に具体的に説明すると、電話の向こう側の声が明らかに変わっていくのが分かった。それまで為す術が見つからず無力感に打ちひしがれていたような声が、自信に満ちたものへと変貌したのである。「さっそく知人に報告します！」と、電話を切るときの声は弾んでいた。きっと猫次郎さんが提示してくれた選択肢の中から、自分なりの生きる道を選んでくださったことだろうと思う。
窮地に立たされている人たちに必要なのは、具体的な解決策である。
こと借金を苦にした自殺に関しては、解決策を提示してあげることで救われる人は確実にいる。しかも、きっと大勢いる。
ライフリンクとしても、「借金で自殺することはない」という猫次郎さんのメッセージを、社会に届けるべく尽力していこう。（実際に、猫次郎さんの連載コラムもＨＰ上で始めたところである。）
「借金があったんだから自殺したのも仕方がない」という考え方は間違っている。具体的な解決策を提示しながら、そう訴えていこう。
もしこの「声」が、心中してしまったご家族の元にもっと早く届けられていたらと思うと胸が痛む。
その胸の痛みを噛み締めながら、精一杯大きな声で訴え続けていくしかあるまい。「声」よ、響け。それを必要としている人たちの元へと届け、「声」よ。
追伸。「借金で自殺することはない」というメッセージには、経済状況の変化に人生が左右されてしまうような私たちの生き方への問題提起も孕んでいる。その意味でも、社会に発していく意義は大きいと私は考えている。
2005年04月03日
余計なお世話。
日本では、「余計なお世話」が横行しすぎている。
最近のことで言えば、愛知万博。「食中毒が発生しないように」との理由で、会場への弁当持参が禁止されていたという。
花粉症で鼻がつまってにおいをかげないだろうと、そこまで来場者のことを思んばかってくれてのことなのか。あるいは単純に人の嗅覚をバカにしているだけなのか。
いずれにしても、自分で食べる弁当の心配くらい、自分でさせてもらいたいものだ。つまり、「余計なお世話」なのである。
（もちろん会場内の飲食店が潤うようにというのが本音なのだろうけど、それにしても真顔で「食中毒が発生しないように」などと言われては、やはり「余計なお世話」だと言わざるを得ない。）
雨の日の電車にも「余計なお世話」がある。駅に到着するたびに流れる「傘のお忘れ物のないように」といったアナウンス。あれもハッキリ言って「余計なお世話」だ。
選挙日に「投票に行きましょう」との宣伝カーの呼びかけも、あるいは成人式の式典のように、まるで人情味のない機械的な「お世話」も、まるで余計だと私は思う。
人は、失敗から教訓を学び、またその失敗から立ち上がる過程の中で生きるチカラを身に付けていく。
それを、「余計なお世話」を焼きすぎて、失敗を体験させないようにしてしまえば、人は生きるチカラを身に付ける機会を失う。そうした環境に幼い頃から慣らされてしまっていると、誰かに指示されたり、案内されたり、何かを決めてもらったりしないと、自分の足で人生を歩めない人になってしまう。「思考停止」に陥ってしまう。
だから、例えば子どもが転びそうになったとして、そこで転ばぬようにとサッと手を差し出すのではなく、転ぶ姿をジッと見守ってやる。（←これは結構大変なことであるわけだが。）そして、転んだ子どもが、自力で立ち上がろうとするときに、必要に応じて肩を貸してあげるなり、ひざに付いた汚れを払い落としてやるなり、その子に合ったサポートをしてあげる。
そうした親身になって考えた末の「世話」こそが大切ではないのかと、私は思っている。
さらに言えば、、、
食中毒だの傘の置き忘れだのといった、いわば些細なことに「余計なお世話」をせっせと焼きながら、その一方では、人の生き死にに関して世話を焼こうとする動きが、いまの日本にはとても弱いという矛盾・皮肉もあると思う。
人の「いのち」がリスクにさらされているにもかかわらず、イラクの人質事件にしても、自殺の問題にしても、感情的な「自己責任論」が持ち出されてしまう。（それこそ「思考停止」に陥っているから、他者への想像力がなくなってきているのだと思うが。）
普通に考えれば、逆であってしかるべきだろう。
つまり、「取り返しのつくこと」に関しては、放置しておくべきがむしろ「親切」だし、相手のためになることも多いのであって、しかし「取り返しのつかないこと」に関しては、もっとしっかりと支援体制を整えるべきなのだ。
（だってこれって、逆上がりをするときには、いのち綱をつけて、下に分厚いマットを敷いて「余計なお世話」を焼いているのに、その一方で大車輪をやるときには、何のサポートもしていないというような状況だから。）
私なりの結論は、こうである。
もっと子どもの頃から、あるいは小さいことから、ひとりひとりに考えさせ、決断させ、責任を取らせていくような方向に、教育や社会の仕組みをあらためていく。
そして、それと並行して、「いのち」に関わることだけについては、つまり「取り返しのつかないこと」に関してだけは、もっと社会的な支援を充実させていく。
「余計なお世話の横行」と「必要な支援の欠如」とのギャップを、冷静に埋めていく必要があるのだと考えている。
最近のことで言えば、愛知万博。「食中毒が発生しないように」との理由で、会場への弁当持参が禁止されていたという。
花粉症で鼻がつまってにおいをかげないだろうと、そこまで来場者のことを思んばかってくれてのことなのか。あるいは単純に人の嗅覚をバカにしているだけなのか。
いずれにしても、自分で食べる弁当の心配くらい、自分でさせてもらいたいものだ。つまり、「余計なお世話」なのである。
（もちろん会場内の飲食店が潤うようにというのが本音なのだろうけど、それにしても真顔で「食中毒が発生しないように」などと言われては、やはり「余計なお世話」だと言わざるを得ない。）
雨の日の電車にも「余計なお世話」がある。駅に到着するたびに流れる「傘のお忘れ物のないように」といったアナウンス。あれもハッキリ言って「余計なお世話」だ。
選挙日に「投票に行きましょう」との宣伝カーの呼びかけも、あるいは成人式の式典のように、まるで人情味のない機械的な「お世話」も、まるで余計だと私は思う。
人は、失敗から教訓を学び、またその失敗から立ち上がる過程の中で生きるチカラを身に付けていく。
それを、「余計なお世話」を焼きすぎて、失敗を体験させないようにしてしまえば、人は生きるチカラを身に付ける機会を失う。そうした環境に幼い頃から慣らされてしまっていると、誰かに指示されたり、案内されたり、何かを決めてもらったりしないと、自分の足で人生を歩めない人になってしまう。「思考停止」に陥ってしまう。
だから、例えば子どもが転びそうになったとして、そこで転ばぬようにとサッと手を差し出すのではなく、転ぶ姿をジッと見守ってやる。（←これは結構大変なことであるわけだが。）そして、転んだ子どもが、自力で立ち上がろうとするときに、必要に応じて肩を貸してあげるなり、ひざに付いた汚れを払い落としてやるなり、その子に合ったサポートをしてあげる。
そうした親身になって考えた末の「世話」こそが大切ではないのかと、私は思っている。
さらに言えば、、、
食中毒だの傘の置き忘れだのといった、いわば些細なことに「余計なお世話」をせっせと焼きながら、その一方では、人の生き死にに関して世話を焼こうとする動きが、いまの日本にはとても弱いという矛盾・皮肉もあると思う。
人の「いのち」がリスクにさらされているにもかかわらず、イラクの人質事件にしても、自殺の問題にしても、感情的な「自己責任論」が持ち出されてしまう。（それこそ「思考停止」に陥っているから、他者への想像力がなくなってきているのだと思うが。）
普通に考えれば、逆であってしかるべきだろう。
つまり、「取り返しのつくこと」に関しては、放置しておくべきがむしろ「親切」だし、相手のためになることも多いのであって、しかし「取り返しのつかないこと」に関しては、もっとしっかりと支援体制を整えるべきなのだ。
（だってこれって、逆上がりをするときには、いのち綱をつけて、下に分厚いマットを敷いて「余計なお世話」を焼いているのに、その一方で大車輪をやるときには、何のサポートもしていないというような状況だから。）
私なりの結論は、こうである。
もっと子どもの頃から、あるいは小さいことから、ひとりひとりに考えさせ、決断させ、責任を取らせていくような方向に、教育や社会の仕組みをあらためていく。
そして、それと並行して、「いのち」に関わることだけについては、つまり「取り返しのつかないこと」に関してだけは、もっと社会的な支援を充実させていく。
「余計なお世話の横行」と「必要な支援の欠如」とのギャップを、冷静に埋めていく必要があるのだと考えている。
2005年04月01日
＜全国初＞派遣労働者の過労自殺認定について
昨夜（３１日）のＮＨＫ「ニュース９」を見ていたら、全国初の派遣労働者の過労自殺認定についての報道があった。
「大手光学機器メーカー「ニコン」（東京都千代田区）に派遣されて働いていた男性＝当時（２３）＝が自殺したのは、過労などによる鬱病（うつびょう）が原因として、男性の母親が、同社と雇用先の「ネクスター」（現アテスト、名古屋市）に約一億四千四百万円を求めた訴訟の判決が三十一日、東京地裁であり、芝田俊文裁判長は両社に計約二千四百九十万円の支払いを命じた」といった内容のものである(産経新聞）。
※詳細は、毎日新聞ニュースをご参照あれ。
※原告である男性の母親が作る「裁判記録に関するＨＰ」もある。
はじめはその理由が分からなかったけど、私はこのニュースを耳にしたときに、なにかピンと来るものがあった。それで「裁判記録に関するＨＰ」を読んでみたら、その謎が解けた。２年前の３月６日、私はこの裁判の第３回公判を傍聴していたのである。
と言っても、裁判の内容が目的での傍聴だったわけではないから、詳細について記憶しているわけではない。公判終了後に、原告側の代理人であるＫ弁護士に過労自殺について取材することになっていて、それで「ついでに裁判を傍聴したら」とＫ弁護士に誘われて、偶然にもその場に居合わせていたということなのである。
「そうか、、、あれから２年か、、、。」
ご遺族にとっても、Ｋ弁護士にとっても、長い長い戦いだったろうと思う（まだ控訴審もあるわけで、これで裁判が終わったというわけではないけれど）。
あの日の公判に関して私が覚えているのは、原告側には弁護士が２人しかいなくて（ひとりはノーネクタイでジャケット姿のＫ弁護士、もうひとりはかなり若い弁護士）、他方被告側には６、７人くらいはいただろうか、ビシッとしたスーツ姿の弁護士たちが「ゾロゾロ」と表現したくなるくらいにいて、まるで法廷そのものが「個人 V.S. 組織」のチカラ関係を凝縮させたような場に感じられたということだ。
しかし、今日のニュースを見て、「裁判というのは、やっぱりチカラ関係だけがモノをいうわけではないのだなー」と、あらためて実感することができた。「組織と個人とのチカラ関係がますますアンバランスになっていく中で、やっぱり法律は頼りになるものなのだなー」と、あらためて「法の支配」の必要性も感じた。（もちろん被害者の男性は亡くなってしまったわけだから、ただただご冥福をお祈りするしかなく、その意味で法律は活かされていなかったわけだが。）
なんて他人事のように言ってはみたが、実は私も弁護士を目指しているわけで、来週からはロースクールの授業も始まるのである。「げっ、もうすぐだ。。。」
（入学したのは去年の春のことだったが、ライフリンクの活動を優先させるために、ひと月あまり通っただけで休学してしまっておりました。。。）
ロースクールへの復学を前にして、昨夜のニュースを目にしたのも、なにかの「つながり」かも知れないなんて思う。
（たかだかまだ３０数年の人生ではあるが、過去を振り返ってみると「いまここ」にいることが必然のように感じられる「偶然のつながり」を感じることが最近やたら多い。）
おっ、これは「ロースクールもがんばれよ！」というエールか！？などと調子のいい手前勝手なことを考えながら、近々Ｋ弁護士に近況報告をしてみようと思ったりしている新年度初日の朝なのであった。
「大手光学機器メーカー「ニコン」（東京都千代田区）に派遣されて働いていた男性＝当時（２３）＝が自殺したのは、過労などによる鬱病（うつびょう）が原因として、男性の母親が、同社と雇用先の「ネクスター」（現アテスト、名古屋市）に約一億四千四百万円を求めた訴訟の判決が三十一日、東京地裁であり、芝田俊文裁判長は両社に計約二千四百九十万円の支払いを命じた」といった内容のものである(産経新聞）。
※詳細は、毎日新聞ニュースをご参照あれ。
※原告である男性の母親が作る「裁判記録に関するＨＰ」もある。
はじめはその理由が分からなかったけど、私はこのニュースを耳にしたときに、なにかピンと来るものがあった。それで「裁判記録に関するＨＰ」を読んでみたら、その謎が解けた。２年前の３月６日、私はこの裁判の第３回公判を傍聴していたのである。
と言っても、裁判の内容が目的での傍聴だったわけではないから、詳細について記憶しているわけではない。公判終了後に、原告側の代理人であるＫ弁護士に過労自殺について取材することになっていて、それで「ついでに裁判を傍聴したら」とＫ弁護士に誘われて、偶然にもその場に居合わせていたということなのである。
「そうか、、、あれから２年か、、、。」
ご遺族にとっても、Ｋ弁護士にとっても、長い長い戦いだったろうと思う（まだ控訴審もあるわけで、これで裁判が終わったというわけではないけれど）。
あの日の公判に関して私が覚えているのは、原告側には弁護士が２人しかいなくて（ひとりはノーネクタイでジャケット姿のＫ弁護士、もうひとりはかなり若い弁護士）、他方被告側には６、７人くらいはいただろうか、ビシッとしたスーツ姿の弁護士たちが「ゾロゾロ」と表現したくなるくらいにいて、まるで法廷そのものが「個人 V.S. 組織」のチカラ関係を凝縮させたような場に感じられたということだ。
しかし、今日のニュースを見て、「裁判というのは、やっぱりチカラ関係だけがモノをいうわけではないのだなー」と、あらためて実感することができた。「組織と個人とのチカラ関係がますますアンバランスになっていく中で、やっぱり法律は頼りになるものなのだなー」と、あらためて「法の支配」の必要性も感じた。（もちろん被害者の男性は亡くなってしまったわけだから、ただただご冥福をお祈りするしかなく、その意味で法律は活かされていなかったわけだが。）
なんて他人事のように言ってはみたが、実は私も弁護士を目指しているわけで、来週からはロースクールの授業も始まるのである。「げっ、もうすぐだ。。。」
（入学したのは去年の春のことだったが、ライフリンクの活動を優先させるために、ひと月あまり通っただけで休学してしまっておりました。。。）
ロースクールへの復学を前にして、昨夜のニュースを目にしたのも、なにかの「つながり」かも知れないなんて思う。
（たかだかまだ３０数年の人生ではあるが、過去を振り返ってみると「いまここ」にいることが必然のように感じられる「偶然のつながり」を感じることが最近やたら多い。）
おっ、これは「ロースクールもがんばれよ！」というエールか！？などと調子のいい手前勝手なことを考えながら、近々Ｋ弁護士に近況報告をしてみようと思ったりしている新年度初日の朝なのであった。
2005年03月31日
あれから一年。そして、、、
一年前の今日、私はＮＨＫを辞めた。このサクラの写真は、職場の仲間たちに見送られて渋谷の放送センターを後にし、その足でひとり向かった代々木公園で、「いまの気持ち」を焼き付けるためにと撮ったものである。
携帯のアルバムに保存してあるこの写真を見るたびに、だから思い出す。大好きだった番組作り（仕事）に対する「未練」。安定した生活の見込める将来を手放したことへの「不安」。そして未練も不安もすべて引きずって、それでも自分の良かれと思う道を歩み始めたことへの「ワクワク感」。
あれから一年が経ったいま、そうした感情に「満足感」が加わった。
自分自身の現状に対しての、ではない。あの時に正しい選択をしたと思えることに対しての、である。自分が選んだ道が正しかったと思えるよう、この一年間努力してきたということに対してのものだと言うべきかも知れない。
（いつだってそうだけど、自分の選択が正しいかどうかなんて、その選択をした後の自分が証明していくしかないのだと思う。ある選択が正しいとか間違っているとかは、選択をしたその瞬間に決まっているわけではなく、あくまで選択をした後に決まることだから。自分自身の行動が決めていくこと、というか。）
来年の今日、サクラの写真をあらためて見たときに、いまと同じように「満足感」を持てるよう、これからの一年間を自分なりに歩んでいきたいと思う。
未練も不安もすべて引きずりながら、とにかく自分自身のこころがワクワクする方向へと、これからも進み続けていければと思う。
「立ち止まること、躊躇すること、そんなの全然オッケーさ。
前を向いてさえいれば、それでいいから。きっと大丈夫だから。」
これまでもそうしてきたように、気分がへこんでいる時の自分には、そうやって「焦らずにいこうゼ」と言い聞かせながら。
