国立劇場初春歌舞伎公演二月大歌舞伎

2010年02月03日

寿初春大歌舞伎

寿初春大歌舞伎正月の歌舞伎座は役者が揃っている割に狂言立てがつまらない。夜の部に一つ傑作があるが、それを除けば相変わらずのマンネリ興行。手馴れた芝居しかやらない昨今の幹部役者の怠慢振りが露呈しているわけである。

昼の部
一、春調娘七種
橋之助の五郎が良い。立派な押し出しで、荒事の手本。
染五郎の十郎もまたニンであるが、この人の家で十郎がニンでは困る。
福助の静御前はさしたることもなし。

二、梶原平三誉石切
最近の幸四郎は勧進帳、熊谷、俊寛にこの石切梶原ばかりである。幸四郎の梶原は好かない。まず、幕が開いて浅黄幕で板付き、梶原の花道の出は省略。こうゆうことはあまり宜しくない。時間の都合とは言え、おろそかにされたくはないものだ。また、この役の時の幸四郎はいつも口籠っていて台詞が明瞭でない。更に、爺臭くて折角の立派な体躯がこれでは大損である。唯一良いのは刀を使っての角々のきまりの形の良さ。
左團次の大庭はこの人のニンではない。
歌昇の俣野がこの役では当代一の巧さ。体の動きの良さが抜群である。
東蔵の六郎太夫がなんだか若く見えてしまうのは化粧のせいか。
魁春の梢が上出来。魁春と歌昇の両人がこの一幕の中では御手柄。

三、勧進帳
最近の團十郎の弁慶は以前のような大きさが失われ、線が細くなってしまったので困る。台詞は相変わらずの悪声。肚も薄い。今度は延年の舞も雑。團十郎はそもそも弁慶には向いていない。
梅玉の富樫が貫禄、気迫、情愛を兼ね備えていて傑作。
勘三郎の義経は一通りで、存在感がまるで無いのが意外であった。

四、松浦の太鼓
今月の昼はこれ一本で充分である。吉右衛門の松浦公はこれまでも定評があるから敢えて今回色々と述べる必要はないが、適度の愛嬌と適度の我儘の両方がわざとらしさも無く備わっているのが無類の巧さ。討入の太鼓を聞いてからの芝居の巧さはもはや語るに及ばず。
歌六の其角が前回同様しっかりしていて芝居を引き締める。
芝雀のお縫はさしたることもないが、梅玉の大高源吾が立派で、この役に芯の役者を持ってきたおかげで、吉右衛門の一人勝ちにならずに済んだ。

夜の部
一、春の寿
久々に雀右衛門が出るということで楽しみにしていたが、初日から休演。一日だけ出演したらしいが、最初から出ないと分っているのならば、初日が開く前から休演と代役の発表をしておくべきである。これではある意味詐欺ではないか。雀右衛門のために作った舞踊であるから、代役の魁春に友右衛門以下明石屋一門では何の意味もなさない。

二、車引
これは歌舞伎座さよなら公演史上最高の名演であろう。最近は若い連中の物足りない車引ばかりみせられていて些か欲求不満気味であったが、今回は芝翫、富十郎、吉右衛門という当代最高峰の役者が揃って、芸の火花が散りあっている。観る側もつい力が入ってしまう。
梅王丸と桜丸が出会い、緊張感が最高峰に達した所で二人が笠をとる。吉右衛門の梅王丸と芝翫の桜丸の二人が並んだ錦絵のような舞台にはえも言われぬ感動を覚える。
吉右衛門の梅王丸は実に大きい。大きすぎる程である。あの立派な大きな顔に筋隈が栄え、大音声で、体を使ってこれでもかというぐらいまで荒事の大きさを見せる。角々のお決まりの見得も実に大きい。
芝翫の桜丸は長く大きな顔にむきみの隈取りが少し濃すぎる気はしたが、何と言ってもあの五頭身の体は正に錦絵から飛び出たよう。台詞は良く響き、足取りもまた力強い。
そこへ幸四郎の松王丸が現れる。この人もまた大きな顔で立派な体躯であるから頼もしい。幸四郎の松王丸は車引、寺子屋ともに実に大きいから私は好きである。
芝翫、吉右衛門、幸四郎の三人が揃っただけでも圧巻の大舞台であるのに、そこに更に富十郎の時平公が加わるのだから大変だ。富十郎の時平はいつものような藍隈ではなく白塗りであるが、その芸の大きさで貫禄と凄味を見せる。四人が揃っての幕切れの見得は錦絵そのもので、この大芝居を見られただけでも足しげくさよなら公演に通った甲斐がある
この四人を向こうに回して錦之助の杉王丸が立派である。

三、京鹿子娘道成寺
勘三郎の花子は道行から恋の手習い、山尽しといずれも申し分無い巧さであるが、殊に毎度感心するのは鐘入りで、本当に鐘に吸い込まれていくかのように見える。
團十郎が押戻しで付き合うが、吉右衛門の荒事を見た後では團十郎なんぞ霞む。

四、与話情浮名横櫛
歌舞伎座最後の切られ与三がこの無人狂言で果たして良いものだろうか。
染五郎の与三郎はニンで、海老蔵のなんかよりはよっぽどましだが、まだまだ客が唸るような巧さや面白味がない。
福助のお富もまた然り。この二人では実に退屈である。
収穫なのは歌六の和泉屋多左衛門が貫禄があって舞台を引き締めたことと、弥十郎の蝙蝠安が器用で巧いこと。

c0machi at 02:34│ 劇評 
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