脳の中身:2011年11月

2011年11月

2011年11月23日

『大好きな韓国』／四方田犬彦

大好きな韓国

～もくじとあらすじ～

第一部
第一章　ソウルの現在

第二章　朝鮮と韓国
１．色彩の躍動感
　(1)色彩鮮やかなポシャギという朝鮮時代に庶民が使っていた風呂敷。
　(2)とともに、青磁や白磁に見られる淡い白の美しさ。
２．「朝鮮」と「韓国」という名称について
　(1)韓国では両方とも使われるが、特に「朝鮮」という時は朝鮮王朝時代、または伝統的で肯定的な価値観を持つ場合に使われる。
　(2)日本に追いつけ追い越せと、近代化に進んできた韓国は、1990年代に入ってノスタルジックに朝鮮時代の先祖の文化的な伝統を肯定的に見直すようになってきた。
３．韓国と日本の歴史的なかかわり
　(1)三国時代を形成した百済、新羅、高句麗。
　　　　 → 特に百済は日本とも関係が深く、「くだら」という日本読みは「クン」（大きな）「ナラ」（国）という意味で、奈良はここから由来する（？？？）。
　(2)10世紀になると高麗が朝鮮半島を統一するが、13世紀には元軍の襲来を受ける。
　(3)14世紀末に李成桂が朝鮮王朝を立て、明に朝貢することで平和関係を築く。
　　　①儒教に基づく停滞社会。
　　　②16世紀の終わりに加藤清正などを中心とした日本軍が朝鮮に。
　　　　　　 → この時のトラウマが未だ韓国人の歴史認識にかぶさっている。
　　　③江戸時代には徳川家は儒教や漢籍に精通している朝鮮の知識人を歓迎するなど融和政策をとる。
　(3)1910年から日本の帝国主義的支配の下に植民地となる。
　　　①1919年3月1日に起きた独立運動は、朝鮮半島全体を巻き込む大規模な抵抗運動。
　　　②西大門刑務所で拷問死した16歳の少女柳寛順は、韓国のジャンヌ・ダルクとして讃えられる。
　　　③韓国にとって、現在でも大きな問題は西洋的な近代化が日本による植民地化を通して行われたこと。
　(4)戦後、ソ連軍の大尉だった金日成が平壌に派遣され、1948年に朝鮮民主主義人民共和国が成立、南側でもハワイに亡命中の李承晩がアメリカ軍政権寄りの大韓民国を成立させた。
　(5)朝鮮戦争によって休戦状態が今日まで続く。
４．単一民族
　(1)韓国は世界的にも珍しい単一の民族国家。
　(2)極めて強いナショナリズムを持っているため、しばしば少数派の外国人への排他が見られる。
　(3)アジア諸国においてチャイナタウンを持たない唯一の国。
　(4)韓国系の人間は世界中に散らばっていて、例えばスターリンの民族隔離政策によって強制移住させられた朝鮮民族もいる。
　　　　　 → 現在でもサマルカンドでキムチを作る。
　(5)移民した韓国人の多くは排他的な民族意識を一向に変更しない。
５．韓国の宗教
　(1)高麗時代までに勢力を持っていた仏教は、朝鮮時代に入って貶められ、逆に儒教が大きく発展。
　(2)しかし、日本とは異なり、仏教と道教、固有の民間信仰である山の神や動物の神と結合することで巫堂といわれるシャーマニズムのシステムが渾然一体となって信仰をつくる。
　(3)朝鮮戦争以来、キリスト教が入り込み、現在全人口の38％が教徒となっている。
　　　　　 → 長く続いた受難を都合よく説明しているため、最適の根拠とされるようになった。
６．ハングル
　(1)「訓民正音」と呼ばれ、1443年に朝鮮王朝第4代国王世宗のもとに集まった学者により考案。
　(2)しかし、朝鮮時代は文化的に劣った「便所」文字と言われていた。
　(3)漢字は中華文明の象徴であり、これを顕彰すべきでないという民族主義から漢字が廃止される方向に。
　(4)しかし、解放後の民族主義的教育が漢字の理解能力を殆ど奪ってしまったといえる。

第三章　日常の心得
１．「ウリ」の概念
　(1)韓国人がよく使う、「われわれ」と訳せる語。
　　　　　 → しかし、ただのweではなく、自分の背後にある帰属すべき共同体を指す。
　(2)韓国人は共同体の内側（ウリ）に属する者の間では極めて礼儀正しいが、外側の者に対しては人間として対等に扱おうとしない。
　　　　例）間違い電話で日本では丁寧に指摘するが、韓国人はそのままガチャっと切ってしまう。
　(3)新しい世代はこのウリ意識に反発し、個人を主張しようとする。
　　　　 → それゆえ、語り手の人称が「僕」である村上春樹の小説が圧倒的に若者に人気となっている。
２．自尊心
　(1)常に自分がトップであることを願い、栄光に包まれることを夢見る上昇志向の強さ。
　(2)その裏返しとして、朝鮮民族が持つ「ハン」（果たせなかった憧れの大きさ）を歴史的に長年持たされてきたということがある。
　(3)いかにも目に見えるところに自分のプライドの根拠を置き、裕福な者はそれをアピールし、美人はツンとして行動する。
　(4)また、その歴史ゆえに朝鮮民族は特権的に救済されるべきという確信を持っている。
３．家族
　(1)韓国人女性は結婚しても姓を変えない＝誰が父親であるかの方が重要なため。
　(2)女性は族譜には入れてもらえず、妻は男の子を産むための存在であり、娘はどこまでも父親の所有物と見られた。
　(3)その純潔意識ゆえ、同性愛は家族意識を解体するために極度に警戒されている。
４．地域差別
　(1)全羅道と慶尚道の対立は強い。
　(2)地域対立は1960年代後半にかなり政治的演出がなされた結果、強められる結果になった。
　(3)韓国が独立してからほとんどの時期は慶尚道出身者であり、1998年に全羅南道の島出身の金大中政権が誕生した＝「ハン」が解けた。
　(4)済州島も常に差別と収奪の対象とされてきた。
　　　　　 → 現在でも政治的発言権をほとんど持っておらず、リゾート化ばかりが進んでいる。
５．職業の貴賎意識
　(1)現在でも韓国では職業の貴賎意識が強く、現場での手仕事を特に卑しく思う傾向がある。
　(2)例えば食堂商売に成功しても、韓国人はすぐに店を売るか管理職となる。
　　　　　 → 日本のように老主人が現場にいるということが存在しない。
　(3)芸能界も社会低地位が低く、美人女優が財閥の御曹司と結婚すると未練なく芸能界を去るのも必然。

第四章　街角の言語
１．徹底的に管理された日本の街角とは異なり、学生運動から労働団体や市民団体によるデモが活発。
２．韓国の街角を歩いていると、公衆の面前で堂々と喧嘩をしている光景を良く見かける。
　　　　　 → 周囲の観客に披露するパフォーマンス性を強く帯び、そのために罵倒語が発達している。
３．ハイカルチャーに達すると、日本のような厳粛な様式性を持たない独特の民衆演劇が生まれる。
　　　　　 → 仮面舞踏であるタルチュムは日本の能と比較されるが、まったく違ったもの。

第五章　食事に見る世界観
１．韓国料理の多様性
　(1)基本的には日本の焼肉文化と韓国料理は大きな差異がある。
　　　　　 → ホルモン料理は本来韓国にない。
　(2)韓国＝肉の国ではなく、本来は菜食中心の豊かな食文化を持っている。
　(3)韓国人は平気で食べ物を残す。少しずつ残しておくのが望ましいということになる。
　(4)日本人は素材そのものの味覚を味わおうとするのに対し、韓国人は色々混ぜ合わせて同時に色々なものを口にいっぱい食べるという考え方が根底にある。
　(5)食べるということは、共同体への帰属行為であるということであり、韓国人は一人で食べることを嫌う。
２．肉の食べ方
　(1)ホルモンは焼かずにスープとして食べる場合が多い。
　(2)肉は基本的にはあらかじめマリネにしてから焼き、日本のように焼いたものにたれをつけて食べるわけではない。
　　　　　 → 日本のこうした食べ方は刺身の延長。
３．キムチ
　(1)毎年11月の立冬を迎える頃になると、キムチ作りが各地で見られる。
　(2)現在の形になったのは、比較的新しいことであり、白菜キムチを韓国人が普通に食べるようになったのは20世紀になってから。
　(3)伝統的にはカブ、セリ、ニラ、ネギなど。
４．ミッパンチャン
　(1)フランスのフルコースとは異なり、おびただしい数の料理の品目を一時にならべる方式。
　(2)これは韓国の日本料理店でも同様で、握りずしを注文したとすると、突き出しにサラダ、次に乾き物、てんぷら、など次々に料理が給仕される。

第六章　女たちの世界　化粧と美容整形
１．美人至上主義の韓国
２．韓国女性にとっての幸福とは、美人であって経済的に富裕である男と結婚して男の子を産むことを意味する。
３．韓国化粧の歴史
　(1)1970年代までは控えめで、1980年代から次第に化粧が濃くなっていった。
　(2)1990年代後半からは西洋を真似た唇を強調するスタイル。
　　　　　 → 女性の発言権、自己主張に大きく関係。
４．日本の女性は自然さ、可愛らしさを強調する＝男性から誘惑される状況をつくる表情が多い。
　　韓国の女性は大人っぽさ、美しさを強調する＝自分から男性を誘惑する姿勢や状況が多い。

第七章　男たちの世界　徴兵制
１．徴兵検査は数えで19歳になる年に義務付け、服役期間は陸軍26ヶ月、海軍28ヶ月、空軍30ヶ月。
　　　　 → 父親か兄弟が戦死・重傷者の場合や、混血や親のいない者、国際的に活躍したスポーツ選手は免除される。
２．30歳までに終えておく義務になっていて、絶対服従の軍隊経験を積む。
　　　　 → 祖国を守るという大義名分はあるものの、本心は行きたくないのが心情。
３．新兵のたいがいの悩みは娑婆に残してきたガールフレンドで、9割がた上手くいかなくなる。

第八章　映画の新しい波
１．韓国映画の高揚期
　(1)日本統治時代･･･独立運動に材を採った『アリラン』が大ヒット。
　(2)1950～60年代･･･大衆娯楽の王様となる。『春香伝』が公開される。
　(3)1980年代･･･朴正熙政権が終焉し、一時的な自由化の波に乗ってヒューマンドラマが制作。
　(4)1990年代･･･ブロックバスター映画(記録破りの映画)の登場
２．ブロックバスター映画の特徴
　(1)韓国イデオロギーの世界化を体現し、ハリウッドを模倣するなどの試み。
　(2)民主化闘争を勝ち抜いた三八六世代によって担われ、海外で勉強した監督が多い。
　(3)韓国臭さから脱却し、視覚的テクノロジーなどを駆使。
　(4)国家が積極的に映画作りを後押し。

第九章　日本観の変化
１．「ハン」の対象としての日本
　(1)反日感情は常に同一のものではなく、解放以前の日本人を知っている世代が退くと、日本についてほとんど知識を持たないハングル世代がステレオタイプの反日論を主張するようになる。
　(2)政治家は与党基盤が弱くなると反日論を唱え、国民人気を得ようとする。
　　　　　＝反日こそが反共と並ぶ強力なイデオロギー
２．日本に対する文化的優越性を固く信じ、これが韓国人みずからのアイデンティティを保つものとなっている。
３．1990年代には反日小説なるものが大ブーム。　例）金辰明の『むくげの花が咲きました』
４．しかし、1990年後半に日本文化が解禁されると、若い世代にとって日本が近くなり、「日本文化帝国主義糾弾」などの言葉は説得力を持たなくなってしまった。
　(1)1990年代初頭には村上春樹ブームが起こり、衰えを見せない。
　(2)1998年頃から日本人でありながらミズノ先生と呼ばれてTVでレギュラー出演する人も出てくる。

第二部　ソウル食べ物日記

第三部
第一章　韓国の色彩

第二章　『春香伝』の諸相

第三章　ウリと他者

拉致と帰属

～総評～
現在の韓流ブームなるものの前に書かれた韓国論です。
韓国人の「ウリ」意識、「ハン」感情について、著者の体験や様々な参考文献を交えながら語られているので、分かりやすかったです。
韓国人の美人がツンとしているような感じを受けるのも、その国民性を知ることで温かい目で見ることができるようになると思います。

しかし、表向きは文化相対主義を訴えていながらも、細かいところに韓国に寄った記述も多く見られます。
例えば、奈良が韓国語の国を表す「ナラ」が由来と言う説が登場しましたが、この説は歴史的根拠が乏しいとしておなじみなのにも関わらず断定口調なのはいかがなもんでしょう。

また、インスタントラーメンを作るときの両国の国民の違いが書かれていますが、「日本人は必ずそこに書かれている説明を律儀に読んで、三分間とあるときちんと三分間待ち、ネギと卵を入れろとあると、ネギと卵をきちんと準備してから調理をする」(p94)との記述は、強い疑問を感じます。
「必ず」なんて言っていいものなのでしょうか。ここから韓国人の即興性の豊かさに話がつながりますが、確かにそういった一面はあるにしろ、あたかも日本人の行いはとっさの時に反応できないと暗に言っているようであります。

さらには、第二部・第三部は、第一部の重複が多く、なぜこの本に掲載されているかもよく分かりませんでした。
白黒で図もあまり出てこないこの本に、料理を紹介する第二部はあまりぱっとせず、読者層を考えれば第三部のような小論文は誰向けなのか分からない。
第一部に加筆修正するだけで十分だと思うのですが。。。

ともかくとして、韓国人入門者には読んでおいて損はないとは思いました。

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2011年11月11日

『ウソの歴史博物館』／アレックス･バーザ

ウソの歴史博物館 (文春文庫)

～もくじとあらすじ～

１　中世とキリスト教の展示室　1700年以前
１．中世の教会の偽造文書
　(1)修道士と聖職者は公文書に近づく権利を独占してきたため、文書の改竄・偽造を意のまま行う。
　(2)偽書のほとんどは見破られずにいたが、ルネサンス期に歴史学が復興すると、疑念を抱く学者が現れた。
２．中世の聖遺物売買
　(1)中世ヨーロッパでは聖遺物売買が盛んに行われてきたが、その多くは偽物。
　(2)聖人と殉教者の骨や体から、キリスト・マリアにかかわる遺物まで様々なものがあった。
　(3)しかし、たとえ偽物であっても奇跡さえ起こすことができれば“本物"となる。
　　・トリノの聖骸布は、磔にされたキリストを包んだ布として1355年頃に初めて登場。
　　　　　 → 持主を転々とした挙句、1983年にローマ教皇庁に寄贈、偽物とわかった後も信じない人が多い。
３．中世の旅行奇談
　(1)西ローマ帝国の衰退により他地域との交流がなくなり、外の世界に関する知識は事実と空想が混ざる。
　(2)13世紀から貿易が徐々に復活した後も、事実にもとづく報告はなかなか行われなかった。
　　・茶の習慣・木版画・纏足などの記述がないことから、マルコ･ポーロは中国に行っていないのでは？
　　　　　 → 反対派もいるが、黒海あたりにいても中国の情報は分かるともされる。
４．終末論
　(1)世界の終わりを予言するノストラダムスが登場(1503～66)
　(2)16世紀以降、終末論は清教徒を通じてアメリカへ伝わり、アメリカには最後の審判の予言を信じる人が多い。
５．ルネサンス期の贋作
　　①15世紀の高名な学者ジョヴァンニ・ナンニは、生まれ故郷に輝かしい過去をでっちあげるために手の込んだ古代文書や碑文を偽造。
　　②若き日のミケランジェロがローマ時代の遺物として彫刻作品をつくり、それをある枢機卿に売却。
　　　　　 → 贋作と分かっても、その際立った才能に見逃される。現在それは行方不明。

２　贋作と啓蒙主義の展示室　18世紀
１．ペテンが芸術までに高められ、単に人をだますだけでなく啓蒙･生活改善の手段ともなる。
２．しかし、それだけではなく、大衆文化が多種多様なインチキやペテンを生み出す。
３．ベンジャミン･フランクリンのいたずら
　(1)いたずらで世の中を諷刺し、愚かさや悪習を露にした。
　(2)彼らの啓蒙のおかげで世論の大切さが浸透することに。
　　①サイレンス・ドゥーグッドという名で植民地アメリカの日常を揶揄し、腐敗とエリート主義を批判。
　　②未婚で出産したポリー･ベイカーが、「夫ではない男と関係を持ったことへの罪」の正当性に意義を唱えた、との陳述が新聞紙上に。
　　　　　 → ベンジャミンによるもので、未婚の母のみを罰し、父親の罪を不問とする不公平な法律に注意を引く狙い。
４．18世紀の文芸贋作
　(1)印刷文化が発達し、識字率が上がったため、文字によるいたずらが増えた。
　(2)中世以前の文物や歴史に世間の関心が高まる。
　(3)贋作が、本物と見分けるために学者の分析力を向上させるという皮肉な結果に。
５．カモノハシ
　(1)1799年、大英博物館の自然史博物学部長のジョージ･ショーは、カモノハシの標本をオーストラリアのキャプテン･ジョン･ハンターから受け取る。
　(2)しかし、体の構造に手を加えたものであり、でっちあげではないかと思った学者も多数。
　　　　　 → 結局、別の標本が到着し、実在するものと認められた＝インチキが実は本物だった例。

３　大衆新聞と見世物の展示室　1800-1868
１．1830年代に登場した俗悪なペニーペーパーが保守的な６セントペーパーを凌駕。
２．19世紀の企業家や興行したちがペテンを利用して顧客第一という価値観を宣伝。
　　　　　 → P・T・バーナムはこの道の達人。
３．1814年の株式詐欺
　(1)ナポレオン戦争の終結とナポレオン殺害、ブルボン王政復古がロンドンに知られる。
　(2)投資家達は株価をせり上げるも、ナポレオンの訃報はデマだった。
　　　　　 → 政治家のトマス・コクランを首謀とするロンドン市場の株価を操作する意図があったとされるが、真相は謎のまま。
４．月のホラ話
　(1)1835年の『ニューヨーク･サン』紙に、月で生命体発見との情報。
　(2)ガセだと分かったものの、権威ある6セントペーパーの多くは担がれた。
５．ルア・バック(政敵を中傷するデマ)
　・1844年のアメリカ大統領選挙で、当時のホイッグ党が民主党候補の醜聞を捏造。
　　　　　 → すぐにデマだと分かり、ホイッグ党は選挙で惨敗。

４　珍獣と偽造写真の展示室　1869-1913
１．ホラがアメリカで隆盛を極め、文化として認識されるようになった。
２．地中の巨人
　(1)1869年、ニューヨーク州カーディフで巨人が出土される。
　(2)10フィートの巨人を見るため、ひとり50セントの入場料にもかかわらず、多くの見物人が押し寄せる。
　　　　　 → 大儲けをする方法として、煙草商ジョージ・ハルが作ったものであり、偽物だったが、バーナムが借り受け、模造品を作らせて展示した。今日でもニューヨーク州クーパーズタウンの農民博物館で展示。
３．クロンダイクの虫
　(1)1898年カナダで、ホワイトという若者が『クロンダイク・ナゲット』紙の売れ行きを上げるため、氷河に“氷虫”がいるとの記事を書く。
　(2)町では、氷虫探しが地域の慣習となり、氷虫祭が毎年開催される(現在も)。
　　　　　 → ただのホラ話だと信じられていたものの、科学者たちは実際に生息していることを証明する論文を発表。
４．ペテンと山師
　(1)平等に行き渡っていない富を、持たざる者が持てる者から頭をひねって巻き上げようとする。
　(2)キャシー・チャドウィックは鉄鋼王カーネギー庶出の娘と自称。この主張だけをもとに、クリーブランドの地方銀行と金持ちから200万ドルを借り出す。
５．ジャーナリズムのペテン
　(1)19世紀末までにペニーペーパーは変貌を遂げ、ペテンを是認する方向から転換。
　(2)しかし、センセーショナルな報道は奨励。
　　　・ハースト青年は『ニューヨーク・ジャーナル』紙を買収し、キューバの反乱軍とスペイン人との闘争を挿絵画家に描かせる。
　　　　　 → 合衆国は、記事をきっかけとして本当にキューバをめぐってスペインと戦争を始める(米西戦争)。
６．インチキ写真
　(1)1839年、ルイ・ダゲールが銀板写真法を発見、人間の介入なしに印象を記録する手段に思われる。
　(2)真実や客観性と結びついたことで、逆にペテン師にとってはもってこいの商売道具となった。
７．『シオンの議定書』
　(1)20世紀初頭にロシアに現れ、20世紀を通してユダヤ人迫害を正当化するために利用された。
　(2)世界の金融界を支配し、キリスト教会の権威を覆して世界制覇をするユダヤ人の極秘計画。
　(3)原典は1865年の『マキアヴェリとモンテスキューの冥府での対話』という文書。
　　　　　 → この本の皇帝ナポレオン3世をシオニストに代えたにすぎない。
８．北極点一番乗り
　(1)1909年、ロバート・E・ピアリーとフレデリック・A・クックがほぼ同時に北極点到達を発表すると、論争に。
　(2)ピアリーは1909年4月6日に北極点に到達したと主張しているが、5日前にクックが1908年4月21日に到達していたということが発表。発表が遅れたのは北極の無人の地で1年以上も道に迷っていたと釈明。
　(3)論争後、クックの人間性も疑問視されたため、ピアリーの主張が通る。
　(4)しかし、歳月が経つにつれ、主張を裏付ける証拠がうすすぎたため、ピアリーにも批判。
９．ピルトダウン人
　(1)20世紀はじめの科学界は、進化の過程での人間と類人猿とのミッシング・リンクの化石を求めていた。
　(2)1907年、2つの種の特徴を併せ持つ顎の骨がドイツで発見。
　(3)やがて1912年、チャールズ・ドーソンがさらに確実な遺物を発見。ピルトダウン人と名付けられた。
　　　　　 → しかし、顎骨はオランウータンの物であり、それを変造してでっちあげた。

５　ラジオと近代芸術の展示室　1914-1949
１．大衆文化の影響と折り合いをつけようとするペテン
　(1)メディアを利用して大衆を操作するウソやプロパガンダ。
　　　　　 → ラジオの登場によってこの脅威は増強。
　　　①1926年、BBCラジオがロンドンでの暴動を流す。
　　　　　 → コメディ番組の一部だったものの、聴取者の大部分が混乱する結果に。
　　　②1938年、CBSラジオが火星の表面から炎が上がっているとのニュース速報を流す。その後も、ニュージャージー州に火星人を乗せた宇宙船が漂着とのニュースもあらわれる。
　　　　　 → 劇団の番組の一部であり、ウェルズの『宇宙戦争』を現代風にドラマ化したものだった。
　(2)メディアの力を讃え、自分たちの目的に積極利用しようとする広告業界。
　　　　　 → 顧客の要求ではなく、消費者の欲求を作り出そうとする。
　(3)大衆消費主義や前衛芸術の侵害からエリート文化を守るためにペテンを利用する。
　　①アルチェロ・ドッセナは古代彫刻の複製をつくって生計を立てていたが、その天才的な腕に目をつけた古美術商が無断で本物の古代彫刻と偽って売り始めた。
　　　　　 → ドッセナは自ら贋作であることを暴露したが、未だに真作として美術界に出回っている。
　　②1916年、“幻影派”なる流派の作品が登場、たちまち新流派としての評価を得た。
　　　　　 → しかし、当時の実験主義を諷刺しようとしてつくられたでっちあげ。
２．生き残った恐竜の発見のため、水中に目が向けられる。
　(1)古くからスコットランドのネス湖での怪獣生息の噂。
　(2)1933年ごろ、ネス湖で怪獣が目撃されたと話題になった。
　(3)足跡が発見されたものの、それは乾燥させたかばの足でつけた跡だったことが分かる。
　(4)しかし1934年、水中から頭をもたげる大蛇の細長い首の写真がうつる。
　　　　　 → 1994年、海蛇の模型を造り、それをネス湖に持っていって写真を撮ったことが判明。

６　TVとカウンターカルチャーの展示室　1950-1976
１．冷戦が始まったことにより見せかけの平和が訪れ、それとともに陰謀説や政府の秘密計画の噂。
２．大衆の妄想に答えるかのごとく、トリックスターが登場。
　(1)アラン・アベル
　　①1959年に「裸の動物の無作法推進協会」の設立。
　　②ブロンクスの主婦イェッタ・ブロンシテインなる人物をアメリカ大統領にするキャンペーンを取り仕切る。
　(2)ディック・タック
　　①ニクソンに惨めな思いをさせてのし上がる。
　　②ごみ収集車のトラックの横腹に「ニクソンを投棄せよ」と標語をつけ、ニクソンの演説の時に発車するなど。
３．サブリミナル広告
　(1)1秒の何分の一かだけにメッセージを画面に写すことで潜在的にメッセージを近くし、暗示に従って行動を起こすというもの。
　(2)1957年夏の実験において、サブリミナル広告を見せたところポップコーン、コカコーラともに売り上げを伸ばしたとされる。
　　　　　 → しかし、結果はどこにも発表されないばかりか、1962年にでっちあげだったことが判明。
４．需要の創造
　(1)ラジオDJのシェパードは、リスナー達と一致団結してメディアを操り、存在しない本の需要を作り出せないかと計画。
　(2)リスナー達が口コミで情報を伝え、噂をメディアで取り上げる。
　　　　　 → 結果、ありもしないその本が、雑誌や新聞にも取り上げられ、結果的にバランタイン・ブックスが作家に頼み、本当に本にしてしまった。これがベストセラーに。

７　宇宙人とメディア不信の展示室　1977-1989
１．経済産業が製造業から情報・サービス業へ転換、不安で不透明な時代に。
２．ジミーの世界
　(1)1980年、ワシントンDCの貧困層に蔓延しているヘロインの犠牲者ルポ内に、母親と同棲している男にヘロイン中毒にされたジミーという少年の話が掲載。
　(2)しかし、ジャネット・クック記者による捏造と判明、いつもスクープを要求する『ワシントン・ポスト』紙の編集者を満足させるためにやったことだと話す。
　　　　　 → たとえでっち上げでも全米各地のスラム街の真の姿を伝えるもの。
３．ヒトラーの日記
　(1)1983年、ドイツの雑誌『シュテルン』は、1932年から45年まで62冊にも及ぶヒトラーの日記が発見されたと報じる。
　(2)メディアは騒然となるも、用紙の素材を調べたところ、漂白剤や繊維は全て第二次世界大戦のものだと判明。日記の内容も驚くほど無味乾燥で、しかも盗作だった。
４．タワナ・ブローリー事件
　(1)1987年、タワナ・ブローリーという名の15歳の黒人少女がゴミ袋に入れられて横たわっているのが発見された。
　(2)ブローリーは白人の男性グループにやられ、レイプ・暴力を加えられたと証言。
　　　　　 → しかし、レイプや暴力を受けた痕跡が見られず、ブローリーを発見した団地の住人がブローリー自らゴミ袋に入ったと証言。

８　インターネットと消費社会の展示室　1990-1999
１．情報が溢れ、デマと本物の識別が困難に。
２．マイクロソフト、カトリック教会を買収
　(1)ビル・ゲイツは宗教を成長市場だと考えており、宗教を気軽に楽しめるようにするため、マイクロソフトは電子バイブルの独占権を獲得、信徒はオンラインでサクラメントが受けられるようにする。
　(2)しかし、これは明らかにマイクロソフトの商売方法を諷刺したもの。

９　9･11とウェブサイトの展示室　2000年以降
１．情報の過多により見分ける技術の要求。
　　　　 → ぼんくらだけでなく、『ニューヨーカー』や『ナショナル・ジオグラフィック』などの一流紙も騙される。
　　例）1999年、中国北東部で恐竜と鳥とをつなぐミッシング・リンクが発見され、『ナショナル・ジオグラフィック』紙を飾る。
　　　　　 → しかし、発見した中国人科学者が作り上げたものと判明、有名な1912年ピルトダウン人にちなんで、ピルトダウン・チキンと命名される。
２．大陸間の情報のやり取りが迅速にできるようになり、国内のウソも簡単に海外へ発信する。
　　例）2001年、ロヴェンスタイン研究所というシンクタンクが、過去50年の歴代アメリカ大統領のIQを調査した結果、ジョージ・W・ブッシュが最下位でIQ91しかなかったというメールが広がる。
　　　　　 → メールは冗談で作られたものだった。

～総評～
もっと深く突っ込んで読みたいものはあったものの、単なるウソとはいえない社会問題となったものなども紹介されており、なかなか面白かったです。

特に、ブッシュのIQはこの本を読むまで完全に信じていた(というか誤報だったという情報を読んだことがなかった)ため、こういったウソでも、広がりをもってしまうと収拾には困難なのだなということが分かります。

また、「火のないところに煙はたたぬ」といって、疑いのかけられた人や事件を正当化する向きがありますが、ものによってはマス・メディアが「火に見せかけて煙をたきつける」ということも数多くあるのだな、ということを再認識いたしました。
もしや、マス・メディアには未だ18～19世紀に見られるような、大衆を啓蒙してやるとの思い上がった風潮があるのでしょうかね。

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