日本の和製英語で「アメリカン」は「濃度が薄い」という意味に拡大しているところがあります。
そして実際に日本には、2種類の「アメリカン・コーヒー」があります。

ひとつは“アメリカ合衆国”の伝統的なスタイルのコーヒー。
アメリカ合衆国では、8段階で表示されるコーヒー豆焙煎度分類法で、焙煎度が低いシナモンロースト(浅煎り)やミディアムロースト(やや浅めの中煎り)の豆を使って、パーコレータなどのコーヒーメーカーで多めのお湯で淹れる方法が、とくに西部地方で主流でした。 

このようなスタイルになった理由としては、「アメリカ西部の水質がアルカリ質だった」こと、「カウボーイ達が厳しい自然環境の中で、暖を取るために薄い珈琲を沢山飲んだ」ことが挙げられます。薄いコーヒーなら砂糖を入れないでもよいというのも利点でした。

西部開拓

当然のことですが、アメリカ合衆国ではわざわざ自国のコーヒーを「アメリカンコーヒー」と称しません。

もうひとつの「アメリカンコーヒー」は、正式には「カフェ・アメリカーノ」と呼ばれるもので、ヨーロッパのスタイルです。こちらは「濃く淹れたコーヒーにお湯を足して希釈するタイプ」のコーヒーです。

カフェアメリカーノ

私たちのお店のメニューはこちらのタイプ、「カフェ・アメリカーノ」です。

日本にこのメニューが伝わったひとつのエピソードは1966年のこと。
日本にリヴァプールの4人組が上陸した年です。

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そう、「The Beatles」です。

ビートルズのメンバーが東京で宿泊していたホテルでのこと。
メンバーのひとり、John Lennonが、「自分がいつも飲んでいるスタイルのコーヒーを淹れて欲しい」と願い出ます。
それが「カフェ・アメリカーノ」でした。

イギリスではコーヒーだけでなく、紅茶もお湯で希釈する場合もあります。
イギリスでは「Tea for Two」という慣習があって、ひとつのポットにふたり分の紅茶を淹れて、二人で一杯ずつ飲みます。(なぜか日本では「おひとり様メニュー」になってしまっていますが・・・)
その場合、紅茶の濃さの好みが違うこともあります。
濃い飲み物を薄めることはお湯を足すことで簡単にできますが、薄い飲み物を一人分だけ後から濃くするのは労力を要します。
濃さの好みが違う二人が同じ飲み物をシェアする智慧ですね。

さて。

そのホテルにコーヒーを卸していた業者は、その飲み方がヨーロッパで「カフェ・アメリカーノ」と称されることを知らず、ただ「そういう飲み方があるのか!」と、その時初めて知ったそうです。
「これを日本でも流行らせよう!」
ということになりましたが、ネーミングをどうするか?で、社内で会議があったそうです。

日本では、

イギリス=紅茶
コーヒー=アメリカ合衆国

というイメージがしっかりと定着している時代。
「ブリティッシュコーヒー」とネーミングしても受け入れられないだろう、と判断されました。

今でこそ、「そんなぁ~」と思うエピソードかもしれませんが、翻訳家の方とのお話でも、その時代に異文化の言葉を置き換える難しさは常にあるそうです。

「大草原の小さな家」のローラのお母さんの名前「キャロライン」も、キャロライン洋子さん以降の世代は違和感無いでしょうが、その前の時代の方には馴染めない読みで、「カロリン」と訳されています。

後の時代からは笑い話になりそうですが、その当時の訳す苦労は真剣そのもの。
今でも「ハイディ」は「ハイジ」のままであるように、本来の言語に近い音に変えるのは抵抗を伴う場合もありますから。

話がそれました。
イギリス式の薄めのコーヒーのお話です。
で、結局のところ、「アメリカンコーヒー」とネーミングして流行らせることになりました。
こうして日本には2種類の“アメリカン”コーヒーが誕生することになったのです。

John Lennonが愛飲していた「カフェ・アメリカーノ」。
ユウのメニューにオンリストしております♪

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