やっぱりどうしてもサプライズ好きという人が一定数いて、ちょっとしたものだとそのへんのバーで飲酒していると突然店内が暗くなり、店員がハッピーバースデーを合唱しながらケーキを誕生日の客のところに運んで行って店内全員強制拍手みたいになるあれである。

その程度でもきっと昔はとんでもないサプライズというか、店の人やほかの客を巻き込んで自分をお祝いしてもらう、ちょっとした劇場型バースデーであり、サプライズ好き遺伝子Surprise1みたいなのを持っている人にとっては、この上ない幸せというか、よかったねーよかったねーと心からお祝いしてあげたい気持ちになる。

ところがこのサプライズ好き遺伝子Surprise1を持っていない人間(Surprise1ノックアウト人間)というのも当然いて、例えば自分である。5歳の誕生日に下北沢の料理店に家族3人で行ったのだが、食事が終わり、さあ今からデザートだ、というところで店内が暗くなった。自分は結構ませていたのでこの時点でサプライズの存在に気がついた。しかし、つじつまが合わないことがあるぞ、と思った。自分の両親はともにSurprise1ノックアウト人間なので、家族で食事をしているときに限って、こんなことがあるはずがないのだ。

すると髭を生やした二人のホールスタッフが満面の笑みでハッピーバースデーを歌いながらこちらに近づいてきた。父も母も頼んだ覚えがないので困惑している。ああ、しかもプレートに書かれた名前が「かみうくん」になっている。ちげえよ。かみゆだよ。そう、ここで注目すべきはこれが20年以上前の話であるということだ。すでにこの時点で、世の中は勝手に店がサプライズを仕掛けてくる、サプライズ戦国時代に突入していたのである。

Surpirise1遺伝子も変異を繰り返し、その表現形も変遷してきた。サプライズの内容はどんどん進化しており、例えば高級料理店で食事をしたとき、食べ終わったお皿に「will you marなんとか?」みたいなことが書いてある。はっ、とした彼女が顔面を両手で覆って、がくがく頷いてyesというと、ちょっとゆっくり目から始まる拍手で店の人が入ってくる、みたいな内容はめちゃくちゃ手が込んでいてすごい!と思うのだが、そんなものは序の口、序二段、三段目、幕下、十両と調子に乗って関係のない相撲の番付の話をしてしまいそうになったが、そんなものは序の口で、例えば同様に夜景のみえる高級料理店で食事をしていると、彼が、「あ、あのビルみて!」といって指差したビルの灯りが、仲間たちの努力によって一斉に切り替わり、「will you marなんとか?」がまた表示され、ダイヤの指輪を彼がひざまづいて渡すと彼女が再び顔面を両手で覆って、がくがく頷いてyesというと、再度ゆっくり目からはじまる拍手で店の人が闖入してくるというパターンもある。

また、「今日はこのホテルのスイートをとっているよ」などと言って彼女を喜ばせたのち、いいよ、先入って、と促された彼女が部屋に入るとバラの花びらが部屋中に敷き詰めており、その真ん中ではホテルの支配人が死んでいた。「きゃー!!!はじめちゃん!」「くそっ、この事件は必ず俺が解いてみせる、ジッちゃんの名にかけて!」

と勝手に金田一少年の事件簿になってしまったが、そうではなくて部屋中にバラの花びらが敷き詰めており、一番奥には風船で吊り下げられた支配人の死体と壁に血で書かれた「murder」の文字。「あっ、あっ、次は俺の番だ、あいつが生き返って復讐してるんだ、あああああっ」と次に殺される役の人の真似をしても仕方ないのだが、バラの花びらが敷き詰めてあって、「ここ座りな」と彼が彼女をベッドの上に座らせると「がー」という音とともにスクリーンが降りてきて、今までの二人の思い出が次々に映し出されて、最初は「ちょっとまーくんなにこれー、えー」とにやにやしていたものの、「つらいときも」「たのしいときも」「いつも二人いっしょでした」などの文言とともに東京ディズニーリゾートに行った2ショット写真が映し出されると感極まってきて、そして最後に「will you marなんとか?」が再び表示されると彼女が顔面を両手で覆って、がくがく頷いてyesというと、ゆっくり目からはじまる拍手で店の人が部屋に闖入してくるってお前はどっから付いてきたんだよ部屋まで入ってくんじゃねえよなんて話はない。

最近流行り、というか一度眼前で目撃者になってみたいシチュエーションとしては、たとえば公園のオープンカフェなどでカップルが食事をしていると突然米国の軽妙な音楽が流れ始め、いきなり数人の通行者が取り憑かれたように踊り出す。それもちょっとした踊りとかではなくて、ちょっと真似できないような激しくダンサブルな踊りを始める。するとどんどん通行人が乱入してきたかと思いきや、実は彼らもダンスの化け物に取り憑かれた側の人間で、急に激しく踊り始め、無理やり引っ張ってこられた通行人と思しき人も、ひとしきり困惑した顔を見せたかと思うと、やはりお前もそっち側の人間か!と言いたくなるようなスイッチの切り替わり方でダンサブルなナンバーを踊り始める。そうこうしているうちにランドセルを背負った学童の少女たちが間違って入ってきてしまうのだが、彼女たちもやっぱりキッズダンスアカデミーかなにかの回し者で、すぐに激しく踊り出してしまう。すると隣のテーブルのカップルの男が立ち上がって激しく踊り始め、なーんだ、こっちのサプライズか、と思っていると、その驚愕したふりをしていた彼女もやっぱりエグザイルの事務所かなにかのダンサーなのだろうか、激しく踊ってしまい、いよいよ曲もCメロが終わる、というところで満を持して彼が乱入、ちょっとたどたどしいけど頑張って踊りきり、テンポよく作られた花道の片側に彼女は留置され、反対側から男が近づいてきたところでタイミングよく曲が終了、「えー、隠しててごめん、今日は、ミナに言いたいことがあります」などと言うと観客がひゅー、とかひょーとか叫び、「結婚してください」と言うと、あ、ほら、言わんこっちゃない、彼女は顔面を両手で覆って、がくがく頷いてyesといって、またひょーとなる、あれである。フラッシュモブ。

 flpic2
figure1 フラッシュモブをしている市民の様子 1)

このように激しくSurprise1遺伝子を持った人は進化を遂げてきた。素晴らしいことである。自分もできることならばこういうサプライズをしてプロポーズをしてみたいものである。

と、いま自分は嘘をいった。冒頭に述べたように自分はSurprise1ノックアウト人間であり、相手がSurprise1遺伝子を持つ人である場合は、最大限頑張ってちょっと個室で花束を用意しておくくらいのことはできるかもしれないが、金田一とか、will you marなんとか?とか、フラッシュモブなどはちょっと自意識が邪魔してしまって、正常の精神状態、もしくは意識レベルではどうしても、どうしてもできないと思う。これはもう、Surprise1遺伝子を持っている人にとっては、最悪、というか、興ざめな人間とみなすしかないのであろうが、ちょっと自分では難しい。なので、同僚がさらっとサプライズをした、などという話を聞くと、むちゃくちゃ羨ましい気分になる。

なので、もし相手がSurprise1遺伝子を持つ人であった場合、方法は二つで、一つは素直にショボ目のサプライズで我慢してもらう、この場合、彼女が顔面を両手で覆って、がくがく頷いてyesというと、ゆっくり目からはじまる拍手で店の人が部屋に闖入してくるというシチュエーションが期待できず、最悪やり直しを命じられたりする可能性すらあり、そうした場合はもう一つの方法をとるしかなくて、つまり、解離するしかない。意識は清明なまま自己同一性を失って、自分ではない人がこれをやっているということにして、自分の意識はどこかに飛ばしておく。そうすると、目が覚めたらプロポーズが終わっている。踊れるはずのないダンスを踊れるようになっている、といういいことづくしなので、やっぱりこれしかないな。まあそもそも、その展開を空想するようなシチュエーションに全くないので、りりぽん(筆者注:NMB48のメンバー。尾久の推しメン)の公演の動画をみて、論文読んで寝ようと思います。

ではね。


国境とJK」は、ちなみにこんなふざけた文章書いてなくていたって真面目な詩集です。
読んだことのない方、ぜひ本屋さんや、思潮社のHP、ほかのネットサイトなどからどうぞ。
Amazonはなんだかずっと在庫切れです。 

 

References
1) アットサプライズジャパンホームページより http://atsurprise.jp/flashmob.html