この写真は当時あった鉄道用の橋です。極司菲尔路上で中山公園の西側にありました。写真の解説では上海事変時に日本軍の攻撃によって破壊されたとのことです(真偽は未確認)。この横には豊田織機の工場がありました。
極司菲尔路の地図を見てみましょう。※赤丸の数字は無視してください
西端 長寧路 中央 東政法大学 旧セントジョーズ大学と中山公園(旧ジェスフィールド公園) 東端 静安寺 です。現在日本人駐在員も多く住む中山公園駅の北側で上の地図のような位置関係にこの道はあります。東西に長い道ということがわかりますが極司菲尔路76号はこの道の東部に位置しています。(地図では433号となっていますがほぼ同じ場所です)
実はこの住所、中国人なら道の名前を外して「七十六号 ちーしーりゅうはお」と呼んだ方がわかり易いくらい皆知っている場所で、本来であればその昔流行った韓国ドラマ「冬のソナタ」のロケ地巡りの旅ツアーくらいは組まれてもよさそうな場所です。でも日本人には馴染みのない租界をはずれたこの道が全国的になぜ有名なのか、今どうなっているのか探検したいと思います。
■極司菲尔路76号 ジェスフィールドロード76番地
ウイキペディアに情報がありましたが内容が不十分ですので一部別の資料も織り交ぜ説明します。
日中戦争下の上海では、藍衣社やCC団による抗日テロが頻発しており、対応に苦慮した日本軍当局は、1939年、日本領事館長清水董三主導で親日派中国人による取締機関を設立し本部をジェスフィールド路76号に置きました。その後この住所がそのまま呼称となりました。
ここを拠点として元国民党特務工作員の経歴を持つ丁黙邨(左)主任、李士群副主任(後に主任)らの敏腕担当者によってテロリストを次々と粛清し国民党重慶側工作員を震え上がらせていくのです。
著書「上海租界興亡史」ロバート・ビッカーズ著ではこのように書いてあります。
ゴードフリー・フィリップスは言った『誘拐・ゆすり・爆弾テロや暗殺に訴えて、日和見主義者や政権の潜在的敵対者を悪意を込めて震え上がらせていた。さらに戦争稼業には、娼館やカジノを経営したり「保護する」ことも含んでいた。賭博は傀儡政権にとって、地元でも南京でも大きな収入源だった。1940年「76機関」は少なくとも500人の武装した男たちを支配していた。それは、上海の平和と秩序にとって恐ろしいほど重大な脅威であった』と書き残しています。
当時の対立を図にしてみました。ようは76号は国民党内の抗日戦線に対して党内抗争の図式を利用して中国人同士を戦わせ終息を謀った結果生まれた秘密組織と言えることがわかるかと思います。この図式が現在の反日ドラマに反映されジェスフィールド76号の所属の中国人は日本人の犬であり国賊として描かれているわけです。
日本軍は特務機関を組織する際に以下の取り決めをしています。
1・租界エリアでの反日活動の粛清を目的とする。ただし工部局(外国)との摩擦には注意すること
2・汪精衛とは平和的に協力すること
3・日本に協力する中国人は逮捕しない。
4・毎月の30万円の活動費とし。500丁のピストル、手りゅう弾5万個、爆薬500㎏をジェスフィールドに保管し使用する。
「東京朝日新聞 1940年3月22日と24日の縮刷版」文献51 ジェスフィールド76号を大絶賛 : 上海建築観光案内 Shanghai Review CAMSAガラスの部屋 (livedoor.jp)
1939年5月に汪精衛が上海に来ると「特務総部」に名前を改め、9月国民党の総会の際に国民党の中央執行委員会の下部組織になります。その後反日活動の鎮圧以外に暗殺、拷問、プロパガンダ活動、政治抗争を行っていきました。
1943年9月に李士群が毒殺されると後継者争いが激化したため、汪政権の最高軍事顧問の松井太久郎中将は調査統計部を政治部(部長:黄自強)に改編し、特工総部も政治保衛局(局長:万里浪)に改編されました。
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このブログは建築物に焦点を当てていますので、今は無き建物の概要を記しておきます。
元は安徽省の主席 陳調元の私邸でした。建物は洋館と中式平屋建てがあり目の前に大きな庭があり左の写真のように入り口には大きな門があり門衛立っていました。1940年にこの建物が国民党社会部が使用するために汪政権に購入された後、庭に20部屋の平屋の建物が建設され、その後東側に監視塔が建てられました。内部には職員用の部屋の他、収容室、取り調べ室、牢屋などがありましたから、抗日ドラマで頻繁に見かける拷問をする部屋もあったのでしょう。内部に入ってくためにいくつかのゲートがありますが、最初は青、その後は紅色のパスが無いと入れないように厳重なセキュリティー体制ができていました。
実はこの場所現在はどうってことが無い普通の雑居建物になってしまっています(左の表示はもうありません)この抗争は日本VS中国と単純に見てしまいがちですが、実は国民党内部の抗争であることから中国人同士の内戦であり権力争いの延長と言えます。ですからあまり深追いするとよろしくなく共産党としては消したい過去と言えるでしょう。仮にここが共産党の施設であったなら間違いなく大々的に保存公開され、国家的旅行AAAA地区に指定され愛国教育の基地としてロケ地巡りバスと修学旅行が毎日たくさん来たていたことでしょう。
抗日ドラマはすごくたくさんあるので紹介してもきりがないのですが、ここ数年で最も流行っただろう作品を紹介しておきます。
2015年のドラマ「偽装者」胡歌、靳東、劉敏涛、王凱、王鸥など人気俳優が共演し話題も満載なこのドラマでは日本軍の汪日偽特高課課長・南田課長(女性)と組む親日派中国人と、重慶の秘密機関によるスパイたちがドンパチやりながら、実はそれを操っていたのは共産党の地下組織だったというオチのサスペンスアクションに仕上がっています。日本軍の指揮官が女課長なのは川島芳子を意識してのことでしょう。当時の日本軍で女性が前線で指揮を執るなど日本人では考えられない設定が斬新で興味深いですが、実はどの抗日ドラマを見ても多くがこのような設定ですので、国家標準(日本で言えばJIS)とも言えるような気がしてなりません。
最近の抗日ドラマはマンネリ化が言われ、あまりに史実と離れ内容がぶっ飛んできて浮世離れが進み、人気俳優で視聴率を取りたいミエミエな演出によって敬遠され気味となってしまっているのが悲しいところのようです。かといって韓国のように反日国家ではあっても反日ドラマを作ってしまうと大のお得様日本で販売できなくなるジレンマはありませんから、毎度恥ずかしげもなく作り続けられるところは中国らしいと言えます。
「偽装者」では美人女優 王楽君が演じる 程錦雲と呼ばれる女工作員が登場します。主人公明台を陰で支える共産党の工作員なのですがこの女優さんマジで美人ですね。こんな美人に手伝って欲しいと言われたら。。これもハニートラップと言うのかもしれません。
76号はジャンル的に言えば「特務物」になります。「特務物」は前編タイプと後編タイプに分かれます。前編は日本VS国民党(黒幕は共産党)、後編は国民党VS共産党となります。76号は前編での主人公なのですが「特務工作員」は悪者のはずなのですが人気俳優が演じかっこいい役となってしまいます。最後には必ず殺されてしまう悲しい役ですが、ドラマがヒットすると悪役の人気が出る皮肉な結果となっています。
ちなみに「特務」を日本語に訳すと「スパイ」と訳すこともできます。スパイは中国語で間諜とも呼びますが、中国共産党としては「特務」をかっこよく描くことは現在世界で行っているスパイ活動を正当化していると言えるでしょうし、ドラマ内で行われているえぐい拷問シーンは「共産党に歯向かったらこうなるぞ」と反共産党地下活動へのけん制を行っているように思えます。
次回から2回連続で、抗争に関わった一人の女性の物語を紹介します。
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