あさひなぐ 1 (ビッグコミックス)

今更!!ですが、6巻まで読了。
まっとうに面白いマンガ。

どんな話飼ってのを一言で書くと、冴えない運動音痴の女の子が、薙刀に出会って、努力をしまくる話。

で、こういうまっとうスポーツマンガって最近読んでなかったのでぐいぐい引き込まれた。

・・・って、こう書くと、そもそもまっとうなスポーツマンガってなんだ?って話だけども。

まあ、世に数多あるスポーツマンガがまっとうじゃないなんて言うつもりはさらさらない。
ただ、最近こういう、所謂「才能」がない主人公って読んでなかったなぁっていうことが言いたい。
で、才能のない主人公が、負けまくりながら、それでもひたすら努力を続けるっていう話を、ちゃ〜んと丁寧に描かれたら、そりゃあおもしろいよなぁっていう、当たり前といえば当たり前のことを、改めて思い知らされてのだ。

というのも、物語を展開させるには、主人公には何かしらの『才能』があった方が描きやすいわけだ。
まあ、「テニスの王子様」なんてのはその典型だけども。
例えば「キャプテン翼」の大空翼の圧倒的な才能とか。
「YAWARA!」の猪熊柔の天才っぷりとか。
そういうのは全て、物語の推進力として抜群に機能していた。

まあ、所謂天才とまではいかなくとも、「スラムダンク」に於ける努力担当主人公、桜木花道の、身長というアドバンテージとか。
あと、スポーツマンガじゃないけど、「ちはやふる」のちはやの、耳がいいってのもその類だな。

あるいは、生まれつきの才能じゃなくても、物語が始まる前段階で主人公が鍛えられていたパターンも多い。
「はじめの一歩」の一歩が、釣り船のバイトのおかげで下半身が尋常じゃなく鍛えられていたとか。
「アイシールド21」の小早川瀬那が、パシリをしまくっていたおかげで足が速いとか。
「あしたのジョーの」のハングリー精神なんてのも、その類か。

とにかく、スポーツマンがの主人公は、そういう「武器」を持っていることが多い。
てか、武器が必須なのだ。
なぜなら、その武器が、そのまま主人公が勝つ理由になるから。

ところが今作、あさひなぐに関しては、主人公に勝てる理由がない。
なにせ運動音痴だ。
しかもちびっこだ。
あげく、高校ではじめての運動部デビューだ。
勝てる要素が何一つない。

で、そんな負けて当たり前の主人公が、それでもなんとか勝つために努力する姿ってのは、美しい。
まあ、その努力が常に報われるわけではないのだけども。
その、「努力が、報われない時だってある」ってのを、ちゃんと描いているからこそ、主人公の健気さが、胸を打つ。

まあ、そういう話だから、物語展開としては、もたもたしているし、決して派手ではない。
だけども、その分誠実に、なぎなたというマイナー競技(失礼!!)を描いているように感じた。

・・・書きながら思ったが、マイナー競技っていうのは、この物語を語る上で欠かせないポイントだな。
これが、もっと裾野の広いスポーツ・・・例えば剣道だったら、こういう物語は成立しない。
なぜなら、剣道に於いて、高校デビューのポッと出が活躍するなんてありえないから。
(まあ、だからこそ「六三四の剣」は小学校から描いていたのだろう。)
なぎなたという、裾野がそれほど広くない競技だからこそ、高校デビューにも、納得ができるし、主人公の努力が報われる瞬間にリアリティが生まれる。
そう考えると、作者がなぎなたマンガを描くにあたって、「なぎなたの隠された才能を持つ少女」ではなくて、あくまでも運動音痴の女の子を主人公にしたのって、マイナー競技の魅力を最大限に引き出すための選択だったんだろうなぁ。
で、それは大正解だったわけだ。

大正解ついでに、とりとめのない語り口になるけども。
作者は、なぎなたをマンガにするってことに対して、かなり戦略的だ。
例えば、すねへの攻撃が有効か否かが、薙刀と剣道の最大の違いらしいのだけども。
そのすねへの一撃の描き方が素晴らしい。
下からのカメラアングルで、思いっきりパースをつけて、すねというわりと地味な箇所への攻撃をめちゃめちゃカッコよく描く。
当たり前だけど、剣道マンガではこの構図はできない。
つまり、この作者は、構図一発で、剣道となぎなたの違いを切り取ってしまっているわけだ。
これは、なかなかの達者ぶりだなと思う。

作者がなぎなた経験はほぼ皆無と知った時は、驚いたが、こういう構図の切り方って、なぎなた未経験者ならではの、客観性の賜物なのかなと思ったりした。

というわけで。
最近では珍しい、がむしゃらに努力する主人公の物語。
勿論、オススメです。

追記
あと、このマンガは一種の群像劇でもあって。
なぎなたというマイナーな競技だからこそ、それを始めるにはそれなりのドラマがある。
その辺りの描き方も、やたら丁寧でよかった。
特に、6巻の剣道娘はグッときたなぁ。