June 2015

June 06, 2015

なにつまらん話でさ -海賊と秘密の箱3-

大所帯ならではの意見の相違、ささいな誤解による不和、そんなどこにでもある、だが放っておけば組織として取り返しのつかないことになる状況。

普段の俺ならなんとか対処もできただろう。

だが、このときの俺は、消えた女海賊の情報を得るため、情報を持っていそうな人物を世界中、破片世界も飛び越えて、片っぱしから当たっていたのだった。

僅かに得られた情報から、俺は一つの判断を下した
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―海賊団解散―

本日をもって、バルド海賊団を解散した。
散々考えたが、これがクルーにとっても最良の選択だろうとおもう。
この状態のまま海賊団を続けるわけにはいかない。

それに俺の狙い通りなら、これであいつはきっと戻ってくるはず。


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今にして思えば相当な無茶振りだったと思う・・・。

解散後に起こった誹謗中傷の嵐も、俺にはそよ風程度にしか感じられなかった。
あのとき、俺は、ただひたすら、これから起こるであろう奇跡を待っていたから・・・



その奇跡は解散から12日後に起こった
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―再会―
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別れが突然だったように、再会もまた突然だった。
その日俺は、海賊酒場の外で、酒場を訪れた客と取引の話をしていた。
誰かが言った。
「船長!あれは・・・」

碧い海を背にして、白く輝く砂浜の向こうから女海賊はやって来た。

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はじめは蜃気楼かと思った。
だが、俺と同じ漆黒の海賊帽、その下から流れる薄桃色の髪。
その薄桃色の中にキラキラと瞬く青いイヤリング・・・

あれは・・・

見間違えようも無い、それは以前俺が贈ったものだった。
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そしてなによりも、凛然と強い光を湛えた瞳。
幻でも、蜃気楼でもなかった。
俺の目の前に佇むのは紛れも無いあのアリエルだった。
この数ヶ月、願ってやまない再開の瞬間。
話したいことはこの砂浜の砂粒ほどあったはずだが、
このとき俺は何も言えなかった。



その後、ようやく口にした言葉は・・・・

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よう、久しぶりじゃないかアリエル。

これが精一杯だった。




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ラジオの中の物語では、シーサーペントになった兄はその悪行により、永遠に妹の白イルカと再会することは叶わなかった。

海の女神は嵐のごとく残酷な顔も持つが、ときにはラムで火照った身体を癒す潮風のように優しい一面もある。
少なくとも俺は探し人に再会させてくれた。

つまりは・・・ものすごく気まぐれってことなんだろう。

物語では最後にシーサーペントと白イルカになった兄妹だが、俺の相棒はこんな風に俺たちの最期を日記に書きとめていた。
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ちなみにあたしは自分の最期の光景はこんな風に想像してる。
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砂浜に半ば埋もれた2つのしゃれこうべ。
寄せては返す波に洗われるそのはるか上空を旋回するのは漆黒のカワセミとアホウドリ―――
と、ここまで話したところで船長がどこかひきつった顔で「なあ、俺たちにハッピーエンドはないのか?」
と聞いてきたので、そのさき言うのはやめといた。

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・・・・・あのな。
最期まで一緒にいられる上に鳥に生まれ変わるんだぞ?
その一体どこがバッドエンドなんだと・・・それともあたしの感性がおかしいのかねえ?

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エル、お前さんが旅立って以来、暇さえありゃ空を見上げてるが、未だ漆黒のカワセミは見てないぜ?

どこの海にいようとも、俺たちゃ海賊。
ラムを片手に陽気にしぶとくってやつだ。

あのときは(言ったら盛大に呆れるだろうから)言わなかったが、俺が最期のときを迎えたら幽霊船の船長に転職する予定なのさ。

幽霊船の船長の肩に止まってるのはオウムじゃなくて漆黒のカワセミ。

これが俺のハッピーエンドってわけ。

死んでも2人で航海を続けられるなんて夢のようだろ?


もちろん髑髏の旗を掲げてな。

      
         

          海賊と秘密の箱 −終−



captainzaki at 19:03|PermalinkComments(8)TrackBack(0)

なにつまらん話でさ -海賊と秘密の箱2-

出航準備万端の海賊船をほっぽりだして、古い航海日誌を読み返すためアジトにとってかえした。

今のアジトは海沿いに立つ総石造りの古い砦。
その1階、海に最も近く、接岸してある船を間近に見ることができる角部屋が船長室になっている。

さて、あの箱は・・・
船長室の片隅に、荘厳な装飾を施された大きな鉄の箱がおいてあった。

おう、これだ、これ。
しかし凄い埃だな・・・。

以前こいつを開けたのはいったいどれくらい前だったか。

この箱は『秘密の箱』と呼ばれる特殊な箱だ。
開けるためには予め指定した番号を正確に入力しなければならない。

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それほど厳重に保管してあるこの箱の中身は、俺にとって船と同じくらい大切なものが入ってる。
黄金や宝石なんかより、俺にとってはずっと価値のある数十冊の『ノート』

潮風に当てられ、黄ばんでボロボロのノートに記されているのは、馬鹿で、陽気な海賊たちが無限の海を謳歌していた頃の俺と女海賊の日記。

こいつを読み返すたび、海賊たちの古き良き時代の記憶が鮮明に蘇る
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―交換日記―

「あれ?船長、日記つけてるのかい?」

勢いよく振り返った拍子に、薄桃色の髪の両側で青いイヤリングがキラキラと輝いた。
鮮やかな真紅の皮の胸当てに身を包み、薄桃色のおさげ髪には俺と同じ黒い海賊帽。
女だてらに手下を率い、無限の海を席巻していた女海賊。
一度はこの世界からいなくなっちまってたが、今は俺と同じ海賊旗の下、良き相棒として行動を共にしている。


その相棒はというと・・・さっきから俺の書斎を『強襲』していた。

おい、見るなよ!
おまえにだけは見られたくない!

「そんなこと言われたら余計に見たくなるだろ!しかたないねえ・・・あたしのも見せるから読ませなよ」

なんだ、そっちも日記つけてるのか?

「うん。そうだ船長!お互い入れ違いでINすることも多いから、お互いの日記、見せ会うことにしないかい?」

この歳で『交換日記』しろってのか?

「こっ恥ずかしいのはお互いさまだろ?いまさらガタガタ言うんじゃないよ!」

・・・・・・・・

こうして俺たちのこっ恥ずかしい交換日記がはじまった。


------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------ページをめくるたび、古い記憶に思わず顔がにやけちまう。
こんな甘ったるい関係になるまでに本当に色々あった。

大和の海賊から無限の海賊に転身したばかりの俺は、当時、無限の海で暴れまわっていたヘイブンの女海賊に少しでも早く追いつこうと必死だった。

自分を鍛える傍ら、仲間を募り、軍資金を集め、わずか2か月という驚異的なスピードで海賊団を結成した。
ヘイブン海賊や復活したバラクーダ海賊たちと戦い、ときには共に酒を飲み、そしてまた戦った。
海賊団はどんどん大きくなり、毎日が充実していた。

海の女神の悪戯か、そんな黄金時代の終わりは突然やってきた。

当時、俺達バルド海賊団の酒場には、毎晩のように他の海賊たちもやって来ていた。

海で出会えば問答無用で殺しあう海賊も、酒場では陽気に皆で酒を飲む。

良い情報もそこで得られるが、ときには耳を覆いたくなるような凶報も・・・
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―海は与え、時に奪いたもう―

海賊酒場は今夜も盛況だった。
最近ちょいとばかり姿を見せない女海賊が気になり、俺は隣のテーブルで飲んだくれてたヘイブン海賊副長に声を掛けた。

なあ、そういやおたくの首領、女海賊はまだ忙しいのか?

「あ、ああ・・・」

当時ヘイブン海賊団のNo2だった男は俺の質問にすぐに答えようとはしなかった。

「なあ船長、ちょっとそのことで話があるんだが・・・」

奴は俺を酒場の屋上に誘い、そこでこう切り出した。

「船長、落ち着いて聞いてくれ、そしてこれから話すことは一切他言無用で頼む」

まったく慎重で冷静な奴、あの女海賊とは正反対だな、などと思っていたら・・・・

「首領は、あの女海賊は・・・もう帰ってこない」

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はじめは友であり、良きライバルだと思っていたが・・・
いつしかあの女海賊への想いはそれを超えていた。

いつでも会えると思っていたから口に出すことは無かったが、もう会えないと思うと後悔ばかりが浮かんでくる。

海に出ている時が一番楽しいはずなのに、航海していても脳裏に浮かぶのはただ一つ。

なぜ消えた・・・どうすればまた会える?

これだけだった。

そんな虚ろな状態で、大所帯になった海賊団を率いることなんてできようはずもない。
この頃から、海賊団の中で静かに、だが確実に不協和音が響き始めたのだった。


                 つづく







captainzaki at 17:35|PermalinkComments(2)TrackBack(0)

なにつまらん話でさ -海賊と秘密の箱1-

前回の航海で、派手にぶっぱなして砲身の焼けちまった大砲の修理を終え、新たな航海に出ようと出航準備していた。

今夜は無限ラジオの日だとわかってたから、放送を聞きながらの作業。

さっきから良い風が吹いてて、さざめく波にたたかれる船底の音が、『早く来いよ』って聞こえてしかたない。

索具の点検も終え、あとは錨を揚げ、帆を張るばかりって時に、『船頭の話』が始まった。

俺は結構これが気に入ってる。なんたって海の話だから。

今夜の物語は、残酷な運命に引き裂かれた兄妹の話だった。

ラムを呷りつつ、物語を聞いてるうちに気が付いたら作業の手が止まってた。

過酷な逃走の末、海の女神の力で白いイルカに姿を変え、海底に消えていった妹。

その妹を悪党になり下がってまで探し続ける兄。

俺の手が止まったのはそんな兄妹に同情したからじゃない。

ちょいと状況は違うが、俺自身、この兄と似た経験があるからだ。

そいつを思い出しちまったのさ。

あの時の航海日誌はたしか・・・

そう、あの箱の中だったな。

俺は、めったに開けることのない『秘密の箱』を取りにアジトに戻った______つづく




captainzaki at 02:56|PermalinkComments(0)TrackBack(0)