人の数、SMカップルの数だけSM観があります。


私の場合は、あくまでも日常はごく普通の大人の社会人男女同士のカップル。


つまり彼氏・彼女、恋人といったそれです。


この関係がベースです。



でも、その愛し方・愛され方が、いわゆるノーマルではなく、SとMというそれです。



かといって、日常でも厳格な主従というそれではありません。



よくSM嗜好の方は男女を問わず、「主従か?」「プレイか?」と問う方、あるいは「主従関係」に強い拘りをお持ちの方がいらっしゃいます。



私は、その辺りは、フレキシブルに考えています。



その意味では、“主従的”ではあっても主従ではない。


あくまでも“主従的”なそれを帯びた、ごく普通の男女交際といえばわかりやすいでしょうか。




ただし、それでもその愛し方・愛され方は、SとM…その意味においては厳格で厳粛でありたい…そういう嗜好です。




その厳格で厳粛という点で、大事なのは最初の調教時の儀式…いわばSとM、主従的ではあっても、やはりSとMとして契りを交わす、いわば「心の戸籍」に忠実になるための時間、そこは生涯の思い出となるようにふたりで演出し、演じられれば、より意味深く、思い出となるものだと私は思うのです。



以前にも、この“儀式”について、ブログで書いたことがありましたが、今回も、過去のパートナーさんとのそれを、個人情報に配慮して、若干の脚色と私の思いを絡ませて、お伝えしてまいります。



★★★



A子とは、当時、私が開いていたSM系ブログを通して出会った。


その頃、もっともブログをただ綴っているだけでは、出逢いはおろか、読んで下さる方もいない。


なので、その頃は通称・広S、「広島SM倶楽部」というサイト名だった「現・全日本SMサークル」の募集掲示板に、「こんなブログを綴っています」と掲示板に書き込みしたりもしていた。



それでブログ※を読んでくれて、メールをくれたのがA子だった。



※そのブログは、すでに閉鎖し、その当時のブログ記事は、もうありません。ただし、書き手が同じなので、その内容の趣旨はさほど変わっていないと思います。もっとも当時と比べ、多少は成長したのかなと自負しております。





A子からのメールは衝撃的だった。


普通、この手のブログ主と連絡を取る場合、HN(ハンドルネーム)であったり、下の名前だけ、もしくは苗字のみというのが、当時でもネット社会の常識だ。


にもかかわらず、A子は、本名、それに加えて、簡単に金融機関勤務であることがわかる職業が記されていた。



一瞬、質の悪い悪戯かと思った。


実際、そのA子が記した姓名の本名と職業でGOOGLEで検索してみると、そのA子が実在の人物であることがわかった。


(まさか…でも、悪戯にしては、どこか手の込んでいるというか…)


たしかに悪戯と判断するには、どこか引っかかりがあった。


メールアドレスはフリーメールではなく、プロバイダーのそれ。


しかも実名で姓名を漢字記載。


さすがに住所や電話番号の署名はなかったけれど、文面を読む限り、ネット情報で出ている本人と思われるそれと判断して間違いないというそれだった。


文面は、30代の大人の女性らしい丁寧なもの。


自己紹介とSMへの憧れ、そして私のブログを見て、私の求める世界に惹かれたので是非…という内容だった。



何往復かメールを重ね、当時あったYAHOO!メッセンジャーや携帯電話での通話、写真交換まで、さほど時間はかからなかった。


恐らく、その間、一週間程度だったか。


それに文字でのやり取り、声だけのやり取りだと、互いに取り違いがあってもいけない。


A子はそれを言わずともわかる女性だった。


ひとまず食事でもしながら話そう…ということになった。





初めての食事デートは、とっかかりこそ他愛もない話だったが、きっかけはわかっている。勢い、話はSM談義になった。


互いのSM観を確認し、これからはじめていこう、でも、次のデートで初調教というのはやめようということで話を置いた。


お互いの関係をじっくり熟成させたい…そこにはそんな思いもあったと思う。



そのとき、どちらともなく「初調教は生涯の思い出となるもの」にしたいという話も出た。



A子は、当時、私と同い年の30代だったが、SMの経験がない。



なので、その分、SMに夢と期待を描いている。



すでに私の認めていたブログを読んではいたものの、もっと初調教では儀式めいた、それでいて厳粛なそれを考えてみたいという話で初デートから盛り上がった。



その初デートの翌々日だったか。



互いに時間を合わせて食事をした。



そのとき、A子は、「誓約書」の文面の下書きを持ってきていた。



その文面は、当時からネットに出回っているような、「●●様をご主人様とし、奴隷として…」というそれだった。


「もうちょっと、普通に…、僕へのラブレターというか、そういうほうがよくない?」

「いかにもSM…というほうがいいの。だって主従とか、いろいろ言うけれど、そこに宗教的な意味を持たせる関係とは違って、あくまでもこの誓約書も“努力目標”であり、“アイテム”なのだからベタベタなほうが気持ちが切り替わっていいわよ」




結局、そのベタベタの奴隷誓約書の文面をさらにドギツくしたそれを「原案」として、初調教のときに認めるということになった。



それからまた2,3日後、3回目の食事デート。


平日だったので、互いに遅くならない程度の時間で、たしか神戸・元町の南京町で食事をして、あるショットバーへと流れた。


平日ということもあり、互いに初調教はなし、むしろ、初調教の日程と場所、どういうことをするかという打ち合わせに費やしたと記憶している。



この3回目のデートから、さほど時間を置かない平日、朝から晩まで、彼女の代休日、初調教と決まった。





初調教の日は、とても暑い晴れた日だった。


待ち合わせ場所の大阪・上本町駅近くの喫茶店にA子は来ていた。



その服装は打ち合わせ通り、着物姿だ。



珈琲を飲みながら世間話をする。互いにそれは上の空といった感じだった。



「シティホテルのデイユースのほうがよくない? その着物だし…」
「いいの。いかにも…というほうが」


当時は、神戸や大阪にもSM設備のあるラブホテルがあった。


いつの頃からか、規制が入ったとかで、今では、東京のアルファ・インなど、SM設備があるホテルはごく少数となったが、この頃はまだ大阪にもSM設備があるホテルがあった。


そのSM設備のあるホテルでの初調教をA子は強く望んだ。



ホテルに入ると、すこし世間話をして、いよいよ初調教の準備に入る。



まず、バスルームで風呂の水を溜める。



お湯ではない、水だ。



そこに氷を浮かべる。



「O嬢の物語…で、こんなシーンがあったでしょ」



というA子のリクエストだ。



そして調教道具をテーブルに並べる。



ふたりの話題、そして準備すべきことを終えると、部屋はシーンとした静寂に包まれる。



「始めようか」
「はい…」



僕も気持ちのスイッチを切り替える。



ごく普通の男からS、サディストへと。



「身に纏っているものを脱ぎなさい――」
「はい…」




A子は、ソファに座っている僕の目の前で、ゆっくり一枚、一枚、それを確認するように着物をはぎ取っていく。



僕が脱がせるのではなく、みずからの意思で脱ぐ…そして調教されるということをあらためて確認するために、あえてこうしようと打ち合わせたそれそのままを具現化していく。



着物を脱ぎ、白の長襦袢も脱ぐと、これも打ち合わせ通り、白の褌姿となった。



その褌姿で、正座して、筆(正確には筆ペン)で巻紙に、下書きしていた奴隷誓約書を認める。



この瞬間、部屋中が、とても緊張している空気感に溢れていた。



A子が奴隷誓約書を書き終えたそのとき、彼女は、「奴隷」というそれになることを経験した悦びに満ち溢れた表情をしていた。



僕は、その瞬間、次の言葉を発する。


「生まれたままの姿になりなさい」


はい、と、返事をしたA子、そこには普段、金融機関の総合職としてバリバリやっている…という日常は想像できない、とても美しい女性、否、M女性となっていた。



そのA子が、正座から立ち上がり、白い褌を取る。


「なりました…」
「正座して、きちんとご挨拶しなさい」
「はい…」



緊張した面持ちで、生まれたままの姿のA子が、再び正座して、三つ指をついて、言う。

もちろん、これも事前の打ち合わせ通り、だ。

「わたくしA子は、凛太郎さまの奴隷として、これから美しく、素晴らしい女性となるためのレッスンを受けるべく、ご調教を受けさせて頂きます。不束者ですが、これからA子の身も心も凛太郎さまにお預けし、凛太郎さまの奴隷として恥じない素敵な女性になることをお誓い申し上げます。ご調教、よろしくお願い申し上げます」



このA子と僕で考えた最初のご挨拶の言葉を終えると、僕は、A子をバスルームへと誘った。


このバスルームで、「生まれたときにはなかったもの」――アンダーヘアを剃り上げる。


そして氷風呂で身を清めた。



風呂上り、互いに喉が渇いていたので水を飲む。



そして互いに口移しで飲んだ。




「調教、始めるよ…」


ソファに座る僕の前に正座させたA子に目隠しを施す。


首輪をかける。そして、立たせる。白い肌のA子は、黒でも赤でも、生成りの麻縄でも、何でも似合う。



黒の綿ロープで、A子を亀甲縛りを施す。


その間、A子の蜜壺からは、ツーという感じでA子が僕のために出したラブジュースが流れてきた。



亀甲縛りを終えると、鏡の前に連れ出した。そして、勢いよく目隠しを取った。



そこには、首輪に亀甲縛りされて、アンダーヘアを剃り上げられたM女の姿がある。



ここからA子の調教がはじまった…。



★★★





M女性の方と話していると、この“儀式”というもの、そこに興味を持つ方が多いように思えます。


ノーマルのセックスでは、ただなだれ込むように肌を重ねるものです。


もちろんSMでもそうしたケースはあるでしょう。



でも、SMでは、このように初調教ではなくとも、調教ごとに「ご挨拶」を行うSMカップルの方もすくなくありません。



これは、SMという行為は厳粛に、厳かに行える風俗(しきたり、様式の意味)だからこそといったところでしょうか。



このように何気ないこと、それも、ふたりで演出することで、より深い思い出となり、輝かしいそれになる…そうした様式であるSMに身を置くことで、これからの人生になにか好影響を与ることは間違いありません。



SMとは、ただSがMを導くのではなく、Mが望むことをSが引き出し、その具現化のお手伝いをするという側面もあります。


こうしてふたりで作り上げたSMの世界があるからこそ、互いの絆はより深くなる…私は、そう思うのです。