※ 2011年6月19日, 26日 Myspaceブログ投稿分

1993年2月、カシオペアのアルファ復帰第1弾となるオリジナル・アルバムが本拠地スタジオ・ジャイヴでいよいよ制作されるにあたり、野呂さんは「1曲1曲が短編映画のような曲が集まったアルバムを作りたい。」というコンセプトを定め、先にタイトルを「Dramatic」と名付けてからレコーディングを開始しました。実はこの頃より野呂さんは、作曲に関して『こういうイメージで作りました、と提示しないとファンに対して失礼になる。』と考えるようになったそうで、先にタイトルを決めてから作曲に入る手法を採り入れるようになられました。インストバンドにとっては「曲名は唯一の歌詞である」と重要視されていたようです。つまりその手法は、アルバムのタイトルでも同様でした。

実は前作「Active」を作り終えた後…野呂さんは「もう1枚、Activeと同じような実験作を作りたい」とおっしゃっていました。ところがあれ以降、ドラマーの交代、レコード会社の移籍等、節目となる出来事が色々あった結果、実験作の件は白紙に戻ってしまったようで……それが一転してメロディ・ラインを重視したポップなアルバムが制作されました。但し、ギターの音色自体は、曲によって極端に変えたそうです。

1曲目の「Glory」は1984年の「Zoom」以来、久々の三連符リズムが基軸となっている軽快な曲で、当時発足したばかりのサッカーJリーグのテレビ東京で中継される番組のオープニング・テーマ曲にも採用されました。実は向谷さん、シンセのエレピじゃなくて本物の「Rhodes」エレピをこの「Glory」や「Voice From Others」で弾いておられます。初期のカシオペアを彷彿とさせますね。本物のローズ・ピアノは鍵盤の高さが浅い為、強く弾くと「歪んだ音」が出て、逆に弱く弾くと「ソフトな音」が出るようですので、このダイナミクスに魅力を感じられたようです。一般的にローズの音が心地良くゆらいで聴こえるのもこの影響でしょうね。実際CDを聴いていても存在感が全然違いますでしょ?そしてこの曲は鳴瀬さんのベースも、イントロから「複弦」の厚いベースが頼もしく響きます。この部分は新生カシオペアですね(^^;)日山さん時代には存在しなかったタイプの曲です。きっとドラマーが交代した事によって野呂さんの曲作りにも多少変化があったのかも知れませんね。つまり「Glory」にも代表されますように、本作は旧メンバー時代を連想させながらも新生カシオペアの要素もしっかり生きている魅力があります。

そもそもこのアルバムに「懐しい要素」を感じる要因は、鳴瀬さんのベースラインにもあると思います。本作では、旧メンバー時代の「Galactic Funk」のベースラインのようなファンキーな"リフ"(繰り返しのフレーズ)が満載です。「Fly To The Sun」も「Tornado」も「Voice From Others」も「Shocking Function」も、ファンキーなリフばかりでしょ?この影響でアルバム全体のノリが良くなっています。カシオペアをコピーしたいベーシストも、このアルバムの曲が一番弾きやすいでしょうね。このベースラインも旧メンバー時代の「懐古路線」と言っても良いのではないでしょうか…?もしかして野呂さん、「その13」で述べた「CUTS」のレコーディングで「Midnight Rendevous」等でファンキーなベースラインを前面に出したアレンジも良かったなーとかお考えになられて、その影響なのですかねぇ~?(^^;)

「Fly To The Sun」も「Glory」と同じくメジャー調の曲ですね。「Space Road」のように疾走感あふれるリズムを堪能できながらも、エンソニックの鋭いシンセ音で「合いの手」がキメられているのは、やはりこれも旧メンバー時代と新生時代のミックス・サウンドだと思います。熊谷氏の爆裂ドラムも冴え渡っています♪ 元々彼も神保さんを師匠として崇めていたのですから、ある意味、旧メンバーのDNAと言えるのかも知れませんね(笑)。

「The Tornado」も非常に完成度の高い曲ですね。私が一番注目するのは、キーボードとベースで繰り返し弾かれるファンキーなリフが全面シンコペーションで出来ている点です。ファンキーなリフと言えば…「Street Performer」なんかもありましたが、タテノリの「チャッ、チャッ、チャッ」じゃなくて、「ン、チャッ、チャッチャラッチャ」と、完全にシンコペーション化したリフはこの曲が初めてじゃないですか?これは有意義なアレンジだったと思います。そういえば当時、NHKニュースのスポーツコーナーでも「Tornado」は長期間BGMに使用されましたね♪

向谷さんの曲ですが…本作あたりからなぜか「民族色の強い曲」が多くなっていきました(^^;) 当初「Oriental Spirits」は向谷さんがタイのバンコクをイメージして「Siam cafe」と言うタイトルで作られた曲でしたが、本作ではゲストの仙波清彦さんのパーカッションと効果音がダビングされ、笛や和太鼓の音で雰囲気がガラリと変わった為、タイトル変更を余儀なくされたそうです(笑)。一方「Ancient Roman」は、ユーラシア大陸のメソポタミア文明をイメージしたものだそうで、こちらでも仙波さんのカラカラカラ~という面白いパーカッションが聴けます。向谷さんの曲の民族化は、アルバムの構成上、面白い存在でしたね。

鳴瀬さんも本作では「Life Goes On」のメロディを作曲し、野呂さんに調理を加えてもらって完成したそうですが、それまでの鳴瀬さんのイメージを一変させるような美しいワルツのメロディーが聴けます。とにかくチョッパーばかりが目立つ鳴瀬さん、カシオペア加入後は初めてのバラード曲でしたが、昔から美しい系の曲は色々作っておられましたので本当は珍しくないのです…(^^;) 前作「Active」の「Messengers」「Camel Road」では、鳴瀬さんは「Low-B」と呼ばれる5弦ベースを弾きましたが、この曲では「Hi-C」と呼ばれる違うタイプの5弦ベースを弾いておられます。「Low-B」は超低音の弦が1本多い5弦だったのに対し、「Hi-C」は高い音の弦が1本多く付いているもので、CDの通り、アコースティック風の透き通ったベースラインが聴けます。Hi-Cって、昔のジュースの名前みたいですけど(笑)。美しい曲と言えば、野呂さんの「道」もフレットレス・ギターの音色が暖かい雰囲気を醸し出していますね♪

そして本作では、熊谷氏の初のオリジナル曲「Shocking Function」も収録されました。当初彼は何度も野呂さんの御自宅を訪れて作曲指南を受け、めでたく完成する事ができたそうです。この曲を聴いた野呂さんは「僕が以前にやってた"Keepers"や"Super Sonic Movement"のようなファンク路線だね。」とおっしゃったそうで(笑)、彼の曲が一番カシオペアっぽい曲だと認定されたそうです(笑)。この曲でも仙波さんの和太鼓が聴けます。

当然ながら、新ドラマーの熊谷氏はこれが人生で初めてのプロ・レコーディングでした。前年暮れにプリ・レコーディングしていた曲も4~5曲あったとはいえ、スケジュールの都合でそれ以外の曲はスタジオで譜面を初めて見る「初見」状態でいきなりの本番レコーディングとなりましたので、大変だったでしょうね…。そんな中、熊谷氏も極度の緊張状態で懸命にプレイし、完璧に全トラックを録リ終えて、ホッとした瞬間、高熱が出て一週間寝込んでしまったそうです(^^;) すると、メンバーの皆様は「こんな若い子がダウンしてしまうくらい激しいサウンドを演奏している自分達って、まだまだ若いな~。」と自信を付けられたそうです(笑)。まぁカシオペアのドラムは誰がやっても大変でしょうけど…(^^;) きっとこの件もサウンドの若返りに拍車を掛けたでしょうね。

勿論私も、熊谷氏のドラミングは言う事無しで、前評判通りの才能の持ち主だなぁと思いました。野呂さんのアレンジを忠実に再現できていますね。考えてみれば…彼は神保さんがカシオペアでデビューした時と同じ位の年齢だったんですよね…。先輩メンバーの年齢はともかく(^^;)…当時は彼もファンの皆様から『これから神保さんの時と同じようにカシオペアで自らに磨きを掛けていくのだろう』と期待されていたでしょうね。

こうして完成したアルファ復帰第一弾アルバム「Dramatic」は、5月21日にシングルCD「Glory」と同時発売されました。やはりメンバー・チェンジという事で、ジャケットにもメンバーの写真が使われました。
(再発盤) http://www.amazon.co.jp/dp/B00005V4H6

ちなみにシングルCD(ACDA-76)のカップリング曲である「Wishful Star」は、当時はアルバム未収録曲でしたが、後に「CASIOPEA SINGLE COLLECTION」に収録されました。http://www.amazon.co.jp/dp/B00005TOLF

私も当時「Dramatic」を初めて聴いた時、やはり懐かしい気持ちになりました。シンセはエンソニック系の鋭い音もありますので、旧メンバー時代と全く同じサウンドにならないのは当然ですが、それでもところどころに観られる懐古風なフレーズ・サウンドにアルファ復帰の影響が感じられました。メロディアスな曲が多い点では「Full Colors」あたりと傾向が似ているのかも知れません。んん…でもやはり「Dramatic」の方がロック色が強いとも言えそうですが…。

そして何より、ファンキーなベースとドラムのコンビネーションは、旧メンバー時代への原点回帰と言っても良いかも知れませんね。新生カシオペア以降の野呂さんのメロディーラインに関しては、「哀愁系」と言うか「シブイ系」と言うか、早く言えば「マイナー調」の落ち着いたメロディーが多くなっていまして…実際このアルバムでも最初と最後をメジャー調の曲がサンドイッチする形で中央には色々とマイナー調の曲が収録されています。単純に「曲の上辺」だけを聴いている人から観れば、旧メンバー時代と全然違うじゃないかと思われるかも知れませんが、そもそも「メロディアスな曲」というものは、決してメジャー系の曲ばかりを指して言うものではありません。マイナー調の曲だってメロディアスな曲は多数存在しますし、マイナー調の曲でも元気を与えてくれる、という事を体感させてくれたのがこの「Dramatic」ではないかと私は考えます。

そもそもメロディーがマイナー調の曲であっても、バッキングの楽器パートの音色に躍動感があれば、曲全体が明るくなりますよね。「Fightman」がその典型的な例だと思います。当時野呂さんも「軽い曲は作りたくない。」とおっしゃっていましたが、もしメジャー調でライトタッチなメロディを使うと、どうしても旧メンバー時代とそっくりな曲ばかり出来てしまいますので、そうなる事だけは野呂さんも避けたいと思われていたはずです。やはり新しいものを作ろうとすると、旧メンバー時代に多かったメジャー調の曲は避けて、対照的に「落ち着いたメロディ」を使いたくなるのは当然だと思うのです。マイナー調なら、重くなる事はあれども、少なくとも軽くなる事は無いですからね♪

「Tornado」も「Voice From Othes」もマイナー調の曲ですけど、メロディラインは美しいでしょ。それなのに「旧時代・至上主義者」の人達は、昔のメジャー調の曲が大半を占めた時代に固執して、新生以降のカシオペアを評価してくれないんですよね…。そもそもアルバムの全曲を旧メンバー時代と同じようにメジャー調のメロディばかりにしろとか言われても…もしそんなファンばかりに囲まれていたら、野呂さん息詰まっちゃいますよね。どうしてマイナー調のメロディを評価してくれないのかなぁ?と疑問に思います。こんなに聴きやすいアルバムまで否定する人は、よほど頑固な人なのかなぁ?と…(苦笑) ネットで悪口を書いている人達は極端すぎるのでしょうね。

それとアマゾン等のショップサイトのレビューも、あまり信用しない方が良いですよ。まぁドラマティックのレビューは優良ですが、他のアルバムは酷いレビューが多いです(苦笑)。そんな全否定されるような酷い音楽は作られていませんので!(苦笑)。旧メンバー時代だって「Misty Lady」とかマイナー調の曲はあったはずなのですが……確かに全体数は少なかったかも知れませんねぇ~。

他のメンバーの曲だって同じ事です。そもそも最低レベルの話として、アルバムを聴く場合は『どの曲を誰が作曲したのか』を、予め知った上で聴いた方がより良く理解できるのに決まっています。特にこのアルバムあたりから向谷さん達の曲も個性が強くなっていきましたので、聴いて『なるほど』と思えたりするんですよ。ところが、そのあたりをどの曲が誰だか全く意識せずに聴くと、「旧時代・至上主義者」の人達のように「アルバム全体の評価」しかできない状態ならば「このアルバムは駄目だ」とか安易におっしゃってしまう訳で…。そうじゃなくて「曲単位」でもっと意識して聴いていただきたいものです。

結局、新生カシオペアを愛聴できた人は「落ち着いた旋律も好きになれた人」なのかも知れませんね。とにかく「Dramatic」では野呂さんが「今までと変わりなく、その時やりたい事をする。」とおっしゃった成果が出たと思いますし、大変バランスが取れていて聴きやすいアルバムに仕上がりました。とにかくメロディ・ラインの美しい曲が満載ですから!

そして93年6月、カシオペアは「Dramatic」を携えて国内ツアーを行いました。このツアーで鳴瀬さんは、初めて「2階席」へ乱入したそうです(笑)。旧曲は「Take Me」「Eyes Of The Mind」「Asayake」が演奏された程度で、それ以外は全て新生以降のカシオペアの曲で埋め尽くされました。「新生カシオペアも3年乗り越えて定着した」という自信の表れだったのでしょうね♪


すると…1993年もまだまだ終わりません。夏にはカシオペア・ファンが喜ぶ出来事が連発したのです。
 
この年はジャズライフ誌でジンサクの「鼎談五番勝負」という企画があったのですが、これは櫻井さんと神保さんが指名した5人とそれぞれ個別に3人ずつで鼎談するという内容で、お二人が指名した5人は、松岡直也さん、伊東たけしさん、本多俊之さん、本田雅人さん、そして野呂一生さんでした。

野呂さん・櫻井さん・神保さんの鼎談は、先ず野呂さんからお二人への謝罪の言葉から始まりました(^^;) 野呂さんは「自分自身、昔より柔らかくなった。こうじゃなきゃ嫌だ、というのが少なくなった。昔の方がデジタル思考だった。そういう部分では二人には申し訳ない事をした。冷たい考え方だったと思う。」とおっしゃいました。でも櫻井さんは「昔はデジタル楽器も無かったし、そういうサウンドの作り方をしている人が少なかったから、ガチッと緻密にアンサンブルを作ったカシオペアはロンドンでも受けたんだよ。」と野呂さんをかばってくださったのです(^^) これを見た時は私も嬉しかったですね。

更に野呂さんは「現代は打ち込みの全盛で、人間よりも正確にできてしまう時代…。それなら逆に人間っぽさを出して柔らかくせざるを得ないね。」ともおっしゃいました。確かにこのお話は、私も実際リアルタイムでカシオペアの内外共に当時の音楽シーンを見てきたのでよく理解できます。続いて神保さんから「ナルチョの影響もあるんじゃないの?」と尋ねられると、野呂さんは「かなり自我が崩壊した。昔は細かいところまで考えていたのが大雑把になった。」と答えられました(^^;)

更に野呂さんは、「人間は7年経つと体の中の細胞が全て入れ替わると言われているし、物理的には別の人間なんだよね。環境も変わるし、影響もされるし、年もとる…。変わらない方がおかしいですよ。」と、大変教養のあるお話をされました(^^;) すると神保さんも、「他人と演奏するって事は 影響されたりサウンドが変わらないとツマラナイですよね。」と野呂さんに同意されました。つまり神保さんも『サウンドが変わるのは当然』というお考えだったんですよね…。この神保さんと野呂さんの意見の一致は『将来、再び!』という予感を感じさせますよね(^^;)

そして話は神保さんが初めて作曲した時の頃に遡り…当初神保さんはドラマーなのでハンディだよねと思いながらも、野呂さんより何度も手取り足取りレクチャーを受けて無事に「Ripple Dance」を完成する事ができたそうです。当時野呂さんは、『どのキーだと、フラットやシャープが何個付くのか』が一目で解る「楽譜早見表」を神保さんの為に作ってあげたそうですが、この話が出ると、神保さんは「あの早見表、今でも使っているんだよ。作曲できるようになったのは野呂君のおかげです。」とおっしゃったのです。当然野呂さんは「いやぁ、役立っていて嬉しいよ。」と喜ばれましたが、この話は私も含めてファンの皆様も一同に喜んだでしょうね。この話にピンと来た人も居られるでしょうが、当時の新ドラマーだった熊谷氏もちょうど同じ状態だったのですね(^^;) 野呂さんがこの事を言うと、神保さん「また同じ事が繰り返されている訳だ~。」と返されました(笑)。

このように野呂さんとジンサクのお二人は、随分、友好的な関係に戻っていた訳です。お互いが「新生カシオペア」と「ジンサク」で軌道に乗った余裕も出たかも知れませんね。新生カシオペアの音楽性変化の件で野呂さんを責めていた人達も、もうこれで本当に許してくださいね。(^^;)

そして7月には、ジンサクのアルバム「WIND LOVES US」が発売されたのですが、このアルバムではついに野呂さんがゲスト参加し、野呂さん・櫻井さん・神保さんのお三方によるCDでの共演が5年ぶりに実現しました。 http://www.amazon.co.jp/dp/B00005FJOV
ちなみに野呂さんが参加したのは「Alcaic Smile」という曲で、なんとギターとシタールを弾いておられます。野呂さんがシタールを使った事で思い出されるのは1983年作の「Photographs」収録の「Spice Road」ですが、野呂さんはこの「Spice Road」以来、10年振りにシタールの箱を開けたそうです!(笑) オリエンタルな曲ながらも穏やかでポップな面も持ち合わせた曲です。この3人が揃うとこうなるって感じの曲ですね♪

更に野呂さんは、この共演をきっかけに日本青年館のジンサクのライブも観に行かれたのですが、観に来ただけのはずが、ギターの和田アキラさんがすぐにもう1本ギターを準備してくださったりして、急遽野呂さんもステージに上がられました。この時、客席のジンサクファンの皆様は喜んでくださったのでしょうか?当時私はジンサクファンの皆様を『アンチ・カシオペア』ばかりだと誤解していてすみませんでした(^^;)

そしてこの年は、各メンバーのソロ・アイテムも多く発売されました。

先ず鳴瀬さんと野呂さんは、日本音楽教育センターのギター&ベースの通信講座教材を各々が制作、鳴瀬さんは以前よりあったものをリニューアルし、野呂さんも実質上ソロアルバムを1枚制作したようなボリュームの新曲を課題曲として色々なバリエーションで演奏されました。

向谷さんはアルファレコード制作による「自然風景映像のLD」でオリジナル音楽のBGMを担当する事になり、「大雪山」(ALLA-99)、「北海道・其の1~道央編」(ALLA-95)、「北海道・其の2~道東編」(ALLA-96)の3タイトルが同時発売されました。BGMの内容は、向谷さんのピアノがフィーチャーされたインスト作です。

又、向谷さんは以前より手掛けていたマルチメディア・ソフトもこの頃に完成させ、このCD-ROMは「Touch the Music by CASIOPEA」というタイトルで7月に発売されました。実は向谷さんは、これ以前にも同系統の「Welcome To The Party」「Hyper Music」といったカシオペアの音楽コンテンツを絡めたソフトを試作したのですが、当時は音楽をテーマにしたPCのソフトウェアなんてまだ全然市販されていなかった時代で、技術的にもコスト的にもまだまだ商品化できない状態でした。しかしその後、マルチメディアの環境が激変し、この年についに市販可能なソフトを制作する事ができたのです。この「Touch the Music」の内容は、前述の2種のソフトより引き継いだ旧譜紹介、メンバープロフィール、楽器紹介、演奏体験コンテンツ等、ファンにとってはたまらない内容となっています。ちなみに300を超えるカルトクイズはメンバー自らが出題したり正誤を発表したりする内容で、全問正解すると「Fly To The Sun」等のオリジナル音源からギターパートだけを抜いたマイナス・ワン音源を聴く事ができます。しかし私はまだ聴いていません(^^;)またいつかそのうちに!(^^;) 後にこのCD-ROMは、富士通FM-TOWNS版も発売されました。

更に向谷さんは、1st「ミノルランド」に次いで通算2作目となるソロ・アルバム「Tickle the Ivory」もアルファレコードで制作する事になりました。

先ず1曲目「Omoe-De-Omoba」の誕生経緯ですが、元々は「Full Colors」を制作していた91年頃、南アフリカの指導者・ネルソン・マンデラが開放されたというニュースを受けて、向谷さんが『これでアパルトヘイト問題も解決に向かうな』と思った時にこのタイトルが浮かんだそうです。そして完成したデモ曲をメンバーに聴かせたところ…実は、笑われたそうです(^^;) 確かにクセのある曲ですからね…(^^;) しかしこの時、敏腕マネージャー様だけはこの曲を気に入っておられたとの事でした。それから2年…この曲を覚えておられた敏腕マネージャー様が「今回、あの曲も入れようよ。」と提案されたのを受け、ついにレコーディングされる事になったそうです。

又、本作ではアルファ時代のカシオペアの曲をどれでも使用できるという利点を生かす事ができた為、向谷さんは試しに「Asayake」のピアノ弾き語りバージョンを録音し、周囲に聴かせたところ、導入部のアレンジも含めてかなり評判が良かったそうです。よって本作は、新曲は数曲に留めて、それ以外はカシオペアの旧曲を多くカバーする事になりました。

改めてアルファの旧盤を全部聴き直した向谷さんは、野呂さんの良いメロディラインの曲が多い事に感動し、『聴いていて、機械的ではない暖かいものを出すには、生ピアノのダイナミクスが必要。音と音の間の空間が空いてるのがいい。』とイメージされたそうです。よって向谷さんは、元々御自身も聴きなれて体に染み込んでいる曲の数々を、全然違うアプローチによって独自の解釈のアレンジでリメイクする事にしたのです。その具体的な手法こそが、アコースティック・ピアノをメインに使う事でした。

その生ピアノをバックで支えるのはドラムやベースも含めて当然、MIDIシンセ音源でした。機材はEmulatorⅢ等の普段の機材に加え、新たにE-mu ProcussionとVintage Keysも導入されたそうです。特にVintage Keysは伝説のアナログシンセの音ばかりを集めてプリセットしたものですので存在感があり、例えば「Everlasting Dreams」のソロでも『おおっ、これだな』という音が聴けます。逆に「A Day In The Stars」や「Acoustic Dream」では、本物の生ギターのように聴こえるPCM音源が爽やかなメロディを醸し出しています。CDでは「Acoustic Dream」から連続演奏する形で「Reflections Of You」へ続きますが、こちらもピアノの裏メロディと言うか、ヴィブラフォンの音がシブイ味を出していますね。「Looking Up」でも裏メロディ的なシロホンのサウンドが曲に活力を与えています。「Long Term Memory」は逆にエレピがメインのメロディを弾いてピアノが裏で弾かれていますね。これらはマルチレコーティングがフルに活用されたようです。

レコーディングも順調に進み、あとは「Omoe-De-Omoba」と「The Soundgraphy」の2曲のレコーディングを残すのみとなりました。そしたらなんと、櫻井さんと神保さんが5年ぶりにスタジオ・ジャイヴに来てくださったのです。こうして向谷さんはカシオペア旧リズムセクションとの共演によってこの2曲をレコーディングしました。神保さんは「長く一緒に演奏していなかったけど、少し音を出すとすぐに昔の感覚が蘇った。」とおっしゃったそうです。

「Omoe-De-Omoba」ではギターに高中正義さんを迎えた変則カシオペア的な布陣で、そこにはまぎれもなく、あのお二人の懐かしいリズムサウンドがありました。私もCDで聴いた瞬間、感慨深いものがありましたね。神保さんがカウベルをミディアムでキープしながらハイハットを32分音譜で叩いておられたのには私も驚きましたが……後にそれは「ドラム・トリガー」と判明しました。この時は私もまだそこまで解らなかったですね(^^;)

一方、「The Soundgraphy」は、もし普通に演奏すると昔のカシオペアになってしまう事から、向谷さんはジャズのトリオ風に演奏する事にしました。この曲だけが唯一の一発録音テイクで、当然、神保さんのカウントも入っています(^^;) お三方はジャズをやっても充分OKですよね。

こうして制作された向谷さんのソロアルバムは、旧曲を扱ったとはいえ「Cuts」とは違う方向性に、アコースティック・ピアノをメインに据えた作品を実現できた事から、「Play the Piano」を意味する「Tickle the Ivory」(ALCA-524)と命名され、9月に神保さんのソロアルバム「ライムパイ」(ALCA-525)と同時に発売されました。奇遇にも神保さんも当時アルファと契約されていたんですよ。(^^;) http://www.amazon.co.jp/dp/B00005GI31

おそらく「Tickle the Ivory」は、今後再発売される事は無いでしょうね。その理由は…まぁ権利関係と言うか、ご想像にお任せいたします。(^^;;)

実はこのレコーディングでジンサクのお二人がスタジオ・ジャイヴを訪れた際、神保さんがカシオペアのファンクラブ会員向けに「ご無沙汰しております。ジンサクのCDも聴いてくださいね。」とメッセージを下さったのです(笑)。当初私は、ジンサクのお二人が「カシオペアファン」に対してどう思っておられるのかが解りませんでしたし、カシオペアファンに聴かれるのは神保さん達も迷惑に思っているのじゃないか?と思い込んでいましたので、神保さんのお言葉にはホッとしました(笑)。変な方向に気を遣っていたんですよね…(^^;)


そして8月7日には、カシオペアのライブが日比谷野外音楽堂で行われたのですが、いつも通りにステージが進行した後、サプライズはアンコール時に突然やってきました…。

先ず「Fightman」演奏時に、神保さんと日山さんが揃ってステージに登場し、各々がパーカッションを披露されたのです。3人のドラマー、ステージ揃い踏みでした♪ そして続いて「Asayake」演奏時には櫻井さんも登場し、鳴瀬さんとダブルでベースを弾かれました。7人のカシオペア…もう観客は大興奮ですね!(^^;) 実は櫻井さんはAsayakeのフレーズを忘れておられたそうで……これには神保さんも呆れておられました(^^;) まぁそれはともかくとしまして、この日はファンにとっても忘れられない歴史的な一日となった事でしょう…。

もうこの8月7日を境に、それまで「新生カシオペア」と名乗って過去のカシオペアを封印していた時代とは違い、旧メンバー時代との垣根も無くなり、それまで区別されていた旧メンバー時代と新生カシオペアの歴史も一つに繋がったと言っても良いのではないでしょうか。もはや「新生カシオペア」と呼ぶ必要も無くなったという事です。アルファ復帰後のカシオペアも、広義では新生カシオペアなのかも知れませんが、厳密に言えば新生カシオペアではなく、ここからまたもや新しいカシオペアの歴史が始まったとも言えるのではないでしょうか。昔も今もない、カシオペアはカシオペアだと言う…完全に垣根が取っ払われましたね。この雰囲気は次回作でも現れる事になります。

実は私も当時の心境を打ち明けますと、『ジンサクのCDを聴くと新生カシオペアを裏切る事になるから…聴けない』と真剣に思っていたんです(笑)。ところが、こうして完全和解のムードとなって、お互いが共演までできるようになったのですから、私も『これで解禁だ~』と思い(またそのセリフか…笑)、当初の数年は聴けなかったジンサクのCDをようやく聴くようになりました(笑)。

「新しいカシオペア」の歴史はまだまだ続きます。12月24日にはNHK総合テレビでミュージシャンが一堂に会するクリスマス特番放送があったのですが、カシオペアはなんと谷村有美さんをボーカルに迎えて「ホワイト・クリスマス」のファンク・バージョンを披露しました。間奏には4人それぞれのソロ演奏も入っていましたよ。(^^)

とにかく1993年は、文字通り、本当に「ドラマティック」な一年となりました(笑)。

(その9へ続く)