2005年04月24日

西伊豆で深海魚を食べる旅

静岡県の東部に位置する伊豆半島は、およそ100万年前、フィリピン海プレートに乗って北上してきた島が本州に衝突してできた半島である。この半島の西側、沼津市の南端に、戸田(へだ)と呼ばれる地区がある。天然の良港である戸田湾を中心とした、人口4,000人ほどの静かな漁村。ここに、他所ではお目にかかれない超名物料理が2つ存在する。タカアシガニと深海魚である。

なぜ西伊豆で深海魚なのか。その答えは駿河湾にある。

伊豆半島の西側に広がる駿河湾は、駿河トラフと呼ばれる南北に伸びる谷間を持つ、日本一深い湾なのである。駿河トラフは、フィリピン海プレートがユーラシアプレートの下に潜り込む境界線にあたり、その深さは湾口部で2,500m、湾の奥、富士川の河口付近でも1,000mほどあるという(駿河湾の海底図)。港の目と鼻の先に深い海があるからこそ、深海に棲むタカアシガニや深海魚を鮮度のよい状態で水揚げできるのだ(深海魚のほうは、タカアシガニ漁の網に引っ掛かってくるオマケのようなものらしいが)。過去には、知る人ぞ知る幻のサメ「メガマウス」なども水揚げされているという。

この深海魚料理に対面するチャンスを数年来うかがっていたのだが、某所のドライブ企画でついにそれが実現した。はたして、噂の深海魚料理の実態はいかに。

2005/4/24(日) 晴れ

8:50 池袋駅前発→10:05-25 足柄SA→10:35 沼津IC→11:15-30 静岡県きのこ総合センター→12:00-10 戸田峠→12:25-13:05 魚重食堂→13:10-14:45 戸田散策→15:40-16:15 土肥温泉→18:40-19:40? 沼津の寿司屋→22:15 池袋駅前着

今回のメンバーは男3人。1人目は39歳飯島氏、通称“先生”と呼ばれる塾講師。他の2人がペーパードライバーだったり無免許だったりするため、最年長なのにドライバーとして酷使されるやや恵まれないお方。2人目は20代後半の青年。本名は不明で、仲間内では“アパッチ”などという意味不明な名前で呼ばれている。フリーターと無職の間を頻繁に行き来する、自他共に認めるダメ人間だ。ここ1ヶ月ほどは飲食関係のバイトをしていたが、先日めでたくクビを言い渡され、今回のドライブには晴れて無職の身で参加した。そして3人目が僕、科学者といえば聞こえがいいが、実態は明日も知れぬ身の日雇い研究者である。東西の最高学府を出ておきながら、底辺でくすぶっている高学歴負け組トリオ。「お前らこそ社会の深海魚じゃねーの?」などと言われてもおかしくない、そんな3人組の活動記録である。

集合場所の池袋駅前を出発し、首都高経由で東名へ。同行者の2人とは飲み会は何度か行っているものの、一緒に遊びに行くのは初めてである。とりあえず、基本中の基本、温泉セットを持ってきたかどうかを聞いてみると、2人とも答えはNO。やれやれ、これだから素人は。ドライブと温泉は当然セットでしょ。ましてや今回は伊豆、そこら中で温泉出まくりのあの伊豆半島である。こっちは山菜の本なども持ってきて万全の体制だというのに。


行きは富士山を眺めながらの快適なドライブ。メンバーに華がないのがやや悔やまれるところだ。



世間話に華を咲かせながら進むと、突然アパッチが「僕、魚きらいなんですよ」と問題発言をかまし、一同騒然とする。いやいや、ちょっと待て。今回は最初から「深海魚目当ての旅」だったはずだぞ。というか他には何も決まっていなかったはずだ。そんなこといまさら言われても困るって。まったくアパッチときたらいつもこうである。この前も、串揚げ食べ放題の店に入ってから「僕、揚げ物苦手なんですよ。」と致命的なことを言い出すし。そういうことは前もって言ってくれと。「でも寿司は好きです。ウニならバケツ一杯でも食えます。」・・・・・・・・・知るかそんなん。その後も、白バイになぜか過敏に反応したりと妙に挙動不審なアパッチ。ドライバーの先生も、気付くと150km近く出したりしていて油断できない。

足柄SAでうだうだした後、沼津ICで東名を下りる。戸田まで海ルートで行くか山ルートで行くかでやや揉めるが、先生が「暖かい時間帯に山を走りたい」と強く主張し山ルートに決まる。まずは伊豆中央道と修善寺道路を経由して修善寺まで。道中、「究極のそば」だの「トイレの神様」だのキャッチーな看板が次々と現れ、我々の興味をそそる。

修善寺からは県道18号を西へ。山道に入ってしばらく行くと、右手に「静岡県きのこ総合センター」なる施設が登場。入館料が無料だったので、とりあえず寄ってみる。中にはきのこに関するパネル展示があったが、内容は微妙なレベルで、きのこマニアの僕には物足らず、素人の先生とアパッチは全く興味を示さず。


きのこを利用したアイデア料理のコーナーにあった「もこもこきのこ」(左の写真)は少し面白かったが、他にはさして見どころなし。



さらに進むと、道路際の空き地で家族連れがワラビを採っていた。それを見て、俄然やる気になる山菜マニアの僕。景色を見るために立ち寄ったキャンプ場の駐車スペースで、独り景色そっちのけで足もとを探すと・・・・・・


あったあった、ワラビ発見。

根こそぎ回収するつもりで周りを見回すと・・・・・・




・・・・・・・・・・・・

採取禁止でしたか。残念。




展望台から景色などを堪能しつつ、さらに西へ。

戸田峠というところに到着。大きな駐車場になっていて、目的地の戸田村を一望することができる。


後ろの山には大きく「戸田」の文字。高いところと展望台が大好きな先生が、山の上に続いている道を登ってみようと言い出す。行ってみるとそこは・・・・・・




激しく藪。

ドライブに来てなぜか藪を漕ぐ3人。写真を撮ろうとすると、「顔出しはNGです!」と意味不明のアパッチ。なぜか先生まで顔を隠しはじめる。顔を隠しながら藪の中をさまよう姿は滑稽そのものだ。この写真は、今回の旅のダメさ加減を象徴する一枚。



いいかげん腹も減ってきたので、アホなことはやめて先を急ぐ。間もなく海沿いの道とのT字路に到着。ここが戸田の中心部である。そしてそこに、今回の目的地である魚重食堂があった。


戸田で深海魚料理といえばここをおいて他にない、というくらいの有名店である。



さっそく中に入る。客の入りは混んでも空いてもいないといったところ。店のおばちゃんが今日食べられる深海魚の種類を教えてくれるが、当然、名前を聞いてもちんぷんかんぷんのものばかり。深海魚のメニューには天丼、刺身定食、てんぷらと刺身がセットになった魚重定食などがあって、これがまたなかなかに悩ましい。どっちつかずの魚重定食は邪道だと思えるが、天麩羅か刺身を選べと言われると「うーん」となってしまう。「ここはやはり魚重定食か? いや、それは安易な選択だ、逃げの選択だ。俺よ、もっと心を強く持て。でもな・・・・・・」こんな感じでかなり長考する。注文を待っている店のおばちゃんも苦笑気味。まわりの客を見回すと、やはり魚重定食が多いようだ。「ここは無難に魚重定食か・・・・・・」90%ほど心が決まりかけていたその時、それが僕の目に飛び込んできた。

隣の机のおねーちゃんが食べている刺身定食の皿から、ぬっと突き出した異形のもの。とてつもないインパクトだ。あれだ、あれを頼めば絶対に間違いはない!! 結局、僕は刺身定食、先生は魚重定食、揚げ物と魚が苦手なはずのアパッチはなぜか深海魚てんぷら定食を注文する。待つことしばし、そいつはついに姿を現した。


写真上、姿造りの魚はゲホウという。他に、ゴソ(左下)と沖ギス(右下)の刺身がついている。



写真ではくりっとした目のかわいらしい魚に見えるが、実物はなかなかにグロテスクなやつだった。頭のサイズは20cmくらいとかなりデカく、表面はトゲトゲ、横から見ると鋭角的な顔、おまけに変な形の口。このゲホウの予想以上の深海魚っぷりにはもう大感激である。かつて、これほどまでに期待を裏切らなかった名物料理が他にあっただろうか。おまけにこのゲホウの刺身、かなり美味いのだ。深海魚の割にはおいしいって意味じゃなく、刺身として絶対的においしい。ゴソと沖ギスも悪くなかったが、インパクトも味も、ゲホウのほうが一枚も二枚も上という感じ。いやいや、もう大満足。こいつに出会えただけで今回の旅は大成功だ。

食べ終わって店を出る。この先どうするかは特に決まっていない。魚重食堂のそばにあった観光案内所で観光マップをもらい、湾の反対側にある駿河湾深海生物館に行くことにする。


日本一深い駿河湾。




深海生物館に行く前に、しばし海辺で遊ぶ人々。

※写真には一部、特殊処理をほどこしてあります。



深海生物館は水族館みたいなものを想像していたのだが、実際にはホルマリン漬けの標本が並ぶ博物館であった。深海魚だし仕方ない気もするが、内心はちょっと残念。ただ、ハサミだけで30cmくらいあるオーストラリアの巨大ガニは見ごたえがあった。それを見ながら、「カニって食いすぎると体おかしくなるらしいですよ」とかなり微妙な発言をするアパッチ。先生はといえば、「生物には興味がない」そうでかなりやる気なしのご様子。深海生物館を見終わった後、同じ館内にある造船郷土資料博物館というのも覗いてみるが、こちらは3人とも興味なしで即終了。理系軍団だしこんなもんか。


その後、再び海辺でうだうだする。




何かを見ている先生とアパッチ。




アメフラシだ。その不思議な魅力にしばらくハマる。



いったん戸田の中心部へ戻り、戸田漁協の直売所をのぞく。


生きたタカアシガニや、メヒカリの唐揚げ、沖ギス(メギス)のすり身「すりすりメギスちゃん」など珍しいものがちらほら。



この後、戸田を離れて南にある土肥(とい)温泉を目指す。


途中、碧の丘という名の展望台にあったベンチ。開くと花壇、閉じるとベンチになるというアイデアあふれる装置。

しかし、よく考えると花の上に座る理由が全く無い。



土肥の観光案内所で立ち寄りできる温泉の場所を聞き、弁天の湯という公衆浴場へ行く。狭い、シャンプーや石鹸が置いてない、露天風呂が道路に面している、などなどあまり良い所のない浴場だったが、入浴料400円の公衆浴場だし無理もないか。1000-1500円払ってホテルのお風呂に行ったほうが良かったかもと少し後悔。で、とっとと入ってとっとと出る。ちなみに、露天風呂から顔を出しふと横を見ると、なんと女湯が丸見え。適当な造りだなぁ。

ここで、「どうせだし土肥の金山にも寄ってく?」と聞くも、「もう帰りましょう」とアパッチ。若いくせにノリの悪い奴だ。まあ時間も時間なので、あとは沼津で寿司を食って帰ることにする。


「土肥ひものセンター」でおみやげのアジの開きを買い込んだ後、夕暮れの西伊豆スカイラインを通って戸田峠まで。途中、展望台が出てくる度に停車しては、ウグイスの鳴き声に聞き入ったり、




夕日の戸田を眺めたり、




なぜかまた藪に突入したり。無駄に元気な39歳。



戸田峠からは県道127号を通って海沿いに出て、そのまままっすぐ沼津まで。沼津港のそばの寿司屋で夕食。「ウニも食いすぎると体おかしくなるらしいですよ」とあいかわらず変なアパッチ発言を聞きながら、大トロだのウニだのと贅沢してみる。しかし、やはり昼に食べたゲホウ、あれに匹敵するものは見当たらないかな、と。

この後は何事もなく都内へ戻り、池袋で解散。車で去る先生を見送った後、アパッチが発したセリフでこのレポートを締めくくりたいと思う。

「今日は、半分くらい無駄に過ごした一日でしたね。」

深海魚、深海魚と珍しがってはいますけどね。最近はメロだのメルルーサだの、外国の深海魚の切り身が平然とスーパーに並んでるわけでして。あいつらも、顔を見たらひっくり返るくらいグロテスクだったりするかもしれませんね。

Posted by まの at 23:58 │Comments(2)TrackBack(1)普通の旅行記

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 なんかあっと言う間に前半戦終了。もう明後日から授業なんだけど。
世迷いゴト師の独りゴト2  2005年05月01日 19:13

この記事へのコメント

やもり  2005年09月12日 20:25 
真野さん、おひさしぶりです。
深海魚の隠れファンやもりんです。

深海生物館は残念ながら見つけられなかったけど
私も同じ時期に「碧の丘」行きましたよ。絶景が気持ちよかったです。
そして、“よく考えると花の上に座る理由が全く無い”ベンチに喜んで座ってる写真を撮りましたよ。
まの(管理人)  2005年09月19日 21:44 
おや、デートですか、良いですなー。同じ風景でも、男3人組とは違って見えそうですねw
ところで、やもりんさんは深海魚は食べましたか?