11月8日、ことし発生した台風では最も強い勢力となった台風30号の直撃を受けたフィリピン中部では、レイテ島の中心都市タクロバンなど広い範囲で、猛烈な暴風雨にさらされたのに加え、高潮が押し寄せた。一時、4メートルを超す高潮が沿岸部を襲ったということで、押し流されたとみられる1万3000棟以上の住宅のがれきや流木が広い範囲に散乱している。
 フィリピン赤十字は9日、台風30号が直撃したフィリピン中部のレイテ島とサマール島で1200人以上が死亡したとの見通しを示している。警察当局者は10日、死者がレイテ島で約1万人に上る恐れがあることを明らかにした。
 気象庁によると、台風30号は今月8日の朝から夕方にかけてフィリピン中部を東から西へ横断し、進路に当たったサマル島やレイテ島などでは高潮などで大きな被害が出た。台風により大きな被害が出ているフィリピンの風速のデータを気象庁が調べたところ、台風の進路に当たる都市では通過する1時間ほど前に風速40メートルを超える猛烈な風が吹いていたことが分かった。気象庁は最大瞬間風速は最大風速の1.5倍から3倍程度になることから、「瞬間風速は90メートル近かった可能性がある」として、猛烈な風も被害を拡大させた要因と見ている。
 いっぽう、米軍合同台風警報センターは、台風30号がフィリピンに上陸した際の最大風速を秒速87.5メートル、最大瞬間風速を同105メートルと算定している。英紙ガーディアンによると、同センターが観測したのは上陸の約3時間前。その後も勢いがほとんど弱まらなかったことが衛星データで確認され、上陸時のスピードを同程度と算定した。専門家は「上陸した台風の中では、史上最強クラスだ」としている。

フィリピンレイテ島30号 










台風30号T1330






フィリピン中部に壊滅的な被害を出した台風が直撃したときの様子について、当時現地にいた青年海外協力隊員は「猛烈な風で、震度3から4くらいの揺れでホテルが揺れ続けた」などと証言した。台風30号は今年発生した台風の中では最大規模のものだったが、被害がここまで拡大したのは、強い竜巻並みの暴風雨に加え、まるで津波のような高潮が発生したことによるという。
 ロイター通信によると、中部レイテ島の中心都市タクロバンでは、海岸から約1キロ離れた場所でも家屋がめちゃくちゃに壊れ、電柱や樹木が倒れる被害も出ている。高潮で海水が猛烈な勢いで流れ込んだとみられる。タクロバンの空港は管制塔などが破壊される被害を受けた。空港関係者は、台風の通過時には水位が一気に4メートル上昇し、ドアが使えず窓を開けて逃げたと語った。タクロバンのホテルに宿泊していた人も「水は2階まで来た」と話しているという。
 レイテ島は貧困層が多い地域であり、災害対策の甘さも指摘されている。レイテ島の主要産業は農業や漁業で、マニラ首都圏に比べると所得水準は格段に低い。簡単な木造やトタン屋根などの家屋が少なくなく、日本大学の山川修治教授は「災害対策が遅れていたのではないか」とみる。
 周辺海域で多くの台風が発生するフィリピンではたびたび被害に見舞われており、2011年12月に台風が南部ミンダナオ島を襲い、1200人以上が死亡。12年12月の台風でも死者・行方不明者が1800人以上に達したことがある。

 フィリピンは大小7107の島々から成り、インドネシアに次いで世界第2位の群島国家。首都マニラがあるルソン島をはじめ、ミンダナオ島、セブ島などの主要11島で総面積の96%を占めている。面積は、29904Km2(日本の約8割の広さ)。

史上最強の台風の発生要因
 
気象専門家は、近年、今回のような猛烈な台風が多発する要因として、近年の地球温暖化による「海水温の上昇」と「海水位の上昇」を指摘している。
 海水温の上昇によって強い上昇流が発生して熱帯性低気圧が次第に勢力を増して超低気圧となって猛烈な台風に成長するらしい。
 気象庁によると、1950年以降の海中(海面から深さ700メートルまで)の水温データを分析したところ、海水温は世界全体で平均して10年あたり0・02度の割合で上昇し、水深700メートルの内部まで上昇し続けている。気象庁は、地球温暖化の影響で増加した熱量の半分以上が海水に蓄積され、海面の上昇につながり、海面だけでなく、海洋内部の水温上昇が海水全体の熱膨張をもたらし、水位上昇の原因になっていると分析している。
 米航空宇宙局(NASA)や欧州宇宙機関(ESA)などの国際研究グループは昨年11月、地球温暖化による南極やグリーンランドの氷床が最近20年間で計4兆2600億トン解けるなどして減少し、地球の海面が11ミリ上昇したと発表した。
 国連の「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」第1作業部会の最新の報告書で、人間活動による温暖化が引き起こした熱波が一部で増えている可能性が高いと指摘、具体的な地域としてアジア、欧州、豪州を挙げた。今世紀末の世界の平均気温は最大4・8度上昇し、海面も最大81センチ上がると予測している。報告書によると、地球の平均気温は20世紀に入ってから112年間で0・89度上昇した。100年当たり0・79度の上昇で、2007年に公表された第4次報告書の0・74度より上昇幅が広がっている。20世紀半ば以降の平均気温の上昇の半分以上は人間活動が引き起こした可能性が極めて高く、その確率を「95%以上」と評価。
 下図は表層水温の長期変化傾向(全球平均)で、全球で平均した海洋の表層水温は、長期的に10年あたり0.020℃(統計期間は1950年から2011年)の割合で上昇している(気象庁統計資料)。
海水温の海水温上昇






COP19 温暖化対策求める声強く 台風被害で
 ポーランド・ワルシャワで開かれている第19回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP19)で12日、フィリピンの台風被害を受け、途上国から地球温暖化対策を求める声が相次いだ。温暖化による悪影響の緩和や、対策を実施する資金や技術などの提供を先進国に求めた。巨大台風で大規模な被害を受けたフィリピン政府代表団が演説し、「祖国を襲った極端な異常気象は狂気だ。私たちでなければ、誰がいつ地球温暖化を食い止めるのか」と、涙ながらに交渉進展を訴えた。
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台風30号直撃によるフィリピン被災者数
①フィリピン中部の台風被害で、国連人道問題調整事務所は12日、推計で被災者が1130万人に達し、これまでに1万人以上が死亡し、67万人以上が避難生活を送っていると発表した。フィリピンの台風による被害状況について、国連の人道問題調整事務所のギング局長は11日、ニューヨークの国連本部で会見し、「過去100年の台風の中で最大級の被害をもたらし、980万人が被災した」と述べたうえで、66万人が住まいを追われ、避難を余儀なくされているとの見方を示した。日本時間の12日未明、フィリピン全土で犠牲者が1万人に上るおそれがあり、66万人が家を失って食料や水、医薬品を必要としていると発表した。
②台風30号の被災地で、死者・行方不明者数などの被害状況の確認が大幅に遅れている。道路や通信などのインフラ復旧が進まないことが一因で、携帯電話の基地局はいまだ半分が機能していない。フィリピン国家災害対策本部の13日朝の発表によると、台風による死者は1833人で行方不明者が84人。アキノ大統領は「まだ29の自治体と連絡が取れておらず数字は特定できていないが、犠牲者数は2000~2500人になるとの見方を示した。地元警察は死者数について1万人との見通しを示したが、アキノ大統領はこの推計を「多すぎる」と述べた。
③在フィリピン日本大使館によれば、日本レイテ、サマール両島にいる日本人133人のうち、103人の連絡も取れておらず、確認を急いでいる。
④ロイター通信によると、警察当局者は、台風により発生した高波にのまれて多数の犠牲者が出たとの見方を示した。高波は家屋の高さほどに達したという。同当局者は、レイテ島で台風が通過した地域の70~80%の建物が破壊されたと述べた。
⑤レイテ島では島を脱出する被災者も出てきた。12日までに近隣のセブ島行きの民間機が復旧し一部在留邦人も避難。レイテ島の中心都市タクロバンにある空港では11日、島を後にする住民が長蛇の列をつくった。島の南部に陸路で移動後、船で脱出した人もいた。

被災状況
①沿岸部では高潮によって多数の船が打ち上げられているほか、木材やコンクリートなど大量のがれきも放置されている。復旧作業には相当な時間がかかるとみられる。
被災地では飲料水などの物資が不足しているほか、衛生状況を悪化させないために犠牲者の遺体の処理が急務となっているものの、道路などのインフラが寸断され支援物資を届けるのが極めて困難な状況にある、としている。被災した現場は道路や通信などのインフラ復旧が進まず、被害状況の把握は大幅に遅れている。時間の経過に伴って衛生状態の悪化も深刻になっている。食料が行き届いていないため略奪行為も起きており、比政府は警察や軍など約2千人を投入して治安維持や復旧作業にあたっている。
②被災地では、食料や水の不足から商店での略奪や食料の奪い合いが起きるなど治安が悪化している。
③レイテ島の中心都市タクロバンで、刑務所の壁が壊れ、受刑者が脱走した。同国軍当局者によると、刑務所は約600人を収容しており、うち何人が脱走したかは不明。

国際的救援活動
米太平洋軍がヘリコプターを使った物資の輸送など救援活動に乗り出し、海兵隊は海岸周辺に打ち上げられた遺体の収容を進め、ドイツは救援組織を現地に派遣したほか、オーストラリアも医療チームを派遣する予定など各国の救助隊も続々と到着して、国際社会の支援も本格化し始めた。しかし、台風の直撃から5日たった今も被害の全容はつかめておらず、道路や通信網が寸断されていることから救援活動は難航し食料や飲み水、医薬品などの不足が深刻化している。
①国連児童基金(ユニセフ)は9日、フィリピン中部を襲った台風30号で被災した地域に住む子供が170万人に上るとの推計を明らかにした。現地入りして支援を開始したほか、医療物資や浄水器、避難所に必要な設備など約60トンをデンマーク・コペンハーゲンから緊急空輸する。
②国連人道問題調整室(OCHA)も災害支援調整活動のチームを派遣した。
③国連人道問題調整室は、国連と民間団体による人道支援に総額3億100万ドル(約300億円)の緊急の人道支援が必要になるとも発表。支援の内訳は、食料や飲料水、避難所の確保などで、同事務所はこのうち、2500万ドル(およそ25億円)の緊急援助を行う。これまでにアメリカやイギリス、それに日本などが支援を表明しているが、総額は100億円ほどにとどまっているため国際社会に協力を呼びかけた。
④国連のパン・ギムン事務総長は10日、緊急の声明を発表し、国連機関などが支援に全力を挙げているとしたうえで、国連として被災地の1万3000世帯を対象に、食料や水、医薬品などの救援物資の配布を進めているとしている。
⑤アメリカは、神奈川県にあるアメリカ海軍横須賀基地に配備されている原子力空母「ジョージ・ワシントン」を被災地の沖合に派遣することを決めたほか、駆逐艦や補給艦など大型の艦船5隻を現地に向かわせている。また、2000万ドル(日本円でおよそ20億円)を食料支援などのために拠出することを決めた。
⑥イギリスは、海水を飲料水に浄化する装置を備えている海軍の艦船や空軍の輸送機を派遣して、現地で救援活動に当たるほか、1000万ポンド(およそ16億円相当)の救援物資を送ることを表明している。
⑦オーストラリアは1000万オーストラリアドル(およそ9億3000万円)の支援を表明したほか、13日、現地に医療チームを派遣する。
⑧中国は、政府と赤十字でそれぞれ10万ドルずつの合わせて20万ドル(およそ2000万円相当)の物資を送ることを明らかにした。
⑨台湾は20万ドルを拠出することを決めた。
⑩EUの執行機関に当たるヨーロッパ委員会は、300万ユーロ(およそ4億円)の支援を打ち出している。

日本の救援活動
主要国による援助活動も本格化しており、日本が派遣する25人の国際緊急援助隊・医療チームは12日午前、フィリピンのセブ島に到着し、このあと3つの隊に分かれ、13日、被害の大きかったレイテ島タクロバンに入り、病院で負傷者の治療活動を開始した。
①外務省は10日、猛烈な台風30号の直撃したフィリピンで多数の死傷者が出るなど深刻な被害が発生したことを受け、具体的な支援の方法を把握するため外務省と国際協力機構(JICA)の職員1人ずつによる調査チームを現地に派遣した。菅義偉官房長官は12日午前の記者会見で、台風30号で多数の死傷者が出たフィリピンに対し、政府が1千万ドルの緊急無償資金協力を行うと発表した。今後、緊急シェルターや食料、水などの支援もあわせて実施する。
②このほか、政府の国際緊急援助隊の医療チーム25人が11日午後、成田空港からチャーター機でマニラに向けて出発し、13日午前5時すぎ、フィリピンのレイテ島の西側に位置するオルモックの港に到着し、特に被害が深刻な島の東側に向かった。
③いっぽう、12日午後、フィリピン政府から自衛隊の派遣要請を受け、小野寺防衛大臣が、現地で支援活動を行うため自衛隊に派遣命令を出した。被災地での医療活動、被災者や物資輸送任務などを行うため、医療チーム20人や調整要員30人からなる自衛隊国際緊急援助隊50人を現地に派遣することになった。このうち、隊長ら2人が受け入れ準備などの調整にあたるため12日夜、成田空港から現地に向けて出発した。13日朝、医師や看護師など医療チーム20人を含む37人の隊員が成田空港から現地に向けて出発した。13日午後には愛知県の小牧基地から11人の隊員が自衛隊の輸送機に医療物資を積んで出発する予定。

情報元:日本経済新聞、NHKニュース、読売新聞、産経新聞、ロイター通信社 各電子版、気象庁報道発表資料