50年前のクリスマスイブ。札幌市市内。私は23歳で北大3年の学生だった。思いを寄せていた彼女に何とかクリスマスイブに初デートの約束を取り付けた。
 彼女は社会人21歳の社会人。出会いは内緒。デート先は大通公園近くの小さな「名もない喫茶店」。確か雪が降り積もっていた。内地ではいわゆる一面銀世界。
 窓際の席を取り彼女と向かい合った。落ち着かず。生まれて初めてのデートであったこともあるが、もっと切実な問題があった。
 その日の食事代にも事欠く貧乏学生ゆえクリスマスイブといっても気の利いたプレゼントを用意することなど論外。それどころかケーキを頼む金銭的余裕などない。かろうじて二人分のコーヒ代は用意できた。
 ただ、何とかイブらしいデートをと考えあらかじめ買っておいたリンゴ一個をポケットから取り出してテーブルに置いた。そしてウェイトレスに「二人だけのクリスマスを楽しみたいので皿とナイフを貸してほしい」とお願いした。快く受け入れてもらえ、果物ナイフ一本と小さな皿とフォークを二つづつテーブルに持ってきてくれた。
 彼女はすぐさまリンゴを手にして皮を剥き四つに切ってくれた。私と彼女二人の心が通じ合った瞬間だった。私の緊張が時ほぐれ会話が弾みだした頃、件のウェイトレスがショートケーキ一切れと小さなローソクを持ってきて「店長からのプレゼントです」とにっこり。私と彼女の空間が急に暖かくなった。
 帰り道、雪が降りだしていた。私と彼女は肩を寄せ合い無言で歩いていた。大通公園に来た時どちらからともなく唇を重ねた。2年後に結婚した。
 
 50年を経て6人の孫に恵まれtが今年9月に1年半におよぶガン闘病生活の末、コンピューターの電源が切れるごとくあっという間に虚の世界に逝ってしまった。再起動はありえなかった。
 
 今宵独りで初めてのクリスマスイブ。独酌三昧とはいかない。なんでなんで逝ってしまったのかと独語連発。