口頭弁論
2008年10月03日
北海道警察v.s.北海道新聞 第12回 第7回口頭弁論 北海道警察VS北海道新聞
第7回口頭弁論が、平成19年9月10日午後3時から、札幌地裁民事第一部5号法廷で開かれた。原告席には、いつものとおり原告佐々木友善の代理人齋藤隆広弁護士のみ、原告佐々木友善は傍聴席。被告席には、北海道新聞の代理人馬場正昭弁護士、講談社、旬報社の代理人弁護士、被告の佐藤一記者とその代理人清水勉弁護士、本訴の補助参加人で反訴の原告大谷昭宏とその代理人市川守弘弁護士。傍聴席には、道警OBが20数人、北海道新聞からは経営企画室のメンバー、何故か常連の「市民の目フォーラム北海道」の原田代表の顔はない。今回も北海道新聞の裏金取材班の記者たちのほとんどが傍聴にきていない。その他、取材の記者が数人。
まず、冒頭に北海道新聞側の準備書面を陳述があった。
◎被告道新・高田・佐藤準備書面6（2007年8月27日付）要旨
●仮定抗弁である本件摘示事実の真実性についての具体的主張
1 佐藤一が「わかるでしょ。理解してよ」を聞いたのは2003年11月下旬から12月中旬までに開催された道警と記者クラブとの懇親会等である。（従前主張をこの範囲で修正する）
2 サブキャップの訴外Nが11月下旬の懇親会で「領収書なんて全部ペンネームだ。本名なんて書けるわけがない。当然でしょ」などと話すのを聞いている。
3 佐藤一は上記の期間に同様のことを聞いてはいるが、Nからの報告を受け、直接の経験と混交してしまったので時期は現時点では明確ではない。なお、12月11日の夜回りの際、佐々木友善から直接「わかるでしょ。理解してよ」と同趣旨の発言を聞いた。
4 取材によると佐々木友善が芦刈本部長に叱責されたのは、12月12日午後4時以降で、場所は道警本部庁舎内である。
5 こちらとしては、仮定抗弁である真実性について、これ以上具体的に主張する予定はない。ただし、証人尋問前にさらに詳しい道新関係者の陳述書を提出予定である。（註 仮定抗弁とはこの場合、「そもそも名誉棄損なんて成立しないんだけど、万が一、仮に名誉棄損が成立するとしても、記事には真実相当性がある。それを説明するための反論」の意味と解釈してよい）
その後、裁判所と被告側弁護団との間で以下のやり取りがあった。
竹田裁判長 道新側はこれ以上主張する予定はない、とのことだけど、どういう趣旨なの？ ここまでの原告の求釈明に一部は答えているが…。細かいところまではわからない、というならしょうがないんだけど。
馬場弁護士 今回の書面は、（前回の）裁判所からの求めに応じて答えたものだ。細かいことについては確認作業が必要になる。関係者の1人はロンドンにいるし。さらに申し上げると、これは立証の裁量の範囲内なのかなと思料する。
竹田裁判長 いや、要はこれからさらに、もう少し細かいところまで主張していくということなのか、その辺をはっきりしたいわけです。尋問の直前に陳述書を出すというけど、もし、さらに主張があるというのなら、早くご準備いただきたい。やらないならそれを前提に裁判を進めるが、あとからまだ、細かいことが出るというのであれば、裁判の予定が立たない。陳述書を出すというのであれば、早めに出していただきたい。
馬場弁護士 わかりました。
清水弁護士 言った言わないの話しはここまでの主張で十分だ。「叱責」の部分については、あまり細かいことをやると、取材源の秘匿の問題が出てくる。あまり細かいことまでやると、取材源が絞り込まれてしまうので、難しい部分がある。
竹田裁判長 それについてはわかる。ただ、新しい主張、細かい話がこれ以上出るのかどうか、そろそろめどをつけて欲しいんです。次回弁論までに「これ以上は細かいことを出さない」という部分を固めていただきたい。どこまでご主張されるのかはお任せしますが。
その後、佐々木友善の準備書面が陳述される。
◎ 原告佐々木友善側第6回準備書面（2007年9月5日付）要旨
●本訴について
1 道新はこちらの求釈明に答えていない。もし、問題の論点について自らの主張が正しいなら、十分釈明可能なはずだ。
2 なぜ答えないか。それはぼろが出て、困るからだ。仮定抗弁だから反論の必要がない、との主張は理由がない。
3 求釈明に答えず、代わりに尋問直前に陳述するというのは後出しじゃんけんで卑怯だ。こんなやり方がまかり通るなら、原告に一方的に主張をやらせ、それを効果的にたたきつぶすという攻撃防御がまかり通ることになる。これは原告の攻撃防御の機会を奪い、裁判所に偏った心証を抱かせようという手法で、断じて許されない。
4 改めて釈明を求める。これに応じられないのなら、1，2の理由で回答しないものとみなし、さらに主張立証する。
●補助参加人の主張について
1 補助参加人は原告の社会的評価が下がったかどうかについては、裏金問題の真相を解明しなければならないと主張しているのかもしれないが、本件訴訟と全然関係ない。
2 そもそも、名誉棄損は一般読者の読み方を基準として判断すべきもので、補助参加人のような特定の人物の見地から行うものではない。なので、補助参加人の主張は関係ない。
3 よって、いずれの主張も理由がない。
●反訴での宮崎・大谷の主張について
「被告の抗弁に先立ち、抗弁の積極否認を原告に求めるもので、これは主張の放棄だ」という主張だけど、趣旨が不明だ。そもそも、こちらの主張がそうでないことは明らかである。
次回期日を「11月12日午後2時から」と決定後、清水弁護士から確認が1つあった。
清水弁護士 原告（佐々木友善）側は今回の準備書面で、名誉毀損の構成要件として「一般読者の読み方を基準」と主張されているが、これは従前の主張と異なる。これは主張を変更された、と理解してよいか。
竹田裁判長 原告側、どうなの？
斉藤弁護士 （首を横に振る）
竹田裁判長 だからさ、要は一般読者の読み方を基準とするというご主張と考えていいわけね？
斉藤弁護士 （首を縦に振る）
まず、冒頭に北海道新聞側の準備書面を陳述があった。
◎被告道新・高田・佐藤準備書面6（2007年8月27日付）要旨
●仮定抗弁である本件摘示事実の真実性についての具体的主張
1 佐藤一が「わかるでしょ。理解してよ」を聞いたのは2003年11月下旬から12月中旬までに開催された道警と記者クラブとの懇親会等である。（従前主張をこの範囲で修正する）
2 サブキャップの訴外Nが11月下旬の懇親会で「領収書なんて全部ペンネームだ。本名なんて書けるわけがない。当然でしょ」などと話すのを聞いている。
3 佐藤一は上記の期間に同様のことを聞いてはいるが、Nからの報告を受け、直接の経験と混交してしまったので時期は現時点では明確ではない。なお、12月11日の夜回りの際、佐々木友善から直接「わかるでしょ。理解してよ」と同趣旨の発言を聞いた。
4 取材によると佐々木友善が芦刈本部長に叱責されたのは、12月12日午後4時以降で、場所は道警本部庁舎内である。
5 こちらとしては、仮定抗弁である真実性について、これ以上具体的に主張する予定はない。ただし、証人尋問前にさらに詳しい道新関係者の陳述書を提出予定である。（註 仮定抗弁とはこの場合、「そもそも名誉棄損なんて成立しないんだけど、万が一、仮に名誉棄損が成立するとしても、記事には真実相当性がある。それを説明するための反論」の意味と解釈してよい）
その後、裁判所と被告側弁護団との間で以下のやり取りがあった。
竹田裁判長 道新側はこれ以上主張する予定はない、とのことだけど、どういう趣旨なの？ ここまでの原告の求釈明に一部は答えているが…。細かいところまではわからない、というならしょうがないんだけど。
馬場弁護士 今回の書面は、（前回の）裁判所からの求めに応じて答えたものだ。細かいことについては確認作業が必要になる。関係者の1人はロンドンにいるし。さらに申し上げると、これは立証の裁量の範囲内なのかなと思料する。
竹田裁判長 いや、要はこれからさらに、もう少し細かいところまで主張していくということなのか、その辺をはっきりしたいわけです。尋問の直前に陳述書を出すというけど、もし、さらに主張があるというのなら、早くご準備いただきたい。やらないならそれを前提に裁判を進めるが、あとからまだ、細かいことが出るというのであれば、裁判の予定が立たない。陳述書を出すというのであれば、早めに出していただきたい。
馬場弁護士 わかりました。
清水弁護士 言った言わないの話しはここまでの主張で十分だ。「叱責」の部分については、あまり細かいことをやると、取材源の秘匿の問題が出てくる。あまり細かいことまでやると、取材源が絞り込まれてしまうので、難しい部分がある。
竹田裁判長 それについてはわかる。ただ、新しい主張、細かい話がこれ以上出るのかどうか、そろそろめどをつけて欲しいんです。次回弁論までに「これ以上は細かいことを出さない」という部分を固めていただきたい。どこまでご主張されるのかはお任せしますが。
その後、佐々木友善の準備書面が陳述される。
◎ 原告佐々木友善側第6回準備書面（2007年9月5日付）要旨
●本訴について
1 道新はこちらの求釈明に答えていない。もし、問題の論点について自らの主張が正しいなら、十分釈明可能なはずだ。
2 なぜ答えないか。それはぼろが出て、困るからだ。仮定抗弁だから反論の必要がない、との主張は理由がない。
3 求釈明に答えず、代わりに尋問直前に陳述するというのは後出しじゃんけんで卑怯だ。こんなやり方がまかり通るなら、原告に一方的に主張をやらせ、それを効果的にたたきつぶすという攻撃防御がまかり通ることになる。これは原告の攻撃防御の機会を奪い、裁判所に偏った心証を抱かせようという手法で、断じて許されない。
4 改めて釈明を求める。これに応じられないのなら、1，2の理由で回答しないものとみなし、さらに主張立証する。
●補助参加人の主張について
1 補助参加人は原告の社会的評価が下がったかどうかについては、裏金問題の真相を解明しなければならないと主張しているのかもしれないが、本件訴訟と全然関係ない。
2 そもそも、名誉棄損は一般読者の読み方を基準として判断すべきもので、補助参加人のような特定の人物の見地から行うものではない。なので、補助参加人の主張は関係ない。
3 よって、いずれの主張も理由がない。
●反訴での宮崎・大谷の主張について
「被告の抗弁に先立ち、抗弁の積極否認を原告に求めるもので、これは主張の放棄だ」という主張だけど、趣旨が不明だ。そもそも、こちらの主張がそうでないことは明らかである。
次回期日を「11月12日午後2時から」と決定後、清水弁護士から確認が1つあった。
清水弁護士 原告（佐々木友善）側は今回の準備書面で、名誉毀損の構成要件として「一般読者の読み方を基準」と主張されているが、これは従前の主張と異なる。これは主張を変更された、と理解してよいか。
竹田裁判長 原告側、どうなの？
斉藤弁護士 （首を横に振る）
竹田裁判長 だからさ、要は一般読者の読み方を基準とするというご主張と考えていいわけね？
斉藤弁護士 （首を縦に振る）
北海道警察v.s.北海道新聞 第9回（19.5.10） 第4回口頭弁論 訴訟は裏金問題へ？
平成19年3月19日午前11時から札幌地裁民事第1部5号法廷で第4回口頭弁論が開かれた。原告側は、代理人の齋藤隆広弁護士のみ、原告の佐々木友善は傍聴席で傍聴。
被告側は、被告の佐藤一、被告各社の代理人のほか被告高田昌幸、佐藤一の代理人清水弁護士に加え、はじめて補助参加の代理人安田好弘（東京）市川守弘（札幌）両弁護士が法廷に入った。
傍聴席には、補助参加を申し出ている大谷昭宏、宮崎学の両氏、道新関係者、元道新取材班の記者たち数名が顔を見せた。
今回の特徴は、道警のOB、20数名が傍聴したことだろう。
その中には、元方面本部長や署長の経験者のほか道警元幹部が含まれ、ここにきて道警側がこの訴訟の意外な展開に危機感を持ち始めたことを示すものだろう。
最初に、原告側の第3準備書面と被告道新側の第3準備書面の陳述手続き、双方提出の証拠採用が行われた。準備書面の骨子は次の通りだ。
◎原告（佐々木友善）準備書面3（骨子）
●旬報社・講談社に対する反論 2つの本は別々だから共同不法行為は成立しない、との反論は失当だ。2つの本は道警裏金キャンペーン報道、読者の道警への不信感をことさら煽ることを目的とした活動の一部に他ならない。しかも出版時期が近接している。2冊の本は密接な関連があり、共同不法行為が成立する。「情報コントロール権」について、講談社は日本の裁判では認められないというが、住基ネット訴訟大阪高裁判決でも認められている。講談社の主張は失当だ。
●新たな内部告発文書 道新が成立を否認した内部告発文書を保管するため、新たな内部告発文書を提出する。これには高田・佐藤ら4人が作成した組合ニュースも同封されていた。この組合ニュースは部外秘であり、社内の一部の人間しか持ってない。つまり、新しいものは道新社員が作成したことは明らかだ。最初の内部告発と同じ活字が使われ、同じ文体であることから同一人物が書いたと判明する。新しい内部告発には道新の内部調査が事実上行われていないのに、行ったかのように書いている。これも捏造であり、原告のケースと同様、と指摘している。
◎被告（道新・佐藤・高田）準備書面3（骨子）
原告佐々木友善が「捏造記事」を主張する記事はいずれも真実である。少なくとも真実と信じる相当な理由がある。
●「わかるでしょ、理解してよ」＝懇親会の席で「架空の協力者を書いた書類は以前からある。だって本名なんか書けるわけないでしょ。捜査協力者を守らないといけない」と話し、裏金についての疑いを払拭するためか「わかるでしょ。理解してよ」と話した。
●「下手を打ったと叱責」＝伏線にあったのは、その前に出た「道警幹部が道に『調査と答弁しないで』と要請」記事。この記事が出た夜、佐藤が道警幹部からその話を聞いた。さらに数名の幹部、職員から話を聞き、叱責の時間、場所、「下手」という言葉が一致した。
●「どこまでやられるかと思ったよ」＝道警ロビーで佐藤と雑談中に原告佐々木友善が言った。
この後、補助参加について、裁判長と原告代理人齋藤弁護士、補助参加代理人の市川弁護士、安田弁護士との間でやりとりがあった。
裁判長 補助参加については、原告の意見書提出を待っているわけだが、まだ出さない？
斎藤 別件の裁判の移送決定が確定した後、意見書を出す。
裁判長 しかし、（原告からの）意見書提出は補助参加の要件とはならない。
斎藤 それは考え方の相違だ。
裁判長 まあ、それはそうだけど。で、補助参加人の準備書面が出ていて陳述すると。一応法的には、「参加を認めない」決定が出るまでは、訴訟に参加することが認められているので。
斎藤 われわれとしては、その書面を陳述とは認めない。
裁判長 いや、裁判上は陳述扱いになっていますので。そちらの扱いは勝手だ。
市川 われわれとしては、ちゃんと決定を出して頂き、思う存分訴訟活動をしたい。
裁判長 いや、訴訟活動自体は自由ですので、思う存分やってください。こちらとしても、問題になっている別件裁判の論点が別物である、という理解はしている。しかし、原告は意見書提出を待ってほしいといっている。補助参加の要件については見解の相違があるが、裁判所としては補助参加を認めない決定をするまでは訴訟活動は自由と考えている。
安田 こちらとしては昨年8月に補助参加を申し立てている。早く出してほしい。
裁判長 裁判所としても早く出したいと思っている。ただ、原告側は補助参加を認めたら答弁をしない、とまで言っていた。まあ、こちらとしては原告意見書が出次第、すぐに決定する。
今回も口頭弁論でも裁判所は補助参加を認める決定を出さなかったが、その前に補助参加申立人の代理人である市川、安田弁護士が法廷に入ることを認めたのも異例だが、決定を出さないまでも、事実上、裁判所は補助参加を認めた格好だ。
ここで、補助参加人から裁判所に提出された証拠23通が採用されたほか、3通の準備書面の陳述手続きがなされた。その要旨は次の通りだ。
●補助参加人準備書面1
原告は「『下手を打ったと叱責された』と書かれ、稚拙な対応をした評価される事態に陥った。名誉棄損だ」と主張するが、そもそも、この場合の稚拙な対応とは何だろうか。仮に、道警が裏金問題の真相究明を積極的に行い、監査委員や知事にも積極的に情報公開して、過去の膿を吐き出そうとしていた、とすると、そこでの「下手を打つ」は真相究明に後ろ向きの姿であって、これは原告の社会的評価を下げることになろう。しかし、道警は実際には道警裏金問題の真相隠しに躍起になっていた。これは芦刈道警本部長の議会答弁、監査委員からの事情聴取拒否などからも明らかだ。で、この道警の中で「下手を打つ」ということはすなわち、「真実隠しなんてやってられるか。ばかばかしい」と、隠蔽工作をサボったことを意味し、これはむしろ、原告の人格、品行が高く評価されることにつながる。そもそも、組織不正の隠蔽工作というのは、警察の本来職務ではなく、できなくて当然。たとえこの記述が虚偽だったとしても、社会的評価は下げない。
同準備書面2
ところで、原告は裏金問題が発覚した当初の03年12月ごろ、「裏金はない」と言い続けてきた。取材に対しても公の場でも「ない」と虚偽発言を繰り返してきた。原告は当時、裏金が警察に蔓延していたことを知らなかった、と反論する可能性がある。しかし、原告は当時から裏金の存在について熟知していた。原田宏二氏は自分が道警総務課長時代、自分の目の前で友善が裏金を受け取っているのを目撃している。さらに、原告は裏金の金庫番の副署長、実際に多額の餞別を受け取る署長も経験している。誰よりも裏金について熟知していたのに、公の場ではウソを突き続けてきたのである。その一方で、当時の原告は総務部長として「議会対策」の責任者でもあった。道警の組織、あるいは道警本部長から課せられた指命は、裏金問題をなかったことにすることであり、そのために裏工作をした。そしてその裏工作は成功し、知事に「裏金の調査はしない」と議会答弁させた。その裏工作が発覚した際、本部長から「下手を打った」と怒られる蓋然性は高い。少なくとも真実と信じる相当な理由がある。
同準備書面3
原告は「泳がせ捜査失敗」記事を題材に、取材班は新聞協会賞を取るために捏造記事を何度も出してきた、と論じている。しかし、「泳がせ捜査失敗記事」は新聞協会賞受賞後の記事である。よってこの指摘は的はずれである。さて、それはともかく、「泳がせ捜査失敗」とその後の「お詫び記事」について考察する。そもそも「泳がせ」記事は稲葉事件公判の続報である。稲葉は公判で膨大な覚せい剤の流通を見逃したおとり捜査の失敗を供述している。この供述や「上申書」の補完取材を行い、出た記事が「泳がせ失敗」だ。記事によると、補完取材は捜査関係者である。道警はこの記事について再三にわたり「謝罪と訂正」を求めているが、これは権力の報道機関に対する不当な介入だ。また、道警は道新に取材源を明らかにすることを求めた。憲法違反に相当するとんでもない行為である。にもかかわらず道新という会社は道警に屈した。これは「広告経費詐取事件」を隠蔽したために、道警に弱みを握られたのである。梶山メモからもこの様子は分かる。その結果、会社はろくな調査もしないまま「お詫び記事」を掲載するに至った。この経過で浮かび上がるのは、ジャーナリズム精神あふれる道新記者の取材に対し、これを弾圧しようとする道警の卑劣な姿勢と、警察に弱みを握られた会社のあわれな姿であり、これをもって記事の内容を非難するのは的はずれである。
被告側は、次回弁論で道新裏金問題取材班の責任者だった高田昌幸、佐藤一、当時の道警本部長芦刈勝治の証人申請を行う見通しで、補助参加側は、この3人のほか、原告佐々木友善、稲葉事件の稲葉圭昭、元道新道警記者クラブキャップの梶山征広、道警の裏金疑惑を告発した元道警釧路方面本部長原田宏二、「お詫び記事」を掲載した当時の道新幹部の証人申請をする予定だ。道新裁判は、道警の裏金問題に焦点が移りつつある。
次回は、第5回口頭弁論（平成19年5月21日）
被告側は、被告の佐藤一、被告各社の代理人のほか被告高田昌幸、佐藤一の代理人清水弁護士に加え、はじめて補助参加の代理人安田好弘（東京）市川守弘（札幌）両弁護士が法廷に入った。
傍聴席には、補助参加を申し出ている大谷昭宏、宮崎学の両氏、道新関係者、元道新取材班の記者たち数名が顔を見せた。
今回の特徴は、道警のOB、20数名が傍聴したことだろう。
その中には、元方面本部長や署長の経験者のほか道警元幹部が含まれ、ここにきて道警側がこの訴訟の意外な展開に危機感を持ち始めたことを示すものだろう。
最初に、原告側の第3準備書面と被告道新側の第3準備書面の陳述手続き、双方提出の証拠採用が行われた。準備書面の骨子は次の通りだ。
◎原告（佐々木友善）準備書面3（骨子）
●旬報社・講談社に対する反論 2つの本は別々だから共同不法行為は成立しない、との反論は失当だ。2つの本は道警裏金キャンペーン報道、読者の道警への不信感をことさら煽ることを目的とした活動の一部に他ならない。しかも出版時期が近接している。2冊の本は密接な関連があり、共同不法行為が成立する。「情報コントロール権」について、講談社は日本の裁判では認められないというが、住基ネット訴訟大阪高裁判決でも認められている。講談社の主張は失当だ。
●新たな内部告発文書 道新が成立を否認した内部告発文書を保管するため、新たな内部告発文書を提出する。これには高田・佐藤ら4人が作成した組合ニュースも同封されていた。この組合ニュースは部外秘であり、社内の一部の人間しか持ってない。つまり、新しいものは道新社員が作成したことは明らかだ。最初の内部告発と同じ活字が使われ、同じ文体であることから同一人物が書いたと判明する。新しい内部告発には道新の内部調査が事実上行われていないのに、行ったかのように書いている。これも捏造であり、原告のケースと同様、と指摘している。
◎被告（道新・佐藤・高田）準備書面3（骨子）
原告佐々木友善が「捏造記事」を主張する記事はいずれも真実である。少なくとも真実と信じる相当な理由がある。
●「わかるでしょ、理解してよ」＝懇親会の席で「架空の協力者を書いた書類は以前からある。だって本名なんか書けるわけないでしょ。捜査協力者を守らないといけない」と話し、裏金についての疑いを払拭するためか「わかるでしょ。理解してよ」と話した。
●「下手を打ったと叱責」＝伏線にあったのは、その前に出た「道警幹部が道に『調査と答弁しないで』と要請」記事。この記事が出た夜、佐藤が道警幹部からその話を聞いた。さらに数名の幹部、職員から話を聞き、叱責の時間、場所、「下手」という言葉が一致した。
●「どこまでやられるかと思ったよ」＝道警ロビーで佐藤と雑談中に原告佐々木友善が言った。
この後、補助参加について、裁判長と原告代理人齋藤弁護士、補助参加代理人の市川弁護士、安田弁護士との間でやりとりがあった。
裁判長 補助参加については、原告の意見書提出を待っているわけだが、まだ出さない？
斎藤 別件の裁判の移送決定が確定した後、意見書を出す。
裁判長 しかし、（原告からの）意見書提出は補助参加の要件とはならない。
斎藤 それは考え方の相違だ。
裁判長 まあ、それはそうだけど。で、補助参加人の準備書面が出ていて陳述すると。一応法的には、「参加を認めない」決定が出るまでは、訴訟に参加することが認められているので。
斎藤 われわれとしては、その書面を陳述とは認めない。
裁判長 いや、裁判上は陳述扱いになっていますので。そちらの扱いは勝手だ。
市川 われわれとしては、ちゃんと決定を出して頂き、思う存分訴訟活動をしたい。
裁判長 いや、訴訟活動自体は自由ですので、思う存分やってください。こちらとしても、問題になっている別件裁判の論点が別物である、という理解はしている。しかし、原告は意見書提出を待ってほしいといっている。補助参加の要件については見解の相違があるが、裁判所としては補助参加を認めない決定をするまでは訴訟活動は自由と考えている。
安田 こちらとしては昨年8月に補助参加を申し立てている。早く出してほしい。
裁判長 裁判所としても早く出したいと思っている。ただ、原告側は補助参加を認めたら答弁をしない、とまで言っていた。まあ、こちらとしては原告意見書が出次第、すぐに決定する。
今回も口頭弁論でも裁判所は補助参加を認める決定を出さなかったが、その前に補助参加申立人の代理人である市川、安田弁護士が法廷に入ることを認めたのも異例だが、決定を出さないまでも、事実上、裁判所は補助参加を認めた格好だ。
ここで、補助参加人から裁判所に提出された証拠23通が採用されたほか、3通の準備書面の陳述手続きがなされた。その要旨は次の通りだ。
●補助参加人準備書面1
原告は「『下手を打ったと叱責された』と書かれ、稚拙な対応をした評価される事態に陥った。名誉棄損だ」と主張するが、そもそも、この場合の稚拙な対応とは何だろうか。仮に、道警が裏金問題の真相究明を積極的に行い、監査委員や知事にも積極的に情報公開して、過去の膿を吐き出そうとしていた、とすると、そこでの「下手を打つ」は真相究明に後ろ向きの姿であって、これは原告の社会的評価を下げることになろう。しかし、道警は実際には道警裏金問題の真相隠しに躍起になっていた。これは芦刈道警本部長の議会答弁、監査委員からの事情聴取拒否などからも明らかだ。で、この道警の中で「下手を打つ」ということはすなわち、「真実隠しなんてやってられるか。ばかばかしい」と、隠蔽工作をサボったことを意味し、これはむしろ、原告の人格、品行が高く評価されることにつながる。そもそも、組織不正の隠蔽工作というのは、警察の本来職務ではなく、できなくて当然。たとえこの記述が虚偽だったとしても、社会的評価は下げない。
同準備書面2
ところで、原告は裏金問題が発覚した当初の03年12月ごろ、「裏金はない」と言い続けてきた。取材に対しても公の場でも「ない」と虚偽発言を繰り返してきた。原告は当時、裏金が警察に蔓延していたことを知らなかった、と反論する可能性がある。しかし、原告は当時から裏金の存在について熟知していた。原田宏二氏は自分が道警総務課長時代、自分の目の前で友善が裏金を受け取っているのを目撃している。さらに、原告は裏金の金庫番の副署長、実際に多額の餞別を受け取る署長も経験している。誰よりも裏金について熟知していたのに、公の場ではウソを突き続けてきたのである。その一方で、当時の原告は総務部長として「議会対策」の責任者でもあった。道警の組織、あるいは道警本部長から課せられた指命は、裏金問題をなかったことにすることであり、そのために裏工作をした。そしてその裏工作は成功し、知事に「裏金の調査はしない」と議会答弁させた。その裏工作が発覚した際、本部長から「下手を打った」と怒られる蓋然性は高い。少なくとも真実と信じる相当な理由がある。
同準備書面3
原告は「泳がせ捜査失敗」記事を題材に、取材班は新聞協会賞を取るために捏造記事を何度も出してきた、と論じている。しかし、「泳がせ捜査失敗記事」は新聞協会賞受賞後の記事である。よってこの指摘は的はずれである。さて、それはともかく、「泳がせ捜査失敗」とその後の「お詫び記事」について考察する。そもそも「泳がせ」記事は稲葉事件公判の続報である。稲葉は公判で膨大な覚せい剤の流通を見逃したおとり捜査の失敗を供述している。この供述や「上申書」の補完取材を行い、出た記事が「泳がせ失敗」だ。記事によると、補完取材は捜査関係者である。道警はこの記事について再三にわたり「謝罪と訂正」を求めているが、これは権力の報道機関に対する不当な介入だ。また、道警は道新に取材源を明らかにすることを求めた。憲法違反に相当するとんでもない行為である。にもかかわらず道新という会社は道警に屈した。これは「広告経費詐取事件」を隠蔽したために、道警に弱みを握られたのである。梶山メモからもこの様子は分かる。その結果、会社はろくな調査もしないまま「お詫び記事」を掲載するに至った。この経過で浮かび上がるのは、ジャーナリズム精神あふれる道新記者の取材に対し、これを弾圧しようとする道警の卑劣な姿勢と、警察に弱みを握られた会社のあわれな姿であり、これをもって記事の内容を非難するのは的はずれである。
被告側は、次回弁論で道新裏金問題取材班の責任者だった高田昌幸、佐藤一、当時の道警本部長芦刈勝治の証人申請を行う見通しで、補助参加側は、この3人のほか、原告佐々木友善、稲葉事件の稲葉圭昭、元道新道警記者クラブキャップの梶山征広、道警の裏金疑惑を告発した元道警釧路方面本部長原田宏二、「お詫び記事」を掲載した当時の道新幹部の証人申請をする予定だ。道新裁判は、道警の裏金問題に焦点が移りつつある。
次回は、第5回口頭弁論（平成19年5月21日）
北海道警察v.s.北海道新聞 第7回（19.4.25） 第2回口頭弁論 原告代理人の発言に傍聴席から失笑
平成18年10月29日、札幌市内でシンポジューム「北海道はこれでいいのか！『道政・道警・裏金報道』を考える集いが」が開かれた。ジャーナリストの田原総一郎の基調講演にはじまり、大谷昭宏、宮崎学などがパネリストを務め、会場には500人を超える聴衆が集まり熱気にあふれた。
第2回口頭弁論は、その翌日の30日午後1時30分から、札幌地裁民事第1部5号法廷で開かれた。この日は、原告代理人の齋藤弁護士、被告側は被告各社の代理人、被告高田昌幸、佐藤一の代理人の清水弁護士、それに被告佐藤一が出席した。原告の佐々木友善は姿を見せず、傍聴席には補助参加を申し出た大谷昭宏、宮崎学、弁護士の市川守弘のほか道新の関係者、元道警裏金問題取材班の記者たち数人の顔があった。冒頭、竹田裁判長が大谷・宮崎の補助参加にについて、今回は判断しないことが示された。東京から傍聴に来ていた大谷、宮崎は肩すかしを食うことになった。
原告、被告双方の準備書面の陳述の手続きが行われた。「準備書面」とは、口頭弁論での主張の準備のため自らの攻撃及び防御の方法並びに相手方請求及び攻撃又は防御の方法に関する陳述（答弁、認否、反論）を記載した書面である。（民事訴訟法第161条）
準備書面は、実際には法廷の場では読まれないので傍聴人には内容は分からない。しかし、今後の口頭弁論の行方を理解して貰うため、その骨子を明らかにしておく必要がある。
◎原告・佐々木友善「第1準備書面」骨子（全35ページから抜粋）
●問題の「本部長から激しく叱責された」などの記述が原告（佐々木）の職務遂行能力、徳行、名声、信用等の人格的価値を著しく低く評価させるものであることは論じるまでもない。名誉棄損に当たることは、訴状で具体的かつ詳細に主張している。
●本では、このほかの記述、掲載された写真により、原告が裏金疑惑の解明に消極的であり、誠意がなく、無責任で、公金を飲食に使用したことなどをことさらに指摘・非難している。「叱責された」などの記述は、これらも相まって原告の社会的評価をおとしめた。被告の、「これらの記述で社会的評価が下がることはない」との主張は、これらの文言を断片的にとらえて論じるもので、失当だ。
（註 文庫本での諸々の記述や『警察幹部を逮捕しろ』での大谷昭宏氏のせりふも『ことさら非難』の例として引用している）
●被告は、問題の記載が原告の社会的評価を下げたかどうかは、警察関係者が抱く印象でなく、それ以外の一般読者の印象で判断すべきと言うのかもしれないが、仮に警察官や関係者のみの間で評価が低下したとしても、これを法的に保護する必要がある。従って、警察関係者の間だけで原告に否定的な評価が及ぶのであれば、それだけで社会的評価が低下したと解するべきだ。「一般読者で」との被告の主張は理由がない。
●そもそも、問題の記載はいずれも捏造されたものだ。その証拠は、道新社員が作成した書簡の記述である。被告はこの書簡の成立を否認するが、内容の信用性を裏付けるものとして、藪下守・元道警生安部長が「けいゆう北海道」に寄稿した所感文が存在する。（註 書簡とは『道新社員』を名乗る人物が匿名で佐々木友善に送付した『内部告発』と称する手紙。裏金報道には数々の捏造記事があり、これらは新聞協会賞を取るためにやった、などと書かれている。藪下の所感文とは、藪下が書かれた記事について記者とやりとりしたことや、一部記事で鈴木巌・元函館方面本部長が抗議した話などを「北海道警友会」の会報に投稿したもの。今回の書面で一部文章を援用している）
●「叱責されたらしい」記述の裏付け取材は、佐藤や高田が道警本部長や原告に電話をかけるだけで容易に実現できた。（註 裏付けが不可能、との被告主張への反論と思われる）
◎被告・道新、高田、佐藤「準備書面1」骨子（全10ページ）
●そもそも、原告は道警という国家の権力機構の中枢にいた公人である。その立場にいるものは常に国民の監視や批判を受けなければならない。原告が問題にしている摘示事実は、本全体の中では些末であり、個人的に不愉快になったとしても、自らの立場やこの本の社会的意義からすれば、受忍限度の範囲内であり、名誉棄損は成立しない。
●結局のところ、原告は単に自分の名誉感情を問題にしているにすぎない。そもそも、これらの本は原告（佐々木）をおとしめるために書いたのではない。
●これらの本で取り上げた道警裏金問題は、道警の組織としての腐敗の問題で、解明に消極的な道警本部長、知事、議会の正義感や倫理観が疑われている。この本を読んだ読者は、原告個人の事柄などに直接的な関心は抱かない。従って、原告の社会的評価は低下しない。
●被告ら（註 裁判長も）は、請求原因の各記載が原告の社会的評価をどう低下させるのかを明らかにするよう原告に求めたが、原告は独自の主張を展開するばかりで、求釈明に応えることなく、混迷の度合いを深めている。
◎被告・講談社「第1準備書面」骨子（全12ページ）
●そもそも原告は名誉棄損訴訟の構造の理解を誤っている疑いが濃厚だ。名誉棄損の成否は、問題の記述が原告の社会的評価を低めたかどうかを検討し、その上で社会的評価を低下させたと認められる場合に、その記述内容について真実性を検討する。つまり、現段階では記事が捏造かどうかを判断する必要はない
●「少なくとも警察関係者の間で評価が低下すれば名誉棄損」との原告の主張は、特殊な閉鎖社会での特殊な判断基準を持ち出しているもので、失当である。
●各記述についての原告の主張は、きわめて異常な解釈といわざるを得ず、一般読者の読み取り方には当たらない。
◎被告・旬報社「準備書面1」骨子（全6ページ）
●そもそも、原告は「社会から受ける客観的評価」について何ら具体的に主張していない。主張自体が、名誉棄損の要件を充足していない。
●原告は「叱責された」かどうかは簡単に裏付けが取れると主張するが、このエピソード自体、記事全体の中では些末で、本部長や原告がそんな些末なエピソードの真偽の確認にいちいち回答するとは思えない、と判断するのが常識だ。
さて、これらの書面をやりとりした後、竹田裁判長から原告・佐々木友善側の代理人斎藤隆広弁護士に矢継ぎ早に質問を浴びせる。そのやりとりを要約して紹介しておく。
裁判長 摘示事実だけでなく、その前後の文脈も見て判断すべしと言うけど、そもそも、摘示事実があったからどうなのか、なかったらどうなのか、その辺がよくわからない。「叱責を受けたらしい」という事実の摘示の有無で、印象がどう変わるのか。
斎藤 裁判所がどうしてそんなことを言うのかが理解できない。（裁判長のけぞる。傍聴席から失笑）
裁判長 上司から叱責を受けた、との内容の摘示事実で、原告の社会的評価を貶めたということ？ この事実の有無で原告の社会的評価はどうなのかと。
斎藤 違ってくると思う
ここで、被告高田昌幸、佐藤一の代理人清水勉弁護士が発言。
清水 この訴訟は原告個人の名誉棄損訴訟であって、道警の名誉棄損訴訟ではない。訴状で主張する以外の部分にまで、個人の名誉棄損の趣旨がかかってくるのはいかがなものか。
斎藤 そういうことは口頭ではなく、書面で主張して頂きたい。（裁判長のけぞる、法廷内、傍聴席から「えええええ」の声）
裁判長 法廷は議論の場だ。書面のやりとりで議論がかみ合わないまま、裁判が長引くようなことはしたくない。で、聞くけど摘示事実だけでも貶めるし、文脈の前後でも貶めるとこう主張しているの？
斎藤 その点を具体的かつ詳細に主張したつもりだが、どこを聞きたいのか。
裁判長 いちいち細かく聞くと時間がかかるから言わないけど、準備書面の6−10ページでいっていることね、この辺の文脈が原告の評価を落とすということ？
斎藤 道警が裏金問題の解明に消極的だ、ということで原告の評価を落とすとは言ってない。どういうプロセスで摘示事実が原告の評価を落とすのか、ということを言っている。
斎藤 消極的な警察で怒られたということで、原告がより消極的にみえる、ということ？
斎藤 全体の印象から「叱責」という言葉をとらえるべきだ。道警の裏金問題への消極姿勢が原告の評価を落とすとは思わない。
裁判長 むしろ、ごまかさなかったから叱責された、そうすると、社会的評価を下げないのでは、という風にもみえるわけで。訴えの一体何が名誉棄損なのか、被告も（私も）理解していない。
斎藤 わかるでしょう。
裁判長 わかんないから聞いているんでしょ。要するに、これを読んだ読者は、上司から怒られたんだから、何となく能力足りない奴に見えると。
斎藤 その通り
裁判長 何でそういう風に見えるの？ そこを主張してよ。
斎藤 何で裁判所がそこにこだわるのか、わからない。（裁判長のけぞる、またも法廷内から失笑）
裁判長 名誉棄損っていうのは摘示事実のあるなしで一般の人が受ける影響を考えるのが普通でしょ。
斎藤 摘示のあるなしについて、なぜ、裁判所はこだわるのか？
（しばし堂々巡り）
道新代理人馬場弁護士 いずれにせよ、今日のやりとりは調書にして頂きたい。
斎藤 必要ない。
馬場 何を言っている。あんたがしゃべったことを記録するだけだぞ。
清水 いずれにせよ、道新記者2人は「叱責」などの記述では社会的評価は下がらない、という主張だ。原告には、これにかみ合うような反論をいただきたい。
（などなど、かみ合わない議論がしばらく続く）
被告講談社の代理人 ところで、謝罪文の請求が連名で出せ、ということになっているが、講談社と関係ない本について謝罪するのはおかしい。請求の趣旨が適切ではないと考える。
裁判長 原告さんは共同不法行為だと言うことを主張されているということなんでしょ。それが通るかどうかはわかりませんけどね。少なくとも裁判所はそう解釈してますが、違うのなら原告はその点を補充して主張して頂きたい。
次回は、「第3回口頭弁論 またまた補助参加決定見送り」
第2回口頭弁論は、その翌日の30日午後1時30分から、札幌地裁民事第1部5号法廷で開かれた。この日は、原告代理人の齋藤弁護士、被告側は被告各社の代理人、被告高田昌幸、佐藤一の代理人の清水弁護士、それに被告佐藤一が出席した。原告の佐々木友善は姿を見せず、傍聴席には補助参加を申し出た大谷昭宏、宮崎学、弁護士の市川守弘のほか道新の関係者、元道警裏金問題取材班の記者たち数人の顔があった。冒頭、竹田裁判長が大谷・宮崎の補助参加にについて、今回は判断しないことが示された。東京から傍聴に来ていた大谷、宮崎は肩すかしを食うことになった。
原告、被告双方の準備書面の陳述の手続きが行われた。「準備書面」とは、口頭弁論での主張の準備のため自らの攻撃及び防御の方法並びに相手方請求及び攻撃又は防御の方法に関する陳述（答弁、認否、反論）を記載した書面である。（民事訴訟法第161条）
準備書面は、実際には法廷の場では読まれないので傍聴人には内容は分からない。しかし、今後の口頭弁論の行方を理解して貰うため、その骨子を明らかにしておく必要がある。
◎原告・佐々木友善「第1準備書面」骨子（全35ページから抜粋）
●問題の「本部長から激しく叱責された」などの記述が原告（佐々木）の職務遂行能力、徳行、名声、信用等の人格的価値を著しく低く評価させるものであることは論じるまでもない。名誉棄損に当たることは、訴状で具体的かつ詳細に主張している。
●本では、このほかの記述、掲載された写真により、原告が裏金疑惑の解明に消極的であり、誠意がなく、無責任で、公金を飲食に使用したことなどをことさらに指摘・非難している。「叱責された」などの記述は、これらも相まって原告の社会的評価をおとしめた。被告の、「これらの記述で社会的評価が下がることはない」との主張は、これらの文言を断片的にとらえて論じるもので、失当だ。
（註 文庫本での諸々の記述や『警察幹部を逮捕しろ』での大谷昭宏氏のせりふも『ことさら非難』の例として引用している）
●被告は、問題の記載が原告の社会的評価を下げたかどうかは、警察関係者が抱く印象でなく、それ以外の一般読者の印象で判断すべきと言うのかもしれないが、仮に警察官や関係者のみの間で評価が低下したとしても、これを法的に保護する必要がある。従って、警察関係者の間だけで原告に否定的な評価が及ぶのであれば、それだけで社会的評価が低下したと解するべきだ。「一般読者で」との被告の主張は理由がない。
●そもそも、問題の記載はいずれも捏造されたものだ。その証拠は、道新社員が作成した書簡の記述である。被告はこの書簡の成立を否認するが、内容の信用性を裏付けるものとして、藪下守・元道警生安部長が「けいゆう北海道」に寄稿した所感文が存在する。（註 書簡とは『道新社員』を名乗る人物が匿名で佐々木友善に送付した『内部告発』と称する手紙。裏金報道には数々の捏造記事があり、これらは新聞協会賞を取るためにやった、などと書かれている。藪下の所感文とは、藪下が書かれた記事について記者とやりとりしたことや、一部記事で鈴木巌・元函館方面本部長が抗議した話などを「北海道警友会」の会報に投稿したもの。今回の書面で一部文章を援用している）
●「叱責されたらしい」記述の裏付け取材は、佐藤や高田が道警本部長や原告に電話をかけるだけで容易に実現できた。（註 裏付けが不可能、との被告主張への反論と思われる）
◎被告・道新、高田、佐藤「準備書面1」骨子（全10ページ）
●そもそも、原告は道警という国家の権力機構の中枢にいた公人である。その立場にいるものは常に国民の監視や批判を受けなければならない。原告が問題にしている摘示事実は、本全体の中では些末であり、個人的に不愉快になったとしても、自らの立場やこの本の社会的意義からすれば、受忍限度の範囲内であり、名誉棄損は成立しない。
●結局のところ、原告は単に自分の名誉感情を問題にしているにすぎない。そもそも、これらの本は原告（佐々木）をおとしめるために書いたのではない。
●これらの本で取り上げた道警裏金問題は、道警の組織としての腐敗の問題で、解明に消極的な道警本部長、知事、議会の正義感や倫理観が疑われている。この本を読んだ読者は、原告個人の事柄などに直接的な関心は抱かない。従って、原告の社会的評価は低下しない。
●被告ら（註 裁判長も）は、請求原因の各記載が原告の社会的評価をどう低下させるのかを明らかにするよう原告に求めたが、原告は独自の主張を展開するばかりで、求釈明に応えることなく、混迷の度合いを深めている。
◎被告・講談社「第1準備書面」骨子（全12ページ）
●そもそも原告は名誉棄損訴訟の構造の理解を誤っている疑いが濃厚だ。名誉棄損の成否は、問題の記述が原告の社会的評価を低めたかどうかを検討し、その上で社会的評価を低下させたと認められる場合に、その記述内容について真実性を検討する。つまり、現段階では記事が捏造かどうかを判断する必要はない
●「少なくとも警察関係者の間で評価が低下すれば名誉棄損」との原告の主張は、特殊な閉鎖社会での特殊な判断基準を持ち出しているもので、失当である。
●各記述についての原告の主張は、きわめて異常な解釈といわざるを得ず、一般読者の読み取り方には当たらない。
◎被告・旬報社「準備書面1」骨子（全6ページ）
●そもそも、原告は「社会から受ける客観的評価」について何ら具体的に主張していない。主張自体が、名誉棄損の要件を充足していない。
●原告は「叱責された」かどうかは簡単に裏付けが取れると主張するが、このエピソード自体、記事全体の中では些末で、本部長や原告がそんな些末なエピソードの真偽の確認にいちいち回答するとは思えない、と判断するのが常識だ。
さて、これらの書面をやりとりした後、竹田裁判長から原告・佐々木友善側の代理人斎藤隆広弁護士に矢継ぎ早に質問を浴びせる。そのやりとりを要約して紹介しておく。
裁判長 摘示事実だけでなく、その前後の文脈も見て判断すべしと言うけど、そもそも、摘示事実があったからどうなのか、なかったらどうなのか、その辺がよくわからない。「叱責を受けたらしい」という事実の摘示の有無で、印象がどう変わるのか。
斎藤 裁判所がどうしてそんなことを言うのかが理解できない。（裁判長のけぞる。傍聴席から失笑）
裁判長 上司から叱責を受けた、との内容の摘示事実で、原告の社会的評価を貶めたということ？ この事実の有無で原告の社会的評価はどうなのかと。
斎藤 違ってくると思う
ここで、被告高田昌幸、佐藤一の代理人清水勉弁護士が発言。
清水 この訴訟は原告個人の名誉棄損訴訟であって、道警の名誉棄損訴訟ではない。訴状で主張する以外の部分にまで、個人の名誉棄損の趣旨がかかってくるのはいかがなものか。
斎藤 そういうことは口頭ではなく、書面で主張して頂きたい。（裁判長のけぞる、法廷内、傍聴席から「えええええ」の声）
裁判長 法廷は議論の場だ。書面のやりとりで議論がかみ合わないまま、裁判が長引くようなことはしたくない。で、聞くけど摘示事実だけでも貶めるし、文脈の前後でも貶めるとこう主張しているの？
斎藤 その点を具体的かつ詳細に主張したつもりだが、どこを聞きたいのか。
裁判長 いちいち細かく聞くと時間がかかるから言わないけど、準備書面の6−10ページでいっていることね、この辺の文脈が原告の評価を落とすということ？
斎藤 道警が裏金問題の解明に消極的だ、ということで原告の評価を落とすとは言ってない。どういうプロセスで摘示事実が原告の評価を落とすのか、ということを言っている。
斎藤 消極的な警察で怒られたということで、原告がより消極的にみえる、ということ？
斎藤 全体の印象から「叱責」という言葉をとらえるべきだ。道警の裏金問題への消極姿勢が原告の評価を落とすとは思わない。
裁判長 むしろ、ごまかさなかったから叱責された、そうすると、社会的評価を下げないのでは、という風にもみえるわけで。訴えの一体何が名誉棄損なのか、被告も（私も）理解していない。
斎藤 わかるでしょう。
裁判長 わかんないから聞いているんでしょ。要するに、これを読んだ読者は、上司から怒られたんだから、何となく能力足りない奴に見えると。
斎藤 その通り
裁判長 何でそういう風に見えるの？ そこを主張してよ。
斎藤 何で裁判所がそこにこだわるのか、わからない。（裁判長のけぞる、またも法廷内から失笑）
裁判長 名誉棄損っていうのは摘示事実のあるなしで一般の人が受ける影響を考えるのが普通でしょ。
斎藤 摘示のあるなしについて、なぜ、裁判所はこだわるのか？
（しばし堂々巡り）
道新代理人馬場弁護士 いずれにせよ、今日のやりとりは調書にして頂きたい。
斎藤 必要ない。
馬場 何を言っている。あんたがしゃべったことを記録するだけだぞ。
清水 いずれにせよ、道新記者2人は「叱責」などの記述では社会的評価は下がらない、という主張だ。原告には、これにかみ合うような反論をいただきたい。
（などなど、かみ合わない議論がしばらく続く）
被告講談社の代理人 ところで、謝罪文の請求が連名で出せ、ということになっているが、講談社と関係ない本について謝罪するのはおかしい。請求の趣旨が適切ではないと考える。
裁判長 原告さんは共同不法行為だと言うことを主張されているということなんでしょ。それが通るかどうかはわかりませんけどね。少なくとも裁判所はそう解釈してますが、違うのなら原告はその点を補充して主張して頂きたい。
次回は、「第3回口頭弁論 またまた補助参加決定見送り」
