昨日午後、けだるく、ぼんやりとテレビを眺めていたら、BSNHKで、黒沢明監督の「わが青春に悔いなし」なんてやっていて、見ているうちに引き込まれて…。はい、 伝説の女優原節子主演で、藤田進と河野秋武が絡む。大河内伝次郎が、物分かりの良い、京都大学の温厚な教授で、原節子のお父さん。まあ戦前の日本の知性、というか良心的市民を代表している存在として描かれているんだろうけど、藤田からすれば物足りない存在でもある?

 まあ、出て来る俳優さんが、みな僕が若いころに映画や草創期のテレビで見慣れた伝説の俳優さんーーといっても彼らも大分若いけどーーはかりだったのも懐かしく。何故か京都嵐山の竹やぶと大河内さんの旧宅を思い出しましたけど。
 この映画何度目かの拝見でしたが、見るたびに新しい発見がありますね。

 まあストーリーは戦前、学生運動なんかやって、戦時中に、反戦地下活動に身を投じた藤田を恋する原さんの、熱さがほとばしる恋物語をモチーフに。ようやく結ばれたあと、特高に逮捕され獄死した藤田の老両親の元に身を寄せて。青春をささげる。

 でも村八分というか、周囲のイジメに晒されるわけですが、それにもめげず、百姓として生きて行く。まさに復興を歩み出した、戦後民主主義の原点? 軍国主義の呪縛から解放された日本人民は今度こそ「悔いのない」生き方をしましょうね。という感じを描いた映画ですね。

 まあ、志村喬の見るからに悪そうな特高刑事の表情で、閉鎖性を強調した暗い戦争の時代を描写し、最後は、モノクロなのに青空を思わせる農村の一本道を走ってゆくトラックに乗る百姓たち。そして、村八分したことなどを忘れたかのように、道を歩く原節子をトラックの荷台に乗せて、「未来」に向けて走る去るところで終わる。「戦前」との和解なんですかね。

 国策映画の民主主義バージョンみたいな映画でしたが。面白かったですね。
 杉村春子がお母さん役なんだから…。
 多分、今、こんなストレートな描き方の映画を撮っても売れないだろうけど、つまりは、「戦争が終わったんだ」という解放感だけの映画ですかね。

 黒沢さんも戦争中、戦争賛美全盛の時代に、レンズ工場かな?銃後の工場に動員される女学生のドラマ(「一番美しく」)を撮っていますが。これって北朝鮮の田舎と生産動員の様子を思わせる映像としてばかり、覚えているんです。この風景は、以前金剛山クルーズで走った北の道端の風景にオーバーラップしてるんですがね。
 北は日本の戦前とはかくや! と見る思いだったですね。というか、女学生が隊列を組んで、工場に出かけて行く風景や、女子寮でみんなでどうすれば生産が上がるかを討議する場面を、妙に思い出すんです。

 「悔いなし」は、それからわずか2年後。つまり1946年に発表した映画ですが、東京の街並みは、戦争中が舞台なのに、多様で賑わっていて。美しい主人公である原節子の度々のアップの映像と、そうした舞台回しの方に、連続と不連続というか、戦後文化人の複雑な気持ちを感じましたね。

 って今は、こんな話題を書き始めてしまって、失敗した!と反省しきりですが、お付き合い戴けるかな?

 いやこの映画を見ていて、もっとも印象に残ったのは、インテリ学生あがりの反戦活動家の藤田の田舎の父親の描き方です。名前は知りませんが、多分「七人の侍」でも「村の長老」役をやっていた俳優だと思うんですが、何があっても背を丸めて、時が過ぎるのをじっと待つ。つまり「日本の伝統的な保守」を象徴するような存在なんだけど、村人たちのイジメに耐えて、働く杉村と原の姿を見守るだけだったのに、最期には、立ち上がる…。
 
 やっぱりこんな話、面白くなかったね。
 いやねえ。今朝の産経新聞の一面トップは「中国軍機が5機、対馬海峡を通過」ですからね。でもって記事を読み続けると、後ろの方に「領空侵犯はなかった」ですって!
 日本列島は、緊張に包まれていて、このまま放置していると、やられちゃうよ! てな印象操作なんですかね。やれちゃう相手は、日本のイスタブリッシュからなんだけどねえ。

 若い人はアベ政権支持! なんですってね。アベッチの心象を忖度する産経さんからすれば、こんな感じの不安を言い続けなければ…、なんでしょうか。 
 まあねえ、日本列島が緊張に包まれても、原節子のようなノーブルな女性がいればいいですよ。日本人の平和を愛する心は産経なんかに犯せるはずはない! なんてね。

 でも誰かいるかなあ? 小泉今日子かな? なんてね。
 本日も、御精読ありがとうございました。