文学の中のハープ

2023年04月24日

日本ハープ界の草分け 阿部よしゑ 寄稿集 (田中恭子編)

阿部よしゑ

阿部よしゑは1949年(昭和24年)に東京芸術大学ができた年の初代ハープ専任教官です。この本は彼女の伝記ではなく、「音楽之友」「音楽藝術」「改造」「文藝」などの雑誌や新聞に彼女が書いたものや彼女について書かれた新聞記事、さらに彼女が寄稿文を寄せた演奏会のプログラムまで、阿部よしゑ最後の弟子でハーピストの田中恭子さんが丹念に集めたものです。

 

阿部よしゑ略歴 1904年(明治37年) 秋田県に生まれる

16歳で秋田高等女学校卒業して結婚、25歳で夫と死別後、上京して速記とタイプライターを学び、27歳で外務省に入省、28歳でモスクワ(当時はソ連)の日本大使館に赴任する。29歳からボリショイ劇場のハーピスト、クセニャ・エルデリについてハープを学ぶ。33歳で大使館を退職し、パリに渡ってマルセル・トゥルニエに師事。やがて第二次世界大戦が勃発するもドイツ占領下のパリで8年間ハープを学び、1944年に高等音楽学校のハープクラスを一等賞で卒業した。終戦直前に帰国し、1948年(昭和23年)に44歳で東京音楽学校(日本初の国立音楽学校で翌年に東京美術学校と統合して東京芸術大学となる)、翌年に東京芸術大学の初代専任ハープ教官となる(ヨセフ・モルナール氏が来日する3年前)。 演奏家として活躍し、1969年(アポロ11号が月面着陸した年)に65歳で逝去。

 

abe_20230424内容はトゥルニエやルニエ、ラスキーヌはもちろん、シャリアピン(バス歌手)、プロコフィエフ(作曲家)、ショーロホフ(作家)など交友のあった人のことや、ソ連やフランスの音楽界、そこでの生活など、興味深い話が多く書かれています。

 

編者:田中恭子 5歳から阿部よしゑについてハープを師事し、東京芸術大学と同大学院で桑島すみれ、島崎裕子に師事し、ハーピストとして活躍しながら彼女は師の足跡をたどってフランス、イスラエル、ロシアまで足を運んでいます。


この本はアマゾンで購入できます。

 

 



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2013年07月23日

文学の中のハープ ロバート・ラドラム著「暗殺者」

暗殺者正面の窓のそばにグランドピアノ、その傍らにハープが置いてある。

ハープが置いてあるのは高級住宅街の一軒家を、民家を装って使っているアメリカ陸軍の秘密司令部ですが、ハープが出てくるのはこれだけです。クライマックスでハープを運び出すシーンもありますが、小説の小道具としてハープが出てくるわけでもなく単にハープという単語がこの小説で2回登場するだけという、このカテゴリーで紹介するに値する文学ではありません。この種の小説にハープという言葉が出てきたのをダシに、私の読書傾向を書こうと思うだけですので、このブログも読むに値するものでもありません。

子供のころから私の読書傾向は血湧き肉踊る冒険小説です。アリステア・マクリーンの戦争小説でハラハラ、ドキドキ感の文章の力に圧倒されて戦争小説、スパイ小説、サバイバル小説を読み漁ってきました。しかしソビエトの崩壊とともにスパイの活躍の場が減ってきて、さらにスパイはむずかしい電子機器などを使うようになってから、日常のどこにもありうる非日常として犯罪小説にはまりました。リチャード・スタークの「悪党パーカー」シリーズはすべて読んでいます。長々した説明ではなく会話、しぐさ、物腰を通して登場する人物一人一人の性格から育ち、普段の生活までわかるように人物を描くところが好きです。アメリカ映画もそうですが登場人物は端役にいたるまでそれぞれの人生やドラマがあり、それを生き生きと描いています。このシリーズの「犯罪組織」では訳者あとがきの中で片岡義男氏が、襲われた二人のよく喋る方は誰それ、黙りこくった相棒は誰それ、ポーカーをやっていて最初に振り向くのは誰それ、など登場人物の多くを映画にするならと実在の俳優を振り分けています。それほど人間が描かれています。実際に「組織」という題名で映画化されました。このビデオは持っていますが、小説のほうがずっと人間が描かれています。

もう一人出版されれば必ず読むのがローレンス・ブロックです。「泥棒バーニー」シリーズはとにかく会話がしゃれていて楽しくて大好きです。さらに殺し屋ケラーの短編シリーズもあります。泥棒や殺し屋といってもおぞましいものではなく、おしゃれな超B級娯楽小説です。また警察小説の87分署シリーズを書いたエド・マクベインも唯一泥棒を主人公にした「街はおれのもの」を書いています。日本人の冒険小説家ならだんぜん船戸与一です。サバイバル小説ならルイス・ラムーアの「シベリアの孤狼」が好きで何回も読みました。児童文学にも優れた冒険ものが多く、ルイス・サッカーの「穴」などは大人が読んでもじゅうぶん楽しめます。

最近岩盤浴にはまっていまして休日にはよく行きます。その時読みかけの本がなければ何度も読んだ本を持って行き、汗びっしょりになりながらこういったジャンルの小説を読んでいます。


2008年01月10日

赤川次郎著 「ハープの影は黄昏に」 集英社

哀愁
文学の中のハープ 赤川次郎著「ハープの影は黄昏に」

小説すばるに発表された小編のオムニバスで、「哀愁変奏曲」題してまとめられました。すべて音楽を題材とした小説です。この中の一編「ハープの影は黄昏に」は1989年の作品です。

山の中にある叔母の家に滞在している岐子さん、乗馬中に道に迷ってハープの音が聞こえる一軒の家にたどり着き、その家に招き入れられてメランコリックな曲を聞かせてもらう。すると一日が後戻りして、翌日また同じ体験をする、というファンタジックな小説です。さてそのハープを弾く人の正体は・・・・。

赤川次郎はストーリーテラーとして一流で、そのほかに死んだ女が残したピアノが、他の女に心を惹かれるとポンと鳴る話、チェロの弦で殺される男の話、名曲喫茶でいつも新世界の第2楽章をリクエストする女の話、など6編入っていますが、このハープの小説はこの中では駄作です。

赤川次郎には郊外のホテルのラウンジで、毎夜ハープを弾く女性が主人公で、事件を目撃したことからに巻き込まれ、それを解決するといった小説を期待したい。それならハーピストの配役から弾く曲まで、映画化したとき全部私が指導したいなぁ。


2007年09月12日

辻邦生著「竪琴を忘れた場所」 講談社

竪琴を忘れた場所
文学の中のハープ 辻邦生著「竪琴を忘れた場所」

世の変化と流転を超えて
さらに遙かに さらに思うままに
あなたの”最古の歌”は鳴りひびく
竪琴を持てる神よ
 〜リルケの詩「オルフォイスに捧げるソネット」〜

雑誌「群像」に掲載された小説をまとめて「黄金の時刻の滴り」というタイトルで出たものの一編です。

「私」は二歳の時に父を事故で亡くし、その衝撃で半年後に母も亡くなり孤児となりました。そこでマリ叔母が引き取って自分の娘として育てられました。マリ叔母は宮廷でも有力な貴族の出で、オーストリアに住んでいますが北イタリアにも領地を持っていて文学はもちろん、哲学、心理学、神学にも関心を持っています。詩人のセラフィコに無条件で援助して、また彼に影響も受けていますが、「私」は一度も会ったことがありませんでした。大学を卒業するとき、私は自立を考え文学で身を立てようとします。そこで始めて詩人のセラフィコに会いに行くと、二歳の時に亡くなった私の父に愛人がいたことを打ち明けられ、ショックを受けます。オルフォイスの竪琴の詩によせて「私」が父も、地上のすべてをも許したとき、その愛人に父との娘が、つまり私に異母姉妹がいる事を打ち明けられて、翌日詩人の部屋で会います。彼女はシルヴィアという盲目のハーピストでした。彼女のハープはチューリッヒのコンクールでグラン・プリをとったほどの腕前です。そこで彼女はグルックの歌劇「オルフェオとエウリディーチェ」の中のアリア「なんと空は美しき」をハープで弾いてくれました。

オルフェウスの物語
アポロンの子オルフェウスはリラの名手でした。アポロンに遣えるニンフ、エウリディーチェと結婚しますが、彼女は毒蛇に噛まれて死んでしまいました。オルフェウスはリラを持ってタイナロス島にある瞑宮の洞窟に行ってエウリディーチェを連れ戻す決意をします。瞑宮の王ハーデスと妻ペルセフォネーは、一度死んだ人間を生き返らせることはできないと言って拒みますが、オルフェウスはリラを取り出し、一生懸命に自分の気持ちを音にして伝えると、ハーデスはしぶしぶエウリディーチェをオルフェウスに返すことを許してくれました。ただし、地上に出るまで絶対にエウリディーチェの顔を見てはいけない、振り返ってはいけないという条件をつけます。洞窟の出口まで来たとき、我慢しきれなかったオルフェウスは、つい後ろを振り返ってしまいました。握っていたはずのエウリディーチェの手はほどかれ、その姿は洞窟の奥に吸い込まれるように消えて行ってしまいました。酒の神ディオニソスの祭りでもオルフェウスのリラは悲しい旋律しか奏でることができず、オルフェウスは殺され、リラは海まで流されてしまいました。リラは後にゼウスによって天にあげられて「こと座」となりました。



2007年08月27日

キャレン・パーシング著 「スーツは嫌い」 ハーレクイン A-126

スーツ

文学の中のハープ C. パーシング著 「スーツは嫌い」

あのハーレクイン文庫です! はじめて読みました! 感動しました! 

ロサンゼルス郊外に住むハーピストのキャリーは失敗した結婚の経験から、スーツを着た男とは絶対デートしないと決めていました。そんな彼女が税金申告の相談に行ったとき三ッ揃いを着た会計士と・・・・。この文庫を読んだのは初めてですが、あとは読まなくてもストーリーはわかります。メデタシメデタシ。テーマは恋の駆け引きと行方、それもかなり安易なものだからハープの話はあまり出てきません。

彼女の仕事ですが、レストランやオーケストラなど、口がかかれば何でも引き受ける、という日本にもたくさんいる典型的なフリーランサー。レストランでは7時から11時まで1時間に10分の休憩をはさんでハープを弾いています。つまり50分4回のステージで、これはかなりきつい仕事です。ほかにもオーケストラやコーラスの伴奏、レコーディングでもハープを弾く話は出てくるけど、どんなものを弾いてどうだったのかの記述はいっさいありません。またハープの運送を運送屋に頼むと非常に高いのにそれを負担してくれる雇い主はないそうで、アメリカでは車に載せて自分で運ぶのが普通だそうです(これは本当です)。それにしても彼女、オフの日は一日中デートしていて、いったいいつ練習するんだろう。

しょうもない本と思われるかもしれませんが、この本の中で感動した言葉がありました。主人公は子供のころ、ハープの音を初めて聞いてとりこになり、両親にせがみます。やがて楽器を買ってもらうことになるのですが、支払いのために銀行に信託口座の解約に行くと、銀行は
「ハープなどという非実用的なもの」
のために口座を解約するのに強く反対し、購入が数ヶ月遅れてしまいました。

当社ホームページ内の「ハープの歴史」の中でも、弓からハープを作った人類最初のハーピストが洞窟で皆に聞かせたときに聴衆から、「そんな何の役にもたたないものを作って」、と言われています。この“非実用的”“何の役にも立たない”という言葉は私にとって重要なキーワードとなっています。これについてはいつかまた書きます。


2007年07月09日

綾乃なつき著「月影のソムル」 集英社コバルト文庫

月影のソムル
文学の中のハープ 綾乃なつき著「月影のソムル」

これは少女ファンタジーというジャンルだそうで、表紙の絵を見るとおり、少女コミックをノベルにしたような本です。実際少女漫画のような挿絵が入っていて、いい年をして人前で読んでいるとアブナイ人と思われるので、注意が必要。

主人公は銀色の髪をした16歳の少年吟遊詩人シルヴィで、お約束の美少年です。私は詳しくありませんが、吟遊詩人はラーイと呼ばれたそうで、彼は名器「月の船(アルソエル)」を手に入れて、ソムルと呼ばれる呪歌(じゅか)を奏することができる数十年から数百年に一人出るか出ないかという最高ランクの吟遊詩人ソムラータとなります。こういう用語が実際にあったかどうか私は知りません。ご存知の方は教えてください。この楽器を奏でると「月神」が現れたり、「魔神」を退治したりと大活躍。彼は少女剣士のヴィラローザといっしょに幻想的な旅をしながら大活躍します。

登場人物がその後どうかかわってどう展開するかすぐにわかってしまうほど、とってもわかりやすい内容であらすじを書く気にもなりません。続編に「千夜の果て」以下いくつかあるようですが、60歳を過ぎて読む気にもなりません。


2007年05月24日

ジョゼファン・ペラダン著「クレダンの竪琴」 白水uブックス

文学の中のハープ J. ペラダン著「クレダンの竪琴」

前回と同じ「フランス幻想小説傑作集」の中の小編です。クレダン伯爵はある賞品授与式で、身寄りのない修道院にいるプルアルデック嬢のハープを聞いて一目惚れし、結婚します。大広間はステンドグラスが嵌め込まれて礼拝堂に改造され、祭壇にハープが置かれました。夫婦はシャトーに閉じこもったきり一歩も外出しません。毎晩のようにシャトーからはハープの妙なる調べが風に乗って聞こえてきました。ところが2年もしないでその夫人が亡くなってしまったのです。家は閉ざされ、人声も絶えて伯爵は妻を忘れるために旅に出ました。6年後、伯爵はひとりの婚約者アンヌを連れて旅から戻りました。婚約者は前妻との熱烈な愛の物語を知っていましたので、まるで恋敵を倒すように邸に近づきました。するとシャトーの中からハープの音が聞こえてきたのです。男の顔は真っ青になり、邸に飛び込んでいきました。
次の日の明け方、婚約は破棄され、その後邸の敷居を跨いだ女性は二度と現れませんでした。

このカテゴリーで三編続けて19世紀後半から20世紀始めのフランスの幻想小説の短編を紹介しました。いづれも共通点があります。産業革命が起こり、世紀末に向かって突き進む科学主義に対抗した神秘主義で、これはロマン派に共通します。音楽の世界でもロマン派から印象派ドビュッシーの全音音階、さらに12音技法へと向かう過程にあります。そこには平均律という科学的?機能的?な音律の認知と、それに対抗する「バッハに帰れ」運動がありました。
それにしてもファンタジーというとどうしてハープばかりが取り上げられるのでしょうか。

2007年05月15日

グサヴィエ・フォルレヌ著「白痴と<彼の>竪琴」白水uブックス

幻想小説
文学の中のハープ  フォルレヌ著「白痴と<彼の>竪琴」

「竪琴って何ですか」
「竪琴は魂を地上から天界へ運ぶ楽器のことです」
「聴衆とは何ですか」
「多くの肉体と数少ない魂のことです」
「では演奏者は?」
「魂を持っていない人々に幾つもの魂を与える唯一の肉体です」

フォルレヌ(1809-1884)はフランスの劇作家で詩人、この短編は「フランス幻想小説傑作集」に収められている短編です。12月の寒い夕暮れ、町の入口に一人の白痴の乞食が大地を床に、藁を寝床に、ぼろを掛布団にして、薄っぺらい木靴を履いてもの乞いしていました。昼から一かけらのパンしか口にしていません。夜10時になると酔った夜番に鍵束でしたたか打たれて追い払われます。

ブランシュ街にさしかかると、音楽が聞こえてきました。そこは音楽家、芸術家のサロンで大きな窓から花々や絹、ビロードそしてダイヤモンドに埋まった人たちがクラリネット、オーボエ、ホルン、バスーン、ヴァイオリンやピアノを演奏しているのが聞こえました。同じ世界の出来事です。そして次にハープ。その女性は蒼白く、やさしい褐色の目をして、髪の毛には数輪の花を挿していました。彼女が弾き出すとすべてが中断し、人々は化石と化していきます。

乞食は指に息を吹きかけるのをやめ、空腹を忘れて音に耳をそばだてます。やがて血が沸々と熱くなり、愚鈍で野卑だった顔が紅潮します。こんな感情は始めての体験です。彼は狂気と陶酔を引き起こしている正体を見ようと、木靴を脱ぎ、壁をよじ登ろうとします。手足は擦りむけ鋪道に落ちてはまた登り、鉄釘にひっかかり、血と汗を流します。そのとき見ることだけを考え、見ることさえできたら他はどうでもいい、という気持ちでした。やがて窓の下に身を寄せたとき、彼に豊かさ、力、感情、魂、生命、美が与えられて幸福でした。

甘美な夜が明けたとき、塀の鉄釘にひっかかった指の皮が、壁の棚段の上には白痴が、窓には張り付いた彼の目が、そして彼の頬には凍りついた大粒の涙が、見いだされました。


2007年05月09日

アルフォンス・カル著 「フルートとハープ」 創元推理文庫 

怪奇小説
文学の中のハープ A. カル著 「フルートとハープ」

これは創元推理文庫の怪奇小説傑作集4 フランス編の中のわずか7ページの短編です。マインツの町に住む若いフルーティストのロドルフと、町でもっとも美しい娘でハープを弾くベルトの物語。いつも大好きなある曲をふたりで弾いていました。愛し合い結婚して娘を儲けますが、その娘が死に、数ヵ月後に妻ベルトも死んでしまいます。死の間際に妻は「私の誕生日の日が沈む時間になったら、いつも弾いていたあの曲を奏でてくださいね。」と言いました。誕生日の夕暮れ、あの曲をフルートで吹くと、横のハープが誰もいないのに弦が振動してそれに和しました。やめるとハープも消えます。翌年の誕生日にもそれが続きましたが、3年目の誕生日の夕暮れにまたあの曲を吹くと弦が振動してハープがいっしょに鳴り出し、ロドルフがお祈りを始めると、ハープは誰も聞いたことのない神聖な曲を奏でました。その直後にハープの弦はことごとく切れ、それと同時にロドルフは床に倒れて死んでしまいました。

どうして3年間ハープの弦が切れず、音が狂わないのかということには目をつぶるとして、映画にするとなるとどの曲がいいでしょうか。この場合フルートが先に鳴り、それにハープがつけていかなければならない訳だけど、そういった曲はあまり見当たりません。この小説は1852年の作品と書いてあるからダマーズのソナタでは時代が合わないし、ボクサの「グランドソナタ パストラーレ」も映画音楽にならないし。編曲ものではクープランの愛の夜鶯かドビュッシーの子守唄もいまいち。やはりグリーンスリーブズ幻想曲みたいな曲がいいけど、フランスでグリーンスリーブズも変かな。最後の神聖な曲はちょうどドビュッシーのころなので、全音階技法かソフト12音技法で環境音楽っぽい曲だと、この時代なら神聖にきこえるでしょう。あとベルト役のハーピストですが、美しくて病弱、さらに従順そうなフランス人ハーピストっていうと・・・そんな人は知りません。イメージから言うと若いころのウルズラ・ホリガーでしょうか。実は私、彼女のファンなのです。



2007年04月23日

ローズマリー・サトクリフ著「闇の女王にささげる歌」 評論社

闇の女王
文学の中のハープ  R. サトクリフ著「闇の女王にささげる歌」 

イギリス人なら誰でも知っている伝説のケルトの女王ブーディカのローマ帝国に対する聖戦を、女王付きの竪琴弾きカドワンの目から描いた歴史小説です。ブーディカは現在のイギリス東部に住むケルトの馬の民であるイケニの女王です。紀元60年にローマ帝国はブリテン島に侵略してきました。彼らは破壊と、殺戮と、略奪をもって<支配>と呼び、荒涼たる世界を作り上げたとき、それを<平和>と呼びました。この侵略者の論理は現在も変わりません。ブーディカはケルトの諸部族を結集し、民族の尊厳のために立ち上がりました。常に先頭に立って戦い、敵を追い詰め、最後にロンディニウム(現在のロンドン)で敗れました。

竪琴弾きは常に女王に従い、部族に事が起こるときに歌を作ります。文字を持たないケルト民族は、歌を歌いつぐことによって民族の歴史を後世に残したのです。竪琴の糸は赤馬の毛で作り、それを雌馬の皮の袋に入れていつも持ち歩いていたと書いてあります。
現在もテームズ川ウエストミンスター橋の近くにブーディカの像が立っています。


2007年04月12日

ポール・ギャリコ著「幽霊が多すぎる」 創元推理文庫

幽霊が多すぎる
文学の中のハープ  ポール・ギャリコ著「幽霊が多すぎる」

イギリスのパラダイン男爵邸が相続税に対処するためカントリークラブとして開放されたが、幽霊やポルターガイストが現れる、というミステリーです。その音楽室にある母親の古いハープがひとりでに曲を奏でるというのが最後まで残った謎。ハープはオーケストラの共演でも使われる金色の大型で、調弦、糸巻きやペダルを確かめる、という場面があり、作者はちゃんとハープを知っている人のようです。

ハープが無人で演奏されたのはエリザベス朝の古い歌、グレーブズの「わが愛らしき乙女」という曲だそうです。誰もいないのにハープが鳴るしくみは、ハープを知っている人にはちょっとどうかとも思われますが、個性的で多彩な登場人物やプロットなど、よくできているミステリーです。


ハープの出てこないハープの本
浜島雲恵著 「癒しの時代の健康法−誰でもできるハープ療法と気功」 展望社
インターネットでこの本を見つけました。最後の「気功」という言葉に引っかかったのですが「癒し」と「ハープ」が入っているので、思わずその場で注文しました。通信販売の最大の楽しみである、来るまであれこれ想像しました。「ハープ療法」って何だろうとわくわくして最初のページをめくると、ハープとはヒューマンなんたらかんたらセラピーの略でHUPRTですって。まさに気功の本で大笑い。
こら!紛らわしい題名をつけるな!


2007年04月09日

香納諒一著「贄の夜会」 文芸春秋

贄の夜会
文学の中のハープ  香納諒一著「贄(にえ)の夜会」

ハーピストの木島喜久子はCDをいくつか出しており、近いうちにリサイタルも予定していました。時々お弟子さんのやっているイタリアン・レストランで、そこにあるアイリッシュ・ハープを演奏し、お礼にワインを1本いただくのが常でした。ところがその帰りに何者かに殺害され、なんと両手首を切り落とされて持ち去られるという悲惨な事件に巻き込まれました。彼女と同行していた女性も無残な死体となって発見されます。

ここまでがほんの出だしで、その後ハープに関する記述はありません。う〜ん、もう少し生かしておいて欲しかった。捜査する刑事と、同行して殺された女性の夫(これが謎だらけの人)の側から、サイコミステリー調に深い心の溝を描きながら、さらに陰惨な事件がこれでもかと続きます。関係者として出てくる弁護士の正体は? そして真犯人は? 途中でやめられなくなる小説です。

このときレストランで演奏した曲名が記載されています。彼女はなんとルーセルの即興曲ゴッドフロアのヴェニスの謝肉祭、アンコールで「荒城の月」を演奏しました。これは是非聞いてみたかった。アイリッシュ・ハープでどうやって弾くんだなんて些細な問題で、こんな専門的な曲名が出てくるのはうれしいものです。とくに即興曲にフォーレでなく、ルーセルを持ってきたところなどはセンスが良い。そのあとにヴィルトゥオーソ的なヴェニスの謝肉祭が続くなら、プログラミングとしてなおさらルーセルで正解でしょう。やっぱりリサイタルまでは生きていて欲しかった。

謎だらけの夫はピアノ曲を聞くのが好きで、ベートーヴェンのピアノソナタが何曲も出てくるのはたぶん作者の趣味でしょう。すると待てよ、美しい手が欲しいならピアニストの手で良かったのではないか。そこにわざわざハーピストを持って来るなんて、これは作者のトラウマか。子供のころ、ピアノの先生の美しい手の動きに見とれて・・・・。おっといかん。この本に影響されてしまった。


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高田 明洋 (たかだ...

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